カテゴリー「書評:SF:小説以外」の84件の記事

2017年9月13日 (水)

森岡浩之「突変」徳間文庫

「チェンジリングはまずいぜ。理屈じゃねぇんだよなあ。裏地球の関わったもの、場所、すべてが穢れてるみたいに感じる連中がいる」

「家族のもとへ飛んで行こうとでもしているんでしょうかね」

【どんな本?】

 「星界の紋章」で大ヒットを飛ばした森岡浩之による、話題の特異災害SF長編。

 はじまりは七年前、インド洋だった。その海域で、新種の生物が続々と発見されたのだ。しかも、既存の生物とは明らかに違う。次はアメリカのネバダ、そしてスーダン。地球上の一部が消え、代わりに全く異なった生態系が現れる。人々はこの現象を移災と呼んだ。

 やがて、移災の実態が明らかになる。太平洋で消息を絶った貨物船が、再び現れたのだ。どうやら、別の地球の一部と入れ替わったらしい。ただし、なぜ入れ替わるのか、いつどこが入れ替わるかなどは、今もってわからぬままだ。

 移災はその後も続き、日本でも久米島と関西が被害にあう。特に関西は都市圏でもあり、出勤中・旅行中・登校中の家族と生き別れになる人も多かった。

 そして今回の移災は、関東の地方都市、酒川市の花咲が丘。小さな町だけに行政施設もなく、町内の人々は手探りで災害に対処するが…

 2016年第36回日本SF大賞受賞に加え、SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2015年版」のベストSF2014国内篇で11位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年9月15日初版。私が読んだのは2015年2月25日の6刷。順調に売れてます。文庫本で縦一段組み、本文約721頁に加え、大森望の解説「新たな代表作の誕生」8頁。9ポイント40字×17行×721頁=約490,280字、400字詰め原稿用紙で約1,226枚。厚めの上下巻か薄めの上中下巻ぐらいの大作。

 文章はこなれていて読みやすい。内容もSFにしては特に難しくない。ご町内の人々が非常識な災害に襲われた時、どうするかという話なので、一部に「脊索動物」とか銃の種類など細かいウンチクがあるが、面倒くさければ読み飛ばしてもいい。

【感想は?】

 迫真のご町内パニック巨編。

 なんったって、じっくりと地に足のついたヌカミソ臭い生活感がたまらない。登場人物も、それぞれにキャラは立ってはいるが、天才でも特殊戦闘員でもない、普通の人々だし。

 ご町内が、いきなり異なった世界に飛ばされる。ソコは地球のようで、地形も気候も似ているし、大気は呼吸できて水も飲める。が、生物相は全く違い、また電気・ガス・電話など人類の作ったインフラも使えない。

 ここで、飛ばされるのが「ご町内」なあたりが、この小説のミソ。県や市なら、県庁や市議会などの行政組織があり、また警察署などの治安維持組織もある。が、この小説では、花咲が丘3丁目を中心とした一帯、となっている。様々な人はいるが、キチンとした行政組織はない。

 そんなわけで、巻き込まれた人々は、指揮系統から自分たちで作っていかなきゃいけない。のだが、主な登場人物たちは、それ以前に、それぞれの生活や家族を心配する、ごく普通の人々なのがキモ。

 最初に登場するのは、柱本幸介74歳。長く連れ添った奥さんが余命半年と宣言され、ガックリ来ている所を移災に巻き込まれてしまう。子はなく、入院中の奥さんとも生き別れる羽目に。悲しみに暮れる暇もなく、町内会長なんぞを引き受けた因果で、事態の中心に放り込まれ…

 同じリーダー役でも、市長や県知事なら、相応の理想なり野望なりを持つ人がなるものだが、町内会長はだいぶ違う。たいした権限があるわけでもなきゃ役得もない。ご町内の悶着を持ち込まれ、役員たちの意地の張り合いを仲裁する、面倒くさいだけの立場だ。

 加えて町内会は政府から認められた正式な行政組織ってわけでもない。が、困ったことに今回は、ご町内だけが移災にあう。市長や県知事に泣きつきたくても、連絡すら取れない。特にリーダーシップに溢れるわけでもない幸介が、どう立ち回るのか。

 隙あらばなんとか他の人に権限を預けちまおうとする幸介が、いかにも日本人的で身につまされる。

 やはり頼りないがリーダー役を押し付けられるのが、スーパー高見屋マートの雇われ店長、芥川義人44歳独身。彼も特に出世欲があるわけでもなく、大過なく勤めあげようとしている月給取り。

 地方都市のスーパーってのが、作者の目の鋭い所。食品や食器など当面の生活必需品が大量に揃い、また広い駐車場もある。孤立した世界に放り出されたご町内、その気になれば力づくで王にもなれる立場だが、そこは雇われ店長。

 事態に気づいてもサラリーマン気分が抜けきれず、店員と避難者の間に挟まれ、なんとか丸く収めようとする覇気のなさに、妙に親しみが湧いてしまう。

 対して、野望バリバリなのが、市会議員の塚脇朱美。

 あなたの市にもいませんか、妙な自然志向とかに染まった自称リベラルの色物議員が。この人はアレな本のお陰で陰謀論にハマった口で、敵はすべて裏で繋がっていると信じて疑わないお方。煩いオバサンの例に漏れず、喋り出したら止まらない人で、相手の顔色なんざ見ちゃいないw

 他に銃器オタクの引きこもり、かつて夫が移災に巻き込まれた妻と子、しっかり者の家事サービス社員など、そこらにいそうな人々が登場し、それぞれの立場で事態に立ち向かう。

 などと、じっくり生活感豊かに描き込まれた物語は、中盤以降に大きく変化し、終盤では意外な大スペクタクル・シーンまで用意されているサービスの良さ。

 私たちの暮らしと地続きな、でも壮大なスケールのご近所シミュレーション・パニック・ノベル。長大なわりに文章は読みやすく、次々と起こる事件で読者を飽きさせない。気が付けば残りの頁数が少ないのが恨めしくなる、そんな気分を味わえる娯楽作。

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2017年8月30日 (水)

SFマガジン2017年10月号

主演俳優や監督ではなく、特撮監督によって定義される。それがハリーハウゼン関与作品だ。
  ――オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1 アルゴ探検隊の大冒険

「もちろん、ここにあるものは本物じゃありません。美術品も、それに私も」
  ――山本弘「プラスチックの恋人」第5回

あれはねえ、僕はなかなか理解してもらえないんだけれども、全部ふざけて書いてはいるんだけれども、まあでも命がけでふざけて書いてるわけです。
  ――筒井康隆自作を語る 第3回「『欠陥大百科』『発作的作品群』の時代」前編 

 376頁の標準サイズ。

 特集は「オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1」として、1902年の「月世界旅行」から1988年の「ゼイリブ」まで一挙250作品を紹介。

 小説は8本。

 連載は6本。椎名誠「宝石の川」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第16回,山本弘「プラスチックの恋人」第5回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第4回,夢枕獏「小角の城」第46回,藤井太洋「マン・カインド」第2回。

 読み切りは2本。澤村伊智「翼の折れた金魚」,グレッグ・イーガンの白熱光スピンオフ「鰐乗り 後編」山岸真訳。

 澤村伊智「翼の折れた金魚」。森村は五年三組の担任だ。また問題児の長谷部が騒動を起こしたらしい。子どもたちの大半は計画出産による金髪碧眼だが、長谷部は無計画出産による黒髪黒目。このクラスの無計画出産児は、長谷部と篠宮だけ。

 ガンダムSEED でいうコーディネイターが当たり前になった世界でのお話。違いが見た目で一発で分かる仕掛けが、実に意地悪。また、主人公を小学校の教師にして、様々な経験をつませながらも、こういうエンディングにしたあたりが、なかなか切ない。実際、普通の人は、そんな感じだろうしなあ。

 椎名誠「宝石の川」。ラクダの子宮に籠り、惑星を旅する男。今回が立ち止まったのは、地殻の裏側だった。なぜかこの惑星には、内側にも外側にも重力があり、墜落せずに済んでいる。

 地球空洞説は昔からあったが、こうきたか。にしても、なぜにラクダw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第16回。ハンター率いる<クインテット>は快進撃を続け、裏社会を制圧しつつあった。対して、<イースターズ・オフィス>は市内の各勢力に協力を求め、反撃を始める。その計画は…

 今までじっくりと<クインテット>の内幕を描いてきたためか、私はかなりハンターに肩入れしてて、期待より不安が大きかったり。刹那的な欲望に流されず、安っぽい脅しやハッタリにも頼らず、理知的にコトを進める姿は、かなり魅力的なんだよなあ。

 山本弘「プラスチックの恋人」第5回。セックス用アンドロイド「オルタマシン」は実用となった。未成年型のマイナー・オルタは議論を呼びつつも、日本でサービスが始まる。若手ライターの長谷部美里は自ら体験する体当たり取材に続き、経営者の小酒井譲のインタビュウに赴く。

 未成年の姿をし、高度なAIを備えたアンドロイドのマイナー・オルタマシン。その是非を巡り、様々な議論が展開するこの作品、今回は製作者の視点を中心に話が進む。が、それより、メイド・ロボットのインドーラちゃんとの会話が私は面白かった。是非、再登場して欲しい。

 グレッグ・イーガン「鰐乗り 後編」山岸真訳。「白熱光」のスピンオフ。銀河系全体に知的種族が広がった遠未来。だが銀河の中央部・孤立世界は頑なに沈黙し、孤立を守っていた。リーラとジャシムのカップルは、孤立世界を観測する手段を思いつき…

 前編での孤立世界を観測する方法もなかなかマッドだったが、今回のアイデアは更にイカれてて楽しい。それに加えて、観測して得たデータを解析するあたりも、実にワクワクする描写が続く。そうだよなあ、恒星間情報ネットワークともなれば、ヘッダ情報にも色々と工夫が必要で…

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第4回。宵野深菜は、人の体験を追体験できる<リメメント>の憶え手だ。かつての連続殺人犯アサクノの模倣犯を追っていた深菜だが、同居していた真白が何者かに殺され、警察の取り調べを受ける羽目に。

 さすが売れっ子の三雲岳斗、連載物の引きが抜群に巧い。前回のエンディングもショッキングだったけど、今回の引きも意外な急展開で読者を振り回しつつ、事件の真相を少しだけ垣間見せ「なな、なんだってー!」と思わせた所で「次号に続く」。また二カ月も待たされるのか。

 藤井太洋「マン・カインド」第2回。独立を目指すテラ・アマソナスに対し、ブラジル・ペルー・コロンビアの三国は民間軍事企業グッドフェローズに制圧を依頼する。ジャーナリストの迫田城兵は戦闘を取材、アマソナス防衛隊が陸戦条約に反してグッドフェローズの兵を殺す事件をスクープするが…

 フェイク・ニュースが話題の昨今、実にホットなテーマで始まる。なんと、ニュースの真贋を鑑定する民間企業<コヴフェ>の登場だ。にしても「アンダーグラウンド・マーケット」とか今回の冒頭とか、実はサイクリストなのかな?

 オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1。スターウォーズのようなハリウッド大作はもちろん、個人映画にまで目を配ったマニアックなラインナップはさすが。

 ン十年前にアメリカで長距離バスに乗った時、待合室の椅子ごとに小さなテレビがついてた。そこに映ってたのはゴジラ。ゴジラの魅力は国境を越えるんです。ファンタスティック・プラネット、原作は小説だったのか。ダーククリスタル、CGリメイク絶対拒否には激しく同意。

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2017年7月11日 (火)

SFマガジン2017年8月号

私(柳瀬)は学術調査船担当というか。高倉武史さんは軍の船担当で、ざっくりわけると、軍、民間、それ以外、という配分(笑)。
  ――『ID-0』メカニックデザイナー座談会 海老川兼武×片貝文洋×柳瀬敬之

「もうすぐ≪偉大な日≫だよ、ダフィーさん」幼い黒人少年が呼びかけた。「≪偉大な日≫が来たよ」
  ――R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」伊藤典夫訳

藤井太洋「基本的に、翻訳者は小説家よりも仕事がうまいと思っています。なぜなら、彼らは難しいと思っても逃げることができないから。小説家は簡単に逃げられますから(笑)」
  ――「はるこん2017」企画再録 藤井太洋×ケン・リュウ「言語と物語の関係性」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「スペースオペラ&ミリタリーSF」として、ローダンNEO、TVアニメID-0、佐藤大輔追悼ほか。

 小説は11本。

 連載は6本。椎名誠「惑星のはらわた」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第15回,山本弘「プラスチックの恋人」第4回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第3回,夢枕獏「小角の城」第45回,そして待ってました藤井太洋の新連載「マン・カインド」。

 読み切りは5本。まずは特集の一本としてマルロ・ゼンの「ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下」,続いて早瀬耕「プラネタリウムの外側」,谷甲州の新・航空宇宙軍史「亡霊艦隊」,R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」伊藤典夫訳,グレッグ・イーガンの白熱光スピンオフ「鰐乗り 前編」山岸真訳。

 カルロ・ゼン「ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下」。今回の演習はサーチ・アンド・デストロイ。これまでの俺たちのチームの成績は酷いもんだし、チームワークもガタガタだ。演習だから死ぬ心配こそないものの、間抜けなアマリヤはまた伏撃を主張し…

 たった3頁なのが悔しい。悪態つきまくりの主人公アキラ、インテリぶってるアマリア、超然としているズーハン、寡黙なエルランドと、キャラはわかりやすいし、なんといっても展開がスピーディーなので、読者を物語に引き込む力がある。

 早瀬耕「プラネタリウムの外側」。グリフォンズ・ガーデン後日譚のシリーズ。藤野教授の紹介で、学部二年生の佐伯衣理奈が訪ねてきた。自分専用の会話BOTが欲しい、と。亡くなった友人との会話を望んでいるようだが…

 本筋は人の死が絡むだけに、シリアスで暗くなりがちなテーマなのに、隠れてサイドビジネスに精を出す南雲と、それを知ってか知らずか話をねじこんでくる藤野教授の陰険なやり取りが、微妙に雰囲気を明るくしている。結局、BOTに感情はあるんだろうか。うーん。

 椎名誠「惑星のはらわた」。ラクダの胎内から降りたとき、そこは半分傾いた建造物の前だった。あたりの風景には見覚えがない。わたしは、かつての任務を思い出しつつあった。わたしたちは技術者で、開拓移民として辺境の惑星に送られ…

 いつの間にか連載小説になっているニュートラル・コーナー、今回はラクダの胎内で旅する男の過去、男が旅している惑星、そして老いたラクダなど、不思議な舞台の事情が少しづつ明かされる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第15回。ウフコックの潜入捜査により手に入れた情報を元に、イースターズ・オフィスはマルドゥック市の有力者を集め、クインテットに対抗するための連帯を求める。情報の精度の高さもあり、有力者たちの反応は好意的だ。

 前回に続き、今回も会話が中心で静かに話が進む。今までやられっぱなしだったイースター・オフィスが、協力者を得て反撃にでようとする転回点となる回。ハンターを始めとするクインテットの活躍を散々見せられ、少し彼らに感情移入しつつある私としては、ちょっと複雑な気分。

 山本弘「プラスチックの恋人」第4回。黒マカロンとのインタビューを受け、美里は再びキャッスルへと向かう。今度は最後まで試すつもりだ。助言通り、ミーフの性格設定も変えて。

 著者渾身のポルノが楽しめる回。まあ、アレです、ポルノってのは、基本ファンタジイなわけで、オルタ・マシンにも色々と仕掛けがあって。そうきたかw こういうのって、人により匂いだったり声だったりとツボが違うんだけど、その辺は、やっぱし予めリクエストするのかな?

 谷甲州の新・航空宇宙軍史「亡霊艦隊」。タイタン主導の外惑星連合は、動く艦をかき集めて第一機動艦隊を編成、出動する。艦隊司令部の石蕗提督に、先行して地球周辺を通過しつつある無人偵察機 Kr-02 から情報が入る。

 今回の視点は外惑星連合。光速でさえ大きなタイム・ラグがある太陽系のスケールを実感できる回。互いに手に入る情報は限られており、かつリアルタイムではないあたり、かえって電信が普及する前の戦争に似た雰囲気になってる気もする。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第3回。他者の体験を追体験できるMEM、その憶え手として人気を誇る宵野深菜は、連続殺人鬼アサノの模倣犯の捜査を頼まれる。深菜と同居している三崎真白は、アサノの模倣犯・暮林朋に目を付けられ…

 物騒な雰囲気で始まった物語が、意外な形で牙を剥きだす回。中盤以降のアクションは、舞台の独特な風景も相まって、映像化したらかなりの迫力になるだろうなあ。作り手によるアレンジの仕方でも、雰囲気は大きく変わりそう。

 R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」 Great Day in the Morning 伊藤典夫訳。夜明け前。散歩中のメルキゼデク・ダフィーに黒人少年が声をかける。「≪偉大な日≫が来たよ」。若者たちは街中の時計から長針と短針を外しまわっている。そしてコーヒーショップでは、コーヒーカップが…

 ラファティの作品の中では、比較的にわかりやすい方、なのかな? 偉大な日、この街では何もかもが今までとは打って変わって…。 ハッキリと「信仰」をテーマにしつつ、その扱いは本気なんだか冗談なんだか。いずれにせよ、イカれまくった世界の描写はラファティならでは。

 グレッグ・イーガン「鰐乗り 前編」 Riding the Crocodile 山岸真訳。「白熱光」スピンオフ。多くの知的種族が銀河系に広がった遠未来。銀河の円盤部分は多くの種族が共存し一つの文明となったが、中央部に住む者はあらゆる接触を拒んでいる。だが何者かが存在するのは確実で…

 いきなり結婚生活一万年と、スケールがデカい。これが他の作家なら馬鹿話なんだが、あくまで語り口は大真面目なのがイーガン。ほぼ光速で移動できるとはいえ、銀河系の直径は約10万光年。広大なスケールで中央部に潜む謎を探る方法を語るあたり、理屈はともかく無茶なスケールがやたら楽しい。

 藤井太洋の新連載「マン・カインド」。「伊藤計劃トリビュート」収録の「公正的戦闘規範」から発展した作品。2045年。ブラジル・ペルー・コロンビアにまたがるテラ・アマソナスは独立を宣言、高名な軍事コンサルタントのチェリー・イグナシオが警護を請け負う。対する三国は民間軍事企業グッドフェローズに依頼し…

 現代の戦場で存在感を増している二つの要素、民間軍事企業とロボットに注目し、緻密に詰めた設定が面白い作品。P・W・シンガーの「戦争請負会社」によると、歴史的には国家軍より傭兵が中心だった時代の方が長いとか。ただ今はハーグ陸戦協定などの保護協定が傭兵には適用されず、また傭兵による犯罪も裁く法がない。などの問題も、巧く料理してると思う。

 海外ミリタリーSFガイド。やはりトップはロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」。これは外せないよなあ。はいいけど、ロバート・アスプリン「≪銀河おさわがせ≫シリーズ」は…まあ、スペース・オペラってことで。あとデビッド・ブリンの知性化シリーズも入れていいんじゃない?

