カテゴリー「書評:SF:海外」の199件の記事

2018年7月16日 (月)

エリザベス・ベア「スチーム・ガール」創元SF文庫 赤尾秀子訳

ピーター・バントルには絶対に、一泡吹かせてやる。
  ――p38

「わたしはね、我慢できないんですよ、いいたいことをはっきりいえない女は」
  ――p79

いまここにいる人たちは、お互いいやな思いをしないよう、みんな仮面をつけているのかも
  ――p101

「襲撃はこれが初めてではない」
  ――p304

【どんな本?】

 アメリカの新鋭SF作家エリザベス・ベアによる、西部劇風味の百合アクション娯楽SF長編。

 19世紀終盤のアメリカ、ゴールドラッシュに沸く西部の町ラピッド・シティ。カレン・メメリーは16歳。ホテル・モンシェリに住み込みで働く「縫い子」だ。主人はマダム・ダムナブル、縫い子を大切に扱ってくれるが、決して甘やかしはしない。辣腕で抜け目なく、商売柄か町の有力者にも顔が利く。

 雨が降る冬の夜、モンシェリに二人の女が逃げ込んできた。一人はメリー・リー、チャイナタウンの有名人で縫い子を助ける運動をしている。もう一人はプリヤ、インド人で歳はカレンと同じぐらい。二人とも傷だらけだ。

 すぐに追っ手もきた。率いるのはピーター・バンドル、マダムと同じく娼館で稼いでいる。でも女の扱いは荒い上に、時には見世物にする嫌な奴だ。おまけにアチコチに手を回し、街の支配を目論んでいる。今夜はどうにか追い返したが、奴が持つ変な手袋には不思議な力がある。

 気の荒い連中が集う西部を舞台に、正体不明の連続殺人鬼・それを追う(副)保安官とその助手・陰謀を目論む悪党・追われる娘・活動家の中国人などが入り乱れ、女の子が大暴れするアクション小説。

 2017年10月20日初版という出版時期の不利にも関わらず、SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017海外篇の20位にランクインした。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は KAREN MEMORY, by Elizabeth Bear, 2015。日本語版は2017年10月20日初版。私が読んだのは2017年11月117日の再版。勢いありますねえ。文庫本で縦一段組み、本文約415頁に加え訳者あとがき4頁。8.5ポイント42字×18行×415頁=313,740字、400字詰め原稿用紙で約785枚。文庫本としては厚め。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。一応はSFだが、特に難しい理屈は出てこないので、理科が苦手でも大丈夫。それより大事なのは、アメリカの歴史と西部劇の素養。当時の人々の暮らしぶりや、開拓使の有名人の名前が出てくるので、詳しい人には嬉しいクスグリが沢山詰まってる。

【感想は?】

 裏表紙にはスチームパンクとあるが、私は西部劇風味のプリキュアと言いたい。

 なんたって、舞台がモロに西部劇だし。時は19世紀終盤、南北戦争の記憶も新しい頃。場所は西海岸の(架空の)ラピッド・シティ、ゴールドラッシュでにぎわう港町だ。

 一攫千金を狙う荒くれどもが集い、町は賑わっている。新しい国でもあり、南北戦争の傷跡も深く、連邦政府の威光は遠い西部にまでは届かない。そのため、それぞれの町は自治に任せる羽目になる。まっとうな者が治めているならいいが、悪党が権力を握ったら…

 そんな具合だから、お尋ね者が潜り込むには都合がいい。ネズミが潜り込むなら、ネコも追いかけてくる。この話だとネズミは正体不明の連続殺人鬼、ネコは副保安官バス・リーヴズとその助手トモアトゥーア。雰囲気は猫というより狼だけど。

ちなみに副保安官って肩書はあまり偉くなさそうだが、バス・リーヴズで調べると、全然違う。ローン・レンジャーのモデルとなった人で、凄腕の連邦保安官だ。今でいうFBI捜査官だろう。日本の刑事ドラマなら、本庁から派遣されたエリート刑事にあたる。

 そんな西部劇の見どころはガン・ファイト…と言いたいところだが、ここは幾つかヒネってあって。

 中でもマニアックなのが、馬。主人公のカレンが馬に特別な想いを抱いていて、バス・リーヴズが連れた馬に彼女が出会う場面が、一つの読みどころ。彼女が馬をどんな目で見ているのか、どんな気持ちを抱いているのか、ひしひしと伝わってくる。

 また、当時の人々の暮らしを細かく書いているのも、地味ながら楽しいところ。海が近いからシーフードも多いし、チャイナタウンがあるから中華風の食材もある。蒸しパンときたかw 「縫い子」なんて言葉でわかるように、身に着ける物も生地や柄はもちろん、靴の履き方まで実に細かく書いてある。

 とかのマニアックな描写だけでなく、有名な人もチラホラ。先のバス・リーヴズに始まり、カラミティ・ジェーン(→Wikipedia)やアニー・オークレイ(→Wikipedia)など、どこかで聞いた事のある名前を散りばめてある。当然、本好き向けのクスグリもあって…

 と、西部の雰囲気が満載ながら、今風に捻ってあるのがおわかりだろうか。

 バス・リーヴズは黒人。相棒のトモアトゥーアはコマンチェ。メリー・リーは中国系の女。プリヤもインドの少女。語り手のカレンも少女だし、カレンと共にバンドルに挑むモンシェリの面々も色とりどり。

 いずれも、従来の西部劇では無視されてきた人々だ。荒くれどもに踏みつけられ、食い物にされてきた立場の人々を、主人公カレンの目線で描いているのが、この作品のもう一つの特徴。私はクリスピンが好きだなあ。いや別に髪型に親近感が沸いたわけじゃないぞ。違うったら。

 そんな中で、かぐわしく漂う百合の香りが、これまたたまんない。何せ時代が時代だけに、世相はそういう関係を歓迎しない。それだけに、カレンとプリヤもためらいがちに心を寄せ合ってゆく。いいねえ、青春だねえ。

 だけじゃなく、「女のこだって暴れたい!」のがプリキュア。初代ならカレンがキュアブラック、プリヤがキュアホワイトかな。特に中盤から終盤にかけて、カレンが大暴れするから楽しみにしよう。

 スペースオペラの原点、ホースオペラ=西部劇を題材としながらも、忘れられがちな人々を中心に配し、少しだけ「あったかもしれない技術」を交えながら、百合風味を利かせた楽しく爽快な娯楽アクション作品だった。

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2018年7月 6日 (金)

クリストファー・プリースト「隣接界」新☆ハヤカワSFシリーズ 古沢嘉通・幹瑤子訳

「正三角形だった。頂点は直線で構成されており、少しのずれもなかった」
  ――第一部 グレート・ブリテン・イスラム共和国

「想像力が死ぬとき、希望も死ぬのだ」
  ――第二部 獣たちの道

「ドイツ軍もいない、敵もいない、ただ自由な空気と空があるだけ」
  ――第五部 ティルビー・ムーア

ブラチョウスは宗教を持たない島である。宗教的発言は大目に見てもらえるが、奨励されているわけではない。
  ――第七部 プラチョウス

カメラマンの仕事は、けっして自分がしたことではなく、自分が見たものにまつわる。
  ――第八部 飛行場

【どんな本?】

 イギリスのベテランSF/ファンタジイ作家クリストファー・プリーストによる、最新長編小説。

 近未来。ティボー・タラントは、カメラマンだ。看護師である妻のメラニーと共に、内戦下のトルコで働いた。だが戦闘に巻き込まれメラニーを喪い、失意を抱えて国に帰ってきた。母国イギリスは大規模なハリケーンに痛めつけられ、またテロも頻発し、緊張感に包まれている。軍用の人員輸送車で当局に連れまわされるタラントは…

