カテゴリー「書評:SF:小説以外」の96件の記事

2019年7月 8日 (月)

SFマガジン2019年8月号

「ぼくの掲げる理念はつねに、すべての人が自分らしく生きて、自分の信じる価値を追求することだ」
  ――宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳

「このに入るときに銃を取り上げないのは、どのみちエンハンサーから能力を取り上げることはできないからだ」
  ――冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回

里見:そこはゆるく考えましょう。『ウテナ』の百合は、SFでいうとグレッグ・イーガンのようなものですよ。
溝口:『けいおん!』の百合はケン・リュウのようなものですね。
  ――イベント採録:SF雑談4 世界の合言葉は百合
    堺三保/里見哲郎/宮澤伊織/梅澤佳奈子(コミック百合姫編集長)/溝口力丸(本誌編集部)

 376頁の標準サイズ。

 特集は二つ。メインは「『三体』と中国SF」。次いで「『ガールズ&パンツァー』と戦車SFⅡ」。

 小説は13本。まず特集「『三体』と中国SF」として4本、王晋康「天図」上原かおり訳,何夕「たゆたう生」及川茜訳,趙海虹「南島の星空」立原透耶訳,宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳。次いで特集「『ガールズ&パンツァー』と戦車SFⅡ」でティモシー・J・ゴーン「子連れ戦車」酒井昭伸訳。

 連載は4本。椎名誠のニュートラル・コーナー「景気のいいチビ惑星の安売り火山」,冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回,藤井太洋「マン・カインド」第9回,夢枕獏「小角の城」第54回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第8話 にせもの」,上遠野浩平「変身人間は裏切らない」,草上仁「エアーマン」,小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」冒頭。

 まず特集「『三体』と中国SF」。

 王晋康「天図」上原かおり訳。重度の自閉症である16歳の少年、張元一が心血を注いで描いたという「天図」。何かはわからないが、科学に関係しているかもしれない。いくつかの分野の数十人の科学者に問い合わせたが、返事が来たのは沈世傲のみ。若いながらも高い評価を得た科学者で、囲碁の愛好者だ。時間をかけて調べてみたいと言う。

 中国だと AlphaGo は阿法狗になるのか、なんて変なことに感心しつつ。そんなAIの進歩に棋士たちが抱える想いを足掛かりに、優れた才能を持ちつつも重い障害を抱える少年と、少年に細やかな愛情を注ぐ祖父の姿を描いてゆく。主人公らの動きは日本だと公私混同とも言われかねないが、こういう軽快なフットワークが中国の躍進を支えているのかも、などと思ったり。

 何夕「たゆたう生」及川茜訳。現在、灰灰は負のエントロピーを有する正の世界にいる。エネルギーの身体は、光の速度で動ける。鶯鶯の父・敖敖は、二百年にわたり実験を続けた末に鶯鶯を目覚めさせ、鶯鶯の身体を物質から解放した。今、鶯鶯は負の世界にいる。こちらのプランク定数は負の値だ。

 エントロピーだのプランク定数だのと使われている言葉はグレッグ・イーガンっぽいが、そこに描くビジョンはむしろバリトン・J・ベイリーのような気がする。つまりクレイジーながらも壮大なのだ。負のプランク定数なんて発想からして、やたらクラクラしてくる。終盤に出てくるブラウンワームも「そのブラウンかい!」と見事にしてやられた。

 趙海虹「南島の星空」立原透耶訳。平安市はスモッグに苦しんでいた。それを避けるため、二十個のドーム環境・珍珠城を作り上げる。これは人を二つに分けた。珍珠に住む資格のある者と、資格のない者。天体観測者の啓明と、環境保護業務に携わる天琴の夫婦も。天琴は十歳の娘・小鴿を連れ、珍珠に移る。スモッグのため天体観測は難しくなっていたが、啓明は自分の道を諦められなかった。

 今でも中国では信用スコアが浸透している。この作品でも、珍珠の居住資格は順位をつけてリスト化している。こうやって人の優劣を基準に沿ってハッキリさせちゃうのは、科挙の影響なんだろうか。冷酷で残酷ではあるけど平等で合理的でもあるんだよね。少なくともタテマエでは。そんな社会でも、人は足掻くのだ。短いながらも、しっとりした気持ちになる作品。

 宝樹「だれもがチャールズを愛していた」稲村文吾訳。感覚までもリアルタイムで共有できる感覚配信。チャールズ・マンは、その感覚配信のスターだ。航空艇<ペガスス>号を駆るパイロットであり、作家でもある。彼のファンは世界中で億を超える。今日、チャールズは太平洋横断選手権のため、アメリカから東京へ向かっていた。

 蒼井みやび(蒼井そら)はともかく朝倉南って、をいw それぞれモデルに沿った役柄なのも、よくわかってらっしゃる。リアルタイム配信のスターだけに、街中でファンと出会う場面も、よくできてるw 感覚の配信でどんなのが人気になるかというと、アレは当然として、やっぱりスポーツなんだろうか。

 立原透耶「『三体』のその後」。やはりヒューゴー賞受賞の影響は、中国国内でも大きかったようで、それまで「子供の読み物」だったSFが、純文学誌や新聞にも載るようになったとか。おまけに企業はもちろん政府まで国内外で支援してるというから羨ましい。

 陸秋槎「傷痕文学からワイドスクリーン・バロックへ」。「傷痕文学とは、文化大革命を経験した作家たちが時代の傷痕を描いた作品群」って、今の中国はソコまで書けるのか。なんか印象が大きく変わるなあ。「≪三体≫以外のSFをあまり読んだことがない『自称』SFファンも少なくない」って所で苦笑い。日本でも「日本沈没」が当たった頃はそんな感じだったかも。あ、でも、ゴジラがあったか。

 大森望の新SF観光局 第68回 『三体』こぼれ話。特集には入ってないけど、内容的に特集の続きみたいなもん。「中国語できないのに中国SFを中国語から訳す仕事」って、どうやるんだw

 特集「『三体』と中国SF」はここまで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「景気のいいチビ惑星の安売り火山」。奇妙な惑星を発見したニュースは、インデギルカ号に大騒ぎを引き起こす。興奮した乗客たちの勢いに押され、艦長は惑星への往復シャトル運航を決定する。ナグルスと市倉は現地滞在スタッフとなり、チコはシャトルの運航に携わる羽目になった。

 今回は、かなり急いで原稿を書いた雰囲気がある。インデギルカ号って、実はやたら大きな世代交代宇宙船だったのね。「しめつけツナギ」「宇宙おむつ」なんて命名が、微妙にマヌケで、いかにもシーナなセンスだ。

 冲方丁「マルドィック・アノニマス」第26回。ハンターは街の裏を仕切る面々を集め、協力を呼びかけようとする。だが<誓約の銃>の代表マクスウェルは、ケイトら<戦魔女>を挑発し、場を荒らしにかかる。バジルがなんとか騒ぎを抑えた後に、ハンターは会合の目的を、そして自らの目標を打ち明け…

 前半では、一触即発の緊張感あふれる悪党どもの会合の場面。みんな悪党だけあって、スキあらば美味しい立場を奪おうと誰もが狙っている。そんな油断ならない連中ばかりの組織を、ナンバー2としてまとめなきゃいけないバジル君の苦労が、ヒシヒシと伝わってくる。後半はバロット視点に移り、雰囲気もガラリを変わって…

 上遠野浩平「変身人間は裏切らない」。早朝、犬のモロボを連れて散歩するコノハ・ヒノオは、懐かしい顔を見た。ボンさんと呼ばれる老人だ。だが、何か違う。黙ってすれ違ったとき、老人から声を掛けられる。ヒノオが感じたとおり、別人だった。だが老人は別人と見破られたことに驚く。しかもフォルテッシモを恐れているらしい。

 「変装さん」はいいねえ。もちろん、統和機構の合成人間です。ブギーポップ・シリーズは外から見た統和機構を描くのに対し、このシリーズは合成人間の視点で統和機構の内幕を書いてるんだけど、やっぱりよくわからない。

 ティモシー・J・ゴーン「子連れ戦車」酒井昭伸訳。ケンタウルス座α星系の主惑星。人類はこの惑星をテラフォームしたが、やがて去った。現在、この惑星を管理しているのは、人類が作り出したロボットたちだ。電脳戦車の<古兵>は、ニュー・モールデン市へ急ぐ。<二倍幅>との子作りの許可が下りたのだ。

 人類なきあとも、その創作物たちは戦いを続けていた…って、バーサーカー・シリーズかよw マシンばかりの世界観が気持ちいい。マグマ級のスペックの馬鹿々々しさに大笑いw 戦車である必要はあるのかw その使い方も、まあ、なんというか。中盤に出てくる図書館の場面は、思わずため息が漏れそうな壮観。いいなあ、そんな図書館があったら、住みつきたい。

 小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」冒頭。ガス惑星ファット・ビーチ・ボールの主力産業は漁業だ。ただし漁場は海じゃないし、獲物も魚じゃない。漁場は惑星大気、獲物は昏魚。昏魚は大気の上層と中層のあいだを飛ぶ生物で、深層にある炭素・珪素に加え窒素・酸素・塩素なども含んでいる。普通、漁師は男女のペアで漁に出る。だがテラのパートナーは…

 百合アンソロジー『アステリズムに花束を』収録作品の冒頭のみを掲載。舞台は遠未来の異星系、木星みたいな巨大ガス惑星。そこで異星生物を狩る漁師が主人公って、どこが百合なのかと思ったら、ちゃんとそういう設定になっていたw しかも、自然環境だけでなく、テラたちが暮らす社会の構造まで作り込んでるから、そういう点でも美味しそうな作品。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第8話 にせもの」。アフロディーテ五十周年として、絵画・工芸部門は贋作展覧会を企画した。贋作と真正品を並べ、違いを比べるのだ。同じころ、問題が持ち上がった。<都会焼>の「片桐彫松竹梅」とそっくりの壺が古美術商で見つかったのだ。来歴も同じで、違うのはシールだけ。そのシールは…

 今回は美術品の贋作騒ぎに、ペテンを絡めた話。たしかに贋作展覧会は面白そうだなあ。古美術商ってのも胡散臭い業界で、素人が下手に手を出すと痛い目を見る世界みたいで、しかもソレを込みにして業界が成り立ってる風があるから油断できない。今回は兵頭健の「失言」と同じことを考えてしまった。

 藤井太洋「マン・カインド」第9回。チェリー・イグナシオやレイチェル、そしてトーマ・クヌート。彼らは人間離れした能力を持つ。その秘密を握るゼペット・ファルキ博士は、何者かに射ち殺された。そして、今なお「彼ら」と同じ子供たちが生まれている。チェリーたちは脱出を試みるが…

 そういえば藤井太洋はデビュー作 Gene Mapper でも遺伝子改造技術を扱ってたなあ。私ももちっと賢いイケメンで髪も豊かに生まれたかった…って、そうじゃない。難しそうなのは層下視で、これに対応できる脳を持つってのは、どんな気分なんだろう。今の私たちとは、まるっきり違う現実の中で生きてるんだろうなあ。

 草上仁「エアーマン」。稀代のエア・アーティストが亡くなった。エア・ギター、エア・相撲、エア・クッキング、エア・クラフト…。幾つもの分野で、彼は本物のように装うことができた。刑事も実はエア死ではないかと疑ったのだが…

 3頁のショートショート。エアーマンって、そういう意味かいw しかもオチが酷いw それはともかく、久しぶりに草上仁の短編集が出るのは嬉しい。まさかエア告知じゃないよね?

