カテゴリー「書評:SF:小説以外」の105件の記事

2020年9月 7日 (月)

SFマガジン2020年10月号

「絶対に死なない。死ぬよりも面白いこと見つけたんだよ」
  ――牧野修「アドレレンスと嘔吐/1969」

「ここは間違いなく、戦場です」
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ 第二話」

クランツマンの秘仏とは、信仰が質量を持つという一種の思考実験である。
  ――柴田勝家「クラフツマンの秘宝」

「時代というのは、いつだってだんだんとよくなっていくものです」
  ――劉慈欣「2018年4月1日、晴れ」泊功訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念特集」。

 小説は10本。

 うち連載は5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ 第二話」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第32回,劉慈欣「2018年4月1日、晴れ」泊功訳,藤井太洋「マン・カインド」第13回,夢枕獏「小角の城」第61回。

 読み切りも5本。牧野修「アドレレンスと嘔吐/1969」一章まるごと100枚33頁,菅浩江「博物館惑星 余話 海底図書館」,柴田勝家「クラフツマンの秘宝」,春暮康一「ピグマリオン」後編,アリ・ロビネット・コワル「火星のレディ・アストロノート」酒井昭伸訳。

 まず「ハヤカワ文庫SF創刊50周年記念特集」から。

 渡辺英樹「ハヤカワ文庫50年の歩み」。SF文庫を刊行する際、取次の重役を説得せにゃならなかったって所に、出版業界の内情がチラリと見える。電子ブックが主流になると、そういうくびきも減るんだろうか。

 SF翻訳家による「わたしのハヤカワ文庫SFベスト翻訳」、あまり表に出ない翻訳家の声が聴けるのが嬉しい。いいよね、「キリンヤガ」。小尾芙佐の講演が聞けるなんて、なんて贅沢な高校なんだ。やっぱり人気はアルジャーノンか。先生、かわいいな。きっと生徒にも好かれてるんだろうなあ。

 牧野修「アドレレンスと嘔吐/1969」。大阪万博を翌年に控えた1969年。中学生のシトこと森賢人は、サドルこと御厨悟と仲がいい。サトルはテレビ漫画「大人はわかってくれない」に入れ込んでいる。オトナ人間に飼われているコドモたちが、オトナ人間に反乱を起こす物語だ。オトナたちは密かにコドモの心に入り込み、オトナ化してゆく。サドルはこの物語を本当だと思っている。

 「テレビ漫画」「ゲバルト学生」「原子力船むつ」などの言葉が醸し出す、あの頃の空気がたまらない。いるよね、ジャージ姿の体育教師。なぜか生徒指導でデカいツラしてる。あの頃は教師もプカプカ煙草吸ってたなあ…なんて遠い目をして油断してると、いきなり地面が溶け出すような牧野ワールドに放り込まれるから要注意。というか舞台はオッサン・オバサンは嬉しいんだが、お話はローティーンに受けそう。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ 第二話」。フリーのジャーナリストのリン・ジャクスンは、ついにフェアリイ星にやってきた。もともとフェアリイ星は立ち入りが厳しく制限されている。ましてフリーのジャーナリストとなれば、まず取材許可は下りないのだが…

 気が付けば冷戦の只中にいた世代としては、地球のジャムに対する無関心にも納得しちゃったり。物心ついた時からそうなら、そういうモンだと思っちゃうんだよなあ。今月はこれで終わりって、そんな殺生な。「人間の形をした戦闘AI」「問題児というより犯罪人」って、確かにどっかで聞いたようなw 零との対面が楽しみでしょうがないw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第32回。ハンターたちとの会議では大きな収穫があった。ウフコックにつながる人物が掴めたのだ。さっそく確保に動くイースターズ・オフィス。同じころ、ハンターたちも別の目標へ向かい動き始める。

 静かな緊張感が漂う前半に対し、後半は派手なバトル・アクションが全開。相変わらずエンハンサーでもないレイ・ヒューズはやたら頼りがいがある。また久しぶりにハンターの針が出てきたのも嬉しい。

 菅浩江「博物館惑星 余話 海底図書館」。セイラ・バンクハーストは、博物館惑星<アフロディーテ>の図書館司書だ。いつものように仕事をしていると、<総合管轄部門>の田代美和子が訪ねてきた。十歳ぐらいの背丈のロボットを連れている。野良の自己学習型AIとして潜伏していたC2が、人間型のボディを得たのだ。C2は絵本コーナーで遊び始めたが…

 「不見の月」が2020年の第51回星雲賞の日本短編部門に輝きSFマガジン2020年6月号の「歓喜の歌」でフィナーレを迎えた博物館惑星シリーズのボーナス・トラック。電子化が進むと、図書館の役割も変わっていくんだろう。とすると現在の図書館の雰囲気を味わえるのは、現代だけの贅沢なのかも。AIに体は必要かって問いは今なお議論の真っ最中のはず。ヒトと円滑に意思疎通するAIを育てるには必要だと私は思うんだが、どうなんだろう?

 柴田勝家「クラフツマンの秘宝」。1920年生まれのスウェーデン人の東洋美術学者ヨアキム・クラフツマンは、論文中に「信仰が質量を持つ」と記した。最初はジョークだったが、幾つかの実験も行っている。彼は1961年に伊勢波観音寺を訪れ、約千二百年も非公開とされた本尊の十一面観音像を調査している。

 改めて考えると、確かに秘仏ってのは不思議なシロモノだ。隠されると「ナニか特別なモノ」みたく思うのが人のサガ。そういうヒトの性質を箔付けに利用した、みたいな下世話な解釈もできるけど。やっぱ限定○○とかって客引き文句としちゃ強力だし。お話は諸星大二郎ファンには嬉しい展開。にしても、なぜに柴田勝家だけ「殿」w

 劉慈欣「2018年4月1日、晴れ」泊功訳。基延。ヒトの寿命を約三百年に延ばす技術。約五年前に事業化されたが、今は高価なため一部の者しか使えない。ぼくは悩んでいた。危ない橋を渡らねばならないが、大金を掴む手段の目途がついた。これで基延に手が届く。だが恋人とは別れる羽目になるだろう。世の中ではネット世界のバーチャル国家が台頭し、政治的な実体を持ち始めている。

 2010年の作品だが、IT土方の描写はなかなかの生々しさ。8頁の短編にアイデアとイベントをギッシリ詰めこんで、お話はスピーディーかつドタバタ風味にコロコロと進んでゆく。ノリがよくてビートの利いたリズムは、ちょっとリズムは筒井康隆に似てるかも。

 春暮康一「ピグマリオン」後編。脳内AIのピグマリオンの甲斐あってか、南野啓介は由希と結婚にこぎつけつた。ばかりか、今まで渋っていた由希もピグマリオンを導入する。やがて娘の陽向が生まれ、三人の暮らしは幸せに満ちていた。そんなある日、由希は…

 「火星のレディ・アストロノート」と同様、夫婦間の想いを描いた作品。何事もソツなくこなすピグマリオン、手が届く価格だったら欲しいなあ。会議の場面は「ボッコちゃん」を思い出した。

 藤井太洋「マン・カインド」第13回。ここにきて<アルバトロス>なんて面白そうなガジェットを投入するかあ。実用化はやっぱり軍用が先なのね。事故率が話題のアレ(→Wikipedia)も将来は無人化が進むんだろうか。

 アリ・ロビネット・コワル「火星のレディ・アストロノート」酒井昭伸訳。1952年に米東海岸に巨大隕石が落ちたのをきっかけに宇宙開発が盛んになり、火星にコロニーまでできた。かつて宇宙飛行士として名を馳せたエルマも今は63歳。火星で夫のナサニエルと共に暮らしている。プログラマーのナサニエルには今でも時おり仕事が舞い込むが、エルマにはもう宇宙へ行く機会はないだろうと諦めていたが…

 噂の「宇宙へ」の後日談。ってまだ読んでないけど。敢えてエルマを指名する理由を丁寧に描いている。それ以上に、「間に合わなかった」ナサニエルの気持ちが胸に響く。ああいうの、親しい人より見知らぬ他人の方がいいんだよな。最もいいのはロボット、それもヒトに似てないメカメカしい、いかにも道具って感じのやつ。ちと検索したら色々あって、やっぱり需要は多いんだなあ。早く普及して欲しい。

 東茅子のNOVEL&SHORT STORY REVIEW「コロナの時代」。「クリスタル・レイン」のトバイアス・S・バッケルに懐かしさを感じた後、「倒壊する巨塔」のローレンス・ライトにはビックリ仰天。ノンフィクション作家じゃなかったのか。まあドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズも「第五の騎手」なんて傑作を書いてるし。

 AI研究者にインタビュウする「SFの射程距離」、今回はA-Lifeの池上高志。プログラマはサンダーバートだと2号にやたらこだわるって説があるけど、研究者もかw

【今日の一曲】

Hitch a Ride - Lexington Lab Band

 最近、Youtube で昔好きだった曲のカバーをよく聞いてる。中でもコレは演奏力は抜群でアレンジもオリジナルに忠実、そしてなによりレスポールの音色への拘りがたまんない。やってる Lexington Lab Band はUSAケンタッキー州のミュージシャンたち。他にも70~80年代の名曲を巧みにカバーしてるので、プレイリストを聴いてるといつまでも抜け出せない。

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2020年7月 9日 (木)

SFマガジン2020年8月号

「家の改築材料をホームセンターで買い揃え、山積みの角材を前に途方に暮れてるんだ」
  ――高木ケイ「親しくすれ違うための三つ目の方法」

わたしたちは信じられるものになにかを捧げているときにこそ、一番気持ちがよくなるのだから。
  ――麦原遼「それでもわたしは永遠に働きたい」

「桜塚展開2次の項には花が咲く」
  ――大滝瓶太「花ざかりの方程式」

虚構世界においてのエントロピーとは、いったいなんだろうか?
  ――草野原々「また春が来る」

「雪風を狙うやつはたとえ相手が人間だろうと、敵だ」
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ 第一話」

「<ピグマリオン>はあなたの脳機能をマッピングして、なんらかの現実的意味をその世界に反映させています。あなたはそのなかで見たことをとおして、自分の心の働きを再起的に知ることになります」  ――春暮康一「ピグマリオン」前編

「牛たちの敵は脳の奥深くにある。人間と同じく、電気信号の自閉的な連鎖が作り出す架空の敵に怯えている。具体的でないから、余計に恐ろしい」  ――津久井五月「牛の王」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「日本SF第七世代へ」。

 小説は豪華14本。

 まず英語圏SF受賞作特集で8本。高木ケイ「親しくすれ違うための三つ目の方法」,麦原遼「それでもわたしは永遠に働きたい」,大滝瓶太「花ざかりの方程式」,草野原々「また春が来る」,三方行成「おくみと足軽」,春暮康一「ピグマリオン」前編,津久井五月「牛の王」,樋口恭介「Executing Init and Fini」。

 連載は6本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ 第一話」,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第4回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第31回,,劉慈欣「クーリエ」泊功訳,藤井太洋「マン・カインド」第12回,夢枕獏「小角の城」第60回。

 高木ケイ「親しくすれ違うための三つ目の方法」。大学生の僕は、ノンフィクションの取材のためインディアナのセカンドポイントに毎週通っている。母方の祖父は、出身地のここでUFOを目撃した。他にもUFOの目撃者・接触者・その血縁などが集まる組織の人々と会い、また大量の資料を集めたが、肝心のノンフィクションは遅々として進まない。

