カテゴリー「書評:SF:海外」の210件の記事

2018年11月21日 (水)

デニス・E・テイラー「われらはレギオン 2 アザーズとの遭遇」ハヤカワ文庫SF 金子浩訳

「謎だな、マーヴィン。そしてぼくたちは謎が大好きなんだ」
  ――p20

人類がヴァルカンの土を踏んでから五日後、この惑星最初の死傷者が出た。
  ――p22

「いまや宇宙はぼくたちの遊び場じゃないか」
  ――p68

どうやら、ぼくたちがそいつと出会ったら、戦争がはじまりそうだった。
  ――p79

「昔からワルになりたかったの」
  ――p225

「だって、人間のお守りはもう充分にやったからね」
  ――p307

「うわあ。フェルミのパラドックスが解決したぞ」
  ――p318

【どんな本?】

 カナダの新人作家デニス・E・テイラーのデビュー三部作の第二部。

 事故で死んだはずのプログラマのロバート・ジョハンスン(ボブ)は、2133年に目覚めた。マシンの中のプログラムとして。恒星間を航行する宇宙船となり、人類が植民できる惑星を探すために。地球は幾つかの勢力が睨み合い、寒冷化して人類は絶滅寸前となっていた。

 アッサリと現状を受け入れたボブは、幾つものトラブルを乗り越えて宇宙へと旅立つ。途中、金属資源を見つけては、自らを複製し、更なる探索へと向かってゆく。

 ボブの複製たちは、少しづつ性格が違った。中には気が合わない奴もいる。だが、宇宙は広い。ツルむのが嫌なら、別の星系へと向かえばいい。そうやって探索範囲を広げていくうちに、知性を持ちそうな種族にも出会う。

 異星の知的種族を助け、人類の植民に協力し、新たな植民惑星を見つけ…とボブたちは忙しく働き続ける。だが思わぬ天敵の出現・現地の生物の襲来・人類同士の反目と、解決すべき問題は増える一方。おまけに物騒な連中も間近に迫ってきて…

 丹念に考察された設定ながら、ヲタク大喜びなネタを随所に取りまぜつつ、ユーモラスな筆致でテンポよく物語が進む、新世代のスペース・オペラ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は For We Are Many, by Dennis E. Taylor, 2017。日本語版は2018年7月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約417頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント41字×18行×417頁=約307,746字、400字詰め原稿用紙で約768枚。文庫本では厚い部類。

 文章はこなれており、ユーモラスで親しみやすい。ただし新旧取り混ぜたヲタクなネタは盛りだくさんな上に、最近の物理学・天文学のネタもさりげなくギッシリ詰めこんでいるので、そういうのが好きな人向け。

 また、ボブの複製も含め、登場人物が一気に増えるので、できれば最初の「AI宇宙探査機集合体」から一気に読む方がいい。巻末の登場人物一覧は実にありがたい。

【感想は?】

 やはり著者はニーヴンも読んでいたかw まさかモロに出てくるとはw

 と、そんなイースター・エッグをアチコチに仕込んだ三部作、相変わらずボブたちは大忙し。広い宇宙の恒星間航行だからノンビリしたモンだろうと思ったが、意外と仕事は山積みだったり。

 ボブが見つけたデルタ人たちは、着実に進歩を続け、拠点を固めつつある。天敵だったニセゴリラにも対抗できるようになった。だが、デルタ人たちの歴史を辿るうちに、ニセゴリラより遥かに危険な「敵」の影がさしはじめ…

 原始的な異星種族の「神」となって、その成長を見守る。いわばゲームの Civilization そのものの状況だ。こういうアイデアのSFは昔から幾つかあって、ロジャー・ゼラズニイの「十二月の鍵」や小川一水の「導きの星」など、傑作も多い。

 ただ、その「神」が、他でもないボブなのが、この作品の特徴で。何かと世話を焼いては知恵を授け、助けちゃいるんだが、見事に威厳が欠落している。何も正直に言うこたないのにw ここまで侮られる「神」も珍しい。まあ、確かに失敗もしてるんだけどw

 実際、ボブが「神」とは言い難いのは、単に性格だけが理由じゃないのも、このシリーズの特徴。

 プログラマーの経験があるためか、全体を支配しているのが「リソース」と「スケジュール」の概念。これが作品全体に緊張感をもたらしている。

 理屈の上では、ボブは何だって複製できる。ボブ自身も、だ。ただし、そのためには、原材料が要る。その大半は金属だ。ところが宇宙空間に金属はない。たいてい惑星上にある。しかも、金属を多く含み、かつ採鉱しやすい惑星には、幾つかの条件がある。彗星は水ばっかりだし、木製はデカすぎる。

 ってな具合に、「その恒星系がどんな惑星を持っているか」「それぞれの惑星はどう配置されているか」が、重要な問題となってくる。こういう、最近の天文学を反映した設定が、SF者にはたまらない。

 更に楽しいのが、スケジュールの話。

 原材料が調達できたとしよう。最も役に立つのはボブだ。だが、ボブが役に立つのは、何でも作れるからだ。小さいものでは偵察用ドローン、大きいものではドーナツ型農場。これらの製造では3Dプリンタが活躍する。だから、とりあえずは3Dプリンタを作らなきゃいけない。

 ボブが解決すべき問題は、いつだって山ほどある。それらの優先順位と締め切りを考え、いつ・何を・どんな順番で・どれぐらい作るか。

 ドローンは今すぐ欲しい。でもドローンを作っていたら、その間は3Dプリンタが作れない。3Dプリンタは便利だけど、作るのに時間がかかる。予想もしなかった新しい問題も次々と起こるし、見過ごしていた古い問題に火が付く時もあって…

 ってな状況は、プログラマなら「うんうん、わかるわかる」と頷いてしまうところ。いやプログラマに限らず、一つの仕事を長く続けてる人なら、みんな似たような経験をしているんだろうなあ。

 広い宇宙に飛び出す解放感に包まれた第一部に対し、この巻では幾つもの舞台で次から次へとトラブルが起き、ストーリーは目まぐるしく推移してゆく。できるだけまとまった時間を取って、一気に読もう。

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2018年11月 1日 (木)

アン・レッキー「動乱星系」創元SF文庫 赤尾秀子訳

「船やステーションのAIは、製造もプログラミングもラドチャーイですから。AIはラドチから切り離せません」
  ――p120

「ともあれ、予想したような悪い事態ではない」といった。「予想を遥かに超える、最悪の事態だ」
  ――p163

「彼女、彼男、彼人……」
  ――p199

「もし、先祖の遺したものが偽物だとしたら、わたしたちはいったい何者?」
  ――p239

「てっとり早く犠牲にできるのは養護施設の子どもぐらいで、子どもたちも進んでそれに従う。ほかに行くところがないからね」
  ――p322

【どんな本?】

 デビュー作「叛逆航路」のシリーズでSF界に大嵐を巻き起こしたアン・レッキーによる、同じ世界を舞台とした新作。

 遠未来。人類が恒星間宇宙に広がり、母星の記録も定かでない。有力な勢力ラドチ圏はAIの独立で揺れている。人類は幾つかの異星種族とも出会い、危ういながらも和平を保っていた。

 ここはラドチ圏から遠く離れたフワエ。ネタノ・オースコルドは強い野心を抱く有力な政治家だ。その養女イングレイは、後継者争いで義兄のダナックに後れを取っている。一発逆転を狙い、イングレイは賭けに出た。

 ネタノの政敵エシアト・バドラキムの養子パーラドは流刑地にいる。パーラドの身柄を手に入れれば、価値の高い取引材料になるだろう。そこで大枚をはたき危ない橋を渡ってパーラドを救い出す…ハズが、現れたのは別人だった。

 やがて事件はフワエ政界を越え近隣星系ばかりか異星種族も巻き込んだ騒ぎへと発展し…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は PROVENANCE, by Ann Leckie, 2017。日本語版は2018年9月21日初版。文庫本で縦一段組み、本文約406頁に加え、山之口洋の解説7頁。8ポイント42字×18行×406頁=約306,936字、400字詰め原稿用紙で約768枚。文庫本としては厚い部類。

 文章は、けっこう読みにくい。特に会話が。複数の言語や方言が入り乱れる舞台なので、ワザと不自然な言葉遣いにしている所がある。また、遠未来で現代とは大きく異なる文化・社会の世界なので、最初は意味が分からない固有名詞もたくさん出てくる。巻末の用語集に栞を挟んでおこう。

 「叛逆航路」三部作と同じ世界で、時間的には少し後、あの事件の波紋が広がりつつある頃。ただしお話としては独立しているので、この作品から読み始めても大丈夫。私は「叛逆航路」より、こっちの方がとっつきやすかった。ただし、慣れたためかもしれない。

【感想は?】

 ハラハラ・ドキドキ・「え、どういうこと?」が続く、冒険SF作品。

 正直、最初は主人公のイングレイがあまり好きじゃなかった。そもそもキッカケが「ママのご機嫌をとるため」だし。

 こんな風に、人に依存するタイプの主人公は、宇宙空間を舞台とするSFじゃ珍しい。かの名作「たった一つの冴えたやり方」の主人公コーティーみたく、行動的で「我が道をゆく」タイプの人がウケるのだ。もっとも「敵は海賊」の匋冥みたく突き抜けちゃうと、少し議論が分かれるけど。