 舞台は変わり、時は第一次世界大戦。ベテラン奇術師のトムは、王室海軍航空隊に徴用され、フランスへ向かう。既に兵として役に立つ歳でもなく、軍の意図をいぶかしむトムだが、任務の内容は現地に着くまで教えてもらえない。英仏海峡を渡る船の中で、トムはバートと名乗る同年配の男と知り合い…

 近未来のイスラム化したイギリス、第一次世界大戦の膠着した塹壕戦、第二次世界大戦の空軍基地、そして夢幻諸島と、幾つもの舞台を渡り歩く、幻想的な長編小説。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017海外篇で堂々のトップに輝いた。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Adjacent, by Christopher Priest, 2013。日本語版は2017年10月25日発行。新書版で縦二段組み、本文約558頁に加え、古沢嘉通による訳者あとがき3頁。9ポイント24字×17行×2段×558頁=約455,328枚、400字詰め原稿用紙で約1,139枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれている。内容も、SFガジェットは少ないし、特に科学的に難しい理屈も出てこない。ただし、わかりやすいかと言うと…

【感想は?】

 うーむ、わからん。

 たぶん、この作品を楽しむのに必要なのは、理科ではなく国語の素養だ。でもって、私にはソレが徹底して欠けている。

 いや、お話のスジはわかるのだ。というか、この作品の中には、幾つかの(半ば独立した)小説が入っている。その「半ば独立した小説」のスジは、だいたいわかるし、それぞれ楽しめる。また、作品内小説は少しづつ関係していて云々、というのも見当がつく。

 タイトルが「隣接界」だし、奇術師がそのタネを説明するあたりでは、「何かヒッカケてるんだろうなあ」とは思う。が、何をどうヒッカケてるのかまでは、読み解けなかった。

 比較的にSFっぽいガジェットとしては、まずタラントが乗る人員運搬車メブシャーだろう。

 いわゆる装甲車で、無限軌道ではなくゴツい車輪を履いてるやつ(→Wikipedia)。これだけなら今でもあるが、エンジンがガスタービンって所がSF。とにかく甲高いエンジン音がうるさいのが特徴の一つで、タラントも散々に悩まされている様子。

 タラントが使うカメラも、なかなか便利で、撮ってすぐネットにアップできる優れもの。メーカーがアレなのは、ちょっと嬉しかったり。

 タラントのいる近未来のイギリスは、たびたびハリケーンに襲われている様子。たまたま、これを読んでいる時は、日本の各地に大雨注意報が出ていて、テレビも各地の河川が暴れる模様をしょっちゅう映していた。そういう点では、異常気象の恐ろしさが肌で感じられて、タイミングは良かったなあ。

 挨拶が「インシャラー」や「平安あれ」だったり、兵の名前がイブラヒムだったりするあたりは、イギリスがイスラム化している雰囲気を出している。タラントがどこに出入りするにも、いちいち権限の有無を尋ねられる場面では、小うるさい役人根性というか、異様な秘密主義の匂いが強く漂う。

 第二部の奇術師トムのパートでは、SFファン大喜びのゲストが登場して、闊達な魅力を振りまいてくれる。イギリス軍ってのは、ときおりフリーダムな発想を見せる所で、第二次世界大戦でドイツ軍のエニグマ暗号を解読する際にも、クロスワード・パズルのマニアとか色々と奇想天外な人を使ってたり。

 奇術師が戦争で何の役に…ってのは、この辺(ちょいネタバレ)を読んでると、少し見当がつく。軍ヲタとしては、ドイツ軍の秘密兵器(→Wikipedia)がチラリと出てくるのが嬉しかった。

 それ以上に軍ヲタが喜ぶのが、「第五部 ティルビー・ムーア」。主人公は英国空軍の整備兵。彼が面倒を見ているのは、重爆撃機ランカスター(→Wikipedia)で、ドイツへの戦略爆撃に従事している。ランカスターの活躍を描いたレンデントンの小説「爆撃機」を思い出しながら読んだ。

 が、ここで最も美味しい所をさらっていくメカは、やっぱりアレ(→Wikipedia)なのは仕方がないか。イギリス人なら、どうしたって贔屓するよね。ただし、少しヒネってある所がマニアック。

 また、主人公の相方の運命も、軍ヲタを唸らせる仕掛けなのが憎い。あの国であの立場だと、やっぱりあの事件(ちょいネタバレ、→Wikipedia)に巻き込まれ…。終戦間際にも壮絶な事件(ちょいネタバレ、→Wikipedia)があり、戦後もアレだし、なにかと厳しい歴史を背負った国なんだよなあ。

 などと、SFというより軍ヲタとして、散りばめられた小ネタが楽しい作品だったけど、こういう読み方する人は少ないと思う。リアルで凄惨なネタに気を取られてしまったためか、幻想世界との頭の切り替えがうまくいかなかったし。

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2018年6月12日 (火)

シルヴァン・ヌーヴェル「巨神計画 上・下」創元SF文庫 佐田千織訳

それは千キロメートル上空からでさえ、大きな手のように見えるんだ。
  ――上巻p192

「科学者ならあのようなことをやめるのは無理だ」
  ――上巻p312

これがいま起こっていることのすべてであり、これがあんたたちの成人式だ。
  ――下巻188

【どんな本?】

 サウスダコタの田舎の地中から、7メートルほどの「掌」が見つかる。

 素材はイリジウムを主とした金属製だが、重さは大きさから予想される値の1/10ほどしかない。鮮やかな青緑色に輝いているが、動力源は見当たらず、しかも光が減衰する様子はない。出現場所は真四角の壁に囲まれ、壁面には青緑に輝く記号が並んでいた。この壁の光も動力源は不明で、減衰は認められない。放射性炭素年代測定によると、できてから少なくとも五千~六千年は経っている。

 それから17年。

 発見した11歳の少女ローズ・フランクリンは物理学者となり、再び「掌」に関わる羽目になる。シリアとの国境に近いトルコ領内で、前腕部が見つかったのだ。「掌」は、巨大な人型ロボットのパーツらしい。

 地球のアチコチに隠された巨大ロボットのパーツを求め、秘密プロジェクトが動き出す。同時に、ローズを中心として、巨大ロボットの謎を探る計画も。

 だが、世界の国は親米国ばかりではない。やがてロボット探索計画は国際的な緊張を招き、またロボットに隠された未知のテクノロジーも想定外の状況を引き起こす。

 謎の巨大ロボットを巡る事件を、国際的なスケールで描く、SFエンタテイメント小説。SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017海外篇で10位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は SLEEPING GIANTS, by Sylvain Neuvel, 2016。日本語版は2017年5月12日初版。文庫本で上下巻の縦一段組み、本文約319頁+247頁=566頁に加え、渡邊利通の解説7頁。8ポイント42字×17行×(319頁+247頁)=約404,124字、400字詰め原稿用紙で約1,011枚。文庫本の上下巻としては標準的な分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。何はともあれ、オーパーツ的な巨大ロボットの話なので、そこでノれるかどうかが大事。

【感想は?】

 解説によると、三部作の開幕編だとか。確かにジワジワと盛り上がってきて、アッと驚く展開で終わる。

 お話は、謎の人物「インタビュアー」が、それぞれの関係者の話を聞く形で語られる。あの怪作「WORLD WAR Z」と同じ形式だ。次第に事件の全貌が浮かび上がってくる語り口は、この作品に相応しい。

