カテゴリー「書評:SF:小説以外」の89件の記事

2018年6月28日 (木)

SFマガジン2018年8月号

惑星ウェレルは奇妙なところだった――奇妙でない世界があるだろうか?
  ――アーシュラ・K・ル・グィン「赦しの日」小尾芙佐訳

わたしは名前をつけられないものを書いてしまうんです。
  ――アーシュラ・K・ル・グィン インタビュウ「名前のつけられないものを書く」
   聞き役:デイヴィッド・ストライトフェルド,幹瑤子訳

江戸川乱歩「大正期の探偵小説は明治期とは逆に、先ず一般文壇にその機運が動き、それに追従する形で専門の探偵小説が生まれて来たとみるべきであろう」
  ――長山靖生「SFのある文学誌」第59回
     <私の目は赤い薔薇>川端康成の新感覚・神秘・そして科学

「均一化(イコライズ)だ」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第21回

研究家というのは暇かどうかに関係なく、ただやりたいからというだけで研究対象を選んでしまうものではあった。
  ――瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 後編」

「どなたか炎上のご用命がありましたら(笑)」
  ――筒井康隆自作を語る 最終回 筒井康孝コレクション完結記念(後篇)

 376頁の標準サイズ。

 特集は「アーシュラ・K・ル・グィン追悼特集」。初訳中編に加え、インタビュウ・追悼エッセイ・主要作ガイドなど。

 小説は9本。まずは特集の「赦しの日」。次いで連載4本。夢枕獏「小角の城」第48回,椎名誠のニュートラル・コーナー「ナグルスの逃亡」,神林長平「先をゆくもの達」第4回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第21回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第4話 オパールと詐欺師」,上遠野浩平「悪魔人間は悼まない」,瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 後編」,倉田タカシ「うなぎロボ、海をゆく」。

 アーシュラ・K・ル・グィン「赦しの日」小尾芙佐訳。惑星ウェレルのガーターイー神聖王国は、惑星連合エクーメンへの加盟を望んでいるが、事実上は同じ惑星上の国家ヴォエ・デイオの従属国だ。そのガーターイーに、エクーメンから使節ソリーが来た。ソリーにはヴェオ・デイオから護衛官テーイェイオが派遣される。堅物で根っからの軍人。ウェレルには奴隷制度が残り、女は表に出ない。

 名手小尾芙佐の訳だぜラッキー、でも追悼特集だしなあ、と喜んでいいのか悲しむべきなのか、複雑な気持ち。ヴォエ・デイオとかテーイェイオとか、固有名詞の音感からル・グィンらしさが溢れてる。若く優秀で熱意に溢れ鼻っ柱の強い主人公ソリーは、コントリーザ・ライスを連想した。政治信条はだいぶ違うけど、なんかヒラリー・クリントンじゃないんだよなあ。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第4話 オパールと詐欺師」。8年前。化石ハンターのライオネル・ゴールドバーグから、変わった依頼があった。仔犬の乳歯をオパール化してくれ、と。新しいビジネスになるかも、とアフロディーテは引き受けた。が、問題はライオネルの相棒カスペル・キッケルトで…。

 あのデビアスが、遂に装飾用の合成ダイヤモンドを売り始める(→CNN)なんてニュースも入ってきて、タイミングはバッチリ。遺灰をダイヤモンドに、なんて商売もあるけど、オパール化は形がそのまま残るのが嬉しいんだろうなあ。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「ナグルスの逃亡」。イースト駅に、奇妙な者がやってきた。防護服の下にギラギラの宇宙服の男。大柄で、赤い髭に覆われている。迫力はあるが、第一声は「あっ、いや、どうもコンニチワ」。

 謎だらけだったパイプ型の二重惑星の秘密が、少しづつ明かされる回。視点も、今までのラクダを連れた「私」から移り、視野が広がってくる。にしてもカンガルーが飲み物を運ぶってのは、どうやってるんだろう?

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第21回。バロットの通う学校に、ハンターが訪ねてきた。ウフコックの事を探りにきたらしい。しばらく沈黙を続けた後、ハンターは尋ねる。「彼は果たして人間なのだろうか」。警戒しつつも、情報を得るべくバロットは策を巡らすが…

 マルドゥック・スクランブルのカジノのシーンも緊迫感が凄かった。この回も「ただの会話」なのに、その下で交わされている互いの手の読み合いが、バトル・シーンのような激しさと緊張感が漂ってる。次第に見えてくるハンターの目的も、この回のお楽しみ。今までの彼の行動で、単に権力を求めるだけではないと感てはいたが…

 上遠野浩平「悪魔人間は悼まない」。悪魔人間アララギ・レイカは、統和機構の任務で、製造人間ウトセラ・ムビョウの警護と雑務を勤めている。雑務の中には、無能人間コノハ・ヒノオの相手も含む。三年前、アララギ・レイカは攻撃能力を持ち、始末屋として働いていたが…

 ムビョウといいヒノオといい、変な人ばかりが出てくるこのシリーズ。理知的で知識も豊富ながら、やっぱり変なレイカさん。雰囲気、長門有希っぽいなあ。もちろん、能力も。料理の怖い所は、変なモノを混ぜちゃったら最後、全部やりなおしになる場合も多いこと。でも試してみたいw

 瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 後編」。コロニーのシャトルが、地球の沼樹海で墜落した。ウェイプスウィード事件の経験を買われたケンガセンは、再びヨルと組み、救助隊と現地住民の仲介にあたる。現地の者は、奥に得体のしれない物、ウィー・グー・マーが居る、と信じている。

 いきなりケンガセンの朴念仁ぶりに笑った。野生の能力w コロニーでも木星圏育ちのケンガセンと救助隊の面々、地球でも島嶼部出身のヨルと沼樹海の人々、それぞれの違いがよく書けてるなあ。果たしてウィー・グーマーの正体は? って、それは書籍版でのお楽しみ。いけず。

 神林長平「先をゆくもの達」第4回。マタゾウは、かつて地球の野生機械だった。今は火星にいて、ワコウにタムと呼ばれている。ワコウは、コマチの息子ハンゼ・アーナクの教師役として過ごしてきた。そして、ハンゼ・アーナクは地球へ旅立った。

 読み始めてしばらくは、ちょっとした眩暈の襲われた。ワコウとタムの関係が明らかになるにつれ、「おお、そういう事か!」と仕掛けが見え始める。そして改めて読み直すと、ちゃんと手がかりはあるんだよなあ。ものの見事にひっかかった。

 倉田タカシ「うなぎロボ、海をゆく」。海の底をゆく、うなぎロボット。もっとも、既にうなぎは絶滅してるけど。ほぼ自動制御で、大雑把な命令を伝えれば、細かい所は自ら判断して動き回る。今日は、沈んだ貨物船を見つけた。ここは大陸棚で、魚も多い。

 うなぎの絶滅が危惧されている現在、強烈な社会風刺ながら、トボけた筆致で説教臭さがきれいに消えてるのはさすが。タイミング的にも土用の丑の日が近いし。読んでいるとうなぎロボットが可愛くなるけど、なんじゃそりゃw

 筒井康隆自作を語る 最終回 筒井康孝コレクション完結記念(後篇)。ついに最終回。あの断筆宣言も、自ら語っているので注目。最近は出版社だけでなく、様々な業界でクレーマーが問題になってるけど、今でも事なかれ主義がはびこってるのはなんだかなあ…とか言いつつ、私も炎上を恐れて当たり障りのないネタしか書かなかったり。

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2018年4月30日 (月)

SFマガジン2018年6月号

(ヘイ、ルーン。ぶっとばしちゃいなよ)
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回

あらゆる異世界ものは、広義のファースト・コンタクトものと言えるのである!
  ――柿崎憲「SFファンに贈るWEB小説ガイド」

『生き物は、身近な環境にあるものをなんでも利用して生きていく』
  ――神林長平「先をゆくもの達」第3回

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ゲームSF大特集」。映画「レディ・プレイヤー1」を中心に、小説・インタビュウ・最新ゲームガイドなど。

 小説は豪華13本。まず「ゲームSF大特集」で読み切り4本。小川一水「プレイヤーズ・アンノウン・ストリーミン・グラウンド」,柴田勝家「姫日記」,クラベ・エスラ「超能力戦士ハリアーの意志」,廣江聡太朗(あでゆ)「ハイ・リプレイアビリティ」。

 連載は5本。夢枕獏「小角の城」第47回,椎名誠のニュートラル・コーナー「居酒屋会議」,神林長平「先をゆくもの達」第3回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回,藤井太洋「マン・カインド」第5回。

 読み切り&不定期掲載は4本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第3話 手回しオルガン」,早瀬耕「十二月の辞書」,瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 前編」,小川哲「ひとすじの光」。

 小川一水「プレイヤーズ・アンノウン・ストリーミン・グラウンド」。C-130H輸送機の後部ハッチから放り出された。パラグライダーを開いて島に降りる。降りるのは99人、生き残るのは一人。最初は丸腰。武器は自ら見つけるか、敵のを奪うか。そんなゲームを実況中継していたあたしは…

 同じ特集中の「読者に薦めるゲームガイド2018」によると、ゲームのモデルは「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」だろう。次第に戦場が狭くなるって仕掛けは、とても優れていると思う。だって潜んで獲物を待つスナイパーも、否応なくアジトから叩き出されるので、プレイに動きが出るから。

 柴田勝家「姫日記」。日頃から『信長の野望』で鍛えた軍師の腕の見せ所だ。どんな弱小大名だろうと天下人にしてみせる。今回の主は毛利元就。だがなぜか三つ編みの眼鏡っ娘。まず毛利家当主としての立場を確たるものにして…

 ゲームの道は修羅の道。ちょっと見は似たようなゲームでも、同じ名前のパラメータが全く異なる働きをしたり、バランスが違ってたり。などと他のゲームで刷り込まれた思い込みを消していく過程も、新しいゲームに挑む楽しさの一つ。にしても、柴田勝家が毛利家に仕えていいのか?

