カテゴリー「書評:SF:小説以外」の80件の記事

2017年3月 1日 (水)

SFマガジン2017年4月号

生き物や物質が余計な意味を持たないのは素晴らしい。それは、存在そのものに意味があるということだから。
  ――上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」

「俺か。俺はZ80だ」
  ――宮内悠介「エターナル・レガシー」

「人を殺しても、それはただ人のイメージを残してしまうだけだ。そのイコンを。一人の男を殺せば、信仰と信念の何千という胞子が、思想の胞子が世に放たれる」
  ――ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ベスト・オブ・ベストSF2016」として、「SFが読みたい!2017年版」で上位に入った上田早由里,宮内悠介,ハーラン・エリスンの短編を掲載。小特集は2017年4月から放送が始まるアニメ「正解するカド」と、「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念。

 そんなこんなで小説は豪華14本。

 まずは特集「ベスト・オブ・ベストSF2016」で三本。上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」,宮内悠介「エターナル・レガシー」,ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。加えて「正解するカド」小特集で野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念で、鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。

 連載は4本。三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」,夢枕獏「小角の城」第43回,山本弘「プラスチックの恋人」第2回。そして椎名誠のニュートラル・コーナー「らくだ」も、今回はエッセイではなく短編小説だ。

 そして読み切りが5本。谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇,上遠野浩平「製造人間は主張しない」,六冬和生「白昼月」,ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳,カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。

 上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」。「華竜の宮」「深紅の碑文」と同じシリーズ。プルームの冬を、人類は越えられなかった。だがルーシィは生き残り、ときおり変異生物に襲われながらも、深海で暮らしている。その中の一人は、上に向かって冒険を試みる癖があり…

 「ルーシィ篇1」とあるので、まだ続く模様。ひゃっほーい! 氷に閉ざされた海でも、それなりに暮らしていたルーシィたちの生き方は、仕事や家庭で色々と悩みを抱えた人にとって、楽園のように思えるかも。ちょっとロジャー・ゼラズニイの「12月の鍵」や「フロストとベータ」を連想させ、大きなスケールを感じさせる作品。

 ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。私は小さな人間を創った。背丈は13cm。小さな人間を創ったのはいい考えだと思ったし、大学の面々や他の人たちも「ちょっといいね」ぐらいの反応だった。だが…

 初出が<レルムズ・オブ・ファンタジー>2010年2月号だから、インターネットでのそういう社会現象は既に知られていた頃なんだけど、むしろ旧来のマスコミがテーマじゃないかと私は思うんだが、どうなんでしょうね。

 宮内悠介「エターナル・レガシー」。若手棋士の葉飛立は、コンピュータ相手の対戦に敗れ、散々に罵られる。対局のない日に飲みに行ったら、ケッタイなお土産を持って帰る羽目になった。髭面のオッサンで、「俺はZ80だ」と言い張る。

 かつてマイコン少年だった人は、腹を抱えて笑い転げる出だし。他にもMナントカとか、○○もできないとか、懐かしのネタがいっぱい。〇〇もソフトウェアでやってたしねえ。あの頃を覚えてる人なら、一度は妄想した事のあるネタを、AlphaGO に絡めて、鮮やかに蘇らせてくれます。

 鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。「宇宙軍士官学校―前哨―」外伝で、宇宙軍創設時代が舞台。至高者の降臨で、多くの人類が洗脳されてから一年。洗脳を逃れたわずかな者たちは、国家の壁を越えて協力して抵抗を続け、北極海に集結していた。

 本編を全く知らないんで背景はイマイチわかんないんだが、映像化したら映えそうな場面が目白押し。特に出だしは、あの傑作「レッドオクトーバーを追え」を思い出したり。

 ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳。七人の男に囲まれ、木に吊るされようとしているウサマを、わたしは奪った。生け捕りでなければ報酬は手に入らない。ハンターの腕を見込まれてか、その町で大仕事を頼まれ…

 ウサマは他でもない、アルカイダのボスだったウサマ・ビンラディン。真面目な作品なんだが、「野生のウサマの群れ」で大笑いしてしまった。西部劇っぽい舞台で、銃の腕を買われた賞金稼ぎが、賞金首を狩る話…に見せかけ、キツい社会風刺を込めた作品。

 カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。国際原子力機関IAEAの技術者ゲナディは、カザフスタンにやってきた。連れはアンブローズ、ロシアと NASA と Google に追われている、とアンブローズは言う。二年前、ロスアラモスから電子励起爆発物の製法データが盗まれた。これを使えば誰でも水爆が作れてしまう。

 ツァーリ・ボンバ(→Wikipedia)は1961年なんで、微妙に歴史の違う世界が舞台なのかな? 作者は「太陽の中の太陽」の人。旧ソ連の宇宙開発を担ったバイコヌール基地があるカザフスタンなんて、相当にマニアックな舞台だが、仕掛けはお馬鹿スレスレの大風呂敷。うはは、そうきたかあ~。

 野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。2017年4月放送開始予定のアニメ「正解するカド」のスピンオフ。農水省の職員向けの蕎麦屋に、30年間勤めたが、店を閉める事になった。幸い失業するわけではなく、別の店に職場が変わるだけだが…

 5頁の掌編。これだけ読むと、ごく普通の短編小説なんだが、主人公はアニメに出てくる人なのかな? そばを茹でて30年、愚直に勤めてきたというのに、客の世代が変わったせいか、七軒のうちの唯一の閉店とはブツブツ…と悩む主人公のオジサンは、なかなか身に染みる。

 椎名誠のニュートラル・コーナー、今回の「らくだ」は短編小説。老いたラクダに乗って砂漠を旅する男。といっても背に乗るわけじゃなく、子宮の中に潜り込んでいる。って、確かにラクダは頑健な動物だけど、婆さんラクダも災難だw

 山本弘「プラスチックの恋人」第2回。少年少女の格好をしたセックス用アンドロイド、オルタマシンの取材を請け負った長谷部美里は、尻込みする己を叱咤しつつ現場ムーンキャッスルへと向かう。真っ黒なガラスに覆われた直方体で、冷たい印象のある建物に入っていくと…

 初めての風俗店、それも高級なシロモノにドギマギする主人公が、なかなか可愛らしい。取材者にビギナーを選んだのが正解だったのかどうかは、なかなか難しい所だけど、これはこれで話題になる記事が書けるんじゃなかろか。「まさに“ヒトごと”」には笑った。

 三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」。Re:MEMENTO、リメメント、疑憶体験。映像や音声に加え、味覚・触覚を含め、更に感情までも記録できる技術。媒体のMEMを顔に貼りつけるだけで、二時間ほどを記録できる。MEMアーティスト=憶え手(メンター)として成功したシンガーの深菜は、ボスのミーシャに呼び出され…

 こうやって作品を紹介しようとすると、改めて仕掛けの多さ・複雑さを感じるんだが、そういう面倒くさい舞台背景や設定の説明を、お話を途切れさせずに埋め込むテクニックは見事。にしても、欲しいねMEM。私としてはミュージシャンならパコ・デ・ルシアの絶技を…

 上遠野浩平「製造人間は主張しない」。前号の「交換人間は平静を欠く」の後篇。コノハ・ヒノオを誘拐した交換人間ミナト・ローバイは、国際複合展示会の会場に現れた。ミナトは語る。ヒノオが中枢(アクシズ)として統和機構に君臨することになる、と。

 新しいモノを開発してるエンジニアには、ウトセラ・ムビョウの台詞が、いちいちムカつく回w まあアレだ、確かに展示会とかの晴れやかな場だと、広報や営業さんが満面の笑みをたたえて、何やらカッコいい事を言うけど、裏方は色々と大変でw

 六冬和生「白昼月」。月の唯一の都市は、国連主導の越境合同事業の学園都市として成り立っている。ジニイ・戸田はここで探偵業を営んでいるが、来る仕事は買い物代行やらゴミを分別しない輩の不届き者の捜索やら。今回はシャトルで月都にやってくるオッサンのお迎え。

 若いのに芸風が多彩な人だなあ。今回は、「松本城、起つ」に少し似た、ちょっとユーモラスな語り口で、シケた探偵さんが巻き込まれる騒動を描くもの。特に「聞いちゃいない」おばちゃん・おじさんのキャラがいいw

 谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇。閑職から特務艦イカロス42の艦長に引っぱりだされた早乙女大尉だが、肝心のイカロス42は元探査機の老朽艦、乗務員は不愛想なフェレイラ一曹と謎の民間人ガトーだけ。状況的に作戦計画は不適切と考えた早乙女大尉は…

 コロンビア・ゼロ奇襲で先手を取られた、航空宇宙軍側の視点で描かれる物語。冷や飯食らいのデスクワークから、いきなり前線での艦長職ってあたりが、航空宇宙軍の人材不足を感じさせる。もっとも、軍に優れた人材が集まる世相ってのも、あまし嬉しくないけど。

 …って、あれ? 博物館惑星は連載じゃないの? 期待したのにぃ。いっそ頁数増やしてほしいなあ。

 「正解するカド」プロデューサー野口光一インタビュウ。「メインキャラクターはCGで、それ以外には作画(手描き)のキャラもいます」ってのが意外。モブこそCGで手早く片づけるのかと思ったが、CGの方が放送回ごとのデザインのブレが少ないとか、そんな理由なのかな?