 しかも、ヘアピンを無くした程度でウジウジしている。おいおい、大丈夫かよ。とか思ってたら、やっぱり大丈夫じゃなかった。

 が、これも娯楽物語としての仕掛け。トラブルに巻き込まれ、踏んだり蹴ったりの目に遭い、腹に一物抱えた有象無象に小突き回されるうち、次第にイングレイは変わってゆく。その辺は読んでのお楽しみ。

 そんな有象無象の最初の人物が、ティク・ユイシン。イングレイが高跳びに使うつもりの貨物船の船長。スターウォーズのハン・ソロ同様に、自分の船で宇宙を巡って稼ぐ、一昔前のトラック野郎みたいな稼業ですね。小さくとも一国一城の主だけあって誇り高く世知に長け、一筋縄じゃ行かないタイプ。

 それだけに味方になれば頼りがいがある人なんだけど、何かとんでもない因縁を抱えてて…ってなあたりも、ハン・ソロみたいだw

 続く正体不明の人物は、ガラル・ケット。イングレイの養親ネタノ・オースコルドの政敵エシアト・バドラキムの養子パーラド…のはずが、なぜかコイツがやってきた。普通なら慌てふためく状況なのに、なぜか悠然と落ち着き払っている。しかも奇妙な特技があって…

 とかの得体の知れない連中もアレだが、イングレイの家族もなかなか強烈。

 養親のネタノは野心満々の政治家。野心が強いのはネタノに限らず、政敵のエシアトや終盤で出てくるディカット議長も同様で、この人の描く政治家ってのは、こんなんばっかw まあいい。野心が強いだけでなく、養子のイングレイとダナックにも競争をけしかけるからタチが悪い。

 そのダナックも政治的な立ち回りは巧みで、ライバルを蹴落とす機会は見逃さないタイプ。これじゃイングレイも屈折するよなあw

 とかの小さな人間関係に、オースコルド家とバドラキム家の勢力争いと、フワエとオムケム連邦の陰険な外交が絡み合うだけでも複雑なのに、異星種族のゲックまで加わってくるからややこしい。

 と、ドラマは、それぞれが思惑を抱えて腹を探り合う駆け引きが中心なので、できれば一気に読んだ方がいい。

 そんなドラマが展開する舞台も、独特のクセがあるのが、この著者。「叛逆航路」シリーズではお茶と手袋が印象的だったが、この作品ではヌードルかな? この世界、服装はインドの文化の影響が強いように思うんだが、食べ物は中国や東南アジアの文化を継いでるみたいだ。

 チラホラとラドチャーイの情勢が伝わってくるのも、シリーズの読者としては嬉しいところ。敢えて性を混乱させているのも相変わらず。でもトークリス、いい子だよねえ。加えてこの作品では、「家族」も大きなテーマとして浮き上がってきたり。

 など、緻密で複雑な設定はあるものの、基本はイングレスの波乱万丈の冒険物語。ストレートな娯楽作品として、存分に楽しめた。

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2018年10月22日 (月)

ソフィア・サマター「図書館島」東京創元社 市田泉訳

「言葉とは崇高なもの。書物の中でわれらは死者と交流できる。それ以上の真実など存在しない」
  ――第八章 <没薬の塔>

「あたしにヴァロンを書いて。あたしの声をその中に入れて。あたしを生かして」
  ――第十一章 <アヴァレイの帯>

母さんの涙は母さんの財産。母さんが山ほど持ってるたった一つのもの。
  ――第十七章 馬の館、わが宮殿

「生きてたころ、命があったころでさえ」天使はわたしにささやいた。「今ほど生きたいとは思ってなかった」
  ――第十八章 春

【どんな本?】

 新鋭ファンタジイ作家ソフィア・サマターの第一長編。

 南の海に浮かぶ紅茶諸島、ティニマヴェト島のティオム村。主人公ジェヴィックは、広い胡椒農園を持つ家に生まれる。その年も、父は北にある帝国オロンドリアの大都市ベインに出かけた。海を越え胡椒を売るために。

 そして、奇妙な客を連れて帰った。家庭教師のルンレ先生。ベインの紳士の教育を、オロンドリア語の読み書きを、跡取りのジェヴィックに授けようと。穏やかで粘り強いルンレ先生は、ジェヴィックに読み書きを、本への愛情を、そして見知らぬ土地への憧れを植え付ける。

 成長してベインへと船出したジェヴィックは、船上で死病キトナを患う少女ジサヴェトに出会う。この出会いにより、ジェヴィックは更なる旅へと引き立ててゆく。

 やや古めかしい文体で綴られた、本格的ファンタジイ。

 2014年世界幻想文学大賞長編部門、2014度英国幻想文学大賞ファンタジイ長編部門、2014年ジョン・W・キャンベル新人賞、2014年クロフォード賞受賞。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は A Stranger in Olondria, by Sofia Samatar, 2013。日本語版は2017年11月30日初版。単行本ハードカバー縦二段組みで本文約330頁。9ポイント24字×21行×2段×330頁=約332,640字、400字詰め原稿用紙で約832枚。文庫本なら厚い一冊か薄い上下巻ぐらいの長さ。

 文章はやや古めかしい、おとぎ話風の文体。一種のハイ・ファンタジイで、舞台は独自の世界だ。中世の欧州風だが、西欧ファンタジイのお約束を知らなくても大丈夫。

【感想は?】

 じっくりと書き込まれたオンドリア世界と、そこで生きる人々が魅力の作品。

 お話は、主人公ジェヴィックの冒険の旅が縦軸となる。が、肝心のジェヴィックが、やや学者気質のヘタレ男なため、勇ましい場面はほとんどない。運命の嵐に巻き込まれ、右往左往するばかり。

 その分、前半では、隅々まで細かく考え抜かれた作品世界が逞しく息づいている。

 明るい陽光と豊かな雨に恵まれた紅茶諸島。故郷のティオム村は、ジュートに代表される迷信が深く根付く。

 大きな港を擁する大都市ベインには、幾つもの店が軒を連ね、群衆がひしめき、狂乱の祭りが催される。にわか雨の際の雨宿りの風習は、いかにも商売の町らしい。

 そして、後半でジェヴィックとミロスが冬を越す、捨てられたイェイダスの館と、その東に広がる荒涼たるケステニヤの冬の景色。

 などの風景の中もいいが、その世界の中で人々の口から語られる、数々の物語こそ、私が最も惹かれた所。

 魔法使いフィンヤの許されぬ恋を描く、<谷>のロマンス。まあ、オチはだいたい想像がつくけど、それでも読んでしまうのは物語好きの性だろう。

 漁師の美しい娘ミルハヴリと金と赤の男の物語。これは民話にありがちな設定と思わせて、なかなか斬新な結末。

 誠実な恋人たちヒヴナウィアとタウア、とくればロミオとジュリエットを期待させ…

 そして一種の創世神話、最初の男チーと最初の女キョーミ。いかにも南国風な奇想天外な出だしで、ちょっとポボル・ヴーやミクロネシアの香りがする。

 いずれも絵本になりそうな、懐かしい雰囲気のおとぎ話だ。

 それと並行するように描かれる、それぞれの登場人物の人生も、切ない運命に満ちている。穏やかで都会的な知識人のルンレ先生が、なぜド田舎の紅茶諸島へと流れ、住みついたのか。お調子者に見えるミロスが、なぜ大神官の従者を務めているのか。

 そんな中で最も盛り上がるのが、業病キトナを患った少女ジサヴェトの物語。

 お話の流れとしては終盤になるんだが、それだけにこの「図書館島」世界が読者の心の中で息づいていて、「あの狭いティニマヴェト島に、こんな側面があったのか!」と、読む者の驚きもひとしおだ。

 他でも、こういう細かい所にまで物語が息づいているのが、この作品の油断できない所。

 やはり強い印象を残すのが、ジェヴィックとミロスが逃避行の途中で立ち寄る、荒れた農家の場面。住んでいるのは女四人と老いた男だが、仕切るのは若い娘。一晩立ち寄っただけの家なのに、やたら強い印象を残す。

「この子がいちばんきれいになるはずだったのに」

 隅々まで丁寧に創られた作品世界と、そこに住む血肉と人生を感じさせる人々。やや古めかしい文章は、最初いささかとっつきにくいが、じっくり読むと色鮮やかな風景が広がってくる。時間をかけて、のんびりと作品世界に浸ろう。

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2018年10月 3日 (水)

ケン・リュウ編「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」新☆ハヤカワSFシリーズ 中原尚哉他訳

「あなたの症状はわたしにはない。私の症状はあなたにはない」
  ――麗江の魚

「生き残るのは愚か者だけ。愚か者だらけの社会は安定する」
  ――沈黙都市

“お話、売ります。特別で高価なお話。ほかに類のない体験ができます”
  ――コールガール

「わしらは神じゃ。この世界の創造主への恩返しだと思って、食べ物をめぐんでくださらんか」
  ――神様の介護係

SFは可能性の文学である。
  ―― ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球:三体と中国SF

