カテゴリー「書評:ノンフィクション」の127件の記事

2018年7月 8日 (日)

ダン・アッカーマン「テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム」白揚社 小林啓倫訳

「これ以上テトリスを手元に置いておけない!」
  ――6 拡がるクチコミ

「これはソ連からやって来た、最初の知的財産なんですよ」
  ――8 ミラーソフトへ

オリジナルのエレクトロニカ60版テトリスが開発されてからというもの、新しいバージョンが生み出される際には、みなゼロから開発しなければならなかった。オリジナル版のテトリスも、そしいてゲラシモフ版、ハンガリー版も、そのたびに新しいコードが書かれたのである。
  ――9 ロシア人がやってくる

テトリスは単純だ。あまりに単純すぎる。
  ――12 テトリス、ラスベガスをのみこむ

このロシア人たちは、ゲームカートリッジとは何か、そして日本の家庭用ゲーム機がどのようなものかも理解していないのか。
  ――16 大きな賭け

「モニター、ディスクドライブ、キーボード、オペレーティングシステムで構成される」
  ――18 チキンで会いましょう

(エド・)ログの秘密は、彼が対数によるチューニングに精通しているところにあった。難しさを倍にしたい場合、たんに速度を倍にするのではだめなことを、彼は見抜いていた。
  ――19 ふたつのテトリスの物語

【どんな本?】

 みんな知ってる大ヒット・ゲーム、テトリス。

 落ちてくるブロックを横にズラし、または回して、隙間なく詰めこむ。ブロックは7種類、いずれも4つの正方形を組み合わせたもの。ルールは簡単、操作も単純。ストーリーもキャラクターもなく、敵も味方もいない。感情を揺さぶる要素は何もないはずの、幾何学的なパズルゲーム。

 にも関わらず、テトリスは史上空前の大ヒットとなり、私たちの貴重な時間を食いつぶし、みんなを寝不足に追いやった。ばかりでなく、ぷよぷよなど幾つもの後継者を生み出し、「落ちゲー」というジャンルまで開拓してしまう。

 そのテトリスは、どんな環境で、どのように生まれたのか。いかにして増殖し、マシンの違いを乗り越えて変異・適応し、国家の壁をすり抜け、世界中にパンデミックを引き起こしたのか。

 1970年代から1990年代までのコンピューター情勢、冷戦末期の緊張漂う国際関係、魑魅魍魎が徘徊する戦国時代のゲーム市場、当時のソ連の意外な素顔、コネと度胸と計算とハッタリが渦巻くビジネス・シーン、プログラマー同士の絆、そしてテトリスとゲームボーイにまつわる秘話など、刺激的なネタをたっぷり詰めこみ、驚きと興奮と郷愁に満ちた傑作ドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The TETRIS EFFECT : The Game That Hypnotized the World, by Dan Ackerman, 2016。日本語版は2017年10月17日第一版第一刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約343頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント45字×18行×343頁=約277,830字、400字詰め原稿用紙で約695枚。文庫本ならやや厚めの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくないが、テトリス登場当時の興奮を知っている年齢だと、更に楽しめる。中でも最も楽しめるのは、アセンブラで直接にハードウェアを叩くようなプログラムを書いている人だろう。

【構成は?】

 ほぼ時系列に沿って話が進むので、できれば頭から読んだ方がいい。あと、できれば登場人物一覧が欲しかった。重要そうな人物が登場する場面には、栞を挟むか付箋をつけるなどしておくといい。

  • Part 1
    • 1 グレイト・レース
    • 2 アレクセイ・レオニードビッチ・パジトノフ
    • 3 アメリカへ
    • 4 最初のブロック
    • 5 ザ・ブラックオニキス
    • 6 拡がるクチコミ
  • BONUS LEVEL 1 これがテトリスをやっているときのあなたの脳だ
  • Part 2
    • 7 鉄のカーテンの向こうから
    • 8 ミラーソフトへ
    • 9 ロシア人がやってくる
    • 10 「悪魔の罠」
    • 11 ELORGへようこそ
    • 12 テトリス、ラスベガスをのみこむ
  • BONUS LEVEL 2 テトリスは永遠に
  • Part 3
    • 13 防弾の契約
    • 14 秘密のプラン
    • 15 迫りくる嵐
    • 16 大きな賭け
    • 17 詰め寄るライバルたち
    • 18 チキンで会いましょう
    • 19 ふたつのテトリスの物語
  • BONUS LEVEL 3 認知ワクチン
  • エピローグ 最後のブロック
  • 謝辞/訳者あとがき

