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2019年7月11日 (木)

ビョルン・ベルゲ「世界から消えた50の国 1840-1975」原書房 角敦子訳

切手の製造は、1878年にアルゼンチンの郵便制度が国営化されるまで続いた。この時期をはさんで多くの偽物が出たが、そのどれにもいえる特徴が、ほぼまちがいなくオリジナルより品質が高いということである。
  ――コリエンテス パン屋の切手

…イギリス人は何をすべきかを承知していた。なぜなら、独自の切手発行ほど社会がきちんと機能していることを証明する手立てはないからだ。
  ――マフェキング 陽動作戦に出たボーイスカウト

石油生産が1870年代に始まると、バクー油田はまもなく世界の石油の50%以上を産出するようになった。その中心で一切を取り仕切っていたのは、スウェーデンのノーベル兄弟社である。
  ――バトゥーミ 石油ブームとクロバエ

イニニの地表の面積はベルギーの売あるが、人口は3000人しかなかった。この数字には土着の先住民は入っていない。先住民の人数をわざわざ数えようとする者などいなかったのだ。
  ――イニニ 人を寄せつけない熱帯雨林の道徳の罪

…ほぼ確実にいえるのが、その大半がこの国をまったく通過せずに収集家に直販されているということである。
  ――タンヌトゥバ 封鎖された国と奇抜な切手

カロンジは有力なルバ族の族長で、(略)その施政は軍国主義に傾いた独裁制だった。他の部族民は放逐され、政敵は暗殺か追放の憂き目にあった。(略)その後の数週間で新首都には、コンゴ全域のルバ族がどっと押し寄せた。その多くが執念深いルラ族からやむをえず逃げてきたのだった。
  ――南カサイ 悲惨なルバ族と貴重な鉱物

【どんな本?】

 何をもって国家とするのか。この定義は、けっこうあいまいだ。独自の通貨を発行し、それが実際に流通していれば、充分に国家と言えるだろう。だが通貨を発行し、それが国民や他国の信用を得るとなると、けっこう難しい。例えば東ティモールだ。独立国として認められてはいるが、経済は米ドルで回っている。

 対して切手は、独自通貨よりも発行が簡単だ。また、切手を発行することで、その政府は郵便制度を整え運用できる由を、他国にアピールできる。

 著者は趣味の切手収集を通じ、世界史の中で埋もれた様々な国に出会う。シチリア王国やオレンジ自由国やビアフラのように名の知れた国もあれば、ヴァン・ディーメンズ・ランドやアルワルなど、どこにあるのかもわからない国もある。それぞれが独自の事情で独立国となり、それぞれの事情で消えていった。

 切手を通じ、世界史の重箱の隅を掘り起こす、ちょっと変わった歴史と塵の本。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は LANDENE SOM FORSVANT 1840-1970 (NOWHERELANDS 1840-1975), by Bjørn Berge, 2016。日本語版は2018年7月30日第1刷。単行本ハードカバー縦一段組み本文約373頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント45字×18行×373頁=約302,130字、400字詰め原稿用紙で約756枚。文庫本なら厚い一冊分ぐらい。

 文章はこなれている。内容も特に難しくないが、19世紀以降の世界史に詳しいとより楽しめるだろう。世界地図が欲しくなるが、マニアックな土地ばかりが出てくる上に、昔の地名で出てくるので、Google や Wikipedia に頼る羽目になるかも。

【構成は?】

 それぞれ6頁ほどの独立したコラムになっている。気になった所だけをつまみ食いしてもいい。

  • まえがき
  • 1840~1860年
  • 両シチリア王国 底なしの貧困と飽食の貴族
  • ヘリゴランド 島の王国から爆撃の標的へ
  • ニューブランズウィック うまい話に一杯食わされた移民
  • コリエンテス パン屋の切手
  • ラブアン いかがわしい南海の天国でどんちゃん騒ぎの酒宴
  • シュレスヴィヒ スカンジナビア主義と軍歌
  • デンマーク領西インド諸島 奴隷島のバーゲン・セール
  • ヴァン・ディーメンズ・ランド 流刑地と不気味な切手
  • エロベイ、アンノボンおよびコリスコ 反帝国主義と気の弱い宣教師
  • ヴァンクーヴァー島 木造の神殿
  • 1860~1890年
  • オボック 武器取引と山羊のスープ
  • ボヤカ 戦時の退廃
  • アルワル 尊大な藩王と甘いデザート
  • 東ルメリア 図面上の国
  • オレンジ自由国 讃美歌と人種差別
  • イキケ 不毛な土地の硝石戦争
  • ボパール ブルカをまとった王女
  • セダン シャンゼリゼからコントゥムへ
  • ペラ スズに取り憑かれて
  • 1890~1915年
  • サント・マリー島 熱帯ユートピアの文明人パニック
  • ナンドゲーアン 平和な熱狂
  • 膠州 惨めなゲームで気まぐれにふるまう皇帝
  • ティエラデルフエゴ 成金独裁者
  • マフェキング 陽動作戦に出たボーイスカウト
  • カロリン諸島 石貨とナマコの交換
  • 運河地帯 カリブ海のシベリア
  • 1915~1925年
  • ヘジャズ 苦いイチゴ味の切手
  • アレンシュタイン 独立の夏
  • ジュービ岬 砂漠の郵便機
  • 南ロシア 白い騎士が覇権を手放す
  • バトゥーミ 石油ブームとクロバエ
  • ダンツィヒ スポンジケーキとヒトラー
  • 極東共和国 ツンドラの理想主義者
  • トリポリタニア イスラム教発祥の地でのファシストのエアレース
  • 東カレリア 民族ロマン主義と陰気な森林地帯の悲哀
  • カルナロとフィウメ 詩とファシズム
  • 1925~1945年
  • 満州国 実験国家
  • イニニ 人を寄せつけない熱帯雨林の道徳の罪
  • セザノ 世界一寂しい場所の子どもの天国
  • タンヌトゥバ 封鎖された国と奇抜な切手
  • タンジール国際管理地区 近代のソドム
  • ハタイ 虐殺と仕組まれた国民投票
  • チャネル諸島 切手でサボタージュ
  • サウスシェトランド諸島 ペンギンの厳しい試練
  • 1945~1975年
  • トリエステ 歴史の交差点
  • 琉球 組織的な自決
  • 南カサイ 悲惨なルバ族と貴重な鉱物
  • 南マルク 香辛料とテロ
  • ビアフラ 飢餓と代理戦争
  • アッパーヤファ 泥の家と悪趣味な切手
  •  訳者あとがき/原注/参考文献

【感想は?】

 イギリス大暴れ。良くも悪くも。

 扱う時代が大英帝国の興隆と崩壊にまたがっているため、どうしてもイギリスの野望が遺した傷痕が多くなる。だが、ちゃんと役立つ遺産も残しているのだ。他でもない、ペニーブラック(→Wikipedia)、世界初の郵便切手だ。

 とはいえ、イギリスを持ち上げているのは「まえがき」だけで、本文中ではジョンブルの悪行を延々と連ねているように見えるのは、気のせいだろうかw 著者がノルウェー人だから、遠慮なく暴けるのかもしれない。

 その酷さがよく出ているのが、ヴァン・ディーメンズ・ランド。

 今はオーストラリアに組み込まれ、タスマニアと呼ばれている。元は囚人の流刑地で、オーストラリアと同じだ。囚人たちはカンガルーを狩って腹の足しにした。ところが、この島にはもともと原住民がいて、カンガルーは彼らの主な食材であるばかりでなく、皮や骨も衣類や道具になる。そのカンガルーが移住者によって狩りつくされ…

 今でもオーストラリアには白豪主義なんてのがあるけど、こういう歴史で成り立った国だとすれば、そういうのも残っちゃうんだろうなあ、なんて思ってしまう。誰だって悪役にはなりたくないし。

 これほどあからさまではないにせよ、アルワルでも植民地ならではの害が見える。1803年当時の名前はウルワル、インドの藩王国の一つだ。マハラジャとして君臨していたのはバクタワール・シン。彼はイギリス東インド会社と組む。東インド会社は、取引先の代表者がコロコロ変わると困る。だからたいていは現政体を支援する。おかげでマハラジャの地位は安泰となった。

 東インド会社は面倒を嫌い、藩王国の内政には原則として口出ししない。取引さえちゃんと履行すりゃいいのだ。ここでマハラジャが賢く国民を導けばいいが、バクタワール・シンは皆さんが想像するインドの王族そのものの尊大さ。さすがにムスリムの虐殺は東インド会社にたしなめられたが、作物をアヘンに切り替えたのは反乱を招く。

 これ東インド会社がなければ、アルワルの王朝は他国の侵略か国民の反乱で滅びていただろう。なまじ大国イギリスのバックアップがあったために、愚かな王朝が続いてしまったのだ。1970年代の南ベトナムや、現在のシリア・北朝鮮みたいなもんだね。宗主国にとっては、愚かで威圧的な独裁者の方が都合がいいしなあ。だって賢いと取り引きしにくいし、民意を重んじると宗主国に対し反乱を企てるし。

 逆に賢く立ち回った藩王国もある。ボパール、史上最悪の化学工場事故(→Wikipedia)で有名な所だ(「ボーパール午前零時五分)。ムガル帝国の撤退に始まる1818年の建国以後、四代続いて女王が治める。国民の多くがムスリムだったため反発はあったが、いずれも賢く治めたようだ。特に最後のカイフスラウ・ジャハンは、選挙に基づく立法議会を設立している。

 などと白人のやらかす事は…ってな気分を覆すのが、サント・マリー島。マダガスカルの東にある島だ。フランスの植民地だが、17世紀から海賊の根城だった。海賊というと物騒なようだが、実は意外と民主的で、福祉もちゃんとやってる(「図説 海賊大全」)。

リバテーシアの海賊船は(略)、海洋を忙しく横断していた奴隷船を拿捕したときは、その場で捕虜を解放してやり、サント・マリー島に住んで仲間になる機会も与えた。
  ――サント・マリー島 熱帯ユートピアの文明人パニック

 はずが、「25年で突然行き詰った」。原因は不明どころか、「その一切が壮大なホラ話であったかだ」。海の底には今も海賊船の残骸が眠っているというから、もしかしたら隠したお宝も…

 切手収集家の面目躍如と思えるのが、ヘジャズ。「知恵の七柱」では、ヒジャーズと呼ばれている土地だ。

 そう、ここではアラビアのロレンスことT.E.ロレンスが活躍する。なんと「ロレンスは最終的な印刷工程も監督している」。「知恵の七柱」でも印刷に強いこだわりを見せたロレンス、ここでも「糊にイチゴの風味をくわえた」。おかげで「切手を舐めるためだけに購入する者が続出した」。なんと見事な商売人っぷりw ちなみに著者も舐めて確かめてます。

 とかの歴史の片隅のエピソードもあれば、最初の「両シチリア王国」では現在のイタリアにも残る南北の経済格差の源流が見えたり。切手を通して世界史を辿ることで、意外な視点が得られる、そんな本だ。

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2019年6月18日 (火)

デイヴィッド・W・アンソニー「馬・車輪・言語 文明はどこで誕生したのか 上・下」筑摩書房 東郷えりか訳

本書は印欧祖語を取り巻く中心的な謎を、いまならば解くことが可能であると主張する。すなわち、誰が、いつ、どこでその言語を話していたのかを。
  ――第1章 母言語がもたらす期待と政治

文献によって裏付けられた証拠もないのに、言語学者はどうやって再現された印欧祖語の正確さに確信が持てるのだろうか?
  ――第2章 死語をどう再構築するか

スワデシュは基礎語彙の置換率を、文字に書かれなかった言語において分離や分岐が起こった年代を確定するための標準化された時計として利用したいと考えた。
  ――第3章 印欧祖語の最後の話し手 言語と時代1

本章は印欧祖語の源郷の場所について、言語学的な証拠を挙げてゆく。(略)今日のウクライナとロシア南部に相当する黒海とカスピ海の北にある草原であり、ポントス・カスピ海ステップとしても知られている場所だ
  ――第5章 印欧祖語の源郷の場所 言語と場所

(オックスフォード大学のダニエル・)ネトルは西アフリカの言語集団の平均人口は、農業の生産性と反比例することを示した。
  ――第6章 言語の考古学

青銅とは何を指すのか? これは合金であり、最古のブロンズは銅と砒素の合金(砒素銅)だった。(略)砒素の含有率が混合物の2~8%ほどまで上がれば、できあがった金属は純粋な銅よりも色が薄くなり、冷やせばより硬くなり、溶かせば粘性が下がり、鋳造しやすくなることを古代の金属細工師が発見した。
  ――第7章 死滅した文化を再構築する方法

狩猟採取民は総じて、将来のためにわずかな貯蓄をするよりも、その場で分かち合い、寛大に振舞うことに重きを置く。そのため、畜産への転換は経済的なものであるのと同じくらい、道徳上の問題でもあったのだ。
  ――第8章 最初の農耕民と牧畜民

同じ場所に暮らすようになると、女性は一般により多くの子を産む。
  ――第9章 牝牛、銅、首長

人は徒歩でも、よい牧羊犬が1匹いれば、200匹ほどの羊を集めることができる。馬に乗って、同じ犬がいれば、その一人の人間で500匹の群れを追い立てることができる。
  ――第10章 馬の家畜化と乗馬の起源 歯の物語

前4200から前3800年にかけて気候が寒冷化したために、古ヨーロッパの農耕経済はおそらく衰退し、それと同時にステップの牧畜民がドナウ川河口周辺の低湿地と平原に押し入ってきた。
  ――第11章 古ヨーロッパの終焉とステップの台頭

遊牧の日常の自給自足経済は外部の国家からの援助は必要としていなかったのだ。
  ――第13章 四輪馬車に居住する人びと

廃れゆく言語にまつわる否定的な評価は、孫子の代によって重要度の低いものへと分類され直しつづけ、しまいには誰もおじいちゃんのように話したくはなくなるのだ。言語の交替とアイデンティティの蔑視は、密接に関連しているのである。
  ――第14章 西方の印欧諸語

シンタシュタで行われた供儀の細部は、『リグ・ヴェーダ』に描かれた葬送儀礼の供儀と驚くほど似通っていた。
  ――第15章 北部ステップの二輪馬車の戦士

最古の二輪馬車はおそらくステップで前2000年以前に出現したと考えられる。
  ――第15章 北部ステップの二輪馬車の戦士

【どんな本?】

 印欧語は、中国西部のトカラ語・インドのサンスクリット語・アフガニスタンのパシュトン語・イランのペルシャ語から、ロシア語・ラテン語・ケルト語そして英語まで、ユーラシアの各地で使われている言語だ。これらは一つの言語=印欧祖語から枝分かれしたものと考えられている。それは、どこで生まれ、どのように広がったのだろう?