【どんな本?】

 短編集「紙の動物園」で大ヒットをかっ飛ばした新鋭SF作家ケン・リュウは、同時に盛んに中国SFを英語に訳して米国に紹介し、ついには劉慈欣の「三体」で2015年のヒューゴー賞長編部門、2016年にも郝景芳の「折りたたみ北京」で同賞ノベレット部門を受賞している。

 そのケン・リュウが、中国SFの最も美味しい所を選り抜いて編んだ、中国SFの今を伝えるアンソロジー。「三体」の抜粋「円」、ヒューゴー賞受賞の「折りたたみ北京」を含む。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Invisible PLanets : Contemporary Chinese Science Fiction in Translation, Translated and edited by Len Liu, 2016。日本語版は2018年2月25日発行。新書版で縦二段組み、本文約395頁に加え、立原透耶の解説7頁。9ポイント24字×17行×2段×395頁=約322,320字、400字詰め原稿用紙で約806枚。文庫なら厚い一冊か薄い上下巻ぐらいの文字数。

 文章はこなれている。内容はバラエティに富み、現代中国の社会を強く反映した作品から、近未来を舞台としつつノスタルジックな味わいの佳作、思わずポカンとしてしまう法螺話など、色とりどりだ。

【収録作は?】

 著者ごとに著者紹介が1頁ある。日本語訳は鳴庭真人。各作品は 日本語作品名 / 中国語作品名 / 英語作品名 / 中国での初出 / 米国での初出 / 訳者 の順。

序文 中国の夢 劉宇昆  / Ken Liu  / 古沢嘉通訳

●陳楸帆 / Chen Qiufan

鼠年 / 鼠年 / The Year of the Rat / 科幻世界2009年5月号 / F&SF2013年7・8月号 / 中原尚哉訳
 大学を卒業しても職にありつけそうにない僕は、「除隊後の就職保証」に惹かれ、鼠駆除部隊に入った。鼠ったって、普通の鼠じゃない。高価なペットとして遺伝子改造されたネオラットだ。集団で脱走したのか、何かの思惑のために誰かが放したのか。
 新兵の配属基準は国それぞれで、イギリスや旧帝国陸軍は地域ごとに部隊を作った。中国のコレは、チベットなどの内紛鎮圧も多い人民解放軍は、この作品みたいな工夫をしてるとか。厳しい就職事情、西側の製造工場としての役割なども含め、、現代中国の世相を強く反映している。
麗江の魚 / 丽江的鱼儿们 / The Fist of Lijian / 科幻世界2006年5月号 / クラークスワールド2011年8月号 / 中原尚哉訳
 PNFDⅡ、心因性神経機能障害Ⅱと診断された僕は、二週間の休暇を取り麗江でリハビリする羽目になる。麗江に来るのは十年ぶり。僕も麗江も大きく変わった。飲んでナンパに励んだ僕、貧しい若者で溢れていた麗江。でも今は何もかもが演出された観光地。そこで出会った彼女は…
 これもまた、変わりつつある中国の姿を巧みに伝える作品。昔の「地球の歩き方」だと、「メイヨー(没有)」の国って感じで、良くも悪くものんびりしてユルいって印象があった。が、この作品の冒頭では全く違い、厳しい出世競争に励む社畜の群れを描いている。
沙嘴の花 / 沙嘴之花 / The Flower of Shazui / 少数派报告(2012) / インタ-ゾーン2012年11・12月号 / 中原尚哉訳
 経済特区として急発展した深圳の東、沙嘴村。不動産バブルの期待で高層ビルの森ができたがアテが外れ、今は貧しい移民街となっている。家主の沈姐はいい人だし、その友達の雪漣は有名な娼婦だ。僕は屋台でボディフィルムと改造版ARソフトを売っている。
 ニューロマンサーやブレードランナーの舞台で、ヘタレなエンジニアくずれを主人公とした、香港ノワールって感じ。これまた急激に発展した経済特区を背景に、その裏に集まる正体不明の有象無象に焦点を当てた、現代中国ならではの作品なんだけど、オジサンにはかすかに漂う昭和のアウトロー映画の香りが心地よかったり。

●夏笳 /  Xia Jia

百鬼夜行街 / 百鬼夜行街 / A Hundred Ghosts Parade Tonight / 科幻世界2010年8月号 / クラークスワールド2012年2月号 / 中原尚哉訳
 百鬼夜行街は、歩けば一時間ほどの通りだ。ぼくは赤ん坊のころ蘭若寺に捨てられ、燕赤霞に拾われた。今は小倩と一緒に暮らしてる。時代遅れの百鬼夜行街から観光客は遠のき、寂れる一方。「いずれあなたはここを出て、現実の世界で生きる」と小倩は言うが…
 小倩が髪をくしけずる場面で大笑い。そういう事ができるなら、そりゃ便利だよなあ。タイトルから化け物大行進のホラーかと思ったら、語り手は小さい男の子だし、妖怪に育てられた子供かと思ったら…。
童童の夏 / 童童的夏天 / Tongtong’s Summer / 最小说2014年3月号 / Upgraded(2014) / 中原尚哉訳
 童童は木登りが得意な子。お医者さんとして忙しく働いていたおじいちゃんが足を折り、一緒に住むことになった。車椅子のおじいちゃんを介護するため、パパはロボットの阿福を連れてくる。阿福は賢くて何でも出来るけど、おじいちゃんは不機嫌で…
 これぞまさしく老人SF。新しいテクノロジーというと若者向けって印象があるけど、こういう使い方もあるんだなあ。特に趙おじいちゃん登場以降は、見事なアイデアとスピード感でグイグイ読ませる引きの強さ。著者の祖父への想いが伝わってくる佳作。
龍馬夜行 / 龙马夜行  / Night Journey of the Dragon-Horse / 小说界2015年2月号 / 本書初出 / 中原尚哉訳
 馬のような胴、龍の首と頭、長い髭、鹿の枝角。機械の体を覆う金色の鱗。かつての龍馬は、機械の蜘蛛を相手の公演で、大人気を博した。だが、今は誰もいない。博物館のホールは廃墟となり、大通りには木々が茂り、龍馬の体も錆びている。
 「ヨコハマ買い出し紀行」や「少女終末旅行」のような、「静かな終末」物。人類が去り、長い時を経て目覚めた龍馬の、追憶と旅の一部分を切り取って描く。

●馬伯庸 /  Ma Boyong

沈黙都市 / 寂静之城  / The City of Silence / 科幻世界2005年5月号 / ワールドSFブログ2011年11・12月号 / 中原尚哉訳
 2046年。当局はすべてのウェブアクセスを監視している。言葉すら、使えるのは健全語リストに載っている言葉だけ。締め付けは厳しくなる一方だ。せめてBBSを使おうと、アーバーダンは当局に申請を出す。許可を受けるため当局に出頭するアーバーダンは…
 ジョージ・オーウェルの「1984」の影響を受けた、とあるが、私はレイ・ブラッドベリの「華氏451度」を連想した。徹底した当局の監視と、それをスリ抜けようとするネットユーザの工夫のイタチゴッコは、なかなか楽しい。いや作品は暗く陰鬱な雰囲気なんだけど。

●郝景芳 /  Hao Jingfang

見えない惑星 / 看不见的星球  / Invisible Planets / 新科幻2010年2~4月号 / ライトスピード2013年12月号 / 中原尚哉訳
 「あなたが見てきて魅力的だった惑星の話を聞かせて。残酷な話や不愉快な話は抜きにして」。そして、僕は語り始める。例えばチチラハ。美しく植物に覆われ、食事もおいしい。だが、この星に住みつく者は滅多に居ない。その原因はチチラハ人で…
 旅人が語る、奇想天外な惑星とそこに住む人々たち。紹介ではイタロ・カルヴィーノを引き合いに出しているが、私はスタニスワフ・レムの「泰平ヨン」シリーズや、カート・ヴォネガットが作品中に差し挟む挿話を連想した。星新一の同じテーマのショート・ショートを集めた、そんな雰囲気で、この作品集の中では最もとっつきやすい。
折りたたみ北京 / 北京折叠  / Folding Beijing / 文芸風賞2014年2月号 / アンカニー2015年1・2月号 / 大谷真弓訳
 老刀は48歳。北京で生まれ育った。第三スペースに住み、ごみ処理施設で働いている。第二スペースで預かった手紙を、第一スペースに運べば、大金が手に入る。特に今は、音楽が好きな糠糠をいい幼稚園に入れるための金が欲しい。そこで第一スペースに忍び込むため…
 タイトルにもなっている「折りたたみ北京」のインパクトが光る。ここまでハッキリと社会の階層を視覚化したアイデアが見事だ。お話は「おつかい」で、ある意味ハードボイルドな冒険物語。なんだけど、主人公のオッサン老刀が、何かとお人よしなあたりが泣かせます。