 なんたって、巨大ロボットだ。それだけでワクワクする。なかなかロボットが全貌を見せないあたりも、山田政紀の「機神兵団」やTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」みたいで、重量感のようなものを感じさせる。もったいをつけながら少しづつ謎を明かしていくあたり、新人とは思えぬ語り口の巧さだ。

 開幕してしばらくは、世界各地でちょっとづつパーツが見つかってゆく下りが、もうそれだけで気分が盛り上がってくる。と同時に、秘密プロジェクトのメンバーのキャラクターが見えてくるのも、憎い工夫だ。

 メンバーの中でも、最も光っているのが、合衆国陸軍の三等准尉でヘリパイロット、カーラ・レズニック。

 パイロットとしての腕は最高なんだが、とにかく性格に難ありな人。職務には生真面目なんだけど、やたらヘソ曲がりで攻撃的でつっけんどんで、人と距離を置きたがる。どう考えても、同僚や上官に気に入られるタイプじゃない。が、腕と熱意と実績を買われたんだろうなあ。

 これで眼鏡っ娘なら私の趣味的には完璧なんだが、パイロットってのは目を大切にする種族で…。

 お堅く陰険なカーラとは対照的なのが、やはり合衆国陸軍の二等准尉ライアン・ミッチェル。陽気で気さくなアメリカン・ボーイで、場の空気を読むのに長け誰とでもすぐに友だちになるタイプ。何の因果かカーラと組む羽目になり、パーツの探索じゃ生死をともにする立場に。

 陰険カーラと陽光ライアン、対照的な二人のコンビはいかに。

 ちなみに准尉って階級、ちとややこしくて。小さな軍だと、功績のあった下士官が昇進するか、または士官学校を卒業したての新人士官が最初に与えられる階級だ。が、合衆国陸軍ぐらい大きいと、士官とも兵卒とも独立した階級で、専用の准士官学校がある由が、ライアンの語りでわかる。

 カーラ&ライアンとは別の意味で強烈なのが、遺伝学者のアリッサ・パパントヌ。

 この人のキャラクターは、学者魂炸裂どころか、次第に見えてくるのは、この手のSFには欠かせない大事な属性で。あまりカッコいい役じゃないんだが、映像化する際にはベテランの強烈な個性を持つ役者でないと務まらない、ある意味、この小説の焦点でもある大切なお方。続編でも活躍を期待してます。

 微妙に著者を投影していそうなのが、記号の解読に挑む言語学担当のヴィンセント・クーチャー。

 BBとか、何かとオタクなネタが漏れてきて、妙に親しみが湧く人だけど、注目してほしいのは、著者と同じカナダのケベック州(→Wikipedia)出身って所。ここはフランス語を話す人が多く、独立の機運もあり、アメリカ・カナダ両国に対し複雑な感情を抱いている土地。

 ヴィンセント自身は穏健派っぽいが、登場人物の多くが持つアメリカ中心の考え方には、微妙な気持ちを見せる場面がチラホラ見えてきたり。

 こういう「世界はアメリカだけじゃないんだぞ」な想いが、ロボットのパーツを集める所や、その後の展開でも、チョロチョロと漏れてくるのも、ケベック人らしい隠し味と言うか。前腕部が見つかるトルコ・シリア国境付近もそうだし、その後も軍事的にかなりヤバい土地が出てきたり。

 冷戦時代にもソ連上空に超音速偵察機を飛ばす(→Wikipedia)なんて無茶やらかした米軍のこと、この小説でも世界各国で何かとやらかすから相変わらずでw

 とかの小難しいネタに一喜一憂してもいいけど、基本は「オーバー・テクノロジーな巨大ロボットが見つかって」なんてヲタク心を震わせるお話。文章は読みやすいし、語りも巧み。子供に戻って、楽しみながら読もう。

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2018年5月21日 (月)

ジャック・ヴァンス「魔王子シリーズ5 夢幻の書」ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳

トリーソングの活動範囲はオイクメーニ全域にまたがっている。<圏外>へ足をのばすことはめったにない。“超人たちの王”と自称したことでも知られている。
  ――p9

「いかにもハワードらしいじゃない? あの子はいつも惜しいところでしくじるのよね」
  ――p214

【どんな本?】

 色とりどりの生態系・社会・文化・風習を創り出し、見事なディテールで成立させてしまうSF作家ジャック・ヴァンスによる、5巻に渡るスペース・オペラ・シリーズ完結編。

 人類が恒星間宇宙へと進出した遠い未来。人類はオイクメーニ宙域に発展した社会を築くが、その権威が及ばない<圏外>にも、様々な社会が広がっている。

 ある日、<圏外>のある惑星の町マウント・プレザントが襲われた。首謀者は魔王子と呼ばれる五人。少年カーズ・ガーセンは、祖父と共にからくも生き残る。二人は復讐を誓い、祖父は少年を殺人者として鍛え上げる。やがて祖父は亡くなり、成長したカース・ガーセンは復讐の道を歩み出す。

 災厄のアトル・ラマゲート、殺戮機械ココル・ヘックス、ヴィオーレ・ファルーシ、<巨鳥>レンズ・ラルクと四人の魔王子を倒したガーセンは、最後の一人ハワード・アラン・トリーソングの足跡を掴む。大がかりな罠を仕掛けトリーソングを誘い出そうとするガーセンだが…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Book of Dreams, by Jack Vance, 1981。日本語版は1986年6月30日発行。文庫本で縦一段組み、本文約369頁に加え米村秀雄の解説7頁。8ポイント43字×19行×369頁=約301,473字、400字詰め原稿用紙で約754枚。文庫本としてはやや厚め。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。80年代の作品だけに、SFガジェットもあまり凝ったモノは出てこない。むしろコンピューターやデジタル通信がほとんど出てこないので、それが不自然に思えるほど。相変わらず登場人物が多いので、登場人物一覧が欲しかった。

【感想は?】

 魔王子よりカース・ガーセンの悪辣さが光ってきたこのシリーズ、最後もやっぱりガーセンが悪役w

 もっともガーセンの場合は、主人公だからなのか、一応は相手によりけりで。セコい悪党を相手に上前をハネる手口には磨きがかかってる。中盤の初頭、貧しく荒っぽい連中ばかりの惑星ボニフェースで、クソガキどもをやりこめるあたりも、実にアコギで容赦ないw ちったあ手加減してやれよw

 そんなガーセンも、今回は少しばかり痛い目を見る順番が回ってきたようで。惑星モウダーヴェルトのモーニッシュで、どんな因果か楽団員としてフルートを吹く羽目になり、しごかれる場面では、ちょっと「ザマぁw」と思っちゃったり。音楽教師ってのは、なんだってこうエキセントリックで権高なんだろうね。

 このモーニッシュの社会と風俗も、異境を描くヴァンスの腕が冴える所。風景はヨーロッパの田舎を思わせる、静かで落ち着いたたたずまい。でも、そこに住む人々は、奇妙ながらも厳格な宗教が染み込んでいて…。もっとも、敬虔な者とそうでない者がいるのは、どこでも同じだけど。

 今回の魔王子はハワード・アラン・トリーソング。ラスボスだからと期待して構えていたら、実はイタズラ好きのクソガキが、そのまんま大きくなったような奴。お菓子工場でのイタズラも、今なら電子掲示板を賑わす類のロクデもない真似だったりw

