カテゴリー「書評:軍事/外交」の155件の記事

2017年4月 6日 (木)

デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ トリックで戦った男たち」柏書房 金原端人・杉田七重訳

1939年に勃発した戦争で、あらゆる人間が苦境に立たされることになったが、その中身は人それぞれであった。私の場合それは、まったく思いがけない、まさに風雲急を告げる任務であった――持てるかぎりの想像力と知識を注いで、マジックの力でヒトラーを倒せというのである。
  ――ジャスパー・マスケリン

「第一次世界大戦で、わたしは大切なことを学んだ。自分の命を危険にさらしたからって、それでその後の人生が好転することはない」
  ――ジェフリー・バーカス陸軍少佐

【どんな本?】

 1939年、第二次世界大戦中のイギリス。予備役将校入隊センターに意外な男がやってきた。ジャスパー・マスケリン、38歳。マジックで有名なマスケリン家の10代目で、それまでは舞台に立ち華麗なマジックで観客を幻惑し喝采を浴びていた。戸惑う新兵募集士官を、彼は説き口説く。

「あるはずのない大砲を出現させ、幻の船を海に浮かべて見せます。何もない戦場に突然一軍隊を出現させ、飛んでいる航空機を敵の目から隠すこともできます」

 場違いなエンタテナーを持て余した英国陸軍は、彼をエジプトに送った。乱雑と混沌の街カイロで、ジャスパーは軍のはみだし者を集め、マジック・ギャングを結成する。

 動物の擬態が専門の大学教授フランク・ノックス,陽気でユーモラスなマイケル・ヒル二等兵、腕のいい大工のネイルズことセオドア・グレアム、『パンチ』誌で活躍する漫画家ウィリアム・ロブソン,色彩に詳しい画家のフィリップ・タウンゼント、そして軍の裏も表も知り尽くしたジャック・フラー軍曹。

 おりしも北アフリカは砂漠の狐ことエルヴィン・ロンメルが快進撃を続け、イギリス軍は苦境に立たされていた。華麗で壮大なマジックを操るジャスパーは、知将ロンメルに挑むが…

 ユーモラスな語り口で一風変わった男たちの戦いを描く、ユニークな従軍記。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The War Magician : the man who conjured victory in the desert, by David Fisher, 1983。日本語版は2011年10月15日第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約553頁に加え、訳者あとがき3頁。9.5ポイント44字×20行×553頁=約486,640字、400字詰め原稿用紙で約1,217枚。標準的な文庫本なら厚めの上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に前提知識は要らない。軍事物だが、素人でも充分に楽しめる。第二次世界大戦の欧州じゃドイツ&イタリアとフランス&イギリスが戦って、ロンメルはドイツの有名な軍人、ぐらいを知っていれば充分。

【構成は?】

 ほぼ時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

  •  主な登場人物/北アフリカ戦線 主な戦場
  • 1 入隊志願
  • 2 最初の任務
  • 3 カモフラージュ部隊、結成
  • 4 戦車をトラックに見せかけるわざ
  • 5 アレクサンドリア港を移動せよ
  • 6 ゴミの山から軍隊を作りだせ
  • 7 スエズ運河を消せ
  • 8 エジプト宮殿でのスパイ活動
  • 9 命がけのイリュージョン
  • 10 第24“ボール紙”旅団
  • 11 折りたためる潜水艦
  • 12 戦艦建造プロジェクト
  • 13 失意と絶望の日々
  • 14 砂漠での失敗
  • 15 刻々と変わる戦況のなかで
  • 16 史上最大の偽装工作
  • 17 司令官からのメッセージ
  • 18 ニセの戦車で奇襲をかけろ
  • エピローグ
  •  訳者あとがき

【感想は?】

 愉快、痛快、奇想天外。

 「なんてお馬鹿な書名だ、嘘に決まってる」と思うかもしれない。でも、本当なのだ。マジック・ギャングは本当にスエズ運河を消している…少なくとも、ドイツ空軍からは。

 目次を見ればわかるように、他にも様々なペテンを繰り出し、ドイツ軍を煙に巻いている。アレクサンドリア港を移動させ、ありもしない戦艦を作りだし、トラックを戦車に変え、パラシュートなしで物資を安全に空中投下し、火の上を歩き回り、砂漠に忽然と大軍団を出現させ、艦隊を率いて上陸作戦を始め…

 すべて光と影のマジックで、タネも仕掛けもある。ないのは予算と時間w 特に前半では、実績もないため必要な物資の調達に苦労したり。そこで目を付けたのが…。特に偽装用の砂色のペンキを手に入れるくだりは、エジプトならではの奇天烈さ。

 このエピソードで、ジャスパー率いるマジック・ギャングのチーム・カラーが鮮明に浮き上がってくる。常識にとらわれない自由な発想を、豊かな経験と科学的知識で着々と実現してゆく。

 それを可能にしているのが、フリーダムでユーモア溢れるチームの雰囲気。特にマイケル二等兵は口を開けばジョークばかりで、場を明るくする最大の功労者。そんな彼も、苦手な分野はあって…。いいねえ、若いってのはw

 とかの人間模様も交えつつ、彼らが知恵を絞ってアイデアを出し、工夫を凝らして実現させていくあたりは、設計・開発部門で働く人にはジ~ンと来る所。やっぱり人に創造性を発揮させるには、のびのびした空気が必要なんだよなあ。

 とまれ、そんなマジック・ギャングも軍の組織だけに、時として調整が必要な場面も出てくる。

 そこで活躍するのが、ジャック・フラー軍曹。最初は規則に厳しい鬼軍曹だったジャックも、ファースト・ネームで呼び合うチームの雰囲気に染まりはしないものの馴染んでゆき、かつ経験豊かな軍曹ならではのコネと知恵を駆使して便宜を図るあたり、実に貴重な人材だったり。

 そんなマジック・ギャングに立ちはだかるロンメルも、実は優れたペテン師なのが、ヒネリの効いた所。

 ふたつの大隊を大軍団に見せかけ、トラックを戦車に変え、撤退と見せかけて罠に誘い込み、逆に罠と見せかけて撤退し、戦車殺しの88ミリ砲を水増しし…。そういえば、ノルマンディーでもロンメルは偽の地雷で上陸を邪魔してたっけ(→「ノルマンディ上陸作戦1944」)。まさしく狐、狡猾な人だ。

 などとロンメル相手に知恵を絞りつつ、「やっぱりイギリスだね」と感じさせるのが、クラーク准将の登場場面。諜報組織A部隊、つまりスパイの親玉だ。クラークとジャスパーがツルんで企むのは、それこそ007が使う小道具みたいな奇天烈なもの。

 ばかりか、ジャスパー自身が、本業のマジック・ショーを使って敵のアジトを探る場面もあったり。

 などに加え、舞台となるアラブの社会の意外な面もお楽しみの一つ。

 ジャスパーの最初の任務、ダマスカスで展開する、デルビーシュの長老との魔術合戦に始まり、マジック・ギャングが見つけた「宝の山」、彼らの秘密基地「魔法の谷」での陳情合戦などは、私が知らないアラブ世界の意外な一面がのぞけて楽しかった。

 個性的なメンバーを集めたチームが、自由闊達な発想と得意技を活かした創意工夫で、壮大なペテンを次々と仕掛ける痛快な物語。軍事やスパイに興味があればもちろん、トリックやチーム物が好きな人にも、自信を持ってお勧めできる楽しい本だ。

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2017年3月22日 (水)

大谷正「日清戦争 近代日本初の対外戦争の実像」中公新書

「朕素より不本意なり、閣臣等戦争の已むべからざるを奏するに依り、之を許したるのみ、之を神宮及び先帝陵に奉告するは朕甚だ苦わしむ」
  ――第2章 朝鮮への出兵から日清開戦へ

桂第三師団長だけでなく、第五師団幹部も、師団長野津道貫中将、第九師団長大島義昌少将、そして第十旅団長立見少将の三人とも、揃いも揃って、全員が独断と独走の軍人であった。
  ――第4章 中国領土内への侵攻

つまり大本営に、のちの記者クラブにあたる組織を設置したのである。
  ――第5章 戦争体験と「国民」の形成

日清戦争に日本が勝利した理由のひとつは、日本軍が対外戦争のための動員システムを持っていたのに対して、清軍にはそれが欠けていたことである。
  ――第5章 戦争体験と「国民」の形成

その死亡原因は、戦死・戦傷死が約10%、病死が88%で、日清戦争が病気との闘いであったことが明らかである。
  ――終章 日清戦争とは何だったのか

日清戦争は外交で失敗した戦争であり、陸奥は外相としてその責任を負わなければならない。
  ――終章 日清戦争とは何だったのか

【どんな本?】

 1894年~1895年にかけて、文明開化を進める日本と、旧態依然とした清の間で、朝鮮の支配権をめぐる戦いとされる日清戦争。軍事改革が進んだ日本が、旧式装備の清を破ったとも言われる。

 だが、その実態はどうだったのか。なぜ朝鮮の支配権が問題になったのか。焦点となった朝鮮の内情はどうなのか。両軍の装備や軍制はどうだったのか。両国を巡る欧米列強は、戦争をどう見ていたのか。そして、戦争を国民はどう受け止め、関係国をどう変えていったのか。

 朝鮮半島や遼東半島の戦いに加え、1895年以降の台湾での戦いも含め、また当時の日清両国の内情や対外的立場の変化も視野に収めて日清戦争の全貌を描き、コンパクトな新書で日清戦争の概要を掴める、一般向けの歴史解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年6月25日発行。新書版で縦一段組み、本文約253頁に加え、あとがき3頁。9ポイント41字×16行×253頁=約165,968字、400字詰め原稿用紙で約415枚。文庫本なら少し薄めの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容もあまり難しくない。ただ、朝鮮や中国の地名が多く出てくるので、しっかり読みたい人は地図か Google Map を用意しよう。