●糖匪 /  Tang Fei

コールガール / 黄色故事 / Call Girl /  / エイペックス2013年6月 / 大谷真弓訳
 15歳の小一は、バスを三回乗り換えて学校に通う。学校は退屈だ。誰も小一には話しかけてこない。でも、みんなの噂だ。相手はみんな、年上の大金持ちだ、と。校門の前に小型車が止まる。ドアを開け、小一を待っている。
 タイトルといいオープニングといい学校での風景といい、散々ハァハァさせといて、そうきたかw

●程婧波 /  Cheng Jingbo

蛍火の墓 / 蛍火之墓  / Grave of the Fireflies / 科幻・文芸秀2005年7月号 / クラークスワールド2014年1月号 / 中原尚哉訳
 千年前から、恒星は老いて光を失い始めた。九人の祭司が原因を探ったが、誰にもわからない。王は祭司たちの首をはねたが、強い魔力を持つ祭司は生きのびた。人々は牛車の列を連ね、夏への扉を目指す。宇宙で最後にともった明かり、<無重力都市>へ。
 これもまた、「静かな終わり」の風景を描く、ファンタジックな物語。

●劉慈欣 /  Liu Cixin

円 / 圆  / The Circle /  / Carbide Tipped Pens(2014) / 中原尚哉訳
 中国、戦国時代。燕の太子は荊軻(→Wikipedia)に秦の政王(後の始皇帝)の暗殺を命じた。だが荊軻は政王に企みを明かす。荊軻の知と才が気に入った政王は、荊軻に秦軍の強化策を求める。荊軻は弓・戦車・橋などの改良で実績をあげた。政王は、荊軻に知恵の源を尋ね…
 刺客として有名な荊軻を、こう料理するかあ。著者自らもエンジニアだからか、仕掛けづくりと改良となると、他に何も見えなくなるエンジニアの業がよく描けている。叶うなら秦軍勢揃いの場面を実写で観たいものだw 最適化を試みるあたりは、もう大爆笑w
神様の介護係 / 赡养上帝  / Taking Care of God / 科幻世界2005年1月号 / パスライト2012年4月号 / 中原尚哉訳
 三年前、空は二万機の宇宙船で覆われた。しばらくして、世界中で高齢の浮浪者が増える。「わしらは神じゃ。この世界の創造主への恩返しだと思って、食べ物をめぐんでくださらんか」。20億人もの老いた神を養う羽目になった人類は…
 これまた大爆笑の短編。特に国連総会の場面とか、もうたまんないw 「童童の夏」同様、優れた老人SF。食い意地が張っている上に、いろいろと間が抜けちゃいるが、妙に気弱でお人好しな「神」の性格付けがいい味出してる。

エッセイ:いずれも日本語訳は鳴庭真人。

  • 劉慈欣 / ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球:三体と中国SF / The Worst of All Possible Universes and the Best of All Possible Earths: Three-Body and Chinese Science Fiction
    清王朝末期から現代までの中国SFの変転と、<三体>が大ヒットに至る過程を語る。まるきしファイナル・ファンタジーだなあ。
  • 陳楸帆 / 引き裂かれた世代:移行期の文化における中国SF / The Torn Generation : Chinese Science Fiction in a Culture in Transition
    現代中国に見られる分裂を描く。似たような状況はアメリカや日本にもあって、これは世界的な現象なのかも。魯迅がSFに言及していたとは知らなかったが、ヴェルヌの「地底旅行」を訳してたのか。
  • 夏笳 / 中国SFを中国たらしめているものは何か? / What Makes Chinese Science Fiction Chinese?
    やはり中国SFの歴史を辿り、現状を報告する。思った通り、かつてはソ連SFの影響が強かった模様。そこにアメリカ文化が入ってきて、現在の活況に至る、と。人口を考えれば中国市場は大きいし、今後も発展を続けるんだろうなあ。

 ハードボイルド・タッチの陳楸帆、ファンタジックな夏笳、郝景芳の大法螺、ユーモラスな劉慈欣と、芸風も作品も多種多彩。にも関わらず、道端の若者たちは丼を抱えてたり、楽器は二胡だったり、化け物がアレだったりと、細かいところに中国の社会と文化が滲み出るのも、これまた一つのセンス・オブ・ワンダーかも。

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2018年9月24日 (月)

ピーター・トライアス「メカ・サムライ・エンパイア」新☆ハヤカワSFシリーズ 中原尚哉訳

「軍や警察が出てきたら、こちらは後退しましょう」
「出てこなかったら?」
範子は微笑んだ。
「好都合です」
  ――p86

「僕の死に場所はメカのなかだ」
  ――p91

「私たちは本音を話せない。みんなそうよ」
  ――p141

「久地樂といえば史上最高のメカパイロットの名だ」
「いいや、二番やな」
  ――p242

【どんな本?】

 前作「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」で大旋風を巻き起こし、2017年の第48回星雲賞海外長編部門をもぎ取ったアメリカの新鋭SF作家ピーター・トライアスによる、同シリーズの続編。

 第二次世界大戦で日本とドイツが勝った世界。北米大陸は日本が西海岸を、ドイツが東海岸を支配する。表向きは友好的に振る舞う両国だが、互いに相手のスきを窺っていた。

 1994年冬。マックこと不二本誠は、1984年のサンディエゴの戦いで両親を喪う。数か月後の高校卒業の後は、母と同じメカパイロットになるのが将来の希望だ。

 目指すバークリー陸軍士官学校は狭き門で、特に筆記試験が覚束ない。唯一の希望は模擬戦試験で、そのため電卓ゲームで日々腕を磨いている。そんなある日、友人の菊池秀記が妙な話を持ちかけてきたが…

 「USJ」同様、偽善に満ち抑圧的な社会背景はそのままながら、バラエティ豊かなメカと得物をふんだんに盛り込んだ派手なメカ・バトルを散りばめつつ、メカ乗りの若者たちの戦いを描く、青春ロボット・アクションSF長編。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Mecha Samurai Empire, by Peter Tieryas, 2018.9.18。日本語版は2018年4月25日に文庫本と同時に発行。日本語版が先に出たのだ、わはは。新書版で縦二段組み本文約428頁に加え、堺三保の解説5頁。9ポイント24字×17行×2段×428頁=約349,248字、400字詰め原稿用紙で約874枚。文庫本では上下巻で出ている。

 文章はこなれているし、訳者の工夫か独特のノリがあって、心地よく読める。舞台はお馴染みのUSJ世界だが、前作を読んでなくても充分に入っていける。表紙で分かるように巨大ロボットが大暴れする話なので、そういうガジェットは満載。

【感想は?】

 学園スーパーロボット大戦。

 ゲーム屋のオッサンが主人公だった前作に対し、今回の主人公マックこと不二本誠は、メカ・パイロットに憧れる高校三年生。主人公だけでなく、彼を囲む者も、同年代の若者たちだ。

 そのためか、物語全体に活気がほとばしると共に、若者らしい真っすぐな気持ちも満ち溢れている。もちろん、彼らを取り巻く社会はお馴染みのUSJ世界なために、努力や実力が素直に認められるほど単純じゃない。マックの育ちからして、この世界の矛盾を嫌というほど読者に突きつけてくる。

 あーゆー社会だけに、権力の暴走には歯止めが効かない。さすがに上層部の動きまでは高校生ごときには分からない。だが、教師や軍人などの身近な「権力者」の理不尽な横暴は、後ろ盾がなく立場の弱い高校生だけに、容赦なくわが身に降りかかってくるし、否応なく社会の歪みを感じさせるところ。

 こういうシンドい状況に置かれながらも、メカ・パイロットになる夢は捨てきれないのが誠の主人公らしさ。

 右往左往しながらも、なんとかパイロットになろうと苦闘する彼の周囲にも、パイロット志望の若者たちが集まってきて。この面々が、これまた実に青春アクションらしく個性豊かで面白い奴ら。舞台設定が暗く残酷なだけに、若きパイロットたちの生きざまが清々しい。

 私が最も気に入ったのが、最初に登場する橘範子ちゃん。名家の出て成績も優秀。リーダーシップもあり、人望も厚い。どう見てもエリートの卵でありながら、「その他大勢」に属する誠への態度も丁寧。完全無欠の完璧超人かと思いきや、最初の戦闘では意外な側面を見せ…

 いいなあ、こういう性格w 身近にいたら、仲良くしたいと思いつつも、底知れなさが少々怖かったりするけどw でも何故かメイン・ヒロインじゃないんだよなあ。

 やはり強い印象を残すのが、RAMDETの同僚となるスパイダー。オッサンである。ベテランらしく、パイロットに必要な技術や知識だけでなく、軍の裏側もよく知っていて、それを鼻にもかけず親切に教えてくれる。古参の軍曹が同僚になってくれたようなもんで、実に頼りになる人。なんだけど…

 スパイダー同様、頼れる同僚が千衛子。範子と同様、パイロットとしての腕は絶品ながら、育ちはアレな所が親しみやすい。レスリングの経験もあり、接近戦では優れたセンスを見せるものの、お気に入りの得物は…。なんじゃそりゃw