 もちろん、魔王子の名にふさわしい凶暴な事もやってはいるんだが、彼の生い立ちが見えてくるあたりから、ちょっと親しみが湧いてきたり。にしても、「夢幻の書」って、そういう意味かあ。そりゃ大事だよねえ、いろいろとw

 何かと面白い人なのは確かで。

 序盤、今回のヒロインを勤めるアリス・ロークと電話で話すあたりも、本性は見えないながら、少々イタいキャラが全開だったり。魔王子とまで呼ばれるお方が、電話口でそこまでやりますかw 部下が聞いたら、どんな顔するんだろう。案外と「またか」で済んじゃったり。それはそれで、更にイタいけどw

 特に彼の魅力が爆発するのは、終盤での「同窓会」の騒ぎ。元イタズラ小僧の本領発揮というか、クソガキのまんま地位と名誉?を手に入れた者らしく、実にセコい目的のために準備万端整え、全力を尽くして暴れまわります。爽快な気分になるSF者も多いだろうなあw あまし白状したくないけどw

 とかのメイン・ストーリーに加えて、ちょっとしたオカズも楽しいのが、この巻。

 全20章に分かれていて、各章の冒頭に架空の本の引用が入ってる。これは舞台の惑星を紹介する旅行ガイドだったり、役割を果たすアイテムの解説だったりするんだが、特殊な果物チャールネイの紹介文が楽しい。レオン・ウォーク記者、ある意味じゃ本望かも。

 中でも、15章の冒頭、“『第九次元からの書簡』のうち、「生き神の弟子」”は、8頁に及ぶ力作で、ちゃんと起承転結があり、これだけでも独立した短編として成立しちゃってる楽しい物語。「奇跡なす者たち」や「天界の眼 切れ者キューゲルの冒険」で見せた、ファンタジイ作家としてのヴァンスの腕が味わえる。

 かと思えば、意外な懐かしい人がヒョッコリ顔を出したり。やっぱり気に入ってたんだなあ、あのキャラ。いかにもアクの強いクセ者で、ヴァンス好みのキャラだし。ちなみにラックローズ君は幾らか苦労が報われたようです。

 「魔王子シリーズ」なんて名前に萩尾望都の華麗な表紙とは裏腹に、互いが腹に一物抱えたクセ者同士の丁々発止の駆け引きと、大掛かりな仕掛けの割にしょうもない動機のギャップが楽しい、世知に長けたヴァンスの悪知恵が光るシリーズだった。

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2018年5月18日 (金)

ジャック・ヴァンス「魔王子シリーズ4 闇に待つ顔」ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳

「狂人、野獣、拷問者――レンズ・ラルクはそのいずれにも当てはまるだろうが、絶対に馬鹿ではありません」
  ――p86

「あの呪われたメセル人どもは日の出に一日をはじめるんだ。きみやわたしのようなりっぱな盗賊が一日を終える時間にだぞ」
  ――p209

“悪魔と食事をするなら、柄の長いスプーンを使え”
  ――p355

【どんな本?】

 一見異様に見える世界、奇妙に思える社会や風習を、見事な筆致で本物のように描き出すSF作家ジャック・ヴァンスによる、5巻に渡るスペース・オペラ・シリーズ第四幕。

 人類が恒星間宇宙へと進出した遠い未来。人類はオイクメーニ宙域に発展した社会を築くが、その権威が及ばない<圏外>にも、様々な社会が広がっている。

 ある日、<圏外>のある惑星の町マウント・プレザントが襲われた。首謀者は魔王子と呼ばれる五人。少年カーズ・ガーセンは、祖父と共にからくも生き残る。二人は復讐を誓い、祖父は少年を殺人者として鍛え上げる。やがて祖父は亡くなり、成長したカース・ガーセンは復讐の道を歩み出す。

 災厄のアトル・ラマゲート、殺戮機械ココル・ヘックス、そしてヴィオーレ・ファルーシをも地獄に追い落としたガーセンは、次なる獲物<巨鳥>レンズ・ラルクへと迫る。貴重な鉱物デュオデシメートを産する惑星ダー・サイに手がかりを見つけたガーセンは…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Face, by Jack Vance1979。日本語版は1986年3月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約605頁に加え訳者あとがき2頁。8ポイント43字×19行×365頁=約298,205字、400字詰め原稿用紙で約746枚。文庫本としてはやや厚め。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。流石に半世紀も前の作品なので、SFガジェットもあまり凝ったモノは出てこない。ただ相変わらず登場人物が多く、登場人物一覧がないのは辛い。

【感想は?】

 ヴァンスだから覚悟はしていたが、いろいろとヒドいw

 我とアクの強い人物を描くと冴えるヴァンスの筆致、今回も序盤じゃダー・サイ料理のレストラン「ティントル天蓋」での軽いジャブで肩慣らし。

 ここを切り盛りする女将さん、愛想は悪いが威勢はやたらといい。というか、客に売るのは料理より喧嘩って感じのキレのいい啖呵が次々と飛び出す。ウェイトレスも女将に負けず劣らずの喧嘩腰な上に、出てくる料理がこれまたアレでw よくこれで商売になるなあw ラックローズ君こそいい迷惑だw

 ここで未だ見ぬダー・サイの風俗に期待を膨らませつつ、次に出てくる巡回裁判の様子も、妙にしゃっちょこばった司法関係者の立ち居振る舞いを徹底して茶化してたり。まあ確かに裁判で“天秤”が象徴になるのはわかるけど、そこまでやるかw

 さて、三部構成のこの巻、第1部の「ティントル天蓋」で膨らんだ期待に応えてくれるのが、続く第2部。舞台は貴重な鉱物デュオデシメートを産する灼熱の惑星ダー・サイ。あのレストランに相応しく、荒々しく油断のならない世界で。

 なんたって、観光名所が“絞首台”,“電気石の塔”,“サソリの園”…。まあ、そういう物騒な所です。おまけに、なぜレストランの名前が「ティントル天蓋」なのかも、スグにわかる親切設計。

 ここでは最初に出てくるティッピン君からして、「地元の事情に通じていて愛想もよく、役には立つが油断はできない現地のガイド」な様子がよくでてる。こういう輩を丁々発止の駆け引きで巧いこと使いこなす、ガーセンの軽妙なやり取りが楽しめる。

 もっともダー・セン編じゃティッピン君はホンの前菜で、メインディッシュは株券の争奪戦。やはり欲深で疑い深いダー・サイ人と、彼らに輪をかけて悪辣なレンズ・ラルク一味を相手に、ガーセンの口八丁手八丁なペテンが読みどころ。

 そんなガーセンが本領を発揮するのが、ダー・サイの人気競技ハドールの場面。一種のバトル・ロイヤルですね。プロレスのバトル・ロイヤルもそうなんだけど、必ずしも格闘で最強の者が生き残るとは限らないのが、この手の競技の面白い所。

 もともとペテンと欺瞞の世界ダー・サイだけに、ここでも互いが手を組んでは裏切っての油断も隙もないバトルが繰り広げられる。誰がいつ裏切るか、一瞬の判断で形勢がガラリと変わる狐と狸の化かし合い、こういうのを書いたら、ほんとヴァンスは巧い。

 そしてお待ちかね、衝撃のラスト。魔王子レンズ・ラルクの目論見やいかに…って、これがほんっとにしょうもないw いやまあ、そういう真似をしたくなる気持ちはわからんでもないが、そうまで準備万端整えてやる必要があるのか? あるんだろうなあ、レンズ・ラルク的にはw