 もしかしたら三島由紀夫の「美しい星」のパロディかなと思ったが、主人公のUFOマニアたちへのまなざしはかなり温かい。あと主人公の生い立ちとかはスティーブン・スピルバーグの映画「未知との遭遇」や「E.T.」かな? 資料ばっかり集まって…って所は、とっても身に染みる。ブックマークはやたら充実するけど、肝心のモノはいつまでたっても構想すらまとまらなかったり。

 麦原遼「それでもわたしは永遠に働きたい」。平均寿命48歳、みんなクスリづけで路地にたむろする地元を出て、わたしは働くことにした。今は労働と呼ばない。朗働と呼ぶ。フィットネスクラブで運動しながら、脳を法人に預ける。仕事が終わると、勤務中の記憶はすべて消える。一日の最大勤務時間は10時間まで。運動不足や仕事のスランプで悩むことはない。

 新型コロナの騒ぎでリモートワークが増えた今、なかなかに切実な設定。「いや宅急便の配送とか、体がないと困る仕事も多いよね?」と一瞬思ったが、その懸念は序盤で解決しているのであった。もっとも副作用もあって、この描き方が実に巧い。組織の中で専門的な仕事をしている人は、自分の仕事の内容を他人に説明するのに苦労するんだよなあ…とか思ってたら、話はどんどんエスカレートして…

 大滝瓶太「花ざかりの方程式」。数学者の桜塚八雲の最後の論文「稀薄期待におけるナビエ・ストークス方程式に寄生した植物の存在とその一般性」は、数学界で話題を呼ぶ。トンデモではない。厳しい査読を通り、由緒正しい専門誌に掲載された論文だ。しかも、この論文を理解した者は、その植物が見える。

 「死圏」は「カート・ヴォネガット全短編1 バターより銃」で読めます。ナビエ・ストークス方程式(→Wikipedia)は「正しいけど使えない」ので有名な流体力学の式。解が判ってりゃ解けるんだけど、だったら解く必要ないじゃん、と。だもんで、普通は変数の幾つかを定数に置き換え簡略化して使います。いや私も判ってないんだけど。ってな難しいネタと、ヴォネガットのおバカな短編を組み合わせた短編。

 草野原々「また春が来る」。作家にも四季がある。冬のあいだ眠っていた作家たちも、春が来ると目覚めて仕事をはじめる。作家の仕事は虚構世界を作ることだ。作りはじめの虚構世界は、エントロピーが低い。解釈の幅が狭く、読解の余地が少ない。世界も小さく、キャラクターの動きも制限されている。

 …と、そんな風に、草野ワールドは育っていくのです。なぜか女の子しかいない世界が多いけどw まあ中には読者が勝手に世界を広げちゃう場合もあって、というか「最後にして最初のアイドル」はまさしくソレな気がw

 三方行成「おくみと足軽」。本陣の娘おくみは十歳。彼女は大名行列が好きだった。大名は大きい。宿場のどんな建物より大きい。そんな大名の行列は、とても美しい。去年は大名を見るため宿場のはずれにある樹にのぼった。なにせ大名は大きい。下から見上げても、てっぺんは見えない。だから高い松に登れば、甲羅のてっぺんにある御駕籠が見えるだろうと思ったのだが…

 言われてみれば、当時の庶民にとって大名行列は一種のパレードみたいなモンで、楽しみにしてる人もいたんだろうなあ…なんて予想は、当たらずとも遠からず? もっとも増設腕とか四脚亀形とか、なんか妙な言葉が紛れ込んでくるんだけどw 確かに、そんあ大名行列なら、今だって子供たちに大人気だろうなあw

 春暮康一「ピグマリオン」前編。22歳の南野啓介は、<ピグマリオン>手術を受ける。その機能の一つは、自分の精神世界を客観視すること。感情や思い込みを排し、現実の姿を見ることができる。もう一つは、脳内にAIで理想の人格を作り出すこと。AIは利用者にアドバイスを送る。アドバイスを受けいれるに従い、利用者の人格はAIに近くなる。すなわち、理想の自分に近づいてゆく。

 最初の機能は、いわば精神の鏡ですね。見たいような、見たくないような。「お前、また逃げてるな」とか言われたらムカつくし。とはいえ、もう一つの機能は嬉しいよね。忘れっぽかったり、面倒くさいこと・苦手なことを、ついつい後回しにしちゃうクセがあると、やっぱ欲しくなるなあ。

 津久井五月「牛の王」。アンソニー・ルドラは、マイクロマシン通信理論の祖だ。彼がカシミールに設立した研究所から、多くの研究者が巣立ち、技術と産業を発展させた。2054年、ライ・クリモトは、久しぶりに師を訪れる。半年前、師は一番弟子のテレーズ・アンヌ・マリーを喪った。テレーズの研究を継いでほしい、そう師はクリモトに告げる。

 長編の冒頭部分。そうか、紅茶はそういうことか。確かにマイクロマシンで通信するのは難しい。細菌や白血球とかは化学物質で情報をやりとりしてるみたいだけど、それで巧くいってるってのも、ちと信じがたい話。とはいえ犬とかも臭いでなわばりを判別してるから、案外と化学物質の情報量は大きいのかも。

 樋口恭介「Executing Init and Fini」。初めて会ったとき、フィニーはバロウズと名づけた大きな鎖鎌を持っていた。彼女は文字を狩る。

 バロウズはたぶんウィリアム・バロウズ(→Wikipedia)を示すんだろうなあ、ぐらいしかわからなかった。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 アグレッサーズ 第一話」。クーリィ准将の予想通り、地球から戦闘機部隊がFAFにやってきた。ただし正式な地球連合軍ではない。中心はオーストラリア空軍で、日本海軍航空部隊が支援する形だ。これには地球の政治情勢が関わっている。そのため、発足したアグレッサー部隊の二名、深井大尉と桂城少尉は、ブッカー少佐から政治情勢のレクチャーを受けていた。

 わはは。桂城はともかく、深井零に政治情勢を分からせるってのは、無茶やろ…と思ったら、やっぱり無茶だったw しかも、今回は珍しく零が感情剥き出しの長台詞があったり。もっとも、その感情の向かう先がソッチなあたりは、やっぱり零だよなあw

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第4回。啄星高校に転校してきた印南棗を中心に、山下祐・儀間圏輔・杉原香里の四人は、天使化が始まった早坂篤子を襲う。時は始業前、場所は高校の自転車置き場。篤子の体は砂のようなものに侵食されつつある。

 今回はド派手なバトル回。なにせ舞台は数値海岸なだけに、戦闘の様子もこの世界ならでは。特に篤子が<手>で反撃するあたりは、凄まじくデンジャラス。にしても三次元空間を官能素で満たすには、いったいどれだけのメモリと演算能力が必要なんだろう、とか考えるとキリがない。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第31回。バロットらイースターズ・オフィスが、やっと得たハンターたちとの会合の場。ローレン大学で学んだ経験を活かし、バロットは敢えて沈黙を武器とする。彼らからウフコックの情報を引き出すために。ウフコックを救い出すために。

 前回に引き続き、会話に強い緊張感が漂う回。確かに交渉時に沈黙は怖いよなあ。と同時に、ちょっとした「しぐさ」からも多くの情報を引き出そうとする、タフでしたたかなバロットが拝める回。そんなバロットに対し、身内抱えた危機を微塵も感じさせず静かに対応するハンターもクールだ。

 劉慈欣「クーリエ」泊功訳。若い頃の彼は、特許局に勤めながら屋根裏部屋で暮らしていた。今は老いて、ブリンストンで静かに暮らしているが、悩みは尽きない。うっとうしい悩みから逃げるように、バイオリンを弾くのだった。ここしばらく、一人の青年が彼のバイオリンを聴いているのに気づく。

 7頁の掌編。好きな人なら、老いたバイオリニストの正体は最初の方でピンとくるかも。とまれ、青年が彼を訪れた目的には、著者の想いというか願いがこもってると思う。

 藤井太洋「マン・カインド」第12回。いよいよ終盤に差し掛かった模様。最後の数行は、盛んにデモが行われている現在のアメリカを考えると、なかなかにヤバくて怖くなる。本当にそうなったら、どうなるんだろう?

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2020年6月10日 (水)

SFマガジン2020年6月号

「ここにある書物は、すべて“道”に関する書物ではないですか」
  ――ゼン・チョー「初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい」大谷真弓訳
「“SF考証”って滑稽な名前だと思いません?」
  ――藤津亮太「アニメもんのSF散歩 連載最終回 アニメとSFの関係性について」
「ジャムは人間に、人間とはなにかという究極の問いを突きつけてくる存在だ」
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 対話と思惑」
「芸術は人間の魂の代弁者です」
  ――菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 最終話 歓喜の歌」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「英語圏SF受賞作特集」。

 小説は豪華13本。

 まず英語圏SF受賞作特集で4本。P・ジェリ・クラーク「ジョージ・ワシントンの義歯となった、九本の黒人の歯の知られざる来歴」佐田千織訳,アマル・エル=モータル「ガラスと鉄の季節」原島文世訳,ゼン・チョー「初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい」大谷真弓訳,キャロリン・M・ヨークム「ようこそ、惑星間中継ステーションの診療所へ 患者が死亡したのは0時間前」赤尾秀子訳。最近は長いタイトルが流行っているのか?

 連載は6本+1本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 対話と思惑」,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第3回,椎名誠のニュートラル・コーナー「メコン・イグアナの見上げる世界は」,夢枕獏「小角の城」第59回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第30回,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 最終話 歓喜の歌」。加えて「三体」で話題の劉慈欣の短編連続掲載が始まる。初回は「鯨歌」泊功訳。

 読み切りは2本。上遠野浩平「憎悪人間は逆らわない」,平山瑞穂「獺祭の夜」。

 劉慈欣「鯨歌」泊功訳。ワーナーは問題を抱えていた。南米で精製したヘロイン25トンが豪華クルーズ船にある。アメリカ本土に持ち込めば大金になるが、最近は監視が厳しく、どうやっても国境を抜けられない。このままでは、せっかく育てた麻薬帝国が潰れてしまう。そこで息子が科学者を連れてきた。デイビッド・ホプキンス博士、海洋生物学者だ。博士の提案は…

 麻薬マフィアのボスを「ワーナーおじさん」と呼ぶなど、童話っぽい語り口がトボけたいい味を出してるw タイトルと海洋生物学者で、聰い人は手口の見当がつくだろう。実際、合衆国海軍は似たような研究をしてたみたいだし。が、そこはベストセラー作家。見事に想像を裏切るオチがついてて、トボけた語り口の仕掛けも巧みに効いてくる。

 P・ジェリ・クラーク「ジョージ・ワシントンの義歯となった、九本の黒人の歯の知られざる来歴」佐田千織訳。アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンは、黒人の歯を九本使った入れ歯を買った。それぞれの歯の持ち主は…

 鍛冶屋、人魚の友、魔術師、戦士の娘…。歯を提供した九人の黒人たちは奴隷としてモノ扱いされたが、それぞれに人生があった。ジョージ・ワシントンの入れ歯という史実を元に、その持ち主の魂を蘇らせようとする、おとぎ話風のファンタジイ。短いながらもアメリカ合衆国の歴史の裏面を鮮やかに照らし出すのは、ファンタジイならではの効果だろう。。

 アマル・エル=モータル「ガラスと鉄の季節」原島文世訳。タビサは七つの鉄の靴を持って旅に出た。だいたい一年で一足を履きつぶす。鉄の靴はタビサの足を痛めつけるが、残るはあと三足。アミラは高いガラスの山の上で、黄金の林檎を膝に抱え、玉座から動かない。アミラを求め男たちが麓から押し寄せてくるが、みな足を滑らせて落ちてゆく。