 「裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル」刊行記念 宮澤伊織インタビュウ。いいねえ、「断絶への航海」。今思えば、あれはリバタリアン流ユートピアだよなあ。「自分が中高生のころ好きだったものを今の読者に向けて書きたい」、いいじゃないですか。エリック・クラプトンも結局ブルースに戻ったし。

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2017年2月20日 (月)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2017年版」早川書房

好きなものに順位をつけるなんて くだらんと思います
  ――表紙

きっとぼくとは違う言語観、世界観にもとづいて書かれた文章を読むのはひたすら楽しい。
  ――高島雄哉

 SFファンが楽しみにしている、年に一度のお祭り本。

 やっぱり目玉は昨年度のSF作品の人気投票、「ベストSF2016 国内篇・海外篇」。2016年に出たSF関連作品から、アンケートを取って人気の高い作品を並べる企画。マニアは見逃していた作品を補い、初心者はどこから手を付ければいいかが分かる、親切な企画。

 2017年2月15日初版発行、192頁と見た目は身軽ながら、中身はなかなか濃いのでそのつもりで。

 肝心の「ベストSF2016」、今までは20位までだったのが、今回は30位までと五割増し。けっこう見逃してたのが多いなあ。奥泉光「ビビビ・ビ・バップ」とかガレス・L・パウエル「ガンメタル・ゴースト」とか、完全にノーマークだったし。

 国内篇は若手・中堅・ベテラン入り乱れての戦国時代なのに対し、海外篇はハーラン・エリスン「死の鳥」を代表として、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアやジャック・ヴァンスやJ・G・バラードなど、古典と言っていいい作品が目立つ。

 今となってはニューウェーヴなんてラベルは売り込み文句としちゃ全く効果を失っているにも関わらず、それでも人気があるのは、やっぱり作品として面白いからなんだろう。加えて、SFとしてあんましガジェットに凝ってないのも好評の理由じゃないかなあ。

 いやイーガンも好きだけど、初心者には勧めにくいんだよね、濃すぎて。その点「アトランティス・ジーン」とかはハッタリとストーリーとアクションで突っ走る豪快娯楽作品で…って、ベスト30に入ってないじゃんw

 アンケート回答者が挙げた作品を見ていくのも、「おお、この人はこういうのが好きなのか」ってのが分かって楽しい所。難波弘之が宮内悠介「アメリカ最後の実験」を挙げてるのは「やっぱり」だけど、「ビビビ・ビ・バップ」は見逃したのかな?

 サブジャンル別のベスト10も、自分の好みが分かっている人や、新しい分野を切り開きたい人には嬉しい企画。今回はクラシックSFが加わった。ジョン・スラディック「ロデリック」は、AIが話題の今、いつブームになってもおかしくないんで、早めに確保しないと。あ、そこの君、私より先に確保しちゃだめだよ。

 「このSFを読んでほしい!」は、各出版社の今年のSF関連出版予定。

 早川書房のジョン・スコルジー「老人と宇宙」シリーズは、まだまだ続く予定。アトリエサードは名ばかり高いジョン・ブラナー「ザンジバーに立つ」だのアジリス・バドリス「無頼の月」とか、年寄りに優しいラインナップ。文藝春秋は藤井大洋「ビッグデータ・コネクト」第二弾って、ホンマかいな。

 そしてそして、東京創元社は、やっとキム・スタンリー・ロビンスン「ブルー・マーズ」が、なんと四月に出るとか。「レッド・マーズ」が1998年8月だから、約20年待った勘定になる。まさかこの期に及んで「実は2020年4月でした」なんて言わないよね、ね! ついでにワイルド・カードもコミックス化とかしないかなあ。

 にしても、最近のSFマガジン編集部は表紙で遊ぶのが好きだなあw

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2016年12月27日 (火)

SFマガジン2017年2月号

中村悠一「アフレコ現場ってなんかいつも力試しされてますよね。『お前は何を持ってきたの?』っていう(笑)」
  ――キャストが語る劇場アニメ『虐殺器官』 中村悠一×櫻井孝宏

だれにも市場をコントロールできないのは、だれにも市場を理解できないからだ。
  ――セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳

「ウルトラセブン抜きのウルトラセブンが見たい」
  ――『放課後地球防衛軍1 なぞの転校生』刊行記念 笹本祐一インタビュウ

 376頁の標準サイズ。特集は映画「虐殺器官」公開を記念して、ディストピアSF。

 小説は9本。まずはディストピアSF特集で3本、韓松「セキュリティ・チェック」幹瑤子訳,セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳,デイヴィッド・エリック・ネルスン「新入りは定時に帰れない」鈴木潤訳。

 連載は3本。夢枕獏「小角の城」第42回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第13回に加え、山本弘「プラスチックの恋人」が新連載。

 加えて読み切り3本。上遠野浩平「交換人間は平静を欠く」前編,宮沢伊織「異世界ピクニック ステーション・フェブラリー」に加え、菅浩江「博物館惑星2・ルーキー」第一話 黒い四角形。いや博物館惑星2は連載だよね、ね!

 『虐殺器官』関係じゃ、監督の村瀬修功インタビュウとチーフプロデューサーの山本幸治インタビュウが、製作現場の修羅場を生々しく伝えてる。興行収入の数字やスタジオでカチあった作品名が具体的に出てきて、「おお、アレか」と思ったり。

 韓松「セキュリティ・チェック」幹瑤子訳。近未来のアメリカ。ニューヨーク市内のあらゆる所に地下鉄駅があり、入り口では厳密なセキュリティ・チェックを受ける。増える凶悪事件に対応するため、徹底的な警備体制が取られたのだ。だが、そのセキュリティ・チェックを素通りした女がいる、との噂が…

 現代日本でも監視カメラが増えているし、空港でのチェックも厳しくなる一方だ。そういう自由と安全のトレードオフを扱った話かと思ったら、後半はアサッテの方向にスッ飛んでいった。

 セス・ディキンスン「力の経済」金子浩訳。レイドが子供のころ、ルームの侵略が始まった。人にとりつき、惑星を乗っ取る、そう言われている。ルームを阻止するため、人はドローンを飛ばす。人を監視し、ルームを見つけ、ミサイルで片づける。すべて自動だ。

 今のパソコンでも、意味不明な挙動はいっぱいあって、それに惑わされる事もしばしば。ブラウザで怪しげなサイトを開くと、アレなプログラムがセキュリティ・ソフトと暗闘を繰り広げ、画面が凍ったり。アレなサイトが見れないぐらいはたいした事ないけど、暮らしの中に入ってきたら…

 デイヴィッド・エリック・ネルスン「新入りは定時に帰れない」鈴木潤訳。ポータル。過去と現在をつなぐトンネル。某企業は、これの巧い使い方を思いつく。現代人は賃金が高い。なら過去から労働者を連れてくればいい。人事のテイラーは、新人のディークを連れ、今日もオリエンテーリングに勤しむ。

 タイムトラベル物の話はたくさんあるけど、この発想はなかったw にしてもテイラー、あらくれを前にしてきわどいジョークとは無謀なやっちゃ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第13回。ハンターによる均一化は、ひそかに、だが着々と、思いもよらぬ規模で進んでいた。しかし、ハンターの狙いは、もっと大きい。そのカギを握るのは弁護士事務所フラワー・カンパニーの所長マーヴィン・フラワーと、その用心棒ダンバー・アンバーコーン。

 今回の目玉はコーンことダンバー・アンバーコーン。フリーランスのエンハンサーで、今はフラワーの警護を請け負っている。性格はともかく、稼ぎ方はまっとうだよね。まあ雇い主によるけど。

 山本弘「プラスチックの恋人」。オルタマシン、ハイテクにより実現したロボットのダッチワイフ。いささか値が張るため、専用施設で時間貸しされる。その未成年形態は、日本でサービスを始めた。ただしボディ形状は公開されていない。これには法的な問題があり…

 表現規制問題を風刺した作品かな、と思ったが、なかなかどうして。ヒトの認識や施設運用の工夫などは、著者らしく充分に消化してる。施設で運用ってのも理にかなってるし。特に舞台裏である10階の描写は、なまじリアルっぽいだけに、妙におかしかったり。とまれ、この著者だけに、どんな球を隠してるのか、楽しみ。

 上遠野浩平「交換人間は平静を欠く」前編。出資者を探しに出たパーティーで、カミンスキイ博士は妙な男に絡まれる。ミナト・ローバイと名乗る男は語った。「世界は交換で成り立っている」と。それだけではない。「あなたの価値も知っている。ケチな社会心理学者のカミンスキイ博士ではなく…」

 「最強人間は機嫌が悪い」に続く、統和機構の例のシリーズ。そろそろシリーズ名をつけて欲しいなあ。この人の作品は他のシリーズの話と細かい所がつながってたりして、なかなか全貌が掴めないんだけど、嵌り込んだら泥沼なんだよね。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー」第一話 黒い四角形。兵頭健、博物館惑星の新人警備員。今日は絵画・工芸部門のイベント、「インタラクティブ・アートの世界」に出向いている。今回の目玉は楊偉の『glob+eal』『黒い四角形』と、ショーン・ルースの『いざ、楽園へ』。そのショーンは、楊偉を師と崇め…

 内気で引っ込み思案のショーンと、そのパトロンでやり手のマリオ・リッツォのコンビがいい。特にマリオ。名前から南欧系っぽい陽気で強引な印象があるんだが、やっぱりw 今度のシリーズは学芸員ではなく警備員が主人公。「芸術が何であるかもよくわからない」って悩みは多くの読者の共感を呼びそう。かくいう私もそうだけど。で、次の掲載は、いつ?

