カテゴリー「書評:SF:小説以外」の100件の記事

2020年2月17日 (月)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2020年版」早川書房

…ジョージ・R・R・マーティンの名前を見るたびに、「ワイルド・カード」の続きを出せと言いたくなるのは、私だけではないはずだ。
  ――マイ・ベスト5海外篇 細谷正充

 私も同感です、はい。

 今年も出ました年に一度のお祭り本。

 国内篇の上位陣は意外な接戦。対して海外篇はダブルスコア以上であの話題作。いずれもベテランと若手が入り混じって、層の厚さとバラエティの豊かさを感じるのが嬉しい。見逃してたのも多いなあ。柴田勝家「ヒト夜の長い夢」,ラヴィ・ティドハー「黒き微睡の囚人」,マイケル・ベンソン「2001:キューブリック、クラーク」…。

 あ、それと、草上仁「5分間SF」にはひたすら感謝。去年、そんな事を書いてたし。

 「伴名練インタビュウ SFの歴史を継いでいくこと」。既存の名作を巧みに織り込んで美味しく仕上げるマニアックな芸風の人、とばかり思い込んでいたけど、実は「いかにSFパンデミックを引き起こすか」「いかに素人をたぶらかしてSF沼に引きずり込むか」を常日頃から目論んでいる人なのがわかった。いやあ実に頼もしい。

 ところで、「サブジャンル別ベスト10&総括」で「海外文学」はあるのに「日本文学」がないのはなぜ? 既に日本文学はSFの拡散と浸透が済んでるから? いいや具体的な作家としては上田岳弘ぐらいしか知らないけど。

 同じく「サブジャンル別ベスト10&総括」はAI花盛りで、やはりポール・シャーレ「無人の兵団」は読みたい。あとサイモン・ウィンチェスター「精密への果てしなき道」も面白そう。

 「SFコミック」では、「電子書籍のコミックス販売額が紙のそれを上回ったのが2017年」に驚いた。コミックスじゃ、とっくに紙が追い越されてたのか。若い人ほど電子書籍に抵抗がなく、そのため読者層が若いコミックスは動きが先行してる、とかかな? 麦原遼「逆数宇宙」も読みたいし、そろそろ私も考える時がきたのか。

 「このSFを読んでほしい!」。早川書房はやはりピーター・トライアスが出るんですね。期待してます。アトリエ・サードのアルジス・バドリス「無頼の月」は2017年版から予告が続いているような気が…

 「2020年のわたし」。上田早由里のオーシャン・クロニクルには期待してます。高島雄哉「エンタングル:ガール2」ってマジかい!本当ならいいなあ。藤井太洋「マン・カインド」、やっぱり終盤なんだ。海外短編のアンソロジーを編んでくれたら嬉しいけど、新作小説も読みたいし、分身の術を会得するかマシンに精神をアップロードするかして欲しい。

 「2010年代ベストSF30」。チャイナ・ミエヴィルは「都市と都市」「言語都市」どっちが好き? 私は「言語都市」。だってエイリアンが出てくるし。

 「2010年代総括座談会 アイデンティティと多様性の時代に」鏡明×大森望×橋本輝幸。やっぱ「皆勤の徒」の翻訳って無理っぽいと思うよね。ピーター・ワッツに対し「こういう先鋭的でがんばってるSFはやっぱり入れておかないと」って、はい、全くその通り。小野不由美「白銀の墟 玄の月」を「1・2巻で完結だと思ってた」って、そりゃ唖然としただろうなあw 小川一水「天冥の標」を「SFの全体像」ってのは、言えてる。いやまだ最終巻を読んでないけど。SFの美味しい所を全部ブチ込みました、的な雰囲気があるよね。 

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2020年2月 3日 (月)

SFマガジン2020年2月号

『ジャムはまだ勝ててないよ、ジャック。おれたちがいる』
  ――ブルース・スターリング「巣」神林長平「哲学的な死 前編 戦闘妖精・雪風 第4部」

「探しているというか、うん……まあ、いつか見つかったらいいなくらいに思っているんだけどね」
  ――高野史緒「本の泉 泉の本」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「創刊60周年記念号」として、記念エッセイ60本一挙掲載。

 小説は10本。

 連載は7本、うち新連載2本。新連載は神林長平「哲学的な死 前編 戦闘妖精・雪風 第4部」と飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」。他に椎名誠のニュートラル・コーナー「すすり泣く雨、くねり泣く川」,夢枕獏「小角の城」第57回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第28回,藤井太洋「マン・カインド」第10回,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第10話 笑顔のゆくえ」。

 読み切りは3本。劉慈欣「三体Ⅱ 黒暗森林 プロローグ」大森望・立原透耶訳,高野史緒「本の泉 泉の本」,グレッグ・イーガン「故郷へのまわり道」山岸真訳。

 神林長平「哲学的な死 前編 戦闘妖精・雪風 第4部」。フェアリイ基地への総攻撃を経て、寄生したロンバート大佐と共に、<通路>を抜けてジャムが地球の南極に到達した。基地へと戻った深井大尉は、滑走路の様子に違和感をおぼえる。地上に動くものがなく、残骸も含め敵味方の機体も見えず、管制の応答もなく、戦術データリンクも切れている。

 待ってましたその1。今思えば、戦術データリンクってF-22やF-35が実現したアレだよね。ジャム・雪風・深井零それぞれの、世界観の違いとコミュニケーションの難しさにフォーカスが当たった第3部を受け、今回も雪風と深井零が手さぐりでコミュニケーションを試みてゆく。言葉が通じず、動作によって意思疎通を図るって点では、雪風って犬や猫に似てるなあ。零との関係を考えると、犬より猫だよね。

 飛浩隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」。昭和52年の春、山陰の青野市。進学校である県立啄星高校に、二年の転校生が来た。印南棗。端正で洗練された雰囲気の女生徒だ。かつて青野氏に住み、久しぶりに戻ってきたらしい。印南と最初にあいさつしたのは三人、同じ二年の小野寺早都子と児玉佐知と志野原季子。その児玉は何か悩みがあるようで…

 待ってましたその2。オジサンには携帯電話もインターネットもない1977年の風景が懐かしい。首都圏には「ぴあ」があったが、それでも映画の上映情報を得るのは難しかった。映像メディアもデジタル化しておらずフィルムなので、珍しい映画は自主上映会などを漁るか、テレビの放映を待つしかなかった。などと遠い目をしていると、次第にアレなナニが侵入してきて…

 劉慈欣「三体Ⅱ 黒暗森林 プロローグ」大森望・立原透耶訳。2015年のヒューゴー賞長編小説部門をかっさらい、世界中の話題をさらった作品の第2部のプロローグを掲載。冒頭は大頭蟻の視点ではじまる。ヒトとは立ち位置も感覚もスケールも全く異なった観点で描く、世界の変転と生存の戦略と世界観が、心地よいセンス・オブ・ワンダーを生み出している。ちょっと「」を思い出した。あれの冒頭も凄かった。

 グレッグ・イーガン「故郷へのまわり道」山岸真訳。近未来。アイシャとジャンニのカップルは、旅行会社の抽選で月への旅行が当たった。厳しい訓練を経て、二人は月の<中央基地>へを訪れる。優れた専門家に案内され、水耕作物工場や太陽熱製錬所、そしてモラヴェック・スカイフックなどの見学を楽しむ二人だが…

 宇宙へ行く教師って、思わずスペースシャトル・チャレンジャーの事故(→Wikipedia)を思い出してしまう。実際、アイシャも通信ラグに悩みつつも生徒たちに遠隔授業したり。幸い、アイシャは無事に月にたどり着くのだが、扉絵で分かるように思いのほか長く滞在する羽目に。そういや月も自転してるんだよね。公転周期と同じだから、地球から見ると自転してないように見えるだけで。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第28回。<誓約の銃>のマクスウェルが、<白い要塞>を襲う。<シザース>の洗い出しが終わっているはずだ、一覧を寄越せ、と。特にベンヴォリオ・クォーツが候補に挙がっている事に、クインテットのメンバーも驚く。それを聞いたマクスウェルは、独自に突っ走り始める。

 足を洗ったとはいえ、荒事になると血が騒ぐアビーにニヤリとする。それ以上に今回は、レイ・ヒューズ老が美味しい所をガッポりさらってゆく。しかもガンマンだってのに、全く銃を抜かずにw 私は50~60代ぐらいのクリント・イーストウッドを思い浮かべながら読んだ。登場した時からタダ者じゃないと思っていたが、やっぱり。

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第10話 笑顔のゆくえ」。<アフロディーテ>開設50周年イベントの記録係として、銀塩写真家のジョルジュ・ペダンが候補に挙がった。しかしジョルジュは浮かない顔だ。「笑顔の写真」が彼の代表作とされる。そこに何か秘密があるようだ。ジョルジュの相手を任された健は、なんとか彼の心を解きほぐそうとするが…

 テクノロジーと人間の関わりを描くのが巧みな著者、今回も見事にカマしてくれた。銀塩写真って所に仕掛けがあるな、と思ったら、まあそうなんだけど、更にいくつかヒネリが入ってた。加えて、もう一つ最近の流行りの技術を取り上げつつも、ちゃんと歴史的な議論を踏まえた上で、著者らしい味付けを施すのも忘れていない。読みやすいながらも、実は濃いSFガジェットをしこたま仕込んである。

 高野史緒「本の泉 泉の本」。四郎と隆彦は、古本屋を漁る。四郎が最初に確保したのは、尾田利恵の唯一の詩集。その裏の書棚は、探偵小説が並んでいる。

 旅行に行っても旅先の古本屋に飛び込むような人には、「うんうん、そうなんだよな~」な情景が次々と描かれていて、それだけでお腹いっぱいになってしまう愛すべき作品。出版社の自主規制も時代と共に変わるので、昔の本はそういう所も面白かったりする。うんうん、あるよね、積極的に探すワケじゃないいけど、棚を漁って見つかったら儲けもの、みたいな本。ダブって買っちゃうのも、よくある。

 藤井太洋「マン・カインド」第10回。佳境に入った上に頁数も少ないので、内容は紹介しずらい。「まるで人力じゃない」には笑ってしまった。Google も Amazon も、「桁違いの記憶・演算能力をコキ使っていかに自動化するか」を徹底的に追及してるし。にしても彼ら、一人でディープ・パープルを演奏できるんでない? でもビートルズは難しいんだよね、彼らコーラスが多いから。