 クラベ・エスラ「超能力戦士ハリアーの意志」。14歳のオランダ人少年は、1986年12月3日に横須賀生まれの日本人になった。人生を変えたのはドリームキャストのゲーム「シェンムー」。殺された父親の仇をとるため、俺は横須賀の街を走り回り…

 ゲーム内のキャラクターの行動ってのは、明らかに奇妙なもので。自由度が高くグラフィックがリアルなゲームほど、その奇妙さは目立ってしまう。特に会話は難しくて、NPCは予め設定した台詞しか喋ってくれない。将来は多少マシになるんだろうか。

 廣江聡太朗(あでゆ)「ハイ・リプレイアビリティ」。左の画面には“彼女”、右の画面には「彼女」。数日前、何者かが全世界の全ての家庭に一台の古いコンピュータを配った。ある事件を記録した現物のコピーだ。真相を突き止めると、莫大な報酬が手に入るらしい。

 大量に残された証言の動画を手掛かりに、事件の真相を突き止めようとする僕。下心まじりに、その手助けを頼んだ相手が「彼女」。「彼女」とのコミュニケーションは、テキストチャットのみ。今ならLINEになるのかな? こういう世界は流行り廃りが早いんで、小説家も大変だなあ。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第3話 手回しオルガン」。手回しオルガンで日銭を稼ぐ少年は、絵のモデルになった。絵は話題になり、少年も観光名物となったためか、多少は稼ぎも増えた。ただしメシのタネのオルガンには少し手が入り…

 オルガンってのはやたらとバリエーションの多い楽器で、建物に組み込まれたパイプオルガンから、肩にかけて持ち歩ける小型のものまで、実に様々。ここに登場するのは、屋台で曳くタイプだろう。高尚な雰囲気のアフロディーテながら、庶民的で親しみやすい一面を描く一編。オルガンの音を表すオノマトペが、とっても楽しい。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「居酒屋会議」。再び地表?に戻った私は、高原線路の終点イースト駅へと向かい、居酒屋に入った。幸い店はにぎわっていて、馴染みのメンバーが飲み食いしている。ばかりか、新顔も…

 読んだのが晩飯前のためか、オマール茶,ベニヒメスソハライのソテー,踊り豆のタカトントンなんてメニューが頭の中で暴れてしょうがない。特に踊り豆のタカトントン。どんな歯ごたえなんだろう。ムニムニって感じなんだろうか。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第20回。ついに合流したウフコックとバロット。お互い話したいことは山積みだが、今はそれどころじゃない。早くも敵の手が回ってきた。天井に広がる赤錆。クインテットのエンハンサー、ラスティの攻撃だ。

 お待ちかねウフコック&バロット大暴れの回。今回の事件では多くのメンバーを失ったイースターズ・オフィスだけど、バロットの能力は飛びぬけている上に、ウフコックとの相性も抜群にいい。ただ、ウフコックはそれを素直に喜べないだろうなあ。

 小川哲「ひとすじの光」。執筆支援AI「Leibniz」。ヒトはシナリオに必要な設定をする。AIは原稿を吐き出す。その原稿にヒトが赤を入れる。僕はLeibnizでゲームのシナリオを作り、二つの会社に勤めた後、独立して小説を書き始めた。

 これを読む直前、スペシャルウィークの訃報が流れた(→JRA)。打ち切りになった小説の続編が読めるのは嬉しいなあ。ガンパレも「未来へ 4」を無かったことにしてブツブツ…。疑問があると、とりあえず調べちゃうのは学者の性なんだろうか。血統の記録がよく残っている競走馬ならではの作品。

 瀬尾つかさ「沼樹海のウィー・グー・マー 前編」。ウェイプスウィイード事件から二年。事件の影響で、ヨルは生まれ育った島を出され、もっと広い島の全寮制学校に進んだ。ケンガセンは食い詰めている。上司の大学教授が失脚し、そのあおりで大学を叩きだされ、住処も失う。そこに仕事の話が舞い込み…

 ヨルとゲンガセンに再び会えたのも嬉しいが、それ以上に、六年を経てハヤカワ文庫JAより書籍化ってニュースが嬉しい。さてお話は。現地住民との関係がややこしい所にコロニーの有人船が落ち、再びヨルとゲンガセンが調査、というより調停に赴くことに。両名共にハグレ者だけに、どんな展開を見せてくれるか楽しみ。

 早瀬耕「十二月の辞書」。既に書籍化された「プラネタリウムの外側」の番外編。高校三年の秋、南雲薫はガールフレンドの「母の昔の恋人」に紹介された。その男は、彼女に別宅を遺した。別宅には彼女のポートレイトがある、と言うのだが…

 舞台は函館。しかも海が見える高台にある別宅って、美味しい海鮮が食べ放題じゃないか…と思ったが、北海道の人には美味しい魚介類なんか当たり前すぎて、あまり有り難くないのかも。いやそういう話じゃ全くないんだけど。

 神林長平「先をゆくもの達」第3回。ナミブ・コマチが生んだ火星で初めての男子ハンゼ・アーナクが、地球に来て60年になる。一人で暮らすハンゼを、カリンが訪ねてきた。火星に向かった若生の姪だという。

 いきなり60年も時代が進むのに驚いたが、雰囲気はのんびりしたもの。「トーチには、機嫌よく働いてもらいたい」って発想が、ケッタイなシロモノを祀りたがる精霊信仰や神道の感覚と似ているような。小難しい理屈を並べるよりも、感覚的にわかった気になるから面白い。

 藤井太洋「マン・カインド」第5回。戦死者の遺族を訪ねる旅を続ける迫田とレイチェル。次に向かうのは、ジャスパー・ジョーンズの両親、モーリスとミシェル。追ってコヴフェのトーマも加わる予定だ。ジャスパーの肌は白いが、両親の肌は黒い。

 新しいモノにい疎い老いた両親の目を通し、最新技術の原理と動作を説明するのは巧い工夫。コヴフェ台頭のきっかけはトランプvsヒラリーからヒントを得たんだろうけど、麻疹流行は現実の動きを読んだのか単なる偶然か。「赤いマフラーをなびかせて」ってのはアレのネタ? かと思えば tail コマンドとか、ほんと芸が細かい。

 「ゲームSF大特集」の記事、『レディ・プレイヤー1』監督スティーブン・スピルバーグ・インタビュウ。お相手は渡辺麻紀。よく記事が取れたなあ。コンテンツの自由度が高いと、ユーザを創作側が望む方向に誘導しにくくなる。これの両立は確かに難しい。その点、ドラゴンクエストの巧みさはよく話題になるなあ。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」性淘汰の逆転劇。19世紀には性淘汰って現象が全く受け入れられなかったってのも驚きだが、その理由もなんともはや。ヒトの思い込みってのは、相当に強いものなんだろう。そういえば、そろそろカラスの子育ての時期だなあ。

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2018年3月 2日 (金)

SFマガジン2018年4月号

わたしの名はフェランテ、軍艦百卒長(センチュリオン)771の指揮官を務めている。
  ――アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳

「今のような自動化による最適化が進んだ世界は、結局は元々抱えていたリソースの量で勝負が決まるためです」
  ――長谷敏司「1カップの世界」

「…何とかなると思う。オフィスの人たちと、それに、私とあなたなら」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」

 376頁の標準サイズ。

 特集は2本。まずベスト・オブ・ベスト2017として、「SFが読みたい! 2018年版」でベストSF2017の上位に選ばれた飛浩隆/小川哲/赤野工作/柞刈湯葉/アダム・ロバーツの短編を収録。次に『BEATLESS』&長谷敏司特集。

 小説は豪華14本。

 うち連載は5本。椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」,神林長平「先をゆくもの達」第2回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回,三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回,藤井太洋「マン・カインド」第4回。

 読み切り&不定期掲載は9本。

 ベスト・オブ・ベスト2017で5本、飛浩隆「『方霊船』始末」,小川哲「魔術師」,赤野工作「邪魔にもならない」,柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」,アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。

 『BEATLESS』&長谷敏司特集で1本、BEATLESSのスピンオフ長谷敏司「1カップの世界」。

 加えて待ってました菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」,上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」,エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。

 飛浩隆「『方霊船』始末」。ワンダ・フェアフーフェン、<轍>世界では知らぬ者のいない女傑。最近は公の場に顔を出さない彼女が語る、美鷺との出会い。それは名門私立の寄宿舎学校。ワンダに半年ほど遅れてやってきた美鷺は、まさしく「鳥頭」な風貌で…

 噂の大作「零號琴」のスピンオフ。いや読んでないけど。ワンダさん、雰囲気は星界シリーズのスポール様をガサツにした感じかなあ。ええトコのお嬢さんが集まる寄宿舎学校で起きる怪異って舞台設定は映画「サスペリア」みたいなホラーなんだけど、なにせ役者がワンダなんで、妙な安心感があったりw

 アダム・ロバーツ「9と11のあいだ」内田昌行訳。遠未来、人類は宇宙でトレフォイル族と戦っていた。人類の軍艦百卒長771とサムライ10は、トレフォイル族の手負いの超大型艦ET13-40に攻撃を仕掛けたが…

 似た部分も多いが、根本的に異なる点もあり、時として話が通じないエイリアンとの戦い。宇宙空間を舞台としたスペースオペラ…かと思ったら、バリトン・J・ベイリーばりのお馬鹿な発想が炸裂する、とっても愉快なお話。宇宙すごいw

 小川哲「魔術師」。師から授けられた、マジシャンの三つの禁忌。敢えてそれを破ることで、新しいマジックを生み出せるのではないか。そう考えたマジシャン竹村理道は、空前のマジックに挑む。

 掲載誌がSFマガジンかミステリ・マガジンかで解釈が違ってくる作品。私はミステリ・マガジン派で解釈した方が面白いと思う。なんたって、ウケるためには何でも犠牲にする芸人の業が伝わってくるし。それと、あの三つの禁忌って、文章書きにも使えそう。

 赤野工作「邪魔にもならない」。RTA、Real Time Attack。ゲームをクリアするまでの実際の時間を競うプレイ。途中の食事・トイレ・睡眠、すべてタイムに含む。病気の発作や自然災害でも、中断は許されない。これから私が挑むのはファミリーコンピュータの「スペランカー」。

 RTA とはだいぶ違うけど。私が大好きなガンパレード・マーチには、一年に一度しかできない、少し変わった遊び方があって。3月4日に始めて、毎日1日分だけ進めてセーブ。すると現実とゲームが同じ時間経過で話が進む。メーカーが用意した戦車兵・歩兵・司令・整備兵・靴下の他に、ファンが様々な遊び方を生み出し、中には仲人プレイなんてのもあり、ゲームは創造力で遊び方も広がると教えてくれた作品だった。