 1991年のソ連崩壊に伴い、それまでアクセスが困難だったソ連の資料が使えるようになった。また元ソ連領だった所の学術調査も活発になる。これに伴い、それまで謎に包まれていた黒海とカスピ海の北岸や、ウラル山脈近辺の遺跡や遺物にも学問の光が当たり、意外なユーラシア史が浮かび上がってきた。

 言語学と考古学の間に広がる溝に、ソ連崩壊後に手に入った豊富な資料を基に橋を架け、壮大な人類史を描き出す、人類史の専門書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Horse, The Wheel, and Language : How Bronze-Age Riders from the Eurasian Steppes Shaped the Modern World, by David W. Anthony, 2007。日本語版は2018年5月30日初版第一刷発行。単行本ハードカバー上下巻で縦一段組み、本文約362頁+282頁=644頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント45字×19行×(362頁+282頁)=約550,620字、400字詰め原稿用紙で約1,377枚。文庫なら上中下の三巻に分けてもいい大容量。

 文章は比較的にこなれている。が、内容は思いっきり専門的で、かなり重い。ドラマチックで意表を突く仮説を、可能な限りの根拠に基づいて唱える本なので、やたらと専門的で細かい話が多い。充分に覚悟して読もう。また、舞台が黒海・カスピ海を中心にハンガリーから中国整備のアルタイ山脈にまで及ぶので、世界地図があると便利。また、序盤は発音記号が読めると良い。実は私は読めない。

【構成は?】

 訳者あとがきによると、第1章の後に最終章=第17章を読むといい、とある。私もそう思う。第1章でテーマを示し、最終章で結論を出す、そういう形になっている。途中の章は、結論に至る道筋を証拠で固める役割だ。いささか専門的で細かい話が多く、本筋を見失いがちになる。

 また、随所に地図や表や写真が出てくるので、栞をたくさん用意しよう。

  •   上巻
  • Ⅰ 言語と考古学
  • 第1章 母言語がもたらす期待と政治
    • 祖先
    • 言語学者と自国至上主義者
    • 母言語の誘惑
    • 古い問題に対処する新しい解決策
    • 言語の消滅と思考
  • 第2章 死語をどう再構築するか
    • 言語の変化と時代
    • 失われた音をどう再構築するか?
    • 忘れ去られた意味をどう再現するか?
    • 失われた言語の形
    • 死語を蘇らせる
  • 第3章 印欧祖語の最後の話し手 言語と時代1
    • 時代区分の長さ 言語はどのくらい永続するか?
    • 印欧祖語の末日 母言語から娘言語へ
    • 最も年長でもっとも奇妙な娘(あるいは従姉妹か?) アナトリア語
    • 次に長い銘文 ギリシャ語と古インド語
    • 親族を数え上げる 前1500年代にはいくつあったのか?
  • 第4章 羊毛、車輪、印欧祖語 言語と時代2
    • 羊毛の語彙
    • 車輪の語彙
    • 車輪はいつ発明されたか?
    • 車輪の意義
    • ワゴンとアナトリア源郷仮説
    • 印欧祖語の誕生と死
  • 第5章 印欧祖語の源郷の場所 言語と場所
    • 「源郷」という概念の問題点
    • 源郷を探す 生態学と環境
    • 源郷を見つける 社会・経済的状況
    • 源郷を突き止める ウラルとカフカースとの関連
    • 印欧祖語の源郷の場所
  • 第6章 言語の考古学
    • 恒常的な境界地帯
    • 移住がもたらす物質文化の変容
    • 生態学的境界地帯 生計を立てるさまざまな方法
    • 小規模な移住、エリート集団の募集、言語交替
  • Ⅱ ユーラシア、ステップの開放
  • 第7章 死滅した文化を再構築する方法
    • 考古学の誕生
    • 三時代区分の混乱
    • 年代測定と放射性炭素の革命
    • 食べていたものを知る方法
    • 考古学上の文化と現存する文化
    • この先で論じる大きな問題
  • 第8章 最初の農耕民と牧畜民 黒海・カスピ海の新石器時代
    • 「三人目」の神話と聖なる牛
    • 開拓農耕民の移住
    • 農耕民と採集民の遭遇
    • 牛を受け入れなかった人びと
    • 神々が牛を与える
  • 第9章 牝牛、銅、首長
    • 古ヨーロッパの銅の交易網
    • 境界地帯に生まれた文化
    • 牧畜への移行と権力の萌芽
    • フヴァリンスクの供犠と副葬品
    • カフカース山脈という障壁
    • 牝牛、社会的権力、部族の出現
  • 第10章 馬の家畜化と乗馬の起源 歯の物語
    • 馬はどこで最初に家畜化されたのか?
    • 馬はなぜ家畜化されたのか?
    • 飼い馬とは何か?
    • ハミ痕と乗馬
    • 印欧語の話し手の移住とデレイフカのハミ痕
    • ボタイと金石併用時代の乗馬
    • 乗馬の起源
    • 騎乗は文化に何をもたらしたか?
  • 第11章 古ヨーロッパの終焉とステップの台頭
    • 戦争と同盟
    • 東方からの馬と儀式
    • ドナウ川流域への移住
    • 戦争、気候変動、言語交替
    • 崩壊後
  • 原註/索引
  •   下巻
  • Ⅱ ユーラシア、ステップの開放(承前)
  • 第12章 ステップの境界に生じた変化の兆し 政治的権力の源泉
    • 交流と侵入 ステップの五つの文化
    • 都市よりも大きな町 トリポリエC1の特大規模の町
    • メソポタミアとステップとの関係
    • ウルク以前の北カフカース
    • どこでいつ出会ったか?
    • 大麻、馬、四輪荷車
    • 変わりゆく世界の地域言語としての印欧祖語
  • 第13章 四輪荷車に居住する人びと 印欧祖語の話し手たち
    • 移動生活と言語
    • 東の境界地帯を越えて アルタイ山脈への移住
    • 埋葬されるワゴン
    • なぜ東から広まった?
    • 牧畜と遊牧の有利・不利
    • 剣と斧と巨大な墓
    • 海上交通の革新
  • 第14章 西欧の印欧諸語
    • 騎乗者の役割
    • 移住の痕跡と言語の分離
    • ステップの大権力者
    • ドナウ川流域を遡る
    • 二つの文化の接触と交流 ゲルマン諸語の起源
    • ギリシャ語の起源
    • 西方の初期印欧諸語の消滅
  • 第15章 北部ステップの二輪戦車の戦士
    • 世界最古の二輪戦車
    • 森林境界地帯の消滅 森林の「縄目文」牧畜民
    • 狩猟民、牧畜民、交易者
    • 気候変動と技術革新
    • 環壕集落と武器 二輪戦車部隊の新しい戦術
    • 価値の競技会
    • アーリア人の起源
  • 第16章 ユーラシア・ステップの開放
    • 青銅器時代の帝国とステップから来た傭兵
    • バクトリア=マルギナ考古学複合体
    • ユーラシア・ステップの開放
    • 西部ステップの牧畜と採集 農耕なき定住
    • ウラル山脈の東、様相Ⅰ 牧畜から交易へ
    • 森林ステップ地帯の金属加工職人
    • ウラル山脈の東、様相Ⅱ 技術と言語の拡散
    • 『リグ・ヴェーダ』に残された痕跡
    • ユーラシアを横断する橋
  • 第17章 言葉と行動
    • 馬と車輪
    • 考古学と言語
  • 補遺 放射性炭素年代についての註記
  •  謝辞/訳者あとがき/原註/参考文献/索引

【感想は?】

 うう、重い。

 ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」に雰囲気が似た書名だから、一般向けの本かと思ったら、とんでもない。とにかくやたらと細かく根拠に拘りまくる、考古学の本格的な専門書だ。

 テーマを表しているのは、印欧語族である。西はアイルランドから東はインドまで、ユーラシアを覆っている(→Wikipedia)。南北アメリカやアフリカでも使われているが、この辺の歴史的経緯はみなさんご存じだろう。問題は、文書が残っていない紀元前の時代に、どうやって言語が広がっていったか、だ。

 序盤では、言語学から謎に迫ってゆく。言語は生き物だ。某匿名掲示板が顕著なように、特定の集団では、特定の言語が発達する。この発達が一定の度合いを越えると、別の言語になる。日本国内だって沖縄と青森じゃ全く言葉が違う。というか、沖縄の言葉は琉球語と言っていいんじゃないかと思うが、それはさておき。

 この変化に一定の法則がある、というのが驚きだ。まあ日本語だって旧仮名の「ゐ」は「い」と違う音だったと聞いたことがある。この変化の具合は、ちゃんと測れるのだ。音によって変化しやすい音もあれば、単語の重要性による違いもある。これらを総合して、数値化できるっていうのが凄い。この手法が、遺伝子の変化を調べる生物学の手法と似ているのも驚き。

 ヲタクとして興奮しちゃうのが、『リグ・ヴェーダ』にアチコチで触れてるあたり。これは紀元前1500~1200年ぐらいに、インド北西部~パンジャブで編纂された。このインドの聖典に登場する神々・道徳観念・古インド語が、最初に文献として登場するのはシリア北部ってのに、厨二な心がビンビンと感じてしまう。

 のはいいのだが、以降はひらすら学術的で専門的な話が進む。しかも、主な舞台は黒海とカスピ海の北岸、カフカス山脈の北に広がるステップ地帯である。

 ここで発掘された遺跡や、その遺物について、とにかく細かい話が延々と続く。埋葬された人の姿勢や頭がどっちを向いているか。副葬品は何か。それぞれの素材は何で、どんな形をしていて、何に使ったのか。そして、年代はいつごろか。

 補遺に「放射性炭素年代についての註記」なんてのがついているのでわかるように、正確さには偏執的なまでの拘りを見せる。放射性炭素年代法は万能だと思っていたが、そうではない事もわかった。魚をたくさん食べていると、本来より古い年代と測定されてしまうのだ。なぜって、魚は水底の古い炭素を多く含んでいるから。そこで窒素で補正して云々。

 とかもあれば、土器の素材・文様・製造方法・焼成温度にもこだわりまくる。貝殻を混ぜるなんてのは知らなかったなあ。

 中でも重要なのは馬だろう。「銃・病原菌・鉄」でも使役獣の重要性はアピールしていた。が、本書に出てくる馬の主な用途が、実に意外。なんと食用なのだ。つまり、印欧語の元祖を話していた人たちは、黒海北岸あたりの遊牧民で、馬と牛と羊を飼育してたんじゃないか、みたいな話になる。

 牛や羊はわかるが、なぜ馬か。これの理由も面白い。つまりは冬を越すためだ。馬はもともと北方の種で、雪原でも蹄で雪を掘り返して餌をとれる。こんな芸当は牛や羊じゃ無理。だもんで、寒い地域で遊牧するには馬が便利なのだ。もっとも、おとなしく家畜化するには、気性が重要なんだけど。

 食肉用から乗馬用への変化を追いかける10章では、変化の根拠としてハミ(→Wikipedia)の痕を調べる話を詳しく述べている。つまりは臼歯の減り具合なんだが、それが根拠となり得るか否かを確かめる過程では、獣医師や馬のトレーナーなどを訪ね歩き、数年かけて馬の臼歯を集める。牧場主も、考古学者がなぜ馬の臼歯を欲しがるのか、不思議に思っただろうなあ。

 歯と言えば、遺跡から出てきた遺骨から、虫歯や貧血の症状を調べているのも、考古学の変化を感じさせる。「むし歯の歴史」にもあるように、穀物を多く食べると、虫歯になりやすい。逆に肉や魚が中心だと、虫歯は少ない。壺の底に残った粒なども合わせ、これで当時の食糧事情がわかるわけ。

 やはり科学の進歩を感じるのが、花粉だ。水中や土中に残った花粉の種類を調べれば、周辺にどんな植物が生えていたか、気候はどうだったかがわかる。

 そして青銅である。一般に青銅といえば銅と錫の合金と思われているが、最初は銅と砒素だったってのは意外だ。というのも、錫の鉱山は滅多に見つからないからだ。わかっているのは…

錫鉱山はどこにあったのだろうか?(略)最も可能性のある産地は、アフガニスタンの西武と北部(略)古代の採鉱地は発見されていない。もう一つの可能性はザラフシャン川流域で、ここでは古代世界最古の錫鉱山がサラズム(タジキスタン北西部)の遺跡付近で見つかっている。
  ――第16章 ユーラシア・ステップの開放

 とすると、メソポタミアやインドでは、どうやって錫や青銅を手に入れたのか。こういった多くの証拠から浮かび上がってくるのは、実に壮大な古代人類の交易ネットワークなのだ。なんかワクワクしてきませんか。

 一般向けのフリをしているが、とんでもない。考古学者がプロに向けて書いた、本格的な専門書である。それだけに証拠固めは詳細を極め、正直ウザいと感じる部分も多い。また出てくる地名も馴染みのないロシア語が多く、そこでつっかえたりもする。が、時代の霞を越えてうっすらと見えてくるビジョンは、胸躍るものがある。充分に体力と気力を整えて挑もう。

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2019年5月24日 (金)

ティム・ハーフォード「50 いまの経済をつくったモノ」日本経済新聞出版社 遠藤真美訳

この本は、紙、バーコード、知的財産、文字など、50の発明をとりあげて、世界経済はどのように動いているのか、その知られざる物語にスポットライトを当てる。
  ――はじめに

1960年代初めには、世界の商品貿易額は世界国内総生産(GDP)の二割に満たなかった。それがいまでは五割前後になっている。
  ――17 輸送用コンテナ

貨幣とは債務なのである。
  ――20 取引できる債務とタリースティック

都市の光景はひっくり返ろうとしていた。そのきっかけをつくったのは、エレベーターを発明した男ではなく、エレベーターのブレーキを発明した男だった。
  ――22 エレベーター

グレース・ホッパー「いままで誰もそんなことを考えなかったのは、みんな私のようにものぐさではなかったからだ」
  ――29 コンパイラ

iPhone の開発の基礎をつくったのはスティーブ・ジョブスではない。アンクル・サムだったのだ。
  ――30 iPhone

世界の財の輸送コストのうち、燃料は約七割を占める。科学者のバーツラフ・シュミルは、グローバリゼーションの原動力がディーゼルではなく蒸気だったら、貿易の発展はずっと遅くなっていただろうと指摘している。
  ――31 ディーゼルエンジン

原油生産量の約8%がプラスチック生産に使われており、うち半分の4%が原材料、残り4%がエネルギーになる。
  ――36 プラスチック

「いま年収七万ドル稼ぐのと、1900年に七万ドル稼ぐのと、どちらがいいですか」
  ――50 電球

【どんな本?】

 エルトン・ジョンとペーパーレス・オフィスの関係は? 40年間、ある発明を禁止することで、日本の社会が被った影響とは? FRB議長と元の皇帝フビライ・カンの共通点は?