 「創刊60周年記念号」記念エッセイ。うん、確かに小尾芙佐によるキャロル・エムシュウィラー「順応性」の訳は見事だった。今は手に入りにくいのが残念。なんであんな名作が。ぐぎぎ。「アルジャーノンに花束を」に泣いた人は、ぜひ読んでみよう。水鏡子の経済感覚と見栄の変化が、とても他人事とは思えないw 山田正紀の「恥ずかしい思い出」も傑作。もっとユーモア作品も書いてほしいw スタニスラフ・レムからスタニスワフ・レムに変わったのは、ロシア語からポーランド語に変わったからなのね。森優の「SFを手掛ける出版社は必ず潰れる」なんて時代から、今はいい時代になったなあ。伴名練の「他人が編むアンソロジーの目次が見たい」、よくわかる。もうすぐ出る「SFが読みたい!2020年版」の「マイ・ベストSF5」は、そういう面白さがあるのだ。

 SFの射程距離 第2回 「歩行に魅せられて」として、ゲストは産業技術総合研究所上級主任研究員の梶田秀司。二足歩行ロボットの研究・開発に携わり、HRP-4C(→Wikipedia)などを担当している人。実は歩くって難しいってのは昔から言われてたけど、服を着るってのも、確かに難しそうだなあ。フランス人研究員が多い理由にも大笑い。あと軽量化の専門家って、確かに彼らはノウハウを沢山持ってそう。

 「Sai-Fi:Science and Fiction SFの想像力×科学技術」。劉慈欣の中国SF事情がやたら興味深い。「SFの冬は何度も来ました」「映画化の権利の価格が2010年から今に至るまで、百~百五十倍ぐらいに増えています」も衝撃だが、「中国では中学生・高校生・大学生がSFを読んでいます」も重大。1985年あたりの日本のゲーム市場みたいな状況にあるのだ。とすると、今後の市場は凄い勢いで伸びるはず。まあ、大きな政変がなければ、だけど。これはSFに限らず、流行歌など若者向けの市場全般に言える。たぶん映画や音楽も中国市場が大きな力を持つだろう。

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2019年10月31日 (木)

SFマガジン2019年12月号

「ここには自分の場所なんてないのよ」
  ――ブルース・スターリング「巣」小川隆訳

「統和機構って、何だと思う?」
  ――上遠野浩平「総裁人間は計算しない」

「聞いてないか? 昨日は史上初めて死者がゼロだったんだ」
  ――ピーター・トライアス「死亡猶予」中原尚哉訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は三つ。「テッド・チャン『息吹』刊行記念特集」、「第七回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表」、「小川隆追悼」。

 小説は13本。

 特集で5本。「第七回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表」で優秀章と特別賞の二本の冒頭、春暮康一「オーラリメイカー」と葉月十夏「天象の檻」。「小川隆追悼」でブルース・スターリング「巣」小川隆訳。「テッド・チャン『息吹』刊行記念特集」で「オムファロス」大森望訳,「2059年なのに、金持ちの子にはやっぱり勝てない DNAをいじっても問題は解決しない」大森望訳。

 連載は4本。椎名誠のニュートラル・コーナー「ズリズリをケトン膜で抽出した断剥種」,夢枕獏「小角の城」第56回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第27回,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第9話 笑顔の写真」。

 加えて読み切りが4本。ジーン・ウルフ「金色の都、遠くに在りて」後編 酒井昭伸訳,草上仁「嘘の藁」,上遠野浩平「総裁人間は計算しない」,ピーター・トライアス「死亡猶予」中原尚哉訳。

 春暮康一「オーラリメイカー」。遠未来。恒星系アリスタルコスは異様だった。九つの惑星のうち四つは、公転面が60度以上も傾斜しており、質量は水星程度、しかも極端な楕円軌道で近日点と遠日点が他の惑星の軌道すれすれを通る。この不自然な星系は意図的に作られたと考え、製作者を仮に星系儀製作者、オーラリメイカーと名づけ、≪連合≫加盟種族のうち五種族が共同で探査に赴く。

 オラフ・ステープルドンをベースに小松左京でダシを取りアーサー・C・クラークで和えデビッド・ブリンを添えたような、骨太で本格的な直球のSF。バラエティに富む五種族は知性化シリーズを、牙の場面はあの傑作カルトSF映画を、災厄が迫るあたりは小松左京を、そして稀有壮大な設定とタイトルからはオラフ・ステープルドンを思わせる。こういうのは大好きだ。早く続きが読みたい。

 葉月十夏「天象の檻」。まもなくシャサは十五歳、成年の儀式を迎える。しかし彼女がアタの場から出かけているうちに、集落が襲われ、皆殺しになった。戻ってきたシャサが見つけたのは、同じくらいの年頃の少年ナギ。襲撃者ではないらしい。山の北、『暁』の者だという。二人で弔いを済ませたとき、老若男女が入り混じった大勢の者が近寄ってきた。

 先の「オーラリメイカー」とは対照的に、古代の山がちな土地を舞台とした本格的なハイ・ファンタジイ。『暁』『蛇』『銀鱗』『巡礼団』などの部族、アタの場、識界、神人イナーなどの大きな仕掛けも魅力的だが、腰帯の文様など細かい所の作り込みも、力強く世界観を支えている。と同時に、冒頭から危機また危機が続くお話作りも巧い。

 ブルース・スターリング「巣」小川隆訳。<投資者>の手引きで、<工作者>のサイモン・アフリール大尉博士は<群体>の<巣>に潜り込む。そこは小惑星の内部だ。<群体>は宇宙に進出してはいるが、道具もテクノロジーも持たない。何より、宇宙にでた種族としては唯一、基本的に知性を持たない種族なのだ。

 看板の<機械主義者>vs<工作者>シリーズの一つ。メカを信奉する機械主義者、生体改造を進める工作者。この作品では工作者が主役を務め、異星人<群体>の巣に潜入する。この巣の中の描写が、なんともおぞましい。生態はアリみたいなんだが、それぞれの個体は地虫みたいな雰囲気ながらバラエティに富んでいて…。覚悟して読もう。

 ジーン・ウルフ「金色の都、遠くに在りて」後編 酒井昭伸訳。夢の中では山脈を目指し旅を続けるビル。現実世界のビルは憧れのスー・サムナーとの関係は深まり、フットボールでは一年生ながらラインバッカーのポジションをかちとり、ダイナおばさんは若く美しくなる。

 ますます異世界転生物の俺Tuee設定っぽい展開で、「え、ジーン・ウルフって、こういうの?」とか思ってたら、終盤で更に意味不明な方向に。すんません、誰か解説してください…って、直後に訳者の酒井昭伸の解説があるけど、やっぱりわからなかった。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「ズリズリをケトン膜で抽出した断剥種」。異様な惑星に残ったナグルスと市倉は、そこにあった総合研究所を訪れ、そこに滞在することにした。ベドレイエフ博士に差配人手伝いのランプを紹介され、彼に部屋へ案内される。ランプが言うには、人の出入りが多いとのことだが、ここを出てどこに行くというのか。

 ランプは頭のてっぺんに光る電球がついているし、市倉の隣の部屋の者はひっきりなしに大きな声で喋っている。おまけにこの星の名前はインデギルカ。異様な星に異様な施設、そして異様な奴ら。まあ、もともと、ラクダの胎内で旅をする男なんて異様な設定で始まった話だけど、果たしてお話はどこに向かうのか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第27回。一時的に<クインテット>を率いるバジルは、バロットとの戦闘からいったん撤退を始める。あわてて逃げるのではなく、傷つき動けぬ者を回収しながらの組織だった撤退だ。だが戦闘は終わらない。ストーンとアビーに合流したバロットに、次は<クインテット>に代わり<誓約の銃>が襲い掛かる。

 登場人物一覧にボイルドの名があると、今でもドキリとする。<誓約の銃>はただの銃器ヲタクかと思いきや、やはりいましたエンハンサー。いいなあポリポッド。流行ってるレストランのランチタイムで働いたら引く手あまただぞ←違う 次のビートルは、まあ、なんというか、仮面ライダーV3あたりに出てきそうな。体勢的に射線は安定しそうな感じだけど。

 上遠野浩平「総裁人間は計算しない」。川沿いの繁華街で飲みながら語る三人。交換人間のミナト・ローバイは明るく喋りまくり、つまらなそうに受け答えするのは監査部門のギノルタ・エージ,そして時おりミナトに絡まれては言葉に詰まるギノルタの部下デューポイント。話題は、製造人間ウトセラ・ムビョウに始まり、憎悪人間カーボンへの統和機構からの脱走へと移り…

 陰険な奴ばかりが出てくるこのシリーズ、上の三人のうち誰かとサシで飲む羽目になったら、誰がいいかと考えたら、うーん。ミナトなら話は弾む、というか勝手にいろいろ喋ってくれそうだが、何を巻き上げられるかわかりゃしない。ギノルタ相手じゃ何を話しても尻つぼみで終わりそうだ。デューポイントなら上司の愚痴で盛り上がれるかもw

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第9話 笑顔の写真」。<アフロディーテ>開設50周年企画の一つとして、ティティが企画をネジ込んできた。記録係の一人にジョルジュ・ペタンを採用しろ、と。銀塩写真にこだわる48歳のジョルジュは「笑顔の写真家」と呼ばれ、世界各地の人びとの笑顔を写真に収めてきた。代表作「太陽の光」はチリのマプチェ族の幼い男の子を撮ったもの。だが、今のジョルジュの表情は…

 今回は前後編の前編のみ。お騒がせキャラクターのティティ、今回は軽い顔見せだけ。まあ面倒を持ち込んでは尻拭いを健に任せるあたりが、ティティらしいというか。冒頭から美術品闇取引やらクラッキングやらはぐれAIやらと物騒なネタや、「太陽の光」にまつわる怪しげなクレームなど、伏線バリバリ。にしても銀塩写真とは、面白いネタを見つけてきたなあ。

 草上仁「嘘の藁」。4頁のショートショート。校内のいじめが原因とみられる、少年の自殺事件。少年の父親、学校の教師、いじめの加害者、少年にプリントを届けに行ったクラスメート、それぞれの証言はみな食い違い…。

 テッド・チャン「オムファロス」大森望訳。考古学者のドロシーア・モレルは、講演会でシカゴーを訪れる。そこでいとこのローズマリーから妙な話を聞いた。博物館のギフトショップで、原始のアワビの貝殻を買った、と。今のところ、原始のアワビの貝殻が発見されたのは一か所しかない。

 書き出しの「主よ」や「シカゴー」「モンゴリア」で「おや?」と思わせつつ、樹木の交差年代決定法や貝殻の成長輪など、至極まっとうな考古学の手法で安心させた後で、「どひゃあ!」な世界観をサラリと示す。が、この作品じゃ、それすら前菜なのが凄い。ある意味、科学は私たち人間を特権的な地位から「ありがちな生命現象」に引きずりおろし続けてきたんだよね。