 柞刈湯葉「宇宙ラーメン重油味」。太陽系エッジワース・カイパーベルトにある時空間移動ポータル。トリパーチ星系行きの開門まで、地球時間であと1日ある。出張からトリパーチ星系に帰る部長と課長は、近くの「エキチカ」に「どんな星系の客でも対応できる」ラーメン屋があると聞き…

 部長と課長とかエキチカとかヤタイとか、命名センスが抜群。宇宙空間での調理の苦労など、細かい所へのこだわりも楽しい。かと思えば、多種多様なエイリアンの生態と、それに合わせた素材や調理用具・調理方法なども、なかなかの読みどころ。にしても、よく採算が取れるなあw

 長谷敏司「1カップの世界」。2027年、16歳の時に難病で冷凍睡眠に入り、未来の医療技術に望みを賭けたエリカ・バロウズ。目覚めたのは2104年。既に災害で血縁者は全滅した。残された信託財産は膨大で、退院後は財団の理事長となる予定だ。

 私たちに比較的に近い2027年の人間を、BEATLESS 世界に放り込むとどうなるかって発想が上手い。たいていの事は人間よりAIの方が巧みにやってしまう世界の違和感が、エリカの目を通してヒシヒシと伝わってくる。アナログ・ハックのバグも見事。

 エンミ・イタランタ「骨のカンテレを抱いて」古市真由美訳。相棒の予告通り、すぐに依頼人がやってきた。夫を喪ったH夫人は、貸し部屋の賃貸収入で暮らしていたが、店子が居つかない。どうも隣に住む小うるさい婦人が原因らしい。相談を受けたヨハン・Sとわたしは…

 貴重なフィンランドSF。解説によるとカンテレは「日本の琴にも似た多絃の民族楽器」とあるが、演奏法はバラエティに富んでいて、多様な音色を出せるみたい(→Youtube)。リズミカルだけど哀愁漂う音楽は、この物語の終幕で響く残響みたい。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「謎の周回飛行物体物」。ラクダの子宮に潜り旅するわたし。その惑星はパイプ型で、中にも内惑星があった。

 今回はガングリ酒のエピソードが好きだ。人間ってのは、どこに住んでも酒は造る生き物で、「アフリカが発展しないのはヤシ酒のせいだ」なんて話もあるぐらい。だもんで、ごれぐらいの執念をかける奴もいるだろうなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第19回。ウフコックの辛抱強い潜入捜査の成果が実を結び、また市の有力者たちの協力も得て、イースターズ・オフィスは<クィンテット>への攻撃に出る。しかし、この土壇場になって事態は急転し、乱戦模様となり…

 今回は派手なバトル・アクションが楽しめる。重戦車のごとくパワーと装甲で攻めるレザーも見物だが、単純な力押しでトレヴァーと張り合うラファエル・ネイルズもなかなか。そして、終盤ではついに…

 上遠野浩平「憎悪人間は怒らない」。合成人間を生み出す合成薬を作り出す製造人間、ウトセラ・ムビョウ。彼と同居するコノハ・ヒノオは、犬の散歩の途中で老人と出会う。ボンと名乗る老人は、公園のベンチに座っているだけなのに、鳩が集まってくる。ばかりか、ヒノオの犬も…

 改めて考えると、ブギーポップの時から、この人の描く特殊能力の持ち主って、とっても「ヒーロー」らしいくないのが多いよなあ。ブギーポップは自覚がないし、ウトセラは面倒くさそうだし、今回の憎悪人間も…。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」最終回。額に貼るだけで他人の記憶を体験できる疑憶素子メメントが普及した未来。メメント・アーティストの深菜は、脱法MEMの調査を頼まれる。かつての連続殺人鬼・朝来野唯の模倣犯の犯行記録が出回っているという。

 誰かが苦労して身に着けた技能をコピーできるってのは、やっぱり魅力だ。私としては是非パコ・デ・ルシアの…って、しつこいかw

 神林長平「先をゆくもの達」第2回。火星への使者に選ばれた若生は、月へ行くシャトルに乗っていた。生まれ育ったのは安曇野原。二度と地球には戻れない。だが、若生は淡々と受け入れる。なぜ若生が使者に選ばれたのか、説明はなかった。

 今回は地球の様子が語られる。言われてみれば、確かにあの作品に客室乗務員は要らないよなあ。にしても、マタゾウたちの生態は愉快というか楽しいと言うか。野良〇〇かあ。どうも地表の多くが水没してるらしいけど、ヒトはそれなりに平和にやっている様子。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー 第二話 お開きはまだ」。博物館惑星の新米警備員、兵頭健。今回の仕事は、若きミュージカル評論家として名高いアイリス・キャメロンの警護だ。『月と皇帝』の初演を見にきたアイリスには、脅迫状が届いていた。

 録画・録音と生ってのは、やっぱり色々と違ってて。音楽でも、70年代あたりまでのライブ盤は、演奏ミスもそのままはいってたけど、80年代あたりからは録音し直してたり。でもラジオ放送とかだと、ミスもそのまま流してて、なかなか貴重な音源になる。とは別に、マシンと人間の違いも重要なテーマ。

 藤井太洋「マン・カインド」第4回。ジャーナリスト迫田城兵は、軍事衝突の取材中、チェリー・イグナシオが捕虜を殺す場面を報じた。しかし、このスクープは事実確認プラットフォーム<コヴフェ>にガセネタと判断される。チェリーに頼まれ、犠牲者の遺族を訪ねる迫田は…

 トレッキーはやはり「ヘイ、コンピュータ」と呼びかけるんだろうか。「第二内戦」も読みたいなあ。同じ戦争でも南と北で視点が違うのは、言われてみれば当たり前だけど、今でもくすぶってるんだろうか。レナード・スキナードのライブじゃ、今でもサザン・クロスを振り回す奴がいるし。

 筒井康隆自作を語る 第6回 『虚人たち』『虚航船団』の時代。やっぱり『虚航船団』は発表当時に大騒ぎになったのか。そりゃなるよねえ。

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2018年2月15日 (木)

SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」早川書房

とくに影響を受けたのは『ポル・ポト ある悪夢の歴史』という九百ページ近い伝記で…
  ――『ゲームの王国』刊行記念イベント採録
   暴力の歴史から未来のゲームへ 小川哲×山形浩生×大森望

もともと文学は使えるものは何でも使うのであって、別にSFを手本にしたとかSFから刺激を受けたわけではない。しょせんは題材の問題にすぎず、(略)彼が目ざすテーマを表現する手段として、そうした道具立てを用いているだけだ。
  ――牧眞司 海外文学

誤った学説はイメージの宝庫であり、SF的想像力を刺激する。
  ――長山靖生 文芸ノンフィクション

社屋の破壊が定期的に観測される出版社です。度し難い。
  ――このSFを読んでほしい! 竹書房

 SFファンへの、ちょっと早いバレンタイン・プレゼント。

 やはり目玉は、昨年のSF関係出版物の人気投票、「ベストSF2017 国内篇/海外篇」。前回に続き今回も30位までを発表。

 加えて、ライトノベルSF/国内・海外ファンタジイ/国内・海外ホラー/国内・海外ミステリ/海外文学/文芸ノンフィクション/科学ノンフィクション/SFコミック/SF映画/SFアニメ/SFゲームなど、各ジャンルのお薦め作品ベスト10。

 更に「2018年のわたし」として、人気作家が今年の活動を予告するほか、各出版社もSF関連書籍の出版予定を知らせてくれる。あんましアテにならないけどw いや「ブルー・マーズ」が本当に出るとは思わなかった。もちろん私のイチオシです、はい。地味だけど星敬氏の「2017年度SF関連図書目録」も労作。

 ベストSFは、やっぱり見逃してたのが沢山あるなあ。赤野工作「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」とか松崎有理「5まで数える」とかG・ウィロー・ウィルソン「無限の書」とかオマル・エル=アッカド「アメリカン・ウォー」とか。

 この人気投票の特徴は、各投票者の投票内容トコメントまで発表している点。実はこれも侮れない鉱脈で。フランシス・ハーディング「嘘の木」とか藤原辰史「トラクターの世界史」とか、すんげえ気になる。にしても西村一は潔いなあw

 今回の特集っぽいのは、小川哲とクリストファー・プリースト。

 小川哲、やっぱし「ポル・ポト ある悪夢の歴史」を読んでたか。凄いよね、あれ。あとフランソワ・ポンショー「カンボジア・ゼロ年」も面白そう。クリストファー・プリーストはブックガイド。「逆転世界」は、読んだ後しばらく世界が歪んで見えたなあ。それぐらいイメージが強烈だった。

 出版予定では、アトリエサードのアルジス・バドリス「無頼の月」って、去年も…それとジョン・ブラナー「ザンジバーに立つ」は…いえ、なんでもないです。河出書房新社、谷甲州「星を創るものたち」の続編、期待してます。東京創元社、アン・レッキー「叛逆航路」シリーズはまだ続くのか!