【感想は?】

 驚き呆れ焦り同感し懐かしみ感嘆し…と、気持ちを揺さぶられっぱなし。

 テトリスがソ連出身なのは有名だ。ただ、何の目的で、どんな経緯で造られたのか、となると、様々な憶測がある。曰く数学の教育用、AI研究、果ては…

「あまりに時間を費やしてしまうので、テトリスはアメリカの生産性を下げるために、悪の帝国で開発された悪魔の罠ではないかと怪しんでしまうほどだ」
  ――10 「悪魔の罠」

 と、陰謀説まであった。当然ながら、本書ではその真相も明らかになる。その過程で描かれる、当時のコンピューター情勢は、ロートル・プログラマーにとって、涙が止まらない懐かしさ。今でこそプログラミングは手軽に始められるが、1970年代はコンピューターに触れるってだけで特権階級だった。

1970年代初頭にコンピューターを自由に使うことができたというのは、紙の卒業証書より価値のあるものだったのである。
  ――3 アメリカへ

 ここで言うコンピューターは、懐かしきパンチガードでジョブを流すメインフレームである。現代の若いプログラマには意外に思えるだろうが、当時のプログラマはコンピューターに直接触れる事はできなかった。それはオペレーターという別の職種の方々の権限であって…

 などと年寄りが昔話を始めるとキリがない。

 それでも西側はマシな方で、ソ連をはじめとする東側は更にアレだ。それでもハッカー気質な人は洋の東西を問わず生まれてくる。最初の開発者アレクセイ・レオニードビッチ・パジトノフもそうだし、IBM-PCに移植したワジム・ゲラシモフもお仲間で、まさしく類は友を呼ぶ見本。

 ここで描かれるソ連のプログラマ同士の付き合いは、ネクタイ族が幅を利かせる前の古き良きエンジニアの楽園を思わせる。確かに政治的な締め付けこそ厳しいものの、契約だ権利だなどのウザい邪魔物から隔離され、面白いものはみんなで分け合うのだ。改めて考えると、これって共産主義の理想だよなあw

 かような環境はエンジニアにとって心地よいばかりでなく、テトリスの繁殖にも有利に働く。そう、繁殖である。バジトノフの職場を席巻したテトリスは、モスクワ市街へと漏れ出し、赤い首都も易々と陥落させ、国境をも超えて進撃を始め…

 と、テトリスが次々と人類を虜にしてゆくあたりは、その旺盛な感染力に舌を巻くばかり。だが、やがて鉄のカーテンが立ちふさがり…

 このカーテンを突き破ろうとする、西側のゲーム業界人の苦闘も、この本の大事な柱。なにせ相手は共産圏、こっちの常識は全く通じない上に、そもそも誰を相手にすればいいのかさえ分からない。ここで掟破りの大暴れを見せる任天堂の回し者、ヘンク・ロジャースの活躍はまるきしニンジャだ。

 何せ鉄のカーテンの向こう。

何かを尋ねるといいうのは(とくに1980年代のモズクワで政府機関について探るのは)、疑わしい行為なのだ。なんであれ、それを知らないのなら、おまえは知るべき人間なのではない――地元の人々はそう考えていたのである。
  ――1 グレイト・レース

 なんて所に、ロクなコネもなければ相手も知らず、体一つで突撃をかましたハンクの冒険は、ビジネスの成功物語としてもワクワクする。彼がELORG相手に繰り広げる大立ち回りは、秀吉の毛利攻めのような知恵と努力と誠意の物語だったり。また、ここでロジャースのバックとなる任天堂の体質も、日本人としてはちょっと誇らしかったり。

 また、テトリスそのものの数学的な性質や、ゲーム史の中でテトリスが打ち立てた数々の記録、そしてテトリスがヒトの精神に及ぼす影響も…

2014年に行われた研究によれば、テトリスをプレイすることで、喫煙者や飲酒者の欲求が約24%減少した。
  ――テトリス・メモ22

 なんて嬉しい話や、もしかしたらPTSDの治療に役立つかも、なんてネタまであって、ゲーム・マニアにはたまらない一冊だ。プログラマに、ゲーム・マニアに、冷戦時代のソ連に興味がある人に、ビジネスで一旗あげたい人に。読み始めたら止まらない、刺激と興奮に満ちたドキュメンタリーの傑作だ。

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2018年6月15日 (金)

山本雄二「ブルマーの謎 <女子の身体>と戦後日本」青弓社

本書の目的は、なぜ、どのようにして学校に取り入れられたのかわからない、なのに、存続だけはされ、もはやどうして継続しているのか誰にもわからないといった現象を取り上げ、その全体像を詳細に検討することで、学校を舞台とした民主化と戦前的信条の交錯とねじれの諸相と、学校的力学を支えるエネルギーの源泉を明らかにすることである。
  ――はじめに

