カテゴリー「日記・コラム・つぶやき」の115件の記事

2020年1月 1日 (水)

2019年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 今回も思い付きで選んでます。

【小説】

小野不由美「白銀の墟 玄の月 1~4」新潮文庫
 諸国の協力を得て戴麒は見つかったものの、王である驍宗はいまだ姿をくらましたまま。しかも戴麒は角を失い、麒麟としての能力も封じられている。状況は絶望的ながら、それでも李斎と戴麒は戴へと帰り、行方不明の驍宗を探す旅に出る。二人が降り立った戴は予想通り荒れており、村は賊を恐れ門戸を固く閉ざす。なぜ阿選は反乱を起こしたのか。驍宗はどこで何をしているのか。そして戴国の行方は。
長らく中断していてファンをヤキモキさせたファンタジー・シリーズの(たぶん)完結編。いやきっと2020年に短編集が出るだけど、それは長いエピローグみたいなもんで。「魔性の子」からの伏線もちゃんと回収し、見事に完結させてくれたことが嬉しい…って、完全に主観だけで全く紹介になってないな。
大森望監修「カート・ヴォネガット全短編」早川書房
 「プレイヤー・ピアノ」「猫のゆりかご」「タイタンの妖女」「スローターハウス5」などで有名なアメリカの作家カート・ヴォネガット。だが、彼の本領は短編にこそある、と評する人は多い。もちろん、私もその一人だ。そんな彼の全短編が、 「バターより銃」 「バーンハウス効果に関する報告書」 「夢の家」 「明日も明日もその明日も」の四分冊として出た。 やはり私はSFっぽい作品に目が行ってしまうが、作家としての努力が伺える初期作品が読めるのもファンとしては嬉しかった。
東京創元社「ランドスケープと夏の定理」高島雄哉
 数学専攻のネルスが卒業論文で発表した「知性定理」は、大きな話題を呼ぶ。あらゆる知性とは会話が可能であるとする定理だ。ネルスの姉のテオは22歳で教授になった宇宙物理学の天才であり、第二執筆者には彼女も名を連ねている。テオは今、月の向こう側、L2で共同研究者の青花とともに研究に勤しんでいる。そんなテオに呼び出されたネルスが、彼女の研究室でみたものは…
 キャラクター的には姉ちゃんのテオがひときわ輝いている。天才かつ強引で理不尽、姉とはかくも恐ろしい存在なのだw つか、なんちゅうモンを隠してるんだ姉ちゃんw なども楽しいし、新人ながら最新のサイエンスに真っ向勝負を挑んだ芸風も嬉しくてしょうがない。ジェイムズ・P・ホーガンが好きな人には、自信をもってお薦めできる稀有な作品。