 宮沢伊織「異世界ピクニック ステーション・フェブラリー」。空魚と鳥子は新宿の居酒屋にいる。第二回裏世界遠征からの無事帰還を祝っての打ち上げだ。何やら店員の言葉が怪しいと思いつつ、とりあえず外に出て駅へと向かうが、夜の新宿にしてはどうもおかしい。

 ネットを漂う都市伝説をネタに怪しげな世界を描くこのシリーズ、今回のネタはきさらぎ駅(→ピクシブ百科事典)。体が馴染んだのか、空魚も鳥子も今回はすんなりと異世界にいけたようで、喜ばしい…わきゃないw そんな事態になっても連中の対応はアレで、それなりに鍛えられてるんだろうけど、やっぱり勝手が違い過ぎるよな。

 『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2』刊行記念 小川一水インタビュウ。なんと2018年に「導きの星」がアニメ化とか。あの可愛らしいスワリスに会えるのか。でも「天冥の標」完結編も2018年ってのは切ない。とまれ、数巻にまたがる大長編になりそうな雰囲気。

 友成純一の「人間廃業宣言」。今回は第49回シチェス・ファンタ・レポート。「釜山行き列車」は走る列車の中でゾンビと戦うって、「甲鉄城のカバネリ」かい!と思ったが、中身は全然違ったw イタリア映画 They Call Me Jeeg は、「鋼鉄ジーグ」のオマージュで、チンピラが無敵の力を手に入れ…ってお話。ジーグのファンには嬉しい作品だろうなあ。

 香山リカ「精神の中の物語」第26回 カジノ依存症の恐怖。いつもながら政治ネタで、ギャンブル依存症の話なんだが、これの対策が「一瞬たりともッヒマができないように」する事ってあたりが、アルコール依存症と同じで、依存症の対策ってみんな似たようなもんなんだなあ、と思ったり。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」247回 AIでかわるもの。AIが小説を書いたって話もあり、過去にウケた作品を分析して云々ってシステム、だいぶ昔にハーレクイン・ロマンスが実用化してたはず。ネタはDB化されてて、プログラムがネタを組み合わせて大筋を作り、人間が仕上げる、みたいな形だったかな? そういう需要もあるんです。いろんなジャンルの中で最も自動化が難しいのはギャグ物だと思うんだが、どうなんだろ?

 巽孝之「2016ワールドコン・レポート オズの国の一駅手前 第74回世界SF大会ミダメリコンⅡ日記」。「叛逆航路」が大ヒットしいたアン・レッキー、野尻抱介や小川一水も読んでいるとか。私がクローンで復活を望むのはバナナのグロスミッチェル…と思ったら、流通が少ないだけで滅びちゃいなかった。ああ、よかった。

 横田順彌「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇」第29回 大正末期のジュヴナイル小説4。今回はなんと野村胡堂。そう、あの銭形平次の野村胡堂。なんと彼が、少年向けの冒険小説で月へ行く小説を書いている。書ける人ってのは、なんでも書けるんだなあ。

 次号からはあの三雲岳斗が連載。よく原稿が取れたなあ。塩沢さん、何か弱みを握ったのか←をい

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2016年10月28日 (金)

SFマガジン2016年12月号

VR元年…?
それを12月に教えられても!!
  ――表紙

SFに求めるものは人間の頭をおかしくさせることだ。
  ――草野原々インタビュウ

 376頁の標準サイズ。特集は二つ。VR/AR,第4回ハヤカワSFコンテスト受賞作発表。だがVR/AR特集はいきなり表紙で台無しにw 小説はなんと豪華12本。

 まずはVR/AR特集として5本。柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」,ケン・リュウ「シミュラクラ」古沢嘉通訳,ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」大谷真弓訳,ジェフ・ヌーン「ノーレゾ」金子浩訳,ニック・ウルヴェン「あなたの代わりはいない」鳴庭真人訳。

 続いて第4回ハヤカワSFコンテストの優秀賞受賞作の抜粋が2本。黒石迩守「ヒュレーの海」,吉田エン「世界の終りの壁際で」。

 連載も2本。夢枕獏「小角の城」第41回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第12回。加えて読み切りが3本。谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊 前編」,上遠野浩平「最強人間は機嫌が悪い」,宮沢伊織「八尺様サバイバル」。

 柴田勝家「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」。中国南部の雲南省からベトナム・ラオスにかけて住む少数民族スー族は、生まれてすぐヘッドセットをつけ、VRの中で一生を送る。彼らが暮らすVR世界については秘儀とされ、外部の者には知りえない。

 文化人類学の論文の形を模して、ヘッドセットをつけたまま暮らす少数民族の社会と生活を描きだす。「ピダハン」や「コンゴ・ジャーニー」とかを読むと、現実の文化人類学のフィールドワークでも、調査対象の人々がモノゴトにどんな意味づけをしているかは、なかなかわかんなかったりする。私にとってはタダの列車でも、鉄っちゃんにはE235だったりするし。

 その柴田勝家による、「『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』体験記 星の光の向こう側」が熱い。というか暑苦しいw 年季の入ったプロデューサーでもある柴田勝家が震え泣き叫び、ついにはマシンの限界すら越えてしまう。ある意味、稀有なテスター(製品検査官)だよなあ。心置きなく楽しむには防音・防振設備の整った部屋が要るのかも。

 ゲーム・デザイナーで AR performance を手掛ける内田明理インタビュウ「ARがもたらす“一期一会”」。予め全部をプログラミングしてるのかと思ったら、そんなチャチなモンじゃなかった。曰く「簡単に言うと、人形浄瑠璃なんですよ」。一つのキャラクターを表情・身体・声・ダンスなど、チームで創り上げているとか。今でもCMなどで手だけのモデルさんがいるらしいが、そういう感じなんだろうか?

 ゼーガペインADBデザインディレクター ハタイケヒロユキ インタビュウ。SFを映像化すると、設定が変わる場合があるが、その事情を分かりやすく説明してくれる。「集団作業なので、全員がシェアできる視覚的表現にしないといけない」。チームみんなが理解できるようにしなきゃいけないわけ。

 ケン・リュウ「シミュラクラ」古沢嘉通訳。ポール・ラモリアはシミュラクラ技術を創り上げ、世界的な成功を治める。その時の対象人物について、姿かたちを完全に記録し、三次元的に再生できる。おまけに単なる記録ではない。だが、その技術が元で娘のアンナとは疎遠になってしまい…

 ポールとアンナへのインタビュウの形で進む。読み終えて冒頭に戻ると、別の仕掛けが見えて驚いた。さすが業師ケン・リュウ。娘のいるお父さんには、かなりキツい作品。

 ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」大谷真弓訳。赤ちゃんが寝ている合間に、ゲームを楽しむ妻。戦場にいる兵士となり、ミッションをこなす。そこに夫のジェイミーが帰ってきた。怒るどころか、ゴキゲンだ。これは彼のお気に入りのゲームで…

 忙しい子育ての合間に息抜きで戦闘ゲームを楽しむ奥様のプレイスタイルは、ゲームマニアなジェイミーと全く違い… 同じゲームでも人によりプレイスタイルはそれぞれ。高軌道幻想ガンパレード・マーチでも、仲人プレイなんてのを開拓した人がいる。こういう発想の豊かさは凄いな、と感心したり。

 ジェフ・ヌーン「ノーレゾ」金子浩訳。金持ちは高解像度の視覚を得て、貧乏人は低解像度な上にウザいポップアップ広告に悩まされる世界。トムはバイクに7台のカメラを積み世界を映す仕事で稼いでる。仕事中は高解像度の視覚を得るが…

 狭いモニタで苦労しつつブログの記事を書いてる身としては、とっても身につまされる作品。質の低い回線で Youtube の動画を見る時のように、カクカクとコマ落ちした感じで現実を認識する感覚を、独特の文体で巧く表している。

 ニック・ウルヴェン「あなたの代わりはいない」鳴庭真人訳。パーティからパーティへと飛び回り、多くの人びとと出会うが、大半の人とは二度と出会うことはない。そんな日々を過ごすクレアが、そのパーティで出会ったバイロンは何かが違った。

 優雅で贅沢、でもどこかチグハグ。物語は仮想現実の世界で、登場人物はそのキャラクターらしい。おまけに、彼らはうっすらとソレを自覚している。ちょっと飛浩隆のグラン・ヴァカンスを思わせる設定。美味しいものが食べられないのは哀しいが、そもそも彼らは「食べる」って感覚がないんだよなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第12回。バロットのパーティは終わり、再び任務へと戻るイースター・オフィス。市会議員のモーモントと共に、ヴィクトル・ベルトコン市長への陳情に向かう。その頃、ハンターらは新たな一手を打ちつつあった。

 各登場人物の陰険さが楽しい回。静かに主導権を争うブルーとイースター、市政でのポジションをめぐるモーモントとベルトコン。そして後半はやはりハンターらクインテットが着々と駒を進めてゆく。今回のラストは実に衝撃的で絶望的。ここまで見事だと、ハンターを応援したくなるw

 谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊 前編」。航空宇宙軍大学校に在学中から、第二次外惑星動乱の危険に気づき、論文で警告を発してきた早乙女大尉。大学課程修了後は閑職に回されたが、外惑星連合の奇襲攻撃で事情が変わり、特務艦イカロス42の艦長として転勤となり…

 参謀本部へと向かう出世街道からヨレてしまった、元エリートの早乙女大尉。調査・分析などのペーパーワークを得意としてきた彼が、いきなり最前線に突っ込まれる話。ガチガチの石頭かと思ったが、意外と順応性は高いあたりは、さすが元エリート。にしても特務艦って所が怪しさプンプンでw

 上遠野浩平「最強人間は機嫌が悪い」。世界中のVIPが集まったサミット会場が占拠された。立てこもったのは“最強人間”。その要求に応えるため、製造人間ウトセラ・ムビョウはカレイドスコープと共に会場に向かうが…

 ブギーポップ世界に連なる作品。著者らしい、意地悪いながらも妙に脱力した会話が楽しめる作品。なんたって相手は“最強人間”。ハッキリ言ってバトルじゃ無能なムビョウが、口先三寸で“最強人間”をかわす…ってのとは、ちょっと違うような。

 宮沢伊織「八尺様サバイバル」。先の“くねくね”騒動で、空魚と鳥子の身体に異変が起きた。原因を探り対策をたてるために、二人は再び裏世界へと向かう。今度は空魚も充分に装備を整え、例の枠組みだけのビルに出た。周囲を探索して見つけたのは…

 ネット上の都市伝説を取り入れて奇妙な世界を描く裏世界ピクニック・シリーズ、今回のネタは八尺様。ちょっと調べたところ、なんでも「検索してはいけない単語」だそうで。それ先に教えてくれよw それより空魚と鳥子の関係が気になる第二回だったw

