カテゴリー「書評:科学/技術」の278件の記事

2020年2月14日 (金)

塩之入洋「高血圧の医学 あなたの薬と自己管理」中公新書

本書は、成人の最大疾患群「高血圧」がもついろいろな問題点の解説、危険な合併症を防ぐための対策、高血圧の持続的な治療の必要性、高血圧治療薬の適応と副作用、「快適な生活を過ごす」ために知っておくべき知識などを記述しました。
  ――はじめに

安静時の成人の正常な動脈血圧は、収縮期(最大)血圧が100-130mmHg、拡張期(最小)血圧が50-85mmHgにあります。
  ――第1章 高血圧と血圧測定

【どんな本?】

 30歳以上の日本人のうち、約3300万人、つまり三人に一人が高血圧と思われる。もはや日本の国民病と言ってもいいだろう。

 その高血圧とは、どんな状態か。高血圧の何が悪いのか。高血圧か否かは、どうやって調べるのか。なぜ高血圧になるのか。高血圧を防ぐには、どうすればいいのか。どんな治療法があるのか。高血圧の薬には、どんなものがあるのか。それぞれの薬には、どんな特徴があるのか。薬を服用する際には、どんな事に気を付ければいいのか。

 老化に伴う宿命ともいえる高血圧について、その危険と対策、そして主な薬を中心に語る、医学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2002年1月25日発行。新書版で縦一段組み本文約237頁に加え、あとがき2頁。9ポイント41字×16行×237頁=約155,472字、400字詰め原稿用紙で約389枚。文庫なら薄めの一冊分ぐらいの文字量。

 文章の読みやすさと、内容のわかりやすさは、読者による。というか、対象読者を絞り込めていない。

 素人向けだとしたら、文章は硬すぎるし、専門用語を説明抜きで使いすぎる。細かいところでは、「増大する」「減少する」より「増える」「減る」の方が親しみやすい。「過剰な食塩を摂取」を「塩の摂りすぎ」にするなど、工夫してほしい。また「レニン-アンジオテンシン系」とか言われても、素人には見当がつかない。

 特に第4章~第8章は、医師や厚生省の役人など専門家向けの内容だろう。これが本書の半分近くを占めてたりする。

 かと思えば、高血圧の説明に水まき用のホースで例えるなど、素人向けに工夫している所もあるから、評価に困ってしまう。

 日頃から論文や報告書などの専門家向けの文書を書きなれた人が、同じ勢いで書き下ろした、そんな雰囲気の本だ。

【構成は?】

 素人なら、第1章と第2章は、ちゃんと読もう。第3章は軽く流し読みでいい。第4章~第8章は、読み飛ばしてもいいし、自分が当てはまる所だけをつまみ食いしいてもいい。第9章と第10章はちゃんと読もう。

  • はじめに
  • 第1章 高血圧と血圧測定
  • 第2章 高血圧の診断と危険因子
  • 第3章 高血圧治療と降圧剤
  • 第4章 第一選択薬の特性と選択
  • 第5章 高血圧治療薬の薬物相互作用
  • 第6章 合併症を持つ場合の高血圧治療薬の選択と注意
  • 第7章 女性と小児の高血圧
  • 第8章 特殊な高血圧 二次性高血圧など
  • 第9章 高血圧治療 ちょっと気になる疑問
  • 第10章 飲酒と喫煙
  • 付章 低血圧
  • あとがき

【感想は?】

 最近の健康診断で高血圧と言われた。まあ歳だし、とは思うが、やっぱり怖い。何ができるかを知りたくて読んだんだが、これが実にみもフタもない。要は食事と生活習慣を変えろ、だ。

…ライフスタイル改善の共通点は、過剰なカロリー(エネルギー)摂取制限と、適切な運動にあります。
  ――第2章 高血圧の診断と危険因子

 思い当たるフシは、確かにある。体を動かすのは嫌いだし、食事は偏ってる。あまり塩分は摂らないが、甘いものは大好きだ。酒は飲まないが、煙草は吸う。ダメじゃん。

 せめて少しは体を動かすようにしよう。でも走るのは嫌だなあ。筋トレなんて冗談じゃない。なんて思っていたら、実はそれでも構わないのだ。

運動ではとくに有酸素運動(エアロビクス)が勧められ、全身の大きな筋肉を繰り返し時間をかけて動かすものがよいとされます。具体的には、散歩、早歩き、球技、水泳、サイクリング、ダンスなどです。
  ――第9章 高血圧治療 ちょっと気になる疑問

 うん、それならできる。ヲタクの例に漏れず、歩くスピードは速い方だ。なら早歩きで散歩すりゃいいか。

 …で記事が終わっちゃったらアレなので、後は野次馬根性で面白かった所を。まずは、高血圧の原因について。

高血圧は大別して、本態性高血圧(原発性高血圧、体質性高血圧)と二次高血圧にわけられます。本態性高血圧は、現在のところ、真の原因が不明な高血圧で、全体の90%を占めています。
  ――第2章 高血圧の診断と危険因子

 同じ高血圧でも、内臓疾患などによる場合もあるのだ。もっとも大半は「真の原因が不明」の方だけど。つか、わかってないのか。とはいえ、医者の言う「わかってない」は、素人が考える「わかってない」とは違うようだが。たぶん、原因と結果は見当がついているけど、途中でどんなホルモンや酵素がどう関わっているのか、そのメカニズムの一部が明らかになっていない、みたいな意味なんだろう。

 ちなみに子供も高血圧になるとか。ただし、二次高血圧の疑いもあるので、尿タンパクなど他の検査も併せて考えましょう、と。パタリロはコレかな?

 本質的な解決にはなってないんだが、ある程度は医者を誤魔化す方法も書いてあったり。曰く、血圧を測る前の30分はコーヒーを飲まず煙草も吸わない。冬より春や秋の快適な季節は血圧が低くなりやすい。そうか、次の健康診断では←をい

 ゴマカシじゃないけど、喪男にありがちなのが、白衣高血圧。要は血圧を測る時に緊張しちゃって、普段より高い値になっちゃう。うん、きっと俺はコレだわ←をい。まあ、それだけじゃなくて、日頃から仕事や睡眠不足でストレスが溜まってると、血圧も高くなるわけで、健康診断の前日は早く寝ましょう。

 いわゆる代替医療への警告もチラホラと。特に著者が気にしているのが、セイヨウオトギリソウ俗称セント・ジョーンズ・ワート(→Wikipedia)。他の薬との飲み合わせによっては、「深刻な病状の悪化」もあり得るので、「厚生労働省からも警告」が出ている。きっと当時は流行ってたんだろうなあ。

 というか、第5章を流し読みした限り、日頃から飲んでる薬などは、ハッキリと医師に告げておく方が無難だよね、と感じる。薬どうしで効果を強めたり弱めたり、または思わぬ副作用をもたらしたり、イロイロあるのだ。素人が全貌を掴むのはまず無理なので、医師に正確な情報を伝えて判断を任せた方がいい。

 2001年と医学系の本の中だと最新とは言い難いが、基本的な対策は今も大きく変わっちゃいない。つまり酒・煙草・暴飲暴食・塩分を控え、長時間の軽い運動をしましょう、医師には隠さず正直に相談しよう、そんなあたりだろう。とはいえ、わかっちゃいるけどやめられない、なんだよなあ。困ったもんです。

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2020年2月 7日 (金)

齋藤勝裕「知られざる鉄の科学: 人類とともに時代を創った鉄のすべてを解き明かす」ソフトバンク・クリエイティブ サイエンス・アイ新書

一般に炭素が多いと、硬くてもろくなり、構造材には用いられません。逆に炭素が少ないと柔らかく、粘り強くなります。刃物や構造材に用いられるのは後者です。
  ――第5章 鉄の製造 column 鉄の種類

最近の研究では、ダマスカス鋼に含まれる炭素がただの炭素でなく、カーボンナノチューブが含まれていることがわかり、その神秘性はますます高くなっています。
  ――第7章 不思議な鉄 7-1 幻のダマスカス鋼

【どんな本?】

 鉄はもっとも身近な金属だ。身の回りには、たくさんの鉄製品がある。包丁,スプーン,釘,自動車,鉄道のレール,鉄筋コンクリートのビル…。それぞれ使い方は違い、求められる性質も違う。

 鉄はどうやって出来たのか。ヒトはどこから鉄を掘り出し、どうやって加工したのか。様々な性質の鉄は、何が違うのか。そして、どんな所で鉄を使っているのか。

 鉄原子の誕生から先端技術まで、鉄の雑学を集めた一般向けの科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2016年2月25日初版第1刷発行。新書版フルカラー横一段組みで本文約182頁。8ポイント29字×27行×182頁=約142,506字、400字詰め原稿用紙で約357枚。文庫ならやや薄い一冊分ぐらいの計算だが、写真・イラスト・グラフなどが沢山載っているので、実際の文字数は6~7割ぐらい。

 文章はこなれている。内容は、中学卒業程度の理科がわかればついていける。またカラーの写真やイラストが多いので、紙面が親しみやすい。

【構成は?】

 それぞれ数頁のほぼ独立した記事が並ぶ構成なので、気になった所を拾い読みしてもいい。

  • はじめに
  • 第1章 鉄の歴史
    • 1-1 鉄の発見と加工の歴史
    • 1-2 日本に伝わった製鉄技術
    • 1-3 産業と鉄
    • 1-4 国家と鉄
  • 第2章 鉄の性質
    • 2-1 原子としての鉄
    • 2-2 鉄は金属元素
    • 2-3 鉄は強い?
    • 2-4 鉄は電気を通す
    • 2-5 鉄は磁石と超伝導体になる
    • 2-6 鉄は重く、融けにくく、錆びやすい
    • column 燃える金属
    • column 鉄のにおい
  • 第3章 鉄の化学
    • 3-1 鉄の存在量
    • 3-2 ビッグバンと鉄原子
    • 3-3 鉄は多くの原子の生みの親
    • 3-4 鉄の結晶状態
    • 3-5 鉄の化学反応
    • column 黒豆と古釘
  • 第4章 変貌する鉄
    • 4-1 合金の今昔
    • 4-2 高硬度鋼は特殊用途向け
    • 4-3 熱さ・冷たさを克服した耐熱鋼
    • 4-4 変化自在な鉄合金
    • 4-5 鉄の未来形
    • column 鉄と放射性元素
  • 第5章 鉄の製造
    • 5-1 鉄鉱石の採掘
    • column 鉄とレアメタル
    • 5-2 鉄の製造
    • column 鉄の種類
    • 5-3 世界の製鉄の歴史
    • 5-4 日本の伝統的な製鉄法
    • column 鉄バクテリア
  • 第6章 日本刀の秘密
    • 6-1 日本刀の歴史
    • column 時代による刀装
    • 6-2 日本刀の構造
    • 6-3 日本刀のつくり方
    • 6-4 日本刀の秘密
    • 6-5 日本刀鑑賞の秘密
    • column 鉄仏とは
  • 第7章 不思議な鉄
    • 7-1 幻のダマスカス鋼
    • 7-2 チャンドラバルマンの鉄塔
    • 7-3 現代の不思議な鉄
    • 7-4 日本の伝統的な鉄器製作技術
    • 7-5 製鉄と伝説
    • column 鉄とDDS
  • 第8章 生命と鉄
    • 8-1 原始地球と生命
    • 8-2 猛毒酸素から地球を救った鉄
    • 8-3 細胞に酸素を運ぶ鉄
    • 8-4 生活と鉄
    • 8-5 芸術と鉄
  • 参考文献/索引

【感想は?】

 手軽な科学解説書には、幾つかのブランドがある。

 講談社ブルーバックスは老舗の貫禄を誇る。日刊工業新聞社の「トコトンやさしい」B&Tブックスは産業系のラインナップが充実している。ハヤカワ文庫NFは翻訳物が嬉しい。そしてサイエンス・アイ新書は新手ながら、親しみやすいフルカラーがウリだろう。

 いずれも「いかにわかりやすく読者に伝えるか」に工夫を凝らしている。それぞれ工夫の仕方は、ブランドによって違う。中でもB&Tブックスの手法は素人にも判別しやすい。レイアウトを定めて、キッチリ守るのだ。

 とはいえ、実績のある学者や産業界で活躍した人は、初心者向けの解説者としては向かない場合が多い。ただでさえ知識と経験が豊かな上に、自分の研究領域や仕事の内容が大好きな人が多い。だもんで、話題が豊富なのはいいが、語り始めると「アレも書きたい、コレも伝えたい」となる。それでも序盤は初心者向けを意識して丁寧に解説する。だが、本の頁数には限りがある。お陰で最新技術を伝える終盤では、素人には意味不明な数式や分子記号がズラズラと並ぶ羽目になる。

 そこをいかにコントロールするかが編集の腕の見せ所。その点、サイエンス・アイ新書の編集は腕利きが揃っているようだ。それがよくわかったのが「銃の科学」。マニアには常識でも軍事や銃器の素人は「言葉しか知らない」事柄をキチンと説明しつつ、著者の趣味にも配慮して独自色を見せた。

 そういった編集の妙は本書にもよく現れている。著者は物理と化学に詳しい人らしく、特に第2章と第3章に著者の色がよく出ている。もっとも、これは単に著者の好みだけではない。変化自在な鉄の性質を呑み込むには、こういう部分が大事だったりするんだが、それが判るのは終盤に入ってから。

 中でも素人に嬉しいのが、「第5章 鉄の製造 column 鉄の種類」。いわゆる「鉄」と「鋼」の違いを説明するコラムだ。今までも Wikipedia などで調べたが、いまいちピンとこなかった。炭素量が違うらしい、まではわかったが、どう違うのかがわからなかったのだ。

 本書によれば、炭素量2~6%は鋳鉄、つまり鋳物だ、これは硬いが割れやすい。鋼は炭素量2%未満で炭素量が少ないほど柔らかく割れにくい。0.5~0.7%が最硬鋼、0.13~0.2%が軟鋼。とすると、かなり精密な成分を調整する必要がある。