【ノンフィクション】

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ「セカンドハンドの時代 『赤い国』を生きた人びと」岩波書店 松本妙子訳
 東欧崩壊に続き、ソ連も崩壊した。だがそれでも人々の暮らしは続く。かつては世界の両極の一方だった大国が、ただの大国に滑り落ちた。それを機に荒稼ぎした者もいれば、取り残された者もいる。壁の向こうで、彼らはどう暮らしていたのか。政府は何を伝え、何を伏せていたのか。そして世界を震撼させた激動の中心にいた人々は…。 ノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが、旧ソ連の人々の生の声を伝える、迫真のドキュメンタリー。
 「戦争は女の顔をしてない」で私をKOしたスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの、もう一つの代表作。旧ソ連の様々な人びとへのインタビュウ集だ。ロシア軍内の新兵イビリ、ソ連崩壊後の内戦、外国人労働者のモスクワでの悲惨な暮らし、旧ソ連時代の孤児院の実態、天使と噂される女の生き方、逆にひたすら金と地位を求める女…。ノーベル文学賞だからと、尻込みする必要はない。週刊誌の犯罪者記事や、新聞の三面記事を期待し、野次馬根性全開で読んでほしい。きっと「もうお腹いっぱい」な気分になれる。
ロイ・アドキンズ「トラファルガル海戦物語 上・下」原書房 山本史郎訳
 かのホレイシオ・ネルソンが救国の英雄となったトラファルガル海戦。その戦闘の様子と影響を描く作品。と書くと軍ヲタ向けの本のようだし、実際にそうなんだが、本書の面白さは圧倒的な「細かさ」にある。水兵はどこでどんな者をどうスカウトしたか、将兵は何を食べていたか、排泄はどうしたか。こういった船上生活の隅々まで、著者はエグいほどの解像度で描き出すのだ。帆船物語は読み物としちゃ楽しいが、その舞台は凄まじい臭いが充満して…
 あ、もちろん、肝心の戦闘の様子も迫力満点。当時の砲の威力はもちろん、それを撃つまでの手順までキッチリ描き、また戦術面ではネルソン・タッチのねらいまで鮮やかに明かしてくれる。当時の情勢と技術、そして両軍の性質を考えれば、実に理に適った戦術なのがスンナリと納得できるのが有り難い。書名に「物語」とあるだけに読みやすさも抜群で、初心者にお薦めの作品だ。
オーウェン・ジョーンズ「チャヴ 弱者を敵視する社会」海と月社 依田卓巳訳
 チャヴ。イギリスで低学歴の貧乏白人を揶揄する言葉だ。日本なら、ヤンキーが近いかも。定職に就かず、就いても賃金の安い非熟練労働。公営住宅に住み、ジャージで街をウロつき、飲んだくれで、ケンカッ早く、嬉々として暴動に加わる、ロクでもない奴ら。そんなイメージだ。それは本当なんだろうか?
 かつてのイギリスじゃ労働者は誇り高かった。労働党は力を持ち、労働者たちの声を国会に伝えた。なぜ、誇り高い労働者がチャヴと蔑まれるようになってしまったのか。
 この本の舞台はイギリスだ。政党も保守党と労働党だし。しかし、私にはどうしても日本と重なって見えた。この本が描くチャヴは、日本の派遣労働者の姿そのものだ。
 そう、これは極めて政治的な本だ。それも左派の。だから政治的な立場によって、感想は大きく分かれる。あなたが左派なら、間違いなく興奮する。だが、それ以上に、貧しい人こそ読むべき本だ。あなたの両親は、働くことに誇りを持っていた。労働者とは、誇り高い者なのだ。そしてあなたも誇り高く生きられるはずだったのだ。あなたの誇りを誰が奪ったのか、その答えは本書にある。

【終わりに】

 実は「トラファルガル海戦物語」と「スペイン無敵艦隊の悲劇」、どっちを選ぶか悩んだのだが、先に目についた方を選んだ。他にも「イスラエル軍事史」や「ドキュメント 戦争広告代理店」など、軍事関係は興奮する本が多かった。

 また科学では「バッドデータ ハンドブック」がプログラマあるあるで苦笑いが止まらない。「『おいしさ』の錯覚」は人生を少し「おいしく」してくれる。「『殺してやる』 止められない本能」は、読み終えてしばらくドキドキが止まらなかった。

 と、2019年はノンフィクションで収穫が多かったなあ。

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2019年12月 5日 (木)

○○力

 以下のような、○○力なるものを想像してほしい。

人はみな、多かれ少なかれ○○力がある。ただし○○力が強い人と弱い人がいる。

苦しいとき、つらいとき、ここ一番の大勝負のとき、○○力がモノをいう。○○力があれば苦しさやつらさに耐えられるし、勝負にも勝てる。

○○力は、訓練で鍛えることができる。

より厳しい訓練に耐えるほど、より優れた○○力が身につく。

残念ながら、○○力を客観的に測る手段はない。数値化もできないし、単位も定まっていない。

だが、専門家が見れば○○力の強弱はわかる。○○力を鍛えたければ、専門家に頼るべきだ。

そして他ならぬこの私、ちくわぶは○○力の専門家である。

 これであなたはちくわぶを信用するだろうか? しないよね。あなたの判断は妥当だ。だって、○○力は、たった今、私がデッチあげたものだから。

 では、上の文章から、○○力を霊能力に入れ替えてみよう。胡散臭いと思ったなら、あなたは常識は豊かで論理的にモノを考えられる人です。

 ではその次。 ○○力を精神力に入れ替えたら、どうなるだろうか? 最近はメンタルって言い方が流行ってるけど。

 ってなネタを、「懐疑論者の事典」を読んで思いついた。

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2019年9月18日 (水)

どうやって面白い本を見つけるか

 本好きにとって、一世紀前に比べたら、現代は夢のような時代だ。なにせ怒涛のように新刊が出る。出るのはいいが、その中から好みの本を見つけるのは難しい。忙しい現代人にとって、本にかかる最大のコストは書籍代より読書に費やす時間だろう。いや私は貧しいんで書籍代も重大な問題なんだが、まあそれは置いて。

