カテゴリー「書評:SF:小説以外」の130件の記事

2024年4月 7日 (日)

SFマガジン2024年4月号

まともな幽霊屋敷なら、少なくともひとつは秘密の部屋がある。
  ――ジョン・ウィズウェル「幽霊屋敷のオープンハウス」鯨井久志訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「BLとSF」として、小説5本に高河ゆんインタビューなど。

 小説は13本。特集「BLとSF」で5本、連載が5本、読み切り3本。

 特集「BLとSF」の5本。榎田尤利「聖域」,竹田人造「ラブラブ☆ラフトーク」,莫晨歓「監禁」楊墨秋訳,尾上与一「テセウスを殺す」,樋口美沙緒「一億年先にきみがいても」。

 連載の5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第12回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第52回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第22回,吉上亮「ヴェルト」第一部第四章,夢枕獏「小角の城」第74回。

  読み切り3本。ジョン・ウィズウェル「幽霊屋敷のオープンハウス」鯨井久志訳,ユキミ・オガワ「さいはての美術館」勝山海百合訳,草上仁「テーマ」。

 特集から。

 榎田尤利「聖域」。人類は暴力を撲滅した。自らの遺伝子を改造してまで。テオは人里離れた邸宅に一人で住んでいる。邸宅はLBを備えている。健康状態まで完璧にサポートするシステムだ。テオは、そのLB開発者の一人でもある。そんなテオの家に、一人の青年が訪ねてきた。

 テーマの一つはアシモフの三原則よろしくヒトを守る使命を負うAI/ロボットと、いささかアレな趣味のテオの葛藤…と思わせて、そうきたか。お話のアイデアもさることながら、冒頭部の靴擦れの描写が抜群に巧い。読んでて本を閉じたくなるぐらい、痛みが伝わってくる。ところがテオときたら。

 竹田人造「ラブラブ☆ラフトーク」。対話型個人推薦システムのラフトークは、生活上のたいていの選択で利用者の好みと利益に合う選択肢を教えてくれる。ネクタイの柄から朝食のメニューまで。タカナシこと小鳥遊もラフトークを使っている。ところが、そのラフトークの開発者で大金持ちのジャック・トーカーにしつこく求婚され…

 筆者お得意のAIドタバタもの。ラフトークの仕様が、やや天邪鬼な私にもピッタリな設定なのが嬉しいw いやここまで作りこまれると、逆に疑心暗鬼になりそうだけどw この手の物語に欠かせない、大金持ちの無駄遣いの波状攻撃が楽しい。

 莫晨歓「監禁」楊墨秋訳。俺は鎖につながれ、狭い部屋に閉じ込められている。どれほどの日時が過ぎたのか、それすらわからなくなってきた。ときどき、頭上の窓が開き、あいつが覗き込んでくる。けっこう美形だ。

 やたら「変態」を連呼するのが珍しい。中国の小説投稿サイトに掲載された作品。訳の楊墨秋による、中国のBL動向の解説が、たった1頁ながら、いや短いからこそ、簡潔にしてわかりやすい。欧米より中国の方が、日本のアニメや漫画の影響が大きいのは、なぜなんだろうね。

 尾上与一「テセウスを殺す」。ネットワーク上に散らばったデータから、人格らしきモノを再構成できるようになった時代。だが『意志』は肉体保持者のみのはずだった。にも拘わらず、他人の肉体を乗っ取る凶悪犯罪が増える。検察庁検務部執行事務局特殊執行群は、そんな犯罪者の確保・処刑を担う。レオはバディのデニスを失い、次のバディはデニスの恋人トーリが割り当てられた。

 雰囲気はアニメ「PSYCHO-PASS」や漫画「攻殻機動隊」を思わせる。執行群が使う高機動多用途装輪車両ライノや超荷重情報統合装置搭載銃アルテミスなどのガジェットが活きてる。終盤の展開は緊張感が溢れていて、思わず列車を乗り過ごすところだった。

 樋口美沙緒「一億年先にきみがいても」。人類が地球に住めなくなり、多くの星に移り住んだ未来。20歳のトーリな名もない星で、たった一人で住んでいる。父と祖父がいたが、15になるまでに亡くなった。トーリが楽しみにしているのはラジオ。

 オメガバース物。SFというよりメルヘンな感じ。なぜ・どんな歴史と経緯を経てオメガバースな世の中になったのか、その背景事情の説明が丁寧で楽しい。つまりは愛想つかされたんだよねw

 連載5本。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第22回。<多頭海>を舞台に、石化天使たち,ランゴーニ,その妻となったラーネアを巻き込んで、大きな異変が巻き起こる。映像化したら映える絵になるだろうけど、予算がとんでもないことになるだろうなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第52回。<クインテット>は、シルヴィアとラスティに続き、ベンヴェリオにまで異変が起きた。そのため、シルヴィアはベテランの始末屋<キラー・サブ>に狙われる。奴はいったん仕事を引き受けたら、誰とも連絡を取らず姿を消す。イースターズ・オフィスはシルヴィアを守るため思い切った手段に出る。

 バロット&ライムのじれったさと、シルヴィア&バジルの気恥ずかしさが対照的な回w とまれ、今回はシルヴィアがお話の中心となって、事態を次々に変えてゆく。バジル君、がんばれ。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第12回。情報分析室で関係者が集まる。ジャーナリストのリン・ジャクスン,日本海軍の丸子中尉,とりあえず今は日本空軍の田村大尉,そしてFAFのブッカー少佐,深井大尉,桂城少尉。ブッカー少佐が口火を切るが、すぐに丸子中尉と田村大尉の激論が火を噴き…

 マトモにやり合ったら、互いにカチ合うばかりの面子かと思いきや、桂城少尉が実に巧いこと互いの勢いを外しまくり、そういう点では意外な大活躍。いやあ、多角的な視点って、大事ですねw そして、最後に雪風の視点による爆弾が。

 吉上亮「ヴェルト」第一部第四章。ソクラテスは家族や友人たちと対話を交わした後、毒を呑んだ。その場にプラトンはいなかった。クセノフォンと共に船に乗り、海に出たのだ。そこでプラトンは異様なモノに出会う。

 これまではプラトンの視点で主にソクラテスとの対話を中心に話が進み、「どこがSFなのか?」と疑問を感じながら読んでいたが、やっとソレらしい仕掛けが出てきた。しかも、これまでの対話にちゃんと仕掛けが施してある。

  読み切り3本。

 ジョン・ウィズウェル「幽霊屋敷のオープンハウス」鯨井久志訳。ポイズンウッド通り133番地の屋敷は、1989年からずっと誰も済んでいない。不動産業者のワイス夫人が内覧会を開催する今日は、何人かの客が訪れた。うち一組はITエンジニアの父と四歳の娘。商談を成功させたいのはワイズ夫人だけじゃない。

 IT系で反オカルトな父と、元気に暴れまわる四歳の娘。娘の様子から、娘に抱いている愛情が伝わってくる。そんな二人を見守る幽霊屋敷。穏やかでユーモラスな語り口ながら、最後の文章が泣かせる作品。

 ユキミ・オガワ「さいはての美術館」勝山海百合訳。この惑星に降り立ったときより、彼女の身体は小さく軽くなった。乗り組んでいた、あの人も。あなたは、ここで膨大な数の展示品を修復してきた。

 主な登場人?物は、<彼女><あなた><あの人>の三人で、舞台は無人の惑星の波打ち際。人のいない美術館で、静かに物語は語られる。

 草上仁「テーマ」。VR環境設定ソフトが発達し、誰もがその日の自分の気分に合わせて現実をアレンジするテーマを設定できる時代。その日の朝、結婚三年目の僕は、好きな古い小津安二郎の映画に合わせて「昭和の清貧」をテーマに選んだ。

 一時期、Webブラウザや音楽プレーヤーの見た目の雰囲気を変えるテーマが流行ったけど、あくまで見た目を変えるだけで、実質的な機能が増えるワケじゃなかった。この作品のテーマも同じ。昭和といっても長くて60年以上もあるわけで、初期と末期じゃだいぶ違うんだが、まあそこは草上仁だしw

 「昭和」「テーマ」で真っ先に思い浮かべたのがコレ。あくまでブルースでありながら、いかにも大阪出身のコテコテなトンカツソースの匂いをプンプン漂わせた感じがたまらんです。

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2024年2月20日 (火)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2024年版」早川書房

 今年も出ました年に一度のお祭り本。

 ベストSF2023の国内篇はフレッシュな顔ぶれが多くて、今の日本SF界が盛り上がってるのがよくわかる。海外篇は「やっと出たか」的な作品がアチコチにあるのが嬉しい。あと、竹書房の活躍も期待が高まる。そういやクリストファー・プリーストは…よく間に合ったと考えよう、うん。とか言いつつ、ベストSFに入ってる作品は一作も読んでないんだけど。