 これまたおとぎ話風のファンタジイ。だが、タビサもアミラも「王子様と幸せに暮らしました」とはならないのが、この作品の味。そういえば「少女革命ウテナ」は、もう20年以上前なんだなあ。何食わぬ顔で夕方に放送していたけど、今思えば凄まじく意欲的な作品だった。

 ゼン・チョー「初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい」大谷真弓訳。イムギは、韓国に伝わる龍になり損ねた大蛇の一種(→ピクシブ百科事典)。バイアムは二度試み失敗した。三度目に挑んだ際、レスリー・ハンに目撃されまたも龍になり損ねた。バイアムは人に化けてレスリーを訪ねる。レスリーは天体物理学者で…

 日本じゃ龍になるのは鯉だけど、韓国じゃ蛇なのか。そんなわけで、これもおとぎ話を元にしたロウ・ファンタジイ。イムギと龍の関係が、私には斬新で楽しかった。こんな風に諸国の素材を取り込むことで、ファンタジイは更に豊かになるんだろうなあ。

 キャロリン・M・ヨークム「ようこそ、惑星間中継ステーションの診療所へ 患者が死亡したのは0時間前」赤尾秀子訳。5頁の掌編。毒虫に噛みつかれ、惑星間中継ステーションにやってきたが…。ゲームブック形式の語り口で進む、ドタバタ風味のブラック・ユーモア作品。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第四部 対話と思惑」。特殊戦を率いるクーリィ准将から、ブッカー少佐に連絡が入る。新しい飛行部隊を編成する、と。ジャムとの戦闘でFAFは全戦力の三割を失い、ジャムの地球侵入を許してしまった。FAFと地球との関係も、FAF内の権力バランスも、そしてジャムとの戦い方も大きく変わるだろう。

 ヒトとは大きく異なる知性とのコミュニケーションを描くのが、ファースト・コンタクト物の醍醐味。その点で、雪風シリーズはヒトと雪風・雪風とジャム・ヒトとジャムと、三つのコンタクトを描いてくれるのが嬉しい。ジャムは得体が知れないが、雪風は猫みたいで可愛い…とか思ってるけど、実は虎みたいだし。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第30回。事態が大きく進展する。ハンターから直接バロットに電話がかかってきた。しかも、内容は会談の申し込み。囚われたウフコックへの糸が繋がった。レイ・ヒューズから学んだ交通整理術と、大学で学んだディスカッション技術を活かし、バロットはこの機会を掴むべく頭をフル回転させる。

 ほとんどアクションがなく、会話が中心で進む回なのに、全編に強い緊張感が漂っている。私たちが日頃から交わしている会話も、細かく分析していくと、こんな風に幾つもの思惑が飛び交ってるんだろうか? 人と話すのが怖くなるような、楽しみになるような、そんな回だ。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第3回。夜の11時過ぎ、杉原香里に電話がかかってくる。相手は山下祐。夜のあいだ、杉原香里は計算されないはずだ。何かが起こっている。山下は告げる。「青野にまた<天使>が出た、早坂だ」。

 昔のNHKの少年ドラマ・シリーズみたいな高校生の登校風景の描写で、現実の世界そのものと思わせておいて、「朝が来るまで、自分は計算されない」なんて文章が入ってきて、ドキリとさせられる。こういう「自分は計算された存在である」由を自覚してるってのは、どんな気分なんだろう?

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 最終話 歓喜の歌」。50周年イベント開催前夜で、<アフロディーテ>には人が溢れている。尚美・シャハムは、細かいトラブルの対応で追いまくられ大忙しだ。同じころ、兵藤健は大役を仰せつかっていた。ずっと追いかけていた国際的な美術犯罪組織<アート・スタイラー>との接触がかなったのだ。

 懐かしのゲスト総出演で送る、シリーズの最終話。「歓喜の歌」というサブタイトルが、フィナーレを盛り上げようとする意気込みを感じさせる。マシュー・キンバリーもティティも、相変わらずのトラブル・メーカーぶりで安心した←をい 健の叔父、兵藤丈次の正体やいかに。もう一度、単行本でシリーズ頭から読み直したい。

 上遠野浩平「憎悪人間は逆らわない」。戦闘用合成人間にピッチフォークは、無能人間コノハ・ヒノオを吊るし上げで問う。「おまえはほんとうに特別なのか? おまえに何があるというんだ?」問われても、コノハ・ヒノオには答えようがない。本人だって、自分がなえ生きているのかわからない。なのに周囲では次々と人が死んでいく。

 ピッチフォークにせよフォルテッシモにせよ、戦いに長けた者はどうしても脳筋になるんだろうかw こんな物騒な連中を作り出す統和機構って、何を考えているんだか、または考えてないんだが。

 平山瑞穂「獺祭の夜」。首都圏が震災に見舞われた。30歳独身の柏葉尚登は、遠縁の首藤家に厄介になる。首藤家は渓流の奥、人里離れた広い一軒家だ。住人は三人。老いた主人の首藤政宗、その妻の純子、そして尚登と同じく東遠で居候の若い娘、凪。居候とはいえ何もしないわけにもいかず、尚登は凪と共に「オソ」の世話を仰せつかるのだが…

 Google で調べたら、「獺祭」は「だっさい」と読むようだ。山深く人里離れた奥地、何を考えているのか全く分からない主人の首藤政宗、そして謎の「オソ」。とくれば、因習と怨念にまみれたホラーに…と思わせて、オソの正体は意外と早く明らかになる。読者に解釈を任せる作品なんだろうか。だとすると、私は純子さんは一番怖い。

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2020年3月23日 (月)

マイケル・ベンソン「2001: キューブリック,クラーク」早川書房 中村融・内田昌之・小野田和子訳 添野知生監修

キューブリック「腰を落ちつけて脚本を書くんじゃない。腰を落ちつけて長編小説を書くんだ」
  ――第4章 プリプロダクション

「ジョージ朝やヴィクトリア朝がひとつの時代であるのとまったく同じように、われわれは一時代として『2001年』をデザインしたんだ」
  ――第5章 ボアハムウッド

「キューブリックといっしょに仕事をする者はいない――彼のために仕事をする者がいるだけだ」
  ――第5章 ボアハムウッド

街中へ戻ったとき、彼(フランク・プール役のゲイリー・ロックウッド)はどちらの方角を向いてもロンドンの通りが目のまえで上向きにカーブしているように見えて、そのせいで自分がわずかに前傾姿勢になっていることに気づいた。
  ――第6章 製作

キューブリック「ぼくに説明できないとすれば、きみはそれを理解していないのだ」
  ――第6章 製作

ヒトザル役のダン・リクター「ニ十分と、タオルが二本と、レオタードと、舞台があれば充分です」
  ――第7章 パープルハートと高所のワイヤ

わたしは七つの磁石を派の中に仕込んだ。
  ――第8章 人類の夜明け

暑さを別にすると、八月に(ダン・)リクターとその仲間たちの撮影が始まったとき、すぐに持ち上がった問題の一つは窒息だった。
  ――第8章 人類の夜明け

「ワルツのリズムは星の速度から生まれたものなんだよ」
  ――第9章 最終段階

けっきょく信じがたいほど信じられる異星人、もしくは信じられるほど信じがたい異星人をつくるという問題は、やたら忙しいだけで得るものなし、というかたちで終わってしまった。
  ――第10章 対称性と抽象性

クラーク「物事のやり方には、正しいやり方とまちがったやり方、そしてスタンリーのやり方があるらしい」
  ――第11章 公開

クラーク「はじめて見て理解できた人がいたとしたら、我々の意図は失敗したことになる」
キューブリック「わたしはアーサーの意見には賛成できないし、彼は冗談のつもりでいったのだろうと思っている」
  ――第12章 余波

【どんな本?】

 21世紀の現在でも傑作の呼び声が高く、映画ファンに多大な人気を誇ると共にカルトな崇拝すら集める映画「2001年宇宙の旅」。

 それまでSF映画は「チャチな子供だまし」と思われていた。だが「2001年宇宙の旅」は、この思い込みを見事に覆す。圧倒的な完成度の映像。科学・工学的に真摯な特撮。壮大かつ哲学的なストーリー。徹底的してナレーションを省き映像と音響で伝える手法。そしてMGMの屋台骨を揺るがすほどに桁外れの製作費。

 あらゆる点で掟破りの革命的な映画「2001年宇宙の旅」は、以降のハリウッドを「スターウォーズ」「未知との遭遇」「エイリアン」「ターミネーター」などの莫大な製作費をかけたSF大作への突破口を切り拓く。まさしく映画の歴史を変えた、記念的作品である。

 その革命は、どのように始まったのか。革命を仕掛けたスタンリー・キューブリックとアーサー・C・クラークは、どんな人物なのか。脚本のどこまでがクラークの案で、どこからがキューブリックによるものなのか。ランニングやスターゲートのシーンは、どうやって撮ったのか。「ツァラトゥストラはかく語りき」や「美しく青きドナウ」などの音楽は、いつ決まったのか。

 SF映画の代表作「2001年宇宙の旅」の制作過程を、大量の一次資料とインタビュウに基づいて生々しく再現する、映画ファンとSFファンが待ちかねたドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は SPACE ODYSSEY : Stanley Kubrick, Arthur C. Clarke, and the Making of a Masterpiece, by Michael Benson, 2018。日本語版は2018年12月25日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約549頁に加え、監修者あとがき8頁。9.5ポイント49字×20行×549頁=約538,020字、400字詰め原稿用紙で約1,346枚。文庫なら上中下の三巻でもいい大容量。

 文章はこなれていて読みやすい。もちろん、映画「2001年宇宙の旅」を観た人向け。当然、映画の製作過程のネタが次々と出てくる。そのわりに、映画製作の素人にも分かるように、さりげなく工程や役割を説明しているので、意外とわかりやすい。というか、私も素人なんだが、「え、映画の撮影って、そうなの?」的な驚きが詰まっている。

【構成は?】

 お話は時系列に沿って進むが、気になる所だけを拾い読みしてもいい。

  •  主要登場人物
  • 第1章 プロローグ オデッセイ
  • 第2章 未来論者 1964年冬~春
  • 第3章 監督 1964年春
  • 第4章 プリプロダクション ニューヨーク 1964年春~1965年夏
  • 第5章 ボアハムウッド 1965年夏~冬
  • 第6章 製作 1965年12月~1966年7月
  • 第7章 パープルハートと高所のワイヤ 1966年夏~冬
  • 第8章 人類の夜明け 1966年冬~1967年秋
  • 第9章 最終段階 1966年秋~1967年-68年冬
  • 第10章 対称性と抽象性 1967年8月~1968年3月
  • 第11章 公開 1968年春
  • 第12章 余波 1968年春~2008年春
  • 謝辞/訳者あとがき/索引

【感想は?】

 浅草みどり「内容を大きく変更だ!」

 …はい。相変わらずTVアニメ「映像研には手を出すな!」から頂きました。あの無茶ぶりにも驚いたけど、実は映像制作じゃよくあるケースなのだ、とこの本を読むと納得できる。

 映画「2001年宇宙の旅」の完成度は凄まじい。ストーリー、背景、台詞、演技、小道具、音楽、効果音…。すべてが計算されつくしている。そう私は思っている。きっと、製作を始める時から、キューブリックの頭の中には全部が出来上がっていたんだ、と思っていた。ソフトウェア開発で言う、ウォーターフォール・モデル(→Wikipedia)なんだろう、と。

