カテゴリー「書評:SF:日本」の192件の記事

2019年9月13日 (金)

石川宗生「半分世界」東京創元社

その家はドールハウスさながら、道路側のおよそ前半分が綺麗さっぱり消失していた。
  ――半分世界

「だとしても、こんなになにもないところに999の路線ですよ」
  ――バス停夜想曲、あるいはロッタリー999

【どんな本?】

 「吉田同名」で2016年の第7回創元SF短編賞を受賞した新鋭SF作家・石川宗生のデビュー短編集。

 ごく普通の月給取りが何の前兆もなく突然19329人に増殖してしまう「吉田同名」、半分にぶった切られ外から丸見えの家で暮らす四人家族及び彼らの追っかけを描く「半分世界」、町の全部をフィールドとしたサッカー?が延々と続く「白黒ダービー小史」、と、異様な状況に直面しつつも常識的?に生きる人々を克明に描く、すっとぼけた作品集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年1月26日初版。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約291頁に加え、飛浩隆の解説9頁。9ポイント43字×19行×291頁=約237,747字、400字詰め原稿用紙で約595枚。文庫本なら普通の厚さ。

 文章はこなれていて読みやすい。一応はSFとしたが、難しい理屈は全く出てこない。ただし「突然サラリーマンが19239人に増殖する」「半分にぶった切られた家で普通に暮らす」など、かなりイカれた設定で話が進むので、それを受け入れられるか否かで好みが分かれるところだろう。

【収録作は?】

 それぞれ作品名/初出。

吉田同名 / 「アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選」2016年6月
吉田大輔、36歳、サラリーマン。妻と幼い息子が一人。三年前、仕事を終え駅から家に向かい歩く途中で、突然19329人に分裂/増殖してしまう。すべての吉田氏は体格も記憶も性格も同じだが、意識はそれぞれ独立している。人間がいきなり増殖した事件に社会は混乱し…
 クレイジーな設定で筒井康隆と比べられる著者だが、私はドリフターズの「もしもこんな…」シリーズのコントを連想した。一頁目の「そう語るのは吉田大輔氏の一人、吉田大輔氏である」で大笑い。もっとも、設定こそイカれているものの、語り口はあくまでも落ち着いていて真面目なのが、かえっておかしさを盛り上げる。奥さんの小代子さんの通報も、実にまっとうなんだけど、受ける方も困るよなあw いずれにせよ、出てくる人はみんなマトモで常識的で冷静なのに、そこに描かれる風景がいちいち狂ってるのが楽しい作品。
半分世界 / ミステリーズ!vol.80 2016年12月
ある朝、藤原さんの家は前半分が消え、表から丸見えになっていた。にも関わらず、藤原一家は何事もなかったように暮らしている。翻訳会社の副社長を務めるケンスケ氏、落ち着いた雰囲気のユカ夫人、引きこもりだのカズアキくん、華やかな女子大生のサヤカちゃん。向かいの森野グリーンテラスには、藤原家に注目するフジワラーと呼ばれる者たちがタムロし…
 注目されつつも普通に暮らす藤原一家よりも、彼らに注目するフジワラーたちの生態が楽しい作品。ビートルマニアにもジョン派・ポール派・ジョージ派・リンゴ派があるように、フジワラーにも様々な派閥があり、また各派閥の中でも様々な主張を持つ者たちが喧々囂々の議論を繰り広げるあたりは、ネット上でのヲタクたちの論争を見るようだ。とまれ、そんなコミュニティも藤原家との「見られる者・見る者たち」な関係があってこそ成り立つわけで、「もっと深く藤原家を知りたい」気持ちと、現在の関係を保ちたい気持ちの葛藤は…
白黒ダービー小史 / Webミステリーズ! 2017年8月
長方形をしたその町では、昼夜を問わず白黒ダービーが続いている。町全体がフィールドだ。戦っているのはホワイツとブラックス。南と北の端にスタジアムがあり、ゴールマウスがある。住民も白と黒に分かれ、勢力は拮抗している。ゲームは延々と続き…
町全体をフィールドとした、いつ始まったのかさえ不明なサッカー?のゲームを続ける町を舞台に、ロミオとジュリエットみたいな恋を絡めたお話。それこそ世紀単位で続くゲームを、爽やかなスポーツ物みたく描くトボけた芸がたまらないw 特に後半に出てくる、かつてキーパーだったトムじいさんがいい味出しまくりw なにせフィールドもやたら広いだけに、ルールも奇妙奇天烈だし、ゲームも歴史になってるあたりが、もうねw なんかいい話みたくまとめてるあたりも、なんなんだw
バス停夜想曲、あるいはロッタリー999 / 書き下ろし
バスを降りる。471番のバスに乗り換える予定だ。日差しが強い。赤茶けた道が交差する十字路。ここには001番から999番のバスが止まる。なのに、近くにあるのは大きな岩が幾つか、サボテンと灌木。他には売店も何もない。バスが来るのは1時間に1~2本。471番は来ない。付近の岩陰では、何人かづつが固まってバスを待つ。バスが来るたび、人は入れ替わる。最初に話をした男は、三日間も待っている、と言った。
 うおお、騙されたw 最初は、恐らく中南米を舞台とした貧乏旅行記かと思った。お互いバスを待つ間だけの、一時的な仲間たちの、他愛のない会話劇かと。集団内に一応のルールはあるが、別に文書化されているわけじゃない。日々仲間は入れ替わり、わずかな期間でで新人がベテランになってしまう。
 安宿の大部屋を泊まり歩く長い旅の経験があるなら、「あるよね、そういうの」などと馴染みの宿を懐かしんだり。以前の旅人の置き土産が珍重されてたり、一時的なあだ名で呼び合ったり、物々交換したり。「あるほど、安宿の大部屋をバス停に変えたのか、面白い工夫だねえ、雰囲気も良く出てるし」なんて思っていた。
 ところが、次の節に入ると、話は微妙に方向にズレていく。が、前の節の終わり方から、次の節への変化が、「うん、まあ、そういうのもアリかな」なんて勝手に納得しつつ読み進めていくと…
 いやあ、実にお見事。あんな貧乏ったらしい幕開けから、こんな物語世界へと広げてゆくとはw とにかく、騙りの魅力にあふれた、鮮やかな馬鹿話w いいなあ、こういう人を喰った駄法螺ってw

 前に読んだのが、やたらと重厚長大な本なので、思いっきりお馬鹿な本を読みたいと思って選んだ本なのだが、これが大当たり。存分に楽しませてもらいました。これだからSFはやめられない。

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2019年8月22日 (木)

林譲治「星系出雲の兵站 1~4」ハヤカワ文庫JA

「英雄などというものは、戦争では不要だ。為すべき手順と準備が万全なら、英雄が生まれる余地はない。勝つべき戦いで勝つだけだ。英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎん」
  ――1巻 p239

「勝てる軍隊とは、凡人を戦力化できる組織なんだよ」
  ――1巻 p362

忠誠を尽くせば、手柄を立てる機会を与えられる。恥ずかしいほどわかりやすい。
  ――2巻 p169

目立たないこと、それこそが有能さの証明だ。(略)真に有能な人間は、全体に目配りし、トラブルの兆候を発見し、それが問題となる前に対処する。
  ――3巻 p77

「権力には責任が伴うということだな」
  ――4巻 p29

【どんな本?】

 遠未来。異星人の侵略を恐れる人類は、多数の播種船を送り出す。播種船の一つは故郷と断絶しながらも出雲星系で文明を築き、他の四つの星系にも進出していた。うち出雲に次ぐ規模の壱岐星系で、異星人のものらしき無人衛星が見つかる。

 二千年来、文明を発達させ、異星人を恐れて軍を維持してきた人類だが、異星人との接触は初めてだ。異星人は高度なステルス技術を持ち、また人類文明の情報を熱心かつ密かに収集していたらしい。

 軍事・経済の主力を担う出雲星系に対し、壱岐星系は独立の気運が育ちつつある。また有力な一族が権力を寡占する状況から、それを脱しようとする中間層の台頭が始まっていた。多くの軋轢を抱えたまま、人類は正体不明の異星人に対処するのだが…

 架空戦記でも活躍したベテランSF作家が、前線から政治そして産業までを俯瞰した視点で描く、ユニークなスペースオペラ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 発行年月日と頁数は以下。

  • 1巻:2018年8月25日 本文約369頁に加え、あとがき2頁。 
  • 2巻:2018年10月25日 本文約359頁。
  • 3巻:2019年1月25日 本文約302頁。
  • 4巻:2019年4月25日 本文約329頁に加え、あとがき3頁。

 文庫本で縦一段組み、9ポイント40字×17行×(369頁+359頁+302頁+329頁)=約924,120字、400字詰め原稿用紙で約2,311枚。文庫で四巻は妥当なところ。

 文章は一見ぶっきらぼうな印象を受けるが、読んでみると実にわかりやすくて読みやすい。つまりは伝わりやすさを重視し余計なモノを削った、ハードボイルドな文章だ。

 内容はサイエンス重視の軍事物なので、中学卒業程度の科学の知識と、多少の軍事知識が必要。科学はわからなくても凝ってる所が見えない程度で済む。が、軍事は登場人物の行動原理に関わるので、少し知っておいた方がいい。特に大事なのが軍政(→Wikipedia)と軍令(→Wikipedia)。スーパーのチェーンなら、軍令は店舗で働く人、軍政はそれ以外の人事や経理や仕入れ元開拓かな?