 にも関わらず、世にある製鉄の説明は、相当に荒っぽい。高炉に鉄鉱石とコークスと石灰石を流し入れて火をつけ云々。それじゃ成分の調整なんかできないじゃないか。

 そう、できないのだ。実は高炉から出てくるのは銑鉄で、成分は鋳鉄に近い。現代では、銑鉄を更に転炉に入れ、炭素やケイ素を酸素と化合させて取り除く。そうやって鉄は鋼になるのだ。なんかわかった気がする。いや多分、大事なところはまったくわかってないけど。

 などといった、製品としての鉄の話題ばかりでなく、鉄に関する歴史や現象などの話も豊富なのが、本書のもう一つの特徴だろう。

 例えば「column 鉄バクテリア」(→Wikipedia)。取水口とかにある、サビ色のドロドロ、あれは鉄バクテリアの死骸なのだ。

 やはり意外だったのが、日本刀のつくり方。あれ一つの鉄塊から作るのかと思ったら、とんでもない。よく言われるように、日本刀は芯が柔らかく刃が硬い。だから切れ味は鋭いわりに折れにくい。どうすりゃそうなるのか。実は材料が違うのだ。柔らかい鋼の芯棒に、硬い鋼の刃をかぶせるのである。手が込んでるなあ。

 日本刀のもう一つの特徴である反りも、「刀工が意図的に曲げたものではありません」。へ? これ、焼きを入れて冷やす際に、結晶構造が変わる事で勝手に反るのだ。マルテンサイト変態(→Wikipedia)と呼ぶらしい。結晶構造で性質が変わるって、チョコレートみたいだ。

 やはり結晶構造ではアモルファス(→Wikipedia)なんてネタも出てきた。いやアモルファスは結晶じゃなくて、むしろガラスみたく分子が出鱈目に並んでる状態なんだけど、「機械的強度や耐酸性が高いだけでなく、磁性が強い」って、錆びにくく磁気を帯びやすいって事かな? よくわからんがエレキギターの弦に使ったら、音が大きい上に長持ちするとか?

 かと思えば宇宙創成みたいな話も出てきて、幅広く鉄について学べる本だった。アチコチに化学式が出てくるけど、それにアレルギーがなければ、豊富なイラストや写真で楽しみながら鉄の知識が身につく、一般向け科学解説書のお手本みたいな本だった。

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2019年12月22日 (日)

Geoge T. Heineman. Gary Pollice, Stanley Selkow「アルゴリズム クイックリファレンス 第2版」オライリージャパン 黒川利明,黒川洋訳

探索木によっては、盤面状態の数が大変多くなるので、深さ優先探索は、最大探索深さが前もって定まっているような場合にのみ実用的となる。
  ――7.7 深さ優先探索

幅優先探索は、もし経路が存在するなら、目標状態への最短経路を見つけることが保証されている。
  ――7.8 幅優先探索

人口知能(AI)分野の初期の開拓者の多くの特徴は、いまだ解がわからない問題を解こうとしていることであった。問題を解く一般的方法は、大規模なグラフの探索問題に変換する事であった。
  ――12.5 探索を構築せよ

【どんな本?】

 コンピュータで問題を解くには、アルゴリズムが欠かせない。そしていつの時代も、より速く問題を解く需要は尽きない。往々にして単純な解き方だと、問題の規模の二乗に比例する時間がかかる。CPUもバスも速度は上がったが、最近はリアルタイム性の要求も厳しくなった。弾幕ゲームで弾数の二乗の演算時間を費やすわけにはいかない。

 本書では基本となる全順序集合の整列と探索に始まり、地図などの経路探索や完全情報ゲームの最善手の探索、二次元ゲームの当たり判定などに便利な空間木構造など、現代のプログラミングで必要となるアルゴリズムとデータ構造を紹介する。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は ALGOTITHMSS : In a Nutchell Second Edition, by Geoge T. Heineman. Gary Pollice, Stanley Selkow, 2016。日本語版は2016年12月22日初版第1刷発行。単行本ソフトカバー横一段組み約415頁。8.5ポイント37字×31行×415頁=約476,005字、400字詰め原稿用紙で約1,191枚。文庫なら厚めの上下巻ぐらいの分量。

 文章はやや硬い。「任意の点pにおいて」など、数学っぽい表現も容赦なく出てくるので、そこは覚悟しよう。サンプル・プログラムも多数収録している。使っているのは c, c++, Java, Python。c++ か Java か Python がわかれば、たいがい読めるだろう。

【構成は?】

 各章はゆるく独立しているが、できるだけ頭から読んだ方がいい。

  • 第2版日本語版へ寄せて
  • 第2版まえがき
  • 1章 アルゴリズムで考える
    • 1.1 問題を理解する
    • 1.2 素朴解
    • 1.3 賢い方式
      • 1.3.1 貪欲法
      • 1.3.2 分割統治法
      • 1.3.3 並列法
      • 1.3.4 近似法
      • 1.3.5 一般化
    • 1.4 まとめ
    • 1.5 参考文献
  • 2章 アルゴリズムの数学
    • 2.1 問題インスタンスのサイズ
    • 2.2 関数の成長率
    • 2.3 裁量、平均、最悪時の分析
      • 2.3.1 最悪時
      • 2.3.2 平均時
      • 2.3.3 最悪時
      • 2.3.4 下限と上限
    • 2.4 性能分類
      • 2.4.1 定数的振る舞い
      • 2.4.2 対数的振る舞い
      • 2.4.3 d<1に対する下位線形O(nd)の振る舞い
      • 2.4.4 線形性質
      • 2.4.5 線形対数(n log n)の性能
      • 2.4.6 二乗の性質
      • 2.4.7 あまり明白でない性質を示す計算
      • 2.4.8 指数性能
      • 2.4.9 漸近的成長のまとめ
    • 2.5 ベンチマーク演算
    • 2.6 参考文献
  • 3章 アルゴリズムの構成要素
    • 3.1 アルゴリズムテンプレートの形式
    • 3.2 疑似コードのテンプレート形式
    • 3.3 評価実験の形式
    • 3.4 浮動小数点計算
      • 3.4.1 性能
      • 3.4.2 丸め誤差
      • 3.4.3 浮動小数点数値の比較
      • 3.4.4 特殊な値
    • 3.5 アルゴリズム例
      • 3.5.1 名前と概要
      • 3.5.2 入出力
      • 3.5.3 文脈
      • 3.5.4 解
      • 3.5.5 分析
    • 3.6 一般的なアプローチ
      • 3.6.1 貪欲法
      • 3.6.2 分割統治
      • 3.6.3 動的計画法
    • 3.7 参考文献
  • 4章 整列アルゴリズム
    • 4.0.1 用語
    • 4.0.2 表現
    • 4.0.3 比較可能な要素
    • 4.0.4 安定整列
    • 4.0.5 整列アルゴリズムの選択基準
    • 4.1 転置ソート
      • 4.1.1 挿入ソート
      • 4.1.2 文脈
      • 4.1.3 解
      • 4.1.4 分析
    • 4.2 選択ソート
    • 4.3 ヒープソート
      • 4.3.1 文脈
      • 4.3.2 解
      • 4.3.3 分析
      • 4.3.4 変形
    • 4.4 分割ベースのソート
      • 4.4.1 文脈
      • 4.4.2 解
      • 4.4.3 分析
      • 4.4.4 変形
    • 4.5 比較なしの整列
    • 4.6 バケツソート
      • 4.6.1 解
      • 4.6.2 分析
      • 4.6.3 変形
    • 4.7 外部ストレージのある整列
      • 4.7.1 マージソート
      • 4.7.2 入出力
      • 4.7.3 解
      • 4.7.4 分析
      • 4.7.5 変形
    • 4.8 整列ベンチマーク結果
    • 4.9 分析技法
    • 4.10 参考文献
  • 5章 探索
    • 5.1 逐次探索
      • 5.1.1 入出力
      • 5.1.2 文脈
      • 5.1.3 解
      • 5.1.4 分析
    • 5.2 二分探索
      • 5.2.1 入出力
      • 5.2.2 文脈
      • 5.2.3 解
      • 5.2.4 分析
      • 5.2.5 変形
    • 5.3 ハッシュに基づいた探索
      • 5.3.1 入出力
      • 5.3.2 文脈
      • 5.3.3 解
      • 5.3.4 分析
      • 5.3.5 変形
    • 5.4 ブルームフィルタ
      • 5.4.1 入出力
      • 5.4.2 文脈
      • 5.4.3 解
      • 5.4.4 分析
    • 5.5 二分探索木
      • 5.5.1 入出力
      • 5.5.2 文脈
      • 5.5.3 解
      • 5.5.4 分析
      • 5.5.5 変形
    • 5.6 参考文献
  • 6章 グラフアルゴリズム
    • 6.1 グラフ
      • 6.1.1 データ構造の設計
    • 6.2 深さ優先探索
      • 6.2.1 入出力
      • 6.2.2 文脈
      • 6.2.3 解
      • 6.2.4 分析
      • 6.2.5 変形
    • 6.3 幅優先探索
      • 6.3.1 入出力
      • 6.3.2 文脈
      • 6.3.3 解
      • 6.3.4 分析
    • 6.4 単一始点最短経路
      • 6.4.1 入出力
      • 6.4.2 解
      • 6.4.3 分析
    • 6.5 密グラフ用ダイクストラ法
      • 6.5.1 変形
    • 6.6 単一始点最短経路選択肢の比較
      • 6.6.1 ベンチマークデータ
      • 6.6.2 密グラフ
      • 6.6.3 疎グラフ
    • 6.7 全対最短経路
      • 6.7.1 入出力
      • 6.7.2 解
      • 6.7.3 分析
    • 6.8 最小被覆木アルゴリズム
      • 6.8.1 入出力
      • 6.8.2 解
      • 6.8.3 分析
      • 6.8.4 変形
    • 6.9 グラフについての考察
      • 6.9.1 ストレージの問題
      • 6.9.2 グラフ分析
    • 6.10 参考文献
  • 7章 AIにおける経路探索
    • 7.1 ゲーム木
      • 7.1.1 静的評価関数
    • 7.2 経路探索の概念
      • 7.2.1 状態の表現
      • 7.2.2 可能な手の計算
      • 7.2.3 拡張深さの限度
    • 7.3 ミニマックス
      • 7.3.1 入出力
      • 7.3.2 文脈
      • 7.3.3 解
      • 7.3.4 分析
      • 7.3.5 
    • 7.4 ネグマックス
      • 7.4.1 解
      • 7.4.2 分析
    • 7.5 アルファベータ法
      • 7.5.1 解
      • 7.5.2 分析
    • 7.6 探索木
      • 7.6.1 経路長のヒューリスティック関数
    • 7.7 深さ優先探索
      • 7.7.1 入出力
      • 7.7.2 文脈
      • 7.7.3 解
      • 7.7.4 分析
    • 7.8 幅優先探索
      • 7.8.1 入出力
      • 7.8.2 文脈
      • 7.8.3 解
      • 7.8.4 分析
    • 7.9 A*探索
      • 7.9.1 入出力
      • 7.9.2 文脈
      • 7.9.3 解
      • 7.9.4 分析
      • 7.9.5 変形
    • 7.10 探索木アルゴリズムの比較
    • 7.11 参考文献
  • 8章 ネットワークフローアルゴリズム
    • 8.1 ネットワークフロー
    • 8.2 最大フロー
      • 8.2.1 入出力
      • 8.2.2 解
      • 8.2.3 分析
      • 8.2.4 最適化
      • 8.2.5 関連アルゴリズム
    • 8.3 二部マッチング
      • 8.3.1 入出力
      • 8.3.2 解
      • 8.3.3 分析
    • 8.4 増加道についての考察
    • 8.5 最小コストフロー
    • 8.6 積み替え
      • 8.6.1 解
    • 8.7 輸送
      • 8.7.1 解
    • 8.8 割り当て
      • 8.8.1 解
    • 8.9 線形計画法
    • 8.10 参考文献
  • 9章 計算幾何学
    • 9.1 問題の分析
      • 9.1.1 入力データ
      • 9.1.2 計算
      • 9.1.3 タスクの性質
      • 9.1.4 仮定
    • 9.2 凸包
    • 9.3 凸包検査法
      • 9.3.1 入出力
      • 9.3.2 文脈
      • 9.3.3 解
      • 9.3.4 分析
      • 9.3.5 変形
    • 9.4 線分交差を計算する
    • 9.5 線分走査法
      • 9.5.1 入出力
      • 9.5.2 文脈
      • 9.5.3 解
      • 9.5.4 分析
      • 9.5.5 変形
    • 9.6 ボロノイ図
      • 9.6.1 入出力
      • 9.6.2 解
      • 9.6.3 分析
    • 9.7 参考文献
  • 10章 空間木構造
    • 10.1 最近傍クエリ
    • 10.2 範囲クエリ
    • 10.3 交差クエリ
    • 10.4 空間木構造
      • 10.4.1 k-d木
      • 10.4.2 四分木
      • 10.4.3 R木
    • 10.5 最近傍法
      • 10.5.1 入出力
      • 10.5.2 文脈
      • 10.5.3 解
      • 10.5.4 分析
      • 10.5.5 変形
    • 10.6 範囲クエリ
      • 10.6.1 入出力
      • 10.6.2 文脈
      • 10.6.3 解
      • 10.6.4 分析
    • 10.7 四文木
      • 10.7.1 入出力
      • 10.7.2 解
      • 10.7.3 分析
      • 10.7.4 変形
    • 10.8 R木
      • 10.8.1 入出力
      • 10.8.2 文脈
      • 10.8.3 解
      • 10.8.4 分析
    • 10.9 参考文献
  • 11章 新たな分類のアルゴリズム
    • 11.1 方式の種類
    • 11.2 近似アルゴリズム
      • 11.2.1 入出力
      • 11.2.2 文脈
      • 11.2.3 解
      • 11.2.3 分析
    • 11.3 並列アルゴリズム
    • 11.4 確率的アルゴリズム
      • 11.4.1 集合のサイズを推定する
      • 11.4.2 探索木のサイズを推定する
    • 11.5 参考文献
  • 12章 結び:アルゴリズムの諸原則
    • 12.1 汝のデータを知れ
    • 12.2 問題を小さく分割せよ
    • 12.3 正しいデータ構造を選べ
    • 12.4 空間と時間のトレードオフを使え
    • 12.5 探索を構築せよ
    • 12.6 問題を別の問題に帰着させよ
    • 12.7 アルゴリズムを書くのは難しい、アルゴリズムをテストするのはさらに難しい
    • 12.8 可能なら近似解を受け入れよ
    • 12.9 性能を上げるために並列性を加えよ
  • 付録A ベンチマーク
    • A.1 統計の基礎
    • A.2 例
      • A.2.1 Javaベンチマーク
      • A.2.2 Linuxベンチマーク
      • A.2.3 Pythonベンチマーク
    • A.3 報告
    • A.4 精度
  • 訳者あとがき/索引