 ある程度の数を読んでいれば、好みの著者・作家が増えるから、それを追いかけるだけでも充分だろうが、新鮮な味も欲しい。そんなワケで、私が本を探すのに使っているネタを並べてみた。私の趣味に偏ってるけど、そこはご容赦ください。

【文学賞とか】

 権威主義と馬鹿にされようが、それでもモノによっては文学賞の類もけっこう信用できる篩になる。ただ、ノンフィクション関係は疎いんで、教えていただければ嬉しいです。

ヒューゴー賞:SF。世界SF大会のファン投票で決まる。

ネビュラ賞:SF。作家が決めるためか、やや玄人好みかも。

ローカス賞:SF。雑誌ローカスの投票で決まる。ヒューゴー賞より流行に敏感かも。

星雲賞:SF。日本SF大会のファン投票で決まる。

日本SF大賞:SF。作家が決める。星雲賞より斬新な作品が多いかも。

ハヤカワSFコンテスト(→Wikipedia):SF。早川書房主催の新人賞。長編。地力あふれる作品が多い気がする。

創元SF短編賞:SF。東京創元社主催の新人賞。短編。新しい地平を切り開く作品が多い印象。

Twitter文学賞:小説。Twitterによる人気投票。国内篇と海外篇がある。クセの強い主流文学が多い印象。賞を取った作品より、候補作リストを私は楽しみにしている。

日本翻訳大賞:翻訳作品が対象。これもTwitter文学賞同様、候補作一覧が楽しい。

ピューリッツァー賞:アメリカで出版された物に限っているのが辛いが、一般ノンフクション部門(→Wikipedia)はアタリが多い。

【インターネット】

 ブログ関係はリンク集をご覧ください。って、Twitter ばっかりだなあ。

ハマザキカク(→Twitter):変態編集者(ごめんなさい)。マニアックなノンフィクションが好きなら、是非ともフォローしよう。

早川書房 翻訳SFファンタジイ編集部(→Twitter):SF。

早川書房 ノンフィクション編集部(→Twitter):最近はヒットが多い気がする。

河出書房新社 翻訳書(→Twitter):主流文学が多いかも。

東京創元社(→Twitter):ミステリとSFが多い。読者の感想をリツィートしてくれるのも嬉しい。

豊崎由美≒とんちゃん(→Twitter):主流文学でもエッジの利いた作品が多い。

【ウィンドウ・ショッピング】

 もちろん、書店や図書館の書棚も漁ります。文学はもちろん、音楽・歴史・軍事・工学・旅行記・科学・倫理学・産業・国際情勢あたりを遊弋してると、時間がいくらあっても足りなかったり。あと、初心者向けの統計学が、社会学の棚にあったりするんで油断できません。

【おわりに】

 軍事関係が弱いと思ってるんだけど、いいソースがあったら教えてください。

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2019年5月30日 (木)

世界四大海戦

 きのう読んだ「スペイン無敵艦隊の悲劇」に「世界四大海戦」とある。どの四つか調べると、どうやら人によって違うようだ。世界〇大××とかじゃよくあるパターンだね。とりあえず挙がっている候補は以下6個。

  1. 紀元前480年9月 サラミスの海戦 →Wikipedia
  2. 1571年10月7日 *レパントの海戦 →Wikipedia
  3. 1588年7月~8月 アルマダの海戦 →Wikipedia
  4. 1592年7月7日 閑山島海戦 →Wikipedia
  5. 1805年10月21日 *トラファルガー海戦 →Wikipedia
  6. 1905年5月27日~5月28日 *日本海海戦 →Wikipedia

 *がついているものは、四つに入ったり外れたりする。つまり、サラミス/アルマダ/閑山島がレギュラーで、レパント/トラファルガー/日本海が最後の席を争っている、そんな感じらしい。

 なんで決まらないのかというと、基準が人によって違うからだろう。戦争や歴史に与えた影響を重んじる人もいれば、戦闘に加わった船舶数や人数で考える人もいるし、戦いの鮮やかさ・指揮官の優秀さで選ぶ人もいる。どれも一理あると思う。あ、それと、スペイン人はレパント、イギリス人はトラファルガー、日本人は日本海海戦を入れるんだろう。