 が、しかし。

 それはとんでもねえ勘ちがいだった。もう、ほとんど泥縄式というかアドリブ全開というか。そもそも撮影に入っても、エンディングが決まってないし。お陰でクラークは何かと酷い目にあってるw 特に切ないのが、報酬の契約の話。ちゃんとエージェントを通して契約してるんだが、そのエージェントも映画界には疎かったらしい。そのため、小説「ラスト・ドン」と同じ落とし穴にハマっちゃったり。

 もっとも、キューブリックも悪党ってわけじゃなく、むしろクラークみたいな知識人には話していて心地よい人物なんだろうなあ。なにせ周囲の人が口をそろえて「スポンジのように知識を吸い取る」と評している。知識欲旺盛で、かつ理解力があり物覚えがいい人なのだ。もっとも、カール・セーガンとは相性が悪かったようだがw

 と同時に、かなりの度胸もある人だとわかる。何せ当時のSFの立場は…

この十年ほど、SFに敬意をいだいてもらおうという試みが大々的になされていたものの、1960年代初頭、そのジャンルが社会に受け入れられている度合いは、ポルノグラフィーと五十歩百歩だった。
  ――第3章 監督

 と、悲惨なもの。そんな状況だってのに、キューブリックが目指したのはオラフ・ステープルトンばりの大風呂敷だ。そう、人間を描くんじゃない。人類を描く作品なのだから。

クラーク「彼(キューブリック)が作りたかったのは、この宇宙におけるヒトの位置を描いた映画で――そのたぐいのものは、映画史上かつて存在したことがないどころか、一度も試みられたことはない」
  ――第3章 監督

 そんなこんなでクラークと組むことになったキューブリック、両者の関係は、というと、きましたね、かの有名なやりとり。

「スタン、きみに知ってもらいたいことがある。わたしは精神的にたいへん安定したホモセクシャルだ」
「ああ、知ってたよ」
  ――第4章 プリプロダクション

 ってな感じで、小さないさかいはあるものの、全般として両者の関係は良好そのもの。もっとも、肝心のストーリーは、土壇場まで決まらす、金欠のクラークは切ない思いを味わう羽目になるんだがw

 製作に入っても、泥縄式は続く。最初から方針としては…

キューブリックの本能は、純粋に視覚的な手がかりと音響的な手がかりのほうを選んで、言葉による説明はできるだけ省く方向に動いた。
  ――第1章 プロローグ

 と、なるたけナレーションを使わず、映像で伝える方向に決まっていた。このナレーションをめぐる迷いは、最後までふんぎりがつかなかった模様。

 なかなか決まらない話は次々と出てくる。中でも、モノリスの話は印象深い。デザインがなかなか決まらず、なんとか1×4×9の立方体になったのはいいが、色と素材で迷い、数千万円をドブに捨てたネタとかは、なんとも切ないばかり。

 こういうドタバタは撮影に入っても続く。私はディスカバリー号のパートが大好きだ。無重力を感じさせる浮遊感や、地球を遠く離れた孤立感が染みる船外活動の場面。観ている時は「おお、スゲえ!」だけだが、改めて考えると、あれどう撮ったんだか。

 と同時に、あの宇宙服やヘルメットのデザインも見事。何が見事といって、不自然さが微塵もないのが凄い。もっとも、中の人の苦労は並大抵じゃなく、マジで何度も死にかけてる。しかもその理由が酷いw 宇宙服で××とか、シャレにならんw

 やはり印象的なのが、音楽。なにせ「ツァラトゥストラはかく語りき」が、バッチリ決まってる。あれこそ計算づく、と思ったら、さにあらず。映像も音楽も、ほとんど思い付きと偶然で決まったのだ。

 公開時の評判も、今からは想像もつかない状況で。いや結局は大当たりになるんだが、そこに至るまでの紆余曲折は、時代と世代の変化をつくづく感じさせてくれる。それもこれも、すべては「2001年宇宙の旅」が変えたのだ。

 などの大ネタはもちろんだが、製作に入ってからの苦労やスタッフの機転のエピソードが、やたらと面白い上にギッシリと詰まっているのが嬉しい。この凄まじい頁数は伊達じゃないぞ。少しでも特撮やSF、または映画製作に興味があるなら、無理してでも時間を割いて読む価値は充分にある。あの映画に相応しい超大作だ。

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2020年2月28日 (金)

SFマガジン2020年4月号

「食べた時に、何か見えるものがありますか」
  ――伴名練「白萩家食卓展望」

だれかの身代わりになって生きることとはどんなふうだろう。
  ――飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第2回

『おまえ以外の基地コンピュータたちが仕事をしていない理由はなにか』
  ――神林長平「哲学的な死 後編 戦闘妖精・雪風 第4部」

「ずっと……何も考えないよう努力していたんだ」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第29回

 376頁の標準サイズ。

 特集は2つ、「眉村卓追悼特集」と「星敬追悼」。

 小説は豪華16本。うち4本はショートショートだけど。

 まず眉村卓追悼特集で6本。「照り返しの丘」,「夜風の記憶」に加え、掌編4本、「くり返し」「浜近くの町で」「詰碁」「最終回」。

 連載は7本。神林長平「哲学的な死 後編 戦闘妖精・雪風 第4部」,飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第2回,椎名誠のニュートラル・コーナー「ケープタテガミヤマアラシ」,夢枕獏「小角の城」第58回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第29回,藤井太洋「マン・カインド」第11回,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第11話 遥かな花」。

 読み切りは3本。伴名練「白萩家食卓展望」,草上仁「降りてゆく」,上遠野浩平「緊急人間は焦らない」。

 まずは眉村卓追悼特集の開幕編「照り返しの丘」。代表的な連作「司政官」シリーズ初期の一編で、創元SF文庫「司政官 全短編」にも収録されている。新人司政官ソウマ・PPK・ジョウの最初の任地は、テルセンだった。支配種族はS=テルセア、ロボットである。かつて存在した支配種族が滅び、その遺産S=テルセアが残ったらしい。連邦軍はテルセンの制圧を試みたが、S=テルセアに阻まれ、ソウマに出番が回ってきたのだ。

 シリーズ全短編の中でも二番目の作品で、司政官制度の初期を描く短編。年寄りは「おお、SQ1が歩いてる」と妙な感慨に浸ったり。いや末期になるとモバイルからサーバに変わるんです←意味不明w 組織もソウマも若いだけに、冒頭では初々しいながらも前のめりな熱意に溢れている。ったって、軍の尻ぬぐいなんだけど。S=テルセアの生態?が、短編で使い捨てるには惜しい異様さ。

 続いて「夜風の記憶」。港野は大阪で生まれ育った。今は東京の証券会社に勤め部長になった。仕事で久しぶりに大阪に来た港野は、学生時代の友人である東川とミナミで待ち合わせる。軽く飲んだ後、東川と別れた港野は、学生時代にアルバイトをしていたアルサロのフロリダを思い出す。「フロリダは既になくなった」と東川は言うが、跡地だけでも訪ねようと考えた港野は…

 冒頭、「新幹線で大阪に向かった」だけで、東京発だと判る、そういう時代に書かれた作品。アルサロ(→Wikipedia)も若い人には通じにくいかも。学生時代のバイト先かあ。懐かしくはあるけど、遠くから眺めるだけで充分で、訪ねたいとは思わないところが多いなあ。そんな複雑な気分が、巧みに書けている。

 もう一つ、特集の著作リストでは、「なぞの転校生」の出版履歴が凄い。1967年3月20日の盛光社版から2013年12月10日の講談社文庫版まで、8回も刊行されている。不死鳥のようなロングセラーだ。

 伴名練「白萩家食卓展望」。その料理帖は、白萩たづ子にとって半身ともいえるものだった。1788年から伝わり、たづ子は五代目の持ち主である。幼いころから、たづ子は食事に奇妙な反応を示した。米を食べれば黒いと言い、漬け物を齧れば血がいっぱいと怯え、唐黍では泥が目に入ったと訴える。そんなたづ子だが、料理帖にある『逆浜豆腐』を口にしたとたん、動きが止まった。

 野田昌宏の名言「SFは絵だねえ」が、しみじみ伝わってくる傑作。天明の時代から受け継がれ書き継がれてきた、一風変わったレシピが載っている料理帖と、それを受け継ぎ書き継いできた一風変わった者たちと、その末裔の物語。時と場所が違えば、魔女と呼ばれた人たちかもしれない。お茶目な二代目と、お堅い三代目のコンビがよいです。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第2回。小野寺早都子は、借りてきた「クレマンの年代記」に浸りきった。既に二時半になっている。これじゃ朝に起きられない、もう寝よう、そう何度も思いつつ、やめられなかった。そしてまた、本を開いてしまう。ところが、読み始めて気がつく。これはいったいなんだろう?

 前回は昭和52年(1977年)、山陰の青野市を舞台に、高校生たちの日常から始まった。今回は19世紀の南仏らしき舞台で、15歳の双子の令嬢、ナディアとリリーの会話で始まる。病弱ながら音楽の素質があるリリーと、甲斐甲斐しくリリーの面倒を見るナディア…と思ったら、なかなかに淫靡で不穏な雰囲気に。わっふるわっふる。

 神林長平「哲学的な死 後編 戦闘妖精・雪風 第4部」。深井零と雪風は、再び滑走路16Rへの着陸を試みる。指示灯は点灯せず、撃墜されたまたは地上で撃破された機体の残骸がころがっている。FAF総合司令センターを目指すため、そこにもっとも近い第六耐爆格納庫に雪風を格納する。司令センターにたどり着いた零と桂城は、基地コンピュータ群を起動させようと試みる。

 いきなり腐ったご婦人へのサービスがチラリと入って、笑っちゃったり。やっぱり妄想しちゃうんだろうなあw 民間の空港でも空軍の基地でも、21世紀初頭の現代ですら既にコンピュータが大きな役割を担っている。これが一斉にダウンしちゃったら、どうなることやら。しかもこの物語では、事故ではなくジャムによる攻撃によるもの。零と桂城の作戦は…

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第29回。シザース侵入の疑いで、<クインテット>とその同志たちの結束にヒビが入りはじめる。麻薬ビジネスが切り捨てられるのではないかと疑う<シャドウズ>、勝手にシザース狩りを始めようとする<誓約の銃>。だが均一化を目指すハンターは、あくまでも仲間を信じようとする態度を崩さない。

 <スパイダーウェブ>への突入&ウフコック奪還戦と、そこに至る経緯を、交互に描く構成は今回も同じ。やはり前回と同じく、こらえ性もなく「とりあえずブッ放せばいいじゃん」的に突っ走る<誓約の銃>の頭の悪さが、いっそ心地いいw いやハンターに感情移入しちゃってる私にとっては、「こいつアカン奴や」な気分なんだけどw

 上遠野浩平「緊急人間は焦らない」。ジィド。いわばフリーの便利屋。泥棒・暗殺・間諜・傭兵なんでもござれの万能選手。だが合成人間ではない。統和機構にも属していないが、仕事を請け負うことはあり、その優れた問題解決能力から<緊急人間>と呼ばれている。今回の依頼主はピッチフォーク。デューポイントの件で、彼との関係を示す証拠を消してほしい、と。

 ジィドって、能力からはデューク東郷みたいな奴だなあと思ったが、性格はやっぱり上遠野キャラというか、かなり意地が悪いw 仕事を頼むんじゃなけりゃ、まず関わりになりたくないタイプだw これが不干渉主義の権化みたいなウトセラ・ムビョウと絡むと、どうなるのか。しかも、そこに<最強人間>フォルテッシモまで乱入してきて…ってところで、次回に続く。いけず。