【感想は?】

 この手の本の古典としては Niklaus Wirth の「アルゴリズム+データ構造=プログラム」がある。プログラミングの基礎から始めて、Pascal のコンパイラを作ってゆく。その過程で、リストやバランス木などのデータ構造や、再起呼び出しなどの手口を身に着ける本だ。

 優れた本だが、さすがに今の時代に Pascal は厳しい。それにリストや連想配列(ハッシュ, 辞書)なら、イマドキのプログラミング言語は処理系やライブラリが備えている。

 ということで、そういった基礎的な部分は最小限にして、現代のプログラマ、特にリアルタイム性が必要なゲームの製作で求められる、二次元空間の探索などを加えたのが本書だ。

 とはいえ、同じ整列や探索でも、現代のプログラマ、特に Web サービスで扱うデータ量は桁違いに多い。と同時に、使えるメモリ量もキロバイト単位からギガバイト単位に変わった。またオンライン業務では、データの追加・変更・削除が頻繁に起こる。となると、探索の効率とデータの追加・削除のコストのバランスも変わってくる。

 そんなわけで、一応は昔ながらのバッチ処理に向くマージソートも出ているが、むしろハッシュを使ったブルームフィルタ(→Wikipedia)の方が実用的な場面が多いかも。

 などと5章までは「処理系のハッシュ使えばいいじゃん」で済む問題が多いが、6章からは「どんなデータ構造で表すか」がキモとなる問題が増えてくる。例えば、6章の最初に出てくる問題は、二次元の迷路の探索だ。あなた、迷路をどんなデータ構造で表します? 表せれば、とりあえず問題は解けます…処理時間はともかく。

 本書では、節と辺からなるグラフとして扱ってる。分岐点と行き止まりを節、直接に行き来できる節同志を辺でつなぐ。これで問題は半分解けたようなもん。ただ、単純に深さ優先探索すると、節の数が増えるに従い演算時間が爆発するので、何かと工夫が必要だったり。

 「7章 AIにおける経路探索」は、ちょっと誤解を招くかも。というのも、ここで言うAIは、今の流行りの強化学習じゃない。三目並べなど完全情報ゲームでの最善手を探るアルゴリズムを示すもの。昔ならLISPやPrologが得意とした問題分野ですね。今はチェスも強化学習になっちゃってるけど。

 これが「9章 計算幾何学」以降に入ると、二次元ゲームを作る際に突き当たる問題が山盛り。「与えられた点から最も近い点を見つける」「点の集合をすべて含む最小の凸多角形を見つける」「任意の多角形の集合の交差を全部見つける」とか、ありがちですね。ただし、この辺になると、放物線の幾何学とかの素養が必要だけど。ええ、私は読み飛ばしました。

 次の「10章 空間木構造」も、ゲーム屋必須の章。交差クエリとかは、モロに当たり判定だったり。

 オブジェクトが少ないうちは力任せ、すなわち全オブジェクト同士で交差判定すりゃいいけど、撃ちまくりの弾幕ゲームでそんな事やったらキリがないい=オブジェクト数の二乗で演算時間が増えていく。リアルタイム性が求められるゲームでは、1/60秒未満で処理を終える必要があるし。

 そこで演算時間を節約するにはどうすれば、という話。

 ここの基本は、「いかに無駄な判定をせずに済ますか」。つまり、どう考えても当たらない要素同士は、なるたけ計算せずに済ませましょう、ってこと。ただし、そのためには、n次元空間上にバラけている点の集合を、単なる配列やリストにするのではなく、k-d木や四分木など、何らかの秩序だったデータ構造にする必要があるのだ。

 この辺を読んでると、グレッグ・イーガンの描く派手で自由度の高いVR世界も、その末端では忙しくリストから要素を出し入れして最適化してるのかな、とか考えちゃったり。でないと、すぐに演算量が爆発しちゃうから。問題に対し、必要な演算量を見積もり、適したデータ構造とアルゴリズムを選ぶマシンなんて、本当に作れるんだろうか?

 と、序盤では古典的なネタで肩慣らししつつ、中盤以降は二次元以上の空間を扱い、より現代的な問題にアプローチしてゆく、今世紀に相応しいアルゴリズムとデータ構造の本だった。その分、歯ごたえも充分にあるので、覚悟して挑もう。

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2019年11月19日 (火)

薄葉重「虫こぶ入門 増補版 虫えい・菌えいの見かた・楽しみかた」八坂書房

…生物の寄生の影響で、植物体の細胞に生長や分化の異常が起こり、結果として奇形化したり、過度に肥大化あるいは未発達に終わるような組織や器官が“ゴール(gall)”ということになる。
  ――第2章 虫こぶの生物学 1.虫こぶの定義

虫こぶをつくる昆虫で、最も種類数が多く、広範囲の植物群に虫こぶを作っているのはタマバエ類である。タマバエ科のハエは4500種ほど知られ、その約半分は虫こぶを作るという。
  ――第2章 虫こぶの生物学 8.タマバエ類とその生活

…菌糸は虫こぶ内で保護されて育ち、タマバエ幼虫は菌糸から栄養を摂取する。また成虫は菌の胞子などを伝播して繁殖を助ける。
  ――第2章 虫こぶの生物学 9.虫こぶを利用する他の生き物

一般に群落の内部は虫こぶを探しにくく、実際にも少ないように思われる。群落の周辺部、道端、渓流の岸など植生に変化があるところを探すのが能率的である。
  ――付録A 虫こぶ観察の手引き 2.探し方のポイント

虫こぶを開いて、すぐ成虫が見つかるのはアブラムシ類やクダアザミウマ類ぐらいで、多くは幼虫なので、すぐには虫こぶをつくる昆虫がわからない場合が多い。
  ――付録A 虫こぶ観察の手引き 4.虫こぶの記録・標本の保存

【どんな本?】

 葉がきれいに開かず、一部がクルリと巻いてしまう。緑色の葉の上に、虫ピンの頭のような形の赤い珠や、黄色いピラミッド状のものができる。果実が異様に大きい、または未熟なまま変形する。幹や枝の途中に妙なデキモノができる。

 これらは虫こぶかもしれない。原因はウイルスや菌の場合もあるが、多くは昆虫が作ったものだ。往々にして農家や園芸家にとっては大敵だが、時として植物と共生関係を築いているものもあれば、人間が利用する場合もある。

 理科教師として勤務する傍ら、虫こぶに魅せられ各地の虫こぶを収集・研究してきた著者が、虫こぶの魅力と研究の実態を伝える、身近な生物学研究の案内書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 元は1995年に八坂書房より自然史双書6「虫こぶ入門 虫と植物の奇妙な関係」として出版。2007年7月30日に同社から増補版として初版第1刷発行。単行本ソフトカバー横一段組み約271頁。9ポイント29字×29行×271頁=約227,911字、400字詰め原稿用紙で約570枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分ぐらいだが、イラストや写真を多く収録しているので、実際の文字数は8割ぐらい。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。植物、特に樹木に詳しいと更に楽しめるだろう。

【構成は?】

 素人向けに親しみやすさを考えた構成なので、素直に頭から読もう。

  • 序章 春のマジック 舞台はエゴノキ
  • 第1章 虫こぶの文化誌
  • 1.虫こぶの歴史
    • 虫こぶをめぐる関心と混乱
    • 日本の古い記録に見る虫こぶ
      笹魚/ナラゴウ/五倍子/イスノキの虫こぶ/マタタビの虫こぶ
  • 2.虫こぶの利用
    • 虫こぶが利用されてきたわけ
    • どのように利用されてきたのか
      薬にする/インクをつくる/なめす/染める/食べる/入れ墨・お歯黒・花材・除草など
  • 3.有名な虫こぶ
    • 没食子
    • 五倍子
  • 4.イチジク果の中の虫こぶ
  • 5.飛び跳ねる虫こぶ
  • 6.忠誠のシンボルとして
  • 7.奇妙な学名
  • 8.植物図鑑に現れた虫こぶ
    イスノキ/ヌルデ/ノブドウ/マタタビ/ニガクサ/ムシクサ/シラヤマギク/マコモ/エゴノキ/ケヤキ
  • 第2章 虫こぶの生物学
  • 1.虫こぶの定義
  • 2.ゴールの細胞や組織の特徴
  • 3.ゴール形成の仕組
  • 4.ゴールのつくりとでき方
  • 5.ゴールが見られる植物
  • 6.ゴールをつくる生物
  • 7.タマバチ類とその生活
    • 分類上の位置とおよその生活
    • 生活史の型
  • 8.タマバエ類とその生活
    • 分類上の位置とおよその生活
  • 9.虫こぶを利用する他の生き物
    • 寄生者(Parasite)
    • 寄居者(Inquiline)
    • サクセッソリ(Successori)
    • 共生者
  • 10.虫こぶの害
    • ヘシアンフライ
    • フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)
  • 11.“移動”する虫こぶ
    • クリタマバチ
    • イギリスでのタマバチの分布拡大
    • 日本の帰化植物の虫こぶ
  • 第3章 虫こぶ観察ノートから
  • 1.カイガラキジラミ
  • 2.ムクノキトガリキジラミ
  • 3.トゲキジラミ
  • 4.タケノウチエゴアブラムシ
  • 5.イスノキの虫こぶ
  • 6.シバヤナギのハバチによる虫こぶ
  • 7.ニシキウツギハコブフシ
  • 8.日本の野生イチジク類とコバチ類
    イヌビワ/アコウ、ガジュマルなど
  • 9.ヤブコウジクキコブフシ
  • 10.アオカモジグサクキコブフシ
  • 11.ヨシメフクレフシと寄生蜂
  • 12.ヨシのタマバエによる虫こぶ
  • 13.ハリオタマバエ類
    キヅカツボミフシ/シラキメタマフシ/ヘクソカズラツボミホソフシ/ヒイラギミミドリフシ/ヤブコウジフクレミフシ/アセビツボミトジフシ/ダイズサヤクビレフシ
  • 終章 日本の虫こぶ研究
  • 付録A 虫こぶ観察の手引き
  • 1.採集
  • 2.探し方のポイント
  • 3.飼育
  • 4.虫こぶの記録・標本の保存
  • 5.野外観察
  • 付録B 日本で普通にみられるゴール
  • あとがき/用語解説/参考文献/索引/補遺

【感想は?】

 きっかけは、こんな葉だ(蓮コラなど集合体恐怖症の人は要注意、→写真)。

 散歩していて、見つけたものだ。実は本書を読み終えた今でも、正体はわからない。虫こぶかもしれないし、病気かもしれない。いずれにせよ、やたら目を惹く葉である。

 本書に出てくる虫こぶは、もっと派手なモノが中心だ。大きさは1cmぐらいから、中には10cmを超えるものもある。その多くはタマバエまたはタマバチによるもの。かつては薬として使われたモノもある。ケッタイな形で目立つから、つい「何か凄い効用がありそう」とか思っちゃうんだろうなあ。

 著者も剛毅で、ナラゴウを「味わってみると柔らかく、うすい酸味とかすかな渋みが残る」とか、食ったんかい。やんちゃだなあ。科学を志す人は、好奇心旺盛な人が多いんだろう。もっとも、メキシコじゃ「砂糖より甘い虫こぶがあり、果物店で売られているという」。でも大抵の虫こぶはタンニンが濃いので、あまし美味しくなさそうだ。その代わり、皮なめしに使われてたり。

 虫こぶを作る虫の生態も、けっこう複雑で、例えばオーク・アップルに虫こぶを作るタマバチ、Biorhiza Pallida。

  1. 交尾後の雌が、オークの根に大豆ぐらいの虫こぶをつくる。
  2. 根の虫こぶから成虫が出てくる。ただし雌だけで、蟻のように羽根がない。
  3. 蟻雌がオークの冬芽に卵を産み、これが虫こぶになる。
  4. この虫こぶから雌雄双方が出てきて交尾する。

 世代ごとに雌だけだったり、雌雄双方があったりする。おまけに雌のみ世代は羽根がない。だもんで、かつては二つの世代は別の種だと思われていたとか。そりゃそうだよね。つか、どうやって同じだと判ったんだろう。往々にして実在の生物の生態は、SF作家の想像力を超えてるなあ。

それとも七回の変態で八つの姿を経る、と考えるべきだろうか。根の卵→根の幼虫→根の蛹→根の成虫→芽の卵→芽の幼虫→芽の蛹→芽の成虫、と。

 などと、一種だけでも複雑なのに、一つの虫こぶに複数種の虫がいるからややこしい。

…寄生者に二次的、三次的に寄生する高次寄生者(Hypetparasite)があり、なかには同種の他個体に寄生するものもある(Autoparasitism,自己寄生)。
  ――第2章 虫こぶの生物学 9.虫こぶを利用する他の生き物