 その上で、私なりに選ぶと、こんな感じになる。

  1. 紀元前480年9月 サラミスの海戦
  2. 1588年7月~8月 アルマダの海戦
  3. 1905年5月27日~5月28日 日本海海戦
  4. 1942年6月5日~7日 ミッドウェー海戦 →Wikipedia

 これがどういう基準かというと、戦闘技術で選んだものだ。

 サラミスの海戦は、比較的に波が穏やかな地中海で行われた。主力は三段櫂船である。以後、レパントの海戦まで、主な戦場は内海で、軍船の動力は人力が中心となる。また戦闘方法も、最終的には敵船に乗り込んでの白兵戦が決定的な要素だった。

 次のアルマダの海戦では、戦場が波の荒い外海での戦闘に変わる。また主力艦は風力駆動で木製のガレオン船だ。いや実はガレー船や帆と櫂の両方を使うガレアサ(→Wikipedia)も加わってるんだけど。そんなわけで、潮や風の向きが決定的な意味を持つ。加えて、火砲が使われた。あまり成果はなかったようだけど。なお、この戦いじゃ白兵戦は行われていないが、19世紀初頭のトラファルガーでは白兵戦でケリをつけている。

 これが日本海海戦になると、戦いの様相がガラリと変わる。戦場こそ内海の日本海だが、動力は蒸気機関に変わる。おかげで機動力が段違いに上がり、潮や風の向きの影響が小さくなった。また艦体は鋼鉄製になった。戦闘の大半は砲の撃ち合いで決まり、敵船に乗り込んでの肉弾戦は完全に消えた。また無線電信が導入され、本国との連絡はもちろん偵察・艦隊指揮などで、よりキメの細かい統制が可能となった。

 更にミッドウェー海戦になると、戦闘の決定的な要素は空母と航空機に変わり、艦隊司令官にはほとんど敵船の姿すら見えない。砲の役割も変わり、重要なのは航空機を撃ち落とす対空砲であって、巨砲の価値も軽くなってしまった。いや無くなったわけじゃないのよ。ノルマンディや硫黄島などでは、上陸部隊を支援するために砲撃してたし。でも対陸上戦力用であって、対艦用じゃない。

 いずれの変化も、単に戦い方が変わったってだけじゃなく、国家における海軍の役割や位置づけが変わったって事でもある。レパントの頃なら、国王でなくとも有力な諸侯なら相応の海軍力を持てたかもしれない。でもアルマダ以降は難しくなったし、日本海以降はまず無理だ。もっとも、最近は民間軍事会社が力をつけてきてるから、将来はわからないけど。

 と、適当に選んでみた。なんか偏っている気もするけど、それは私の知識が偏っているためです。「コレが入ってないのはおかしい、なぜなら…」的なご意見は歓迎します、はい。

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2019年4月21日 (日)

やめられるもんならやめてみろ

 長い小説を人に薦めるのは、ちと気が咎める。人によって好みが違うので、ストラーク・ゾーンを外れたらなんか悪いことをしたような気になる。とはいえ、気に入った作品はやっぱり薦めたくなるんで、思い切ってやってみた。

司馬遼太郎『竜馬がゆく』

 司馬史観なんて揶揄されるけど、それはそれだけ多くの人に読まれていて、影響を受けた人も多いからだ。ではなぜ読まれているのかというと、面白いからだ。多くの歴史上の人物を取り上げて、それぞれの人物の印象を変えた司馬遼太郎だが、中でも最も評価が大きく変わったのは、この作品の主人公・坂本竜馬だろう。その理由も簡単で、竜馬がとても魅力的な人物に描かれているからだ。

 文春文庫で全八巻という大長編で、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。最初の一巻だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

田中芳樹『銀河英雄伝説』

 SFファンというのは厄介な連中で、変な選民または賤民意識みたいのがある。だもんで、SFで人気が出るのは、どっかトンガってあまし世間じゃウケない作品も多い。そんな中で、SFファンにも広く世間一般にも好まれている作品の一つが、これだ。

 舞台は遠未来の宇宙だが、実は科学的な部分はけっこうムニャムニャなので、あまり気にしないでいい。戦闘場面は艦隊戦が多いけど、スターウォーズというよりむしろ帆船同士の戦いの趣がある。敵船に乗り込んで白兵戦なんてのもあるしw