 同じくテッド・チャン「2059年なのに、金持ちの子にはやっぱり勝てない DNAをいじっても問題は解決しない」大森望訳。3頁の掌編。遺伝子平等化プロジェクト。遺伝子技術は発達したが、知力強化など高価な遺伝子操作は低所得層には手が届かない。そこで低所得層500組の子どもに知力強化を提供したが…

 荻生田文科省大臣の「身の丈」発言が話題になっている現在の日本にとっては、あまりにタイミングが良すぎる作品。最近のノーベル賞といい、もしかしたら早川書房はタイムマシンを隠し持ってるんじゃないかと疑いたくなる。短いわりに中身はズッシリと重い作品。

 ピーター・トライアス「死亡猶予」中原尚哉訳。バイロン・デュウェイはポータリストだ。黄泉ポータルで次元断層が発生し、現実で赤が消えた。次元断層を閉じるため三日三晩の連続勤務をこなしたバイロンは、友人のビビアンを引き取るため警察に行く。ビビアンはタチの悪いヒモに食いつかれているが、別れる気はないようだ。帰り際、交通事故を見た。負傷者は体が真っ二つなのに生きている。

 書きたてでまたインクが渇いていないホカホカの原稿みたいな感触の作品。いやきっと著者も訳者も手書きじゃないだろうけど。ビビアンは日本でいう地下アイドルっぽい。これも Youtuber みたく過激化してるあたりが、著者らしい。さて、人が死ななくなったら、どうなるか。いや確かにそうなんだけど、巧いわw

 新連載「SFの射程距離」、第1回は「思考のストッパーを外せ」として東京大学大学院情報学環教授の暦本純一。AI研究者にインタビューし、SF作品が現実の科学研究に与えた影響を探る企画。やっぱりSFを読んでる研究者って多いんだなあ。言われてみるとHAL9000の人型でない人工知能って発想は斬新だった。「現実世界が沈没しているときに“沈没した小説”は書けない」って、確かにね。

 柿崎憲「SFファンに贈るWEB小説ガイド」第10回「来る!悪役令嬢ブーム!」。悪役令嬢って言葉は見かけるけど、何なのか分からなかったが、そうだったのか。ってんで「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」を読み始めたら、これヤベェわ。一気にハマって数時間トリップしてしまった。

 東茅子「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」、今回は「今年の受賞作・注目作総まとめ」。キャサリン・M。バレンテ「スペースオペラ」が、すんごい面白そう。作品名がジャック・ヴァンスのアレとカブってるだけじゃなく、内容もちょいアレだし。私としては主人公?デシベル・ジョーンズにジョー・ウォルシュあたりを充てて楽しみたい。

 なんと次号から神林長平の雪風シリーズと飛浩隆の廃園の天使シリーズが連載開始だあああぁぁぁっっっ!!!

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2019年9月 1日 (日)

SFマガジン2019年10月号

137機動旅団には、伝統ともいえる不文律があった。どれほど過酷な戦闘であっても、決して非戦闘員を傷つけてはならない。
  ――谷甲州「137機動旅団 新・航空宇宙軍史」

あそこへいかなきゃ。なぜかはわからないが、あの都に行かなきゃ。あそこにたどりつきさえすれば、それ以外のことはもうどうでもいい。
  ――ジーン・ウルフ「金色の都、遠くに在りて」酒井昭伸訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は三つ。メインは「神林長平デビュー40周年記念特集」、次いで「ジーン・ウルフ追悼特集」。特集とは言ってないけど「なめらかな世界と、その敵」刊行記念は伴名練の小特集と言っていいよね。

 小説は8本。

 まず「神林長平デビュー40周年記念特集」で短編「鮮やかな賭け」。「ジーン・ウルフ追悼特集」は4本、「ユニコーンが愛した女」柳下毅一郎訳,「浜辺のキャビン」村上博基訳,「太陽を釣り針にかけた少年」中村融訳,「金色の都、遠くに在りて 前編」酒井昭伸訳。

 連載は2本。椎名誠のニュートラル・コーナー「みんなかたぶつばかり」,夢枕獏「小角の城」第55回。

 そして読み切りが凄い。なんと谷甲州「134機動旅団 新・航空宇宙軍史」450枚を一挙掲載だ。

 まず神林長平「鮮やかな賭け」。わたしの許嫁は、ろくでもない男だ。見かけだけはいいが、何も考えてない。村の女には人気があるせいで、わたしは妬まれてしまう。その許嫁が変な賭けを持ち出した。「ぼくが丸一日、女と口をきかないでいられるかどうか」。受けたのはいいが、あの男が負けを認めるとは思えない。そこでオバアに相談に行ったが…

 最初は、文明化以前か、または文明崩壊後らしき舞台で、若いカップルのいさかいで話が始まる。が、オバアが登場するあたりで、色々とあやしくなってきた。以後、読者が思い込んでいた舞台設定はコロコロと裏切られ…。デビュー当時、P. K. ディックとよく比べられた著者らしく、オマージュも散りばめて、短い中に芸をギュッと詰めこんだ作品。

「ジーン・ウルフ追悼特集」の最初は「ユニコーンが愛した女」柳下毅一郎訳。遺伝子操作で作られたユニコーンが、大学のキャンパスに逃げ出した。遅れたら軍隊に射ち殺されてしまう。なんとか無事に逃がそうと、教授のアンダーソンとデュモンは急ぐ。学生たちがユニコーンを取り囲む中、一人の女生徒が飛び出し…

 そうか、ユニコーンも眼鏡っ娘が好きなのか←そうじゃない こういう幻獣を扱った話は、ラリイ・ニーヴンのシリーズもあったなあ。あれとは違って、本作はテクノロジーが生み出した生物。途中でアンダーソンが語る、ユニコーンの由来が楽しい。

 続いて「浜辺のキャビン」村上博基訳。ティモシーの父ライアンは、アイルランドから来た。今は政治家として成功している。息子のティモシーは、恋人のリッシーと浜辺のコテージでくつろいでいる。その日、ティモシーは船を見た気がした。マスト徒と帆、そして煙突を備えている。そして次の朝…

 アイルランド出身、七番目の息子、そして名前がティモシー・ジュニア。それぞれ深い意味がありそうなんだけど、私にはよくわからない。とまれ、最後のオチは鮮やかで、ちょっとフレドリック・ブラウンなど50年代のSF短編の香りがする。

 「太陽を釣り針にかけた少年」中村融訳。3頁の掌編。アトランティスの浜辺。若く愚かだった太陽は、少年の投げた餌に食いついてしまった。太陽は暴れ、または死んだふりをして逃れようとするが、少年は釣り竿を巧みに操って、太陽を逃がさない。

 馬鹿話のような、童話のような、または異国の民話のような。

 「金色の都、遠くに在りて 前編」酒井昭伸訳。ウィリアムは高校生。このところ、いつも同じ夢を見る。砂浜にいて、遠い山のむこうに美しい都がある。さまざまな高さの数かぎりない金の塔がそびえたち、色とりどりの旗が翻っている。そこに向かってウィリアムは歩き始める。いくつかの砂丘を越え入り江にさしかかったとき、金のリンゴを持つ裸の若く美しい娘に出会い…

 夢の中で裸の美少女や毛の長い犬に出会うティモシーは、それをノートに書き留めてゆく。やがて現実でも憧れの娘スーと仲良くなり、なんて展開は、最近流行りの異世界転生物を思わせる展開。金のリンゴを持つ美少女は見当がついたけど、ソコに冷静に突っ込むんかいw

 谷甲州「137機動旅団 新・航空宇宙軍史」。惑星ジャヌーは、多くの国が争っている。そこに地球系の住民が大挙して移住し、少数派ながらも支配権を握り、技術レベルも20世紀後半程度に凍結した。これに不満を抱いた原住民は武力で蜂起する。

 これを抑えるため、航空宇宙軍は137機動旅団を投入した。陸戦隊では最強と言われる部隊だ。中でも矢沢少尉が率いる偵察大隊は、最も危険で厳しい役割を受け持つ。先陣として敵の拠点に強行着陸し、橋頭保を確立し本体到着まで維持する。また敵の情報が不足している際は、強引に攻撃することで敵の出方を窺う場合もある。今回の目的は、ジャヌー上の軍事大国ドムジェの国家防衛軍を制圧すること。

 大気圏に突入し、着陸予定地点に向かう輸送機は、猛攻撃を受け…

 文句なしの長編を一挙に掲載だ。太っ腹だなあ。軌道上から急襲し、「アーマー」で暴れまわる偵察大隊は、ハインラインの名作「宇宙の戦士」とタブる。役割も似たようなものだ。ただし、「宇宙の戦士」の軌道歩兵は、一発食らわしてすぐ引きあげるのに対し、今作の偵137機動旅団は敵地を占領するまで居座るのが違う。この差は大きい。

 元は1979年発表の短編だから、ベトナム戦争を意識した作品だろう。しかし、作品の衝撃は全く衰えていない、どころか更に鋭さを増している。悲しい話だ。現代だと、イラクやアフガニスタンを思い浮かべながら読むといい。兵器の性能でも将兵の練度でも、米軍は圧倒的な優位だ。にも関わらず、いつまでたっても平定できない。そんな米軍の姿が、137機動旅団の姿に重なって見えてくる。

 これは偵察大隊の職務にも表れている。強行着陸&橋頭保維持はともかく、問題は威力偵察だ。その目的は、敵のドクトリンのデータを集めること。

 これがいかに馬鹿げた話か。

 ドクトリンのデータを集めるとは、突き詰めれば相手の考え方を理解するって事だ。相手が何を考えているかわからない、だからとりあえずブン殴って様子を見る。偵察大隊の職務は、そういう事だ。愚かにもほどがあるが、実際にイラクやアフガニスタンで USA はそういう真似をやらかしている。詳しくは「ブラックフラッグス」や「アメリカの卑劣な戦争」をどうぞ。

 などの重く苦しい主題は置いて。それ以外は全編が戦闘シーンと言っていいぐらいの、派手な爆発炎上の連続だ。しかも、キッチリと現代の軍事技術を取り込んでいる。冒頭の対空防衛網のあたりは、「エア・パワーの時代」の予言そのもの。戦い方によっては航空戦力があまり頼りにならないのは、シリア内戦が証明している。

 陸上の戦闘でも、圧倒的なテクノロジーと火力を誇る偵察大隊が、ヒヤヒヤする場面の連続だ。ハイテクの塊「アーマー」を着ていても、通信が切れると途端に強い不安に襲われる。こういう場面では、戦場で絆が培われる理由がわかる気がする。隣に戦友が居る、それだけで随分と心強くなるのだ。