 ちなみに私はレンズ・ラルク、プロレスラーのキラー・カーンを思い浮かべながら読みました。

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2018年5月15日 (火)

ジャック・ヴァンス「魔王子シリーズ3 愛の宮殿」ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳

「コイン・ツリーとも、役立たずの木とも呼ばれています。基材としても発効剤としても、まるっきり無害なんですよ」
  ――p20

「若い頃?」ナヴァースは唾を飛ばした。「わしは一生かけて無茶をやらかしてきた!」
  ――p145

「美はそれを見るものの目に存在する」
  ――p183

「どうか謎をたもってくださいますように。これは全員で演じるゲームとお考えください」
  ――p245

【どんな本?】

 センス・オブ・ワンダーあふれる異星の風景や生態系、そして奇想天外な制度や社会を、見てきたように余裕たっぷりに描き出すジャック・ヴァンスによる、5巻に渡るスペース・オペラ・シリーズ第三幕。

 人類が恒星間宇宙へと進出した遠い未来。人類はオイクメーニ宙域に発展した社会を築くが、その権威が及ばない<圏外>にも、様々な社会が広がっている。

 ある日、<圏外>のある惑星が襲われた。首謀者は魔王子と呼ばれる五人。少年カーズ・ガーセンは、祖父と共にからくも生き残る。二人は復讐を誓い、祖父は少年を殺人者として鍛え上げる。やがて祖父は亡くなり、成長したカース・ガーセンは復讐の道を歩み出す。

 災厄のアトル・ラマゲート、次いで殺戮機械を擁するココル・ヘックスを片づけたガーセンは、次なる獲物ヴィオーレ・ファルーシを追う。毒匠の里サルコヴィーに手がかりを見つけたガーセンは、ファルーシの過去を嗅ぎ当て…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Palace of Love, by Jack Vance, 1967。日本語版は1985年11月30日発行。文庫本で縦一段組み、本文約305頁に加え訳者あとがき2頁。8ポイント43字×19行×305頁=約249,185字、400字詰め原稿用紙で約623枚。文庫本としては少し厚め。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。流石に半世紀も前の作品なので、SFガジェットもあまり凝ったモノは出てこない。ただ相変わらず登場人物が多く、登場人物一覧がないのは辛い。

【感想は?】

 尻上がりにジャック・ヴァンスの意地悪さが光り出してきた。

 冒頭、サルコヴィーの描写が、宇宙港にたどり着いた所からして、生活感があふれ出ていて生々しい。かつて船員として世界を巡った経験が活きているんだろうか。

 というのも。少人数で途上国を旅した経験のある人にはお馴染みの風景なんだが、ゲートを出たとたんに、自称ガイドに取り囲まれてしまう。当然、向こうも商売なので、口先は親切だが、考えていることは似たようなもんで…。

 とまれ、さすが毒匠の里サルコヴィー、売り込み文句が一味違う。お土産としちゃ確かに珍しいが、親しい人に贈るにはちょっとw

 この後、ガイドとなったエーデルロッドと丁々発止のやり取りも、口ぶりこそ紳士的なものの、互いに相手の腹の底を見透かしながらの陰険で絶妙なやりとり。ガーセン、地元を見られちゃ困ると思ってるのか、または交渉自体を楽しんでるのかw

 やがて今回の獲物ファルーシの過去にたどり着くんだけど、過去を知る者の境遇を描くところが、実に嫌な感じで苦しかった。遠未来を舞台としたSFだというのに、現代日本の重大問題を鮮やかに皮肉ってるのだ。これ書いた時のヴァンスは夢にも思わなかっただろうってのが、更に悲しい。

 というのは置いて。この巻でのスターは間違いなく詩人ナヴァース。何度かの浮き沈みを繰り返し、今はドン底のハウスボート暮らし。となりゃ拗ねて困った人になっていそうなもんだが。あ、いや、確かに口の減らない困った爺さんなんだが、なんか憎めないのだ。

 もちろん、現実に身近にいたら困るタイプなんだけど、傍から見ている分には「次に何をやらかすか楽しみ」というか。遊び相手としては実に頼もしくて、人生の楽しみ方を知り尽くしているタイプ。ただ費用対効果とか計画性とかの概念は微塵もないってのが、ねえ。

 彼が手掛けるパーティーは見事ながら、そのオチも無茶苦茶w よくこんなあくどいイタズラを考えたもんだw ダン・シモンズの巨編「ハイペリオン」に出てくる詩人マーティン・サイリーナスは、ナヴァースがモデルなんじゃなかろか。

 そして、おったまげるのが、ファルーシの本拠地の税制度。

 前巻の<交換所>も、「おい、いいのか?」と本能的に突っ込みたくなるが、理屈を知ればなんか頷ける妙な合理性があった。それはここの徴税所も同じで、反射的に「おいおいw」と言いたくなるが、確かに充分な税収が見込める上に、たいていの奴は喜んで支払ってしまう困った制度だ。さすが魔王子w

 そして、あまりにも酷いのが、ファルーシへの復讐。

 いや確かに奴がやらかした事は悪辣だし、許せることじゃない。が、奴が非行(と言うには凶悪すぎるけど)に走った原因は、なんか同情したくなるってのに、最後の最後にこの仕打ちは、あまりにもあんまりだw

 タイトルといい表紙といい、微妙に詐欺っぽい感じがするけど、それもまたヴァンス。騙されて喜ぶアレな趣味の人向けの、軽い娯楽作品。

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2018年5月13日 (日)

ジャック・ヴァンス「魔王子シリーズ2 殺戮機械」ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳

狼星からコースをとろう
アケルナルの北寄りに
いちばん外まで飛んでいけ
サンバーの光、ほら真正面
  ――p119

【どんな本?】

 センス・オブワンダーあふれる異境を描かせたらピカ一の作家、ジャック・ヴァンスによる5巻に渡るスペース・オペラ・シリーズ第二幕。

 人類が恒星間宇宙へと進出した遠い未来。人類はオイクメーニ宙域に発展した社会を築くが、その権威が及ばない<圏外>へと向かう者も多い。

 五人の魔王子の襲撃により<圏外>の街マウント・プレザントは滅びた。祖父と共にからくも生き延びた少年カーズ・ガーセンは復讐を誓い、祖父は少年を殺人者として鍛え上げる。最初の標的「災厄のアトル・ラマゲート」を殺したガーセンは次の獲物ココル・ヘックスの足取りを追うが…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Killing Machine, by Jack Vance, 1964。日本語版は1985年10月31日発行。文庫本で縦一段組み、本文約270頁に加え訳者あとがき3頁。8ポイント43字×19行×270頁=約220,590字、400字詰め原稿用紙で約552枚。文庫本としては普通の厚さ。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。半世紀の作品だけあって、あまり凝ったSFガジェットは出てこないので、理科が苦手でも大丈夫。前巻と同様に登場人物が多くいので、できれば登場人物一覧が欲しかった。

【感想は?】

 著者のエンジンが、だんだん暖まってきた感じ。

 今回の標的はココル・ヘックス、人の不安と恐怖を煽る天才だ。その居場所も正体も掴めないのは、前巻と同じ。だもんで、ガーセンはヘックスの手がかりを追い星々を駆け巡る。

 ただし、荒っぽくさびれた<圏外>が主な舞台で、西部劇の面影が残っていた前巻とは違い、この巻では都市部の印象が強く、ハードボイルド風味のタフな探偵物の空気が漂う。でもって、これが、あの傑作「宇宙探偵マグナス・リドルフ」で見せた、ヴァンスならではの底意地の悪さの萌芽を感じさせる。