【感想は?】

 最初にこの本を知ったとき、「これは全巻揃ってから読み始めた方がいいな」と思った。大当たりだ。

 なぜって、そりゃもちろん読み始めたら止まらないからだ。一応、巻で区切っちゃいるが、お話そのものはスンナリと繋がっている。なお、この四巻は第一部で、既に第二部が始まってます。始まってなきゃ困る。

 書名に「兵站」とあるし、兵站に関する話も多い。この作品での兵站は、「必要な時期に、必要な物資を、必要量供給」すること。ついでに付け加えるなら、「必要な場所へ」だろう。実はこの「必要な場所」ってのが、この作品の舞台設定の巧みなところ。

 舞台は、五つの星系から成る。最も歴史の古い出雲星系が社会的な中心であり、軍事・政治・経済・技術・産業共に強力なリーダーシップを持つ。対して異星人?が見つかった壱岐星系は出雲から遠く、力量も出雲に遠く及ばない。にも関わらず、そこそこ地場産業が育っていて、出雲への対抗意識もある。壱岐独自の軍も持ってるし。出雲が徳川幕府なら、壱岐は薩摩藩ぐらいの位置かな?

 その壱岐に異星人らしき存在が見つかった。なら、主な戦場は壱岐の近くになるだろう。この場合、戦闘に必要なモノ一切合切を、出雲から運んでたらキリがないし、そもそも間に合わない。だから壱岐で調達したい。ところが壱岐は経済規模も小さく産業基盤も弱い。しかも異星人?との接触は初めてで、相手の意図も規模も全く分からない。そんな状態で、何をどれぐらい用意すりゃいいのさ。

 と、暗中模索の状況で物語は始まる。もっとも、暗中模索とは言いつつ、相手はコッソリ覗き見してるような奴で、しかもコッチが探りを入れると、徹底的に正体を隠そうとする。陰険な奴だね。異星人に関しては古い言い伝えもあり、だからこそ軍を組織・維持してきたわけで、気配はいかにも物騒だ。

 そんなワケで、序盤では「いつ、何を、どれだけ」の前に、そもそも壱岐の産業基盤の強化から考えなきゃいけなかったり。これが壱岐の社会構造とも密接にかかわってるあたりが、実に渋くてオジサン好みだ。

 などの兵站の話も美味しいんだが、いささか派手さには欠ける。が、心配ご無用。実はスペースオペラとしての見せ場も、たくさん用意してあるから。互いの意図を探り合う頭脳戦,艦隊同士の撃ち合い,血しぶき舞い散る白兵戦,そしていかにも強そうな新兵器。

 中でも巧いと思ったのは、白兵戦がある所。なにせ恒星系レベルのスペースオペラだ。普通に考えたら、艦隊決戦でケリがついてしまう。射程距離数千km、速度秒速数千kmの世界だし。そんな舞台で、時速ンkm単位の歩兵にどんな仕事がある? この問題をどうクリアしてるのか、お楽しみに。

 とかの白兵戦に始まる戦術レベルのネタも、てんこ盛りだから嬉しい。中でも印象に残っているのが、三角飛びw いやジャッキー・チェンの映画ならともかく、そーゆーレベルでやりますかw

 そういったクレイジーなネタが飛び出すかと思えば、キチンとニュートン力学に沿った戦術もアチコチで見えるからたまらない。というか、その辺の科学的な面を充分に考えているからこそ、三角飛びのマッドさが引き立つんだけど。

 綿密に考え抜かれた科学考証、兵站の難しさを際立たせる舞台設定、アクの強い登場人物、頭脳戦・肉弾戦・新兵器を取りそろえたバトル、そして驚きの異星人の正体。一見地味なタイトルだけど、実は思いっきり重量級かつ見せ場たっぷりの正統派スペースオペラだ。充分に時間を取って一気に読もう。でないと、禁断症状に苦しむ羽目になる。

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2019年7月30日 (火)

門田充宏「風牙」創元日本SF叢書

お願い珊瑚ちゃん、<閉鎖回廊>を今すぐ止めて。
  ――閉鎖回廊

「初めまして、導きの御子さま。お目にかかれて、とても、とても嬉しいです」
  ――みなもとに還る

【どんな本?】

 2014年度の第五回創元SF短編賞を受賞した新人SF作家・門田充宏のデビュー連作短編集。

 舞台は近未来の日本。人は多かれ少なかれ、他人の気持ちを推しはかることができる。中には、それが極端で他人の感覚を我がことのように感じてしまう者もいる。過剰共感能力、HSPと呼ぶ。酷い場合は、他人の感覚と自分の感覚の区別がつかず、普通の暮らしが難しい。

 主人公の珊瑚はグレード5、最上級のHSPだ。幼い頃には感覚の洪水に流され自我の確立すら覚束なかったが、補助機器トランキライザーなどによってなんとか自立できるようになった。今は新興企業の九龍で、記憶翻訳者=インタープリタとして働いている。

 インタープリタとは、他人の記憶データに入り込み、それを解釈・翻訳する職業だ。ヒトの感覚は、人によりそれぞれ異なる。同じ刺激でも、それをどう感じるかは人それぞれだ。この違いを乗り越えるには、HSPの特性が役に立つ。

 幼い頃の記憶の欠落に悩みつつも、珊瑚は凄腕のインタープリタとして名を高めつつあったが…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年10月31日初版。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約341頁に加え、あとがき4頁+長谷敏司の解説6頁。9ポイント43字×21行×341頁=約307,923字、400字詰め原稿用紙で約770枚。文庫本なら厚い一冊分ぐらい。

 文章はこなれている。一見、難しそうな言葉も出てくるが、わからなかったら「なんかソレっぽいコト言ってる」ぐらいに思ってテキトーに流しても構わない。むしろ登場人物たちの言葉や想いが大切な作品なので、そっちに注意して読もう。

【収録作は?】

 実はけっこう設定がややこしいので、できれば素直に頭から読もう。連作短編集としての仕掛けもあるし。

風牙 / 「年刊日本SF傑作選2013 さよならの儀式」2014年6月
 不治の病を患い、余命を宣言された社長の不二が、記憶のレコーディングを望んだ。ただし汎用化(他人に理解できる形に変換する)処理はしないまま。普通なら半日ほどで終わるはずの処理が、五日たっても終わらない。もちろん、不二は意識を失ったままだ。そこで不二の意識を取り戻すため、珊瑚は不二の記憶への潜行を試みるが…
 この作品集の売り物であるガジェット、「インタープリタ」を描く冒頭が、センス・オブ・ワンダー全開で気持ちいい。小さな手掛かりを元に、感覚の翻訳辞書をアドホックに構築し、少しづつ他人の感覚または刺激を自分なりに解釈できるようにしてゆく部分だ。逆に、SFに慣れてない人は、ここが一番の難所かも。
 でも大丈夫。ここさえ乗り越えれば、後は「心のつながり」を描く物語になるから。
 この記事を書くため改めて読み直すと、珊瑚に次ぐ重要人物である不二の印象が大きく変わり、それと共にタイトル・ロールである風牙も、全く違って見えるのが凄い。解説にもあるように、とても優れた犬SFだ。犬好きにはシマックの「都市」やクーンツの「ウォッチャーズ」と並んでお薦めできる傑作。
閉鎖回廊 / <ミステリーズ!>vol.88,89 2018年4月、6月
 新興企業の九龍が、社運を賭けて開発している疑験都市<九龍>。別人となって世界を体験し直すサービスだ。そのオープン前、公開ベータテストは好評を博している。特に、<閉鎖回廊>の恐ろしさは、病みつきになるほどだと評判が高い。しかし、その<閉鎖回廊>の開発者である由鶴から、珊瑚に連絡が入った。<閉鎖回廊>を止めろ、と。
 込み入った設定の説明が必要だった「風牙」に比べ、すんなりと物語を始められる分だけ、著者の特徴が強く出ていると思う。なんといっても、疑験都市のアイデアがいい。曰く、「全く別の誰かとして世界を体験し直す」。今だってオンラインRPGなどで別人になりすます事はできる。やがてSAO=ソードアート・オンラインのように、全感覚の没入だって可能かもしれない。
 だが、<九龍>の発想は、全く違う。私はゴーヤなどの苦い物も好きだ。でも苦い物が嫌いな人もいる。そういう人は、私より苦味を強く感じていたり、または苦い味に慣れていなかったりするんだろう。ちなみに「美味しさ」には味覚のほかに嗅覚や記憶や思い込みが強く関係していて、しかも味覚も嗅覚も人により千差万別らしい(→「おいしさの錯覚」)。
 だから、同じゴーヤチャンプルーを見ても、私はよだれが出るが、苦手な人は「ウゲッ」と感じるだろう。同じ刺激でも、そこから何を感じ取るかは、人によりまちまちだ。
 そこで<九龍>である。私には、ゴーヤが苦手な人の気持ちが分からない。でも、<九龍>なら、そんな人の気持ちも分かる。
 こういう仕掛けに、著者の特徴が出ていると思うのだ。つまり、他の者を理解したい、他の者の気持ちを分かりたい、そういう想いを強く抱いている人なんだろう、と。勝手な想像だけど、私はそういう所が好きになった。いや実はそれ以上にカマラさんが魅力的なんだけどw
みなもとに還る / 書き下ろし
 疑験都市は好評だ。クリエイタも増え、モジュールの売り込みも多い。珊瑚もモジュールのレビューに駆り出される。普通レビュアーはランダムに割り当てるのだが、今回は珊瑚をレビュアーに指名していた。それは明らかに過剰共感能力者を対象とした作品であり、しかも珊瑚に宛てたメッセージだったのだ。
 「閉鎖回廊」のカマラさんに続き、これまた個性的なジョージ君が登場する作品。典型的な理系の朴念仁というか、理屈先行で馬鹿正直なところがいいw
 それに対してお話は、珊瑚の過去を探りつつ、今までボンヤリとした見えてこなかった「過剰共感能力者とは何か」を、理屈ではなく感覚的に伝えてくる作品。出だしの疑験都市の場面で、過剰共感能力者が社会でどんな立場にいるのかを、巧みに描いている。なんと言っても、「子供の遊び」を使っているのが巧い。子供ってのは、時として残酷なほど正直だし。
 そんな過剰共感能力者が、この世界でどう生きていくか。テクノロジーを駆使して能力を武器にしようとする九龍と、全く違ったアプローチをとる彼ら。ある意味、SFが問うべき根本的な問題に、真正面から挑んだ意欲作だ。あと、ちょっと百合味。
虚ろの座 / 書き下ろし
 「みなもとに還る」の舞台裏を明かす作品。すんんません、私にはネタバレを避けて紹介するのは無理です。
 これも珊瑚の過去に関わるお話。先の「みなもとに還る」は、過剰共感能力者の立場で見た社会の話なのに対し、この作品はそうでない者から見た過剰共感能力者との関係を描いている。ちょっとゲストとして出て来た青年は、彼なのかな? みたいなイースターエッグも嬉しいが、「閉鎖回廊」から続く「他の者の立場で世界を体験する」テーマを、残酷なほど見事に突き詰めていると思う。