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2019年5月 1日 (水)

SFマガジン2019年6月号

「おれはおれを、君に託す」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」

「俺たち、どうなってしまったのかな?」
「地獄に堕ちたのさ」
  ――サム・J・ミラー「髭を生やした物体X」茂木健訳

この二人は俺とは違う。
  ――藤井太洋「マン・カインド」第8回

 376頁の標準サイズ。

 特集は三つ。メインは「追悼・横田順彌」。次いで「栗本薫/中島梓没後10年記念賞特集」と「小川一水『天冥の標』完結記念特集」。

 小説は11本。まず「追悼・横田順彌」として横田順彌の2本、「かわいた風」と「大喝采」。連載は4本。椎名誠のニュートラル・コーナー「巡回軌道」,冲方丁「マルドィック・アノニマス」第25回,藤井太洋「マン・カインド」第8回,夢枕獏「小角の城」第53回。

 読み切り&不定期掲載は5本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第7話 一寸の虫にも」,小川哲「ムジカ・ムンダーナ」,小野美由紀「ピュア」,琴柱遥「讃州八百八狸天狗講考」,サム・J・ミラー「髭を生やした物体X」茂木健訳。

 まずは特集「追悼・横田順彌」。

 横田順彌「かわいた風」。焼けはて、かわききった星に、宇宙放浪者ロアはいた。空は青く澄んでいるが、生きるものはいない。/ライフヘルパーが、キャサリンに歴史を教えている。最近のキャサリンは、なかなかいうことを聞かない。/フランクとパトリシアの夫婦は、スイスへの移住を考えている。戦争ばかりを考える政治家に嫌気がさしたのだ。

 1976年の発表。米ソが核兵器を突きつけ合う冷戦のさなか、という時代背景が色濃く出た作品。さすがに正面切ってのメンチの切りあいこそなくなったものの、核兵器は減っちゃいないどころか、プーチンの軍事戦略はは核を前面に押し出したもので、物騒な状況は今も変わっていない。

 横田順彌「大喝采」。明治44年12月2日、鵜沢龍岳と黒岩時子が、押川春浪の家に訪ねてきた。話題は噂の活動写真「ジゴマ」から、妙な方向へと流れが変わる。陛下に関わる話だ。それというのも、先月の肥筑平野の大演習に行幸のおり、陛下は活動写真をご覧になったのだが…

 お得意の押川春浪物で、細かい時代考証が楽しめる作品。「ジゴマ」はともかく、「ニチ」「ヒルム」「セイキスピヤー」なんて言葉が、時代の香りを伝えてくる。弁士次第で映画の出来が変わるってあたりは、サイレントならではの味。案外とMADが、その伝統を受け継いでたりして。そういえば、なぜ字幕って発想がなかったんだろう? 当時のフィルムじゃ難しかったんだろうか?

 横田順彌「ぼくの亜米利加旅行」。1975年(だと思う)、鏡明・荒俣宏・伊藤典夫と共に、ロスアンジェルスSF大会やサンフランシスコとニューヨークを巡った旅行記。筆者のサービス精神が伺えるユーモアあふれる文章が楽しい。ポール・アンダースンの隣の席とか羨ましすぎる。にして、アメリカに行ってまで古本を漁るとはw

 以上、特集「追悼・横田順彌」はここまで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「巡回軌道」。インデギルカ号から、深宇宙探査用のロケットに乗り込み、チコと市倉、そしてナグルスの三人は、目的の惑星に向かう。早いスピードで自転する中心惑星を、ドーナツのような外惑星が取り囲んでいる。ただし外惑星は、食い散らかされたように幾つかに割れている。

 扉のイラストで、やっと「あ、そういう事なのね」と舞台の形が分かった。宇宙探査と名前は偉そうだが、この人が書く人物の旅ってのは、どいつもこいつも行き当たりばったりな感じがぬぐえないのは、やっぱり筆者の行動様式を反映してるんだろうかw

 冲方丁「マルドィック・アノニマス」第25回。バロットはイースターズ・オフィスなどの協力を得て、<クインテット>のアジトを襲い、ウフコックを取り戻す。たちまち抜群のコンビネーションを発揮するバロットとウフコックは、<クインテット>と互角以上に渡り合う。特にバジルとは交渉の余地があると感じ取ったバロットは…

 今回もアクションは少ないが、相変わらず緊張感が漂う展開が続く。しかも<クインテット>の内情が明かされるにつれて、バジルにも肩入れしたくなるからややこしい。法が通用しない分、バロットより苦しい立場なのかも。トゥイードルディの性格って、某書のジョン・アンダーソンに似てるなあw

 小川哲「ムジカ・ムンダーナ」。フィリピンの小さな島、デルカバオには、五百人ほどのルテア族が住んでいる。彼らには独自の文化がある。音楽を取引に使うのだ。高橋大河は、目的があってデルカバオに来た。もっとも裕福な男が所有し、一度も演奏されたことのない、もっとも価値のある音楽を聴くために。

 よく言われるように、貨幣ってのは不思議なもので、価値があると多くの人が信じるから価値がある。誰も聴いたことがないのに、なぜ価値があると思われているのか。とかの謎はともかく、私は音楽のネタだと、頭の中で次々と音楽が鳴りだして、なかなか文章に集中できないんだよなあ。冒頭のロブの話でも、AerosmithのDUDE(→Youtube)やScorpionsのSteamrock Fever(→Youtube)が鳴りだして…

 小野美由紀「ピュア」。衛星ユングには15歳から18歳のメスが住む学園星だ。月に一度、レッド・トーンの期間中に地上に行き、“狩り”をする。男と交わり、終われば食べる。卒業後、私たち特Aクラスは上級士官として軍の服役が待っている。だが子供をたくさん産めば“名誉女性”となり兵役免除だ。ヒトミちゃんは美しい。全身が宝石箱みたく輝く翡翠色の鱗に覆われ…

 ちょっと芸風は鈴木いづみに似てるかも。マミちゃん、そんなにがっついたら、そりゃできるモンもできませんがなw 男女の肉体の強さが入れ替わり、生殖がテーマとなれば暗くなりがち。しかも事後には女が男を喰っちゃうし。でも性欲と食欲を強く結びつけ、主人公のユミが多少能天気なあたりが、スプラッタながらも明るい雰囲気に仕上がってる。いやほんとグチュグチュヌラヌラなんだけどw

 サム・J・ミラー「髭を生やした物体X」茂木健訳。ヘリ操縦士のマクレディは、全滅したマクマード南極観測基地から、かろうじて生きて帰った。だが、彼はときおりマクレディではない。その間、マクレディには記憶がない。何かがマクレディの身体を乗っ取っている。ニューヨークでマクレディはかつての恋人ヒューと出合う。そしてヒューを吸収し…

 映画「遊星からの物体X」に捧げる一編。「命がけで南極に住んでみた」によると、南極基地でも定期的に上映されるとか。食われた者の視点ってのが面白い。と同時に、同性愛や人種問題、そして「遅れちてきた移民」などを巧みに盛り込んでいる。そうか、だからマクレディなのか、と感心した。でもアレには勝てないってのは、SFの伝統?

 琴柱遥「讃州八百八狸天狗講考」。讃州丸亀京極氏屋形で怪異があった。便所から手が出て女の尻を撫でる。輪弥という若侍がそれを聞き、女物の小袖をかぶり便所にはいる。すると下から毛むくじゃらの手が出てきたので、脇差で切りつけた。キャッと声がし、残ったのは狸の前足。以後、便所の怪異はなくなった。あくる年、輪弥の枕元に…

 渡辺綱の鬼の腕ならぬ狸の腕かいw 讃州で八百八狸ってあたりは、いかにも由来がありそうだし、どこまで本当でどこからが作り話かと思ったら、どんどんとんでもない方向に話が向かってw だから二億五千年なのかw やっぱり狸ってのは、どうにもユーモラスな方にいっちゃう生き物でw オチもヒドいw

 藤井太洋「マン・カインド」第8回。これも話が佳境にさしかかったためか、ネタバレせずに内容を紹介するのは難しい。現在の技術革新が続けば、間違いなくこういう技術も使われ始めるだろう。昔からあるテーマだけど、時代的にも技術的にも「今、そこにある」問題だけに、深く考え込んでしまう。果たして移行は平穏に進むんだろうか。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第7話 一寸の虫にも」。兵頭健は憂鬱だ。今回の任務は探し物。しかも27匹。<デメテル>空港から逃げ出したタマムシの捕獲だ。ただのタマムシじゃない。遺伝子改造され、七センチほどに大きくなった、俗称ニジタマムシである。繁殖方法は不明で、下手をすると大増殖して生態系を破壊しかねない。

 イシードロって、どっかで聞いたような名前だなw お気楽極楽な性格が、いかにも南欧人。その弁護士もいい性格してるw それより変人ぶりが際立ってるのが、昆虫担当の学芸員カミロ・クロポトフ。学者さんにありがちなタイプだよね。ピントが合ってる時と合ってない時の落差が凄い人。にしてもニジタマムシ、ニール・ショーンあたりはすぐ気に入りそうだなあ。

 池澤春奈「SFのSは、ステキのS」。ヒトの体は少しづつ入れ替わるのを「モー娘。パラドックス」って、をいw プロ野球チームもそうだよね。次々と選手が入れ替わるのに、チームとしては同じ。これが大学や高校のチームだと、もっと入れ替わりが速いんだけど、それでもファンは「同じチーム」として認識してる。音楽だとベンチャーズとか。ディープ・パープルは…イアン・ペイスがいるか。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」、今回のテーマはアルゴクラシー。imidas によると、「人工知能に政策立案・決定を委ねること」。現代中国じゃアリババなど信用サービスの普及で、取引の信用度が上がりサービスも良くなったとか。そういえば中国は昔から科挙でエリートを選抜してたなあ。これがあの国の変化を阻んだんだろうか。

 大森望「新SF観光局」。ラヴィ・ティドハーとアンソロジー編纂の苦労で盛り上がったって話。にしてもイスラエルとパレスティナの作家が同じ本に収まるってのも凄い。「(著者の)人数が増えると完成した本を各国に送るだけで数千ドルの経費がかか」るって、確かにそりゃ大変だ。

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2019年3月 3日 (日)

SFマガジン2019年4月号

「楽器人間。それはどういう……構文だ」
「構文じゃない。熟語だよ。ああ、肩書きかも知れない。『怪奇楽器人間』。それがこの街の夜を跋扈している。そして犯罪行為をおこなっている」
  ――飛浩隆「サーペント」