 虫こぶは目立つ。寄生バチにとっては、産卵所のいい目印だ。例えば、既にある卵や、幼虫が幼いうちに卵を産み付け、美味しく育ったところでいただく。寄生されるタマバエにとっちゃたまらん話だが、観察する研究者にとってもいい迷惑だったりする。というのも…

 「面白い虫こぶだ」と思って観察してたら、タマバチが出てきた。「おお、これはタマバチの虫こぶか」と思うでしょ、普通。ところが、実際にはタマバエが作った虫こぶで、そこにタマバチが寄生してた、とかあり得るのだ。しかも、空き家になった虫こぶに住み着くアリやハチやクモがいたり。つか、これも宇宙SFのネタになりそうな話だなあ。

 当然ながら、寄生される植物にとっちゃ嬉しくない、どころか時として壊滅的な被害をもたらす事もある。1920年代にアメリカのコムギに大損害を与えたタマバエのヘシアンフライや、19世紀末にヨーロッパのブドウに猛威を振るったアブラムシのフィロキセラの話などは、農業が本質的に持っている脆さが肌に伝わってくる。単一種を大規模で栽培するってことは、病原菌や害虫に楽園を提供することでもあるのだ。

 「第3章 虫こぶ観察ノートから」では、著者ならではの旅行の楽しみ方を持っているのが伺えて微笑ましい。高校の教師として勤める傍ら、部活の合宿や修学旅行などで出かけた先で、虫こぶを探しては集め研究者の仲間に相談し…と、思いっきり満喫している。私にはただの林に見える風景も、著者には変化に富んだ採集フィールドに見えるんだろうなあ。そういう人生って、豊かだよね。

 とか思うと同時に、生物学という学問の、底知れない幅の広さも、つくづく思い知らされる本だった。何せ昆虫は種類が異様に多い。Wikipedia によれば「2018年時点で知られている昆虫は約100万種」だ。それをカバーするには、著者のような在野の研究者による、熱心なフィールドワークの協力は欠かせないだろう。何か自分にもできることがあるんだろうか。いや今の私は樹木の区別もつかないボンクラなんだけど。

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2019年10月21日 (月)

コリン・エヴァンス「不完全犯罪ファイル2 最新科学捜査が挑んだ88の殺人・凶悪事件」明石書店 藤田真利子訳

全国火災データセンターが発表した数字によると、アメリカでは毎年ほぼ200万件の火災が起きている。そのうちおよそ1/4が故意の火災である。(略)放火の動機には通常三つの種類がある。保険金詐欺、復讐、窃盗や殺人など他の反抗の隠蔽である。
  ――放火

銃身を作るのに使われる工具は刻々と磨り減るので、どの銃にも同じ線条をつけるのは不可能である。
  ――弾道学

燃えるときに出すエネルギーは物によって違う。(略)その大きさの洗濯物が出すエネルギーを176キロワットと算出した。(略)炎の最大の高さを算出できる。この事例ではちょうど75cm(略)。しかし、衣類の山に(略)ガソリンをかければとたんに1300キロワットのエネルギーが生み出され、空中に4mの炎を吹き上げる。
  ――クレゴリー・ブラウンとダーリーン・バックナー事件

LE(弱火薬)に殺傷力を与えるのは容器なのだ。(略)最大の損傷を与えるのは秒速900mで外側に進行する衝撃波である。
TNT(トリニトロトルエン)、ダイナマイト、PETN(四硝酸ペンタエリトール)のような高性能爆薬は(略)爆発の速さは秒速6000mにものぼり…
  ――爆発物

復顔の技術には9000年以上の歴史があることを示す証拠がある。1953年にジェリコで発見された紀元前7500年の頭蓋骨は、石膏で肉付けされ、眼窩には貝殻がはめ込まれて目の代わりになっていた。
  ――復顔

「ヘレナがお墓の中から犯人を指差している」
  ――デイヴィッド・フレディアーニ事件

織物のいたんだ部分も繊維を落としやすい。たとえば、自動車が歩行者を轢いたとき、車体にはほぼ確実に衣服からの繊維がついている。
  ――毛髪と繊維

ヴァッサー大学文学部教授ドナルド・フォスター「人間はみな自分の言葉の囚人なのだ」
  ――シオドア・カジンスキー事件

指紋は別かもしれないが、拡大レンズは他の法医学の道具のなかで最も大勢の犯罪者を監獄に送り込んでいる。
  ――顕微鏡

シアン化水素の存在を臭いでわかるかどうかは遺伝的な能力で、40%の人だけに限られている。
  ――リチャード・オヴァートン事件

二人の試験者に(嘘発見器の)同一の結果を渡して解釈させると、(略)二人が正反対の結論を出すことがある。
  ――嘘発見器(ポリグラフ)

プロの殺し屋は、弾丸が貫通しないで被害者の体内に留まるように力を弱くした武器(弾丸)を選ぶということもある。
  ――ウドハム・シン事件

死体を探す典型的な方法は、T型の鉄の探り棒を持ち、地面に突き刺し、それを抜いて腐敗する肉の存在を示す匂いを嗅ぎ取る。
  ――クライド・スノウ

(科学者ジェームズ・)シューメーカーは(略)実験をしてみた。プロピオン酸の入っている血液を七つの研究所に送ってみたのである。おそろしいことに、三カ所までがそれをエチレングリコールと誤って判定した。
  ――パトリシア・ストーリングズ事件

歯の髄質は自然によって汚染されることがないため、最も豊かなDNA情報源となる。
  ――ダレン・ヴィカーズ事件

鋭錐石は自然の中に存在するが量は少なく、存在するのはぎざぎざの不規則な結晶の形である。
  ――ヴィンランドの地図事件

【どんな本?】

「不完全犯罪ファイル」の続編。

 銃で撃ち殺す。火で焼き殺す。ナイフで刺し殺す。ひもで絞め殺す。鈍器で殴り殺す。自動車で轢き殺す。毒を盛る。様々な殺し方があるが、犯人は何らかの形で被害者と接触する。そして接触すれば、どこかに痕跡を残す。

 血痕の形が分かれば、との時に被害者がどんな姿勢でどう動いたのかがわかる。銃創があれば、どんな角度でどれぐらいの距離で撃ったのかがわかる。指紋が決定的な証拠なのは、ミステリ・ファンでなくとも知っている。最近はDNA鑑定がこれに加わった。ひもや布も、繊維が残っていれば決定的な証拠となりうる。そればかりか、大量生産される工業製品さえ、根気よく調べれば「個性」が見つかる。

 物的証拠が犯人を突き止める決定的な証拠となった事件を多数紹介し、犯罪捜査における科学が果たす役割を明らかにするとともに、科学捜査の手法とその進歩に功績を残した人々を紹介し、科学捜査の歩みを記すミステリ・ファン必携の書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Murder Two : The Second Casebook of Forensic Detection, by Colin Evans, 2004。日本語版は2006年2月15日初版第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み約519頁。9ポイント46字×18行×519頁=約429,732字、400字詰め原稿用紙で約1,075枚。文庫なら上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容もわかりやすい。というか、あまり科学の話は出てこない。内容の多くは事件の概要や捜査や裁判の話で、科学の話は1/4~1/5ぐらいか。やはり凶悪犯罪が中心なので、グロが苦手な人には向かないかも。

【構成は?】

 それぞれ4~6頁の独立した記事からなるので、気になった所から拾い読みしてもいい。〇がついた記事は、科学捜査に功績があった人や、科学捜査で使われる手法の紹介で、ついていない記事は事件の紹介。

  • 謝辞/序文
  • ジョン・アラン事件
  • ロウエル・エイモス事件
  • 〇法人類学
  • トロイ・アームストロング事件
  • 〇放火
  • フランク・アトウッド事件
  • 〇検死
  • 〇マイケル・ベイデン 1939~
  • 〇弾道学
  • ロイ・ベック・ジュニア事件
  • 〇アルフォンス・ベルティヨン 1853~1914
  • 〇血痕分析
  • イボリットとリディ・ド・ボカルメ事件
  • ブース・ディリンジャー事件
  • 〇脳指紋
  • アール・ブラムブレット事件
  • クレゴリー・ブラウンとダーリーン・バックナー事件
  • エドウィン・ブッシュ事件
  • ブライアン・カルザコルト事件
  • スデュアート・キャンベル事件
  • 〇フランシス・カンプス 1905~1972
  • サー・ロジャー・ケイスメント日記事件
  • 〇クロマトグラフィ
  • 〇ロバート・チャーチル 1886~1958
  • ハドン・クラーク事件
  • マーティン・コルウェル事件
  • 〇検視官
  • フレデリック・クロウ事件
  • ジェームズ・ロバート・クルス事件
  • ジョーン・カーリー事件
  • 〇DNA鑑定
  • ハワード・エルキンズ事件
  • フレデリック・エメット=ダン事件
  • 〇法昆虫学
  • 〇爆発物
  • 〇復顔
  • 〇指紋
  • ジェイク・フリーグル事件
  • デイヴィッド・フレディアーニ事件
  • テリー・ギブス事件
  • 〇ジョン・グレイスター 1892~1971
  • ジョージ・グリーン事件
  • 〇ハンス・グロス 1847~1915
  • ジョージ・グァルトニー事件
  • ジョン・ヘイ事件
  • 〇毛髪と繊維
  • ジェームズ・ハンラッティ事件
  • ルイス・ハリー事件
  • エリック・ヘイデン事件
  • スティーヴン・ヘフリン事件
  • 〇エドワード・O・ハインリヒ 1881~1953
  • 〇ミルトン・ヘルバーン 1902~1977
  • 〇サー・エドワード・ヘンリー 1850~1931
  • ウィリアム・A・ハイタワー事件
  • デイヴィッドとジョイ・フッカー事件
  • ウィルバー・ハワード事件
  • アイスマン事件
  • マーク・ジャーマン事件
  • 〇サー・アレック・ジェフリーズ 1950~
  • クレイトン・ジョンソン事件
  • ブライアン・モーリス・ジョーンズ事件
  • シオドア・カジンスキー事件
  • ジーン・カイデル事件
  • ロジャー・キビー事件
  • 〇ナイフの傷
  • 〇アレクサンドル・ラカサーニュ 1843~1924
  • カセム・ラシャール事件
  • マリー・ラファルジュ事件
  • アンジェロ・ジョン・ラマルカ事件
  • 〇ヘンリー・リー 1938~
  • エドワード・レオンスキー事件
  • 〇エドモン・ロカール 1877~1966
  • ジョージ・マッケイ事件
  • エルマー・マカーディ事件
  • デイヴィッド・マイヤーホファー事件
  • 〇顕微鏡
  • デイヴィッド・ミドルトン事件
  • ウォルター・リーロイ・ムーディ・ジュニア事件
  • モルモン遺言書事件
  • アール・モリス事件
  • ケヴィン・モリソン事件
  • 〇中性子放射化分析
  • 〇トーマス・ノグチ 1927~
  • 〇チャールズ・ノリス 1867~1935
  • 〇法歯学
  • リチャード・オヴァートン事件
  • スタンリー・パトレクとジョゼフ・ステブカ事件
  • ライザ・ベン事件
  • サムソン・ペレーラ事件
  • ペルシャ・ミイラ事件
  • チャーリー・フィリップス事件
  • フォーンマスターズ事件
  • 〇アラン・ピンカートン 1819~1884
  • ウィリアム・ポドモア事件
  • 〇嘘発見器(ポリグラフ)
  • エドモン・ド・ラ・ポムレ事件
  • 〇心理プロファイリング
  • 〇不審文書
  • デニス・ラーゾとスティ-ヴン・アッツォリーニ事件
  • ジェームズ・ロバートソン事件
  • キース・ローズ事件
  • ダーリー・ルーティエ事件
  • スティーヴン・シャー事件
  • ジョン・シュニーバーガー事件
  • 〇血清学
  • ロジャー・セヴァーズ事件
  • 〇キース・シンプソン 1907~1985
  • ポーラ・シムズ事件
  • ウドハム・シン事件
  • デヴフック・シヴリ事件
  • デニス・スモーリー事件
  • 〇サー・シドニー・スミス 1883~1969
  • 〇クライド・スノウ 1928~
  • ディモシー・スペンサー事件
  • 〇サー・バーナード・スピルズベリー 1877~1947
  • サー・リー・スタック襲撃事件
  • バーバラ・ステイガー事件
  • パトリシア・ストーリングズ事件
  • 〇ケニス・スターズ 1931~
  • 〇オーギュスト・アンブロワーズ・タルディユー 1818~1879
  • 〇チャールズ・アンソニー・テイラー 1885~1965
  • エリック・テツナー事件
  • シャルル=ルイ・テオバル事件
  • 〇死後経過時間
  • 〇毒物学
  • ジャック・ウンターヴェーガー事件
  • ヴィレム・ファン・リー事件
  • ダレン・ヴィカーズ事件
  • 〇フランソワ=ユ-ジェーヌ・ヴィドック事件 1775~1857
  • ヴィンランドの地図事件
  • 〇声紋
  • アルバート・ウォーカー事件
  • 〇デルバート・ウィード事件
  • 〇シリル・ウェクト 1931~
  • レイモンド・ホワイト事件
  • グスタフ・ウィルソン事件
  • ポール・ウルフ事件
  • ウィリアム・ザフ事件
  • 法医学の歩み/索引

【感想は?】

 事例としては、やはり殺人事件が多い。そのため、全体的に殺伐とした雰囲気が漂っている。

 まあ、仕方がないかな、とも思う。なにせ警察も忙しい。どの事件も、捜査にはやたら手間がかかってる。それは科学的な分析だけじゃない。現場から証拠物件を探したり、物件の製造・流通ルートを探ったり、そういった「足で調べる」類の捜査で、大勢の警官が動いている事例が多いからだ。