 今までのSFは、原住民の視点で描かれることが多かった。それを敢えて航空宇宙軍の視点で描くことで、ただでさえ重厚なテーマが更に息苦しさを増している。CNN が映す砲火の下で、何が起きているのか。それを私たちに見せつける、衝撃の作品だ。

 最後に、どうでもいい話だが。

 SFマガジンの文字数がどれぐらいか、計算が面倒臭いので今まであまり考えなかった。が、今回の谷甲州「134機動旅団 新・航空宇宙軍史」で、大雑把に見当がついた。この作品、約110頁を占めてる。450枚で110頁なら、1頁あたり約4.1枚だ。挿絵や広告が入ってるし、記事によってレイアウトも違うから、かなりの誤差が出る。それでも、376頁なら1,542枚で、文庫本なら上中下の三冊分ぐらいの文字数、と計算できた。いや「それが何の役に立つのか」と聞かれたら答えられないけどw

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2019年7月 8日 (月)

SFマガジン2019年8月号

「ぼくの掲げる理念はつねに、すべての人が自分らしく生きて、自分の信じる価値を追求することだ」
  ――宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳

「このに入るときに銃を取り上げないのは、どのみちエンハンサーから能力を取り上げることはできないからだ」
  ――冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回

里見:そこはゆるく考えましょう。『ウテナ』の百合は、SFでいうとグレッグ・イーガンのようなものですよ。
溝口:『けいおん!』の百合はケン・リュウのようなものですね。
  ――イベント採録:SF雑談4 世界の合言葉は百合
    堺三保/里見哲郎/宮澤伊織/梅澤佳奈子(コミック百合姫編集長)/溝口力丸(本誌編集部)

 376頁の標準サイズ。

 特集は二つ。メインは「『三体』と中国SF」。次いで「『ガールズ&パンツァー』と戦車SFⅡ」。

 小説は13本。まず特集「『三体』と中国SF」として4本、王晋康「天図」上原かおり訳,何夕「たゆたう生」及川茜訳,趙海虹「南島の星空」立原透耶訳,宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳。次いで特集「『ガールズ&パンツァー』と戦車SFⅡ」でティモシー・J・ゴーン「子連れ戦車」酒井昭伸訳。

 連載は4本。椎名誠のニュートラル・コーナー「景気のいいチビ惑星の安売り火山」,冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回,藤井太洋「マン・カインド」第9回,夢枕獏「小角の城」第54回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第8話 にせもの」,上遠野浩平「変身人間は裏切らない」,草上仁「エアーマン」,小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」冒頭。

 まず特集「『三体』と中国SF」。

 王晋康「天図」上原かおり訳。重度の自閉症である16歳の少年、張元一が心血を注いで描いたという「天図」。何かはわからないが、科学に関係しているかもしれない。いくつかの分野の数十人の科学者に問い合わせたが、返事が来たのは沈世傲のみ。若いながらも高い評価を得た科学者で、囲碁の愛好者だ。時間をかけて調べてみたいと言う。

 中国だと AlphaGo は阿法狗になるのか、なんて変なことに感心しつつ。そんなAIの進歩に棋士たちが抱える想いを足掛かりに、優れた才能を持ちつつも重い障害を抱える少年と、少年に細やかな愛情を注ぐ祖父の姿を描いてゆく。主人公らの動きは日本だと公私混同とも言われかねないが、こういう軽快なフットワークが中国の躍進を支えているのかも、などと思ったり。

 何夕「たゆたう生」及川茜訳。現在、灰灰は負のエントロピーを有する正の世界にいる。エネルギーの身体は、光の速度で動ける。鶯鶯の父・敖敖は、二百年にわたり実験を続けた末に鶯鶯を目覚めさせ、鶯鶯の身体を物質から解放した。今、鶯鶯は負の世界にいる。こちらのプランク定数は負の値だ。

 エントロピーだのプランク定数だのと使われている言葉はグレッグ・イーガンっぽいが、そこに描くビジョンはむしろバリトン・J・ベイリーのような気がする。つまりクレイジーながらも壮大なのだ。負のプランク定数なんて発想からして、やたらクラクラしてくる。終盤に出てくるブラウンワームも「そのブラウンかい!」と見事にしてやられた。

 趙海虹「南島の星空」立原透耶訳。平安市はスモッグに苦しんでいた。それを避けるため、二十個のドーム環境・珍珠城を作り上げる。これは人を二つに分けた。珍珠に住む資格のある者と、資格のない者。天体観測者の啓明と、環境保護業務に携わる天琴の夫婦も。天琴は十歳の娘・小鴿を連れ、珍珠に移る。スモッグのため天体観測は難しくなっていたが、啓明は自分の道を諦められなかった。

 今でも中国では信用スコアが浸透している。この作品でも、珍珠の居住資格は順位をつけてリスト化している。こうやって人の優劣を基準に沿ってハッキリさせちゃうのは、科挙の影響なんだろうか。冷酷で残酷ではあるけど平等で合理的でもあるんだよね。少なくともタテマエでは。そんな社会でも、人は足掻くのだ。短いながらも、しっとりした気持ちになる作品。

 宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳。感覚までもリアルタイムで共有できる感覚配信。チャールズ・マンは、その感覚配信のスターだ。航空艇<ペガスス>号を駆るパイロットであり、作家でもある。彼のファンは世界中で億を超える。今日、チャールズは太平洋横断選手権のため、アメリカから東京へ向かっていた。

 蒼井みやび(蒼井そら)はともかく朝倉南って、をいw それぞれモデルに沿った役柄なのも、よくわかってらっしゃる。リアルタイム配信のスターだけに、街中でファンと出会う場面も、よくできてるw 感覚の配信でどんなのが人気になるかというと、アレは当然として、やっぱりスポーツなんだろうか。

 立原透耶「『三体』のその後」。やはりヒューゴー賞受賞の影響は、中国国内でも大きかったようで、それまで「子供の読み物」だったSFが、純文学誌や新聞にも載るようになったとか。おまけに企業はもちろん政府まで国内外で支援してるというから羨ましい。

 陸秋槎「傷痕文学からワイドスクリーン・バロックへ」。「傷痕文学とは、文化大革命を経験した作家たちが時代の傷痕を描いた作品群」って、今の中国はソコまで書けるのか。なんか印象が大きく変わるなあ。「≪三体≫以外のSFをあまり読んだことがない『自称』SFファンも少なくない」って所で苦笑い。日本でも「日本沈没」が当たった頃はそんな感じだったかも。あ、でも、ゴジラがあったか。

 大森望の新SF観光局 第68回 『三体』こぼれ話。特集には入ってないけど、内容的に特集の続きみたいなもん。「中国語できないのに中国SFを中国語から訳す仕事」って、どうやるんだw

 特集「『三体』と中国SF」はここまで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「景気のいいチビ惑星の安売り火山」。奇妙な惑星を発見したニュースは、インデギルカ号に大騒ぎを引き起こす。興奮した乗客たちの勢いに押され、艦長は惑星への往復シャトル運航を決定する。ナグルスと市倉は現地滞在スタッフとなり、チコはシャトルの運航に携わる羽目になった。

 今回は、かなり急いで原稿を書いた雰囲気がある。インデギルカ号って、実はやたら大きな世代交代宇宙船だったのね。「しめつけツナギ」「宇宙おむつ」なんて命名が、微妙にマヌケで、いかにもシーナなセンスだ。

 冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回。ハンターは街の裏を仕切る面々を集め、協力を呼びかけようとする。だが<誓約の銃>の代表マクスウェルは、ケイトら<戦魔女>を挑発し、場を荒らしにかかる。バジルがなんとか騒ぎを抑えた後に、ハンターは会合の目的を、そして自らの目標を打ち明け…

 前半では、一触即発の緊張感あふれる悪党どもの会合の場面。みんな悪党だけあって、スキあらば美味しい立場を奪おうと誰もが狙っている。そんな油断ならない連中ばかりの組織を、ナンバー2としてまとめなきゃいけないバジル君の苦労が、ヒシヒシと伝わってくる。後半はバロット視点に移り、雰囲気もガラリを変わって…

 上遠野浩平「変身人間は裏切らない」。早朝、犬のモロボを連れて散歩するコノハ・ヒノオは、懐かしい顔を見た。ボンさんと呼ばれる老人だ。だが、何か違う。黙ってすれ違ったとき、老人から声を掛けられる。ヒノオが感じたとおり、別人だった。だが老人は別人と見破られたことに驚く。しかもフォルテッシモを恐れているらしい。

 「変装さん」はいいねえ。もちろん、統和機構の合成人間です。ブギーポップ・シリーズは外から見た統和機構を描くのに対し、このシリーズは合成人間の視点で統和機構の内幕を書いてるんだけど、やっぱりよくわからない。

 ティモシー・J・ゴーン「子連れ戦車」酒井昭伸訳。ケンタウルス座α星系の主惑星。人類はこの惑星をテラフォームしたが、やがて去った。現在、この惑星を管理しているのは、人類が作り出したロボットたちだ。電脳戦車の<古兵>は、ニュー・モールデン市へ急ぐ。<二倍幅>との子作りの許可が下りたのだ。

 人類なきあとも、その創作物たちは戦いを続けていた…って、バーサーカー・シリーズかよw マシンばかりの世界観が気持ちいい。マグマ級のスペックの馬鹿々々しさに大笑いw 戦車である必要はあるのかw その使い方も、まあ、なんというか。中盤に出てくる図書館の場面は、思わずため息が漏れそうな壮観。いいなあ、そんな図書館があったら、住みつきたい。

 小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」冒頭。ガス惑星ファット・ビーチ・ボールの主力産業は漁業だ。ただし漁場は海じゃないし、獲物も魚じゃない。漁場は惑星大気、獲物は昏魚。昏魚は大気の上層と中層のあいだを飛ぶ生物で、深層にある炭素・珪素に加え窒素・酸素・塩素なども含んでいる。普通、漁師は男女のペアで漁に出る。だがテラのパートナーは…

 百合アンソロジー『アステリズムに花束を』収録作品の冒頭のみを掲載。舞台は遠未来の異星系、木星みたいな巨大ガス惑星。そこで異星生物を狩る漁師が主人公って、どこが百合なのかと思ったら、ちゃんとそういう設定になっていたw しかも、自然環境だけでなく、テラたちが暮らす社会の構造まで作り込んでるから、そういう点でも美味しそうな作品。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第8話 にせもの」。アフロディーテ五十周年として、絵画・工芸部門は贋作展覧会を企画した。贋作と真正品を並べ、違いを比べるのだ。同じころ、問題が持ち上がった。<都会焼>の「片桐彫松竹梅」とそっくりの壺が古美術商で見つかったのだ。来歴も同じで、違うのはシールだけ。そのシールは…

 今回は美術品の贋作騒ぎに、ペテンを絡めた話。たしかに贋作展覧会は面白そうだなあ。古美術商ってのも胡散臭い業界で、素人が下手に手を出すと痛い目を見る世界みたいで、しかもソレを込みにして業界が成り立ってる風があるから油断できない。今回は兵頭健の「失言」と同じことを考えてしまった。

 藤井太洋「マン・カインド」第9回。チェリー・イグナシオやレイチェル、そしてトーマ・クヌート。彼らは人間離れした能力を持つ。その秘密を握るゼペット・ファルキ博士は、何者かに射ち殺された。そして、今なお「彼ら」と同じ子供たちが生まれている。チェリーたちは脱出を試みるが…

 そういえば藤井太洋はデビュー作 Gene Mapper でも遺伝子改造技術を扱ってたなあ。私ももちっと賢いイケメンで髪も豊かに生まれたかった…って、そうじゃない。難しそうなのは層下視で、これに対応できる脳を持つってのは、どんな気分なんだろう。今の私たちとは、まるっきり違う現実の中で生きてるんだろうなあ。

 草上仁「エアーマン」。稀代のエア・アーティストが亡くなった。エア・ギター、エア・相撲、エア・クッキング、エア・クラフト…。幾つもの分野で、彼は本物のように装うことができた。刑事も実はエア死ではないかと疑ったのだが…

 3頁のショートショート。エアーマンって、そういう意味かいw しかもオチが酷いw それはともかく、久しぶりに草上仁の短編集が出るのは嬉しい。まさかエア告知じゃないよね?