 最初の「風牙」は過剰共感能力というガジェットが主食のように見えるのに対し、続く作品では次第に人間関係に重点が移ってゆく。SFでデビューしたけど、そうでない小説でも充分に人気が出そうな人だと思う。でもお願いだからSFも書いてね。

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2019年7月17日 (水)

三方行成「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」早川書房

 とにかく、女の子がひとりおりました。
 名前はシンデレラといいました。環大西洋連合王国の臣民です。正式に名乗らせようとすると公開暗号鍵やら契約知性アドレスやら煩雑なので、ここでは省略しましょう。
  ――地球灰かぶり姫

【どんな本?】

 2018年の第6回ハヤカワSFコンテストで優秀賞に輝いた作品を加筆修正したもの。

 シンデレラ、かぐや姫、白雪姫、アリとキリギリス。誰もが知っているおとぎ話だけど、これの舞台をテクノロジーが進歩した遥か未来に移し替え、科学的な裏付けを与えたらどうなるか。奇矯な発想を元に妄想を暴走させ、丹念かつ強引な解釈でおとぎ話を語りなおす、アイデアとギャグに満ち溢れた連作短編集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年11月25日発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約251頁に加え、第6回ハヤカワSFコンテスト選評6頁。9ポイント45字×18行×251頁=約203,310字、400字詰め原稿用紙で約509枚。文庫なら普通の厚さの一冊分。

 最近のインターネットの影響を受けた、ややくだけた文章。私は親しみやすくて好きだが、好みは別れるかも。内容は最新科学っぽいガジェットがたくさん出てくるけど、わからなかったら「なんか凄いモン」ぐらいに思っていれば大丈夫。

【収録作は?】

 一見独立しているように見えて、実はちゃんと構成上の工夫があるので、素直に頭から読もう。

地球灰かぶり姫
 シンデレラは幼い頃に母を事故で亡くしました。父は後妻を迎えましたが、やがて気力を失い体が弱り、シンデレラの看病の甲斐もなく、父も他界します。継母は連れ子の二人の娘とともにシンデレラを苛め抜きます。絶望したシンデレラの前に、魔女が現れました。魔女はシンデレラに尋ねます。「何が欲しい?」
 ああ、うん、そういう話ではあるんだけどw 話が始まって4行目から「公開暗号鍵」だの「契約知性アドレス」なんて言葉が出てくるので、まっとうなおとぎ話じゃないのはすぐ見当がつきますw とーちゃんが気力をなくすあたりも、現代風なのがなんともw カボチャの馬車や舞踏会のタイムリミットも出てくるし、それにちゃんと理屈がついているのも芸が細かいw
竹取戦記
 竹取の翁は、野山の竹をとって暮らしていました。しかし竹も黙ってはいません。マイクロフィラメントを張り巡らし、ウィルスを潜ませたメッセージを翁に送って防ぎます。それでも翁は竹の防御をかいくぐり、竹を手に入れるのでした。ある日、翁は謎の熱源を発見します。そこから翁は赤ん坊を拾い、育て始めたのですが…
 えっと…竹…なのかw やたら口が悪いし。つか普通、竹はしゃべらないだろw カグヤがやたらと育ちが速く、人を惹きつけるのも原作通りだけど、性格も雰囲気もだいぶ違うw そりゃ確かに竹は中身が空っぽだけどw つか何だよ日本粘菌機構ってw などと笑いながら読んでいたら、ティプトリーのネタの後、カグヤの意外な正体が。
スノーホワイト/ホワイトアウト
 女王さまは今朝も鏡に尋ねます。「鏡よ鏡、この世でいちばんいい朝を迎えられるのはだれ?」鏡は答えます。「あなたですよ、女王さま」。ここは女王さまの国なのです。しかし、そこに奇妙なモノが忍び込んできました。白く冷たい雪片です。鏡に尋ねても、雪の正体はわかりません。雪は次第に女王の国のアチコチに現れ…
 パンを焼きスーパーヒーロー着地を決める女王さまってw 白雪姫といえば可憐な美少女を思い浮かべるけど、この作品では不気味な白ヌキの影みたいな存在。もっとも女王さまも、かなりの戦闘能力を持つ暴れん坊だけどw などの語りのあと、この連作短編集の舞台裏が少しだけ覗ける、ちょっとした転回点をなす作品。
<サルベージャ>vs 甲殻機動隊
 ガンマ線バーストの数十年後、木星の第二衛星エウロパ。氷に覆われた海を行くはカニ・テナガエビ・シャコ・タダタダタダヨウガニかな成る甲殻機動隊。目的は放棄されたトランスヒューマンの都市の偵察。トランスヒューマンは彼らを使役するため知性化したが、なぜかエウロパから姿を消した。そこで彼らはトランスヒューマンの遺跡を漁りはじめたのだが…
 お話も後半に入り、舞台はガンマ線バースト後の世界。甲殻機動隊って、ソッチかいw これも芸が細かくて、タダタダタダヨウガニってネタかと思ったら本当にいたし。カニのサイドステップはすぐわかったが、シャコの右左はかなりマニアック(→Wired.jp)。ちょっとデビッド・ブリンの知性化シリーズを思い出してしまった。
モンティ・ホールころりん
 おじいさんとおばあさんは、モンティ・ホールのクイズに挑戦します。大中小、三つの箱からおじいさんは大きい箱を選びます。モンティが中ぐらいの箱に合図すると、中からヤギが飛び出します。そしてモンティはおじいさんに尋ねます。「チェンジ? オア、ノーチェンジ?」
 これまたガンマ線バースト後の世界だけど、舞台はなんと太陽系外縁のオールト雲。こういう舞台設定は、ジョン・ヴァーリイの八世界シリーズみたいだし、トランスヒューマンと○○の関係はブルース・スターリングの某シリーズっぽい。いや「竹取戦記」を考えると、グレッグ・イーガンの「ディアスポラ」かも。
アリとキリギリス
 公共広場で、女と男が出会いました。公共広場は管理を放棄されていましたが、いろいろあって里山の仮想環境イメージを維持するため、管理人を募りました。その一人が女です。男はバイオリンで調子っぱずれな音楽を奏でていました。つまりは暇を持て余している貧乏人です。
 今までの作品を束ね、一つの物語へと収束させるパート。

 「地球灰かぶり姫」で見事に発揮されているように、とにかくツカミが抜群に巧い。冒頭の数行でイカレきった作品世界に引きずり込まれてしまう。かといってただの一発屋ってワケじゃなく、途中でもテンションを保ったまま、一気に最後まで読者を掴んで離さない吸引力がある。ぜひとも、このままSFを書き続けて欲しい。

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2019年7月12日 (金)

草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」ハヤカワ文庫JA

「大丈夫。小夜香ちゃんは絶対だから」
  ――p158

「大丈夫よ、わたしは八倉巻早紀なんだから」
  ――p330

【どんな本?】

 「最後にして最初のアイドル」で日本SF界をパニックに陥れた恐怖の若手作家・草野原々が送る、長編SF小説。

 その朝。星智慧女学院は異変に見舞われる。校舎はボロボロになり、生徒たちは猿のような生き物に変身してしまう。校舎にはヒトより大きい二足歩行の猫が侵入し、元は生徒だった猿たちを引き裂いてゆく。なぜか人の姿のままでいた3年A組の18人に、スマートフォンから奇妙なメッセージが届く。

「おめでとうございます! みなさんは、生命進化を守る戦士に選ばれました!」
  ――p70

 人類の生存を賭けた巨大猫とたちとの戦いに投げ込まれた少女たちの冒険を描く、「青春ハードSF百合群像劇」。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2019年4月25日発行。文庫本で縦一段組み本文約339頁。9ポイント40字×17行×339頁=約230,520字、400字詰め原稿用紙で約577枚。文庫本では標準的な長さ。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。ときどき難しげな理屈が出てくるけど、分からなければ読み飛ばして構わない。それより大事なのは登場人物なので、巻頭の登場人物一覧には栞を挟んでおこう。