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第11話 遥かな花」。博物館惑星のキプロス島とその周辺海域。あまり知られていないが、人工的に生み出された生物がいる。スポンサーは製薬会社<アベニウス>。新薬開発に役立つ素材が見つかればモトがとれる、そういう算段だ。そこで不許可侵入者が捕まった。ケネト・ルンドクヴィスト、プラントハンターだ。アベニウスのヨーラン・アベニウス会長と因縁があるらしい。

 人造生物が集まる人知れぬ島って、H・G・ウェルズの「モロー博士の島」が思い浮かぶ。いや読んでないけど。さぞやグチャグチャヌトヌトな化け物が…なんて期待は見事に外れたw 当たり前だw 同じモノを見ても人によって視点は違う。団体旅行のバスで渋滞にハマった時、クルマ好きの人が「渋滞は好き」と言っていた。「いろいろなクルマが見られるから」だとか。

 草上仁「降りてゆく」。ユリエは八歳。千階建てのビルの「アイランド」、九百階より上に住んでいる。その日、愛犬のチロがビルがら誤って落ちてしまった。だからユリエはチロを追って下へと降りることにした。エレベーターで行けるのは九百七十階まで。そこから下は非常階段を使うしかない。だが、ここ数十年、非常階段を使う者はいなかった。

 誰も考えなかった下階層への移動。それを阻むのは、なんとなく流布したタブーだけ。何も知らぬ少女は物おじせず突き進む。愛犬チロを迎えに行くために。ちょっとJ・G・バラードの「ハイ・ライズ」を思わせる設定。なお「技術的には可能なビルの高さにほぼ限界はない」とか(→「ビルはどこまで高く出来るか」)。限界を決めるのはエレベーターの輸送量と水を持ち上げるポンプらしい。

 「SFの射程距離」第3回は、「『自分とは何か』を考えるためにSFを読んできた」として公立はこだて未来大学複雑系知能学科の松原仁教授。

SFに期待したいのは、「おお、これは思いつかなかった」というような知能像を見せてほしいということです。

 そうだよねえ。読者の想像力の限界を超えて欲しい。だから私は山田正紀が好きなんだ。にしてもAI補完論は言えてるかもw やっぱりコンピュータって、自分が苦手だったり面倒くさかったりする事を肩代わりさせるのに便利だし。

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2020年2月17日 (月)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2020年版」早川書房

…ジョージ・R・R・マーティンの名前を見るたびに、「ワイルド・カード」の続きを出せと言いたくなるのは、私だけではないはずだ。
  ――マイ・ベスト5海外篇 細谷正充

 私も同感です、はい。

 今年も出ました年に一度のお祭り本。

 国内篇の上位陣は意外な接戦。対して海外篇はダブルスコア以上であの話題作。いずれもベテランと若手が入り混じって、層の厚さとバラエティの豊かさを感じるのが嬉しい。見逃してたのも多いなあ。柴田勝家「ヒト夜の長い夢」,ラヴィ・ティドハー「黒き微睡の囚人」,マイケル・ベンソン「2001:キューブリック、クラーク」…。

 あ、それと、草上仁「5分間SF」にはひたすら感謝。去年、そんな事を書いてたし。

 「伴名練インタビュウ SFの歴史を継いでいくこと」。既存の名作を巧みに織り込んで美味しく仕上げるマニアックな芸風の人、とばかり思い込んでいたけど、実は「いかにSFパンデミックを引き起こすか」「いかに素人をたぶらかしてSF沼に引きずり込むか」を常日頃から目論んでいる人なのがわかった。いやあ実に頼もしい。

 ところで、「サブジャンル別ベスト10&総括」で「海外文学」はあるのに「日本文学」がないのはなぜ? 既に日本文学はSFの拡散と浸透が済んでるから? いいや具体的な作家としては上田岳弘ぐらいしか知らないけど。

 同じく「サブジャンル別ベスト10&総括」はAI花盛りで、やはりポール・シャーレ「無人の兵団」は読みたい。あとサイモン・ウィンチェスター「精密への果てしなき道」も面白そう。

 「SFコミック」では、「電子書籍のコミックス販売額が紙のそれを上回ったのが2017年」に驚いた。コミックスじゃ、とっくに紙が追い越されてたのか。若い人ほど電子書籍に抵抗がなく、そのため読者層が若いコミックスは動きが先行してる、とかかな? 麦原遼「逆数宇宙」も読みたいし、そろそろ私も考える時がきたのか。

 「このSFを読んでほしい!」。早川書房はやはりピーター・トライアスが出るんですね。期待してます。アトリエ・サードのアルジス・バドリス「無頼の月」は2017年版から予告が続いているような気が…

 「2020年のわたし」。上田早由里のオーシャン・クロニクルには期待してます。高島雄哉「エンタングル:ガール2」ってマジかい!本当ならいいなあ。藤井太洋「マン・カインド」、やっぱり終盤なんだ。海外短編のアンソロジーを編んでくれたら嬉しいけど、新作小説も読みたいし、分身の術を会得するかマシンに精神をアップロードするかして欲しい。

 「2010年代ベストSF30」。チャイナ・ミエヴィルは「都市と都市」「言語都市」どっちが好き? 私は「言語都市」。だってエイリアンが出てくるし。

 「2010年代総括座談会 アイデンティティと多様性の時代に」鏡明×大森望×橋本輝幸。やっぱ「皆勤の徒」の翻訳って無理っぽいと思うよね。ピーター・ワッツに対し「こういう先鋭的でがんばってるSFはやっぱり入れておかないと」って、はい、全くその通り。小野不由美「白銀の墟 玄の月」を「1・2巻で完結だと思ってた」って、そりゃ唖然としただろうなあw 小川一水「天冥の標」を「SFの全体像」ってのは、言えてる。いやまだ最終巻を読んでないけど。SFの美味しい所を全部ブチ込みました、的な雰囲気があるよね。 

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2020年2月 3日 (月)

SFマガジン2020年2月号

『ジャムはまだ勝ててないよ、ジャック。おれたちがいる』
  ――神林長平「哲学的な死 前編 戦闘妖精・雪風 第4部」

「探しているというか、うん……まあ、いつか見つかったらいいなくらいに思っているんだけどね」
  ――高野史緒「本の泉 泉の本」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「創刊60周年記念号」として、記念エッセイ60本一挙掲載。

 小説は10本。

 連載は7本、うち新連載2本。新連載は神林長平「哲学的な死 前編 戦闘妖精・雪風 第4部」と飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」。他に椎名誠のニュートラル・コーナー「すすり泣く雨、くねり泣く川」,夢枕獏「小角の城」第57回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第28回,藤井太洋「マン・カインド」第10回,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第10話 笑顔のゆくえ」。

 読み切りは3本。劉慈欣「三体Ⅱ 黒暗森林 プロローグ」大森望・立原透耶訳,高野史緒「本の泉 泉の本」,グレッグ・イーガン「故郷へのまわり道」山岸真訳。

 神林長平「哲学的な死 前編 戦闘妖精・雪風 第4部」。フェアリイ基地への総攻撃を経て、寄生したロンバート大佐と共に、<通路>を抜けてジャムが地球の南極に到達した。基地へと戻った深井大尉は、滑走路の様子に違和感をおぼえる。地上に動くものがなく、残骸も含め敵味方の機体も見えず、管制の応答もなく、戦術データリンクも切れている。

 待ってましたその1。今思えば、戦術データリンクってF-22やF-35が実現したアレだよね。ジャム・雪風・深井零それぞれの、世界観の違いとコミュニケーションの難しさにフォーカスが当たった第3部を受け、今回も雪風と深井零が手さぐりでコミュニケーションを試みてゆく。言葉が通じず、動作によって意思疎通を図るって点では、雪風って犬や猫に似てるなあ。零との関係を考えると、犬より猫だよね。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」。昭和52年の春、山陰の青野市。進学校である県立啄星高校に、二年の転校生が来た。印南棗。端正で洗練された雰囲気の女生徒だ。かつて青野氏に住み、久しぶりに戻ってきたらしい。印南と最初にあいさつしたのは三人、同じ二年の小野寺早都子と児玉佐知と志野原季子。その児玉は何か悩みがあるようで…

 待ってましたその2。オジサンには携帯電話もインターネットもない1977年の風景が懐かしい。首都圏には「ぴあ」があったが、それでも映画の上映情報を得るのは難しかった。映像メディアもデジタル化しておらずフィルムなので、珍しい映画は自主上映会などを漁るか、テレビの放映を待つしかなかった。などと遠い目をしていると、次第にアレなナニが侵入してきて…

 劉慈欣「三体Ⅱ 黒暗森林 プロローグ」大森望・立原透耶訳。2015年のヒューゴー賞長編小説部門をかっさらい、世界中の話題をさらった作品の第2部のプロローグを掲載。冒頭は大頭蟻の視点ではじまる。ヒトとは立ち位置も感覚もスケールも全く異なった観点で描く、世界の変転と生存の戦略と世界観が、心地よいセンス・オブ・ワンダーを生み出している。ちょっと「」を思い出した。あれの冒頭も凄かった。

 グレッグ・イーガン「故郷へのまわり道」山岸真訳。近未来。アイシャとジャンニのカップルは、旅行会社の抽選で月への旅行が当たった。厳しい訓練を経て、二人は月の<中央基地>へを訪れる。優れた専門家に案内され、水耕作物工場や太陽熱製錬所、そしてモラヴェック・スカイフックなどの見学を楽しむ二人だが…

 宇宙へ行く教師って、思わずスペースシャトル・チャレンジャーの事故(→Wikipedia)を思い出してしまう。実際、アイシャも通信ラグに悩みつつも生徒たちに遠隔授業したり。幸い、アイシャは無事に月にたどり着くのだが、扉絵で分かるように思いのほか長く滞在する羽目に。そういや月も自転してるんだよね。公転周期と同じだから、地球から見ると自転してないように見えるだけで。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第28回。<誓約の銃>のマクスウェルが、<白い要塞>を襲う。<シザース>の洗い出しが終わっているはずだ、一覧を寄越せ、と。特にベンヴォリオ・クォーツが候補に挙がっている事に、クインテットのメンバーも驚く。それを聞いたマクスウェルは、独自に突っ走り始める。

 足を洗ったとはいえ、荒事になると血が騒ぐアビーにニヤリとする。それ以上に今回は、レイ・ヒューズ老が美味しい所をガッポりさらってゆく。しかもガンマンだってのに、全く銃を抜かずにw 私は50~60代ぐらいのクリント・イーストウッドを思い浮かべながら読んだ。登場した時からタダ者じゃないと思っていたが、やっぱり。

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第10話 笑顔のゆくえ」。<アフロディーテ>開設50周年イベントの記録係として、銀塩写真家のジョルジュ・ペダンが候補に挙がった。しかしジョルジュは浮かない顔だ。「笑顔の写真」が彼の代表作とされる。そこに何か秘密があるようだ。ジョルジュの相手を任された健は、なんとか彼の心を解きほぐそうとするが…

 テクノロジーと人間の関わりを描くのが巧みな著者、今回も見事にカマしてくれた。銀塩写真って所に仕掛けがあるな、と思ったら、まあそうなんだけど、更にいくつかヒネリが入ってた。加えて、もう一つ最近の流行りの技術を取り上げつつも、ちゃんと歴史的な議論を踏まえた上で、著者らしい味付けを施すのも忘れていない。読みやすいながらも、実は濃いSFガジェットをしこたま仕込んである。