 『ID-0』メカニックデザイナー座談会 海老川兼武×片貝文洋×柳瀬敬之。ドラマ中の所属する組織ごとにメカニックデザイナーを変えるのは巧い。Iマシンの造形にも、そんな配慮があったとは。

 「筒井康隆 自作を語る 第2回 日本SFの幼年期を語ろう 後篇」、前回に続き、聞き手・日下三蔵の綿密な事前準備に感服。これぐらいキッチリ調べた上でのインタビュウって、滅多にないんだよなあ。にしても「空飛ぶ怪獣フラゴン」の件とか、当時の鷹揚さは、なんというかw 酔狂連にも大笑い。

 大森望の新SF観光局 第57回 SFの引っ越し。読書って安上がりな趣味だなんて思っていると、痛い目を見るのが引っ越し。そもそも蔵書用の部屋が要るんで、人より広い物件が必要な上に、荷物も多い。そこで引っ越し費用を節約する方法を紹介してくれる、とってもありがたい回。

 ゲンロン大森望SF創作講座 池袋特別講義 大森望×長谷敏司。各作家の方法も楽しいが、宮内悠介のしぶとさも凄い。プロとして売れる人ってのは、気合の入り方が違うなあ。

 大森望のSF喫茶#24 大森望×片渕須直 「コニー・ウィリス、その作品世界と魅力 『ブラックアウト』『オールクリア』と『この世界の片隅に』」。執拗なまでの時代考証も絶賛された『この世界の片隅に』の監督が、やはりマニアックなロンドンの描写が光る『ブラックアウト』『オールクリア』を語る。確かにこれ映像化したら売れるだろうなあ。

 鹿野司 サはサイエンスのサ ムーアの先にあるもの。コンピュータの高速化を担ってきたムーアの法則に綻びが見えつつある今、脚光を浴びているのがバイオ技術。ということで、遺伝子ドライブ(→Wikipedia)の紹介。今の目的はマラリア対策だけど、応用範囲は広大で…

 「はるこん2017」企画再録 藤井太洋×ケン・リュウ「言語と物語の関係性」。新鋭人気作家二人の対談。言語と視点の話は作家ならではの着目点。ケン・リュウの「中国の検閲制度にはすごくムラがある」ってのも、ちょっと事情を勘ぐりたくなって楽しい。案外と担当者次第・気分次第なのかも。

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2017年4月27日 (木)

SFマガジン2017年6月号

金属の管とそおうじゃない管があって、それぞれに曲がり方も強度も違うんですよ。よくみると構造体として使われているパイプと、そうじゃないものが描き分けられています。
  ――弐瓶勉インタビュウ

「……どうすれば分かってもらえるかなあ」
「私も同じことを言おうと思ってました」
  ――山本弘「プラスチックの恋人」第3回

「音楽は心を強姦する」
  ――劇場アニメ『虐殺器官』公開記念座談会 「虐殺の文法」をめぐって
    岡ノ谷一夫×吉田尚記 司会:塩澤快浩

 376頁の標準サイズ。

 特集は二つ。まず「アジア系SF作家特集」とあるが、中身はほとんど中華系SF特集。もうひとつは「2017年春アニメ特集」として、「ID-0」「正解するカド」そして映画「BLAME!」。

 小説は10本。

 まずは「アジア系SF作家特集」で、3本。噂の郝景芳「折りたたみ北京」大谷真弓訳。次にケン・リュウ「母の記憶に」古沢嘉通訳。最後にスタンリー・チェン「麗江の魚」中原尚哉訳。「折りたたみ北京」「麗江の魚」はケン・リュウの英訳から日本語に訳したもの。

 次に連載5本。夢枕獏「小角の城」第44回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第14回,山本弘「プラスチックの恋人」第3回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第2回,そして椎名誠のニュートラル・コーナー「むじな虫」も、連作っぽい。

 読み切りは2本。澤村伊智「コンピューターお義母さん」,藤田祥平「スタウトのなかに落ちていく人間の血の爆弾」。

 加えて、新連載「筒井康隆自作を語る」が新連載。日下三蔵を聞き手に、今回は「日本SFの幼年期を語ろう」。主役の怪演はもちろんだが、聞き手の日下三蔵の知識が凄い。日本SF黎明期に江戸川乱歩が果たした役割って、大きかったんだなあ。それとスーパージェッターの台本陣の豪華さにもびっくり。

 郝景芳「折りたたみ北京」大谷真弓訳。午前五時。ごみ処理施設での勤務が終わったラオ・ダオは、ベン・リーを訪ねる。ここ第三スペースから第一スペースに行けば、二十万元が手に入る。ベン・リーはそのルートを知っている。捕まればブチ込まれるが、今はなんとしても金が要る。

 北京を折りたたむって、なんなんだ?と思ったら、そうきたかw あまりのスケールに感心するやら笑っちゃうやら。某アニメの影響かしらん。アイデアはお馬鹿だけど、お話はとってもシリアスで、共産主義のお題目とは違い階層化が進む中国社会を、とってもわかりやすくヴィジュアル化する巧みな発想。

 ケン・リュウ「母の記憶に」古沢嘉通訳。3頁の掌編。わたしが幼い時に、母は余命を宣告された。残された時間は、あと二年。わたしの成長を見守るため、母は時間をだますことにした。

 ケン・リュウお得意の泣かせる話。もはやSF小説界のデイヴィッド・ギルモアですね。

 最後にスタンリー・チェン「麗江の魚」中原尚哉訳。年度末の課長補佐昇進を狙いバリバり働いていた僕は、PNFDⅡ(心因性神経機能障害Ⅱ型)と診断され、麗江での二週間のリハビリを申し渡された。麗江は10年前にも行ったことがある。当時は自称アーティストが集まり、女には片っ端から声をかけたものだが…

 これまた政府による強い統制のもと、急激に工業化・産業化が進む中国を、観光都市・麗江を舞台として、巧みに揶揄する作品。出てくる納西族の民族音楽を漁ってたら、コメントに「麗江は観光地化され過ぎた」とあって苦笑い(→Youtube)。

 同特集中のハイカソル編集者ニック・ママタスのインタビュウ「英語圏における日本SF」SFマガジン編集部訳。野尻抱介「ロケットガール」が翻訳されてたのか。十代の女の子向けに出したってのも市場の違いを感じさせるが、「蓋を開けてみると、ロバート・ハインラインを愛読するような中年層によく読まれた」に大笑いw ああいうストレートで気持ちのいいSFに飢えているのだ、オッサンは。

 ピーター・トライアスのエッセイ「<ファンシースターはSFの名作だ>」鳴庭真人訳は、タイトル通りファンシースターと小玉理恵子への熱い想いを切々と綴る感動作。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「むじな虫」。アブドは高原列車イースト・アンド・ウエストの保線係だ。列車の軌道は、むきだしの地殻に掘った二条の溝。軌道が地上から突き出しているマザー・プラネットとは逆だ。路線の途中、赤い小屋は馴染みのクフの家だ。今日はレザーボールを捕まえるので忙しい。

 連載中、エッセイからいきなり小説になった前回を受けて、宇宙の彼方に植民した人々の暮らしを描く連作集その2。乾いた大地に延々と続く二本の軌条、役割も正体も分からないけど惑星を飛び回りゲームの対象になっているレザーボールなど、異様な風景が続く。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第14回。ウフコックは、クインテット潜入捜査で集めた情報を、イースターとブルーに伝える。58人と11頭のエンハンサー、そしてハンターの野望。事態は危機的で、残された時間は少ない。

 今回はイースター・オフィスの視点で物語が進む。そのためか、物騒な雰囲気は底に流れながらも、話は穏やかに進んでゆく。ホワイトコープ病院の<天使たち>の恐るべき正体が明かされ、イースター・オフィスは反撃の準備を始めるが…。空気読まないダニー・シルバーのキャラがいいなあw

 山本弘「プラスチックの恋人」第3回。セックス用アンドロイド、オルタマシン。未成年型はマイナーと呼ばれ、日本のムーン・キャッスルでサービスを始めた。取材に訪れた長谷部美里はマシンの見事さに圧倒される。その帰路、反対派らしき者を見つけ接触を試みるが…

 “非実在”児童ポルノ問題に挑む作品、今回は賛否の両側を代表する人が出てきて、熱く語ってくれる。ナッツ99に熱く思い入れちゃう自分が悲しいw 月光のマニアっぷりには、ひたすら頭が下がる。変身ベルトやオルタナファクトなど時事ネタはキャッチーだが、単行本では脚注が付くのかな? にちても、プロの物書きの努力には脱帽するのみ。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第2回。人の体験を記録・再生できるリメメントが普及した時代。リギウス社CEO迫間影巌はMEMアーティストとして活躍中の宵野深菜に、連続殺人犯アサクノの捜索を依頼する。アサクノの殺人MEMが出回っており、それを介して精神を汚染された者もいるらしい。

 連載二回目と物語は始まったばかり。主人公の深菜の過去や敵役のアサクノの紹介や掘り下げを担う回だろう。体験が人格を変えてゆくなら、やり方次第で様々な応用も効く。だいぶ違うけど、「戦地の図書館」の冒頭、傷つき心が死んだ海兵隊員が病院のベッドで読んだ「ブルックリン横丁」のファンレターは強烈だった。

 澤村伊智「コンピューターお義母さん」。「くらしマート」でのパートを終える時、遅番の佐川さんと挨拶した。テキパキしてるし、頼れる人だ。買い物を済ませ、重いビニール袋を両手に下げて家へと向かう。自動で灯るはずの玄関照明は、やはり点かない。誰の仕業かはわかっている。

 「九十八円ぺたり、九十八円ぺたり、九十八円ぺたり」だけで、お話の雰囲気を鮮やかに伝える語りが見事。「コンピューターおばあちゃん」を思わせるタイトルだし、ある意味では深い関係がある。奥様の井戸端会議の大切さがしみじみわかる作品←違うだろ

 藤田祥平「スタウトのなかに落ちていく人間の血の爆弾」。バーで飲みながらの読書会。テーマはカート・ヴォネガットの「スローターハウス5」。師匠はベロベロで、バーのオーナーのI氏は師匠の若かりし日の失敗談を聞かせてくれた。