【感想は?】

 魔法を使わない「魔法少女まどか☆マギカ」。ただし猫好きには向かない。なにせ猫が悪役だし。

 女子高生18人が、800万年前に飛ばされて、巨大猫たちと戦う。単に戦うだけじゃなく、どちらかが滅びるまで殺り合う。まるきしマンガな設定だ。この無茶な設定に入れ込めるかどうかが、一つの障壁だろう。

 この無茶な設定に、ソレナリに科学っぽい理屈をつけているのが草野原々の特徴というか。この強引な理屈付けは他にもアチコチに出てきて、例えば巨大猫が繁栄する原因なども、ちゃんと設定に組み込んでるあたりが楽しい。しかも、今になって読み返すと、冒頭の大惨事はコレの伏線になっていたり。

 こういう世界設定の細やかさは随所に見られて、当時の生物相を描くあたりは、かなりキッチリ調べてあるのに驚く。こういう所って娯楽小説としては加減が難しいのだ。というのも、あまり科学的に厳密に書いちゃうと、かえって感覚的にはリアリティが薄れちゃったりする。というのも、あの辺の生物には私たちになじみ深い種も多いのだが、当時の姿は私たちが知っている姿とは全く違うからだ。

 にも関わらず、ソコを敢えて現代の科学的知見に基づいて書くあたりに、私は作者のSF魂を感じた。他にもけっこうな量の蘊蓄も入ってて、「アレをこう使うか!」と感心させられる所も多いんだけど、全体を通してみると設定のおバカさで吹っ飛んじゃうのがナンというかw

 で、肝心の百合なんだけど、これスピード感が70年代の漫画なのだ。

 例えば「デビルマン」はコミックスで5巻、「幻魔大戦」が2巻。少女漫画だと「ベルサイユのばら」は本編10巻、「キャンディ・キャンディ」は9巻。いずれも今になって読むと、ストーリーのジェットコースターぶりが半端ない。現代の漫画なら4~5倍の枚数を費やすお話が、短い巻数にギッシリ詰まってる。それぐらい当時ヒットした漫画は濃い。

 それだけに、当時は一話の充実感が大きかった。これはこの作品にも共通していて、とにかくお話がポンポンと進む。

 なにせ登場人物が18人もいて、それぞれが独特の立ち位置を持っている。最初は昔の少年漫画っぽく、それぞれの登場人物の立ち位置は記号化されてる。例えば白鳥純華だ。登場時は八倉巻早紀の取りまきで気取った奴と思ったが、彼女のモノローグで印象はガラリと変わる。

 こういう、最初の印象が裏切られたり、それぞれの関係が変わっていくあたりが、この作品の百合描写の美味しいところ。犬猿の仲だった○○と○○とか、そうくるかw 中でも、最初に登場するだけあって、空上ミカと峰岸しおり、そして八倉巻早紀と龍造寺桜華には注目しよう。当然、生き残りをかけたバトルでも大暴れします。

 などの繊細な心の動きを描きつつも、血液ドバドバ内蔵グチョグチョなスプラッタ描写を随所に挟み込むのも、この作者の特徴で。冒頭の巨大猫 vs 猿からして、容赦なく内臓をブチまけるから容赦ない。そういう趣味なんでしょう、この人はw

 とまれ、不満もあるのだ。なんたって、短すぎる。

 例えば、小春あゆむと氷室小夜香。関係図では「親友」となっているが、明らかにタダゴトじゃない関係なのが、あゆむの台詞からうかがえる。きっと裏設定があると思うんだが、匂わせるだけで終わっちゃうのが切ない。

 やっぱり登場場面を増やしてほしいのが、飯泉あすか。所々でいいアクセントを務めてるんだから、もちっと登場場面を増やしてほしかったなあ。そして、あの終わり方。ミカと○○が××なのはいいが、となると当然○○と○○は××と感じるだろうから…とか考え出すと、妄想マシーンが暴走を始めてしまう。

 もしかしたら、「そんなに気になるならお前が二次創作しろ」という作者の陰謀なのかもしれない。

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2019年6月 5日 (水)

森奈津子「セクシーGメン 麻紀&ミーナ」徳間書店

「きみたちの新たな任務だが、次の二組の夫婦に健全なる夫婦生活の場を提供してほしい」
  ――スワッピング大作戦!の巻

「そ、そんなけがらわしい行為を、一体、だれがしろとおっしゃるんですっ?」
  ――オナニスト・クラブに潜入せよ!の巻

(仲良き事は美しき哉)
  ――変態性欲夫婦を矯正せよ!の巻

【どんな本?】

 SFとSMの境界を容赦なく踏みにじり、読者の理性と腹筋を破壊する魔性の作家、森奈津子による変態ポルノSFギャグ作品集。

 近未来の日本。少子高齢化に悩む政府は、婚姻する男女を様々な形で厚く優遇している。しかし、この制度にタダ乗りする形で偽装結婚する者たちや、自分たちの主義主張によって子をもうけぬ者たちもいた。これらの不届きな者たちに正しい夫婦の在り方を指導するため、厚生労働省は秘密組織を結成する。少子化対策局夫婦生活捜査課、人呼んでセクシーGメン。

 その実体は謎に包まれていた。噂では好色な美男美女によって組織され、セックスレスが発覚した夫婦は組織によって厳しい矯正措置を受けると言われている。

 スレンダーでクールな香田麻紀と、グラマーでコケティッシュな瀬戸ミーナは、セクシーGメンである。今日も厳しい上司の山縣ヒロ子課長の命により、セックスレス夫婦に正しい性の営みを指導すべく、勤務に邁進するのであった。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2011年7月31日初刷。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約238頁に加え、あとがき3頁。9ポイント45字×19行×238頁=約203,490字、400字詰め原稿用紙で約509枚。文庫なら普通の厚さの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容は…って、普通に変態SMポルノですw

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

スワッピング大作戦!の巻 / 週刊アスキー2007年7月3日号,7月10日号,7月17日号,7月24日号
 獲物もとい任務は二組の夫婦。片や20代の芸術家と大学講師、一方は壮年の医師と女優。上司の山縣の命が下ったのは深夜にもかかわらず、麻紀はさっそく行動に移る。任務に熱心なのか単に好色なのか。それはともかく、麻紀とミーナはターゲットの確保を確保し…
 出だしからオヤジなキャラ丸出しなミーナちゃんが、なんというかw 今の若い女性歌手の衣装は大人しいけど、昔のピンクレディとかはなかなかに過激でありました。いやあいい時代だったなあ←をい クールビューティーな麻紀さん、ちょっと見は凄腕のように見えるけど、最中のチョッカイはどうなのよw もしかして邪魔されると余計に燃えるロミオとジュリエット効果を狙ってるとか?
ハネムーンに介入せよ!の巻 / 週刊アスキー2007年9月18日号,9月25日号,10月2日号,10月9日号、10月16日号
 バリの一流ホテルで優雅な休暇を過ごす麻紀とミーナに、突然の任務がおりてきた。ターゲットは20代で新婚一カ月の若き夫婦、しかしセックスレス歴は3年11カ月に及ぶ。どうやら法的な優遇措置を目当てに入籍したと思われる。二人をまっとうな夫婦に導くか、または婚姻関係を解消させるか、麻紀とミーナは奮闘するのだが…
 二話目ということか、段々と筆が乗ってきた感があって、何より最中の会話がやたらと楽しいw この夫婦、セックスレスとはいえ、ちゃんとお互いを理解し合い尊重し合ってる上に趣味もピッタリで、コンビネーションも息があってるあたり、実に似合いの夫婦なんだけどw 何より道正君のAV論に激しくうなずいてしまうw いやピアノとサンタクロースもいいけどw
オナニスト・クラブに潜入せよ!の巻 / 週刊アスキー2007年10月23日号,10月30日号,11月6日号
 今回の任務は危険である。なにせ秘密クラブへの潜入捜査だ。身元が露見したらタダでは済まない。クラブの名は「オナンの会」。その名のとおり、セックスを拒みオナニーに邁進する者たちの組織である。しかも会員は筋金入りで、セックスレス歴3年以上の猛者ばかりだ。なんとか会場に潜り込んだ麻紀とミーナだが、さっそく麻紀の正体が暴かれてしまい…
 麻紀さん推しの人には嬉しいやら切ないやらの回。つか、なんちゅう羨ましい罰だw ぜひ私もw 「変態には…」ってあたりから、著者の筆はノりにノるw かといって、モテない若者の傷口に容赦なく塩をすりこむのはいかがなものかとw つか麻紀さん、「過去にたしなんでいたもので」って、をいw 終盤での展開は、かの迷作「花と指」を彷彿とさせるスペクタクルですw
SMカップルを裁け!の巻 / 週刊アスキー2007年11月13日号,11月20日号,11月27日号,12月4日号
 弁護士の笹野文太29歳と会社経営者35歳、結婚歴2年6カ月の夫婦のセックスレス歴は5年6カ月に及ぶ。二人はSMカップルである。SMそのものは非難されることではない。性交そして妊娠に至るための段階としてなら、政府は関知しない。しかしSMに入れ込むあまり、性交すら拒むとあらば、セクシーGメンの出番である。
 やっぱりこの人が描くマゾヒストの心情は、かの名作「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」で存分に実証済みなわけで、実に楽しいw 特にこの夫婦の場合、そこにキチンとスジを通してるあたり、むしろ尊敬の念すらおぼえてしまうw とはいえ、セクシーGメンにとってマゾヒストってのはなかなかに厄介な相手でw
変態性欲夫婦を矯正せよ!の巻 / SF Japan 2010Autumn
 本間定夢28歳会社員、ユキ25歳公務員。結婚2年1カ月ながらセックスレス歴4年4カ月。いずれも羨まれる職に就いた夫婦であり、また異性愛者でもある。にもかかわらず、両者は妊娠へとつながるセックスを頑なに拒むばかりか、ネットで自らの変態セックスを堂々と喧伝するありさまである。この夫婦を矯正すべく、麻紀とミーナは任務に邁進するのだが…
 序盤、生真面目で理想に燃える山縣課長の演説が楽しい楽しいw それに対して趣味を貫徹しようとする夫婦の主張も、妙に説得力があったりなかったりw かと思えば、それに反論するミーナの理屈も、あってるような違うようなw 麻紀もミーナも山縣課長もガックリきてるけど、これはこれでハッピーエンドだからいいんじゃないかなw
偽装結婚を粉砕せよ!の巻 / SF Japan 2011Spring
 母からの見合いの勧めも断り、麻紀と添い遂げ得ようと考えていたミーナに、衝撃が走った。なんと、麻紀が婚約したというのだ。相手は同僚の伊部、両刀使いの男である。
 今までとは打って変わって、かなりシリアスな作品。いやちゃんとアレな場面はあるんだけど。しかも、ちゃんとSFになってる。それも、かなりまっとうな。いやありがちなオチなんだけど、それを森奈津子ならではの解釈で全く別の形に着地させた、佳作SF短編。