 「九百個の零號琴」とか「んなぁ~」とか唸りつつ、今日はここまで。

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2017年12月31日 (日)

SFマガジン2018年2月号

われわれSFファンというのは、気に入った作品にすこしでもSF要素があると、すぐに“あれってSFだよな”といいだす困った人種なのである。
  ――酒井昭伸「ガルパン礼讃」

「こんなのフェアじゃない」ティモシーは不平をもらあし、玄関ドアにもたれかかった。「絶対にフェアじゃない。みんな、あれだけの目にあってきて、こんどはクリスマスがくるなんて……」
  ――スティーヴ・ベンスン「からっぽの贈りもの」中村融訳

「ここが我々の重大な分岐点となる」
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」

その手のいわば震災カルトたちはその後様々な道を歩んだが、彼の場合は精神世界に傾倒した結果、物質文明や科学技術を否定することを選んだ。ネットを活用して信者を集めていたにもかかわらず。
  ――澤村伊智「マリッジ・サバイバー」

21世紀以降、探査を目的とした単発の有人火星行はべつにして、人類は火星に三度地球人を送り込んで植民を図ったが、三度とも失敗した。
  ――神林長平「先をゆくもの達」

 376頁の標準サイズ。

 特集は豪華三本。オールタイム・ベストSF映画総解説PART3,「ガールズ&パンツァー」と戦車SF,アーサー・C・クラーク生誕100年記念特集。

 小説は9本+アーサー・C・クラークのショート・ショート2本。

 連載は5本。椎名誠「岩石回廊」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第18回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第6回,藤井太洋「マン・カインド」第3回,神林長平の新連載「先をゆくもの達」。

 読み切りは4本+ショート・ショート2本。まずガルパンもとい戦車SF特集の2本。ティモシー・J・ゴーン「サイバータンクVSメガジラス」酒井昭伸訳,スティーヴ・ベンスン「からっぽの贈りもの」中村融訳。次にクラーク生誕100年記念でアーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター「タイムをお願いします、紳士諸君」中村融訳。最後に澤村伊智「マリッジ・サバイバー」。

 オールタイム・ベストSF映画総解説PART3。銀河ヒッチハイク・ガイドなんて映画化されてたのか。高山羽根子が紹介するのはどれもマニアック。どっからネタを仕入れたんだか。

 「ガールズ&パンツァー」と戦車SF。「大嘘をついても小ウソをつくな」はまさしく正論。これはハードSFに限らず、あらゆる物語の原則でしょう。

 ティモシー・J・ゴーン「サイバータンクVSメガジラス」酒井昭伸訳。遠未来の某惑星。全幅30m全長60mの電脳戦車<オールド・ガイ>は、単独で警備と採掘監督の任務をこなしている。探索用プローブなども従えているが、それらは周辺機器であり、ここに居るのは自分だけ…

 なぜ戦車が自意識を持つのか、ちゃんと理屈をつけてるのが楽しい。出合い頭の戦闘で、危機を脱する手段、たぶんこれ実際の戦闘を参考にしてるんじゃないかな。第四次中東戦争のシナイ半島で、エジプト軍の対戦車ロケットに苦しんだイスラエル軍が編み出した方法に似てる(→ヨム・キプール戦争全史)。

スティーヴ・ベンスン「からっぽの贈りもの」中村融訳。大人たちが消えた街。生きているのは子供だけ。リーダーは12歳のティモシー。雪降る中、空腹を抱えながらもバケツで雪を運ぶ。4歳のアンジーが尋ねる。「サンタさんはまた来てくれるよね?」

 クリスマス・ストーリー。食糧が乏しい中、リーダーだからと黙って自分の食事を抜くティモシーが泣かせます。「こんなのフェアじゃない」と愚痴をこぼしつつ、幼い仲間たちのために奮闘するティモシーの前に現れたのは…

 椎名誠「岩石回廊」。惑星だと思っていたが、それはパイプ型の外殻惑星だった。実は中に内惑星があったのだ。わたしは外殻惑星の内側に沿って進む。ここでは、なぜか重力は惑星の外側に向かっている。

 「ラクダ」というからラクダだと思い込んでいたが、そういう事か。やたらタフな上に働き者だし、そういう目的には確かにあってるけど(→ラクダの文化史)。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第18回。長い雌伏の時は過ぎ、今日は作戦決行の日。ハンターらをブチ込む証拠は揃った。ウフコックの活躍によるものだ。そのウフコックは、ブルー&スティールと共にカジノへと向かう。だがそこには…

 物語序盤から不思議な存在感を示してきたあの方が、ついに本領を発揮する回。相変わらずマイペースだけどw 対するハンターは、思いもよらぬ作戦に出てくる。じっくりとハンター一味を書き込んできただけに、私もかなりハンターに肩入れしちゃってるんだよなあ。

 澤村伊智「マリッジ・サバイバー」。父親は幼い頃に家を出て行った。母親は新興宗教に入れ込み、新しいモノを拒む。俺はタブレットを与えられず、級友たちから取り残される感覚を味わった。18で家を出て職に就き、今は35歳だ。そろそろ結婚した方がいいと思い始め…

 何者だ、この作家。「コンピューターお義母さん」の「九十八円ぺたり」も凄いが、今回の「取り残されている」も、やたらと鋭い。いやホント、世間からズレた環境で育つと、常識的な感覚を身に着けるのにやたら苦労するんだよなあ。なんで著者はそれが判るんだろ?

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第6回。連続殺人犯の朝来野唯は、四年前に死体となって警察が確保した。朝来野の模倣犯を追う宵野深菜は、リギウス社CEO迫間の自宅を訪れる。他人の記憶を体験できる疑憶素子MEM、そして「神の記憶」とは…

 連載もこれだけ続き、衝撃の展開が繰り返されると、ネタバレを避けて紹介するのは難しい。今回の引きも、「おい、ここで続くかよっ!」と、思いっきり読者の気を引きまくる見事な幕の引き方。

 アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター「タイムをお願いします、紳士諸君」中村融訳。キングズ・カレッジの学生SFクラブのコンヴェンションは同窓会となり、ゲスト・オブ・オナーのベン・グレッグフォードを引き連れ、ハリー・パーヴィスを先頭に<白鹿亭>へ…

 でお分かりの通り、短編集「白鹿亭綺譚」を受けた作品。ベテランらしく、有名SF作家や作品を贅沢にクスグリに使いつつ、いかにも「白鹿亭」な香り高い皮肉なユーモアが漂う作品。ガジェットの扱いもクラークらしいが、最後のオチのキレもいい。

 同じクラーク特集で、中村融「知識の探求と美の想像 クラークがめざしたものについて」。科学解説書も書くSF作家というと、日本じゃアイザック・アシモフが有名だが、私はクラークの方が好きだ。アシモフは学者って感じなのに対し、クラークは油臭いエンジニアって雰囲気があって、そこが好きなんだよなあ。

 神林長平の新連載「先をゆくもの達」。舞台は未来の火星。ラムスタービルの人口は約120。機械が自動で建設し、管理・維持する環境だ。31歳のナミブ・コマチは幼いころから<全地球情報機械>に親しんだ。地球人が残していったものだ。

 皆さんお待ちかねロングピース印の火星物。人類はノイマン・マシンっぽい機械が建設した環境の中に住んでいる。というと、ちょうど先日読んだ「からだの一日」の腸内細菌を思い浮かべて、そんな感じの共生体なのかな、と思ったり。

 藤井太洋「マン・カインド」第3回。反乱軍の指揮者チェリー・イグナシオは、軍事企業<グッドフェローズ>の捕虜を殺した。それをスクープした迫田の記事は、デマと判断される。残虐行為をスッパ抜かれたチェリーは意外にも…

 相変わらずガジェットは細かい所まで目が行き届いた、この作家ならではのもの。銃や防弾ガラスなどの軍用装備はもちろん、貨幣・交通機関・通信・エンバーミング、そしてニュースの審議判定方法など、凝りに凝ってる。数の数え方とかも、国際派らしい見事な書き込み。

 鳴庭真人「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」巨大ロボット、発進! なんと巨大ロボット物を集めた書き下ろしアンソロジーが出てるとか。MECH: Age of Steel。鉄人28号の英語版なんてあるのか。

 山本さをり「世界SF情報」。エリック・コタニって、天文学者の近藤陽次だったのか。「彗星爆弾地球直撃す」も「小惑星諸島独立す」も大好きだった。続きが出るのを待ってたのに、結局出なかったなあ。

 大野典宏「サイバーカルチャートレンド」コンピューターギークの楽しみとストレス。チューリング・マシンの停止性問題とプログレス・バーの話。やっぱりアレはインチキだったのかw

 日下三蔵&筒井康隆「筒井康隆 自作を語る」第5回 『虚人たち』『虚構船団』の時代 前編。日本SF大賞設立の驚きの真相にビックリ。「同時代ゲーム」、面白そうだなあ。

 にしても、戦車SF特集で榊涼介の「ガンパレード・マーチ」シリーズがないのは何故だ。少年少女が戦車に乗る話だぞ。人型だけど。人型が駄目なら、「5121小隊の日常Ⅱ」収録の「Panzer Ladys」はどうだ。装輪式戦車士魂号L型が活躍するぞ。そもそも戦車は集団で使ってこそ本領を発揮する。その戦車の機動力と打撃力を活かしたフォーメーション・バトルが堪能できる稀有な作品だというのに。

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2017年10月30日 (月)

SFマガジン2017年12月号

だいたい、「拡散してください」とお願いするメッセージなんて、ろくでもないものと決まっている。
  ――山本弘「プラスチックの恋人」

おれか? スサノオって風来坊さ。
  ――草上仁「天岩戸」

 376頁の標準サイズ。

 特集は2本。「オールタイム・ベストSF映画総解説 PART2」として、1988年の「1999年の夏休み」から2004年の「ハウルの動く城」まで126作品を紹介。加えて「ブレードランナー2049」公開記念特集として、インタビュウやコラム。そしてブライアン・W・オールディス追悼。

 小説は7本。

 連載は3本。冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第17回,山本弘「プラスチックの恋人」第6回:最終回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第5回。

 読み切りは4本。谷甲州「新・航空宇宙軍史 ペルソナの影」,草上仁「天岩戸」,早瀬耕「忘却のワクチン」,そしてブライイアン・W・オールディス追悼として「花とロボット」小尾芙佐訳。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第17回。イースターズ・オフィスが中心となって始まった反撃は、ハンター率いる<クインテット>へ着実にダメージを与えてゆく。状況の変化に気づいた<クインテット>は、事態の把握に努めるが…

 イースターズ・オフィスとクインテットの距離が、ジリジリと詰まってゆく回。今まで丹念にクインテットの内部事情を描いてきたためか、私はクインテット側にも気持ちを持ってかれちゃってる。冒頭に出てくるバルーンにも、ちょっと切なくなっちゃったり。いまだハンターの本音が見えないのも気がかりだなあ。

 山本弘「プラスチックの恋人」第6回:最終回。未成年型のセックス用アンドロイド=オルタマシンは、激論を巻き起こした。体当たり取材で連載記事を書いた長谷部美里は、オルタマシンのミーフに心を惹かれつつ、単行本化に向けての作業に追いまくられている。そこにメッセージが届き…

 不満。すんげえ、不満。何が不満と言って、これで終わりってのが納得いかない。こんな面白い話が、連載たった6回なんて短すぎる。もっと読ませろ。黒マカロンだけでなく、ナッツ99や月光、小酒井譲、ミーフ、そしてもちろんインドーラちゃんも、もっと語って欲しい。加えて舐めダルマ親方みたいな人も出すつもりだったのか?それは是非読みたいぞ。

