カテゴリー「書評:科学/技術」の294件の記事

2021年4月 1日 (木)

デイビッド・ウォルトナー=テーブズ「排泄物と文明 フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで」築地書館 片岡夏実訳

世界保健機構とユニセフ(国連児童基金)の報告によれば、毎年150万人の五歳未満の子供が下痢で死んでいる。これはマラリア、麻疹、エイズの合計よりも多い。下痢は必ずといっていいほど、食品や水が糞便で汚染されることで起きる。
  ――第5章 病へ至る道 糞口経路

【どんな本?】

 私たちはみんなウンコを出す。そして下水道の整備は都市計画の重要な問題だ。にもかかわらず、ウンコについて大っぴらに語られることは少ないし、ウンコの話は往々にして下品でくだらないこととされる。これは現代日本だけに限らず、多くの文化で共通している。

どの文化でも、古代ローマ(そこでは市の主下水道、クロアカ・マキシマを戦争捕虜が掃除していた)から18世紀のイングランド(汚水溜めの清掃人は夜働くことを命じられた)まで、みんなのために糞を扱う人は、もおっとも尊敬されない労働者のカテゴリーに入れられている。
  ――第6章 ヘラクレスとトイレあれこれ

 だが、科学的にも社会的にも、ウンコは充分に研究に値する。健康診断では検便があるし、生態系の維持には動物の糞便が欠かせない。糞便の不適切な処理は伝染病を蔓延させるが、鳥の糞の奪い合いは時として戦争にまで発展する(→Wikipedia)。

 やっかいではあるが、否応なしについてまわり、時として役に立つウンコについて、「国境なき獣医師団」創設者でもある疫学者が、幅広い視点でユーモラスに語る、一般向けの科学・社会解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Origin of Feses : What Excrement Tells Us About Evolution, Ecology, and a Sustainable Society, by David Waltner-Toews, 2013。日本語版は2014年5月20日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約211頁に加え、訳者あとがき3頁。9ポイント46字×17行×211頁=約165,002字、400字詰め原稿用紙で約413枚。文庫ならやや薄めの一冊分。

 文章は比較的にこなれている。内容もわかりやすい。ただし、当たり前だがウンコの話てんこもりなので、潔癖症や想像力豊かな人には向かない。

【構成は?】

 各章はほぼ独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

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  • 序章 フンコロガシと機上の美女
  • 第1章 舌から落ちるもの
  • 第2章 糞の成分表
  • 第3章 糞の起源
  • 第4章 動物にとって排泄物とは何か
  • 第5章 病へ至る道 糞口経路
  • 第6章 ヘラクレスとトイレあれこれ
  • 第7章 もう一つの暗黒物質
  • 第8章 排泄物のやっかいな複雑性とは何か
  • 第9章 糞を知る その先にあるもの
  •  参考文献/訳者あとがき

【感想は?】

 くり返すが、想像力が豊かな人には向かない。また食事中に読むのも薦めない。わざわざ、そんな事をする人は滅多にいないだろうけど。ご想像の通り、本書は「ウンコ」の連呼だ。訳者あとがきに曰く「訳者がこんなに『ウンコ』を連発したのは小学生のとき以来かもしれない」。

 「解剖男」もそうなんだが、一見キワモノに思われるシロモノを研究してる学者は、敢えてそれを芸にしたがる傾向がある気がする。本書も、著者が夫婦でタンザニアに旅行した際、ガイドを独占して動物の糞を探し、同行者や奥さんに呆れられる場面で本書は始まる。そうか、野生の肉食獣の糞は白いのか。一つ勉強になった。

 もちろん、ふざけているワケじゃない。ただ、著者は仕事柄、ユーモアの大切さが身に染みてるんだろう。なにせ…

ウンコは社会学者と科学者がやっかいな問題と呼ぶものである。
  ――第1章 舌から落ちるもの

 ここで社会学者と科学者の二者が出てくる点に注意しよう。今、まさに問題となっている新型コロナが示すように、疫学とは、科学と社会の双方が密接に絡み合う学問なのだ。それだけに、著者の視野は広い。ミクロな視点では…

成人の便1mm3には、10の11乗(略)前後のバクテリアがいる。(略)このようなバクテリアは500から1000ほどの異なる種からなり、大部分はあまりよくわかっていないものだ。
  ――第2章 糞の成分表

 と、ウンコの中身を分析する。にしても、「大部分はあまりよくわかっていない」とは。もちろん、対象はヒトばかりじゃない。

いくつかの種では、糞食は健康を増殖し病気を防ぐ意味を持つ。ウサギはタンパク質と水溶性ビタミンを摂取する。ハツカネズミはビタミンB12と葉酸を糞を食べて摂取していると言われる。実験用ラットに糞を食べさせないようにすると、うまく成長せず、ビタミンB12とビタミンKの欠乏症を起こす。
  ――第4章 動物にとって排泄物とは何か

 そして、ヒトと動物との関わりにも目を配る。それも世界的な視野で。

牛糞は木とほぼ同じ発熱量を持つ(ただしどちらも灯油が生成する熱の半分に満たない)。リャマの糞もウシのものとほぼ同じ熱量を持つ。全世界で一年間に燃料として利用される牛糞の40から50%はインドで燃やされている。
  ――第9章 糞を知る その先にあるもの

 更に、時間的にも遠くを見通そうとする。

新石器時代の定住地では、排泄物を定住地の中と周囲に、恐らく堆肥として置いていた痕跡がある。
  ――第6章 ヘラクレスとトイレあれこれ

 そうか、ヒトは大昔から排泄物が植物の成長を促すと知っていたのか。まあいい。こんな風に、ウンコについて遠大な時空を見渡すと、どこかの禅僧みたいな悟りの境地にまで至る。

すべてを包みこむ生命系(=生態系)を思い描けるなら、このように想像できるだろう。ウンコは存在しない。
  ――第3章 糞の起源

 まあ、要は、動物の排泄物もバクテリアが分解して植物の養分になる、みたいな話なんだけどね。自然界じゃ、そんな風にすべてがリサイクルされているのだ。もっとも、その循環に、困った奴も乗り合わせてくるんだけど。

寄生虫のライフサイクルは排泄物のライフサイクルなのだ。
  ――第7章 もう一つの暗黒物質

 だた、現在のグローバル社会は、このサイクルが大きく変わりつつある。この変化を描く第7章以降は、なかなかの迫力だ。例えば、動物の肉は多くのリンを含む。そしてアメリカやアルゼンチンは、牛肉を大量に輸出している。肉の元を辿れば、飼料のトウモロコシに行きつく。土中のリンがトウモロコシに移り、それが牛に行き、太平洋を渡って私たち日本人が食べ、ウンコとして出す。

 私たちは意識しないうちに、太平洋の向こうからリンを輸入していたのだ。なんか得した気分だが、それもウンコを再利用すれば、の話だ。特にアメリカ産の牛は難しい。アメリカでは大企業が多くの牛や豚や鶏を狭い所に閉じ込め、大量生産方式で育てている。伝染病の蔓延を防ぐため、多くの抗生物質を与える。これがウンコにも混ざり、抗生物質に耐性を持つ菌が繁殖してしまう。

 本来、牛糞は処理次第で優れた肥料になるし、先に挙げたように燃料にもなる。そういえば「大地」でも、牛糞を拾う場面で、ヒロインの阿蘭の勤勉さを描いてたなあ。ってのは置いて。

 アメリカの牛は抗生物質漬けで育ってるから、その糞にも抗生物質や耐性菌が入っていて、再利用が難しいのだ。まあ、それもやりようなんだけど。

炭素、窒素、酸素(適切なバクテリアの繁殖を促す)がちょうどよく混ざり、うまく作られた堆肥の山では、温度が54~66℃に達することを研究者は示している。これは鳥インフルエンザウイルスを十分殺せる温度だ。
  ――第9章 糞を知る その先にあるもの

 そんな風に、著者は幅広い視野と深い知識を持ちつつも、肝心の解決策については、万能の策はない、と慎重だ。その場に応じ、関係する様々な人々の話を聞いた上で、慎重に考えましょう、と。

我々の技術がどんなに優れていようと、それが効果を発揮し役に立つのは、適切な社会-生態学的背景に合わせて設計され、その中で使われるときだけだ。
  ――第9章 糞を知る その先にあるもの

 こういったあたりは、「世界文明における技術の千年史」とも通じる考え方だなあ。他にも…

現実世界の理解に近づくための唯一の方法は、できるだけ多くの視点を集め、全体像を作ろうと努力することだ。
  ――第8章 排泄物のやっかいな複雑性とは何か

 なんてところは、計算屋には身につまされる話だよね。組織の上長と、実際に操作する人とじゃ、話がまったく違うとか、よくあるケースだし。

 科学と社会学が交わる疫学者として、世界中を飛び回った著者だけに、話題は幅広く、視点もバクテリアから国際貿易に至るまで、バラエティ豊かだ。もっとも、すべてウンコにまつわる話なんだけど。また、現場をよく知っている人らしく、特に終盤では現実社会の面倒くささも滲み出ている。イロモノ的な題材ではあるが、エンジニアを含め問題解決に携わるすべての人にお薦め。

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2021年3月29日 (月)

サム・キーン「空気と人間 いかに<気体>を発見し、手なずけてきたか」白揚社 寒川均訳

私が望んでいるのは、本書によってあなたが抱いていた気体のイメージが修正されることだ。
  ――はじめに 最後の息

隣人と出会うとき、気体分子は互いに衝突し、四方八方に跳ね返る。(略)その速度は、たとえば摂氏22度の空気の分子であれば、平均して時速1600キロにもなる。
  ――第1章 初期地球の大気

それ(約6億年前)以降の数億年の酸素濃度は、15%まで下がったと思ったら35%まで上昇といったように、酔っ払いの千鳥足のようにふらふらと推移した。
  ――第3章 酸素の呪いと祝福

平均的な大人であれば、常に20トンの力が体の内側に向かってかかっている。
  ――第5章 飼いならされた混沌

水の温度を一度上げるのと、100度の水を蒸気に変えるのでは、必要とする熱量に5倍もの差があるのだ。
  ――第5章 飼いならされた混沌

固体や液体の場合、ものが違えば共通点はほぼない(略)。だが気体は、お互いに信じられないほど似通っている。化学的にそうであるとは言えないとしても、少なくとも物理的には、すべての気体は同じようにふるまうのだ。
  ――第6章 空に向かって

近年、ハリケーンで死亡する確率が1900年の1%にまで減ったのは、気象学者のおかげである
  ――第8章 気象戦争

温室効果ガスがなければ、地球の平均気温はマイナス18度、氷点を下回る。
  ――第9章 異星の空気をまとう

【どんな本?】

 空気。約78%の窒素、約21%の酸素、約1%のアルゴン、そして二酸化硫黄・硫化水素・二酸化炭素・アンモニア・メタン・エタノールなどの微量成分を含む。

 日頃から特に意識もせずに吸い込み吐き出している空気は、いつ・どのように出来上がったのか。空気が含む様々な成分は、それぞれどこから生まれ、どんな性質を持ち、どんな働きを担っているのか。いつ・だれが・どうやって、空気の成分を見極めたのか。

 原始地球の大気から化学肥料と毒ガスの発明、人体発火現象からロズウェルのUFO、おなら芸人から最新天文学による異星探索まで、気体にまつわる科学と歴史の面白エピソードを集めた、一般向けの楽しい科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Caesar's Last Breath : Decoding the Secrets of the Air Around Us, by Sam Kean, 2017。日本語版は2020年12月21日第一版第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本約446頁。9.5ポイント44字×18行×446頁=約353,232字、400字詰め原稿用紙で約884枚。文庫なら厚い一冊か薄い上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれている。科学系の本の中でも、かなり親しみやすい部類だ。内容も易しい。出てくる数式も一つだけだし、単純な比例式だ。化学式はたくさん出てくるが、単純なものが大半な上に、わからなければ読み飛ばしても差し支えない。中学生でも理科にアレルギーがなければ楽しんで読めるだろう。

【構成は?】

 各章はほぼ独立しいているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

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  • はじめに 最後の息
  • Ⅰ 空気を作る 最初の四つの大気
  • 第1章 初期地球の大気
  •  幕間 爆発する湖
  • 第2章 大気のなかの悪魔
  •  幕間 危険な武器を溶接する
  • 第3章 酸素の呪いと祝福
  •  幕間 ディケンズより熱く
  • Ⅱ 空気を手なずける 人間と空気の関係
  • 第4章 喜びガスの不思議な効能
  •  幕間 フランスの「放屁狂」
  • 第5章 飼いならされた混沌
  •  幕間 悲劇に備える
  • 第6章 空に向かって
  •  幕間 夜の光
  • Ⅲ 未知の領域 新しい至福の地
  • 第7章 放射性降下物の副産物
  •  幕間 アインシュタインと庶民の冷蔵庫
  • 第8章 気象戦争
  •  幕間 ロズウェルからの轟音
  • 第9章 異星の空気をまとう
  •  謝辞/注と雑録/参考文献

【感想は?】

 いくつもの科学系の本から、美味しい所を拾い集めたような本だ。

 例えば「第2章 大気のなかの悪魔」。ここで主役を務めるのはフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュ。そう、化学肥料のハーバー・ボッシュ法を切り拓いた二人だ。彼らは何を成し遂げたのか。

今日でさえ、ハーバー・ボッシュ法に関連して消費されるエネルギーは、世界全体のエネルギー供給の1%を占める。また人類は毎年1憶7500万トンのアンモニア肥料を生産しているが、その肥料で世界の食糧生産の半分をまかなっている。
  ――第2章 大気のなかの悪魔

 現在の人類の半分は、彼らが支えているようなものだ。だが、両名とも無条件に称えられることはない。フリッツ・ハーバーは毒ガスを生み出して第一次世界大戦の戦場を地獄に変え、カール・ボッシュは合成ガソリンを生産してナチス・ドイツの戦線を支えた。それでもハーバーは、職場のユダヤ人を追い出すようナチスから圧力をかけられた際に…

フリッツ・ハーバー「40年余、私は自分の共同研究者を彼らの知性や性格に基づいて選んできました。彼らの祖母が誰だったかで選んだことは断じてありません」
  ――第2章 大気のなかの悪魔

 と断り辞任しているんだが、今でも両名の評価は功罪相半ばといったところだろう。両名のドラマは「大気を変える錬金術」が詳しい。傑作です。なお、ここでは、同じ研究者でも大学のハーバーと企業のボッシュ、その両者の対比も読みどころ。新聞に出る科学・技術ニュースの読み方も少し変わるかも。

 この章で両者を取り持つのが、窒素だ。大気の78%を占め、不活性に思える窒素だが、実はかなりヤバいシロモノでもある。そのヤバさを象徴するのがダイナマイトであり、ダイナマイト誕生の悲話を描くのが「第5章 飼いならされた混沌」。

 この章では「馬力」誕生の意外な真相も楽しいが、私が最も面白かったのは、火薬と爆薬の違い。爆薬の方が圧倒的に反応が速い(約千倍)のは「火薬のはなし」で知っていたが、同時に体積の膨張率も一桁高いのだ。また、現代の兵器に欠かせない雷管の誕生の物語にも驚いた。兵器マニアよ、アルフレッド・ノーベルを崇るべし。

 爆薬より更に物騒なのが、核兵器。原爆の開発プロジェクトであるマンハッタン計画は有名だが、アメリカはその後も熱心に核兵器の開発を続けた。その熱意を示すのが、1946年7月の核実験クロスロード作戦(→Wikipedia)だろう。

それには4万2千人の人員と、データ収集のために2万5千個の放射線検出器および45万7200メートルの長さのビデオテープ(当時における世界の供給量の約半分)が必要だった。
  ――第7章 放射性降下物の副産物

 ビデオテープの消費量の凄まじさが、当時のアメリカの熱意と同時に、科学力・産業力の底力を感じさせる。この物騒なエピソードで始まる「第7章 放射性降下物の副産物」は、核に対する世間の認識が、1940年代から現代まで、どう変わってきたかを物語ってゆく。1940年代だと、核はむしろ歓迎されていたのだ。

 その認識が変わったのは、放射性降下物の恐ろしさが伝わってから。切ないことに、広島と長崎の被害状況からでは、ない。キッカケはフィルム・メーカーのイーストマン・コダック社。インディアナ州産のトウモロコシの皮から作った包装材に、放射性物質がついており、これによりフィルムが台無しになってしまった。この放射性物質は、核実験の産物だ。

人々を核兵器信奉から脱却させたのは、ほかのどんな危険よりも、放射性降下物だったと言ってよい。
  ――第7章 放射性降下物の副産物

 これが切ないのは、世論を変えた原因が、他人である広島・長崎の原爆被害ではなく、「俺にも害があるかもしれない」放射性降下物だって点だ。「他人の痛みなら幾らでも我慢できる」なんて言葉がフト思い浮かんでしまう。

 そんな物騒なネタに対し、妙にユーモラスなのが、麻酔を扱った「第4章 喜びガスの不思議な効能」。ここでは、19世紀末に笑気ガス(N2O)を求めるボヘミアンがブリストルに集う様子が、ヒッピーの根城だった1960年代のサンフランシスコに似ていて、少し笑ってしまう。いつだってドラッグを求める輩はいるんだなあ。

 その元凶となったハンフリー・デービー(→WIkipedia)、間抜けにも笑気ガスの「痛みを感じさせない」効果を見逃し、麻酔の発明者の名誉を逃してしまう。

 その名誉をかっさらったのが、エーテル(C2H5-O-C2H5)をひっさげたウィリアム・モートン。その麻酔効果で特許を申請するも…

歴史を見渡しても、これ(ウィリアム・モートンによるエーテル麻酔)ほど広く侵害されさらにそれが問題視されなかった特許はない。
  ――第4章 喜びガスの不思議な効能