 直前に読んだがズッシリと重い作品なので、気分をリセットすべく頭のネジを緩めてくれる本を選んだんだが、見事に大当たり。やっぱり森奈津子の斜め上にブッ飛んだ発想と異常な状況で連発するギャグは、脳みそをグチャグチャにシェイクしてくれる。中でも、煩悩まみれな小僧をイカれきった設定に投げ込む「オナニスト・クラブに潜入せよ!の巻」が好きだなあ。

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2019年5月10日 (金)

中村融編「猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選」竹書房文庫

「なんで猫さんは大きくならなきゃいけないの?」
  ――ジェフリー・D・コイストラ「パフ」

「知ってる。さっき会った」
  ――ナンシー・スプリンガー「化身」

強盗は猫!?
警察と夜警、「金庫破り」を射殺
  ――シオドア・スタージョン「ヘリックス・ザ・キャット」

「頭がよくて、信用されてる猫には、そうする方法がいくらでもあるんだ」
  ――ジェイムズ・ホワイト「共謀者たち」

「これはわれわれよりおまえたちにとって大事なことなんだぞ、チビ助!」
  ――ジェイムズ・H・シュミッツ「チックタックとわたし」

これはスティーナとバット、クリフ・モーラン、そして<火星の女帝>の物語だ。
  ――アンドレ・ノートン「猫の世界は灰色」

【どんな本?】

 ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」や神林長平の「敵は海賊」シリーズ、高千穂遥の「ダーティペア」シリーズなど、猫?が活躍するSFは多い。本書は1950年代の作品から今世紀の作品まで、主にアメリカの猫SF・猫ファンタジイの傑作を集めた、日本独自の作品集。

 天才仔猫パフを描く「パフ」、妖艶な猫の視点の物語「化身」、知能を得た動物たちの脱出劇「共謀者たち」、そしてタイトルそのままの「宇宙に猫パンチ」など、バラエティ豊かな作品が楽しめる。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017海外篇で15位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年9月7日初版第一刷発行。文庫本で縦一段組み本文約421頁に加え、編者あとがき6頁。8.5ポイント41字×17行×421頁=約293,437字、400字詰め原稿用紙で約734枚。文庫本としては厚め。

 SFとはいっても、小難しい理屈は出てこないので、理科が苦手でも大丈夫。

【収録作は?】

 作品ごとに解説が1頁ある。各作品は 日本語著者名 / 日本語作品名 / 英語著者名 / 英語作品名 / 訳者 / 初出 の順。

<地上編>

ジェフリー・D・コイストラ / パフ / Jeffery D. Kooistra / PUFF / 山岸真訳 / アナログ1993年12月中旬号
 幼い娘のヘイリーのために、生物工学者のわたしはパフを作り上げた。上手くいけば、パフは子猫のまま長く過ごす。成猫になるのは、寿命が来る数年前だ。さいわいヘイリーはパフが気に入った。だが、パフはただの子猫ではなかった。
 子猫ってのは、凶暴なまでに可愛い。そのままでいてほしいって気持ちは、よくわかる。でも成長するとヤンチャで、予め覚悟して準備をしておかないと大変な事になるのも、よくわかる。小さく見えたって、牙と爪を備えた天性のハンターだし。
ロバート・F・ヤング / ピネロピへの贈りもの / Robert F. Young / Pattern for Penelope / 中村融訳 / イフ1954年10月号
 ミス・ハスケルは、教師だった。定年を迎え、今は猫のピネロピと共に年金でつつましく暮らしている。ピネロピはミルクが好きで、ミルク代は頭痛の種だ。二月一日、激しい雪と風の朝、ミス・ハスケルは奇妙な少年を見た。薄着で丘の頂に立っている。心配して家に迎え入れたミス・ハスケルだが…
 ロバート・F・ヤングの影響を強く感じる作家と言えば、梶尾真治だろう。芸幅の広い梶尾真治だが、「美亜へ贈る真珠」などロマンスと時間旅行を絡めた作品は、ヤングのエッセンスを色濃く受け継いでいる。この作品はロマンスが出てこないが、心温まる展開はヤング節が全開だ。
デニス・ダンヴァーズ / ベンジャミンの治癒 / Dennis Danverts / Healing Benjamin / 山岸真訳 / レルムズ・オブ・ファンタシー2009年8月号
 16歳のとき、ぼくは<治療の手>の力を得た。一歳年上の猫ベンジャミンの心臓が止まったとき、ベンのため強く祈った。するとベンは元気になり、以来30年、ベンはぼくと一緒に暮らしている。最近はそれに恋人のシャノンが加わった。幸いシャノンもベンが気に入った。ただ、一つ問題がある。普通、猫は47年も生きない。
 生まれた時から一緒にいる猫を喪ったなら、その悲しみはどれほどのものだろう。だが、たいていのペットはヒトほど長く生きない。昔ならともかく、最近はペットも定期的に獣医に診てもらうようになっている。となれば、47年も生きる猫は色々と困った事態を引き起こす。などはともかく、ローストチキンの場面は爆笑。
ナンシー・スプリンガー / 化身 / Nancy Springer / In Carnation / 山田順子訳 / Catfantastic Ⅱ 1991
 彼女は実体化した。これは九つ目の命だ。幸い、すぐにカーニヴァルを見つけた。力試し、観覧車、オートバイの曲乗り、鏡の迷路、そして欲の匂い。獲物を探し、彼女は会場を物色する。若く、たくましく、醜くない男を。そして見つけた。「あててみようか男」。サングラスで目が見えないが、なにかを持っている。
 「猫は命を九つ持っている」という伝説と、アレを絡めた作品。胡散臭い出し物がズラリと並び、なんかワクワクするが、数日すればどこともなく去ってゆく移動カーニヴァルの怪しげな雰囲気がいい。昭和の頃は酉の市などで蛇女などの怪しげな出店があったんだが、最近はどうなんだろう?
シオドア・スタージョン / ヘリックス・ザ・キャット / Theodore Sturgeon / Helix the Cat / 大森望訳 / Astounding 1973
 ヘリックスは大きな牡の黒猫で、ぼくの親友だ。一年前、ぼくは新しい柔軟ガラスを開発していた。最初のガラス瓶が完成したとき、それが起きた。銃弾が耳元をかすめるような音が聞こえたんだが、ヘリックスには聞こえなかったようだ。しかも手に持っていた栓が勝手に飛び出し、瓶の口におさまった。
 わはは。ヘリックス君、大暴れ。地下室の若き発明家がケッタイなモノを創りだし、それが元で大騒ぎに、ってパターンの作品。スタージョンというと文学的で高尚なイメージがあるが、これは全く違う。狐と狸いや猫の化かし合いというか。ほんと、猫って何を考えてるんだろうなあw