 黒石迩守「ヒュレーの海」。地表は“混沌(ケイオス)”が滅ぼした。人類は自己完結した幾つかの巨大都市に住む。豊かな者は地上都市に、貧しいものは地下都市に。地下都市のサルベージギルドに属する少女フィは、妙なネタを偶然に見つけ、仲良しの少年ヴェイに教えるが…

 活発な少女フィと、落ち着いた少年ヴェイってコンビは、涼宮ハルヒ以来の流れを汲んでるのかな? 舞台は映画ブレードランナー的な雑然とした地下都市の雰囲気。フィ、ヴェイ、二人を温かく見守るギルドの面々、そして師匠格のシドと、曰くありげな人物の紹介が巧い導入部。

 吉田エン「世界の終りの壁際で」。山手線に沿い巨大な壁ができ、富める者は壁の内側に住む未来。外で暮らす少年の片桐音也は、ゲーム<フラグメンツ>で稼いだ賞金をつぎ込み揃えた装備でクラス50に挑むが、敵は豊かな資金にモノをいわせ桁違いに強化していた。

 冒頭から派手なバトル・アクションが展開する、漫画化したらウケそうな作品。貧しい少年があり金はたいて揃えた装備が、金持ちの豪華な装備に一蹴される出だしから、少年漫画の王道な匂いが強く立ち上る。最近の傾向を考えると、掲載誌は少年ジャンプより少年チャンピオンの方が似合いそうな、熱気とイナタさを感じる。

 世界SF情報。ローカス・ベストセラーリストのハードカバーのトップが、なんとチャールズ・ストロス The Nightmare Stacks。「残虐行為記録保管所」のシリーズかな?最近、ストロスの本が出てないんだけど、なんとかなりませんか。

 鹿野司「サはサイエンスのサ オールドSFの洞察」。最近のネット上に見られる負の感情の噴出を、「イドの怪物」に例えているのは巧い。現実がそんなものなのか、ネットが増幅させているのか、どっちなんだろう?

 噂の草野原々「最後にして最初の矢澤」改め「最後にして最初のアイドル」は特別賞を受賞。近く電子書籍も出るとか。選評じゃ「素材はいいが粗削りすぎ」って雰囲気なんで、技術が身につけば化けそうな感じ。インタビュウじゃスティーヴン・バクスター,バリトン・J・ベイリー,クリス・ボイスなんて物騒な名前が次々と出てくるんで、今後に大いに期待しちゃうなあ。思いっきり暴走して欲しい。

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2016年8月30日 (火)

SFマガジン2016年10月号

夏目漱石もそうだが、事実を理解する能力と、その事実を受け入れる許容度の間には差が出るものだ。
  ――長山靖生「SFのある文学誌 第48回
   危険な洋書とショウの社会改良優生学 松村みね子の幻想世界3」

「話し合いが必要だな」僕は言った。
「なんで? あらゆることを徹底的に話し合わなくちゃいけないなんて法律でもあるの?」
「“door”って単語が、僕らの部屋のど真ん中に浮いてるんだぞ。話し合いは必要ないって?」
  ――チャールズ・ユウ「Open」円城塔訳

 376頁の標準サイズ。特集は三つ。最初は堺三保監修の「海外SFドラマ特集」。次に丸屋九兵衛監修の「『スタートレック』50周年記念特集。最後に小川隆監修で「ケリー・リンク以降 不思議を描く作家たち」。

 小説は豪華9本。連載は夢枕獏「小角の城」第40回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第11回。読み切りは梶尾真治「七千六日の少女」,草上仁「宝はこの地図」,ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」後編は酒井昭伸訳に加え、 「ケリー・リンク以降」特集としてチャールズ・ユウ「Open」円城塔訳,ユーン・ハリー「弓弦をはずして」小川隆訳,メガン・マキャロン「魔法使いの家」鈴木潤訳,ジュリア・エリオット「ワイルド家の人たち」小川隆訳。

 ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」後編、酒井昭伸訳。魔界学者シュルーはバンデローズの鼻を手に入れ、ミアマゾンを統べるダーウェ・コレムとマウツのメイヴォルトを伴い、飛空ガレオン船で第二の<究極の図書館>を目指す。

 元船乗りのジャック・ヴァンスへの敬意なのか、飛空ガレオン船での長い航天の描写が見事。特に中間点通過の宴、元ネタは赤道祭だと思うんだが、昔はこういう旅が当たり前だったんだろうなあ。ヒュエ教授が意外と芸達者だったり。

 続く「浅倉ヴァンス爆誕」酒井昭伸は、ジャック・ヴァンスの「竜を駆る種族」の訳をネタに、浅倉久志を偲ぶコラム。海外作品を読む際に、普通にスラスラ読めるって、実は凄い事なんだよなあ、と気づかされる。

 コンピュータ・ソフトでも、マニュアルを読まず自然に使えるモノって、実は大変な工夫が凝らされてるように、ラクに読める文章ってのは、書く側がとても気を使っているのだ。これが小説の翻訳となると、原文の香りも残さにゃならんので…

 梶尾真治「七千六日の少女」。星雲賞受賞記念に、怨讐星域の書き下ろし特別編にして、「76分間の少女」完結編。ノアズ・アーク号は<約束の地>に辿りつくが、直前に船体が崩壊、ジョナ・ハリスンは脱出ポッドでかろうじて着水したが…

 描かれなかった「76分間の少女」に決着をつけるのに加え、本編では駆け足で描かれた、ノアズ・アーク乗員とニューエデン住民が寄り添ってゆく様子を、ジョナ・ハリスンを中心に描いてゆく。にしてもヨモギダ、それはあんまり… ま、いっか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第11回。ハンターを中心とするクインテットの引き起こす惨劇を、間近で見続けたウフコック。その苦しみの重さに彼の心が押しつぶされようとしている時、ウフコックの前に現れたのは…

 今までの激しいバトルや陰惨な暴力シーンとはガラリと変わり、ほのぼのとした風景が描かれる回。久しぶりに出番が回ってきたミラー&レザーのコンビが、意外な一面をのぞかせる。にしてもミラー、お前本気なのか?

 草上仁「宝はこの地図」。また誰か原稿を落とし←しつこい。植民星ディーツは独裁者サガミが支配している。砂漠に住む俺たちには、ときおり食料の配給が届く。ヘリがまくビラが、食料のありかを示すヒントだ。ただし早い者勝ち。出遅れたら食いっぱぐれ飢えて死ぬ。

 命を懸けたお宝争奪戦を、草上仁らしいひねったアイデア満載で描く作品。最近の作家なら、アクション連続の長編になるぐらい沢山のアイデアを、21頁にギッシリ詰めこんだ、とっても贅沢な作品。

 「ケリー・リンク以降 不思議を描く作家たち」特集。SFのスリップストリームを枕に、ミステリやロマンスなど他のジャンル小説でも起きたジャンル越境の動きを追ってゆく。ジャンル名は、いっそ昔ながらの幻想小説や奇想小説でもいい気がする。

 チャールズ・ユウ「Open」円城塔訳。珍しく僕が昼間から家に帰った日、そこにはとんでもないシロモノがあった。“door”って単語が、部屋の真ん中に浮かんでいる。そしてサマンサがソレを見つめている。やがて単語は…

 5頁の掌編。突然現れた単語をきっかけに、若いカップルの関係が変わってゆく。なんか恋愛小説みたいな仕掛けだが、中身はどうにもスッとぼけて唖然としちゃうお話。「演技で僕らしていた」って文が、今風ながら巧く雰囲気を伝えている。

 ユーン・ハリー「弓弦をはずして」小川隆訳。兵士たちに追われ、山からわれらの迷路にやってきた女。最初は互いの言葉も通じなかったが、少しづつ女ナンモリはわれらの中に馴染んでゆく。

 これも4頁の掌編。ギターやマンドリンなど、リュート族の楽器の元祖は、弓かもしれない。弦の半分あたりを押さえて引くと、開放時よりオクターブ高い、すなわち周波数が倍で波長が半分の音が出る…ってのは、関係あるような、ないような。

 メガン・マキャロン「魔法使いの家」鈴木潤訳。冗談で「魔法なら習ってもいいけど」なんてママに言ったせいで、わたしは魔法を習う羽目になった。魔法使いは痩せた背の高い白髪交じりの男。面接の結果は「来週また来い、シャベルを忘れずに」。

 どうも舞台は現代のアメリカで、主人公は女子高生。いきなり穴掘りってのも意表を突くが、与えられた課題「まだつながってない二つの場所をつなぐこと」の解決策が、コレってありなのかw

 ジュリア・エリオット「ワイルド家の人たち」小川隆訳。裏の家に越してきたワイルド家には、騒がしくて乱暴な八人兄弟がいた。いちばん上は頬髯をはやした17歳で、いつもは穴蔵にこもっているブライアン。わたしは彼に首ったけだった。

 女の子から見た男の子ってのは、こんなケッタイな生き物なんだろうなあ。うるさくて汚くて暴力的でせわしなく、悪趣味な上にどうしようもなく頭が悪く、変なものにこだわる。

 海外SFドラマ特集。ゲーム・オブ・スローンズが「予算もテレビドラマとしては最高額」ってのは凄い。よくゴーサインが出たなあ。にしてもアメリカは潤沢な予算でしっかりした映像を作れて羨ましい。Childhood's End―幼年期の終わり―には期待してたんだが、出来はムニャムニャらしいのが残念。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「時間流刑者は暇な午後に三葉虫を釣りにいく」。タイトルから元ネタはアレかと思ったら、やっぱり「ホークスビル収容所」だった。あのアンソロジー・シリーズ、復活して欲しいなあ、電子版でいいから。

 山本さをりの世界SF情報。2015年ローカス賞のSF長編部門は、アン・レッキーの Ancillary Mercy。そう、「叛逆航路」から始まる三部作の完結編。こりゃ期待しちゃうなあ。

 堺三保のアメリカン・ゴシップ、今回はサンディエゴ・コミコンの話。偽造チケットで潜り込もうとする輩がやたら多く、「去年は数万枚、偽造チケットが出たとか」ってのに驚き。組織的にチケットを偽造してる奴がいるんだろうか?