「おめでとうございます! みなさんは、生命進化を守る戦士に選ばれました!」
  ――草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」

野生のエルヴィス・プレスリーをご存じだろうか。
  ――石川宗生「野生のエルヴィスを追って」

「高さ二万メートルのビルを泥が支えられるなんて、信じられない」
  ――ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ベスト・オブ・ベスト2018」。「SFが読みたい!2019年版」のランキング上位作家の短編を収録。

 お陰で今月は小説が多い。なんと16本だ。

 まず特集の「ベスト・オブ・ベスト2018」で9本。飛浩隆「サーペント」,郝景芳「戦車の中」立原透耶訳,円城塔「書夢回想」,上田早夕里「銀翼とプレアシスタント」,ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳,高島雄哉「無重力的新世界」,草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」,石川宗生「野生のエルヴィスを追って」,樋口恭介「1000億の物語」。

 連載は夢枕獏「小角の城」第52回だけ。

 読み切りは6本。柞刈湯葉「たのしい超監視社会」,三方行成「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」,片瀬二郎「ミサイルマン」,そして草上仁は三連発「半身の魚」「必殺!」「二つ折りの恋文が」。

 飛浩隆「サーペント」。学究都市クルーガーで事件が起きた。『怪奇楽器人間』。特殊楽器が関わるとの疑いもあり、カエキリア教授は技芸士の派遣をギルドに依頼する。やってきたのは技芸士セルジゥ・トロムポノク。さっそく現場に赴くと…

 「零號琴」の前日譚の冒頭のみ。すんません、まだ本編は読んでないです。葉巻型宇宙船だの<行ってしまった人たち動力>だので「ほえ?」と思ってたところに、「怪奇楽器人間」で腹筋が決壊w にしても、本当に「空の園丁」は出るんだろうか。

 郝景芳「戦車の中」立原透耶訳。村はすでに破壊されていた。連れの雪怪を村に送り込み、定点清掃を命じた。雪怪は高さ5メートルの工兵ロボットだが、戦闘能力もある。やがて雪怪から警報が来た。小型の機械車を見つけた、と。そこで雪怪は相手の基本情報を…

 徹底的に機械化された未来の戦闘の一幕を描く掌編。某大ヒット映画の冒頭や、フレッド・セイバーヘーゲンの「バーサーカー」シリーズを思わせる状況を描く。逆チューリング・テストって発想もいい。加えて、田中光の扉イラストも素晴らしい。

 円城塔「書夢回想」。そこは異端の組織が長い年月を費やして構築した巣、書店だ。今となっては、書籍に原本があることすら知らない人もいる。原本を読まずとも、要約機能でほぼ同等の読後感が得られる時代だ。また文章も読者に応じて自動的にふさわしく変換してくれる。

 だんだんと紙の本は肩身が狭くなってきている今日この頃だけど、案外と今後も生き残るんじゃないかって気がしてきた。というのも、人が最初に出会う本は、たいてい紙の絵本だからだ。それはそれとして、この作品は電子書籍がうんとこさ進歩した未来の物語。

 上田早夕里「銀翼とプレアシスタント」。土岐田和穂は海上保安庁のパイロットだ。かつて瀬戸内海と呼ばれた地域を巡回コース通りに飛び、予定の淡路北フロート群の海上空港に降りる。馴染みのカフェ Shin-Kai に寄る。何かあったらしく、蛙の置物がない。

 お待ちかね<オーシャンクロニクル・シリーズ>の前日譚の冒頭抜粋。既に海面上昇は起きていて、瀬戸内海もだいぶ様相が違っちゃってる。これに対応する日本政府の方針も相まって、ちと胡散臭くもあれば国際的でハイテクでもある不思議な社会ができてる模様。

 高島雄哉「無重力的新世界」。世界最大のオークション・サイト<799>の代表取締役は、ベンチャー運営の打ち上げ船で月の裏側を周回する旅に出る。同行者が11人のアーティスト。画家・彫刻家・作曲家・舞踏家・写真家・小説家・調香師・ゲームクリエイター・配信者・AIアーティスト・VRアーティスト。

 たった一週間って締め切りじゃ、悲鳴を上げる人も多いだろうなあ。漫画家を入れてもいい気がする。あとプログラマも。perl の 1 while s/(.*\d)(\d\d\d)/$1,$2/ /*数字3桁ごとに位取りのカンマを入れる*/ とか、私はアートを感じるんだけど。

 草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」。星智慧女学院三年A組、十八人。ノンフィクションを好み我が道を行く空上ミカ、おとなしく古典文学が好きな峰岸しおり、雑誌の読者モデルをやっている白鳥純華、その取り巻き沖汐愛理、王子様タイプの竜造寺桜花、小柄でボーイッシュな飯泉あすか…。彼女らは人類の、いや宇宙の命運をかけたデスゲームに放り込まれ…

 長編、どころかシリーズ化予定作品の冒頭。さすがに十八人もいたらキャラがカブるかと思ったけど、なかなかに濃いキャラが揃ってます。私は神木月波ちゃんが気に入った。この突発事態に、アッサリと適応して、いきなりソレやりますかw つかポケットにナニを持ってるんだかw

 石川宗生「野生のエルヴィスを追って」。野生のエルヴィスは、環境に応じて様々な進化を遂げている。ただし生態の多くは謎のままだ。国際自然保護連合レッドリストでは近絶滅種に指定されている。そんな野生のエルヴィスを追う人々は…

 野生のエルヴィス・プレスリーってアイデアがいいw なんじゃい「エルヴィス・ハンター」ってw まさしく小説家の本道、「見てきたようなウソをつく」に真っ向から挑戦し、ナショナル・ジオグラフィックやBBCドキュメンタリー風の騙りで貫き通した作品。通勤電車の中で読んだら周囲から変な人だと思われます。

 樋口恭介「1000億の物語」。増え続ける人口を支えきれなくなった人類は、ソフトウェア化の道を選ぶ。量子サーバー内にグロタンディーク自治区と呼ばれる人工宇宙を作り、そこに住み暮らし子を成す。その一人メアリーは19歳として生まれた。恋人のパーシーは23歳。

 「第81Q」なんて言葉で一瞬ニヤリとしたり、設定からゼーガペインを思い浮かべたり。いやさすがにサーバは舞浜じゃないけど。システムを設計・導入する際は、将来に必要になるリソースの事も考えておきましょうね、という話…では、ないと思う。

 柞刈湯葉「たのしい超監視社会」。世界はオセアニア・ユーラシア・イースタシアの三大国に別れ、互いに争っていた。その一つイースタシアは、厳しい監視社会だ。かつての特高警察では膨大な人口を監視しきれない。そこで国民同士が互いに監視し合う制度を導入し…

 「イースタシアの歳出歳入を正確に知ることは、月の裏側を見るよりも難しい」とかの時事ネタはキャッチー。また歴代総統の肖像画とかも、作者ならでは。相互監視制度も、若い人はそれなりに楽しんでいるようでw でも私の下手な歌なんかを聞かされたら、迷惑だろうなあw

 ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳。エマは不動産業界で働いている。久しぶりに会った幼馴染のカールが、イカれた話を持ちかけてきた。高さ二万メートルの鉄製タワーを作りたい、協力してくれ、と。

 「七人のイヴ」では、軌道上の暮らしを科学・工学系の細部をキッチリ描いてくれた著者。この短編でも、高さ20kmの鉄塔なんてイカれたアイデアを、科学と工学に加え、産業にまで踏み込んでテンポよく描いてくれる。難問は重さだけじゃないあたりが読みどころ。終盤の展開には完全に脱帽。

 特集はここまで。以降は読み切り。

 三方行成「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」。空きっ腹を抱えたあなたは、奇妙な店を見つけた。「折り紙食堂」。その名のとおり、カウンターには折り紙がびっしり並んでいる。中にいた店主らしき男も、折り紙に没頭している。出ていこうと思ったが、店主は何やら準備を始めてしまい…

 折り紙って、使える紙は一枚だけなのかと思ってたけど、幾つもの部品を組み合わせて作るのもあるのか。ある意味、「中国人の店で変なモノを買って…」のバリエーションの一つ。

 片瀬二郎「ミサイルマン」。五のつく日は納品日で大忙し。しかも年末となれば戦場である。なのにンナホナがいない。外国人労働者ながら、今までさんざん修羅場を切り抜けてきた強者なのに。社長の息子の俊介は、総務の末松を伴って、ンナホナのアパートを訪ねるが…

 最近の外国人労働者関係のニュースを聞くと、笑って済ませられない話。特にンナホナの故国のニュースを聞いた時の、俊介の反応とかは、いかにもこの手の人にありがちで、某選手の病気に対する某大臣のコメントを連想してしまった。

 おまちかね草上仁の三連発「半身の魚」「必殺!」「二つ折りの恋文が」。「半身の魚」は砂漠で見つけたオアシスでの一幕。やるな、とい言われると…なお話。「必殺!」は、藤田まこと主演の必殺シリーズのパロディ。にしてもオチが黒いw 「二つ折りの恋文が」は打って変わって異星での恋愛物語。つくづく芸幅の広い人だなあ。

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2019年2月18日 (月)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2019年版」早川書房

飛浩隆「今岡編集長から『就職はするように』というありがたいお話がありました」
  ――飛浩隆 誕生と再始動、そして

谷甲州「予想はしてたのだが太陽系内を舞台にするとデータが古びやすくて困る」
  ――2019年のわたし

 年に一度のSFファン向けお祭り本。

 例年通り、冒頭は「ベストSF2018国内篇・海外篇」。これの何が有り難いって、見逃してた美味しい本を教えてくれるのが嬉しい。ロジャー・ゼラズニイ「虚ろなる十月の夜に」が出てたなんて全く知らなかった。今年は若手とベテランが入り混じってて、なかなか豊かな香りがする。

 はいいが、シルトの梯子(全3巻)ってなんじゃい。

 「マイ・ベストSF」も「2019年のわたし」も、草野原々はやたらと「!」が好きだなあw 柴田勝家といい赤野工作といい、最近のSF作家は芸まで求められるのかw

 ジャンル別ベストSF&総括 SFアニメ。そうか、「はたらく細胞」は21世紀の「ミクロの決死圏」だったのか。納得。科学とエンタテイメントを見事に融合させた作品だよね。しかし「ポプテピピック」がSFだったとはw まあ百合ではあるけど←え?

