カテゴリー「書評:ライトノベル」の76件の記事

2015年9月11日 (金)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 未来へ 4」電撃文庫

いかん、いかん……! 深刻な顔をしているソックスハンターなど、人間失格タイ。む、ハンターの本能も衰えてきとる。

【どんな本?】

 2000年9月28日に発売された SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。プラットフォームの限界を超えた野心的なシステムの開発は予算を食いつぶし、宣伝費ゼロというゲームソフトにあるまじき状況での登場となった。

 だがその練りこまれた設定と絶妙のゲーム・バランス、奥行きのある世界観と個性的なキャラクター、そしてプレイヤーのスタイルによって千変万化するゲーム・システムは一部の者を強力に惹きつけ、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞する。

 その後もファンの熱は覚めやらず、中古市場でも新品とほとんど変わらぬ価格を維持し続けた。2010年にはPSP用のアーカイブで復活し、2015年9月の今でもニコニコ動画にはゲームの実況動画が次々と登録され続けている。

 榊涼介の小説は、そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まる。

 ゲームの主要登場人物である5121小隊の面々を主体とした青春群像劇であり、少年たちの成長物語であり、また少年兵の戦場生活を描いた作品として始まったシリーズは2004年10月25日発行の「九州撤退戦」までゲームと同じ物語を綴り、「山口撤退戦」より榊オリジナルのストーリーで再開、今日まで続く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年9月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約274頁に加え、著者あとがき2頁+きむらじゅんこのあとがき?1頁。8ポイント43字×18行×274頁=約212,076字、400字詰め原稿用紙で約531枚。文庫本としては標準的な分量。

 文章はあまりライトノベル的なクセもなく、読みやすい。内要は素直に前巻の「未来へ 3」から続く。今回は阿蘇周辺から熊本・大分・宮崎の県境を中心に物語が進むので、そのあたりの地図があると、より楽しめる。

 長いシリーズでもあり、設定は壮大で、登場人物も多い。この巻から読み始めるのは厳しいだろう。理想を言えばシリーズ開幕編の「5121小隊の日常」か、時系列で最初になる「episode ONE」から読み始めるのがいい。気の短い人は、「未来へ 1」の冒頭に世界設定と物語の概略が載っているので、そこから読み始めてもいいだろう。

【どんな話?】

 1945年、第二次世界大戦は意外な形で終結する。月と地球の間、24万kmの距離に出現した黒い月、そして人類を狩る幻獣の登場である。圧倒的な数を誇る幻獣はユーラシア大陸を席巻、人類は南北アメリカ大陸とアフリカ南部、そして日本に追いつめられた。

 1998年、幻獣が大挙して九州西部に上陸。自衛軍はからくも撃退したものの、戦力の大半を失う。1999年、日本政府は二つの法案を可決する。幻獣の本州上陸を阻止するための熊本要塞の戦力増強、そして14歳から17歳までの少年兵の強制召集である。少年兵で時間を稼ぎ、その間に自衛軍を再編する予定だった。

 1999年3月、海軍陸戦隊中尉の善行忠孝を中心として5121独立駆逐戦車小隊が発足。他部隊の持て余し者や新兵を集め、その能力が疑問視されていた二足歩行の人型戦車・士魂号を主力とする部隊である。捨て駒と思われていた5121小隊は戦闘を重ねるごとに成長し、やがて他部隊からも頼りにされる部隊へと変身を遂げてゆく。

 だが圧倒的な数の幻獣に軍は抗しきえず、逃げるように九州から撤退する。しんかりを務めた5121小隊は多数の学兵を救うものの、取り残された兵も多かった。続く本州上陸の阻止・九州奪還・東北防衛そして北海道と5121小隊は転戦を続けた後、北米に渡りボストン・ロサンゼルスでも活躍すると共に、政治的な嵐も巻き起こしてしまう。

 日本に帰国した5121小隊は、懲罰として熊本に派遣された。先の戦いで亡くなった将兵の遺骨を収集せよ、と。懐かしい熊本に戻った5121小隊は任務に励むが、奇妙な事実に気づく。無人のはずの熊本に、幾つもの人影があるのだ。偵察と捜索により明らかになった事実は、意外なものだった。

 複数の集団が、隠れるように熊本で暮している。

【感想は?】

 2015年4月10日刊行の予定が何度か延び、ファンをやきもきさせた第4巻が、遂に発売となった。

 発売延期で嫌な予感がしたものの、帯の表には「小説シリーズ完結」とある。今までのお話の展開から考えて「こりゃホライゾンを越えるサイコロ本になるか」と期待したが、書店で本を見ると標準サイズ。どうななっとんじゃ、と思ったら帯の裏にはこうあった。

「あと少しだけでも、何とかしたかった……!」

 実際、そんな感じで終わってしまった。数度の発売延期や著者のあとがきから考えて、オトナの事情があるらしい。ゲームも権利関係でリメイクできないし、どうにもガンパレというのはファンに愛されるものの、ビジネス面では呪われたコンテンツらしい。なんでこんなモンに惚れこんじゃったんだろうなあ。

 さて、お話は、最終巻に相応しくオールスター・キャストで展開する。

 中でも私が喜んだのは、イエロー・ヘルメットでデンジャー・ゾーンを踏破する、熱血お騒がせ突撃レポーターの桜沢レイちゃん。登場時こそ東京でクダまいていたものの、ネタのにおいを嗅ぎつけたら最後、あらゆる障壁を潜り抜け現場へと向かう特攻精神は映像ジャーナリストの鑑。

 当然ながら、この巻でもユニフォームのミニスカ・スーツを身に纏い、分厚い壁へと食って掛かって行く。彼女を主役に新シリーズを書いてくれないかなあ。せめて短編集だけでも。ミニスカスーツのナイスバディ、ワンポイントはイエローヘルメットの突撃レポーター、絵的にも映えるし正確も強烈、ライトノベル市場で充分にイケるネタだと思うけど、どうかな?

 もちろん、レイちゃんが出るとなれば、そのオマケにも出番は回ってきて。にしても、お邪魔虫は酷いw

 やはり笑っちゃったのが、山口防衛戦でも活躍したお馬鹿化け物兵器。やはり一つの能力だけに賭け、バランスを一切考えずに突き抜けたシロモノというのは損得抜きで熱狂的なファンがつくもので。にしても海峡を越えられるんだろうかw

 懐かしいキャラで最初に登場する、あの目つきの悪い支配人は、なんとイラストつき。いやイラストの主役は違うんだけど。つか、あんな目つきで「いらっしゃいませ」とか言われてもなあ。タチ悪い客のクレーム対応なら巧く捌けるかもしれんが、あまり表には出ない方がいいと思う。でないと、経営母体を疑われるぞ。

 今回は戦闘がエキサイトしてゆくために、 自衛軍も次々と懐かしい面々が登場してくる。九州奪還ではええトコなしだった閣下も、この巻では軍人としての貫禄たっぷりな役どころ。彼と高山の会話はいかにもありそうなだけに、政治制度の是非まで考え込みたくなる。

 一般に組織では現場を離れ指揮系統の上位に行くほど危機への認識が甘くなる傾向がある。多くの国家じゃ軍は政府の指揮下に置かれるため、戦場の経験がない政治家が軍事戦略に口を出してくる。だからと言って、軍人が政治を牛耳ると、軍事独裁に陥って窮屈な世の中になってしまう。

 この辺のバランスの取り方を考えたお話の代表がR・A・ハインラインの「宇宙の戦士」で…って、関係ないか。

 もう一人の閣下も相変わらずの派手好きなキャラクターは変わらず、ちょっと安心しちゃったり。なんとか組織の力で椅子に縛り付けてはいるものの、事あるごとに外の空気を吸いたがる癖は治らぬ模様。いい加減、自衛軍も愛機を取り上げちゃえばいいのにw

 レギュラー陣では、対人戦闘とあって、若宮と来須が大活躍を続ける。意外?な事に、イワッチの出番も結構あったり。しかし隅っこで何やってるのかと思ったら。

 など、続々と人物が集結し、世界の謎が明かされ、決戦の準備が整った…と思ったら。これでは星雲賞の候補に挙げられないじゃないか。ちなみにワシントンの事情は「5121小隊帰還」の297頁で変わる事が予告されてます。ある意味、人類の尊厳に関わる情勢になるわけで、果たしてそんな世界がいいのかどうかw

 長く続いたシリーズだけに、名残惜しすぎる。なんとかスピンオフの短編集で繋ぎ、シリーズを続けて欲しいところ。

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2015年2月12日 (木)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 未来へ 3」電撃文庫

「食えればなんとでもなる。うまい飯を食っとれば、どうにかなるもんタイ」

【どんな本?】

 元は2000年9月28日に発売された SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。難航した開発が宣伝費を食いつぶしながらも、野心的なシステム・過酷な世界設定・魅力的なキャラクターなどが、熱心なファンを惹きつけてロングセラーとなり、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞、2010年にはPSP用のアーカイブで復活した。

 そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まったのが、榊涼介の小説シリーズ。ゲームに沿ったストーリーは「九州撤退戦」で一段落し、その後「山口撤退戦」より榊氏がオリジナルのストーリーを発展させ、この巻へと続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2015年2月10日初版発行。文庫本の一段組みで本文約247頁。8ポイント42字×17行×247頁=約176,358字、400字詰め原稿用紙で約441枚。長編小説としては標準的な分量。

 文章は読みやすい。内要は前巻の「未来へ 2」から続いている。SFやファンタジーな小道具や設定もあるが、理屈そのものは特に難しくない。

 ただし、長く続いたシリーズのため、登場人物も設定も膨大なので、それを頭に入れるのが大変だろう。できれば最初の短編集「5121小隊の日常」または時系列順に最初となる「episode ONE」から読んで欲しい。が、さすがにこの巻で43巻目なので、ゲッソリする人も多いだろう。その場合は、「未来へ 1」から読んでみよう。

【どんな話?】

 1945年。月と地球の間に黒い月、地上にはヒトを狩る幻獣が現れ、第二次世界大戦は唐突に終わる。幻獣は圧倒的な数で人類を圧倒、1999年には南北アメリカ大陸・アフリカ南部そして日本列島に押し込められた。

 1998年に幻獣は九州に上陸、自衛軍は戦力の8割を失いながら勝利を得た。1999年、日本政府は熊本要塞の増強と、14歳~17歳の少年兵の強制召集を決める。少年兵を盾に自衛軍を立て直す計画だった。持て余し者の学兵を集めた5121独立駆逐戦車小隊は、使いにくさで廃棄が決まっていた人型戦車の士魂号を使いこなし、大きな戦果を挙げる。

 だが5月6日から始まった幻獣の大攻勢に自衛軍は壊走、九州を失う。5121小隊は撤退戦で殿を務め多くの兵を救うが、10万人ほど召集された学兵の半分以上が本州に戻れなかった。一度は山口から本州に攻め込まれた自衛軍だが、岩国要塞などで盛り返し、九州への逆上陸を果たす。

 日本政府は、敵の内紛も利用し幻獣の一部と休戦を実現、青森・北海道も防衛に成功する。

 北米にはワシントンとシアトル、二つの政府がにらみ合っていた。ワシントン政府の強引な招聘に応じた5121小隊は、幻獣に包囲されたレイクサイドヒルの市民を、ワシントン政府軍と協力して救い、市民の人気者となるが、同時に政界を揺るがす醜聞を明らかにしてしまう。

 日本政府とは国交のないシアトルへも親善使節として立ち寄った5121小隊は、ここでも派手な戦闘を繰り広げた上に軍と政界に嵐を巻き起こし、帰国を命じられた。

 デリケートな外交問題で騒ぎを起こした5121小隊は、日本政府の頭痛の種となったが、国民の人気はある。彼らに下された処分は、かつての戦場である熊本での遺骨収集だった。懐かしい熊本に帰ってはきたが、そこには共に戦った数万の学兵が白骨となって眠っていた。ばかりでなく、正体不明の生存者の影もあり…

【感想は?】

 表紙は善行と素姐をバックに、花を持つののみ。素姐のツナギはウエストを絞ってるあたり、彼女のこだわりを感じるなあ。つか善行、まさか今になっても半ズボンを穿いてるのか? まあ最近は暑い季節になると、オッサンでもバミューダが許される風潮だから、アリなのかも。ちなみにスネ毛と言われるけど、実は善行にスネ毛はなかったりする。

山口・青森・北海道・北米東海岸・北米西海岸と転戦してきた5121小隊が、九州撤退戦のツケを突きつけられる巻。

 展開の鍵を握るのは、前巻の終盤で捕らえた奇妙な学兵くずれ。瀬戸口の計略をきっかけにほとばしり出た彼の鬱憤が、5121小隊の面々に、九州撤退戦のもう一つの側面を思い知らせてゆく。

 当然ながら、片棒を担がされた中村は、料理品としての誇りもあって、どうにも納得いかない。が、そこはスローフード連盟の首魁である。気が利くではないか。

 そんな学兵くずれに、寄り添おうとするのが、これまた意外な人で。いたね、そんな奴。まあ、今まではたいした出番が無かったけど、こういう所でちゃんと見せ場を用意してあるんだなあ。

 そういや石丸さんも佐藤も土木シスターズも、本来なら女子高生なんだよなあ。確かに昔は女子高の文化祭だと、校門前にシャコタンの車がタムロしてたり。最近はガードが堅くなって、高校の文化祭も招待券がないと入れなかったり。でもご近所の人には家族連れで来て欲しいし、難しいところ。

 そして、なんと言っても、対応の鍵を握るのは日本政府。窓口となる高山は、今までの対応から判断すると、物資や人員の調達じゃ有能な面を見せつつも、何か腹にイチモツ抱えていそうで。彼の腹のイチモツが少しだけ覗き見えてくるのも、この巻の読みどころ。

 こういう状況だと、終盤じゃきっとあの方が華々しくお出ましになるんだろうなあ。期待してます。

 やはり食べ物の話は気になって。熊本は暖かいから、やはりイモならサツマイモだろうなあ。維新が西国中心になった原因が、西国じゃサツマイモが採れて豊かだったから、って説もあるし。ザリガニも食べられるけど、寄生虫がいるので充分に煮る必要があるとか。とすると、薪が沢山いるなあ。

 後半に入り、次第に物騒な雰囲気が漂ってくるこの巻。そこで頼りになるのは、なんと意外な事にイワッチ。同じハンターでも、若様は財閥の産業力を活かして様々な支援を、中村は得意の料理で見せ場があるのに、このままでは単なる変態で終わりそうだった彼が、ただの変態ではない所を見せてくれる。いややっぱり変態なんだけど。

 でもイワッチが作ったアレ、ゲームでも使えたら便利だろうなあ。1ターンだけ敵の命中率が下がるとか…あ、でも、幻獣には効かないか。

 この巻は、読んでてどうしても残留日本兵(→Wikipedia)を連想してしまう。太平洋戦争で外地に出征し、そのまま外地に残った将兵たち。インドネシアやベトナムで独立戦争に参加した人もいるが、山や森に潜んでいた人もいる。先の学兵くずれは、小野田寛郎少尉(→Wikipedia)より横井庄一軍曹(→Wikipedia)に近い。

 横井氏の著作は読んでいないが、神子清の「われレイテに死せず」という作品がある。

 ハヤカワ文庫NFで、今は入手困難だが、太平洋戦争の従軍記では抜群の面白さだ。1944年、フィリピンのレイテ島に、陸軍玉兵団が上陸する。著者は歩兵第577連隊の一員として参加するが、すぐに兵団は壊滅してしまう。原隊とはぐれた著者らは、遊兵として密林を彷徨うのである。

 従軍記としては型破りな作品で、敵との交戦場面がほとんどない。内容の多くは、遊兵としてジャングルを右往左往する著者たちの冒険を描いている。途中、彼ら同様に原隊とはぐれた兵たちにも出会うが、それぞれ考え方が全く違う。敵地に取り残された兵が、何を思い、どう行動するか。

 戦争が生み出すもう一つの、そして往々にして見過ごされがちな側面を、この作品は切実に訴えてくる。文句なしの大傑作なのに、あまり話題にならないし、今は入手が難しい。なんとか復活して欲しい。

 ガンパレに戻ろう。この物語では今まで正体がよく見えてこなかった共生派。その内幕が少し見えてくると同時に、「共生派」という一つのくくりでは捉えきれない事がわかってくる。軍や政府が何を考え計画しようと、常にその思惑をはみ出してきた5121小隊。高山の思惑もどうなることやら。私は彼のあわてふためく姿が見たいw

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2014年11月10日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 未来へ 2」電撃文庫

「むろん。じゃっどん、大量の肉、魚、野菜を貯蔵する業務用冷蔵庫とプロ仕様のキッチンも要求する。俺の当面の目標は、この地をグルメ天国にするこつバイ。ラーメン、蕎麦、うどん。麺類もメーカーを指定して、支給してもらう」

【どんな本?】

 元は2000年9月28日に発売された SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。難航した開発が宣伝費を食いつぶしながらも、野心的なシステム・過酷な世界設定・魅力的なキャラクターなどが、熱心なファンを惹きつけてロングセラーとなり、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞、2010年にはPSP用のアーカイブで復活した。

 そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まったのが、榊涼介の小説シリーズ。ゲームに沿ったストーリーは「九州撤退戦」で一段落し、その後「山口撤退戦」より榊氏がオリジナルのストーリーを発展させ、この巻へと続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年11月8日初版発行。文庫本当て一段組みで本文約264頁。8ポイント42字×17行×264頁=約188,496字、400字詰め原稿用紙で約472枚。長編小説としては標準的な分量。

 文章は読みやすい。内要は前巻の「未来へ 1」から続くお話。

 この巻に限れば、お話は難しくないのだが、なにせ長く続いたシリーズだけに、登場人物も設定も膨大になっている。理想を言えば最初の短編集「5121小隊の日常」または時系列順に最初となる「episode ONE」から読んで欲しい。が、さすがにこの巻で42巻目なので、ゲッソリする人も多いだろう。その場合は、ちょうど前の「未来へ 1」から新しい舞台に移ったので、「未来へ 1」から読んでみよう。