 丸屋九兵衛の「スター・トレックの50年間を5分で読め!」。最初のシリーズ「宇宙大作戦」が視聴率不振を理由に3シーズンで打ち切りになった後、再放送から盛り上がり始め、ファンの声に押され多くのシリーズにつながってゆく。これで気づいた。そうか、スタトレって、アメリカのガンダムなのか。

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2016年7月 6日 (水)

SFマガジン2016年8月号

時代は、書いた途端から作品を追い抜こうとしています。これは、SFが現実になる時代の現代小説なんだ、ということです。
  ――川端裕人×野田篤司 『青い海の宇宙港』を飛び立つまで

 376頁の標準サイズ。特集は「ハヤカワ・SF・シリーズ 総解説」。

 小説は7本。連載は夢枕獏「小角の城」第39回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第10回,川端裕人「青い海の宇宙港」最終回。読み切りは谷甲州「イカロス軌道」,伏見完「あるいは呼吸する墓標」,宮澤伊織「裏世界ピクニック」。加えてダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」前編は酒井昭伸訳。

 特集「ハヤカワ・SF・シリーズ 総解説」。いわゆる銀背ですね。

 ヴェルヌの「海底二万リーグ」なんてのも出してたのか。ルイス・パジェットの「ミュータント」は面白そう。映画「遊星からの物体X」で有名なジョン・W・キャンベル「影が行く」も読みたい。今は創元SF文庫のアンソロジーで読めるなあ。ヘンリイ・カットナー「ボロゴーヴはミムジイ」、表題作や「トオンキイ」の名前だけは聞いたことがあるんだが、手に入れるのは難しそう。

 高橋良平「ハヤカワ・SF・シリーズの歴史」。銀背ばかりでなく、日本でのSF出版黎明期の状況も大事な背景としてわかりやすくまとめてある。あまり顧みられないけど、都築道夫の貢献も大きいみたい。またSF用語を日本語に移し替えるのに苦労した模様。別の見方をすると、当時の訳者のセンスが今日のSF用語にも生きてるって事かな。

 川端裕人「青い海の宇宙港」ついに最終回。駆たちが島の者を巻き込み作り上げたロケットが、いよいよ打ち上げにまでこぎつけた。希実も萌奈美も、そして落ち着いたフリをしている周太も興奮を隠せない。駆の父母も、そして弟の潤も島にやってきた。そして始まるカウントダウン。

 今回も、打ち上げ前の準備の描写が、静電防止靴など細かい所まで具体的なのが迫力を増している。フィナーレだけあって、今までの登場人物が勢ぞろい。にしても、駆の母ちゃんの台詞が、いかにも母ちゃんらしいw 単にロケットだけでなく、川やガオウ、そして島の社会まで描き切った、この作者わしい気持ちのいい作品だった。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第10回。<ホスピタル>を奪おうと乗り込んだハンターに、奇怪な子供たちが襲い掛かる。そこに駆け付けた<クインテット>。

 今回は、エンハンサー同士のバトルで始まる。今までバラバラに動いていたメンバーが、再び終結する流れは、やっぱり盛り上がるなあ。対する異形の子どもたちの能力も、なかなか禍々しい。何かとハンターに執着するシルヴィアが可愛らしいい。均一化しても感情は消えないんだね。

 谷甲州「イカロス軌道」はお馴染みの新・航空宇宙軍史。土星の外側軌道で哨戒中の特設警備艦プロメテウス03は、早期警戒システムによる警報を受ける。重力波センサが、太陽系外縁を高速移動する重力波源をとらえたのだ。データを見ると、途方もなく巨大な航宙船が高速移動しているように見える。

 つい最近に観測されたばかりの重力波(国立天文台LIGOによる重力波直接検出について)なんてホットなネタを使いつつ、あまり信用できない観測機器とデータを基に、敵の思惑と動きを読もうとする、いわゆる「戦場の霧」(→Wikipedia)に立ち向かう軍人の話。僚艦との連携が期待できず、独自の判断・行動が求められる点では、潜水艦に似てるかも。

 伏見完「あるいは呼吸する墓標」。遠い未来。ヒトは体内に様々な医療ファームウェアを持ち、医学的恩恵を手に入れた。ファームウェアを管理するAReNAは、その代償としてヒトの大脳の計算力を得る。妹の未鳴は、砂漠で歩く死体を見た、という。補助筋肉の出力が100%なら、あんな歩き方になる、と。

 ヒトはAReNAに頼り、AReNAはヒトを頼る。読み終えて改めて考えると、互いが互いを支える共生関係のように思えるが、未鳴の語る「砂漠で歩く死体」の風景の印象が強烈で、救いようのない終末に向け静かに歩んでゆく物語のように感じてしまう。

 ダン・シモンズ「ウルフェント・バンデローズの指南鼻」前編、酒井昭伸訳。ジャック・ヴァンスの<滅びゆく地球>シリーズのトリビュート。このシリーズを読むのは初めて。遠い未来。太陽は赤く膨れ上がり、一日は伸びてゆく。災厄が降り続く地球で、魔法関係者は迫害される。究極の図書館を持つウルフェント・バンデローズの死を知った魔界学者シュルーは…

 翼妖ペルグレーン,<魔界>,徘徊性アーブなど、出てくる仕掛けはSFというよりファンタジイ。出てくる輩はみんな一癖も二癖もある曲者ばかりなのが、ヴァンスらしい。肝心の<究極の図書館>も、魔法により書物を読めるのは主のウルフェント・バンデローズだけ、という意地悪さ。いい根性してます。

 宮澤伊織「裏世界ピクニック」。19歳の女子大生、紙越空魚は、<裏側>の草原で死にそうになっていた。白いくねくねしたアレを見ると、気分が悪くなって力が抜けるのだ。そこに現れたのは、同じぐらいの年頃の娘、仁科鳥子。彼女の機転で危機は脱したものの…

 異界といっても馴染みのRPGの世界ではなく、異様で物騒なシロモノが潜んでいる危ない世界。くねくね(→Wikipedia)や異世界エレベーター(→Naverまとめ)を絡め、コミック風に物語が進む。仁科鳥子の正体など謎は多く、長いシリーズの冒頭みたいだなあ。諸星大二郎の「栞と紙魚子シリーズ」を思い浮かべた。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「世界の大河は頑固でときに幻想的に優しい」。メコン川のドンダイ漁がのんびりしているような、豪快なような。定置網みたいな感じなんだけど、この網の見張り役が引きこもりにピッタリの仕事。川のなかに建った二畳ほどの小屋に、12日間一人で籠りっぱなしで暮らすのだ。

 ジョン・ヴァーリーの「ブラックホール通過」とか、宇宙の彼方の観測基地などでたった一人で暮らす観測員の話はあるが、まさか地球上で似たような仕事があるとは。

 ≪蒲公英王朝期≫第一部刊行記念 ケン・リュウ・インタビュウ “シルクパンク”を描く。「短編は彫刻に似て、長編は建築に似る」ってのが、いい得て妙。中国とアメリカ両方の文化に触れた人だけに、「龍はドラゴンじゃないし火の鳥はフェニックスじゃない」と、アメリカ人の中で既に出来ちゃった中国のイメージを払拭する工夫を凝らしているとか。

 鳴庭真人のNOVEL&SHORT STORY REVIEW「戦略・戦術SF」、今回の目玉はアンドリュー・グローン「Empire of EVE」。2003年に始まったオンライン・ゲームの EVE での抗争を物語風にまとめたノンフィクション。EVE は星団内で暮らし、または徒党を組んで覇を競うゲーム。

 面白いのは、サーバ遅延も「潮や風向きのような自然現象」とプレイヤーが考えてる点。「これを考慮に入れない作戦指揮官は無能とされてしまう」。もう完全に世界に入り込んでるなあ。しかも徒党の指導者が銀英伝でいう「トリューニヒトやオーベルシュタインばかり」ってのがw

 鹿野司「サはサイエンスのサ」。今回は珍しくベーシック・インカム(→Wikipedia)の話。これが最新テクノロジーと何の関係があるかというと、AIが絡んでくる。自動車が自動運転できればタクシーの運ちゃんが仕事を失うように、情報技術が進めば職が減り貧富の差が大きくなる。これを防ぐ方法の一つがベーシック・インカムだろう、と。

 今の所AIは「碁に勝つ」とか「自動車を運転する」とかの比較的にハッキリした狭い目的にしか対応してないし、日本でも自動販売機の発達が店員さんの職を奪ったかというと意外とそうでもないんで、暫くは大きな影響はなさそうだけど、先の事はわからないからなあ。

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2016年4月29日 (金)

SFマガジン2016年6月号

 鏡の中に現在を見ることはできない。光にも速度があるので、鏡像は過去である。
  ――早瀬耕「月の合わせ鏡」

「井出、人類が触れてはいけない領域などないのだよ」
  ――小林泰三「ウルトラマンF」

 376頁の標準サイズ。特集は前回のデビット・ボウイに続くミュージシャンを取り上げ、「やくしまるえつこのSF世界」として、作品レビュウやイラスト,短編小説など。

 小説は10本。まず連載は連載の夢枕獏「小角の城」第38回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第9回,小林泰三「ウルトラマンF」最終回,川端裕人「青い海の宇宙港」第9回。

 加えてやくしまるえつこ特集のひとつとして北野勇作「ラジオ温泉ユートピア」。単発は早瀬耕「月の合わせ鏡」,上遠野浩平「双極人間は同情を嫌う」,松永天馬「牡蠣の惑星」,トマス・オルディ・フーヴェルト「天地がひっくり返った日」鈴木潤訳,アリエット・ドボダール「失踪した旭涯(しゅうや)人花嫁の謎」小川隆訳。