 人類の歴史は、様々な発明に彩られている。必要に迫られて生み出されたものもあれば、たまたま巧くいったものもある。車輪のように他の発明の基礎となったものもあれば、他の発明を幾つも組み合わせたものもある。それ自体で便利に使えるものもあれば、しくみ全体の改革を促すものもある。

 発明の経緯が様々なら、それが生み出す結果も多種多様だ。風が吹けば桶屋が儲かる的に、一つの発明が思わぬ所で役に立ったり、または大きな損害をもたらす場合もある。

 発明から始まるバタフライ効果の例50個をジャーナリストがまとめた、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は FIFTY THINGS : That Made the Modern Economy, by Tim Harford, 2017。日本語版は2018年9月21日1版1刷。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約391頁に加え、訳者あとがき3頁。9.5ポイント42字×17行×391頁=約279,174字、400字詰め原稿用紙で約698枚。文庫本なら少し厚い一冊分ぐらいの分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容もわかりやすい物が多い。敢えて言えば世界史を少し知っていた方が楽しめるが、知らなくても特に問題はないだろう。

【構成は?】

 それぞれの項目は独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

  • 1 ブラウ
  • はじめに
  • Ⅰ 勝者と敗者
  • 2 蓄音機
  • 3 有刺鉄線
  • 4 セラーフィードバック
  • 5 グーグル検索
  • 6 パスポート
  • 7 ロボット
  • 8 福祉国家
  • Ⅱ 暮らし方を一変させる
  • 9 育児用粉ミルク
  • 10 冷凍食品
  • 11 ピル
  • 12 ビデオゲーム
  • 13 マーケットリサーチ
  • 14 空調
  • 15 デパート
  • Ⅲ 新しいシステムを発明する
  • 16 発電機
  • 17 輸送用コンテナ
  • 18 バーコード
  • 19 コールドチェーン
  • 20 取引できる債務とタリースティック
  • 21 ビリーブックケース
  • 22 エレベーター
  • Ⅳ アイデアに関するアイデア
  • 23 楔形文字
  • 24 公開鍵暗号方式
  • 25 複式簿記
  • 26 有限責任株式会社
  • 27 経営コンサルティング
  • 28 知的財産
  • 29 コンパイラ
  • Ⅴ 発明はどこからやってくるのか
  • 30 iPhone
  • 31 ディーゼルエンジン
  • 32 時計
  • 33 ハーバー=ボッシュ法
  • 34 レーダー
  • 35 電池
  • 36 プラスチック
  • Ⅵ 見える手
  • 37 銀行
  • 38 カミソリと替え刃
  • 39 タックスヘイブン
  • 40 有鉛ガソリン
  • 41 農業用抗生物質
  • 42 モバイル送金
  • 43 不動産登記
  • Ⅶ 「車輪」を発明する
  • 44 紙
  • 45 インデックス・ファンド
  • 46 S字トラップ
  • 47 紙幣
  • 48 コンクリート
  • 49 保険
  •  結び 経済の未来
  • 50 電球 
  • 謝辞/訳者あとがき/原註

【感想は?】

 「世界を変えた6つの『気晴らし』の物語」や「人類を変えた素晴らしき10の材料」に似た面白さがある。

 つまりはアイデアやテクノロジーが、私たちの暮らしをどう変えたか、という話。で、違うのは、大きく分けて三点。

 ひとつは、著者の立場だ。本書の著者は経済学に詳しい。そのためか、「ソレがGDPを何%押し上げたか、または費用が掛かったか」などの数字が出てくる。数字が好きな人に、こういうのは嬉しい。いや私の事なんだけど。もっとも、その大半は「○○の試算によれば」的な断り書きがつくんだけど、とりあえず数字が出てくれば見当がつけやすいのだ。

 次に、扱うモノの数が多いこと。これは良し悪しで、料理で言えば小皿が次々と出てくる感じだ。バラエティ豊かな味を楽しめるのはいいんだが、それぞれの量が少ないため、ちょっと食い足りない気分も残る。もっとも、その辺は、例えば「3 有刺鉄線」は「鉄条網の歴史」を、「17 輸送用コンテナ」は「コンテナ物語」を、「44 紙」は「紙の世界史」を読めばいいんだけど。

 そして最後に、発明が社会に与えた影響を大きく取り扱っていること。特に利益だけでなく、費用や損害についてもキチンと書いているのが特色だろう。

 パッと見ても分かるのが「40 有鉛ガソリン」で、ガソリン・エンジンの効率を上げる反面、都市に住む人に多大な健康被害をもたらした。ハーバー=ボッシュ法は人類を飢餓から救ったが、困った副産物も創り出してしまった。詳しくは「大気を変える錬金術」をどうぞ。いやマジであの本は傑作です。

 私のようなオッサンは、「流しのギター弾き」なる存在を知っている。だがカラオケにより彼らは駆逐された。昔は多少ギターが弾けて愛想がよければ食っていけたが、今は相応の技術とセンスとルックスとコネと若さがないと無理だ。それもエジソンの蓄音機に始まる録音・再生技術の発展によるもの。ジェフ・ベックの妙技に慣れた者は私のギコギコ音なぞ騒音としか思わない。おのれエジソン。

 だが、お陰で私はいつでもエルトン・ジョンの「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード(→Youtube)」を楽しめる。二流三流のミュージシャンは淘汰され、一流ミュージシャンは大金を稼ぐ。「上位1%のアーティストのコンサート収入は、下位95%のアーティストの収入を合計した額の5倍を超える」という、たいへんな格差社会になってしまった。

 今や音楽は聴くものであって自ら演奏するものではない…と思ったが、「隠れた音楽家たち」によると、1980年代まではソレナリに生き残っていた様子。日本でも繁華街には楽器屋もあるし、暫くは大丈夫かな? ちなみにクラシック界にも大変動が起きてて、それについては、「音楽の進化史」が詳しいです。

 著者が気づいているかどうかは風明だが、実は似たような変化が19世紀に起きている。主役はチャールズ・ディケンズ、イギリスのベストセラー作家だ。当時のアメリカは新興国で、ディケンズ作品の違法コピーを新聞が堂々と載せていた。まるでちょっと前の日本のアニメと中国の関係だね。これに怒ったディケンズは、1842年にアメリカに渡り抗議するが、新聞に袋叩きにされてしまう。

 幸い晩年になって、ディケンズは大きな利息を手に入れる。25年後に再びアメリカを訪れたディケンズは、公開朗読会で大儲けするのだ。違法コピーによって彼の名は多くの人に知れ渡り、大人気になっていた、というオチ。

 これを今のポピュラー音楽で言うなら、無料配信で名を売りライブで稼げって形か。ちなみに既に20世紀に成功させた人たちもいて、その名をグレイトフル・デッドと言います。まあ知的財産にはご存知のような利害があって、私は「Free Culture」が唱える形が現実的かな、と思ってます。一定期間は全部を無料で保護するけど、それ越えたら延長料を払ったモノだけ保護するって形。

 ちょっと前に某銀行の情報システム改修が話題になった。これにピッタリ合致する例が、「16 発電機」に出てくる。19世紀末から20世紀初頭のアメリカの製造業で起きた、蒸気機関から電気駆動への置き換えだ。これが、意外にも手間取った。

 蒸気機関はデカく、気難しい。起動にも停止にも時間がかかる。だから工場全体で一個の大型蒸気機関を置き、その動力を工場全体にシャフトなどで配っていた。当時の工場は壮観だろうなあ。

 そんなんだから、当時の工場を設計する際は、蒸気機関を中心に考えていた。工場だけじゃない。人員配置も、製造工程も、蒸気機関が支配していた。いかに巧く蒸気機関を使いこなすかが、工場の経営のカギだったのだ。

 これが電気駆動だと全く違ってくる。蒸気ボイラーに比べたら電気モーターは豆粒だ。すぐ動くしシャフトで動力を伝える必要もない。電線をひいてもう一つモーターを足せばいい。蒸気機関は工場全体の動力を賄うが、電気モーターは必要なラインだけを動かせばいい。

 つまり、蒸気機関から電気への移行は、工場経営の概念そのものを変える必要があったのだ。これに時間がかかったのだ。

 これが某行とどう関係してるかというと、あそこ既存システムを単に合体させただけなんだよね。業務の基本概念は変えてない。だから無駄に手間が増えてる。これを本書では、コンピュータ導入による効果の大小で論じてる。曰く、コンピュータに合わせて経営を変えれば効果は大きいが、経営に合わせてコンピュータを組み込んでも成果はない、と。日本でホワイトカラーの生産性が上がらないのも、そういう事だろう。

 さて、その某行でかつて活躍していたのが、「29 コンパイラ」に出てくるCOBOL。もっとも主役を務めるのはその母グレース・ホッパーだけど。

 彼女の言葉が、FORTRAN の開発者ジョン・バッカスとソックリなのが笑える(→Wikipedia)。ちなみに PERL の開発者 Larry Wall 曰く、「プログラマの三大美徳は怠惰・短気・傲慢」。加えてCOBOLのライブラリが充実していく過程は、Linux のデバイス・ドライバが充実していく様子とソックリだったりw ったく、この半世紀でコンピュータは進歩してるのに、プログラマはほとんど進歩してないw

 などと、ハードウェア・ソフトウェア・概念などを取りまぜ、面白ネタを次から次へと紹介してくれるのが、本書の楽しいところ。もっとも、私のように妄想逞しい者が読むと、そっちに気を取られてなかなか頁がめくれないのが欠点かも。

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2019年5月 5日 (日)

マーク・ペンダーグラスト「コーヒーの歴史」河出書房新社 樋口幸子訳

…コーヒーは、世界の「合法的な」輸出品の中では、石油に次いで最も金銭的価値の高い。そしてコーヒーは、世界中で摂取されている精神に影響を及ぼす薬物の中でも、最も強い作用を持つものの一つだ。
  ――序章 霊薬か泥水か

チャールズ・ウィリアム・ポスト「とても味のよい純粋な食品を作ることは割に容易だが、それを売るのはまた話が別だ」
  ――第6章 麻薬のような飲み物

(大恐慌の際に)コーヒー相場がアメリカの株式市場より二週間早く大暴落したのは、決して偶然の一致ではない。コーヒーは国際通商ときわめて密接に結びついていたからである。
  ――第9章 イメージ戦略で売るジャズ時代

1929年に1ポンド22.5セントだったコーヒーの価格が、二年後には8セントまで下落した。
  ――第10章 焼かれる豆と飢える農民

(第二次世界大戦では)コーヒーを飲むことが軍の各部門の間で競争になったが、消費量では合衆国海兵隊が断然首位を占めていた。
  ――第12章 「カッパ・ジョー」 第二次世界大戦の時代

1988年に、コロンビアがコーヒーの輸出によって得た収入は17憶ドルだったが、不法なコカインの密輸で稼いだと推定される金額は、それよりちょっと少ない15憶ドルだった。
  ――第17章 高品質コーヒー革命

世界全体のコーヒー輸出量は、1980年代の終わり頃より年に平均8400万袋増加していたが、平均年収は107億ドルから66億ドルに、つまり一年間に40憶ドル以上も激減した。
  ――第17章 高品質コーヒー革命

…会社のパンフレットには、スターバックとは『白鯨』に登場する「コーヒー好きの一等航海士」だと明記した。実のところ、『白鯨』の中では誰もコーヒーを飲んでいないのだが。
  ――第18章 スターバックス体験

「高品質コーヒー焙煎業者の方々が、我々(コーヒー生産者)の作ったコーヒーを8ドルから10ドルで売っていると聞いて驚き、当惑しています。私たちは1ポンド1ドル少々しか受け取っていないのに」
  ――第19章 残りかす

…カフェインは天然の殺虫剤なのだ。
  ――第19章 残りかす

【どんな本?】

現在、世界のコーヒー生産量と消費量は、年間一億袋に達している。
  ――第19章 残りかす

私たちの暮らしにはコーヒーがあふれている。テレビでは毎日缶コーヒーの宣伝が流れ、街にはスターバックスが次々と店を出している。最近はコンビニの100円コーヒーが話題だ。