 だもんで、本書が扱うのも、いわゆる重大事件が中心となる。例えばハドン・クラーク事件では、ヘアブラシから見つかった、たった一本のかつらの繊維が、犯人を追い詰めてゆく。これを証拠とする科学の手法以上に、たった一本の繊維が重要な証拠となると見抜いた捜査員の手腕も凄い。

 髪といえば、ジョーン・カーリー事件も印象深い。ここでは髪の毛からタリウムを盛られた時期を特定した時期を明らかにする。

人間の髪の毛は毒による悪事の驚くべきバロメーターなのだ。人体内にある毒物は髪の毛の中に移動する。髪はかなり一定の割合で成長するので(およそ2.7日に1mm)、毒物がいつ摂取されたかをおおまかなグラフにすることができる。
  ――ジョーン・カーリー事件

 そんなワケで、髪は大事なのだ。私も残った少ない髪をせいぜい大切にしよう。ああ切ない。

 生物的な証拠としては、指紋とDNAが双璧だろう。他にも「死体につく虫が犯人を告げる」ではウジが活躍した。花粉が現場を示すこともある。死体を水中に捨てても…

顕微鏡検査によって、(被害者の体についていた)藻にははっきりと二つの世代があることがわかった。今年生えてきた新鮮な藻と、去年の死んだ藻である。つまり、死体は少なくとも18カ月は水中にあったということだ。
  ――ウィルバー・ハワード事件

 と、藻が死体の経歴を明らかにしたり。

 私が驚いたのは、大量生産の権化でもあるビニール袋にさえ、その気になれば「個性」を見つけられる、ということ。「ポーラ・シムズ事件」では、ビニールのゴミ袋からアシがついた。ゴミ袋は一日に100万mも作られ、どれもこれも同じように見える。だが、顕微鏡で調べれば、違いが見つかるのだ。コンクリートだって…

コンクリートは砂とセメントと水と骨材をいっしょにして型に入れて作られる。乾くと、その混合比によって独特のパターンができる。
  ――マーク・ジャーマン事件

 と、素材の比率を調べれば、出所は判ったり。

 全般的に殺伐とした事件が多い中で、息抜きになりそう、と思ったのがペルシャ・ミイラ事件。

「わたしはクセルクセス王の娘、ローデュギューネ」
  ――ペルシャ・ミイラ事件

 パキスタンのカラチで、紀元前五世紀のペルシャ帝国の王クセルクセス(→Wikipedia)の娘ローデュギューネのミイラが見つかった、なんて話だ。紀元前五世紀当時、ミイラ技術はエジプトにしかないはず。ミイラが本物なら、ペルシャにも技術が伝わっていたか、王女がエジプトで死んだかだ。いずれにせよ、歴史の通説は大きく揺らぐ。ところが…。

 物騒なネタが多い中で、こういった贋作事件は、やはり気分転換になる。中でも印象深いのが、モルモン遺言書事件だ。前の巻でも出てきた変わり者の大富豪ハワード・ヒューズは、亡き後も世間を騒がせる。遺産を巡り人々が騒ぎ駆けずり回る中、彼の自筆の遺言書がモルモン教の本部に届いたのだ。果たして…って、改めて読むと、かなりお粗末な手口だけどw

 偽造事件としては、ヴィンランドの地図事件の方がよほど洗練されている。時は1965年、1440年ごろに書かれたと思われる地図が見つかる。そこには大西洋西部にヴィニランダ・インスラことヴィンランドが書かれていた。用紙の仔牛皮紙は1434年ごろのもの、付属の文書は中世ラテン語。しかし…

 前巻同様、事件物として面白い記事が盛りだくさんだ。ただ、それぞれの事件のタイトルで、少し損をしているのも、前巻と同じ。例えばブース・ディリンジャー事件は、エイブラハム・リンカーン暗殺事件で使われた銃をめぐる話だし、シオドア・カジンスキー事件は、かの有名なユナボマーの記事だ。

 進歩の速い現代科学の世界で2004年の作品というのはいささか残念だが、それでも科学が犯罪捜査にどれほど役立つかは充分に伝わってくる。また、こういった手法が未発達な昔を想像すると、うすら寒い気分になるし、「検視官」のようにその懸念を裏付ける記事もある。「小さな塵の大きな不思議」とかを読むと、未来の犯罪捜査にまで妄想が広がって、眠れなくなったり。

 そこまで妄想を働かせなくとも、犯罪の事例集として野次馬根性で読んでも充分に楽しめるので、気軽に手に取ってみよう。

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2019年10月17日 (木)

コリン・エヴァンス「不完全犯罪ファイル 科学が暴いた100の難事件」明石書店 藤田真利子訳

本書は、現代の犯罪捜査における科学の役割を確立するのに重要な役割を果たした百件の犯罪を世界中から集め、事件の簡潔で正確な要約を通して科学捜査の進歩の跡をたどろうとするものである。
  ――序文

死体を発見したら、三つの質問に答えなければならない。被害者は誰か? 死後どの程度の時間が経過したか? 何が原因で死んだのか?
  ――2 死因

刑務所は「完全殺人」を犯した人々でいっぱいである。
  ――2 死因

爆弾のかなりの部分は爆発後もそのまま残っている。
  ――5 爆発物と火事

一人一人の指紋が違うということは、古代中国やバビロニア文明の時代から知られていた…
  ――6 指紋

指紋の耐久性についてはよく知られている。エジプトのミイラからも、無傷の指紋が見つかっている。
  ――6 指紋

人体の組織のうちで死後も変質しにくいのが歯だ。
  ――8 法医学

殺人事件の犠牲者の大半は顔見知りによって殺害されている…
  ――10 死体の個人識別

血清学の進歩によって今や三百種類の血液型識別法が可能になっている
  ――11 血清学

人が死んでからどれくらい時間がたっているかを知る伝統的な指標は、死後硬直、死斑(または血液沈滞)、死体の体温の三つである。(略)このうちのどれを根拠にしても、確実な死亡時刻は割り出せない。この三つは、周囲の温度、身体の状態、運動、酒、薬など、様々な要素によって早くなったり遅くなったりする。
  ――12 死亡時刻

17世紀までには、裕福な家ではプロの毒殺者を雇うのが日常茶飯事になっていたし、お家騒動を落着させるためにヨーロッパの王室が毒殺者を使うことも珍しくなかった。
  ――13 毒物学

1989年には、合衆国で18,954件の殺人事件があったが、その中で毒物を用いたケースはわずか28件だった。
  ――13 毒物学

中性子放射化合分析(NAA,→Wikipedia)とは、試料を(略)原子炉に挿入して、中性子で衝撃を与え、放射性にする(略)。放射性原子が崩壊する速度を計ることによって、試料に含まれる微量元素を識別することができる。
  ――14 痕跡証拠

【どんな本?】

 犯罪の捜査で物的証拠を掴むには、その時々の最新の科学が動員される。最も王道とされるのは指紋だろう。70年代のミステリでは血液型が多く登場したが、今はDNA鑑定にその座を譲った。最近では、ごくわずかな繊維でも重要な証拠となる。

 本書は、弾道学・毒物・犯罪心理分析・声紋などの技術ごとに、18世紀半ばから1990年代初頭までの事件を例に、それぞれの技術に何が出来るか・どのように発達したか・どう捜査で使われ法廷で認められるようになったかを示し、科学捜査の進歩と発達の歴史を辿ってゆく。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Casebook of Forensic Detection : How Science Solved 100 of the World's Most Baffling Crimes, by Colin Evans, 1996。日本語版は2000年9月20日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで約504頁。9ポイント45字×18行×504頁=約408,240字、400字詰め原稿用紙で約1,021枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれている。内容も分かりやすい。というのも、実はあまり科学には踏み込んでいないのだ。むしろ犯罪と捜査の実例集として面白い。

【構成は?】

 それぞれの技術ごとに、古い事件から新しい事件の順に並んでいる。各事例は4~6頁程度で、それぞれ独立した記事なので、気になった事例を拾い読みしてもいい。

  • 序文
  • 1 弾道学
    チャールズ・スティーロウ事件/サッコとヴァンゼッティ事件/ブラウンとケネディ事件/ジョン・ブレイニオン事件/ジョゼフ・クリストファー事件/ジェームズ・ミッチェル事件
  • 2 死因
    ノーマン・ソーン事件/デイヴィッド・マーシャル事件/ジェームズ・キャム事件/ケニス・バーロウ事件/カール・コッポリーノ事件/リチャード・カクリンスキー事件
  • 3 書類鑑定
    ジョン・マグヌソン事件/アアーサー・ペリー事件/ヒトラーの日記事件/グレアム・バックハウス事件
  • 4 DNAタイピング
    ロマノフ家事件/コリン・ピッチフォーク事件/カーク・ブラッズワース事件/ロミー・リー・アンドリュース事件/イアン・シムズ事件
  • 5 爆発物と火事
    フレデリック・スモール事件/チャールズ・シュワーツ事件/シドニー・フォックス事件/ジョン・グラハム事件/スティーブン・ベンソン事件/パンナム103便事件
  • 6 指紋
    フランセスカ・ロハス事件/ストラットン兄弟事件/トーマス・ジェニングス事件/ウィリアム・バーガー事件/ケリー団事件/エドワード・モリー事件/ピーター・グリフィス事件/ジョージ・ロス事件/ヴァレリアン・トリファ事件/リチャード・ラムレス事件/ステラ・ニッケル事件
  • 7 法人類学
    ミシェル・エロー事件/アドルフ・ラトガート事件/ジョージ・ショットン事件/ウィリアム・ベイリー事件/ジョン・ウェイン・ゲイシー事件/ヨーゼフ・メンゲレ事件/ジョン・リスト事件
  • 8 法歯学
    ジョン・ウェブスター事件/ハリー・ドブキン事件/ゴードン・ヘイ事件/セオドア・バンディ事件/カーマイン・カラブロ事件
  • 9 犯罪心理分析
    ジョージ・メテスキー事件/リチャード・チェイス事件/ジョン・ダフィ事件
  • 10 死体の個人識別
    ソーンとナック事件/パトリック・ヒギンズ事件/ハンス・シュミット事件/エドワード・ケラー事件/ベッカーとノーキン事件/パトリック・マホン事件/ヘンリー・コリン・キャンベル事件/パトリック・ブレイディ事件/バック・ラックストン事件/アーサー・エガース事件/リチャード・クラフツ事件
  • 11 血清学
    ピエール・ヴォワルボ事件/ルードヴィッヒ・テスノウ事件/ジェシー・ワトキンズ事件/ジャニー・ドナルド事件/ジョゼフ・ウィリアムズ事件/W・トーマス・ジーグラー・ジュニア事件/アーサー・ハッチスン事件
  • 12 死亡時刻
    ジェームズとシャック事件/アニバル・アルモドバル事件/スティーブン・トラスコット事件/ウィリアム・ジェニングズ事件/デイヴィッド・ヘンドリクス事件
  • 13 毒物学
    メアリー・ブランディ事件/チャールズ・ホール事件/ロバート・ブキャナン事件/エヴァ・ラブレン事件/ジョン・アームストロング事件/ゲオルギ・マルコフ事件
  • 14 痕跡証拠
    ウィリアム・ドー事件/コリン・ロス事件/ドートルマン兄弟事件/ブルーノ・ハウプトマン事件/ジョン・フィオレンツァ事件/サミュエル・モーガン事件/ジョン・ヴォルマン事件/チェスター・ウェーガー事件/スティーブン・ブラッドリー事件/ロジャー・ペイン事件/ジェフリー・マクドナルド事件/ライオネル・ウィリアムズ事件/ウェイン・ウィリアムズ事件/ジョン・ジューバート事件/マルコム・フェアリー事件
  • 15 声紋
    クリフォード・アーヴィング事件/ブライアン・フッソン事件/ジミー・ウェイン・グレン事件
  • 付録 法医学の先駆者たちと代表的事件
  • 索引

【感想は?】

 科学というより、事件物として面白い。

 有名な事件も扱ってるんだが、素人は目次じゃわからなかったりする。例えばセオドア・バンディ事件。世間じゃテッド・バンディ(→Wikipedia)の名で通っている。同様にブルーノ・ハウプトマン事件は、リンドバーグ長男誘拐事件(→Wikipedia)だ。

 このリンドバーグ長男誘拐事件では、犯人が残した手製のはしごが重要な証拠物件の一つとなる。これの材料の木はもちろん、仕上げに使った「ベルト駆動式かんな盤」まで、科学捜査が特定した。だが、科学にできるのはここまで。その後、各地の製材所に問い合わせ、木材のルートを突き止めるのは、しらみつぶしの捜査によるもの。科学は役に立つけど、最終的なケリは従来通りの地道な捜査だったりする。

 心理分析も、ちょっと前に話題になった。最初のジョージ・メテスキー事件では、見事に犯人像を予言してみせる。

「逮捕のときには、(犯人は)ダブルのスーツを、ボタンをかけて着ているだろう」
  ――9 犯罪心理分析

 他にも多くの特徴をあげている。40~50代の男で偏執病、内向的で均整の取れた体、きれい好きで身なりもいい。高学歴だが米国育ちじゃないスラブ系。熟練の機械工で女に関心がなく信心深い…。いずれもちゃんと根拠があったりする。とはいえ、意外とネタは月並みで。

犯罪心理分析の核となるのは、犯罪統計学に対する完璧な知識である。
  ――9 犯罪心理分析

 例えば、暴行殺人は同じ人種間で多い。白人は白人を襲い、黒人は黒人を襲う。また暴行殺人の多くは若い男だ。なんのことはない、ベテラン刑事が経験を積んで身に着けるカンを、統計で裏付けたのが犯罪心理分析なのだ。

 殺伐とした事件が多い中、本好きのニワカ軍ヲタとして目を惹かれたのが、「ヒトラーの日記事件」。1981年2月、ドイツの大手出版社グルーナー・ウント・ヤールに、お宝らしき物が持ち込まれる。