【どんな話?】

 1945年。月と地球の間に黒い月、地上にはヒトを狩る幻獣が現れ、第二次世界大戦は唐突に終わる。幻獣は圧倒的な数で人類を圧倒、1999年には南北アメリカ大陸・アフリカ南部そして日本列島に押し込められた。

 1998年に幻獣は九州に上陸、自衛軍は戦力の8割を失いながら勝利を得た。1999年、日本政府は熊本要塞の増強と、14歳~17歳の少年兵の強制召集を決める。少年兵を盾に自衛軍を立て直す計画だった。持て余し者の学兵を集めた5121独立駆逐戦車小隊は、使いにくさで廃棄が決まっていた人型戦車の士魂号を使いこなし、大きな戦果を挙げる。

 だが5月6日から始まった幻獣の大攻勢に自衛軍は壊走、九州を失う。5121小隊は撤退戦で殿を務め多くの兵を救うが、10万人ほど召集された学兵の半分以上が本州に戻れなかった。一度は山口から本州に攻め込まれた自衛軍だが、岩国要塞などで盛り返し、九州への逆上陸を果たす。

 日本政府は、敵の内紛も利用し幻獣の一部と休戦を実現、青森・北海道も防衛に成功する。

 北米にはワシントンとシアトル、二つの政府がにらみ合っていた。ワシントン政府の強引な招聘に応じた5121小隊は、幻獣に包囲されたレイクサイドヒルの市民を、ワシントン政府軍と協力して救い、市民の人気者となるが、同時に政界を揺るがす醜聞を明らかにしてしまう。

 日本政府とは国交のないシアトルへも親善使節として立ち寄った5121小隊は、ここでも派手な戦闘を繰り広げた上に軍と政界に嵐を巻き起こし、帰国を命じられた。

 デリケートな外交問題で騒ぎを起こした5121小隊は、日本政府の頭痛の種となったが、国民の人気はある。彼らに下された処分は、かつての戦場である熊本での遺骨収集だった。懐かしい熊本に帰ってはきたが、そこには共に戦った数万の学兵が白骨となって眠っていた。ばかりでなく、正体不明の生存者の影もあり…

【感想は?】

 今までずっと読んできたファンにとっては、懐かしい場面を思い出させる描写がいっぱい。

 なにせ熊本だ。久しぶりに帰ってきたゲームの舞台。だが、賑やかだった新市外も今は人通りが途絶え、夏草が生い茂る廃墟。もちろん、滝川や新井木が楽しみにしていた屋台も姿を消している。あの傑作「憧れの Panzer Lady」(「episode ONE」収録)を思わせる場面が、私にはひたすら嬉しかった。

 季節は夏。蒸し暑い熊本で、夏草を刈りながら遺骨を収集し、身元を確認する毎日。今までの戦闘続きとは違い、規則正しい生活は送れるが、色濃い死の匂いは、若い彼らの気持ちを沈ませてゆく。

 ってな中で、明るく気分を盛り上げるのは、なんと中村。ヨーコさん・祭ちゃん・新井木と共に5121スローフード連盟を立ちあげ、食生活の改善を画策する。ゲームでも炊き出しなんてイベントがあったんだよなあ。なぜかジャガイモだけは豊富にある5121小隊。今まではコミック担当だった中村が、意外な面を見せるのも、この巻のお楽しみ。

 中村のコミック担当は意図してのものだが、意図せずにコミック担当となってしまうのが茜。どう考えても体力じゃ小隊についていけない茜、やはり真夏の日差しの下での作業は堪える模様。にしても、夏真っ盛りに草むらで半ズボンじゃ、自慢の脚も蚊に食われてボロボロになるぞ。

 とまれ、館山の士官学校で身につけた意外な特技を活かし、予想外の活躍を見せてくれる。仮に戦争が終わったら、滝川と組んで土建会社を立ち上げるといい線いくかも。経理は祭ちゃんにお願いして。

 寄生虫だのイルカだのと、人間以外を相手にする趣味ばかりだった舞も、5121小隊に毒されてか、独特のユーモアのセンスを身につけた様子。さすがに素子さんの域には達しないまでも、予備部品ぐらいは軽くあしらえるまでに成長したらしく。いるよね、真顔で冗談とばす人。

 などとモソモソしていると、やってきました増援が、これまた懐かしい方々で。そっかあ、一見クールに見えるけど、そういうのが好きなのかあ。

 などの楽しい場面ばかりでなく、ちゃんとお話も少しだが進んでゆく。無人のはずの熊本に、いつの間にか住み着いた共生派らしき者たち。それも一つに組織されでいるわけではなく、様々な性質の者が入り込んでいる。5121小隊へ攻撃を仕掛ける者たち、ひたすら逃げ隠れるだけの者たち。

 そういえば前に読んだ「物乞う仏陀」にも、戦場だった故郷の村に戻ってきた人の話しが載っていた。片腕を失いながらも、無人となった故郷の村に妻と共に戻り、住み着きながら元いた村人たちが帰ってくるのを待ったトンディーさん。特に農民は土地に愛着を持つから、やっぱり生まれ育った村で生きたいんだろうなあ。

 「未来へ」という副題ながら、舞台は懐かしい熊本。彼らが出会い、戦った場所。そこで共に戦い、だが帰れなかった戦友たちの遺骨を拾いながら、若い彼らは何を考えるのか。

 様々な経験を積み、徴兵され戦わされた仕組みの裏側を知り、また置き去りにされた学兵たちを救うために最後まで戦った5121小隊。それでも救いきれなかった戦友たちの、無残な末路と否応無しに対峙しながら、彼らはどんな未来を思い描くのか。

 他にも懐かしい方の、いかにもあの人らしい派手な登場もあり、お話は波乱の予兆を含みつつ次の巻へ続いてゆく。また大手柄をモノにしそうだなあ。でもスキャンダルには気をつけ…いや、きっと開き直り喜色満面で売り込むチャンスと踏み台にして、更なる注目を集めそうだなあ。

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2014年9月12日 (金)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 未来へ 1」電撃文庫

「ぬほほー、自衛軍も贅沢じゃのー。温泉もあるんかの?」

【どんな本?】

 はじまりは2000年9月28日に発売された SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。当事のハードウェアの限界を超えた野心的なシステムに開発は難航して宣伝費を食い潰し、宣伝費ゼロというゲーム・コンテンツにあるまじき状態での発売となる。

 だがその過酷な世界設定・斬新なシステム・魅力的なキャラクターは、特定の嗜好を持つファンを惹きつけてロングセラーとなり、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞、2010年にはPSP用のアーカイブで復活して今なお新しいファンを獲得し続けている。

 榊涼介の小説シリーズは、そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まる。ゲームに沿ったストーリーは「九州撤退戦」で一段落するが、その後「山口撤退戦」より榊氏がオリジナルのストーリーを発展させ、この巻へと続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年9月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約280頁、8ポイント42字×17行×280頁=約199,920字、400字詰め原稿用紙で約500枚。標準的な長編小説の分量。安定してます。

 文章は素直で読みやすい。素直に前の「5121小隊帰還」から続く内容。

 ゲームの内容や設定は複雑なので、贅沢を言えば刊行順に「5121小隊の日常」または時系列順に「episode ONE」から読み始めるのが理想。しかしさすがに41巻目ともなると追いつくのも大変だ。舞台も変わり新たなストーリーが始まる、この巻から入ってもいいだろう。

 そういう人の為にも、再録でいいから5121小隊や登場人物紹介のイラストが欲しかった。

【どんな話?】

 1945年、唐突に第二次世界大戦が終わる。黒い月が月と地球の間に出現、地上にはヒトを狩る幻獣が現れた。圧倒的な数の幻獣に人類は敗走を続け、1999年現在、人類は南北アメリカ大陸・アフリカ南部そして日本列島に押し込められる。

 1998年に幻獣は九州に上陸、自衛軍は勝利するが戦力の8割を失う。1999年、日本政府は熊本要塞の増強と、14歳~17歳の少年兵の強制召集を決める。持て余し者を集めた5121独立駆逐戦車小隊は、使いにくさで廃棄が決まっていた人型戦車の士魂号を使いこなし、大きな戦果を挙げる。

 だが5月6日から始まった幻獣の大攻勢に自衛軍は壊走、九州を失う。5121小隊は撤退戦で殿を務め多くの兵を救うが、10万人ほど召集された学兵の半分以上が本州に戻れなかった。一度は山口から本州に攻め込まれた自衛軍だが、岩国要塞などで盛り返し、九州への逆上陸を果たす。

 日本政府は、敵の内紛も利用し幻獣の一部と連合を実現、青森・北海道も防衛に成功する。

 士魂号の活躍に目をつけた北米のワシントン政府は5121小隊を強引に招聘、海を渡った5121小隊は鳴れぬ環境に戸惑いながらも、東北部から押し寄せた幻獣に対しワシントン政府軍と協力して防衛に当たり、包囲されたレイクサイドヒル市民の救出に成功、東海岸でも一躍ヒーローとなった。

 北米の西海岸を支配するシアトル政府と日本政府は正式な国交がないが、経済協力を望む財界の希望で5121小隊はシアトルにも立ち寄った。親善使節のはずが、少年たちの銀行強盗事件に巻き込まれ、サンディエゴ戦線での暴走や補助兵制度の暴露などに加え、政権転覆にまで関わってしまい、シアトル・日本双方の政府から睨まれ、急遽の帰国を命じられる。

 立ち寄る先々で騒ぎを起こし時限爆弾を発火させる5121小隊に、日本政府はどんなおしおきを用意しているのであろうか。

【感想は?】

 奴らが、帰ってきた!