【構成は?】

 「終章 日清戦争とは何だったのか」が、巧みに本書を要約しているので、急いで全貌を知りたい人は終章だけ読んでもいい。

  • はじめに
  • 第1章 戦争前夜の東アジア
    • Ⅰ 朝鮮の近代と天津条約体制
      「属国」と「自主の国」/開化政策と壬午軍乱/日清の対応/甲申政変 急進開化派のクーデター失敗/長州派・薩派の対立/天津条約と日清英の協調体制/極東ロシア イメージと実像
    • Ⅱ 日本と清の軍備拡張
      清の軍備近代化 准軍の膨張/北洋海軍の近代化/壬午軍乱以後の日本の軍備近代化/優先された海軍の軍備拡張/陸軍、七個師団体制へ/陸海軍連合大演習/参謀本部の対清戦争構想の形成
  • 第2章 朝鮮への出兵から日清開戦へ
    • Ⅰ 甲午農民戦争と日清両国の出兵
      第二次伊藤博文内閣の成立/伊藤内閣の苦難 条約改正と対外硬派/甲午農民戦争 東学の拡大と蜂起/朝鮮政府の派兵要請/清と日本の出兵
    • Ⅱ 開戦までの日清政府の迷走
      清・日両軍の朝鮮到着/伊藤首相の協調論、陸奥外相の強硬論/第一次絶交書とイギリス・ロシアの干渉/清政府内の主戦論と開戦回避論
    • Ⅲ 日清開戦
      7月19日の開戦決定/豊島沖海戦/朝鮮王宮の武力占領/混成第九師団の南進/成歓の戦い/宣戦詔書をめぐる混乱 戦争はいつ始まったか/明治天皇の日清開戦への思い
  • 第3章 朝鮮半島の占領
    • Ⅰ 平壌の戦い
      戦争指導体制/短期戦から長期戦へ/第五師団本体、朝鮮へ/輜重の困難 「輸送の限界」/第三師団の動員/野津第五師団長の平壌攻撃決意/日清の武器の差/激戦 混成第九師団の正面攻撃/平壌占領と清軍の敗走
    • Ⅱ 黄海開戦と国内情勢
      9月17日の遭遇/勝利 過渡期の軍事技術と制海権確保/明治天皇と広島大本営/大本営御前会議/日清戦争最中の総選挙/第七臨時議会の広島開催
    • Ⅲ 甲午改革と東学農民軍の殲滅
      甲午改革 親日開化派政権の試み/井上馨公使赴任と朝鮮の保護国化/第二次農民戦争 反日・反開化派/東学農民軍へのジェノサイド
  • 第4章 中国領土内への侵攻
    • Ⅰ 第一,第二両軍の大陸侵入
      第一軍の北進と清軍の迎撃体制/鴨緑江渡河作戦/桂師団長・立見旅団長の独走/第二軍の編成 旅順半島攻略へ/無謀な旅順攻略計画
    • Ⅱ 「文明戦争」と旅順虐殺事件
      欧米の目と戦時国際法/旅順要塞攻略作戦/11月21日、薄暮の中の旅順占領/虐殺 食い違う事件像/なぜ日本兵は虐殺行為に出たのか 兵士の従軍日記を読む/欧米各国に対する弁明工作
    • Ⅲ 冬季の戦闘と講和の提起
      第一軍と大本営の対立/山県第一軍司令官の更迭/第一軍の海城攻略作戦/遼河平原の戦闘/講和を絡めた山東作戦・台湾占領作戦の提起/山東作戦による北洋海軍の壊滅
  • 第5章 戦争体験と「国民」の形成
    • Ⅰ メディアと戦争 新聞、新技術、従軍記者
      朝鮮に向かう新聞記者たち/強化される言論統制/国民の戦争支持と情報開示/新技術導入と『朝日新聞』の戦略/『朝日新聞』の取材体制/高級紙『時事新報』の戦争報道/浅井忠と「画報隊」/『国民新聞』と日本画家久保田米僊父子/写真と絵画の差異/川崎三郎『日清戦史』全七巻
    • Ⅱ 地域と戦争
      義勇兵と軍夫/軍夫募集/兵士の動員と歓送/戦場と地域を結んだ地方紙/『扶桑新聞』記者鈴木経勲/盛況だった戦況報告会/凱旋帰国と人々の歓迎/追悼・慰霊 “選別”と東北の事情/福島県庁文書が残す「地域と戦争」/動員と査定 町村長たちの“勤務評価”/日清戦争と沖縄/その後の沖縄
  • 第6章 下関講和条約と台湾侵攻
    • Ⅰ 講和条約調印と三国干渉
      直隷決戦準備/征清大総督府の渡清/李鴻章の講和全権使節就任/交渉開始と李鴻章へのテロ/清の苦悩と条約調印/三国干渉 露独仏の遼東半島還付の要求/遼東半島返還と「臥薪嘗胆」
    • Ⅱ 台湾の抗日闘争、朝鮮の義兵闘争
      台湾総督府と「台湾民主国」/日本軍の増派/南進作戦の遂行への激しい抵抗/「台湾平定宣言」後も終わらない戦闘/閔妃殺害事件/抗日義兵闘争と露館播遷
  • 終章 日清戦争とは何だったのか
    戦争の規模/戦争相手国と戦争の継続期間/だれが、なぜ、開戦を決断したのか/未熟な戦時外交/困難な戦争指導/戦費と日清戦後経営
  • あとがき
  • 参考文献/日清戦争関連年表

【感想は?】

 思い込みが次々と覆され、いっそ気持ちがいい。

 この本は単に軍事だけを扱うのではなく、外交はもちろん内政や国民の反応、そして関係各国の立場の変化までも視野に入れた、総合的な視点で日清戦争を捉えた本だ。新書なので細かい部分は省いているが、それだけに日清戦争の全貌を掴むには適した本だろう。

 ちなみに日本の外交の失敗や軍の暴走も容赦なく書いているので、「日本偉い」が好きな人には向かない。

 話は朝鮮半島から始まる。清の属国か独立国かが曖昧な上に、国内は改革を求める開化派と守旧的な東学派の対立、宮廷内の政権争いに加え、米と豆の輸出が物価高騰を招き庶民の不満が募り…と、物騒かつ複雑な様相。

 全般的に日本の介入は、現地の者が伊藤内閣の意向を無視して強引に独走し、結果として朝鮮の国民感情を逆なでし、更に状況を悪化させていったように書かれている。清との戦いでも前線の師団長が勝手に進軍して戦闘に入ってたり。

 幸か不幸か、師団長の独走は往々にして戦闘の勝利につながり、これが後の関東軍独走へとつながったんじゃないか、とか思ってしまう。もっとも前線指揮官が独走しても結果オーライなら不問って文化は常勝のイスラエル軍も同じなので、当時の日本の未熟さだけが原因じゃないのかも。

 一言で戦争と言っても、敵国の完全支配を目指す全面戦争と、権益や一部地域の支配が目的の局地戦があって、日清戦争は局地戦だと思っていたんだが、一部の軍人は全面戦争も覚悟していたみたいだ。

「作戦大方針」の要点は、黄海・渤海の制海権を掌握し、秋までに陸軍主力を渤海湾北岸に輸送して、首都である北京周辺一帯での直隷決戦を清軍と行うというもので、短期決戦をめざしていた。
  ――第2章 朝鮮への出兵から日清開戦へ

 終戦間際にも直隷平原に陸軍兵力の大半を輸送する計画があって、この野望が泥沼の日中戦争へとつながったんだろうか。同じような悪いクセは他にもあって…

明治期の日本陸軍の最大の弱点は、軍馬の不足と不良であったと言っても過言ではない。
  ――第3章 朝鮮半島の占領

 と、兵站軽視も根が深い。「輜重輸卒は在営期間が短く、日中戦争期までは昇進できず二等兵で終わることが多かった」とかもあるし。なお輜重輸卒は荷を担いで運ぶ人で、馬で運ぶ輜重兵は普通の兵と同じに扱われた模様。

 これを補うのが、軍夫って制度。輸送任務をこなす人たちで、今なら輸送部隊や民間軍事企業が担う役割で、立場的には民間人。だもんで凍傷を負ったら解雇だし、戦死者にも数えられないし、亡くなっても軍は祀らない。書いてないけど、たぶん恩給も出ないんだろう。酷い話だ。対して民間の態度は…

他所からやってきた第二師団の将校も追悼の対象に含まれたが、主体は戦没した東北の人々であり、軍人と軍夫の差はなかった。
  ――第5章 戦争体験と「国民」の形成

 と、「おらが村の犠牲者」として、区別しなかった様子。こういう兵站軽視は平壌の戦い(→Wikipedia)などで危機的な状況に陥るんだが、清側が勝手にコケる幸運に何度も助けられる。ただ、平壌の戦いの部分では、清側の事情を全く書いていないので、読んでて不思議さにポカンとなってしまった。

 などの軍事的な事柄に加え、「第5章 戦争体験と「国民」の形成 」があるのも、本書の大きな特徴。

 特に「Ⅰ メディアと戦争 新聞、新技術、従軍記者」は、メディアが戦争をどう取材し伝え、その反響はどうだったかをまとめるだけでなく、当時のメディア事情も書き込んで、あの頃はメディアも革命期だったのだな、としみじみ感じさせる。

 基本は文字だが、画像も活用してて、洋画家・日本画家などの絵に加え、写真もガラス乾板とフィルムが混在した状態。これは新聞の印刷でも問題になって…

 大日本帝国の陸軍は出身地ごとに部隊を編成しているためか、出身地方の地方紙は「故郷の新聞は師団長から一兵卒・軍夫までが熟読する故郷の便りであった」なんて風景は、少し前に読んだ「戦地の図書館」を思い浮かべてしまう。

 旅順虐殺事件(→Wikipedia)などの苦い話も盛り込み、兵器の優劣や日本側の外交の不備など教科書で習ったのとは大きく違う話も多く、私にとっては次々と驚きが続く本だった。やっぱり歴史も知識を更新しないといけないんだなあ。

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2017年2月24日 (金)

モリー・グプティル・マニング「戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊」東京創元社 松尾恭子訳

「戦いで鍛えられた海兵隊員は、物語に涙するなんて女々しいことはしないものです……でみ、僕は泣いたことを恥じてはいません」
  ――はじめに

「携帯用戦闘糧食の包みに貼られたラベルに内容物が記されていると、前線の兵士はそれを読む。とにかく何かを読みたいのだ」
  ――第四章 思想戦における新たな武器

同じ日に遅れて(ノルマンディのオマハ・ビーチに)上陸した隊員の多くが、印象深い光景を目にしている。重傷を負った隊員たちが、崖のすそに体をもたせかけて、本を読んでいたのだ。
  ――第六章 根性、意気、大きな勇気

「ボストンで禁書扱いになっている本に、誰もが興味津々です――興味をそそられない人などいますか?」
  ――第七章 砂漠に降る雨

【どんな本?】

 1933年5月10日、ドイツ。霧雨のベルリンでは、国家社会主義に相応しくないと目された多くの本が焼かれた。やがてドイツは近隣諸国を侵略し、その支配下に収める。

 目前に迫った戦争にそなえ多くの将兵を集めた合衆国陸海軍だが、将兵の待遇はお粗末なものだった。下がる兵の士気を支えるには娯楽が必要だと考える軍に、ナチスの焚書に憤ったアメリカ図書館協会(ALA)が手を差し伸べる。将兵に本を送ろう。

 かくして始まった戦勝図書運動は、紆余曲折を経て兵隊文庫へと結実し、大量の本が前線で戦う将兵や、傷をいやす傷病兵へと送られ、彼らの心の糧となった。

 総力戦という特異な時期に生まれた、特異な書籍・兵隊文庫。それはどんな者たちが、どんな想いで生み出し、どんな経緯をたどって送られたのか。受け取った将兵たちは、それをどう受け取り、彼らの戦いや人生をどう変えたのか。

 第二次世界大戦の裏で行われた、もうひとつのプロジェクトを綴る、歴史ドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は When Books Went to War : The Stories That Helped Us Win World War Ⅱ, by Molly Guptill Manning, 2014。日本語版は2016年5月31日初版。単行本ハードカバー縦一段組みで本部約237頁に加え、口絵8頁+訳者あとがき4頁。9.5ポイント43字×18行×237頁=約183,438字、400字詰め原稿用紙で約459枚。文庫本なら標準的な厚さの一冊分。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。ハードカバーとペーパーバックの区別がつけば充分。書籍の編集・印刷・製本に詳しければ更に楽しめるが、知らなくても大きな問題はない。

【構成は?】

 原則として時系列順に話が進むので、素直に頭から読もう。

  • はじめに
  • 第一章 蘇る不死鳥
  • 第二章 85ドルの服はあれど、パジャマはなし
  • 第三章 雪崩れ込む書籍
  • 第四章 思想戦における新たな武器
  • 第五章 一冊掴め、ジョー。そして前へ進め
  • 第六章 根性、意気、大きな勇気
  • 第七章 砂漠に降る雨
  • 第八章 検閲とフランクリン・デラノ・ルーズヴェルトの四期目
  • 第九章 ドイツの降伏と神に見捨てられた島々
  • 第十章 平和の訪れ
  • 第十一章 平均点を上げる忌々しい奴ら
  • おわりに
  • 謝辞/訳者あとがき/原注
  • 付録A 禁書の著者/付録B 兵隊文庫リスト
  • 人名索引