<宇宙編>

ジョディ・リン・ナイ / 宇宙に猫パンチ / Jody Lynn Nye / Well Worth the Money / 山田順子訳 / Cats in Space 1992
 交易船の船長を目指すジャーゲンフスキーに、チャンスが舞い込んできた。ドレブ星人から得たテクノロジーを用いた新型宇宙船<パンドラ>のテスト航行だ。新型だけに危険もあるが、成功すれば特別手当に加え昇進もあり得る。二人のクルー、ダイアニとオカベ、加えて船猫のケルヴィンと共にパンドラは出航し…
 タイトルでだいたいのお話は見当がつくにせよ、こうヒネリを入れるかw もともと捕食獣だし、そういう状況だと頼りになるかも。ただ、その気になるかっていうと、なにせ気まぐれな生き物だけに、そこは問題でw 日本でも三毛猫は縁起がいいとして船乗りに愛されたとか。将来はどうなるんだろうなあ。
ジェイムズ・ホワイト / 共謀者たち / James White / The Conspitarors / 中村融訳 / ニュー・ワールズ1954年6月号
 航行中の宇宙船の中で、<変化>がおきた。<変化>は、脳が小さいほど速い。最初は<小さな者たち>、ネズミだ。知能があがり、テレパシーを使えるようになる。船内でたった一匹の猫、フェリックスの<変化>はゆっくりだが、猫ならではの行動の自由がある。<小さな者たち>と協力して脱出計画を進めているが、そこは猫と鼠。
 図体、というか脳が小さいほど速く賢くなるというアイデアが楽しい。これに加え、狩られる側である鳥のシンガーや鼠の<小さな者>が、ハンターである猫のフェリックスに対し抱く本能的な恐怖が、物語に緊張を与えている。孤独な立場であっても果敢に闘いに挑もうとするフェリックスの姿は、冒険小説のヒーローそのもの。猫の中に熱い血が流れている限り、不可能ということはないのだ。
ジェイムズ・H・シュミッツ / チックタックとわたし / James H. Schmitz / Novice / 中村融訳 / アナログ1962年6月号
 腹黒い叔母のハレットに連れられ、15歳のテルジーはジョンタロウに来た。ここは広大な動物保護区で、狩猟家の楽園でもある。一緒に来たTT=チックタックは、どうも様子がおかしく、何かを伝えたがっているようだ。TTは五年前にテルジーと出合った。当時は猫ぐらいの大きさだったが、今は90kgぐらいに成長した。肢に吸盤があり、体の色を変えられる。
 さすがシュミッツ、やっぱりロリコンだった←をい。わはは。いやだって15歳の天才少女テルジーちゃんと巨猫のチックタックが、いぢわるな叔母ハレットの陰謀に立ち向かう話だし、「惑星カレスの魔女」の著者だし。まあTTは猫じゃなくてカンムリネコだけど。ちょっと映画版「風の谷のナウシカ」みたいな雰囲気の、心地よいジュブナイル。
アンドレ・ノートン / 猫の世界は灰色 / Andre Norton / All Cats Are Gray / 山田順子訳 / ファンタスティック・ユニヴァース1953年8・9月号
 スティーナは大型コンピュータのオペレータで、宙港を渡り歩いている。いつもだぶだぶのつなぎ姿で、滅多に口を開かない。だが彼女が口を開いた時は、じっくり聞いた方がいい。その時、クリフ・モーランはどん底だった。そんなクリスのテーブルに、スティーナが来た。肩に猫のバットをのせて。「そろそろ<火星の女帝>が現れるころよ」
 <火星の女帝>は行方不明になった観光船で、お宝がどっさり載っている、との噂。まるきしタイタニックかU-977か。一攫千金を夢見て捕獲に向かった者もいるが、多くは帰らず、数少ない生還者も堅く口を閉ざす。幽霊船の謎に挑むのは情報通のスティーナと猫のバット、そして野望のほかには借金しかないクリス。という、正統派の宝探しの冒険の物語。
フリッツ・ライバー / 影の船 / Fritz Leiber / Ship of Shadows / 浅倉久志訳 / ファンタシー&サイエンス・フィクション1969年7月号
 <ウインドラッシュ>、またの名をザ・シップ。水夫はキャビンの中に住んでいる。二日酔いのスパーを、猫が叩き起こす。「バカ!ウシュノロ!ヨッパライ!」。野良猫らしい。キムと名づけた。そしてキーパーが営む酒場<こうもりの巣>に出勤する。ゆうべは狼男と吸血鬼と魔女が暴れ、ガーリーとスイートハートが吸血鬼の餌食になった、そうキーパーは言っている。
 帆船ってのは帆があるだけじゃなく、それを操るためのロープも船上に複雑怪奇なまでに張り巡らされてる。舞台の<ウインドラッシュ>も、アチコチにロープがあるから、似てると言えば似てる。が、猫はしゃべるし「排泄管」なんてのはあるし、おまけに吸血鬼や狼男も出る。はてさて。

 いかにもな猫の本音がのぞける「ヘリックス・ザ・キャット」は、皮肉が効いてていい。「共謀者たち」は猫が孤独なヒーローを演じる物語で、一種のハードボイルド。中でも最も猫が活躍するのは、タイトルでわかるように「宇宙に猫パンチ」かな。映像化するなら、実写よりアニメの方が絶対に面白い。

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2019年5月 6日 (月)

高山羽根子「オブジェクタム」朝日新聞出版

「…単純な数字がつながって関係のある情報になり、集まって、とつぜん知識とか知恵に変わる瞬間がある。生きものの進化みたいに」
  ――オブジェクタム

先月、妻が他界しました。
  ――L.H.O.O.Q.

【どんな本?】

 「うどん キツネつきの」で鮮烈にデビューした高山羽根子の作品を集めた、第二作品集。祖父と共に秘密の新聞を作っていた少年時代の思い出を描く「オブジェクタム」,出征した夫と残された妻の手紙で綴る「太陽の側の島」,先立たった妻が遺した犬を探す男の話「L.H.O.O.Q.」、いずれもトボけた法螺話のような味わいの三篇を収録。

  SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2019年版」国内篇の10位。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年8月30日第一刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約159頁。9ポイント39字×16行×159頁=約99,216字、400字詰め原稿用紙で約249枚。文庫本でも薄い一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しい理屈は出てこない。敢えて言えば、表題作の「オブジェクタム」が、昭和の頃の風景や風俗が出てくるので、若い人にはピンと来ないかな、ぐらい。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

オブジェクタム / 小説トリッパー2018年春号
 子どものころに住んでいた町にやってきた。あのころ、町内には壁新聞が貼られていた。月に一回ぐらいのペースで、十数か所に。誰が何の目的で作り貼っているのか、誰も知らない。でも、熱心に読んでいる人も多かった。別に人騒がせなことが書いてあるわけじゃない。「スーパーと八百屋の茄子と柿の傷み具合」など、役に立つような立たないような、そんな記事だ。
 子どものころに見ていた風景が、まざまざと蘇ってくる。曲がり角で不意に見かける、ような気がする何か。河川敷に捨てられているゴムタイヤや空き缶。草ぼうぼうの空き地にコッソリ作った秘密基地。ふだんは通らない道に迷い込んだ末に見つけた、古ぼけた建物。公民館に集まる大人たち。
 そんな、誰もあまり気にかけない、ごく当たり前にソコにあるようなモノや、普段からよく見かける少し変わった人々にも、ちゃんとソコに辿りつくまでの由来や、その人がそうである理由がある。壁新聞に関わることをキッカケに、少年はそれまで見えなかった町や人々の姿を知りはじめる。
 壁新聞に関わることをキッカケに、少年はそれまで見えなかった町や人々の姿を知ってゆく。茄子の傷み具合,柄タイツ,そして図書館。見過ごしがちなモノゴトの中に、秘密を解く鍵が少しづつ潜んでいる。ただし、それらを組み合わせて物語を作り上げるのは、読み解く者の役目だし、すべての鍵が揃うとは限らない。
 とかのお話とは別に、そこに使われるガリ版やパンチカードなどの小道具や、ガラクタが転がっている河川敷の風景が、私にはたまらなく懐かしく嬉しかった。
南の側の島 / 婦人公論2016年4月12日号
 夫の真平は南方の島に出征した。妻のチズは幼い息子の陽太郎と共に、空襲に怯えながら日々を過ごしている。出征とはいえ、真平がやっているのは土地の開墾だ。気候はよく土地も肥えているのか、作物はすくすくとよく育つ。ときおり上空に敵機を見かけるが、何もせずに飛び去ってゆく。現地の者は普段はのんびりしているが、近く祭りがあるとかで、最近は何やらそわそわし始めて…
 南方に出征した夫と、留守宅を守る妻との心温まる手紙のやり取り…かと思っていたらw 航空機を駆使する現代戦と、のんびりした島の暮らしを対比させ、ってな読み方もある。でも、「SFマガジン2018年2月号」の映画紹介とかを見ると、著者の好みをそのまんま出しただけじゃないかと思う。それぐらい「祭り」の場面は鮮烈で、実はこの場面を描きたかったんだろうなあ、とか。いやどう考えても某迷作映画のパロディというか。
 にしてもこの人、「うどん、キツネつきの」もそうなんだけど、得体の知れない生き物を拾って育てる話が好きだなあ。
L.H.O.O.Q. / 文學界2016年8月号
 妻が若くして逝った。あまり器量のいい方ではなかったが、言い寄る男は多かったようだ。もっとも、妻は興味を示さなかったようだが。これは他の男に限らず、私にも興味がなかったらしく、我儘な乱暴者だった。たいした遺産はなかったが、雄犬を飼っていた。太った小型犬だ。特に私が面倒を見ていたわけではないが、犬は妙に私に懐いて…
 L.H.O.O.Q. って何かと思って調べたらマルセル・デュシャン(→Wikipedia)の作品の一つ、「彼女はおしりが熱い」(→Artpedia)が見つかった。とすると、何か元ネタがあるんだろうか? ヒトは強く興味を惹かれると瞳孔が開くから云々、なんて理屈もつけられるけど、たぶんそれは野暮なんだろう。

 表題作の「オブジェクタム」は、少しづつ「鍵」が集まって物語が見えてくる構造が巧い。でもそれ以上に、「南の側の島」の祭りの場面が余りにも強烈だ。きっと著者の趣味だろw いっそ妻子を呼び寄せちゃえばいいのにw

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2019年3月26日 (火)

宮内悠介短編集「超動く家にて」東京創元社

「俺か。俺はZ80だ」
  ――エターナル・レガシー

十一名いるのだ。
  ――超動く家にて

御厨島は海底隆起によって生まれた新島で、国の領土がわずかばかり増えたという以外はあってないような島であったのが、いつしか各地より海女たちが集まり、海に潜ってメタンハイドレートを探るようになったそうなのだ。
  ――弥生の鯨