 西海岸から船での帰還だ。せめてハワイに寄れば少しは素姐さんの気も晴れ(そして善行の財布は軽くな)るだろうに、横須賀に直帰らしい。いけず。

 前線では果敢な決断を見せた舞だが、今更ながらアメリカでのおイタは気になっているようで、色々と取り越し苦労をしている様子。「わたしにできる仕事はあるだろうか」と、しおらしい。どうなんだろう? 大半の民間企業なら、彼女を雇えば業績アップは間違いないんだが、ウカウカしてると経営陣が一掃される危険も。

 …と思ったけど、なら起業しちゃえばいいじゃん。あ、でも、業界そのもの再編どころかひっくり返りかねない。ここはひとつ、無難なところで寄生虫学者にでもなってもらって…

 やはり青い顔してるのが、善行と狩谷。何をやろうと、最後にツケを払う立場になる善行さんは、山ほどの宿題に囲まれている様子。なっちゃんは…まあ、どんな時にも心配の種を見つけだす役割だし。何であれ不調を許せない性格は、理想的な整備兵かも。

 対して能天気なのが、茜。本人は天才参謀のつもりなんだろうけど、あの性格に機密へのアクセスを許すのは、情報セキュリティ上、とんでもなく危険な話で。

 やはり気楽なのが、食欲優先の連中。ゲームでも若宮は不思議な能力を持っていて、腐った弁当や腐ったサンドイッチを難なく消化できる強靭な胃袋を持っている。この巻でも、彼の胃袋は容赦なく相手を殲滅してゆく。にしても、よく付き合えるな、新井木。私は塩が好きです。いや味噌も捨てがたいけど。

 同様に、粉モノに拘っているのが滝川。付き合わされる森さんも大変だろうけど、これはこれで、いい気分転換になってるのかも。ほっとくと閉じこもってばかりだろうし、巧く連れまわしてやれ、滝川。

 などの5121小隊の面々に加え、懐かしい顔ぶれが続々と登場するのが、この巻の嬉しいところ。今までの新大陸編・西海岸編でも「下品の王様小隊」が顔を出したけど、野郎臭い面子ばっかしで華やかさがない。その点、この巻では、横須賀まで迎えに来た彼女とか、市ヶ谷で任務に励む彼女とか、情に厚い彼女とか。

 などのほっこりした雰囲気の前半から、中盤以降は驚きの舞台へと場面は変わってゆく。

 「未来へ」のサブタイトル、これは5121小隊を示したのかと思ったけど、違うのかも。ゲームとは全く異なった歴史へと流れてきた小説版が、どんな方向へ向かうのか。ゲームの冒頭から登場しながら、ゲーム・小説ともに謎の存在のままだった「黒い月」は、話に絡んでくるのか。幻獣と人類は、共生できるのか。

 予定通りに2014年11月10日に2巻が発売されることを祈ろう。

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2014年6月17日 (火)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 5121小隊帰還」電撃文庫

「よかよか。政治ごっこより、ラーメンの方が重要タイ。この国には、出汁を取るという人類最大の知恵が存在せんからのー」

【どんな本?】

 2000年9月28日、 SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」が発売される。当事のハードウェアの限界を超えた野心的なシステムの開発は宣伝費を食い潰し、宣伝費ゼロというゲーム・コンテンツにあるまじき状態での発売だった。

 だがその過酷な世界設定・斬新なシステム・魅力的なキャラクターは、特定の嗜好を持つファンを惹きつけてロングセラーとなり、第32回(2001年)には星雲賞メディア部門を受賞、2010年にはPSP用のアーカイブで復活して今なお新しいファンを獲得し続けている。

 榊涼介の小説シリーズは、そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」から始まる。ゲームに沿ったストーリーは「九州撤退戦」で一段落するが、その後「山口撤退戦」より榊氏がオリジナルのストーリーを発展させ、この巻へと続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年6月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約296頁。8ポイント42字×17行×296頁=約211,344字、400字詰め原稿用紙で約529枚。標準的な長編小説の分量。

 ライトノベルのわりに、地の文章は素直で読みやすい。内容は素直に前の「西海岸編3」から続いている。

 元となったゲームの設定は壮大だし、小説独自の展開や人物も多い。出来れば最初に出た短編集「5121小隊の日常」か、時系列順で「episode ONE」から入るのが理想。またはアメリカ大陸に渡る「新大陸編1」の冒頭で世界設定の説明があるので、そこから入るのが楽かも。それさえ面倒という人は、西海岸に舞台が移る「5121小隊の日常Ⅲ」または「西海岸編 1」からにしよう。

 でもやっぱり巻頭に5121小隊メンバー紹介のイラストが欲しいぞ。再録でもいいから。

【どんな話?】

 1945年に突然現れた幻獣により第二次世界大戦は終結した。食事が不要で圧倒的な兵力を誇る幻獣は人類を席巻、撤退を続ける人類はユーラシアを失い、南北アメリカと南アフリカの一部、そして日本列島のみとなる。

 1999年、幻獣は九州に上陸。日本政府は14歳~17歳の少年兵を招集し、捨て駒として戦線に投入する。少年らの消耗で稼いだ時間で自衛軍を立て直すする目論見だった。各隊で持て余されたはみだし者を集め組織した5121小隊は、キワモノ兵器の人型戦車・士魂号を与えられ、予想外の活躍を見せる。

 だが幻獣の攻勢は押しとどめられず、5121小隊の働きにより多くの学兵を救うものの、日本は九州を失う。恒例の夏季休戦を破り山口へと上陸を始めた幻獣だが、岩国・広島の死闘を経て自衛軍は初の防衛戦に成功、勢いをかって九州の奪還へと進み、幻獣の一部戦力との和平に漕ぎつけた。

 首都・東京の政変と東北への幻獣上陸、そして北海道独立と危機を戦い抜いた5121小隊は、新大陸アメリカへと渡る。東海岸のワシントン政府と西海岸のシアトル政府に分裂したアメリカ。東海岸レイクサイドヒルで幻獣に包囲された市民を、海兵隊と共に救出した5121小隊は英雄となり、シアトルでも歓迎される。

 日本政府はワシントン政府と正式な国交があるが、シアトルとはない。国交樹立を望む政府、経済交流を願う財界。視察も兼ねシアトル入りした5121小隊は、若者らしいおイタを重ねつつも市民との交流を実現する。銀行強盗事件をきっかけに南部サンディエゴの前線に出た5121小隊は、軍の暗部を垣間見ながら幻獣の猛攻を食い止める。

 しかし、元々疲弊していた5121小隊の面々に過酷な戦闘は大きな負担となった。小隊内では、精神汚染に無頓着なシアトル政府を懸念する者と、早期の帰国を望む者の軋轢が表面化してゆくが、サンディエゴ前線での強引な介入は善行の立場を悪化させていた。

【感想は?】

 西海岸編、堂々の完結。

 最近の榊ガンパレの中では、最も5121小隊に焦点があたる巻かも。新大陸編ではフェルナンデスやプラッターがそれなりに出番があったし、西海岸編では四人組やセルジオ視点の場面も多かったが、この巻では5121小隊視点での話が中心となる。いやちゃんとセルジオ君たちの出番もあるんだけど。

 ゲストの中では、シアトルの桜沢レイちゃん的な立ち居地の肘鉄キャスターが大活躍。その名もサラ・コナーズ。レイちゃん同様の突撃型で、上昇志向も旺盛な模様。素姐さんにいじめられなきゃいいけど。しかし茜、年上の女性にモテるなあ。

 全般的に頭脳戦が中心となるこの巻では、その茜が大張り切り。この巻では、彼と森さんが小隊内の軋轢を象徴している。とにかく自分の才能を発揮する機会を見逃さない茜、早く平穏な日常に戻りたい森。この二人を筆頭に、武闘派と帰国派で小隊が分裂の危機を迎えてゆく。

 この対立の矢面に立つ善行の泣き言が、これまた実に楽しい。

 そんな中、帰国派に属しながらもマイペースなのが中村と岩田の靴下コンビ。彼らに対する素姐の「普通に過ごしていればいいから」も酷いが、素直に「合点承知」って、いいのか中村。まさか、これを機に新たな獲物を…。なにせ、連中のシンジケートが大変な事になっているのが、この漢の終盤で明かされる。大丈夫か合衆国。