 32頁に及ぶ「付録B 兵隊文庫リスト」が、本好きにはとっても嬉しくもあり、悔しくもあり。だって美味しそうな本の多くが今は手に入りにくいんだもん。

【感想は?】

 本好きは通勤電車の中で読んじゃいけない。泣いて笑ってガッツポーズ決めたくなるので、変なオジサン扱いされてしまう。存分に泣ける環境を整えて読もう。

 冒頭から、何かを創る人には、大変な試練が待っている。前線で戦いマラリアで病院送りになった20歳の海兵隊員が、著者に送ったファンレターだ。

 戦友を失い、自らの心も凍った彼に手渡された一冊の本が、彼をどう変えたのか。物語の、そして創造することの力を、恐ろしいまでの迫力で綴っている。こんなファンレターを貰ったら、クリエイターはどんな気持ちになるんだろう。己の持つ力に、恐れすら感じるかもしれない。

 ナチスは宣伝に力を入れ、またその手口も狡猾だった。多くの国民が手に入れられるよう、安いラジオも開発している。そして焚書だ。本読みにとっては、身の毛もよだつおぞましい所業である。

 これに怒りを募らせた人は多い。SF者には嬉しいことに、H・G・ウェルズもあてつけで「燃やされた本の図書館」なんてのを作ってる。わはは。そしてアメリカ図書館協会(ALA)もまた。

 窮屈な軍隊生活には、多くのものが欠けている。そして、新兵は歯車の一つに過ぎない。急に大量の将兵を集めたため、受け入れ態勢も整わず、彼らの待遇はお粗末極まりなかった。そこで本だ。軍にとっては、安いし手軽な娯楽を提供できる。

 だけじゃない。兵にとって、何より辛いのは、プライバシーがない事だ。なんたって、飯も風呂も寝る時も、四六時中、他人と一緒なんだから。でも、本を読んでいる間は、一人になれる。物理的には他人と一緒でも、気持ちは本の中に入り込める。

 この辺を読んでて気が付いた。本を読んでいる時ってのは、一人になれる時なのだ。本好きって生き物は、一人の時間を強く求める生き物らしい。

 なんて最初の方では、「本を読む」って行いを落ち着いて考え直す余裕もあるが、話が進むに従って、本が持つとんでもない力を見せつけられ、読み手は圧倒されるばかりとなる。

 なんたって、読んでいるのは前線で戦う将兵だ。いつ命を失うかもしれない状況で、本なんか読む気になれるのか? 普通はそう考えるだろう。だけじゃない。戦う将兵は、常に重たい荷物を担いでる。例えばノルマンディ上陸作戦だと、各兵は約40kgもの荷物を持っていた(→アントニー・ビーヴァー「ノルマンディ上陸作戦1944」)。これに加えて本なんか持ち歩く気になれるのか?

 でも持ち歩いたのだ。これを可能にしたのが、兵隊文庫。安い紙で小さいボディ、ポケットにちょうど収まるサイズ。かつては本なんか読まなかった若者が、むさぼるように本を読んだ。だって、タコツボの中で身をかがめている間は、それ以外する事がないんだから。

 それまでハードカバー中心だった米国の出版業界が、ペーパーバック・サイズの兵隊文庫を作り始める過程は、市民運動の効果と限界を感じさせるが、同時にアメリカの産業力もしみじみと感じてしまう。また、この兵隊文庫がキッカケで、アメリカの出版業界が変わってゆくのも面白い。

 加えて、作った兵隊文庫を前線に届ける米軍の兵站能力にも呆れてしまう。「サイパン島には、海兵隊の先発部隊が上陸してから四日後、書籍を満載した船が到着した」。帝国陸海軍はガダルカナルの友軍に食料すら届けられなかったのに。

 そんな将兵は、どんな本を好んだのか。現代のアフガニスタンじゃ「孤児たちの軍隊」が人気を博したそうだが、当時の一番人気は意外な作品だったり。でも、巻末の「兵隊文庫リスト」を見ると、マーク・トゥエインの「アーサー王宮廷のヤンキー」やメアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」とか、SFもチラホラ。

 が、最も人気を博したのは、普通の人々の普通の暮らしを描いた、現代小説らしい。殺し殺される異常な状況に置かれた将兵たちは語る。

「私たちの軍の兵士は、本を読むという行為をしているのだから、(まだ)人間なのだ、と思うことができました」

 こんな風に、前線で本を読んだ将兵の言葉が随所に散りばめられ、それが本好きの心を激しく揺さぶり続ける。本好きの心臓に繰り返し重量級のパンチを撃ち込み、涙腺を決壊させる、感動のドキュメンタリーだ。

 でも、今となってはベティ・スミスの「ブルックリン横丁」が読めないのは哀しい。映画なら手に入るんだけどねえ。

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2017年2月22日 (水)

クリス・カイル,ジム・デフェリス,スコット・マキューエン「アメリカン・スナイパー」ハヤカワ文庫NF 田口俊樹訳

戦争が始まったときの交戦規定はごく単純だった。16~65歳ぐらいの男を見たら撃て。男は全員殺せ。
  ――4 生きられるのはあと5分

銃は必ず仕事を果たす。私も確実に自分の仕事を果たさなければならない。
  ――5 スナイパー

やつらは狂信的だったが、それは宗教のせいばかりではなかった。麻薬を使っているものが大勢いた。
  ――6 死の分配

…命を危険にさらしたのは友人のためであり、友人や同じ国の仲間を守るためだ。戦争に行ったのも祖国のためであり、イラクのためではない。祖国が私を現地に送り込んだのは、あのくそったれどもが私たちの国にやってこないようにするためだ。
 イラク人のために戦ったことなど一度もない。あいつらのことなど、くそくらえだ。
  ――7 窮地

請われれば、意見を述べた。しかし、たいていの場合、彼ら(軍の上層部)は私の意見を本気で求めているわけではなかった。ただ私に、すでに彼らが出した結論やすでに彼らの頭にある考えに。太鼓判を押させたいだけなのだ。
  ――8 家族との衝突

ホームレスはほとんどが退役軍人だ。
  ――14 帰宅と退役

【どんな本?】

 合衆国海軍のエリートを集めた特殊部隊 SEAL に所属し、主にイラクで狙撃手として活躍、公式記録では160名の殺害が認められ、敵からは「ラマディの悪魔」と恐れられたクリス・カイル(→Wikipedia)が、イラクにおける戦いの現実や SEAL の内情に加え、自らの半生と妻タヤとの家庭生活を綴った自伝。

 後にクリント・イーストウッド監督の映画「アメリカン・スナイパー」となり、世界中の話題となった。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は American Sniper : The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. History, by Chris Kyle with Jim DeFelice and Scott McEwen, 2012, 2014。日本語版は2012年4月に原書房より「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」として単行本が出版。私が読んだハヤカワ文庫NF版は、2014年のペーパーバック版を底本とし、2015年2月25日発行。訳も単行本とは異なっている様子。

 文庫本で縦一段組み、本文約476頁に加え、モノクロ写真8頁と編集部による解説「その後のアメリカン・スナイパー」3頁。9ポイント41字×18行×476頁=約351,288字、400字詰め原稿用紙で約879頁。文庫本としては分厚い部類。

 文章は軍事物のわりに拍子抜けするほどこなれている。内容も難しくないし、あまり軍事関係の前提知識もいらない。意外と銃器や兵器に関する話が少ないので、兵器に詳しくなくても大丈夫。イランとイラク、スンニ派とシーア派、陸軍と海軍と海兵隊、小銃と迫撃砲、士官と下士官と兵の区別がつけば充分についていける。

【構成は?】

 時系列順に話が進むが、各章は比較的に独立しているので、気になった所をつまみ食いしてもいいだろう。

  • 著者まえがき
  • プロローグ 照準器に捉えた悪魔
  • 1 荒馬乗りと気晴らし
  • 2 震え
  • 3 拿捕
  • 4 生きられるのはあと5分
  • 5 スナイパー
  • 6 死の分配
  • 7 窮地
  • 8 家族との衝突
  • 9 パニッシャーズ
  • 10 ラマディの悪魔
  • 11 負傷者
  • 12 試練
  • 13 いつかは死ぬ
  • 14 帰宅と退役
  • 謝辞/解説

【感想は?】

 これは傑作。唯一の欠点は、重要な著者が抜けていること。

 それは、タヤ・カイル。クリスの奥さんだ。クリスが戦場に居る時に、彼の帰りを待ち子供を育てる妻の想いを綴った文章が所々に入り、これが強烈なスパイスになると共に、クリスがこの本を書いた動機がひしひしと伝わってくる。

 多くの場面で、タヤは不機嫌だ。赤ん坊を抱え不慣れな子育てに四苦八苦な上に、行方どころか生死も知れないクリスが心配でしょうがない。たまにクリスが帰ってくれば、そりゃ彼への愛しさもあるが、同時に待つ間の不安な思いをクリスにぶつけてしまう。ところがクリスときたら…

 語り手のクリスは、典型的なテキサスのマッチョ男。戦場にいるのが楽しくてしょうがない。というと殺伐とした奴のようだし、実際にしょっちゅう喧嘩で御用になってる暴れ馬だが、ただの喧嘩屋じゃない。

 こと仕事に関しては、優れたエキスパートで、プロフェッショナルだ。常に備えを怠らず、与えられた目的のためには最善を尽くし、現場の状況に応じて柔軟に頭を切り替える。自分の能力を活かしてチームに貢献する事に喜びを感じる点では、共感するエンジニアも多いだろう。マッチョ志向はともかく。

 などと、心の内を赤裸々に描く部分が多いのが、本書の特徴の一つ。

 加えて、イラクの戦場のリアルがひしひしと伝わってくるのも、本書の欠かせない魅力。

 一言で武装勢力といっても、その中身は様々だ。いきなりチェチェン人の傭兵が出てきたのには驚いたが、他にもフセイン時代のバース党や民兵の残党、アルカイダ系、イラクの愛国者、チュニジアの傭兵、そして一発当てたいだけのチンピラ。きっとシリアにもカフカスからの「出稼ぎ」がいるんだろうなあ。

 加えてイランの共和国軍や革命防衛隊と、その支援を受けた連中もいる。改めて考えればドサクサに紛れてイランがチョッカイ出してくるのは当然なんだが、阿呆な私はこれを読むまで全く気が付かなかった。

 そんな彼らの手口も狡猾で、アジトには隣家への通路が作ってある。米軍内にスパイを潜り込ませ、ネタを掴む。中でもおぞましいのは、子供の使い方。

 敵の一人がRPGを担いでやって来る。カイルが敵を撃つ。敵が落としたRPGを拾いに、別の敵が出てくる。再びカイルが撃つ。当初はこれを繰り返し、カイルは多くの戦果をあげるのだが、敵だって教訓を学び…

 なんと、RPGを拾う役を、子供にやらせるのだ。

 可愛い所では、米軍にガセネタを掴ませる民間人もいる。聞き込みをする米兵に、日頃から対立している者の悪口を吹き込むのである。「奴はテロリストの仲間だ」とか。

 かと思えば、米軍に協力する者もいる。通訳を務めるヨルダン人も、きっと出稼ぎだろうなあ。アメリカが再建を手伝っているイラク軍に関しては、「使えない者ばかり」と手厳しい。「安定した給料を得るために入隊」したのであって、忠誠心は微塵もない、と。それを取り繕うのも大変で…