 なぜ、いつから、こんなにコーヒーが飲まれるようになったのか。どこでどのようにコーヒーは作られ、どうやって私たちの元に届くのか。育成・加工・流通には、どんな人たちがどのように携わっているのか。コーヒーの楽しみ方にお国柄はあるのか。そして、現代のコーヒー業界は、どのような道を辿ってきたのか。

 主に20世紀のアメリカのコーヒー業界を中心に、コーヒーとそれに関わる人々の歩みを綴る、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Uncommon Grounds : The History of Coffee and How It Transformed Our World, by Mark Pendergrast, 1999。日本語版は2002年12月30日初版発行。単行本で縦一段組み本文約510頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント46字×19行×510頁=約445,740字、400字詰め原稿用紙で約1115枚。文庫なら上下巻~上中下巻ぐらいの大容量。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。ただ、当然ながら、コーヒーが好きな人向けだ。

【構成は?】

 ほぼ時系列に沿って進むので、できれば頭から読んだ方がいい。

  • はじめに 「オリフラマ」農園のコーヒー摘み
  • 序章 霊薬か泥水か
  • 第1部
  • 第1章 世界に広まるコーヒー
  • 第2章 コーヒー王国
  • 第3章 アメリカの国民飲料
  • 第4章 金ピカ時代のコーヒー大戦争
  • 第5章 ジールケンとブラジルの価格政策
  • 第6章 麻薬のような飲み物
  • 第2部
  • 第7章 成長に伴う痛み
  • 第8章 世界中のコーヒーの安全を守るために
  • 第9章 イメージ戦略で売るジャズ時代
  • 第10章 焼かれる豆と飢える農民
  • 第11章 大恐慌時代のショーボート作戦
  • 第12章 「カッパ・ジョー」 第二次世界大戦の時代
  • 第3部
  • 第13章 コーヒー攻撃とインスタントの不満足感
  • 第14章 勝ち誇るロブスタ豆
  • 第4部
  • 第15章 熱狂的な愛好家集団
  • 第16章 黒い霜
  • 第17章 高品質コーヒー革命
  • 第18章 スターバックス体験
  • 第19章 残りかす
  • 謝辞/訳者あとがき/参考文献/索引

【感想は?】

 書名の「コーヒーの歴史」は、間違いじゃないにせよ、正確じゃない。実際には、「アメリカのコーヒー・ビジネスの歴史」だろう。

 コーヒーそのものの歴史は、「コーヒーの真実」の方が詳しいし、視点も世界全体を見ている。対して本書は、アメリカ合衆国に焦点を合わせた感が強い。フィリップ・モリスやP&Gやスターバックスなどが、どのように生まれ育ち市場を奪い合い身売りや合併を経て現在に至ったか、そんなUSAを舞台としたビジネスの話が半分以上を占める。

 スイスのネスレやスターバックスが売り物にしているカプチーノなど、ヨーロッパも少し出てくる。が、あくまでも、背景としてだ。というのも、コーヒーは国際的な商品であり、世界のコーヒー市場の変化は、アメリカの市場にも影響するからだ。アラブに至っては歴史で少し触れるだけで、現代のアラブはほとんど出てこなかった。

 アメリカもヨーロッパも、コーヒーの消費地であって産地じゃない。産地は北回帰線と南回帰線の間、熱帯地域の高地が向く。というのも気温が大事なのだ。最低気温は0℃より高く、最高気温は27℃より低く、平均は21℃ぐらいでなきゃいけない。しかも、アラビカの高級な種は、直射日光に当たらず、背の高い日除け樹の影で育てなきゃいけない。かなりデリケートなのだ。

 そんなわけで、産地はかなり限られる。もともとコーヒーはエチオピアが原産なんだが、本書では中南米の話題が多い。特に存在感が大きいのはブラジルだ。こういう風に、中南米の農産物をUSAが買うって関係は、砂糖(→「砂糖の歴史」)やバナナ(→「バナナの世界史」)と似ている。そして、そこで繰り広げられるドラマも、似たような感じだ。

このたった一つの物資を注意深く観察すれば、それを通して中央アメリカ諸国の構造が見えてくるのである。
  ――第2章 コーヒー王国

 どんな構造か。産地の中南米では、大資本が土地を買い占め、または原住民から強引に土地を奪う。土地を奪われた原住民は安くコキ使われ、または奴隷として使いつぶされる、そういう構図だ。不満を募らせた労働者が逆らおうものなら…

1933年に(グアテマラ大統領のホルヘ・)ウビコ(・カスタニェダ)は、労働組合や学生運動、政治運動などの指導者百人を射殺させ、次いでコーヒーとバナナ農園の所有者は雇い人を殺しても処罰を受けなくてよいという布告を出した。
  ――第10章 焼かれる豆と飢える農民

 もう無茶苦茶だ。ちなみにこのウビコ、機を見る目はあったようで、「真珠湾攻撃の後、ドイツ人農園主たちとあっさり手を切った」。それぐらい真珠湾攻撃は愚行だったのね。まあいい。戦時中は煩い奴らにファシストのレッテルを貼り、戦争が終わり冷戦に突入するとレッテルを共産主義に貼りかえる。USAも赤の脅威と聞けば黙っちゃいない。CIAも政府に協力し…

 こういうパターンはベトナムでも同じなんだよなあ。社会構造・経済構造に根本的な原因があるのに、そこに気づかず手っ取り早くケリがつく(ように思える)軍事力で解決しようとして、後々まで大きな禍根を残す。いつになったらアメリカは学ぶんだろう。

 などの物騒な情勢をヨソに、USAでは幾つもの業者が生まれては消え、激しい競争を繰り広げる。最初はセールスマンが家庭を訪ね歩き、雑誌や新聞や看板で盛んに広告し、ラジオが出回ればスポンサーとして番組を提供し、スーパーマーケットが流行れば棚を奪い合う。当時の広告を多く紹介しているのも本書の特徴で、今なら炎上必至のキャッチコピーがズラリと並んでいたり。

 このあたりは、さすがに時代の変化を感じるところ。

 とまれ、流行り物を嫌う人も世の中には一定数いる。この本ではチャールズ・ウィリアム・ポストがコーヒーの敵役として登場し、優れたビジネスの手腕を見せてくれる。「私は治った!」なんて本を出してコーヒーを攻撃し、自社のコーヒー代用製品ポスタムに切り替えれば「普通の病気ならなんでも治せるのです」と売り込むのだ。

 21世紀の今でも似たような手口はよく使われるが、ポストが活躍したのは19世紀末。ここでは、逆に人の変わらなさを痛感したり。

 終盤では吸収合併による寡占化と、そのスキを突いて台頭するスターバックスに象徴される高品質コーヒーを描き、いまなお戦国時代が続いていることが伝わってくる。スターバックスの面倒くさい注文方法がどう決まったのかは、なかなか笑えるところ。世の中、往々にしてそんなもんです。

 全般的にはUSA内でのビジネスの話が中心ながら、私は原産地である中南米とUSAの関係が面白かった。なんとなく、最近の日本も似た構図に組み込まれつつある、なんて感じるのは私だけだろうか。

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2019年4月22日 (月)

デヴィッド・ハジュー「有害コミック撲滅! アメリカを変えた50年代『悪書』狩り」岩波書店 小野耕世・中山ゆかり訳

ジャニス・ヴァロー・ウィンクルマン(ジャニス・ヴァロー)「私はそこには戻れなかったのです――死ぬほど怖かったんですよ。あの人たちが私になにをしたか、あなたは知らないんですか?」
  ――プロローグ

…スーパーマンは大恐慌を生きのびた者たちに直接話しかける。彼自身も他の星からの移民なのだ。
  ――第1章 社会なんかくそくらえ アメリカン・コミックス誕生

ジュールズ・ファイファー「その当時、俺たちのものだとほんとうに思えるものは、ほかになかった」
  ――第2章 金かせぎだったのさ コミックスのゴールド・ラッシュ時代

「見たかね? 絵によって何が可能かわかったかね?」
  ――第4章 若者が危ない カトリック教会の禁書リスト

「彼らがぼくらを利用しようとしているのだと思ったし、それが正しいことだとは思えなかった。そのことが、ぼくを相当に怒らせた。そしてそれ以後は、先生たちのことを以前とは同じように考えることは二度となくなってしまった」
  ――第7章 ウーファーとツイーター 大騒ぎは続く

「…子どもたちは、われわれがしようとしていたことをほんとうに気に入ってくれていた。それはこちらが彼らを子ども扱いしなかったからだと思う。というか、われわれ自身が実際には子どもだったんだな。まあ、だからこそわれわれは、子どもたちを見下したりしなかったわけだけど」
  ――第8章 ラブだ……ラブだ……ラブなんだ!! 花咲くロマンス・コミックス

「なぜなら、これは親たちの問題であって、子どもたちの問題ではないと思っていたからだ」
  ――第10章 頸静脈のなかのユーモア ゲインズとカーツマン、「マッド」創刊

ビル・ゲインズ「彼らは自分たち向けのコミックスが嫌いなのではない!」「君たち向けのコミックスが嫌いなのだ!」
  ――第13章 われわれは何を恐れているのか? 公聴会が開かれる

ビル・ゲインズ「私は今、そのホラーと犯罪もののコミックスのすべてを廃刊にする決心をしました。この決断は即時に実行されます」
  ――第14章 もう、うんざりなんだ! ゲインズは反撃したが……

…親たち(略)は、そのための解決策を必死に求め、そしてコミックブックがそのお格好のターゲットとなった。……なぜならコミックブックには、信頼に足る擁護者がいなかったからだ。
  ――第14章 もう、うんざりなんだ! ゲインズは反撃したが……

コミックスの題名に使われる言葉に関するフィッツパトリック法の規制が、もし他の書籍にも適用されることがあれば、ドフトエフスキーの『罪と罰』やソモーヌ・ド・ボーヴォワールの「第二の性』も禁止されたことだろう。
  ――第15章 マーフィーの法則 コミックス・コードという自主検閲

チャールズ・F・マーフィー「だめだ。黒人を描くことはできない」
  ――第16章 受難は続く ゲインズが選んだ道

【どんな本?】

 スーパーマン,バットマン、キャプテン・アメリカ、スパイダーマン…。アメリカン・コミックスと聞けば、多くの人がヒーロー物を思い浮かべるだろう。そのアメリカン・コミックスは、19世紀末に新聞の日曜版のコミックに始まり、1950年代前半までは隆盛を誇る。だがコミックスの流行と共に反発も強まり、1954年の「コミックス・コード」制定に伴ない市場は崩壊、長い雌伏を強いられる。

 アメリカのコミックスはいかに始まったのか。それはどんな者たちがどのように作り、どんなところで売られ、誰が買って読んだのか。コミックスが描いたのはどんな内容で、何を売り物にし、売れ筋はどう移り変わったのか。そして「コミックス・コード」はどんな経緯で制定され、どんな規制がどんな形で行われたのか。

 コミック・コード制定と共に派手に飛び散ったEC社(→Wikipedia)を中心に、アメリカン・コミックの勃興と繁栄そして突然の没落を描く、20世紀のコミック黙示録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は THE TEN-CENT PLAGUE : The Great Comic-Book Scare and How It Changed America, by David Hajdu, 2008。日本語版は2012年5月24日第1刷発行。単行本ハードカバー縦二段組みで本文約409頁に加え、小野耕世の訳者あとがき「アメリカのコミックブックとともに育って」12頁。9ポイント24字×21行×2段×409頁=約412,272字、400字詰め原稿用紙で約1,031枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。ただ、登場人物がやたらと多いので、できれば人名索引が欲しかった。当然ながら、アメリカン・コミックスに詳しい人ほど楽しめる。SF者の私はハリイ・ハリスンが顔を出したのが嬉しかった。

【構成は?】

 ほぼ時系列に話が進むので、できれば素直に頭から読んだ方がいい。

  • プロローグ
  • 第1章 社会なんかくそくらえ
    アメリカン・コミックス誕生
  • 第2章 金かせぎだったのさ
    コミックスのゴールド・ラッシュ時代
  • 第3章 犯罪はひきあう
    犯罪コミックス大躍進
  • 第4章 若者が危ない
    カトリック教会の禁書リスト
  • 第5章 血だまり
    コミックス弾劾の声
  • 第6章 では、ぼくらがなすべきことをしよう
    有害コミックスを燃やせ!