 卒論に四苦八苦する学生たちの悪あがきや、それを見守る?教授。行き詰まっては飲んだくれた、京都で過ごす学生時代に、カート・ヴォネガットの「スローターハウス5」を絡め、ノスタルジックな短編。にしても強烈そうなカクテルだなあw

 東茅子「NOVEL & SHORT STORY REVIEW」、今回は特集に合わせたのか「アジア系SF」。劉慈欣「神の世話をする」 Taking Care of God。地球を創り超科学で人類を導いてきた神たちが、老いた自分たちの面倒を見ろと地球に押し寄せて…。一人っ子政策のため日本以上に厳しく高齢化対策が求められている中国で、よく出せたなと思うぐらいキツい風刺作。

 横田順彌「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇」第31回 大正末期のジュヴナイル小説7.今回は、なんと横溝正史の少年冒険探偵小説なんていうレア物の紹介。現代のライトノベルに当たる市場を狙った作品だろうなあ。

 藤崎慎吾「深海大戦 Abyssal Wars」が「超深海篇」で完結してるとは気がつかなかった。ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」も面白そう。

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2017年3月 1日 (水)

SFマガジン2017年4月号

生き物や物質が余計な意味を持たないのは素晴らしい。それは、存在そのものに意味があるということだから。
  ――上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」

「俺か。俺はZ80だ」
  ――宮内悠介「エターナル・レガシー」

「人を殺しても、それはただ人のイメージを残してしまうだけだ。そのイコンを。一人の男を殺せば、信仰と信念の何千という胞子が、思想の胞子が世に放たれる」
  ――ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ベスト・オブ・ベストSF2016」として、「SFが読みたい!2017年版」で上位に入った上田早由里,宮内悠介,ハーラン・エリスンの短編を掲載。小特集は2017年4月から放送が始まるアニメ「正解するカド」と、「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念。

 そんなこんなで小説は豪華14本。

 まずは特集「ベスト・オブ・ベストSF2016」で三本。上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」,宮内悠介「エターナル・レガシー」,ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。加えて「正解するカド」小特集で野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念で、鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。

 連載は4本。三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」,夢枕獏「小角の城」第43回,山本弘「プラスチックの恋人」第2回。そして椎名誠のニュートラル・コーナー「らくだ」も、今回はエッセイではなく短編小説だ。

 そして読み切りが5本。谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇,上遠野浩平「製造人間は主張しない」,六冬和生「白昼月」,ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳,カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。

 上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」。「華竜の宮」「深紅の碑文」と同じシリーズ。プルームの冬を、人類は越えられなかった。だがルーシィは生き残り、ときおり変異生物に襲われながらも、深海で暮らしている。その中の一人は、上に向かって冒険を試みる癖があり…

 「ルーシィ篇1」とあるので、まだ続く模様。ひゃっほーい! 氷に閉ざされた海でも、それなりに暮らしていたルーシィたちの生き方は、仕事や家庭で色々と悩みを抱えた人にとって、楽園のように思えるかも。ちょっとロジャー・ゼラズニイの「12月の鍵」や「フロストとベータ」を連想させ、大きなスケールを感じさせる作品。

 ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。私は小さな人間を創った。背丈は13cm。小さな人間を創ったのはいい考えだと思ったし、大学の面々や他の人たちも「ちょっといいね」ぐらいの反応だった。だが…

 初出が<レルムズ・オブ・ファンタジー>2010年2月号だから、インターネットでのそういう社会現象は既に知られていた頃なんだけど、むしろ旧来のマスコミがテーマじゃないかと私は思うんだが、どうなんでしょうね。

 宮内悠介「エターナル・レガシー」。若手棋士の葉飛立は、コンピュータ相手の対戦に敗れ、散々に罵られる。対局のない日に飲みに行ったら、ケッタイなお土産を持って帰る羽目になった。髭面のオッサンで、「俺はZ80だ」と言い張る。

 かつてマイコン少年だった人は、腹を抱えて笑い転げる出だし。他にもMナントカとか、○○もできないとか、懐かしのネタがいっぱい。〇〇もソフトウェアでやってたしねえ。あの頃を覚えてる人なら、一度は妄想した事のあるネタを、AlphaGO に絡めて、鮮やかに蘇らせてくれます。

 鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。「宇宙軍士官学校―前哨―」外伝で、宇宙軍創設時代が舞台。至高者の降臨で、多くの人類が洗脳されてから一年。洗脳を逃れたわずかな者たちは、国家の壁を越えて協力して抵抗を続け、北極海に集結していた。

 本編を全く知らないんで背景はイマイチわかんないんだが、映像化したら映えそうな場面が目白押し。特に出だしは、あの傑作「レッドオクトーバーを追え」を思い出したり。

 ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳。七人の男に囲まれ、木に吊るされようとしているウサマを、わたしは奪った。生け捕りでなければ報酬は手に入らない。ハンターの腕を見込まれてか、その町で大仕事を頼まれ…

 ウサマは他でもない、アルカイダのボスだったウサマ・ビンラディン。真面目な作品なんだが、「野生のウサマの群れ」で大笑いしてしまった。西部劇っぽい舞台で、銃の腕を買われた賞金稼ぎが、賞金首を狩る話…に見せかけ、キツい社会風刺を込めた作品。

 カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。国際原子力機関IAEAの技術者ゲナディは、カザフスタンにやってきた。連れはアンブローズ、ロシアと NASA と Google に追われている、とアンブローズは言う。二年前、ロスアラモスから電子励起爆発物の製法データが盗まれた。これを使えば誰でも水爆が作れてしまう。

 ツァーリ・ボンバ(→Wikipedia)は1961年なんで、微妙に歴史の違う世界が舞台なのかな? 作者は「太陽の中の太陽」の人。旧ソ連の宇宙開発を担ったバイコヌール基地があるカザフスタンなんて、相当にマニアックな舞台だが、仕掛けはお馬鹿スレスレの大風呂敷。うはは、そうきたかあ~。

 野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。2017年4月放送開始予定のアニメ「正解するカド」のスピンオフ。農水省の職員向けの蕎麦屋に、30年間勤めたが、店を閉める事になった。幸い失業するわけではなく、別の店に職場が変わるだけだが…

 5頁の掌編。これだけ読むと、ごく普通の短編小説なんだが、主人公はアニメに出てくる人なのかな? そばを茹でて30年、愚直に勤めてきたというのに、客の世代が変わったせいか、七軒のうちの唯一の閉店とはブツブツ…と悩む主人公のオジサンは、なかなか身に染みる。

 椎名誠のニュートラル・コーナー、今回の「らくだ」は短編小説。老いたラクダに乗って砂漠を旅する男。といっても背に乗るわけじゃなく、子宮の中に潜り込んでいる。って、確かにラクダは頑健な動物だけど、婆さんラクダも災難だw

 山本弘「プラスチックの恋人」第2回。少年少女の格好をしたセックス用アンドロイド、オルタマシンの取材を請け負った長谷部美里は、尻込みする己を叱咤しつつ現場ムーンキャッスルへと向かう。真っ黒なガラスに覆われた直方体で、冷たい印象のある建物に入っていくと…

 初めての風俗店、それも高級なシロモノにドギマギする主人公が、なかなか可愛らしい。取材者にビギナーを選んだのが正解だったのかどうかは、なかなか難しい所だけど、これはこれで話題になる記事が書けるんじゃなかろか。「まさに“ヒトごと”」には笑った。

 三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」。Re:MEMENTO、リメメント、疑憶体験。映像や音声に加え、味覚・触覚を含め、更に感情までも記録できる技術。媒体のMEMを顔に貼りつけるだけで、二時間ほどを記録できる。MEMアーティスト=憶え手(メンター)として成功したシンガーの深菜は、ボスのミーシャに呼び出され…

 こうやって作品を紹介しようとすると、改めて仕掛けの多さ・複雑さを感じるんだが、そういう面倒くさい舞台背景や設定の説明を、お話を途切れさせずに埋め込むテクニックは見事。にしても、欲しいねMEM。私としてはミュージシャンならパコ・デ・ルシアの絶技を…

 上遠野浩平「製造人間は主張しない」。前号の「交換人間は平静を欠く」の後篇。コノハ・ヒノオを誘拐した交換人間ミナト・ローバイは、国際複合展示会の会場に現れた。ミナトは語る。ヒノオが中枢(アクシズ)として統和機構に君臨することになる、と。

 新しいモノを開発してるエンジニアには、ウトセラ・ムビョウの台詞が、いちいちムカつく回w まあアレだ、確かに展示会とかの晴れやかな場だと、広報や営業さんが満面の笑みをたたえて、何やらカッコいい事を言うけど、裏方は色々と大変でw

 六冬和生「白昼月」。月の唯一の都市は、国連主導の越境合同事業の学園都市として成り立っている。ジニイ・戸田はここで探偵業を営んでいるが、来る仕事は買い物代行やらゴミを分別しない輩の不届き者の捜索やら。今回はシャトルで月都にやってくるオッサンのお迎え。

 若いのに芸風が多彩な人だなあ。今回は、「松本城、起つ」に少し似た、ちょっとユーモラスな語り口で、シケた探偵さんが巻き込まれる騒動を描くもの。特に「聞いちゃいない」おばちゃん・おじさんのキャラがいいw

 谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇。閑職から特務艦イカロス42の艦長に引っぱりだされた早乙女大尉だが、肝心のイカロス42は元探査機の老朽艦、乗務員は不愛想なフェレイラ一曹と謎の民間人ガトーだけ。状況的に作戦計画は不適切と考えた早乙女大尉は…

 コロンビア・ゼロ奇襲で先手を取られた、航空宇宙軍側の視点で描かれる物語。冷や飯食らいのデスクワークから、いきなり前線での艦長職ってあたりが、航空宇宙軍の人材不足を感じさせる。もっとも、軍に優れた人材が集まる世相ってのも、あまし嬉しくないけど。

 …って、あれ? 博物館惑星は連載じゃないの? 期待したのにぃ。いっそ頁数増やしてほしいなあ。

 「正解するカド」プロデューサー野口光一インタビュウ。「メインキャラクターはCGで、それ以外には作画(手描き)のキャラもいます」ってのが意外。モブこそCGで手早く片づけるのかと思ったが、CGの方が放送回ごとのデザインのブレが少ないとか、そんな理由なのかな?