 まず楽しいのが、IPCCとイタチ駆除部隊の関係。

 IPCCは星際保安協力機構、今の国際刑事警察機構=インターポールに近い。文明世界オイクメーニの広域警察機構で、<圏外>に逃げた凶悪犯を追う任務もある。ただし<圏外>だと捜査員はイタチと呼ばれ、忌み嫌われる存在。きっとお尋ね者がウジャウジャいるんだろうなあ。

 対するイタチ駆除部隊は、イタチを始末する組織。これが<圏外>唯一の星際的組織ってあたりが、ヴァンスらしい皮肉。もっとも、今のところは噂だけで姿は見せないけど。

 ガーセン君、今回はそのイタチ役を仰せつかる羽目になる。オヂサンは「何の因果かマッポの手先」なんて台詞を思い出したりして。そんなこんなで、探偵よろしく聞き込みを始めたガーセン君と、胡散臭い酒場にいる後ろ暗い心当たりが山ほどありそうな輩との、しぶとく陰険な駆け引きが楽しい。

 やはり駆け引きの妙が楽しめるのが、工場主マイロン・パッチとのやりとり。

 あの手の仕事に気が進まないあたりは悪い人じゃなさそうなんだが、秘密保持の手段を悪用するあたりっは、ちょっとw にしても、ケッタイなメカが出てくるSFは多いけど、その製造場面が出てくるのは珍しいし、ちょっと嬉しい。かなりワクワクすると同時に、ちょっと間抜けな感じが漂うのも面白い。

 などの次に、いかにもヴァンス的なのが、<交換所>ってシステム。確かにこういうのがあれば、スポンサーも滞在客にも有り難いけど、いいのかw しかもキチンと在庫処理まで考えているあたりが、ビジネスの国アメリカで書かれたSFらしいというか。

 そして最後の舞台が、ある意味じゃお馴染みの様式。読者も慣れてるもんだから、そういうモンだ、とか思いながら読んでいると…。ホント、こういう所にまで罠を仕掛けておく底意地の悪さが、いかにもジャンク・ヴァンスらしいと言うか。

 少し懐かしい感じのする、軽く読める娯楽作品。

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2018年5月11日 (金)

ジャック・ヴァンス「魔王子シリーズ1 復讐の序章」ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳

どの魔王子もユニークで、きわめて個性が強く、それぞれが特有のスタイルを誇示している。
  ――p215

「わたしは魔王子をことごとく破滅させたい」
  ――p267

【どんな本?】

 センス・オブワンダーあふれる異境を描かせたらピカ一の作家、ジャック・ヴァンスによる5巻に渡るスペース・オペラ・シリーズの開幕編。

 人類が恒星間宇宙へと進出した遠い未来。人類はオイクメーニ宙域に発展した社会を築くが、その法の力が及ばぬ<圏外>へと向かう者も多い。

 ある日、<圏外>のある惑星が襲われ、多くの者が殺され、生き残りは奴隷として連れ去られる。首謀者は魔王子と呼ばれる五人。少年カーズ・ガーセンは、祖父と共に逃れ、復讐を誓う。祖父は少年を殺人者として鍛え上げる。やがて祖父を喪ったカース・ガーセンは、復讐の第一歩を踏み出す。

 最初の獲物は「災厄のアトル・ラマゲート」。どんな者なのか、どこにいるのか、なかなか尻尾が掴めないアトル・ラマゲートを追うガーセンは、スメードの星で脈のありそうなネタを掴み…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は STAR KING, by Jack Vance, 1964。日本語版は1985年9月30日発行。私が読んだのは1986年12月31日の二刷。文庫本で縦一段組み、本文約275頁に加え訳者あとがき6頁。8ポイント43字×19行×275頁=約224,675字、400字詰め原稿用紙で約562枚。文庫本としては普通の厚さ。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。流石に半世紀も前の作品だし、出てくるSFガジェットも今となってはお馴染みの効果を持つシロモノばかり。ただし登場人物が多くいので、できれば登場人物一覧が欲しかった。特にこの巻はマラゲートの正体を探るお話なので、人間関係が重要だし。

【感想は?】

 この巻は、意外とマトモなチェイス物。

 正体の掴めない敵「災厄のアトル・ラマゲート」を探り、たまたま掴んだ糸を頼りに、無法世界の<圏外>から法治社会オイクメーニへ、そしてまた<圏外>へと、宇宙を駆け巡る。

 最初の舞台は<圏外>らしい、スメードの星。ったって、住んでるのはスメード一家だけ。生物相の貧しい惑星に居を構え、レストラン&ホテルを営む。孤独を好むフィンランド人かい。でも、こういう生活に憧れる人もいるんだろうなあ。

 主役のカース・ガーセンは、探星師のフリをしてる。探星師って字面でなんとなくわかるように、いわば山師だ。金になりそうな星を探し、オンボロ宇宙船を駆って宇宙を彷徨う旅烏。どことなく薄汚くて胡散臭い商売だ。スター・ウォーズなら、ハン・ソロみたいな雰囲気なんだろう。

 ところで「探星師」みたく、目新しいけど意味は通じる言葉を創るセンスは、ベテラン訳者の浅倉久志ならでは。SFの翻訳って、言葉を選ぶだけじゃなく、創る必要もあって、けっこう大変な仕事だよね。特にジャック・ヴァンスはセンスが独特で、かなり難儀な作家だと思うんだが、どうなんだろ。

 次に出てくる「美形のヒルデマー・ダース」も、なかなか不気味な様相。いかにも悪の組織の武闘派幹部って雰囲気バリバリ。今ならCGを駆使すれば再現できるだろうけど、演じる役者はかなり苦労するだろうなあ。

 あと、肌を好きな色に染めるって文化も、魔王子世界の大きな特徴。肌を染めるのがオシャレで、無彩色は不精の印なのだ。これはもしかしたら、人種差別への密かな皮肉なのかも。

 こういった、アトル・ラマゲートを追う過程で出てくる、ユニークでケッタイな世界・社会も、ジャック・ヴァンスの欠かせない魅力。

 まずはスメードの宿で出会う、同業のティーハルトが見つけた、珠玉の惑星。雰囲気は地球に似ていて、青い空と巨木の世界。そこには「木の精」とも呼ぶべき生き物がいて…。なんかメルヘンチックだけど、連中の食事の様子は、それほど可愛らしくないのがなんとも。

 惑星ユーヴィルも、けっこう困った風習が根付いてる。都市が五つあるんだが、どの都市を訪れるにしても、それぞれの旅券が必要。そこまではいいんだが、この旅券ってのが曲者で。なんと額に五角形の刺青をせにゃならん。それぞれの都市で色が違い…。あんまし嬉しくないなあw

 これも、もしかしたら中東問題の皮肉なのかな、と思ったり。いいやイスラエルは六芒星だけど、あの辺を旅する際、パスポートにイスラエルの入国記録があると、他の国に入る際に苦労するって話があって。

 そして、原書のタイトルにもなっている、スターキング。この世界の数少ないエイリアン。その生態は謎に包まれていながらも、相当数が人類世界に入り込んでいて…

 奇矯な世界と文化、そこに住む人々の個性的な暮らしなど、SF的な小道具大道具を散りばめながらも、お話はスペース・オペラの語源となったホース・オペラ、すなわち「西部で賞金首を追う賞金稼ぎ」っぽいタフでラフなハードボイルド調で進む、わかりやすい娯楽作品だ。

