カテゴリー「日記・コラム・つぶやき」の109件の記事

2019年1月21日 (月)

日本翻訳大賞の推薦受付が始まった

 今年も日本翻訳大賞の推薦作の受付が始まった。締め切りは1月31日(木)まで。

 推薦作を見てると、今年も美味しそうなのがズラリと並んでいる。私はこの辺が気になった。

  • 夏目大訳 ピーター・ゴドフリー=スミス「タコの心身問題」みすず書房
  • 久保尚子訳 ダニエル・M・デイヴィス「美しき免疫の力」NHK出版
  • 福嶋美絵子訳 「Firewatch(ファイアー・ウォッチ)」Campo Santo
  • 田中裕子訳 ジャン=バティスト・マレ「トマト缶の黒い真実」太田出版

 今調べたら、Firewatchってゲームかい。なかなか大胆なセレクトだな。PS4版とSwitch版か。でも面白いなら俺的にはOK。いやゲーム機持ってないけど←をい

 つか気になったのって、他のはノンフィクションばっかじゃないか。しかも Amazon の「こんな商品もチェックしています」を手繰ると、人生が幾つあっても足りないくらい面白げな本が山ほど出てくるなあ。嬉しいような、困ったような。

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2018年12月30日 (日)

2018年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 はい、例年通り、ノリと思い付きで選んでます。

【小説】

ケン・リュウ編「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」新☆ハヤカワSFシリーズ 中原尚哉他訳
 活況を呈している現代中国のSFシーンから、選りすぐりの短編を集めた珠玉のアンソロジー。現代中国の社会問題を鋭くえぐる陳楸帆「鼠年」,幼い子供の目を通し、日本同様の高齢化問題に対峙した夏笳「童童の夏」,階層社会を鮮やかに視覚化した郝景芳「折りたたみ北京」,秦の政王(後の始皇帝)と、その暗殺を目論む荊軻を中心にマッドなアイデアを展開する劉慈欣「円」など、SFとしての読みごたえは抜群。
 それに加えて感慨深いのが、中国も日本同様に、SFは欧米からの輸入文化であること。終盤のコラムでは輸入文化と中国人としての自己認識の葛藤が垣間見える。が、中国人でも欧米人でもない日本人の目で作品を見ると、主要人物像はもちろん、端役の振る舞い・風景・ガジェットなどの細部に、隠しようのない中華風味が漂っている。
新井素子「星へ行く船」出版芸術社
 兄のパスポートを失敬してコッソリ宇宙へと家出した森村。個室を予約したはずが、なぜか先客がいる。どうもダブル・ブッキングされたらしい。しかも先客は物騒な奴で…。若き新井素子が当時の若者たちを熱狂させた、ジュブナイルSFの傑作。
 サクサクと読める文章の親しみやすさ、ユーモラスで個性あふれる会話、コロコロと転がってゆくストーリーと、現代ならライトノベルに相当する市場への訴求力は今でも全く衰えていない。加えて「通りすがりのレイディ」から登場するレイディの破壊的な魅力は、それこそ「ヤバ」だ。
ディーン・R・クーンツ「ウォッチャーズ 上・下」文春文庫 松本剛史訳
 36歳の独身男トラヴィス・コーネルは、ピクニックの途中で野良のゴールデン・レトリーヴァーを拾う。やたら人懐っこいが、どこか妙な所がある犬に、トラヴィスはアインシュタインと名づける。アインシュタインを介して知り合ったノーラ・デヴォンにトラヴィスは惹かれ…
 発売当初、全米のペットショップからゴールデン・レトリーヴァーが払拭したとの伝説を持つベストセラー。伝説の真偽は不明だが、読めば本当だろうと思えてくる。とにかくアインシュタインの可愛さったらない。お話の流れは直球の王道だが、それだけに読了後の心地よさもひとしおだ。