 高野史緒「本の泉 泉の本」。四郎と隆彦は、古本屋を漁る。四郎が最初に確保したのは、尾田利恵の唯一の詩集。その裏の書棚は、探偵小説が並んでいる。

 旅行に行っても旅先の古本屋に飛び込むような人には、「うんうん、そうなんだよな~」な情景が次々と描かれていて、それだけでお腹いっぱいになってしまう愛すべき作品。出版社の自主規制も時代と共に変わるので、昔の本はそういう所も面白かったりする。うんうん、あるよね、積極的に探すワケじゃないいけど、棚を漁って見つかったら儲けもの、みたいな本。ダブって買っちゃうのも、よくある。

 藤井太洋「マン・カインド」第10回。佳境に入った上に頁数も少ないので、内容は紹介しずらい。「まるで人力じゃない」には笑ってしまった。Google も Amazon も、「桁違いの記憶・演算能力をコキ使っていかに自動化するか」を徹底的に追及してるし。にしても彼ら、一人でディープ・パープルを演奏できるんでない? でもビートルズは難しいんだよね、彼らコーラスが多いから。

 「創刊60周年記念号」記念エッセイ。うん、確かに小尾芙佐によるキャロル・エムシュウィラー「順応性」の訳は見事だった。今は手に入りにくいのが残念。なんであんな名作が。ぐぎぎ。「アルジャーノンに花束を」に泣いた人は、ぜひ読んでみよう。水鏡子の経済感覚と見栄の変化が、とても他人事とは思えないw 山田正紀の「恥ずかしい思い出」も傑作。もっとユーモア作品も書いてほしいw スタニスラフ・レムからスタニスワフ・レムに変わったのは、ロシア語からポーランド語に変わったからなのね。森優の「SFを手掛ける出版社は必ず潰れる」なんて時代から、今はいい時代になったなあ。伴名練の「他人が編むアンソロジーの目次が見たい」、よくわかる。もうすぐ出る「SFが読みたい!2020年版」の「マイ・ベストSF5」は、そういう面白さがあるのだ。

 SFの射程距離 第2回 「歩行に魅せられて」として、ゲストは産業技術総合研究所上級主任研究員の梶田秀司。二足歩行ロボットの研究・開発に携わり、HRP-4C(→Wikipedia)などを担当している人。実は歩くって難しいってのは昔から言われてたけど、服を着るってのも、確かに難しそうだなあ。フランス人研究員が多い理由にも大笑い。あと軽量化の専門家って、確かに彼らはノウハウを沢山持ってそう。

 「Sai-Fi:Science and Fiction SFの想像力×科学技術」。劉慈欣の中国SF事情がやたら興味深い。「SFの冬は何度も来ました」「映画化の権利の価格が2010年から今に至るまで、百~百五十倍ぐらいに増えています」も衝撃だが、「中国では中学生・高校生・大学生がSFを読んでいます」も重大。1985年あたりの日本のゲーム市場みたいな状況にあるのだ。とすると、今後の市場は凄い勢いで伸びるはず。まあ、大きな政変がなければ、だけど。これはSFに限らず、流行歌など若者向けの市場全般に言える。たぶん映画や音楽も中国市場が大きな力を持つだろう。

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2019年10月31日 (木)

SFマガジン2019年12月号

「ここには自分の場所なんてないのよ」
  ――ブルース・スターリング「巣」小川隆訳

「統和機構って、何だと思う?」
  ――上遠野浩平「総裁人間は計算しない」

「聞いてないか? 昨日は史上初めて死者がゼロだったんだ」
  ――ピーター・トライアス「死亡猶予」中原尚哉訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は三つ。「テッド・チャン『息吹』刊行記念特集」、「第七回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表」、「小川隆追悼」。

 小説は13本。

 特集で5本。「第七回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表」で優秀章と特別賞の二本の冒頭、春暮康一「オーラリメイカー」と葉月十夏「天象の檻」。「小川隆追悼」でブルース・スターリング「巣」小川隆訳。「テッド・チャン『息吹』刊行記念特集」で「オムファロス」大森望訳,「2059年なのに、金持ちの子にはやっぱり勝てない DNAをいじっても問題は解決しない」大森望訳。

 連載は4本。椎名誠のニュートラル・コーナー「ズリズリをケトン膜で抽出した断剥種」,夢枕獏「小角の城」第56回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第27回,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第9話 笑顔の写真」。

 加えて読み切りが4本。ジーン・ウルフ「金色の都、遠くに在りて」後編 酒井昭伸訳,草上仁「嘘の藁」,上遠野浩平「総裁人間は計算しない」,ピーター・トライアス「死亡猶予」中原尚哉訳。

 春暮康一「オーラリメイカー」。遠未来。恒星系アリスタルコスは異様だった。九つの惑星のうち四つは、公転面が60度以上も傾斜しており、質量は水星程度、しかも極端な楕円軌道で近日点と遠日点が他の惑星の軌道すれすれを通る。この不自然な星系は意図的に作られたと考え、製作者を仮に星系儀製作者、オーラリメイカーと名づけ、≪連合≫加盟種族のうち五種族が共同で探査に赴く。

 オラフ・ステープルドンをベースに小松左京でダシを取りアーサー・C・クラークで和えデビッド・ブリンを添えたような、骨太で本格的な直球のSF。バラエティに富む五種族は知性化シリーズを、牙の場面はあの傑作カルトSF映画を、災厄が迫るあたりは小松左京を、そして稀有壮大な設定とタイトルからはオラフ・ステープルドンを思わせる。こういうのは大好きだ。早く続きが読みたい。

 葉月十夏「天象の檻」。まもなくシャサは十五歳、成年の儀式を迎える。しかし彼女がアタの場から出かけているうちに、集落が襲われ、皆殺しになった。戻ってきたシャサが見つけたのは、同じくらいの年頃の少年ナギ。襲撃者ではないらしい。山の北、『暁』の者だという。二人で弔いを済ませたとき、老若男女が入り混じった大勢の者が近寄ってきた。

 先の「オーラリメイカー」とは対照的に、古代の山がちな土地を舞台とした本格的なハイ・ファンタジイ。『暁』『蛇』『銀鱗』『巡礼団』などの部族、アタの場、識界、神人イナーなどの大きな仕掛けも魅力的だが、腰帯の文様など細かい所の作り込みも、力強く世界観を支えている。と同時に、冒頭から危機また危機が続くお話作りも巧い。

 ブルース・スターリング「巣」小川隆訳。<投資者>の手引きで、<工作者>のサイモン・アフリール大尉博士は<群体>の<巣>に潜り込む。そこは小惑星の内部だ。<群体>は宇宙に進出してはいるが、道具もテクノロジーも持たない。何より、宇宙にでた種族としては唯一、基本的に知性を持たない種族なのだ。

 看板の<機械主義者>vs<工作者>シリーズの一つ。メカを信奉する機械主義者、生体改造を進める工作者。この作品では工作者が主役を務め、異星人<群体>の巣に潜入する。この巣の中の描写が、なんともおぞましい。生態はアリみたいなんだが、それぞれの個体は地虫みたいな雰囲気ながらバラエティに富んでいて…。覚悟して読もう。

 ジーン・ウルフ「金色の都、遠くに在りて」後編 酒井昭伸訳。夢の中では山脈を目指し旅を続けるビル。現実世界のビルは憧れのスー・サムナーとの関係は深まり、フットボールでは一年生ながらラインバッカーのポジションをかちとり、ダイナおばさんは若く美しくなる。

 ますます異世界転生物の俺Tuee設定っぽい展開で、「え、ジーン・ウルフって、こういうの?」とか思ってたら、終盤で更に意味不明な方向に。すんません、誰か解説してください…って、直後に訳者の酒井昭伸の解説があるけど、やっぱりわからなかった。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「ズリズリをケトン膜で抽出した断剥種」。異様な惑星に残ったナグルスと市倉は、そこにあった総合研究所を訪れ、そこに滞在することにした。ベドレイエフ博士に差配人手伝いのランプを紹介され、彼に部屋へ案内される。ランプが言うには、人の出入りが多いとのことだが、ここを出てどこに行くというのか。

 ランプは頭のてっぺんに光る電球がついているし、市倉の隣の部屋の者はひっきりなしに大きな声で喋っている。おまけにこの星の名前はインデギルカ。異様な星に異様な施設、そして異様な奴ら。まあ、もともと、ラクダの胎内で旅をする男なんて異様な設定で始まった話だけど、果たしてお話はどこに向かうのか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第27回。一時的に<クインテット>を率いるバジルは、バロットとの戦闘からいったん撤退を始める。あわてて逃げるのではなく、傷つき動けぬ者を回収しながらの組織だった撤退だ。だが戦闘は終わらない。ストーンとアビーに合流したバロットに、次は<クインテット>に代わり<誓約の銃>が襲い掛かる。

 登場人物一覧にボイルドの名があると、今でもドキリとする。<誓約の銃>はただの銃器ヲタクかと思いきや、やはりいましたエンハンサー。いいなあポリポッド。流行ってるレストランのランチタイムで働いたら引く手あまただぞ←違う 次のビートルは、まあ、なんというか、仮面ライダーV3あたりに出てきそうな。体勢的に射線は安定しそうな感じだけど。

 上遠野浩平「総裁人間は計算しない」。川沿いの繁華街で飲みながら語る三人。交換人間のミナト・ローバイは明るく喋りまくり、つまらなそうに受け答えするのは監査部門のギノルタ・エージ,そして時おりミナトに絡まれては言葉に詰まるギノルタの部下デューポイント。話題は、製造人間ウトセラ・ムビョウに始まり、憎悪人間カーボンへの統和機構からの脱走へと移り…

 陰険な奴ばかりが出てくるこのシリーズ、上の三人のうち誰かとサシで飲む羽目になったら、誰がいいかと考えたら、うーん。ミナトなら話は弾む、というか勝手にいろいろ喋ってくれそうだが、何を巻き上げられるかわかりゃしない。ギノルタ相手じゃ何を話しても尻つぼみで終わりそうだ。デューポイントなら上司の愚痴で盛り上がれるかもw

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第9話 笑顔の写真」。<アフロディーテ>開設50周年企画の一つとして、ティティが企画をネジ込んできた。記録係の一人にジョルジュ・ペタンを採用しろ、と。銀塩写真にこだわる48歳のジョルジュは「笑顔の写真家」と呼ばれ、世界各地の人びとの笑顔を写真に収めてきた。代表作「太陽の光」はチリのマプチェ族の幼い男の子を撮ったもの。だが、今のジョルジュの表情は…

 今回は前後編の前編のみ。お騒がせキャラクターのティティ、今回は軽い顔見せだけ。まあ面倒を持ち込んでは尻拭いを健に任せるあたりが、ティティらしいというか。冒頭から美術品闇取引やらクラッキングやらはぐれAIやらと物騒なネタや、「太陽の光」にまつわる怪しげなクレームなど、伏線バリバリ。にしても銀塩写真とは、面白いネタを見つけてきたなあ。

 草上仁「嘘の藁」。4頁のショートショート。校内のいじめが原因とみられる、少年の自殺事件。少年の父親、学校の教師、いじめの加害者、少年にプリントを届けに行ったクラスメート、それぞれの証言はみな食い違い…。

 テッド・チャン「オムファロス」大森望訳。考古学者のドロシーア・モレルは、講演会でシカゴーを訪れる。そこでいとこのローズマリーから妙な話を聞いた。博物館のギフトショップで、原始のアワビの貝殻を買った、と。今のところ、原始のアワビの貝殻が発見されたのは一か所しかない。

