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2010年12月 9日 (木)

アンソニー・F・アヴェニ「ヨーロッパ祝祭日の謎を解く」創元社 勝貴子訳

定期的な祝祭の時は、人々の倫理意識に強く働きかける影響力を持つ…
そのような日は、私たち人間に備わる至上の共感を呼び覚ます  --サラ・ジェゼファ・ピュエル・ヘール

どんな本?

 書名の「ヨーロッパ祝祭日」は、「USA の祝祭日」の方が、実態に近い。イースター・メーデー・レーバーデー・ハロウィーン・クリスマスなど、現代アメリカの様々な祝日について、そのルーツと変転を辿りながら、人々の生活や文化の変化を探り、多くの国や地域の様々な祭事や習慣を紹介する。祝祭日をテーマにした金枝篇、といったところか。

いつ出たの?分量は?読みやすい?

 2006年12月20日第一般第一刷発行。ハードカバー縦一段組みで訳270頁。内容は学術的なわりに、文章は比較的読みやすい。ただ、紹介している祝日が、イースターやレーバーデーなど現代のアメリカのもので、現代日本の私たちには少々縁が薄く、ピンとこないのが難点かも。

どんな構成?

はじめに
第一章 祝日の誕生、体系化と変容
第二章 元日の由来
第三章 二月の祝日 -- 予知、浄め、そして情熱の恋愛
第四章 春分の日 -- 大蛇の降臨
第五章 イースターと過越しの祭り -- 時の断層をつなぐ
第六章 メーデー -- 力の衝突
第七章 夏至 -- 火と水の祭典、そして女性の恋占い
第八章 レーバーデー -- 時間をめぐる大戦争の形見
第九章 ハロウィーン -- 死者の季節
第十章 感謝祭 -- ピルグリム・ファザーズの歩みを越えて
第十一章 クリスマス -- キリストの復活から赤鼻のトナカイまで
第十二章 時はめぐる…

 ご覧のとおり、お正月から暮れのクリスマスまで、各月ごとに一章を充てる感じの構成になっている。こう見ると、祝祭日って、巧い具合に季節ごとにバラけてるのがよくわかる。

で、面白い?

 この手の文化人類学的なトリビアが好きな人には、楽しく読める。原書はアメリカの一般読者を対象にした本らしく、取り上げている祝祭日は現代アメリカの祝祭日ばかり。とはいえ、そのルーツを手繰る過程で、ヨーロッパは勿論、南米・エジプトから中国まで、世界中の国や地域の習慣や遺跡が紹介される。

 例えば第一章「元日の由来」では、古代エジプトから話が始まる。古代エジプトでは、夏至前後のナイル川の氾濫が農耕期のはじめを告げた。氾濫の時期を予測するため、水文学者はシリウス(狼星)を目安にしたが、次第にずれ、紀元前三十世紀には8月21日を新年の初日とした。次に紹介されるのはケルト、その次はインカ帝国、次いでマヤ帝国。

 二月といえばバレンタインデー。「バレンタインと呼ばれる人は三世紀だけでも二人おり、少なく見積もっても十人以上にのぼる」というから、どうも由来ははっきりしないらしい。三世紀のローマ、戦争を繰り返したクラウディウス二世の治世。徴兵逃れに結婚する者が多いため、一時期クラウディウスは結婚を無効とする。ところがバレンタインという若い聖職者が密かに結婚式を執り行い…

 クリスマスでは、赤鼻のトナカイ・ルドルフの由来を語っている。アメリカの通信販売会社モンゴメリーウォードの宣伝広報部員ロバート・L・メイが、1939年のクリスマス・キャンペーン用に、役員に命じられて書いた動物物語が始まりだとか。ルドルフ君、意外と若いんだね。

 夏至の項では、ドイツのモーゼル渓谷の祭りを紹介する。男たちが午前中にワラを集めて巨大な車輪を作る。夕暮れに若者が車輪を転がし、男たちが総勢で火をつけ、川まで転がしていく。どっかで見た風景だと思ったら、山田ミネコの漫画「妖魔の森」のラストシーンだった。漫画の舞台は西ドイツだけど季節は冬。違う祭りなのか、ミネコさんがアレンジしたのか。うーん。

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