 「裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル」刊行記念 宮澤伊織インタビュウ。いいねえ、「断絶への航海」。今思えば、あれはリバタリアン流ユートピアだよなあ。「自分が中高生のころ好きだったものを今の読者に向けて書きたい」、いいじゃないですか。エリック・クラプトンも結局ブルースに戻ったし。

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2017年2月20日 (月)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2017年版」早川書房

好きなものに順位をつけるなんて くだらんと思います
  ――表紙

きっとぼくとは違う言語観、世界観にもとづいて書かれた文章を読むのはひたすら楽しい。
  ――高島雄哉

 SFファンが楽しみにしている、年に一度のお祭り本。

 やっぱり目玉は昨年度のSF作品の人気投票、「ベストSF2016 国内篇・海外篇」。2016年に出たSF関連作品から、アンケートを取って人気の高い作品を並べる企画。マニアは見逃していた作品を補い、初心者はどこから手を付ければいいかが分かる、親切な企画。

 2017年2月15日初版発行、192頁と見た目は身軽ながら、中身はなかなか濃いのでそのつもりで。

 肝心の「ベストSF2016」、今までは20位までだったのが、今回は30位までと五割増し。けっこう見逃してたのが多いなあ。奥泉光「ビビビ・ビ・バップ」とかガレス・L・パウエル「ガンメタル・ゴースト」とか、完全にノーマークだったし。

 国内篇は若手・中堅・ベテラン入り乱れての戦国時代なのに対し、海外篇はハーラン・エリスン「死の鳥」を代表として、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアやジャック・ヴァンスやJ・G・バラードなど、古典と言っていいい作品が目立つ。

 今となってはニューウェーヴなんてラベルは売り込み文句としちゃ全く効果を失っているにも関わらず、それでも人気があるのは、やっぱり作品として面白いからなんだろう。加えて、SFとしてあんましガジェットに凝ってないのも好評の理由じゃないかなあ。

 いやイーガンも好きだけど、初心者には勧めにくいんだよね、濃すぎて。その点「アトランティス・ジーン」とかはハッタリとストーリーとアクションで突っ走る豪快娯楽作品で…って、ベスト30に入ってないじゃんw

 アンケート回答者が挙げた作品を見ていくのも、「おお、この人はこういうのが好きなのか」ってのが分かって楽しい所。難波弘之が宮内悠介「アメリカ最後の実験」を挙げてるのは「やっぱり」だけど、「ビビビ・ビ・バップ」は見逃したのかな?

 サブジャンル別のベスト10も、自分の好みが分かっている人や、新しい分野を切り開きたい人には嬉しい企画。今回はクラシックSFが加わった。ジョン・スラディック「ロデリック」は、AIが話題の今、いつブームになってもおかしくないんで、早めに確保しないと。あ、そこの君、私より先に確保しちゃだめだよ。

 「このSFを読んでほしい!」は、各出版社の今年のSF関連出版予定。

 早川書房のジョン・スコルジー「老人と宇宙」シリーズは、まだまだ続く予定。アトリエサードは名ばかり高いジョン・ブラナー「ザンジバーに立つ」だのアジリス・バドリス「無頼の月」とか、年寄りに優しいラインナップ。文藝春秋は藤井大洋「ビッグデータ・コネクト」第二弾って、ホンマかいな。

 そしてそして、東京創元社は、やっとキム・スタンリー・ロビンスン「ブルー・マーズ」が、なんと四月に出るとか。「レッド・マーズ」が1998年8月だから、約20年待った勘定になる。まさかこの期に及んで「実は2020年4月でした」なんて言わないよね、ね! ついでにワイルド・カードもコミックス化とかしないかなあ。

 にしても、最近のSFマガジン編集部は表紙で遊ぶのが好きだなあw

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2016年12月27日 (火)

SFマガジン2017年2月号

中村悠一「アフレコ現場ってなんかいつも力試しされてますよね。『お前は何を持ってきたの?』っていう(笑)」
  ――キャストが語る劇場アニメ『虐殺器官』 中村悠一×櫻井孝宏

だれにも市場をコントロールできないのは、だれにも市場を理解できないからだ。
  ――セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳

「ウルトラセブン抜きのウルトラセブンが見たい」
  ――『放課後地球防衛軍1 なぞの転校生』刊行記念 笹本祐一インタビュウ

 376頁の標準サイズ。特集は映画「虐殺器官」公開を記念して、ディストピアSF。

 小説は9本。まずはディストピアSF特集で3本、韓松「セキュリティ・チェック」幹瑤子訳,セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳,デイヴィッド・エリック・ネルスン「新入りは定時に帰れない」鈴木潤訳。

 連載は3本。夢枕獏「小角の城」第42回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第13回に加え、山本弘「プラスチックの恋人」が新連載。

 加えて読み切り3本。上遠野浩平「交換人間は平静を欠く」前編,宮沢伊織「異世界ピクニック ステーション・フェブラリー」に加え、菅浩江「博物館惑星2・ルーキー」第一話 黒い四角形。いや博物館惑星2は連載だよね、ね!

 『虐殺器官』関係じゃ、監督の村瀬修功インタビュウとチーフプロデューサーの山本幸治インタビュウが、製作現場の修羅場を生々しく伝えてる。興行収入の数字やスタジオでカチあった作品名が具体的に出てきて、「おお、アレか」と思ったり。

 韓松「セキュリティ・チェック」幹瑤子訳。近未来のアメリカ。ニューヨーク市内のあらゆる所に地下鉄駅があり、入り口では厳密なセキュリティ・チェックを受ける。増える凶悪事件に対応するため、徹底的な警備体制が取られたのだ。だが、そのセキュリティ・チェックを素通りした女がいる、との噂が…

 現代日本でも監視カメラが増えているし、空港でのチェックも厳しくなる一方だ。そういう自由と安全のトレードオフを扱った話かと思ったら、後半はアサッテの方向にスッ飛んでいった。

 セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳。レイドが子供のころ、ルームの侵略が始まった。人にとりつき、惑星を乗っ取る、そう言われている。ルームを阻止するため、人はドローンを飛ばす。人を監視し、ルームを見つけ、ミサイルで片づける。すべて自動だ。

 今のパソコンでも、意味不明な挙動はいっぱいあって、それに惑わされる事もしばしば。ブラウザで怪しげなサイトを開くと、アレなプログラムがセキュリティ・ソフトと暗闘を繰り広げ、画面が凍ったり。アレなサイトが見れないぐらいはたいした事ないけど、暮らしの中に入ってきたら…

 デイヴィッド・エリック・ネルスン「新入りは定時に帰れない」鈴木潤訳。ポータル。過去と現在をつなぐトンネル。某企業は、これの巧い使い方を思いつく。現代人は賃金が高い。なら過去から労働者を連れてくればいい。人事のテイラーは、新人のディークを連れ、今日もオリエンテーリングに勤しむ。

 タイムトラベル物の話はたくさんあるけど、この発想はなかったw にしてもテイラー、あらくれを前にしてきわどいジョークとは無謀なやっちゃ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第13回。ハンターによる均一化は、ひそかに、だが着々と、思いもよらぬ規模で進んでいた。しかし、ハンターの狙いは、もっと大きい。そのカギを握るのは弁護士事務所フラワー・カンパニーの所長マーヴィン・フラワーと、その用心棒ダンバー・アンバーコーン。

 今回の目玉はコーンことダンバー・アンバーコーン。フリーランスのエンハンサーで、今はフラワーの警護を請け負っている。性格はともかく、稼ぎ方はまっとうだよね。まあ雇い主によるけど。

 山本弘「プラスチックの恋人」。オルタマシン、ハイテクにより実現したロボットのダッチワイフ。いささか値が張るため、専用施設で時間貸しされる。その未成年形態は、日本でサービスを始めた。ただしボディ形状は公開されていない。これには法的な問題があり…

 表現規制問題を風刺した作品かな、と思ったが、なかなかどうして。ヒトの認識や施設運用の工夫などは、著者らしく充分に消化してる。施設で運用ってのも理にかなってるし。特に舞台裏である10階の描写は、なまじリアルっぽいだけに、妙におかしかったり。とまれ、この著者だけに、どんな球を隠してるのか、楽しみ。

 上遠野浩平「交換人間は平静を欠く」前編。出資者を探しに出たパーティーで、カミンスキイ博士は妙な男に絡まれる。ミナト・ローバイと名乗る男は語った。「世界は交換で成り立っている」と。それだけではない。「あなたの価値も知っている。ケチな社会心理学者のカミンスキイ博士ではなく…」

 「最強人間は機嫌が悪い」に続く、統和機構の例のシリーズ。そろそろシリーズ名をつけて欲しいなあ。この人の作品は他のシリーズの話と細かい所がつながってたりして、なかなか全貌が掴めないんだけど、嵌り込んだら泥沼なんだよね。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー」第一話 黒い四角形。兵頭健、博物館惑星の新人警備員。今日は絵画・工芸部門のイベント、「インタラクティブ・アートの世界」に出向いている。今回の目玉は楊偉の『glob+eal』『黒い四角形』と、ショーン・ルースの『いざ、楽園へ』。そのショーンは、楊偉を師と崇め…

 内気で引っ込み思案のショーンと、そのパトロンでやり手のマリオ・リッツォのコンビがいい。特にマリオ。名前から南欧系っぽい陽気で強引な印象があるんだが、やっぱりw 今度のシリーズは学芸員ではなく警備員が主人公。「芸術が何であるかもよくわからない」って悩みは多くの読者の共感を呼びそう。かくいう私もそうだけど。で、次の掲載は、いつ?