 特集「やくしまるえつこのSF世界」。囁くような声なので、ライブじゃ苦労するかも…と思ったら、とんでもない。「ミスパラレルワールド」をかけながら、隣の部屋に行った時、奇妙な事に気づいた。スピーカーから数メートル離れるとギターやドラムの音は聞こえないのに、彼女の歌声はキッチリ聞こえる。不思議な声だ。

 北野勇作「ラジオ温泉ユートピア」。辺境の出張所にいる時に、折悪く会社が倒産してしまった。幸いにしてすぐ次の仕事にありつけた。「勤務とは名ばかりで寝ていればいいだけで給料はヒト並みの簡単なお仕事です」。そんな美味い話があるのかと思ったら…

 やくしまるえつこ&北野勇作って組み合わせが謎すぎるが、いずれもどっか正体不明な所があるのが共通しているのかも。相変わらずゆらゆらふわふわな風景が続く芸風で、「いつもの北野勇作か」と思ってたら、そういうオチかw

 早瀬耕「月の合わせ鏡」。もし月に鏡があったら、そこに映るのはいつの自分だろう? そんな事を思いついたのが、この実験の始まりだった。実験の費用をひねり出すため、同じフロアの南雲教授を訪ねる。モニタと小型ビデオカメラはすぐに来たが、肝心のコンピュータ本体は、なんと80年代に作られた有機素子コンピュータだという。

 デビュー作「グリフォンズ・ガーデン」,短編「有機素子板の中」に続く、有機素子コンピュータのシリーズ。ローブナー賞(→Wikipedia)なんてマニアックなネタが楽しい。にしても、この有機素子コンピュータのメモリ・システムは、なかなか魅力的かも。コンパイラをどう作るのか、とか下世話な事を考えると頭が痛くなるけど。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第9回。ロケットは次第に形をなしてきた。今までのんびりしてた加瀬さんも、張り切って楽しそうだ。他の大人たちも本気になっている。でも、滞ってる所もある。肝心のセイルが巧くうかない。希美と萌奈美が体育館で悪戦苦闘しているんだけど…

 冒頭のロケットの配管の動作確認から迫真感たっぷり。かなり綿密に取材したんだろうなあ。セイルを広げるのも、簡単なようで、迅速かつ確実に広げるのは難しそう。にしても、燃料の重さを面積で換算するおやじには感服した。こういう風に、別の何かの別の単位に換算しようって発想には、いつも驚かされる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第9回。ハンターは<ストレッチャー>を倒し、<ホスピタル>を捕えた。だが、邪魔者は<ストレッチャー>だけではなかった。<天使たち(エンジェルス)>。異様な風体の面々が、動物じみた声を上げながらやってくる。

 落ちぶれ果てたかに見えたハンターの一味クインテットが、逆襲に転じる回。ここ数回の連載はずっとクインテット視点のためか、読んでるこっちもクインテットを応援したくなってくる。肝心のウフコックはほとんど動かないし。にしても、論理的なエリクソンと軽口が止まらないラスティのコンビは見事なミスマッチw

 小林泰三「ウルトラマンF」最終回。暴れまわる闇の巨人たちに、ウルトラマンは…

 最終回だけあって、展開は二転三転。やはり最終回らしくあのお方も登場し、思う存分に暴れまわってくれる。京阪神地域にお住いの読者は大喜びだろうなあ。しかも、ウルトラマンの正体にまで迫るオマケつき。

 上遠野浩平「双極人間は同情を嫌う」。学校からの帰り道、コノハ・ヒノオは視線を感じた。どうも遠くに見える病院らしき建物が怪しい。近づくと、その四階からヒノオを見ている者がいる。ヒノオと同じぐらいの年頃の少女だ。「あんた――あれでしょ、ウトセラのペットでしょ?」

 ブギーポップと同じ世界を舞台に、製造人間ウトセラ・ムビョウと無能人間コノハ・ヒノオを描くシリーズの第三弾。「幼女キター!」などと喜んでいたら、見事に肩すかしを食らった←あたりまえだ。まあ、この人の作品だし、素直な人が出てくるなんて期待する方が間違ってるw

 松永天馬「牡蠣の惑星」。わたしは秘密クラブで先生に出会った。新宿歌舞伎町一番街原子力発電所建設予定地の地下十三階。これから死のうとしているわたしを、先生はスカウトした。「実は僕は君の担任です。今日から君の通う学校を紹介します」

 「ガラス板をシコシコ」だの「PCに描かれた銀の林檎は毒林檎」だの、表現がいかにもこの著者らしい。でも流石に「時の魔法」はこれ(→Youtube)じゃないよなあ。

 トマス・オルディ・フーヴェルト「天地がひっくり返った日」鈴木潤訳。この二日間で、世界は二度もひっくり返った。一度目はきみがこう言った時。「あなたのせいじゃない。わたしが悪いの」。二度目は、カウチに横たわっていた時。天地がひっくり返ったんだ。人々は天井に叩きつけられ、屋外にいた人は空へと落ちていった。

 突然に重力の方向が逆転した世界で、フラれた彼女に金魚を届けようとする青年。終末感漂う世界なのに、主人公がまず考えるのは元恋人ってのが、ちと情けない…と思ったけど、元恋人を妻や娘に置き換えると、まっとうすぎて面白くないよね。

 それ以上に、逆転した世界の描写が圧倒的で、読み終えて暫くは三半規管の調子がおかしくなった。ここまで空間感覚が混乱したのは、クリストファー・プリーストの「逆転世界」とA・K・デュードニーの「プラニバース」以来。乗り物酔いする人は避けたほうがいいかも。

 アリエット・ドボダール「失踪した旭涯(しゅうや)人花嫁の謎」小川隆訳。今日の依頼人は品のいいご婦人だ。金欠の今、払いのいい仕事は歓迎だが、難物の匂いも漂う。依頼は失踪人調査。七日間も返ってこない娘を探してほしい、と。娘は16歳で、婚約者の所にもいっていない。誘拐防止用の追跡インプラントは空きビルに捨ててあった。

 別の歴史を辿った世界を舞台にした、ハードボイルド探偵物。北米西海岸は中国の明が征服し、中米のアステカは明から文明を仕入れてスペインを撃退し、白人の入植はロッキー山脈の東に留まった。世界観は独特だが、物語の形式はストレートなハードボイルド物で、ビンボなお尋ね者だがタフで狡猾な探偵ブルックスの追跡劇は、とっても読みやすい。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」。今回は、どうやって LIGO が重力波を検出し(→国立天文台の「LIGOによる重力波の直接検出について」)、それがノイズでなく重力波である事を確かめたのか、というお話。とんでもない精度で、よく検出できたなあと感心してしまう。どうやってノイズを取り除いたんだろ?

 長山靖生「SFのある文学誌」ベインのインド・ファンタジー 松村みね子の幻想世界1。英国生まれでインドのデカン・カレッジで歴史学教授を務めたフランシス・ウィリアム・ベインの作品を翻訳した松村みね子の紹介。ベイン氏、インドの古詩という触れ込みで作品を発表したが、実はインドの古典を下敷きにした創作だったって話で始まる。その芸風は…

インドラをはじめシュリー、ヴィシヌス、ラーダなど、お馴染みの神々(魔神、怪物)が登場する。その知識は正確なのだが、カオスの度合いが低く、筋立てが理性的で近代的なのである。

 なんて評されてる。カオス度が足りないんですな。逆に言えばカオスあってのインド…と思ったが、インドに限らず、神話や伝説の類って、原型はたいてい混乱してるんだよなあ。

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2016年3月 3日 (木)

SFマガジン2016年4月号

高橋良平「ジャンルというのは極北の傑作だけではいけないんですよ。小学生のためのジュヴナイルもあれば、中高生がいちばん面白がるライトノベルも、大学生が楽しむフィクションもある。だからSFのすべてを同じ物差しではかることなんてできないんですよ」
  ――「早川書房70周年記念カフェ」トークショー採録 ランキングで振り返るSF出版70年
    高橋良平×塩澤快浩

「これではない別の何か」「ここではない別の何か」を求める気持ちを抱きながらも、不安に戸惑う人々の背中をあと一押しするのは、しばしば「かつては○○だった」という物語(神話、偽史)なのだ。
  ――SFのある文学誌 第45回 ファンタスチカ・ジャポニカ 長山靖生

 376頁。特集は二つ。まず2015年の総まとめの「ベスト・オブ・ベスト2015」は、「このSFが読みたい!2016年版」の上位入賞者7人の読みきり作品を一挙掲載。次いで、なんとデヴィッド・ボウイ追悼特集。ミュージシャンの特集なんて初めてじゃなかろか。

 小説は豪華14本。

 特集2015年「ベスト・オブ・ベスト2015」から7本、円城塔「override」,ケン・リュウ「鳥蘇里羆(ウスリーひぐま)」古沢嘉通訳,牧野修「電波の武者」,パオロ・バチガルピ「熱帯夜」中原尚哉訳,谷甲州「スティクニー備蓄基地」,グレッグ・イーガン「七色覚」山岸真訳,倉田タカシ「二本の足で」。

 デヴィッド・ボウイ追悼特集も、ニール・ゲイマン「やせっぽちの真白き公爵の帰還」小川隆訳。連載は夢枕獏「小角の城」第37回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第8回,小林泰三「ウルトラマンF」第3回,川端裕人「青い海の宇宙港」第8回に加え、久しぶりの草上仁の読みきり「突撃、Eチーム」。新連載の酉島伝法「幻視百景」は、あの禍々しいイラストに小文をつけたもの。

 円城塔「override」。イーサン・ハフマンは、世界で初めて思考の壁を破った。それに付き合ったのは吉備正臣だ。光速は理論的に越えられない。だが音速は物理的な制限だし、越えられる。では、思考速度の制限はどっちなのか。

