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2011年9月10日 (土)

笹本祐一「ARIEL vol.10」SONORAMA NOVELS

「岸田おまえ、地球を売ったな?」

どんな本?

 「ライトノベル」という言葉すらない黎明期から優れた作品を連発した笹本祐一の代表作でもある人気シリーズにして、2005年星雲賞受賞作の完結編。

 地球侵略を狙う悪の宇宙人。それを迎え撃つは天才科学者岸田博士率いる SCEBAI が開発した巨大二足歩行ロボット ARIEL と、それに乗り組む三人の美女と美少女。行け、ARIEL、戦え、ARIEL。地球の平和は SCEBAI にかかっている!

 …ごめんないさい、嘘です。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2011年5月30日第一刷発行。新書版で縦二段組で本文約432頁+あとがき4頁+イラスト担当の鈴木雅久氏によるおまけ4頁。8ポイント23字×17字×2段×432頁=337,824字、400字詰め原稿用紙で約845頁。文庫本19巻と20巻の合本だけあって、普通のライトノベルの約2倍の分量。

 文章の可読性は相変わらず安定した読みやすさ。ただ、航空宇宙関係のマニアックぶりは前回同様の濃さなので、好きな人は期待しよう。敢えて言うなら、ハウザー父子がちとややこしいかも。ハウザー"艦長"がタレ目の倅、ハウザー"艦隊司令"がとーちゃん。

 完結編だけあって、今までの主要登場人物がほぼ勢ぞろい。曲者が揃ってるんで、素直に1巻から読みましょう。

掲載作品は?

第48話 グランド・フィナーレ
第49話 帰還軌道
第50話 国連脱出作戦
第51話 SCEBAI最終決戦
第52話 星へ続く道
プラス1話 終わりなき戦い(中篇)

 「終わりなき戦い」、この巻で完結かと思ったら、なんと次巻へ続くとは。既に最終巻が2011年7月20日に ARIEL EX として出ている。

どんな話?

 お祭りオープン・フリートの余興のはずの模擬戦。不穏な勢力の侵入で制御不能のバトルロイヤルになるかと思われたが、ハウザー艦長と ARIEL の活躍?で平和裏に終結した。その陰で、潜り込んだ岸田・天本・羽那は着々と仕事を進め、同じく潜り込んだ由貴・ナミ・エミと接触する。人類と異星人のファースト・コンタクトの成果は、美亜の腕にかかる…

感想は?

 笹本氏、やりたい放題。前回の読みどころはシャトルと ARIEL のランデブーだったのに対し、今回の読みどころはシャトルの帰還プロセス。一般に打ち上げは注目されるのに、帰還のシーケンスは軽視されがち。なだけに、この巻の凝りまくった描写、特に軌道上のシーンは貴重。相対速度秒速0.1mとか、どうやって調べたんだか。地球脱出速度が秒速約11kmだから、0.001%の速度差かあ。軌道調整のリアリティも半端なく、ラリイ・ニーヴンの「スモーク・リング」を髣髴とさせる迫力。「上は後ろ、後ろは下、下は前、前は上」だっけ?

 それに続く大気圏内の発想も見事。準備万端てぐすねひいて待つ連中に対応するためとはいえ、この発想は…。まあ、あそこの連中って、実はお祭り好きでノリがいいから、こういう事になるかも。

 巻を追うに従いメキメキと頭角を現してきた由貴ちゃん、この巻でも岸田博士と張り合って着々と手を打ちまくります。どこまで計画でどこからがアドリブなのか全く分からないあたりも、岸田博士に通じるものがあって。

 前々巻あたりから低気圧だった絢ちゃん、前巻ではおとなしいな、と思ったら…。いや ARIEL の担当がアレだし、こりゃヤバいよねえ、と思ってたら、そうきますかあ。まあ普段の彼女の性格から、どうなるかしらん、と心配してたんだけど、これは。

 今までほとんど見せ所のなかった主役メカの ARIEL、終盤にきてやっと見せ場の連発。特に最高なのが、羽衣をまとった飛行シーン。これは見ほれます。だから女性型にしたのね←違うと思う

 異性人サイドでは、相変わらず無駄な抵抗を続けているハウザー"艦長"ながら、もはや参謀副官のデモノバが完全に包囲側に移った模様。こりゃ降伏は時間の問題だなあ。

 ライトノベルらしく爽快で安心のストーリー、曲者ぞろいの登場人物、それなりに説得力のある異星人の社会、そして笹本氏の趣味炸裂な軌道上の描写。思いっきり出鱈目っぽい滑り出しのシリーズでありながら、完結編では見事な本格SFに持っていくとは。こりゃ星雲賞も当然と、納得のシリーズでありました。

 さて、おまけの「終わりなき戦い」。笹本氏、きっとP・W・シンガーの「戦争請負会社」を読んでる。

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