 宮沢伊織「異世界ピクニック ステーション・フェブラリー」。空魚と鳥子は新宿の居酒屋にいる。第二回裏世界遠征からの無事帰還を祝っての打ち上げだ。何やら店員の言葉が怪しいと思いつつ、とりあえず外に出て駅へと向かうが、夜の新宿にしてはどうもおかしい。

 ネットを漂う都市伝説をネタに怪しげな世界を描くこのシリーズ、今回のネタはきさらぎ駅(→ピクシブ百科事典)。体が馴染んだのか、空魚も鳥子も今回はすんなりと異世界にいけたようで、喜ばしい…わきゃないw そんな事態になっても連中の対応はアレで、それなりに鍛えられてるんだろうけど、やっぱり勝手が違い過ぎるよな。

 『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2』刊行記念 小川一水インタビュウ。なんと2018年に「導きの星」がアニメ化とか。あの可愛らしいスワリスに会えるのか。でも「天冥の標」完結編も2018年ってのは切ない。とまれ、数巻にまたがる大長編になりそうな雰囲気。

 友成純一の「人間廃業宣言」。今回は第49回シチェス・ファンタ・レポート。「釜山行き列車」は走る列車の中でゾンビと戦うって、「甲鉄城のカバネリ」かい!と思ったが、中身は全然違ったw イタリア映画 They Call Me Jeeg は、「鋼鉄ジーグ」のオマージュで、チンピラが無敵の力を手に入れ…ってお話。ジーグのファンには嬉しい作品だろうなあ。

 香山リカ「精神の中の物語」第26回 カジノ依存症の恐怖。いつもながら政治ネタで、ギャンブル依存症の話なんだが、これの対策が「一瞬たりともッヒマができないように」する事ってあたりが、アルコール依存症と同じで、依存症の対策ってみんな似たようなもんなんだなあ、と思ったり。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」247回 AIでかわるもの。AIが小説を書いたって話もあり、過去にウケた作品を分析して云々ってシステム、だいぶ昔にハーレクイン・ロマンスが実用化してたはず。ネタはDB化されてて、プログラムがネタを組み合わせて大筋を作り、人間が仕上げる、みたいな形だったかな? そういう需要もあるんです。いろんなジャンルの中で最も自動化が難しいのはギャグ物だと思うんだが、どうなんだろ?

 巽孝之「2016ワールドコン・レポート オズの国の一駅手前 第74回世界SF大会ミダメリコンⅡ日記」。「叛逆航路」が大ヒットしいたアン・レッキー、野尻抱介や小川一水も読んでいるとか。私がクローンで復活を望むのはバナナのグロスミッチェル…と思ったら、流通が少ないだけで滅びちゃいなかった。ああ、よかった。

 横田順彌「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇」第29回 大正末期のジュヴナイル小説4。今回はなんと野村胡堂。そう、あの銭形平次の野村胡堂。なんと彼が、少年向けの冒険小説で月へ行く小説を書いている。書ける人ってのは、なんでも書けるんだなあ。

 次号からはあの三雲岳斗が連載。よく原稿が取れたなあ。塩沢さん、何か弱みを握ったのか←をい

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2016年10月28日 (金)

SFマガジン2016年12月号

VR元年…?
それを12月に教えられても!!
  ――表紙

SFに求めるものは人間の頭をおかしくさせることだ。
  ――草野原々インタビュウ

 376頁の標準サイズ。特集は二つ。VR/AR,第4回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表。だがVR/AR特集はいきなり表紙で台無しにw 小説はなんと豪華12本。

 まずはVR/AR特集として5本。柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」,ケン・リュウ「シミュラクラ」古沢嘉通訳,ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」大谷真弓訳,ジェフ・ヌーン「ノーレゾ」金子浩訳,ニック・ウルヴェン「あなたの代わりはいない」鳴庭真人訳。

 続いて第4回ハヤカワSFコンテストの優秀賞受賞作の抜粋が2本。黒石迩守「ヒュレーの海」,吉田エン「世界の終りの壁際で」。

 連載も2本。夢枕獏「小角の城」第41回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第12回。加えて読み切りが3本。谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊 前編」,上遠野浩平「最強人間は機嫌が悪い」,宮沢伊織「八尺様サバイバル」。

 柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」。中国南部の雲南省からベトナム・ラオスにかけて住む少数民族スー族は、生まれてすぐヘッドセットをつけ、VRの中で一生を送る。彼らが暮らすVR世界については秘儀とされ、外部の者には知りえない。

 文化人類学の論文の形を模して、ヘッドセットをつけたまま暮らす少数民族の社会と生活を描きだす。「ピダハン」や「コンゴ・ジャーニー」とかを読むと、現実の文化人類学のフィールドワークでも、調査対象の人々がモノゴトにどんな意味づけをしているかは、なかなかわかんなかったりする。私にとってはタダの列車でも、鉄っちゃんにはE235だったりするし。

 その柴田勝家による、「『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』体験記 星の光の向こう側」が熱い。というか暑苦しいw 年季の入ったプロデューサーでもある柴田勝家が震え泣き叫び、ついにはマシンの限界すら越えてしまう。ある意味、稀有なテスター(製品検査官)だよなあ。心置きなく楽しむには防音・防振設備の整った部屋が要るのかも。

 ゲーム・デザイナーで AR performance を手掛ける内田明理インタビュウ「ARがもたらす“一期一会”」。予め全部をプログラミングしてるのかと思ったら、そんなチャチなモンじゃなかった。曰く「簡単に言うと、人形浄瑠璃なんですよ」。一つのキャラクターを表情・身体・声・ダンスなど、チームで創り上げているとか。今でもCMなどで手だけのモデルさんがいるらしいが、そういう感じなんだろうか?

 ゼーガペインADBデザインディレクター ハタイケヒロユキ インタビュウ。SFを映像化すると、設定が変わる場合があるが、その事情を分かりやすく説明してくれる。「集団作業なので、全員がシェアできる視覚的表現にしないといけない」。チームみんなが理解できるようにしなきゃいけないわけ。

 ケン・リュウ「シミュラクラ」古沢嘉通訳。ポール・ラモリアはシミュラクラ技術を創り上げ、世界的な成功を治める。その時の対象人物について、姿かたちを完全に記録し、三次元的に再生できる。おまけに単なる記録ではない。だが、その技術が元で娘のアンナとは疎遠になってしまい…

 ポールとアンナへのインタビュウの形で進む。読み終えて冒頭に戻ると、別の仕掛けが見えて驚いた。さすが業師ケン・リュウ。娘のいるお父さんには、かなりキツい作品。

 ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」大谷真弓訳。赤ちゃんが寝ている合間に、ゲームを楽しむ妻。戦場にいる兵士となり、ミッションをこなす。そこに夫のジェイミーが帰ってきた。怒るどころか、ゴキゲンだ。これは彼のお気に入りのゲームで…

 忙しい子育ての合間に息抜きで戦闘ゲームを楽しむ奥様のプレイスタイルは、ゲームマニアなジェイミーと全く違い… 同じゲームでも人によりプレイスタイルはそれぞれ。高軌道幻想ガンパレード・マーチでも、仲人プレイなんてのを開拓した人がいる。こういう発想の豊かさは凄いな、と感心したり。

 ジェフ・ヌーン「ノーレゾ」金子浩訳。金持ちは高解像度の視覚を得て、貧乏人は低解像度な上にウザいポップアップ広告に悩まされる世界。トムはバイクに7台のカメラを積み世界を映す仕事で稼いでる。仕事中は高解像度の視覚を得るが…

 狭いモニタで苦労しつつブログの記事を書いてる身としては、とっても身につまされる作品。質の低い回線で Youtube の動画を見る時のように、カクカクとコマ落ちした感じで現実を認識する感覚を、独特の文体で巧く表している。

 ニック・ウルヴェン「あなたの代わりはいない」鳴庭真人訳。パーティからパーティへと飛び回り、多くの人びとと出会うが、大半の人とは二度と出会うことはない。そんな日々を過ごすクレアが、そのパーティで出会ったバイロンは何かが違った。

 優雅で贅沢、でもどこかチグハグ。物語は仮想現実の世界で、登場人物はそのキャラクターらしい。おまけに、彼らはうっすらとソレを自覚している。ちょっと飛浩隆のグラン・ヴァカンスを思わせる設定。美味しいものが食べられないのは哀しいが、そもそも彼らは「食べる」って感覚がないんだよなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第12回。バロットのパーティは終わり、再び任務へと戻るイースター・オフィス。市会議員のモーモントと共に、ヴィクトル・ベルトコン市長への陳情に向かう。その頃、ハンターらは新たな一手を打ちつつあった。

 各登場人物の陰険さが楽しい回。静かに主導権を争うブルーとイースター、市政でのポジションをめぐるモーモントとベルトコン。そして後半はやはりハンターらクインテットが着々と駒を進めてゆく。今回のラストは実に衝撃的で絶望的。ここまで見事だと、ハンターを応援したくなるw

 谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊 前編」。航空宇宙軍大学校に在学中から、第二次外惑星動乱の危険に気づき、論文で警告を発してきた早乙女大尉。大学課程修了後は閑職に回されたが、外惑星連合の奇襲攻撃で事情が変わり、特務艦イカロス42の艦長として転勤となり…

 参謀本部へと向かう出世街道からヨレてしまった、元エリートの早乙女大尉。調査・分析などのペーパーワークを得意としてきた彼が、いきなり最前線に突っ込まれる話。ガチガチの石頭かと思ったが、意外と順応性は高いあたりは、さすが元エリート。にしても特務艦って所が怪しさプンプンでw