 スペースオペラの書き手は、独自の超光速航法を持っていなくちゃいけない、なんて話をどっかで聞いたが、これはその超光速航法が生まれる瞬間の物語…かと思ったら、やはり円城塔だった。 

ケン・リュウ「鳥蘇里羆(ウスリーひぐま)」古沢嘉通訳。1907年2月。機械馬を連れた五人の男が長白山脈の原生林へと分け入る。そこに鳥蘇里羆がいる。シベリアトラすら獲物とする、獰猛で巨大な羆だ。帝国陸軍は羆の軍事利用を望み、かつて羆に家族を奪われた中松教授を中心に、探検隊を派遣した。

 ドクター中松と伊藤四朗が満州で羆と戦うスチームパンク…ってのは冗談のような、そうでないような。舞台は「デルス・ウザラ」を思わせ、状況は「羆嵐」を思わせる、相変わらずトボけた雰囲気のわりに細かい芸が沢山仕込み、鮮やかなオチまでつけた、ケン・リュウらしい作品。才人だなあ。

 牧野修「電波の武者」。母が告げる。「電波の武者を集めなさい」。そしてルドルフは部屋を出た。電波の武者を探し出し、世界を救うために。そして最初に見つけたのは…

 久しぶりに牧野修を読んだが、今でも彼の作品を読むと頭がオカシクなる←ほめてます。特に終盤のバトルの場面は、体調が悪い時に読むとアッチの世界に引きずり込まれそうで怖い。にしても、「あ、あたためまそか」には笑った。ところでタイトルはT・REXの「電気の武者」と関係あるのかな?あの中じゃ Cosmic Dancer(→Youtube)が好きだなあ。

 パオロ・バチガルピ「熱帯夜」中原尚哉訳。ジャーナリストのルーシーは、水不足で滅びかけているフェニックスに留まり、取材を続ける。今はシャーリーンの仕事を手伝い、郊外に来たところだ。お目当ては、太陽光パネル。

 「神の水」のスピンオフで、ジャーナリストのルーシーが廃品回収業者のシャーリーンと親しくなる話。ポツポツと暗い穴が開く、フェニックスの夜景が印象に残る。

 谷甲州「スティクニー備蓄基地」。火星の衛星フォボス(→Wikipedia)の地底深く、航空宇宙軍が設けたスティクニー備蓄基地に勤務するのは、波佐間少尉とバルマ一曹のみ。近くの軌道上で突貫工事しているためか、最近は異様にデブリの衝突が多い。基地は地下深くにあるため危険はないが…

 めでたく復活した「航空宇宙軍史」に連なる作品で、視点は航空宇宙軍側。軌道上の衝突ってのは相対速度が凄まじくて、それだけにエネルギーも半端なく、危険極まりない。似たような問題は、高層ビル建築でもありそう。やはり土木の谷甲州らしく、「現場あわせ」なんて言葉にも思わずニヤリ。

 グレッグ・イーガン「七色覚」山岸真訳。12歳の誕生日に、従兄のショーンが<虹>アプリをくれた。視覚インプラントを改造し、赤・青・緑の光の三原色以外が見えるようになる。大人でもアプリを入れられるけど、視覚信号をを処理する脳が適応できるのは、若い者だけだ。

 光が赤・青・緑の三原色と言われるのは、ヒの目にある錐体細胞が三種類だから。現実に四種類の錐体細胞を持つ人もいるらしい(→Wikipedia)。一般向けのデジタル・カメラはRGBの三色だけに反応するけど、学術研究ではもっと多くの波長を捕らえるマルチスペクトル・カメラが活躍してる。そういう感覚を持つ人は、どんな世界を見てどんな人生を送るのか。 

 倉田タカシ「二本の足で」。21世紀なかばの日本は、多様な移民で多民族国家となる。ここ二週間ほど大学に顔を出さず、連絡も取れないキッスイを心配して、ゴスリムとダズルは集合住宅を訪れる。あっさりとドアは開き、明るい声が招き入れる。どころか、部屋の中からはにぎやかなざわめきが聞こえ…

 今でも捨て看板は珍しくないが、これが人型になって話しかけてきたら、そりゃウザいよね、などとユーモラスな状況で始まった話は、思わぬ深刻な未来の日本の社会を描き出したかと思ったら、唖然とするオチへと突進してゆく。確かにアレは、しばらくはそういう手に出るだろうし。終盤のスリリングな描写といい、この号では最も楽しめた作品。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第8回。バラバラに分かれた<クインテット>の8人のメンバーは、それぞれ異なる組織へ潜り込み、組織同士の対立を煽る工作を始める。その間、リーダーのハンターは三匹の犬だけを連れ、命からがら逃げ回っていた。

 前回に続き、<クインテット>が大活躍する話。手玉に取られるギャングたちが可愛そうになってくるから不思議だ。いやヤクの密売や売春や殺人とか、ロクでもない事ばっかやってる連中なんだけどw

 小林泰三「ウルトラマンF」第3回。富士明子は目覚めた。荒野にいる。そして目の前には巨人兵士が現れた。言葉をかける。「わたしは敵じゃないわ」。だが、出たのは地響きのような音だった。巨人兵は撃ってくる。あまり痛みはないが、この調子でダメージを受けたらマズい。

 今回は是非とも映像化を。冒頭だけでいいから←をい。何かと科学的には無理のある怪獣物に、怪しげな屁理屈をつけてどうにかするのも、この作品の楽しい所。ウルトラ・シリーズのお約束の三分間まで守ってくれるとは。

 川端裕人「青い海の宇宙港」第8回。ロケットの打ち上げに向け、宇宙探検隊は動き始める。周太は軌道計算に余念がない。希実と萌奈美は帆の畳み方を工夫している。他にもやる事は沢山あるが、それに頭が回るのは駆だけだ。仕方なく大人を巻き込むべくアチコチに相談するが…

 ジュブナイルのフリをしながら、出てくるネタの濃さはハンパないこの作品、もしかして笹本祐一への果たし状じゃないかと思えてきた。今回もロケット関係が充実しているのに加え、打ち上げ場近くの植生なんて細かいネタまで飛び出す。とことんマニアックなのに、小中学生でも楽しめそうな語り口の柔らかさが凄い。

 ニール・ゲイマン「やせっぽちの真白き公爵の帰還」小川隆訳。解説によると、タイトルはステイション・トゥ・ステイションの一節かた取ったもの。「彼」は何者で、何のために、どこから来たのか。それを夢想するファンタジイ。

 久しぶりの草上仁「突撃、Eチーム」。ヒトの遺伝子地図が完全に解明され、また生まれる前に子どもの遺伝病治療はおろか能力や性格までデザインできるようになった未来。ヒトは誰もが知的で善良になったが、まれに変わり者が生まれてくる。そんな世界で、おれたちEチームは特殊な能力を持っている。

 どう考えても「特攻野郎Aチーム」のパロディだが、どんな凄い能力を持っているのかと思ったら、そうきたかw そんな彼らの最大の脅威が、これまたw はい、いつものユーモラスでテンポのいい草上節です、はい。にしても、「早川書房の金庫には草上仁の未発表原稿が眠っている」って噂は本当だったんだ。

 Media Showcase/Drama 武井崇は、なんとあの「幼年期の終わり」が映像化されたそうな。ただし今は第一話のみの放送で、他の二作品と人気投票で競い、トップになったらシリーズ放送になるとか。制作はどうなってるんだろ?

 「早川書房70周年記念カフェ」トークショー採録 ランキングで振り返るSF出版70年 高橋良平×塩澤快浩。1960年の「国鉄が貨物で配送」って所にピクンときた。今はPDFで地域の印刷工場に送ってるのかな? 鉄道が国を一つにするってクリスティアン・ウォルマーの主張(「世界鉄道史」)を実感する所。

 NOVEL & SHORT STORY REVIEW 七瀬由惟、「今回は、デジタル技術で視覚や聴覚などの感覚が拡張された人類の姿を描いた作品」が中心。そういう技術が普及したら視覚障害者や聴覚障害者はいなくなるね。ジェフ・ヌーン「ピクセル・ゼロ」は金を出せば高解像度の視覚を得られる世界が舞台で、「ピクセルを稼ぐ」って表現が気に入った。

 サはサイエンスのサ 鹿野司。やはり病気で死にそうな目に合ってるってのに、入院して体中にセンサを張られてるのに「今は心電モニタは無線でデータを飛ばすので、コードが少なくていいね」とか、テクノロジー回りの観察に余念がないあたりは職業病かw 私も医者にかかると「お、いいMac使ってるな」とかマジマジと見ちゃうけど。

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2016年2月21日 (日)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2016年版」早川書房

TVドラマ化が決まったキム・スタンリー・ロビンスン『ブルー・マーズ』なども準備中。
  ――このSFを読んでほしい! 東京創元社

 信じるぞ、信じていいんだね?