 「国書刊行会50年の歩み」って、そんな本が出てたのか…と思ったら小冊子かあ。手に入れるの難しそうだなあ。悔しい。

 科学ノンフィクションは ChatGPT と AI が大暴れ。俺的には大規模言語モデルを AI と呼びたくて、懐かしの論理的なモデルの復活を願うんだが、これも世の流れか。SFコミックも AI やロボットが人気だなあ。

 SFドラマは「全て配信作品になった」。カネのかかるSF物も、配信ならモトが取れるんだろうか。ちなみに全部海外作品。

 そういや漫画や小説の映像化で原作改変が話題になってるが、私は「バーナード嬢曰く。」の実写化なら原作改変というか登場人物全とっかえも許すぞ。例えば舞台は区立図書館で登場人物は近所に勤める男女。これならセットも衣装も金をかけずに済む。いっそ15分番組でドラマ部分は3分程度、残り時間はゲストの芸能人が好きな本について喋る、とか。で、最初のゲストは池澤春菜で。いや別に何も企んでないです、はい。

 第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞しSFマガジン2024年2月号の冒頭を飾った衝撃作の間宮改衣「ここはすべての夜明けまえ」は3月に書籍化。これを機に多くの人に読まれるといいなあ。 

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2024年2月 4日 (日)

SFマガジン2024年2月号

2123年10月1日ここは九州地方の山おくもうだれもいないばしょ、いまからわたしがはなすのは、わたしのかぞくのはなしです。
  ――間宮改衣「ここはすべての夜明けまえ」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ミステリとSFの交差点」として短編4本+座談会&作品ガイド。

 小説は10本。うち連載は5本、特集「ミステリとSFの交差点」で4本、加えて第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作「ここはすべての夜明けまえ」一挙掲載。

 連載5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第11回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第51回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第21回,吉上亮「ヴェルト」第一部第四章,夢枕獏「小角の城」第73回。

 読み切り5本。特集「ミステリとSFの交差点」4本で、荻堂顕「detach」,芦沢央「魂婚心中」,大滝瓶太「恋は呪術師」,森晶麿「死人島の命題」。そして間宮改衣「ここはすべての夜明けまえ」。

 連載小説。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第11回。深井零の代わりに、エディス・フォス精神科軍医の診察を受ける羽目になった桂城少尉。だが、診察とは名ばかりでビールを飲みながら雑談することに。

 今回も桂城少尉にスポットが当たる回。田村大尉とは違った意味で、桂城少尉のメンタルの強さが光る回。雪風もその辺を判ってるみたいなのが、なんともw そしてジャムの正体について、なかなか面白い考察が。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第51回。ハンターの選挙運動は好調だ。しかしシルヴィアと共に共感を失い暴走したラスティは、自分が元凶ではないかと悩む。共感は失っても忠誠は残っているのだ。この事態は更に悪化し…

 ハンターを中心としたクィンテットの描写が多いこの作品、今回もハンターの目論見が語られる部分では、「コレはコレでアリじゃね?」な気分になるから怖い。だってさ、もしハンターがもっと恵まれた環境にいたら、クィンテットの面子はだいぶ違ってたし、それに伴って手段も合法的な方法を取っただろうし…って、ソレはソレで怖いなあ。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第21回。なんの因果かランゴーニに輿入れする羽目になったラーネア。嫁の役割りは何かと思えば、意外とラーネアの性分に合った…

 今までグロテスクな描写が多かったこの作品、今回もグロテスクな場面もあるが、絢爛豪華なシーンも少々。そしてトボけた爺さんかと思われたニムチェンが意外と…

 吉上亮「ヴェルト」第一部第四章。デロス島へ向かった聖船使節はアテナに帰ってきた。もはやソクラテスの処刑は逃れられない。最後の面会へと赴くプラトンに、ソクラテスは問答を持ち掛ける。

 今回はこの問答の場面が読みどころだろう。<テセウスの船>(→Wikipedia)を足掛かりとして、ソクラテスが世界観を広げてゆくあたりは迫力がある。

 特集から。

 荻堂顕「detach」。<柩>を守るかのように囲む6人の男女。互いの名も知らず、だが目的は一致していて、それぞれ武装している。目的地は14kmほど先。雨の中、推奨されたルートを辿り彼らは陣形を組んで進む。住宅地を通るが、人影はない。やがて雨は別の物に変わり…

 長編の冒頭部分。ミステリと言うよりホラーの雰囲気だ。最初はゾンビ物か?と思ったが、登場人物たちの脅威となるのはもっとおぞましいシロモノみたいだ。人間は滅びかけていて、登場人物たちは数少ない生き残り、という以外、世界設定はまだ明らかになっていない。

 芦沢央「魂婚心中」。配信の切り忘れの14秒で、私は浅葱ちゃんハマった。浅葱ちゃんを中心に暮らしのすべてが回り始めた。幼い頃は珍しい風習でしかなかった死後結婚だが、アプリ Konkon の普及とアップデートにより、フォロワー数がステータスとなる。浅葱ちゃん情報を嗅ぎまわり解析した私は、浅葱ちゃんの Konkon アカウントを突き止め…

 SNS や Youtuber と冥婚(→Wikipedia)を組み合わせた、ホラー風味の作品。初めてコメントを投稿する時の緊張と興奮とかは、自分でも覚えがあるだけに、とても生々しく感じた。

 大滝瓶太「恋は呪術師」。三人目の被害者が出た。みな心臓を鉄の矢で撃ち抜かれている。最初の犯行現場は繁華街で次は混雑した飲食店。だが目立ちそうな弓を持つ者を、誰も見ていない。担当となった刑事の地上歩は三件目の監視カメラを調べ、弓を背負う男を見つけるが、同僚には男が見えない。

 犯人も刑事も、疲れた勤め人ばかりなのが切ないw それに比べ、とっくの昔に仕事を辞めた某の、なんとのびのびしていることかw 出勤が辛い時の通勤電車では読んじゃいけない作品。

 森晶麿「死人島の命題」。抹殺された難民たちの中で、レノア・サノとアッシャーのただ二人だけが生き残った。その日、レノアはヴァシュターと名のる男に頼まれる。「<死人島>に関する命題を解いてほしい」

 アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を意識した作品なのは分かるが、すんません、クリスティは「春にして君を離れ」しか読んでないです。

 最後に、第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作「ここはすべての夜明けまえ」一挙掲載。

 間宮改衣「ここはすべての夜明けまえ」。101年前に亡くなった父の望みで、主人公は家族史を書き始める。病の苦しみから逃れるため融合手術を受けた主人公は、老いずに長い時を生きた。母は主人公を産む際に亡くなる。家族と呼べるのは、父、兄一人、姉二人、そして姉の息子一人。

 読み始めは「ひらがなばっかしで読みにくい」と思ったが、読み進めるに従い物語に引き込まれ、読み終えた後は暫く他の物語を読まず妄想に浸った。SFというより、文学として強烈なパワーがある。幾つかの点で、主人公はフリーレンに似てる。引きこもりで長命な割に幼く人の心の機微に疎い…と思ってたら。最後、主人公は大きな選択を迫られる。主人公の決意を、私は成長への望みと受け取った。前号の選評を読み返すと更に味わいが深まる。この作品を特別賞に推した選考委員を讃えたいし、ハヤカワSFコンテストに応募した作者にも感謝したい。読者によって多様な感想を抱く作品だ。

 ということで、間宮改衣「ここはすべての夜明けまえ」だけで充分以上に満足できた号です、はい。

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2023年11月 6日 (月)

SFマガジン2023年12月号

黒板に視線を戻す。都市がもっとも築かれやすい場所の決定的要因の過箇条書きリストが、二つの三角形が相似であることの判定基準の一覧に置き換わっていた。
  ――グレッグ・イーガン「堅実性」山岸真訳

 376頁の標準サイズ。

 特集というか、表紙で目立つのは3つ。スタニスワフ・レム原作・マンガ森泉岳士「ソラリス」,グレッグ・イーガン「堅実性」山岸真訳,第11回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表。あと映画「攻殻機動隊 SAC 2045 最後の人間」公開記念の記事も特集でいいんでない?