 このSFを読んでほしい! やはり早川書房は貫禄がすごい。ハーラン・エリスン「危険なヴィジョン[完全版]」ってマジかい。それとテッド・チャンの「伊吹*」も嬉しい。噂の「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は読み逃してたんだよなあ。ついでに、ぼちぼち草上仁の短編集も欲しいです。

 エリスンは国書刊行会からも「愛なんてセックスの書き間違い」が出る。やっとエリスンのブームがきた? 竹書房の建屋は変なモノが埋まってたり壊されたり大変ですねw 東京創元社のピーター・ワッツ作品集「巨星」も期待してます。

 2019年のわたし。上田早夕里、ついに<オーシャンクロニクル・シリーズ>が出る。嘘じゃなかったんだ。梶尾真治、「クロノス・ジョウンターの伝説」映画化かあ。あ、いつの間にか徳間文庫から出てる。しかもソノラマ文庫から何篇か増えてるし。これは早めに手に入れないと。

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2018年12月31日 (月)

SFマガジン2019年2月号

「I'm fine.」
――わたしは元気です。
  ――宮澤伊織「キミノスケープ」

二十文字じゃ足りないし、二十文字じゃ多すぎる。
  ――森田季節「四十九日恋文」

この先、神体あり 危険 関係者以外立ち入り禁止
  ――幽世知能

起動した、ゆえにわれ目的あり。
目的ある、ゆえにわれ忠勤する。
  ――スザンヌ・パーマー「知られざるボットの世界」中原尚哉訳

ほんとうの奇跡は、わたしたちに<意識>があるということだ。
  ――神林長平「先をゆくもの達」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「百合特集」として、短編4作コミック1作に加え、インタビュウやガイドなど。

 小説は12本。まず「百合特集」で4本。宮澤伊織「キミノスケープ」,森田季節「四十九日恋文」,草野原々「幽世知能」,伴名練「彼岸花」。

 連載は5本。夢枕獏「小角の城」第51回,椎名誠のニュートラル・コーナー「インデギルカ号」,神林長平「先をゆくもの達」最終回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第24回,藤井太洋「マン・カインド」第7回。

 読み切り&不定期掲載は3本。レベッカ・ローンホ-ス「本物のインディアン体験™へようこそ」佐田千織訳,スザンヌ・パーマー「知られざるボットの世界」中原尚哉訳,菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第六話 不見の月」。

 まず百合特集。

 宮澤伊織「キミノスケープ」。人も動物も消えてしまった。残っているのはあなただけ。テレビもラジオもネットもノイズだらけ。でもなぜか電気などのインフラも残っているし、コンビニでは弁当などの生鮮食品は入れ替わる。一人でさまよううちに、あなたは見つける。誰かが残したメッセージを。

 一人だけ取り残されたのか、それとも一人だけ別の世界に迷い込んだのか。いずれにせよ、メッセージが「俺はここにいるぞ」だったら、お話の感触はだいぶ違っただろう。そういう点では、百合特集に相応しい幕開け。ちょっと森奈津子の傑作「西城秀樹のお陰です」を思い出した。

 森田季節「四十九日恋文」。死者の意識は、死後も49日はこの世に留まるとわかった。そこで限られた文字数だけ死者とメッセージの交換が許される。最初は49文字で、毎日一文字づつ文字数が減ってゆく。限られた文字数で、絵里は栞に思いを伝えようとする。

 文字数が次第に減ってゆく、という仕掛けが、あまりに見事すぎる。生々しい煩悩を幾つも引きずり、未練タラタラの絵里と、妙に悟った感のある栞の対比が面白い。結局、葬式にせよ四十九日の法要にせよ、生きていかなきゃならん残された者のためにあるんだろうなあ。

 草野原々「幽世知能」。幽世知能、それは幽世の持つ無限の情報処理能力を使ったコンピュータ。ただし適切な出力を汲み取るには、現し世との接点=神体が要る。わたしが幼い頃、森の神体を端末にする計画があったが頓挫した。神体の近くは神隠しの危険があり…

 小学生の頃からの友達、アキナと、神体の近くで待ち合わせた与加能(とかの)。神隠しの危険が大きい今、なぜ? と不穏な雰囲気で始まった話は、アキナ登場に伴い更に物騒な方向に向かう。にしてもこの人、血みどろニチャニチャな場面が好きだなあ。

 伴名練「彼岸花」。時代は大正十二年。舞弓青子と真朱、寄宿舎住まいの女学生どうしの交換日記。お姉様に焦がれる青子、いろいろと青子に助言を授ける真朱。だが文中には「紅筆」やら「死妖」やらと、奇妙な単語が並び…

 わはは。なんとアレをネタにしてキム・ニューマンに挑んだかw 死妖姫って訳は、いかにもあやしげでいいなあw ちょっとジョージ・R・R・マーティンの「フィーヴァードリーム」っぽい仕掛けもあって。他に何を仕掛けてるのやら。あとパイプオルガンの場面が印象に残るなあ。いいよね、紅い鍵盤。ケン・ヘンズレーあたりが使ったら似合いそう。

 百合SFガイド2018。シムーンは良かったなあ。私はマミーナが好きだ。ところで百合の神様はギリシャアルテミスでいいのかな? 他に思い浮かぶ百合作品といえばニコラ・グリフィス「スロー・リバー」,ダリル・グレゴリイ「迷宮の天使」、高瀬彼方「カラミティナイト」とか。

 と、百合特集はここまで。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「インデギルカ号」。インデギルカ号は、恒星間世代継続型巨大宇宙船だ。目的地は地球から6パーセクの「ヒトデ座」だったが、途中で奇妙な天体を見つけた。テラフォーミングに向く球体と、それを取り巻くドーナツ型の連合惑星である。

 内惑星からやってきたナグルスが、彼の過去を語るとともに、この奇妙な惑星の正体に迫る回。なのはいいが、距離感が相当にいい加減だな、おいw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第24回。ハンターはヴィクトル・メーソン市長ら<シザース>との面会に赴く。そこで語られる<シザース>の目論見は…。バロット&ウフコックのコンビは、<クインテット>と戦いつつ、バジルとの交渉を試みる。

 お話も押し詰まってきたためか、だんだんと書けることが減ってきてつらい。特に今回の後半では、このシリーズ全体に関わりそうなネタまで飛び出してくる。加えてハンターばかりかバジルにまで肩入れしたくなってしまった。

 レベッカ・ローンホ-ス「本物のインディアン体験™へようこそ」佐田千織訳。トゥルーブラッドことジェシー・ターンブラットはフェニックスの売れっ子だ。「旅行者」たちにインディアン体験を与える。ただし彼の知識は映画で得たもの。妻のテレサは屈辱的だと思っているが、失業よりはマシだと思っている。

 なんでもかんでもショウにしちゃうアメリカの一面を浮き彫りにした作品。ニンジャも明らかに思い込みと勘違いでケッタイなことになってるし。とまれ、似たストーリーをどっかで読んだ気がする。夏の日、流れ者の芝刈り仕事を手伝ったら云々、みたいな話なんだけど、あなた覚えてます?

 スザンヌ・パーマー「知られざるボットの世界」中原尚哉訳。異星人の攻撃で人類の艦隊は壊滅、残るは廃船扱いの一隻のみ。緊急措置で出航にこぎつけ、少ないボットを駆使して修理しながら応戦に向かう。艦内最古の多機能ボット、ボット9の使命は艦内に潜む害獣の駆除だ。

 どう考えても無謀な命令と知りつつ、次々と起きる艦の故障をなだめながら、作戦遂行を目指す人間のクルーたちと、目前のタスクを黙々とこなす…ように見えて、実は意外と感情豊かなボットたちの対比が楽しい。ボット9をお堅い侍言葉に、シルクボットをざっくばらんな町人口調にした訳者のセンスが光る。

 神林長平「先をゆくもの達」最終回。ついに最終回。前回と同様に、語り手の視点を次々と切り替えてゆく。レイ・ブラッドベリの「火星年代記」の衝撃的なエンディングを受け、その更に向こう側を目指した作品…ってのは、考え過ぎかな?というのも。

 植民地人だった開拓者たちが、独立してアメリカ人としての自覚を持つまでが「火星年代記」。その過程で原住民の虐殺などもあった。対して「先をゆくもの達」では…

 菅浩江「博物館惑星2 ルーキー 第六話 不見の月」。画家の吉村輔は晩年をアフロディーテで過ごし、昨年亡くなる。晩年のシリーズ「不見の月」のうち、#18だけは手元に残していた。現在の持ち主は長女の亜希穂。その#18が、二人組の強盗に狙われる。うち一人は確保したが…

 何やら曰くありげな#18には、どんな意味があるのか。私は芸術には疎いんだが、「完璧な赤」とかを読むと、新しい素材がクリエイターを刺激するの想像がつく。それをどう使うかは使い手によりけり。インターネットも私のような無能が使えば、こんなしょうもないブログにしかならんワケで。とまれ、折り合いの悪い親子の話でも、「カフェ・コッペリア」収録の「モモコの日記」とはだいぶ違うのは、登場人物の年齢のせいだろうか。

 藤井太洋「マン・カインド」第7回。迫田とレイチェルは、トーマと合流する。迫田はチェリーかた聞いた内容を二人に告げる。なぜチェリーは捕虜を虐殺したのか。それをスクープした迫田の記事に対し、なぜ<COVFE>が低い評価しか与えなかったのか。

 どの作品でもネタの新鮮さで驚かせてくれる藤井太洋だが、今回はさすがにブッ飛んだ。前回の休載は、あの事件を予測して、今回の連載に取り入れるためではないかと思ったほど。いったい、いつ原稿を編集部に渡したんだ?この人は忍者かCIAでも雇っているのか?

 長山靖生「SFのある文学誌 第62回 直木三十五の未来戦記、川端康成の臓器移植 時代の先端の先にあるもの」。直木三十五の「夜襲」が、かなりの先見性。なんと1930年に太平洋戦争を予告し、空軍力が鍵と見做し、メガフロート・無人攻撃機・化学兵器まで登場してる。しかも「資本力の差が科学力の差となり、ひいては軍事力や国力の差になる」って、すんげえクールな分析力だ。

 若島正「乱視読者の小説千一夜」。2018年11月15日に亡くなったウィリアム・ゴールドマンを追悼する記事。「プリンセス・ブライド」は映画しか思えてないけど、よかったなあ。王道のおとぎ話なのに、なぜかアンドレ・ザ・ジャイアントが出てた。記憶に残ったのは、初恋を美化しちゃうようなモンなんでしょう。

 堺三保「アメリカン・ゴシップ 88 アメリカで映画を撮るということ」。『オービタル・クリスマス』制作の裏話で、SAG(スクリ-ン・アクターズ・ギルド=映画俳優組合)との行き違いの話。制作側には面倒だろうけど、役者にとっちゃ組合は有難いんじゃないかなあ。もっとも、それを皮肉った「マイク・ザ・ウィザード」なんて映画もあるけど。おバカで楽しい映画です。

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2018年10月28日 (日)

SFマガジン2018年12月号

「いや、十一時だ」
  ――ハーラン・エリスン「失われた時間の守護者」山形浩生訳

「この体は本来のわたしのものじゃありません。わたしは有罪判決を受けて人間として生きることになり、そのせいで死にかけています」
  ――ハーラン・エリスン「奇妙なワイン」中村融訳