 

  • 第7章 ウーファーとツイーター
    大騒ぎは続く
  • 第8章 ラブだ……ラブだ……ラブなんだ!!
    花咲くロマンス・コミックス
  • 第9章 ニュートレンド
    ホラー・コミックスの大ブーム
  • 第10章 頸静脈のなかのユーモア
    ゲインズとカーツマン、「マッド」創刊
  • 第11章 パニック
    「マッド」の姉妹誌「パニック」
  • 第12章 ペイン博士の勝利
    ワーサムの新著「無垢なる者たちへの誘惑」

 

  • 第13章 われわれは何を恐れているのか?
    公聴会が開かれる
  • 第14章 もう、うんざりなんだ!
    ゲインズは反撃したが……
  • 第15章 マーフィーの法則
    コミックス・コードという自主検閲
  • 第16章 受難は続く
    ゲインズが選んだ道
  • エピローグ
  • 訳者あとがき アメリカのコミックブックとともに育って 小野耕世
  • 付録/原書註

【感想は?】

いかにも悪書狩りに焦点を当てたような書名だが、通して読むとだいぶ印象は違う。

 先に書いたように、アメリカン・コミックスの誕生から勃興と隆盛、そして1954年の崩壊に至るまでの歴史とする方が相応しいだろう。もちろん、崩壊の原因は悪書狩りだ。だから、コミックスを敵視する運動についても、その始まりから1954年の勝利まで、詳しく書いてある。

 そういう点では、コミックス平家物語といった趣もあったり。

 表紙でもだいたい想像がつくんだが、当時のアメリカン・コミックスは、私たちに馴染みのある日本の漫画とは、大きく違う。全頁がカラーで、頁数は16頁~32頁。一つのストーリーは8頁ぐらい。だから、2~4個ぐらいの別々のお話が入ってる。売り場も書店じゃない。ニューススタンドやドラッグストアだ。それが「1952年には、アメリカ合衆国では約五百タイトル」もあった。

 日本の漫画雑誌は、一つの雑誌に様々な傾向の作品が載っている。スポーツ物、ラブコメ、群像劇、冒険ファンタジイ、ギャグ、ホラー、ミステリ。でも、当時のアメリカン・コミックスは、傾向ごとに分かれていた。犯罪物、恋愛物、ホラー、ヒーロー物、戦争物など。「ONE PIECE」と「ぼくたちは勉強ができない」は、別のタイトルとして出るのだ。

 出版体制も全く違う。週刊少年ジャンプは「小説すばる」と同じ集英社が出している。が、当時のEC社はコミックス専門だ。日本じゃ漫画家は出版社と独立している。だがEC社は、社内に制作チームを抱えている。そうそう、日本の漫画家は一人で書く人もいるけど、アメリカン・コミックスは早いうちからスタジオ形式でチーム制作だ。それも、かなり細かく工程が分かれている。

 キャラクター・デザイン、ストーリー展開、レイアウト&下書き、主人公を描く人、脇役を描く人、背景を描く人、色を塗る人、文字を描く人。それぞれ別々の人が担当する。日本でも売れっ子の漫画家はキッチリと会社形式にしてるだろうけど、アメリカはかなり初期から分業体制だった。たぶん、これは、手のかかるカラーばっかりってのも原因なんだろう。

 しかも、EC社だと、社内で制作スタジオを持ってたりする。そのためか、ボスのビル・ゲインズの影響力がやたら強い。また、地理的にも、大半のコミックスの制作陣はニューヨークに集中してるのも特徴だろう。これが検閲に対する大きな弱点になる。というのも、ニューヨークで規制が強まれば、アメリカのコミックスが全滅してしまうからだ。

 1930年代から興隆に向かうコミックスだが、ハッキリ言って業界はどうにも節操がない。スーパーマンは流行れば続々と他のスーパーヒーロー物が後を追い、犯罪物が売れれば柳の下のドジョウが百近くも現れ、それが世間の顰蹙を買えば恋愛物に乗り換え、次にはドオギツさが売り物のホラーへと誰もがなびく。

 中でも酷いのが、「ザ・スピリット」。これががヒットすると、同じ制作陣にまるきしパクリの「ミッドナイト」を作らせるのだ。「ザ・スピリット」の作者ウィル・アイズナーに何かあった時の保険って理由だが、著作権にうるさい現在のアメリカからは考えられない話だ。

 新しいモノが流行れば、それに反発する者たちもいる。コミックスも例外じゃない。まして犯罪だのドギツいホラーだのを、派手なカラーで描けば、反射的におぞましく感じる人も出てくる。1940年に児童文学者ノスターリング・ノースが始めたコミックス批判は、第二次世界大戦後にカトリック教会が受け継ぎ、精神科医のフレデリック・ワーサムの著書「無垢なる者たちへの誘惑」として結実する。

 この動きに対しては、根拠の薄さや論理の破綻を本書内でもさんざんに指摘しているが、同時に冷静に話し合える雰囲気じゃなかったのも伝わってくる。まあ、現代日本でコミック規制を叫ぶ人たちも、話が通じないって点じゃ同じだけど。

 中でも泣いていいのか笑うべきなのかわかんないのが、12歳で首を吊って自殺したウィリアム・ベッカーの母親。息子は絶えずコミックブックを読んでいた、「私はコミックブックを見つけ次第、一冊残らず埋めていました」。いや子供だって自分の好きな物を否応なしに奪われたら絶望するだろ、と思うんだが、母親はそうは考えない。

 息子はコミックブックの真似をしたんだ、と言い張るし、陪審も「事故死と認定したが、コミックブックに責任があると認めた」。いったん悪役を割り振られたら、そのレッテルをはがすのは難しい。

 こういう人たちの考え方を最もよく表していると私が思うのは、コミックス・コードの一般規定パートAの第五条だ。

警察官、裁判官、政府官僚や尊敬されるべき機関が、これら既存の権威者たちに対する軽蔑を生み出すような手法で表されてはならない。

 権威には逆らうな、というわけだ。これを他ならぬアメリカ人が望むってのが腹立たしい。

 OK、じゃアメリカもイギリス国王ジョージ3世に逆らうべきじゃなかったよな。ルターは教会に歯向かうべきじゃなかったし、ジーザスはローマに頭を下げるべきだった。フランスはマキなんか組織してナチスと戦っちゃいけなかったし、1944年のワルシャワ蜂起もけしからんってわけだ。違うか? こういうのを望む人ってのは、ジョナサン・ハイトが言う「権威/転覆」に敏感な人たちなんだろう。

 すまん、興奮して本書の内容から外れてしまった。

 終盤ではコミック・コードが敷かれた後の悲惨な状況を描いてゆく。これはまさしく理不尽な検閲で、「審判の日」(→Wikipedia)をめぐるやり取りは狂気すら感じてしまう。

 アメリカン・コミックスの黎明期から勃興、そして規制による壊滅まで、膨大な資料と取材によって裏を取り、誠実に描いた歴史書と言っていい。単に世間の流れを追うだけでなく、コミック業界の内側にまで入り込み、その営業形態や制作体制に至るまで細かく書いているのも嬉しい。表現規制に興味があるなら、一度は読んでおこう。

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2019年3月28日 (木)

鈴木静夫「物語 フィリピンの歴史 『盗まれた楽園』と抵抗の500年」中公新書

…フィリピンの歴史を、ラス・カサス的な曇りのない目で捉えなおしてみることにしよう。植民地主義者や帝国主義者の観点からではなく、何より原住民の立場で、彼らの追い込まれた境遇や息遣いに迫ることである。
  ――はじめに

…1898年6月12日、アギナルドによってフィリピンの独立が宣言された。
  ――7章 アメリカのフィリピン占領

ダグラス(・マッカーサー)は独立までに1万1千人の正規軍と、40万人の予備軍を作る計画を立案した。仮想敵国は当然日本であり、もし戦争となれば、最終的にはゲリラ戦をも想定した。
  ――8章 「友愛的同化」の虚と実

フク団との対立のさなか、フィリピンは1946年7月4日、アメリカ合衆国から独立した。
  ――12章 戦後の反政府活動

フィリピンの地主階級や金持ちは、多くの場合私兵を持つか、外部からの侵略に備えてガードマンを置くのが常である。
  ――13章 ニノイ・アキノとフィリピン政治

86年にエッドサで打倒されるまでに、マルコスは実に360憶ドルの対外債務をつくりだし、国家財政を麻痺させた。
  ――14章 マルコス政治と“ピープル・パワー”(人民の力)革命

農地改革は、戒厳令で非常大権を握ったマルコス大統領ですら、ほとんど実効をあげることができなかった。
  ――14章 マルコス政治と“ピープル・パワー”(人民の力)革命

【どんな本?】

 最近はドゥテルテ大統領の大胆かつユニークな政策が話題を呼んでいるフィリピン。巧みに英語を操る人が多いと同時に、南欧風の人名や地名も目立ち、カトリックが支配的ながらムスリムもいる。第二次世界大戦では激烈な戦場となり、戦後は独立したものの経済的な発展ではやや遅れをとっている。

 そんなフィリピンは、どのような歴史を辿ったのか。スペインと、その後のアメリカの支配はどのようなもので、いかにしてそこから独立を勝ち取ったのか。そして独立後の歩みはいかなるものか。

 文献だけに留まらず、現地フィリピンや旧宗主国であるアメリカにも足を運んで取材し、政府要人から反政府運動の活動家や宗教指導者などの声も集めて書き上げた、一般向けのフィリピンの歴史解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 1997年6月25日発行。新書版で縦一段組み、本文約300頁。9ポイント43字×17行×300頁=約219,300字、400字詰め原稿用紙で約549枚。文庫本でも普通の厚さの一冊分。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。特に「そのころ日本は」的な記述が入っているのが有り難い。ただ、耳慣れない略語や人名がよく出てくるので、できれば索引か用語集が欲しかった。

【構成は?】

 ほぼ時系列で進むので、素直に頭から読もう。

  • はじめに
  • 1章 フィリピンの歴史を遡上する
  • 1 自由な天地で
    「ラグナ銅板碑文」の世界/中国人との海上交易
  • 2 アジア世界を求めて
    大航海時代の幕開け/マゼラン船団の出発/西と東 最初の出会い/マゼラン、ラブラブとの戦闘で敗北
  • コラム フィリピン人の名前と国名/世界一周、一番乗りの男エンリケ・デ・マラッカ

 

  • 2章 盗まれた楽園
  • 1 スペイン政府派遣の遠征隊
    レガスピ遠征隊、セブにとりつく/セブ―パナイ―マニラ
  • 2 エンコミエンダ制の整備
    植民地の拠点・マニラ
  • 3 もう一つの「海のシルクロード」
    フィリピン経済を破壊したガレオン貿易
  • コラム スペインを悩ませた倭寇と秀吉

 

  • 3章 カトリック宣教と原住民
  • 1 「改宗は簡単。押し付ければ信じる」
  • 2 修道会のフィリピン支配
  • 3 原住民の三重苦 貢税・奴隷化・強制労働
  • コラム モロ戦争の歴史1

 

  • 4章 全民族の抵抗運動へ
  • 1 原住民キリスト教徒の抗議 ダゴホイ事件 1744-1829
  • 2 対英協力で反スペイン闘争 ディエゴ・シランの反乱
  • 3 祈りによる抗議 アポリナリオ・デ・ラ・クルスの兄弟会
  • 4 巡回権問題と人種対立
  • 5 在俗司教のフィリピン化
  • 6 抵抗のもう一つの起爆剤 ゴンブルサ事件
    イスキエルドの着任
  • コラム モロ戦争の歴史2

 

  • 5章 中国系メスティーソの勃興と抵抗
  • 1 パリアン(生糸市場)から全国の流通を支配
  • 2 初期プロパガンダ運動と「フィリピン人意識」
  • 3 プロパガンダ運動の発展
  • 4 フリーメーソンからの支援

 

  • 6章 フィリピン革命
  • 1 三人の戦士 リサール、ボニファシオ、アギナルド
    「第三の社会」示したリサール/ボニファシオの歴史的直観の冴え
  • 2 「カティプナン」ついに蜂起
  • 3 リサール処刑される
  • 4 ボニファシオの処刑
  • 5 ビアクナバト 和平か売国か

 

  • 7章 アメリカのフィリピン占領
  • 1 太平洋に進出した米帝国主義
    太平洋の誘い/アメリカの“国盗り計画”/マニラ解放と米軍の背信
  • 2 束の間のフィリピン独立
    マロロス議会/フィリピン戦争の勃発
  • コラム フィリピン独立教会創設

 

  • 8章 「友愛的同化」の虚と実
  • 1 マッキンリー米大統領の政策表明
  • 2 タフトのフィリピン操縦術
  • 3 米国への併合願った連邦党
  • 4 宥和政策と「合法的独立運動」
  • 5 フィリピン戦争は収束せず
  • 6 独立法案とケソンの独裁
  • 7 フィリピン社会の変質
  • コラム モロ戦争の歴史3

 

  • 9章 1930年代の民族主義の軌跡
  • 1 農民意識の変化と社会主義運動
  • 2 サクダル蜂起
    ケソンの訪日
  • 3 第7回コミンテルン大会とフィリピン共産党
  • 4 反共から溶共へ 反ファシズム統一戦線の取り込み
  • コラム ダバオ開発の光と影

 

  • 10章 日本軍のフィリピン占領とエリートの“対日協力”
  • 1 日本の南方作戦 フィリピン戦
    日本軍のマニラ進軍/バタアン半島「死の行進」
  • 2 エリートの選んだ“民族主義的”対日協力
    バルガスを「大マニラ市」市長に任命/反米的な愛国者アキノ/ラウレル大統領の姿勢/レクト外相の愛国主義
  • コラム 日本軍の“傭兵”ガナップ、マカピリ隊

 

  • 11章 抗日人民軍(フク団)と米比軍ゲリラ
  • 1 共産党は抗日軍編成を迫られる
  • 2 フク団が発足
  • 3 村落統一防衛隊が誕生
  • 4 全土に産まれる各種のゲリラ組織
  • 5 マッカーサーは「待機せよ!」と指令

 

  • 12章 戦後の反政府活動
  • 1 米軍がフク団に向ける「むきだしの敵意」
  • 2 ロハスはフク団に接近
  • 3 アメリカ合衆国から独立 第三共和政成立
    タルクの「凱旋」
  • 4 キリノ政権でマグサイサイは辣腕を発揮
    天才記者ニノイとマグサイサイ大統領

 

  • 13章 ニノイ・アキノとフィリピン政治
  • 1 タルクの処遇をめぐり大統領と対立
  • 2 政治に手を染める 町長から大統領補佐官まで
  • 3 政治人間から農場経営者に、そして副知事に
  • 4 知事昇格と「タルラクの包囲」
  • 5 マルコス大統領の登場
  • 6 上院に議席を占め、マルコスを攻撃
  • 7 「独裁者、アメリカの走狗マルコス」

 

  • 14章 マルコス政治と“ピープル・パワー”(人民の力)革命
  • 1 ホセ・マリア・シソン 新しい民衆運動の興隆と背景
  • 2 マルコスの農地改革 全土を改革対象地域に指定
  • 3 ニノイ・アキノの暗殺 「フィリピン人のためなら死ぬ価値がある」
  • 4 国民が無視しはじめたマルコスの存在と戒厳令
  • 5 コラソン・アキノの大統領就任
  • 6 包括的農地改革法と農民の怒り、失望
    チノ・ローセスの叱正
  • 7 アキノ大統領が痛感する「国語問題」
  • おわりに
  • フィリピンの歴史・略年表/参考文献