 と、酷い扱いを受ける。あまりの有用さに拒まれたってワケじゃない。彼自身の胡散臭さが原因だ。Wikipediaには「歯科医」とあるが、本書じゃ「ペテン師」と散々な評価。その実体は、まあ実際に読んだうえで判断してください。

 終盤の「第8章 気象戦争」では、SFファンお馴染みカート・ヴォネガットの兄ちゃんバーナード・ヴォネガットもチョいと顔を出し、アーヴィング・ラングミュアとヴィンセント・シェーファーによる降雨実験の顛末を描く。これも「気象を操作したいと願った人間の歴史」に詳しい。更にSFファンなら見逃せないのが、アイス・ナインの話。

 ラングミュアはアイデアをH.G.ウェルズに売り込むがアッサリと捨てられ、同じアイデアをカート・ヴォネガットが拾って結実したのが「猫のゆりかご」。マジかい。ちなみにヴォネガットのファンには猫派と妖女派がいるそうだけど、私は猫派です。

 そんなSFファンが思いっきり楽しめるのが、最後の「第9章 異星の空気をまとう」。今世紀に入ってから太陽系外の惑星を見つけた、しかも大気の組成までわかった、なんてニュースが次々と飛び込んでくるけど、どうやってソレを調べたのかって話がやたら楽しい。テラフォーミングのネタも飛びだして、SFファンとしては思わずアンコールを叫びたくなるところ。

 気体に焦点を絞りつつ、おなら芸人や人体発火現象やロズウェル事件など一見キワモノなネタで野次馬根性を満足させ、また要所では理想気体の状態方程式(→Wikipedia)などカッチリした科学の所見を示す、親しみやすくてわかりやすい理想的な一般向け科学解説書だ。

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2021年2月 1日 (月)

ルース・カッシンガー「藻類 生命進化と地球環境を支えてきた奇妙な生き物」築地書館 井上勲訳

本書は、惑星上で最も強力な生物である藻類が、善かれ悪しかれ、私たちの生活に及ぼしている影響、そして藻類が私たちの将来に果たし得る役割を理解する旅の物語である。
  ――プロローグ

【どんな本?】

 日本人にとって海藻はお馴染みだ。ワカメの味噌汁、昆布ダシ、そしてパリパリの海苔。だが不愉快な藻類もある。池や湖に生える藻はドロドロして気持ち悪いし、赤潮・青潮は沿岸の水産業を潰す。

 そもそも藻類とは何者か。いつごろ地球に発生したのか。どんな連中がいて、何を元に育ち、どうやって増えるのか。日本以外に藻を食べる文化はあるのか。そのレシピは。食用以外の使い道はあるのか。そして、生態系や地球環境に、藻類はどんな役割を果たしているのか。

 科学系ジャーナリストが、世界を飛び回り、人と藻の係わりの過去と現在の取り組み、そして未来の展望を描く、科学・産業ルポルタージュ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は SLIME : How Algae Created Us, and Just Might Save Us, by Ruth Kassinger, 2019。日本語版は2020年9月11日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約313頁に加え、「料理の幅を広げる海藻料理のレシピ」8頁+「訳者あとがきにかえて 地球進化と生物進化を再構築できる藻類研究の魅力」5頁。9ポイント46字×19行×313頁=約273,562字、400字詰め原稿用紙で約684枚。文庫ならやや厚い一冊分。

 文章は比較的にこなれていて親しみやすい。内容も特に難しくない。一部に「真核生物」などの生物学の用語が出てくるが、分からなくても大きな問題はないので読み飛ばそう。

 なお、訳の井上勲は力の入った藻類の解説書「藻類30億年の自然史」でもある。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、気になった所だけをつまみ食いしてもいい。全4部構成で、それぞれテーマが決まっている。

  • 第1部 地球史から見た藻の誕生と歴史
  • 第2部 藻を食べる
  • 第3部 藻の使い道、過去と現在
  • 第4部 藻と地球環境
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  • プロローグ
  • 第1部 藻類と生命誕生
  • 1章 池と金魚とアゾラ
    有機農法に効くアゾラ
  • 2章 酸素を放出! シアノバクテリア
    藻類がネバネバしている訳
  • 3章 原核生物の支配は続く
    微細藻類の誕生
  • 4章 藻類、上陸への第一歩
    乾燥と紫外線に強いシアジクモ藻類/陸上植物の先駆者、苔類
  • 5章 地衣類の登場
    土壌を作った地衣類
  • 6章 地衣類観察ツアー
    大気汚染の監視役
  • 第2部 海藻を食べる人々
  • 1章 脳の進化と海藻
    進化の鍵はヨウ素とDHA/人類が辿ったケルプ・ハイウェイ
  • 2章 日本の海苔を救ったイギリス女性藻類研究者
    日本人と海苔/海苔の成長の謎を解いたドリュー博士
  • 3章 韓国の海苔事情
    国家プロジェクトで海苔生産/活気にあふれる海苔産地
  • 4章 ウェールズ人も海苔が好き
    ラバー海苔の可能性
  • 5章 持続可能な海藻採取
    味噌汁の効用/昔からの海藻採集法/天然物へのこだわり
  • 6章 広まる大規模海苔養殖
    貝養殖から海藻養殖へ/養殖が天然ものを守る
  • 7章 子どもたちを救うスピルリナ
    拡大を続けるスピルリナビジネス
  • 第3部 高まる藻類の可能性
  • 1章 農家と海藻の深いつながり
    注目を集めるロックウィード/海藻抽出物の力/海藻とプレバイオティクス
  • 2章 微生物研究と藻類
    需要が高まる藻類コロイド/救世主、寒天誕生
  • 3章 イスラエルで海藻養殖
    陸上海藻養殖の未来/広がる魚の陸上養殖
  • 4章 藻類からランニング・シューズを作る
    ガラス製造とケルプ/藻類プラスチックができるまで/原料をさがし求めて/新たな生分解性プラスチック
  • 5章 夢の燃料、藻類オイル
    原油価格と藻類オイル開発/苦難が続く藻類オイル生産/世界初の屋外藻類農場/光合成をしない藻類の活用
  • 6章 魚とヒトの栄養食
    減少を続ける飼料用魚/天然魚を救う藻類/藻類関連企業の躍進
  • 7章 コストの壁に阻まれる藻類エタノール
    藻類エタノールを最初に思いついた男/遺伝子改変に成功/藻類エタノールの敗北
  • 8章 藻類燃料の未来
    オイル生産に最適な藻類を探せ/地球温暖化がもたらす巨額の損失/電気自動車の弱点
  • 第4部 藻類をとりまく深刻な事態
  • 1章 サンゴの危機
    美しいサンゴ礁の風景/サンゴと褐虫藻の共生関係/海水温上昇と窒素の流入
  • 2章 サンゴ礁を守る人々
    サンゴの移植作業体験/サンゴが生き残る条件/サンゴ礁は待ってくれない
  • 3章 有毒化する藻類
    藻類ブルームの大規模発生/「死の海域」の出現
  • 4章 藻類による浄化
    芝生状藻類の活用/人口湿地の限界/浄化までの長く険しい道のり
  • 5章 暴走を始めた藻類
    大発生が止まらない
  • 6章 気候変動を食い止められるか
    鉄散布の是非
  • エピローグ
  • 謝辞
  • 料理の幅を広げる海藻料理のレシピ
  • 参考文献
  • 索引
  • 訳者あとがきにかえて 地球進化と生物進化を再構築できる藻類研究の魅力

【感想は?】

 テーマの一部は「藻類30億年の自然史」とカブる。特に本書の第1部は「藻類30億年の自然史」の短縮版と言っていい。

 「藻類30億年の自然史」は専門の研究者が書いた本だが、本種はジャーナリストの作品だ。それだけに、力を入れる所はだいぶ違う。第1部の主役は科学だが、第2部は地理と歴史、第3部は産業、そして第4部は環境問題が中心となる。私は第3部で起業家を訪ねる所が最も面白かった。

 皆さんご存知のように、日本の食卓には海藻が欠かせない。ここでは豊作と不作の波に悩まされたポルフィラ(海苔)の養殖と、その生態の解明にまつわる挿話も楽しい。映画「この世界の片隅に」で、すずさんの実家は海苔を作ってたが、この説の通りなら、戦後もしばらくは不作に悩まされただろう。それはさておき、おかげで日本人の体質まで変えてしまった、というのも驚きだ。

ポルフィラは長年にわたって日本の食生活の重要な部分を占めてきたために、日本人の生物学的特性が大きく変わった。日本人が持っている特定の腸内細菌が、海藻の堅い細胞壁を壊す酵素(ポルフィラナーゼ)を合成する遺伝子を持っており、海藻をよりうまく消化することができる。
  ――第2部 海藻を食べる人々 2章 日本の海苔を救ったイギリス女性藻類研究者

 私たちの腸は海苔やワカメやヒジキに適応したのだ。なんとまあ。もちろん、肉体だけでなく、文化的にも適応してたんだなあ、と思ったのが、この一節。

見た目が海藻そのままのものを、(アメリカ人に)実際に食べてもらうのは難しかった。
  ――第2部 海藻を食べる人々 6章 広まる大規模海苔養殖

 私は味噌汁のなかで泳ぐワカメを見ればヨダレが出てくる。でも、あーゆー「モロに海藻」な姿は、欧米人には嬉しくないらしい。なんとも勿体ない話だ。海苔を巻いた寿司は食べるのにね。いずれにせよ、乾燥ワカメなどの原型を保った食品はあまり売れない。そのため、食品として売り出す企業は、細切れにしたり粉にしたりと、製品化するには加工した製品ばかり。

 ただし、食用以外なら、海藻と関わりが深いのは、日本人だけじゃない。昔はガラスを作るのに海藻を焼いた灰を使った。アイルランドの農民は、もっと凄い。

アイルランドの西海岸沖にある石灰岩でできたアラン諸島では、何世紀にもわたって、住民が海岸から大量の海藻と砂を採取して、それを散布する事で、それまで何もなかったところに農場を作り上げた。
  ――第3部 高まる藻類の可能性 1章 農家と海藻の深いつながり

 農地の開拓は土づくりから、なんて言われるけど、彼らは本当に土から作ったのだ。ちなみにアラン諸島とは、一時期フィッシャーマン・セーターが話題になった所(→Wikipedia)で、アイルランド共和国(南アイルランド)の西にある。

 水産業では、合衆国北東部のメイン州でケルプ(昆布)養殖事業を立ち上げたトレフ・オルソンの背景も波瀾万丈だ。

 メイン州ではロブスター漁が盛んだが、厄介者がいた。ロブスターの餌を横取りし、罠を詰まらせ、住処となるケルプを食い荒らす。憎き奴の名は…ウニ。そう、我ら日本人の大好物だ。1980年代、日本の輸入業者がこれに目をつける。冬に漁ができないロブスター漁師にはいい稼ぎとなり、1993年に漁獲量18000トンに達する…が、乱獲が祟り、2016年には680トンに落ちる。

 トルフ氏はこれに懲り、乱獲の心配のない養殖事業を立ち上げたのだ。「ばくち草」とまで呼ばれた江戸時代の海苔といい、水産業は浮き沈みが激しいビジネスなんだなあ。

 海苔同様、寒天の物語も縁と偶然の物語だ。1658年(万治元年、徳川家綱の時代)の冬、宿屋の美濃屋太郎左衛門が晩飯の海藻汁を外に捨てる。次の朝、汁は桃色のゼリーになっていた。宿の主人は考える。「これ、料理に使えるんじゃね?」寒天の誕生である。ああ、みつ豆が食べたい。

 時は流れ1870年代。ロベルト・コッホは悩む。炭疽菌が牛の炭疽病の原因だ、と証明したい。それには炭疽菌を純粋培養せにゃならん。雑菌が入っちゃマズい。相応しい培養地はないか。最初に成功したのは牛の目の後ろから抽出した液だ。だが、こんなモン、安定して量を確保するのは難しい。ゼラチンを試すが、35℃で溶けてしまう。哺乳類の体温で溶けるんじゃ培養できねーじゃん。

 そこに幸運の女神が現れる。同僚ヴァルター・ヘッセの妻ファニーだ。ファニーは思い出す。東アジアに住む友人から教わった、寒天を使ったジャムやゼリーのレシピを。寒天は60℃まで溶けない。これ、いけるんじゃね? やってみたら、そりゃもう、バッチリ。お陰でコッホは炭疽菌・結核菌・コレラ菌の培養に成功する。近代細菌学の誕生だ。

 もちろん、21世紀の今日でも寒天は微生物培養じゃ必需品だ。美濃屋太郎左衛門さんも、捨てた汁が労咳を治す役に立つとは思いもよらなかっただろう。世の中、何が何の役に立つのか、わからんもんです。

 現代のビジネスでは、アルジックス社の逸話が、いかにも21世紀で印象的だ。アルジックス社は藻の死骸からプラスチックを作り、サーフボードやスポーツシューズ用の酢酸ビニルをアディダス社などに納めている。

 技術は完成したものの、製造ラインに乗せるには問題があった。企業としてやっていくなら、原料の藻を安く大量に安定して調達せにゃならん。でも自社で養殖するには資金が足りない。そこで彼らはどうしたか。

 グーグルアースを使ったのだ。目当ては藻の緑で覆われた水域。

 見つけたのは、ミシシッピ州とアラバマ州のナマズ養殖場。ここではナマズの餌に魚粉を与えるが、食い残しが藻になる。藻は邪魔で、養殖場は処分に困っていた。そんな藻を買い取ると持ち掛けたから、養殖場は大喜び。

 Google は何かと便利だけど、資源探索にも使えるんだなあ。他にも Google のお陰で起こせた事業は沢山ありそう。優れた情報技術は、経済も活性化するんですね。

 なお、酢酸ビニルはプラスチックの一種。プラスチックって、石油から作るんだとばかり思っていたが…

プラスチック自体は有機物で、炭素系のポリマー(重合体のこと)である。つまり、プラスチックの種類によるが、酸素、窒素、または他のいくつかの元素と結びついた炭素を長い鎖なのである。
  ――第3部 高まる藻類の可能性 3章 イスラエルで海藻養殖

 その石油の起源、無機成因説もあるが、本書は生物すなわち古代の藻が原料だって立場だ。天然だと 藻→石油→プラスチック だったのを、アルジックス社は 藻→プラスチック と短縮したんだ、と説明してる。

 第3部では、他にも藻に燃料油を作らせようと研究する企業が幾つか出てくるが、いずれも2つの点が共通してる。一つは大胆に遺伝子改変技術を使ってること、もう一つは価格の点で石油に太刀打ちできないこと。原油高だと勝負できるそうで、けっこういいセン行ってると思う。少なくとも桁は揃った。ただ、実際に生き延びてる企業は、化粧品やサプリメントなど、桁違いに単価が高い用途で食ってるのが現状。

 もちろん、藻類もいいことばかりじゃない。代表的なのがスーパーブルーム(赤潮などの藻の大発生)。これで魚などが酸欠になるとは聞いていたが、メカニズムは私が思ってたのより複雑だった。

スーパーブルームは最悪の問題ではない。最悪の事態は、ブルーム発生の後に起こる、死んだ藻類を餌にして好気性の細菌が思うがままに増殖することである。最悪の環境破壊は、細菌が海中の溶解酸素を消費するために起こる。
  ――第4部 藻類をとりまく深刻な事態 3章 有毒化する藻類

 問題は、赤潮の後なのですね。いずれにせよ、原因はリンや窒素などの富栄養化と地球の温暖化で、これの解決に藻を使う例も第4部に出てくる。その地球温暖化では、なかなか大胆な発想をする人もいる。

モスランディング海洋研究所所長ジョン・マーチイン博士「タンカー一杯分の鉄があれば地球を氷河期に戻せる」
  ――第4部 藻類をとりまく深刻な事態 6章 気候変動を食い止められるか

 どういう事か。実は、南氷洋には藻類が異様に少ない。この原因は、鉄分が足りないため。そこで鉄をバラ撒いて南氷洋を藻で満たせば、藻が増えて二酸化炭素を食いまくり、地球は寒冷化する、そういう理屈です。幾つか実験もしていて、ソレナリに手ごたえはあるものの、生態系などへの影響も考えると、慎重に考えた方がいいよね、ってのが著者の立場。

 SF者としては「金星の大気に藻を撒いてテラフォーム」なんてネタを思い浮かべるけど、それを本職の科学者が考えているとは。是非はともかく、こういう壮大なアイデアはワクワクしてしまう。

 インパクトのある表紙に釣られて、ついフラフラと書棚に手を出してしまった本だが、中身は藻そのものより「藻とヒトとの関わり」が中心で、特に起業家の話が多い第3部は資金調達の生々しさと「いま、そこにあるセンス・オブ・ワンダー」が共存する、なかなかにエキサイティングな章だった。バイオ技術とビジネスに興味がある人には、強くお勧めする。

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2021年1月25日 (月)

メノ・スヒルトハウゼン「都市で進化する生物たち “ダーウィン”が街にやってくる」草思社 岸由二・小室繁訳

実を言うと、イエガラスはもはや非都市的な領域を生息地としておらず、姿が見られるのは、熱帯地域の町や都市に限られるのだ。
  ――Chapter 4 都市の自然愛好家

田園――都市縦断トランセクトを実行すると、都市部における生物多様性の下落幅は予想されるほど大きくないのがふつうである。それどころか、特に植物と、場合によっては昆虫についても、ときに都市部が多様性の頂点となることさえあるのだ。
  ――Chapter 4 都市の自然愛好家

高速道路沿いの僻地に建設されたガソリンスタンドの投光照明が、最初は膨大な数の昆虫を引き寄せるが、その後、2年も経過すると、飛来する昆虫の数は急速に減少するのである。
  ――Chapter 12 巨大都市の輝く闇