 小説は10本。うち連載5本,読み切り4本に加え、第11回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作の矢野アロウ「ホライズン・ゲート 事象の狩人」冒頭。

 連載5本は、神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第10回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第50回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第20回,吉上亮「ヴェルト」第一部第三章,夢枕獏「小角の城」第72回。

 読み切り4本+1本は、グレッグ・イーガン「堅実性」山岸真訳,小野美由紀「母と皮膚」,十三不塔「八は凶数、死して九天」後編,草上仁「本性」と矢野アロウ「ホライズン・ゲート 事象の狩人」冒頭。

 連載小説。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第10回。基地に帰投した雪風と深井零大尉と田村伊歩大尉を、桂城彰少尉とブッカー少佐が迎えた。桂城が雪風の前席に座りATDSを調べると、人語解析システムが活発に動いている。雪風を下りた零と伊歩を桂城が見送ると、小さな電子音がして…

 今回は桂城少尉に焦点が当たる回。当初、田村大尉とは相性が悪そうだな、と思っていたが、なんかうまくやれそうなのが意外w その桂城に雪風が話しかける手法も、実に雪風らしい。深井零・田村伊歩・桂城彰そして雪風が、それぞれにチームになろうとしているのが感慨深い。にしても雪風、人間なら何歳ぐらいなんだろ? 思考速度で計算すると高齢だが、外部との刺激のやりとりで考えると幼いんだよね。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第50回。シルヴィアとの食事は成功した。だが、これ以上のハンターたちへの踏み込みは慎重に進める形でイースターズ・オフィスの意見は一致する。その後、イースターはウフコックに告げる。再度ぼ検診が要る、体の一部に異常が見つかった、と。集団訴訟の準備も着々と進み…

 ウフコックの検診場面はかなりショック。今回のお話の中心は集団訴訟の準備。クローバー教授が用意した証人、エリアス・グリフィンとジェラルド・オールコック医師、それぞれにクセが強くキャラが立ってる。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第20回。ラーネアはニムチェンの部屋へ行き、ニムチェンが絵を描くのを見ている。ニムチェンが横に線を引くだけで、絵は塗り替わっていく。やがて現れるのは、ランゴーニがひとり住む本島。その本島に、ナツメとコオルは貨物船で向かう。その周囲は石化した天使が囲っていて…

 ニムチェンの動く絵、というか画布の秘密に唖然。そんな画布があったら、使ってみたいような怖いような。いや絵心のない者にとっては、有難い気がする←をい ところがお話は、そんあ呑気な展開じゃなくなって。

 吉上亮「ヴェルト」第一部第三章。プラトンは、脱獄し亡命するようソクラテスの説得を続ける。だが、ソクラテスは穏やかな態度ながら決意は揺らがず、「神霊が囁くんだ」とプラトンに告げる。幸か不幸か、聖船使節は予定をはるかに過ぎても戻らず…

 記録された史実に依るなら、ソクラテスの命はない。少なくとも、Wikipedia で調べた限りでは。これまでなんとも煮え切らない態度だったクリトンの思惑は、いかにも老練な実務家っぽいんだが、ソクラテスは気に入らないだろうなあ。

 読み切り4本+1本。

 グレッグ・イーガン「堅実性」山岸真訳。突然、黒板に書いてあるモノが変わる。教師もクラスメイトも、見慣れぬ者ばかり。ノートはあるが、中は自分の文字じゃない。13歳のオマールは戸惑いながら、世界がどうなったのか考える。人もモノも入れ替わった。似ているけど、違う人/モノに。しかも、入れ替わりは一回だけでなく…

 イーガンだが、難しい数学も科学も出てこない、ある意味50年代SFの延長にある作品。自分のやった事は、自分に似た、だが違う者に引き継がれる。周囲の人々は次々と入れ替わる。そんな状況で、人はどう振る舞うのか。社会は、文明は、維持できるのか。インフラというと電気や水道が思い浮かぶが、現代ではスーパーやコンビニもインフラで、そういう機能を維持している人への敬意が増す。

 小野美由紀「母と皮膚」。神経伝達繊維を織り込んだセンサリースーツを着込んで、ツキは海に潜る。かつて母が暮らした島。センサリースーツは皮膚感覚をそのまま遠隔地へ届ける。天上約350kmの宇宙に浮かぶコンドミニアムにいる母に。現地で雇ったガイドは不愛想で…

 センサリースーツ、いいなあ。アレな使い方も思い浮かぶけど、バンジージャンプとかも面白そう。宇宙ステーションがあるなら、無重力も体験したい。最後の四行で驚いた。懐が深いなワコール。

 十三不塔「八は凶数、死して九天」後編。紫禁城の地下で、死の遊戯が始まる。集まったのは四人。未来を覗ける陳魚門とバート・レイノルズ、韓信将軍に扮した男、そして女ながら科挙で状元(最終試験で第一等)に輝いた傅善祥(→Wikipedia)。遊戯は双六と陳魚門の雀汀牌を組み合わせたもので…

 さすがに麻雀そのもので決着、とはいかないか。まあ、あれだけ複雑なルールを、現場でいきなり説明して理解しろったって無茶だもんなあ。でも、リーチっぽいのやチーがあったりして、馴染み深さと斬新さが混じりあう、不思議な感覚が味わえる。にしても、カンのルールが凶悪すぎw

 草上仁「本性」。星際会議で、哺乳類代表のガダー公使がダイノソア代表のホダル大使をチクチクとつつく。多様な種族間の駆け引きで、相手の過去の仕出かしを持ち出して、マウントを取ろうとするのも、もはや恒例の外交手順となっている。ガダー公使は、なんと考古学調査隊が発掘した遺跡の出土品を例にとり…

 外交官どうしの陰険なやり取りが楽しい作品。なにせ早川書房の地下金庫に多量の未発表原稿が眠っていると噂されている著者だ。それだけに、今回のガザの紛争を紀元前の歴史から掘り返す論調を揶揄するつもりはないだろう。でも、そう読めてしまうのは、SFの普遍性なんだろうか。あ、もちろん、短編の名手だけあって、綺麗にオチてます。

 矢野アロウ「ホライズン・ゲート 事象の狩人」冒頭。惑星カントアイネの砂漠ヒルギスで射手=狩人として育ったシンイーは、国際連合軍にスカウトされる。仕事は地平面探査基地ホライズン・スケープから耐重力探査船に乗り込み、パメラ人と共に巨大ブラックホールのダーク・エイジを探査すること。もちろん、お目当ての探し物はちゃんとあって…

 出だし、シンイーが砂漠の夜明けを迎える場面が素晴らしい。匂いが呼び覚ます気分という肉体的・本能的な反応と、その匂いの原因を解析して論理を紡ぐ理性的・科学的な思考を、たった9行で端的に結び付けている。感覚を重んじる文学=アートと、事実を元に論理的な思考を重ねる科学。その両者に橋を架けるSFならではの可能性を鮮やかに示す、卓越した場面…

 と、思ってたら、なんてこったい。この仕掛け、まんまとやられたぜ。

 本誌掲載の冒頭だけだと、狩猟を稼業とする部族社会に育ったシンイーの描写が多く、バディとなるパメラ人の登場場面は少ないが、天才射手少女(だった)シンイーのキャラも、バリバリに立ってる。いやすぐにムニャムニャ…。本当に新人なんだろうか。

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2023年9月10日 (日)

SFマガジン2023年10月号

本特集「SFをつくる新しい力」はSFファン活動と、いまSF小説を読む若者に焦点を当てて、その動機や傾向を探ったものである。
  ――特集「SFをつくる新しい力」 特集解説

「どうせ目に見える美しさは、わたしにはよくわからないので」
  ――キム・チョヨブ「マリのダンス」ユン・ジヨン訳カン・バンファ監修

光合成してる、わたし。
  ――M・ショウ「孤独の治療法」鯨井久志訳

「きみの目は、邪眼だ」
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第9回

「私に完全な遊戯を作らせろ、<大三元>の天才よ、あんたの力が要る」
  ――十三不塔「八は凶数、死して九天」前編

 376頁の標準サイズ。

 特集は橋本輝幸監修「SFをつくる新しい力」。日本と中国のSFファン活動や若いSF読者の傾向そして若手SF作家の作品。プロとファンの境の曖昧さや、ファン活動が話題になるのもSFの特徴だろう。

 小説は11本。

 まず特集「SFをつくる新しい力」で3本。キム・チョヨブ「マリのダンス」ユン・ジヨン訳カン・バンファ監修,王侃瑜「隕時」大久保洋子訳,M・ショウ「孤独の治療法」鯨井久志訳。

 連載は5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第9回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第50回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第19回,吉上亮「ヴェルト」第一部第二章,夢枕獏「小角の城」第71回。

 読み切りは3本。十三不塔「八は凶数、死して九天」前編,草野原々「カレー・コンピューティング計画」,SF作家×小説生成AIで池澤春菜「コズミック・スフィアシンクロニズム」。