【どんな本?】

 「盤上の夜」でデビューして以来、快進撃を続ける宮内悠介の、ギャグ/ユーモア/パロディ作品を集めた短編集。

 雑誌「トランジスタ技術」のバックナンバーをいかに手早く薄くするかを競う男たちが熱い闘いを繰り広げる「トランジスタ技術の圧縮」、Z80を名乗る男と若い囲碁の棋士の短い交錯を描く「エターナル・レガシー」、読者の予想を裏切り続けるミステリ「超動く家にて」など、気分のリフレッシュに最適な作品16編に加え、充実したアフターサービスの「あとがき」も楽しい。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2019年版」国内篇で8位に食い込んだ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年2月23日初版。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約280頁に加え、本編並みに笑えるあとがき11頁と、酉島伝法による解説6頁。9ポイント43字×19行×280頁=約228,760字、400字詰め原稿用紙で約572枚。文庫なら普通の厚さの一冊分ぐらい。

 文章はこなれている。内容もわかりやすい。というか、大半はギャグやユーモア作品なので、あまり真面目に読まないように。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

トランジスタ技術の圧縮 / 電子雑誌「アレ!」VOl.7 2012年3月

 エレクトロニクス総合誌のトランジスタ技術は根強い読者に支えられながらも、異様な厚さがバックナンバーの保存を阻んでいた。その最大の原因である広告頁を取り除けばスリムになり、書棚を節約できる。やがて圧縮技術は競技として競われ、ゴールデンタイムに放送されるまでになったが…

 「トランジスタ技術の圧縮」って作品名からICのことかと思ったら、ソッチかい!って出オチでまず大笑い。そもそもトランジスタ技術を持ち出す時点で理系の人には楽しい上に、その後の展開もどっかで見たような対決物の定石を踏んでいて、ニヤニヤとガハハが止まらない怪作。通勤列車の中で読んではいけません。

文学部のこと / 同人誌「S.E.」2012年5月

 文学。英語圏ではそのままブンガクと呼ばれ、南米では日系人の影響かサクラと言われる。フランスではビュニャークだが、冠詞が男性形か女性形かでもめた。いまのところは日本産が好まれており、原産地などの基礎知識も大事だ。

 これも板面を見ただけでニヤニヤしてしまう作品。なにせ改行が少なく、ビッシリと文字で埋まっている。それぞれの文も無駄に長く、ダラダラと書いている割に特に意味はなかったり。と、いわゆる「ブンガク」をパロってるのかと思ったら、「原産地」なんて意外なモノが混じってきて…。やっぱりソレかいw

アニマとエーファ / 「ヴィジョンズ」2016年10月

 戦後、アデニは景観をウリにして観光客を集めようとする。とはいえ、目ぼしい観光スポットもない。そこで美術館に展示されたのがぼく、アニマだ。いちおう、地元の名士の作品ということになっている。作ったのはセメレ・アファールという爺さんで…

 内戦で荒れた東欧らしき都市を舞台とした、ピノキオみたいな人形の物語。エーファと出合うあたりは、しっとりとしたボーイ?・ミーツ・ガールっぽいんだが、商人のムルカンが登場するあたりから、物語は一気に加速してゆく。作家にとってはありがたいような、疫病神のような。

今日泥棒 / 同人誌「清龍」第11号 2012年11月

 今日も父さんが怒っている。日めくりが明日になっているからだ。出勤前の楽しみなんだ、と言う。そして犯人探しが始まる。ぼくか、妹か、母さんか。

 家族そろっての朝食の席を舞台としたミステリ…というか、お馬鹿ミステリ。確かに日めくりを破るのって、なんか楽しいよね。

エターナル・レガシー / SFマガジン2017年4月号

 葉飛立は囲碁棋士だ。六歳の時に限界を感じ、日本に来た。新人王を獲り有望な若手と言われたが、対コンピュータ戦で負けた。それ以降、どうも気分がすぐれない。そんなある日、奴と飲み屋で出会った。「俺はZ80だ」「こう見えて、宇宙にだって行ったことがあるんだぜ」

 アルファ碁が話題になっていた頃に発表された作品。Z80だのMSXだのと、その手の人には嬉しいクスグリがいっぱい。そうなんだよなあ、掛け算すらできないんだよなあw それでも予め計算しておいて表にしておくとか、当時は色々と工夫したんですよ、はいw にしてもサユリさん、なんで知ってるんだw

超動く家にて / 同人誌「清龍」第10号 2011年11月

 ここはルルウとエラリイ、二人だけの探偵事務所。主に所長のルルウが出かけていき、エラリイは事務雑務を引き受ける。とはいえ、エラリイの仕事はほとんどなく、暇を持て余した所にルルウが謎解きの問題を持ってきた。それはメゾン・ド・マニの平面図で…

 テンポよく、次から次へと読者の思い込みを覆してゆく、お馬鹿ミステリ。わざわざ8個ものイラストまでつけてくれるサービス精神が嬉しい。うん、やっぱり、こういう話は11人いないとねw

夜間飛行 / 人工知能Vol.29 No.4 2014年7月

 飛行任務中の軍用機と、それを遠隔地でサポートするアシスタントとの、会話だけで成り立っている作品。短いながら、いや短いからこそ、基本のアイデアとオチのキレがいい。

弥生の鯨 / 夏色の想像力2014年7月

 海底隆起で生まれた新島、御厨島。メタンハイドレートを採りに海女が集まり、一時は隆盛をきわめた。海女により発展したためか、島は女性中心の社会となった。離島で学校もなく、そんな島で生まれたわたしは海が学校のようなものだった。そして八歳のころ、岩場で弥生と出合い…

 いきなり「海女がメタンハイドレートを採る」で大笑い。いやちゃんとタネも仕掛けもあるんだけどw ボーイ・ミーツ・ガールかと思ったら、うん、確かにボーイ・ミーツ・ガールではあるんだがw

法則 / 小説トリッパー2015年夏号

 使用人としてオーチャードに仕えたのが最大の間違いだった。幸か不幸か、最初に訪ねた時、当時は高校生だった娘のジェシカに気に入られ、住み込みで働き始めた。やがてジェシカと親しくなったのはいいが、オーチャードにバレて…

 ミステリ・ファンにはお馴染みの「ヴァン・ダインの二十則(→WIkipedia)」をネタにした作品。なんだが、そう使うかw

ゲーマーズ・ゴースト / WebマガジンMATOGROSSO 2013年2月・3月

 駆け落ちだってのに、これじゃロマンチックさの欠片もない。そもそもライトバンだし。おまけにナナさんは途中で妙な奴を拾っちまった。欧米人ヒッチハイカーのレドモンドにチェロ弾きのアキオ。二人とも妙にノリがいい。おまけに、黒塗りのライトバンが後をつけてくる。

 なんじゃい「駆け落ち力」ってw シド・アンド・ナンシーだのボニー・アンド・クライドだのと、駆け落ちに変な思い入れたっぷりな語り手「ダンナ」,やたら心の広いナナさん,宿無しヒッチハイカーのレドモンド,追われる身のアキオ。能天気で脱線しまくりな四人の会話が楽しい。

犬か猫か? / 小説すばる2013年1月号

 友達からアリスがもらったぬいぐるみ。アリスはそれを犬だといい、エルヴィンは猫だと言い張る。ここイギリスでもファシストの黒シャツ隊が気勢を上げている。

 最後の参考文献で「おお!」となる作品。私は狸だと思ったw

スモーク・オン・ザ・ウォーター / Webサイト JTスモーカーズID 2016年

 八重洲に隕石が落ちた。幸い深夜なので、道路に穴が開いただけで済んだ。すかさず妹はバイクで出かけ、欠片を拾ってくる。業病で寝たきりとなり、鉱物コレクションが唯一の趣味な父のため、ペンダントにするのだ。父も喜んでくれた。ところが…

 仲の良い家族、奇妙な事件の連続、意外な謎の真相、そして心地よいオチと、お話の進み方は良質のジュブナイルそのもの。なんだけど、ネタがネタなために、お子様や若者にお薦めできるかというとw なんでこういうサイトにこういう話を書くかなあw

エラリー・クイーン数 / 同人誌「清龍」第9号2010年12月

 日本語版 Wikipedia の記事のパロディ。あくまで Wikipedia であって、アンサイクロペディアじゃないあたりが、作家の矜持というかw 

かぎ括弧のようなもの / 読樂2013年8月号

 「かぎ括弧のようなもの」を凶器とした殺人事件をネタにした、ミステリ仕立ての作品。ヴォネガットなのか。私はてっきり筒井康隆だと思った。たぶん虚航船団のせいだろうなあ。

クローム再襲撃 / 書き下ろし

 その晩、僕は相棒のボビイのロフトでクロームを襲った。僕たちは<ジェイズ・バー>で出会った。二人とも落ち目で、そろそろカイボーイをやめ引退を考える年頃だ。そこに万能札、巻き毛のリッキーが現れた。

 ウィリアム・ギブスンの「クローム襲撃」を村上春樹が書いたら、という思い付きをキッチリ短編に仕上げた作品。ギブスンのファンより村上春樹のファンにウケると思うんだけど、どうなんだろw やれやれ。

星間野球 / 小説野生時代Vol.109付録 野生時代読み切り文庫15 2012年

 既にたいした機能も果たさず、とりあえず保守しているだけの宇宙ステーション。駐在しているのは二人、杉村とマイケルだけ。暇を持て余した二人は、古い人工衛星を拾う。中から出てきたのは、子供たちのタイムカプセル。その一つが野球盤で…

 いい歳こいた野郎二人が、宇宙で野球盤に盛り上がる話。いくら歳を重ねても、男ってのはしょうもない生き物で。たかが野球盤、されど野球盤。お互い知恵を振り絞り秘技を繰り出し…って、をいw