要するに、東京大会以前のオリンピックはほとんどの日本人にとっては見るものではなく、聞くものだった。
  ――第6章 密着型ブルマー受容の文化的素地

時々に不満の声や批判が寄せられながらも、学校はなぜ三十年もの間ブルマーに固執し続けてきたのか、またどうしてそのようなことが可能だったのか…
  ――第8章 ブルマーの時代

【どんな本?】

 かつては多くの学校で制式に採用されながらも、1990年代に急速に消えていった、女子の体操着ブルマー。必ずしも女子児童・生徒には好評でなかったにも関わらず、いつから、なぜ、どのように普及し、そして廃れていったのか。

 この謎を追う著者は、戦後のスポーツ政策や体育教育、体操服のメーカー、日本の服飾の近代史、そして学校教育の精神史へと迫ってゆく。

 ブルマーを糸口に覗き見る、もう一つの戦後日本教育史。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2016年12月8日第1刷。私が読んだのは2017年1月27日の第3刷。話題を呼んだ本です。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約189頁に加え、あとがき3頁。9ポイント44字×18行×189頁=約149,688字、400字詰め原稿用紙で約375枚。文庫本なら薄い一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。あ、もちろん、アレな期待はするだけ無駄です。

【構成は?】

 原則として前の章を受けて後の章が続く形なので、なるべく頭から読もう。

  • はじめに
  • 第1章 ブルマーの謎と来歴
    • 1 ブルマーの謎
    • 2 ブルマーの日本への導入と変容
  • 第2章 密着型ブルマーの普及と風説
    • 1 密着型ブルマーの普及速度
    • 2 普及と消滅に関する諸説とその検討
  • 第3章 中体連とブルマー
    • 1 暗中模索
    • 2 推薦と協力金
    • 3 中学校体育連盟
  • 第4章 全国中体連の設立と変貌
    • 1 都道府県中体連の設立
    • 2 文部省のやり方
    • 3 スポーツ大日本派
    • 4 敗戦後の期待と落胆
    • 5 全国中体連の誕生
    • 6 オリンピックの東京開催決定
    • 7 すべてはオリンピックのために
    • 8 東京大会の屈辱
  • 第5章 密着型ブルマーの普及過程
    • 1 奇策
    • 2 営業努力と信頼関係
  • 第6章 密着型ブルマー受容の文化的素地
    • 1 女子身体観の変容
    • 2 スカートの下のブルマー
  • 第7章 密着型ブルマーの消滅過程
    • 1 性的シンボルとしてのブルマー
    • 2 セクハラ概念の浸透
    • 3 代替物の発見
  • 第8章 ブルマーの時代
    • 1 三十年間への疑問
    • 2 シンガポール日本人学校のブルマー強制問題再考
    • 3 純潔教育の心得
    • 4 「女子学生亡国論」の心情
    • 5 道徳としてのブルマー
  • 参考文献一覧/あとがき

【感想は?】

 繰り返すが、アレな期待はするだけ無駄です。ガックシw

 まず「第1章 ブルマーの謎と来歴」で主になるのは、ブルマーだけに留まらず、明治維新以降の日本の女の体育。これが和装から洋装へと移る、日本の服飾史とも大きく関わってくる。

 このテーマは「第6章 密着型ブルマー受容の文化的素地」でも再び蘇ってくる。改めて考えれば当たり前なんだが、服飾は精神性や主義主張とも重要な関係があるのだ。特に体育、それも女の体育ともなれば、ジェンダー問題とも強く繋がっている事を思い知らされる。

 が、とりあえず、それは置いて。本の構成で前半~中盤のハイライトとなるのが、ブルマーが学校に普及していく過程。俗説では、東京オリンピックのソ連バレーボール・チームが契機と言われている。ソ連選手のカッコよさに憧れた女の子のリクエストが実現した、というもの。

 が、しかし。今だって学校は生徒の要望なんざ滅多に受け入れない。50年前ともなればなおさらだ。どうも怪しい。

 ってんで、著者は敗戦後のGHQのお達しにまで遡り、図書館に籠って資料を漁り、日本を飛び回って取材し、果てはシンガポールにまで出かけてゆく。ここで、二つの興味深い事情が見えてくる。

 一つは学校用資材の市場が持つ特異な性質と、その市場でしのぎを削る産業界の人間模様。いったん食い込めば安定した業界かと思ったが、意外とそうでもない実情が浮き上がってきたり。でも結局、商売って、人なんだなあ。