 ちなみに表紙は萩尾望都です。

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2018年4月18日 (水)

ニーヴン,パーネル,バーンズ「アヴァロンの戦塵 上・下」創元SF文庫 中原尚哉訳

水はグレンデルを意味する。
  ――上巻p221

「どこを見ても、どこへ手をのばしても、そこには新しい動物や新しい植物がいるんだ」
  ――下巻p40

「ここはおれたちの場所なんだ。このすべてがだ。キャメロットでもない、サーフスアップでもない。ここがおれたちの土地なんだ」
  ――下巻p116

「あの土地はあいつらのものさ。おれたちではなく」
  ――下巻p179

「おれたちはすべてを捨て、ただ旅立ちたいと願った人間の集まりなんだ」
  ――下巻p200

「理由はいろいろだろうが、夢はひとつだった。未来を切り拓くことさ」
  ――下巻p244

「グレンデルのことは理解したと思っていたのに、じつはそうでなかった」
  ――下巻p324

【どんな本?】

 「神の目の小さな塵」で有名なラリイ・ニーヴンとジェリイ・パーネルのコンビが、売り出し中のスティーヴン・バーンズと組んだ、SF長編「アヴァロンの闇」の続編。

 地球から10光年、鯨座タウ星系第四惑星、通称アヴァロン。160名の移民団は、この惑星の島キャメロット島に植民地を築く。彼らは全人類から選りすぐった者だったが、人口冬眠の副作用で脳の一部が「凍りつき」、多くの者が鋭敏なはずの頭脳を失ってしまう。

 それでもアヴァロンは楽園のような土地だった。しかしそこには、恐るべき敵がいた。グレンデル。体長数メートルに成長する肉食の両生類。主な武器である突進は、わずか三秒で時速110kmに達する。その際に発する熱は凄まじく、時として自らも焼き殺すため、体を冷やす水が豊かな所にしか棲めない。

 獰猛なグレンデルの襲撃により、一時は壊滅の危機に陥った移民団だが、多くの犠牲を払った末、ついにキャメロット島からグレンデルを駆逐する。

 それから20年。

 植民地は発展し、新しい世代も育ってきた。食物連鎖の頂上に立つグレンデルが絶滅したためか、キャメロット島の生態系にも変化が現れはじめる。

 島で生まれ育った若者たちは、広大な本土への進出を望む。しかしグレンデルの脅威を忘れられない第一世代は、慎重な姿勢を崩さない。そんな時、本土にある無人採掘場で事故が起きる。何かが爆発したらしいのだが…

 フロンティアの暮らしと世代間の対立を背景に、奇想天外なエイリアンの生態と、見えざる敵の脅威を描く、長編パニックSF小説。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Beowolf's Children, by Larry Niven, Jerry Pournell, Steven Barnes, 1995。日本語版は1998年10月30日初版。文庫本の上下巻、縦一段組みで本文約379頁+423頁=802頁に加え、堺三保の解説5頁。8ポイント42字×18行×(379頁+423頁)=約606,312字、400字詰め原稿用紙で約1,516枚。文庫本としては上中下の三巻でもいい大長編。

 文章は比較的にこなれている。驚異のダッシュ力を誇るグレンデルをはじめ、多種多様で奇妙奇天烈な異星生物の生態が楽しい作品なので、そういうのが好きな人向け。ちなみにケッタイな性質も一応はソレナリの理屈がついているので、生物学や生態学、それと化学を少し齧った程度だと、更に楽しめる。

 同じトリオによる長編「アヴァロンの闇」の続きだが、必要な設定は要所で説明しているので、前を読んでいなくてもだいたいは理解できる。私も「アヴァロンの闇」はだいぶ前に読んだけど、中身をほとんど忘れていた。が、それでも楽しめたので、これから読み始めても大丈夫だろう。

【感想は?】

 まず目立つのが、世代間の対立。これを引き立たせる設定が巧みだ。

 普通の社会には、様々な年齢の人がいる。世代間の対立ったって、ハッキリ分かれてるわけじゃない。三十路もいればアラフォーだっている。

 現実には明確な区切りなんかないんだけど、それじゃわかりにくいし面白くない。だから、マスコミが中間の世代を無視して、オッサン・オバサン vs 若者って図式に作り上げて報じる。

 でも、この作品では、本当に世代の断絶がある。アヴァロンは移民の地だ。第一世代は、10光年の遥かな旅を経てこの惑星にやってきた。対する第二世代は、第一世代の子供たち。その間には、20歳以上の年齢の隔絶がある。年齢的に、クッキリ分かれているのだ。

 育った環境も違う。第一世代は地球で生まれ育った。当然、地球をよく知っている。だが第二世代は、アヴァロンの開拓地で生まれ育った者たちだ。世界観が全く違う。

 加えて、グレンデルの恐怖だ。第一世代は、グレンデル相手に、一時期は絶滅の恐怖を味わった。だが第二世代は、そんな事を知らない。

 ダメ押しになっているのが、人口冬眠不安症。10光年を旅する間、ずっと起きているわけにはいかない。そこで人口冬眠するんだが、その副作用でオツムが多少イカれちゃってる。おかげで第一世代は自分の判断が信用できない。だもんで、何につけても慎重になる。

 対して第二世代には、そんな心配がない。そうでなくても若者はリスクを恐れないものだ。そんな若者たちの前には、開拓を待つ広い未踏の大陸が広がっている。

 狭いが安全なキャメロット島に閉じこもる第一世代と、何が潜むか分からない広い大陸を切り拓こうとする若者たち。両者の対立が、人間側のストーリーの軸となる。

 が、それ以上に面白いのが、奇妙奇天烈なアヴァロンの生物たちだ。

 だいたいグレンデルからして意地が悪い。人間の文明は大河のほとりで育った。ヒトが生きていくには、淡水が欠かせない。その水源には、最も危険な天敵グレンデルがいる。小さな島のグレンデルにさえ、人類は壊滅の危機に追いやられた。大陸ともなれば、どれほど恐ろしい奴がいることか。

 この予想は裏切られず、冒頭の地図からして「老グレンデル」「ダムをつくるグレンデル」「雪のグレンデル」と、個性豊かな強敵の大盤振る舞いだ。

 私が最もシビレたのは、彼らグレンデル視点の語り。

 彼らの最大の武器は、「スピード」による猛ダッシュだ。3秒で110km/hに達する、ぶっちゃけチートだよね。が、それだけに、制限もあればツケも溜り…。これを「いつ」「どこで」「どのように」使い、ツケをどう払うか。だけでなく、水に棲む生物だけあって、世界の認識方法も、ヒトとは大きく違う。

 これをエイリアンの立場で描くあたりは、パク人やモート人を生み出し、化け物を描かせればピカ一のSF作家ニーヴンの腕が冴えわたるところ。

 ばかりでなく、当然ながら、グレンデルに劣らぬケッタイな生物が、次々と出てくる。序盤に出てくるウナギもどきの生態からしいて、異境の雰囲気たっぷりだ。もちろん、グレンデルを超える恐ろしい敵も出てくるので、乞うご期待。

 広大な新天地へ踏み出す人類に襲い掛かる試練を描く、正統派の秘境冒険SF。リラックスして楽しもう。

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2018年3月25日 (日)

アダム・ロバーツ「ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者」新☆ハヤカワSFシリーズ 内田昌之訳

