榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 北海道独立 2」電撃文庫
「原さん、それじゃ足りん。靴下をはかせないと凍傷に……狩谷、俺のポシェットにピンク色のヒヨコマークが付いたソックスがある。それを履かせないと彼女は死ぬ」
どんな本?
2000年9月28日発売の SONY PlayStation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」のノベライズ。2001年12月の「5121小隊の日常」から始まったシリーズは根強い人気を誇り、10年近く続き今作で27冊目(ガンパレード・オーケストラを入れると30冊目)となる。
さすがにこれだけ続くとお話もゲームから離れ、ゲームの舞台は熊本限定だったのが、今作では北海道が主な舞台となる。登場人物も小説独自の人物が増えてきた。ゲームに登場する5121小隊の学兵達も濃ゆい性格の人物が多いが、今作ではおぢさん・おばさんが若者に負けじとスポットを攫う。
いつ出たの?分量は?読みやすい?
2011年3月10日初版発行。文庫本で縦一段組み約280頁。8ポイント42字×17行×280頁=199920字、400字詰め原稿用紙で約500枚。なんと前作と測ったようにほぼ同じ分量。前巻に続き、今巻も解説もあとがきもなし。それだけならともかく、挿絵もないというのは、ライトノベル的にどうなんだろ。その代わり、29頁の特別短編「片岡歳三の受難と幸福」を収録している。文章は文句なしに読みやすい。ただ、前巻に比べユーモラスなシーンが多いためか、やや登場人物の口調のクセが強くなっている。
これだけシリーズが続くと登場人物も相当に増えてる上に、表紙の萌を見れば明らかなように、ゲームの登場人物にも小説独自の属性が付与されている。読み始める人は、素直に「5121小隊の日常」から読み始めましょう。短編集だし、とっつき易いです。
どんなお話?
北海道に逃れた樺山は、知事の小笠原に北海道共和国独立を唆す。北海道への強行偵察で上陸した舞と速見は、雪中の逃避行を余儀なくされる。相変わらずの戦争後遺症に悩む森と滝川。その頃、少しづつ心を開き始めた香澄に、ハンターの魔の手が伸びつつあった。はたして狩谷は彼女を守れるのか。
感想は?
吉良潤イチ押し。前巻では小笠原の添え物のような扱いで、オフィシャルな顔しか見せなかった彼女、今作では大胆な活躍を見せ、心地よい啖呵を切ります。いやあ、クールで毒舌な知的美人っていいよね。藤代さんが成長したら、ああなるのかなあ。次巻では是非口絵をお願いします。
そんな彼女に救いの手を差し伸べるのが、実に趣味の悪いアレで…。某氏の疫病は相当に感染力が強いらしく、組織のアチコチに浸透している模様。そりゃ警戒するわなあ。敵も己の目を疑うだろうから、多少は時間稼ぎになるだろうけど。
ここ暫くメインヒロインの座が危うくなっていた舞、今作では見せ場が結構あります。ガンパレード・オーケストラ緑の章でもヤられていた舞、今作ではやっと運命の恋人と出会えた模様。しかしあのツケの回し方は、原の教育の成果と言っていいのかな。滝川と森に対抗意識を燃やしているけど、ソレは…まあ、いっか。
話が盛り上がってくるとしゃしゃり出てくる変態短ズボン。今回もどこからか騒ぎを聞きつけて、勝手にもぐりこんできます。なんだかんだ言いつつ、奴が出てくると一気に雰囲気が明るくなるんで、実はムードメーカーとして欠かせない人材なのかも。本人は必死に否定するだろうけど。しかし生徒会長閣下も懐が深い。やや線が細い感のある息子の教材としては、それなりに役に立つとでも思ってるのかしらん。
暗い予感の話が続く本編に対し、末尾の特別短編「片岡歳三の受難と幸福」は温かい後味の掌編。浅井総合研究所の内幕が少しだけ覗けます。つか浅井、「ひどい男だね」とか言ってないで止めろよw しかし、そういう所でそういう風に職能を活かしますか。これだから軍人上がりは。
全般的に、今まで暗い雰囲気が続いていたのが、今巻ではユーモラスな場面が多く、シリーズ開始当初の感触が戻ってきた模様。特別短編も読後感が爽やかだし、今後もこんな風に短編を挟んでくれると嬉しいなあ。矢吹家の一日とか。
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