 特集「SFをつくる新しい力」。

 最初の10代~20代SF読者アンケート結果が興味深い。アンケート対象は日本と中国の若いSF読者で、好きなSF作家や好きなSF小説を訊ねた。三体シリーズの劉慈欣は圧倒的な人気。中国ファンの強い支持を受けアイザック・アシモフやアーサー・C・クラーク,そしてまさかのジュール・ヴェルヌのベスト10入りが驚き。

 勝手な想像だが、二つの理由があるんじゃなかろか。

 一つは中国のSF出版の若さと薄さ。歴史が積み重なり書き手が増えると、古典より今勢いがある作家・作品の比率が増える。日本で小松左京がないのも、伴名練や円城塔が面白くて勢いがあるためだろう。逆に出版界が若く作家の層が薄いと、実績のある海外作家の翻訳の比率が増える。私が出版社を経営する立場なら、売れた(そして今も売れている)作家・作品を優先して出す。だって安全牌だし。

 もう一つは、ファンの気質。生真面目な人が多いんだと思う。だもんで、「んじゃまず基礎教養から」的な態度で、古典と呼ばれる作品から積極的に挑んでるのかな、と。

 いやいずれも全く根拠はないんだが。

 キム・チョヨブ「マリのダンス」ユン・ジヨン訳カン・バンファ監修。ソラは元ダンス教師。友人の頼みで、モーグのマリにダンスを教える羽目になる。モーグは視知覚に異常があり、今では未成年の5%ほどを占める。ダンスの美しさが、マリには理解できないはずだと思いつつも、ソラはレッスンを続ける。後にマリは「失敗したテロリスト」と呼ばれることになる。

 一種のミュータント・テーマだろうか。グレッグ・イーガン「七色覚」(「ビット・プレイヤー」収録)とシオドア・スタージョン「人間以上」を思い浮かべた。現実をどう認識するかってレベルで食い違っちゃうと、色々と共存は難しいだろうなあ。

 王侃瑜「隕時」大久保洋子訳。隕石から抽出した物質T-42は、人間の時間を加速させる。これにより時間当たりの生産性は上がり、人々はこぞってT-42を求めるようになった。だが、T-42の接種には思わぬ副作用があって…

 冒頭の、加速した人の描写が素晴らしいというか、とってもわかりやすい。 基本的なアイデアは本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間」中公新書に似ている。あんな違いが、人間同士のなかで起きたらどうなるかを、忙しい現代の世情で思いっきりデフォルメして描いた作品なんだが、オチが壮大で酷いw

 M・ショウ「孤独の治療法」鯨井久志訳。パンデミックで街はロックダウン。飼い猫のヘンリーは死んだ。元カレのグレームは身勝手でしつこい。会社は倒産寸前。家賃は値上げの危機。フォロデントロン(サトイモ科)の挿し木をピクルス汁の瓶に突っ込んだら、わたしはマジの植物女になった。

 元カレのストーカー気質も酷いが、語り手の一言居士っぷりも相当なもんw 語り手は元々なのか変異の影響なのか、判然としないあたりも、この作品の味だろう。一人暮らしの奇行は、きっとよくある話。静かに、だが着実に、現実も語り手の心境も変わってゆく。懐かしのTVドラマ、トワイライト・ゾーンのような風味の作品。

 連載小説。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第19回。仮想リゾート<数値海岸>の<陶の区界>。ラーネアはゲストに手を添えて土を捏ね轆轤を回し陶器を焼いてきた。だが<大途絶>でゲストの訪れは途絶えたが、ラーネアたち区界の住人はゲストの訪れを待っていた。そこに<天使>が現れ、一夜で壊滅寸前に追いやる。住民たちを救ったのは<園丁>と蜘蛛。

 舞台も登場人物も前回までとまったく違って驚いた。いや数値海岸なのは同じなんだけど。とまれ、描かれる<陶の区界>とゲストの関係は、相変わらずグロテスクで想像を絶している。ここに現れた<天使>とその能力も、実に禍々しい。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第50回。<イースターズ・オフィス>はシルヴィアを確保し、ハンターらの情報を掴もうと尋問を始めたが、シルヴィアのガードは固い。彼女に希望を与えるべく、レイ・ヒューズの協力を得てセッティングしたバジルとの会食は相応の効果を発揮したが、ハンターへのシルヴィアの忠誠は揺るがず…

 シルヴィアの生い立ちが語られる回。シリアスな回想のあとに何言ってんだアビーw <イースターズ・オフィス>の面々が、シルヴィアの忠誠をカルト教団の信仰になぞらえているのは、分かるようなヤバいような。にしても、ペル・ウィングの乱入には笑ったw 言い訳してるけど、趣味だろ、絶対w 

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第9回。今度は零が前席に、伊歩が後席で出撃した雪風。基地をバンカーバスターで攻撃した超音速爆撃機オンロック3機を追う雪風だが、零と伊歩の認識は食い違い…

 ジャムを見破る田村伊歩大尉が、いよいよ本領を発揮しつつあるのがワクワクする。彼女の登場に取り、零ばかりか雪風までも大きく変わってきているのもいい。これまで、零も雪風も互いを道具として認識していたのが、彼女が加わることでチームとしてまとまり始めたのか、またはシステムとして機能しはじめたのか。

 吉上亮「ヴェルト」第一部第二章。ソクラテスは死刑宣告を受ける。師を救おうと駆けずり回るプラトンを、暴漢が襲う。プラトンの危機を救ったのはクセノフォン。ペルシアに出征していたが、いつの間にかアテナイに戻っていた。暴漢の遺留品を頼りに黒幕を追う二人だが…

 悪妻として有名なクサンティッペ(→Wikipedia)が、なかなかに楽しい人に描かれてるのが好き。連れ合いがあれぐらい浮世離れしてると、これぐらいでないと務まらないのかもw 死刑の仕掛け人アニュトスも、駆け引きに長けた商人/政治家なんだが、ソクラテスの頑固さは読み切れなかった模様。

 読み切り小説。

 SF作家×小説生成AIで池澤春菜「コズミック・スフィアシンクロニズム」。宇宙最大のスポーツイベント、コズミック・スフィアシンクロニズム。惑星アストロニアまで小惑星を運び、惑星軌道を輪のように取り囲むソラリスの穴へ小惑星を押し込む競技だ。有名な競技者の父が突然に失踪したため、ライアンは素人ながら出場する羽目になった。ところがライアンはとんでもない方向音痴で…

 今までのSF作家×小説生成AIでは、最も短編SF小説としてまとまっている。このまんま映像化してもいいぐらい。語り口はスピーディでユーモラス、お話はトラブルとアクション満載で波乱万丈ながら大きな破綻もなく、登場人物は個性的でキャラが立ってる。特にミラの口の悪さがいい味出してるw

 草野原々「カレー・コンピューティング計画」。AIというか大規模言語モデルの進歩と普及により、小説家のわたしは追い詰められていた。芸風がAIとカブっているのがマズい。あてどもなく散歩に出たわたしは、さびれた地区で万物極限研究所なる家に迷い込み…

 出だしから著者の不安と開き直りが炸裂するあたり、いかにも草野原々らしくていいw 怪しげな研究所に怪しげなマッド・サイエンティストが巣食い、怪しげでやたら稀有壮大な理論を披露するあたりは、懐かしい50年代のアメリカSFを古風な日本文学の文体で語りなおした雰囲気。

 十三不塔「八は凶数、死して九天」前編。19世紀半ばの清。陳魚門は童試に及第したが、賭場に通いつめ無為に日々を過ごす。豪商の白蛟爬とチンピラの彭侶傑を相手に素寒貧になった陳は、夢のようなものを見る。勝負中に見えたモノを白蛟爬に告げた時、陳の運命は大きく変わった。

 日本じゃ専門の漫画雑誌があるぐらい普及している麻雀の起源を扱う作品。今WIkipediaで調べたら、それなりに史実を踏まえてるんだなあ。白蛟爬は大物感と胡散臭さが漂う、いかにも裏がありそうな老中国商人なのがいい。

 伴名練「戦後初期日本SF・女性小説家たちの足跡 第九回 稀代の幻想小説家とSF界をめぐって 山尾悠子」。荒巻義雄の「現実な問題として山尾悠子のようなタイプの作家を育てる土壌は、今日、SF界以外には存在しないからだ」が、当時のSF界の気概を示していて嬉しい。ホント、そういう役割を引き受けてこそSFだと思う。

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2023年7月24日 (月)