研究が指し示す方向は全て一致している。すなわち、都市のクロウタドリが別の種に進化しつつあるといいうこと。
  ――Chapter 18 都市の種の分化

都市とは、進化を強力に推し進める拠点でありながら、多様性の大いなる喪失が生じる場所でもあるのだ。
  ――おわりに

【どんな本?】

 19世紀、イギリスの工業都市マンチェスターは、石炭動力による織物産業が盛んだった。困ったことに、工場が吐き出す煤は街も樹木も黒く染める。これは生態系にも影響を及ぼし、シモフリガの羽根や体も保護色の黒に変わる。教科書にも載っている工業暗化だ。

 20世紀ロンドンの地下鉄では、独特の蚊が見つかった。街路の蚊は鳥の血を吸い、群れを成して交尾し、冬眠する。だがロンドンチカイエカ(→英語版Wikipedia)はヒトの血を吸い、交尾のための群れを成さず、冬眠しない。

 日本では、自動車にクルミを轢かせて割るカラスが有名だ(→日本鳥学会誌)。最近では公園の水道の栓を回して水を得るカラスが目撃されている(→朝日新聞)。

 都市は森林や草原と全く環境が違う。地下鉄路線内に鳥はいない。だがヒトは多く、気温は年中を通し安定している。街灯で夜も明るい。自動車や建設機械は騒々しい音を出す。土や水は鉛や亜鉛などの重金属を多く含む。虫などの餌は少ないように思えるが、ヒトが出す生ごみは豊かだ。そして、自然界ではありえない激しく急激な変化に満ちている。

 そんな都市でも、カラスやタンポポは逞しく生きている。単に生きているだけではない。都市の環境に合わせ、性格や習慣だけでなく、肉体まで変化させている。今、わたしたちの目の前で、「進化」が起きているのだ。

 都市には、どんな連中が住んでいるのか。彼らは何者で、どこから来たのか。どうやって都会暮らしに慣れたのか。都会に慣れるため、どう工夫したのか。都会者には、どんな特徴があるのか。その特徴に、どんな得があるのか。

 オランダの生物学者が、都市に住む生物に関するトピックを集め、「今そこにある進化」を中継する、エキサイティングで楽しい科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Darwin Comes to Town : How the Urban Jungle Drives Evolution, by Menno Schilthhuizen, 2018。日本語版は2020年8月18日第一刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約314頁に加え、岸由二の訳者あとがき8頁。9.5ポイント42字×18行×314頁=約237,384字、400字詰め原稿用紙で約594枚。文庫なら普通の厚さ。

 文章はのなれていて読みやすい。内容もわかりやすい。敢えて言えば、生物の名前がカタカナ表記なのは、ちと面倒くさかった。「ワカケホンセイインコ」とか。

【構成は?】

 一応、前の章を受けて次の章に進む形だが、美味しそうな所だけをつまみ食いしても充分に楽しめる。とりあえず気になった所を味見して、気に入ったら頭から読んでもいいだろう。

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  • はじめに 都市生物学への招待
    地位下で驚異の進化を遂げる力/進化について再考する/都市こそ地球最大の「環境」/人類の影響も自然の一部/理解され難い「都市という自然」
  • Ⅰ 都市の暮らし
  • Chapter 1 生態系を自ら創り出す生物たち
    コレクション拡大に打った一手/アリの作る環境を利用するものたち/アリの社会に溶け込むトリック/様々な「生態系工学技術生物」
  • Chapter 2 都市という生態工学技術の結晶
    都市は巨大な「自然構築物」/人間の生態系工学技術の進化/人間の生態系工学技術の進化/地球上の都市拡大の未来
  • Chapter 3 繁華街の生態学
    シンガポールの都市生態系/都市部特有の気象現象/島の環境的特異性/都会の観察者たち
  • Chapter 4 都市の自然愛好家
    カラスvsハンターvsナチュラリスト/都市で死んだ動物たち/マックフルーリー・ハリネズミ/「周辺」の喪失/市井の自然愛好家の貢献
  • Chapter 5 「都会ずれ」したものたち
    都市部で生物多様性を高める要因とは/避難先としての都市/断片化する多様な環境
  • Chapter 6 生物は先に都市街に対応している?
    前適応とは何か?/ライデン駅の様々な前適応/前適応の型を探す/都市生活に向いている要因とは
  • Ⅱ 都市という景域
  • Chapter 7 進化にかかる時間はどれくらい?
    ダーウィンが返事を書かなかった手紙/ファーンの手紙が読まれなかった理由
  • Chapter 8 生物学で最も有名なガ
    イモムシに生じた歴史的瞬間/「工業暗化」の発見/シモフリガの暗化解明史/実験への懐疑/暗化問題にケリをつける
  • Chapter 9 いま、ここにある進化
    ホシムクドリの北米侵攻と進化/鳥の羽を短くさせるもの/緑の島のたんぽぽの種は飛ばない?/都市のトカゲは足が長い?
  • Chapter 10 都市生物の遺伝子はどこから来たのか
    遺伝子から種の歴史をたどる/生息地の断片化/ニューヨークの公園に孤立したネズミ/遺伝子プールの断片化の功罪/局所適応の可能性
  • Chapter 11 汚染と進化
    汚染に適応した魚/塩は生物の大敵/金属と黒いハト
  • Chapter 12 巨大都市の輝く闇
    ロナウドの頬にとまるガ/なぜ虫は光を目指すのか/アランの数少ない実験例/光害を利用するクモ
  • Chapter 13 それは本当に進化なのか?
    軟らかい選択、硬い選択/進化の起源/塩基配列でなく染色体の変化で形質が変わる
  • Ⅲ 都市は出会いだ
  • Chapter 14 思いがけない出会い、思いがけない進化
    フランスの「淡水のシャチ」/一方向の進化、双方向の進化/どの生き物もつながっている/たばこの吸い殻で巣をつくる鳥
  • Chapter 15 生物たちの技術伝播
    クルミ割りに車を利用するカラス/牛乳瓶をめぐるカラとの格闘/鳥は技術を仲間に伝えられるのか?/都市向きの生物に必要な才能/恐怖心が少ないことも重要
  • Chapter 16 都市の歌
    沈黙のさんぽへ出発/歌声の変化は進化か学習か?/囀りと性選択
  • Chapter 17 セックス・アンド・ザ・シティー
    白い尾羽に隠された意味/都市では男らしくないほうがモテる?/性選択を変化させる都市の要因
  • Chapter 18 都市の種の分化
    ダーウィンの広告塔になった鳥/都市で種分化したクロウタドリ/クロウタドリのヨーロッパ進出/種分化の過程を追う/ニッチが進化の鍵/生体時計の変化/種分化は逆戻りもする
  • Ⅳ ダーウィン的都市
  • Chapter 19 遠隔連携する世界
    シーボルト帰国の思わぬ副産物/均質化する世界の生態系/都市も似通ってきている/人間も都市で進化する生物か?
  • Chapter 20 ダーウィンとともに都市を設計する
    天空の里山/都市設計と都市進化の間/里山はいかにして存続可能なのか?/都市進化を以下に観察・記録するか
  • おわりに 都市で生物を進化させるために
    思い出の場所の変貌/都市すらも、手つかずの自然も等価に大事/「好人性生物」の今後を見守る
  • 謝辞/訳者あとがき/著者注

【感想は?】

 本書の主張は、ハッキリしている。

進化とは、実際、いまここで観察することが可能な現実なのである。
  ――はじめに

 ダーウィンのように世界を回らなくてもいい。人里離れたガラパゴス諸島まで出かける必要はない。あなたが暮らしている街で、生物が進化しつつある様を見ることができる。そういう主張だ。

 もっとも、そう主張するには、ちゃんと目的があって、それは終盤で明らかになる。「あなたが見つけた進化の証拠を教えてくれ」だ。学者もチャッカリしてるね。チャッカリしてるだけのことはあり、この本を読み通すと、双眼鏡とスマートフォンまたはカメラを持って街に出かけたくなるのだ。

 先のマンチェスターのシモフリガのように、都市の環境に合わせ、生物が変わる実例は幾つかある。ちなみにシモフリガには続編があって、大気汚染が減ったら元の白い色のギモフリガが増えた。「進化」って字面から、優れた者が残るみたいに思われがちだけど、単に環境に適した者が栄えるってだけで、環境が変われば適者の条件も変わるのだ。

 もっとも、シモフリガは適応にしては極端な例で、遺伝子そのものが変化している。逆に自動車でクルミを割るカラスは穏やかな例だろう。少なくとも今のところ確認されているのは振る舞いの違いだけで、遺伝子までは確認されていない。いや調べていないだけかもしれないけど。

 都市で黒くなるのはガだけじゃない。ハトも黒くなる。これも原因は汚染物質だ。

汚染された環境下ではより暗い色の羽毛をまとうことに、真の進化的優位性があることをしめしている。
  ――Chapter 11 汚染と進化

 ただし、原因はシモフリガと全く違う。シモフリガが食われないために保護色をまとった。ハトはもっと凄絶だ。野生の環境では、亜鉛など重金属は滅多にない。だが都市では亜鉛メッキされた鉄筋などがそこかしこにある。よって土も濃い亜鉛を含み、そこで育つ植物も亜鉛が多い。当然、それを食べるハトの身体にも大量の亜鉛が入ってくる。でも亜鉛は体にいいもんじゃない。なんとか身体から追い出さないと。

 そこで羽毛だ。体に溜まった重金属を、羽毛として外に出してしまえ。結果、羽毛が黒くなるけど、金属中毒で死ぬよりマシだ。そんな風に、都会のハトは生き残るため黒い羽根をまとうようになった。どの街にもいるハトも、こんな風に進化しつつある。

 こういった変化は生殖行動にも表れる。多くの鳥のオスは、歌声でナンパする。そしてモテる声は、田舎と都会では違う。

都市の騒音もほぼ低周波なのだ。その都市において最も普通にみられる野鳥は、比較的高い声の持ち主のようなのである。
  ――Chapter 6 生物は先に都市街に対応している?

 都会の鳥は、声が高い方がモテる。なぜか。都会は煩い。都市の騒音に負けないために、彼らは高い声で歌うのだ。

 そんな風に、振る舞いが変わるだけでなく、種によっては分化も進みつつある。先のロンドンチカイエカは、路線ごとに遺伝子が違っていた。似た現象が、ニューヨークの公園に住むシロアシネズミでも見つかっている。フォーダム大学の生物学者ジェイソン・マンシーサウス曰く…

「誰かがわたしたちに(ニューヨークの公園から)ネズミを持ってきたとします。どこで捕まえたかを教えてくれなくても、わたしたちにはそれがどの公園のネズミなのかを特定することができます。そのくらいネズミたちは異なってしまっているのです」
  ――Chapter 10 都市生物の遺伝子はどこから来たの

 それぞれの公園ごとに、シロアシネズミは孤立した群れをなし、その群れのなかで交配を繰り返した。他の群れとは道路で隔てられ、交配しなかった。その結果、公園ごとに全く違った遺伝傾向を持つようになった。都市の中で、新しい種が生まれつつあるらしい。それも、凄まじい勢いで。

進化生物学には進化の速さを表す単位がある。「ダーウィン」である――1ダーウィンはおよそ千年に0.1%の増加ないし減少を示す。スタニエルケイのトカゲたちの進化速度は90から12,000ダーウィンであった。
  ――Chapter 9 いま、ここにある進化

 それも当たり前で、そもそも都市は変化が激しいからだ。戦争で焼け野原になった東京も、一世紀もせずにコンクリート・ジャングルになった。ヒトがいない環境では、あり得ない速度だ。にも関わらず、それについてきた連中もいるのだ。もっとも、はびこるのは地元の出身者だけとは限らない。

ヨーロッパ及び北アメリカの都市では、野生植物の35~40%が外来種である。そして北京の都心部においては、その割合は53%にもなる。
  ――Chapter 5 「都会ずれ」したものたち

 セイタカアワダチソウなど、ヨソ者がデカいツラしてはびこるのも、都会の特徴だ。これには面白い傾向もあって…

住民たちが裕福であればあるほど、植物の多様性はそれだけ大きくなるのである。
  ――Chapter 5 「都会ずれ」したものたち

 原因はいろいろで、海外から持ってきた種が脱走して定着したり、もともと生物がはびこりやすい環境だったり。セイタカアワダチソウは日本にやって来た例だが、逆に日本から海外に飛びだした奴もいる。

アメリカ東部のいくつかの名門大学は蔦に覆われているので、「アイヴィーリーグ」の名で呼ばれるが、その呼び名の元になったボストンツタ(ナツヅタ:Parthenocissus tricuspidata)でさえ、フォン・シーボルトによって世界中に広められた日本原産の植物なのだ。
  ――Chapter 19 遠隔連携する世界

 マジかい。何やってんだシーボルト。他にもシーボルトは色々と持ち出して荒稼ぎしたそうで、なかなかしたたかな人だったらしい。最近じゃ葛が話題になったなあ(→Wikipedia)。

 そんな風に、ヒトだけじゃなく生物も盛んに国際交流している。もちろん、交流の主な舞台となるのは、都市である。その都市は、どの国に行っても景観は似通っている。景観だけじゃない。騒音は煩いし、重金属は多いし、ヒトの食べ残しも沢山ある、つまり、環境も似てきている。となれば、そこに住む生物も…

世界中の都市の生態系がますます似たものになりつつある
  ――Chapter 19 遠隔連携する世界

 東京とニューヨークの景観が似ているように、そこに住む生物も似てきているらしい。そもそも、都会に住める者には、重要な共通点があるし。

牛乳瓶あるいはルーシー・アプリンの問題箱の攻略に成功したカラは、寛容的であり、問題解決能力を持った新し物好きである、という事実から恩恵を受けたのだと思われる。(略)
より自然度の高い環境下にあっては、引っ込み思案で、保守的で、新し物嫌いであったほうがより安全なことが多い。
  ――Chapter 13 それは本当に進化なのか?

 都市の変化は激しい。変化についていくには、引っ込み思案じゃダメで、新しいことに挑む積極性や好奇心が必要らしい。なんだかヒトに似てるね。

 そんなワケで、都市そのものが変わっていくのに合わせ、都市の生物も凄まじい勢いで変わりつつある。私たちは、目の前で「進化」が見られるのだ。こんな好機は滅多にない。さあ、カメラと双眼鏡を持って街に出かけよう。面白い記録が取れたら、ボクに送ってね。

 …と、読者を煽る本だ。その目論見は、見事に成功していると思う。私も、この本を読んだ後は、ハトやスズメをじっくり見るようになったし、ほんの少し人生が豊かになった気がする。生物学の幅広さと底の深さを感じるとともに、散歩が少し楽しくなる、そんな本だ。

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2020年12月20日 (日)

社団法人 日本音楽スタジオ協会「サウンドレコーディング技術概論 2009改訂版」兼六館出版

本書は、(略)レコーディングに関与しているエンジニア諸氏の日常的マニュアルとして利用していただくことは勿論、これからレコーディングエンジニアを目指す方々にとっては教科書として役に立つことと確信しております。
  ――はじめに

声を艶やかに、しかも輪郭をハッキリさせたい場合、基音である中音域をいじるよりも、高い方の倍音(10kHz~18kHz)辺りをブーストするとその効果が出る場合が多い。
  ――第6章 次世代音響技術

現在、ロック・ポップス系のアーティストの原版制作費の平均は、アルバムで1,000~1,500万円、シングルで200~300万円といったところだろうか。
  ――第8章 音楽著作権

【どんな本?】

 レコーディング・エンジニアの仕事は多岐にわたる。録音時のマイク選びや位置決め、機材の電源確保から保守管理、残響やイコライズなどのエフェクト処理、各段階の音源管理や配信媒体の特性に合わせたミックスダウンなど、多くの専門知識と経験が必要だ。最近はDAW(Digital Audio Workstation)が普及し、コンピュータ関連のノウハウも重要になってきた。

 本書はプロのレコーディング・エンジニア向けのマニュアルとして書かれたものであり、レコーディング・エンジニアに必要な技術と知識を総合的・体系的に網羅した本である。

 と同時に、演奏を楽しむアマチュア・ミュージシャンや、理想の音を追い求めるオーディオ・マニア、パソコンで音楽を創るDTMユーザ、そしてより深く音楽を味わいたい音楽ファンにも、濃くて美味しい話が山盛りの美味しい本でもある。

 ちなみに著者のJAPRS(社団法人 日本音楽スタジオ協会)は、通商産業大臣(現:経済産業大臣)の認可を受けた正式な一般社団法人だ。粗製乱造の規格本にありがちな、著者を誤魔化すためのテキトーなデッチあげではない。よって、巻末の「執筆者一覧」に個人名がハッキリ出ており、JAPRS外の7名も執筆に協力している。

 なお、技術の進歩や時代に合わせ改訂を重ねており、2020年12月現在は2020年版が出ている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2009年3月20日第1刷発行。単行本ソフトカバー横一段組み約518頁。10ポイント38字×41行×518頁=約807,044字、400字詰め原稿用紙で約2,018枚。文庫なら4巻分ぐらいの巨大容量。ただし写真やイラストも多いため、実際の文字数は7~8割程度。