 今年もやってきました、「SFが読みたい!」の季節が。2015年のSF関係出版の状況をおさらいし、SF初心者は「どこから手をつければいいか」を知り、マニアを気取りたい人は見逃していた国内外の注目SF作品をチェックできる、手軽な最新SFガイドとなるムック。2016年2月15日初版発行、ソフトカバー192頁。

 やはり目玉は「ベストSF2015 国内篇・海外篇」。

 国内篇だと、情けない事に私は今回のトップ3を全部読んでない。いやSFマガジン連載で読んでたのはあるけど。つか円城塔、ベスト10に2作もランクインって、暴れてるなあ。藤井太洋もベスト20に2作入ってる。円城塔が数学・哲学・芥川賞なのに対し、藤井太洋は工学・会計学・直木賞なんだよなあ。いやまだ直木賞は取ってないけど。

 ザッと見ると、ベテラン・中堅そして若手&新人が満遍なくランクインしていて、書き手の層の厚さを感じるのが嬉しい。ハヤカワのSFコンテストや創元SF短編賞とかの新人賞が増えたのに加え、NOVAなどアンソロジーで積極的に若手を発掘しているのに加え、上田岳弘みたくSF以外のフィールドから乱入してくる人がいたり、盛り上がってきたなあ。

 海外篇のトップは予想通り。読みやすいわ泣かせるわ驚かせるわと芸達者だしなあ。こっちは国書刊行会が荒らしまわってるのが凄い。お高いハードカバーな上にマニアックなセレクションなんだけど、年齢的に趣味がコアで懐に余裕のある人が多いのか。

 「ヤングアダルトSF繚乱の時代に 中の人、緊急対談!」は、早川書房の某氏と東京創元社の某氏+αによる、最近の海外の青少年向け作品の出版・翻訳状況のお話。「日本には一対一で対応する市場がない」ってのが、ちょっと気になる所。いわゆるライトノベルとは少し違うようで。これについて、

ティーンエイジャーが主人公になるけど、若い世代を描くには文化的背景が欠かせない。端的に言って、ブロムは日本と縁遠いわけですから。

 と、国による読者の生活環境や感覚の違いが、輸出入の難しさを作り出しているようで。音楽だとアイドル歌謡みたいな市場なのかな? AKB48やSMAPとかは海外進出が難しそうだし、逆にテイラー・スウィフトとかは日本じゃピンとこないっぽいし。けど「最初から異世界が舞台の作品だと、そこのねじれは緩和され」るのがSFのいい所だ、えっへん!

 「新訳&改訳版で、あの名作をもういちど」。かの問題作「宇宙の戦士」が内田昌之で蘇るのは嬉しいが、矢野節も捨てがたいんだよなあ。暴力の是非ばかりが注目される作品だけど、組織の中の能力と責任と役割りとか、別の意味で刺激的で生臭いネタを扱ってるって意味でも、かなりの問題作。

 あとシマックの「中継ステーション」も読み逃してたんで、是非読んでおきたい。シマックの「都市」はナメてたけど、とんでもない傑作でガツンとやられたんだよなあ。

 「世代別SF作家ガイド111」。まず磯部剛喜による田中芳樹の紹介がちょっと笑える。「銀英伝なんて語りつくされてるじゃん、今さら何を語れってんだよ」的な開き直りなんだろうか。ちょっとネットで漁れば絶賛の声は尽きないし、でもそれコピーしたらモノ書きとしての沽券に関わるし、みたいな苦悩の表れかしらん。

 あと、つかいまこと「世界の涯ての夏」の終盤への評価が「ほえ~」と思った所。正体不明って点じゃ<涯て>は<ジャム>みたいなモンだよなあ。なら、終盤だけを舞台に絶望的な戦いを挑む人類の姿を描いたら、それなりにエンタテイメントになるかも。

 紹介する作家の数が111と奇数で、1頁2作家のレイアウトのため、最後のコマが空白となってるけど、これは「最後のコマは読者がお好きな著者を紹介して埋めてね」的な編集部から読者への挑戦状なのかな?えっと、8ポイント26字×20行=520字。さて、誰を紹介しよう?

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2015年12月29日 (火)

SFマガジン2016年2月号

戦場に人間の出る幕はない。
  ――ジェイムズ・L・キャンビアス「契約義務」中原尚哉訳

「いやなことがあっても、これも話のネタになると思えば、やり過ごせちゃうんです」
  ――早瀬耕「有機素子版の中」

 376頁。今回の特集は三つ。まずは映画「スターウォーズ/フォースの覚醒」公開にあわせ、スターウォーズ特集。次もやはり映画「オデッセイ」公開にあわせ、「『オデッセイ』と火星SFの系譜」。そして冲方丁 PRESENTS 新人クリエイター発掘企画として、「冲方塾」小説部門マルドゥック・コース優秀作10編を掲載。

 小説は読みきりが2本、ジェイムズ・L・キャンビアス「契約義務」中原尚哉訳と、早瀬耕「有機素子版の中」に加え、連載が川端裕人「青い海の宇宙港」第7回,夢枕獏「小角の城」第36回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第7回,小林泰三「ウルトラマンF」第2回。

 スターウォーズ特集。堺三保のアメリカン・ゴシップ特別編では、ノベライズを手がけたSF作家をリストアップしてるんだが、中には「この人に書かせて大丈夫なんだろうか」と思うような人も。グレッグ・ベアは変な設定を持ち込みそうだし、テリー・ビッスンは田舎の片隅でのんびりしそうだし、K・W・ジーダーに至っては…

 ジェイムズ・L・キャンビアス「契約義務」中原尚哉訳。太陽系の惑星系に人類が進出した未来。ヤマダ大尉と六体のロボット兵機は、作戦開始に備え目覚め始めていた。目標はアンファ・ハビタット、直径1kmの巨大な球形をしている。金星を60度先行した軌道上にある。輸送船を装って接近したヤマダ大尉らは…

 現在でもドローンは自律的に航路を選べるし、シリアやアフガニスタンでは無人航空機が空を飛び偵察や攻撃を請け負っている。イージス艦やF-22ラプターなどは戦場の情報を多数の兵器で共有できる。この調子で宇宙用の兵器が進歩したら? なんて発想の作品。メカ視点の描写がクールで気持ちいいと感じる私は変態かもしれないw

 川端裕人「青い海の宇宙港」第7回。周太がもどってきた。駆たちが夏休みの話をすると、「ずりー!」と文句をいいっぱなし。久しぶりに宇宙探検隊の四人が周太の家、岩堂エアロスペースに集い、屋根の上で天体観察を始める。今日は、ハイタカ3の地球スイングバイの観察だ。

 今回は「計算」の話が面白かった。軌道脱出速度のように、ある程度は微分方程式で簡単に解ける問題と、三体問題に代表されるように、シュミレ-ションで近似的に解くしかない問題と。今使えるロケット・モーターの能力と、持ち上げる荷物の質量がわかれば、どんな軌道に投入できるかという工学的な問題が、綺麗に解が出るのに対し、宇宙に出た後の軌道という物理学的に解けそうな問題を、モンテカルロ法とニュートン法を組み合わせた泥臭い手法でやってるとは。

 小林泰三「ウルトラマンF」第2回。実験の事故に巻き込まれてしまった富士隊員は、隔離検査室に閉じ込められる。目覚めた富士隊員は大声で呼びかけるが、何の返事もない。体にはモニター用のケーブルが多数取り付けられている。それらを外して歩きだそうとするが…

 当時の怪獣物番組は勢いで作っているような所があって、真面目に考察するといろいろと困った点が出てきてしまうのは、「空想科学読本」でネタにされている。が、そこを何とか理屈をつけて辻褄を合わせようとする、この作品の姿勢が楽しめる回。体積と体重の問題も、思わず「そうくるか~」と唸ってしまった。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第7回。バロットは、自分の将来に向け前向きに歩き始めている。だが、同じ頃、ハンターも着々と計画を進めていた。新たに仲間に迎えた者たちも含め、メンバーに五段階のステージから成る計画を説明する。その第一段階は…

 マルドゥック市の裏社会に、突然出現した<クインテット>と、そのリーダーであるハンター。彼が何を望みどこを目指しているのか、その一端が明らかにされる回。沈みがちなイースター・オフィスに比べ、<クインテット>の描写は自信と希望に満ちているのが皮肉で、おもわずハンターを応援したくなるから困るw

 続く「冲方塾」小説部門優秀作10編は、マルドゥック・シリーズの二次創作を集めた特集。うち前の七編は真面目にシェアード・ワールドした作品なのに対し、後ろの三篇はメタがかかったもの。

 私が一番気に入ったのは坂堂功「マルドゥック・スラップスティック」。タイトル通り、阿呆なアイデアで突っ走るギャグ作品で、毒づくバロットに大笑いした。加えて、この作品独特の"/"で区切る文体も、「こう使うか~」と妙に納得w にしてもウフコック、何集めてんだw 続く渡馬直伸「マルドゥック・クランクイン! ―if―」も、「こう料理するかー!」と発想に感心。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」。「電気で生きる生命を発見」なんてニュースを元にしたコラム。この発見にも驚くが、電気生物が持つ「電極タンパクをもつ細菌はありふれて」いるってのも驚き。とすると、木星の大気中にもケッタイな生物がいるかもしれない。

 早瀬耕「有機素子版の中」。ぼく北上渉は、下関駅から釧路へと向かう寝台列車で、彼女と出会った。尾内佳奈は、左手の薬指に包帯をしている。バー・タイムの食堂車で相席となり、共に食事をしている時、思わぬ失言をしてしまう。「つまらない」

 「グリフォンズ・ガーデン」の後日譚。恋人たちの会話が独特だった「グリフォンズ・ガーデン」に、見事な設定を仕掛けた作品…と書いた時点で、既にネタバレしちゃってる気がする。にしても、日本で長距離の列車旅行をしようと思ったら、こういう特別なルートにしないと難しいのは、便利なような寂しいような。

 長山靖生 SFのある文学誌 第44回 『浮城物語』をめぐって 政治小説の終わりと近代文学のはじまり。明治の議会開催をきっかけとして、活発に出版された政治小説群に対し、坪内逍遥の「小説神髄」に端を発した純文学側の批判。こういう構図は直木賞vs芥川賞とかニューウェーヴvsLDGとか、アチコチで見られるんだよなあ。そもそも、創作物に一つの普遍的・絶対的な評価基準を当てはめようとするのが間違っていると私は思うんだが。

 鳴庭真人 NOVEL&SHORT STORY REVIEW 宇宙SF。「恒星間航行を扱った作品に贈られるカノープス賞」なんてのが始まったのか。楽しみだなあ。今回のネタの一つは、それにノミネートされたアレックス・シュヴァーツマン「アルカディアへの競争」 The Race for Arcadia、なんとロシア出身の作家。ついにロシアから本格的宇宙SFを書く作家が出てきた!

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