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2019年5月 1日 (水)

SFマガジン2019年6月号

「おれはおれを、君に託す」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」

「俺たち、どうなってしまったのかな?」
「地獄に堕ちたのさ」
  ――サム・J・ミラー「髭を生やした物体X」茂木健訳

この二人は俺とは違う。
  ――藤井太洋「マン・カインド」第8回

 376頁の標準サイズ。

 特集は三つ。メインは「追悼・横田順彌」。次いで「栗本薫/中島梓没後10年記念賞特集」と「小川一水『天冥の標』完結記念特集」。

 小説は11本。まず「追悼・横田順彌」として横田順彌の2本、「かわいた風」と「大喝采」。連載は4本。椎名誠のニュートラル・コーナー「巡回軌道」,冲方丁「マルドィック・アノニマス」第25回,藤井太洋「マン・カインド」第8回,夢枕獏「小角の城」第53回。

 読み切り&不定期掲載は5本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第7話 一寸の虫にも」,小川哲「ムジカ・ムンダーナ」,小野美由紀「ピュア」,琴柱遥「讃州八百八狸天狗講考」,サム・J・ミラー「髭を生やした物体X」茂木健訳。

 まずは特集「追悼・横田順彌」。

 横田順彌「かわいた風」。焼けはて、かわききった星に、宇宙放浪者ロアはいた。空は青く澄んでいるが、生きるものはいない。/ライフヘルパーが、キャサリンに歴史を教えている。最近のキャサリンは、なかなかいうことを聞かない。/フランクとパトリシアの夫婦は、スイスへの移住を考えている。戦争ばかりを考える政治家に嫌気がさしたのだ。

 1976年の発表。米ソが核兵器を突きつけ合う冷戦のさなか、という時代背景が色濃く出た作品。さすがに正面切ってのメンチの切りあいこそなくなったものの、核兵器は減っちゃいないどころか、プーチンの軍事戦略はは核を前面に押し出したもので、物騒な状況は今も変わっていない。

 横田順彌「大喝采」。明治44年12月2日、鵜沢龍岳と黒岩時子が、押川春浪の家に訪ねてきた。話題は噂の活動写真「ジゴマ」から、妙な方向へと流れが変わる。陛下に関わる話だ。それというのも、先月の肥筑平野の大演習に行幸のおり、陛下は活動写真をご覧になったのだが…

 お得意の押川春浪物で、細かい時代考証が楽しめる作品。「ジゴマ」はともかく、「ニチ」「ヒルム」「セイキスピヤー」なんて言葉が、時代の香りを伝えてくる。弁士次第で映画の出来が変わるってあたりは、サイレントならではの味。案外とMADが、その伝統を受け継いでたりして。そういえば、なぜ字幕って発想がなかったんだろう? 当時のフィルムじゃ難しかったんだろうか?

 横田順彌「ぼくの亜米利加旅行」。1975年(だと思う)、鏡明・荒俣宏・伊藤典夫と共に、ロスアンジェルスSF大会やサンフランシスコとニューヨークを巡った旅行記。筆者のサービス精神が伺えるユーモアあふれる文章が楽しい。ポール・アンダースンの隣の席とか羨ましすぎる。にして、アメリカに行ってまで古本を漁るとはw

 以上、特集「追悼・横田順彌」はここまで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「巡回軌道」。インデギルカ号から、深宇宙探査用のロケットに乗り込み、チコと市倉、そしてナグルスの三人は、目的の惑星に向かう。早いスピードで自転する中心惑星を、ドーナツのような外惑星が取り囲んでいる。ただし外惑星は、食い散らかされたように幾つかに割れている。

 扉のイラストで、やっと「あ、そういう事なのね」と舞台の形が分かった。宇宙探査と名前は偉そうだが、この人が書く人物の旅ってのは、どいつもこいつも行き当たりばったりな感じがぬぐえないのは、やっぱり筆者の行動様式を反映してるんだろうかw

 冲方丁「マルドィック・アノニマス」第25回。バロットはイースターズ・オフィスなどの協力を得て、<クインテット>のアジトを襲い、ウフコックを取り戻す。たちまち抜群のコンビネーションを発揮するバロットとウフコックは、<クインテット>と互角以上に渡り合う。特にバジルとは交渉の余地があると感じ取ったバロットは…

 今回もアクションは少ないが、相変わらず緊張感が漂う展開が続く。しかも<クインテット>の内情が明かされるにつれて、バジルにも肩入れしたくなるからややこしい。法が通用しない分、バロットより苦しい立場なのかも。トゥイードルディの性格って、某書のジョン・アンダーソンに似てるなあw

 小川哲「ムジカ・ムンダーナ」。フィリピンの小さな島、デルカバオには、五百人ほどのルテア族が住んでいる。彼らには独自の文化がある。音楽を取引に使うのだ。高橋大河は、目的があってデルカバオに来た。もっとも裕福な男が所有し、一度も演奏されたことのない、もっとも価値のある音楽を聴くために。

 よく言われるように、貨幣ってのは不思議なもので、価値があると多くの人が信じるから価値がある。誰も聴いたことがないのに、なぜ価値があると思われているのか。とかの謎はともかく、私は音楽のネタだと、頭の中で次々と音楽が鳴りだして、なかなか文章に集中できないんだよなあ。冒頭のロブの話でも、AerosmithのDUDE(→Youtube)やScorpionsのSteamrock Fever(→Youtube)が鳴りだして…

 小野美由紀「ピュア」。衛星ユングには15歳から18歳のメスが住む学園星だ。月に一度、レッド・トーンの期間中に地上に行き、“狩り”をする。男と交わり、終われば食べる。卒業後、私たち特Aクラスは上級士官として軍の服役が待っている。だが子供をたくさん産めば“名誉女性”となり兵役免除だ。ヒトミちゃんは美しい。全身が宝石箱みたく輝く翡翠色の鱗に覆われ…

 ちょっと芸風は鈴木いづみに似てるかも。マミちゃん、そんなにがっついたら、そりゃできるモンもできませんがなw 男女の肉体の強さが入れ替わり、生殖がテーマとなれば暗くなりがち。しかも事後には女が男を喰っちゃうし。でも性欲と食欲を強く結びつけ、主人公のユミが多少能天気なあたりが、スプラッタながらも明るい雰囲気に仕上がってる。いやほんとグチュグチュヌラヌラなんだけどw

 サム・J・ミラー「髭を生やした物体X」茂木健訳。ヘリ操縦士のマクレディは、全滅したマクマード南極観測基地から、かろうじて生きて帰った。だが、彼はときおりマクレディではない。その間、マクレディには記憶がない。何かがマクレディの身体を乗っ取っている。ニューヨークでマクレディはかつての恋人ヒューと出合う。そしてヒューを吸収し…

 映画「遊星からの物体X」に捧げる一編。「命がけで南極に住んでみた」によると、南極基地でも定期的に上映されるとか。食われた者の視点ってのが面白い。と同時に、同性愛や人種問題、そして「遅れちてきた移民」などを巧みに盛り込んでいる。そうか、だからマクレディなのか、と感心した。でもアレには勝てないってのは、SFの伝統?

 琴柱遥「讃州八百八狸天狗講考」。讃州丸亀京極氏屋形で怪異があった。便所から手が出て女の尻を撫でる。輪弥という若侍がそれを聞き、女物の小袖をかぶり便所にはいる。すると下から毛むくじゃらの手が出てきたので、脇差で切りつけた。キャッと声がし、残ったのは狸の前足。以後、便所の怪異はなくなった。あくる年、輪弥の枕元に…

 渡辺綱の鬼の腕ならぬ狸の腕かいw 讃州で八百八狸ってあたりは、いかにも由来がありそうだし、どこまで本当でどこからが作り話かと思ったら、どんどんとんでもない方向に話が向かってw だから二億五千年なのかw やっぱり狸ってのは、どうにもユーモラスな方にいっちゃう生き物でw オチもヒドいw

 藤井太洋「マン・カインド」第8回。これも話が佳境にさしかかったためか、ネタバレせずに内容を紹介するのは難しい。現在の技術革新が続けば、間違いなくこういう技術も使われ始めるだろう。昔からあるテーマだけど、時代的にも技術的にも「今、そこにある」問題だけに、深く考え込んでしまう。果たして移行は平穏に進むんだろうか。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第7話 一寸の虫にも」。兵頭健は憂鬱だ。今回の任務は探し物。しかも27匹。<デメテル>空港から逃げ出したタマムシの捕獲だ。ただのタマムシじゃない。遺伝子改造され、七センチほどに大きくなった、俗称ニジタマムシである。繁殖方法は不明で、下手をすると大増殖して生態系を破壊しかねない。

 イシードロって、どっかで聞いたような名前だなw お気楽極楽な性格が、いかにも南欧人。その弁護士もいい性格してるw それより変人ぶりが際立ってるのが、昆虫担当の学芸員カミロ・クロポトフ。学者さんにありがちなタイプだよね。ピントが合ってる時と合ってない時の落差が凄い人。にしてもニジタマムシ、ニール・ショーンあたりはすぐ気に入りそうだなあ。