【ノンフィクション】

ヨアヒム・ラートカウ「木材と文明 ヨーロッパは木材の文明だった」築地書館 山縣光晶訳
 現代に生きる私たちにとって、木材は構造材の一つという印象が強い。だが歴史的に木材、というか森は、もっと様々な役割を果たしてきた。領主にとっては種猟場であり、農家にとっては家畜の放牧場であり、また薪の補給地でもあり、海軍にとっては軍船の材料だった。特に燃料としての価値は重要で…
 木の性質に注目すれば生物学や工学の側面もあり、農民の暮らしに注目すれば農学や生活史であり、軍船の素材だから軍事学でもあり、薪に注目すれば経済学であり、森の保全を考えれば政治学・社会学でもある。そんな広範囲の学問を含む林学へと読者を誘う、野次馬根性旺盛な者には危険極まりない本。似たテーマを扱った「森と文明」は歴史学の色が濃いが、やはり読み応え・面白さ共に素晴らしい。
アナスタシア・マークス・デ・サルセド「戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係」白揚社 田沢恭子訳
 ハムや瓶詰に始まった、軍事技術が生み出した食品の保存技術は、現代においてインスタントコーヒーからレトルトカレーまでを生み出す。乾燥したインスタントコーヒーはともかく、大量の水分を含むレトルト食品は、なぜ腐らないのか。そこには最新の科学と工学を駆使した米軍の計画的な研究体制があった。
 軍事技術と最新科学が、私たちの暮らしに染み込んでいる事を、毎日食べる食品を通じて否応なしに思い知らせてくれる本。たかがレトルトと馬鹿にしちゃいけない。そこにはとんでもないハイテクが使われてたりする。これは牛乳やジュースも同じで…
マーチン・ファン・クレフェルト「戦争文化論 上・下」原書房 石津朋之監訳
 クラウゼヴィッツは戦争論で主張した。「戦争は政治の延長だ」。戦争とは利害に基づくものであり、勝敗は目的を達したか否かで決まる、と。これに対しクレフェルトはいきなりカマす。「この考えは見当違いもはなはだしい」。ではなぜ戦争が起きるのか。
 いかにもタカ派が好みそうな書名だが、むしろハト派こそが読むべき本。どう見てもリベラルなスティヴン・スピルバーグが創った映画「プライベート・ライアン」に、世界中の軍ヲタは歓喜の声をあげた。CNNが映す湾岸戦争やイラク戦争に、人々はかじりついた。なぜなら…

【終わりに】

 もちろん「われらはレギオン」や「七人のイヴ」や「巨神計画」も面白かったけど、まだ最後まで読んでないし。あ、いや「アイアマンガー」も頭クラクラしましたよ、はい。「ヒストリア」の池上ヒロイン大暴れも楽しかったし、「架空論文投稿計画」にもニヤニヤしたし。

 身のまわりの科学って点じゃ「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」も良かったし、ジョエル・ベストの統計シリーズも少しニュースの見方が変わった。歴史じゃ「平和を破滅させた和平」と「完璧な赤」が読み応えバッチリで、軍事じゃ「戦争は女の顔をしていない」の読みやすさと中身のギャップが凄い。「ヒトはなぜ神を信じるのか」は宗教やオカルトの根源に迫る傑作で、「ネットリンチで人生を壊された人たち」は煽情的な書名と裏腹にヒトの心の働きに切り込んで…と、今年も面白い本を挙げていったらキリがないので、この辺でおやすみなさい。

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2018年7月23日 (月)

Macは普通のパソコンか?

1990年代初頭、某社にて。

当時のIT技術部のコンピュータは、SUN などのUNIX系マシンばかり。
Mac や Windows は少なかった。
そんなIT技術部に、営業さんがFD(*)を持ってきた。
中に入っている文書を読みたいらしい。

*FD:フロッピーディスク。
コンピュータ用外部記憶媒体。
今のUSBメモリのように、文書の持ち運びなどに使う。
ややこしいことに、FDはOSごとにフォーマットが違っていた。
そのため、Mac で書いたFDは Wiindows じゃ読めない。
逆に Windows で書いたFDは、特別な手立てを使うと Mac でも読めた。

そこで交わされた会話。

営業「パソコンある?」
技術「あるよ」Macを示す
営業「そうじゃなくて普通のパソコン」
技術「Macは普通のパソコンだよ」
営業「…もういい!」

確かにMacは普通のパソコンじゃない。
贅沢なパソコンだもんね。

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2018年2月14日 (水)

分類か属性か

 その昔、「ライトノベルの定義ってなんだろう」って記事を書いた。

 瀬尾つかさの「約束の方舟」とか、ライトノベルかSFか悩むよね、って話。結論は、そもそもラジオボタン的にどっちかにしろってのが無茶で、チェックボックス式に考えた方がよくね?みたいな話だった。

 が、もちっと深く考えると、これもちと違うような気がする。改めて図で示してみよう。

 最初の発想はこうだ。

ライトノベル
SF
それ以外

 ライトノベルなら、SFではない。SFなら、ライトノベルではない。そうやって「分類」しましょうって発想。でも、小説って、一つの作品が様々の属性を持ってるよね。ってんで、私の提案はこれ。