(略)ほとんど読めない字でドイツ語で書かれていたその原稿は、出版界における今世紀最大の掘り出し物だった。ヒトラーの日記である。
  ――3 書類鑑定

 お宝を持ち込んだゲルト・ハイデマンは、約200万ドルを要求する。本物なら、確かにそれぐらいの価値はあるだろう。なんたって20世紀ドイツ最高の有名人だし。とはいえ、いかにも怪しげだ。だから本物かどうか確かめなきゃいけない。そこで、有名な筆跡鑑定の専門家オードウェイ・ヒルトンに真贋判定を頼む。ヒルトンの鑑定結果は…「本物」。

 残念ながら、後の調査で日記は偽物とバレる。紙の漂白剤は1954年以降のもの、紋章の糸はポリエステルで工業化されたのは1953年(→Wikipedia)、インクも戦後のもの。

 実はヒルトンが間違ったのには、ちゃんと理由がある。まず「ヒルトンはドイツ語をまったく理解」しなかった。それより切ないことに、本物のヒトラーの手書きサンプルとして渡されたブツも、「日誌と出所が同じ」だったのだ。そりゃ間違えるよ。

 やはり歴史好きの血を騒がせるのが、「ロマノフ家事件」。そう、スリラーやミステリの定番、ロシア最後の皇帝ニコライ二世とその家族、特に伝説の主役となりがちな皇女アナスタシアの真実を突き止めた話。ここでは現代の犯罪捜査の切り札DNA鑑定が大活躍する。

 時は1991年、場所はエカテリンブルク近くの沼の多い牧草地。見つかったのは骨だけだが、ミトコンドリアDNAの鑑定で本物と結論が出てしまう。いけず。とはいえ、これからも、作家は色々な抜け道を考え出すんだろうなあ。

 などと活躍するDNA鑑定は、真犯人を突き止めるだけでなく…

ブラッズワース釈放の際(1993年6月28日)に、全米刑事弁護人教会DNA作業会会長のピーター・ニューフェルド氏は、これまでに10人前後の在監者がDNA鑑定の結果釈放された、と述べた。
  ――4 DNAタイピング

 と、無実の人の潔白を証明するのにも一役買っているのが嬉しい。日本にもDNA鑑定を望む在監者はいるんだろうなあ。

 この本ではアメリカとイギリスの例が中心だ。向こうは土葬が多いためか、墓を掘り返す話もよく出てくる。こういうのを読むと、日本の火葬も善し悪しに思えてくる。特に犯罪被害者は、犯人が明らかになるまで保存した方がいいかも。

 遺体の調査で凄いのが、「チャールズ・ホール事件」。1871年の事件の真相を、ほぼ一世紀後の1968年に解き明かしたケースだ。

 1871年、合衆国の支援を受け蒸気引船ポラリス号が北極探査に出かけるが、グリーンランドで越冬する羽目になる。船長チャールズ・フランシス・ホールは船医のエミール・ベッセルスと折り合いが悪かった。1871年11月、船長ホールは昏睡状態に陥り亡くなり、凍った岸辺に葬られる。

 当時からベッセルスによる毒殺の疑いはあった。再調査が行われたのは約一世紀後の1968年。調査隊が送られ、彼の遺体が見つかる。「遺体の保存状態は驚くほどよく」「眼孔が空洞になっていたことと鼻の先端が萎んでいたことを除けば顔は無事」というから、さすが永久凍土。さて、彼の遺体から検出されたのは…

 どの事件も科学技術を使っているのは共通しているが、それと共に現場で集めた小さなサンプル、例えば繊維の切れ端や自動車の塗装片などが重要な手掛かりになるケースも多い。科学は発達しても、刑事さんたちの地道な努力が必要な事に変わりはないようだ。何せ大量の事件を収録しているので、ミステリ作家のアンチョコとしてもやたら便利だろう。

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2019年10月 6日 (日)

ペートル・ベックマン「πの歴史」ちくま学芸文庫 田尾陽一・清水韶光訳

ユークリッドは幾何学の父ではなく、数学的厳密性の父なのである。
  ――第4章 ユークリッド

ローマは、組織された強盗集団の最初の国でも最後の国でもない。しかし、後の時代の世界中のほとんどの人々をだまして、称賛するようにしむけた点では、唯一の国である。
  ――第5章 ローマという名のペスト

<背理法>というのは、今日までにひろく知られた証明法であるが欠点がひとつある。それは、否定すべきあやまった結論を知るには、まえもって正しい結果を知っていなければならないということである。
  ――第6章 シラクサのアルキメデス

連分数は、現在“失われた数学”の分野に属する。
  ――第12章 突破への序曲

彼(ニュートン)の方法を使うと関数やその積分、微分も無限級数に展開することができる。
  ――第13章 ニュートン

オイラーが(偶然なのだが)πと結びついた問題を徹底的にとりあつかってしまったので、彼の後に、πの計算をするもっとよい方法を見つけた人は、誰もいなかった。
  ――第14章 オイラー

…超越数が存在するとして、それらはなぜ関心をひくのだろうか。その答えは、超越数が多くの興味ある性質を持っているということであり、またもっというと、πの超越性が、昔からの問題である、円を正方形にすることの可能性について、解答をただちに与えるからである。
  ――第16章 超越数π<

コンパスと定規だけしか使えないときには、直線と円しか描けない(これらの方程式は、たかだか2次の代数方程式である)。
  ――第16章 超越数π<

【どんな本?】

 π。円周率。3.14159…。円周の長さを直径で割った数値。今では無理数、それも超越数(→Wikipedia)だと判っているが、かつては 3+1/7 や 3+17/120 などとしていた。

 人類は、いかにして正確なπの値へと迫っていったのか。様々な文明は、どんな値を当てはめていたのか。その数値は、どんな性質を持っているのか。そして、その性質は、数学にどんな変化をもたらしたのか。

 電気工学者である著者が、独特の歴史観を全面的に押し出し、容赦ない毒舌をまぶしながら語る、個性あふれる一般向けの数学史。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は A History of π, by Petr Beckmann, 1971。日本語版は1973年9月29日に蒼樹書房より刊行、2006年4月10日にちくま学芸文庫より文庫版発行。私が読んだのは2006年5月20日発行の第二刷。文庫本で横一段組み本文約305頁に加え、訳者あとがき3頁+文庫版あとがき1頁。8.5ポイント26字×25行×305頁=198,250字、400字詰め原稿用紙で約496枚。文庫本としては普通の厚さ。

 数学の本のわりに文章はこなれている。内容は、読み方によりけり。というのも、やはり数学の本だから、数式はしょっちゅう出てくる。が、これを完全に読み飛ばしても、実は構わない。そういう読み方をすれば、数学が苦手でも、歴史の本として楽しめる。というか、私は読み飛ばした。ただし、超越数については知っていた方がいい。真面目に数式に取り組むなら、三角関数・微分・級数展開ぐらいは使いこなせないと厳しい。

というか、πを求めるのに三角関数を使うのは反則だと思うんだが、どうなのよ←負け惜しみです

【構成は?】

 各章はほぼ独立している。歴史の本として数式を飛ばして読む、または数学が得意なら、気になった所だけを拾い読みしてもい。数式を含めて読むなら、相応の覚悟が必要。悪いことは言わない。数式が出てきて「なんか難しそうだなあ」と思ったら、無理しないで読み飛ばそう。繰り返すが、私は数式を読み飛ばした。

  • まえがき
  • 第二版へのまえがき
  • 第三版へのまえがき
  • 第1章 夜明け
  • 第2章 ベルト地帯
  • 第3章 古代ギリシャ人
  • 第4章 ユークリッド
  • 第5章 ローマという名のペスト
  • 第6章 シラクサのアルキメデス
  • 第7章 たそがれ時代
  • 第8章 暗黒時代
  • 第9章 めざめ
  • 第10章 数の狩人たち
  • 第11章 さいごのアルキメデス学派
  • 第12章 突破への序曲
  • 第13章 ニュートン
  • 第14章 オイラー
  • 第15章 モンテ・カルロ法
  • 第16章 超越数π
  • 第17章 現代の正方形屋たち
  • 第18章 コンピュータ時代
  • 原註/訳註/参考文献/年代表/訳者あとがき/文庫版あとがき

【感想は?】

 歴史観は人それぞれだ。それぞれだが、個性が強いほど、断言する文章が多くなり、本としては爽快で楽しい。

 そして、この本には著者の独特の歴史観が強く出ている。だから、気が合う人には、とっても楽しい本だ。では、どんな歴史感か。

 著者は1924年のプラハ生まれだ。そのためか、西欧中心の歴史観に反感を持っていて、本書にはアステカや日本の話題も出てくる。また、ナチスやソ連に踏みにじられた歴史からか、全体主義に強く反発する。加えて工学者だ。当然、数学の恩恵を大きく受けているから、数学や科学が大好きだ。そして、母国の歴史も相まってか、政治力や軍事力のゴリ押しが大嫌いだ。

 この視点がよくわかるのが、人物や文明への評価だろう。ユークリッドやアルキメデスを高く評価するのは、まあ常識的なところ。ところが、アリストテレスは「2000年近くも科学の進歩を封じてしまった」とこき下ろす。自らの手で実験をせず、脳内で考えをもてあそんだのが気に入らないのだ。

 更に強烈なのが、ローマ帝国への評価で、まるしき強盗団扱いである。まあ、ローマの支配下じゃ理論はほとんど進歩せず、土木などの応用技術だけが進んだから、そういう事だろう。パックス・ロマーナに対しては、「チャーチルが邪魔しなきゃパックス・ジャーマニカが成ったぜ」って、某漫才コンビも真っ青な毒舌ぶりだw

 さて。主題のπだが、これは自然数でもなければ有理数でもない。超越数(→Wikipedia)だ。超越数を私なりに大雑把な説明をすると…

  • 有理数:整数と加減乗除の組み合わせで表せる実数(=虚数部はなし)。
  • 無理数:有理数ではない実数(=虚数部はなし)。
  • 代数的数:整数と加減乗除とn乗根の組み合わせで表せる複素数。
  • 超越数:代数的数ではない数、つまり整数と加減乗除とn乗根の組み合わせでは表せない複素数。

 πがいかにケッタイな数か、お分かりだろうか。計算では実態がつかめないのだ。1/3などの循環小数なら、簡単な筆算ですぐわかる。同じ無理数でも、√2は1×1の正方形の対角線の長さとして、方程式で出てくる。だがπは違う。この性質が、ある種の人を惹きつけるらしく…

数の狩人たちがすべてπの値に注目していることは、興味深い現象である。√2やsin1°やlog2を、数百桁まで求めようとした人は、ひとりもいないのだ。
  ――第10章 数の狩人たち

 本能的にヤバさを感じたんだろうか。そんなわけで、近似値を求めるしかない。その方法として最も分かりやすいのが、アンティフォンとアルキメデスの方法だ。円に内接する多角形と外接する多角形の周の長さを求め、少しづつ範囲を狭めていく。三平方の定理を知っていれば、中学生だって思いつくだろう。おかげで…

アルキメデス以来、πの桁数を上げる計算は、純粋に計算能力と忍耐力の問題になってしまったのだ。
  ――第2章 ベルト地帯

 今ならコンピュータで力任せの演算ができるが、当時はそんなモノはない。手計算ならまだマシで、下手すると暗算だ。これを解決する方法は二つ。腕自慢を集めるか、計算量を減らすか。この二つの方向性は、現代の計算機科学でも競い合い協力し合っているから感慨深い。その代表がGoogleで…ってのは置いて。

 腕自慢の一人が、ヨハン・マルチン・ツァハリアス・ターゼ。1844年に2カ月以内で200桁のπの値を計算した。ただし、ターゼが優れていたのは計算能力だけで…

…驚異的な計算能力をもつ人々の大多数は、ヨハン・ダーゼも含めて、<あほうな奴隷>のような存在であった。彼らは、計算の素早さではすぐれていたが、他のあらゆる点でまったくのろまであった。数学においても、駄目だった。
  ――第10章 数の狩人たち

 計算能力と数学能力は違うんですね。だもんで、計算は速くても、計算すべき式(というかアルゴリズム)がなきゃ手も足も出ない。その式を与えたのが、数学者 L. K. シュルツ・フォン・シュトラスニッキー。で、この時の式は、アルキメデスの式ではない。つまり計算量を減らす方向でも、進歩していたのだ。

 その方法の一つが、級数(→Wikipedia)だ。恥ずかしながら私、今まで級数の何が嬉しいのか全く見当がつかなかったんだが、この本で少しだけわかった。何より計算量で精度が制御できるのが嬉しい。実にコンピュータ向きの手法じゃないか。まあ、コンピュータが出てくるまで数学者が級数の有難みをどれほど分かっていたかは疑問だが、彼らにとっちゃ役に立つか否かはどうでもいいことなんだろう。なんたって…

19世紀に気体運動論があらわれるまで、確率論はギャンブル以外に使い道がなかったのである。
  ――第15章 モンテ・カルロ法

…ラプラスはもっと強力な計算法を発見していた。この方法は電子計算機が発達するまでは役に立たなかった。
  ――第15章 モンテ・カルロ法

 と、役に立とうが立つまいが、面白いと思ったら突き進んじゃう、そういう人たちなのだから。

 そのコンピュータは、最終章でやっと登場だ。1949年9月ENIACが2037桁まで70時間で計算したのに対し、1954年11月にはNORCが3089桁まで13分で計算している。5年ほどで300倍以上の高速化だ。とんでもねえ進歩である。ここでは、2進数から10進数に変換する時間までいちいち書いてあるのが、マニアックで楽しい。いや単純な計算だけど、面倒くさいのよ、ホント。

ちなみに今ざっと調べたところでは、2019年3月現在の記録は Google がクラウドで計算した31.4兆桁(→ITmedia)。31.4ってトコがシャレてるね。

 などと数学関係の話を主に紹介したが、歴史の話もやたらと楽しい。カエサルはもちろん、ナポレオンも辛らつにこき下ろし、終盤では現代の教養人ぶったラダイトを一言で薙ぎ払っている。そういう意味では、SF者の心を震わせる本でもあった。

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2019年9月27日 (金)

ナショナル・ジオグラフィック別冊「科学の迷信 世界をまどわせた思い込みの真相」日経BPムック

春分の日または天文学上、春の最初に当たる日に、卵を垂直に置いたら立つ、というのは本当だ。
また、このワザを試しに秋分の日とか、夏至や冬至の日などにやってみても、確かに立つ。
ついでに言うと、一年中、どの日にやっても立つ。

【どんな本?】

 重い物は軽い物より早く落ちる? 指をポキポキと鳴らすと関節炎になる? レミングは集団自殺する? ダウジングで地下水が見つかる?