 そして忘れちゃいけないタイガー。「九州撤退戦」あたりからフィクサーとしての側面を身につけ始めた彼が、この巻でも密かにアチコチへと飛び回る。コイツも例のシンジケートを広げてるんだろうか。懐かしいゲストも登場し、終盤までキーとなる活躍を見せる。しかしあの目つきの悪いハッピ男、どう考えても商売の邪魔にしかならんと思うのだが。

 戦闘班の中で、意外(でもないか)な帰国派が滝川。でも理由が…と思ったけど、いかにも彼らしいかも。欧米はコムギが主食で粉モン文化なんだけど、やっぱり味付けが違うんだよなあ。焼いてパンにしちゃう欧米と、コネてパスタにする極東の文化。にしても新井木と同じレベルだぞ、いいのか滝川。

 ちなみにあの辺、たしかサンフランシスコに世界最大のチャイナタウンがあったはず。残念だったね、滝川&新井木。

 新大陸編・西海岸編の完結編なだけに、終盤は怒涛の展開で懐かしい顔ぶれが続々と登場する。私が気になっていたのは件の小学校。ええ、そりゃもう、泣かせる人が泣かせ、笑わせる人が笑わせる、愉快な終盤を演出してくれた。つか忍び込むかお前w

 精神汚染に無防備なオルレイ代表率いるシアトル政府、密かに喉笛をかききる機会を伺うリーランド&銀狼師団、そして経済交流を望む日本の政界・財界。暴走のツケで大きな支援が望めない状況で、善行と5121小隊はどう事態を捌くのか。

 そして本当に9月10日に新シリーズが始まるのか。是非とも始めて下さい。

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2014年4月 6日 (日)

森岡浩之「星界の断章Ⅲ」ハヤカワ文庫JA

「そのために陛下(エルミトン)がいるのではなくって? あたくしだって皇族(ファサンゼール)の存在意義がスポールに馬鹿にされるだけしかないなんて、不敬なことは思っていないのよ」
  ――「野営―ペネージュの場合―」

【どんな本?】

 遠未来を舞台に、超光速航法「平面宇宙航法」を駆り宇宙空間を支配する種族アーヴを描く、人気スペース・オペラ「星界の紋章」シリーズの番外編にして最新刊。DVD-BOXやCDドラマの付録として収録された「野営」「出奔」などのほか、SFマガジンに発表した「介入」「海嘯」に加え、書き下ろしの「来遊」を収録した短編集。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年3月25日発行。文庫本で縦一段組み、約290頁。9ポイント39字×17行×290頁=約192,270字、400字詰め原稿用紙で約481枚。長編小説なら標準的な分量。文章そのものは読みやすい。ただ、長編シリーズの番外編であり、ファン向けの色が濃いので、星界シリーズを知らない人には辛いかも。

【収録作は?】

 / 以降は初出。

野営 /
 「野営―ドゥサーニュの場合―」 『EMOTION the Best 星界の紋章 DVD-BOX』付録(2010年5月)
 「野営―ペネージュの場合―」 『EMOTION the Best 星界の戦旗 DVD-BOX』付録(2010年6月)
 「野営―ノールの場合―」 『EMOTION the Best 星界の戦旗 Ⅱ・Ⅲ DVD-BOX』付録(2010年6月)
 修技館を志望する動機は、大きく分けて三つある。一つは義務として入学する者。第二に、特権を受け継ぐために受験する者。第三に、権利として入学する者。
 修技館のお野営地では毎日、掲揚式と降納式を行なう。式を執り行うのは訓練生から選ばれた衛旗士だ。任期は一日、降納式から翌朝の掲揚式まで、帝国旗を預かり一晩保管する。
 これぞ正しいキャラクター小説。同じ状況に三組のコンビを叩き込み、それぞれの反応の違いを楽しむお話。やはり傲岸不遜で豊かな罵倒の語彙をスポール閣下が披露する「野営―ペネージュの場合―」は、勢いがあって楽しい。「野営―ノールの場合―」は、大人気のあのお方が主人公を務め、鮮やかな噴火を披露してくれる。
出奔 / 『星界の断章オーディオドラマCDブック with 星界の紋章&星界の戦旗』(2011年3月)
 13歳の時、ドゥヒールは家を出ようと考えた。専用の交通艇はあるが、完全手動操縦はできない。それは翔士叙任まで待たねばならない。そこに、叔母のラムリュークが王宮に滞在するとの情報が入る。この機を逃す手はない、と考えたドゥヒールは…
 何かと姉ちゃんと比べられ、窮屈な思いをしているドゥヒール君が、一念発起してやらかすお話。考えてみると、周囲にいるのは老成した大人と優秀な姉だけって環境は、なかなか辛いもんがあるよなあ。
介入 / <SFマガジン>2013年5月号
 ベリサリア星系は、危機に陥っていた。スーメイ人が強制執行艦隊を擁し、取立てに現れたのだ。一標準年以内にサトゥルノ大陸を引き渡せ、と。政府交渉官のアルコ・アウゴは、伝令として自転車で走り回る。政府は地下の秘密政庁で大統領スキピア・ケセルや野党のグスト・コントが集まり…
 陰険な会話が巧いこの作者、この短編では政治家同士の「話し合い」の場面で筆が冴える冴える。特に乱入者のグスト・コント、彼の下心たっぷりの混ぜっ返しが、いかにも腹黒な野党政治家の憎ったらしさがよく出てる。
誘引 / <月と星の宴>2007年8月
 戦列艦<ボーリンシュ>の翔士食堂で、セスピーは列翼翔士および四等勲爵士に叙せられる。同時に、フェリーグにも。傍流とはいえスポールの気質を充分に持つフェリーグに、最初は戸惑ったセスピーだが、もう慣れたし、それほど嫌な奴でもない。
 うん、まあ、アレだ。スポールってのは、遠くから見ているからいいんであって、あまり近づいてはいけないのですね。
海嘯 / <SFマガジン>2013年10月号
 貨客船<ギューシュ・アルビゼラ>第一船艙に姿を見せたラムリューヌを、飼育官のスナカシュは喜んで迎える。ここには数百頭の山羊がいる。往還艇に乗せるため、睡眠槽から出していたのだ。さすがにこの数となると匂いも強烈で…
 会話が楽しいこの作者、ここではスナカシュとクファバールの対照が味わおう。いいずれも自分の職務に熱心に励んでる人なんだが、互いに極端な形でコミュニケーションがアレだったりする。私が勤めるならスナカシュと同じ職場がいいなあ。
離合 / <SFマガジン>2014年1月号 「岐路」改題
 <アーヴによる人類帝国>の都ラクファカールは陥落しようとしていた。特設工作艦<クニュムラゲール>の艦橋で、コンサ千翔長は独立戦隊を率いている…といっても、貨物船を特設工作艦と称した<クニュムラゲール>だけだが。
 大人気のあの方の出生の秘密が語られる作品。にしても、アーヴってのは、なんだってこう、偏った性格の人ばっかりなんだろうw
来遊 / 書き下ろし
 これは30番目の氏族の話だ。それは帝国の創建前。わたしロビート・ボイガは都市船<アブリアル>で星々を巡った最後の世代だ。その時に訪れた人類社会は、ラ・ゲルシスマという星系だった。人口も500万人ほど、科学技術も維持がやっとで、交易相手としては物足りない。<アブリアル>は補給のため8.1光年先の星系に立ち寄り…
 平面宇宙航法の誕生にまつわる話。偏った人ばかりが出てくるこの本でも、最後を飾るに相応しい人が登場する。イギリスだったかな? そこの数学研究所は、学者たちの交流を盛んにするために、部屋には扉がなくて、エレベーターにはホワイトボードが置いてあるとか。

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2014年2月 4日 (火)

マイクル・コーニイ「パラークシの記憶」河出文庫 山岸真訳

「聞かせてあげよう。ヤムには、あたしみたいな女性がほかにもいる。ブルーノみたいな男性もいる。問題なのは、自分がまわりとは違っていると認める勇気が、その人たちにはないことだ」

【どんな本?】

 イギリス生まれのSF作家マイクル・コーニイによる、青春SF小説の名作「ハローサマー、グッドバイ」の続編。異星に住むヒト型の、だが独特の能力を持ち社会を形成している知的種族スティルクを中心に、17歳になるスティルクの少年ヤム・ハーディと少女ノス・チャームの初恋の行方、そして二人の周囲で起きる事件を描く王道の青春SF長編。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は I Remember Pallahxi, by Michael Coney, 2007。日本語版は2013年10月20日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約509頁+訳者あとがき9頁。9ポイント38字×18行×509頁=約348,156字、400字詰め原稿用紙で約871枚。長編小説としては長め。

 翻訳物にしては、文章はかなりこなれている。内要も、特に科学の素養は要らない。小学校卒業程度の理科が解っていれば充分だろう。敢えて言えば、異星を舞台としてエイリアンが主役を務める作品なので、自然も文化も風俗も我々と異なる点が、SFに慣れない人には辛いかも。慣れた人には、それこそが美味しい所なんだけど。

