有川浩「図書館戦争」メディアワークス
極上のライトノベル。
メディア良化法によって検閲が実施される近未来(正確にはちょっと違うけど)、図書館は検閲に対抗し自由を守るために武装して自衛を始めた。
この設定を受け入れられる人には、最高に楽しめる作品。ブラッドベリの名作「華氏451度」に真っ向から挑戦し、試合開始のゴングと同時に全体重を乗せたドロップキックをかますという無謀をやらかしている。その意気やよし。おじさん応援しちゃうぞ。
まず、会話のテンポがいい。引用したいけど、これから読む人の楽しみを奪ってしまうような気がするので遠慮する。文章もこなれていて、非常に読みやすい。登場人物の造型も明確でわかりやすい。玄田さんに至っては頭の中で勝手に某声優の声を当てながら読んでしまった。
ただ、短時間で読めるかというとそうでもない。特に登場人物の性格が把握できた中盤以降。一頁読んでは笑い、二頁読んでは吹き出し、三頁目で膝を叩いて爆笑し、次の頁で涙と鼻水でぐしゃぐしゃになる、そんな感じでなかなか進まなかった。部屋の中で読んでよかった。電車の中で読んだら明らかに「変なオジサン」になっていただろう。
どうも褒め方に困る。登場人物の紹介をしたくても、作中の各員の登場場面がこれまた面白いんで、ちょっとしたネタバレになってしまう。背景やテーマを紹介するにしても、これまたテーマの紹介・展開が無闇に面白くて、やはり読者の楽しみを奪いかねない。
主人公は防衛員志願の新人女性図書館員、笠原郁。事務系の業務は苦手な体育会系。物語はいきなり軍事訓練の場面で始まる。以降、戦闘場面もあるけど、むしろ郁や同期の新人達の成長過程や、それを暖かくも厳しい目で見守る…つもりが暴走する主人公に引っ掻き回される周囲の人々、智謀知略に満ちた政治抗争など、読み出したら止まらない。
4巻物のシリーズであり、既に3巻まで出ている。だいたい半年に1巻のペースで出ているんで、シリーズ物はまとめて読みたい人、禁断症状に苦しむのが嫌な人は9月まで待ってもいいかもしれない。以下は奥付にある初版発行年月日。私が買った図書館戦争は既に10版だった。
- 2006年3月5日 図書館戦争
- 2006年9月30日 図書館内乱
- 2007年3月5日 図書館危機
「本の雑誌」2006年上半期エンタテイメント第一位。早川書房刊行物とSFが圧倒的に有利な「SFが読みたい!2007年版」ベストSF国内部門でも第6位に入っている。
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