ライトノベル
SF
その他

 その作品は、どんな属性を持っているかで考えようよ、ってこと。これなら、一つの作品が、「ライトノベルかつSF」でありえる。おお、悩みが消えた! と一旦は納得したんだが、改めて考えると、こっちの方が近いんじゃなかろか。

ラノベ:
SF  :
その他

 一つの作品は、様々な属性を持っている。そして、属性により、多い少ないがある。でもチェックボックスじゃ、属性の多寡が著せない。そこでスライドバーだ。これなら、より正確に「約束の方舟」を表せる。ラッキー。

 ってな具合に、世の中じゃ二者選択とか三者選択とかあるけど、現実にはスライドバー的に表した方が適切だよね、みたいなのは他にもあって。

 例えば理系/文系だ。こんな感じだと、世の人は思っている。

理系
文系

 理系なら、文系ではない。文系なら、理系ではない。でも、この理屈が当てはまらない人もいる。

 有名な所では、ロボット三原則で有名なアイザック・アシモフだ。化学者だから理系? でもエッセイでは、歴史など文系の蘊蓄も楽しい。加えて、娯楽作家として、読者を楽しませるのも巧みだ。これは芸能・芸術系とでもしよう。とすると、アシモフはこんな感じじゃなかろうか。

理:
文:
芸:

 理系方面は専門の学者だから最高レベルだ。また小説やエッセイの売り上げを見れば、芸能・芸術系でも最高と言っていい。流石に歴史関係じゃ専業の歴史学者には敵わないだろうが、そこらの素人とはレベルが違う。とすると、この辺が妥当だろう。

 対して私は…いやどうでもいいじゃないですか、あはは←をい。

 なんにせよ、こう考えていくと、理系/文系なんてのは、あましアテにならない概念なんじゃなかろか、と思えたり。

 やっぱり怪しいのが、保守/リベラルなんて分け方。ジョナサン・ハイトは「社会はなぜ左と右にわかれるのか」で、こんな主張している。

 政治思想の違いは、倫理、つまり「何が正義か」の判断基準によるものだ。これは感覚的なもので、理屈で答えを導き出してるんじゃない。反応速度の速さがその証拠だ。この倫理感覚は、少なくとも六つの要素から成る。各要素の感度により 保守/リベラル/リバタリアン の三種に分かれる。

保守の人は、忠誠や権威を重んじ、神聖さを大切にする。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

リベラルは、傷ついた者を守り、公正であろうとする。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

リバタリアンは、自由こそ正義と感じる。

ケア/危険:
公正/欺瞞:
忠誠/背信:
権威/転覆:
神聖/堕落:
自由/抑圧:

 こんな風に、私たちは右と左なんて単純に分けちゃうけど、実際には様々な要素が絡んでるんだよ、とジョナサン・ハイトは主張してるわけだ。シリアで暴れてた山賊とかは、「神聖/堕落」が強いんだろう、とか考えると、なんか腑に落ちるし、結構いいセンいってる発想だと思う。

 と、そんな風に、単純に二つに分けてたシロモノが、実は幾つかの要素のせめぎ合いだった、みたいな話は、他にもあるんじゃないかな、と思ったり。

 とか偉そうに言ってるけど、実は HTML でスライドバーを書けると知ったので、やってみたかっただけなんです←をい

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2018年1月22日 (月)

再び日本翻訳大賞を勝手に宣伝

 2018年1月21日から、日本翻訳大賞の推薦作の募集が始まっている。締め切りは1月31日(水)まで。

 対象となるのは、「2016年12月1日から2017年12月31日までに日本語に翻訳された公刊物」。こういう賞は小説を思い浮かべてしまうが、この定義ならノンフィクションもアリだ。実際、既に某科学解説書が候補に挙がっている。

 おお祭り的な面白さはもちろんあるし、「面白い本」を探すガイドとしても役に立つ。というか、私は主にソッチの目的で楽しんでいる。「レッド・スペシャル・メカニズム」も、これで見つけた。まだ読んでないけど、「アシュリーの戦争」と「堆塵館」は、近いうちに読もうと思っている。

 こんな風に、受賞作より候補作のリストの方が興味深い賞ってのも、インターネットが普及して、誰もが何かを言える現代ならではだよなあ。

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2017年12月30日 (土)

2017年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 例年と同じに、今日の気分で選んでます。明日になったら、また違ったラインナップになるでしょう。