SFマガジン2023年8月号

『ハロー、シザース。一緒に遊ぼうよ』
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第48回

弁明者の名を記そう。
アリストンの子アリストクレス。人々はわたしを、プラトンと呼ぶ。
  ――吉上亮「ヴェルト」第一部

樹木はすばらしい。種子ならもっとすばらしい。
  ――イザベル・J・キム「宇宙の底で鯨を切り裂く」赤尾秀子訳

昔、まだずっと小さかった頃、ここで飛行船を見た記憶がある。
  ――高野史緒「グラーフ・チェッペリン あの夏の飛行船」冒頭試し読み

 376頁の標準サイズ。

 特集は「≪マルドゥック≫シリーズ20周年」として、冲方丁のエッセイやシリーズガイドなど。

 小説は12本。

 うち連載は5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第8回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第48回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第18回,新連載の吉上亮「ヴェルト」第一部,夢枕獏「小角の城」第70回。

 読み切りは7本。小川一水「殺人橋フジミバシの迷走」,ジョン・チュー「筋肉の神に、敬語はいらない」桐谷知未訳,イザベル・J・キム「宇宙の底で鯨を切り裂く」赤尾秀子訳,草上仁「毒をもって」,パク・ハル「魘魅蟲毒」吉良佳奈江訳,高野史緒「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」冒頭試し読み,SF作家×小説生成AIで松崎有理「超光速の遺言」。

 特集は「≪マルドゥック≫シリーズ20周年」、冲方丁特別寄稿「『マルドゥック・アノニマス』精神の血の輝きを追い続けて」。「初期のプロットにハンターはいなかった」にびっくり。あれだけ魅力的で物語を引っぱる人物が、最初の構想にはなかったとは。創作って、そういうもんなんだろうか。

連載小説。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第48回。ラスティとシルヴィアは、暴走して<楽園>への襲撃を企てる。二人を待ちうけていたのは、意外な勢力の連合だった。

 今回は急転直下な驚きの展開が次々と訪れる。ラスティとシルヴィアを待ちうける面々もそうだし、その後に明かされる過去の因縁も、長くシリーズを追いかけてきた読者へのプレゼントだ。加えてイースターズ・オフィスの面々が、実に似合わない話し合いをする羽目にw

 新連載の吉上亮「ヴェルト」第一部。ソクラテスは理不尽な裁判により死刑の判決が下り、牢に送られた。幸いにして処刑は延期され、師を救うためプラトンは奔走し、脱獄の手配までするが、肝心のソクラテスは判決に従おうとしていた。

 ソクラテス(→Wikipedia)とプラトン(→Wikipedia)は名前だけ知ってたが、クセノフォン(→Wikipedia)は知らなかった。テセウスの船(→Wikipedia)も、そうだったのか。意外とプラトンが体育会系なのは、史実に沿ってて、ちょっと笑った。いやシリアスな雰囲気のお話なんだけど。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第8回。バンカーバスターの邀撃に成功し、基地に帰投した深井零と田村伊歩。しかし雪風は滑走路の途中で止まり、燃料と弾薬の補給、そして零と伊歩の席の交換を要求する。

 零と桂城の関係って、伊歩にはそう見えるのかw お互いに相手の性格と能力と限界を掴み、生き残るための最善策を選べるってのは、そういう事なんだろうけど、うーんw 人工知能が出した、ジャムの攻撃手段の予想も凄い。まあ、明らかにジャムは既知の物理法則を超えた存在ではあるんだが、それを予想できる人工知能なんて、どうやって創るんだか。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第18回。学園祭の日。目玉は二つ、映画部による「2001年宇宙の旅」上映と、美術部の遠野暁の作品展示だ。ところが実行委員は頭を抱えている。2001年のフィルムは届いたが、フィルムを調達した映画部の唐谷晋が登校していない。遠野暁も姿をくらましている。

 この作品は、なんとも不気味で居心地が悪い。その原因の一つは、登場人?物たちが、自分たちも世界も作りものだと分かっている点だ。小野寺家の「おかあさん」の異様さも、早都子は気づいているらしい。それが斬新でもあるし、座りの悪さでもある。

 読み切り小説。

 小川一水「殺人橋フジミバシの迷走」。可航橋フジミバシはミフジ川にかかる橋だ。毎日七時から19時までは船を通していたが、千一大祭でミフジ川の水が涸れた。これでは船を通せず、可航橋ではない。そこで船を通すために、フジミバシは船を求め動き出した。

 橋が動くって、どういうこと? と思ったが、文字どおりの意味だったw ちょっとチャイナ・ミエヴィルの「コヴハイズ」に似た、クレイジーなヴィジョンが楽しいユーモラスな作品。

 ジョン・チュー「筋肉の神に、敬語はいらない」桐谷知未訳。舞台は現代の合衆国。空飛ぶ男の動画が人気を博している。ハンググライダーなどの道具を一切使わず、身一つで飛ぶ。特撮でもCGでもない。その場に居合わせた素人が撮った動画だ。差別を受け傷つけられるアジア系の者を、なるべく暴力を使わず助けようとする。

 作品名に偽りなし。ここまで筋肉とトレーニングに拘ったSF小説も珍しいw 空飛ぶ男、まるきしスーパーマンなんだが、世間の反応は大歓迎とはいかず…。舞台は現代の合衆国だが、日本にも同じ問題はあるんだよね。にしても「計算機プログラムの構造と解釈」にビックリ。俺、まだ読んでないや。

 イザベル・J・キム「宇宙の底で鯨を切り裂く」赤尾秀子訳。マイカとシームは、解体されたステーションからオンボロ宇宙船を奪い脱出した。深宇宙で死んだ手つかずの世代宇宙船を見つけた二人は、残骸を漁って荒稼ぎを目論み巨大な宇宙船に乗り込むが…

 巨大宇宙船の残骸を漁る者たちと鯨骨生物群集(→Wikipedia)の例えが巧みだ。この作品世界の厳しさと、そこで生き抜く人々の逞しさを見事に表している。樹木が貴重ってあたりも、この世界にピッタリだ。

 草上仁「毒をもって」。わざわざ海外から毒物を取り寄せ、それを長期間にわたり夫に服用させ殺したとして、被告人席に立たされた妻。彼女を告発する検事と、被告を守ろうとする弁護士の論戦は…

 えーっと、まあ、アレです、私も身に覚えがあるので、わははw いいじゃねえか、好きにさせろよw

 パク・ハル「魘魅蟲毒」吉良佳奈江訳。蟲毒を用いた罪で呪術師の金壽彭は捕まり、取り調べで「王家は呪われている」と叫んで死んだ。県監の崔強意は不審に思うが、暗行御史の趙栄世は「王命に疑問を持つな」と言うばかり。どうも朝廷の後継争いが絡んでいるらしい。

 朝鮮王朝スチームパンク・アンソロジー「蒸気駆動の男」収録の一編。冒頭の引用は怪談風味で、そういう味付けではあるんだが、それ以上に、作品世界の厳しい身分制度の描写が怖い。崔強意の息子の報警が聞き取り調査に赴く場面でも、「これじゃロクに聞き取りできないだろうなあ」とつくづく感じる。

 高野史緒「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」冒頭試し読み。1929年、世界一周を目指す硬式飛行船グラーフ・ツェッペリンは、土浦の霞ケ浦海軍航空隊基地に着陸を試みる際、爆発炎上した。そして現代。高校二年の藤沢夏紀には、幼い頃に巨大な飛行船が飛ぶのを見た記憶がある。同年代の北田登志夫も同じ飛行船を見た記憶があるが、両者は異なる世界にいるようで…

 え? 本当に高野史緒? と言いたくなるぐらい、今までの芸風とまったく違う。高校生の夏を描くジュブナイルって感じ。少なくとも、今のところは。この季節に読むと、セミの声などが現実とシンクロして一味違う。強い日差し、授業で脱線しがちな教師、謎めいた老婦人。そんな道具立てが、眉村卓などの昔懐かしい青春SFの香りを掻き立てる。

 SF作家×小説生成AIで松崎有理「超光速の遺言」。対談がとっても面白い。「日本語の文学ってセリフがすごく多い」とか。原因の一つは、誰の発言かが分かりやすいからかな。一人称・二人称が多彩だし、語尾も活用できるし。

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2023年5月 1日 (月)

SFマガジン2023年6月号

「おれの名は、ウフコック・ペンティーノだ」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第47回

<kill JAM...IFU>
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第7回

「四次元立方体がこの三次元空間に侵入してきたら、いったいどんなふうに見えるだろう?」
  ――グレッグ・ベア「タンジェント」酒井昭伸訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は二つ。「藤子・F・不二雄のSF短編」として「ヒョンヒョロ」再録,作品総解説,佐藤大×辻村深月対談ほか。もう一つは「グレッグ・ベア追悼」として短編「タンジェント」酒井昭伸訳や追悼エッセイなど。

 小説は8本。

 グレッグ・ベア追悼特集で「タンジェント」酒井昭伸訳。

 SF作家×小説生成AIで宮内悠介「すべての記憶を燃やせ」。

 連載は5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第7回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第47回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第17回,村山早紀「さやかに星はきらめき」最終回,夢枕獏「小角の城」第69回。