 もう一つは、敗戦を機に入ってきた米国流民主主義と、それに逆らおうとするスポーツ関係者、それも特に思想・政治的な動き。これは終盤でも大きなテーマとなってくる。

 ここでもやっぱり、GHQが大きな変革を迫ってくる。直接に関わるのは、情報・教育方面を担当した、CIE(Civil Information and Education Bureau,民間情報教育局)。文部省はこの意を受け、スポーツにおいても革命的な方針を打ち出す。

 極論すれば「勝ち負けにこだわるのはやめて、誰もが楽しめるようにしろ、それを通じて民主主義を体で覚えさせろ」である。この時に出した文部省の指針は、今でも充分に通用すると思う。

  • 日本人は、物事を取り扱うのに、「勘」とか「骨(こつ)」とか(略)主観的・直感的な力にたより、客観的・合理的な方法を発展させることを怠った。
  • たまたま、(略)恵まれた天才的な人間が、優れた技術をもつことができても、それを、規則だった方法の訓練によって、多くの人びとに学ばせたり(略)することが、できなかった。
  • 権威や伝統に盲従して、これを批判する態度にとぼしく、感情に支配せられて、理性をはたらかせることが少なく、目や耳にふれぬ無形のものを尊敬して、物事を実証的にたしかめることが不得手であり…

 戦後生まれが中心となった今でも、この指摘がそのまんま当てはまっちゃう気がするんだが、あなたどう思いますか。

そういえば「祖父たちの零戦」でも、奥義「左ひねり込み」は、腕に覚えのある操縦士が、それぞれに生み出したとかで、帝国海軍が組織的に教えたりはしなかったんだよなあ。また、「太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 下」でも、帝国海軍の戦闘機乗りの育成制度の欠陥を指摘してて…

 が、しかし。GHQが引き揚げ復興が進むにつれ、世の風潮は変わってきて、勝ち負けにこだわる発想も首をもたげてくる。これにハズミをつけたのがオリンピックで…

 と、スポーツと精神史なんて話も絡んできて、話は意外な方面へとつなっがってゆく。

 このあたりは、スポーツの持つ二つの側面、すなわち普通の人が休日などに楽しむスポーツと、一流選手を更に鍛え上げるスポーツと、どっちに重きを置くか、みたいな事も考えちゃったり。あと、声だけはデカいけど金は出さないオッサンたちとか。

 一見、イロモノじみたタイトルだけど、実は「サッカーと独裁者」同様に、スポーツと政治・思想との深い関係にまで踏み込んだ、真面目で重い内容の、でも文章はこなれていてスラスラ読める、お得な本だった。

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2018年6月 7日 (木)

フェスティンガー,リーケン,シャクター「予言がはずれるとき この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する」勁草書房 水野博介訳

人々がある信念や行動に深くコミットするとき、明らかにその誤りを証明する証拠を得た場合には、ただ、さらに深い確信と布教活動の増大という結果が生じるのである。しかし、誤りを証明する証拠が相当なものにのぼり、その結果、信念を拒否してしまうに至る〔変曲〕点が確かにあるようだ。
  ――第一章 成就しなかった予言と失意のメシアたち

【どんな本?】

 1950年代。九月末のレイクシティ「ヘラルド」紙に、終末の予言が載る。「12月21日に大洪水が起きる」と。予言者はキーチ夫人(仮名)、とある小さなカルト集団の中心人物だった。

 社会学者である著者らは、この記事を見て、一つの研究を思いつく。「固い信念を持つ者が、その信念を覆された時、どうするか?」 そこで、著者ら三人に加え二人の協力者が、身元を偽り、キーチ夫人を中心とした集団に潜り込む。予言前後における集団のメンバーの言動を記録するためだ。

 オカルトに染まった者が、それを否定する現実を突きつけられた時、どうなるのか。どんな者が集団を離れ、どんな者が留まるのか。その違いを生み出すのは何なのか。

 後に「認知的不協和(→Wikipedia)」なる概念を生み出す元となった、古典的な研究の報告。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は When Prophecy Fails : A Social and Psychological Study of a Modern Group That Predicted the Destruction of the World, by  Leon Festinger, Henry Riecken, and Stanley Schachter,1956。日本語版は1995年12月5日第1版第1刷発行。

 単行本ハードカバー縦一段組みで本文約326頁に加え、訳者解説が豪華53頁。9ポイント50字×19行×326頁=約309,700字、400字詰め原稿用紙で約775頁。文庫本なら厚い一冊分ぐらいの分量。