【小説】

オキシタケヒコ「波の手紙が響くとき」ハヤカワSFシリーズJコレクション
 武佐音響研究所。音響工学の技術を売り物にした零細企業だ。普段は古くなった録音テープから音をサルベージしたり、店舗の音響環境を整えるなどの仕事を請け負う。が、ときおり、奇妙な依頼も舞い込んでくる。録音された音源から録音環境を突き止めるなんてのは可愛い方で、心霊現象の解明なんて事件も…
 SFマガジンに第一話「エコーの中でもう一度」が載った時から、音響科学・工学を素材にする発想の素晴らしさに舌を巻き、書籍化を心待ちにしていた作品。書籍では、そんな私の期待を充分に満足させてくれた。どころか、最終話の「波の手紙が響くとき」では、まさしくSFの王道で彼方まで突き抜けてくれた傑作。
A・E・ヴァン・ヴォクト「スラン」浅倉久志訳 早川書房世界SF全集17
 時は未来。特殊な能力を持つ新人類「スラン」は、人類から追われる身だ。9歳の少年スランは目の前で母を殺され、お尋ね者の烙印を抱え、敵だらけの世界で、ただ一人で生き延びなければならない…
 1940年発表と、SFとしてはとんでもなく古い作品だから、「どうせ古臭くて退屈なんだろう」と思い込んでいたら、とんでもない。危機また危機、謎また謎の連続で、常に緊張感あふれる場面を途切れさせず、またお話もコロコロ…というよりアッチコッチの思わぬ方向へハイスピードで転がってゆく、ジェットコースター・ストーリー。
アレックス・ヘイリー「ルーツ Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」現代教養文庫 安岡章太郎・松田銑訳
 西アフリカのガンビア。マンディンカ族の少年クンタ・キンテは白人に捕えられ、奴隷としてアメリカ南部に売り飛ばされる。事あるごとに希望を打ち砕かれる奴隷の暮らしの中で、しかしクンタ・キンテはマンディンカ族の誇りを持ち続けようと抗うのだが…
 発表した当時はベストセラーとなり、ドラマも史上最高の視聴率を稼いだ化け物コンテンツ。これに影響され、アメリカではご先祖探しのブームまで巻き起こした。そのブームの主流は白人なのが、このお話の凄さを物語っている。奴隷にされた黒人による白人への恨み節として書き始めたそうだ。が、完成した小説は人種間の垣根をアッサリ越え、今生きている全ての人に力強く訴えてくる、骨太の作品となった。今の日本では手に入りにくいのが、つくづく悔しい。

【ノンフィクション】

沢山美果子「江戸の乳と子ども いのちをつなぐ」吉川弘文館
 今は粉ミルクがあるが、江戸時代にそんな便利なモノはない。体や心の具合で乳の出は変わる。しかも、栄養状態は今より遥かに悪い。その上、当時は出産も命がけで、母親が命を落とすことも多かった。
 にも関わらず、私たちは今も生きている。ということは、当時の人たちも、なんとかやりくりして、私たちにまで命をつなげてくれたのだ。それは、どんな工夫だったのか。どんな苦労があったのか。
 書名だけで、面白さが保証されたような本だ。そういった目の付け所のよさは、単なるキッカケに過ぎない。この発想を生かすべく、丹念に資料を集め読み解いた研究の苦労は創造するに余りある。が、完成したこの本は、そういった苦労を微塵も感じさせず、素人にも分かりやすい文章で、当時の人々の暮らしをアリアリと再現してくれる。先の「ルーツ」にも通じる感動が蘇る一冊。
ランドール・マンロー「ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか」早川書房 吉田三知代訳
 タイトル通りの素朴な質問に対し、著者が真面目に計算して答え…た後、質問者が全く考えていなかった影響まで答えてくれる、数学と科学と工学とユーモアがたっぷり詰まった、とっても楽しい一冊。
 光速で野球のボールを投げたらどうなる? 全人類が一斉に飛び跳ねたら地震が起きる? 月に人類が一斉にレーザーポインタを向けたら? なんて、小学生が思いつきそうな質問に対し、キチンと計算して答えるあたりが、とってもワクワクするし、その計算に必要な数字を調達する方法も、著者の柔軟な発想に感心するところ。読み終えると、身の回りの様々な事柄を計算してみたくなる。
吉見直人・NHK取材班「終戦史 なぜ決断できなかったのか」NHK出版
 太平洋戦争の終戦は、1945年8月15日となっている。が、どう頑張っても敗戦が避けられない事は、当時の対日本帝国の上層部にはわかっていた筈だ。もっと早く敗戦を受け入れていれば、原爆や中国残留孤児などの被害は避けられただろう。なぜ無駄な足掻きを続けたのか。
 国内の文書の多くは、敗戦直前に焼却処分され、ほとんど残っていない。そこで著者らは海外に残った外交資料や、各国の情報機関が解読した通信などにあたり、当時の模様を再現してゆく。
 そこから見えてくるのは、敗戦の真相ばかりではない。そもそも、なぜ無謀な戦争に突き進んだのかに至るまで、当時の大日本帝国の根本的な欠陥を露わにしてゆく。また、優れた者が集まるハズの組織で、愚か極まりない結論が下される原因も、この本を読めば、その一端が見えてくる。日本の現代史としての重要性ばかりでなく、一級品の組織論としても読む価値は計り知れない。