 とはいえ、魔法や超能力がポンポン出てくる最近のライトノベルを楽しめる人なら、きっと大丈夫。むしろ、可愛い女の子が沢山出てくるライトノベルが好きな人にこそ、この作品と前作の「ハローサマー、グッドバイ」はお薦め。

 それ以上に、問題は名作「ハローサマー、グッドバイ」の続編であること。実を言うと、「ハローサマー、グッドバイ」を読んでいなくても、この作品は問題なく楽しめる。が、続編だけに、「ハローサマー、グッドバイ」の衝撃的なネタを遠慮なくバラしている。これの何がマズいといって、「ハローサマー、グッドバイ」が文句なしの傑作だってのがマズい。本作を読んじゃうと、前作を読む楽しみが減ってしまうのだ。なので、出来れば同じ河出文庫から出ている「ハローサマー、グッドバイ」から読んで欲しい。

【どんな話?】

 17歳の誕生日に、ぼく、ヤム村のハーディはソス村のチャームに出遭った。父ブルーノと共に取引でソス村を訪れ、ついでにスキマーで帆走してた際に、溺れかけた。この季節、海は粘流(グルーム)でドロドロしている。油断したぼくは河口まで行ってしまい、チャームに助けられたんだ。まん丸で暖かな茶色い目の女の子。けど、ぼくは内陸者で彼女は海辺に住む。ぼくたちスティルクは地球人と違い…

【感想は?】

 正直言って、あまり期待はしてなかった。前の「ハローサマー、グッドバイ」は文句なしの傑作で、ちょっとアレを超えるのは無理だろう、とタカをっくくっていた。

 が、しかし。見事に予想を裏切ってくれた。うん、これぞ正当な続編。

 カテゴリも迷った。SF/海外か、ライトノベルか。土壇場でライトノベルにした。別に中味が軽いとか、SF風味が薄いって意味じゃない。若い人でも、いや若い人こそ、この作品を楽しめるだろうと思うからだ。

 実際、若い人向けに書いたんだろうな、と思う。語りは一人称「ぼく」だし、人物造形はかなりステレオタイプだし。

 だが、同時に、本格的なSFでもある。舞台が異星で主人公がエイリアンなのはダテじゃない。特に前作と大きく違うのが、地球人が出てくる点。読者も主な登場人物たちも、彼らがエイリアンである由を充分に認識した上で話が進む。まあ、主人公目線だと地球人こそがエイリアンなんだけど。

 エイリアンだけあって、人類とは色々と異なる部分がある。いや姿は人類ソックリなんだけど。なんと言っても、その根幹となっているのが、彼らが祖先の記憶を持っていること…幾つかの制限つきで。「便利だな、じゃ父ちゃんが勉強してれば俺は勉強しなくていいじゃん」とか、そんな軽いモンじゃない。

 この不思議な能力とその制限が、彼らの社会や文化に、どんな影響を与えるか。制限が生み出す社会構造は序盤から明らかになり、なかなかのセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれる上に、中盤~終盤になって、この能力とその影響が大きな意味を持ってくる。

 ばかりでなく、異星ならではの現象や、ケッタイな生物も楽しみのひとつ。真っ先に出てくるのが、粘流(グルーム)という現象。年に一度、海水の濃度が上がる。海生生物はグルームに追われるので、海辺の村は漁の季節となる。この描写は序の口で、グルームならではの生物もお楽しみ。やはり印象に残るのが、氷魔。こっちは淡水に棲んでいて…

 ってな動物もいいが、植物もなかなか不気味。ワサワサとざわめきまとわりつくシバリ草なんて可愛いもんで、おっかないのがイソギンチャク樹。どうやら赤外線を感知する能力を持っているらしく、温度の高いモノに惹きつけられ…。彼らが森で立ち往生する場面は、童話のヘンゼルとグレーテルが森で迷う場面を思わせるが、物騒さは遥かに増している。

 生態は人類と少し違うスティルクだが、成人する年齢は同じぐらいのようで、ハーディの年齢17歳も、この作品の大きなポイント。大人になりかかった頃で、少しだけ子供の尻尾を残している。冒頭でソス村に来た目的も、彼の年齢の微妙さを象徴しているんだろう。

 ハーディの父ブルーノは、男村の長スタンスの兄として、村を代表し重要な交渉のためにソス村にやってきた。同行する息子のハーディは、遊ぶためのスキマーを車に乗せてきている。たぶんブルーノは、将来の村の重鎮として期待されている息子を、顔つなぎの意味も込めて同行させたんだろう。読むに従い、ブルーノの思慮深さが次第に見えてくる。

 対して、感情的で権威ぶる、いけすかない奴に描かれるのが、長のスタンス。彼と息子のトリガーの造型が、この作品をライトノベルに分類する決定打になった。いやもう、実にわかりやすい憎まれ役。権威をカサにきて偉ぶるばかりで、交渉じゃ周囲の村との対立を煽るばかり。そのくせ村の男を煽って物騒な空気を掻き立てるのだけは、やたらと巧い。

 お家の事情で引き裂かれそうになる若い恋人たち、前例のない事件に揺れる村の政治勢力。危機に見舞われる村の生活と、危機で表面化する政治闘争。大人への脱皮を余儀なくされる若者の喜びと戸惑いと痛み。変わってゆく世界と、それが秘めた謎。

 前作「ハローサマー、グッドバイ」で張った伏線を着々と回収する心地よさに加え、若者の成長とSFな驚きを鮮やかにリンクさせ、黄金時代のSFの芳醇な香りを21世紀に蘇らせた、青春SFの王道をゆく作品だ。

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2014年1月25日 (土)

山本弘「MM9 destruction」東京創元社

「これはヒメの運命だけじゃなく、地球の運命を決める戦いだ――まさい地球最大の決戦だよ」

【どんな本?】

 舞台はこの世界とは少し違い、巨大怪獣が出現する世界。怪獣災害に対応するは、気特対こと気象庁特異生物対策部。歴史の裏でうごめく者達の手引きで襲来した宇宙怪獣を、再度のヒメの降臨でなんとか撃退したのはいいが、手引きした連中の正体は未だ不明なまま。そして、ヒメに隠された秘密とは…

 かつての怪獣少年やSF者を狂喜させる綿密な考証に加え、オカルト・マニアを唸らせる怪しげな歴史考察も織り交ぜ、煩悩まみれの少年少女が活躍する爽快娯楽怪獣小説シリーズ第3弾。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 初出は Webミステリーズ!2011年4月号~2012年8月号。書籍は2013年5月30日初版。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約385頁。9ポイント43字×20行×385頁=約331,100字、400字詰め原稿用紙で約828枚。長編小説としては長め。

 ベテランだけあって、文章はスラスラ読める。山本氏独特のアクも薄まっているので、比較的にクセがない。科学的にかなり突っ込んだ話も出てくる割に、スルスルと頭に入ってくるのが、この著者の強み。小学校卒業程度の理科の素養があれば、充分に理解できます。ただ、話も登場人物も素直に前の「MM9 invation」からつながっているので、出来れば「MM9 invation」から読んだほうがいいだろう。

 なにせ怪獣モノなので、昔の怪獣・特撮番組に詳しい人ほど楽しめるのは、まあ仕方がないw 主な舞台が茨城県の海岸沿いなので、地元の人は更に楽しめる。 ただ、巻末の地図は冒頭につけて欲しかった。

【どんな話?】

 案野一騎は、母の悠里・恋人の酒井田亜紀子とともに、リムジンに乗って常磐道を北へ向かっている。数人の私服警官に有無を言わさず連行されたのだ。ヒメと関係が深い以上、VIPとして保護する必要がある、という理由だ。行く先は知らされていないが、ヒメも同じ所に向かっているという。ヒメに聞いても、(着いてからのお楽しみです)とはぐらかされるばかりで…

【感想は?】

 前巻では曰くありげに匂わされたヒメの秘密が、いよいよ明らかになる興奮の第三巻。

 怪獣なんぞというゲテモノなシロモノを、出来る限り誠実かつリアルに描くこのシリーズ、今回も無駄に丁寧な考察が序盤から展開する。怪獣の死体の後始末だ。

 なんたって、身長50m、重量三千トンもの肉だ。放置したら大変なことになる。悪臭は漂い虫や細菌が繁殖し、近隣の衛生状態は最悪になってしまう。ってことで、誰かがなんとか始末しなきゃいけない。始末はなるたけ早いほうがいいが、怪獣の研究をしたい気特対はなるたけ資料が欲しい。この辺は、事故の後処理と共通するジレンマらしい。