 多数の著者による共著のため、読みやすさはまちまち。また内容も章によりけり。積分や対数を含む数式が続々と出てくる所もあれば、具体的なエピソードが楽しい所もある。

【構成は?】

 各章はほぼ独立しているので、野次馬根性で読む人は美味しそうな所を拾い読みしてもいい。

クリックで詳細表示、やたら長いので要注意。
  • はじめに/監修を終えて
  • 第1章 音響の基礎
  • 1.1 “主観的な音”と“客観的な音”
  • 1.2 聴覚器官の構造
  • 1.3 音の性質
    • 1.3.1 波の性質
    • 1.3.2 横波と縦波
    • 1.3.3 球面波と平面波
    • 1.3.4 球面波の伝播
    • 1.3.5 正相と逆相
    • 1.3.6 音の速さ
    • 1.3.7 音の種類
  • 1.4 デシベルと音圧レベル
    • 1.4.1 デシベルとは
    • 1.1.2 dBmとdBu(dBs)
    • 1.4.3 dBU/dBu,dBV/dBv,dBS/dBs
    • 1.4.4 dBの計算
    • 1.4.5 音圧レベル
  • 1.5 楽器の音響的な性質
    • 1.5.1 標準音
    • 1.5.2 楽器の波形と倍音
    • 1.5.3 弦の振動
    • 1.5.4 開管と閉管
    • 1.5.5 板の振動(クラドニの砂図形)
    • 1.5.6 楽器と箱の定在波
    • 1.5.7 楽器のスペクトラム
    • 1.5.8 楽器の指向性
  • 1.6 音律
    • 1.6.1 ピタゴラス音律
    • 1.6.2 ミーン・トーン音律(中前音律 Mean tone temperament)
    • 1.6.3 純正率 (Just Intonation)
    • 1.6.4 平均律(Temperament)
  • 1.7 音声信号の伝送における諸特性
    • 1.7.1 周波数特性
    • 1.7.2 聴覚の周波数特性
    • 1.7.3 歪みとは
    • 1.7.4 ダイナミックレンジとS/N
    • 1.7.5 VUメータとピークメータ
    • 1.7.6 マスキング効果
  • 1.8 両耳効果とステレオ
    • 1.8.1 両耳による距離と方向の知覚
    • 1.8.2 ペアマイクによる収音
    • 1.8.3 ステレオの“定位感”と“拡がり感”
    • 1.8.4 Pan-Pot
    • 1.8.5 時間差と位相差
    • 1.8.6 残響時間と残響感
    • 1.8.7 先行効果(ハース効果)
  • 第2章 音響物理の基礎
  • 2.1 音と聴覚
    • 2.1.1 音と音波
    • 2.1.2 音に関する物理量
    • 2.1.3 音の尺度
    • 2.1.4 音の分類
    • 2.1.5 人の聴覚と聴覚形成
  • 第3章 電器音響の基礎
  • 3.1 電器の基礎
    • 3.1.1 オームの法則
    • 3.1.2 交流
    • 3.1.3 直流
    • 3.1.4 電源
    • 3.1.5 グランド
  • 3.2 基本回路
    • 3.2.1 バランス伝送とアンバランス伝送
    • 3.2.2 インピーダンス
    • 3.2.3 直列と並列
    • 3.2.4 分圧回路
    • 3.2.5 ロー出しハイ受け
    • 3.2.6 電源電圧と最大レベル
  • 3.3 オーディオ機器に使用されるパーツ
    • 3.3.1 抵抗
    • 3.3.2 可変抵抗
    • 3.3.3 コンデンサ
    • 3.3.4 コイル
    • 3.3.5 オペアンプ
    • 3.3.6 トランジスタ
    • 3.3.7 トランス
    • 3.3.8 ダイオード
    • 3.3.9 スイッチ
    • 3.3.10 リレー
    • 3.3.11 ケーブル
  • 3.4 オーディオ回路
    • 3.4.1 ヘッドアンプ
    • 3.4.2 フィルタ
    • 3.4.3 イコライザ
    • 3.4.4 ダイナミックス
    • 3.4.5 ラインドライバ
    • 3.4.6 電源回路
    • 3.4.7 パワーアンプ
    • 3.4.8 ボルテージ・コントロールド・レジスタ(VCR)とボルテージ・コントロールド・アンプ(VCA)
  • 3.5 磁気記録
  • 3.6 デジタル技術
    • 3.6.1 デジタルの基礎
    • 3.6.2 A/DコンバータとD/Aコンバータ
    • 3.6.3 同期
    • 3.6.4 サンプリング・レート・コンバータ(SRC)
    • 3.6.5 デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)
    • 3.6.6 ハードディスクレコーディングとデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)
    • 3.6.7 ファイルアロケーション
    • 3.6.8 フラグメンテーション
  • 第4章 音響機器
  • 4.1 スタジオシステム
    • 4.1.1 プロ用音楽スタジオ
      • 4.1.1.1 スタジオの概要
      • 4.1.1.2 スタジオの形態
      • 4.1.1.3 スタジオの音響性質
      • 4.1.1.4 スタジオの空調、電気設備
    • 4.1.2 スタジオシステムの機器構成
      • 4.1.2.1 オーディオシステム
      • 4.1.2.2 制御システム
      • 4.1.2.3 映像との同期
      • 4.1.2.4 レコーディングスタジオのコミュニケーションシステム
      • 4.1.2.5 MIDI(Musical Instrument Digital Interface)
    • 4.1.3 スタジオの配線システム
      • 4.1.3.1 静電誘導とシールド線
      • 4.1.3.2 単芯シールド
      • 4.1.3.3 2芯シールド
      • 4.1.3.4 ツイステッドペアケーブル
      • 4.1.3.5 シールド材料による分類
      • 4.1.3.6 シールド線と音声信号の高域減衰
      • 4.1.3.7 2芯シールドの静電容量と回路方式による高域負荷の違い
    • 4.1.4 高周波用ケーブル
      • 4.1.4.1 同軸ケーブルおよび同軸コネクタの構造と特性インピーダンス
      • 4.1.4.2 ターミネーションプラグ
      • 4.1.4.3 同軸ケーブル
      • 4.1.4.4 低損失同軸ケーブル
    • 4.1.5 マルチケーブル、混合ケーブル
      • 4.1.5.1 様々なマルチケーブル
      • 4.1.5.6 複合ケーブル
    • 4.1.6 デジタル信号用ケーブル
      • 4.1.6.1 AES/EBU音声信号
      • 4.1.6.2 110ΩSES/EBUケーブル
      • 4.1.6.3 スピーカーケーブル
    • 4.1.7 スタジオで使われるコネクタ
      • 4.1.7.1 RCAプラグ
      • 4.1.7.2 フォンプラグ
      • 4.1.7.3 ステレオ・フォンプラグ
      • 4.1.7.4 XLR型コネクタ
      • 4.1.7.5 マルチコネクタ
      • 4.1.7.6 D-Sub25ピンコネクタ
    • 4.1.8 パッチ盤
      • 4.1.8.1 マルチコネクターパッチ盤
      • 4.1.8.2 ビデオパッチ盤
      • 4.1.8.3 BNCパッチ盤
      • 4.1.8.4 XLRパッチ盤
      • 4.1.8.5 パッチ盤の存在意義
  • 4.2 マイクロホン
    • 4.2.1 マイクロホンの役目
      • 4.2.1.1 アコースティック録音から電気録音
      • 4.2.1.2 増幅器をつけたマイクの必要性
      • 4.2.1.3 マイクの役割
    • 4.2.2 マイクロホンの感度
    • 4.2.3 マイクの指向性
      • 4.2.3.1 無指向性マイク(Omni-Direction, No-Direction)
      • 4.2.3.2 単一指向性(Uni-Direction, Cardioid-Microphon)
      • 4.2.3.3 双指向性(Bi-Direction, Figure-8 Direction)
    • 4.2.4 リボンマイク
      • 4.2.4.1 リボンマイクの動作原理
      • 4.2.4.2 ラジオの主役
    • 4.2.5 ダイナミックマイク
      • 4.2.5.1 ダイナミックマイクの動作原理
      • 4.2.5.2 マイクもスピーカも動作原理は同じである
    • 4.2.6 コンデンサーマイク
      • 4.2.6.1 コンデンサーマイクの動作原理の解説
      • 4.2.6.2 可変指向性マイクについて
      • 4.2.6.3 ファントムパワーリング
    • 4.2.7 エレクトレット・コンデンサーマイク(Electret Condenser Microphone)
    • 4.2.8 ダイレクトボックス
    • 4.2.9 マイクの付属品について
      • 4.2.9.1 マイクネジ
      • 4.2.9.2 アブソーバ
      • 4.2.9.3 ウインドスクリーン
  • 4.3 ミキシングコンソール
    • 4.3.1 ミキシングコンソールの歩み
    • 4.3.2 シグナルレベルの統一
    • 4.3.3 シグナルパスのモード
      • 4.3.3.1 レコーディングモード
      • 4.3.3.1 ミックスダウンモード
      • 4.3.3.1 オーバーダビングモード
    • 4.3.4 I/Oモジュール
      • 4.3.4.1 ヘッドアンプ
      • 4.3.4.2 チャンネルエフェクト
      • 4.3.4.3 フィルタ
      • 4.3.4.4 インサート
      • 4.3.4.5 AUXセンド
      • 4.3.4.6 ステレオルーティング
      • 4.3.4.7 マルチトラックルーティング
      • 4.3.4.8 マルチトラックマスタ
      • 4.3.4.9 マルチトラックモニタ
      • 4.3.4.10 フェーダ
      • 4.3.4.11 ソロ
      • 4.3.4.12 チャンネルメータ
    • 4.3.5 マスターセレクション
      • 4.3.5.1 ステレオマスタ
      • 4.3.5.2 マスターメータ
      • 4.3.5.3 AUXマスタ
      • 4.3.5.4 エコーリターン
      • 4.3.5.5 CUEマトリックス
      • 4.3.5.6 モニターセクション
      • 4.3.5.7 コミュニケーション
      • 4.3.5.8 オシレータ
      • 4.3.5.9 クレジット
    • 4.3.6 グループ
      • 4.3.6.1 オーディオグループ
      • 4.3.6.2 フェーダ―グループ
    • 4.3.7 パッチ
      • 4.3.7.1 パッチベイ
    • 4.3.8 オートメーション
      • 4.3.8.1 フェーダーオートメーション
      • 4.3.8.2 トータルリコール
      • 4.3.8.3 スナップショット
      • 4.3.8.4 ダイナミックオートメーション
    • 4.3.9 デジタルミキシングコンソール
      • 4.3.9.1 デジタルコンソールとビット長
      • 4.3.9.2 新しいコンソールのスタイル
  • 4.4 エフェクタ
    • 4.4.1 ダイナミックス
      • 4.4.1.1 コンプレッサ
      • 4.4.1.2 リミッタ
      • 4.4.1.3 ゲート
      • 4.4.1.4 エキスパンダ
      • 4.4.1.5 ディエッサ
    • 4.4.2 イコライザ
      • 4.4.2.1 パラメトリックイコライザ
      • 4.4.2.2 グラフィックイコライザ
    • 4.4.3 フランジャ/フェーザ/コーラス
      • 4.4.3.1 フランジャ
      • 4.4.3.2 フェーザ
      • 4.4.3.3 コーラス
    • 4.4.4 センド・リターン系
      • 4.4.4.1 リバーブ
      • 4.4.4.2 ディレイ
      • 4.4.4.3 ハーモナイザ
    • 4.4.5 その他
      • 4.4.5.1 デジタルエフェクタ
      • 4.4.5.2 マルチエフェクタ
      • 4.4.5.3 マツリプロセッサ
    • 4.4.6 エフェクタを組み合わせて使用する場合の注意
      • 4.4.6.1 シリーズ接続
      • 4.4.6.2 サイドチェーン
    • 4.4.7 カタログの仕様書について
      • 4.4.7.1 入力/出力
      • 4.4.7.2 電源
  • 4.5 テープレコーダ
    • 4.5.1 アナログテープレコーダ
      • 4.5.1.1 テープ幅
      • 4.5.1.2 トラック数
      • 4.5.1.3 テープの厚さ
      • 4.5.1.4 テープスピード
    • 4.5.2 走行系
    • 4.5.3 ヘッド
    • 4.5.4 メータ
      • 4.5.4.1 VUメータ
      • 4.5.4.2 ピークメータ
    • 4.5.5 基準録音再生レベル
    • 4.5.6 バイアス
    • 4.5.7 イコライザ
    • 4.5.8 ノイズリダクション
    • 4.5.9 デジタルテープレコーダ
      • 4.5.9.1 サンプリング周波数
      • 4.5.9.2 bit数
      • 4.5.9.3 DAT
      • 4.5.9.4 マスターレコーダ
      • 4.5.9.5 MTR
    • 4.5.10 同期
    • 4.5.11 テープ以外のメディアを使ったレコーダ
    • 4.5.12 これからの録音の流れ
  • 4.6 モニタスピーカ
    • 4.6.1 モニタースピーカの役割および設置方法
      • 4.6.1.1 メイン(ラージ)モニタースピーカ
      • 4.6.1.2 メイン(ラージ)モニタースピーカの設置方法
      • 4.6.1.3 ニアフィールドモニタースピーカ
    • 4.6.2 スピーカの基礎
      • 4.6.2.1 電流と磁界の関係
      • 4.6.2.2 フレミングの法則
    • 4.6.3 スピーカの種類および構造
      • 4.6.3.1 直接放射型スピーカ(コーンスピーカ、ドームスピーカ)
      • 4.6.3.2 ホーンスピーカ
      • 4.6.3.3 コーンスピーカの指向性
      • 4.6.3.4 スピーカーシステムの構成(ウーファ、スコーカ、ツィータ)
    • 4.6.4 エンクロージャ
      • 4.6.4. 密閉型
      • 4.6.4. バスレフ型
    • 4.6.5 ヘッドホン
      • 4.6.5.1 スタジオにおけるヘッドホン
      • 4.6.5.2 ヘッドホンの構造
    • 4.6.6 ハイパーソニック・エフェクト
    • 4.6.7 デバイディングネットワーク
    • 4.6.8 チャンネルデバイダ
    • 4.6.9 パワーーアンプ
      • 4.6.9.1 ダンピングファクタ
      • 4.6.9.2 A級アンプ、B級アンプ、AB級アンプ
      • 4.6.9.3 BTL接続(Bridge Tied Load)
  • 第5章 録音技術
  • 5.1 ペアマイク収音
    • 5.1.1 残響感
    • 5.1.2 両耳効果とステレオ受聴
    • 5.1.3 サウンドステージ
    • 5.1.4 演奏者のレイアウト
    • 5.1.5 マイクセッティング
    • 5.1.6 ペアマイク収音
      • 5.1.6.1 オーケストラのペアマイク収音
      • 5.1.6.2 色々なペアマイク収音
      • 5.1.6.3 ダミーヘッド
    • 5.1.7 録音レベル
    • 5.1.8 エフェクタの使用、ミキシングコンソールの操作
    • 5.1.9 レベルコントロール手法
    • 5.1.10 音楽とのかかわり
  • 5.2 オーケストラのレコーディング(マルチトラック)
    • 5.2.1 はじめに
    • 5.2.2 MTRが登場する以前の録音
    • 5.2.3 MTRが登場
    • 5.2.4 ミキシングコンソールの使用
    • 5.2.5 音楽とのかかわり
    • 5.2.6 MTRを使用したオーケストラ録音の録音手法
    • 5.2.7 マイクセッティング
    • 5.2.8 演奏者のレイアウト
  • 5.3 リズムトラックレコーディング(マルチトラック)
    • 5.3.1 スタジオでのリズムトラックレコーディングの色々
    • 5.3.2 音楽とのかかわり
    • 5.3.3 リズムトラックの楽器
    • 5.3.4 楽器のレイアウトとマイクセッティング
    • 5.3.5 アナログテープレコーダの使用
    • 5.3.6 モニターバランスの取り方
  • 5.4 ダビング(マルチトラック)
    • 5.4.1 バンドのレコーディングとダビング、ピンポン
    • 5.4.2 ダビングされる楽器
    • 5.4.3 ヴォーカルダビング
    • 5.4.4 シンセサイザのダビング
      • 5.4.4.1 シンセサイザの進歩
      • 5.4.4.2 関連技術
      • 5.4.4.3 シンセサイザの録音
  • 5.5 ミックスダウン
    • 5.5.1 初期のミックスダウンの想い出
    • 5.5.2 セクションバランスの取り方
    • 5.5.3 音楽全体のバランスの取り方(レベル、パンなど)
    • 5.5.4 リバーブについて
    • 5.5.5 リバーブのパラメータ
    • 5.5.6 色々なリバーブ
    • 5.5.7 ヴォーカルのリバーブ
    • 5.5.8 イコライザの使用
    • 5.5.9 ダイナミックス系のエフェクタ
    • 5.5.10 各楽器のミックス手法
    • 5.5.11 その他のエフェクタ
    • 5.5.12 ミックスダウン時の心得
    • 5.5.13 各メディアによるミックスダウン手法の違い
    • 5.5.14 コンピューターミキシング
    • 5.5.15 その他の注意点
  • 5.6 ライヴレコーディング
    • 5.6.1 録音の規模と音楽の種類
    • 5.6.2 基本的な注意事項
    • 5.6.3 制作との打合わせ
    • 5.6.4 ホールとの打合せ
    • 5.6.5 中継車を使用した録音
    • 5.6.6 中継室での録音
    • 5.6.7 楽屋での録音
    • 5.6.8 舞台袖での録音
    • 5.6.9 MTRレコーディング
    • 5.6.10 ステレオライヴレコーディング
    • 5.6.11 サラウンドライヴレコーディング
    • 5.6.12 映像などとの同期
  • 5.7 マスタリング
    • 5.7.1 マスタリングの歴史
      • 5.7.1.1 アナログディスク・カッティング
      • 5.7.1.2 CDマスタリング
    • 5.7.2 素材メディアから、マスタリングメディアへの取込み
    • 5.7.3 マスタリング時のエフェクト
    • 5.7.4 レベル管理
    • 5.7.5 編集 曲順の並び替え(曲間調整)
    • 5.7.6 マスタ用の媒体
  • 第6章 次世代音響技術
  • 6.1 デジタル録音とサウンド制作
    • 6.1.1デジタル録音技術 
      • 6.1.1.1 デジタル録音技術の変遷
      • 6.1.1.2 デジタル録音における同期について
      • 6.1.1.3 DAW(Digital Audio Workstation)
      • 6.1.1.4 データの互換性とネットワーク化
    • 6.1.2 デジタル音声圧縮技術
      • 6.1.2.1 オーディオ配信・通信におけるデータ圧縮手法
      • 6.1.2.2 音声伝送におけるデータ圧縮方式
      • 6.1.2.3 ブロードバンド時代の音声伝送方式
      • 6.1.2.4 IPネットワーク
      • 6.1.2.5 放送における音声圧縮技術
      • 6.1.2.6 サウンドのための圧縮技術
      • 6.1.2.7 パッケージメディア・ゲームのサラウンド技術
      • 6.1.2.8 インターネットにおけるサラウンド技術
    • 6.1.3 サラウンド制作手法
      • 6.1.3.1 さまざまなサラウンド方式
      • 6.1.3.2 サラウンド制作手法
      • 6.1.3.3 2chステレオとの互換性
      • 6.1.3.4 サラウンド収録方法の実際
    • 6.1.4 次世代のメディアの可能性
  • 6.2 マルチチャンネル再生
    • 6.2.1 はじめに
    • 6.2.2 マルチチャンネルフォーマット
      • 6.2.2.1 再生形態
      • 6.2.2.2 記録特性・再生特性
    • 6.2.3 モニタとスピーカ配置
    • 6.2.4 ベースマネージメント(Bass Management)
      • 6.2.4.1 室内音響的措置
      • 6.2.4.2 スピーカ配置の見当
      • 6.2.4.3 電器音響的措置
    • 6.2.5 マルチチャンネル再生環境における誤差
      • 6.2.5.1 コムフィルタリング現象
      • 6.2.5.2 ハ―ネス効果
      • 6.2.5.3 サブウーファのクロスオーバ
    • 6.2.6 モニタ調整
      • 6.2.6.1 5チャンネルのレベルバランス
      • 6.2.6.2 LFEチャンネルの調整
    • 6.2.7 ダウンミキシング
  • 6.3 Pro Tools関連
    • 6.3.1 Pro Tools概要
      • 6.3.1.1 システムの概要
      • 6.3.1.2 普及までの経緯
      • 6.3.1.3 ハードウェアの特徴
      • 6.3.1.4 オペレーションの変化
      • 6.3.1.5 フィジカルコントローラ
      • 6.3.1.6 セッション
      • 6.3.1.7 トラック
      • 6.3.1.8 プラグイン
      • 6.3.1.9 LEシステム
      • 6.3.1.10 データの二重化
    • 6.3.2 オーディオレコーディング・編集
      • 6.3.2.1 レコーディングの準備・設定
        • 6.3.2.1.1 I/O設定(I/O Setup)
        • 6.3.2.1.2 プレイバックエンジンの設定
        • 6.3.2.1.3 セッションの新規作成
        • 6.3.2.1.4 レコーディング用ディスク容量の指定
        • 6.3.2.1.5 ワークスペース・ブラウザの設定
        • 6.3.2.1.6 [タスクマネージャ(Task Manager)について]
        • 6.3.2.1.7 トラックの新規作成
        • 6.3.2.1.8 [ディスク割り当て(Disk Allocation)の確認および設定
      • 6.3.2.2 レコーディング
        • 6.3.2.2.1 ディストラクティブ/ノンディスクラクティブレコーディングについて
        • 6.3.2.2.2 タイム・スケールの設定
        • 6.3.2.2.3 小節管理におけるテンポ・拍子の設定
        • 6.3.2.2.4 録音レベルとモニターレベルの管理
        • 6.3.2.2.5 クイックパンチ、トラックパンチ・レコーディング
        • 6.3.2.2.6 レコーディング時のショートカットキーについて
      • 6.3.2.3 オーディオの編集
        • 6.3.2.3.1 メモリー・ロケーションの活用
        • 6.3.2.3.2 プレイリストについて
        • 6.3.2.3.3 マルチプルアンドゥ機能について
        • 6.3.2.3.4 エディット・モードについて
        • 6.3.2.3.5 編集ツールについて
        • 6.3.2.3.6 フェードの活用
        • 6.3.2.3.7 グループ、リージョン・グループの作成および活用
        • 6.3.2.3.8 カット、コピー、ペースト、クリアコマンドについて
    • 6.3.3 ミキシング
      • 6.3.3.1 ミックスの準備について
      • 6.3.3.2 ミックスで使うツールについて
        • 6.3.3.2.1 EQ
        • 6.3.3.2.2 コンプレッサ
        • 6.3.3.2.3 リバーブ
        • 6.3.3.2.4 ディレイ
        • 6.3.3.2.5 ピッチ系のエフェクト
        • 6.3.3.2.6 その他シミュレータ
      • 6.3.3.3 ミックスの進め方について
      • 6.3.3.4 オートメーションについて
      • 6.3.3.5 Final Mixを録る
      • 6.3.3.6 まとめ
    • 6.3.4 Pro Toolsシステム・シンク・MIDI・ファイル管理など
      • 6.3.4.1 Pro Toolシステム
        • 6.3.4.1.1 Macintosh
        • 6.3.4.1.2 DSP Card
        • 6.3.4.1.3 192 I/O
        • 6.3.4.1.4 Sync I/O
        • 6.3.4.1.5 HDD
        • 6.3.4.1.6 レコーディングスタジオにおけるシステム構成
      • 6.3.4.2 シンク
        • 6.3.4.2.1 シンクとは?
        • 6.3.4.2.2 ポジショナルリファレンスとクロックリファレンス
        • 6.3.4.2.3 クロックリファレンスの種類
        • 6.3.4.2.4 クロックジェネレータについて
      • 6.3.4.3 ファイルの管理と互換性
        • 6.3.4.3.1 Pro Toolsで扱うデータについて
        • 6.3.4.3.2 データのインポートとエクスポート
        • 6.3.4.3.3 データの管理について
      • 6.3.4.4 MIDI
        • 6.3.4.4.1 MIDIとは?
        • 6.3.4.4.2 MIDI I/Oについて
        • 6.3.4.4.3 外部MIDI機器とバーチャル・インストゥルメント
        • 6.3.4.4.4 MIDIデータの入力
        • 6.3.4.4.5 レコーディングおよびミックスでのMIDIの用途
  • 第7章 音楽理論と楽器について
  • 7.1 基本的な楽器に対する知識
    • 7.1.1 特徴的な性格をもつ楽器の例
      • 7.1.1.1 グランドピアノ Grand Piano/Pianoforte
      • 7.1.1.2 ウード
      • 7.1.1.3 エレクトリックギター(グランジ)ギター
      • 7.1.1.4 トライアングル
    • 7.1.2 レコーディングシーンに登場する頻度の高い楽器
      • 7.1.2.1 エレクトリックギター
      • 7.1.2.2 アコ―スティックギター
      • 7.1.2.3 アコースティックピアノ
      • 7.1.2.4 キーボード
      • 7.1.2.5 オルガン
      • 7.1.2.6 ヴァイオリン、ヴィオラ
      • 7.1.2.7 チェロ
      • 7.1.2.8 ホルン
      • 7.1.2.9 クラリネット
    • 7.1.3 特殊楽器に対する知識
      • 7.1.3.1 日本の伝統楽器
      • 7.1.3.2 世界の伝統楽器
    • 7.1.4 新しい楽器とその展望
    • 7.1.5 演奏家とその楽器
  • 7.2 音楽を伝えるために発達してきたメディア
    • 7.2.1 楽譜:その歴史
    • 7.2.2 楽譜:そのコンセプト
      • 7.2.2.1 音符
      • 7.2.2.2 譜表
    • 7.2.3 現代の記譜法
    • 7.2.4 用語:古典的な楽典の基礎
    • 7.2.5 用語:ジャンルによる特殊用語 jazz, rock, bossa, etc
    • 7.2.6 用語:地域性、国民性
    • 7.2.7 テクノロジー:DEMO-TAPE
    • 7.2.8 テクノロジー:新しい録音メディアとその将来
    • 7.2.9 テクノロジー:SOFTWAREの現状と展望
  • 7.3 楽器法、対位法などの音楽理論
    • 7.3.1 古典的なロジックの応用:形式と理論
    • 7.3.2 バランス:楽器間のパワーバランス
    • 7.3.3 モニタ:演奏に必要な情報
  • 7.4 アンサンブルというコンセプト
    • 7.4.1 楽音と楽音の作用、反作用
  • 7.5 作家とその論理そして同時代性
    • 7.5.1 個別の(個人)楽想に対する知識
    • 7.5.2 クリエイティブなセッションとは
  • 第8章 音楽著作権
  • 8.1 著作権法概説
    • 8.1.1 著作権とは
      • 8.1.1.1 序
      • 8.1.1.2 著作権とは何か
      • 8.1.1.3 著作者人格権とは何か
      • 8.1.1.4 著作者人格権の一身専属性
      • 8.1.1.5 著作財産権
      • 8.1.1.6 著作権の財産権的側面
    • 8.1.2 著作隣接権・国際著作権条約とは
      • 8.1.2.1 著作隣接権とは何か
      • 8.1.2.2 著作隣接権の内容
      • 8.1.2.3 二次使用料請求権
      • 8.1.2.4 貸与報酬請求権
      • 8.1.2.5 著作権等に関する条約
    • 8.1.3 保護期間
      • 8.1.3.1 著作権の保護期間
      • 8.1.3.2 保護期間の原則
      • 8.1.3.3 保護期間の計算方法
      • 8.1.3.4 外国の著作物
      • 8.1.3.5 戦時加算
      • 8.1.3.6 著作隣接権の保護期間
    • 8.1.4 著作物の自由利用
      • 8.1.4.1 著作権の制限
      • 8.1.4.2 私的使用のための複製
      • 8.1.4.3 私的録音録画補償金制度
      • 8.1.4.4 営利を目的としない上演
  • 8.2 著作権ビジネス概説
    • 8.2.1 アーティストが締結する契約
      • 8.2.1.1 序
      • 8.2.1.2 アーティストのデビューまで
      • 8.2.1.3 レコード会社との専属実演家契約書
      • 8.2.1.4 プロダクションとのマネージメント契約書
    • 8.2.2 原版制作
      • 8.2.2.1 レコーディング作業
      • 8.2.2.2 原版制作
      • 8.2.2.3 原版の権利とは
    • 8.2.3 原版ビジネスの仕組み
      • 8.2.3.1 原版制作を行う意味
      • 8.2.3.2 原版契約
      • 8.2.3.3 原版印税の算出方法
      • 8.2.3.4 共同原盤
    • 8.2.4 出版ビジネスの仕組み
      • 8.2.4.1 音楽出版者とは
      • 8.2.4.2 仲介業務法とは
      • 8.2.4.3 著作権等管理事業法とは
      • 8.2.4.4 JASRACの著作権神託契約約款の改正
      • 8.2.4.5 著作権等管理事業法による影響
  • 第9章 レコーディングに関わるスタッフ
  • 9.1 制作系スタッフの役割
    • 9.1.1 プロデューサー
    • 9.1.2 ディレクター
    • 9.1.3 アレンジャー
  • 9.2 技術系スタッフの役割
    • 9.2.1 レコーディングエンジニア
    • 9.2.2 ミキシングエンジニア
    • 9.2.3 アシスタントエンジニア
    • 9.2.4 メンテナンスエンジニア
    • 9.2.5 マスタリングエンジニア
  • 9.3 スタジオマネージメント
    • 9.3.1 ブッキング
    • 9.3.2 スタジオワーク
    • 9.3.3 アフターケア
  • 9.4 レコード会社の役割
    • 9.4.1 レコード会社の業務内容
    • 9.4.2 発売元レコード会社と販売元レコード会社の違い
    • 9.4.3 プロモーション
    • 9.4.4 原版制作費の内容
  • 第10章 レコーディングに関わる用語集
  • 付録
  • A 測定とハンダ付け
  • B 録音再生調整
  • C MTRのトラックシートで使われる楽器の略記号
  • D トラブルシューティング
  • 執筆者一覧