【おわりに】

 などと三冊づつ選んだが、当然ながら私は未練タラタラ。

 小説では、16年の時を経て刊行された「ブルー・マーズ」が期待を裏切らない出来だったし、「スペース・オペラ」で一段落ついたジャック・ヴァンス・トレジャリーも捨てがたい。イーガンの「アロウズ・オブ・タイム」も、こんなとんでもないシロモノが読める時代に感謝したいし、「捜神記」の怪しさも捨てがたい。

 ノンフィクションも面白いのがいっぱいあった。

 音楽好きとして「音楽の進化史」は外せない。「暴力の解剖学」は、SF者の妄想マシーンを暴走させる衝撃作。衝撃ではデーヴ・グロスマン「[戦争]の心理学」も期待を裏切らない迫力だった。「戦地の図書館」も、本好きなら感涙の一冊。冒頭に収録した海兵隊員の手紙は、創作に携わる全ての人の心を揺さぶるだろう。その言葉は朴訥ながら、物語に何ができるかを、戦慄すら感じさせる激しさで伝えてくる…

 とか書いているとキリがないので、今日はここまで。

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2017年12月 1日 (金)

スキーと読書

 私は本が好きだ。こんなブログをやってるし。

 なんで好きかというと、楽しいからだ。そして、どんな趣味であれ、ヒトは自分の趣味に他人を引きずり込もうとする性質がある。このブログをやってる理由の一つが、それだ。私にとって、読書は趣味・道楽なのだ。

 が、世の中には、本を読むのは苦行だと思っている人もいる。人により好みは違うから、本より好きな事がある人も多いだろう。そういう人が、本なんか読んでる暇はないと言うなら、納得できる。が、苦行だってのは、ちと違うんじゃないか。

 私は昔、スキーをやっていた。スキーをやらない人は、スキーを苦行だと思うだろう。「なんだって寒い時に、もっと寒い所に行って、シンドイ運動なんかするんだ」と。

 実際、スキーヤーがやってるのは、そういう事だ。しかも高い金を払い、夜中に重たい荷物を担いで歩き、または車で危険な雪道を長いドライブし、帰ってきたら泥だらけの車を洗う手間までかけて。苦労ばかりじゃないか。

 でも、楽しいのだ。自分の腕に合った斜面を、一気に駆け降りる心地よさ。雪を跳ね飛ばして曲がる時の、「もしかして今の俺カッコいんじゃね?」的な気持ち。そして、日常では味わえない、風を切って進むスピード感。心のなかのケダモノを解放する、野生に帰った感覚。

 そりゃ吹雪にあったり、ゲレンデが岩だらけだったり、逆にカチコチのアイスバーンだったりと、ハズレな時もある。でも、状態がいい時の気持ちよさは、そんなハズレを差し引いても、タップリとオツリが来る楽しさに溢れている。何より、スキーに行かなきゃ、スキーの楽しさを味わえないじゃないか。

 そんな楽しさを味わうには、幾つかの条件がある。ゲレンデや天気の良しあしもある。が、その前に。何より、スキーヤーが、ある程度スキーの技術を身につけていなくちゃいけない。

 滑れない人を急斜面に連れて行ったら、そりゃ苦行でしかない。寒いし、コケてばかりで体中痛いし、立ち上がるのにも筋力を使うし。それ以上に、下手なコケ方をすれば、怪我しかねない。

 だから、スキーを始めるなら、まずスキー教室に入って、基本的なスキーの技術を身につけよう。そこで板やストックなど装備の選び方と使い方、怪我をしない転び方、滑り方、止まり方、曲がり方、そしてゲレンデのマナーなど、スキーを楽しむために必要な事を学び、知識と技術を身につけるのだ。