 それより魅力的なのは、数多く登場する人物たちだ。いずれもアクが強く、滅茶苦茶にキャラが立ってる。常勝の天才ラインハルト、その頼れる相棒キルヒアイス、彼らのライバルであるヤン・ウェンリー、体育会系に見えて実はアレなミッターマイヤー、ヘテロクロミアの女殺しロイエンタール、女殺しならいい勝負のシェーンコップとポプラン、そして偽善の権化トリューニヒト…

 文庫本で本編10巻に外伝5巻という大長編だから、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。最初の一巻だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

高橋克彦『竜の柩』

 伝奇小説だ。しかも、著者はカバーで「私は真正です」と断言しちゃってる。ちょっと検索すると、信者もけっこういるらしい。そういう点じゃヤバい本なんだが、実際に読んでみると、やたらめったら面白いんだから仕方がない。とにかく読ませる文章を書くのが巧みなんだな。

 伝奇物は「いかに狂った発想を読者に受け入れさせるか」がキモだ。その点、この著者は、身近なシロモノに関する膨大なウンチクで圧倒し「そうだったのか~」とガードを下げさせたスキに、頭のネジが数本吹っ飛んだスケールのデカい発想を叩きこんでくるからたまらない。諸星大二郎や半村良が好きなら、きっと楽しんで読める。

 文庫本で全6巻という大長編だから、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。最初の一巻だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

池波正太郎『剣客商売』

 昭和の時代劇を語るなら、外せないのが池波正太郎。「鬼平犯科帳」「必殺仕事人」などのテレビ・シリーズが有名だが、この「剣客商売」はドラマの知名度じゃ一歩ゆずる。とはいえ、原作の小説の面白さはいずれも甲乙つけがたい。

 にも関わらずこれを選んだ理由は、とっつきやすいから。主人公は老いた剣客の秋山小兵衛と、その一人息子の大治郎。老境を迎え酸いも甘いもかみ分け、人として成熟しきった父の小兵衛。対して若く未熟ながら、それを自覚した素直な性根でぐんぐん成長してゆく大治郎の対比が、とってもわかりやすい。仮面ライダー風に言うなら、知恵と技の小兵衛と、勢いと力の大治郎といったところか。

 新潮文庫で本編16巻に番外編2巻という長大シリーズだから、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。一話完結の短編が続く形なんで、一巻の最初の「女武芸者」だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

 以上四作品、いずれも出版されてから長くたっているにもかかわらずファンが途切れないのが面白さの動かぬ証拠。ちょっと暇が出来たら、少しでいいから味見していただきたい。ただし通勤電車内で読んで乗り過ごしても責任は取れません。

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2019年4月 1日 (月)

素人が考える高校野球のルール

 高校野球にはいろいろ批判がある。素人考えだが、ハッキリと利益目的の興行と位置付けて、プロ化すればいんじゃね?とも思う。そうすれば、児童福祉法と労働基準法が球児たちを守るし。とはいえ、どうせオトナの事情で無理だろうなあ。

 それはそれとして。大きな問題の一つは、投手をコキ使いすぎることだ。投手の肩は消耗品なんて説もある。それが本当かどうかは知らないが、あまり無理をさせるのは良くないだろう。とはいえ、高校野球独自の事情もある。春休み・夏休みに開催するので、期間が限られるのだ。

 そこで、今のスケジュールでどうにかできる案を考えた。素人考えなんで穴だらけだろうけど、馬鹿話の一つとして笑ってやってください。

 ルールは次の三つ。

1.試合の回数

地区予選の序盤に限り、以下の形で攻守の回数を減らす。
 1回戦:5回まで
 2回戦:6回まで
 3回戦:7回まで
 4回戦:8回まで
 5回戦以降:9回まで

2.ポイント制

投手の投球数をポイント制とする。
試合で投手が打者に1球投げると、ポイントは1増える。
*ピッチャーゴロの処理や走者への牽制はポイントに数えない。
地区予選の最初の登板ではポイントは0。
日付が変わるとポイントは半分に減る。小数点以下は切り捨て。
ポイントは101を越えてはいけない。

例:
1回戦で75球投げた:ポイントは75。余りは25ポイント。
次の日:ポイントは75/2=37.5 切り捨てで37。余りは63ポイント。試合はなし。
次の日:ポイントは37/2=18.5 切り捨てで18。余りは82ポイント。試合はなし。
次の日:ポイントは18/2=9ポイント。試合で投げていいのは91球まで。