【感想は?】

 人物を中心とした物語風の歴史はわかりやすい。その反面、著者の歴史観が強く出るので、「洗脳」されやすい。

 その点、この本は、最初の「はじめに」で、著者の姿勢を明らかにしているのが有り難い。この記事の冒頭に引用したように、もともとフィリピンに住んでいた人たちの立場で歴史を見る、そういう歴史観だ。

 よってスペイン人は侵略者として描かれ、次に来たアメリカも抑圧者となる。スペインやアメリカに対し、いかに抗って独立を手に入れたか、そんな流れとなる。

 ただ、フィリピンにも様々な人がいるんだが、記述の大半はマニアがあるルソン島に割かれ、南部のミンダナオ島の話が少ないのは寂しい。とはいえ、それぞれの地方まで書いてたら五冊ぐらいになっちゃうだろうから、仕方がないか。

 そういう姿勢ではあるんだが、スペイン襲来以前の歴史資料が乏しいのは辛い。高温多湿な気候が災いして、文書が残っていないのだ。1990年にルソン島で見つかったラグナ銅板碑文によると、十世紀には法に支配され活発な経済を営む社会があったらしい。

 また982年の宋の史書「文献通考」にも「モ・イ国の商人たちが商品を持って広東沿岸を訪れた」とあり、1225年の「諸蕃志」にも、役人が貿易船の荷を調べる様子が出てくる。

 日本も世界史に登場するのは魏志倭人伝だし、変な所で中国の存在感を感じてしまった。中国視点で世界史を書いたら、私が知っているのとは全く違う歴史になるだろうなあ。

 本格的に世界史に登場するのは、16世紀のマゼラン到来から。この時、住民の多くはムスリムだったのが、結構アッサリとキリスト教に改宗している。当時のイスラム教はユルかったんだなあ。つかキリスト教徒より前にイスラム教がフィリピンに来てるじゃん。アラビア語文献の発掘が進めば、フィリピン史はまた違ってくるかも。

 そのキリスト教の布教は侵略の尖兵だったと、よく言われる。その実態を細かく描いているのも、この本の嬉しいところ。悪名高いエンコミエンダ制(→Wikipedia)やガレオン船貿易で、商人ばかりか修道会も土地を食い荒らし荒稼ぎする。

 「コラム スペインを悩ませた倭寇と秀吉」にあるように、当時は日本人もフィリピンにいて、秀吉はなんと
フィリピン侵攻をほのめかす手紙を送っている。宣教師が侵略の尖兵だと、なぜ当時の日本の権力者たちが気づいたか。フィリピン情勢がヒントになったのかも。

 もちろん、フィリピンだって黙って支配に甘んじていたワケじゃなく…

(スペインへの)反乱は(16世紀から)19世紀末に向かって、一層激しさを増し、サイデによると「100回以上」、アゴンシリョによると「四、五年に一度の割」で起きている。
  ――4章 全民族の抵抗運動へ

 と、盛んに反乱を起こしている。情勢が大きく変わったのは米西戦争(→Wikipedia)で、以降もなんとかスキを見ては独立を勝ち取ろうと様々な組織が国内で動き始める。

 独立後の話では、なんといってもフェルディナンド・マルコス大統領の存在感が大きい。

 強引な独裁者として悪評高いが、リンドン・ジョンソンと交渉しベトナム派兵の見返りに3800万ドルをせしめる手腕はたいしたもの。もっとも、派兵したのは医療関係者で、貰った金は自分でガメちゃったんだけど。せめて国民のためにカネを使っていればなあ。

 そんなマルコスのライバル、ニノイ・アキノ(→Wikipedia)は、高潔な人格と卓越した能力を持ちながらも非業の死を遂げた英雄として描いている。ちょっと出来すぎな気もするが、これが現代フィリピン人の共通認識なんだろう。

 出版が1997年だけに、コラソン・アキノの苦闘で終わっている。彼女の苦労は土地改革に加え、ケッタイな教育体系にも表れている。国語・社会・図工・体育はフィリピン語、英語・算数・理科は英語で教えているため、理数系は脱落者が多いとか。そりゃそうだよなあ。

 カトリックが盛んで地主が私兵を雇うなど治安が悪く貧富の差が激しいあたりは、ブラジルやアルゼンチンなど南米の元南欧植民地とも似ているが、中国系商人やイスラムの影響もあるのは、やはり東南アジアならでは。著者の戦旗鮮やかな姿勢も相まって、物語としても楽しめる本だった。

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2019年3月15日 (金)

スティーブン・ジョンソン「世界を変えた6つの『気晴らし』の物語 新・人類進化史」朝日新聞出版 太田直子訳

本書の歴史は、あまり実用性のない楽しみの話である。楽しそうだとか、びっくりするようなものだという事実のほかに、明らかな理由もなく生まれた習慣や環境の話なのだ(略)。
  ――序章 マーリンの踊り子

彼らを(地中海から)外洋へとおびきだした最初の誘惑は、単純な色だったのだ。
  ――第1章 下着に魅せられた女たち ファッションとショッピング

紀元前2000年、世界中の人間社会のほとんどは、まだ言語のための表記方法を発明していなかった。ところがどういうわけか、古代シュメール人はすでに楽譜をつくっていたのだ。
  ――第2章 ひとりでに鳴る楽器 音楽

紀元900年ごろのイスラムによる香辛料貿易の地図は、今日の世界中のイスラム教徒人口を示す地図に、ほぼぴったり合致する。
  ――第3章 コショウ難破船 味

熱帯地方におもしろい香辛料があるのは、基本的に熱帯地方にはあらゆるものがたくさんあるからだ。
  ――第3章 コショウ難破船 味

リチャード・アルティック「好奇心はつねに万民を平等にする」
  ――第4章 幽霊メーカー イリュージョン

私たちはゲームを、統治形態や法律、あるいは純文学小説ほどは深刻に受け止めないかもしれないが、どういうわけか、ゲームには国境を越えるすばらしい能力がある。
  ――第5章 地主ゲーム ゲーム

…メソアメリカの人々は、グッドイヤーが実験を始める数千年前に、加硫の手法を開発していたのだ。
  ――第5章 地主ゲーム ゲーム

私たちの脳は、世のなかの何かに驚かされると、注意を払うようにつくられているのだ。
  ――終章 驚きを探す本能

【どんな本?】

 現代社会は、幾つものテクノロジーに支えられている。歯車やピストンなどの機械工学、貿易を支える船と航海術、自動車のタイヤのゴム、そしてコンピューター。いずれも私たちの暮らしを便利にし、面倒な手間や苦労を省いてくれる。

 それらは役に立つ。だが、ルーツをたどると、最初は全く違った目的のために作られた技術や、考え出されたしくみ・制度も多い。役立たせるためではなく、人を驚かせ、または楽しませる、要は「面白さ」のために生み出されたものだ。

 ファッション・音楽・香辛料・幻影・ゲーム・娯楽施設など、いわゆる「気晴らし」のために生まれ発達したモノや考え方が、私たちの世界をどう変えたかを綴り、「遊び」の効用を再評価する、一般向けのちょっと変わった歴史のウンチク本。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は WONDERLAND : How Play Made the Modern World, by Steven Johnson, 2016。日本語版は2017年11月30日第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約371頁、9.5ポイント43字×17行×371字=約271,201字、400字詰め原稿用紙で約679枚。文庫本なら少し厚い一冊ぐらいの文字量。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。世界史や技術史に詳しいと更に楽しめるが、疎くても「そうだったのか!」な驚きをたくさん味わえる。特に、この本が扱う6つのテーマのいずれかに興味があれば、更に楽しめる。ただし、受験用の歴史学習にはほとんど役に立たないと思う。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、興味のある所から読んでもいいだろう。私は第2章の音楽と第4章の映画、そして第5章のゲームが特に楽しかった。

  • 序章 マーリンの踊り子
  • 最古のテクノロジー
  • 機械時計から生まれた初期ロボット
  • 屋根裏の美しい踊り子
  • 「気晴らし」の種はヨーロッパ以外で育つ
  • 「気晴らし」を探れば未来が見える
  • 第1章 下着に魅せられた女たち ファッションとショッピング
  • ティリアン・パープルへの欲求
  • 買い物が手段で無くなった日
  • 店舗ディスプレイと産業革命
  • 羊と羊の闘い
  • 木綿ビッグバン
  • 木綿が引き起こした史上最悪の出来事
  • ファッションは社会に挑む
  • 商業の大聖堂
  • 「百貨店病」の流行
  • 「売るための機械」が落とした影
  • ウォルト・ディズニーのイマジニアリング
  • モールか、モールなしか?
  • 第2章 ひとりでに鳴る楽器 音楽
  • 旧石器時代の音楽
  • 音楽は異質な音から生まれた
  • プログラムできる音楽
  • 音楽が模様をつくる
  • メディチ家の結婚式
  • 鍵盤からタイプライターへ
  • 音楽なくしてテクノロジーなし
  • 「バレエ・メカニック」のとっぴな「オーケストラ」
  • 自動演奏ピアノの軍事利用
  • 世界最古の電子楽器
  • 図形を音に変換する装置
  • 音楽はコンピューターの母だった
  • 第3章 コショウ難破船 味
  • 味覚のグローバル化
  • 世界を変えた香辛料
  • 世界最強の通貨
  • 盗賊になった宣教師
  • 銀と等価だったバニラビーンズ
  • 革命を起こした12歳の少年
  • 中世貴族に使えた香辛料師
  • ヨーロッパ人の誤解
  • エリザベス一世が伝えた神意
  • 香辛料のメッセージは「火事だ!」
  • 第4章 幽霊メーカー イリュージョン
  • ホラー映画を生んだ霊媒師
  • 幽霊ショーとマルクス
  • 階級の垣根を越えた、だまされる喜び
  • 視覚はだまされる
  • 360度の眺望を描く
  • パノラマが生んだ疑似体験
  • イリュージョンを駆逐した映画
  • 映画を芸術に持ち上げた欠点
  • ディズニーの『白雪姫』
  • 「1秒12フレーム」から疑似友人へ
  • 第5章 地主ゲーム ゲーム
  • 修道士が著した風変わりな本
  • チェス盤上に示された社会の有様
  • チェスと人工知能
  • 知られざるモノポリーの祖先
  • 神話化される偽のゲーム発明者
  • 社会を変えた「運」のゲーム
  • 運を確率論で説明した男
  • サイコロのデザインと統計学
  • コロンブスが出会ったゴムボール
  • ゴムのイノベーション
  • コンピューターゲームの誕生
  • 「スペースウォー!」とジョブスのつながり
  • カジノで使われた初めてのウェラブル
  • 人間にもっとも近い「ワトソン」の未来
  • 第6章 レジャーランド パブリックスペース
  • 人種の境界なき酒場の悲劇
  • 民主主義はバーで生まれた
  • もし歴史から飲み屋が消えたなら
  • LGBTにとってのバーという場所
  • 居酒屋のハチドリ効果
  • 人間とコーヒーの物語
  • トルコ人の頭
  • コーヒーハウスの使われ方
  • 奇妙なコレクションのあるコーヒーハウス
  • 詩人も地主も起業家も科学者も
  • 自然を楽しむというイノベーション
  • モンブラン踏破とダーウィンの進化論
  • 人間の楽園に変わった自然
  • 初めての動物園のおしゃれなオランウータン
  • 野生動物商人がつくった巨大テーマパーク
  • 世界は狭まり「遊び場」が生まれる
  • 終章 驚きを探す本能
  • 謝辞/原注/参考文献/クレジット

【感想は?】

 歴史はセンス・オブ・ワンダーでいっぱいだ。

 著者はソレを「ハチドリ効果」と呼んでいる。他の目的のために生まれた発想や技術が、全く別の分野に応用され、発展して世界を席巻してゆく、そんな現象である。

誰かが明確に一つの目的を持った装置を発明するが、その装置をより広い社会に導入することで、発明者が想像もしていなかった一連の変化が起こるのだ。
  ――第6章 レジャーランド パブリックスペース

 歴史の視点には大きく分けて二つの型がある。一つは人物に焦点を当て、王朝や英雄の活躍を語るもの。昔から物語のネタとしてよく使われた。もう一つは技術や産業の伝播や発達を追うもので、ウィリアム・H・マクニールの「世界史」が代表だろう。

 この本は後者、すなわち技術や産業や概念の伝播と発達、そして変化や成長を追うタイプだ。ただしマクニール的に技術を追うタイプでも、「それが何の役に立つのか」が説得力の基礎をなす。だが、この本では、何の役にも立たないモノを主役に据える。

 この本が扱うのは、ファッション・音楽・香辛料・幻影・ゲーム・娯楽施設などだ。いずれも、現代では重要な産業を成している。が、無くなった所で文明が崩壊するわけじゃない。それでも、この本を読むと、こういった「遊び」こそが文明の発展の原動力なんじゃないかと思えてくる。

 上にあげた6つのテーマのうち、たいていの人なら一つぐらいは興味を惹くものがあるだろう。そこから読み始めてもいい。

 私が最も惹かれたのは、第2章の音楽だ。ヒトの音楽にかける執念は、パイプオルガンを見ればわかる(→「パイプオルガン 歴史とメカニズム」)。あのとんでもなく精密で大規模なメカニズムを、心地よい音を響かせるためだけに作ったのだ。この音を求める欲求は洞窟に暮らしていた頃からのものらしい。

旧石器時代の洞窟遺跡で発掘された骨笛のなかには、音を出せるぐらい無傷のものもあり、多くの場合、骨にあけられている指孔は、現在、完全四度および完全五度と呼ばれている音程を出す間隔になっていることを、研究者は発見している(略)。
  ――第2章 ひとりでに鳴る楽器 音楽

 音楽理論なんざ欠片もなく、狩りと採取で暮らしていた頃から、ヒトは「心地よいメロディー」を求めたのだ。幸い骨だからモノが今も残っているが、皮は残らない、考古学者によると、皮で作る太鼓は10万年以上の歴史があり、「音楽の技術は狩猟や体温調節のための技術とおなじぐらい古い」。樋口晶之のドラム(→Youtube)で血が騒ぐのは、そのためか。

 時は流れ9世紀。バグダッドのハイテク・エンジニア兄弟、バーヌ・ムーサは自動オルガンを作る。笛の穴を、指で塞ぐのではなく、シャフトで塞ぐ。シャフトはカムで上下する。カムというより太い円筒で、理屈はオルゴールに似ている。

 この発明の凄い所は、円筒を取り換えれば別の曲を奏でられること。つまり「プログラム可能だったのだ」。ハードウェアとソフトウェアが分かれたのだ。一種の万能機械といえよう。バーヌ・ムーサは得意絶頂だったろうなあ。ところが、この偉大なる発明は…

800年にわたって、人間はプログラム可能性という変幻自在の手段を手にしていながら、その期間、その手段をもっぱら心地よい音波のパターンを空中に発生させるために利用していたのだ。
  ――第2章 ひとりでに鳴る楽器 音楽

 と、音楽とからくり人形だけにしか使われなかった。これを変えたのがジョセフ・マリー・ジャカール、産業革命のきっかけとなったパンチカード式の自動織機である。このパンチカードはチャールズ・パペッジの解析機関へと引き継がれ、やがて現代のコンピューターへと発展してゆく。

 この章では、成功した発明だけでなく、消えていった発明も扱っている。中でも是非復活してほしいのが、ダフネ・オラム(→Wikipedia)が発明した楽器、オラミクス・マシン。発想が素晴らしい。オシロスコープは波形を画像にする。なら画像を波形、すなわち音にできるんじゃね?