 これは読書も似たようなモンで。

 どんな本でも、それを楽しむためには、ある程度の「技能」が必要なのだ。

 どんな技能がどの程度に必要かは、本によって違う。「補給戦」は、古今の有名な戦いをアチコチで引用しているので、歴史に疎いと、読みこなすのは難しい。逆に、「剣客商売」あたりは、テレビの時代劇の雰囲気をなんとなく知っていれば、充分に楽しめる。

 ばかりでなく、もっと基本的な技能もある。例えば日本語を読む能力だ。これがないと、日本語で書かれた本が読めない。加えて、読解力も要る。

 一言で読解力と言っても、その中身はよく分からない。どんな要素から成っていて、それぞれの能力はどうすれば育つのか。最近になって新井紀子教授の読解力テストが話題になった。これでやっと、「読解力」を構成する要素が見えてきた程度だ。

 が、残念ながら、読解力を構成するそれぞれの能力を、どうすりゃ鍛えられるのかまでは、分かってない。

 これがスキーと読書の大きな違いで。

 スキーだと、必要な技能の洗い出しは終わってる。また、どういう順番で教えるべきかも、だいたいの方針が定まっている。ボーゲンの是非など、多少の議論はあるようだが。

 いずれにせよ、「生徒がどの段階にあるのか、次に何を教えればいいのか」が、スキーはだいたい決まっているし、生徒がどの段階にいるのかも、見ればわかる。だから、教える側は、ガイドラインに沿い、生徒の習得具合に合わせ、段階を踏んで教えていけばいい。

 が、読解力については、スキーほどハッキリしたガイドラインがない。だもんで、教える側も、「とりあえず本を読めや」と、かなり無茶な教え方をしたりする。スキーで言えば、「とりあえずゲレンデに来い」と言ってるようなもんだろう。

 しかも、だ。

 スキーなら、初心者をいきなり急斜面に置き去りにする、なんて真似は無茶だと、誰だって考える。まずは緩い斜面で板に慣れる所から始めるだろう。

 が、これが本になると、いきなりグレッグ・イーガンの直交三部作を勧めるとか、無茶を強要する性格悪い奴がいたり。

 スキーなら、ゲレンデのシンドさは、見ればだいたいわかる。急な斜面は上級者向きで、初心者は緩い斜面の方が楽しめるだろう。それぐらいは、素人でもスグに判断できる。別に斜面を見なくても、斜度(角度)って数字で、ハッキリと難しさがわかるし。

 が、本だと、そうはいかない。

 パッと見てわかるのは、本の厚さだ。が、これが大きな罠だったり。「補給戦」は薄いが、斜面で言えば頂上の急斜面だ。対して「木枯し紋次郎」の傑作選とかは、分厚いわりに、とっても読みやすくてスラスラ読めるのだ。

 また、「難しさ」にも、いろいろある(右図)。

A2  例えば白雪姫。日本語の本なら何の問題もないが、タガログ語で書かれていたら、私にはまず読めない。内容以前に、タガログ語の素養が必要で、私にはソレがないからだ。

 「液晶の歴史」は一般向けの科学解説書だ。とても丁寧に書かれていて、一歩一歩順を踏んで説明している。だもんで、じっくり読めば、なんとか最後までついていける。ただし、途中で投げ出さない執念が必要だ。

 と、こんな風に、同じ「難しい」でも、敷居が高い難しさと、内容の濃さゆえの難しさの、少なくとも二種類がある。他にも、最初は楽そうなのに、途中でいきなりレベルが上がっちゃう本とか。

 などと、難しさや読みにくさの原因は色々ある。けど、斜面の角度のように、本の読みやすさも、ハッキリと数字で示せればいいのに、と思う。

 もっとも、それをどうやって測るかってのが、難しい問題で。とりあえず考えたのが、「私が一時間に何文字読めたか」で測るとか。で、単位の名前は当然、「ちくわぶ」だ。イーガンは千ちくわぶ、「木枯し紋次郎」は4万ちくわぶ、とか。

 なんて馬鹿なことを考えたが、そうやって測るためには、ストップウォッチ片手に読まにゃならん。それは面倒くさいぞ。加えて、SFは全般的に査定が緩くなりそうだ。でも、Kindle とかの電子媒体なら、読むのにかかった時間を勝手に測ってくれそうだなあ。いや私は Kindle 持ってないんだけど。

 などと難しい関門は幾つもありそうだが、なんとか「本の読みやすさの尺度」みたいなモンが出来るといいなあ。あなた、どう思います?