 冒頭の「トランジスタ技術の圧縮」から、強烈なギャグで笑いっぱなし。ばかりか、最後の「あとがき」にまで、色々と仕込んでくれるサービス精神が嬉しい。疲れた時にこそ楽しく読めて気持ちをリフレッシュできる、そんな作品集だ。

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2019年3月13日 (水)

梶尾真治「クロノス・ジョウンターの伝説」徳間文庫

「彼女は、まだ、あの時点でぼくの救いを待ち続けているんです」
  ――吹原和彦の軌跡

『おとといはウサギを見たわ。きのうは鹿。そして、きょうはあなた』
  ――鈴谷樹里の軌跡

【どんな本?】

 ベテランSF作家の梶尾真治が、お得意の時間テーマで存分に腕を振るった「クロノス・ジョウンター」シリーズの集大成。

 クロノス・ジョウンターはP・フレック社が開発した、不完全なタイムマシンだ。行けるのは過去だけで、長くは留まれない。自動的に戻れるのはいいが、反動のためか旅立った時間より未来に戻る。遡る年月が遠いほど、留まる時間が長いほど、反動は大きくなり、より先の未来へ飛ばされる。

 過去へと赴き、何かを成そうとする者たち。何のために彼らは自らの人生を犠牲にしてでも時を越えようとするのか。彼らの望みは叶うのか。そして、時を越えた彼らの運命は。

 梶尾真治のリリカルな側面が強く出た、ロマンチックSF作品集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年2月15日初版。文庫本で縦一段組み、本文約637頁に加え、辻村深月の解説8頁。9ポイント40字×16行×637頁=約407,680字、400字詰め原稿用紙で約1,020枚、普通の文庫本なら上下巻に分ける大容量。

 文章は抜群に読みやすい。内容も特に難しくない。SFなガジェットは一つだけ、書名にもなっているクロノス・ジョウンターのみ。タイムマシンの一種だが、いささか不具合があって…。そんなわけで、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「ターミネイター」が楽しめる人なら、問題なくお話に入っていける。

 なお、お話の舞台が1980~1990年代なので、テレホンカードなど当時の風俗を知っていると、懐かしさも手伝って更に楽しめる。

【刊行経緯】

 実は「クロノス・ジョウンターの伝説」と名のつく本は複数ある。人気はあるんだが、たぶんオトナの事情で複雑な運命を辿ったらしい。わかる範囲で今までの刊行経緯をまとめてみた。2019年3月現在だと、徳間文庫版が最も充実してます。

  • 1994年2月 季刊グリフォン新年号に、「クロノス・ジョウンターの伝説」の名で「吹原和彦の軌跡」を掲載。
  • 1994年12月 朝日ソノラマから新書版「クロノス・ジョウンターの伝説」刊行。
    収録作は「吹原和彦の軌跡」「布川輝良の軌跡」。
  • 1999年6月 ソノラマ文庫ネクストから「クロノス・ジョウンターの伝説」刊行。
    収録作は「吹原和彦の軌跡」「布川輝良の軌跡」「鈴谷樹里の軌跡」。
  • 2003年6月 ソノラマ文庫から「クロノス・ジョウンターの伝説」刊行。
    収録作は「吹原和彦の軌跡」「布川輝良の軌跡」「鈴谷樹里の軌跡」「朋恵の夢想時間」。
  • 2008年2月 朝日ソノラマから新書版「クロノス・ジョウンターの伝説∞」刊行。
    収録作は「吹原和彦の軌跡」「栗原哲也の軌跡」「布川輝良の軌跡」「鈴谷樹里の軌跡」「きみがいた時間・ぼくのいく時間」「野方耕市の軌跡」。
  • 2015年2月 徳間文庫から「クロノス・ジョウンターの伝説」刊行。
    収録作は「吹原和彦の軌跡」「栗原哲也の軌跡」「布川輝良の軌跡」「鈴谷樹里の軌跡」「きみがいた時間・ぼくのいく時間」「野方耕市の軌跡」「朋恵の夢想時間」。

【収録作】

 それぞれ 作品名 / 初出。いずれも加筆・訂正している。

吹原和彦の軌跡 / 季刊グリフォン1994年新年号
 科幻博物館は、奇妙な発明品を集めた施設博物館だ。錬金術の装置群、さまざまな永久機関、空間転送機。その一つ、クロノス・ジョウンターの展示室に、不審な若い男が現れた。その男、吹原和彦は、クロノス・ジョウンターを開発したP・フレック社に勤めていた技術者で…
 いいねえ、科幻博物館。フリーエネルギーだの人体磁気調整装置だのと、怪しげなガジェット満載でw 他にもフィラデルフィア計画や「虎よ虎よ」とか、マニアックなクスグリがチラホラ。お話はいささかベタながら、主人公の吹原和彦が人付き合いを苦手とする典型的な理系の技術屋なので、私はすぐに気に入ってしまった。
栗原哲也の軌跡 / SF Japan 2007年Winter
 P・フレック開発三課の栗原哲也は、クロノス・ジョウンター開発に携わっている。仕事は忙しく、泊まり込みも多い。そこに母の訃報が届く。母子家庭だが、母とは折り合いが悪かった。母は小さな呑み屋を一人で営み、哲也とは顔を合わせる時間すら少なかった。幼い頃はベビーシッターが次々と入れ替わり…
 私が初めてこのシリーズに触れたのは「ソノラマ文庫ネクスト」。だもんで、だいぶ感触が違うなあ、と思ったら、比較的に新しい作品だった。親とは縁が薄く、しかも若くて仕事が忙しくやりがいもあるとなれば、どうしてもそうなるよなあ。
布川輝良の軌跡 / 新書版「クロノス・ジョウンターの伝説」1994年12月24日
 小学生の時に、布川輝良は建築家の廣妻隆一郎を知り、その個性的な作品の虜になった。残っているのは写真集だけで、現物は残っていない。最後の作品である朝日楼旅館も、1991年12月に壊されている。そこに「クロノス・ジョウンターのテストの志願者を募る」との知らせが入り…
 世の中には様々なマニアがいるもので、エスカレーターやらエアコンの室外機やら。そんなマニア心ってのはなかなか伝わりにくいんだけど、話が通っちゃうのは、やっぱり変人が多い理系の職場だからだろうか。ウザい傍役だと思ってた香山君が、意外とアレなのも泣かせます。
鈴谷樹里の軌跡 / ソノラマ文庫ネクスト「クロノス・ジョウンターの伝説」1999年6月29日
 1980年の夏、11歳の鈴谷樹里は小児性結核で入院していた。退屈な入院生活だが、談話室でヒー兄ちゃんこと青木比呂志と語る時間は楽しかった。ヒー兄ちゃんは本が好きで、よく童話を聞かせてくれた。その一つは「足すくみ谷の巫女」という話で…
 定番と言えば定番の難病物。まあ11歳から見れば「おじさん」だよなあw ネタにしているロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」は、古手のSFファンの多くが諸手を挙げて喝采する傑作。この作品も巧みに元ネタをなぞりつつ、見事にアレンジして見せた。ここでも傍役の古谷がいい味出してます。
きみがいた時間・ぼくのいく時間 / 単行本「きみがいた時間・ぼくのいく時間」2006年6月30日
 秋沢里志の人生は充実している。恋人の梨田紘未はプロポーズを受け入れてくれた。双方の両親も互いを気に入ってくれた。ただ、時おり紘未は暗い顔をする。なんでも、仕事を辞める前に、一人の男と会わなければならないのだという。
 何かと不自由なクロノス・ジョウンターにかわり、新兵器?クロノス・スパイラルが登場する作品。でもやっぱり意地悪な制限があって…。この作品もボスの若月さんや同僚の山部、酔っぱらいのイッサンなど、脇役が魅力的。また、今までの作品の登場人物が客演してるのも嬉しい。
野方耕市の軌跡 / 新書版「クロノス・ジョウンターの伝説∞」2008年2月29日
 野方耕市は間もなく80歳になる。妻は他界し、医院は息子の耕平が継いだ。ある日、機敷埜風天と名乗る老人が訪ねてきた。三年後に博物館を開く。その展示物の一つ、クロノス・ジョウンターに、解説のパネルをつけたい。そこで開発秘話を聞かせてくれないか、と。
 かつて自分が携わった仕事の話をしてくれ、なんて言われたら、そりゃ嬉しいよなあ。まして自分が隅々まで知っているとあれば、そりゃねえ。この作品も後年の作だけあって、前の作品のネタも少々。
朋恵の夢想時間 / 徳間デュアル文庫「少女の空間」2001年2月28日
 角田朋恵は派遣としてP・フレックで働いている。といっても研究員じゃない。主に事務や雑務をだ。この会社が何を開発しているのかは知らない。が、研究所員の立田山登が教えてくれた。「時間を超える装置を開発しているんですよ」
 これもまたクロノス・ジョウンターではないタイムマシン?が登場する作品。いやあ立田山君、いい趣味してます。長い髪、ジーンズと粗編みのセーターにナップザックって、おいw CC、何かと制限はキツいけど、「自分ならどう使うだろう」とか考え出すと、妄想が止まらなくなります。

 いささか登場人物の年齢は高いものの、読みやすさとテーマの気恥ずかしさでは、ライトノベルと呼んで差し支えない作品集だ。読んだ後はホンワカした気分に浸りつつ、クロノス・ジョウンターの使い道を考えると眠れなくなりそうな、心地よい作品集だ。

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