中山秀太郎「機械の再発見」講談社ブルーバックス
古来、機械の種類は非常に多いが、それらに使われているもので基本になっているのは、てことか滑車、ねじ、歯車、カムなど紀元前に考案され使用されてきたものなのである。
どんな本?
滑車・歯車・てこなど、力や「動き」を伝え変換する、様々な機構の基礎を解説した本。機械というより、それを構成する部品のしくみと原理を紹介している。例えば歯車でも、単に回転数を変える平歯車から始まって、力を増幅する(または精度を上げる)ピニオンとラック、間欠運動を実現するつめ車など少しづつ複雑な物に続き、最終的には自動車の差動歯車(デファレンシャル・ギア)まで、豊富な図版でわかりやすく解説していく。
いつ出たの?分量は?読みやすい?
1980年4月20日初版。私が借りたのは1990年3月30日の第12刷。地味に版を重ねてます。縦一段組みで本文約210頁、9ポイント43字×16行×210頁=144,480字、400字詰め原稿用紙で約362枚。量は少ないし、文章も当時のブルー・バックスにしてはかなり読みやすい上に、ほぼ1~2頁に一個の割合で図版が豊富に収録されている。時折数式が出てくるけど、面倒くさかったら読み飛ばしても大きな問題はない。
が、意外と読み終えるには時間がかかる。というのも、図版を見て動きを想像しながら読むので、個々の図をじっくり見ながら読み進める羽目になるからだ。タルく思えるかも知れないが、動きが想像できた時の「おお、なるほど!」という驚きと喜びを味わいたければ、丁寧に見ていく方がいい。
構成は?
まえがき
1 機械の再発見
2 機械の基礎メカニズム
3 力を拡大する話
4 速度を変える技術
5 力をためる技術
6 運動をコントロールするアイデア
7 《リンク装置》をもつ機械
8 《一方向運動》をもつ機械
9 《逆止め弁》をもつ機械
10 《止まる》ための機械
11 《歯車》をもつ機械
12 永久機関などを話題として
単純な個々の部品から始まり、少しづつ複雑な機構に進み、終盤では複数の部品を組み合わせた実用的な装置を解説する、という形で進む。特に2章はじっくり読んで、しっかり理解しましょう。この手の本によくあるパターンで、後に行くほど複雑だが身近で現実的な話になってきて、どんどん興味深く面白くなっていく。
感想は?
「え、いまどき歯車なんて…」と思ってたけど、とんでもない。図をじっくり見ながら読んだのだが、「おお、そうだったのか!」「うは、すごい、これがあれば何だって作れるぜ!」的な楽しみに満ちた本だった。
紹介されているものは歯車とクランクが多いかな。単純なクセに便利だと思ったのが、バイメタル。黄銅とインバー(鉄・ニッケル)を貼り合わせただけの単純なシロモノ。熱くなると、黄銅とインバーの膨張率が違うので、反ってくる。コタツなどのスイッチに使えば、「丁度いい熱さ」で電源が自動的に切れるのですね。
こういうフィードバック系の制御装置というのは感心しちゃうのが多くて、ワットの蒸気機関の調速機も見事。回転数が上がると、自動で蒸気の供給量を減らす仕組み。今ならEFIなどICで細かく制御できるけど、こういう素朴な仕組みの方が見ていて面白いよね。
「力をためる」で最初に出てくるのが、ばね。板ばねは紀元前2世紀からあったけど、コイルのばねが登場するのは15世紀。早速コイルばねの時計が1460年ごろに作られましたとさ。
コイルのばねは自動車のサスペンションにも使われてるけど、飛行機の脚はもっと複雑。シリンダ内に油が出入りできる小さな隙間をあけておき、この隙間に油が流れることで衝撃を和らげている。ジャンボ・ジェットとか、個々の脚にはとんでもない力がかかるもんなあ。
《一方向運動》をもつ機械では、シャープペンシルとボールペンが印象的。シャーペンって、ノックすれば芯が出るけど、指を離すと芯はとまる。それはどうなっているのか、というお話。ボールペンも、ノックするとペン先が出て、もう一度ノックすると引っ込むタイプがあるけど、あれはどうなっているかというと…
他にもトイレのウォーター・ハンマー、ドア・クローザー(ドアをゆっくり自動で閉める装置)、コーヒー・メーカー、体重計、シリンダー錠など、身近で興味深い「機械」のしくみが続々と出てくる。
最後の方では噂のスターリング・エンジンが出てくる。なんと発明は内燃機関より早い1816年。熱差を使うから回転数は上がらないと思いきや、模型でも1000回転/分を実現してるというから驚き。最近は軍用潜水艦でも実用化されたそうで、今後が楽しみな機構だよね。
約10年間で12刷。ベストセラーとまでは言えないまでも、地味に版を重ねるのも、読み終えてみれば納得。奥付で面白い本を探すって手は、結構使えるかも。
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