 ってなイラクの悪口ばかりでなく、米軍内の醜聞も知ってか知らずか、かなり漏らしてる。SEAL の乱行はもちろん、新人いじめも堂々と書いてある。悲しいのは、著者のイラク人への共感が微塵もないこと。

 著者が基地内でラジコンのハマー(SUVの一種)を走らせて遊ぶ場面があるんだが、基地で働くイラク人は怯えて悲鳴をあげ逃げ出すのを見て、著者らは大笑いする。そういう行いが彼らの誇りを傷つけ、アメリカを憎ませるって事に全く気付いてない。

 こういったあたりが、良くも悪くも赤裸々で、本書の欠かせない魅力となっている。ファルージャでの戦いでも、民家にズカズカと踏み込みはした金を握らせて追い出し、残ったベビーベッドをガラクタのように扱っている。イラク人から見れば山賊と何も変わらない。戦場になるってのは、そういう事なんだなあ。

 当然ながら、狙撃のコツや使った銃、陸軍や海兵隊やポーランド軍との共同作戦の実態、家宅捜索のコツ、ミサイル密輸の方法など、軍事関係の描写は盛りだくさんで、迫力も文句なし。

 この本だけでイラク戦争を判断するのは危険だが、前線の将兵が見たイラン戦争の報告としては、情報も面白さも読みやすさも一級品だ。人が死にまくる話なので繊細な人には向かないが、過酷な戦場の現実を知りたい人には、格好のお薦め。

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2017年1月29日 (日)

吉見直人・NHK取材班「終戦史 なぜ決断できなかったのか」NHK出版

日本の終戦工作は失敗だったし、原爆投下とソ連参戦といういわば「外圧」によって慌てて戦争終結に至るのではなく、それよりも早く、いわば「自律的」に戦争を終わらせるタイミングが存在したし、それは可能だった。
 それが我々のたどり着いた答えである。
  ――プロローグ 「終戦」というフィクション

もし方向転換ができたとしても、その決定が誤りであったとなれば、方向転換をした者に全ての責任が押し付けられる。一方、方向転換をしないということは、皆の合意形成を尊重するということであり、仮にそれで失敗をしたとしても個人に責任を押し付けられることにはならない。
  ――第一章 「ソ連参戦」を日本は知っていた

結局のところ、六、七月の実相として、敵のわずか1/30程度の戦力しか本土にはなかった、というのが井本(忠夫、梅津参謀総長の秘書官)の総括である。
  ――第二章 日本陸軍 終焉の実態

すなわち、当時の陸軍が叫んだ「本土決戦」とは、おそらくただの作文であった。
  ――第二章 日本陸軍 終焉の実態

木戸幸一「今の日本の状態からすればもうかまわない。ロシアと手を握るがよい。英米に降参してたまるものかと云う機運があるのではないか。結局、皇軍はロシアの共産主義と手をにぎることになるのではないか」
  ――第三章 東郷茂徳の「ロードマップ」

多くの関係者が戦後主張した内容のうち、かなりの部分が事実ではない。これまで述べてきたように、当時おそらく政府と軍の責任ある立場にあった多くの者が、にわかには信じがたいが、傍観者であった。「自分ではない誰か」が言い出してくれるのをただ待っていた。
  ――第四章 なぜ決断できなかったのか

【どんな本?】

 日本では1945年8月15日が終戦の日となっている(→Wikipedia)。沖縄戦・本土空襲・原爆投下・ソ連参戦など、戦争末期の三カ月だけでも60万人以上の日本人が亡くなった。敗色は明らかで挽回の望みはないにも関わらず、なぜもっと早く降伏できなかったのか。

 残念ながら国内の重要文書は終戦のドサクサで焼却され、多くは謎に包まれている。しかし幸か不幸か、当時の日本の暗号はイギリスに解読されており、傍受された駐在外交官や陸海軍武官との通信が、イギリス国立公文書館で公開されている。

 これらに加え、生存者の証言や、残された手記・日本国内の公開資料などを元に、戦争末期である1945年6月~8月に焦点を当て、陸軍参謀総長の梅津美治郎と外務大臣の東郷茂徳を中心に、当時の日本の意思決定プロセスを検証する、衝撃のドキュメンタリー。

 2012年8月15日放送のNHKスペシャル番組「終戦 なぜ早く決められなかったのか」の書籍版。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2013年7月25日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約334頁に加え、NHKスペシャル「終戦」チーフプロデューサー内藤誠吾の「あとがきにかえて」4頁。9.5ポイント46字×20行×334頁=約307,280字、400字詰め原稿用紙で約769枚。文庫本なら厚めの一冊分。

 文章はこなれている。内容も実はあまり難しくないのだが、ちと敷居が高い。というのも、背景である1945年6月~8月の戦争の経過が、ほとんど語られていないので、知らない人には情勢がよくわからないのだ。今なら大体の所はネットで調べられるけど、できれば年表をつけて欲しかった。

【構成は?】

 プロローグではテーマを示し、第一章では傍受電文から内外の事情、第二章は陸軍・第三章は外務省の動きを描き、第四章で結論を示す構成になっている。

  • プロローグ 「終戦」というフィクション
    明治維新・太平洋戦争・現在/映画「日本のいちばん長い日」と、刷り込まれた陸軍像/「クーデター騒ぎ」の実態/「わたくし自身はいかようになろうとも」/戦後利用された「クーデターの恐怖」/終戦史研究の“地殻変動”/終戦史の「三つの間違い/戦後の肉声証言とその信憑性」
  • 第一章 「ソ連参戦」を日本は知っていた
    日本はヤルタ密約を知らなかった?/在外日本武官の諜報ネットワーク/ヤルタ密約を伝える海軍武官電/ソ連参戦を警告するリスボン陸軍武官電/リスボン陸軍武官・松山直樹/陸海軍武官電から読みとれること/ヤルタ密約電は握りつぶされたのか?/情報将校・小野寺陸軍武官の評価/小野寺への奇妙な指令電/スウェーデン王室との和平仲介会談/当時の参謀本部の対ソ判断/小野寺が送ったヤルタ密約電の本当の意味/ホプキンス・スターリン会談でのスターリン発言/参謀本部の判断「ソ連は熟柿的好機を狙っている」/小野寺電は活かされていた?/ヤルタ会談直後の小野寺と参謀本部の往復電/小野寺はヤルタ密約情報をどれだけ確信していたか/「ソ連は直ちに参戦しない」/小野寺電を握りつぶす参謀はいなかった/参謀本部の情報管理術/楽観情報は小野寺からもたらされた?/神格化された小野寺武官/スルーされたヤルタ情報と「ベストシナリオ」/軍を見下していた外務省/「小さい規模」のセクショナリズム/リスボン電は活かされたのか?/遮断された組織、見過ごされた情報/日本型組織の「慣性の法則」/岡本公使の決定的な仕事/神田襄太郎の悲痛な意見電
  • 第二章 日本陸軍 終焉の実態
    陸軍は本気で「一億玉砕」を考えていたのか/梅津美治郎という地味な軍人/梅津美治郎と東郷茂徳/鈴木貫太郎内閣発足・対ソ工作の開始/梅津参謀総長の「終戦工作」/海軍の早期和平工作/梅津を読めなかった和平派/「恬淡軽率」な米内光政の挫折/六月八日の「強硬」決定/「戦争完遂」と「戦争終結」/隠された「第三案」/中間派・梅津の「衝撃告白」/昭和天皇が気づいたこと/継戦不能・陸軍の理想と現実/「水際決戦構想」にみる陸軍上層部の本音/「カカシ」だった関東軍/壊滅状態だった本土防空体制/「陸軍という権威」は既に地に堕ちていた/その時、陸軍はパニックに陥っていた/機能不全に陥っていた軍組織/現実逃避としての「徹底抗戦」/運命の六月二二日/梅津の「ギブアップ宣言」/見過ごされた転換点、埋まらぬ齟齬/「木戸試案」のルーツ/ありえた「六月終戦」/「陸軍・早期講和派」の筆頭格・松谷誠/「陸軍・中間派」梅津の懐刀・種村佐孝
  • 第三章 東郷茂徳の「ロードマップ」
    広田・マリク会談/「スローモー」東郷の謎/統帥部の「東郷詣で」/対ソ工作の何が「手遅れ」だったのか/有末証言の信憑性/対ソ工作は本当に「東郷のゴリ押し」だったのか/「日ソ提携論」という底流/スターリンの確信/対ソ交渉の実現性/「外交上の余裕」/天皇の意向、目覚めた首相/いつも通りの堂々巡り/実現しなかった特使派遣/「空白」の七月/対米英直接交渉という目論見/スタート地点としての「ポツダム宣言」/ジェスチャーとしての対ソ交渉/「対米直接交渉はソ連参戦を誘発する」との意見電/情勢変化を警告する海外電/「スルー」された対米直接対話のチャンネル/「残存戦力」という前提条件/「一撃」をめぐる東郷外相と阿南陸相/「九月終戦」構想/統帥と国務の奇妙な逆転/外交電の絶望的な「甘さ」/東郷の「一撃和平論」/八月九日・180度の方針転換/一撃要請は「ブラフ」ではなかった/八月九日の東郷発言を支えたもの/軍の現状を知らなかった対ソ交渉の関係者たち/東郷は関東軍の現状も知らなかった?/なおも「一撃」に固執した阿南の未練/誤報に踊らされた末期日本軍/梅津が固執した「東郷外し」/結局、何が問題だったのか
  • 第四章 なぜ決断できなかったのか
    鈴木貫太郎首相は何をしたか/「よろしく合戦」/開戦時との共通点/「腹の中はともかく」の問題点/官僚機構の問題/「中間派」と戦争終結/「天祐」発言の無責任さ/「終戦」は誰を納得させるものだったのか/革新官僚の戦後構想/「日本国家再建方策」とは/終戦構想にみる松谷と毛里の相違点/理想のために国民を騙した官僚たち/高木惣吉が革新官僚を警戒した理由/昭和天皇の「決断」の真意と謎/戦後の「功労者レース」/「違和感」の正体/甘い感傷よりも勇敢な反省
  • 資料編/あとがきにかえて/凡例・用語説明等/註

【感想は?】

 正直、かなり細かい話では、ある。が、同時にショッキングな事柄も多く出てくる。

 最初から、強烈なブローをかまされた。それも三連発だ。まずは、終戦に関する私の思い込みを三つ覆してくれる。

  1. 通説:日本はヤルタ密約によるソ連の対日参戦を知らなかった。
    事実:一部の者は情報を掴んでいたが、適切な人に届いていなかった。
  2. 通説:陸軍は一億玉砕に凝り固まり、下手に降伏を言い出すとクーデターが起きかねなかった。
    事実:当時の陸軍の大半は様子見で、本土決戦すらタテマエ論だった。
  3. 通説:日本はソ連の仲介に望みをかけていた。
    事実:むしろ日本の残存戦力を勘違いしていた。

 こういった通説の多くが、半藤一利「日本のいちばん長い日」およびその映画版で流布した、としているのも、ちょっとした驚き。

 ブログをやっていると、ごく稀に一時間ほど極端にアクセスがハネ上がる事がある。記事で扱っているネタをテレビが取り上げた時だ。本好きとしては、映像の影響の大きさを思い知る切ない瞬間だ。私は「日本のいちばん長い日」を見ていないのに、間接的に通説で思い込みを刷り込まれていたわけ。