どの事件でも、殺人者は同一人物――言うまでもなく、ジャック・グラスその人です。

刑期のあいだ、七人の囚人たちは、ラミー306と呼ばれる小惑星の空洞に放置される。直径二百メートルのこの小世界に。

次に宇宙船がこちら方面へやってくるのは十一年後になる。
  ――第一部 箱の中

「ミスター・グラスの驚くべき点のひとつは」ジョードが真顔で言った。「巧みなわざでありえないことを現実にしてしまうところなの」
  ――第二部 超光速殺人

未解決の問題がなかったら、未来になんの意味が?
  ――ありえない銃

【どんな本?】

 イギリスのSF作家アダム・ロバーツの、本邦初紹介作品。

 遠未来。人類は太陽系全体に版図を広げている。幾つかの戦争や権力闘争を経て、厳しい階級社会となった。頂点にはウラノフ一族、次いで五つのMOHファミリー、その下に企業である公司・商社が支配階級として君臨していた。

 階級の底辺にいるのは、数兆もの貧しい民衆である。彼らは虚空を漂う数多の使い古した狭いボール状の居住施設にひしめきあい、乏しい資源とエネルギーでかろうじて命をつないでいた。

 ジャック・グラス、名高い殺人者でお尋ね者。彼の手で命を落とした者は数千とも数百万ともいわれる。孤立した小惑星の監獄からの脱走、持ち上げられない凶器による殺人、

 かれはなぜ、そしていかにして不可能と思える犯罪を成し遂げたのか。やや懐かしい雰囲気が漂う、SFミステリ連作集。

 2012年英国SF協会賞、2013年ジョン・W・キャンベル記念賞受賞。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は JACK GLASS : A Golden Age Story, by Adam Roberts, 2012。日本語版は2017年8月25日発行。新書版で縦二段組み、本文約476頁に加え、訳者あとがき9頁。9ポイント24字×17行×2段×476頁=約388,416字、400字詰め原稿用紙で約972枚。文庫本なら上下巻でもいい分量。

【収録作は?】

第一部 箱の中
 ラミー306、直径200メートルの小惑星。重犯罪人を収監する監獄。囚人たちは、最低限の物資と共に、ここに置き去りにされる。迎えが来るのは11年後。
 当初、囚人たちの居住空間は深さ10m×長さ15m×幅1mだけ。表面はシーリング材でコーティングされ、大気は漏れない。与えられるのは熱を出す核融合セル、光るライトボール、空気清浄機、食料の種となる芽胞パック、三個の削岩機、そして当面の食糧。
 囚人たちが自分で居住空間を広げ、鉱脈から水を確保し、芽胞を育てて食いつなげば、生き残れるだろう。そして刑期を終えた囚人を追い出した小惑星は快適な居住地となり、公司の有望な商品となる。その前に脱走しようにも、次にお迎えの船が来るのは11年後だ。
 今回、放り出された囚人は七人。まずは彼らと共に放り出された物資を確保し…
 閉鎖された極限状態に、ワケありの囚人どもをまとめてブチ込めばどうなるか。
 当然ながら「火星の人」のように理性的な判断と不屈の精神ってわけにはいかず、チームワークもヘッタクレもなしに、まずはツツキの序列が出来てゆく。改めて考えると、こういう序列付けって、秩序を保つ最も手軽な方法なんだなあ。
 まさしく息詰まるような狭い空間の中に、同居人としてもチームメイトとしても最悪な連中たちと一緒に閉じ込められ、生き延びるだけでも大変なのに、脱走までしなきゃいけないんだから大変だ。そんな中で生存環境を整えていくあたりは、けっこう生々しい。
 とまれ、最後のトリックはお馬鹿スレスレの大胆なもの。酷いw
第二部 超光速殺人
 成人と認められる16歳の誕生日を一カ月後に控えたダイアナと、その五歳年長のエヴァ。この世界を仕切る五つのMOHファミリーの一つであるアージェント家の跡取りと目される姉妹。二人はダイアナの誕生日パーティに備え、地球に降りてきた。
 普段は無重力の高所に住む姉妹に、地球の重力は厳しい。二人が連れてきた20人の召使や、指導教師のアイアーゴも辛そうだ。ボディガードの三人は、さすがに予め鍛えていたようだが。
 屋敷についてすぐ、事件が起きる。召使のレロンが殺されたのだ。凶器と目されるのは、プラズメタル製のハンマー。地球の重力に慣れなぬ召使たちは、こんな重い物を持ち上げられない。だが、召使たちを除き現場に出入りできる者はいない。
 ミステリに凝っているダイアナは、さっそく張り切って捜査にとりかかるのだが…
 ミステリおたくのダイアナ嬢を主役に据えた、ちょっとコミカルな一編。人が死んでるってのに、目を輝かせるってのはどうよw
 などの描写を通じて、作品世界の過酷な社会構造と、そこに君臨する者たちの世界観が見えてくるのも、この作品のポイント。CRFなんて技術を何のためらいもなく使い、そういう社会を当たり前だと感じる感性に恐れ入る。
 そういう無茶苦茶な倫理観の社会でありながら、犯罪の刑罰が異様に厳しいあたりも、この世界のいびつさを際立たせている。
 主人公がミステリおたくだけあって、そっちのネタも会話のアチコチにまぶしてある。とはいっても、私のようにミステリに疎い者でもわかるような、有名作ばかりだけど。なんか英国人の作品だけを選んでるような気がするがw
 とかに加えて、低位重力の環境に慣れたダイアナたちが、地球の重力に苦しむ描写は、読んでるこっちまで息苦しくなるようなリアルさ。
 とまれ、肝心のトリックも、これまたお馬鹿スレスレで。フィンって、そうきたかw
ありえない銃
 ウラノフ世界で最も有名な警察官、バル=ル=デュックが死んだ。正確には殺されたと見ていい。数人の目撃者の目の前で、蒸発したように撃ち殺されたのだ。目撃したのは人間だけではない。データの信頼性には定評のある、RACドロイドも現場を記録している。
 現場はボール状の居住施設。銃弾はバル=ル=デュックを蒸発させただけでなく、居住施設の外壁も切り裂き、加えて施設に係留してあった警察のスループ船まで引き裂いている。凄まじい威力だ。
 だが、解せない点が幾つもある。どこから、誰が撃ったのか。ボールの外から撃ったのなら、弾丸はボールを貫き、二つの裂け目を作るはず。しかし、ボールの裂け目は一つしかない。
 ボールの中から撃ったとすれば、異様に威力の大きい銃である。なにせスループ船を引き裂いくほどだ。とすれば、サイズも相応に大きい筈だが、ボール内に不審な物は見当たらない。
 今まで話だけは出てきた、貧しい数兆の民衆たちの暮らしを生き生きと描く、最終章。ヤケになって馬鹿やらかす愚連隊どももありがちだが、ワケありっぽくてクセの強く生活力に溢れたおババさんが、これまたいいい味出してる。
 また、遠未来の話だけあって、時を経てケッタイな形に変形しちゃった神話と宗教も、なかなか強烈なボケをかましてくれる。とはいえ、現代の宗教も、教祖が生きてた頃と比べたら、やっぱりグロテスクに変形しちゃってるように見えるんだろうなあ。
 ミステリとして見ると、肝心の「誰が、どうやって」は、やっぱりお馬鹿スレスレで、かなり無茶があるような気が。
 とはいえ、それだけじゃなく、事件の背景やジャックの目的なども明かされて、私はこっちの方が面白かった。また、終章でも鮮やかなどんでん返しが待っていて、これには完全に引っかかってしまった。お見事。

 訳者で見当がつくように、娯楽路線の作品だ。リラックスして著者の騙りに身を任せよう。

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