 ってんで、活躍するはお馴染みの方々。肉はどうやって切るのか、骨はどうするのか。こういう下世話で現実的な場面の描写が、このシリーズの楽しいところ。

 これは最後のバトルも同じで、前巻じゃ意外なシロモノが活躍を見せた。昔の特撮怪獣シリーズだと、地球防衛隊とかは単なる露払いで、肝心の怪獣相手にはあまり活躍しない。ところが、このシリーズでは自衛隊が堂々としたバトルを展開するのが嬉しいところ。今回も、地味な準備作業から、ド派手なバトルまで、見せ場がたっぷり用意されてる。やっぱりね、緊急時の対応で見せる柔軟性は、彼らならでは。

 などといった前巻までの魅力に加え、この巻では新たな要素が大胆に導入されている。

 カバーに鳥居があるように、伝奇だ。異端の研究者・伴野英世が残した著書が「ヤマトタケルは女だった」。いいねえ、このネーミング・センス。昭和のカッパ・ノベルスに、いかにもありそうな扇情的な書名。と学会の会長を務めるだけあって、ソレっぽいセンスもキチンと抑えてる。内容も、なかなかアレで、なんとギリシア神話から始まる。

 うんうん、やっぱり神話・伝説の類は欠かせない。こういうモノから、予め想定した世界観に基づき、何を読み取り、何を歪め、何を切り捨てるか。真面目な学会などで比較的に支持されている説をうまいこと折り込み、それに独自の(そして往々にしてワンパターンの)強引な解釈を加え、奇矯な世界を再現してゆく。

 神話に出てくる神や怪物が、大抵は何らかの形で変形されているのは、かなり受け入れられやすい説だ。やたらとスケベで浮気に描かれるゼウスも、元は独立していた各部族・民族などの神々を、無理矢理に一つの神話に押し込めるため、「お前の部族の神様はゼウスの子なんだよ」的に懐柔し統合していった、みたいな解釈は多い。

 ここまでは、まあ常識的でよくある話なのだが、そこに伴野先生は一ひねりを加える。すると…。うんうん、オカルトかますなら、これぐらいのヒネリは見せてくれないと。そんな感じで、古の神々や英雄・怪物がゾロゾロと出てくるのが、この巻の美味しいところ。果たしてギリシア神話と鳥居と宇宙怪獣がどう繋がるのか。

 などのダイナミックな楽しみとは別に、ライトノベルの定番で、一騎少年の恥ずかしい煩悩も描かれているあたり、サービス精神旺盛というかなんというか。

 ヒメの正体、彼女の謎を握る美少女、宇宙怪獣襲来の目的、それを手引きする者たちの思惑。全ての謎が明らかになる、MM9シリーズの壮大なクライマックス。お馬鹿な設定を真面目かつ誠実に考証する、オタク魂あふれる熱くて暑苦しい小説だ。

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2013年11月11日 (月)

榊涼介「ガンパレード・マーチ2K 西海岸編 3」電撃文庫

「そういうぬしゃが一番、理屈っぽいの。岩田、例のアレ、使えるかの?」

【どんな本?】

 始まりは2000年9月28日発売の SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。斬新なシステムと濃いキャラクターがマニアの支持を受け、宣伝費ゼロのハンデを乗り越えロングセラーとなり、2010年にはPSP用のアーカイブで復活、今なお新しいファンを獲得し続けている。

 そのノベライズとして2001年12月15日発売の短編集「5121小隊の日常」を皮切りに始まった榊涼介の小説シリーズ、ゲームのシナリオに準じたストーリーは「九州撤退戦」で一段落するが、その後も番外編的な位置づけの「もうひとつの撤退戦」をはさみ続行、「山口撤退戦」以降は榊氏オリジナルのストーリーが展開し、ガンパレ世界を広げながらこの巻へと続いている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年11月9日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約274頁。8ポイント42字×17行×274頁=約195,636字、400字詰め原稿用紙で約489枚。標準的な長編小説の分量。

 ライトノベルのわりに、地の文章は素直で読みやすい。壮大な設定を積み重ねたシリーズ物なので、いきなりこの巻から読むのはさすがに無茶だろう。販売順に短編集「5121小隊の日常」または時系列順に「episode ONE」から読むのが理想だが、30巻以上では躊躇する人もいるだろう。その場合は「5121小隊の日常Ⅲ」または「西海岸編 1」からにしよう。世界設定と中心となる5121小隊の面々は引きついでいるが、舞台が移り周辺人物も入れ替わったので、一部リセットした状態になっている。

【どんな話?】

 1945年に突然現れた幻獣により第二次世界大戦は終結した。食事が不要で圧倒的な兵力を誇る幻獣は人類を席巻、撤退を続ける人類はユーラシアを失い、南北アメリカと南アフリカの一部、そして日本列島のみとなる。

 1999年、幻獣は九州に上陸。日本政府は14歳~17歳の少年兵を招集し、捨て駒として戦線に投入する。少年らの消耗で稼いだ時間で自衛軍を立て直すする目論見だった。各隊で持て余されたはみだし者を集め組織した5121小隊は、キワモノ兵器の人型戦車・士魂号を与えられ、予想外の活躍を見せる。

 だが幻獣の攻勢は押しとどめられず、5121小隊の働きにより多くの学兵を救うものの、日本は九州を失う。恒例の夏季休戦を破り山口へと上陸を始めた幻獣だが、岩国・広島の死闘を経て自衛軍は初の防衛戦に成功、勢いをかって九州の奪還へと進み、幻獣の一部戦力との和平に漕ぎつけた。

 首都・東京の政変と東北への幻獣上陸、そして北海道独立と危機を戦い抜いた5121小隊は、新大陸アメリカへと渡る。東海岸のワシントン政府と西海岸のシアトル政府に分裂したアメリカ。東海岸レイクサイドヒルで幻獣に包囲された市民を、海兵隊と共に救出した5121小隊は英雄となり、シアトルでも歓迎される。

 日本政府はワシントン政府と正式な国交があるが、シアトルとはない。国交樹立を望む政府、経済交流を願う財界。視察も兼ねシアトル入りした5121小隊は、煩悩まみれの少年らしい騒動を起こしながらも市民との絆を築くが、四人組みの少年銀行強盗に巻き込まれ、シアトル政府と軍の暗部を垣間見る。

 視察の口実で前線である南部のサンディエゴへと赴いた5121小隊は、なし崩し的に戦闘に介入してゆく。戦闘の現場で確認した軍の内部は、後方のシアトルからは想像もつかない状況だった。

【感想は?】

 前巻に引き続き、善行の腹黒さが光る巻。

 5121小隊で陰険眼鏡といえば、なっちゃんこと狩谷だが、彼が陰険さを発揮する時はいかにも悪党面の上目遣いなのに対し、善行は人の良さそうな微笑に隠し、奇想天外で壮大で狡猾な企みを働かせるからタチが悪い。負けるな、なっちゃん。しかし素姐といい若様といい、なんだって5121には、さわやかな笑顔の陰謀屋が揃ってるんだ。

 さて、お話は。シアトル政府の代表のオルレイ氏、いかにも合理的な好人物に見えて、肝心の危険からは眼を逸らすばかり。防衛を担う軍は、第一軍を預かるジャクソン大将が正統派で腰が重く、前線で戦う銀狼師団を率いるリーランド中将は優秀ながら腹に一物あり、犬猿の仲。日本の学兵にあたる補助兵を預かるグラント閣下が、クセは強いながら話のわかる人物、といった状況。

 主役の5121小隊は日本政府からは強硬に撤収を命じられ、お先真っ暗な状況で話が始まる。だがそこははみだし者揃いの5121小隊、おとなしく大人の事情に従うはずもなく。

 まあ、そんなわけで、冒頭では狩谷と壬生屋の口論が展開する。直情径行な突進乙女の壬生屋と、理論的な秀才計算屋の狩谷。しかも両名ともに強情だからタチが悪い。どう考えても思いっきり相性の悪い両名、果たして決着はどうなることやら。しかしゲームの仲人プレイでも、両名の仲を取り持とうってプレイヤー、いるんだろうか。

 相変わらずのコメディアン振りを発揮している滝川、この巻の初登場場面こそ間が抜けているものの、ハイスクール・ギャルにモテモテになる絶好のチャンス。しかし北海道といい、微妙な加減が要求される状況で士魂号の扱いの器用さに関しては、意外と5121小隊でも最高の能力を持ってるんじゃなかろか。退役後は森さんと建築会社でも作るとか。獲物は超硬度大ツルハシ。

 ヒマがあるとロクでもない事しか仕出かさない整備班の中でも、最もタチが悪いのが中村と岩田。小隊の日常Ⅲで地獄を見た筈なのに、懲りもせずケッタイなギミックを画策している様子。しかしイワッチ、向うでもあの奇妙な白衣型作業服で通してるのか。一体、何着持ってるんだろ。

 奇矯なファッション・センスと言えば茜もなかなか。この巻では善行さんについて回り、まっとうな議論を奇怪な理論で混ぜっ返し、相手を浮き足立たせる役割を担う。しかし生徒会長閣下といい、茜にはまっとうなエリートを狂わせる不思議な能力があるようで。器の小さい人は「理解不能→不愉快」と感情が動くのに対し、頭のいい人は「理解不能→興味深い研究対象」となるんだろうか。