 本書が主に扱っているのは、陸軍の参謀総長・梅津美治郎(→Wikipedia)と、外務大臣の東郷茂徳(→Wikipedia)。奇妙なことに、首相である鈴木貫太郎(→Wikipedia)の影はとても薄い。自ら先頭に立つタイプではなく、周囲の意見をまとめ上げるタイプだったらしい。

 と書くと梅津美治郎と東郷茂徳が勝手に走ったようになっちゃうが、それも違うようで、両者とも多くの腹案を抱えながら周りの様子を見て、通りそうな案を出す、そんな人みたいだ。

 第一章では、イギリスに傍受・解読された陸海軍および外交官の電文がズラズラと出てくる。もうほとんど筒抜けで、ちと情けなくなるが、同時に大日本帝国が築き上げたスパイ網も見えてきて、野次馬根性を刺激される。ヤルタ会談の中身も多少は掴んでて、結構やるじゃん。でも筒抜けだけどw

 全般として見えてくる、当時の中枢部、特に外相の東郷茂徳の考え方がある。「一発かまして英米がヨロめいた所で和平を切りだそう、それならちったあ向こうも譲るだろう」。

 アホかい。

 なんの事はない、これ開戦時の発想と同じなのだ。開戦時も本気で総力戦に勝てるとは思ってなかった。テキトーに暴れて、こっちが有利な戦況になった所で停戦を切りだそうぜ、である。ところがミッドウェイ以降は負けが続き、ズルズルと後退が続く…将兵や軍属・商船員の屍を後に残しながら。

 ところが、1945年6月の時点では、既に一発カマす余力は軍になかった。が、それを外相に伝えていなかった。ばかりか、軍すら現場の状況を掴んでいなかったフシがある。「軍中央の作戦立案当事者においてすら、実際に現地を見ることでしか実情を正しく把握できない状況にあったことは間違いない」。

 ソ連の出方も、6月時点で「三カ月以内にソ連は対日戦の準備を終える、以降はいつ攻めてきてもおかしくない」ぐらいは掴んでいた様子。だったら戦う前にゴメンしよう、みたいな発想もあったようだ。ポーランドがどうなったか、知らなかったんだろうか。

 このあたりも掘り下げると怖い物が出てきそうだが、残念ながらソ連崩壊による情報公開でも、対日関係の資料はガードが固くて、なかなか出てこない様子。ソ連側の立場で考えると、巧く立ち回れば、労なくして日本を属国にして満州と朝鮮半島も手に入る、格好の機会を逃したわけで、ソ連外交史上の最大のポカでもあり、隠しておきたいんだろう。

仮にそうなっていたら、朝鮮戦争がないかわりに沖縄戦争になるのかな、でもソ連は大規模な強襲揚陸作戦の経験がないし…とか妄想が止まらないから、軍ヲタは罪深い生き物だよなあ。

 などを通してたどり着く結論は、ハッキリ言って愉快なシロモノじゃないし、そこに向かって検証を重ねるプロセスも、相当に地味な作業の積み重ねだ。爽快な気分が欲しいなら、読まない方がいい。だが、この国の将来だけでなく、組織の意思決定プロセスに興味があるなら、充分に読む価値がある。

 賢い人が集まっている筈の会議で、なぜ愚か極まりない結論が出てくるのか。その格好のケース・スタディを、この本は描いているのだから。

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2016年12月11日 (日)

リチャード・ウィッテル「無人暗殺機 ドローンの誕生」文藝春秋 赤根洋子訳

 これは、大陸間遠隔操作によって操縦され、地球の反対側にいる人間を殺すために使用された、世界初の武装無人機(無人暗殺機)の物語である。
  ――プロローグ 無人暗殺機の創世記

「それは玩具のように見えますが、いずれ画期的大発明と呼ばれるようになるでしょう」
  ――第四章 ボスニア紛争で脚光 消えかけた「プレデター」の再生

『何てこった、そんなことができるなら、他にどんなことができるか考えてみよう』
  ――第八章 アフガン上空を飛べるか ヘルファイアの雨が降る

プレデターを操作するときの感覚は、戦闘機の操縦よりもむしろ、待ち伏せしているスナイパーのそれに近く、そのことが、殺すという行為をより生々しく彼らに意識させた。
  ――第十二章 世界初の大陸間・無人殺人機の成功 悪党どもを殺せ

【どんな本?】

 プレデター。RQ-1 プレデター(→Wikipedia)またはMQ-9 リーパー(→Wikipedia)。合衆国空軍が採用した無人航空機。地球の裏側から操縦し、静かに悠々と空を飛び、人知れず標的に近づき、ヘルファイア・ミサイルを撃ち込む、恐るべき暗殺ロボット。

 合衆国におけるRMI(→Wikipedia)を象徴する兵器であり、テロとの戦いでも優れた実績を示し、21世紀の戦場を大きく変えると予想させる画期的なシステム。だが、その誕生と黎明期は意外なものだった。

 その誕生からデビューまでの下積み時代、ボスニアでのブレイクからアフガニスタンにおける大活躍まで、プレデターの運命を追い、兵器開発・採用・運用の内幕を明かし、またロボット兵器が軍事に与える影響を描くと共に、一つの先端技術が成功を収めるまでの紆余曲折を語る、エンジニアリングの実録物語。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は PREDATOR : The Secret Origins of the Drone Revolution, by Richard Whittle, 2014。日本語版は2015年2月25日第一刷。単行本ハードカバー縦一段組で本文約386頁に加え、訳者あとがき4頁+佐藤優の解説「日本よ、中国空母も無力化する無人機革命に着目せよ」6頁。9ポイント45字×21行×386頁=約364,770字、400字詰め原稿用紙で約912枚。文庫本なら上下巻でもいい分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容もわかりやすく、特に前提知識は要らないが、細かい不満が幾つか。

 まず、写真。245頁から8頁ほど写真頁があるが、できれば先頭に置いてほしかった。何より肝心のプレデターの姿を拝みたいのだ。それと、登場人物がやたらと多いので、一覧か索引が欲しい。最後に、単位がヤード・ポンド系なのは不親切。

【構成は?】

 プレデターの誕生から現在まで時系列で進むので、素直に頭から読もう。

  • プロローグ 無人暗殺機の創世記
  • 第一章 天才エンジニアが夢みた無人機 模型好きの少年の飛翔
  • 第二章 無人機に革命をもたらした男 ブルー兄弟はGPSに目覚めた
  • 第三章 麦わら帽子は必ず冬に買え 投資の黄金律で揺れた武器市場
  • 第四章 ボスニア紛争で脚光 消えかけた「プレデター」の再生
  • 第五章 陸・海・空軍が三つ巴で争奪 進化する無人機に疑念なし
  • 第六章 殺傷兵器としての産声 ワイルド・プレデターの誕生
  • 第七章 リモコン式殺人マシン 「見る」から「撃つ」への転換
  • 第八章 アフガン上空を飛べるか ヘルファイアの雨が降る
  • 第九章 点滅しつづける赤ランプ ドイツからは操縦できない
  • 第十章 ならば地球の裏側から撃て CIAは準備万端
  • 第十一章 殺せる位置にて待機せよ 9.11テロで一気に加速
  • 第十二章 世界初の大陸間・無人殺人機の成功 悪党どもを殺せ
  • 第十三章 醜いアヒルの子 空の勇者となる 戦争は発明の母
  • エピローグ 世界を変えた無人暗殺機
  • 謝辞/著者注記/ソースノート/参考文献/訳者あとがき
  • 解説 日本よ、中国空母も無力化する無人機革命に着目せよ 佐藤優

【感想は?】

 30頁にも及ぶソースノートがあり、本格的なドキュメンタリーだ。が、それ以上に、読み物として抜群に面白い。特に開発系の技術職の人には、たまらなく楽しい。

 なんたって、その運命の紆余曲折が実に摩訶不思議。

 今の私たちは、対テロリストの暗殺機としてプレデターが大活躍しているのを知っている、つまり後智慧がある。が、当時の人々はそんな事をまったく知らないので、特に採用を決める軍の動きがとても間抜けに感じるし、「やっぱ軍人って頭が固いんだなあ」などと思ってしまう。

 こういったあたりは、第一次世界大戦での航空機や戦車がそうだし、第二次世界大戦での帝国海軍のレーダーや空母もそうだよなあ。

 そもそも、誕生(というより受精)がイスラエルってのが皮肉。今のイスラエルなら、ハマス対策としてプレデターを涎を垂らして欲しがるだろうに。しかも、当初の目的は対パレスチナじゃない。エジプト軍の防空網対策だ。

 事のはじまりは1973年の第四次中東戦争(→Wikipedia)。エジプトとシリアが奇襲をかけ、当初は優勢だったが、イスラエルが粘って押し返した戦いだ。エジプト軍が入念に創り上げた対空防衛網にイスラエル空軍のスカイホークがバタバタと落とされ、シナイ半島では大苦戦した。

 この対空防衛網を騙す囮が、お話のはじまり。スカイホークに囮を積み、対空防衛網の近くで囮を発射、突っ込ませる。敵が対空ミサイルを撃ったら、そのスキに有人の攻撃機が対空防衛網を潰す。そういう発想。今のプレデターとは全く違う。

 これを提案したのは戦闘機乗りのベバン・ドタンだが、受けたエンジニアのエイブラハム・カレムは囮を無人航空機として設計、その可能性に思いを馳せる。「対戦車ミサイルを積めばエジプト軍の戦車部隊を叩き潰せるぞ。長時間飛べれば哨戒任務もこなせるし」。

 このカレム君の考え方が、エンジニアの気持ちをよく代弁してる。

IAI時代、彼は、「顧客は自分が本当は何をほしがっているか分かっていない」のだから常に技術革新に励むべきだ、と部下を激励したものだった。
  ――第一章 天才エンジニアが夢みた無人機 模型好きの少年の飛翔

 いやまったく。ソフトウェアの世界でも、そっくりそのまま同じことが言えます、はい。他にも、優れたモノを創るには、大きな組織より、「共通の目的に向かって協力し合う有能な人間の小さな集まり」がいい、とか。いやほんと、気の合った少人数のチームで仕事するのって、とっても気持ちいいんだよね。

 やがてカレムはアメリカに渡り、自力で無人航空機の開発を始める。グライダー製作の技術を生かし、軽量化と長時間飛行に成功するが、売り込みはあまり巧くいかず…

 などとビジネスは右往左往するが、開発はジリジリと進む。この過程で出てくる様々な技術の不具合が、エンジニアにはとても美味しい所。予期せぬエンジン・ストップ,画質の低下、高性能部品への置き換え…。これらの課題を一つ一つクリアしていくあたり、エンジニアにはたまらなく面白い。

 ここで登場するもう一人の天才技術者ワーナー君(仮名)の活躍も、実に現代的で。

 彼がやってるのは情報系、それもネットワーク技術者に近い。プレデターの画像を操縦者に送り、操縦者の捜査をプレデターに送る。言っちゃえばそれだけなんだが、当時の技術と軍事ならではの機密保持って制約もあって。彼の仕事は、まさしくRMIのもう一つの側面、すなわち情報化の重要性を、軍事の素人にもわかりやすく伝えてくれる。

 などの技術者の活躍は楽しいが、対して軍の石頭っぷりも容赦なく暴いてたり。この辺も、アレな管理者や経営者に不満を抱える技術者なら身につまされるところ。静止画像をプリントするあたりでは、もう笑うしかなかったり。