【感想は?】

 質・量ともに、確かにプロ向けの本だ。

 同時に、音楽ファン・オーディオマニア・DTMユーザを更に沼の深みへと引きずり込む、とっても罪深い本でもある。沼にハマる楽しみを味わうコツは、わかんない所や興味のない所は大胆に読み飛ばすこと。でないと、なかなか先に進めない。なにせこのボリュームだし。

 第1章から、音楽ファンには嬉しい話がいっぱい。例えば、楽器の音の人がり方。周波数によって、よく聴こえる方向と聴こえない方向があるのだ。どの楽器も低音は全方向に響き、高音は前でよく聴こえる。意外なのがクラリネットで、1.1kHzあたりは前より斜め前がよく聴こえ、更に高い3.3kHzは前が最も響く。要は楽器と聴き手の向きで音色が変わるのだ。

 だもんで、録音する際には、どこにマイクを置くかも大事。

ステレオの収音方式は、ペアマイク収音方式とマルチマイク収音方式に大別される。
ペアマイクによるワンポイント収音方式は、演奏自体が音楽的にバランスが取れているクラシック音楽の収音に適した収音方式である。
一方、マルチマイク収音方式は、ミキシングによるバランス創りと音色形成が前提となるジャズ、ポップス、ロック、J-POPなどの収音に適した収音方式である。
  ――第5章 録音技術

 ペアマイクはステージ中央にマイクを2本置く形。マイクの間隔も大事で、狭いと「定位感が明確」、広いと「広がり感が良く」なる。オーケストラ全体で盛り上げる部分とソロが際立つ部分の両方を活かしたいなら、沢山のマイクを使い…

一般的に音響のマスとして取扱う弦楽器・コーラスなどは主として拡がり感を重視し、線として取扱うソロ楽器は定位を中心としたミキシングプランを立てると良い。
  ――第1章 音響の基礎

 と、パートに応じてミキシングを変えたりする。中には神業を持つ人もいて…

ピーク寸前の圧縮法であるが、オペラのソプラノやゴスペルなど高域でシャウトする歌唱には効果的な方法である、この場合、ブレスなどの一瞬の間を利用して、ピークが出る10ms程寸前でピークを抑えるのがコツである。
  ――第5章 録音技術

 いきなり大音量が入ると音が割れてしまう。それを避けるため、歌手の息継ぎのスキに感度を下げるのだ。こんなん、曲を充分に聴き込み、かつ歌手のクセを充分に知ってる人だけができる技だ。

 中には「『ピッチ直し』に技術によって多くの指名を受けるアシスタントエンジニアも存在する」って、あの辺の歌手…いえ、なんでもないです、はい。

 と感心すると同時に、生と録音や中継との違いも否応なしに感じてしまう。たとえライブ中継であろうとも、我々の耳に入る音は、エンジニアが「いじって」いるのだ。やっぱり生は違うんだなあ。

 音をいじるといえば、まずエフェクタが思い浮かぶ。意外だったのが声をいじるディエッサ。「サシスセソ」は「主に4kHz~10kHzの帯域」で「時には+10dBにも達しアンプを歪ませる」ので、これを抑えるのだ。トーク番組も、単に音を録って流しゃいいってモンじゃないんだなあ。

 今はデジタルになっちゃったけど、アナログ時代の話は何かと楽しい。例えばリバーブ(残響効果)のEMT-140。シングルベッドぐらいの大きさの鉄板を箱の中に吊るし云々って、どれだけ大掛かりなんだw 「マントヴァーニの演奏会ではEMT-140をわざわざ運んできた」というから、プロの音への拘りは凄い。

 こいいう音楽ファンには美味しいレコーディング裏話は他にもあって、サディスティック・ミカ・バンドの「黒船」や大瀧詠一の「A LONG VACATION」のネタもチラホラ。マイクを動かして「人間トレモロ」とか、そんな手もあったのかw

 ロックとかはスタジオで曲を作っていく部分もあったんだが、最近は予めカッチリ決まってる場合も多いのかな? でもミュージシャンもいろいろ。

ラテンパーカッションのプレイヤーは、いきなりテスト録音の時とは異なる楽器を即興的に演奏することもある。
  ――第5章 録音技術

 やはり気質もラテンなんだろうかw

 何かと時代を感じさせるのが「第6章 次世代音響技術」で、特に「6.3 Pro Tools関連」は音楽ソフト Pro Tools の話。ここではアナログのテープ時代とデジタル時代の革命的な変化がわかると共に、2009年当時と現在のコンピュータの違いも伝わってきたり。

 ハードディスクの伝送速度や容量で苦労する話が出てくるけど、今じゃテラ単位のSSDが当たり前だし、MOはUSBメモリに変わってるのかな? ギターアンプのエミュレータなんてのもあるのか。探したらロータリースピーカのエミュレータもあった。Pro Tools の価格破壊も凄い。本書じゃ「基本セットで数百万」が、今検索したら永続ライセンス版が10万円切ってる。デフレなんてモンじゃない。いい時代だ。

 私の基礎知識が貧しいせいで電気の話はほとんどわからなかったけど、ツイストペアの意味がわかったのは思わぬ収穫だった。ハムバック・ピックアップと同じ理屈なのね。にしても、雑音の話はエンジニアの苦労がしのばれる。コードが重なって交差するだけでも雑音が入るとは。大きな会場のコンサートを成功させるには、相当な経験と準備と工夫が要るんだなあ。

 プロ向けだから、かなり突っ込んだ話も多く、素人には全く意味不明な個所も多い。と同時に、一つの曲ができるまでの過程が詳しくわかるので、音楽ファンやオーディオ・マニアには嬉しいネタも盛りだくさんだ。読んだ後に曲を聴くと、「これはどうやって録ったんだろう」とか考え出し、音楽との付き合い方も広がる。不愛想に見えるが、好きな人には収穫の多い本だ。

 ところで、ギョーカイじゃキックと呼ぶのね。バスドラじゃなく。

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【今日の一曲】

Paul Kossoff - Tuesday Morning

 音創りが好きなのがコレ。一見(というか一聴)ほとんど音をいじってないように荒っぽい音創りに聴こえるんだけど、だからこそ目の前でプレイヤー達が演奏しているような臨場感がある。飽きて放り出したかのような投げやりっぽい終わり方も相まって、収録中のスタジオにお邪魔したかのような生々しさがあり、ポール・コゾフのファンはとっても贅沢な気分が味わえるのだ。

 当時のコゾフは麻薬に溺れ身体ともにヘロヘロで、あまし凝ったスタジオワークはできなかったハズなんだけど、なんでこんなにド迫力の音が録れたのか、実に謎だ。

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2020年11月26日 (木)

ロバート・P・クリース「世界でもっとも正確な長さと重さの物語 単位が引き起こすパラダイムシフト」日経BP社 吉田三知世訳

メートル法が世間の注目を浴びる数少ない話題の一つがスポーツだった。
  ――第7章 メートル好きとメートル嫌い

マルセル・デュシャン「絵画は終わった。あのプロペラを超えるものを誰が作れるというのだ?」
  ――第8章 ご冗談でしょう、デュシャンさん!