 上遠野浩平「最強人間は機嫌が悪い」。世界中のVIPが集まったサミット会場が占拠された。立てこもったのは“最強人間”。その要求に応えるため、製造人間ウトセラ・ムビョウはカレイドスコープと共に会場に向かうが…

 ブギーポップ世界に連なる作品。著者らしい、意地悪いながらも妙に脱力した会話が楽しめる作品。なんたって相手は“最強人間”。ハッキリ言ってバトルじゃ無能なムビョウが、口先三寸で“最強人間”をかわす…ってのとは、ちょっと違うような。

 宮沢伊織「八尺様サバイバル」。先の“くねくね”騒動で、空魚と鳥子の身体に異変が起きた。原因を探り対策をたてるために、二人は再び裏世界へと向かう。今度は空魚も充分に装備を整え、例の枠組みだけのビルに出た。周囲を探索して見つけたのは…

 ネット上の都市伝説を取り入れて奇妙な世界を描く裏世界ピクニック・シリーズ、今回のネタは八尺様。ちょっと調べたところ、なんでも「検索してはいけない単語」だそうで。それ先に教えてくれよw それより空魚と鳥子の関係が気になる第二回だったw

 黒石迩守「ヒュレーの海」。地表は“混沌(ケイオス)”が滅ぼした。人類は自己完結した幾つかの巨大都市に住む。豊かな者は地上都市に、貧しいものは地下都市に。地下都市のサルベージギルドに属する少女フィは、妙なネタを偶然に見つけ、仲良しの少年ヴェイに教えるが…

 活発な少女フィと、落ち着いた少年ヴェイってコンビは、涼宮ハルヒ以来の流れを汲んでるのかな? 舞台は映画ブレードランナー的な雑然とした地下都市の雰囲気。フィ、ヴェイ、二人を温かく見守るギルドの面々、そして師匠格のシドと、曰くありげな人物の紹介が巧い導入部。

 吉田エン「世界の終りの壁際で」。山手線に沿い巨大な壁ができ、富める者は壁の内側に住む未来。外で暮らす少年の片桐音也は、ゲーム<フラグメンツ>で稼いだ賞金をつぎ込み揃えた装備でクラス50に挑むが、敵は豊かな資金にモノをいわせ桁違いに強化していた。

 冒頭から派手なバトル・アクションが展開する、漫画化したらウケそうな作品。貧しい少年があり金はたいて揃えた装備が、金持ちの豪華な装備に一蹴される出だしから、少年漫画の王道な匂いが強く立ち上る。最近の傾向を考えると、掲載誌は少年ジャンプより少年チャンピオンの方が似合いそうな、熱気とイナタさを感じる。

 世界SF情報。ローカス・ベストセラーリストのハードカバーのトップが、なんとチャールズ・ストロス The Nightmare Stacks。「残虐行為記録保管所」のシリーズかな?最近、ストロスの本が出てないんだけど、なんとかなりませんか。

 鹿野司「サはサイエンスのサ オールドSFの洞察」。最近のネット上に見られる負の感情の噴出を、「イドの怪物」に例えているのは巧い。現実がそんなものなのか、ネットが増幅させているのか、どっちなんだろう?

 噂の草野原々「最後にして最初の矢澤」改め「最後にして最初のアイドル」は特別賞を受賞。近く電子書籍も出るとか。選評じゃ「素材はいいが粗削りすぎ」って雰囲気なんで、技術が身につけば化けそうな感じ。インタビュウじゃスティーヴン・バクスター,バリトン・J・ベイリー,クリス・ボイスなんて物騒な名前が次々と出てくるんで、今後に大いに期待しちゃうなあ。思いっきり暴走して欲しい。

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2016年8月30日 (火)

SFマガジン2016年10月号

夏目漱石もそうだが、事実を理解する能力と、その事実を受け入れる許容度の間には差が出るものだ。
  ――長山靖生「SFのある文学誌 第48回
   危険な洋書とショウの社会改良優生学 松村みね子の幻想世界3」

「話し合いが必要だな」僕は言った。
「なんで? あらゆることを徹底的に話し合わなくちゃいけないなんて法律でもあるの?」
「“door”って単語が、僕らの部屋のど真ん中に浮いてるんだぞ。話し合いは必要ないって?」
  ――チャールズ・ユウ「Open」円城塔訳

 376頁の標準サイズ。特集は三つ。最初は堺三保監修の「海外SFドラマ特集」。次に丸屋九兵衛監修の「『スタートレック』50周年記念特集。最後に小川隆監修で「ケリー・リンク以降 不思議を描く作家たち」。

 小説は豪華9本。連載は夢枕獏「小角の城」第40回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第11回。読み切りは梶尾真治「七千六日の少女」,草上仁「宝はこの地図」,ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」後編は酒井昭伸訳に加え、 「ケリー・リンク以降」特集としてチャールズ・ユウ「Open」円城塔訳,ユーン・ハリー「弓弦をはずして」小川隆訳,メガン・マキャロン「魔法使いの家」鈴木潤訳,ジュリア・エリオット「ワイルド家の人たち」小川隆訳。

 ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」後編、酒井昭伸訳。魔界学者シュルーはバンデローズの鼻を手に入れ、ミアマゾンを統べるダーウェ・コレムとマウツのメイヴォルトを伴い、飛空ガレオン船で第二の<究極の図書館>を目指す。

 元船乗りのジャック・ヴァンスへの敬意なのか、飛空ガレオン船での長い航天の描写が見事。特に中間点通過の宴、元ネタは赤道祭だと思うんだが、昔はこういう旅が当たり前だったんだろうなあ。ヒュエ教授が意外と芸達者だったり。

 続く「浅倉ヴァンス爆誕」酒井昭伸は、ジャック・ヴァンスの「竜を駆る種族」の訳をネタに、浅倉久志を偲ぶコラム。海外作品を読む際に、普通にスラスラ読めるって、実は凄い事なんだよなあ、と気づかされる。

 コンピュータ・ソフトでも、マニュアルを読まず自然に使えるモノって、実は大変な工夫が凝らされてるように、ラクに読める文章ってのは、書く側がとても気を使っているのだ。これが小説の翻訳となると、原文の香りも残さにゃならんので…

 梶尾真治「七千六日の少女」。星雲賞受賞記念に、怨讐星域の書き下ろし特別編にして、「76分間の少女」完結編。ノアズ・アーク号は<約束の地>に辿りつくが、直前に船体が崩壊、ジョナ・ハリスンは脱出ポッドでかろうじて着水したが…

 描かれなかった「76分間の少女」に決着をつけるのに加え、本編では駆け足で描かれた、ノアズ・アーク乗員とニューエデン住民が寄り添ってゆく様子を、ジョナ・ハリスンを中心に描いてゆく。にしてもヨモギダ、それはあんまり… ま、いっか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第11回。ハンターを中心とするクインテットの引き起こす惨劇を、間近で見続けたウフコック。その苦しみの重さに彼の心が押しつぶされようとしている時、ウフコックの前に現れたのは…

 今までの激しいバトルや陰惨な暴力シーンとはガラリと変わり、ほのぼのとした風景が描かれる回。久しぶりに出番が回ってきたミラー&レザーのコンビが、意外な一面をのぞかせる。にしてもミラー、お前本気なのか?

 草上仁「宝はこの地図」。また誰か原稿を落とし←しつこい。植民星ディーツは独裁者サガミが支配している。砂漠に住む俺たちには、ときおり食料の配給が届く。ヘリがまくビラが、食料のありかを示すヒントだ。ただし早い者勝ち。出遅れたら食いっぱぐれ飢えて死ぬ。

 命を懸けたお宝争奪戦を、草上仁らしいひねったアイデア満載で描く作品。最近の作家なら、アクション連続の長編になるぐらい沢山のアイデアを、21頁にギッシリ詰めこんだ、とっても贅沢な作品。

 「ケリー・リンク以降 不思議を描く作家たち」特集。SFのスリップストリームを枕に、ミステリやロマンスなど他のジャンル小説でも起きたジャンル越境の動きを追ってゆく。ジャンル名は、いっそ昔ながらの幻想小説や奇想小説でもいい気がする。

 チャールズ・ユウ「Open」円城塔訳。珍しく僕が昼間から家に帰った日、そこにはとんでもないシロモノがあった。“door”って単語が、部屋の真ん中に浮かんでいる。そしてサマンサがソレを見つめている。やがて単語は…

 5頁の掌編。突然現れた単語をきっかけに、若いカップルの関係が変わってゆく。なんか恋愛小説みたいな仕掛けだが、中身はどうにもスッとぼけて唖然としちゃうお話。「演技で僕らしていた」って文が、今風ながら巧く雰囲気を伝えている。

 ユーン・ハリー「弓弦をはずして」小川隆訳。兵士たちに追われ、山からわれらの迷路にやってきた女。最初は互いの言葉も通じなかったが、少しづつ女ナンモリはわれらの中に馴染んでゆく。

 これも4頁の掌編。ギターやマンドリンなど、リュート族の楽器の元祖は、弓かもしれない。弦の半分あたりを押さえて引くと、開放時よりオクターブ高い、すなわち周波数が倍で波長が半分の音が出る…ってのは、関係あるような、ないような。

 メガン・マキャロン「魔法使いの家」鈴木潤訳。冗談で「魔法なら習ってもいいけど」なんてママに言ったせいで、わたしは魔法を習う羽目になった。魔法使いは痩せた背の高い白髪交じりの男。面接の結果は「来週また来い、シャベルを忘れずに」。

 どうも舞台は現代のアメリカで、主人公は女子高生。いきなり穴掘りってのも意表を突くが、与えられた課題「まだつながってない二つの場所をつなぐこと」の解決策が、コレってありなのかw

 ジュリア・エリオット「ワイルド家の人たち」小川隆訳。裏の家に越してきたワイルド家には、騒がしくて乱暴な八人兄弟がいた。いちばん上は頬髯をはやした17歳で、いつもは穴蔵にこもっているブライアン。わたしは彼に首ったけだった。

 女の子から見た男の子ってのは、こんなケッタイな生き物なんだろうなあ。うるさくて汚くて暴力的でせわしなく、悪趣味な上にどうしようもなく頭が悪く、変なものにこだわる。

 海外SFドラマ特集。ゲーム・オブ・スローンズが「予算もテレビドラマとしては最高額」ってのは凄い。よくゴーサインが出たなあ。にしてもアメリカは潤沢な予算でしっかりした映像を作れて羨ましい。Childhood's End―幼年期の終わり―には期待してたんだが、出来はムニャムニャらしいのが残念。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「時間流刑者は暇な午後に三葉虫を釣りにいく」。タイトルから元ネタはアレかと思ったら、やっぱり「ホークスビル収容所」だった。あのアンソロジー・シリーズ、復活して欲しいなあ、電子版でいいから。

 山本さをりの世界SF情報。2015年ローカス賞のSF長編部門は、アン・レッキーの Ancillary Mercy。そう、「叛逆航路」から始まる三部作の完結編。こりゃ期待しちゃうなあ。

 堺三保のアメリカン・ゴシップ、今回はサンディエゴ・コミコンの話。偽造チケットで潜り込もうとする輩がやたら多く、「去年は数万枚、偽造チケットが出たとか」ってのに驚き。組織的にチケットを偽造してる奴がいるんだろうか?