 加えて、ニワカ軍ヲタとしては、戦術データリンク(→Wikipedia)のご利益もよくわかったのが嬉しい。プレデターは単独で飛ぶだけでなく、F-15やA-10など有人航空機との連携でも意外と活躍してるのだ。

 私は一つの技術が生まれ成長してゆく物語として楽しく読めたが、他にも新しい技術が官僚的な組織に受け入れるまでの具体例として、軍の頭の固さと想像力の欠落を示す物語として、ロボット兵器が軍と政府に与える影響の予言書として、読みどころは満載だ。

 ただ、結局は人殺しが目的の機械の話なのに、とっても楽しく読めてしまうのが困りもの。

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2016年10月30日 (日)

アンヌ・モレリ「戦争プロパガンダ10の法則」草思社文庫 永田千奈訳

…あらゆる戦争に共通するプロパガンダの法則を解明し、そのメカニズムを示すことが本書の目的である。
  ――ポンソンビー卿に学ぶ

条約というのは、その効力によって有利な条件が保証される側にとってこそ不可侵なものであるが、条約を破棄したほうが有利になる場合には「紙切れ同然」のものなのだ。
  ――第2章 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」

非常に好戦的な者たちこそ、自分たちが哀れな子羊であるかのようにふるまい、争いごとの原因はすべて相手にあるのだと主張する。
  ――第2章 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」

戦争の真の目的は国民には公表されない。
  ――第4章 「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」

どの国も、自分たちが使う可能性のない兵器(または使うことができない兵器)だけを「非人道的」な兵器として非難するのだ。
  ――第6章 「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」

【どんな本?】

 戦争は最も重要な国家の政策だろう。そのためか、戦争となると、国家はあらゆる手を尽くして国民を煽り、戦意高揚を図る。

 その際、国家はどのような手を使うのか。どんな者にどんな役割を割り当て、どんなイベントを起こし、どう脚色・演出し、どんなストーリーを描き、どんな論法を使い、何を隠すのか。

 アーサー・ポンソンビーの著書「戦時の嘘」を元に、第一次世界大戦・第二次世界大戦・冷戦・湾岸戦争・コソヴォ紛争などで使われた実例を多く集め、民意を戦争へと向かわせるプロパガンダの手口を暴く問題提起の書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Principes élémentaires de propagande de guerre, by Anne Morelli, 2001。日本語版は2002年に草思社より単行本を刊行。私が読んだのは2015年2月9日第1刷発行の草思社文庫版。文庫本で縦一段組み、本文約166頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント38字×16行×166頁=約100,928字、400字詰め原稿用紙で約253枚。文庫本ではだいぶ薄い部類。

 文章はこなれている。内容も特に難しくないが、例の多くが第一次世界大戦・第二次世界大戦・湾岸戦争・コソヴォ紛争なので、そのあたりに詳しいと実感がわく。

【構成は?】

 各章は穏やかにつながっているが、興味のある所だけを拾い読みしても充分に意味は通じる。

  • ポンソンビー卿に学ぶ
  • 第1章 「われわれは戦争をしたくない」
  • 第2章 「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
  • 第3章 「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
  • 第4章 「われわれは領土や覇権のためではなく、
    偉大な使命のために戦う」
  • 第5章 「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。
    だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
  • 第6章 「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
  • 第7章 「われわれの受けた被害は小さく、
    敵に与えた被害は甚大」
  • 第8章 「芸術家や知識人も、
    正義の戦いを支持している」
  • 第9章 「われわれの大義は神聖なものである」
  • 第10章 「この正義に疑問を投げかける者は
    裏切り者である」
  • ポンソンビー卿からジェイミー・シーまでの流れをふまえて
  • 訳者あとがき/原註

【感想は?】

 実のところ、目次が内容を綺麗に要約している。そのまんまの本だ。

 各章の中身は、賞の見出しに沿う例を並べているだけと言っていい。だから、面倒くさがりな人は目次だけ読めば充分だろう。

 が、ニワカ軍ヲタにとっては、豊富に並んだエピソードに大きな価値がある。無駄にエピソードを覚えてこそヲタクなのだ。それを自慢げに披露しても嫌われるだけなんだが、懲りないのがヲタクという生き物なんだからしょうがない。

 例えば、第一次世界大戦。ベルギーを占領したドイツ軍は、子どもたちの手を切り落とした。酷い話だ。この話を聞いたアメリカ人富豪が、被害者を探すため終戦後ベルギーに使いを送る。

 が、結局、被害者は見つからなかった。もともと、作り話だったのだ。

 敵を極悪非道の鬼畜にしたけあげ、味方の側には悲惨な目に合った可哀想な被害者を創り上げる。そういえばイラク戦争でも、油まみれの鳥の写真がサダム・フセインの悪行のシンボルとして注目を浴びた。

 遠く中東まで行く必要はない。日本でも太平洋戦争では鬼畜米帝と宣伝し、それが祟って南方では投降を許さず不必要に将兵を飢え死にさせた上に、サイパンや沖縄では民間人まで無駄に巻き添えにした。そもそも日中戦争のきっかけがヤラせだし。

 「空襲」が「空爆」にかわったのも、印象を操るのが目的だ。第二次世界大戦での空襲の記憶を持つ人は多い。それを空爆と言い換えて、「現代的で無機的」なイメージにスリかえようとしている。まあ、最近は空爆が定着しちゃったんで、むしろ空爆の方が生々しい印象になりつつあるけど。

 NATOによるユーゴスラヴィア空爆の記録も驚きだ。NATOの公式発表では戦車120台を破壊となっている。が、アメリカ国防総省の正式発表だと、確認されたのは14台。

 などの戦争報道については、最近じゃ広告代理店まで絡んできて、更にテクニックに磨きがかかっている様子。

 などと戦争に拘ると、私たちにはあまり関係がないように思える。が、落ち着いて考えると、身近なところで頻繁に使われているし、インターネットにも同じ手口が満ち溢れているのがわかる。

 それが最もあからさまなのが、ヘイトスピーチだろう。日本に住む外国人を徹底した悪役に仕立て上げ、自分たちは哀れな被害者を装う。自分たちの挑発は「仕方なしの防衛」と棚に上げ、反撃してきた相手の暴言・暴力だけをあげつらう。

 極端な思想信条に入れ込んだ、特別に変わった人だけが、こういう手口を使うならともかく、国民の代表が集う議会でも、与野党ともに同じテクニックを使っているんだから、なんとも。

 いわゆるいじめやパワハラでも、この本のテクニックが駆使される。臭いとか汚いとか和を乱すとか、いじめる相手にイチャモンをつけて悪役に仕立て上げ、自分は正義の味方を気取る。取りまきとツルみ、いじめに参加しない者には仲間外れの脅しをかけ、共犯関係に巻き込む。

 そう考えると、幼い子供ですら同じテクニックを使いこなしているわけで、別に戦争プロパガンダに限らず、実は人間の本質的な性質を語る本なのかもしれない。

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2016年10月 5日 (水)

イアン・トール「太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 下」文藝春秋 村上和久訳

 彼らが従事することになる戦争は、彼らが訓練を受けた戦争ではなかった。戦間期の運用思想は、ユトランド海戦(1916年,→Wikipedia)の英独艦隊決戦の研究に影響を受け、潜水艦を海軍の主力戦艦艦隊の添え物と考えていた。その第一の役目は偵察だった。
  ――第九章 日本の石油輸送網を叩け

 タラワの教訓は注意深く研究され、将来の水陸両用上陸作戦の計画に生かされた。海兵隊はあとから考えてみて、強襲部隊は海岸に装備を多く持っていきすぎと結論づけた。
  ――第十一章 日米激突の白兵戦「タワラの戦い」

…フォレスタルとキングは重要な新しい人事政策に合意していた。重要な指揮官職にある飛行士ではない士官は全員、飛行士を参謀長として採用しなければならず、重要な指揮官職にある飛行士は全員、ブラックシューズを参謀長として採用しなければならない。
  ――第十三章 艦隊決戦で逆転勝利を狙う日本海軍

 日本の新聞の全面が戦死者にかんする記事にあてられていた。兵事係が戦死者の名前を公表すると、地元の記者とカメラマンが実家に殺到した。しばしばジャーナリストが親族に知らせをつたえた。
  ――終章  最早希望アル戦争指導ハ遂行シ得ズ

【どんな本?】

 イアン・トール「太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 上」文藝春秋 村上和久訳 から続く。

 日本の野心的な豪州孤立戦略の足がかりとして南太平洋の焦点となったガダルカナルは、ついに米軍の支配下に入る。日米両軍に多大な犠牲を強いた消耗戦は、日本軍の優れた飛行士をすり潰してゆく。

 しかし未だ大和・武蔵の巨大艦を擁する日本海軍はトラック諸島で米海軍を待ち受けるが、米国はその産業力で真珠湾の被害を補修するどころか、多数の空母を中心とした前代未聞の巨大な機動艦隊を誕生させると共に、レーダーなどの新装備で戦力を増し、前線の報告を元に戦術を練り直す事で、全く新しい海軍へと生まれ変わりつつあった。

 太平洋戦争を、アメリカの海軍史家イアン・トールが、日米両海軍の戦いを中心に描く三部作の第二部。

【構成は?】

 基本的に時系列で進むので、素直に頭から読もう。

  •  上巻
  • 序章 ソロモン諸島をとる
  • 第一章 ガダルカナルへの反攻
  • 第二章 第一次ソロモン海戦
  • 第三章 三度の空母決戦
  • 第四章 南太平洋で戦える空母はホーネットのみ
  • 第五章 六週間の膠着
  • 第六章 新指揮官ハルゼーの巻き返しが始まった
  • 第七章 山本五十六の死
  • 第八章 ラバウルを迂回する
  •  ソースノート
  •  下巻
  • 第九章 日本の石油輸送網を叩け
  • 第十章 奇襲から甦ったパールハーバー
  • 第十一章 日米激突の白兵戦「タワラの戦い」
  • 第十二章 真珠湾の仇をトラックで討つ
  • 第十三章 艦隊決戦で逆転勝利を狙う日本海軍
  • 第十四章 日米空母最後の決戦とサイパンの悲劇
  • 終章  最早希望アル戦争指導ハ遂行シ得ズ
  •  謝辞/ソースノート/参考文献/訳者解説

【感想は?】

 下巻はアメリカの潜水艦隊の話で幕をあける。

 日本では「ドン亀」などと蔑まれた潜水艦だが、アメリカじゃ「潜水艦乗りは全員が志願者だった」と、むしろエリートが集まっていた模様。開戦当初は「慎重さと、組織内の力関係におとなしくしたがう」タイプの艦長が多かったが、次第に若く攻撃的な者が指揮を執るようになる。

 「この過程には約18カ月を要した」と、時間がかかりすぎるように書いているけど、日本の年功序列型の組織体質は、もっとしぶとく抵抗するんだよなあ。こういう大胆な組織改革を迅速にアメリカができる理由は、なんなんだろう?