 護衛の蓑田サーカス、この巻では珍しく久萬にも台詞がある。もしかしたら中西より多いかも。久萬も滝川同様、ギャルにモテるチャンスなのに、気づいているのかいないのか。新大陸編でもウエイトレスにモテてたし、意外と年上キラーなのか?しかし、そろそろ中西にも美味しい所を用意してあげて下さい。

 さてシアトル側。リーランド中将、今までは単なる曲者だったのが、この巻では意外な面を見せてくる。やはり曲者なんだけど、タダの曲者じゃない。前例もあることだし、今後、思ったより重要な役割を担いそうな雰囲気がある。前巻では鮮やかな舞台を演じたグラント中将、ここでも彼なりの貴族趣味を覗かせる。

 短編「Take me out to the ball game」で堂々の主役を演じたセルジオ君、この巻でも出ずっぱりで動きまわる。まあ、サンディエゴがあの状態じゃパドレスはなさそうだけど。

 熾烈さを増すサンディエゴ前線、不気味な幻獣の動き、そして次第に姿を表す善行の凶悪な陰謀。今まで巻き込まれるばかりだった5121小隊が、ついに他人を巻き込む新展開を見せそうな次巻に期待。

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2013年9月12日 (木)

芝村裕吏「ガンパレード・マーチ アナザー・プリンセス」電撃文庫

「堂々とするがいい、芝村の友よ。我らは間違ったことをすることもある。だが、恥ずかしいことは、しておらぬ。決して」

【どんな本?】

 元は Alpha System が開発した 2000年9月28日発売の SONY Playstation 用ゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」。当事のハードウェアの限界を超える野心的なシステムは開発費を食いつぶし、宣伝費ゼロというコンピュータ・ゲームにあるまじき状況で市場に投入された。

 いささかとっつきにくいゲームでありながら、その斬新なシステムや作りこまれた設定、そして濃い登場人物は多数のマニアを虜にして2001年(第32回)星雲賞メディア部門も受賞、長く愛され中古価格は新品と変わらぬ高値を続け、ついに2010年にはPSP用のアーカイブとして復活した。

 「アナザー・プリンセス」は、「ガンパレード・マーチ」のスピンアウトとして電撃マ王2010年9月から連載を始めたコミックで、原作は芝村裕吏、作画は長田馨。電撃文庫版は、ゲーム版の開発を率いたガンパレの父であり、コミック版アナザー・プリンセスの原作者でもある芝村裕吏によるノベライズ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年9月10日初版発行。文庫本縦一段組みで本文約340頁。8ポイント42字×17行×340頁=約242,760字、400字詰め原稿用紙で約607枚。長編小説としては、ちょい長め。

 正直、ライトノベルとしては文章がこなれていない。ただ、ガンパレとなると、私はどうしてもベテランの榊涼介と比較しちゃうんで、少々厳しい評価基準になってるかもしれない。内要は、世界観が独特なので、読者によるだろう。とりあえず3パターンほど挙げる。

  1. コミック版の読者:まず問題ないと思う。
  2. ゲーム版の経験者または榊版の読者:やはり問題なし。
  3. どれでもない:世界設定や人物設定が込み入ってるんで、ちとキツいかも。

 とまれ、私自身は 2. に属する者なので、他の立場の人の評価は、あまり信用しないで下さい。

【どんな話?】

 1945年、第二次世界大戦は意外な形で終わる。黒い月と、それに続く幻獣の出現。食事も生殖もせず、大兵力でただ人を狩る幻獣に人類は撤退を続け、ユーラシアを明け渡し、南アフリカの一部・アメリカ、そして日本を残すのみとなった。

 1998年、幻獣は九州に上陸を始める。日本の自衛軍は八代会戦でなんとか勝利を収めたが、戦力の8割を失う。1999年、日本政府は二つの法案を可決する。熊本要塞の戦力増強、そして14歳から17歳の少年兵の招集である。少年たちを盾に時間を稼ぎ、その間に自衛軍の戦力建て直しを図る方針だ。

 前線の瓦礫の中、佇む秋草一郎が気になり、小山美千代は声をかけた。付き合いで巻き込まれた戦友の菊池優奈と共に、小山は信じられない言葉を聞く。

「現時点をもって君たちは僕の指揮下に入る」
「秋草一郎、階級は技術万翼長。所属はC41 0101 部隊名、二度寝天国。たった今、君たちも臨時配属された。現況が更新された。排除目標はこちらに向かって移動してくる。振動から種族特定。<ミノタウロス>。数は五、もしくは六」

【感想は?】

 再びお断りしておく。私はゲームと榊ガンパレは知っているが、コミック版アナザー・プリンセスは読んでいない。主な読者とは、視点が違うだろうと思う。

 いわゆる「番外編」かと思ったが、ゲームとも榊ガンパレとも、微妙に設定が違う。5121小隊の編成も違っている。まあ、そういうモンだと思って読んだ。つまりはガンパレ信者なのだ、私は。コミックも近いうちに読みます、はい。

 まあ、そんなわけで、やっぱり5121小隊が登場すると、読んでて一気に盛り上がってしまう。最近の榊ガンパレは5121小隊も成長してきて、とても安定感があり、カドが取れちゃってる。それがこの版だと、人間関係、特にカップル関係がギクシャクしていて、なかなか初々しい。

 ゲーム版のガンパレは面白い仕掛けがあって。

 一周目だと選べるキャラクターは速水厚志のみ。たいてい一周目はボコボコに叩かれると相場が決まってるんだが、コツを掴むと、いくらでも幻獣を狩れるようになる。ゲームの特徴の一つは、戦闘パートの他に、日常パートもあること。ここで、武器・装備を整えたり、他の小隊メンバーを鍛えたり、戦闘を有利に運ぶ準備も出来るほか、他の登場人物との交流も楽しめる。ハーレムだって夢じゃない。

 などと戦場では大活躍して、ハーレムでウハウハしてるリア充を楽しめるけど、それが他の登場人物からどう見えるか、が分かるのも、このゲームの面白いところ。これは二つあって、ひとつは、かつては速水でプレイしていたプレイヤーが、今度は他の人物から速水を見る視点になること。もう一つは…まあ、最後までやってみよう。

 こういう視点の違いの面白さが、この作品にもある。今まではゲーム・榊ガンパレ共に、5121小隊視点での物語だった。これが、他の小隊から5121小隊を見ると、どう見えるか。5121小隊の編成こそ少し違うものの、「やっぱりハタから見たら奇妙に思うよなあ」と、しみじみ感じられる。

 ゲームじゃ当然のごとく5121小隊に溶け込んでいる東原ののみも、外から見ると、やっぱり異常だよなあ。誤魔化し方も、なかなか巧い。こういうパターン、キャサリン・メリデールの「イワンの戦争 赤軍兵士の記録 1939-45」にもあったので、特に珍しい話でもない模様。

 視点の違いは他にも面白い効果をあげていて。士魂号の主な武器である20mmジャイアント・アサルト、これゲーム中だと、イマイチ有り難味がわからない。最初に渡される装備でもあり、どうも軽視してしまう。ところが、この本は歩兵視点の物語のため、20mmという口径がいかに凄まじいものか、実感できたりする。

 そうだよなあ、今の現実の歩兵の主武器である自動小銃は5.56mmとか7.62mmで、対物ライフルでも12.7mm。20mmったら、戦闘機に搭載するクラス。なんと凄まじい火力であることか。ましてや90mmなんつったら。この辺、詳しくはかのよしのり「銃の科学 知られざるファーイア・アームズの秘密」と学研の「歴史群像アーカイブ2 ミリタリー基礎講座 戦術入門WW2」が役立ちます。

 などとガジェットでも、榊ガンパレじゃ冷遇されてるアレやコレがチョコチョコと出てくるのも嬉しい。士魂号複座型のもう一つのアレもそうだけど、やっぱり燃えるのがストライカーD。私はコレが一番好きで、発言力があれば真っ先にスカウトに着せる。いや放置するとスカウトって先走ってすぐ戦死するし。その点、可憐D型は機動力がないから突出しにくく、タコ殴りにならない。また火力・射幅・射程も充分なんで、小型幻獣なら、充分に対処できる。防御力もソレナリにあるし。ミノタウロスやスキュラなど中型は、プレイヤーが美味しくいただこう。

 こういったゲーム・ファン向けのサービスは随所に仕掛けられてて。どっかで聞いたような台詞が、巧くお話に紛れ込んでいる。また、意外な幻獣が活躍するのも、懐かしい感じ。最近、榊ガンパレじゃ、すっかり忘れられてるしなあ。しかし、いくらなんでも、あの潰れトカゲの台詞を言わせるのはヒドいw

 オリジナルの登場人物では、赤澤正行・深澤正俊・末綱安種の変態トライアングルが、主人公の秋草一郎とヒロインの小山美千代、そしてプリンセスの芝村神楽を圧して強烈な存在感を発している。この辺は、頁数の問題かも。全員を丁寧に書くには、一巻じゃ難しいだろうなあ。

 と、全般的には、ちと詰め込みすぎた感がある。ファン向けかな。

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