チャールズ・サンダース・パース「計測の問題に取り組む際、物理学者たちは、絶対の真実に到達できることなどほとんどあり得ないと心得ており、したがって、ある命題が真か偽かではなく、その誤差はどのくらいの大きさかを問いかけるのである」
  ――第9章 究極の単位という夢

ウィリアム・トムソン(ケルビン卿)「自分が話題にしているものを、測定することができるなら、あなたはそれについて何がしかのことを理解している。しかし、それを測定できず、数値で表現できないなら、あなたの知識は貧弱で不十分なものでしかない」
  ――第9章 究極の単位という夢

ヘンリー・ドレフュス「最も効率的な機械とは、人間を中心に作られたものだ」
  ――第11章 今日の計測を巡る状況

【どんな本?】

 世の中には様々な単位がある。食パンは斤、お米や日本酒は号、土地や建物は坪、海の距離は海里。中には「東京ドームn個分」とかもあれば、出版・印刷業界特有のポイントなんてのもある。一般に1ポイント≒0.353mmと中途半端な印象を受ける単位だが、日本の出版・印刷業界には級という単位もあって、こちらはピッタリ0.25mm=1/4mmだ。

 中途半端な単位とピッタリの単位の違いは何か。

 SI=国際単位系(→Wikipedia)に基づいているか否かだ。

 長さ・重さ・時間などについて、人は地域や目的によって色々な単位を使い分けてきた。人の背丈は尺と寸またはフィートとインチで表すが、土地の距離は里やヤードで表す。同じ里でも日本は約4kmだが中国では約500mだ。

 村で自給自足しているならともかく、他の地域や国と売り買いする際、単位の乱立や不統一は問題を引き起こす。土地の売り買いで日本の里と中国の里を取り違えたら、大きなトラブルになる。どころか東京ロサンゼルス間の旅客機の燃料補給でキログラムとポンドを間違えたら…

 これらの問題を解決するため、SIが登場した。

 SI登場前、ヒトはどんな単位を使い、どのように取引していたのか。SIはどう決まり、どう普及してきたのか、または普及を阻まれてきたのか。そしてSIはどう変わってきたのか。現在のSIの奇妙な定義、例えばメートルを「真空中の光の速さ c を単位ms−1 で表したときに、その数値を 299792458」とする定義の由来は何か。

 世の中の様々な単位の由来や使われ方、そしてSIに統一されてゆく歴史を辿る、一般向けの科学と歴史の解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は World in the Balance : The Historic Quest for an Absolute System of Measurement, by Robert P. Crease, 2011。日本語版は2014年11月25日1版1刷。単行本ハードカバー縦一段組み本文約382頁に加え、訳者あとがき7頁。9.5ポイント44字×17行×382頁=約285,736字、400字詰め原稿用紙で約715枚。文庫ならやや厚め。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。敢えて言えばフランス革命前後のフランスが大きな焦点となるので、その辺の歴史に詳しいとより楽しめるだろう。

【構成は?】

 だいたい時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

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  • はじめに 正午の号砲
  • 第1章 ウィトルウィウス的人体図
  • 第2章 古代中国 尺と律管
  • 第3章 西アフリカ 金の錘
  • 第4章 フランス 「生活と労働の現実」
  • 第5章 阻まれる普遍化への歩み
  • 第6章 現代文明の最大の勝利
  • 第7章 メートル好きとメートル嫌い
  • 第8章 ご冗談でしょう、デュシャンさん!
  • 第9章 究極の単位という夢
  • 第10章 普遍的な度量衡体系 SI
  • 第11章 今日の計測を巡る状況
  • 第12章 さらば、キログラム
  • エピローグ
  • 謝辞/訳者あとがき/図のクレジット/原注/索引

【感想は?】

 単位とは言語に似ている。ほっとくと勝手に変化・増殖するのだ。

国家が政治的に強固で統一されているときには、国家は単位を統一し単純化する傾向がある。一方、国家が衰弱し、分裂しているときには、単位が多様化しがちだ。
  ――第4章 フランス 「生活と労働の現実」

 なぜか。単位は使うためにある。いわば道具だ。道具は使いやすい方がいい。まずは手近なモノで測れること。首都にしかモノサシがなければ、辺境の村では長さが測れない。それより自分の手足で測れた方がいい。そこで手足の長さを基準としたフィートや尺が登場する。

人間の体は、人間が最初に使った、最古の測定器であった。
  ――第1章 ウィトルウィウス的人体図

 そして目的に沿っていること。魏志倭人伝には「水行十日・陸行一月」なんて記述がある。長さで表すより、旅に必要な日程で表す方が、当時の地理情報としては役に立ったのだろう。本書にも「農夫や牛が一日で耕せる土地の広さ」や「一度に洗える牡蠣の量」や「一頭の乳牛から一度の搾乳で得られるミルクの量」などが出てくる。確かに実用的だ。

 実用的ではあるんだが、他の地域と取引したり、税金を取り立てようとすると、これじゃ困る。専門性と汎用性のジレンマだね。小権力の乱立状態だと地域の専門性が優先されるんだが、強力な中央集権型になると汎用性が重んじられるのだ。

始皇帝が皇帝として行った最初の政策は、国内の度量衡を統一するという詔勅を出したことであった。
  ――第2章 古代中国 尺と律

 ここでは音楽が大きな役割を担っているのが面白かった。笛の音程は笛の長さや穴の位置で決まる。合奏するには音程を合わせにゃならん。それはすなわち笛の長さや穴の位置を規格化する事で…と、音楽と数学と物理学の関係の深さが意外な所で明らかになるのだ。

 残念ながら中国の王朝は国際貿易に不熱心だったが、ヨーロッパは多くの国が乱立していて、かつ貿易も活発だ。そこに産業革命である。工業化で大量生産するには部品などを規格化したいが、単位がバラバラじゃ困る。とはいえ現在の米国がいまだヤード・ポンド法にしがみついているように、どの国や地域も既存の単位系を手放そうとはしない。

 ここで既存の権力構造をひっくりかえすフランス革命が起きたのは、人類の幸運だろう。思想的に過激だっただけに、度量衡も人類史上で過激な発想で決まる。

この度量衡体系(メートル法)の最も大きく目立つ特徴は、自然界に存在する基準に体系全体を結びつけようとしていたこと、もう一つ、体系の監督が、政府の役人ではなく科学者によって行われるようにしようとしていたことだった。
  ――第5章 阻まれる普遍化への歩み

 例えば「長さの単位メートルは子午線の長さの1/一千万」とか。ところが地球は正確な球じゃないのが判ったりして、この発想は没になる。ならメートル原器を基準にすりゃいいじゃん。

この条約(1875年5月20日のメートル条約)の条項には、自然に基づく計測基準という考え方はもはやなかった。人工物を基準とした度量衡体系でうまくいくはずだという考え方に移行したのである。
  ――第6章 現代文明の最大の勝利

 こうなると、もうどっちが元だかわかんないんだが、今さらメートルの長さを変えるわけにもいかないし。

ジェームズ・クラーク・マクスウェル「メートルは、新たに測定しなおされ、より正確になった地球の値に合わせて修正されてはいない。逆に子午線弧の長さのほうが、古いメートルの値に基づいて計算されている」
  ――第9章 究極の単位という夢

 そのメートル原器も知らん間にダイエットしちゃったりしてるから困るw そこで異星でも通用する定義にしようという理想論と、現実に現在の人類の技術で測れる程度の精度でないと使えないとする実用論、そして精密工業が求める精度などのバランスで、現在のSIが定義されてゆくあたりは、科学読み物としてなかなかの迫力。

 こういったSIの普及に、第二次世界大戦以降の世界史が大きく寄与しているのも興味深いところ。

アフリカの大部分が1960年代初期にメートル法を採用する。新たに独立を遂げつつあったアフリカ諸国は、植民地主義から解放され国際社会の一員となるための前提条件としてメートル法を素直に受け入れた。
  ――第10章 普遍的な度量衡体系 SI

 旧宗主国のしがらみに捕らわれたヤード・ポンド法より、SIの方が「国際社会の一員」っぽいし、権力基盤がシッカリしてるように見えるし。

 などの歴史編に対し、やたら精密になりすぎた現代を語る終盤では、売れっ子下着モデルのリタ・マツェラがとってもカッコいい。ワコールなど一流ブランドから引っ張りだこの彼女、ウリは美貌でもスタイルでもない。

 ブラジャーは規格化が極めて難しいのだ。サイズにしたって、測るべき所が沢山ある。そもそも形が千差万別な上に、姿勢や動きも人によりけり、上にはおるドレスも肩を出すか否かで違うし、盛りたいのか抑えたいのかも大事。だからメーカーは色々と工夫し、リタに試着を頼む。そしてリタは…

リタ・マツェラ「デザイナーに何を言ってあげればいいか、わたしにはわかっています」
  ――第11章 今日の計測を巡る状況

 以前の製品とどう違うか、どんな不具合があるか。それを正確に、わかりやすく、デザイナーに伝える。それがリタのウリなのだ。ある意味、伝説のテスト・パイロットであるチャック・イエーガーと似た素質と言えるだろう。鋭い感覚に加え、長い経歴で培った商品知識と、それを巧みに言葉にする表現力。リタが売れっ子たる所以は、そこにあるし、そこがカッコいい。

 SIは国際的で汎用的だが、用途によっては別の単位の方が便利だ。サッカーのフィールドの大きさはメートル法で定義されているが、アメリカン・フットボールはヤードだ。これは国際スポーツのサッカーと、米独自のアメフトの違いだろう。それぞれの単位から、歴史を探るのも面白そうだし、仕事に役立つ自分なりの単位を作るのも便利かもしれない。そんな妄想が広がる本だった。

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【終わりに】

 などとSIを持ち上げている本なのに、なぜか文字サイズはポイントだったり。出版・印刷業界も、こういう所は保守的だよね。とか言ってる私も文字サイズはポイントで表してるんだが、そこはゴニョゴニョ…

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2020年11月 4日 (水)

ピーター・ゴドフリー=スミス「タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源」みすず書房 夏目大訳

感覚、知性、意識というものが、果たして物質からどのようにして生じたのか。大きすぎるテーマかもしれないが、本書ではそれを考えていく。(略)
注目するのは頭足類だ。
  ――1 違う道筋で進化した「心」との出会い

頭足類のほとんどの種は色の識別ができないらしいのだ。
  ――5 色をつくる

【どんな本?】

 「心」とは、どのように生まれたのか。この疑問に対し、著者は幾つかの道筋で挑んでゆく。

 一つは、科学的・生物学的な手法だ。どんな器官が必要か。それはどんな役割を果たすのか。生き延び、子孫を残すのに、そんな役割が有利となる環境と生態は、どのようなものなのか。

 もう一つは、哲学的な手法である。ヒトの心には、どんな働きがあるのか。哲学者は、心をどう捉えてきたのか。それを「心」と呼ぶためには、どんな能力を持たねばならないのか。

 哲学者でありダイバーでもある著者は、オーストラリア東海岸の海で、多くのタコが集まる「オクトポリス」を見つける。そこで観察したタコやコウイカたちの生態と、科学・哲学にまたがる大量の文献から、一つの大胆な仮説を思い付く。

「頭足類にも心があるのではないか? もっとも、それはヒトの心とは全く違うものだろう」

 頭足類を深く愛する著者が、科学・哲学双方の知識を駆使して、「心」の問題に挑む、ちょっと変わった一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Other Minds : The Octopus, the Sea, and the Deep Origins of Consciousness, by Peter Godfrey-Smith, 2016。日本語版は2018年11月16日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約246頁に加え訳者あとがき4頁。9ポイント47字×19行×246頁=約219,678字、400字詰め原稿用紙で約550枚。文庫なら普通の厚さの一冊分。

 この手の本にしては、文章はこなれている部類。面倒くさい問題を扱っているわりに、内容もわかりやすい。科学や哲学の概念や理屈も出てくるが、たいていはその場で基本的な事柄を説明しているので、じっくり読めばだいたい理解できる。

【構成は?】

 だいたい前の章を受けて後の章が展開する形なので、素直に頭から読もう。

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  • 1 違う道筋で進化した「心」との出会い
    • 二度の出会い、そして別れ
    • 本書の概要
  • 2 動物の歴史
    • 始まり
    • ともに生きる
    • ニューロンと神経系
    • エディアカラの園
    • 感覚器
    • 分岐
  • 3 いたずらと創意工夫
    • カイメンの庭で
    • 頭足類の進化
    • タコの知性の謎
    • オクトポリスを訪ねる
    • 神経革命
    • 身体と制御
    • 収斂と放散
  • 4 ホワイトノイズから意識へ
    • タコになったらどんな気分か
    • 経験の進化
    • 「新参者」説vs「変容」説
    • タコの場合
  • 5 色をつくる
    • ジャイアント・カトルフィッシュ
    • 色をつくる
    • 色を見る
    • 色を見せる
    • ヒヒとイカ
    • シンフォニー
  • 6 ヒトの心と他の動物の心
    • ヒュームからヴィゴツキーへ
    • 言葉が人となる
    • 言語と意識的経験
    • 閉じたループへ
  • 7 圧縮された経験
    • 衰退
    • 生死を分かつ問題
    • 老化の進化理論
    • 長い一生、短い一生
    • 幽霊
  • 8 オクトポリス
    • タコが集住する場所
    • オクトポリスの起源
    • 平行する進化
  • 謝辞/訳者あとがき/原注/索引

【感想は?】

 旧いSFファンなら、デビッド・ブリンの傑作「スタータイド・ライジング」をご存知だろう。

 あの作品だと、人類はイルカとチンパンジーに手を加えて知性を与えていた。ヒト以外に知性を持ちうる生物がいるとしたら、それは鯨類か猿類だろう、当時はそう考えていた。現代では、それにコンピュータが加わっている。いわゆる「シンギュラリティ」だ。

 いずれにせよ、肝心の問いをおいてけぼりにしている。そもそも「知性」や「心」とは、何なんだろう? たしか人工知能の学会でも、「とりあえずその問いは棚上げにしよう、今は結論が出せないし」みたいな合意に至った…と思う。

 そこにタコとイカだ。「は?」と思う人が大半だろう。そんな人に対し、著者はタコが持つ不思議な能力のエピソードを紹介していく。曰く「ヒトの好き嫌いがある」「電灯に水を吹きかけて水族館を停電に陥れた」「ヒトの目を盗んで逃げる」「タコは遊ぶ」。

 それだけなら、犬や猫などの特定の生物に入れ込んだ人には、よくあるケースだ。特に猫に関するエピソードは多い。

 本書の特徴は、それらに加えて、頭足類の神経系など、科学的な知見を多く盛り込んである点だ。神経の研究では実験動物としてイカがよく使われるように、頭足類は妙に神経系が発達している。

ごく普通のタコ(マダコ)の身体には、合計で約5億個のニューロンがある。(略)
人間のニューロン数は(略)約1000億個だ(略)
タコのニューロン数は、犬にかなり近い。
  ――3 いたずらと創意工夫

 ただ、その設計はヒトなど哺乳類と大きく違う。

タコの場合、(略)腕にあるニューロンの数は、合計すると脳にある数の二倍近くになる。
  ――3 いたずらと創意工夫

 ヒトの神経系が強力な中央集権型、つまり巨大コンピュータと多くの端末のような形なのに対し、頭足類の神経系は分散型である。ハードウェアが違うんだから、そこで走るソフトウェアもまったく違うだろう。

 とはいえ、生物の進化は、まずもって要らない器官を発達させない。そこで著者は、「そもそもなぜ神経系が必要なのか」「神経系は何をやっているのか」から迫ってゆく。ここでは、単細胞生物から多細胞生物への進化から始まる議論が、なかなかに面白い。つまりは刺激を受けて行動するまでの間、生物の神経系は何をしているのか、みたいな話である。

 ここでは環境も大きな役割を果たす。食うか食われるかの関係は、神経系の発達を促す。食う側は獲物の動きを予測できれば有利だし、食われる側も脅威の行動が判れば逃げやすい。カンブリア紀以降に、この淘汰圧が強くなったと著者は語る。

この時点(カンブリア紀)以降、「心」は他の動物の心との関わり合いの中で進化したのだ。
  ――2 動物の歴史

 もちろん、神経系には別の働きもある。私たちの目は、動くモノを捉えるのが巧みだ。ただし、視神経が捉えた変化を、「動いた」と解釈してはマズい。そうした場合、単に首を傾げただけでも「世界が動いた」と解釈してしまう。自分の動きも、計算に入れなければならないのだ。別の言い方をすると、計算に入れられれば、動きを捉えられる。

 ヒトの場合、このシステムは意外と柔軟性が高い。本書では、視覚障碍者向けの視覚代行器を紹介している。

視覚代行器のシステムは、その映像情報を、圧力や振動などのパターンに変換して、使用者の背中へと伝える。訓練を積んだ使用者は、単に背中に圧力や振動を感じたという風には経験しない。目の前を何かの物体が通り過ぎたと感じるのだ。ただし、そういう現象が起きるのは、使用者がカメラの操作をできる場合に限られる。
  ――4 ホワイトノイズから意識へ