 役割も、当初は艦隊の添え物だった潜水艦が、補給線を絶つ仕事に重点を移す。のだが、かの悪名高いマーク14魚雷(→Wikipedia)で苦労してる。指定より3mほど深く走るんで、標的の底をスリ抜けちゃう。こんな酷いシロモノになった理由は、「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」に詳しいが、実に呆れる話だったり。

 賢い艦長はコッソリ具合の悪い磁気起爆装置を止めたり深度をいじったりたんだが、「これは問題を曖昧にし、適切な対応をさらに遅らせ」てしまう。現場の愚痴を上が聞かないとロクなことにならないんだよなあ。いずれにせよ輸送船がボカスカ沈められるのに対し、日本の海軍は…

日本海軍の指導者たちはこの問題を一度も本気で研究していなかったし、対潜作戦(ASW)で初歩的な能力以上のものを開発していなかった。(略)
日本の海軍要員は商船を軽蔑的な態度であつかうことに固執した。

 このあたりは「海上護衛戦」に詳しい。このしこりは今でも残っていて、海員組合はかなりナーバスな様子。日本みたいな海洋国で海の男を粗末にしちゃマズいでしょJK。つか海の男に限らず、この国は人を大事にしないんだよなあブツブツ…

 いずれにせよ、その結果は悲惨。せっかく旧オランダ領東インド(インドネシア)の油田を取ったのに、そこで生産した原油が日本に届いたのは、1942年:40%→1943年:15%→1944年5%、そして「1945年3月以降、日本の海岸には一滴の石油も到着しなかった」。

 この反省か今の海上自衛隊の対潜能力はピカ一らしいけど、「すべての軍は直前の戦争に備えている」なんて嫌な言葉もあるんだよなあ。

 対してアメリカ海軍は「終戦時、119隻の空母を就役させていた」って、いかなレシプロ機の時代とはいえ、滅茶苦茶だ。うち17隻が参加してギルバート諸島のタラワ攻略(→Wikipedia)へと向かう。圧倒的な航空戦力と艦砲射撃に対し、しぶとく日本軍が戦えた理由は、丹念に構築された塹壕。

ある遮蔽壕はのちに「1.8mの鉄筋コンクリート」でおおわれ、「その上に交差した鉄のレールが二重重ねられて、さらに90cmの砂とココ椰子の丸太二列でおおわれ、最後に1.8mの砂がかぶされていた」

 これは日露戦争で学んだんだろうか。いずれにせよ、頑強に戦い続ける日本兵の末路は哀しい。「何百台という自転車のねじまがった残骸」が見つかる場面では、なぜか遺体が見つかるのより切なかった。

 ガダルカナルで優れた航空兵を失った日本軍が、以降にパイロットの腕がガクンと落ちた経過も、詳しく書かれている。少数の精鋭を育てるには適していた養成システムだけど、後進を大量に育てるには向かず、また制度を変えるのにも手間取って、気づいたら粗製乱造になっていた、と。ハナから長期の消耗戦は考えてなかったわけです。

 タラワの悲劇はグアムとサイパンでも繰り返され、サイパンでは航空部隊の壊滅までオマケがつく始末。にも拘わらず日本国内では陰険な検閲が横行し、抵抗した中央公論の畑中繁雄は「共産主義者の烙印を押され、監獄にぶちこまれた」。タテつく者をアカと決めつける手口は、今でも連中の常套手段だよなあ。

 すでに勝敗は決まっちゃいるが、お偉方はなかなか現実を認めようとしない。おかげで「日本を支配する者たちの底が抜かれる前に、さらに150万人の日本の軍人と民間人が死ぬことになる」。

 こういう無駄に人が死んでゆく場面はとっても読むのが辛くて、アントニー・ビーヴァーの「ベルリン陥落」も、終盤でドイツの少年兵・老年兵が駆り出されるあたりが悲しくて仕方がなかった。キャサリン・メリデールの「まちがっている」とかを読むとつくづく感じるんだが、ヒトってのは自分の間違いをなかなか認めようとしない。この性質が悲劇を大きくするんじゃなかろかと思ったり。

 そんなわけで、三部作の最終巻 Twilight of the Gods : War in the Western Pacific, 1944-45(たぶん邦題は「神々の黄昏」)を読む覚悟は、なかなかできそうにない。

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2016年10月 2日 (日)

イアン・トール「太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 上」文藝春秋 村上和久訳

「『ロビンソン・クルーソー』は、南太平洋の島々に前線基地を設営しようとする人間みなの必読書であるべきです。とにかくなにもないんです。ジャングル以外には」
  ――第一章 ガダルカナルへの反攻

アメリカ軍の防御線をしめす蛇腹状の鉄条網の向こうでは、日本兵のふくれ上がって悪臭を放つ遺体が横たわっていた。悪臭はひどかったが、アメリカ兵はなかなか敵の死体を埋葬しようとしなかった。日本兵委は戦友の死体に偽装爆弾を仕掛けることが知られていたからだ。
  ――第七章 山本五十六の死

 そして、彼らは待った。さらに待った。また待った。そして、アメリカ軍はやってこなかった。
  ――第八章 ラバウルを迂回する

【どんな本?】

 20世紀のアジアの情勢を大きく変えた太平洋戦争を、アメリカの海軍史家イアン・トールが、日米双方の丹念な取材に基づき、主に海軍を中心に描く壮大なドキュメンタリー三部作の第二部。

 ミッドウェイで威信は傷ついたとはいえ、西太平洋地域の日本軍は活発な活動を続ける。特にソロモン諸島に進出した日本軍は、オーストラリアとアメリカの海路を遮断するための格好の足掛かりを気づきつつあった。特にガダルカナル島に設営が進む飛行場は、命取りになりかねない。

 海上の航空戦力は未だ日本が優位であり、また欧州優先の戦争戦略に縛られながらも、アメリカは反抗の足がかりとしてソロモン諸島の奪回を決断、ガダルカナル島が日米両軍の焦点となる。

 第二部の前半となる上巻は、両軍にとってまさしく補給戦となったガダルカナルの戦い(→Wikipedia)を中心に、日本軍のラバウル撤退までを描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Conquering Tide : War at Sea in the Pacific Islands, 1942-1944, by Ian W. Tall, 2015。日本語版は2016年3月10日第一刷。単行本ハードカバー縦一段組みで上下巻、本文約356頁+408頁=764頁に加え、訳者解説「陸海空の連携が初めて問われた戦争」12頁。9ポイント45字×20行×(356頁+408頁)=約687,600字、400字詰め原稿用紙で約1,719枚。文庫本なら上中下の三巻にわけてもいい分量。

 文章は比較的にこなれている。内容も軍事物にしてはとっつきやすい方だろう。加えて当時の軍用機に詳しければ、更によし。敢えて言えば、1海里=約1.85km、1ノット=1海里/時間=1.85km/hと覚えておくといい。また南太平洋の地図が手元にあるとわかりやすい。

 日本側の航空機の名前など、原書では間違っている所を、訳者が本文中で直しているのが嬉しい。ただ索引がないのはつらい。

【構成は?】

 基本的に時系列で進むので、素直に頭から読もう。

  •  上巻
  • 序章 ソロモン諸島をとる
  • 第一章 ガダルカナルへの反攻
  • 第二章 第一次ソロモン海戦
  • 第三章 三度の空母決戦
  • 第四章 南太平洋で戦える空母はホーネットのみ
  • 第五章 六週間の膠着
  • 第六章 新指揮官ハルゼーの巻き返しが始まった
  • 第七章 山本五十六の死
  • 第八章 ラバウルを迂回する
  •  ソースノート
  •  下巻
  • 第九章 日本の石油輸送網を叩け
  • 第十章 奇襲から甦ったパールハーバー
  • 第十一章 日米激突の白兵戦「タワラの戦い」
  • 第十二章 真珠湾の仇をトラックで討つ
  • 第十三章 艦隊決戦で逆転勝利を狙う日本海軍
  • 第十四章 日米空母最後の決戦とサイパンの悲劇
  • 終章  最早希望アル戦争指導ハ遂行シ得ズ
  •  謝辞/ソースノート/参考文献/訳者解説

【感想は?】

 第一部の感想でも書いたが、このシリーズのいい所は、太平洋戦争を「一つの物語」としてわかりやすく示してくれる点だ。

 戦場が広い範囲にまたがり、また多くの要素が複雑に絡み合う戦いなので、「何が本筋か」については、様々な意見があるだろう。このシリーズでは、日米の両海軍を主人公とすることで、おおまかなストーリーが鮮やかに浮かび上がると共に、個々の有名な戦いの意味がハッキリと見えてくる。

 この巻では、ガダルカナルの戦いが中心となる。戦後は飢島とまで呼ばれ、陸軍将兵の多くが飢え死にした事で悪名高い戦いだ。

 なぜガダルカナルで日米両軍がぶつかったのか。両軍とも、なぜそんな島に拘ったのか。その島を取ることで、何が嬉しいのか。多くの犠牲を払うほどの価値があったのか。そして、なぜ多くの日本軍の将兵が飢え死にしたのか。

 それは、ここがアメリカとオーストラリアを結ぶ海路を邪魔するのに格好の拠点となるからだ。この島に飛行場を作り、米豪間を行き来する船舶を航空機で叩けば、オーストラリアは孤立する。連合軍の一角が崩れ、戦争の帰趨は一気に変わるだろう。

 既に日本軍は上陸し、飛行場を作りつつある。そこに米軍が強襲揚陸を仕掛け、飛行場は奪ったが、日本軍はまだ島に潜んでおり、飛行場を取り戻そうと戦いを仕掛けてくる。かくして、飛行場を守る海兵隊と、取り戻そうとする日本軍の戦いが続く。

 戦うったって、弾薬は必要だし将兵は食わにゃならん。戦えば死傷者が出て戦える者が減るから、将兵も増援を送る必要がある。そこで日米両軍ともに、「いかに島に将兵と物資を送るか」をめぐり、互いに船を送り、また相手の船を沈めようと、海軍が激しい戦いを繰り広げる。

 と、そういう形でお話としてはわかりやすい半面、この本ではバッサリ切り捨てられた部分もある。

 それは島内で飢えと病に苦しみながらジャングルを彷徨った日本の将兵の戦いだ。海軍を主眼としたシリーズとはいえ、珍しくこの巻では飛行場を守る米軍の描写も多いのだが、それは海兵隊が中心だからかも。彼らに追い詰められる日本軍の描写はほとんどなく、出てくるのは遺体のみ。

 そんなわけでバランス的には崩れているが、その反面、米軍から見た日本軍の姿がわかりやすく伝わってくる。

 というと姿がクッキリ見えるようだが、実は戦いを通し、米軍にとって日本軍は幽霊みたいな存在だったらしい。

 なにせ強襲揚陸を仕掛けた際も、水際での反撃がない。アッサリと飛行場を明け渡し、ジャングルに潜んで、ときおり夜襲をかけてくる。「第一級の資産を豊富に残していった」とあるので、相当に慌てて撤退した模様。艦砲射撃に対抗できる火砲もなかったんだろうなあ。

 第一次ソロモン海戦(→Wikipedia)などでは日本海軍が練りに練った野戦の腕を存分に発揮するものの、航空支援は六百海里(約1111km)彼方のラバウルから発着せにゃならず、航続距離に優れた海軍航空隊も次第にすり切れてゆく。これを見越した米軍の戦略が憎い。

ガダルカナルは、じゅうぶんに補強すれば、「敵の航空兵力を呑み込む穴」になる可能性がある。日本軍が傲慢にも六百海里の海を越えて航空攻撃を送ると主張するかぎり、長距離飛行だけで彼らの数は少しづつ減っていくだろう。
  ――第四章 南太平洋で戦える空母はホーネットのみ

 日本の将兵に飢え死にが続出したガダルカナルだが、米軍も当初は補給に苦労したらしく、「ヴァンデグリフトは8月12日に携帯食料を減らすよう命じ、大半の隊員は一日に二食」だったというから、少しは慰めに…なるわけないか。でもきっと、この経験がノルマンディーで生きたんだろうなあ。

