坂本康宏「歩行型戦闘車両ダブルオー」徳間書店
極めて現代に近い未来の日本を舞台に、合体ロボットが怪獣と戦う、そーゆーお話です。そーゆーのが苦手な人はお引き取り下さい。そーゆーのを受け付ける人は、文句なしに楽しめます。ロボットが合体するからといって、某○ンダムとは関係ありません。偶然です、たぶん、いやきっと。
2001年の第三回日本SF新人賞の佳作入選作。事実上のデビュー作。坂本康宏は、これといい逆境戦隊×[バツ]といい、子供向け特撮/アニメっぽいテーマを、現代の情けない月給取りにオトナの事情を交えて演じさせるといい味を出す。今回も、三人の失業した27歳の青年達がパイロットとなって活躍する話。
雨月蛍太郎。格闘技に長けた体育会系。会社をリストラされた同じ日に彼女に振られ、呆然としたスキにスカウトされる。
妹尾環。シューティングゲームの天才。しかしゲームセンターは次第にオタクの溜まり場からカップルや家族が楽しむ明るい娯楽場に変わり、鬱憤が溜まっていた時に「難しいゲーム」という餌に釣られる。
胡子竜二。腕のいい重機乗りだったが事故を起こし大怪我で入院。やっと退院したが事故の噂が祟って再就職はなかなか決まらない。妻と子を抱え困っていた所に再就職先を紹介されて飛びつく。
情けない男女の描写も坂本氏の得意技だろう。それでも世を恨むでもなく自分を責めるでもなく、溜息をついて呆然とする、そんな描写が彼の十八番かも。今回もうらぶれた三人の男たちが、安月給で命がけの戦いを繰り広げる傍ら、それぞれが抱えた心の傷にケリをつけ、少しづつ絆を深めチームとしてまとまっていき、熱血ヒーローに相応しいタンカを切りながら、爽やかで切ない終幕を迎える。綺麗に終わっちゃいるが、やっぱり続く形にして欲しかった、ってのは贅沢な不満かな。続き、なんとかなりません?坂本さん。
なぜ合体するかという深刻な問題も、ちゃんと答えを用意してて、序盤できっちり説明している親切設計。これがまた現実的というかオトナの事情と言うか、それでも否応無しに納得されられると言うか身につまされるというか。なぜ怪獣が現れるか、なぜ日本ばかりが狙われるのか、なぜ自衛隊では歯が立たないのか等もちゃんと説明がついてて、それは読んでのお楽しみ。
やっぱり彼の作品にはキメ台詞がないとね。絶対崩壊!ゼロバスター!
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