 昔から人々の間には様々な事件や怪物やジンクス、おまじないなどの言い伝えがあったし、現代でも新たな都市伝説や陰謀論が流布しては消えてゆくが、占星術のように長い年月を経て生き延びるものもある。

 天動説や瀉血など、当時の一流の知識人までもが信じていた説から、ホメオパシーや永久機関などいかにも怪しげなもの、そしてネス湖の怪獣やミステリーサークルなど遊び心をそそるネタまで、バラエティに富んだ話を100個集め、豊富な写真とイラストで楽しく読めるように工夫した、一般向けのお楽しみムック。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は 100 Hoaxes and Mistakes That Fooled Science, 2018。日本語版は2018年10月14日発行。雑誌より一回り大きいサイズで横三段組み本文約150頁。8.5ポイント15字×42行×3段×150頁=約283,500字、400字詰め原稿用紙で約709枚。文庫なら厚い一冊分なんだが、紙面の2/3ぐらいは写真やイラストなので、実際の文字数は3割ぐらい。小説なら中編の分量。

 文章は読みやすい。内容も初歩的・入門書的なものが多い。

【構成は?】

 1~2頁の独立した記事をカテゴリごとに集めた形なので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

Chapter1 物理と科学の迷信
Chapter2 古代の迷信
Chapter3 人体の迷信
Chapter4 生物の迷信
Chapter5 地球の迷信
Chapter6 宇宙の迷信

【感想は?】

 SFやオカルトのネタ定番帳。

 つまりは古今の迷信を集めた本だ。迷信にも色々あるが、特に科学のフリをしたモノを集めている。

 中には錬金術や火星の運河やなど、ずっと昔に廃れたものもあるし、ホメオパシーや「ワクチンで自閉症になる」なんて現代でも猛威を振るっているものもある。こういう最近になって出てきたモノはすぐに廃れそうな気がするが、歴史の古い占星術は廃れそうにない。そういえば占星術にも西洋式だけでなく中国式とかもあるけど、こっちはあまし流行らないなあ。なんでだろうね。

 全般的に初歩的なモノが多いが、私の勘ちがいを指摘してくれたモノもあった。例えば「指の節を鳴らすと関節炎になる」。これは勘ちがいを教えてくれるだけでなく、ドナルド・L・アンガー(→Wikipedia)の実証実験が凄い。科学者の鑑だw あと、「大人の脳細胞は増えない」もすっかり勘違いしてた。思い込みの元は確かラリイ・ニーヴンの「無常の月」だったかな?

 ちとガックリきたのが、「毛はそると濃くなる」。いや頭頂部が砂漠化している者にとって、「じゃ丸坊主にして剃れば…」と妙な期待を抱いたが、「それで毛包がよみがえったという話は聞かない」。ぐぬぬ。

 やはり勘ちがいを指摘されたのが、「体温は頭から失われてゆく」。このネタ元は「米陸軍サバイバル全書」で、体温の40~45%は頭から失われる、だから帽子をかぶれ、とある。

 実は間違いとも言い切れない。追実験で確かめたところ、「外気にさらされている肌から熱が逃げる」。そして、米陸軍が測った際は、極地仕様のサバイバルスーツを着ていたが帽子はかぶっていなかった。つまり、最も露出面積が広いのが頭部だったのだ。日本じゃあまり帽子が流行らないことを考えると、あながち間違いでもないでしょ、でしょ。

 とはいえ、全般的に初歩的なネタが多いので、科学の本としてはいささか食い足りない感がある。また、個々の記事が短いため、いずれも科学的な説明やエピソードの記述が短すぎて、ちと駆け足だよなあ、と感じる部分は多い。が、逆に、だからこそネットで検索して、より深く突っ込んで調べる楽しみもある。

 特にソッチの楽しみを与えてくれるのが、日本ではあまり知られていないネタ。

 私が最初に「おおっ!」と思ったのが、「レッドマーキュリー」。1991年のソ連崩壊のドサクサに紛れ、国外に持ち出された赤軍の秘密兵器を示すものだ。本書では謎の金属だったりステルス塗料だったり。何せソ連、国土は広いし周辺はアレな国ばかり、サスペンス小説のネタとしては実に美味しい。でも、きっと既に誰かが書いてるね。フォーサイスの「第四の核」は、違ったっけ?

 陰謀論で有名なのは「月着陸捏造説」だが、「ケムトレイル」(→Wikipedia)を知る人は少ないだろう。長く残る飛行機雲だが、これを「有害物質をまき散らしている」と考える人がいるのだ。いやコッソリ何かを蒔くなら、目立たないようにするんじゃね? 航空機産業が盛んなアメリカらしい陰謀論だなあ。

 やはり知らなかったのが、コロイダルシルバー。銀には抗菌特性があるとして、微小な銀の粒子を混ぜた水を特効薬として売っているとか。今、検索したら、日本語でもウジャウジャ出てきた。マジかい。商売人は逞しいねえ。でも摂りすぎると肌に青みがかったり最悪の場合は脳卒中を引き起こすので、ロクなモンじゃない。

 とかの中で、ケリがついていない話もある。特にSF者として気になるのが、「宇宙戦争」だ。1938年10月30日、H・G・ウェルズ原作オーソン・ウェルズ翻案のラジオ・ドラマ「宇宙戦争」がパニックを引き起こした、とする事件だ(→Wikipedia)。ところがこのパニック、「番組放送後に新聞社が創作した話だったという」。信じちゃった人もいるが、大きな騒ぎにはならなかった、と。今の所、実態はよくわからない。

 などの文章以上に、何せ版が大きいだけに、豊富に収録した写真やイラストの魅力も大きい。Chapter4 の扉の恐竜のCGとか、壁紙にするためデジタルで欲しくなったり。またシカみたいな角の生えた野ウサギ「ジャッカロープ」とか、いかにもアメリカの田舎らしい法螺も楽しい。家族で楽しむ本だろう。

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2019年9月15日 (日)

ジョージ・ジョンソン「もうひとつの世界でもっとも美しい10の科学実験」日経BP社 吉田三知世訳

…重要なのは、その実験の計画と実施が美しいこと、思考の流れが、無駄のない美しいものであることだ。
  ――まえがき

色とは屈折率にほかならないのだ。
  ――第3章 アイザック・ニュ-トン 色とは何か

電池はある形のエネルギー――化学的エネルギー――を別の形のエネルギー――電気的エネルギー――に変換する「るつぼ」だったのだ。
  ――第6章 マイケル・ファラデー 奥深く隠されしもの

ウィリアム・トムソン「ジュールが多くの点で間違っていることは確かだと思いますが、彼はどうやら極めて重要な事実を発見したようです」
  ――第7章 ジェームズ・ジュール 世界はどのように仕事をするのか

【どんな本?】

  2002年、≪フィジックス・ワールド≫誌は「一番美しいと思う物理学の実験」のアンケートを取る。その結果は書籍「世界でもっとも美しい10の科学実験」としてまとまった。ただ、≪フィジックス・ワールド≫誌は物理学雑誌のため、選ばれた実験は物理学だけだ。

 これを科学全体に広げたら、どうなるだろう? そう考えた著者は、自分なりの基準で10の実験を選ぶ。先の著作と重なる実験もあれば、新しく登場した実験もある。

 これらの実験を通し、科学の楽しさ・美しさを伝えようとする、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Ten Most Beautiful Experiments, by George Johnson, 2008。日本語版は2009年9月29日1版1刷。単行本ハードカバー縦一段組み本文約210頁に加え、訳者あとがき7頁。9.5ポイント44字×17行×210頁=約157,080字、400字詰め原稿用紙で約393枚。文庫本ならやや薄め。

 文章はのなれていて親しみやすく読みやすい。内容も特に難しくない。中学卒業程度の理科の素養があれば、充分に読みこなせる。というか、初歩的な内容が多いので、むしろあまり科学に詳しくない人の方が楽しめるだろう。

【構成は?】

 各章は独立しているので、気になった所から拾い読みしてもいい。

  • まえがき
  • 第1章 ガリレオ・ガリレイ 物体はほんとうはどのように動くのか
  • 第2章 ウィリアム・ハーヴィ 心臓の謎
  • 第3章 アイザック・ニュ-トン 色とは何か
  • 第4章 アントワーヌ=ローラン・ド・ラヴォアジエ 徴税請負人の娘婿
  • 第5章 ルイージ・ガルヴァーニ 動物電気
  • 第6章 マイケル・ファラデー 奥深く隠されしもの
  • 第7章 ジェームズ・ジュール 世界はどのように仕事をするのか
  • 第8章 A・A・マイケルソン 宇宙で迷う
  • 第9章 イワン・パブロフ 測定不可能なものを測定する
  • 第10章 ロバート・ミリカン ボーダーランドで
  • あとがき 11番目のもっとも美しい実験
  • 謝辞/訳者あとがき/図のクレジット/原注と参考文献/索引

【感想は?】

 けっこう本を読む方だし、そこそこ科学にも詳しいと自分じゃ思っていた。が、実はそうでもなかったようだ。

 特に強く感じたのが、「第9章 イワン・パブロフ 測定不可能なものを測定する」。かの有名な「パブロフの犬」のパブロフ先生だ。読む前は、こう思っていた。「あの条件反射ね。その何が凄いの?」

 まず、パブロフが調べたのは、「犬が唾液を出す」という現象だけじゃない。他にも様々な事を調べている。

 例えば唾液の成分だ。本書では二種類を紹介している。一つは美味しい食べ物に反応する唾液で、これはムチン(→Wikipedia)を含む。しかも、同時に胃や十二指腸は消化の準備を始めている。私たちの体は、ベルトコンベア式の優れた消化工場なのだ。

 もう一つは、嫌な味のもの、からし油や塩を与えた場合。この時の唾液は「ほとんど水」で、つまりは洗浄水だ。たかが唾液だけど、目的によって成分を調整しているのだ。体って凄い。

 俗説じゃパブロフはベルの音と餌を関連付けたことになっている。だが、実際は様々な刺激で反応を導きだした。閃光・物体の回転の方向・物体の形・メトロノームのテンポの違い・音の高さ…

 ここまで読んで、やっと私は気づいた。つまり、パブロフは、現在の動物実験の基礎を築いたのだ。マウスに迷路を走らせたり、餌の数を識別させたり、ミラーニューロンに気づいたり。こういった実験は、みなパブロフが見つけた条件反射が基礎にある。

 ちなみにパブロフ先生、実はかなり犬好きで、実験動物の犬も名前をつけて可愛がっていたとか。

 それとは違う意味で、科学者の本性を感じるのが、「第5章 ルイージ・ガルヴァーニ 動物電気」。ガルヴァーニはカエルの肢に電気を流して痙攣させ、アレッサンドロ・ボルタと対立しながら、電池の理論の基礎を固めてゆく。このどこに科学者の本性があるのか、というと。

 ガルヴァーニの没年は1798年。今ざっと Wikipedia で調べた限りじゃ、電気が役に立ちそうな気配が漂うのは1753年の静電気電信機で、実際に電信が使い物になるのは19世紀に入ってから。とすると、ガルヴァーニがカエルを相手に格闘していた頃は、電気が何の役に立つのか、ほとんど何もわかっていない。

 つまりガルヴァーニは、単に電気の正体が知りたかっただけなのだ。科学者ってのは、そういう生き物なのである。「知りたい」、ただそれだけのために、何年も頭を抱えて考え込み、しち面倒くさい実験を繰り返す、そういう生物らしい。だから「それが何の役に立つ?」なんて尋ねても無駄なのだ。わははw

 もっとも、先の Wikipedia の記事を見る限り、ファラデーが1831年に電磁誘導を理論化する前に、色々な形で電信を実用化する試みがなされている。案外と世の中は理論→応用ではなく、応用→理論の順で事が運ぶケースも多いみたいだ。

 それを実感するのが、「第7章 ジェームズ・ジュール 世界はどのように仕事をするのか」。ラヴォアジェの質量保存則と並ぶ科学の基本、エネルギー保存則を見つけた人である。もともと彼が考えていたのは、いわば電気力発電みたいなモノだった。

 モーターを作る際、電磁石の強さは電流の二乗に比例する事に彼は気づく。「なら電流を二倍流せばモーターは四倍強力になるよね、おお、無限エネルギーだヤッホー」。

 ところが、やってみるとうまくいかない。電流を増やしても、コイルが熱くなるだけ。その代わり、奇妙なことにジュールは気づく。電池を倍にすると、コイルの熱は四倍になる。「もしかして、電気のエネルギーは熱に変わったんじゃね?」熱力学の受胎である。

 これらの理論化は1840年代だ。だが、ジェームズ・ワットの蒸気機関改良はは1769年。こちらも、理論より先に応用そして産業利用が始まっている。案外と理論は応用の後を追うらしい。改めて考えると、弓矢もニュートンが運動エネルギーを考える遥か以前にできているし、弦楽器も音楽理論より前に出現してるんだよなあ。

 最後の「第10章 ロバート・ミリカン ボーダーランドで」は、電子の重さを測る実験だ。単に測るだけじゃなく、それがとびとびの値であることを確認している。今でこそ電子は常識だが、当時としては画期的な発見だったろう。