3.花いちもんめ

ポイント制だと、投手が少ないチームは苦しい。
そこで花いちもんめだ。
勝ったチームは、負けたチームから、選手を3人まで引き抜いていい。
投手陣が苦しければ敵のエース(+捕手)を、打者が欲しけりゃ敵の主砲を戴いてしまえ。

 飛びぬけた投手が引っ張るタイプのチームだと、ポイント制は厳しい。だが序盤は回数制限があるので、切り抜けやすい。中盤以降は花いちもんめで獲得した敵チームの投手をリリーフに使える。また県大会の終盤や全国大会では、オールスターに近いチームのぶつかり合いになり、より高レベルのゲームになるだろう。スター選手もフィールドに残りやすいので、ファンにも嬉しい。

 …ダメかな?

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2019年1月21日 (月)

日本翻訳大賞の推薦受付が始まった

 今年も日本翻訳大賞の推薦作の受付が始まった。締め切りは1月31日(木)まで。

 推薦作を見てると、今年も美味しそうなのがズラリと並んでいる。私はこの辺が気になった。

  • 夏目大訳 ピーター・ゴドフリー=スミス「タコの心身問題」みすず書房
  • 久保尚子訳 ダニエル・M・デイヴィス「美しき免疫の力」NHK出版
  • 福嶋美絵子訳 「Firewatch(ファイアー・ウォッチ)」Campo Santo
  • 田中裕子訳 ジャン=バティスト・マレ「トマト缶の黒い真実」太田出版

 今調べたら、Firewatchってゲームかい。なかなか大胆なセレクトだな。PS4版とSwitch版か。でも面白いなら俺的にはOK。いやゲーム機持ってないけど←をい

 つか気になったのって、他のはノンフィクションばっかじゃないか。しかも Amazon の「こんな商品もチェックしています」を手繰ると、人生が幾つあっても足りないくらい面白げな本が山ほど出てくるなあ。嬉しいような、困ったような。

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2018年12月30日 (日)

2018年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 はい、例年通り、ノリと思い付きで選んでます。

【小説】

ケン・リュウ編「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」新☆ハヤカワSFシリーズ 中原尚哉他訳
 活況を呈している現代中国のSFシーンから、選りすぐりの短編を集めた珠玉のアンソロジー。現代中国の社会問題を鋭くえぐる陳楸帆「鼠年」,幼い子供の目を通し、日本同様の高齢化問題に対峙した夏笳「童童の夏」,階層社会を鮮やかに視覚化した郝景芳「折りたたみ北京」,秦の政王(後の始皇帝)と、その暗殺を目論む荊軻を中心にマッドなアイデアを展開する劉慈欣「円」など、SFとしての読みごたえは抜群。
 それに加えて感慨深いのが、中国も日本同様に、SFは欧米からの輸入文化であること。終盤のコラムでは輸入文化と中国人としての自己認識の葛藤が垣間見える。が、中国人でも欧米人でもない日本人の目で作品を見ると、主要人物像はもちろん、端役の振る舞い・風景・ガジェットなどの細部に、隠しようのない中華風味が漂っている。
新井素子「星へ行く船」出版芸術社
 兄のパスポートを失敬してコッソリ宇宙へと家出した森村。個室を予約したはずが、なぜか先客がいる。どうもダブル・ブッキングされたらしい。しかも先客は物騒な奴で…。若き新井素子が当時の若者たちを熱狂させた、ジュブナイルSFの傑作。
 サクサクと読める文章の親しみやすさ、ユーモラスで個性あふれる会話、コロコロと転がってゆくストーリーと、現代ならライトノベルに相当する市場への訴求力は今でも全く衰えていない。加えて「通りすがりのレイディ」から登場するレイディの破壊的な魅力は、それこそ「ヤバ」だ。
ディーン・R・クーンツ「ウォッチャーズ 上・下」文春文庫 松本剛史訳
 36歳の独身男トラヴィス・コーネルは、ピクニックの途中で野良のゴールデン・レトリーヴァーを拾う。やたら人懐っこいが、どこか妙な所がある犬に、トラヴィスはアインシュタインと名づける。アインシュタインを介して知り合ったノーラ・デヴォンにトラヴィスは惹かれ…
 発売当初、全米のペットショップからゴールデン・レトリーヴァーが払拭したとの伝説を持つベストセラー。伝説の真偽は不明だが、読めば本当だろうと思えてくる。とにかくアインシュタインの可愛さったらない。お話の流れは直球の王道だが、それだけに読了後の心地よさもひとしおだ。