 池澤春奈「SFのSは、ステキのS」。ヒトの体は少しづつ入れ替わるのを「モー娘。パラドックス」って、をいw プロ野球チームもそうだよね。次々と選手が入れ替わるのに、チームとしては同じ。これが大学や高校のチームだと、もっと入れ替わりが速いんだけど、それでもファンは「同じチーム」として認識してる。音楽だとベンチャーズとか。ディープ・パープルは…イアン・ペイスがいるか。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」、今回のテーマはアルゴクラシー。imidas によると、「人工知能に政策立案・決定を委ねること」。現代中国じゃアリババなど信用サービスの普及で、取引の信用度が上がりサービスも良くなったとか。そういえば中国は昔から科挙でエリートを選抜してたなあ。これがあの国の変化を阻んだんだろうか。

 大森望「新SF観光局」。ラヴィ・ティドハーとアンソロジー編纂の苦労で盛り上がったって話。にしてもイスラエルとパレスティナの作家が同じ本に収まるってのも凄い。「(著者の)人数が増えると完成した本を各国に送るだけで数千ドルの経費がかか」るって、確かにそりゃ大変だ。

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2019年3月 3日 (日)

SFマガジン2019年4月号

「楽器人間。それはどういう……構文だ」
「構文じゃない。熟語だよ。ああ、肩書きかも知れない。『怪奇楽器人間』。それがこの街の夜を跋扈している。そして犯罪行為をおこなっている」
  ――飛浩隆「サーペント」

「おめでとうございます! みなさんは、生命進化を守る戦士に選ばれました!」
  ――草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」

野生のエルヴィス・プレスリーをご存じだろうか。
  ――石川宗生「野生のエルヴィスを追って」

「高さ二万メートルのビルを泥が支えられるなんて、信じられない」
  ――ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ベスト・オブ・ベスト2018」。「SFが読みたい!2019年版」のランキング上位作家の短編を収録。

 お陰で今月は小説が多い。なんと16本だ。

 まず特集の「ベスト・オブ・ベスト2018」で9本。飛浩隆「サーペント」,郝景芳「戦車の中」立原透耶訳,円城塔「書夢回想」,上田早夕里「銀翼とプレアシスタント」,ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳,高島雄哉「無重力的新世界」,草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」,石川宗生「野生のエルヴィスを追って」,樋口恭介「1000億の物語」。

 連載は夢枕獏「小角の城」第52回だけ。

 読み切りは6本。柞刈湯葉「たのしい超監視社会」,三方行成「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」,片瀬二郎「ミサイルマン」,そして草上仁は三連発「半身の魚」「必殺!」「二つ折りの恋文が」。

 飛浩隆「サーペント」。学究都市クルーガーで事件が起きた。『怪奇楽器人間』。特殊楽器が関わるとの疑いもあり、カエキリア教授は技芸士の派遣をギルドに依頼する。やってきたのは技芸士セルジゥ・トロムポノク。さっそく現場に赴くと…

 「零號琴」の前日譚の冒頭のみ。すんません、まだ本編は読んでないです。葉巻型宇宙船だの<行ってしまった人たち動力>だので「ほえ?」と思ってたところに、「怪奇楽器人間」で腹筋が決壊w にしても、本当に「空の園丁」は出るんだろうか。

 郝景芳「戦車の中」立原透耶訳。村はすでに破壊されていた。連れの雪怪を村に送り込み、定点清掃を命じた。雪怪は高さ5メートルの工兵ロボットだが、戦闘能力もある。やがて雪怪から警報が来た。小型の機械車を見つけた、と。そこで雪怪は相手の基本情報を…

 徹底的に機械化された未来の戦闘の一幕を描く掌編。某大ヒット映画の冒頭や、フレッド・セイバーヘーゲンの「バーサーカー」シリーズを思わせる状況を描く。逆チューリング・テストって発想もいい。加えて、田中光の扉イラストも素晴らしい。

 円城塔「書夢回想」。そこは異端の組織が長い年月を費やして構築した巣、書店だ。今となっては、書籍に原本があることすら知らない人もいる。原本を読まずとも、要約機能でほぼ同等の読後感が得られる時代だ。また文章も読者に応じて自動的にふさわしく変換してくれる。

 だんだんと紙の本は肩身が狭くなってきている今日この頃だけど、案外と今後も生き残るんじゃないかって気がしてきた。というのも、人が最初に出会う本は、たいてい紙の絵本だからだ。それはそれとして、この作品は電子書籍がうんとこさ進歩した未来の物語。

 上田早夕里「銀翼とプレアシスタント」。土岐田和穂は海上保安庁のパイロットだ。かつて瀬戸内海と呼ばれた地域を巡回コース通りに飛び、予定の淡路北フロート群の海上空港に降りる。馴染みのカフェ Shin-Kai に寄る。何かあったらしく、蛙の置物がない。

 お待ちかね<オーシャンクロニクル・シリーズ>の前日譚の冒頭抜粋。既に海面上昇は起きていて、瀬戸内海もだいぶ様相が違っちゃってる。これに対応する日本政府の方針も相まって、ちと胡散臭くもあれば国際的でハイテクでもある不思議な社会ができてる模様。

 高島雄哉「無重力的新世界」。世界最大のオークション・サイト<799>の代表取締役は、ベンチャー運営の打ち上げ船で月の裏側を周回する旅に出る。同行者が11人のアーティスト。画家・彫刻家・作曲家・舞踏家・写真家・小説家・調香師・ゲームクリエイター・配信者・AIアーティスト・VRアーティスト。

 たった一週間って締め切りじゃ、悲鳴を上げる人も多いだろうなあ。漫画家を入れてもいい気がする。あとプログラマも。perl の 1 while s/(.*\d)(\d\d\d)/$1,$2/ /*数字3桁ごとに位取りのカンマを入れる*/ とか、私はアートを感じるんだけど。

 草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」。星智慧女学院三年A組、十八人。ノンフィクションを好み我が道を行く空上ミカ、おとなしく古典文学が好きな峰岸しおり、雑誌の読者モデルをやっている白鳥純華、その取り巻き沖汐愛理、王子様タイプの竜造寺桜花、小柄でボーイッシュな飯泉あすか…。彼女らは人類の、いや宇宙の命運をかけたデスゲームに放り込まれ…

 長編、どころかシリーズ化予定作品の冒頭。さすがに十八人もいたらキャラがカブるかと思ったけど、なかなかに濃いキャラが揃ってます。私は神木月波ちゃんが気に入った。この突発事態に、アッサリと適応して、いきなりソレやりますかw つかポケットにナニを持ってるんだかw

 石川宗生「野生のエルヴィスを追って」。野生のエルヴィスは、環境に応じて様々な進化を遂げている。ただし生態の多くは謎のままだ。国際自然保護連合レッドリストでは近絶滅種に指定されている。そんな野生のエルヴィスを追う人々は…

 野生のエルヴィス・プレスリーってアイデアがいいw なんじゃい「エルヴィス・ハンター」ってw まさしく小説家の本道、「見てきたようなウソをつく」に真っ向から挑戦し、ナショナル・ジオグラフィックやBBCドキュメンタリー風の騙りで貫き通した作品。通勤電車の中で読んだら周囲から変な人だと思われます。

 樋口恭介「1000億の物語」。増え続ける人口を支えきれなくなった人類は、ソフトウェア化の道を選ぶ。量子サーバー内にグロタンディーク自治区と呼ばれる人工宇宙を作り、そこに住み暮らし子を成す。その一人メアリーは19歳として生まれた。恋人のパーシーは23歳。

 「第81Q」なんて言葉で一瞬ニヤリとしたり、設定からゼーガペインを思い浮かべたり。いやさすがにサーバは舞浜じゃないけど。システムを設計・導入する際は、将来に必要になるリソースの事も考えておきましょうね、という話…では、ないと思う。

 柞刈湯葉「たのしい超監視社会」。世界はオセアニア・ユーラシア・イースタシアの三大国に別れ、互いに争っていた。その一つイースタシアは、厳しい監視社会だ。かつての特高警察では膨大な人口を監視しきれない。そこで国民同士が互いに監視し合う制度を導入し…

 「イースタシアの歳出歳入を正確に知ることは、月の裏側を見るよりも難しい」とかの時事ネタはキャッチー。また歴代総統の肖像画とかも、作者ならでは。相互監視制度も、若い人はそれなりに楽しんでいるようでw でも私の下手な歌なんかを聞かされたら、迷惑だろうなあw

 ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳。エマは不動産業界で働いている。久しぶりに会った幼馴染のカールが、イカれた話を持ちかけてきた。高さ二万メートルの鉄製タワーを作りたい、協力してくれ、と。

 「七人のイヴ」では、軌道上の暮らしを科学・工学系の細部をキッチリ描いてくれた著者。この短編でも、高さ20kmの鉄塔なんてイカれたアイデアを、科学と工学に加え、産業にまで踏み込んでテンポよく描いてくれる。難問は重さだけじゃないあたりが読みどころ。終盤の展開には完全に脱帽。

 特集はここまで。以降は読み切り。

 三方行成「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」。空きっ腹を抱えたあなたは、奇妙な店を見つけた。「折り紙食堂」。その名のとおり、カウンターには折り紙がびっしり並んでいる。中にいた店主らしき男も、折り紙に没頭している。出ていこうと思ったが、店主は何やら準備を始めてしまい…

 折り紙って、使える紙は一枚だけなのかと思ってたけど、幾つもの部品を組み合わせて作るのもあるのか。ある意味、「中国人の店で変なモノを買って…」のバリエーションの一つ。

 片瀬二郎「ミサイルマン」。五のつく日は納品日で大忙し。しかも年末となれば戦場である。なのにンナホナがいない。外国人労働者ながら、今までさんざん修羅場を切り抜けてきた強者なのに。社長の息子の俊介は、総務の末松を伴って、ンナホナのアパートを訪ねるが…

 最近の外国人労働者関係のニュースを聞くと、笑って済ませられない話。特にンナホナの故国のニュースを聞いた時の、俊介の反応とかは、いかにもこの手の人にありがちで、某選手の病気に対する某大臣のコメントを連想してしまった。

 おまちかね草上仁の三連発「半身の魚」「必殺!」「二つ折りの恋文が」。「半身の魚」は砂漠で見つけたオアシスでの一幕。やるな、とい言われると…なお話。「必殺!」は、藤田まこと主演の必殺シリーズのパロディ。にしてもオチが黒いw 「二つ折りの恋文が」は打って変わって異星での恋愛物語。つくづく芸幅の広い人だなあ。

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2019年2月18日 (月)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2019年版」早川書房

飛浩隆「今岡編集長から『就職はするように』というありがたいお話がありました」
  ――飛浩隆 誕生と再始動、そして

谷甲州「予想はしてたのだが太陽系内を舞台にするとデータが古びやすくて困る」
  ――2019年のわたし

 年に一度のSFファン向けお祭り本。

 例年通り、冒頭は「ベストSF2018国内篇・海外篇」。これの何が有り難いって、見逃してた美味しい本を教えてくれるのが嬉しい。ロジャー・ゼラズニイ「虚ろなる十月の夜に」が出てたなんて全く知らなかった。今年は若手とベテランが入り混じってて、なかなか豊かな香りがする。

 はいいが、シルトの梯子(全3巻)ってなんじゃい。

 「マイ・ベストSF」も「2019年のわたし」も、草野原々はやたらと「!」が好きだなあw 柴田勝家といい赤野工作といい、最近のSF作家は芸まで求められるのかw

 ジャンル別ベストSF&総括 SFアニメ。そうか、「はたらく細胞」は21世紀の「ミクロの決死圏」だったのか。納得。科学とエンタテイメントを見事に融合させた作品だよね。しかし「ポプテピピック」がSFだったとはw まあ百合ではあるけど←え?