 

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2017年2月 8日 (水)

あたしのチクビは五千円

 半月ほど前、年に一度の定期健康診断があってね、今日、その結果を聞きに行ったの。そしたらね、胸のレントゲン写真に、丸くて小さいモヤッとしたのが写ってたの。

 先生、「とりあえずCT撮っときましょうか」って言うんで、言われるままCTスキャンして貰ったの。

 凄いのね、最近のCTって。

ベッドに寝っ転がって、ベッドごと白い機械のトンネルの中に入っていくんだけど。トンネルの枠の所に、液晶モニタがあるのね。そこに「息を止めて」とか「あと3秒です」とかのメッセージが出るのね。とっても親切。

 おまけに、結果もすぐに出るのね。先生がいる診察室と、CTスキャンの部屋は離れてるんだけど、スキャン撮ったその日のうちに、先生のパソコンにあたしの胸を輪切りにした画像が入ってるの。

 スキャンを終えて先生の診察を受けるまで、あたしが待ってたのは15分ぐらいだったかな? 先生、その間に他の患者さんの診察もしてたみたいだから、コンピュータが画像を処理するのにかかる時間は、もっと短いんと思う。

 それだけじゃないの。CTって、体を輪切りにして調べるでしょ。あたしが取ったのは胸なんだけど、最初の画像は首のあたり、最後の画像はお腹のあたりを輪切りにした画像って感じで、沢山の画像を撮って、それが先生の診察室にあるパソコンで見れるのね。

 で、先生、パソコンのマウス・ホイールをグリグリ動かすと、あたしの輪切り画像が、首の方からお腹の方まで、トンネルの中を走る動画みたいな感じで、滑らかに切り替わっていくのね。モノクロとはいえ、その画像処理能力には驚いたわ。

 もっとも、肺癌かもしんないって時に、そんな事を考えてるあたしもアレだけど。

 で、そのCTの結果。

センセ「ニップルですね」
あたし「ニップル?」
センセ「チクビです」

 レントゲン写真に写ってた「丸くて小さいモヤッとしたの」の正体は、あたしのチクビだったってわけ。安心したような、笑っちゃうような。一気に力が抜けちゃった。

 それはいいいんだけど、最後のお会計で。

お姉さん「¥5,250円です」

 げげッ。CD2枚買える値段じゃない。チクビのせいで五千円消えちゃった。あたしのチクビにそんな価値あるのかしら。

-----------------

 すんません。自分でも女言葉は気色悪いんで、今後は慎みます。 

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2017年1月19日 (木)

勝手に宣伝:日本翻訳大賞

 

第三回日本翻訳大賞の推薦が始まっている。

 嬉しいことに、誰でも推薦できる。対象は2015年12月1日~2016年12月末までに出版された翻訳書。12月がカブっているが、これにはちゃんとワケがあるそうな。

 元は著名な翻訳者が集まって始めた賞だが、私は面白い本を探す手段の一つとして使っている。SFはSFマガジン関係を漁ってればだいたいカバーできるんだけど、それ以外はなかなか目がいかない。そのせいで見逃した美味しい獲物を補うには、とても都合がいいのだ。

 私も推薦してきた。面白そうだし。あなたが好きな本を布教する格好の機会だ。ということで、是非あなたも好きな本を売り込んでいただきたい。そして私に美味しい本を教えて、私の読書生活を充実させるのだ。ふっふっふ。

 なお、締め切りは2017年2月5日(日)23:59まで。

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2016年12月31日 (土)

2016年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 去年同様、真面目に考えるとなかなか決まらないので、ほとんど気分で選んでる。後で考えなおしたら、きっと違うラインナップになるだろう。