 丸屋九兵衛の「スター・トレックの50年間を5分で読め!」。最初のシリーズ「宇宙大作戦」が視聴率不振を理由に3シーズンで打ち切りになった後、再放送から盛り上がり始め、ファンの声に押され多くのシリーズにつながってゆく。これで気づいた。そうか、スタトレって、アメリカのガンダムなのか。

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2016年7月 6日 (水)

SFマガジン2016年8月号

時代は、書いた途端から作品を追い抜こうとしています。これは、SFが現実になる時代の現代小説なんだ、ということです。
  ――川端裕人×野田篤司 『青い海の宇宙港』を飛び立つまで

 376頁の標準サイズ。特集は「ハヤカワ・SF・シリーズ 総解説」。

 小説は7本。連載は夢枕獏「小角の城」第39回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第10回,川端裕人「青い海の宇宙港」最終回。読み切りは谷甲州「イカロス軌道」,伏見完「あるいは呼吸する墓標」,宮澤伊織「裏世界ピクニック」。加えてダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」前編は酒井昭伸訳。

 特集「ハヤカワ・SF・シリーズ 総解説」。いわゆる銀背ですね。

 ヴェルヌの「海底二万リーグ」なんてのも出してたのか。ルイス・パジェットの「ミュータント」は面白そう。映画「遊星からの物体X」で有名なジョン・W・キャンベル「影が行く」も読みたい。今は創元SF文庫のアンソロジーで読めるなあ。ヘンリイ・カットナー「ボロゴーヴはミムジイ」、表題作や「トオンキイ」の名前だけは聞いたことがあるんだが、手に入れるのは難しそう。

 高橋良平「ハヤカワ・SF・シリーズの歴史」。銀背ばかりでなく、日本でのSF出版黎明期の状況も大事な背景としてわかりやすくまとめてある。あまり顧みられないけど、都築道夫の貢献も大きいみたい。またSF用語を日本語に移し替えるのに苦労した模様。別の見方をすると、当時の訳者のセンスが今日のSF用語にも生きてるって事かな。

 川端裕人「青い海の宇宙港」ついに最終回。駆たちが島の者を巻き込み作り上げたロケットが、いよいよ打ち上げにまでこぎつけた。希実も萌奈美も、そして落ち着いたフリをしている周太も興奮を隠せない。駆の父母も、そして弟の潤も島にやってきた。そして始まるカウントダウン。

 今回も、打ち上げ前の準備の描写が、静電防止靴など細かい所まで具体的なのが迫力を増している。フィナーレだけあって、今までの登場人物が勢ぞろい。にしても、駆の母ちゃんの台詞が、いかにも母ちゃんらしいw 単にロケットだけでなく、川やガオウ、そして島の社会まで描き切った、この作者わしい気持ちのいい作品だった。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第10回。<ホスピタル>を奪おうと乗り込んだハンターに、奇怪な子供たちが襲い掛かる。そこに駆け付けた<クインテット>。

 今回は、エンハンサー同士のバトルで始まる。今までバラバラに動いていたメンバーが、再び終結する流れは、やっぱり盛り上がるなあ。対する異形の子どもたちの能力も、なかなか禍々しい。何かとハンターに執着するシルヴィアが可愛らしいい。均一化しても感情は消えないんだね。

 谷甲州「イカロス軌道」はお馴染みの新・航空宇宙軍史。土星の外側軌道で哨戒中の特設警備艦プロメテウス03は、早期警戒システムによる警報を受ける。重力波センサが、太陽系外縁を高速移動する重力波源をとらえたのだ。データを見ると、途方もなく巨大な航宙船が高速移動しているように見える。

 つい最近に観測されたばかりの重力波(国立天文台LIGOによる重力波直接検出について)なんてホットなネタを使いつつ、あまり信用できない観測機器とデータを基に、敵の思惑と動きを読もうとする、いわゆる「戦場の霧」(→Wikipedia)に立ち向かう軍人の話。僚艦との連携が期待できず、独自の判断・行動が求められる点では、潜水艦に似てるかも。

 伏見完「あるいは呼吸する墓標」。遠い未来。ヒトは体内に様々な医療ファームウェアを持ち、医学的恩恵を手に入れた。ファームウェアを管理するAReNAは、その代償としてヒトの大脳の計算力を得る。妹の未鳴は、砂漠で歩く死体を見た、という。補助筋肉の出力が100%なら、あんな歩き方になる、と。

 ヒトはAReNAに頼り、AReNAはヒトを頼る。読み終えて改めて考えると、互いが互いを支える共生関係のように思えるが、未鳴の語る「砂漠で歩く死体」の風景の印象が強烈で、救いようのない終末に向け静かに歩んでゆく物語のように感じてしまう。

 ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」前編、酒井昭伸訳。ジャック・ヴァンスの<滅びゆく地球>シリーズのトリビュート。このシリーズを読むのは初めて。遠い未来。太陽は赤く膨れ上がり、一日は伸びてゆく。災厄が降り続く地球で、魔法関係者は迫害される。究極の図書館を持つウルフェント・バンデローズの死を知った魔界学者シュルーは…

 翼妖ペルグレーン,<魔界>,徘徊性アーブなど、出てくる仕掛けはSFというよりファンタジイ。出てくる輩はみんな一癖も二癖もある曲者ばかりなのが、ヴァンスらしい。肝心の<究極の図書館>も、魔法により書物を読めるのは主のウルフェント・バンデローズだけ、という意地悪さ。いい根性してます。

 宮澤伊織「裏世界ピクニック」。19歳の女子大生、紙越空魚は、<裏側>の草原で死にそうになっていた。白いくねくねしたアレを見ると、気分が悪くなって力が抜けるのだ。そこに現れたのは、同じぐらいの年頃の娘、仁科鳥子。彼女の機転で危機は脱したものの…

 異界といっても馴染みのRPGの世界ではなく、異様で物騒なシロモノが潜んでいる危ない世界。くねくね(→Wikipedia)や異世界エレベーター(→Naverまとめ)を絡め、コミック風に物語が進む。仁科鳥子の正体など謎は多く、長いシリーズの冒頭みたいだなあ。諸星大二郎の「栞と紙魚子シリーズ」を思い浮かべた。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「世界の大河は頑固でときに幻想的に優しい」。メコン川のドンダイ漁がのんびりしているような、豪快なような。定置網みたいな感じなんだけど、この網の見張り役が引きこもりにピッタリの仕事。川のなかに建った二畳ほどの小屋に、12日間一人で籠りっぱなしで暮らすのだ。

 ジョン・ヴァーリーの「ブラックホール通過」とか、宇宙の彼方の観測基地などでたった一人で暮らす観測員の話はあるが、まさか地球上で似たような仕事があるとは。

 ≪蒲公英王朝期≫第一部刊行記念 ケン・リュウ・インタビュウ “シルクパンク”を描く。「短編は彫刻に似て、長編は建築に似る」ってのが、いい得て妙。中国とアメリカ両方の文化に触れた人だけに、「龍はドラゴンじゃないし火の鳥はフェニックスじゃない」と、アメリカ人の中で既に出来ちゃった中国のイメージを払拭する工夫を凝らしているとか。

 鳴庭真人のNOVEL&SHORT STORY REVIEW「戦略・戦術SF」、今回の目玉はアンドリュー・グローン「Empire of EVE」。2003年に始まったオンライン・ゲームの EVE での抗争を物語風にまとめたノンフィクション。EVE は星団内で暮らし、または徒党を組んで覇を競うゲーム。

 面白いのは、サーバ遅延も「潮や風向きのような自然現象」とプレイヤーが考えてる点。「これを考慮に入れない作戦指揮官は無能とされてしまう」。もう完全に世界に入り込んでるなあ。しかも徒党の指導者が銀英伝でいう「トリューニヒトやオーベルシュタインばかり」ってのがw

 鹿野司「サはサイエンスのサ」。今回は珍しくベーシック・インカム(→Wikipedia)の話。これが最新テクノロジーと何の関係があるかというと、AIが絡んでくる。自動車が自動運転できればタクシーの運ちゃんが仕事を失うように、情報技術が進めば職が減り貧富の差が大きくなる。これを防ぐ方法の一つがベーシック・インカムだろう、と。

 今の所AIは「碁に勝つ」とか「自動車を運転する」とかの比較的にハッキリした狭い目的にしか対応してないし、日本でも自動販売機の発達が店員さんの職を奪ったかというと意外とそうでもないんで、暫くは大きな影響はなさそうだけど、先の事はわからないからなあ。

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