 このSFを読んでほしい! やはり早川書房は貫禄がすごい。ハーラン・エリスン「危険なヴィジョン[完全版]」ってマジかい。それとテッド・チャンの「伊吹*」も嬉しい。噂の「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は読み逃してたんだよなあ。ついでに、ぼちぼち草上仁の短編集も欲しいです。

 エリスンは国書刊行会からも「愛なんてセックスの書き間違い」が出る。やっとエリスンのブームがきた? 竹書房の建屋は変なモノが埋まってたり壊されたり大変ですねw 東京創元社のピーター・ワッツ作品集「巨星」も期待してます。

 2019年のわたし。上田早夕里、ついに<オーシャンクロニクル・シリーズ>が出る。嘘じゃなかったんだ。梶尾真治、「クロノス・ジョウンターの伝説」映画化かあ。あ、いつの間にか徳間文庫から出てる。しかもソノラマ文庫から何篇か増えてるし。これは早めに手に入れないと。

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2018年12月31日 (月)

SFマガジン2019年2月号

「I'm fine.」
――わたしは元気です。
  ――宮澤伊織「キミノスケープ」

二十文字じゃ足りないし、二十文字じゃ多すぎる。
  ――森田季節「四十九日恋文」

この先、神体あり 危険 関係者以外立ち入り禁止
  ――幽世知能

起動した、ゆえにわれ目的あり。
目的ある、ゆえにわれ忠勤する。
  ――スザンヌ・パーマー「知られざるボットの世界」中原尚哉訳

ほんとうの奇跡は、わたしたちに<意識>があるということだ。
  ――神林長平「先をゆくもの達」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「百合特集」として、短編4作コミック1作に加え、インタビュウやガイドなど。

 小説は12本。まず「百合特集」で4本。宮澤伊織「キミノスケープ」,森田季節「四十九日恋文」,草野原々「幽世知能」,伴名練「彼岸花」。

 連載は5本。夢枕獏「小角の城」第51回,椎名誠のニュートラル・コーナー「インデギルカ号」,神林長平「先をゆくもの達」最終回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第24回,藤井太洋「マン・カインド」第7回。

 読み切り&不定期掲載は3本。レベッカ・ローンホ-ス「本物のインディアン体験™へようこそ」佐田千織訳,スザンヌ・パーマー「知られざるボットの世界」中原尚哉訳,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第六話 不見の月」。

 まず百合特集。

 宮澤伊織「キミノスケープ」。人も動物も消えてしまった。残っているのはあなただけ。テレビもラジオもネットもノイズだらけ。でもなぜか電気などのインフラも残っているし、コンビニでは弁当などの生鮮食品は入れ替わる。一人でさまよううちに、あなたは見つける。誰かが残したメッセージを。

 一人だけ取り残されたのか、それとも一人だけ別の世界に迷い込んだのか。いずれにせよ、メッセージが「俺はここにいるぞ」だったら、お話の感触はだいぶ違っただろう。そういう点では、百合特集に相応しい幕開け。ちょっと森奈津子の傑作「西城秀樹のお陰です」を思い出した。

 森田季節「四十九日恋文」。死者の意識は、死後も49日はこの世に留まるとわかった。そこで限られた文字数だけ死者とメッセージの交換が許される。最初は49文字で、毎日一文字づつ文字数が減ってゆく。限られた文字数で、絵里は栞に思いを伝えようとする。

 文字数が次第に減ってゆく、という仕掛けが、あまりに見事すぎる。生々しい煩悩を幾つも引きずり、未練タラタラの絵里と、妙に悟った感のある栞の対比が面白い。結局、葬式にせよ四十九日の法要にせよ、生きていかなきゃならん残された者のためにあるんだろうなあ。

 草野原々「幽世知能」。幽世知能、それは幽世の持つ無限の情報処理能力を使ったコンピュータ。ただし適切な出力を汲み取るには、現し世との接点=神体が要る。わたしが幼い頃、森の神体を端末にする計画があったが頓挫した。神体の近くは神隠しの危険があり…

 小学生の頃からの友達、アキナと、神体の近くで待ち合わせた与加能(とかの)。神隠しの危険が大きい今、なぜ? と不穏な雰囲気で始まった話は、アキナ登場に伴い更に物騒な方向に向かう。にしてもこの人、血みどろニチャニチャな場面が好きだなあ。

 伴名練「彼岸花」。時代は大正十二年。舞弓青子と真朱、寄宿舎住まいの女学生どうしの交換日記。お姉様に焦がれる青子、いろいろと青子に助言を授ける真朱。だが文中には「紅筆」やら「死妖」やらと、奇妙な単語が並び…

 わはは。なんとアレをネタにしてキム・ニューマンに挑んだかw 死妖姫って訳は、いかにもあやしげでいいなあw ちょっとジョージ・R・R・マーティンの「フィーヴァードリーム」っぽい仕掛けもあって。他に何を仕掛けてるのやら。あとパイプオルガンの場面が印象に残るなあ。いいよね、紅い鍵盤。ケン・ヘンズレーあたりが使ったら似合いそう。

 百合SFガイド2018。シムーンは良かったなあ。私はマミーナが好きだ。ところで百合の神様はギリシャアルテミスでいいのかな? 他に思い浮かぶ百合作品といえばニコラ・グリフィス「スロー・リバー」,ダリル・グレゴリイ「迷宮の天使」、高瀬彼方「カラミティナイト」とか。

 と、百合特集はここまで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「インデギルカ号」。インデギルカ号は、恒星間世代継続型巨大宇宙船だ。目的地は地球から6パーセクの「ヒトデ座」だったが、途中で奇妙な天体を見つけた。テラフォーミングに向く球体と、それを取り巻くドーナツ型の連合惑星である。

 内惑星からやってきたナグルスが、彼の過去を語るとともに、この奇妙な惑星の正体に迫る回。なのはいいが、距離感が相当にいい加減だな、おいw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第24回。ハンターはヴィクトル・メーソン市長ら<シザース>との面会に赴く。そこで語られる<シザース>の目論見は…。バロット&ウフコックのコンビは、<クインテット>と戦いつつ、バジルとの交渉を試みる。

 お話も押し詰まってきたためか、だんだんと書けることが減ってきてつらい。特に今回の後半では、このシリーズ全体に関わりそうなネタまで飛び出してくる。加えてハンターばかりかバジルにまで肩入れしたくなってしまった。

 レベッカ・ローンホ-ス「本物のインディアン体験™へようこそ」佐田千織訳。トゥルーブラッドことジェシー・ターンブラットはフェニックスの売れっ子だ。「旅行者」たちにインディアン体験を与える。ただし彼の知識は映画で得たもの。妻のテレサは屈辱的だと思っているが、失業よりはマシだと思っている。

 なんでもかんでもショウにしちゃうアメリカの一面を浮き彫りにした作品。ニンジャも明らかに思い込みと勘違いでケッタイなことになってるし。とまれ、似たストーリーをどっかで読んだ気がする。夏の日、流れ者の芝刈り仕事を手伝ったら云々、みたいな話なんだけど、あなた覚えてます?

 スザンヌ・パーマー「知られざるボットの世界」中原尚哉訳。異星人の攻撃で人類の艦隊は壊滅、残るは廃船扱いの一隻のみ。緊急措置で出航にこぎつけ、少ないボットを駆使して修理しながら応戦に向かう。艦内最古の多機能ボット、ボット9の使命は艦内に潜む害獣の駆除だ。

 どう考えても無謀な命令と知りつつ、次々と起きる艦の故障をなだめながら、作戦遂行を目指す人間のクルーたちと、目前のタスクを黙々とこなす…ように見えて、実は意外と感情豊かなボットたちの対比が楽しい。ボット9をお堅い侍言葉に、シルクボットをざっくばらんな町人口調にした訳者のセンスが光る。

 神林長平「先をゆくもの達」最終回。ついに最終回。前回と同様に、語り手の視点を次々と切り替えてゆく。レイ・ブラッドベリの「火星年代記」の衝撃的なエンディングを受け、その更に向こう側を目指した作品…ってのは、考え過ぎかな?というのも。

 植民地人だった開拓者たちが、独立してアメリカ人としての自覚を持つまでが「火星年代記」。その過程で原住民の虐殺などもあった。対して「先をゆくもの達」では…

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第六話 不見の月」。画家の吉村輔は晩年をアフロディーテで過ごし、昨年亡くなる。晩年のシリーズ「不見の月」のうち、#18だけは手元に残していた。現在の持ち主は長女の亜希穂。その#18が、二人組の強盗に狙われる。うち一人は確保したが…

 何やら曰くありげな#18には、どんな意味があるのか。私は芸術には疎いんだが、「完璧な赤」とかを読むと、新しい素材がクリエイターを刺激するの想像がつく。それをどう使うかは使い手によりけり。インターネットも私のような無能が使えば、こんなしょうもないブログにしかならんワケで。とまれ、折り合いの悪い親子の話でも、「カフェ・コッペリア」収録の「モモコの日記」とはだいぶ違うのは、登場人物の年齢のせいだろうか。

 藤井太洋「マン・カインド」第7回。迫田とレイチェルは、トーマと合流する。迫田はチェリーかた聞いた内容を二人に告げる。なぜチェリーは捕虜を虐殺したのか。それをスクープした迫田の記事に対し、なぜ<COVFE>が低い評価しか与えなかったのか。

 どの作品でもネタの新鮮さで驚かせてくれる藤井太洋だが、今回はさすがにブッ飛んだ。前回の休載は、あの事件を予測して、今回の連載に取り入れるためではないかと思ったほど。いったい、いつ原稿を編集部に渡したんだ?この人は忍者かCIAでも雇っているのか?