 読み切りは1本だけ。レイ・ネイラー「ムアッリム」鳴庭真人訳。

 まず特集「藤子・F・不二雄のSF短編」では、佐藤大×辻村深月対談の「アニメ業界、クリエイターにもSF短編好きは多いですよ。(略)ものづくりの共通言語になっている」が嬉しい。もちろん「ヒョンヒョロ」をまた読めるのも。ホンワカした絵柄で畳みかけるギャグ、そこはかとなく漂う50年代アメリカSF短編の香り、そして圧倒の大ゴマと鮮やかなオチ。星新一と並ぶフレドリック・ブラウンの系譜だと思う。

 グレッグ・ベア追悼特集の「タンジェント」酒井昭伸訳。科学者のピーターは、四次元立方体のイメージを掴もうと苦しんでいた。そこに訪ねてきた少年パルは、四次元の物体を三次元に投影するイメージをあっさりと理解しながらも、楽器トロンクラヴィアに興味津々だった。

 トロングラヴィアを調べたが出てこない。たぶん電子楽器。ピーターのモデルはアラン・チューリング。四次元の表現も見事だが、私はパルとピーターの人物像が強く印象に残る。韓国系の養子で家に居場所がないパル、故国から逃げ出すしかなかったピーター。寂しいながらも、こうするしかない結末が切ない。

 追悼エッセイ「鏖戦時代」酒井昭伸。鏖のよみが「おう」だと今知ったw てへ。伊藤典夫氏の案に感服。そうか、そういう手もあるねw

 SF作家×小説生成AIで宮内悠介「すべての記憶を燃やせ」。知人の遺品の整理をしているとき、柳田碧二の詩の断片を手に入れた。彼はこの詩をしたためたあとお、みずから命を絶った。

 対談でも語っているように、ちょっと川又千秋「幻詩狩り」みたいな出だしで始まる作品。そうか、AIは詩も作れるのか。と驚いてたら、AIのべりすと開発者のSta氏曰く「究極的には、AIって検索以上の何かではないんですね」。確かに言われてみれば。

 連載小説。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第17回。再起動した青野市。前回あたりから、コンパニオンや情緒的面影など、舞台の裏側が次々と明かされて驚くばかり。事件の焦点に当時は幻の映画だった「2001年宇宙の旅」があるのも嬉しい所。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第47回。ハメられたことに気づいたシルヴィアとラスティは暴走する。二人が共感から外れたと考えるハンターたちは、即座に手を打つが…

 ハンターの能力に弱点があったのは意外だったが、立ち直りの早さも凄い。このクールさがたまらん。同じクールさでも、<楽園>のソレは…まあ、昔からSFによく出てくるタイプですねw

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第7回。田村伊歩が前席、深井零が後席というフォーメーションで飛び立つ雪風。二人は、互いを知るため雑談を交わす。

 雑談といいつつ、かなり深いところまで突っ込む零に対し、驚くほど素直に応じる伊歩。ある意味、自信に溢れていて真っすぐなんだろうなあ。自信に溢れてるって点じゃ、桂城少尉も相当だw どうなるんだろうね、この三人+雪風w

 村山早紀「さやかに星はきらめき」最終回。クリスマスの本「さやかに星はきらめき」は無事に出版となり、評判も上々だ。そんな<言葉の翼>社っを、銀河連邦の職員が訪れる。

 まず、大団円を感じさせる、しまざきジョゼの扉絵がいい。遠い未来にも、紙の本は残っているんだろうか。作中の「さやかに星はきらめき」みたく、子供に読みこかせるのにも適した本は、やっぱり電子書籍より実態のある紙の方が相応しいんじゃないかと思う。

 読み切りのレイ・ネイラー「ムアッリム」鳴庭真人訳。ムアッリムは教師ロボットだ。アゼルバイジャンの奥地ヒナルク村に派遣された。確かに教師も務めているが、村人の薪割りや庭仕事も手伝う。子供たちに石を投げられボディはボコボコだ。支援プロジェクト監視役のマーリヤは不満タラタラだ。政府の説明は嘘だらけで事前調査も杜撰、おまけに電波も届かない。

 ピント外れの支援物資や、骨抜きにされた政府の政策、おバカなガキども、そして想定外ばかりの状況に不満を募らせる監視役と、いかにも国際支援あるあるな描写が生々しい。が、そんな中で、ロボットらしくトボけた受け答えをするムアッリムがユーモラスだ。オチも見事。

 小説はここまで。

 「ガーンズバック変換」「円」刊行記念対談 日本で語らう中国SF 陸秋槎×大森望。中国のSF状況が面白い。「ミステリ作家のデビュー作はだいたい自分の専門知識を利用します」って、どの国もそうだしミステリに限らない気が。「SF作家としてデビューできない人はみな、ゲーム会社でシナリオライターとして活躍」も。その方が儲かるってのもw 荊軻つながりでFGOファンが劉慈欣「円」に殺到ってのも楽しいw 入り口はなんでもいいと思う。雑誌<科幻世界>が国内作品と翻訳物で分裂したら読者も分裂してしまったってのも、なんか解るw 映像化すりゃ大金Getとか、確かにバブルだね。あと大森望の「SF作家はみんな、一生に一度は異常論文を書きたいと思っている」ってw 道理であの特集は熱がこもってたわけだw

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2023年3月22日 (水)

SFマガジン2023年4月号

けれど黒は、とあなたは考える。喪服だけに使われるわけではない。魔女にふさわしい色なのだと。
  ――シオドラ・ゴス「魔女たる女王になる方法」原島文世訳

16歳のころ、わたしは毎週木曜日に歯を売っていて、それがドクターに会ったきっかけだった。
  ――エマ・トルジュ「はじまりの歯」田辺千幸訳

『隠れているジャムを追い出せ。たたき落として、必ず帰投しろ。グッドラック』
  ――神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第6回

 376頁の標準サイズ。

 特集は2つ。津原泰水特集で短編3本、童話1本、漫画1本の加え、エッセイ・追悼文そして作品解題。もう一つは鹿野司「サはサイエンスのサ」傑作選。

 小説は12本。

 津原泰水特集で4本(うち1本は童話)。「イハイトの爪」,「Q市風説(斐坂ノート)」,「斜塔から来た少女」,童話「おなかがいたいアナグマ」。

 連載は5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第6回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第46回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第16回,村山早紀「さやかに星はきらめき」第8回,夢枕獏「小角の城」第68回。

 読み切りは3本。ケン・リュウ「タイムキーパーのシンフォニー」古沢嘉通訳,シオドラ・ゴス「魔女たる女王になる方法」原島文世訳,エマ・トルジュ「はじまりの歯」田辺千幸訳。

 まずは津原泰水特集から。

 「イハイトの爪」。クラシックのギタリストである兄イハイトのために、親指の爪を伸ばしている。若い娘のサラは、そう斐坂に語った。イハイトの爪が割れた際に、サラの爪を切ってイハイトの爪に貼るために。斐坂は既視感を憶えた。かつて自分が書いた作品に、そんな話があった気がする。

 津原泰水名義での初短編。イハイトとサラの関係が、いかにもかつての少女小説家・津原やすみを感じさせる。が、その後の展開は、確かに津原泰水の味。この仕掛けは、著者の経験が活きてるんだろうか。

 「Q市風説(斐坂ノート)」。社会学者の助手で食いつないでいる斐坂は、仕事で夏のQ市を訪れた。噂話を集めるために。去年は真っ白な屍体を見た。この街には吸血鬼がいる。パブでエールを飲んでいると、女が話しかけてきた。「この女はきのうまでお城の下にいた」

 作家競作プロジェクト「憑依都市」の一編。たぶん返還前の香港をモデルとした、複数国の租界が乱立する治外法権都市Q市を舞台に、胡散臭い男が奇妙な事件に出会う、幻想的な作品。子供たちのうわさ話が、いかにもな不条理さで巧い。

 「斜塔から来た少女」。アオゾラ空中都市と地上都市は小競り合いが続いたが、11大地震をきっかけに和解へと向かう。和平を演出するため、生徒交流が始まった。その一人として地上に降り立ったツキコは、引率のスキを見て抜け出し、乗り合いバスに飛び乗る。

 壊れつつある空中都市に棲む上流階級の少女と、猥雑で汚染された地上に住む青年の出会いを描く物語…ではあるんだが、このオチはさすが。ちょっと星新一のショートショートにも似た味わいがある。

 童話「おなかがいたいアナグマ」。ボスとおさんぽしていたとき、ダックスフントはふしぎなけものとあいました。けものは、はいすいこうにとびこみます。そこはタヌキのとおりみちでした。タヌキにきくと、けものはアナグマだとおしえてくれました。