「おとといは恐竜、きのうはピラミッド、きょうは女の子か」
  ――横山えいじ「おまかせ!レスキュ~」Vol.223

王が王になってからは、いつも時間がありませんでした。王に時間があるときは、王には地位がありませんでした。
  ――小川哲「時の扉」

意識とは、方向を把握する機能である。これにより生き物たちは前と後ろを区別することができるようになった。空間の方位ではない。対象は時間だ。
  ――神林長平「先をゆくもの達」第6回

「あなたたち五人に、いつか大変な危機が訪れるの。その時みんなを守れるのはあなた」
  ――S・F・S/木村航「revisions リヴィジョンズ」

関数というのはカップリングなんですよ。
  ――トークイベント「平成最後の夏と百合」宮澤伊織×草野原々

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ハーラン・エリスン追悼特集」として、短編三作とエッセイ・年譜など。

 小説は13本。まず「ハーラン・エリスン追悼特集」で3本。「失われた時間の守護者」山形浩生訳,「おお、汝信仰うすき者よ」柳下毅一郎訳,「奇妙なワイン」中村融訳。

 連載は4本。夢枕獏「小角の城」第50回,椎名誠のニュートラル・コーナー「団体偵察旅行」,神林長平「先をゆくもの達」第6回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第23回。

 読み切り&不定期掲載は6本。草上仁「魔王復活!」,飛浩隆「零號琴」削除されたシーン,S・F・S/木村航「revisions リヴィジョンズ」,澤村伊智「愛を語るより左記のとおり執り行おう」,小川哲「時の扉」に加え、第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作の抜粋として三方行成「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集 灰かぶり姫」。

 まずは「ハーラン・エリスン追悼特集」。

 「失われた時間の守護者」山形浩生訳。老いたガスパールと貧しいビリーは、墓地で出会う。二人のチンピラにガスパールが襲われたのを、ビリーが助けたのだ。ビリーは自分のアパートにガスパールを迎え入れ、二人はともに暮らし始める。ガスパールが持つ懐中時計は、十一時を指していた。

 妻を喪ったガスパールと、コンビニで深夜勤務のビリー。天涯孤独な二人の男の、ひとときの友情。短編集「ヒトラーの描いた薔薇」収録の「バシリスク」にも似て、傷ついた者への優しいまなざしが感じられる作品。

 「おお、汝信仰うすき者よ」柳下毅一郎訳。アメリカ西部からメキシコに国境を越えた町、ティファナ。薬物、免税品、男女、なんだって売っている。ナイヴンとバータが来たのは、中絶手術のため。二人はメキシコ人の老婆が営む怪しげな店に立ち寄り…

 どうしようもなくヒネクレて、あらゆるものを嫌い、何者も、自分すら信じないナイヴン。一種の厨二病と言ってもいいが、自分が若くないのを自覚してるだけに、更に悲惨だ。こういう、徹底してスレてねじ曲がった人物像は、エリスンならでは。

 「奇妙なワイン」中村融訳。娘のデビーは交通事故で喪った。息子のギルヴァンはプールで背骨が折れ下半身不随。見舞いに行こうとしたら車が壊れた。南カリフォルニアだってのに大雨で家は雨漏り。そして自らはインシュリン注射が欠かせない体。ウィリス・コウは思う。(わたしはここの生まれじゃない)

 次々と襲い掛かる不運に、くじけつつあるオッサンが主人公。「本当の私は違う」って想いは、幼い頃なら誰だって考えた事がある。SF者は、そんな想いをずっと持ち続けている人が多いのかも、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの「ビームしておくれ、ふるさとへ」を連想してしまうが、そこはエリスン。

 鏡明「その頃、ぼくたちはみんなかれのファンだった」。日本のSFファンダム初期じゃ、伊藤典夫氏の影響が大きかったんだなあ。エリスンを「スタトレのライター」として報じる記事が多かったってのは、うーん。ヒトは誰でも、自分が興味を持つモノを中心に世界を観るんだろう。

 若島正「もうひとつのエリスン」。いかにもこの人らしい目の付け所で、エリスンがSF界に嵐を巻き起こす前の、ギャング物や音楽物にスポットを当てたエッセイ。ビジネス的には現代日本のライトノベルに当たる市場かも。にしても六日で一冊ってシルヴァーバーグのペースは凄い。

 三方行成「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集 灰かぶり姫」。シンデレラは母を事故で喪いました。父は後妻を迎えます。継母は二人の娘と共にシンデレラをコキつかい、いじめます。悲しむシンデレラのもとに、魔女が現れました。魔女はシンデレラにドレスを与え…

 はい、本当にそういう話です。嘘じゃありません。嘘じゃないけど…。冒頭から大笑い。あの童話と「トランスヒューマン」と「ガンマ線バースト」が、どう関わるのかと思ったら、いきなりこうきたかw うん、確かに「トランスヒューマンガンマ線バースト童話」だw

 澤村伊智「愛を語るより左記のとおり執り行おう」。天祢和也42歳はドラマの制作会社に勤めている。最近の作品は評判が悪く、社内でも立場がない。そこに部下の多田が面白い案を持ってきた。自らの葬儀は伝統的な形で、と望む老人がいる。これをドキュメンタリーにしよう、と。

 未来の家族シリーズ(シリーズ名は私が勝手につけた)最終回。VRが発達し、葬儀もVRを駆使して、複数の会場で同時開催する時代。そういえば落語の「らくだ」に描かれる葬儀は、現代と全く違う。同様に未来で現代の葬儀の復元を試みたら…という視点に、常識を疑い価値観を相対化する強烈なSF魂を感じる。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「団体偵察旅行」。駅前酒場に現れたナグルスが、この奇妙な惑星と、卵惑星の由来を語り始める。そして、ときおり訪れる「フットボール」の正体も…

 いよいよ終盤にさしかかったのか、次第に明らかになるケッタイな世界の背景。とはいえ、それを聞く面々が妙にのんびりしてるのは、最近のシーナ風というかw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第23回。<蜘蛛の巣>に侵入し、ウフコックとの会合を果たしたバロット。次々と襲い来る<クインテット>を蹴散らし、ここを仕切るバジルへと迫る。だがバロットの狙いは彼らを倒すことではなかった。

 これも終盤に入ったのか、今まで隠されていた謎が次々と明らかになってゆく回。にしてもバロット大暴れだなあ。

 小川哲「時の扉」。遠い場所から来たものは、王に語る。「時の扉」のことを。大切なものを失った男の話を。父母の遺産で暮らていた絵描きがいた。彼の唯一の楽しみはオペラだった。その日、男はいつものようにオペラを楽しんでいた。すると、隣の席の女の具合が悪くなり…

 未来は変えられないが、過去は変えられる「時の扉」。それはどう働き、何ができるのか。それを用いたものは、いかなる運命を辿るのか。末期の「彼」の様子の記録は少ないし、証言者による脚色もありそうだけど、こういう筋書きも充分にあり得る…というか、現在でも似たような人が多いような。

 神林長平「先をゆくもの達」第6回。火星のナミブ・コマチは、機械鳥に問う。「いまのあなたは、なに。地球の<知能>の代表のつもりなの?」 チャフと名づけられた機械鳥は語り始める。ヒトと機械の知性の違いを。ハンゼ・アーナクの生涯を。そしてトーチの目的を。

 なんと最終話前編。これも終盤に差し掛かり、重要な謎の多くが明らかになる回。意識とは、ハンゼ・アーナク誕生の理由、トーチの目的、そして「先をゆくもの」とは何か。

 草上仁「魔王復活!」。魔王クルタルパが蘇りつつある。以前の鎮圧の際には、五百人の魔術師と二千人の戦士、そして複数の英雄豪傑が動員された。そこで戦士と神官と魔導士が鎮圧に向かう。実体化の地は、埼玉県春日部市付近。三人はまず築地市場に立ち寄り…

 一種の異世界転生物…かな? この現代日本で魔物を退治するにはどうするか。いきなり東武伊勢崎線とか、やたら親しみのある名前が出てくるあたりから、笑うやら納得するやら。なにせハイテクが普及し治安のいい日本。魔物退治のパーティーも意外な苦労を背負っていて…

 S・F・S/木村航「revisions リヴィジョンズ」。七年前の事件から、大介は信じ続けている。自分には仲間を守る使命がある。ガイとルウ、マリマリ、慶作の四人を。高校に入ってからも、トレーニングは欠かさない。だが、そのために、仲間たちからは少々疎んじられ始めている。

 2019年1月からアニメの放送が始まり、小説版が2018年12月から全三巻で刊行を予定している「revisions リヴィジョンズ」の冒頭部分。設定関係の説明や人物の気持ちの描写も多い。これをどう映像化するのか、なかなか興味深いところ。

 トークイベント「平成最後の夏と百合」宮澤伊織×草野原々。関数はカップリングなんて謎理論ながら、なんか納得させてしまうあたりはさすがSF作家w でも結局は編集さんが最強だったりするw

 SF・Tシャツ、草野原原デザインのカエアンは←ダメだろ

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2018年9月 7日 (金)

SFマガジン2018年10月号

Netflix「自分たちはまず何よりもテクノロジー企業であると考えていまして、技術的な面がすごく大きかったと思います」
  ――教えて、ネトフリの中の人! Netflix PR担当者インタビュウ

≪彼は眠ったままではない≫
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第22回

「雪江ちゃん、検査しようか?」
  ――澤村伊智「サヨナキが飛んだ日

「あれは創作や装飾ではない。機能を持ち込むことになりますからね」
  ――菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第5話 白鳥広場にて」

『そこがほころびだ』
  ――藤井太洋「マン・カインド」第6回

 376頁の標準サイズ。

 特集は「配信コンテンツの現在」。Netflix などで配信中のSFコンテンツ90本紹介のほか、Netfixインタビュウなど。

 小説は10本。連載は5本。夢枕獏「小角の城」第49回,椎名誠のニュートラル・コーナー「裏側探検隊」,神林長平「先をゆくもの達」第5回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第22回,藤井太洋「マン・カインド」第6回。

 読み切り&不定期掲載は5本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第5話 白鳥広場にて」,柴田勝家「検疫官」,澤村伊智「サヨナキが飛んだ日」,柞刈湯葉「冬の時代」,リンダ・ナガタ「火星のオベリスク」中原尚哉訳。

 柞刈湯葉「冬の時代」。寒冷化し、雪景色に覆われた日本列島を、二人の旅人が歩く。19歳のエンジュと、12歳のヤチダモ。南に行けば春の国がある、そんな噂を聞いて、村をでたのが半年前。今は遠州灘を西へと向かっている。

 滅びてしまった世界で生きる若者を描いているんだが、不思議なくらい悲壮感はない。考えてみれば、二人とも寒冷化する前の世界を知らないわけで、若者ってのはそういうものなんだろう。石油や石炭のエネルギーが使えない世界で、やりくるする工夫が面白い。カサ、欲しいなあ。