 対して日本軍は「一日500カロリー以下」。なお健康な20代の男の1日の適正カロリーは、ホワイトカラーで2000~2500カロリー、肉体労働で3000~3500カロリー。ってんで、「約200名の日本兵が毎日、縞で死んでいった」。その頃、帝都では東条首相曰く…

「英米はかたくなに反撃をつづけたがっている。しかし、わが国は豊富な物的資源を利用して、いついかなるとき、地球上のいかなる場所でも彼らを撃滅する用意がある」
  ――第五章 六週間の膠着

 …さすがに日米の物資の差を知らんとは思えないんで、戦意を煽るためのハッタリなんだろうけど、この程度で騙せると考えてたのなら、国民もナメられたもんだが、海上護衛戦あたりを読むと、ヒョッとして… 経済や貿易の知識って、大事なんだなあ。

 まあいい。ガダルカナルは日本の陸軍将兵のみならず、熟練航空兵を呑み込み、輸送物資を呑み込み、貴重な輸送船も呑み込んでゆく。

 と、この巻を読むと、まさしくガダルカナルこそが、太平洋戦争の帰趨を分けた戦いなんだなあ、とつくづく感じ入る。

 ガダルカナルでの日本軍将兵の苦しみが書かれていないのは不満だが、太平洋戦争全体の中のガダルカナルの意味を知るには、最もわかりやすいシナリオを示す本だろう。この後、坂道を転げるように日本が追い詰められてゆく下巻を読むのが怖い。

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【何がガダルカナルの帰趨をわけたのか】

 結局は総合力なんだろうけど。

 意外なことに、米軍が島の重要性に気づいたのは、日本軍がガダルカナルに進出して飛行場を作り始め、ほとんど完成する間際になってから。

 島の価値の大半は、この飛行場にある。ここを拠点にした日本軍の航空機が、米豪間を行き来する船を沈めにきたらたまらん、そういう事だ。だから両軍とも島に拘った。

 ところが、米軍の強襲揚陸はアッサリ成功し、飛行場も簡単に奪われてしまう。お陰で日本は島から発着する米軍の航空機に悩まされる羽目になる。対して日本の航空機は、遥か1100km彼方のラバウルから行き来せにゃならん。

 仮に飛行場を日本軍が確保し、ここから航空機が発着できたら、戦いの帰趨が大きく変わっていたかもしれない。最初の強襲揚陸も航空攻撃で退けられた可能性があるし。

 実は飛行場の地ならしはほとんど終わってたみたいで、海兵隊はスグに飛行場を完成させ、荒っぽい離発着に耐えられる艦載機なら使えるようにしてる。

 ここで活躍したのがブルドーザー。日本軍にこれがあったら、飛行場はもっと早く完成してたし、そうなれば航空機の援護の下、戦いも有利になってただろう。

 という事で、帰趨をわけたのはブルドーザーじゃないか、なんて考えている。

 にしても、軍事ってのは、組織や兵器や戦術はもちろん、気候や輸送や経済や政治や歴史や地理に加え、土木や建築にも詳しくならんといかんのか。一人前の軍ヲタへの道は険しく遠い。

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2016年9月29日 (木)

イアン・トール「太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下」文藝春秋 村上和久訳

「誰も心の奥底の感情を表せなかった」と戦時中、砺波で召集令状を配達していた兵事係は語った。「世間は彼らを歓呼の声で送り出した。『万歳! 万歳!』そういわなければならなかった」
  ――第七章 ABDA司令部の崩壊

戦争のつぎの段階の具体的な作戦計画は存在していなかった。正直なところ、日本の軍事指導者たちはすでに達成した征服以上は、もっとも基本的な戦略の方向にまだ合意していなかった。
  ――第七章 ABDA司令部の崩壊

(アメリカ)海軍が12月7日の大失態のすぐあとに一つやったことがあるとしたら、それは学習と向上に集団で取りつかれることだった。
  ――第十一章 米軍は知っている

生産管理局(OPM)の長であるウィリアム・クヌードセンは、希少な原料がデトロイトの自動車組立ラインに供給されることを許さなかった。もはや国内に軍用以外の自動車を生産する余裕はない、と彼はいった。タイヤ用のゴムがじゅうぶんにないからである。
  ――終章 何が勝敗を分けたのか

【どんな本?】

 イアン・トール「太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上」文藝春秋 村上和久訳 から続く。

 海軍は真珠湾で画期的な勝利をあげる。陸軍はマレー半島やフィリピンを席巻した。続けてニューギニアのポートモレスビーを落とせばオーストラリアが視野に入り、連合軍の一角が崩れるだろう。

 だが海軍は真珠湾で取り逃がした空母の行方を気にしていた。艦隊決戦を挑むべく、なけなしの燃料をさらいミッドウェイ攻略へと向かう。その頃、ハワイでは異様な風体の男たちが、奇妙な機械と数字を相手に頭を掻きむしっていた。

 アメリカの海軍史家イアン・トールが、日米双方の丹念な取材に基づき、主に海軍を中心に描く、太平洋戦争の壮大なドキュメンタリー三部作の開幕編。

【構成は?】

 基本的に時系列で進むので、素直に頭から読もう。

  •  上巻
  • 序章 海軍のバイブル
  • 第一章 真珠湾は燃えているか
  • 第二章 ドイツと日本の運命を決めた日
  • 第三章 非合理の中の合理
  • 第四章 ニミッツ着任
  • 第五章 チャーチルは誘惑する
  • 第六章 不意を打たれるのはお前だ
  •  ソースノート
  •  下巻
  • 第七章 ABDA司令部の崩壊
  • 第八章 ドゥーリットル、奇跡の帝都攻撃
  • 第九章 ハワイの秘密部隊
  • 第十章 索敵の珊瑚海
  • 第十一章 米軍は知っている
  • 第十二章 決戦のミッドウェイ
  • 終章 何が勝敗を分けたのか
  •  謝辞/ソースノート/参考文献/訳者解説

【感想は?】

 上巻にもあるように、日米両海軍を中心とした太平洋戦争のドキュメンタリーだ。

 上巻では兵器や産業よりローズヴェルトや山本五十六などの人間に焦点をあてていた。下巻に入ると、海軍を中心としたことによる優れた特色が出てくる。

 なにせ太平洋戦争は長く続き、また戦場の範囲も広い。そのため、全体の流れを掴むのが難しい。この巻では、東京空襲→珊瑚海海戦→ミッドウェイ海戦へと続く。東京空襲はともかく、なぜ珊瑚海やミッドウェイが戦場になったのか。

 この本は、日米両海軍を視野の中心に据えることで、太平洋戦争全体を眺めながら、戦争の流れを大雑把に掴みやすくなった。その代償として陸軍の戦いはバッサリと割愛されてしまうが、初心者が太平洋戦争を大雑把に理解するには適した本になっている。

 海軍中心の本としても、この本は異色の内容になっている。というのも、戦闘場面の大半が空母と艦載機に割かれているため。実際、中盤で描かれる珊瑚海海戦(→Wikipedia)と終盤のミッドウェイ海戦(→Wikipedia)ともに、戦いは艦載機vs空母で、戦艦・巡洋艦・駆逐艦はお互いほとんど敵艦の姿を見ていない。海での戦いは、全く様相が変わってしまった。

 その空母、索敵と攻撃の範囲はやたらと広い半面、極めて打たれ弱い。

空母は一撃離脱の交戦に適した武器だった。艦自体はきわめて脆弱だったが、敵を発見して先に攻撃できれば、長距離から敵に強烈な打撃を与えることができた。(略)
「空母とは突進して、強打を浴びせ、姿を消すことができる武器だ」
  ――第十章 索敵の珊瑚海

 こういった空母の性質を、ドゥーリットルの帝都攻撃や珊瑚海海戦を通して読者に紹介しながら、史上最大の空母同士の戦いミッドウェイへと導いてゆく。

 ドューリットルの帝都攻撃(→Wikipedia)も陸海軍の仲が悪い当時の日本じゃ考えられない作戦で、陸軍航空隊が空母から飛び立とうってんだから無茶だ。おまけに陸上機にはただでさえ滑走距離が足りない空母発進だってのに、長距離飛行用の補助燃料タンクを機内のアチコチに追加して重量を増やしてる。下手に煙草も吸えない。

 ここでは空母が向かい風に向かって全力で進むことで対気速度を稼ぎ、艦載機が離着艦しやすくなる性質を語り、珊瑚海海戦では索敵の難しさと魚雷の避け方を教えてくれる。

 雷撃機としては、敵艦の真横から攻撃したい。そうすれば的が大きくなり当たりやすくなる。逆に艦が魚雷を避けるには、艦の向きを魚雷と同じまたは逆向きにすれば、的が小さくなって当たりにくい。艦のスピードが速いほど舵が効きやすいんで、機関全力で走りながら舵を回す。

 すると自動車が猛スピードでカーブを曲がる時のように横向きの強いGがかかると共に、艦も傾く。んな状況で攻撃機に爆弾や魚雷を取り付ける整備兵も災難だ。

 と、こんな風に、敵機の攻撃を受けている最中の空母は、艦の向きがコロコロ変わるんで、おちおち反撃用の戦闘機を離発着させることもできない。波状攻撃の怖い点がこれで、攻撃が続いている限り反撃もできないのだ。

 などと空母の性質を読者にわからせたところでミッドウェイへと突入し、評判の悪い南雲提督の指揮を擁護してくれるから憎い。著者の結論としては「運が悪かった」。

 ってな緊張の場面が続く本書の中で、異彩を放っているのが暗号解読を描く「第九章 ハワイの秘密部隊」。暗号じゃイギリスのブレッチリー・パークが有名だが、ジョセフ・ロシュフォート海軍中佐がハワイで率いた暗号解読部隊ステーション・ハイポも型破り。

 「階級や上下関係はほとんど意味を持たなかった」「人の地位は階級以外の要素に左右された」。才能ある解読員のトマス・ダイアー少佐曰く「ここで働くのにイカれている必要はないが、そうだったらずいぶんと役に立つ!」 ったく、ハッカーって奴は、どいつもこいつもw 面白いのは、意外な才能と共通点があるらしいこと。

12月7日に戦闘不能になった戦艦カリフォルニアの軍楽隊全員が選抜されて、生の無線傍受から暗号群をIBMのパンチカードに移す作業に配属された。(略)楽団員たちは仕事を簡単におぼえたので、「音楽と暗号解読には心理学的な関連があるにちがいないという仮説が唱えられた」

 などの変人に囲まれ苦労したにも関わらず、当時のロシュフォート中佐の評判は芳しくなかった。暗号解読なんて表沙汰にできない立場もあるが、米国内にも強力なライバルがいて…ってなスキャンダルも、容赦なく暴いてる。幸いにして今は…

2003年、ネット上の従軍経験者と歴史家のコミュニティである<ミッドウェイ海戦円卓会議>は、海戦で、“もっとも重要な戦闘員”一人の名を挙げるよう求められた。アンケートの結果は、ふさわしくニミッツとロシュフォートの引き分けとなった。ロシュフォートへの支持は、とくにミッドウェイ海戦の体験者のあいだで強かった。
  ――終章 何が勝敗を分けたのか

 と、情報が公開されたためか、充分な評価を得ている模様。

 海軍を中心としたためか、戦争全体の姿がわかりやすく浮かび上がる構成になっていると同時に、この書評では敢えて割愛したが、被害を受けた艦内の地獄絵図のエグさも半端ない。全体を見通しながらも現場の兵卒にまで目を配り、物語形式で初心者にはとっつきやすい優れた戦記ドキュメンタリーだ。

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