 津原泰水が童話って、大丈夫かい? と思ったが、大丈夫だったw ダックスフントとタヌキとアナグマ、それぞれの性質を巧く織り込んで、ちゃんと可愛い話にまとまってる。

もう一つの特集、鹿野司「サはサイエンスのサ」傑作選。英米のサイエンス・ライターは、一つか二つの科学系の得意分野に加え歴史にも造詣が深い人が多い。対して鹿野氏は科学の知見が広く、かつ最新の知や技術にも通じていたんだなあ、と感じる。とってもテレビなどのマスコミに向くタイプだったのに、なぜ重用されなかったのか不思議だ。終盤では新型コロナの話が四つ続く。これも、鹿野氏は象牙の塔にこもるタイプではなく、時勢にも敏感な人だったのが伝わってくる。

 次に連載。

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第6回。田村伊歩大尉が雪風の前部に、深井零大尉が後部に乗っての会話。似ているようで、実は二人の根本はまったく違うことが明らかになってゆく。「人間相手には戦ってこなかった」零と、戦いを渇望してきた田村伊歩、そして常にジャムと戦っている雪風。コミュニケーションに難を抱えながらも、格好の仲間を得たトリオがどう暴れるか、期待が高まる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第46回。マルセル島におけるハンターたちとマクスウェルたちの戦いに決着がつき、なんとも懐かしい場面が。弔われているのは…。オセロゲームの終盤のように、アチコチでクルクルと情勢が入れ替わってゆくさまが心地いい。にしても、マクスウェルの姿は…

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第16回。何事もなかったかのように再起動した数値海岸の青野市。今回は児玉家の変容から始まる。「クレマン年代記」はナニやら重要な鍵が潜んでいそう。にしても、お母さん… 当時は幻の映画だった「2001年宇宙の旅」の、印象的な場面が出てきてオジサンは嬉しい。

 村山早紀「さやかに星はきらめき」第8回。山間の小さな町の図書館を、一人の旅びとが訪れる。司書の琴子は、旅人の肩に小さな生き物を見た気がした。旅人は人を探しに来たのだ。 道具立てはSFだけど、味わいは童話寄りの心優しいファンタジイ。ちょっとゼナ・ヘンダースンの「ピープル・シリーズ」を思い浮かべた。

 続いて読み切り小説。

 ケン・リュウ「タイムキーパーのシンフォニー」古沢嘉通訳。惑星ペイク・シグマⅡの雲霧林には、多様な生物がいる。千九回の公転で一回だけ卵を産むペトラドラゴン。塵様世代と雲様世代を交互に繰り返すスライスライ蠅。一秒間に百回方向を変える針嘴鳥。

 時間に関わる掌編4本からなる作品。最初の「フリッカ」では、タイムスケールが大きく異なる生物たちを紹介する。スライスライ蠅は奇妙なようだが、地球でも似た生態のタマバチがいる(→「虫こぶ入門 」)。終盤では一部のIT技術者を悩ませる問題に、なかなかマッドな解決がw

 シオドラ・ゴス「魔女たる女王になる方法」原島文世訳。白雪姫を娶った後に王子は王位を継ぎ、三人の子をもうけます。長男のゲルハルトは王子に似て、次男のヴィルヘルムは愛情深く、いちばん下のドロテアは14歳になり、同盟相手に嫁ぐはずでしたが…

 白雪姫の後日譚…なんだが、この著者が素直に続きを語るはずもなく。冒頭から、白雪姫の醒めた目線が酷いw 舞台が中国だったら、往々にして悪役を押し付けられる立場に追いやられる白雪姫だが、そこはそれ。鏡の下す美人の評価も楽しい。

 エマ・トルジュ「はじまりの歯」田辺千幸訳。エマは奇妙な性質を持つ一族の一人だ。怪我をしても、すぐ再生する。命を失うのは老衰か出産だけ。当時は若い歯科医だったドクターに、エマは毎週木曜日に歯を売っていた。やがて助産婦になったエマは、同族の妊婦と出会い…

 書き出しが見事で、一気に引き込まれた。舞台は18世紀のロンドン。だもんで、女はまず医者になれない。当時の出産の場面の描写が、実に生々しくて強く印象に残る。終盤に近付くにつれ、否応なしに盛り上がるサスペンスも見事。

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2023年2月17日 (金)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2023年版」早川書房

 はい、年に一度のお祭り本です。

 伴名練「百年文通」、ジャック フィニイ「ゲイルズバーグの春を愛す」収録の「愛の手紙」みたいな?←たぶん全然違う クロノス・ジョウンター、新作が出てたのか。エマノンと並ぶライフワークだなあ。

 C・L・ムーア「大宇宙の魔女」、王道的な宇宙冒険譚つーより、懲りない男が美人局にひっかかりまくる話、みたいな印象が強いw オラフ・ステープルドン「スターメイカー」文庫化はめでたい。めちゃ稀有壮大な作品です。

 最近めっきり読書量が減ったけど、科学ノンフクションは美味しそうな本が多い。 吉森保「生命を守るしくみ オートファジー」とかスティーブン ジョンソン「EXTRA LIFE なぜ100年間で寿命が54年も延びたのか」とか。マット・パーカー「屈辱の数学史」は面白かったなあ。

 SFドラマは Amazon や Netflix など配信物ばっかりになってる。そういう時代なんだなあ。

 早川さん、野尻抱介「素数の呼び声」は大丈夫なのか。竹書房、竜のグリオール・シリーズ遂に完結? 東京創元社ジェイムズ・ホワイト「生存の図式」って、もしかしてどっかで映像化したのかな?

 上田早由里さん、オーシャン・クロニクル・シリーズはまだ続く模様。嬉しい。片瀬二郎さん、QRコードつきなのが今風だなあ。神林長平さん、やっぱり「敵は海賊」は猫SFだったのかw 野崎まどさん、今年も遊んでるw 樋口恭介さん、「下手な事言って変な仕事持ち込まれちゃかなわん」的な警戒心が漂ってる気がするw

 SF関連DVD。「アフリカン・カンフー・ナチス」、ヒトラーと東条英機がガーナに潜伏し云々って、ここまでキワモノだと観たくなるw

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2023年2月15日 (水)

SFマガジン2023年2月号

「私なら、君の名前を歴史に残してあげられると思う」
  ――安野貴博「純粋人間芸術」<\p>

小川哲「草野原々は焦ったほうがいいと思いましたね」
  ――SF作家×小説執筆AI メイキング&感想戦

われは起動した。ゆえに、われには目的がある。
  ――スザンヌ・パーマー「忘れられた聖櫃」月岡小穂訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「AIとの距離感」。巻頭カラーでAI絵本「わたしのかきかた」野崎まど&深津貴之、読み切り短編7本,SF作家×小説AI2本など。

 小説は15本。

 特集で7本+2本。安野貴博「純粋人間芸術」,斧田小夜「たべかたがきたない」,竹田人造「仁義なきママ活bot」,品田透「伝統的無限生産装置」,陸秋槎「開かれた世界から有限宇宙へ」阿井幸作訳,L・チャン「家だけじゃ居場所になれない」桐谷知未訳,スザンヌ・パーマー「忘れられた聖櫃」月岡小穂訳に加え、SF作家×小説AIで柴田勝家「The Human Existence」,小川哲「凍った心臓」。

 連載は5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第5回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第45回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第15回,村山早紀「さやかに星はきらめき」第7回,夢枕獏「小角の城」第67回。

 読み切りは1本。草上仁「非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド」。

 まず特集は「AIとの距離感」から。

 安野貴博「純粋人間芸術」。2019年。自分の才能に見切りをつけた画家のコンドウは、安アパートで首を吊った…はずが、目覚めたのは2027年の病室。ミシェリーヌと名のる女が、コンドウのプロデューサーとなり、彼を売れっ子へと育て上げる。AIの急激な成長はアート界にも大きな影響を及ぼし、コンドウは貴重な才能の持ち主となっていた。

 AIの育て方のアイデアがSFとして極めて秀逸。言われてみれば、確かにアレを組み合わせたら面白いことができそう。さすがに今は費用の問題で難しいけど、本来の需要もあるワケで、案外と近い将来に実現しそうな気もする。最後のオチも、泡沫ブロガーの私としてはちょっと救われた気分に←をい

 斧田小夜「たべかたがきたない」。アートミーはAIを育てるアプリケーションだ。使い勝手はゲームっぽく、プログラミングができなくても大丈夫。自分だけのAIを育て、独自のアートを作り出すのだ。爆発的な人気を博し、世界大会も開かれる。アートミーを始めて半年ほどの佐野は、凄腕の黒田&興梠と組んで大会に出る羽目になったが…