 そう、この作品のロボット物としての面白さは、出てくるロボットと得物のバラエティが豊かなこと。どういうわけか飛び道具はあまり活躍せず、接近戦用の得物が異様に発達している。これがパイロットのアクの強い性格と相まって、各ロボットの個性をクッキリと際立たせる。

 こういう所がスーパーロボット大戦的で、好きな人には実にワクワクする。中でも意外なのが、終盤に登場する五虎の筆頭、カズ。いかにもリーダーらしく実力と人格を備えた正統派のヒーロー然としたお方なのに、得物はどうみてもイロモノw それをちゃんと使いこなすあたりが、リーダーなんだろうw

 この五虎が揃って戦う場面は、得物のバラエティもあって、まさしくスーパーロボット大戦。もっとも私は五人って所でガンダムWを想像したけど、そこは各自お好きなものを思い浮かべよう。

 そして、私のご贔屓の範子ちゃんを差し置いてメイン・ヒロインを務めるのが、グリゼルダ・ベリンガー。ドイツからの交換留学生。日本とドイツが睨み合う世界なだけに、彼女の立場も複雑で。ガンダム・シリーズだと、最も人気の高いヒロインの彼女かなあ。

 敵となるドイツのバイオメカも、バラエティが豊かなだけでなく、敵らしく気色悪いあたりが、実によくわかっていらっしゃる。終盤で明らかになる気色悪さの正体も、これまた想像を絶するもので。

 アチコチに散りばめられた漫画・アニメ・ゲーム関係のイースター・エッグも楽しいし、アフリカやアフガニスタンなどUSJワールドの世界情勢も面白い。何よりタップり詰まったロボット・バトルが熱く、勢いは前作の三倍増し。理屈抜きで楽しめる娯楽アクション作品だ。

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2018年9月10日 (月)

デニス・E・テイラー「われらはレギオン 1 AI宇宙探査機集合体」ハヤカワ文庫SF 金子浩訳

「きみは、みずからをロバート・ジョンスンだと思っているコンピュータ・プログラムなんだ。複製人(レプリカント)なんだよ」
  ――p30

うわあ、これって全おたくが夢にまで見る仕事じゃないか。ぼくは宇宙へ行けるんだ!
  ――p59

ぼくは自分のシリアルナンバーを問い合わせた。
  ――p151

宇宙を遊び場にするのは楽しいが、正直いって寂しかった。
  ――p231

【どんな本?】

 カナダ生まれの新人SF作家、デニス・E・テイラーのデビュー作にして、三部作の開幕編。

 プログラマのロバート・ジョハンスン(ボブ)は、自動車に轢かれて死ぬ。次に目覚めたのは2133年。ロバートは、コンピュータ内のプログラムになっていた。合衆国はキリスト教原理主義者 FAITH が支配し、世界は幾つかの国が睨み合って実力行使寸前に陥っている。

 FAITH の目的は、ボブを他の恒星系に送り出し、植民地を見つけさせること。自分のコピーを作って増殖しながら、幾つもの恒星系を巡り、人が移り住める惑星を探す。

 ボブは抹香臭い FAITH が大嫌いだ。でも孤独には強く、濃いSFヲタクなだけに、この使命には大乗り気。かくして狂信者とヲタクはギクシャクしながらも手を組み、広大な宇宙へと乗り出そうとするが…

 (ある種の人には)親しみやすくユーモラスな語り口で、SFガジェットとヲタクなネタをギッシリ詰めこんだ、明るく楽しいスペースオペラ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は We Are Legion (We Are Bob), by Dennis E. Taylor, 2016。日本語版は2018年4月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約435頁に加え訳者あとがき4頁。9ポイント41字×18行×435頁=約321,030字、400字詰め原稿用紙で約803枚。文庫本では厚い部類。

 文章はくだけていて読みやすい。内容はSF度もヲタク度もやたら濃い。リアル・ハッタリ双方を交えたガジェットは次々と出てくるし、スターウォーズやスタートレックなどの引用やパロディも満載。つまりは、そういうのが好きな人向け。

【感想は?】

 おそ松さん、宇宙を行く。

 なんたって、主人公のボブがいい。自分がプログラムになっちまったなんて、あんまりな状況を、アッサリと呑み込んで受け入れちゃったり。

 そもそも普通の人は、「自分はプログラムである」なんて状況、理解すらできないでしょ。人は人、機械は機械、プログラムはプログラム。一般人にとって、それぞれ全く違うものだ。これをあっさりと納得し、しかも他ならぬ自分がそうだってのを、スンナリ受け入れてしまう。

 SFヲタクだから概念には慣れているし、エンジニアだから思考も現実的で、まず問題解決を考える。そんな主人公の性格のお陰で、お話はスラスラと進んでゆく。こういう、ストーリーを停滞させがちな心理描写にあまり文章を割かない所は、「火星の人」と似ている。

 おまけに楽天的…というより能天気。たった一人で宇宙に放り出されるってのに、「宇宙旅行ができるなんてラッキーじゃん」などと喜んでる始末。ボブの面倒を見るランダーズ博士も、面食らっただろうなあ。博士の柔軟性も相当なもんだ。

 とかの人物を中心に据えたためか、展開はスピーディーで心地よい。

 心理描写を省いた分、ギッシリと詰めこんであるのが、SFガジェットとヲタクなネタ。

 生きてた?頃から、SF大会の常連なんてヲタクだ。そのため、会話の度にSF映画やコミックのネタが続々と飛び出す。定番の指輪物語やスターウォーズやスタートレックに始まり、宇宙空母ギャラクティカやらフラッシュ・ゴードンやら。私が偏愛するショート・サーキットが出てきたのも嬉しかったなあ。

 こういう細かいネタにシッカリとついて行く翻訳者もたいしたもの。

 そして、ストーリーを力強く後押しするのが、惜しげもなく散りばめられたSFガジェット。なにせ恒星間航行の話だ。距離も光年で表す、とんでもない彼方。さすがにバサード・ラムジェットとはいかず、推進方法はハッタリをカマしてる。

 が、そこから先は、シッカリと考えてる。例えば通信だ。情報を伝える方法として、最も速いのは光だが、所詮は光速でしか伝わらない。太陽系内ぐらいなら、遅延はせいぜい数分から数時間で済む。が、恒星間となると、数年単位の遅れとなる。

 この遅れを活かしたお話作りは、ちょっとラリイ・ニーヴンの「地球からの贈り物」を思い出したなあ。

 やはり仕掛けとして効いてるのが、ボブの自己増殖能力。

 自分のコピーを造れるのだ。しかも、オリジナルの記憶を完全に引き継ぎいで。ただし、なぜか微妙に性格が違う。だもんで、気が合う奴もいれば、ソリが合わない奴もいる。テンポがよくコミカルな語り口と相まって、おそ松さんなのは、こういう部分。

 だったらやり放題になりそうなモンだが、そうはいかないのがこの世の常。わかりやすい敵は序盤から出てくるが、それ以上に制約条件が厳しい。

 なんたって、主な舞台は宇宙空間だ。そこには何もない。コピーを造ろうにも、原材料がない。だから、まず原材料となる金属などの重元素を見つけなきゃいけない。ちなみに宇宙で最も多いのは水素で、原子番号が大きい元素ほど少ない。しかも分布にバラつきがあって…

 とかの原材料の制限に加え、自己増殖能力にも制限がある。

 なんであれ、モノを造るには時間がかかる。大きく複雑なモノほど、多くの時間を喰う。最も役に立つのはボブの複製なんだが、役に立つだけに原材料も時間も沢山必要だ。

 お話が進むにつれ、ボブと愉快な仲間たちは、様々な問題に出くわす。たいていは時間制限つきで、急いで問題を解決しなきゃいけない。では、限られた原材料と道具と時間で、もっとも効果的な対策を講じるには、どうすればいいか?