 書き出しの「主よ」や「シカゴー」「モンゴリア」で「おや?」と思わせつつ、樹木の交差年代決定法や貝殻の成長輪など、至極まっとうな考古学の手法で安心させた後で、「どひゃあ!」な世界観をサラリと示す。が、この作品じゃ、それすら前菜なのが凄い。ある意味、科学は私たち人間を特権的な地位から「ありがちな生命現象」に引きずりおろし続けてきたんだよね。

 同じくテッド・チャン「2059年なのに、金持ちの子にはやっぱり勝てない DNAをいじっても問題は解決しない」大森望訳。3頁の掌編。遺伝子平等化プロジェクト。遺伝子技術は発達したが、知力強化など高価な遺伝子操作は低所得層には手が届かない。そこで低所得層500組の子どもに知力強化を提供したが…

 荻生田文科省大臣の「身の丈」発言が話題になっている現在の日本にとっては、あまりにタイミングが良すぎる作品。最近のノーベル賞といい、もしかしたら早川書房はタイムマシンを隠し持ってるんじゃないかと疑いたくなる。短いわりに中身はズッシリと重い作品。

 ピーター・トライアス「死亡猶予」中原尚哉訳。バイロン・デュウェイはポータリストだ。黄泉ポータルで次元断層が発生し、現実で赤が消えた。次元断層を閉じるため三日三晩の連続勤務をこなしたバイロンは、友人のビビアンを引き取るため警察に行く。ビビアンはタチの悪いヒモに食いつかれているが、別れる気はないようだ。帰り際、交通事故を見た。負傷者は体が真っ二つなのに生きている。

 書きたてでまたインクが渇いていないホカホカの原稿みたいな感触の作品。いやきっと著者も訳者も手書きじゃないだろうけど。ビビアンは日本でいう地下アイドルっぽい。これも Youtuber みたく過激化してるあたりが、著者らしい。さて、人が死ななくなったら、どうなるか。いや確かにそうなんだけど、巧いわw

 新連載「SFの射程距離」、第1回は「思考のストッパーを外せ」として東京大学大学院情報学環教授の暦本純一。AI研究者にインタビューし、SF作品が現実の科学研究に与えた影響を探る企画。やっぱりSFを読んでる研究者って多いんだなあ。言われてみるとHAL9000の人型でない人工知能って発想は斬新だった。「現実世界が沈没しているときに“沈没した小説”は書けない」って、確かにね。

 柿崎憲「SFファンに贈るWEB小説ガイド」第10回「来る!悪役令嬢ブーム!」。悪役令嬢って言葉は見かけるけど、何なのか分からなかったが、そうだったのか。ってんで「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」を読み始めたら、これヤベェわ。一気にハマって数時間トリップしてしまった。

 東茅子「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」、今回は「今年の受賞作・注目作総まとめ」。キャサリン・M。バレンテ「スペースオペラ」が、すんごい面白そう。作品名がジャック・ヴァンスのアレとカブってるだけじゃなく、内容もちょいアレだし。私としては主人公?デシベル・ジョーンズにジョー・ウォルシュあたりを充てて楽しみたい。

 なんと次号から神林長平の雪風シリーズと飛浩隆の廃園の天使シリーズが連載開始だあああぁぁぁっっっ!!!

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2019年9月 1日 (日)

SFマガジン2019年10月号

137機動旅団には、伝統ともいえる不文律があった。どれほど過酷な戦闘であっても、決して非戦闘員を傷つけてはならない。
  ――谷甲州「137機動旅団 新・航空宇宙軍史」

あそこへいかなきゃ。なぜかはわからないが、あの都に行かなきゃ。あそこにたどりつきさえすれば、それ以外のことはもうどうでもいい。
  ――ジーン・ウルフ「金色の都、遠くに在りて」酒井昭伸訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は三つ。メインは「神林長平デビュー40周年記念特集」、次いで「ジーン・ウルフ追悼特集」。特集とは言ってないけど「なめらかな世界と、その敵」刊行記念は伴名練の小特集と言っていいよね。

 小説は8本。

 まず「神林長平デビュー40周年記念特集」で短編「鮮やかな賭け」。「ジーン・ウルフ追悼特集」は4本、「ユニコーンが愛した女」柳下毅一郎訳,「浜辺のキャビン」村上博基訳,「太陽を釣り針にかけた少年」中村融訳,「金色の都、遠くに在りて 前編」酒井昭伸訳。

 連載は2本。椎名誠のニュートラル・コーナー「みんなかたぶつばかり」,夢枕獏「小角の城」第55回。

 そして読み切りが凄い。なんと谷甲州「134機動旅団 新・航空宇宙軍史」450枚を一挙掲載だ。

 まず神林長平「鮮やかな賭け」。わたしの許嫁は、ろくでもない男だ。見かけだけはいいが、何も考えてない。村の女には人気があるせいで、わたしは妬まれてしまう。その許嫁が変な賭けを持ち出した。「ぼくが丸一日、女と口をきかないでいられるかどうか」。受けたのはいいが、あの男が負けを認めるとは思えない。そこでオバアに相談に行ったが…

 最初は、文明化以前か、または文明崩壊後らしき舞台で、若いカップルのいさかいで話が始まる。が、オバアが登場するあたりで、色々とあやしくなってきた。以後、読者が思い込んでいた舞台設定はコロコロと裏切られ…。デビュー当時、P. K. ディックとよく比べられた著者らしく、オマージュも散りばめて、短い中に芸をギュッと詰めこんだ作品。

「ジーン・ウルフ追悼特集」の最初は「ユニコーンが愛した女」柳下毅一郎訳。遺伝子操作で作られたユニコーンが、大学のキャンパスに逃げ出した。遅れたら軍隊に射ち殺されてしまう。なんとか無事に逃がそうと、教授のアンダーソンとデュモンは急ぐ。学生たちがユニコーンを取り囲む中、一人の女生徒が飛び出し…

 そうか、ユニコーンも眼鏡っ娘が好きなのか←そうじゃない こういう幻獣を扱った話は、ラリイ・ニーヴンのシリーズもあったなあ。あれとは違って、本作はテクノロジーが生み出した生物。途中でアンダーソンが語る、ユニコーンの由来が楽しい。

 続いて「浜辺のキャビン」村上博基訳。ティモシーの父ライアンは、アイルランドから来た。今は政治家として成功している。息子のティモシーは、恋人のリッシーと浜辺のコテージでくつろいでいる。その日、ティモシーは船を見た気がした。マスト徒と帆、そして煙突を備えている。そして次の朝…

 アイルランド出身、七番目の息子、そして名前がティモシー・ジュニア。それぞれ深い意味がありそうなんだけど、私にはよくわからない。とまれ、最後のオチは鮮やかで、ちょっとフレドリック・ブラウンなど50年代のSF短編の香りがする。

 「太陽を釣り針にかけた少年」中村融訳。3頁の掌編。アトランティスの浜辺。若く愚かだった太陽は、少年の投げた餌に食いついてしまった。太陽は暴れ、または死んだふりをして逃れようとするが、少年は釣り竿を巧みに操って、太陽を逃がさない。

 馬鹿話のような、童話のような、または異国の民話のような。

 「金色の都、遠くに在りて 前編」酒井昭伸訳。ウィリアムは高校生。このところ、いつも同じ夢を見る。砂浜にいて、遠い山のむこうに美しい都がある。さまざまな高さの数かぎりない金の塔がそびえたち、色とりどりの旗が翻っている。そこに向かってウィリアムは歩き始める。いくつかの砂丘を越え入り江にさしかかったとき、金のリンゴを持つ裸の若く美しい娘に出会い…

 夢の中で裸の美少女や毛の長い犬に出会うティモシーは、それをノートに書き留めてゆく。やがて現実でも憧れの娘スーと仲良くなり、なんて展開は、最近流行りの異世界転生物を思わせる展開。金のリンゴを持つ美少女は見当がついたけど、ソコに冷静に突っ込むんかいw

 谷甲州「137機動旅団 新・航空宇宙軍史」。惑星ジャヌーは、多くの国が争っている。そこに地球系の住民が大挙して移住し、少数派ながらも支配権を握り、技術レベルも20世紀後半程度に凍結した。これに不満を抱いた原住民は武力で蜂起する。

 これを抑えるため、航空宇宙軍は137機動旅団を投入した。陸戦隊では最強と言われる部隊だ。中でも矢沢少尉が率いる偵察大隊は、最も危険で厳しい役割を受け持つ。先陣として敵の拠点に強行着陸し、橋頭保を確立し本体到着まで維持する。また敵の情報が不足している際は、強引に攻撃することで敵の出方を窺う場合もある。今回の目的は、ジャヌー上の軍事大国ドムジェの国家防衛軍を制圧すること。

 大気圏に突入し、着陸予定地点に向かう輸送機は、猛攻撃を受け…

 文句なしの長編を一挙に掲載だ。太っ腹だなあ。軌道上から急襲し、「アーマー」で暴れまわる偵察大隊は、ハインラインの名作「宇宙の戦士」とタブる。役割も似たようなものだ。ただし、「宇宙の戦士」の軌道歩兵は、一発食らわしてすぐ引きあげるのに対し、今作の偵137機動旅団は敵地を占領するまで居座るのが違う。この差は大きい。

 元は1979年発表の短編だから、ベトナム戦争を意識した作品だろう。しかし、作品の衝撃は全く衰えていない、どころか更に鋭さを増している。悲しい話だ。現代だと、イラクやアフガニスタンを思い浮かべながら読むといい。兵器の性能でも将兵の練度でも、米軍は圧倒的な優位だ。にも関わらず、いつまでたっても平定できない。そんな米軍の姿が、137機動旅団の姿に重なって見えてくる。

 これは偵察大隊の職務にも表れている。強行着陸&橋頭保維持はともかく、問題は威力偵察だ。その目的は、敵のドクトリンのデータを集めること。

 これがいかに馬鹿げた話か。

 ドクトリンのデータを集めるとは、突き詰めれば相手の考え方を理解するって事だ。相手が何を考えているかわからない、だからとりあえずブン殴って様子を見る。偵察大隊の職務は、そういう事だ。愚かにもほどがあるが、実際にイラクやアフガニスタンで USA はそういう真似をやらかしている。詳しくは「ブラックフラッグス」や「アメリカの卑劣な戦争」をどうぞ。

 などの重く苦しい主題は置いて。それ以外は全編が戦闘シーンと言っていいぐらいの、派手な爆発炎上の連続だ。しかも、キッチリと現代の軍事技術を取り込んでいる。冒頭の対空防衛網のあたりは、「エア・パワーの時代」の予言そのもの。戦い方によっては航空戦力があまり頼りにならないのは、シリア内戦が証明している。

 陸上の戦闘でも、圧倒的なテクノロジーと火力を誇る偵察大隊が、ヒヤヒヤする場面の連続だ。ハイテクの塊「アーマー」を着ていても、通信が切れると途端に強い不安に襲われる。こういう場面では、戦場で絆が培われる理由がわかる気がする。隣に戦友が居る、それだけで随分と心強くなるのだ。

 今までのSFは、原住民の視点で描かれることが多かった。それを敢えて航空宇宙軍の視点で描くことで、ただでさえ重厚なテーマが更に息苦しさを増している。CNN が映す砲火の下で、何が起きているのか。それを私たちに見せつける、衝撃の作品だ。

 最後に、どうでもいい話だが。

 SFマガジンの文字数がどれぐらいか、計算が面倒臭いので今まであまり考えなかった。が、今回の谷甲州「134機動旅団 新・航空宇宙軍史」で、大雑把に見当がついた。この作品、約110頁を占めてる。450枚で110頁なら、1頁あたり約4.1枚だ。挿絵や広告が入ってるし、記事によってレイアウトも違うから、かなりの誤差が出る。それでも、376頁なら1,542枚で、文庫本なら上中下の三冊分ぐらいの文字数、と計算できた。いや「それが何の役に立つのか」と聞かれたら答えられないけどw