 リンダ・ナガタ「火星のオベリスク」中原尚哉訳。海水面の上昇,ハリケーン,干魃,地震,火山の噴火など、相次ぐ災害で人類は滅びかけている。老いた建築家スザンナ・リー-ラングフォードは、人類の記念碑として、火星にオベリスクを建設中だ。その日、火星の建築現場から、連絡がきた。既に滅びたはずの植民地から車両が建築現場まで来た、と。

 人がいない火星で、黙々と働く自動機械たちが可愛い。地震も水害もなけりゃ気圧も低い火星なら、建築物の自由度は高そうだなあ。人が住むとなると気密とかの問題があるけど。正体不明の車両を巡る謎を、地球と火星の通信のタイムラグが巧く盛り上げてる。同じ終末物でも、「冬の時代」との印象の違いは、登場人物の年齢の違いなのかな。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「裏側探検隊」。イースト駅の居酒屋に、突然やって来た男ナグルスは、内惑星から来たという。酒場の連中は面白がってナグルスを囲み、質問を始める。ナグルスは内惑星の由来や、そこに住む者たちの事を話し始め…

 冒頭の、珍しいゲストを迎えて盛り上がり始める酒場の様子が、よく描けてる。世界中のアチコチをウロつきまわってる人だけに、似たような経験を何度もしてるんだろうなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第22回。ウフコックを救い出すため、クインテットのアジトに乗り込んだバロット。ウフコックは取り戻したものの、クインテットの追跡は厳しい。バジルが操る電線は容赦なくバロットに襲い掛かる。

 バロット大活躍の回。今までイースターズ・オフィス側が押されっぱなしだっただけに、バロットの成長ぶりと頼もしさが輝いてる。オッサンたち相手に立ち回るだけでなく、アビーに目をつけるあたりも、彼女らしい。あとレイ・ヒューズの出番があるのも嬉しいな。

 澤村伊智「サヨナキが飛んだ日」。サヨナキ。鳥の形をした看護ロボット。医師や看護師の不足を補い、病院に通う患者の負担を軽くするため開発された。だが、雪絵はサヨナキを悪魔と呼んで憎む。その結果、娘の瑠奈まで殺してしまった。

 うああぁぁ、完全に脱帽。「コンピューターお義母さん」「マリッジ・サバイバー」も見事だったが、この作品は一段と凄い。「図書館戦争」もそうなんだけど、あんまりにも凄すぎると、私は作品について何も言えなくなってしまう。仕掛け、語り、オチ、全てが鮮やかすぎる。舞台こそ未来だけど、同じ問題は今だって幾らでもある。そこを敢えてSFにしたのが、騙りの巧みさというか。ヲタク趣味の泥沼にハマりきってる人は、是非読みましょう。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第5話 白鳥広場にて」。アーティストのワヒドの作品は、Satu sama lain。専用の人工知能が操る、自律粘土のオブジェだ。キクノス広場で展示し、観客が自由に触れ、形を変えてもいい。モノを埋め込んでも、色を塗ってもいい。人工知能が変化を学び、さらに自ら変化する。

 作者のワヒドにすら、どう変わるかわからんモノを、果たして芸術と呼んでいいのか? と疑問に思ったが、まさしくそういうテーマだった。何に感動するかは人それぞれで、私はc言語の標準入出力ライブラリの getc() と ungetc() 関数に感動したんだけど、そういう「美しい実装/アイデア」は芸術と言えるんだろうか? ワヒドは否定的みたいだなあ。

 神林長平「先をゆくもの達」第5回。かつて司令官だった私に、火星から来た男ハンゼ・アーナクは語った。「きみたち地球人は、いつから世界について考えることをしなくなったのだ?」。トーチのお告げに従い、必要な物は<工場>から得る地球人たち。

 火星に向かった若生ら三人から始まる、地球と火星の交流。それは、密かに双方に変化をもたらしていたらしい。今まで描かれた地球人の暮らしは、穏やかな理想郷のように見える。確かにタムなど、現代人から見たら異様な要素はあるけど。ただ、変化がないのは退屈かもしれない。

 藤井太洋「マン・カインド」第6回。 迫田とレイチェルは、遺族訪問の旅を続ける。<コヴフェ>のトーマも加わったところで、迫田は<グッドフェローズ>のORGAN部隊の共通点に気づき始めた。そこで旅の依頼主でもあるチェリー・イグナシオを交え、真相を正すのだが…

 チェリー・イグナシオによる捕虜虐殺、迫田の記事のあんまりな低評価、そしてチェリーの奇妙な依頼。冒頭で示された謎をめぐり、事件の真相へと迫る回。いかにも藤井太洋らしいリアリティあふれる先端技術のアイデアに、「第二内戦」から続く未来史もあって、いよいよ盛り上がってまいりました。

 柴田勝家「検疫官」。ジョン・ヌスレは空港で働く検疫官だ。彼が流入を防いでいるのは、物語。創作物・歴史・伝記・神話伝承・歌謡、すべて持ち込み禁止だ。感染者は完治するまで想像病院に隔離される。問題は、ある母子で起きた。長く外国で暮らし、帰国した母子。母は隔離されたが、十歳の子供は感染の判断がつかず、空港に留めおかれる。ところが…

 物語を疫病として扱うってアイデアが面白い。それだけならお話になりそうもないけど、ちゃんと理屈をつけてるあたりが、プロの作家というか。この「物語を禁じる理由」だけでも、かなり皮肉が効いてる。実際、戦争ってのは、クラウゼヴィッツが考えるような合理的な理由ばかりじゃないんだよなあ。

 特集「配信コンテンツの現在」。

 「動画配信サービスのこれまでとこれから」池田敏。Netflix の売り上げが約1.5兆円ってのも凄いが、新作への投資額が8800億円ってのにもビビる。それなら特撮で金がかかるSFドラマもバンバン作れるなあ。

 「教えて、ネトフリの中の人! Netflix PR担当者インタビュウ」では、映画と配信の広告戦略の違いが興味深い。配信だと「いつでも観れる」から、映画みたく封切り前に集中的に宣伝するって手はあまし有効じゃないとか。

 「SVODサービス時代のアニメのありかた」。インタビュウ同様、人によって同じコンテンツでも観るタイミングが違うって指摘。だから学校や職場で「昨日の『鬼太郎』観た?」的な会話も成り立たない。まあ予め友人同士でしめしあわせ、タイミング合わせて同じ時刻に観るって手もあるけど。また、シリーズ物ドラマの盛り上げ方が「ハリウッド映画の三幕構成によく似てきた」ってのも、お話作りの参考になりそう。

 『忘られのリメメント』刊行記念 三雲岳斗インタビュウ。三雲岳斗が書く、設定凝りまくりの大作スペース・オペラって、なにそれ滅茶苦茶美味しそう。

 盛り上がってきた「マルドゥック・アノニマス」と「マン・カインド」もいいが、澤村伊智の「サヨナキが飛んだ日」にはガツンとやられた。連作なのかあ。早く書籍にまとめて出版して欲しいなあ。

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2018年6月28日 (木)

SFマガジン2018年8月号

惑星ウェレルは奇妙なところだった――奇妙でない世界があるだろうか?
  ――アーシュラ・K・ル・グィン「赦しの日」小尾芙佐訳

わたしは名前をつけられないものを書いてしまうんです。
  ――アーシュラ・K・ル・グィン インタビュウ「名前のつけられないものを書く」
   聞き役:デイヴィッド・ストライトフェルド,幹瑤子訳

江戸川乱歩「大正期の探偵小説は明治期とは逆に、先ず一般文壇にその機運が動き、それに追従する形で専門の探偵小説が生まれて来たとみるべきであろう」
  ――長山靖生「SFのある文学誌」第59回
     <私の目は赤い薔薇>川端康成の新感覚・神秘・そして科学

「均一化(イコライズ)だ」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第21回

研究家というのは暇かどうかに関係なく、ただやりたいからというだけで研究対象を選んでしまうものではあった。
  ――瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 後編」

「どなたか炎上のご用命がありましたら(笑)」
  ――筒井康隆自作を語る 最終回 筒井康孝コレクション完結記念(後篇)

 376頁の標準サイズ。

 特集は「アーシュラ・K・ル・グィン追悼特集」。初訳中編に加え、インタビュウ・追悼エッセイ・主要作ガイドなど。

 小説は9本。まずは特集の「赦しの日」。次いで連載4本。夢枕獏「小角の城」第48回,椎名誠のニュートラル・コーナー「ナグルスの逃亡」,神林長平「先をゆくもの達」第4回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第21回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第4話 オパールと詐欺師」,上遠野浩平「悪魔人間は悼まない」,瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 後編」,倉田タカシ「うなぎロボ、海をゆく」。

 アーシュラ・K・ル・グィン「赦しの日」小尾芙佐訳。惑星ウェレルのガーターイー神聖王国は、惑星連合エクーメンへの加盟を望んでいるが、事実上は同じ惑星上の国家ヴォエ・デイオの従属国だ。そのガーターイーに、エクーメンから使節ソリーが来た。ソリーにはヴェオ・デイオから護衛官テーイェイオが派遣される。堅物で根っからの軍人。ウェレルには奴隷制度が残り、女は表に出ない。

 名手小尾芙佐の訳だぜラッキー、でも追悼特集だしなあ、と喜んでいいのか悲しむべきなのか、複雑な気持ち。ヴォエ・デイオとかテーイェイオとか、固有名詞の音感からル・グィンらしさが溢れてる。若く優秀で熱意に溢れ鼻っ柱の強い主人公ソリーは、コントリーザ・ライスを連想した。政治信条はだいぶ違うけど、なんかヒラリー・クリントンじゃないんだよなあ。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第4話 オパールと詐欺師」。8年前。化石ハンターのライオネル・ゴールドバーグから、変わった依頼があった。仔犬の乳歯をオパール化してくれ、と。新しいビジネスになるかも、とアフロディーテは引き受けた。が、問題はライオネルの相棒カスペル・キッケルトで…。

 あのデビアスが、遂に装飾用の合成ダイヤモンドを売り始める(→CNN)なんてニュースも入ってきて、タイミングはバッチリ。遺灰をダイヤモンドに、なんて商売もあるけど、オパール化は形がそのまま残るのが嬉しいんだろうなあ。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「ナグルスの逃亡」。イースト駅に、奇妙な者がやってきた。防護服の下にギラギラの宇宙服の男。大柄で、赤い髭に覆われている。迫力はあるが、第一声は「あっ、いや、どうもコンニチワ」。

 謎だらけだったパイプ型の二重惑星の秘密が、少しづつ明かされる回。視点も、今までのラクダを連れた「私」から移り、視野が広がってくる。にしてもカンガルーが飲み物を運ぶってのは、どうやってるんだろう?