 ここで効いてくるのが、敵の性質と、その拠点、そして恒星間の距離。実に悩ましく、だからこそお話としての仕掛けが面白い。

 などに加え、ボブたちが出会う問題が、今までのSF総決算みたいな感じで、齢経たSF者は「このネタはもしかして…」みたいな感慨に浸るだろう。エリヌダス座デルタ星系の話とかは、ロジャー・ゼラズニイの傑作を…

 親しみやすくユーモラスな語り口で、テンポよくお話が転がってゆく、心地よい娯楽SF。口当たりがよいわりに濃いあたりは、スクリュードライバーみたいな読み心地。老いも若きも楽しめる、新世代のスペースオペラだ。

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2018年8月27日 (月)

パク・ミンギュ「ピンポン」白水社 斎藤真理子訳

原っぱのど真ん中に卓球台があった。どういうわけだか、あった。
  ――p8

こんなふうにして人類も、自分のフォームを整えているのかな?
  ――p136

僕らの、初の、公式の、試合だ。
  ――p231

【どんな本?】

 韓国の作家パク・ミンギュによる、現代の韓国の男子中学生を主人公とした長編ファンタジイ小説。

 中学生の釘とモアイは、日課のようにチスに殴られている。噂じゃ、高校のワルどもまでチスにビビってる。他の奴らは、みんな見て見ぬフリをしてる。みんな釘とモアイを無視してる。

 初夏のある日、釘とモアイは、原っぱで卓球台を見つけた。卓球台と古びたソファー、それと錆びて開かない棚。やがて二人はラケットを手に入れて卓球を始める。ラリーが始まり、世界が動き始めた。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017海外篇の27位、2017年度の第8回Twitter文学賞海外部門第2位。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は 핑퐁, 朴玟奎(박민규), 2006。日本語版は2017年6月15日発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約235頁に加え、あとがき「近くの卓球場に行ってごらん」5頁+訳者あとがき7頁。9ポイント45字×18行×235頁=約190,350字、400字詰め原稿用紙で約476枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容もわかりやすい。舞台は2000年代の韓国の都市部だろう。人名や食べ物などの固有名詞を除けば、雰囲気も風俗も現代日本とあまり変わらないので、スルリと作品世界に入っていける。あ、もちろん、SF/ファンタジイなので、ブッ飛んだ仕掛けはあるんだけどw

【感想は?】

 いじめの描写が凄まじい。

 中学生ってのは、図体だけデカくなり筋力もついちゃいるが、中身はガキのまんまだ。特にワルどもの世界は、ケダモノの理屈で動く。弱肉強食、ツッツキの序列が支配している。

 言葉をしゃべるから人間のように見えるし、連中も人間を装った方が得だと知っている。大人の世界も実態は力関係で決まると判っているから、権力を持つ者の前じゃいい子のフリをす知恵もある。そういう、損得にはやたら敏い奴が、チスだろう。

 そこに釘やモアイみたいな羊を放り込んだら、そりゃまあ…。釘が「僕も早くお年寄りになって」とか考えるあたりは、行き場のない中学生の絶望がよく出てる。こういうのは国を問わず似たようなモンなんだろう。

 そんな釘とモアイの世界が、卓球をきっかけに広がり始める。「行き場」ができるわけ。とは言っても、決して楽園ではなく、やっぱり変な人ばっかりなんだが。

 中学生から見たら、大人はしっかりしてそうに見える。でも、自分が大人になってみると、案外とそうでもない。というか、世の中には変な奴がいっぱいいる。「ハレー彗星を待ち望む人々の会」の面子も、濃い奴ばかりで、SF者としては楽しそうだな、と思ったり。キャサリンを愛する男とか、切ないねえw

 そういう、学校とは違う世界を開くキッカケとして、ラケットを選ぶ場面は、なかなか印象的。小突き回されるだけの釘が、これを機会に少しづつ自分を取り戻してゆく。

 だからって突然に世界が変わるわけでもなく。同じバスに乗り合わせた人々のおしゃべりなどをダラダラと描くところでは、現代韓国の都市に暮らす人々の姿が目に浮かんでくる。

 やはりSF者として興味を惹かれるのが、作中作として出てくる無名作家ジョン・メーソンの作品。なんじゃい「放射能タコ」って。オチもヒドいw ボウリングの話もイカれてる。こういう山椒は小粒でピリリと辛い芸風は、若い頃のカート・ヴォネガットを連想したり。いやストーリーは破綻してるんだけどw

 かと思えば、「世界を握ってた三人の老人」なんてくだりは、R・A・ラファティが使いそうなガジェット。もしかしたら聖書のネタなのかしらん。実はSFを書きたいんじゃなかろか、この著者。

 卓球に関するデタラメなウンチクも、民明書房というかゲームセンターあらしというか。セクラテンなどの真面目なネタで読者の警戒を解きながら、気が付けばとんでもねえホラに付き合わされてたりするのは、ベルナール・ウェルベルの手口に似てるかな。

 これが終盤に至ると、「たかがピンポン」と思っていたのが、とんでもない決断を任される事態になっちゃったり。にしても、なんでこの二人を選ぶw いや厨房らしいけどw

 強く冷酷で面の皮が厚くズル賢い奴らに、殴られ踏みつけられ奪い取られコキ使われ、他の者からは無視され除け者にされた、釘とモアイの決断はいかに。小説の概念を突き破る、破格の作品。「ヘンな話」が読みたい人にお薦め。

 なお、Kool & The Gang の Celebration は、こういう曲です(→Youtube)。懐かしいなあ、このビート、チャララッって感じのギター。

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2018年8月19日 (日)

S・K・ダンストール「スターシップ・イレヴン 上・下」創元SF文庫 三角和代訳

ライン9と10の役割はわかっているが、7と8がなにかはっきり知る者はいない。
  ――上巻p95

「秘密兵器を持っていたらな、イアン、みだりに見せびらかさないことが最善なんだよ」
  ――下巻p85

【どんな本?】

 オーストラリア出身の姉妹、シェリル&カレン・ダンストールによるデビュー作。

 500年前、人類は「ライン」を発見した。これにより人類は銀河系へと進出する。ラインを用いると、ボイド空間を介してジャンプできるのだ。ラインは1から10まであり、それぞれ役割が違う。1がクルーの健康維持、2が喚起・暖房など、9がボイド空間の出入り、10がボイド空間内のジャンプを担う。

 ただし、ラインの実態は完全には分かっていない。例えばライン7と8の枠割は不明だ。

 ラインの保守と調整は、専門の資格を持つ「ラインズマン」の仕事だ。ライズマンにはレベルがあり、資格を得るには才能と修業がいる。上位レベルのラインズマンは下位レベルのラインも扱えるが、逆はできない。最上位であるレベル10のラインズマンは貴重で、銀河全体でも50人ほどしかいない。

 半年前、「合流点」が発見された。ラインと深い関係があるらしい。レベル9と10のラインズマンは根こそぎ合流点の調査に駆り出された。

 例外はイアン・ランバートのみ。イアンは歌ってラインを操る。こんな方法を使うのはイアンだけで、ラインズマン・ギルドの中では異端扱いだ。雇い主のリゲルは弱小カルテルだが、ラインズマン不足の機を見てイアンをコキ使い荒稼ぎしている。

 銀河は三つの勢力が争っている。かつての大勢力の同盟、ジャンプを管理するゲート連合、そしてラインの多くを供給するレドモンド。今はレドモンドが連合と手を組み、同盟と睨み合っている。戦争が近く、同盟の旗色が悪いとの噂だ。

 そんな折、イアンをリゲルから買い取る者が現れた。同盟の核を成すランシア帝国の皇女、ミシェル・リャンだ。彼女に連行されたイアンは、同盟の抱える極秘の存在に触れ…

 腕はいいがヘタレなエンジニアを主人公とした、謎と陰謀とアクションたっぷりの娯楽スペースオペラ三部作の開幕編。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は LINESMAN, by S. K. Dunstall, 2015。日本語版は2018年2月23日初版。文庫本で上下巻、縦一段組みで本文約294頁+281頁=575頁に加え、訳者あとがき5頁+用語集6頁。8ポイント42字×18行×(294頁+281頁)=434,700字、400字詰め原稿用紙で約1,087字。普通の上下巻の分量。

 文章はこなれている。内容は娯楽路線のスペース・オペラ。ラインをはじめとしてケッタイな言葉や概念がたくさん出てくるが、ぶっちゃけ物語世界を成立させるための仕掛けなので、真面目に考え込まないように。「そういうものだ」と受け入れて、素直に楽しもう。

【感想は?】

 ヘタレなエンジニアの巻き込まれ型スペースオペラ。

 主人公のイアン君、才能こそあるものの、どうしようもなく奴隷根性が染みついてる。きっと学級カーストじゃ最下層だったろうなあ、とか思ったら、それどころじゃない悲惨な生い立ち。

 ところがカバーの登場人物一覧を見入ると、イアン君以外はズラリと御大層な方々が並んでる。帝国の皇女だの軍の大将だの政界の黒幕だの。となればややこしくて熾烈な権力闘争があるわけで、ヘタレなイアン君は色々とシゴかれ翻弄されるばかり。

 ってな構図は、微妙にエンジニアの自尊心をくすぐってくれる。あなたが上司のご機嫌取りや組織内の派閥争いから距離を取り、己の腕を磨くのに腐心するタイプなら、他人とは思えず、つい応援したくなっちゃうだろう。

 ただイアン君は、そういう場でも孤立しちゃうから切ない。他のラインズマンはラインを「押す」のに対し、せイアン君は歌いかけるのである。もはや異端を越え狂人扱いだ。そりゃ卑屈にもなるよなあ。

 イアンをはじめとするラインズマンとエンジニアの共通点はもう一つあって、それはラインへの愛情と言うかこだわりと言うか。

ラインズマンがしゃべると、話題はいずれラインに変わるものだ。
  ――上巻p16

 プログラマ同士は葬式でもコードの話をするらしいが、そんな感じなんだろう。こういう仕事への熱意や愛着も、職人肌のエンジニアには嬉しいところ。原題の LINESMAN でグレン・キャンベルのウィチタ・ラインマン(→Youtube)を連想するんだけど、あれと似た仕事への誇りみたいのが伝わってくる。