 ソレを思い通りに制御できれば、自分の体の一部だと認識できるのだ。ベテランのタクシー運転手が自動車を自分の体のように扱えるのも、この働きによるものだろう。逆に下手なドライバーは、自分が運転している自動車の位置や形がよくわからない。だから縦列駐車は難しい。

 つまり、神経系の発達には、体の形が重要な意味を持つ。ところがタコは…

タコには、体が決まった形を持たないという稀有な特徴がある。
  ――4 ホワイトノイズから意識へ

 うーむ、これは困った。しかも、著者には更なる追い打ちが待っている。

ジャイアント・カトルフィッシュのように大きく複雑な構造を持った動物でも、寿命は非常に短いのだ。わずか1,2年しか生きない。
  ――7 圧縮された経験

 ここでは動物を分類する際の基準として、一生のうちの生殖の回数、つまり一生に一回だけ生殖するホタルと、何度も生殖する哺乳類の違いなどの話も興味深かった。そういう分け方もあるのね。

 などと絶望に叩き落した末に、「8 オクトポリス」では鮮やかな逆転の目を見せてくれるから嬉しい。

オクトポリスを観察していると、タコがこれから先、今とは違った生物に進化し得る道筋の一つが垣間見えるのは事実である。
  ――8 オクトポリス

 そう、私はこの章で、デビッド・ブリンともシンギュラリティとも違う、もう一つの「知性化」の方法を思い浮かべたのだ。デビッド・ブリンの手段が改造、シンギュラリティが創造なら、本書の手段は「養殖」とでも名付けるべきか。

 「心」とは何か。それはどのように生まれたのか。何が必要で、それを育てる環境と生態はどんな状況か。そしてヒト以外に「心」を持つ生物は存在しえるのか。哲学的に大きな問いであると同時に、ファースト・コンタクトSFが好きなSFファンにはたまらなく楽しい問題でもある。ケッタイな異星人が好きな人には、とても美味しい本だ。だからと言って異星人がタコ型であるとは限らないけどw

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【今日の一曲】

The Beatles - Octopus's Garden

 タコといえば、もちろんこの曲。読んでいる最中、この曲が頭の中で流れっぱなしで、なかなか読み進められなかったw

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2020年10月16日 (金)

岩本太郎「実用メカニズム事典 機械設計の発想力を鍛える機構101選」森北出版

本書は、機械各部に必要とされる動作から必要な機構を探す事典としての使い方を想定している。
  ――本書の使い方

牽引車両には主に3種類ある。
セミトレーラは、トレーラに前輪がなく、牽引車両であるトラクタにトレーラの荷重の一部をもたせるものであり、日本ではこのタイプが最も多い。
フルトレーラはトレーラにも前輪があって荷重はすべてトレーラが支え、トラクタにも荷台がある。
ポールトレーラは長尺貨物を運ぶもので、トラクタとは伸縮可能なドローバーで簡易的に結合されている。
  ――第6章 走行装置 6-1 平たん路・傾斜路走行 6-1-5 牽引 牽引車両

蒸気機関車は、車輪をエンジンが直接駆動しているので、エンジンと車輪の間に変速機やクラッチを置くことができない。
  ――第7章 流体機械 7-1 圧縮性流体機械 7-1-6 蒸気機関のバルブ機構

多節ロボットは多くの関節が盾に並んでいて、関節には駆動制御系があるが側面の車輪はフリーホイールである。関節の位置は、一つの正弦曲線上に並ぶように関節角度が制御される。そして、正弦曲線が後方に流れるようにすべての関節を同時制御するものである。
  ――第8章 ロボット応用 8-2 移動ロボット 8-2-1 平たん路移動 多節式

【どんな本?】

 メカニズムとは、力や運動を制御するものだ。

 回転の軸をズラす、または別の向きにする。直線運動を回転運動にする。運動速度を速くする。弱い力を強い力にする。揺れを減らす。たるみをなくす。行きはゆっくり、戻りは速く。すべての車輪が同じ重さを担うようにする。

 これらの目的を果たすために、ヒトは様々なメカニズムや形が生み出してきた。歯車、滑車、ピストン、パンタグラフ、カム、テーパー、ルーローの三角形。

 それらの要素を適切に組み合わせることで、便利な機構ができあがる。例えば自転車は歯車・コントロールケーブル・軸受けなどが組み合わさっている。

 本書は、歯車など基本的なものから、それらを組み合わせた内燃機関のエンジンまで、様々なメカニズムを網羅するとともに、機械を設計する際の目的や条件に応じて相応しい機構が見つかるように、目的別の目次を備えた、設計者のための機構事典である。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2020年2月10日第1版第1刷発行。単行本ソフトカバー横一段組み約326頁。9ポイント40字×36行×326頁=約469,440字、400字詰め原稿用紙で約1,174枚。文庫なら上下巻ぐらいだが、イラストや表やグラフが豊富に載っているので、文字数は半分ぐらい。このイラストが極めて重要な本なので、たぶん文庫にはならないだろう。

 ズバリ、プロの機械設計者またはプロ予備軍向け。文章は硬い。典型的な学者、それも工学者の文章だ。内容も高度で、「リテーナ」や「テーパ」などの専門用語はもちろん、数式も容赦なく出てくる。それも加減乗除に加え平方・平方根・三角関数・微分を含むもの。普通科高校卒業程度の数学力があれば読みこなせるだろうが、私には無理なので読み飛ばした。

【構成は?】

 中身は事典そのものなので、気になった所を拾い読みしてもいい。というか、そういう使い方を想定している。だって事典だし。そのため、目次が二つあるのが大きな特徴。

クリックで詳細表示
  • はじめに
  • 本書の使い方
  • 目次1 動作から探す
  • 目次2 目的から探す
  • 第1章 直線運動
  • 第2章 回転運動
  • 第3章 角度・変位と力の制御
  • 第4章 運動変換
  • 第5章 軌道生成
  • 第6章 走行装置
  • 第7章 流体機械
  • 第8章 ロボット応用
  • 付録 4節連鎖など
  • 索引 機構名から探す

 その目次、例えば「目次1 動作から探す」の冒頭は、こんな感じだ。

  • 第1章 直線運動
    • 1-1 直線案内
      • 1-1-1 すべり案内
        穴と棒/アリ溝

 対して「目次2 目的から探す」は、こうなっている。

  • 第1章 直線運動
    • 1-1-1 動作より剛性を優先させたい
      穴と棒/アリ溝

 また、「穴と棒」など個々の項目は、最初にイラストや三面図などがあり、次に説明文がつく。機構の特有のクセや注意すべき事柄は、各項目の末尾の「ポイント」を見よう。また回転数の変化率など具体的な数値の計算方法も、末尾に「設計・解析」にある。数式がバリバリ出てくるのは、この「設計・解析」だ。

【感想は?】

 くり返すが、プロの機械設計者またはプロ予備軍向けの本だ。たぶん、著者が理想とする使い方は、こんな感じだろう。

  1. まず軽く全体を流して読む。目的は手っ取り早く全体の構成や「何が載っているか」「何ができるか」を掴むこと。よって、よく知っている項目・数式・面倒くさい所などは、アッサリと読み飛ばす。
  2. 折に触れて、よく分からなかった所を見直す。またはソレ関係を学びなおす。上手くすれば芸幅が広がる。
  3. 実際の仕事や研究で「もっと巧い方法はないか」「こんなん、どないせえちゅうねん」と悩んだら、目次2を使って可能な方法を探す。そのものズバリはなくても、ソレっぽい項目やその近くの項目を見れば、ヒントが見つかるかも。

 そう、「読む」本というより、身近な所に置いて「使う」本なのだ。だって事典だし。

 そんな本を素人の私が野次馬根性で読むんだから、ハナから無茶な話なんだが、それはさておき。いや機械工学ってどんな事をやるのか知りたかったんです。

 で、読んでみると、さすがに歯ごたえは凄まじい。まあプロ向けだし、当然だね。でも憧れるんだ、プロ仕様って。

 幸い、豊富に載っているイラストや三面図が大きな助けになる。というか、この本はイラストこそがキモだ。もっとも、さすがに肝心の「動き」は表せない。こういうのは動画の方が向く。誰か作ってください←をい そんなワケで、説明を読みつつ脳内でイラストを動かして読むのだ。妄想力には自信があるが、けっこう手間取った。

 そんな中でも、イメージしやすい物もある。代表的なのがコントロールケーブル。これは自転車のブレーキで使っている。ハンドルの下のブレーキレバーを絞れば、ケーブルを通してブレーキ・パッドが閉まり車輪を止める。このケーブルがコントロールケーブルだ。こういう、単純かつ身近でよく使う物は、わかりやすいのだ。

 自転車では、他にも後輪のハンドブレーキが収穫だった。メンテが悪いとキーキー鳴るアレね。ブレーキバンドがドラムを締め付けるのか。今まで全く知らなかった。

 やはり自転車で使っているのが、アイドラ(自由回転する歯車)。ママチャリにはないけど、変則機構のついた自転車の、後輪近くにある、小さい歯車。あれの役割はチェーンの張りを保つこと。工場とかでもよくあるよね、こういう「張りを保つ」ためのドラムや歯車。ドラムは製紙工場で見たけど、なかなか壮観だった。

 同じく「おおっ!」となったのが、スプラインなどの接手。例えば自動車、それもFR型のプロペラ・シャフトで使う。一本の棒は伸び縮みできないけど、スプラインを使えば多少は伸び縮みできる。これでクルマの姿勢が変わった時も、プロペラ・シャフトに無理な力がかからずに済む。

 接手の何に驚いたのかと言うと、目的が「変位の許容」である点だ。メカ、それも金属製のメカは大きさや形が変わらないと思い込んでいたが、動くメカは常にアチコチが伸び縮みしているし、そうでないとマズい。硬く見える自動車も、エンジンと駆動輪の位置関係は常に変わるのだ。

 などの接手の中でも、自在接手(十字接手、→Wikipedia)の巧みさには、ひたすら感服してしまう。こんなん、よく考えたなあ。もっとも、絵で見る限りは細い部分も多いので、動力を伝えるには相応の強さがある素材が必要っぽいけど。冶金技術は国の基盤なんだなあ。

 自動車で感心する例は他にも多くて、例えばボンネットの台形リンクとワイパーブレード。

 台形リンクは蝶番の一種。自動車のボンネットは、台形リンクで車体と繋がっている。役割は蝶番と同じで開け閉めなんだが、普通の蝶番と違いボディに対しボンネットを浮かせられるので、ボンネットがボディにぶつからない。

 これが出てくる「第5章 軌道生成」は、他にもZリンクとか面白いのが多い。基本は棒とジョイントで、パンタグラフ式のマジックハンド(→Google画像検索)がわかりやすい。これ、棒とリンクを組み合わせ、いろいろなリンクを組み立てられる玩具にならないかなあ。きっと子供は夢中になるし、未来のメカニック・エンジニアが育つぞ。

 ワイパーブレードは、イコライザ=力を配分する機構だ。窓に対しブレード全体が均等に押し付けられるように、長さとジョイントの位置をてこの原理に従ってデザインしてる。上手いよなあ。

 自動車ほどじゃないが、ニワカ軍ヲタとして見逃せないのが無限軌道=クローラ。これサスペンションありとなしの二種類があるのは知らなかった。戦車など軍用はサスありで、不整地に強い、つまりどんな荒れ地や凸凹も乗り越えられるけど、路面を痛めつける。逆にブルドーザーなどの土木機械用は、サスがない。そうだったのか。今度、注意して見てみよう。

 電磁クラッチも賢いメカで、電源のオン/オフにより動作を伝えたり切ったりする。これ見て思ったのが311の原子炉事故。あれ電磁クラッチで「電源が切れた時は強制的に冷却装置が動く」設計は、駄目かな?

 電磁クラッチ同様、賢さに舌を巻いたのが、摩擦円盤による無段変速(→OKWAVE)。摩擦だから、あまし強い力は伝えられないけど、発想の巧みさ・鮮やかさには目を見開かされる想いだ。

 もっとも、動きの変化の自由度では、カムの自在さがだんぜん光ってる。

 普通の滑車は真円なんだが、これを楕円やハート型にしたり、回転の軸を中心からズラしたりして、カムの上に棒を乗せれば、棒の上下の動きをコントロールできるわけ。有名なのは自動車のエンジンの吸排気を制御するヘッドカムで、DOHCとか(→Wikipedia)。いやDOHCは棒がカムの上じゃなくて下だけど。

 こういったカムの巧みな利用は、「大聖堂・製鉄・水車」や「水車・風車・機関車」でも描いてる。主な用途は水車や風車で、小麦を粉に挽くこと。小さな水車は山中の小さな村にもあって、欧州じゃ早くから機械工学が発達してたのだ。特に、常に風を捕えるよう自動で向きを変えるバラ風車は…いや、話が逸れた。

 こういった細かい機構だけかと思ったら、終盤じゃ閘門(→Wikipedia)なんて壮大なモノまで飛び出すから油断できない。ほら、太平洋と大西洋の海面の差を埋めるためパナマ運河が備えたアレだ。

 などと感心してるが、本来はプロの機械設計者が手元に置き、アイデアに詰った時にパラパラめくる、そういう本なので、素人にはかなり歯ごたえがある。それでも、機械工学の面白さと難しさの片鱗ぐらいは覗き見できたと思う。やっぱりメカってワクワクするし。

 どころで、スターウォーズのR2D2、両脇に三輪クローラつけたらいんじゃね?

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2020年9月15日 (火)

オリヴァー・サックス「色のない島へ 脳神経科医のミクロネシア探訪記」ハヤカワ文庫NF 大庭紀男監訳 春日井明子訳

「私たちは色だけで判断するわけではないのです。目で見て、触って、匂いを嗅いで、それで分かるのです。全感覚を使って考えるんです。あなたたちは色でしか判断しませんけど」
  ――ピンゲラップ島

「グアムでは鳥の鳴き声はしないんだ。(略)昔はいろいろな鳥がいたんだが、今ではまったくいなくなってしまった。(略)みんな木登り蛇に喰われてしまったんだよ」
  ――グアム島

「幹を見れば簡単よ。古いソテツのほとんどの幹には1900年に輪ができているの。その年にひどい台風が来たから。それに、とても強い風が吹いた1973年にも輪ができているわ」
  ――ロタ島

【どんな本?】

 「火星の人類学者」や「レナードの朝」など、脳神経科医としての豊かな診察・治療経験から見聞きした、様々な症状を持つ人々の生きざまを医学エッセイとして記し、知られざるヒトの脳神経の不思議と、人それぞれの形で症状に折り合いをつける人たちの姿を描いてきたオリヴァー・サックスによる、少し毛色の変わった旅行記。

 本書は二回の旅行を元にした二部から成る。いずれも舞台は太平洋の島々だ。

 第一部はミクロネシア連邦カロリン諸島のポーンペイ島とピンゲラップ島。いわゆる赤緑色盲は遺伝性で程度は軽く、男の20人に1人ぐらいだ。完全な色盲=全色盲は珍しく、3万~4万人に1人である。だがこの島は歴史的な経緯で全色盲が12人に1人と、非常に多い。彼らはどのように暮らし、周囲の人々はどう受け入れているのか。同じ全色盲のノルウェー人生理学者クヌート・ノルドビーと共に両島を訪ね、彼らの暮らしを描き出す。

 第二部はマリアナ諸島のグアム島とロタ島。ここに住むチャモロ人にはリティコ-ボディグと呼ばれる風土病がある。筋萎縮性側索硬化症(ALS,→Wikipedia)やパーキンソン病(→Wikipedia)に似た症状を含む多様な症状で、日本の紀伊半島の一部にも似た風土病がある。現地で治療と原因究明に携わる医師のジョン・スティールに誘われ島に飛んだ著者は何を見たのか。

 島ならではの環境と歴史が生み出す奇妙な病気と、それに対応する人びとの姿、そして独自の進化を遂げた生態系とヒトの関わりを描く、著者ならではの旅行記。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Island of the Colorblind, by Oliver Sacks, 1996。日本語版は1999年5月に早川書房から単行本で刊行。私が読んだのは2015年3月25日発行の文庫版で本文約250頁に加え註がなんと91頁に監訳者あとがき7頁+文庫版への追記3頁。註も等々に面白いんで本文に含めてしまおう。9ポイント41字×18行×(250頁+91頁)=約251,658字、400字詰め原稿用紙で約630枚。文庫ではやや厚め。

 文章はこなれていて読みやすい。著者の他の作品に比べると医学的な話も少ないので、理科が苦手な人でも大丈夫だろう。

【構成は?】

 第一部と第二部は独立しているので、どちらから読んでも構わない。ただし先にも書いたように註が91頁と異様に多く、また雑学が好きな人には面白いので、読み逃すのはもったいない。

 前書き
第一部 色のない島へ
 島めぐり便
 ピンゲラップ島
 ポーンペイ島
第二部 ソテツの島へ
 グアム島
 ロタ島
註/監訳者あとがき

【感想は?】

 構成は第一部と第二部だが、テーマ的には三部構成に近い。

 1)は第一部の「色のない島へ」、2)は「第二部 ソテツの島へ」の「グアム島」、3)は「第二部 ソテツの島へ」の「ロタ島」だ。

 1)は珍しい全色盲が異様に多いポーンペイ島とピンゲラップ島の訪問記。ここでは同じ症状を抱えるクヌート・ノルドビーが大きな役割を果たす。彼のお陰で、著者たちは島の人々とグッと距離が縮まるのである。ヒトってのは、共通点を持つ人に親近感を抱く生き物なのだ。

 最初、著者はマスクン(全色盲)とそうでない者の見分けがつかない。ここでもクヌートに指摘されて見分けがつくようになる所で、人間の認識能力の奇妙さを思い知る。全色盲は色が判別できない、すなわちモノクロの世界に住んでいる。だがそれだけじゃない。強い日差しにも弱いのだ。そのため、昼間は目を「しばたいたり細めたりしている」。