 長山靖生「SFのある文学誌 第62回 直木三十五の未来戦記、川端康成の臓器移植 時代の先端の先にあるもの」。直木三十五の「夜襲」が、かなりの先見性。なんと1930年に太平洋戦争を予告し、空軍力が鍵と見做し、メガフロート・無人攻撃機・化学兵器まで登場してる。しかも「資本力の差が科学力の差となり、ひいては軍事力や国力の差になる」って、すんげえクールな分析力だ。

 若島正「乱視読者の小説千一夜」。2018年11月15日に亡くなったウィリアム・ゴールドマンを追悼する記事。「プリンセス・ブライド」は映画しか思えてないけど、よかったなあ。王道のおとぎ話なのに、なぜかアンドレ・ザ・ジャイアントが出てた。記憶に残ったのは、初恋を美化しちゃうようなモンなんでしょう。

 堺三保「アメリカン・ゴシップ 88 アメリカで映画を撮るということ」。『オービタル・クリスマス』制作の裏話で、SAG(スクリ-ン・アクターズ・ギルド=映画俳優組合)との行き違いの話。制作側には面倒だろうけど、役者にとっちゃ組合は有難いんじゃないかなあ。もっとも、それを皮肉った「マイク・ザ・ウィザード」なんて映画もあるけど。おバカで楽しい映画です。

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2018年10月28日 (日)

SFマガジン2018年12月号

「いや、十一時だ」
  ――ハーラン・エリスン「失われた時間の守護者」山形浩生訳

「この体は本来のわたしのものじゃありません。わたしは有罪判決を受けて人間として生きることになり、そのせいで死にかけています」
  ――ハーラン・エリスン「奇妙なワイン」中村融訳

「おとといは恐竜、きのうはピラミッド、きょうは女の子か」
  ――横山えいじ「おまかせ!レスキュ~」Vol.223

王が王になってからは、いつも時間がありませんでした。王に時間があるときは、王には地位がありませんでした。
  ――小川哲「時の扉」

意識とは、方向を把握する機能である。これにより生き物たちは前と後ろを区別することができるようになった。空間の方位ではない。対象は時間だ。
  ――神林長平「先をゆくもの達」第6回

「あなたたち五人に、いつか大変な危機が訪れるの。その時みんなを守れるのはあなた」
  ――S・F・S/木村航「revisions リヴィジョンズ」

関数というのはカップリングなんですよ。
  ――トークイベント「平成最後の夏と百合」宮澤伊織×草野原々

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ハーラン・エリスン追悼特集」として、短編三作とエッセイ・年譜など。

 小説は13本。まず「ハーラン・エリスン追悼特集」で3本。「失われた時間の守護者」山形浩生訳,「おお、汝信仰うすき者よ」柳下毅一郎訳,「奇妙なワイン」中村融訳。

 連載は4本。夢枕獏「小角の城」第50回,椎名誠のニュートラル・コーナー「団体偵察旅行」,神林長平「先をゆくもの達」第6回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第23回。

 読み切り&不定期掲載は6本。草上仁「魔王復活!」,飛浩隆「零號琴」削除されたシーン,S・F・S/木村航「revisions リヴィジョンズ」,澤村伊智「愛を語るより左記のとおり執り行おう」,小川哲「時の扉」に加え、第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作の抜粋として三方行成「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集 灰かぶり姫」。

 まずは「ハーラン・エリスン追悼特集」。

 「失われた時間の守護者」山形浩生訳。老いたガスパールと貧しいビリーは、墓地で出会う。二人のチンピラにガスパールが襲われたのを、ビリーが助けたのだ。ビリーは自分のアパートにガスパールを迎え入れ、二人はともに暮らし始める。ガスパールが持つ懐中時計は、十一時を指していた。

 妻を喪ったガスパールと、コンビニで深夜勤務のビリー。天涯孤独な二人の男の、ひとときの友情。短編集「ヒトラーの描いた薔薇」収録の「バシリスク」にも似て、傷ついた者への優しいまなざしが感じられる作品。

 「おお、汝信仰うすき者よ」柳下毅一郎訳。アメリカ西部からメキシコに国境を越えた町、ティファナ。薬物、免税品、男女、なんだって売っている。ナイヴンとバータが来たのは、中絶手術のため。二人はメキシコ人の老婆が営む怪しげな店に立ち寄り…

 どうしようもなくヒネクレて、あらゆるものを嫌い、何者も、自分すら信じないナイヴン。一種の厨二病と言ってもいいが、自分が若くないのを自覚してるだけに、更に悲惨だ。こういう、徹底してスレてねじ曲がった人物像は、エリスンならでは。

 「奇妙なワイン」中村融訳。娘のデビーは交通事故で喪った。息子のギルヴァンはプールで背骨が折れ下半身不随。見舞いに行こうとしたら車が壊れた。南カリフォルニアだってのに大雨で家は雨漏り。そして自らはインシュリン注射が欠かせない体。ウィリス・コウは思う。(わたしはここの生まれじゃない)

 次々と襲い掛かる不運に、くじけつつあるオッサンが主人公。「本当の私は違う」って想いは、幼い頃なら誰だって考えた事がある。SF者は、そんな想いをずっと持ち続けている人が多いのかも、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの「ビームしておくれ、ふるさとへ」を連想してしまうが、そこはエリスン。

 鏡明「その頃、ぼくたちはみんなかれのファンだった」。日本のSFファンダム初期じゃ、伊藤典夫氏の影響が大きかったんだなあ。エリスンを「スタトレのライター」として報じる記事が多かったってのは、うーん。ヒトは誰でも、自分が興味を持つモノを中心に世界を観るんだろう。

 若島正「もうひとつのエリスン」。いかにもこの人らしい目の付け所で、エリスンがSF界に嵐を巻き起こす前の、ギャング物や音楽物にスポットを当てたエッセイ。ビジネス的には現代日本のライトノベルに当たる市場かも。にしても六日で一冊ってシルヴァーバーグのペースは凄い。

 三方行成「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集 灰かぶり姫」。シンデレラは母を事故で喪いました。父は後妻を迎えます。継母は二人の娘と共にシンデレラをコキつかい、いじめます。悲しむシンデレラのもとに、魔女が現れました。魔女はシンデレラにドレスを与え…

 はい、本当にそういう話です。嘘じゃありません。嘘じゃないけど…。冒頭から大笑い。あの童話と「トランスヒューマン」と「ガンマ線バースト」が、どう関わるのかと思ったら、いきなりこうきたかw うん、確かに「トランスヒューマンガンマ線バースト童話」だw

 澤村伊智「愛を語るより左記のとおり執り行おう」。天祢和也42歳はドラマの制作会社に勤めている。最近の作品は評判が悪く、社内でも立場がない。そこに部下の多田が面白い案を持ってきた。自らの葬儀は伝統的な形で、と望む老人がいる。これをドキュメンタリーにしよう、と。

 未来の家族シリーズ(シリーズ名は私が勝手につけた)最終回。VRが発達し、葬儀もVRを駆使して、複数の会場で同時開催する時代。そういえば落語の「らくだ」に描かれる葬儀は、現代と全く違う。同様に未来で現代の葬儀の復元を試みたら…という視点に、常識を疑い価値観を相対化する強烈なSF魂を感じる。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「団体偵察旅行」。駅前酒場に現れたナグルスが、この奇妙な惑星と、卵惑星の由来を語り始める。そして、ときおり訪れる「フットボール」の正体も…

 いよいよ終盤にさしかかったのか、次第に明らかになるケッタイな世界の背景。とはいえ、それを聞く面々が妙にのんびりしてるのは、最近のシーナ風というかw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第23回。<蜘蛛の巣>に侵入し、ウフコックとの会合を果たしたバロット。次々と襲い来る<クインテット>を蹴散らし、ここを仕切るバジルへと迫る。だがバロットの狙いは彼らを倒すことではなかった。

 これも終盤に入ったのか、今まで隠されていた謎が次々と明らかになってゆく回。にしてもバロット大暴れだなあ。

 小川哲「時の扉」。遠い場所から来たものは、王に語る。「時の扉」のことを。大切なものを失った男の話を。父母の遺産で暮らていた絵描きがいた。彼の唯一の楽しみはオペラだった。その日、男はいつものようにオペラを楽しんでいた。すると、隣の席の女の具合が悪くなり…

 未来は変えられないが、過去は変えられる「時の扉」。それはどう働き、何ができるのか。それを用いたものは、いかなる運命を辿るのか。末期の「彼」の様子の記録は少ないし、証言者による脚色もありそうだけど、こういう筋書きも充分にあり得る…というか、現在でも似たような人が多いような。

 神林長平「先をゆくもの達」第6回。火星のナミブ・コマチは、機械鳥に問う。「いまのあなたは、なに。地球の<知能>の代表のつもりなの?」 チャフと名づけられた機械鳥は語り始める。ヒトと機械の知性の違いを。ハンゼ・アーナクの生涯を。そしてトーチの目的を。

 なんと最終話前編。これも終盤に差し掛かり、重要な謎の多くが明らかになる回。意識とは、ハンゼ・アーナク誕生の理由、トーチの目的、そして「先をゆくもの」とは何か。

 草上仁「魔王復活!」。魔王クルタルパが蘇りつつある。以前の鎮圧の際には、五百人の魔術師と二千人の戦士、そして複数の英雄豪傑が動員された。そこで戦士と神官と魔導士が鎮圧に向かう。実体化の地は、埼玉県春日部市付近。三人はまず築地市場に立ち寄り…

 一種の異世界転生物…かな? この現代日本で魔物を退治するにはどうするか。いきなり東武伊勢崎線とか、やたら親しみのある名前が出てくるあたりから、笑うやら納得するやら。なにせハイテクが普及し治安のいい日本。魔物退治のパーティーも意外な苦労を背負っていて…

 S・F・S/木村航「revisions リヴィジョンズ」。七年前の事件から、大介は信じ続けている。自分には仲間を守る使命がある。ガイとルウ、マリマリ、慶作の四人を。高校に入ってからも、トレーニングは欠かさない。だが、そのために、仲間たちからは少々疎んじられ始めている。

 2019年1月からアニメの放送が始まり、小説版が2018年12月から全三巻で刊行を予定している「revisions リヴィジョンズ」の冒頭部分。設定関係の説明や人物の気持ちの描写も多い。これをどう映像化するのか、なかなか興味深いところ。

 トークイベント「平成最後の夏と百合」宮澤伊織×草野原々。関数はカップリングなんて謎理論ながら、なんか納得させてしまうあたりはさすがSF作家w でも結局は編集さんが最強だったりするw

 SF・Tシャツ、草野原原デザインのカエアンは←ダメだろ

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