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第21回。バロットの通う学校に、ハンターが訪ねてきた。ウフコックの事を探りにきたらしい。しばらく沈黙を続けた後、ハンターは尋ねる。「彼は果たして人間なのだろうか」。警戒しつつも、情報を得るべくバロットは策を巡らすが…

 マルドゥック・スクランブルのカジノのシーンも緊迫感が凄かった。この回も「ただの会話」なのに、その下で交わされている互いの手の読み合いが、バトル・シーンのような激しさと緊張感が漂ってる。次第に見えてくるハンターの目的も、この回のお楽しみ。今までの彼の行動で、単に権力を求めるだけではないと感てはいたが…

 上遠野浩平「悪魔人間は悼まない」。悪魔人間アララギ・レイカは、統和機構の任務で、製造人間ウトセラ・ムビョウの警護と雑務を勤めている。雑務の中には、無能人間コノハ・ヒノオの相手も含む。三年前、アララギ・レイカは攻撃能力を持ち、始末屋として働いていたが…

 ムビョウといいヒノオといい、変な人ばかりが出てくるこのシリーズ。理知的で知識も豊富ながら、やっぱり変なレイカさん。雰囲気、長門有希っぽいなあ。もちろん、能力も。料理の怖い所は、変なモノを混ぜちゃったら最後、全部やりなおしになる場合も多いこと。でも試してみたいw

 瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 後編」。コロニーのシャトルが、地球の沼樹海で墜落した。ウェイプスウィード事件の経験を買われたケンガセンは、再びヨルと組み、救助隊と現地住民の仲介にあたる。現地の者は、奥に得体のしれない物、ウィー・グー・マーが居る、と信じている。

 いきなりケンガセンの朴念仁ぶりに笑った。野生の能力w コロニーでも木星圏育ちのケンガセンと救助隊の面々、地球でも島嶼部出身のヨルと沼樹海の人々、それぞれの違いがよく書けてるなあ。果たしてウィー・グーマーの正体は? って、それは書籍版でのお楽しみ。いけず。

 神林長平「先をゆくもの達」第4回。マタゾウは、かつて地球の野生機械だった。今は火星にいて、ワコウにタムと呼ばれている。ワコウは、コマチの息子ハンゼ・アーナクの教師役として過ごしてきた。そして、ハンゼ・アーナクは地球へ旅立った。

 読み始めてしばらくは、ちょっとした眩暈の襲われた。ワコウとタムの関係が明らかになるにつれ、「おお、そういう事か!」と仕掛けが見え始める。そして改めて読み直すと、ちゃんと手がかりはあるんだよなあ。ものの見事にひっかかった。

 倉田タカシ「うなぎロボ、海をゆく」。海の底をゆく、うなぎロボット。もっとも、既にうなぎは絶滅してるけど。ほぼ自動制御で、大雑把な命令を伝えれば、細かい所は自ら判断して動き回る。今日は、沈んだ貨物船を見つけた。ここは大陸棚で、魚も多い。

 うなぎの絶滅が危惧されている現在、強烈な社会風刺ながら、トボけた筆致で説教臭さがきれいに消えてるのはさすが。タイミング的にも土用の丑の日が近いし。読んでいるとうなぎロボットが可愛くなるけど、なんじゃそりゃw

 筒井康隆自作を語る 最終回 筒井康孝コレクション完結記念(後篇)。ついに最終回。あの断筆宣言も、自ら語っているので注目。最近は出版社だけでなく、様々な業界でクレーマーが問題になってるけど、今でも事なかれ主義がはびこってるのはなんだかなあ…とか言いつつ、私も炎上を恐れて当たり障りのないネタしか書かなかったり。

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2018年4月30日 (月)

SFマガジン2018年6月号

(ヘイ、ルーン。ぶっとばしちゃいなよ)
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回

あらゆる異世界ものは、広義のファースト・コンタクトものと言えるのである!
  ――柿崎憲「SFファンに贈るWEB小説ガイド」

『生き物は、身近な環境にあるものをなんでも利用して生きていく』
  ――神林長平「先をゆくもの達」第3回

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ゲームSF大特集」。映画「レディ・プレイヤー1」を中心に、小説・インタビュウ・最新ゲームガイドなど。

 小説は豪華13本。まず「ゲームSF大特集」で読み切り4本。小川一水「プレイヤーズ・アンノウン・ストリーミン・グラウンド」,柴田勝家「姫日記」,クラベ・エスラ「超能力戦士ハリアーの意志」,廣江聡太朗(あでゆ)「ハイ・リプレイアビリティ」。

 連載は5本。夢枕獏「小角の城」第47回,椎名誠のニュートラル・コーナー「居酒屋会議」,神林長平「先をゆくもの達」第3回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回,藤井太洋「マン・カインド」第5回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第3話 手回しオルガン」,早瀬耕「十二月の辞書」,瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 前編」,小川哲「ひとすじの光」。

 小川一水「プレイヤーズ・アンノウン・ストリーミン・グラウンド」。C-130H輸送機の後部ハッチから放り出された。パラグライダーを開いて島に降りる。降りるのは99人、生き残るのは一人。最初は丸腰。武器は自ら見つけるか、敵のを奪うか。そんなゲームを実況中継していたあたしは…

 同じ特集中の「読者に薦めるゲームガイド2018」によると、ゲームのモデルは「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」だろう。次第に戦場が狭くなるって仕掛けは、とても優れていると思う。だって潜んで獲物を待つスナイパーも、否応なくアジトから叩き出されるので、プレイに動きが出るから。

 柴田勝家「姫日記」。日頃から『信長の野望』で鍛えた軍師の腕の見せ所だ。どんな弱小大名だろうと天下人にしてみせる。今回の主は毛利元就。だがなぜか三つ編みの眼鏡っ娘。まず毛利家当主としての立場を確たるものにして…

 ゲームの道は修羅の道。ちょっと見は似たようなゲームでも、同じ名前のパラメータが全く異なる働きをしたり、バランスが違ってたり。などと他のゲームで刷り込まれた思い込みを消していく過程も、新しいゲームに挑む楽しさの一つ。にしても、柴田勝家が毛利家に仕えていいのか?

 クラベ・エスラ「超能力戦士ハリアーの意志」。14歳のオランダ人少年は、1986年12月3日に横須賀生まれの日本人になった。人生を変えたのはドリームキャストのゲーム「シェンムー」。殺された父親の仇をとるため、俺は横須賀の街を走り回り…

 ゲーム内のキャラクターの行動ってのは、明らかに奇妙なもので。自由度が高くグラフィックがリアルなゲームほど、その奇妙さは目立ってしまう。特に会話は難しくて、NPCは予め設定した台詞しか喋ってくれない。将来は多少マシになるんだろうか。

 廣江聡太朗(あでゆ)「ハイ・リプレイアビリティ」。左の画面には“彼女”、右の画面には「彼女」。数日前、何者かが全世界の全ての家庭に一台の古いコンピュータを配った。ある事件を記録した現物のコピーだ。真相を突き止めると、莫大な報酬が手に入るらしい。

 大量に残された証言の動画を手掛かりに、事件の真相を突き止めようとする僕。下心まじりに、その手助けを頼んだ相手が「彼女」。「彼女」とのコミュニケーションは、テキストチャットのみ。今ならLINEになるのかな? こういう世界は流行り廃りが早いんで、小説家も大変だなあ。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第3話 手回しオルガン」。手回しオルガンで日銭を稼ぐ少年は、絵のモデルになった。絵は話題になり、少年も観光名物となったためか、多少は稼ぎも増えた。ただしメシのタネのオルガンには少し手が入り…

 オルガンってのはやたらとバリエーションの多い楽器で、建物に組み込まれたパイプオルガンから、肩にかけて持ち歩ける小型のものまで、実に様々。ここに登場するのは、屋台で曳くタイプだろう。高尚な雰囲気のアフロディーテながら、庶民的で親しみやすい一面を描く一編。オルガンの音を表すオノマトペが、とっても楽しい。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「居酒屋会議」。再び地表?に戻った私は、高原線路の終点イースト駅へと向かい、居酒屋に入った。幸い店はにぎわっていて、馴染みのメンバーが飲み食いしている。ばかりか、新顔も…

 読んだのが晩飯前のためか、オマール茶,ベニヒメスソハライのソテー,踊り豆のタカトントンなんてメニューが頭の中で暴れてしょうがない。特に踊り豆のタカトントン。どんな歯ごたえなんだろう。ムニムニって感じなんだろうか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回。ついに合流したウフコックとバロット。お互い話したいことは山積みだが、今はそれどころじゃない。早くも敵の手が回ってきた。天井に広がる赤錆。クインテットのエンハンサー、ラスティの攻撃だ。

 お待ちかねウフコック&バロット大暴れの回。今回の事件では多くのメンバーを失ったイースターズ・オフィスだけど、バロットの能力は飛びぬけている上に、ウフコックとの相性も抜群にいい。ただ、ウフコックはそれを素直に喜べないだろうなあ。

 小川哲「ひとすじの光」。執筆支援AI「Leibniz」。ヒトはシナリオに必要な設定をする。AIは原稿を吐き出す。その原稿にヒトが赤を入れる。僕はLeibnizでゲームのシナリオを作り、二つの会社に勤めた後、独立して小説を書き始めた。

 これを読む直前、スペシャルウィークの訃報が流れた(→JRA)。打ち切りになった小説の続編が読めるのは嬉しいなあ。ガンパレも「未来へ 4」を無かったことにしてブツブツ…。疑問があると、とりあえず調べちゃうのは学者の性なんだろうか。血統の記録がよく残っている競走馬ならではの作品。

 瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 前編」。ウェイプスウィード事件から二年。事件の影響で、ヨルは生まれ育った島を出され、もっと広い島の全寮制学校に進んだ。ケンガセンは食い詰めている。上司の大学教授が失脚し、そのあおりで大学を叩きだされ、住処も失う。そこに仕事の話が舞い込み…

 ヨルとゲンガセンに再び会えたのも嬉しいが、それ以上に、六年を経てハヤカワ文庫JAより書籍化ってニュースが嬉しい。さてお話は。現地住民との関係がややこしい所にコロニーの有人船が落ち、再びヨルとゲンガセンが調査、というより調停に赴くことに。両名共にハグレ者だけに、どんな展開を見せてくれるか楽しみ。

 早瀬耕「十二月の辞書」。既に書籍化された「プラネタリウムの外側」の番外編。高校三年の秋、南雲薫はガールフレンドの「母の昔の恋人」に紹介された。その男は、彼女に別宅を遺した。別宅には彼女のポートレイトがある、と言うのだが…

 舞台は函館。しかも海が見える高台にある別宅って、美味しい海鮮が食べ放題じゃないか…と思ったが、北海道の人には美味しい魚介類なんか当たり前すぎて、あまり有り難くないのかも。いやそういう話じゃ全くないんだけど。

 神林長平「先をゆくもの達」第3回。ナミブ・コマチが生んだ火星で初めての男子ハンゼ・アーナクが、地球に来て60年になる。一人で暮らすハンゼを、カリンが訪ねてきた。火星に向かった若生の姪だという。

 いきなり60年も時代が進むのに驚いたが、雰囲気はのんびりしたもの。「トーチには、機嫌よく働いてもらいたい」って発想が、ケッタイなシロモノを祀りたがる精霊信仰や神道の感覚と似ているような。小難しい理屈を並べるよりも、感覚的にわかった気になるから面白い。