 などと、それぞれの立場の人が、何を考えどう動くかって点も面白かった。

 それと同じぐらいに、ネットワーク時代の討論の進み方を、巧いこと小説の形に落とし込んでるのもワクワクした。もっとも、誤字脱字の指摘などあげあし取りや単なる人格攻撃など、実際にはありがちなセコい手口はバッサリきり落としてるけど。

 だからこそ、登場人物たちが問題の真正面に向き合い、誠実に自分の考えを述べているあたりが、気持ちよかったのかも。なんにせよ、思いっきり大量に加筆しての書籍化を強く望む。にしても、あの名台詞をここでこう使うかw

 谷甲州「新・航空宇宙軍史 ペルソナの影」。開戦から二カ月。保澤准尉は、タイタン防衛艦隊ガニメデ派遣部隊所属だ。といっても隊員は准尉一人だが。彼は小惑星帯に潜む航空宇宙軍の艦船を捜索している。航空宇宙軍が提供する航路情報サービスは、開戦により使えない。そこで…

 「コロンビア・ゼロ」収録の「ギルガメッシュ要塞」「ガニメデ守備隊」から続く作品。今回も情報戦。とはいえ、舞台は太陽系だ。その広さを実感させられる描写が続く。最近の風潮を反映してか、別の次元での盛んな情報戦もチクリと皮肉ってたり。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第5回。他人の体験を追体験できる<メメント>の憶え手、宵野深菜。彼女に妙な依頼が来る。「かつての連続殺人鬼アサクノの模倣犯を追ってくれ」。アサクノを追う深菜は、模倣犯の目的をかぎあてる。「神の記憶」。それは…

 スプラッタ・シーンの多いこの作品、今回は冒頭からサービス全開。この手のお話じゃお約束とはいえ、やはり「芸術家」と呼ばれる人は、こういう役を割り振られるんだよなあw 

 ブライイアン・W・オールディス「花とロボット」小尾芙佐訳。新しい短編にとりかかった日。今日はカー夫妻とピクニックに行く予定だ。いつもなら作品の話なんかしないが、今回はマリオンのご宣託を伺おう。それはエイリアンとロボットの話で…

 SFというより、SF作家の日常を描いた掌編。つか単なるノロケって気もする。カーはテリー・カーかと思ったが、違うみたいだ。他にもJ・G・バラード,ポール・アンダースン,ハリイ・ハリスンなど、往年のファンには懐かしい名前がいっぱい。

 草上仁「天岩戸」。少しばかり名は売れてる流れ者のコンビ、スサノオとタヂ。ある村の木賃宿にいたところ、妙な依頼がやってきた。「うちの娘を、部屋から引っ張り出して欲しいんです」。余計者のおれたちに頼む仕事なんだから、どうせロクなモンじゃないだろうと思っていたら…

 天岩戸にスサノオとくればピンとくるように、皆さんご存知のあのお話をアレンジした作品。スサノオ,ダヂカラオ,オモイカネ,ウズメなどのオールスター・キャストに加え、定番のアイテムも取りそろえた上で、こうアレンジするかw

 早瀬耕「忘却のワクチン」。高校時代にできた、はじめてのガールフレンド。でも今は同じ大学に通っている、ただそれだけ。そんな彼女の困った写真が、ネットに流出してしまった。かつて彼女と通った植物園に足を向けると…

 「グリフォンズ・ガーデン」から続く、有機コンピュータ・シリーズの一作。問題を片づける南雲の手口、いろいろと応用できそうで怖い。

 オールタイム・ベストSF映画総解説 PART2。どの映画を紹介してるかに加え、誰が何を推してるかにも注目。なんとピーター・トライアスも寄稿してる。高野史緒のアレは順当として、北野勇作の怪獣愛溢れるレビュウもいい。また、高山羽根子の文体も独特でいい味出してる。しかし「ババ・ホ・テップ」が映像化されてるとは知らなかった。

 あれ?「マイク・ザ・ウィザード」(→Youtube)は?とっても楽しい底抜けお莫迦映画なのに。でもSFというよりSFX映画だしなあ。そういえば、前号も「ショート・サーキット」が出てなかったね。

 「ブレードランナー2049」公開記念特集。押井守インタビュウ「過去を否定して、未来を作り出すSF」が、たった1頁だけど読み応え十分。自らも映像作家だからこそ分かる、あの映像の秘訣を明かしてくれるのが嬉しい。

 横山えいじ「おまかせレスキュー」。ジョン・レノンとオノ・ヨーコかよw

 柴田勝家「2017ワールドコン・レポート 戦国武将、世界へ羽ばたく」。身振り手振りの勢い英語に大笑い。案外と通じちゃうんだよねw

 SF Book Scope。いきなりの仕掛けに、「あれ、誤植か?」と何度も見直した。こういう工夫が出来るのも、SF専門誌ならではかな? なんにせよ、どっちも楽しみな作品。

 「筒井康隆 自作を語る」第四回は、「『欠陥大百科』『発作的作品群』の時代 後篇」。あいかわらず聞き手の日下三蔵の下調べは凄い。「ヤクザの話だから、どう書いても面白くなるぞ」ってのも、わかるような、わからないようなw 「男の飛び道具」って、そういう意味かいw 「文春の一番嫌がることを書いてやろう」ってのも、実に筒井康隆らしいw

 東茅子「NOVEL&SHORT STORY REVIEW」、今回のテーマは「スーパーヒーロー!」となれば忘れちゃいけない≪ワイルドカード≫。翻訳は途切れているが、アメリカじゃ続いてて、既に23巻目。なんとか翻訳も再開して欲しいなあ。

 山本さをり「世界SF情報」。今月のローカス・ベストセラーリストに、チャールズ・ストロスがハードカバーで3位に入ってる。The Delirium Brief。「残虐行為記録保管所」から続く<ランドリー>のシリーズみたいだ。これも続きを出して欲しいなあ。

 鹿野司「サはサイエンスのサ」、今回は「AIのだまし方」。siri など音声認識機能のだまし方から始まって、ディープラーニング式による現在の AI の意外な盲点と、それのヤバい悪用法を紹介してる。将来的には、やっぱ魔法みたいな扱いになっちゃうんだろうか?

 次号の特集は「『ガールズ&パンツァー』と戦車SF」。とくれば、当然ガンパレード・マーチも。ええ、戦車が活躍する話だし。人型戦車だけど←をい

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2017年8月30日 (水)

SFマガジン2017年10月号

主演俳優や監督ではなく、特撮監督によって定義される。それがハリーハウゼン関与作品だ。
  ――オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1 アルゴ探検隊の大冒険

「もちろん、ここにあるものは本物じゃありません。美術品も、それに私も」
  ――山本弘「プラスチックの恋人」第5回

あれはねえ、僕はなかなか理解してもらえないんだけれども、全部ふざけて書いてはいるんだけれども、まあでも命がけでふざけて書いてるわけです。
  ――筒井康隆自作を語る 第3回「『欠陥大百科』『発作的作品群』の時代」前編 

 376頁の標準サイズ。

 特集は「オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1」として、1902年の「月世界旅行」から1988年の「ゼイリブ」まで一挙250作品を紹介。

 小説は8本。

 連載は6本。椎名誠「宝石の川」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第16回,山本弘「プラスチックの恋人」第5回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第4回,夢枕獏「小角の城」第46回,藤井太洋「マン・カインド」第2回。

 読み切りは2本。澤村伊智「翼の折れた金魚」,グレッグ・イーガンの白熱光スピンオフ「鰐乗り 後編」山岸真訳。

 澤村伊智「翼の折れた金魚」。森村は五年三組の担任だ。また問題児の長谷部が騒動を起こしたらしい。子どもたちの大半は計画出産による金髪碧眼だが、長谷部は無計画出産による黒髪黒目。このクラスの無計画出産児は、長谷部と篠宮だけ。

 ガンダムSEED でいうコーディネイターが当たり前になった世界でのお話。違いが見た目で一発で分かる仕掛けが、実に意地悪。また、主人公を小学校の教師にして、様々な経験をつませながらも、こういうエンディングにしたあたりが、なかなか切ない。実際、普通の人は、そんな感じだろうしなあ。

 椎名誠「宝石の川」。ラクダの子宮に籠り、惑星を旅する男。今回が立ち止まったのは、地殻の裏側だった。なぜかこの惑星には、内側にも外側にも重力があり、墜落せずに済んでいる。

 地球空洞説は昔からあったが、こうきたか。にしても、なぜにラクダw

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第16回。ハンター率いる<クインテット>は快進撃を続け、裏社会を制圧しつつあった。対して、<イースターズ・オフィス>は市内の各勢力に協力を求め、反撃を始める。その計画は…

 今までじっくりと<クインテット>の内幕を描いてきたためか、私はかなりハンターに肩入れしてて、期待より不安が大きかったり。刹那的な欲望に流されず、安っぽい脅しやハッタリにも頼らず、理知的にコトを進める姿は、かなり魅力的なんだよなあ。

 山本弘「プラスチックの恋人」第5回。セックス用アンドロイド「オルタマシン」は実用となった。未成年型のマイナー・オルタは議論を呼びつつも、日本でサービスが始まる。若手ライターの長谷部美里は自ら体験する体当たり取材に続き、経営者の小酒井譲のインタビュウに赴く。

 未成年の姿をし、高度なAIを備えたアンドロイドのマイナー・オルタマシン。その是非を巡り、様々な議論が展開するこの作品、今回は製作者の視点を中心に話が進む。が、それより、メイド・ロボットのインドーラちゃんとの会話が私は面白かった。是非、再登場して欲しい。

 グレッグ・イーガン「鰐乗り 後編」山岸真訳。「白熱光」のスピンオフ。銀河系全体に知的種族が広がった遠未来。だが銀河の中央部・孤立世界は頑なに沈黙し、孤立を守っていた。リーラとジャシムのカップルは、孤立世界を観測する手段を思いつき…

 前編での孤立世界を観測する方法もなかなかマッドだったが、今回のアイデアは更にイカれてて楽しい。それに加えて、観測して得たデータを解析するあたりも、実にワクワクする描写が続く。そうだよなあ、恒星間情報ネットワークともなれば、ヘッダ情報にも色々と工夫が必要で…

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第4回。宵野深菜は、人の体験を追体験できる<リメメント>の憶え手だ。かつての連続殺人犯アサクノの模倣犯を追っていた深菜だが、同居していた真白が何者かに殺され、警察の取り調べを受ける羽目に。

 さすが売れっ子の三雲岳斗、連載物の引きが抜群に巧い。前回のエンディングもショッキングだったけど、今回の引きも意外な急展開で読者を振り回しつつ、事件の真相を少しだけ垣間見せ「なな、なんだってー!」と思わせた所で「次号に続く」。また二カ月も待たされるのか。

 藤井太洋「マン・カインド」第2回。独立を目指すテラ・アマソナスに対し、ブラジル・ペルー・コロンビアの三国は民間軍事企業グッドフェローズに制圧を依頼する。ジャーナリストの迫田城兵は戦闘を取材、アマソナス防衛隊が陸戦条約に反してグッドフェローズの兵を殺す事件をスクープするが…

 フェイク・ニュースが話題の昨今、実にホットなテーマで始まる。なんと、ニュースの真贋を鑑定する民間企業<コヴフェ>の登場だ。にしても「アンダーグラウンド・マーケット」とか今回の冒頭とか、実はサイクリストなのかな?