【小説】

藤井太洋「ビッグデータ・コネクト」文春文庫
 月岡冬威が誘拐され、電子メールで犯行声明が届いく。彼は滋賀県の官民複合施設<コンポジスタ>のシステム設計・開発のキーパースンだった。京都府警サイバー犯罪対策課が捜査に乗り出すが、その協力者は、なんと二年前のコンピュータ犯罪の容疑者、武岱だった。
 ソフトウェア開発に関係する者なら、あまりのリアルさに身震いしてしまう作品。特にお役所関係の業務を請け負っている人には、日本ならではの面倒くさい、でも現場の人じゃないとわからない問題に、鮮やかにスポットライトを当てているのが嬉しい。他にも業界の内情を遠慮なくブチまけ、またタイトルが暗示するテーマも終盤でドカンと炸裂する。
A・G・リドル「アトランティス・ジーン1 第二進化 上・下」ハヤカワ文庫SF 友廣純訳
 南極で氷山に埋もれていたのは、失われたナチスの潜水艦だった。ジャカルタでは、自閉症の治療施設が襲われ、画期的な成果を示した自閉症児二人が攫われる。そして超国家的諜報組織クロックタワーの各支部は、世界的かつ組織的な総攻撃を受けていた。
 ナチスの潜水艦・ロズウェル事件・アトランティスなど、怪しげなキーワードを随所に散りばめ、キワモノかと思わせながら、ハイテンポな物語運びとサービス満点なアクションの連続で読者を引きずり回す、娯楽超大作。次々と広がる風呂敷にハラハラしたものの、見事にたたんでくれた。
パール・バック「大地 1~4」新潮文庫 新居格訳 中野好夫補訳
 貧しい農民の王龍が、地主の奴隷だった阿蘭を妻に迎える場面から始まる。見目こそ麗しくないものの、賢い阿蘭はよく働き、少しづつだが暮らし向きも良くなってきた。だが所詮は天任せの商売、雨が降らなければ旱魃に怯え降りつづければ洪水に流され…
 激動の中国を舞台とした一族の物語。ノーベル文学賞といわれれば難しそうだが、とんでもない。男の出世・女の意地の張り合い・ウザい身内・親子の確執など、ソープオペラ顔負けの身につまされるベタな人間ドラマが続く、読み始めたら止まらない大河小説だ。

【ノンフィクション】

ドミニク・ラピエール「歓喜の街カルカッタ 上・下」河出文庫 長谷泰訳
 インドのカルカッタ(現コルカタ)にあるスラム、アーナンド・ナガル(歓喜の街)。電気はもちろん水道もないが、人力車夫・ハンセン氏病患者・森の人・去勢者などが住んでいる。フランス人の若き司祭ポール・ランベールは、彼らと起居を共にすべく歓喜の街に住み着き…
 色々と濃い人が多いインドの中でも、最もディープな社会をつぶさに取材し、生きるため必死にあがく彼らの暮らしを通し、インドの現実を色鮮やかに描き出すドキュメンタリーの傑作。特に主役を務める人力車夫のハザリ、彼の漢が輝く終盤は、ある意味ハードボイルドですらある。
トーマス・トウェイツ「ゼロからトースターを作ってみた結果」新潮文庫 村井理子訳
 イギリスの美術大学の大学院生が、自分でトースターを作るまでのドキュメンタリー。たかがトースターと言うなかれ。なんと彼は自ら鉄鉱石を掘りだし、製鉄から始めるのだ。現代社会を支えるテクノロジーと産業の凄まじさを、「工作の宿題」を通し浮き上がらせる、ユーモラスな一冊。
 表紙のインパクトが見事。プラスチックと聞けば安物って印象があるが、その安物を作りだすのがどれほど大変なことか。などの真面目なテーマを扱いながら、語り口はあくまでも軽薄な美大学生なのも楽しいところ。特に石油を調達しようとするくだりは爆笑。
ジェレミー・スケイヒル「アメリカの卑劣な戦争 無人機と特殊作戦部隊の暗躍 上・下」柏書房 横山啓明訳
 2011年9月30日、アンワル・アウラキが無人攻撃機により暗殺される。合衆国市民だったが、アルカイダの幹部として盛んにインターネットでテロを煽っていた。米国滞在中は穏健なムスリムであり、2000年の大統領選でもブッシュを支持していた。なぜ彼はテロリストになったのか?
 彼の人生に加え、対テロで活躍する統合特殊作戦コマンド(JSOC)の誕生と躍進を追い、現代アメリカの間抜けな軍事政策を批判すると共に、わかりにくいイエメンやソマリアの紛争の経過と内情も親切に教えてくれる、衝撃の連続の本。

【おわりに】

 などと、とりあえず目についたものを挙げたけど、イーガンの直交シリーズも濃いし、ケン・リュウの「紙の動物園」は多彩な芸に幻惑されたし、アン・レッキーの「叛逆航路」は噂通りの傑作だし、半藤一利の「昭和史」やイアン・トールの「太平洋の試練」はガツンとやられるし、J・E・ゴードン「構造の世界」は地味ながら街の見方が変わるし、ガルブレイスの「不確実性の時代」は意外と親しみやすいし、ローレンス・レッシグの「FREE CULTURE」「CODE Version 2.0」はエキサイティングだし…と、やっぱり収穫の多い年だったなあ。

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