 藤井太洋「マン・カインド」第5回。戦死者の遺族を訪ねる旅を続ける迫田とレイチェル。次に向かうのは、ジャスパー・ジョーンズの両親、モーリスとミシェル。追ってコヴフェのトーマも加わる予定だ。ジャスパーの肌は白いが、両親の肌は黒い。

 新しいモノにい疎い老いた両親の目を通し、最新技術の原理と動作を説明するのは巧い工夫。コヴフェ台頭のきっかけはトランプvsヒラリーからヒントを得たんだろうけど、麻疹流行は現実の動きを読んだのか単なる偶然か。「赤いマフラーをなびかせて」ってのはアレのネタ? かと思えば tail コマンドとか、ほんと芸が細かい。

 「ゲームSF大特集」の記事、『レディ・プレイヤー1』監督スティーブン・スピルバーグ・インタビュウ。お相手は渡辺麻紀。よく記事が取れたなあ。コンテンツの自由度が高いと、ユーザを創作側が望む方向に誘導しにくくなる。これの両立は確かに難しい。その点、ドラゴンクエストの巧みさはよく話題になるなあ。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」性淘汰の逆転劇。19世紀には性淘汰って現象が全く受け入れられなかったってのも驚きだが、その理由もなんともはや。ヒトの思い込みってのは、相当に強いものなんだろう。そういえば、そろそろカラスの子育ての時期だなあ。

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2018年3月 2日 (金)

SFマガジン2018年4月号

わたしの名はフェランテ、軍艦百卒長(センチュリオン)771の指揮官を務めている。
  ――アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳

「今のような自動化による最適化が進んだ世界は、結局は元々抱えていたリソースの量で勝負が決まるためです」
  ――長谷敏司「1カップの世界」

「…何とかなると思う。オフィスの人たちと、それに、私とあなたなら」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」

 376頁の標準サイズ。

 特集は2本。まずベスト・オブ・ベスト2017として、「SFが読みたい! 2018年版」でベストSF2017の上位に選ばれた飛浩隆/小川哲/赤野工作/柞刈湯葉/アダム・ロバーツの短編を収録。次に『BEATLESS』&長谷敏司特集。

 小説は豪華14本。

 うち連載は5本。椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」,神林長平「先をゆくもの達」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回,三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回,藤井太洋「マン・カインド」第4回。

 読み切り&不定期掲載は9本。

 ベスト・オブ・ベスト2017で5本、飛浩隆「『方霊船』始末」,小川哲「魔術師」,赤野工作「邪魔にもならない」,柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」,アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。

 『BEATLESS』&長谷敏司特集で1本、BEATLESSのスピンオフ長谷敏司「1カップの世界」。

 加えて待ってました菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」,上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」,エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。

 飛浩隆「『方霊船』始末」。ワンダ・フェアフーフェン、<轍>世界では知らぬ者のいない女傑。最近は公の場に顔を出さない彼女が語る、美鷺との出会い。それは名門私立の寄宿舎学校。ワンダに半年ほど遅れてやってきた美鷺は、まさしく「鳥頭」な風貌で…

 噂の大作「零號琴」のスピンオフ。いや読んでないけど。ワンダさん、雰囲気は星界シリーズのスポール様をガサツにした感じかなあ。ええトコのお嬢さんが集まる寄宿舎学校で起きる怪異って舞台設定は映画「サスペリア」みたいなホラーなんだけど、なにせ役者がワンダなんで、妙な安心感があったりw

 アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。遠未来、人類は宇宙でトレフォイル族と戦っていた。人類の軍艦百卒長771とサムライ10は、トレフォイル族の手負いの超大型艦ET13-40に攻撃を仕掛けたが…

 似た部分も多いが、根本的に異なる点もあり、時として話が通じないエイリアンとの戦い。宇宙空間を舞台としたスペースオペラ…かと思ったら、バリトン・J・ベイリーばりのお馬鹿な発想が炸裂する、とっても愉快なお話。宇宙すごいw

 小川哲「魔術師」。師から授けられた、マジシャンの三つの禁忌。敢えてそれを破ることで、新しいマジックを生み出せるのではないか。そう考えたマジシャン竹村理道は、空前のマジックに挑む。

 掲載誌がSFマガジンかミステリ・マガジンかで解釈が違ってくる作品。私はミステリ・マガジン派で解釈した方が面白いと思う。なんたって、ウケるためには何でも犠牲にする芸人の業が伝わってくるし。それと、あの三つの禁忌って、文章書きにも使えそう。

 赤野工作「邪魔にもならない」。RTA、Real Time Attack。ゲームをクリアするまでの実際の時間を競うプレイ。途中の食事・トイレ・睡眠、すべてタイムに含む。病気の発作や自然災害でも、中断は許されない。これから私が挑むのはファミリーコンピュータの「スペランカー」。

 RTA とはだいぶ違うけど。私が大好きなガンパレード・マーチには、一年に一度しかできない、少し変わった遊び方があって。3月4日に始めて、毎日1日分だけ進めてセーブ。すると現実とゲームが同じ時間経過で話が進む。メーカーが用意した戦車兵・歩兵・司令・整備兵・靴下の他に、ファンが様々な遊び方を生み出し、中には仲人プレイなんてのもあり、ゲームは創造力で遊び方も広がると教えてくれた作品だった。

 柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」。太陽系エッジワース・カイパーベルトにある時空間移動ポータル。トリパーチ星系行きの開門まで、地球時間であと1日ある。出張からトリパーチ星系に帰る部長と課長は、近くの「エキチカ」に「どんな星系の客でも対応できる」ラーメン屋があると聞き…

 部長と課長とかエキチカとかヤタイとか、命名センスが抜群。宇宙空間での調理の苦労など、細かい所へのこだわりも楽しい。かと思えば、多種多様なエイリアンの生態と、それに合わせた素材や調理用具・調理方法なども、なかなかの読みどころ。にしても、よく採算が取れるなあw

 長谷敏司「1カップの世界」。2027年、16歳の時に難病で冷凍睡眠に入り、未来の医療技術に望みを賭けたエリカ・バロウズ。目覚めたのは2104年。既に災害で血縁者は全滅した。残された信託財産は膨大で、退院後は財団の理事長となる予定だ。

 私たちに比較的に近い2027年の人間を、BEATLESS 世界に放り込むとどうなるかって発想が上手い。たいていの事は人間よりAIの方が巧みにやってしまう世界の違和感が、エリカの目を通してヒシヒシと伝わってくる。アナログ・ハックのバグも見事。

 エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。相棒の予告通り、すぐに依頼人がやってきた。夫を喪ったH夫人は、貸し部屋の賃貸収入で暮らしていたが、店子が居つかない。どうも隣に住む小うるさい婦人が原因らしい。相談を受けたヨハン・Sとわたしは…

 貴重なフィンランドSF。解説によるとカンテレは「日本の琴にも似た多絃の民族楽器」とあるが、演奏法はバラエティに富んでいて、多様な音色を出せるみたい(→Youtube)。リズミカルだけど哀愁漂う音楽は、この物語の終幕で響く残響みたい。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」。ラクダの子宮に潜り旅するわたし。その惑星はパイプ型で、中にも内惑星があった。

 今回はガングリ酒のエピソードが好きだ。人間ってのは、どこに住んでも酒は造る生き物で、「アフリカが発展しないのはヤシ酒のせいだ」なんて話もあるぐらい。だもんで、ごれぐらいの執念をかける奴もいるだろうなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回。ウフコックの辛抱強い潜入捜査の成果が実を結び、また市の有力者たちの協力も得て、イースターズ・オフィスは<クィンテット>への攻撃に出る。しかし、この土壇場になって事態は急転し、乱戦模様となり…

 今回は派手なバトル・アクションが楽しめる。重戦車のごとくパワーと装甲で攻めるレザーも見物だが、単純な力押しでトレヴァーと張り合うラファエル・ネイルズもなかなか。そして、終盤ではついに…

 上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」。合成人間を生み出す合成薬を作り出す製造人間、ウトセラ・ムビョウ。彼と同居するコノハ・ヒノオは、犬の散歩の途中で老人と出会う。ボンと名乗る老人は、公園のベンチに座っているだけなのに、鳩が集まってくる。ばかりか、ヒノオの犬も…

 改めて考えると、ブギーポップの時から、この人の描く特殊能力の持ち主って、とっても「ヒーロー」らしいくないのが多いよなあ。ブギーポップは自覚がないし、ウトセラは面倒くさそうだし、今回の憎悪人間も…。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回。額に貼るだけで他人の記憶を体験できる疑憶素子メメントが普及した未来。メメント・アーティストの深菜は、脱法MEMの調査を頼まれる。かつての連続殺人鬼・朝来野唯の模倣犯の犯行記録が出回っているという。

 誰かが苦労して身に着けた技能をコピーできるってのは、やっぱり魅力だ。私としては是非パコ・デ・ルシアの…って、しつこいかw

 神林長平「先をゆくもの達」第2回。火星への使者に選ばれた若生は、月へ行くシャトルに乗っていた。生まれ育ったのは安曇野原。二度と地球には戻れない。だが、若生は淡々と受け入れる。なぜ若生が使者に選ばれたのか、説明はなかった。

 今回は地球の様子が語られる。言われてみれば、確かにあの作品に客室乗務員は要らないよなあ。にしても、マタゾウたちの生態は愉快というか楽しいと言うか。野良〇〇かあ。どうも地表の多くが水没してるらしいけど、ヒトはそれなりに平和にやっている様子。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」。博物館惑星の新米警備員、兵頭健。今回の仕事は、若きミュージカル評論家として名高いアイリス・キャメロンの警護だ。『月と皇帝』の初演を見にきたアイリスには、脅迫状が届いていた。

 録画・録音と生ってのは、やっぱり色々と違ってて。音楽でも、70年代あたりまでのライブ盤は、演奏ミスもそのままはいってたけど、80年代あたりからは録音し直してたり。でもラジオ放送とかだと、ミスもそのまま流してて、なかなか貴重な音源になる。とは別に、マシンと人間の違いも重要なテーマ。

 藤井太洋「マン・カインド」第4回。ジャーナリスト迫田城兵は、軍事衝突の取材中、チェリー・イグナシオが捕虜を殺す場面を報じた。しかし、このスクープは事実確認プラットフォーム<コヴフェ>にガセネタと判断される。チェリーに頼まれ、犠牲者の遺族を訪ねる迫田は…

 トレッキーはやはり「ヘイ、コンピュータ」と呼びかけるんだろうか。「第二内戦」も読みたいなあ。同じ戦争でも南と北で視点が違うのは、言われてみれば当たり前だけど、今でもくすぶってるんだろうか。レナード・スキナードのライブじゃ、今でもサザン・クロスを振り回す奴がいるし。

 筒井康隆自作を語る 第6回 『虚人たち』『虚航船団』の時代。やっぱり『虚航船団』は発表当時に大騒ぎになったのか。そりゃなるよねえ。

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