【ノンフィクション】

ヨアヒム・ラートカウ「木材と文明 ヨーロッパは木材の文明だった」築地書館 山縣光晶訳
 現代に生きる私たちにとって、木材は構造材の一つという印象が強い。だが歴史的に木材、というか森は、もっと様々な役割を果たしてきた。領主にとっては種猟場であり、農家にとっては家畜の放牧場であり、また薪の補給地でもあり、海軍にとっては軍船の材料だった。特に燃料としての価値は重要で…
 木の性質に注目すれば生物学や工学の側面もあり、農民の暮らしに注目すれば農学や生活史であり、軍船の素材だから軍事学でもあり、薪に注目すれば経済学であり、森の保全を考えれば政治学・社会学でもある。そんな広範囲の学問を含む林学へと読者を誘う、野次馬根性旺盛な者には危険極まりない本。似たテーマを扱った「森と文明」は歴史学の色が濃いが、やはり読み応え・面白さ共に素晴らしい。
アナスタシア・マークス・デ・サルセド「戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係」白揚社 田沢恭子訳
 ハムや瓶詰に始まった、軍事技術が生み出した食品の保存技術は、現代においてインスタントコーヒーからレトルトカレーまでを生み出す。乾燥したインスタントコーヒーはともかく、大量の水分を含むレトルト食品は、なぜ腐らないのか。そこには最新の科学と工学を駆使した米軍の計画的な研究体制があった。
 軍事技術と最新科学が、私たちの暮らしに染み込んでいる事を、毎日食べる食品を通じて否応なしに思い知らせてくれる本。たかがレトルトと馬鹿にしちゃいけない。そこにはとんでもないハイテクが使われてたりする。これは牛乳やジュースも同じで…
マーチン・ファン・クレフェルト「戦争文化論 上・下」原書房 石津朋之監訳
 クラウゼヴィッツは戦争論で主張した。「戦争は政治の延長だ」。戦争とは利害に基づくものであり、勝敗は目的を達したか否かで決まる、と。これに対しクレフェルトはいきなりカマす。「この考えは見当違いもはなはだしい」。ではなぜ戦争が起きるのか。
 いかにもタカ派が好みそうな書名だが、むしろハト派こそが読むべき本。どう見てもリベラルなスティヴン・スピルバーグが創った映画「プライベート・ライアン」に、世界中の軍ヲタは歓喜の声をあげた。CNNが映す湾岸戦争やイラク戦争に、人々はかじりついた。なぜなら…

【終わりに】

 もちろん「われらはレギオン」や「七人のイヴ」や「巨神計画」も面白かったけど、まだ最後まで読んでないし。あ、いや「アイアマンガー」も頭クラクラしましたよ、はい。「ヒストリア」の池上ヒロイン大暴れも楽しかったし、「架空論文投稿計画」にもニヤニヤしたし。

 身のまわりの科学って点じゃ「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」も良かったし、ジョエル・ベストの統計シリーズも少しニュースの見方が変わった。歴史じゃ「平和を破滅させた和平」と「完璧な赤」が読み応えバッチリで、軍事じゃ「戦争は女の顔をしていない」の読みやすさと中身のギャップが凄い。「ヒトはなぜ神を信じるのか」は宗教やオカルトの根源に迫る傑作で、「ネットリンチで人生を壊された人たち」は煽情的な書名と裏腹にヒトの心の働きに切り込んで…と、今年も面白い本を挙げていったらキリがないので、この辺でおやすみなさい。

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2018年7月23日 (月)

Macは普通のパソコンか?