 残念ながら当時のテクノロジーじゃ使い勝手が悪い上に、世間も電子音楽を受け入れる土壌が育ってなかった。でも現代なら、彼女が考えたインタフェースはシンセサイザーやDTMで実現できるだろうし、かなり面白いモノになると思う。

 終章では、なぜ遊びがイノベーションに重要かを解き明かしてゆく。遊びは気持ちをリラックスさせて想像力を刺激し、珍奇なアイデアを受け入れる心の余裕を広げるのだ。確かにギスギスした雰囲気だと面白い発想は出てこないしねえ。

 この記事では明るい話だけを取り上げたが、本書では胡椒や木綿が引き起こした惨劇もキチンと描いている。またクロード・シャノンの意外な人物像など、ドラマとして面白いネタも多い。ファッションが、音楽が、映画が、ゲームが好きな人に加え、エンジニアにもお薦めできる一冊。

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2019年3月11日 (月)

ジェレミー・A・グリーン「ジェネリック それは新薬と同じなのか」みすず書房 野中香方子訳

本書は20世紀後半から21世紀初頭の米国における、ジェネリックの社会的、政治的、文化的歴史を記録し、二種類の薬を同一と称することのリスクを検証しようとするものだ。
  ――序 同じであって同じでない

「思うに、公聴会は、法案を求める声を作り出すために、つまり、国民を動かすために開くのです。言うなれば、公聴会は情報のために開くのです。と言っても、私が情報を得るためではなく、国民に情報を伝えるためです」
  ――第6章 同等性コンテスト

「ジェネリックはどこで入手できるのですか。ブランド薬との比較で、より安いジェネリックはどれですか。同一性の保証はどうすれば得られるのですか」
  ――第10章 囚われの身の消費者を開放する

2007年、市場調査企業のIMSヘルスは、世界の製薬市場についての報告の中で、ジェネリックの市場シェアと、ブランド薬をジェネリックに替えて倹約した金額に応じて、各国をランク付けした。米国はその両方でトップだった。
  ――第14章 地球規模のジェネリック

インスリンが最初に特許を得たのは1921年のことだったが、それから一世紀近くたった今でも、市場でインスリンのジェネリックを見ることはほとんどない。
  ――結論 類似性の危機

研究開発費10憶ドルあたりのFDAに承認された薬の数は、1950年から2010年までの間で、九年ごとに半減してきた。
  ――結論 類似性の危機

【どんな本?】

 ジェネリック薬。特許の切れた医薬品と同じ有効成分を持つ薬。たいてい既にある薬とは別の企業から売り出され、価格も安い。

 だが、それは本当に「同じ」なのか。どんな根拠で「同じ/違う」と主張するのか。それは信用できるのか。ジェネリックの流通は、医療にどんな影響をもたらすのか。製薬会社・医師・薬剤師・薬局・政府機関・保険会社そして患者は、どのようにジェネリックを見てきたのか。ジェネリックで医療費の高騰は抑えられるのか。

 アメリカの医療でジェネリック薬が辿った歴史を、医療の現場に加え、政治・法律そして市民運動の面からとらえ、ジェネリック薬がもたらす影響を描く、一般向けのノンフィクション。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は GENERIC : The Unbranding of Modern Medicine, by Jeremy A. Greene, 2014。日本語版は2017年12月15日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約373頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント45字×18行×373頁=約302,130字、400字詰め原稿用紙で約756枚。文庫本なら厚い一冊分。

 みすず書房の本の中では文章はこなれている方だろう。内容も特に難しくない。あまり医学・薬学・化学には踏み込まないので、理科が苦手な人でも大丈夫。むしろ企業・政府・政治家の動きなどの社会的な側面が多く、特に連邦政府と州政府の関係など、アメリカ独特の制度や事情が強く関係しているので、その辺に詳しいと更に楽しめる。

【構成は?】

 全般的に前の章を受けて次の章が展開する形なので、なるべく頭から読もう。

  • 謝辞
  • 序 同じであって同じでない
    ただほど高いものはない/甲状腺騒動/ジェネリックの歴史/同等性の科学/医薬品の脱ブランド化
  • Ⅰ 名前には何が込められているのか?
  • 第1章 治療の世界に秩序をもたらす
    命名法/薬局方の政治/医薬品向けに合理的な言語を考案する/合理的な命名法/不合理な顛末
  • 第2章 ブランド批判としてのジェネリック
    不安定なつながり/一般名と特定のもの
  • Ⅱ ジェネリックなんてものはない?
  • 第3章 匿名薬
    偽造の歴史 模造品と粗悪な薬/闇市場の医薬品
  • 第4章 控えめな業界の起源
    処方薬からジェネリックに移行 プレモ製薬/ラリーとボブと一緒に浴室で薬をつくろう ボラー製薬/昔の特効薬を蘇らせる ゼニス製薬
  • 第5章 ジェネリックの特異性
    安いが、危険なほど安いわけではない ピュアパック/ジェネリックのブランド化 SKライン、ファイファーメクス、レダール・スタンダード・プロダクツ/自家商標の危機 マイラン製薬/新薬はいつから旧薬になるのか/ジェネリック医薬品の誕生
  • Ⅲ 同等性の科学
  • 第6章 同等性コンテスト
    モノを同じにする/研究のカギ 薬物の溶出の生体外モデル/差異の科学に投資する
  • 第7章 差異の意義
    生産の違い/立証責任/複数存在する同等性/分断された同等性の科学/患者が服用しているその薬は一度も試験されていない/生物学的同等性を超えて
  • Ⅳ 代替調剤に関する法律
  • 第8章 代替の悪徳と美徳
    「増大する悪」ブランド代替を犯罪と見なす/代替のテクノロジー/代替を合法化する/代替のルール、地域で、また世界で
  • 第9章 普遍的な代替
    ジェネリック派の肖像 ウィリアム・ハダッド/ニューヨーク州ジェネリック調査/ニューヨーク州の処方集と大衆/ニューヨークからワシントンへ 互換性のある医薬品の結集/失敗した標準化 国政、そして代替の特異性/代替の地形
  • Ⅴ ジェネリック消費のパラドックス
  • 第10章 囚われの身の消費者を開放する
    囚われた薬剤消費者/ジェネリックのユーザーズガイド/ジェネリック利用のためのハンドブック/非合理な処方者/必須でない薬のための、必須のガイドブック/ジェネリック消費者になる
  • 第11章 診断書、薬局、スーパーマーケットでのジェネリック消費
    消費者としての医師/ジェネリック消費の場所 薬局とスーパーマーケット/禁欲の祝典/ジェネリックの分岐
  • Ⅵ ジェネリック医薬品
  • 第12章 模倣薬の科学と政治
    分子操作/薬はいつから十分良いものになるか/薬はいつから十分良いものでなくなるか/代替政策の復活
  • 第13章 推奨薬、公的に、あるいは民間で
    医薬品の手品(ごまかし、こじつけ)/公的推奨 薬効評価計画/公的及び民間の合理的行動
  • 第14章 地球規模のジェネリック
    必須医薬品と活動家の地位、ジュネーヴからリオ・デ・ジャネイロまで/輸出市場としてのジェネリック インド亜大陸での拡大/ジェネリック巨大企業
  • 結論 類似性の危機
    あらゆる分子、大きいのも、小さいのも/ジェネリックの歴史、ジェネリックの未来 同じだが同じではない
  • 訳者あとがき/原注/略語/索引

【感想は?】

 ジェネリック薬は最近のものだと思っていた。が、しかし。

 例えばアスピリン。今 WIkipedia で調べたら、なんとまあ。バファリンやケロリンもアスピリンを含むのか。他にもアスピリンのジェネリックは沢山ある(→KEGG DRUG)。ずっと昔から、ジェネリックは私たちの身近にあったのだ。

 そんなわけで、この本も、けっこう昔の話を多く含んでいる。特にジェネリックが社会的な脚光を浴び始めるのは、1960年代から。

 主な登場人物は、まず先行薬の製薬企業とジェネリックの製薬企業。それに医師・薬剤師・ドラッグストアなど、薬を扱う職業の人々。当然、医薬品の認可を司るFDAも重要な役割を果たす。それに保険会社や州政府・政治家・消費者団体なども絡んでくる。

 先行薬の企業はジェネリックに否定的で、後発薬の企業は肯定的だ。まあ当たり前だね。

 ところが、一部の大手先行薬企業も、ジェネリックに手を出してる。例えばファイザー社はジェネリック部門の「ファイファーメクス」を持ってたり。ファイザーのブランドで差別化を図ろうってわけ。対してジェネリックの企業は、「同じである」のがウリなだけに、差別化が難しい。

 保険会社や、州の健康保険関係者は、安上がりなジェネリックを歓迎する傾向が強い。独特の立場でジェネリックを推したのが、ウォルグリーン社。薬局のチェーン店だ。顧客にアピールするチャンスと見て、小冊子「処方薬での節約法」を配る。

 なぜ薬局が、と思うだろうが、ここに薬のややこしさが関係している。例えばアスピリン。幸い日本だと「アスピリン」が一般名で、複数の会社が同じ商品名=アスピリンを出している。が、全星薬品工業の商品名は「ゼンアスピリン」だ。

 処方箋は医師が書く。それを見て薬局が処方する。処方箋に「アスピリン」とあったら、まずもって全星薬品工業の「ゼンアスピリン」は処方しないだろう。

 では、処方箋に医師が書くのは商品名か一般名か。たいてい商品名を書くのだ。そして、医師は病気には詳しくても薬品、特に商品としての薬品には詳しくない。それは薬剤師の仕事だ。だから、医師は慣れた商品名で処方する。たいてい古株の先行薬の名前を書く。だって学校や先輩にそう習ったし。

 薬剤師は処方箋を見て薬を出す。処方箋に書かれたとおりに薬を出せば、たいてい高価な先行薬になる。安く上げようとするなら、ちと面倒な作業をしなきゃいけない。処方箋の商品名から一般名を調べ、同じ一般名の薬から安くて在庫のある薬を探すのだ。

 今ならRDBを使ってSELECT文一発だろうが、昔はそうじゃない。それを何とかしようとしたのが、ニューヨーク・ホスピタル。在庫管理のために院内処方集を作った。これが評判よくて、1961年には「国内の主な病院の60%に導入された」。なんかK&Rみたいな話だね。

 こういう動きは消費者にも出てくる。医師リチャード・ビュラックは『処方薬ハンドブック』を1967年に著し、これがッベストセラーとなるのだ。買ったのは医師じゃなくて消費者。日本でも「医者からもらった薬がわかる本」が売れてるなあ。

 は、いいが。これらには法律も絡んでくる。薬剤師が勝手に薬を変えていいのか? 薬を選ぶのは医師の仕事ではないのか?  また、何を根拠に「同じ」と見なすか、なんて問題もある。そんなわけで、政府機関や政治家も、この本では重要な役割を果たす。面倒なことにアメリカは州の権限が強く、州ごとに違ってたりするから大混乱だ。

ちなみに今の日本だと、医師と薬局の両方にジェネリック医薬品希望カードを示し「ジェネリックでお願い」と伝える必要があるらしい(→第一三共エステファ株式会社)。

 さらに終盤では、ブラジルやインドなど国際的な問題にまで触れ、また新薬開発が難しくなっている事もあり、製薬業界が大きな嵐に見舞われている現状を生々しく描いている。

 正直、私のような素人には、いいささか詳しすぎる内容だったが、同時にビジネスもロビー活動も激しいアメリカの空気が否応なしに伝わってくる迫力もあった。科学というよりは、ジェネリックの歴史と現状を伝えるドキュメンタリーの色彩が強い本だ。

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2019年2月11日 (月)

ジョージ・ダイソン「チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来」早川書房 吉田三知世訳 1

1953年3月、地球上に存在した高速ランダムアクセス・メモリは合計53キロバイトだった。
  ――第1章 1953年

【どんな本?】

 1930年代、アメリカのニュージャージー州プリンストンに、一つの研究機関が誕生した。その名も「高等研究所」。目指すは学者のパラダイスである。欧州ではナチスが台頭し始め、アインシュタインなど優れた頭脳が新大陸に逃れてくる。そして高等研究所は彼らに格好の避難所となった。