 そんな風にラインを大切に思ってるのが、ラインズマンだけじゃないのも、巧妙な仕掛け。

「おれのラインに手を出すな」
  ――上巻p41

 と、イアン君をけん制するのは、ヘルモ艦長。イアン君が乗り込むランシア・プリンセス号の艦長さんだ。ヘルモばかりではなく、後に出てくるウェンデル艦長やグリューエン艦長も、ヘルモに負けず劣らず艦への強い愛着を見せる。

 彼らはラインズマンを恋敵のように思っていて、一種の三角関係なのが微笑ましい。ちなみに先のウェンデル艦長とグリューエン艦長、政治的には敵方なんだけど、こういうつながりがあるため、どうにも憎み切れなかったり。

 そんなイアン君を引きずり回すミシェル・リャン皇女は、同盟の中枢ランシア帝国の皇位継承者。なかなか強烈なご仁で、いきなりイアン君を殺しかけたり。お話が続くに従い、ただのワガマな癇癪持ちではなく、かなりのキレ者なのが見えてくるが、この登場場面はなかなか強烈。

 と、両者の関係は、涼宮ハルヒとキョンみたいな感じと思っていい。そう、ハルヒみたいな皇女を中心とした暴風雨に、覇気のないキョンが巻き込まれる話だ。

 表向き、暴風雨は同盟vs連合&レドモンドの形になっている。が、先のラインズマンと艦長の関係のように、一筋縄じゃいかないのがヒネリの効いてる所。連合はゲートを管理し、レドモンドはラインを供給する。ジャンプとラインが銀河世界の力の源だ。

 ところが、ラインに関わる勢力は他にもあるのが、この物語の厚みというか。これがイアンの同業者レベカーやロッシを通じ次第に見えてくる仕掛けで、なかなか重層的に世界を構築してるのが伺える。

 なんにせよ、ラインが重要な要素なわけなんだが、冒頭の引用にあるように、その正体はよくわかっていない。ラインズマンたちは物として扱っているけど、艦長さんたちは強い愛着を持っている。こういう愛着は、自分の持ち物に名前を付ける癖がある人なら、わかるんじゃないかな。

 これがイアン君になると、まるで意志を持つ存在であるかのようにラインを扱っている。物語の多くがイアン君の視点で語られるため、読者も次第にラインが可愛く思えてきたり。ボロボロになっても職務を果たそうとするあたりは、とってもけなげだし。

 とかに加え、「通常の三倍」なんて出てきて、これは訳者の遊びかと思ったら、「ザビ」や「ギャン」なんて名前も出てくるから、そういう事なのかも。詳しい人が探せば、もっといろいろあるんじゃないかな。

 悲惨な境遇からチャンスを掴む歌い手ってあたりは、ジャーニーのシンガーとなったアーネル・ピネダ(→Wikipedia)だよねえ。実際、Don't Stop Believin'(→Youtube)なお話だのだ。

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2018年8月 6日 (月)

エドモンド・ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」河出書房新社 中村融編訳

アーノルド・フェッセンデンは、この惑星で最高の科学者だった――そして最悪の科学者だった。
  ――フェッセンデンの宇宙

「まるきりちがう世界にしていただろう――そこに住むはめになると知っていたら」
  ――追放者

「元気で立派な男の子ですわ、ただ――」
「ただ、なんだね?」
「ただ背中にこぶがあるんです、先生」
  ――翼を持つ男

いったいおれたち人類の血のなかにあるなにが、おれたちのいるべきではないこんな場所へおれたちを駆り立てるのだろう?
  ――太陽の炎

【どんな本?】

 エドモンド・ハミルトンは、アメリカSFの初期に活躍した。キャプテン・フューチャーなどのシリーズで人気を博し、スペース・オペラの黄金期を築いた功労者である。娯楽色の強いヒーロー物の印象が強いハミルトンだが、書名にもなっている「フェッセンデンの宇宙」など、短編では様々な芸風を見せる。

 彼の遺した短編から、編者おすすめの9編を選んだ、日本オリジナルの短編集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2004年4月30日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約330頁に加え、編訳者あとがき「あなたの知らないハミルトン」16頁+エドモンド・ハミルトン著作リスト3頁。9ポイント42字×18行×330頁=約249,480字、400字詰め原稿用紙で約624枚。文庫本なら少し厚めの分量。

 文章はこなれている。SFとはいえ、発表の時代が時代だけに、難しい理屈は出てこないので、理科が苦手でも大丈夫。むしろ大事なのは当時の風俗。カメラが乾板だったり電話が固定電話だけだったりと、「あの頃の世界」に入り込めるか否かが大事だったりする。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 原題 / 初出 の順。

フェッセンデンの宇宙 / Fessenden's Worlds / ウィアード・テールズ1937年4月号
 アーノルド・フェッセンデンは最高の科学者だ。本人も、それをちゃんとわかっている。だが近ごろはさっぱり大学に出てこない。講義すら代理にまかせ、屋敷に引きこもっている。いったい何をしているのか、気になった同僚のブラッドリーは、彼の屋敷を訪ねた。
 「引き籠ったマッド・サイエンティストがやらかす、とんでもない研究」の原型にして究極の短編。困るよねえ、SF黎明期にこんなとんでもない代物を書かれたら、後の者はやりにくくってしょうがないw 優秀にして傲岸不遜、研究のためなら何だってやる。知識と技能は豊かだが倫理観はゴッソリ抜け落ちてる、フェッセンデン博士のキャラクターがよいですw
風の子供 / Child of the Winds / ウィアード・テールズ1936年5月号
 トルキスタンの奥、人跡未踏も同然の高原に、豊かな金脈があるという。一山あてたいユルガンは、現地人のダサン・アンをガイドに雇い、「風の高原」を目指す。現地では、こう言われている。そこは風の聖地で、行く者は風に殺される、と。
 懐かしい風味の、秘境冒険譚。Google Earth なんてのが出てきて、地上に未踏の地が消えた今、この手の物語も一緒に消え…ては、いないんだな、嬉しい事に。というのも、舞台を「辺境の惑星」にすればいいんだから。もちろん、私はこの手の話が大好きです。レムの「砂漠の惑星」とか。
向こうはどんなところだい? / What's It Like Out There? / スリリング・ワンダー・ストーリーズ1952年12月号
 第二次火星探索隊は、多くの犠牲者が出た。フランク・八ッドン軍曹は、数少ない生還者の一人だ。国では有名人で、誰もが英雄として扱ってくれる。オハイオの家に帰るついでに、ハッドンには寄る所があった。探索の途中で亡くなった同僚の家族に、約束したのだ。
 スペース・オペラの大家とは思えぬ、哀しみと切なさに満ちた作品。1952年は第二次世界大戦の記憶も生々しく、また朝鮮戦争が38度線近くで膠着した頃。アメリカでも日本でも、ハッドン軍曹と同じ想いをした帰還兵も多いんじゃないだろうか。
帰ってきた男 / The Man Who Returned / ウィアード・テールズ1935年2月号
 冬の夜。ジョン・ウッドフォードは目覚めた。闇に包まれて。いや、棺の中でだ。昔から、持病があった。体が硬直し、呼吸も止まってしまう。勘ちがいされる事を恐れ、土葬ではなく納骨堂に収めるよう言い残したのが幸いした。だが、このままでは息が詰まってしまう。
 生きたまま葬られた者を主人公としたホラー。出だし、棺の中でジョンが足掻く場面が秀逸。狭い棺に閉じ込められた者が味わう恐ろしさ・息苦しさが、ひしひしと伝わってくる。が、話が進むに従い、恐怖に変わり漂うのは…。オッサンとしては、実に切ない。
凶運の彗星 / The Comet Doom / アメージング・ストーリーズ1928年1月号
 彗星が夜空に輝いている。新聞によると、地球に最も近づくのは三日後だ。それでも数百マイルの距離があり、何も害はない。休暇を旅行で過ごしたマーリンは、朝方に湖を船で渡って帰路につく。小さな漁船だ。航行中に、小さな島を見かけた。
 かつてのハミルトンらしい、「エイリアンの侵略」物。人里離れた場所に降り立ったエイリアンは、得体のしれない技術を操り、地球侵略を目論んでいた。それに立ち向かうのは、どこにでもいる普通の男たち。流石に90年前の作品だけに、科学的には色々とアレだが、お話の枠組みは今でもホラー映画・アクション映画の定番。
追放者 / Exile / スーパー・サイエンス・ストーリーズ1943年5月号
 その夜は、四人のSF作家が集まり、食事と酒を楽しんでいた。知らない人が見たら、どこにでもいる普通の男たちに見えただろう。でも、ここにいる奴らは、子供のころからケッタイな世界を思い描いていた。それというのも…
 SF作家同士の楽屋話の形をとった掌編。日本でも、星新一・小松左京・筒井康隆・半村良など、初期の日本SFを支えた人たちは、この手の楽屋ネタっぽい作品を書いてたなあ。それだけSF界は狭く、また作家同士の付き合いが深く結束も堅かったんだろう。
翼を持つ男 / He That Hath Wings / ウィアード・テールズ1938年7月号
 デイヴィッド・ランドは、生まれてすぐ孤児となる。そればかりか、奇形でもあった。背中にふたつ、大きなこぶがある。骨も中空で、体重も軽い。やがて翼が生えるだろう。産婦人科のハリマン医師は、デイヴィッドを引き取り、沖合の孤島で育てることにした。
 ある意味、「風の子供」と対照をなす作品。ケイト・ウィルヘイムの「翼のジェニー」やリチャード・バックの「かもめのジョナサン」と同じように、人が持つ飛ぶことへの憧れが強く出た作品。
太陽の炎 / Sunfire! / アメージング・ストーリーズ1962年9月号
 士官学校の頃から、誰よりも宇宙への憧れが強かったヒュー・ケラード。探査局に入ってからも、情熱はかわらなかった。だが、水星から帰った彼は、探査局をやめると言い出した。事故で二人のクルーを失い、情熱も同時に失ったように見える。だが事故の真相は…
 これまた「向こうはどんなところだい?」と対を成すような作品。やはり哀しみと喪失感が漂う雰囲気ながら、アメリカの歴史を思い浮かべると何か関係が…などと考えるのは、深読みのしすぎだろうか。
 当時、水星は自転周期と公転周期が同じで、常に同じ面を太陽に向けていると思われていた。確かラリイ・ニーヴンが「いちばん寒い場所」を発表した直後に周期の違いがわかり、最も早く時代遅れになった小説としてマニアの話題になったとかならなかったとか。
夢見る者の世界 / Dreamer's Worlds / ウィアード・テールズ1941年11月号
 ドラガル山脈への偵察の帰りに、カール・カン王子は砂漠民のキャンプを見かけた。供のブルサルとズールが諫めるのも聴かず、王子はキャンプに馬を走らせる。黄金の翼と呼ばれる。族長の娘を一目見るために。
 ヘンリー・スティーヴンスは、保険会社に勤める30歳。幼いころからずっと、眠ればカール・カンの夢を見てきた。鮮明で生々しく、細かな所まで辻褄があっている。行動力に溢れ大胆不敵、起伏に富んだ人生のカール・カンと、愛しい妻に恵まれ平穏な人生のヘンリー、どちらが現実なのか?
 ある意味、異世界転生物のバリエーションかも。ただし、両者の性格がまったく違うのはともかく、人格も別なあたりが、ヒネリの効いている。異境の冒険物として楽しめるカール・カンのパートと、サイコ・スリラーっぽいヘンリーのパートの取り合わせも、いいアクセントになっている。