 …は、いいけど、改めて考えると、電子1個と陽子1個の電荷は、符号が逆で絶対値は同じって、なんか不思議だよなあ。いや量子力学をちゃんと学べばわかるんだろうけど。

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2019年8月19日 (月)

ロバート・A・アスキンズ「落葉樹林の進化史 恐竜時代から続く生態系の物語」築地書館 黒沢玲子訳

本書の最終目標は、生態系の普遍的なパターンや、保全問題に幅広く用いることができる解決策を探ることである。
  ――前書き

…この160万年の間に氷期と間氷期は四回ではなく、18~20回も交互に訪れていたことがわかった。
  ――第2章 白亜紀の森

更新世代以前の化石記録を分析した結果では、くり返し訪れた氷河期を生き延びた樹木の属は東アジアでは96%、北米東部では82%あるのに対して、ヨーロッパは29%に過ぎない。
  ――第2章 白亜紀の森

…人類は火を手にしたことで、熱帯アフリカのサバンナの外へ生活圏を拡大することができただけでなく、出ていった先でサバンナを作りだすこともできたのだ。
  ――第3章 人類出現後の落葉樹林

日本の伝統的な建造物にみられる瓦屋根や(檜皮や藁など)樹皮で葺いた屋根、イグサの畳、唐紙の襖といった繊細で優雅な構造は、こうした木材不足の時代に発達したのである。
  ――第3章 人類出現後の落葉樹林

日本の森林は第二次世界大戦中に乱伐されて深刻な被害を受けた。1941年から1945年の間に森林の15%が伐採されただけでなく、化学肥料が手に入らないので、その代わりに落ち葉や下層植生が利用されたため、残った森林の質も著しく低下した。
  ――第4章 自然林の減少と持続可能な森林の創出

動植物の種数は、農地開発や木材用に伐採されてから回復しつつある二次林よりも、原生林の方で生息数がはるかに多い。
  ――第5章 巨木と林内の空き地

日本の京都ではヤマザクラの開花時期について、驚くほど長期間にわたる記録が取られている。このサクラの開花は1000年以上続く恒例の桜祭りの開催を告げる合図になっている。(略)桜祭りの時期は朝廷の記録や日記類に記されているので、サクラの開花時期は9世紀以降の1200年間の60%の時期について推定できる。
  ――第8章 世界的気候変動の脅威

原生自然を重視するアメリカの自然保護運動はおおむねアメリカ独自の運動だった。(略)
ヨーロッパでは、森でもほとんどが管理された人為的な環境である。(略)
…日本に大規模な自然林がほとんど残されていない最大の原因が国の政策であることは明らかだが、ミニチュアの自然を大事にする伝統も一因になっているのかもしれない。
  ――第10章 三大陸の保全戦略を融合する

【どんな本?】

 北米、ヨーロッパ、そして日本。それぞれ遠く離れた地域でありながら、遠くからみた森の風景は、なんとなく似ている。気候が似ているためだろう。いずれも温帯にあり、降水量も多い。

 と同時に、微妙な違いもある。

 何度も訪れた氷期・間氷期など気候の変化と、海や山脈などの地形。そこに住む動植物などの生態系。そしてヒトの暮らし方と森との付き合い方。

 これらの自然環境や歴史の違いは、現代に生きる人々の自然観や自然環境保護にも影響を与えている。

 それぞれの地域は、どんな歴史を辿って現代に至ったのか。気候の変化や地形、そして動植物などの生態系は、森をどう変えるのか。人の手が入らない原生林は、どのような姿なのか。そして人はどのように森と付き合い、森をどう変えてきたのか。

 鳥類額と生態学を専門とする著者が、北米・ヨーロッパ・日本の三者の自然環境および歴史を考慮しながら、森が現在の姿に至った経緯を語り、これからの森林保護のあり方を探る、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Swing the World's Deciduous Forests : Ecological Perspectives from East Asia, North America, and Europe, by Robert A. Askins, 2014。日本語版は2016年11月20日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約300頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント49字×19行×300頁=約279,300字、400字詰め原稿用紙で約699枚。文庫本ならやや厚い一冊分。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくないが、樹や鳥の名前が次々と出てくるので、図巻かGoogleを見られると便利だろう。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

  • 前書き
  • 第1章 よく似た風景 ニューイングランドと京都の春の森
    日本と北米の森林が似ているのはなぜか?/森林生態系の一般法則を求めて
  • 第2章 白亜紀の森 落葉樹林の起源
    北極地方の落葉樹林/落葉樹林の恐竜/白亜紀の森林生態系の終焉/新しい森の出現/気候変動と落葉樹林の衰退/落葉樹林の再編成/保全上の意義
  • 第3章 人類出現後の落葉樹林
    落葉樹林に生息する大型哺乳類の絶滅/火災と落葉樹林/農業の発達と森林の縮小/落葉樹林から農地へ/保全上の意義
  • 第4章 自然林の減少と持続可能な森林の創出
    森林保護の起源/ヨーロッパの持続可能な森林管理/日本の木材資源と水源の保護/北米の落葉樹林の衰退と回復/保全上の意義
  • 第5章 巨木と林内の空き地
    ポーランドに残る壮大な原生林/古い森に見られる若木/樹幹のギャップに特殊化した鳥類種/森林の壊滅的被害と新しい森の成長/火災とナラの木/原生林の生態的重要性/若い森の種と、体内の大きな空き地を必要とする種/保全上の意義
  • 第6章 孤立林と森林性鳥類の減少
    北米東部の鳥類が減少した原因/北米東部の鳥類にとって大森林が重要な理由/日本の森林性鳥類/森林の分断化に対する鳥類の一般的な反応パターン/森林の分断化とヨーロッパの森林性鳥類/ヨーロッパの鳥が森林の分断化に強い理由/世界のミソサザイ/ヨーロッパの森林性鳥類の減少/保全上の意義
  • 第7章 オオカミが消えた森の衰退
    失われたオオカミ/日本のオオカミ/オジロジカが変える北米の森/姿を消した下層植生の鳥/オジロジカの最適密度はどのくらいか?/シカの個体数を狩猟で減らす/自然の捕食者によってシカの個体数は減るか?/ヨーロッパの森のシカ問題/保全上の意義
  • 第8章 世界的気候変動の脅威
    急激な気候変動の証拠/生物個体は気候変動にすばやく適応して、その生息地で生き延びられるか?/生物の進化は気候変動についていけるか?/生物は気候変動を生き延びるために、分布域を変えられるか?/樹木の分布に対する気候の温暖化の影響/種の「分散援助」が必要になるか?/気候変動に対する柔軟性の限界/保全上の意義
  • 第9章 もう一つの脅威 海を越える外来種
    重要樹木を脅かす病原体と昆虫/森林に被害をもたらす病原体や昆虫の蔓延を食い止める戦略/持ち込まれた森林の害虫や病原体を駆除する方法/生物的防衛の危険性と将来性/耐性を備えた樹種の品種改良/樹種が失われると起こる長期的変化/他の侵略的外来種/保全上の意義
  • 第10章 三大陸の保全戦略を融合する
    北米の原生自然を保全する/現代の生態学的研究の観点からみた原生自然の保全/人手のはいったヨーロッパの自然環境を保護する/現代の生態学的研究の観点からみた人為的自然環境の保全/ミニチュア的自然 日本の自然保護/日本の自然保護に対する政治的制約/現代の生態学的研究の観点からみた「ミニチュア的自然」の保護/三地域の保全方法を融合させる
  • 謝辞/訳者あとがき/参考文献/注/生物名索引/事項索引

【感想は?】

 京都の紅葉の風景は、人為的に作り出されたものだったのか。

 当たり前だが、紅く染まるのは落葉樹だけだ。特に鮮やかなのはカエデだろう。ところが、「畿内に元々あった森林の優占樹種は落葉樹ではなく、常緑広葉樹や針葉樹だった」。

 ご存知のように、京都は歴史の古い土地だ。そして少し前まで、ヒトの最大のエネルギー源は薪だった。寺や仏像を建てるにも木材が要る。東大寺を建てるには900ヘクタールの原生林が必要だったとの推定もある。3km×3kmの森を潰した勘定だ。伐採で常緑樹や針葉樹が消えたスキに、カエデが侵入したのである。という事は、長く放置したら元の常緑樹+針葉樹に戻ってしまうのか。

 実際、全く人の手が入らない原生林というのは、なかなか手こずるシロモノらしい。本書が最初の例に挙げているのは、ポーランドのビャウォヴィエジャ森林特別保護区。ポーランド王室の種猟場として保護されたのが幸いし、第一次世界大戦後に国立公園として保護されるようになる。

 ここでは、林床の12~15%が倒木や落枝で覆われている。こりゃ移動するのも一苦労だ。それは辛いが、学者には格好の観察フィールドになる。面白いことに、一つの種が一帯を征服するのではなく、幾つもの種が雑然と混在しているのだ。というのも、原生林の中にいろいろな環境があるからだ。

 うっそうと繁っているように見えて、所々に空が見える所がある。本書では「樹冠ギャップ」と呼ぶ。寿命や嵐で巨木が近くの木を巻き添えにして倒れたり、火事で一帯が焼けたりしてできる。こういう所を好む生物もいるのだ。そこを、最初は草や低木が占領する。やがて日向を好み成長の早いサクラやハコヤナギが進出する。

 一般に植林によってできた人工林や皆伐の後にできる二次林は、すべての樹の年齢が同じだ。だから中の環境も似たようなものになる。対して原生林は老いも若きも混在しているので、鬱蒼としたところもあればギャップもある。そしてギャップを好む生物もいる。この本はクロズキンアメリカムシクイやコウモリを例に挙げている。

 テキトーに開けてりゃいいのかというと、そうでもない。ある程度の規模の森が必要な種もいる。実は鳥にも社会があって、一定規模の群れが維持できないと棲みつかない鳥もいるのだ。

親のなわばりを離れて数週間しか経っていない(ノドグロルリアメリカムシクイの)幼鳥は、さえずりや鳴き声を(CDプレーヤーで)流さなかった対照区よりも、流した場所の方を頻繁に訪れた。この実験結果は、幼鳥はさえずりや鳴き声に惹きつけられたことを示唆している。
  ――第6章 孤立林と森林性鳥類の減少

 若い鳥は、仲間がたくさんいる所に集うらしい。敵に襲われた時に、その方が被害が少ないからなんだろうか。そういえばハトも群れで飛ぶなあ。

 とはいえ、保護にも問題があって。この本では金華山(→Wikipedia)のシカが例として出てくる。聖域としてシカを保護したのはいいが、増えすぎて樹皮まで食べ、また若木も食い尽くし、森が草原に変わってしまった。草原に生えるシバもシカは大好きなので、更に個体数が増える。

 こういう問題はアメリカでもあって、対策の一つは狩猟、もう一つはシカを狩るオオカミの導入だ。ここで昔からの疑問の一つが解消した。ヨーロッパの童話じゃオオカミは恐ろしい悪役だが、私はオオカミにあまり悪い印象を持っていない。むしろ精悍で仲間を大事にする獣、みたいなイメージだ。これは私だけじゃなく東アジア全体の傾向らしい。というのも…

ヨーロッパの伝統文化ではオオカミは否定的に捉えられているが、日本の伝統的な見方や描写は曖昧で複雑であある。(略)
ヨーロッパでは(略)畜産と作物の混合農業が主要だった。(略)草地に放牧されていたウシやヒツジの大きな群れはオオカミのような大型の捕食者に狙われやすかった。
日本でもウマやウシ、スイギュウは重要な家畜だったが、主に交通や耕作の手段として利用されていたので、大きな群れで飼うことはあまりなく、オオカミから守るのも楽だった。
  ――第7章 オオカミが消えた森の衰退

 向こうじゃ、肉を取るためにウシやヒツジを群れで飼う。それを襲うオオカミは害獣だったのだ。でも日本じゃあまし肉を食わないんで、オオカミの害も少ない。だからあまし悪い印象もなかったのだ。ところが…

1730年に日本に狂犬病が持ち込まれた後、日本人のオオカミに対する態度が一変した。
  ――第7章 オオカミが消えた森の衰退

 今、ちょっと Wikipedia で調べたら、やっぱり長崎発祥だった。交易は経済的な恩恵がある反面、こういう危険もあるんだよなあ。ちなみにイギリスじゃ東アジアから持ち込まれたキバノロとニホンジカとキョンが増えて困ってるとか。そういえば千葉でもキョンが騒ぎになったなあ(→千葉日報)。

 外来種にしてもシカみたく大きな生き物はまだマシで、怖いのは虫や病気だ。

気候変動は長期的には大きな脅威かもしれないが、北半球の落葉樹林が直面している最大の脅威は、特定の樹種にとりつく病原体や昆虫の蔓延であり、数年で絶滅や地域絶滅の淵に追い込まれる樹種が生じることがある。
  ――第9章 もう一つの脅威 海を越える外来種

 これもオオカミ同様に捕食者の導入って手もあるが、マングースの例もあるように、適切な役者を選ぶのが難しい。が、ツガカサアブラムシ対策は笑ってしまった。1995年、マイケル・モンゴメリーは天敵を求め中国に赴き、そこで50種のテントウムシを見つけたのはいいが…

そのうちの21種が未記載の新種だった
  ――第9章 もう一つの脅威 海を越える外来種

 中国、おそるべし。恐竜の化石といい、今世紀の生物学者は中国に熱い目線を送ってるんだろうなあ。

 などの自然の話もいいが、北米・ヨーロッパ・日本を対比させているのも楽しいところ。気候や地形の違いもあれば、それぞれの土地での自然との付き合い方の違いもある。また、自然保護の理想についても、それぞれで考え方が違う。野生の北米、田園のヨーロッパ、鎮守の森の日本とでもいうか。

 にしても、つくづく林学の本は地質学から古人の日記までと視野がやたら広くて面白い。これからも、のんびりこっちの方面も読んでいこうと思う。

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