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2019年7月 8日 (月)

SFマガジン2019年8月号

「ぼくの掲げる理念はつねに、すべての人が自分らしく生きて、自分の信じる価値を追求することだ」
  ――宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳

「このに入るときに銃を取り上げないのは、どのみちエンハンサーから能力を取り上げることはできないからだ」
  ――冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回

里見:そこはゆるく考えましょう。『ウテナ』の百合は、SFでいうとグレッグ・イーガンのようなものですよ。
溝口:『けいおん!』の百合はケン・リュウのようなものですね。
  ――イベント採録:SF雑談4 世界の合言葉は百合
    堺三保/里見哲郎/宮澤伊織/梅澤佳奈子(コミック百合姫編集長)/溝口力丸(本誌編集部)

 376頁の標準サイズ。

 特集は二つ。メインは「『三体』と中国SF」。次いで「『ガールズ&パンツァー』と戦車SFⅡ」。

 小説は13本。まず特集「『三体』と中国SF」として4本、王晋康「天図」上原かおり訳,何夕「たゆたう生」及川茜訳,趙海虹「南島の星空」立原透耶訳,宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳。次いで特集「『ガールズ&パンツァー』と戦車SFⅡ」でティモシー・J・ゴーン「子連れ戦車」酒井昭伸訳。

 連載は4本。椎名誠のニュートラル・コーナー「景気のいいチビ惑星の安売り火山」,冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回,藤井太洋「マン・カインド」第9回,夢枕獏「小角の城」第54回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第8話 にせもの」,上遠野浩平「変身人間は裏切らない」,草上仁「エアーマン」,小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」冒頭。

 まず特集「『三体』と中国SF」。

 王晋康「天図」上原かおり訳。重度の自閉症である16歳の少年、張元一が心血を注いで描いたという「天図」。何かはわからないが、科学に関係しているかもしれない。いくつかの分野の数十人の科学者に問い合わせたが、返事が来たのは沈世傲のみ。若いながらも高い評価を得た科学者で、囲碁の愛好者だ。時間をかけて調べてみたいと言う。

 中国だと AlphaGo は阿法狗になるのか、なんて変なことに感心しつつ。そんなAIの進歩に棋士たちが抱える想いを足掛かりに、優れた才能を持ちつつも重い障害を抱える少年と、少年に細やかな愛情を注ぐ祖父の姿を描いてゆく。主人公らの動きは日本だと公私混同とも言われかねないが、こういう軽快なフットワークが中国の躍進を支えているのかも、などと思ったり。

 何夕「たゆたう生」及川茜訳。現在、灰灰は負のエントロピーを有する正の世界にいる。エネルギーの身体は、光の速度で動ける。鶯鶯の父・敖敖は、二百年にわたり実験を続けた末に鶯鶯を目覚めさせ、鶯鶯の身体を物質から解放した。今、鶯鶯は負の世界にいる。こちらのプランク定数は負の値だ。

 エントロピーだのプランク定数だのと使われている言葉はグレッグ・イーガンっぽいが、そこに描くビジョンはむしろバリトン・J・ベイリーのような気がする。つまりクレイジーながらも壮大なのだ。負のプランク定数なんて発想からして、やたらクラクラしてくる。終盤に出てくるブラウンワームも「そのブラウンかい!」と見事にしてやられた。

 趙海虹「南島の星空」立原透耶訳。平安市はスモッグに苦しんでいた。それを避けるため、二十個のドーム環境・珍珠城を作り上げる。これは人を二つに分けた。珍珠に住む資格のある者と、資格のない者。天体観測者の啓明と、環境保護業務に携わる天琴の夫婦も。天琴は十歳の娘・小鴿を連れ、珍珠に移る。スモッグのため天体観測は難しくなっていたが、啓明は自分の道を諦められなかった。

 今でも中国では信用スコアが浸透している。この作品でも、珍珠の居住資格は順位をつけてリスト化している。こうやって人の優劣を基準に沿ってハッキリさせちゃうのは、科挙の影響なんだろうか。冷酷で残酷ではあるけど平等で合理的でもあるんだよね。少なくともタテマエでは。そんな社会でも、人は足掻くのだ。短いながらも、しっとりした気持ちになる作品。

 宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳。感覚までもリアルタイムで共有できる感覚配信。チャールズ・マンは、その感覚配信のスターだ。航空艇<ペガスス>号を駆るパイロットであり、作家でもある。彼のファンは世界中で億を超える。今日、チャールズは太平洋横断選手権のため、アメリカから東京へ向かっていた。

 蒼井みやび(蒼井そら)はともかく朝倉南って、をいw それぞれモデルに沿った役柄なのも、よくわかってらっしゃる。リアルタイム配信のスターだけに、街中でファンと出会う場面も、よくできてるw 感覚の配信でどんなのが人気になるかというと、アレは当然として、やっぱりスポーツなんだろうか。

 立原透耶「『三体』のその後」。やはりヒューゴー賞受賞の影響は、中国国内でも大きかったようで、それまで「子供の読み物」だったSFが、純文学誌や新聞にも載るようになったとか。おまけに企業はもちろん政府まで国内外で支援してるというから羨ましい。

 陸秋槎「傷痕文学からワイドスクリーン・バロックへ」。「傷痕文学とは、文化大革命を経験した作家たちが時代の傷痕を描いた作品群」って、今の中国はソコまで書けるのか。なんか印象が大きく変わるなあ。「≪三体≫以外のSFをあまり読んだことがない『自称』SFファンも少なくない」って所で苦笑い。日本でも「日本沈没」が当たった頃はそんな感じだったかも。あ、でも、ゴジラがあったか。

 大森望の新SF観光局 第68回 『三体』こぼれ話。特集には入ってないけど、内容的に特集の続きみたいなもん。「中国語できないのに中国SFを中国語から訳す仕事」って、どうやるんだw

 特集「『三体』と中国SF」はここまで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「景気のいいチビ惑星の安売り火山」。奇妙な惑星を発見したニュースは、インデギルカ号に大騒ぎを引き起こす。興奮した乗客たちの勢いに押され、艦長は惑星への往復シャトル運航を決定する。ナグルスと市倉は現地滞在スタッフとなり、チコはシャトルの運航に携わる羽目になった。

 今回は、かなり急いで原稿を書いた雰囲気がある。インデギルカ号って、実はやたら大きな世代交代宇宙船だったのね。「しめつけツナギ」「宇宙おむつ」なんて命名が、微妙にマヌケで、いかにもシーナなセンスだ。

 冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回。ハンターは街の裏を仕切る面々を集め、協力を呼びかけようとする。だが<誓約の銃>の代表マクスウェルは、ケイトら<戦魔女>を挑発し、場を荒らしにかかる。バジルがなんとか騒ぎを抑えた後に、ハンターは会合の目的を、そして自らの目標を打ち明け…

 前半では、一触即発の緊張感あふれる悪党どもの会合の場面。みんな悪党だけあって、スキあらば美味しい立場を奪おうと誰もが狙っている。そんな油断ならない連中ばかりの組織を、ナンバー2としてまとめなきゃいけないバジル君の苦労が、ヒシヒシと伝わってくる。後半はバロット視点に移り、雰囲気もガラリを変わって…

 上遠野浩平「変身人間は裏切らない」。早朝、犬のモロボを連れて散歩するコノハ・ヒノオは、懐かしい顔を見た。ボンさんと呼ばれる老人だ。だが、何か違う。黙ってすれ違ったとき、老人から声を掛けられる。ヒノオが感じたとおり、別人だった。だが老人は別人と見破られたことに驚く。しかもフォルテッシモを恐れているらしい。

 「変装さん」はいいねえ。もちろん、統和機構の合成人間です。ブギーポップ・シリーズは外から見た統和機構を描くのに対し、このシリーズは合成人間の視点で統和機構の内幕を書いてるんだけど、やっぱりよくわからない。

 ティモシー・J・ゴーン「子連れ戦車」酒井昭伸訳。ケンタウルス座α星系の主惑星。人類はこの惑星をテラフォームしたが、やがて去った。現在、この惑星を管理しているのは、人類が作り出したロボットたちだ。電脳戦車の<古兵>は、ニュー・モールデン市へ急ぐ。<二倍幅>との子作りの許可が下りたのだ。

 人類なきあとも、その創作物たちは戦いを続けていた…って、バーサーカー・シリーズかよw マシンばかりの世界観が気持ちいい。マグマ級のスペックの馬鹿々々しさに大笑いw 戦車である必要はあるのかw その使い方も、まあ、なんというか。中盤に出てくる図書館の場面は、思わずため息が漏れそうな壮観。いいなあ、そんな図書館があったら、住みつきたい。

 小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」冒頭。ガス惑星ファット・ビーチ・ボールの主力産業は漁業だ。ただし漁場は海じゃないし、獲物も魚じゃない。漁場は惑星大気、獲物は昏魚。昏魚は大気の上層と中層のあいだを飛ぶ生物で、深層にある炭素・珪素に加え窒素・酸素・塩素なども含んでいる。普通、漁師は男女のペアで漁に出る。だがテラのパートナーは…

 百合アンソロジー『アステリズムに花束を』収録作品の冒頭のみを掲載。舞台は遠未来の異星系、木星みたいな巨大ガス惑星。そこで異星生物を狩る漁師が主人公って、どこが百合なのかと思ったら、ちゃんとそういう設定になっていたw しかも、自然環境だけでなく、テラたちが暮らす社会の構造まで作り込んでるから、そういう点でも美味しそうな作品。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第8話 にせもの」。アフロディーテ五十周年として、絵画・工芸部門は贋作展覧会を企画した。贋作と真正品を並べ、違いを比べるのだ。同じころ、問題が持ち上がった。<都会焼>の「片桐彫松竹梅」とそっくりの壺が古美術商で見つかったのだ。来歴も同じで、違うのはシールだけ。そのシールは…

 今回は美術品の贋作騒ぎに、ペテンを絡めた話。たしかに贋作展覧会は面白そうだなあ。古美術商ってのも胡散臭い業界で、素人が下手に手を出すと痛い目を見る世界みたいで、しかもソレを込みにして業界が成り立ってる風があるから油断できない。今回は兵頭健の「失言」と同じことを考えてしまった。

 藤井太洋「マン・カインド」第9回。チェリー・イグナシオやレイチェル、そしてトーマ・クヌート。彼らは人間離れした能力を持つ。その秘密を握るゼペット・ファルキ博士は、何者かに射ち殺された。そして、今なお「彼ら」と同じ子供たちが生まれている。チェリーたちは脱出を試みるが…

 そういえば藤井太洋はデビュー作 Gene Mapper でも遺伝子改造技術を扱ってたなあ。私ももちっと賢いイケメンで髪も豊かに生まれたかった…って、そうじゃない。難しそうなのは層下視で、これに対応できる脳を持つってのは、どんな気分なんだろう。今の私たちとは、まるっきり違う現実の中で生きてるんだろうなあ。

 草上仁「エアーマン」。稀代のエア・アーティストが亡くなった。エア・ギター、エア・相撲、エア・クッキング、エア・クラフト…。幾つもの分野で、彼は本物のように装うことができた。刑事も実はエア死ではないかと疑ったのだが…

 3頁のショートショート。エアーマンって、そういう意味かいw しかもオチが酷いw それはともかく、久しぶりに草上仁の短編集が出るのは嬉しい。まさかエア告知じゃないよね?

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