 90年も前の作品もあり、さすがに道具立ては古いながら、「凶運の彗星」などの基本的な枠組みは今でも映画などで繰り返し使われているあたり、人類普遍の物語をSFは受け継いでいるんじゃないか、なんて思ったり。私が最も気に入ったのは、「向こうはどんなところだい?」。軍ヲタのせいか、八ッドンの姿が帰還兵に見えてしょうがなかった。

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2018年8月 1日 (水)

ロバート・シルヴァーバーグ「時間線をのぼろう」創元SF文庫 伊藤典夫訳

「ファックするんだ! 最高だぞ! 天国だぞ! 時間と空間に挑戦するんだ! 神の目玉に指をつっこんでやれ!」
  ――p148

「時間旅行の開発によって、新しい事実がつぎつぎと発見された結果、歴史に残る感動的な逸話のなかから修正の必要があるものがたくさん出てきました」
  ――p178

そんなところに行くのは、よほどの狂人、怪人、変質者、倒錯者だけ。ということは、この旅が大繁盛していることを意味する。
  ――p232

「今夜は、いつに泊まる?」
  ――p252

【どんな本?】

 SFはもちろんポルノからノンフィクションまで幅広く、しかも一時は一カ月に長編三冊という凄まじい執筆ペースを誇ったロバート・シルヴァーバーグが、今度は質を重視した芸風に切り替え、ニュー・シルヴァーバーグと呼ばれたころに発表した、ユーモラスでエロチックな悪ふざけ満載の長編SF小説。

 時間旅行が発明されてしばらくたった未来。ジャド・エリオットは24歳。素寒貧で南部のニューオーリンズに来た。町で知り合ったサムの勧めで、団体旅行の添乗員になる。

 といっても、扱うのは普通の旅行じゃない。時間局の旅行部観光課に勤める時間観光ガイドだ。団体客を時間旅行に連れ出し、歴史上の有名なイベントを見学させ、現地の雰囲気を味合わせる。人気のイベントは、キリストの磔・マグナカルタの調印・リンカーンの暗殺など。

 それと同時に、客がトラブルを起こさぬよう、厳しく監視するのもガイドの務めだ。特に時間旅行ともなれば、普通の旅行とは違ったトラブルが起こる。下手にバレたら時間局に大目玉を食らう。

 最初は緊張気味だったジャドだが、経験豊かな先輩たちに導かれ、自信がついたのはいいいが…

 1975年星雲賞海外長編部門に輝いた。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Up the Line, by Robert Silverberg, 1969。日本語版は1974年7月に「時間線を遡って」として中村保男訳で創元SF文庫より刊行。私が読んだのは2017年6月16日初版の新訳版。文庫本で縦一段組み、本文約350頁に加え、高橋良平の解説「豊穣の日々のなかで ニュー・シルヴァーバーグの時代」が豪華16頁。8ポイント41字×18行×350頁=約258,300字、400字詰め原稿用紙で約646枚。文庫本としては少し厚め。

 文章はこなれている。内容は、というと。時間旅行に伴うややこしい理屈は出てくるが、落ち着いて読めば、だいたいわかる。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズが楽しめる人なら、充分についていける。もちろん、理科が苦手でも全く問題ない。

 ただ、主な舞台がビザンティン(東ローマ帝国)、それもコンスタンティノープル(現イスタンブール)周辺なので、そのあたりの歴史に詳しいと、更に楽しみが増す。

【感想は?】

 セックス・ドラッグ・タイムトラベル。

 ビザンティンの歴史をベースに、ドタバタ風味の中に激動の60年代の香りを乗せ、明るく楽しく悪ノリを含めてエロチックに仕上げた、ユーモアSF。

 語り手のジャドは置いて、次に出てくるサムが実にファンキーというかヒップというか。登場してすぐ、ジャドとの会話が、頭の回転が速くてノリがよく、フレンドリーながらも相応の教養を備えているのが伝わってくる。

 この記事は書評だから、直接に「頭の回転が速い」なんて書けるけど、これを数行の会話で表すのは難しい。もちろん、サムが「俺は頭の回転が速い」なんて自己紹介するわけでもない。ジャドと初対面での会話だけで、そういうサムのキャラクターをバッチリ伝えるあたりは、シルヴァーバーグの腕に感服するのみ。

 と同時に、この物語が書かれた「激動の60年代」な空気が伺えるのも、今ならではの楽しみの一つ。フラワー・チルドレンがマリファナを回し飲みしながらフリーセックスを楽しみ、南部では公民権運動が吹き荒れた時代。

 そういう時代の人が想像した未来は、どんな世界なのか。今でも相当にアブないジョークを軽々と交わすサムとジャドの会話から、ハチャメチャながらも夢と希望に溢れた60年代末期の香りが漂ってくる。

 そんな明るく開放的な雰囲気の中で、ジャド君は元気にヤりまくる。これも性の解放が叫ばれた60年代的というか、それまでのSFが禁欲的なまでに性の話題を避けていた反動なのか。とにかくお色気…というよりモロなベッド・シーンが次々と。もっとも、今の基準から見るとかなりソフトな描写だけど。

 もちろん、それだけで星雲賞に選ばれるワケはなく。

 SFとしての主なテーマは、タイム・トラベルだ。しかも、その扱いが「シャント」一発と、やたら軽い。なんたって、営利目的の観光旅行に使ってるぐらいだし。

 そんなワケで、観光ガイドとして団体旅行を率いるジャド君は、作品中で数えきれないほど「シャント」する。はいいが、時間旅行となれば、様々なパラドックスが考えられる。自分を産む前の親を殺したら? 英雄の偉業を邪魔したら? 逆に死すべき者を助けたら?

 それでも旅する者が真面目な学者だったり、お堅いタイム・パトロールなら、慎重に行動するだろう。でも、ジャド君が率いるのは、いかにもお気楽でマイペースで能天気な団体旅行客たち。お陰でジャド君は気の休まる暇が…

 と思ったら、こっちはこっちで存分に人生を楽しんでるからしょうもないw 特に腕利きのベテラン添乗員、テミストクリス・メタクサスときたらw 添乗員ならではの役得を、存分に味わってるから羨ましい。

 などの軽いフレイバーながら、そのベースになっているのがビザンティン(東ローマ帝国)の歴史エピソードなのが、実に憎い。中でもクライマックスは、メフメト二世による包囲・陥落だろう。この事件そのものもいいが、これを見物しようとする観光客の態度も、いかにも野次馬なのが酷いw

 歴史マニア向けの蘊蓄を隠し味として、SFファンを喜ばせる幾つものパラドックスを仕込み、お気楽極楽人生エンジョイな風味に仕上げた、腕利きの職人ならではのユーモア作品だ。

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