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2011年7月26日 (火)

松本良・奥田義久・青木豊「メタンハイドレート 21世紀の巨大ガス資源」日経サイエンス社

地質構造や地層と斜交しており海底面にほぼ平行な反射面を、一般に BSR(Bottom Simulationg Reflector) と呼びます。「反射面Y」もBSRのひとつです。BSRや自身探査法については、第4章で詳しく述べますので、ここではBSRという言葉だけを覚えてください。

どんな本?

 最近、日本のエネルギー資源として注目を集めているメタンハイドレート。そのメタンハイドレートについて、性質・生成過程・調査方法・今までの調査でわかった事柄など、主に科学・工学そして採算性など産業としての側面から解説する。科学・工学的な面が中心で、日本の将来に与える影響などの政治的な側面は控えめ。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 1997年1月18日一版一刷発行。この話題の解説書としては、既に古典だなあ。ハードカバー縦一段組みで本文244頁。9ポイント43字×16行×244頁=167,872字、400字詰め原稿用紙で約420枚。標準的な長編小説の量。

 文章そのものは日本語として普通なんだけど、内容が素人向けじゃない、というか、素人向けに書こうとしたらノってきて専門家としての地が出た、みたいな雰囲気。「ガスキック」や「フリーガス」なんて専門用語がポンポン出てくるし、数式も少しある。産業系の解説書によくあるパターンで、「これぐらい常識だよね」と著者は思ってるけど、実は相当に高度で専門的な話になってる、みたいな感じ。石油や天然ガスの探査・採掘に詳しい人じゃないと、まず読みこなせない←自分の無知を著者に責任転嫁するなよ俺

構成は?

 序文
第1章 エネルギー資源と私たちの生活
第2章 メタンハイドレートの発見
第3章 メタンハイドレートとは
第4章 メタンハイドレートの探査と掘削
第5章 メタンハイドレートの分布状況
第6章 メタンハイドレート鉱床の生成
第7章 メタンハイドレート・ガス田の現状
第8章 推定される資源量
第9章 今後の展望
 参考文献
 あとがき

 序文がよくできてる。素人は、序文だけ読めば充分。というか、以降は相応の知識がないと、特に第4章以降は難しい。知識がある人にとってどうなのか、と聞かれると、それは私には判断しかねます。

感想は?

 「石油や天然ガスの採掘について少し勉強しよう」というのが今の感想。もうひとつは、「この時点じゃ不確定な事が沢山あるんだなあ」という事。

 「第8章 推定される資源量」で一応の数字が出てるんだけど、これの幅がやたら大きい。例えば日本の南海トラフだと、1992年の試算で「ハイドレートの厚さ1mと仮定すれば0.42×1012」、「10mと仮定すれば4.2×1012」とある。仮定の段階で10倍の開きがある。また、ハイドレートの厚さがたったの1~10mというのも驚き。

 この試算も異様に仮定が多い。貯留層の容積×有効孔隙率×地層圧×水飽和率×水に含まれるメタンハイドレートの割合×…と多くの変数からなるんだけど、その大半が仮定。まあ仮定とは言っても、ロシアやアラスカでの採掘で得た数字を基にしてるんだけど。ちなみにロシアのメソヤハ・ガス田だと回収率は0.1~0.5だそうで。

 このハイドレート、実は1930年代に存在は知られていた、というのも驚き。シベリアの化学工業プラントでパイプラインの閉塞事故が起きて、原因を調べたらガスハイドレートだったとか。「ガスハイドレートは高圧で低温ほど生成しやすい」ので、「閉塞事故がロシアなど高緯度、寒冷地の工場で頻発した」そうな。

 繰り返し出てくるのが、この「高圧低温で生成される」という性質。南海トラフなど海底に埋まっているのもそのため。一般に海水は海面の温度が高く(5~15℃)、水深500mで5℃、3000mを超えると0~4℃になる。ところが地底は深いほど温度が高くなり、場所により100mあたり2~3℃から5~10℃上がる。だもんで、メタンハイドレートが生成される層はだいたい決まっているとの事。

 この高圧低温が幸いしてるのがロシアで、シベリアの永久凍土層にもメタンハイドレートが埋まってて、本書の著作時点で既に採掘が始まってる(産業化はされてないけど)。羨ましい。
 とも言ってられないのが、事故。既に幾つかトラブルが発生してる。

例えば、カナダのマッケンジー・デルタでは、ハイドレート層を掘削中に、泥水のガス化による泥水管理のトラブルや、掘削中のハイドレートの分解によりひどいガスキックが数回発生し、リグ上でも火を噴きました。また、ロシアやマッケンジー・デルタのハイドレート層の掘削では、掘りくずが高圧で噴出したり、抗生が凍結したり、ケーシングが壊れたりして、地表での暴噴に近い状態になった例も報告されています。

 なんでそんなに難しいかというと、これがメタンハイドレートの性質で。小さい容量に多くのメタンが詰まってて、常温だと解けて気化して容量が一気に増えちゃうから。ハイドレートの分子構造にもよるけど、構造-Ⅰで「水1リットル当り150リットルほど」、構造-Ⅱで「ガス/水の容量比は51対1」。

 この性質は逆に採掘にも使えて、例えば燃焼法として「生産されるメタンの一部を酸素とともに貯留層へ供給し、メタンハイドレート分解エネルギーとする方法も考えられてる」とか。他に「蒸気や熱水をメタンハイドレート層に注入し、貯蔵層の温度を上昇させて、ハイドレートを分解し、ガスを生産する」蒸気注入法・熱水注入法、「ハイドレート層下のフリーガスを採取することにより、結果として貯留層の圧力低下をもたらし、ハイドレート層の分解ガスを採取」する減圧法、「塩水を注入することによって、ハイドレートを解離させて分解ガスを採取する」塩水注入法もあるとか。

 未来の日本を豊かにしてくれる…かもしれないメタンハイドレート。しかし、その解説本を読みこなすには、従来のエネルギー源である石油・天然ガスについての知識が必要なのでした。

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