 その一人がハンガリー出身のジョン・フォン・ノイマンである。卓越した頭脳と斬新な発想、旺盛な行動力と新分野への臆せぬ開拓心、そして豊かな社交性を持った彼は、純粋数学の功績はもちろん、ゲーム理論など新しい数学を生み出し、現在の私たちに欠かせない「プログラム内蔵型コンピュータ」も創り出した。

 ENIAC など黎明期のコンピュータは、どのようなものだったのか。開発にはどんな障壁があり、どう乗り越えたのか。プログラム内蔵型コンピュータの何が斬新だったのか。誰がどんな貢献をなしたのか。黎明期のコンピュータは何に使われたのか。そして、高等研究所とはどんな組織なのか。

 膨大な資料を駆使して再現する、プログラム内蔵型コンピュータ誕生の物語。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は TURING'S CATHEDRAL : The Origins of the Difital Universe, by George Dyson, 2012。日本語版は2013年2月25日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約546頁に加え、訳者あとがき6頁。9ポイント45字×20行×546頁=約491,400字、400字詰め原稿用紙で約1,229枚。文庫なら厚い上下巻か薄めの上中下巻ぐらいの大容量。今はハヤカワ文庫NVから上下巻で文庫版が出ている。

 文章はやや硬い。語り手の多くが数学者や物理学者だからかもしれない。内容も、特にコンピュータの実装の話は、かなり突っ込んだネタが出てくる。ここではソフトウェアよりハードウェアの知識が必要だ。中でも重要なのは真空管の知識。私は完全にお手上げだった。

【構成は?】

 ほぼ時系列ではあるが、章ごとに人や事件にスポットをあてていく形なので、かなり時間は前後する。面白そうな所だけを拾い読みしてもいい。

 内容的に大雑把に四部ぐらいに分かれている。コンピュータを主人公とすると、1)前史・2)誕生・3)活躍・4)未来、といったところか。

  • まえがき 点源解
  • 謝辞 はじめにコマンド・ラインがあった
  • 主な登場人物
  • 第1章 1953年
  • 第2章 オルデン・ファーム
  • 第3章 ヴェブレンのサークル
  • 第4章 ノイマン・ヤーノシュ
  • 第5章 MANIAC
  • 第6章 フルド219
  • 第7章 6J6
  • 第8章 V40
  • 第9章 低気圧の発生
  • 第10章 モンテカルロ
  • 第11章 ウラムの悪魔
  • 第12章 バリチェリの宇宙
  • 第13章 チューリングの大聖堂
  • 第14章 技術者の夢
  • 第15章 自己複製オートマトンの理論
  • 第16章 マッハ9
  • 第17章 巨大コンピュータの物語
  • 第18章 39番めのステップ
  • 訳者あとがき/原注/原注中の引用元略語一覧

【感想は?】

 私が副題をつけるなら「ジョン・フォン・ノイマンと愉快な仲間たち」または「プログラム内蔵型コンピュータの誕生と成長」かな?

 今となっては、プログラム内蔵型ではないコンピュータを想像する方が難しい。というか、実は私もよくわかってない。イメージ的には「たまごっち」が近いかも。一つのプログラム=アプリケーションだけが動くコンピュータだ。もっとも、実は「たまごっち」も、中身はプログラム内蔵型なんだけど。

 昔は、解くべき問題=アプリケーションごとに、異なるハードウェアが必要だったのだ。そして、みんなソレが当たり前だと思っていた。想像してみよう。Excel専用機とかメール専用機とかPhotoShop専用機とか。アプリケーションごとに別々のマシンが必要な世界を。

プログラム内蔵型コンピュータのルールの一つは、ルールを変えられるということだ。
  ――第6章 フルド219

 ルールというより、アプリケーションと言う方が現代の読者には分かりやすいだろう。パソコンもスマートフォンも、アプリケーションを入れる事で出来ることが増える。これが、実は画期的な事なのだ。それ以前の世界の考え方からすれば。

 この本では、弾道計算にルーツを求めている。

 敵の位置が分かっているとき、銃や砲をどの角度にすればいいか。単純に考えると微分方程式を解けば良さそうな気がする。でも、現実には、砲や砲弾により飛び方が違う。おまけに技術の進歩で飛距離が伸びると、コリオリの力とかも関係してくる。じゃ、どうするか。

 試しに幾つか撃って、結果を表にしよう。でも予算も時間も限りがある。やたらと撃ちまくるわけにはいかない。だから表は隙間だらけのスカスカだ。そこで数学者を雇い、間を計算で埋めるのだ。もっとも、数学者は式を考えるだけ。実際に計算するのは、学生バイトだったり。

ノーバート・ウィーナー「第一次世界大戦後何年ものあいだ、アメリカの優れた数学者の大多数は、(弾道)性能試験場で訓練を受けた者たちだった。こうして世間の人々は、われわれ数学者にも実世界で果たせる役割があるということに初めて気づいたのである」
  ――第3章 ヴェブレンのサークル

 そんなワケで、当時から計算の需要はあったのだ。切ないのは、目的が軍事だってこと。これは、本書の最後まで一貫している。インターネットや画像認識など、コンピュータは軍事と分かちがたく関わっている。

 さて。当時の発想としては、方程式を解く専用機を造ろうって方向に行く。でも、専用機だって、データを与えなきゃいけない。そこでアラン・チューリングとジョン・フォン・ノイマンは考えた。「プログラム=アプリケーションもデータも、結局はビットの集まりだよね。なら同じに扱えるんじゃね?」

アラン・チューリングが考案しジョン・フォン・ノイマンが実現したプログラム内蔵型コンピュータは、「何かを意味する数」と「何かを行う数」の区別をなくした。これによってわれわれの宇宙はすっかり変貌し、その後二度と元に戻ることはなくなったのである。
  ――まえがき 点源解

 実は上の文章、一つ飛躍がある。データがビットの集まりだってのはいい。でも、プログラムがビットの集まりってのは、ちと納得しがたいだろう。が、これ、既に17世紀に発想の兆しがあったってのが驚きだ。

ゴットフリート・ウィリアム・ライプニッツ「無謬の計算を行うことによって、人生に最も有益な原理、すなわち、倫理の原理と形而上学の原理を(この方法に基づいて)理解するためには、たった二つの記号しか必要ないだろう」
  ――第6章 フルド219

 まったく、数学者ってのは、なんだってこう突拍子もない事を考えるんだろう。これは20世紀になっても相変わらず、どころかコンピュータに妄想を刺激された数学者・科学者たちが中盤以降にゾロゾロと出てきて、SF作家を凌ぐ豊かな発想力を見せつけてくれるんだが、それは次の記事で。

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2019年1月23日 (水)

藤原辰史「トラクターの世界史 人類の歴史を変えた『鉄の馬』たち」中公新書

トラクターとは、物を牽引する車のことである。
  ――第1章 誕生 革新主義時代の中で

第二次世界大戦時にはほとんどのトラクター企業が戦車開発を担うようになる。
  ――第3章 革命と戦争の牽引 ソ独英での展開

1938年7月企画院産業部『小型自動耕耘機ニ就テ』より
「比較的乾燥せる田地又は耕耘砕土後直ちに播種、植付(例えば裏作として麦類の作付等)を行う地方及び畑地利用には好適なるべし」
  ――第5章 日本のトラクター 後進国から先進国へ

北海道のトラクター死亡事故の原因を分析した伊藤紀克は、眠気対策として、(略)高い声で歌をうたうことを勧めている。
  ――第5章 日本のトラクター 後進国から先進国へ

【どんな本?】

化学肥料と共に、20世紀の農業を支え大きく変えたトラクター。それは単に農業を機械化しただけではない。アメリカ,ソ連,ドイツそして日本など各国の基本政策に大きな影響を与え、それぞれの国で様々な形で導入・利用され、有名なソ連の集団農場のように国家の形態にまで関与していた。

 トラクターは、土を耕すことによって農作業を省力化し短期的には収穫を増やす反面、使い方によっては幾つもの弊害ももたらし、また戦車の原型となったように戦争との関係も深い。

 さまざまな国におけるトラクターの発達と普及の歴史を追うなかで、それぞれのお国柄や農業のおかれた立場を浮かび上がらせつつも、アチコチにトラクターへの愛が滲み出る、一般向けの歴史解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年9月25日発行。新書版で縦一段組み本文約249頁に加え、あとがき3頁。9ポイント41字×17行×249頁=約173,553字、400字詰め原稿用紙で約434枚。文庫本ならやや薄めの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。時おりPTOなど専門用語が出てくるが、すぐに説明があるので気にせず読み進めよう。

【構成は?】

 だいたい前の章を受けて後の章が続く形なので、素直に頭から読もう。

  • まえがき
  • 第1章 誕生 革新主義時代の中で
    • 1 トラクターとは何か
    • 2 蒸気機関の限界、内燃機関の画期
    • 3 夜明け J・フローリッチの発明
  • 第2章 トラクター王国アメリカ 量産体制の確立
    • 1 巨人フォードの進出 シェア77%の獲得
    • 2 農機具メーカーの逆襲 機能性と安定性の進化
    • 3 農民たちの憧れと憎悪 馬への未練
  • 第3章 革命と戦争の牽引 ソ独英での展開
    • 1 レーニンの空想、スターリンの実行
    • 2 「鉄の馬」の革命 ソ連の農民たちの敵意
    • 3 フォルクストラクター ナチス・ドイツの構想
    • 4 二つの世界大戦下のトラクター
  • 第4章 冷戦時代の飛躍と限界 各国の諸相
    • 1 市場の飽和と巨大化 斜陽のアメリカ
    • 2 東側諸国での浸透 ソ連、ポーランド、東独、ヴェトナム
    • 3 「鉄牛」の革命 新中国での展開
    • 4 開発のなかのトラクター イタリア、ガーナ、イラン
  • 第5章 日本のトラクター 後進国から先進国へ
    • 1 黎明 私営農場での導入、国産化の要請
    • 2 満州国の「春の夢」
    • 3 歩行型開発の悪戦苦闘 藤井康弘と米原清男
    • 4 機械化・反機械化論争
    • 5 日本企業の席捲 クボタ、ヤンマー、イセキ、三菱農機
  • 終章 機械が変えた歴史の土壌
  • あとがき
  • 参考文献/トラクターの世界史 関連年表/索引

【感想は?】

 ジョン・K・ガルブレイス「不確実性の時代」に曰く。

産業革命が起こるまで、そして多くの国ではその後も長いあいだ、すべての経済学は農業経済学だったのです。

 これを改めて強く感じさせてくれる一冊だ。いや経済学だけじゃない。各国の国家政策そのものが、20世紀も農業の世紀だったし、今でも国によっては農業政策が国家政策の基盤なのだ、と思わせてくれる。

 それを最もあからさまに表しているのは、他でもないソ連だ。かの悪名高いコルホーズ&ソフホーズである。直感的にも、集約・大型化は効率がいいように感じる。チマチマ小さい農地が分散してるより、機械化してデカい農地で作った方が、巧くいきそうだ。

 ただ、ソ連は頭ごなしにやったのが祟った。

 なにせ1920年代~1930年代、モータリゼーション黎明期である。おまけに農機具なんで、使われる環境も過酷だ。平らなアスファルトの上を走るワケじゃない。だもんで、何かと故障する。本書には「数年で市場から消えるのが通常であるトラクターの世界」なんて文章もある。

 故障したら直さにゃならん。そのためには部品も要れば技術者も欲しい。燃料だって必要だ。が、当時のソ連にはどれも足りなかった。「第5章 日本のトラクター」には日本の農機具メーカーの特徴として、販売員が足蹴く農家に通う点を挙げている。そういうキメの細かいアフターサービスが大事らしい。

 「トラクターが来るなら牛馬は不要」とっばかりに早まって家畜を処分したのも祟り、スターリンの理想は悪夢と化す。

…クリミアで強制的にMTS(機械トラクターステーション)のサービス範囲に組み込まれた入植地では、MTSのトラクター隊が保有するフォードソンのうち3/4が故障していた…
  ――第3章 革命と戦争の牽引 ソ独英での展開

 これに対し市場原理で巧くいったのがアメリカ。幾つもの企業が競争してトラクターの改善を進めていく。金属タイヤが主流だった時代に、見慣れぬゴムタイヤを導入したアリス=チャルマーズ社がの宣伝が、いかにもアメリカ。レース・ドラーバーをを雇ってトラクターレースを開催するのだ。

 そんな競争の結果か、アメリカの農業は自然と大規模化・集約化が進む。社会ってのは、なかなか政治家の思い通りにはいかないモンです。

 どの国でも、新しいモノは反発を招く。が、若者が力強いマシンに憧れるのも万国共通らしい。

「君のところの農場でトラクターが走るとは夢にも思わなかったよ」
「こうでもしなければ、息子はわたしのそばからいなくなっていたよ」
  ――第2章 トラクター王国アメリカ 量産体制の確立

 これはアメリカだけでなく、ポーランド・東ドイツ・ヴェトナム・中国などでも、トラクターに憧れる若者が出てくる。

 が、そんな若者を、戦争が奪ってゆく。農家は人手が足りなくなる。そこで省力化のため更にトラクターが普及する…と思いきや、トラクター工場は戦車工場に転用されたり。

 もっとも、農場でトラクターのウ運転や修理に慣れた若者たちは戦地で優れた活躍を見せたりするんだが。こういう所は、化学肥料の開発を扱った「大気を変える錬金術」と同じ皮肉を感じたり。

 改めて考えると、日本の高齢化した農業もトラクターのお陰で維持し得てるわけで、実はたいへんな縁の下の力持ちなんだなあ、と実感する。

 と共に、エルヴィス・プレスリーやボブ・フェラー(→Wikipedia)などトラクターのコレクターを紹介するくだりには、著者のトラクターに寄せる思いが漂ってくる。特にボブ・フェラーの話は、まるきしW.P.キンセラ「シューレス・ジョー」だw

 小さく具体的なエピソードを積み重ねて臨場感を出しながら、統計数字も駆使して大きな流れも示し、分量の限られた新書ならではのバランスの取れた楽しい本だった。

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