 こういう症状が行動に及ぼす影響は、症状をよく知る人だけがわかる。島の人々も症状をよく知っていて、それを活かした職がちゃんとあったり。やはり全色盲ながら島で一番の織り手と言われるブリットの作品は、16色の毛色を使っているが…

「このジャケットの模様を見て楽しむには完全な色盲でなければならないの」
  ――ピンゲラップ島

 たぶん、全色盲の人は色が判らない反面、明度の差には敏感なんだろう。色が判る者はRGBに各8bit割り当ててるのに対し、全色盲はモノクロ24bitみたいな。これは男も同じで…

夜釣りにかけては全色盲の人たちは極めて優れていて、水の中の魚の動きや、魚が跳ねるときにひれに反射するわずかな月の光まで、たぶん誰よりもよく見えているようだった。
  ――ピンゲラップ島

 なんて特技を持ってたり。これは視覚だけでなく…

クヌートの聴覚は驚くほど鋭いのだ。
  ――ポーンペイ島

 そういえばレイ・チャールズやスティーヴィー・ワンダー、ジェフ・ヒーリーなど視覚を失ったミュージシャンも多いなあ。日本にも琵琶法師や瞽女(→Wikipedia)なんてのもいた。まあこれは音楽ファンやオーディオ・マニアも、ある程度は本能的に分かってたりする。真剣に聴き入る時、目を閉じて音に全神経を集中するでしょ。音を聴き分けるには、視覚が邪魔になるのだ。

 ってなのとは別に、島ならではの話も面白かったり。珍しい白人の全色盲であるクヌートに出会った島の人々は、現実に合わせて伝説を書き換えるのである。

私たちが島に着いた二日後には、マクスンに関する伝説が修正された形で伝わり始めた。
  ――ピンゲラップ島

 前世紀の終わりに島に来たノルウェー人が原因だって事になってしまう。古老の昔話ってのは、鵜呑みにしちゃいけないんです。

 続く 2) ではミステリ風に話が進む。

 テーマは風土病のリティコ-ボディグだ。ALSこと筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病に似た症状を示すが、原因はわからない。現地で治療に携わりつつ原因を研究する医師ジョン・スティールを中心に、彼が受け持つ患者たちの姿を交えて話が進む。

 医師として多くの患者を診てきた著者も、末期の患者の姿には衝撃を受け…

リティコやボディグの末期症状にある患者たちを見た私は疲労感に襲われ、どこかへ行ってしまいたい、自分のベッドに倒れ込みたい、素朴なリーフでもう一度泳ぎたい、などといった考えが無秩序に浮かんできた。
  ――グアム島

 と、思わず逃げ出したくなると弱音を吐いている。なにせ原因すら皆目わからない。

 本書にも幾つかの仮説が出てくるが、どれも決定的な証拠がない。島を出て10年~20年ほどして発病する人もいるし、外から島に来てチャモロ風の暮らしを10年~20年ほど続けて発病する人もいる。また世代的な偏りもあって、1960年代以降に生まれた者には症状が出ない。なら何か決定的な事が1940年代にあったのか。

 となると、最も大きな事件は太平洋戦争だろう、と当たりをつけるのだが…。ここでは大日本帝国が遺した戦争の傷痕も痛いが、同時に巻頭の地図を改めて見ると、今なおチャモロ人が置かれている立場の切なさが伝わってくる。これは池上永一が「ヒストリア」で描いた沖縄の痛みと全く同じだ。もっとも、そんな病を抱えた人もいろいろで…

「自殺は良くないよ。それは正しいことじゃない。でも、治る見込みもないのにただ待っているよりは、神が俺の命を終わらせてくれればいいのに、とは思うよ」
  ――グアム島

 なにせ体の自由は利かないけど、思考能力は衰えていないのだ。まあ普段は思い通り動かないけど、対応によっては驚くほど巧みに動く人もいいるのが不思議なところ。音楽が意外な効果を発揮する時もあるのは「音楽嗜好症」にも違うエピソードが出てた。ほんと、音楽ってのは不思議だ。逆に昔の事柄は思えていても新しい事は忘れてしまう症状もある。でも、そんな中でも…

「また来てください。あなたに会った事は忘れているでしょうから、また初めてお会いすることができますよ」
  ――グアム島

 なんて、ユーモアを保っている人もいる。こんな前向きに人生を生きられたらなあ。

 さて、 最後の 3) の「ロタ島」は、全く変わって著者のソテツ愛が炸裂する。

 イチョウと同様、原始的な植物なのだが、街路樹などでヒトに保護され生き延びているイチョウ(→「イチョウ 奇跡の2億年史」)とは異なり、どっこい野生で逞しく生きのびつつ今でも絶賛進化中だったりする。生きた化石と言われると「かろうじて生き延びてる」みたいな印象があるが、実は生存競争のベテラン・プレイヤーなのだ。

 今までのサックス先生の著作と違うのは、第一部・第二部ともに歴史的な事情が大きな意味を持っている点だろう。またやたらと充実した「註」も、モアイの意外な秘密など雑学の面白さが潜んでいて油断できない。くつろいで、でも油断せずにじっくり読もう。

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2020年9月10日 (木)

永田和宏「人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理」講談社ブルーバックス

古代製鉄炉では直接、低炭素濃度のルッペが製造されたが、溶鉱炉で作る銑鉄は炭素の溶解量が多いため、脱炭して低炭素鋼のルッペ鉄にした。
  ――第8章 精練炉の発展

反射炉は石炭を燃焼させて炉のアーチ型天井を加熱し輻射熱で加熱する方法である。これは鉄が石炭と直接接触しないので硫黄吸収の問題が起こらない。溶鉱炉からの直接鋳造に比べ、反射炉で銑鉄を再溶解すると鉄の品質が良くなり、大型の鋳物を制作することができた。
  ――第8章 精練炉の発展

19世紀は、ヨーロッパで錬鉄から溶鋼へと大きな技術革新が起こった時代である。
  ――第9章 鋼の時代

現代の製鉄法はどれほど進歩したであろうか。
意外に思うかもしれないが、「製鉄法」に限って言えば、現代の溶鉱炉は400年前の木炭溶鉱炉から原理は変わっていないし、製鋼法もベッセマーの転炉法から原理的には全く進歩していないと言える。
  ――第9章 鋼の時代

日本の刃物の鉈、包丁、鑿、鏨、鎌などは合金に刃を鍛接する構造になっている。台金には軟鉄である包丁鉄が使われ、刃には高炭素濃度の鋼が用いられた。
  ――第11章 脱炭と軟鉄の製造

【どんな本?】

 ヒトは様々な方法で鉄を作ってきた。古代のボール炉、産業革命で盛んになった溶鉱炉、現代の電気炉、そして映画「もののけ姫」にも出てきた日本独特のたたら製鉄。

 炉の中では何が起きているのか。なぜ鉄鉱石から鉄が取り出せるのか。それぞれの炉や製法にはどんな特徴があり、どんな鉄が取り出せるのか。そしてたたら製鉄は、どこが独特なのか。

 著者は文献を調べるだけでなく、日本はもちろんスカンジナビアまで飛んで炉の遺跡を巡り、更には自ら炉を作って製鉄や鍛冶に挑み、ばかりか「家庭でできるキッチン製鉄」まで考えだし実際に試してゆく。

 鉄に取り憑かれた著者が、製鉄の原理から歴史と現状そして未来までを思い描く、一般向け製鉄解説書の決定版。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年5月20日第1刷発行。新書版縦一段組み本文約241頁。9ポイント43字×16行×241頁=約165,808字、400字詰め原稿用紙で約415枚。文庫なら普通の厚さの一冊分ぐらい。

 ハッキリ言って「濃い」。いや文章は決して悪くないのだ。気取った表現はなく、モノゴトを素直に表現している。ただ、一つの文章に込められた情報が異様に多い。また、鉧(けら、いわゆる鋼)やノロ(スラグ、廃棄物)などの専門用語や、Fe2O3などの分子式がよく出てくるので、相応の覚悟と時間は必要。とはいえ、中学卒業程度の化学の素養があれば読みこなせる。

 なお、本書に出てくる主な元素記号を以下に挙げる。

  • C:炭素
  • O:酸素
  • N:窒素
  • Na:ナトリウム
  • Mg:マグネシウム
  • Al:アルミニウム
  • Si:ケイ素
  • P:リン
  • S:硫黄
  • Cl:塩素
  • Ca:カルシウム
  • Ti:チタン
  • Mn:マンガン
  • Fe:鉄

【構成は?】

 多少の前後はあるが、だいたい前の章を受けて後の章が続く形なので、なるべく頭から読もう。

  • はじめに
  • 第1章 古代人になって鉄を作ってみよう
    たたらとの出会い/材料と道具を集める/永田式たたらを作る/鉧塊作り
  • 第2章 「鉄を作る」とはどういうことか
    鉄は金属の王/鉄は宇宙で生まれた/鉄は銅と同じくらいの温度で解ける/鉄は魔術師/鉄はどのようにして作るか/スラグを見れば鉄のつくり方がわかる/鋼を作る/鉄と炭素を温度を操る
  • 第3章 製鉄法の発見
    製鉄技術からみた区分/銅精錬法から発見した製鉄法/製鉄炉の立地条件/製鉄技術の伝播
  • 第4章 ルッペの製造
    メヒコへの旅/湖底からの鉄鉱石採取と焙焼/ルッペの製造炉の構造/操業/鍛造/ルッペの性質
  • 第5章 最古の高炉遺跡 ラピタン
    ラピタンへの道/農夫炉/最古の高炉遺跡/ノルベリ周辺の高炉遺跡/ラピタン高炉の復元/木炭高炉の操業
  • 第6章 古代・前近代のルッペの製造炉
    鉄器時代初期の製鉄炉/ローマ時代の製鉄炉/中世の製鉄炉/西洋の低炭素鋼ルッペと東洋の高炭素塊
  • 第7章 溶鉱炉の発展
    レン炉から溶鉱炉へ/初期の溶鉱炉/産業革命時代の溶鉱炉
  • 第8章 精練炉の発展
    精練炉と加熱炉の発展/浸炭/ルツボ鋼の製造/パドル法
  • 第9章 鋼の時代
    製鉄の革命 転炉製鋼法の発明/平炉製鋼法の発明/鋼の大量生産時代/鉄スクラップの溶解/現代の製鉄法
  • 第10章 たたら製鉄のユニークな工夫
    たたら製鉄とその発展/日刀保たたら/微粉の砂鉄を飛ばさない工夫/高温を得る工夫/貧鉱の砂鉄を95%に濃化する技術/溶けた銑鉄と大きな鋼塊を作る
  • 第11章 脱炭と軟鉄の製造
    大鍛冶/包丁鉄の製造
  • 第12章 鉄のリサイクルと再溶解
    鋼の溶解と炭素濃度の調整/永田式下ろし鉄法
  • 第13章 銑鉄の溶解と鋳金
    こしき炉/現代のこしき炉/永田式こしき炉
  • 第14章 鍛冶屋のわざ
    鉄と鉄を接合する/鉄の表面に模様を出す
  • 第15章 「沸き花」の正体
    たたら炉で銑鉄と鋼塊の生成を知る方法/大鍛冶で脱炭の程度を知る方法/こしき炉で銑鉄の溶解を知る/鍛冶の「沸き花」/「沸き花」の発生機構
  • 第16章 和鉄はなぜ錆びないか
    鉄の錆び方/鉄の中の酸素濃度/黒錆ができる理由
  • 第17章 なぜルッペや和鉄の不純物は少ないか
    鋼中の不純物濃度を決めるスラグ中の酸化鉄/製鉄炉が下部の温度と酸素分圧/炉高1mと2mが鋼塊と銑鉄の分かれ目/鉄鉱石のサイズが還元速度に影響する
  • 第18章 インドの鉄柱はどのように作ったか
    デリーの鉄柱/鉄柱はどのように作ったか
  • 第19章 製鉄法の未来
    第3の製鉄法/製鉄炉の生産効率/たたらを現代に/マイクロ波製鉄炉の実現可能性
  • おわりに/参考文献/さくいん

【感想は?】

 ヤバい人だ、この著者。

 なにせ、いきなり刀匠の真似をして自分たちで炉を作るのだ。さすがに最初は失敗したが、著者は諦めない。再び刀匠を訪ね秘伝を聞き出そうと食い下がる。さすがに秘伝は聞き出せなかったようだが(そりゃそうだw)、ヒントをもらい改良を重ね、ついに「永田式たたら」を完成させてしまう。きっと刀匠も根負けしたんだろうなあ。

 この辺を読むと、大学の工業系って楽しそう、なんて思ったり。いわゆる「モノ作り」が好きな人には、天国なんじゃなかろか。まあ、レンガを積み重ねるなど気力体力は使うし、一酸化炭素が出るんで危なくもあるけど。

 もちろん、真面目な話も満載だ。例えば…

現在、鉄は炭素の含有量によって次のように分類されている。
工業用純鉄は炭素濃度0.02%以下のものを言う。
炭素濃度が0.02~2.1%のものを「鋼」、
炭素濃度2.1%以上は「鋳鉄」あるいは「銑鉄」と呼ばれる。
  ――第2章 「鉄を作る」とはどういうことか

 なんて基礎的な話はもちろん、炉の中で何が起きているかも、こと細かく説明しているのが嬉しい。ここで主に関係しているのは、酸素と炭素と鉄。

炭素は炉を高温にするだけでなく、自らが鉄と化合している酸素と結びつくことで、鉄を還元する還元剤になる。更に炭素は鉄に溶解することで、鉄の融点を下げることもできるうえ、溶解量を調節することで、鉄を望みの硬さにできる。
  ――第2章 「鉄を作る」とはどういうことか

 炭素(木炭やコークス)が燃え(=酸素と結びつき)熱を出す。熱で鉄鉱石中の鉄が溶け始める。更に炭素は鉄に混じり融点を下げ、更に鉄を溶けやすくする。鉄鉱石の中にはケイ素やカルシウムもあるけど、それらは酸素と化合し融点の高い二酸化ケイ素や酸化カルシウムになり、鉄と分かれスラグになる。他にも一酸化炭素とかが関係してて、その辺をこの本は実に細かく説明していてありがたい。

 当然、「何がどれぐらい混じっているか」で鉄の性質も違う。だもんで、炉の温度の調整が大事なのだ。

強く吹いて鉱石の溶解を速めると、還元された鉄が吸炭してルッペは銑鉄になる。弱火にするとルッペの鍛造性はよくなるが、鉱石の大部分が未還元のままスラグになり、歩留まりが悪くなる。この中間の最も有利な所を取るのが職人の技である。
  ――第6章 古代・前近代のルッペの製造炉

低い温度で製鉄を行うと、鉄中のリン濃度を低くできる。
  ――第15章 「沸き花」の正体

 今の製鉄は溶鉱炉、ドロドロの液体になった鉄が流れ出すアレだけど、昔は違った。炉の底に鉄の塊=ルッペが残るので、これを取り出し製品を鍛造したのだ。だもんで剣ぐらいは作れるけど、大砲は無理。そこで登場したのが溶鉱炉。

溶鉱炉は16世紀にはイベリア半島を除いて西ヨーロッパに広がり、鋳鉄製大砲が製造された。
  ――第7章 溶鉱炉の発展

溶鉱炉は大型化していき、20世紀後半では炉の高さと容量を急速に大きくした。現在では高さ30m、炉の内容積は5000㎥と巨大になり、送風温度は1200℃になっている。
  ――第7章 溶鉱炉の発展

 もちろん、鉄の性質は炉の温度だけでなく、元になる鉄鉱石の種類によっても違ってくる。ボフォースなど製鉄じゃ名高い北欧のスウェーデンやフィンランドにも著者は出かけ、その秘密を探ってたり。この素材はある意味、砂鉄と近いのかも。素材としては鉄は昔から屑鉄も使われていたけど、最近じゃ…

スクラップは様々な合金元素が混じっており、これらの不純物を鋼材の性質に影響を与えない程度に除去することは困難である。(略)現在、スクラップは品質別に細かく分類して集荷され、不純物が混じらないように破砕して物理的に分別している。
  ――第9章 鋼の時代

 などと前半では主に西洋の製鉄技術を追いかけるが、終盤では日本独自のたたら製鉄に焦点が集まってくる。何せ日本には鉄鉱石が少ない。だもんで、材料からして違う。なんと砂鉄だ。これは何かと面倒で…

砂鉄は直径0.1mm程度の微細な粉末である。強く吹くと吹き飛び、目詰まりして高温ガスの通気を阻害する。そのため溶鉱炉では使えない。世界の製鉄技術の歴史の中で、唯一たたら製鉄だけがこの微粉の砂鉄を使って溶けた銑(銑鉄)と大きな鉧塊(鋼塊)を同じ炉で製造した。
  ――第10章 たたら製鉄のユニークな工夫

 この秘密を探るため日刀保たたらにもぐり込み、秘訣を聞き出そうとしてすげなく断られたりw このあたりが同じ学者でも工学者と伝統芸術の守り手の違いなんだろうか。でも結局は調査などで何かと都合をつけてくれたりするのは、やはり知識を求めてやまない学者の業が同志に通じたのかも。

 そんな著者の学者魂が炸裂してるのが、最後の「第19章 製鉄法の未来」の「マイクロ波製鉄炉の実現可能性」。なんとキッチンで鉄を作ってしまう。これ、下手すると小学生でも夏休みの宿題でやれたりするから、実にヤバいw しかもキチンとコストを計算してるあたりが、さすが工学者というか。

 見た目は薄いが中身は思いっきり濃い。とはいえ文章は素直だし記述は親切なので、じっくり読めばちゃんと理解できる。何より、製鉄の過程、それも炉の中で何が起きているかについて、素材や元素の役割から化合の過程までこと細かく書いているのは嬉しい。ただし、繰り返すが中身は濃いので、じっくり腰を据えて挑もう。

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