 オールタイム・ベストSF映画総解説 PART1。スターウォーズのようなハリウッド大作はもちろん、個人映画にまで目を配ったマニアックなラインナップはさすが。

 ン十年前にアメリカで長距離バスに乗った時、待合室の椅子ごとに小さなテレビがついてた。そこに映ってたのはゴジラ。ゴジラの魅力は国境を越えるんです。ファンタスティック・プラネット、原作は小説だったのか。ダーククリスタル、CGリメイク絶対拒否には激しく同意。

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2017年7月11日 (火)

SFマガジン2017年8月号

私(柳瀬)は学術調査船担当というか。高倉武史さんは軍の船担当で、ざっくりわけると、軍、民間、それ以外、という配分(笑)。
  ――『ID-0』メカニックデザイナー座談会 海老川兼武×片貝文洋×柳瀬敬之

「もうすぐ≪偉大な日≫だよ、ダフィーさん」幼い黒人少年が呼びかけた。「≪偉大な日≫が来たよ」
  ――R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」伊藤典夫訳

藤井太洋「基本的に、翻訳者は小説家よりも仕事がうまいと思っています。なぜなら、彼らは難しいと思っても逃げることができないから。小説家は簡単に逃げられますから(笑)」
  ――「はるこん2017」企画再録 藤井太洋×ケン・リュウ「言語と物語の関係性」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「スペースオペラ&ミリタリーSF」として、ローダンNEO、TVアニメID-0、佐藤大輔追悼ほか。

 小説は11本。

 連載は6本。椎名誠「惑星のはらわた」,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第15回,山本弘「プラスチックの恋人」第4回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第3回,夢枕獏「小角の城」第45回,そして待ってました藤井太洋の新連載「マン・カインド」。

 読み切りは5本。まずは特集の一本としてマルロ・ゼンの「ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下」,続いて早瀬耕「プラネタリウムの外側」,谷甲州の新・航空宇宙軍史「亡霊艦隊」,R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」伊藤典夫訳,グレッグ・イーガンの白熱光スピンオフ「鰐乗り 前編」山岸真訳。

 カルロ・ゼン「ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下」。今回の演習はサーチ・アンド・デストロイ。これまでの俺たちのチームの成績は酷いもんだし、チームワークもガタガタだ。演習だから死ぬ心配こそないものの、間抜けなアマリヤはまた伏撃を主張し…

 たった3頁なのが悔しい。悪態つきまくりの主人公アキラ、インテリぶってるアマリア、超然としているズーハン、寡黙なエルランドと、キャラはわかりやすいし、なんといっても展開がスピーディーなので、読者を物語に引き込む力がある。

 早瀬耕「プラネタリウムの外側」。グリフォンズ・ガーデン後日譚のシリーズ。藤野教授の紹介で、学部二年生の佐伯衣理奈が訪ねてきた。自分専用の会話BOTが欲しい、と。亡くなった友人との会話を望んでいるようだが…

 本筋は人の死が絡むだけに、シリアスで暗くなりがちなテーマなのに、隠れてサイドビジネスに精を出す南雲と、それを知ってか知らずか話をねじこんでくる藤野教授の陰険なやり取りが、微妙に雰囲気を明るくしている。結局、BOTに感情はあるんだろうか。うーん。

 椎名誠「惑星のはらわた」。ラクダの胎内から降りたとき、そこは半分傾いた建造物の前だった。あたりの風景には見覚えがない。わたしは、かつての任務を思い出しつつあった。わたしたちは技術者で、開拓移民として辺境の惑星に送られ…

 いつの間にか連載小説になっているニュートラル・コーナー、今回はラクダの胎内で旅する男の過去、男が旅している惑星、そして老いたラクダなど、不思議な舞台の事情が少しづつ明かされる。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第15回。ウフコックの潜入捜査により手に入れた情報を元に、イースターズ・オフィスはマルドゥック市の有力者を集め、クインテットに対抗するための連帯を求める。情報の精度の高さもあり、有力者たちの反応は好意的だ。

 前回に続き、今回も会話が中心で静かに話が進む。今までやられっぱなしだったイースター・オフィスが、協力者を得て反撃にでようとする転回点となる回。ハンターを始めとするクインテットの活躍を散々見せられ、少し彼らに感情移入しつつある私としては、ちょっと複雑な気分。

 山本弘「プラスチックの恋人」第4回。黒マカロンとのインタビューを受け、美里は再びキャッスルへと向かう。今度は最後まで試すつもりだ。助言通り、ミーフの性格設定も変えて。

 著者渾身のポルノが楽しめる回。まあ、アレです、ポルノってのは、基本ファンタジイなわけで、オルタ・マシンにも色々と仕掛けがあって。そうきたかw こういうのって、人により匂いだったり声だったりとツボが違うんだけど、その辺は、やっぱし予めリクエストするのかな?

 谷甲州の新・航空宇宙軍史「亡霊艦隊」。タイタン主導の外惑星連合は、動く艦をかき集めて第一機動艦隊を編成、出動する。艦隊司令部の石蕗提督に、先行して地球周辺を通過しつつある無人偵察機 Kr-02 から情報が入る。

 今回の視点は外惑星連合。光速でさえ大きなタイム・ラグがある太陽系のスケールを実感できる回。互いに手に入る情報は限られており、かつリアルタイムではないあたり、かえって電信が普及する前の戦争に似た雰囲気になってる気もする。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第3回。他者の体験を追体験できるMEM、その憶え手として人気を誇る宵野深菜は、連続殺人鬼アサノの模倣犯の捜査を頼まれる。深菜と同居している三崎真白は、アサノの模倣犯・暮林朋に目を付けられ…

 物騒な雰囲気で始まった物語が、意外な形で牙を剥きだす回。中盤以降のアクションは、舞台の独特な風景も相まって、映像化したらかなりの迫力になるだろうなあ。作り手によるアレンジの仕方でも、雰囲気は大きく変わりそう。

 R・A・ラファティ「≪偉大な日≫明ける」 Great Day in the Morning 伊藤典夫訳。夜明け前。散歩中のメルキゼデク・ダフィーに黒人少年が声をかける。「≪偉大な日≫が来たよ」。若者たちは街中の時計から長針と短針を外しまわっている。そしてコーヒーショップでは、コーヒーカップが…

 ラファティの作品の中では、比較的にわかりやすい方、なのかな? 偉大な日、この街では何もかもが今までとは打って変わって…。 ハッキリと「信仰」をテーマにしつつ、その扱いは本気なんだか冗談なんだか。いずれにせよ、イカれまくった世界の描写はラファティならでは。

 グレッグ・イーガン「鰐乗り 前編」 Riding the Crocodile 山岸真訳。「白熱光」スピンオフ。多くの知的種族が銀河系に広がった遠未来。銀河の円盤部分は多くの種族が共存し一つの文明となったが、中央部に住む者はあらゆる接触を拒んでいる。だが何者かが存在するのは確実で…

 いきなり結婚生活一万年と、スケールがデカい。これが他の作家なら馬鹿話なんだが、あくまで語り口は大真面目なのがイーガン。ほぼ光速で移動できるとはいえ、銀河系の直径は約10万光年。広大なスケールで中央部に潜む謎を探る方法を語るあたり、理屈はともかく無茶なスケールがやたら楽しい。

 藤井太洋の新連載「マン・カインド」。「伊藤計劃トリビュート」収録の「公正的戦闘規範」から発展した作品。2045年。ブラジル・ペルー・コロンビアにまたがるテラ・アマソナスは独立を宣言、高名な軍事コンサルタントのチェリー・イグナシオが警護を請け負う。対する三国は民間軍事企業グッドフェローズに依頼し…

 現代の戦場で存在感を増している二つの要素、民間軍事企業とロボットに注目し、緻密に詰めた設定が面白い作品。P・W・シンガーの「戦争請負会社」によると、歴史的には国家軍より傭兵が中心だった時代の方が長いとか。ただ今はハーグ陸戦協定などの保護協定が傭兵には適用されず、また傭兵による犯罪も裁く法がない。などの問題も、巧く料理してると思う。

 海外ミリタリーSFガイド。やはりトップはロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」。これは外せないよなあ。はいいけど、ロバート・アスプリン「≪銀河おさわがせ≫シリーズ」は…まあ、スペース・オペラってことで。あとデビッド・ブリンの知性化シリーズも入れていいんじゃない?