1990年代初頭、某社にて。

当時のIT技術部のコンピュータは、SUN などのUNIX系マシンばかり。
Mac や Windows は少なかった。
そんなIT技術部に、営業さんがFD(*)を持ってきた。
中に入っている文書を読みたいらしい。

*FD:フロッピーディスク。
コンピュータ用外部記憶媒体。
今のUSBメモリのように、文書の持ち運びなどに使う。
ややこしいことに、FDはOSごとにフォーマットが違っていた。
そのため、Mac で書いたFDは Wiindows じゃ読めない。
逆に Windows で書いたFDは、特別な手立てを使うと Mac でも読めた。

そこで交わされた会話。

営業「パソコンある?」
技術「あるよ」Macを示す
営業「そうじゃなくて普通のパソコン」
技術「Macは普通のパソコンだよ」
営業「…もういい!」

確かにMacは普通のパソコンじゃない。
贅沢なパソコンだもんね。

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2018年2月14日 (水)

分類か属性か

 その昔、「ライトノベルの定義ってなんだろう」って記事を書いた。

 瀬尾つかさの「約束の方舟」とか、ライトノベルかSFか悩むよね、って話。結論は、そもそもラジオボタン的にどっちかにしろってのが無茶で、チェックボックス式に考えた方がよくね?みたいな話だった。

 が、もちっと深く考えると、これもちと違うような気がする。改めて図で示してみよう。

 最初の発想はこうだ。

ライトノベル
SF
それ以外

 ライトノベルなら、SFではない。SFなら、ライトノベルではない。そうやって「分類」しましょうって発想。でも、小説って、一つの作品が様々の属性を持ってるよね。ってんで、私の提案はこれ。

ライトノベル
SF
その他

 その作品は、どんな属性を持っているかで考えようよ、ってこと。これなら、一つの作品が、「ライトノベルかつSF」でありえる。おお、悩みが消えた! と一旦は納得したんだが、改めて考えると、こっちの方が近いんじゃなかろか。

ラノベ:
SF  :
その他

 一つの作品は、様々な属性を持っている。そして、属性により、多い少ないがある。でもチェックボックスじゃ、属性の多寡が著せない。そこでスライドバーだ。これなら、より正確に「約束の方舟」を表せる。ラッキー。

 ってな具合に、世の中じゃ二者選択とか三者選択とかあるけど、現実にはスライドバー的に表した方が適切だよね、みたいなのは他にもあって。

 例えば理系/文系だ。こんな感じだと、世の人は思っている。

理系
文系

 理系なら、文系ではない。文系なら、理系ではない。でも、この理屈が当てはまらない人もいる。

 有名な所では、ロボット三原則で有名なアイザック・アシモフだ。化学者だから理系? でもエッセイでは、歴史など文系の蘊蓄も楽しい。加えて、娯楽作家として、読者を楽しませるのも巧みだ。これは芸能・芸術系とでもしよう。とすると、アシモフはこんな感じじゃなかろうか。

理:
文:
芸:

 理系方面は専門の学者だから最高レベルだ。また小説やエッセイの売り上げを見れば、芸能・芸術系でも最高と言っていい。流石に歴史関係じゃ専業の歴史学者には敵わないだろうが、そこらの素人とはレベルが違う。とすると、この辺が妥当だろう。

 対して私は…いやどうでもいいじゃないですか、あはは←をい。

 なんにせよ、こう考えていくと、理系/文系なんてのは、あましアテにならない概念なんじゃなかろか、と思えたり。

 やっぱり怪しいのが、保守/リベラルなんて分け方。ジョナサン・ハイトは「社会はなぜ左と右にわかれるのか」で、こんな主張している。

 政治思想の違いは、倫理、つまり「何が正義か」の判断基準によるものだ。これは感覚的なもので、理屈で答えを導き出してるんじゃない。反応速度の速さがその証拠だ。この倫理感覚は、少なくとも六つの要素から成る。各要素の感度により 保守/リベラル/リバタリアン の三種に分かれる。

保守の人は、忠誠や権威を重んじ、神聖さを大切にする。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

リベラルは、傷ついた者を守り、公正であろうとする。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

リバタリアンは、自由こそ正義と感じる。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

 こんな風に、私たちは右と左なんて単純に分けちゃうけど、実際には様々な要素が絡んでるんだよ、とジョナサン・ハイトは主張してるわけだ。シリアで暴れてた山賊とかは、「神聖/堕落」が強いんだろう、とか考えると、なんか腑に落ちるし、結構いいセンいってる発想だと思う。

 と、そんな風に、単純に二つに分けてたシロモノが、実は幾つかの要素のせめぎ合いだった、みたいな話は、他にもあるんじゃないかな、と思ったり。

 とか偉そうに言ってるけど、実は HTML でスライドバーを書けると知ったので、やってみたかっただけなんです←をい

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