カーティス・ピーブルズ「人類はなぜUFOと遭遇するのか」ダイヤモンド社 皆神龍太郎訳
アダムスキーは、彼が「別の世界からやってきた人」であることを、瞬間的に悟った。手紙や英語やテレパシーを使って、アダムスキーは、宇宙人とコミュニケートしようと試みた。そして彼は、その宇宙人が金星からやって来たことを悟ったのである。
どんな本?
UFO神話は、いつ、誰が、どのように生み、どのように広め、どのように育ってきたのか。信奉者が論拠とする資料は実在するのか。資料の内容は何か。どんな信奉者がいて、どのような活動をしていたのか。CIAは本当に未確認飛行物体を調査したのか。綿密な調査により、米国におけるUFO神話の成立と変転の歴史を綴る。
いつ出たの?分量は?読みやすい?
原題は「Watch The Skies! A Chronicle of the Flying Soucer Myth, byCurtis Peebles」、1994年。直訳すれば「空を見張れ! 空飛ぶ円盤神話の年代記」。私が読んだのはハードカバーで1999年5月21日初版発行。今は文春文庫から文庫版が出てる。縦ニ段組で本文414頁に加え、瀬名秀明の解説14頁と参考文献&索引。9ポイント25字×23行×2段×414頁=476,100字、400字詰め原稿用紙で約1191枚の大著。
文章は平易な言葉を選んでいるが、やや直訳気味。あまし翻訳に慣れてないんじゃないかな。詳細は後述。また、誤字が多い。
構成は?
主な登場人物・団体・用語
第1章 前兆
第2章 「空飛ぶ円盤」神話の誕生
第3章 UFO三大「古典」事件
第4章 エイリアン・クラフト
第5章 ワシントン侵略事件
第6章 CIAとロバートソン査問会
第7章 コンタクティの時代
第8章 全米空中現象調査委員会
第9章 1957年の目撃騒動
第10章 全米空中現象調査委員会 vs. コンタクティ
第11章 60年代
第12章 コンドン・レポート
第13章 宇宙での接近遭遇
第14章 キャトル・ミューティレーション
第15章 アブダクション
第16章 ロズウェルとエリア51
第17章 「彼ら」はすでにここにいる
第18章 エイリアン・ネーション
補章 その後のロズウェル事件(UFO神話1994―1999) 疑似科学ウォッチャー・皆神龍太郎
記
解説 UFO神話に真っ向から切り込んだ画期的著作 作家・瀬名秀明
参考文献
索引
末尾近くの「記」で、著者の立場を明確にしてる。「私は、懐疑論者である」、と。原書は Introduction として冒頭にあったのを、末尾に回した理由は、編集の思惑だそうで。原書のスタイルは「懐疑論者によるUFO神話成立の歴史」なのに対し、日本語版は「謎の追求」という体裁にしたとか。「主な登場人物・団体・用語」が冒頭にあるのはありがたい。
瀬名秀明の解説は相当に熱のこもった力作で、特に参考文献が充実している。始祖ジョージ・アダムスキーの古典「空飛ぶ円盤同乗記」から懐疑派の重鎮カール・セーガンの「科学と悪霊を語る」までと、バランスのよい品揃え。
感想は?
「UFO神話って、時代と共に少しづつ育ってきたんだなあ」と、つくづく実感できる。
この本では、UFO神話のルーツをパルプ雑誌「アメージング・ストーリーズ」としている。1945年当時の編集者レイモンド・A・パーマー、弱冠28歳。
失われた大陸とされている「アトランティス」や「レムリア」といったタイトルの付いた記事が雑誌に掲載されると、発行部数が常に増えることに気がついたのだ。
現代日本なら雑誌「ムー」みたいな感じかな。そこに「未来人への警告」と題した長い手紙が読者から届く。これを三倍に引き伸ばして掲載したところ、読者の反響は大きく、「そればで一ヶ月に40~50通だった投書は、一気に500万部まで跳ね上がった」。
同じ頃、陸軍航空隊も奇妙な飛行物体の目撃譚の調査を始める。大抵は気球や金星の見間違いだったのだが、調査したのは事実であるため、信奉者にとっては格好の「根拠」となってしまった。後にはCIAも調査をしている。どちらも調査の目的は「敵国のミサイルなどの識別を迅速・正確にするため」という、現実的なもの。
ただ、対応が不味かった。「異星人の乗り物」なんて噂がひろまると、間違った通報が調査組織に大量に押しよせ、本当に警戒を要する情報が埋もれてしまう。変な風潮を助長しないように、調査結果は緩い秘密とした。これもまた、信奉者にとって「政府は情報を隠している」という陰謀論の温床になる。どないせえちゅうねん。
目撃情報だけでなく実際に異星人とあった、という人の代表がアダムスキー。彼があったのは、なんと金星人。今は調査衛星も飛んでて、金星は高圧高温の地獄だって知れ渡ってるけど、当時はスプートニクが飛ぶ前。SFじゃ「金星は雨と緑の多い楽園」みたいな印象だったわけです。
ところが、こういう「実際に会合した」、いわゆるコンタクティーが、信奉者集団に分裂を引き起こす。従来の目撃情報を中心とする人々は、コンタクティーを「狂信的な異端分子」と看做す。信奉者間に対立がある、というのはなかなか興味深い。
やがてUFO神話は「家畜の内臓を抜き取る」キャトル・ミューティレーションや、「異星人にさらわれた」という「アブダクション」などに進歩していく。こういった神話が形成されていく様子を、スプートニク・ショックや激動の60年代、核の恐怖の冷戦などの時代背景と共に語るのは、なかなかの説得力がある。
全般的に、信奉者の主張を述べる→一次資料にあたってその実態を明らかにする、という構造の繰り返しになっている。このあたりは、実態がしょうもないシロモノなケースばかりで、爽快というか脱力というか。例えば有名なバミューダ・トライアングル。
その調査結果は、まさに恐るべきものだった。あるものでは、そもそもそんな事件が実際には起こっていなかった。他の事例では、船や飛行機は、晴天などではなく、荒天の中で行方不明になっていた。
つまりは、そういう姿勢の本なわけです。UFO関係の有名な事件を網羅すると同時に、その実情も暴くという、野次馬的にUFOに興味を持った初心者に格好のお勧めの本。
さて、翻訳文のお話。原文に忠実に訳したとも言えるけど、そのために「わかりやすさ」が犠牲になっている。悪文って程ではないにせよ、英語の語順 をそのまま日本語に置き換えた雰囲気。ちょっと語順を変えればだいぶ読みやすくなるのに、勿体無いなあ、と思う。例えば冒頭に挙げた文。
アダムスキーは、彼が「別の世界からやってきた人」であることを、瞬間的に悟った。
私なら、こういう語順にする。
アダムスキーは瞬間的に悟った。「彼は別の世界からきたんだ」、と。
動作主体の「アダムスキーは」と、動作の「瞬間的に悟った」は、くっつけた方がいい。この文を読者がどう処理するのか、考えてみよう。上の文だと、まず、「アダムスキーは」を、いったん放置する。次に"彼は「別の世界からやってきた人」" を処理する。その後、「アダムスキーは」を呼び戻す。後者なら、放置→呼び戻しの処理が不要になる。
英語の語順は主語が先頭にあるので、それに引きずられたのかも。または主語の「アダムスキーは」を強調したかったのか。それなら、文を二つに分ければいい。…などと偉そうに言ってるけど、私のブログの文章も相当に酷いんだけどねw
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