 これまたAIの育て方にスポットを当てた作品。こんな事件(→GIGAZINE)もあったワケで、深層学習を使う手法の場合、データの選び方がAIの能力というか性格に重要な影響を与える。そこで、どんなデータを食わせるかがキモなんだが、どうやってデータを集めるかって所が面白かった。

 竹田人造「仁義なきママ活bot」。宇納は川守組の若頭だ。先代組長の甥でインテリの安海が、妙なシノギを持ち込んできた。名づけてママ活bot。かつての宇納の二つ名は“桜漬けの宇納”。女を装ってメッセージを送り付け、男たちに課金させて荒稼ぎした。その手腕を活かし、botを育てろ、そう安海は語る。先代への義理もあり、とりあえず話に乗った宇納だが…

 これは傑作。いやもう笑いっぱなし。広島なまりの宇納と、カタカナ言葉ばっかりのAIとの会話が、実に楽しい。コンバージョンやらアジャイルやらの専門用語?を、宇納が広島なまりで実にわかりやすく説明してくれます。さすが院卒、地頭はいいんだよなあw この手の詐欺の手口を教えてくれるのも嬉しいが、鋭いのは最後のオチ。現代のAIが抱える問題点を、巧みに指摘してるのが凄い。ホント、これ、どうするんだろ。

 品田透「伝統的無限生産装置」。地球は大災厄で滅びた。世代型宇宙船の八紘一宇号は、惑星スサノオを目指し虚空を進み続ける。樋口の仕事は検閲だ。職務は船内の日本文化を守ること。検閲部の働きにより、真世田谷の景色は200年前を変わらない。定年となった福沢から、樋口は「サンサイさん」案件を引き継いだ。これは306年間も続いたアニメ番組で…

 舞台は移民用の世代型宇宙船なのに、スペース・オペラな雰囲気がまったくしないのが不思議。検閲だの八紘一宇だのと、ナニやら不穏な言葉が出てきたと思ったら、次のネタはかの有名な長寿アニメ番組。形だけ「古き良き日本像」に似せた似非レトロなガジェットとか、本当にそんなモン保つ価値があるのかよ、とちょっと背筋が寒くなったり。

 陸秋槎「開かれた世界から有限宇宙へ」阿井幸作訳。「アイリス騎士団」は、当社の稼ぎ頭だ。あの手この手でユーザから金を搾り取り、月間数十億円を稼ぐ。だが、その儲けは有名な製作者の宮沼秀洋が率いる新規プロジェクトにつぎ込まれる。「アイリス騎士団」の運営に携わる岸田は、新規プロジェクトの世界設定について相談を受けたのだが…

 現代のスマートフォンが持つ演算能力で、いかに臨場感のある絵面にするか。演算能力を節約するための工夫に、説得力のある設定をどうひねり出すか。その設定を、作品の世界観にどう合わせるか。なかなか面白い設問で、理系頭だとかえって苦労しそうな気がする。とりあえず、動きとして、自転であれ公転であれ「回転」はマズいよなあ。うーん。

 L・チャン「家だけじゃ居場所になれない」桐谷知未訳。<あるじ>が連れ去られた後も、<ホーム>は淡々と仕事を続ける。半分割れたマグカップに、きっかり摂氏60度のコーヒーをいれる。決まった時間に玄関のドアのボルトを押し出す。電子レンジで食品を調理し、押し出す。キッチンには、容器が積み重なっている。在庫を調べ、必要な食料を補充する。

 自動化された家は、居住者がいなくなっても、盲目的に日課を続ける。荒れた家の風景で、<あるじ>は相当に荒っぽい手口で連れ去られたのが分かる。融通の利かない機械らしく<ホーム>が淡々と動き続ける風景は寒々しいが…

 柴田勝家「The Human Existence」。柴田勝家が小説生成ツール「AIのべりすと」を使い仕上げた作品。僕は∀2173、父さんにもらった名前だ。部屋は広いが、父さんは外出を許してくれない。けど、ある日、父さんが言った。「今度、一緒にサーカスを見に行こう」

 柴田勝家の芸風とは大きく違う。文章は自然な日本語になっているし、お話のスジもソレナリに通っている。が、かなり唐突に展開が変わる。たぶん、プロの小説家は、大きな変化の前に細かい伏線をはるなり、予告っぽい文章を入れたりして、「間もなくお話の流れが変わりますよ」と読者に身構える余裕を与えるんだろう。そういう、AIの語りの荒っぽさが、逆にプロの作家の技を見せつける形になった。

 小川哲「凍った心臓」。少年は桟橋の近くにやってくる。商船が運んでくる世界中の珍品を見るのが好きで、冲仲仕の仕事を手伝う。クリッパー船から下りてきた男が、少年に宝石を見せる。

 18世紀あたりの米国の港っぽい風景で始まった物語は、劇中劇っぽい仕掛けを通ったあと、いきなり暴走しはじめる。なんか最初は丁寧に調整してたのが、途中で面倒くさくなってAIに任せっきりにしたら収集がつかなくなった、みたいな感じ。

 スザンヌ・パーマー「忘れられた聖櫃」月岡小穂訳。2019年2月号掲載の「知られざるボットの世界」の続篇。長期航行中の宇宙船で、ボット9は68年前ぶりに起動した。まもなく無機生命体に敵対的なイスミ宙域に入る。それまでに、超低温室で眠っている人間のクルーを起こさねばならない。だが船内は困った状況にある。自分は人間だと思い込んでいるボット群が船内を群雄割拠し…

 マシンであるボット9視点の語りが楽しい。何せ機械だ。気軽に体や思考能力を交換する。いやハードウェアやユーティリティ・ソフトウェアなんだけど。自分は人間だと思い込んでるわりに、そういうクセが抜けきらない叛乱ボットたちも笑える。目的のためには手段を択ばないボット9に比べ、妙に生真面目なシップの性格付けも、現場と監督職を思わせる雰囲気があってピッタリな配役。

 連載小説。

 飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第15回。ド派手な青野市の崩壊で終わった前回から一転、妙に平和な二学期で第三部の幕が上がる。とかのお話の進み方以上に、当時の映画事情のネタがオジサンには嬉しい回。よく行ったなあ、池袋の文芸座と文芸座地下。「2001年宇宙の旅」も、当時は幻の作品だった。ナニやらオトナの事情で上映できなかったんだよね。自主上映会もあったなあ。近所の小学校で「ワタリ」を観た…気がする。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第45回。ハンター側からイースターズ・オフィスへの意外なコンタクトに始まり、マルセル島でのクインテットvsシザースのバトルの続き。いかにもなヤラレ役っぽいリック・トゥーム君の運命に涙。あのイカれたキャラ、結構好きなんだけどなあ…って、今更だけど、このお話、出てくるのはイカれた奴ばっかりなんだけどw

 

 神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第5回。雪風に乗るよう勧められた田村大尉と零の会話の回。初顔合わせの緊張感とは違い、特に田村大尉がリラックスしてる。冒頭から、知性を持つマシンの扱いにくさが伝わってくる。いずれも変わり者同士なのに、意外と陽キャを装える田村大尉と、モロに陰キャな零の対比もいい。

 村山早紀「さやかに星はきらめき」第7回。銀河連邦の広報が、出版社「言葉の翼」社でクリスマスの物語を集めているキャサリンを訪れ…。そうか、同じ編集者でも、雑誌と文芸は違うのか。やっぱり雑誌はフットワークが軽くて好奇心旺盛な人が多いのかな。

 読み切り。

 草上仁「非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド」。穐山省吾警部補は、非可能犯罪捜査課こと警視庁捜査七課への異動の打診を受けた。七課を率いる田村課長は語る。「超常現象を信じなくてもいい。仮説を立て、必然性のある論理を構築する、それだけ」。二人は、ある裁判を傍聴する。被告の富岡はゴッドハンドを名乗り、メスなしで心臓手術を行えると豪語する。

 読み終えてから扉のイラストを見ると、「そういうことか!」と驚いたり。最近は流行らないけど、昔はよく聞いたなあ、この手の心霊手術。ミステリ・マガジンとSFマガジン、どっちに載せてもいい感じの作品ながら、オチはさすがの草上節、鮮やかなどんでん返しを見せてくれる。

 小説はここまで。

 若島正「乱視読者の小説千一夜 連載78回 いつまでも続くスワン・ソング」。今回はロバート・R・マキャモンの話なのが嬉しい。やっぱりマシュー・コーベットのシリーズは続いてるのか。「魔女は夜ささやく」のマシューとウッドワードの関係は、腐った人には美味しいはず。「ぼっち・ざ・ろっく」の影響で同じバンド物の The Five の翻訳も…いや、無理か。

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