 『ID-0』メカニックデザイナー座談会 海老川兼武×片貝文洋×柳瀬敬之。ドラマ中の所属する組織ごとにメカニックデザイナーを変えるのは巧い。Iマシンの造形にも、そんな配慮があったとは。

 「筒井康隆 自作を語る 第2回 日本SFの幼年期を語ろう 後篇」、前回に続き、聞き手・日下三蔵の綿密な事前準備に感服。これぐらいキッチリ調べた上でのインタビュウって、滅多にないんだよなあ。にしても「空飛ぶ怪獣フラゴン」の件とか、当時の鷹揚さは、なんというかw 酔狂連にも大笑い。

 大森望の新SF観光局 第57回 SFの引っ越し。読書って安上がりな趣味だなんて思っていると、痛い目を見るのが引っ越し。そもそも蔵書用の部屋が要るんで、人より広い物件が必要な上に、荷物も多い。そこで引っ越し費用を節約する方法を紹介してくれる、とってもありがたい回。

 ゲンロン大森望SF創作講座 池袋特別講義 大森望×長谷敏司。各作家の方法も楽しいが、宮内悠介のしぶとさも凄い。プロとして売れる人ってのは、気合の入り方が違うなあ。

 大森望のSF喫茶#24 大森望×片渕須直 「コニー・ウィリス、その作品世界と魅力 『ブラックアウト』『オールクリア』と『この世界の片隅に』」。執拗なまでの時代考証も絶賛された『この世界の片隅に』の監督が、やはりマニアックなロンドンの描写が光る『ブラックアウト』『オールクリア』を語る。確かにこれ映像化したら売れるだろうなあ。

 鹿野司 サはサイエンスのサ ムーアの先にあるもの。コンピュータの高速化を担ってきたムーアの法則に綻びが見えつつある今、脚光を浴びているのがバイオ技術。ということで、遺伝子ドライブ(→Wikipedia)の紹介。今の目的はマラリア対策だけど、応用範囲は広大で…

 「はるこん2017」企画再録 藤井太洋×ケン・リュウ「言語と物語の関係性」。新鋭人気作家二人の対談。言語と視点の話は作家ならではの着目点。ケン・リュウの「中国の検閲制度にはすごくムラがある」ってのも、ちょっと事情を勘ぐりたくなって楽しい。案外と担当者次第・気分次第なのかも。

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2017年4月27日 (木)

SFマガジン2017年6月号

金属の管とそおうじゃない管があって、それぞれに曲がり方も強度も違うんですよ。よくみると構造体として使われているパイプと、そうじゃないものが描き分けられています。
  ――弐瓶勉インタビュウ

「……どうすれば分かってもらえるかなあ」
「私も同じことを言おうと思ってました」
  ――山本弘「プラスチックの恋人」第3回

「音楽は心を強姦する」
  ――劇場アニメ『虐殺器官』公開記念座談会 「虐殺の文法」をめぐって
    岡ノ谷一夫×吉田尚記 司会:塩澤快浩

 376頁の標準サイズ。

 特集は二つ。まず「アジア系SF作家特集」とあるが、中身はほとんど中華系SF特集。もうひとつは「2017年春アニメ特集」として、「ID-0」「正解するカド」そして映画「BLAME!」。

 小説は10本。

 まずは「アジア系SF作家特集」で、3本。噂の?景芳「折りたたみ北京」大谷真弓訳。次にケン・リュウ「母の記憶に」古沢嘉通訳。最後にスタンリー・チェン「麗江の魚」中原尚哉訳。「折りたたみ北京」「麗江の魚」はケン・リュウの英訳から日本語に訳したもの。

 次に連載5本。夢枕獏「小角の城」第44回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第14回,山本弘「プラスチックの恋人」第3回,三雲岳斗「忘られのリメメント」第2回,そして椎名誠のニュートラル・コーナー「むじな虫」も、連作っぽい。

 読み切りは2本。澤村伊智「コンピューターお義母さん」,藤田祥平「スタウトのなかに落ちていく人間の血の爆弾」。

 加えて、新連載「筒井康隆自作を語る」が新連載。日下三蔵を聞き手に、今回は「日本SFの幼年期を語ろう」。主役の怪演はもちろんだが、聞き手の日下三蔵の知識が凄い。日本SF黎明期に江戸川乱歩が果たした役割って、大きかったんだなあ。それとスーパージェッターの台本陣の豪華さにもびっくり。

 ?景芳「折りたたみ北京」大谷真弓訳。午前五時。ごみ処理施設での勤務が終わったラオ・ダオは、ベン・リーを訪ねる。ここ第三スペースから第一スペースに行けば、二十万元が手に入る。ベン・リーはそのルートを知っている。捕まればブチ込まれるが、今はなんとしても金が要る。

 北京を折りたたむって、なんなんだ?と思ったら、そうきたかw あまりのスケールに感心するやら笑っちゃうやら。某アニメの影響かしらん。アイデアはお馬鹿だけど、お話はとってもシリアスで、共産主義のお題目とは違い階層化が進む中国社会を、とってもわかりやすくヴィジュアル化する巧みな発想。

 ケン・リュウ「母の記憶に」古沢嘉通訳。3頁の掌編。わたしが幼い時に、母は余命を宣告された。残された時間は、あと二年。わたしの成長を見守るため、母は時間をだますことにした。

 ケン・リュウお得意の泣かせる話。もはやSF小説界のデイヴィッド・ギルモアですね。

 最後にスタンリー・チェン「麗江の魚」中原尚哉訳。年度末の課長補佐昇進を狙いバリバり働いていた僕は、PNFDⅡ(心因性神経機能障害Ⅱ型)と診断され、麗江での二週間のリハビリを申し渡された。麗江は10年前にも行ったことがある。当時は自称アーティストが集まり、女には片っ端から声をかけたものだが…

 これまた政府による強い統制のもと、急激に工業化・産業化が進む中国を、観光都市・麗江を舞台として、巧みに揶揄する作品。出てくる納西族の民族音楽を漁ってたら、コメントに「麗江は観光地化され過ぎた」とあって苦笑い(→Youtube)。

 同特集中のハイカソル編集者ニック・ママタスのインタビュウ「英語圏における日本SF」SFマガジン編集部訳。野尻抱介「ロケットガール」が翻訳されてたのか。十代の女の子向けに出したってのも市場の違いを感じさせるが、「蓋を開けてみると、ロバート・ハインラインを愛読するような中年層によく読まれた」に大笑いw ああいうストレートで気持ちのいいSFに飢えているのだ、オッサンは。

 ピーター・トライアスのエッセイ「<ファンシースターはSFの名作だ>」鳴庭真人訳は、タイトル通りファンシースターと小玉理恵子への熱い想いを切々と綴る感動作。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「むじな虫」。アブドは高原列車イースト・アンド・ウエストの保線係だ。列車の軌道は、むきだしの地殻に掘った二条の溝。軌道が地上から突き出しているマザー・プラネットとは逆だ。路線の途中、赤い小屋は馴染みのクフの家だ。今日はレザーボールを捕まえるので忙しい。

 連載中、エッセイからいきなり小説になった前回を受けて、宇宙の彼方に植民した人々の暮らしを描く連作集その2。乾いた大地に延々と続く二本の軌条、役割も正体も分からないけど惑星を飛び回りゲームの対象になっているレザーボールなど、異様な風景が続く。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第14回。ウフコックは、クインテット潜入捜査で集めた情報を、イースターとブルーに伝える。58人と11頭のエンハンサー、そしてハンターの野望。事態は危機的で、残された時間は少ない。

 今回はイースター・オフィスの視点で物語が進む。そのためか、物騒な雰囲気は底に流れながらも、話は穏やかに進んでゆく。ホワイトコープ病院の<天使たち>の恐るべき正体が明かされ、イースター・オフィスは反撃の準備を始めるが…。空気読まないダニー・シルバーのキャラがいいなあw

 山本弘「プラスチックの恋人」第3回。セックス用アンドロイド、オルタマシン。未成年型はマイナーと呼ばれ、日本のムーン・キャッスルでサービスを始めた。取材に訪れた長谷部美里はマシンの見事さに圧倒される。その帰路、反対派らしき者を見つけ接触を試みるが…

 “非実在”児童ポルノ問題に挑む作品、今回は賛否の両側を代表する人が出てきて、熱く語ってくれる。ナッツ99に熱く思い入れちゃう自分が悲しいw 月光のマニアっぷりには、ひたすら頭が下がる。変身ベルトやオルタナファクトなど時事ネタはキャッチーだが、単行本では脚注が付くのかな? にちても、プロの物書きの努力には脱帽するのみ。

 三雲岳斗「忘られのリメメント」第2回。人の体験を記録・再生できるリメメントが普及した時代。リギウス社CEO迫間影巌はMEMアーティストとして活躍中の宵野深菜に、連続殺人犯アサクノの捜索を依頼する。アサクノの殺人MEMが出回っており、それを介して精神を汚染された者もいるらしい。

 連載二回目と物語は始まったばかり。主人公の深菜の過去や敵役のアサクノの紹介や掘り下げを担う回だろう。体験が人格を変えてゆくなら、やり方次第で様々な応用も効く。だいぶ違うけど、「戦地の図書館」の冒頭、傷つき心が死んだ海兵隊員が病院のベッドで読んだ「ブルックリン横丁」のファンレターは強烈だった。

 澤村伊智「コンピューターお義母さん」。「くらしマート」でのパートを終える時、遅番の佐川さんと挨拶した。テキパキしてるし、頼れる人だ。買い物を済ませ、重いビニール袋を両手に下げて家へと向かう。自動で灯るはずの玄関照明は、やはり点かない。誰の仕業かはわかっている。

 「九十八円ぺたり、九十八円ぺたり、九十八円ぺたり」だけで、お話の雰囲気を鮮やかに伝える語りが見事。「コンピューターおばあちゃん」を思わせるタイトルだし、ある意味では深い関係がある。奥様の井戸端会議の大切さがしみじみわかる作品←違うだろ

 藤田祥平「スタウトのなかに落ちていく人間の血の爆弾」。バーで飲みながらの読書会。テーマはカート・ヴォネガットの「スローターハウス5」。師匠はベロベロで、バーのオーナーのI氏は師匠の若かりし日の失敗談を聞かせてくれた。

 卒論に四苦八苦する学生たちの悪あがきや、それを見守る?教授。行き詰まっては飲んだくれた、京都で過ごす学生時代に、カート・ヴォネガットの「スローターハウス5」を絡め、ノスタルジックな短編。にしても強烈そうなカクテルだなあw

 東茅子「NOVEL & SHORT STORY REVIEW」、今回は特集に合わせたのか「アジア系SF」。劉慈欣「神の世話をする」 Taking Care of God。地球を創り超科学で人類を導いてきた神たちが、老いた自分たちの面倒を見ろと地球に押し寄せて…。一人っ子政策のため日本以上に厳しく高齢化対策が求められている中国で、よく出せたなと思うぐらいキツい風刺作。

