榊涼介「ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 極東終戦」電撃文庫
どこかの誰かの未来のために。
テレビ新東京により明らかにされた九州奪還線の薄氷の勝利と、強硬派によるクーデターの本心、そしてシベリアの居留地の存在。揺れる国民感情をよそに、着々とクーデターの残党に手を打つ大原首相。シベリアに派遣されミハイルとの和平交渉に赴いた善行と原は、「青森での自衛軍の勝利」という困難な条件つきながらも、前向きな返事を勝ち取る。ハミルカルを抑えるための作戦に赴く来須と石津。全ての焦点となった津軽の前線では、怒涛のように押し寄せる幻獣軍に対し、自衛軍はじりじりと後退を余儀なくされる。更に追い討ちをかけるように、ミノタルスとゴルゴーンによ る集団砲撃や、人型幻獣の投入による浸透作戦など、知性体を活用した戦術で攻勢を強めるアリウスに対し、自衛軍は次第に疲労の色を濃くする。
文庫本で354頁。一部の登場人物の妙な口調を除けば、ライトノベルにありがちなクセの強い文体でもなく、読みやすさは抜群。ただし長いシリーズ物の例に漏れず登場人物は異様に多いため、初挑戦の方は同シリーズの「5121小隊の日常」から入る事を勧める。
カバーはカップルが尽きたのかヨーコさんとののみとブータ、口絵はターニャ、ミハイル、姫野真子、能見喜三郎、そして久萬正治。久萬には笑った。まるで鈴原トウジ。もちょい、ふてぶてしい丸顔を想像してたんだが。
青スキュラ隊の隊長が板につき「黄色の将軍」の二つ名に相応しい風格を示す滝川、ライザちゃんに懐かれる滝川に嫉妬メラメラの舞、いかなる苦境にも平然としながら壬生屋の事となると無謀になる瀬戸口、名言暴言を連発の茜に突っ込む田代のドツキ漫才、ソックス・ダンクを鍛えようと陰謀をめぐらす岩田と中村など、5121小隊の連中はいつも通り。中盤から終盤にかけての整備班の試練は、今までの物語を凝縮した感がある。
オリジナル・キャラクターでは、肉の裁き方を覚えカレーの王子様となりつつあるソックスダンクが可愛い。彼と山川中将の親子の対話に整備班が絡むシーンは、中将の懐の深さが再確認できる、前半のハイライトかも。相変わらずたどたどしく司令部のマスコットを務める島村さんがけなげ。
津軽決戦に一応の決着はつくものの、あとがきも解説もなく、10年近く続いたシリーズの最終巻にしては、幾つか重要な場面が省略されているとしか思えない構成で、あわただしく唐突な印象を受ける。電撃ゲーム文庫の存続とか、なにかオトナの事情がからんでいるのかしらん。まさかこれっきりって事はないよね、榊さん。まあ今まで月間ガンパレ状態の猛烈な健筆ぶりを示してこられたんで、暫くは夏季休戦期間を取っていただく として、充電した後は是非とも「自衛軍の日常」を続けていただきたいもんです。
というのも、激戦続きで将兵が疲弊したシーンがこれまでずっと続いてきたわけで、彼らが日常に復帰していく様子を見守りたい気分なんですよ、ファンとしちゃ。幾つかのカップルの行く末が気になるってのもあるけど。
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