 横田順彌「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇」第31回 大正末期のジュヴナイル小説7.今回は、なんと横溝正史の少年冒険探偵小説なんていうレア物の紹介。現代のライトノベルに当たる市場を狙った作品だろうなあ。

 藤崎慎吾「深海大戦 Abyssal Wars」が「超深海篇」で完結してるとは気がつかなかった。ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」も面白そう。

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2017年3月 1日 (水)

SFマガジン2017年4月号

生き物や物質が余計な意味を持たないのは素晴らしい。それは、存在そのものに意味があるということだから。
  ――上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」

「俺か。俺はZ80だ」
  ――宮内悠介「エターナル・レガシー」

「人を殺しても、それはただ人のイメージを残してしまうだけだ。そのイコンを。一人の男を殺せば、信仰と信念の何千という胞子が、思想の胞子が世に放たれる」
  ――ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ベスト・オブ・ベストSF2016」として、「SFが読みたい!2017年版」で上位に入った上田早由里,宮内悠介,ハーラン・エリスンの短編を掲載。小特集は2017年4月から放送が始まるアニメ「正解するカド」と、「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念。

 そんなこんなで小説は豪華14本。

 まずは特集「ベスト・オブ・ベストSF2016」で三本。上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」,宮内悠介「エターナル・レガシー」,ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。加えて「正解するカド」小特集で野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。「宇宙軍士官学校―前哨―」完結記念で、鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。

 連載は4本。三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」,夢枕獏「小角の城」第43回,山本弘「プラスチックの恋人」第2回。そして椎名誠のニュートラル・コーナー「らくだ」も、今回はエッセイではなく短編小説だ。

 そして読み切りが5本。谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇,上遠野浩平「製造人間は主張しない」,六冬和生「白昼月」,ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳,カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。

 上田早由里「ルーシィ、月、星、太陽」。「華竜の宮」「深紅の碑文」と同じシリーズ。プルームの冬を、人類は越えられなかった。だがルーシィは生き残り、ときおり変異生物に襲われながらも、深海で暮らしている。その中の一人は、上に向かって冒険を試みる癖があり…

 「ルーシィ篇1」とあるので、まだ続く模様。ひゃっほーい! 氷に閉ざされた海でも、それなりに暮らしていたルーシィたちの生き方は、仕事や家庭で色々と悩みを抱えた人にとって、楽園のように思えるかも。ちょっとロジャー・ゼラズニイの「12月の鍵」や「フロストとベータ」を連想させ、大きなスケールを感じさせる作品。

 ハーラン・エリスン「ちょっといいね、小さな人間」宮脇孝雄訳。私は小さな人間を創った。背丈は13cm。小さな人間を創ったのはいい考えだと思ったし、大学の面々や他の人たちも「ちょっといいね」ぐらいの反応だった。だが…

 初出が<レルムズ・オブ・ファンタジー>2010年2月号だから、インターネットでのそういう社会現象は既に知られていた頃なんだけど、むしろ旧来のマスコミがテーマじゃないかと私は思うんだが、どうなんでしょうね。

 宮内悠介「エターナル・レガシー」。若手棋士の葉飛立は、コンピュータ相手の対戦に敗れ、散々に罵られる。対局のない日に飲みに行ったら、ケッタイなお土産を持って帰る羽目になった。髭面のオッサンで、「俺はZ80だ」と言い張る。

 かつてマイコン少年だった人は、腹を抱えて笑い転げる出だし。他にもMナントカとか、○○もできないとか、懐かしのネタがいっぱい。〇〇もソフトウェアでやってたしねえ。あの頃を覚えてる人なら、一度は妄想した事のあるネタを、AlphaGO に絡めて、鮮やかに蘇らせてくれます。

 鷹見一幸「オールド・ロケットマン」。「宇宙軍士官学校―前哨―」外伝で、宇宙軍創設時代が舞台。至高者の降臨で、多くの人類が洗脳されてから一年。洗脳を逃れたわずかな者たちは、国家の壁を越えて協力して抵抗を続け、北極海に集結していた。

 本編を全く知らないんで背景はイマイチわかんないんだが、映像化したら映えそうな場面が目白押し。特に出だしは、あの傑作「レッドオクトーバーを追え」を思い出したり。

 ラヴィ・ティドハー「最後のウサマ」小川隆訳。七人の男に囲まれ、木に吊るされようとしているウサマを、わたしは奪った。生け捕りでなければ報酬は手に入らない。ハンターの腕を見込まれてか、その町で大仕事を頼まれ…

 ウサマは他でもない、アルカイダのボスだったウサマ・ビンラディン。真面目な作品なんだが、「野生のウサマの群れ」で大笑いしてしまった。西部劇っぽい舞台で、銃の腕を買われた賞金稼ぎが、賞金首を狩る話…に見せかけ、キツい社会風刺を込めた作品。

 カール・シュレイダー「ライカの亡霊」鳴庭真人訳。国際原子力機関IAEAの技術者ゲナディは、カザフスタンにやってきた。連れはアンブローズ、ロシアと NASA と Google に追われている、とアンブローズは言う。二年前、ロスアラモスから電子励起爆発物の製法データが盗まれた。これを使えば誰でも水爆が作れてしまう。

 ツァーリ・ボンバ(→Wikipedia)は1961年なんで、微妙に歴史の違う世界が舞台なのかな? 作者は「太陽の中の太陽」の人。旧ソ連の宇宙開発を担ったバイコヌール基地があるカザフスタンなんて、相当にマニアックな舞台だが、仕掛けはお馬鹿スレスレの大風呂敷。うはは、そうきたかあ~。

 野崎まど「精神構造相関性物理剛性」。2017年4月放送開始予定のアニメ「正解するカド」のスピンオフ。農水省の職員向けの蕎麦屋に、30年間勤めたが、店を閉める事になった。幸い失業するわけではなく、別の店に職場が変わるだけだが…

 5頁の掌編。これだけ読むと、ごく普通の短編小説なんだが、主人公はアニメに出てくる人なのかな? そばを茹でて30年、愚直に勤めてきたというのに、客の世代が変わったせいか、七軒のうちの唯一の閉店とはブツブツ…と悩む主人公のオジサンは、なかなか身に染みる。

 椎名誠のニュートラル・コーナー、今回の「らくだ」は短編小説。老いたラクダに乗って砂漠を旅する男。といっても背に乗るわけじゃなく、子宮の中に潜り込んでいる。って、確かにラクダは頑健な動物だけど、婆さんラクダも災難だw

 山本弘「プラスチックの恋人」第2回。少年少女の格好をしたセックス用アンドロイド、オルタマシンの取材を請け負った長谷部美里は、尻込みする己を叱咤しつつ現場ムーンキャッスルへと向かう。真っ黒なガラスに覆われた直方体で、冷たい印象のある建物に入っていくと…

 初めての風俗店、それも高級なシロモノにドギマギする主人公が、なかなか可愛らしい。取材者にビギナーを選んだのが正解だったのかどうかは、なかなか難しい所だけど、これはこれで話題になる記事が書けるんじゃなかろか。「まさに“ヒトごと”」には笑った。

 三雲岳斗の新連載「忘られのリメメント」。Re:MEMENTO、リメメント、疑憶体験。映像や音声に加え、味覚・触覚を含め、更に感情までも記録できる技術。媒体のMEMを顔に貼りつけるだけで、二時間ほどを記録できる。MEMアーティスト=憶え手(メンター)として成功したシンガーの深菜は、ボスのミーシャに呼び出され…

 こうやって作品を紹介しようとすると、改めて仕掛けの多さ・複雑さを感じるんだが、そういう面倒くさい舞台背景や設定の説明を、お話を途切れさせずに埋め込むテクニックは見事。にしても、欲しいねMEM。私としてはミュージシャンならパコ・デ・ルシアの絶技を…

 上遠野浩平「製造人間は主張しない」。前号の「交換人間は平静を欠く」の後篇。コノハ・ヒノオを誘拐した交換人間ミナト・ローバイは、国際複合展示会の会場に現れた。ミナトは語る。ヒノオが中枢(アクシズ)として統和機構に君臨することになる、と。

 新しいモノを開発してるエンジニアには、ウトセラ・ムビョウの台詞が、いちいちムカつく回w まあアレだ、確かに展示会とかの晴れやかな場だと、広報や営業さんが満面の笑みをたたえて、何やらカッコいい事を言うけど、裏方は色々と大変でw

 六冬和生「白昼月」。月の唯一の都市は、国連主導の越境合同事業の学園都市として成り立っている。ジニイ・戸田はここで探偵業を営んでいるが、来る仕事は買い物代行やらゴミを分別しない輩の不届き者の捜索やら。今回はシャトルで月都にやってくるオッサンのお迎え。

 若いのに芸風が多彩な人だなあ。今回は、「松本城、起つ」に少し似た、ちょっとユーモラスな語り口で、シケた探偵さんが巻き込まれる騒動を描くもの。特に「聞いちゃいない」おばちゃん・おじさんのキャラがいいw

 谷甲州「航空宇宙軍戦略爆撃隊」後篇。閑職から特務艦イカロス42の艦長に引っぱりだされた早乙女大尉だが、肝心のイカロス42は元探査機の老朽艦、乗務員は不愛想なフェレイラ一曹と謎の民間人ガトーだけ。状況的に作戦計画は不適切と考えた早乙女大尉は…

 コロンビア・ゼロ奇襲で先手を取られた、航空宇宙軍側の視点で描かれる物語。冷や飯食らいのデスクワークから、いきなり前線での艦長職ってあたりが、航空宇宙軍の人材不足を感じさせる。もっとも、軍に優れた人材が集まる世相ってのも、あまし嬉しくないけど。

 …って、あれ? 博物館惑星は連載じゃないの? 期待したのにぃ。いっそ頁数増やしてほしいなあ。

 「正解するカド」プロデューサー野口光一インタビュウ。「メインキャラクターはCGで、それ以外には作画(手描き)のキャラもいます」ってのが意外。モブこそCGで手早く片づけるのかと思ったが、CGの方が放送回ごとのデザインのブレが少ないとか、そんな理由なのかな?

 「裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル」刊行記念 宮澤伊織インタビュウ。いいねえ、「断絶への航海」。今思えば、あれはリバタリアン流ユートピアだよなあ。「自分が中高生のころ好きだったものを今の読者に向けて書きたい」、いいじゃないですか。エリック・クラプトンも結局ブルースに戻ったし。

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