 学者の書いた本のためか、文章はやや硬い。が、内容は特に難しくない。脳内で「話し言葉」に訳しながら読めば、中学生でも充分に理解できる。

 ただ、やたらと登場人物が多いので、できれば登場人物一覧が欲しかった。

【構成は?】

 原則として時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

 まえがき
第一章 成就しなかった予言と失意のメシアたち
第二章 外宇宙からの教えと予言
第三章 地上に言葉を広める
第四章 長い間、指令を待って
第五章 救済のさし迫った四日間
第六章 成就しなかった予言と意気盛んな予言者
第七章 予言のはずれに対するリアクション
第八章 ひとりぼっちで渇ききって
エピローグ
方法論に関する付録
 宗教思想に関連した人名および用語集
 訳者解説

【感想は?】

 真面目な研究の報告なんだろうけど、それよりカルト集団を覗き見る野次馬根性で楽しめた。

 本来のテーマは、認知的不協和。と書くとなんか難しそうだが、要は「痩せたい、でも食べたい」だ。気持ちと現実の板挟みである。

 例えば。ケーキが目の前にあったら、私は何かと言い訳する。「ほんのチョットだけ」「今しか食べられないし」「せっかく出してくれたのに」「後で運動するから」「晩メシで調整する」。つまりは、どうにかこうにか言い訳して、とにかくケーキを食べようとする。

 まあケーキぐらいなら大した問題じゃないが、宗教や政治が関わる信念だと、ちと面倒だ。ハッキリと証拠を示して理路整然と否定されると、逆に意地になって信念にしがみついたり。「愚行の世界史」に曰く、「事実で私を混乱させないで」。そんな風に意地になるには、幾つかの条件がある。曰く…

  1. 何かを硬く信じている。
  2. 信念に基づき、何か行動を起こしている。
  3. 信念が間違っていると、気持ちの上で否応なしに納得してしまう。
  4. しかも、間違いを示すハッキリした証拠がある。
  5. 間違いを指摘されても、同じ信念を支え合う仲間がいる。

 キーチ夫人らのカルト集団は、この条件を検証するのに都合がよかったのだ。

 本書の著者らが観察した集団は、キリスト教の終末思想をベースに、スピリチュアリズムとUFOを混ぜたカルトだ。サイエントロジーやダイアネティックスの亜流ですね。

 中心人物のキーチ夫人は、心霊に憑かれ無意識にメッセージを書き留める。自動筆記(→Wikipedia)だ。心霊の名はサナンダ、キリストの現在の姿である。サナンダは太陽系外の惑星に住む。そこは地球より数百万年も文明が進んでいる。そのサナンダ曰く…

 「12月21日に大洪水が起きるけど、準備ができてる人はUFOが迎えに行くから大丈夫」。

 つまりは終末の予言だ。他にも高次元だの波動だの光と闇だの肉食うなだの金属を身に着けるなだの、ありがちなややこしい事を言ってたようだが、それは置いて。

 この集団の性質が、見事に私の思い込みを覆してくれた。何より、外野からの金銭の寄付の申し出を、「彼らはいつも決まって拒絶した」。そういう意味では純粋なのだ。

 しかも、ほとんど布教しない。著者や協力者が潜り込もうにも、巧く話を持っていかないと、門前払いを食らわす。著者も潜入の際の苦労を、何回か愚痴ってる。マスコミの取材にもなかなか応じない。新聞に予言を出したのも、キーチ夫人じゃない。布教に熱心なアームストロング博士(仮名)の仕業だ。

 そんなわけで、集団の規模は小さい。著者らが直接に出会った人数は、「全部で33人」。やってる事も、集まって話し合ってるだけ。もっとも、遠くから来るため仕事を休んだり、連れ合いの反対を押し切ったり、中には仕事を辞めたり首になったりと、大きな代償を払ってる人もいる。

 カネに汚くもなければ、布教にも不熱心、どころか秘密主義に近い。奇行はあっても爛れた乱行はなく、暴力的な洗脳もない。

 「信仰が人を殺すとき」のモルモン教のように、組織が大きく布教に熱心なら目につくが、こういう小さく秘密主義の集団は目立たない。この集団は、たまたま新聞に載ったから見つかったけど、世の中には、こういう隠れた小さく静かなカルト集団が、見えないだけで実は沢山あるのかも。

 そんな集団が、予言の日が近づき、何事もなく過ぎた時、どう変わるか。これが、この本のクライマックスだろう。

 優れた、そして斬新な創作者は、往々にして一つの地域にまとまった集団で現れる。トキワ荘の漫画家たち、40年代~50年代のハリウッド周辺にタムロしたレイ・ブラッドベリなどのSF作家たち、フランク・ザッパやプリンスの周囲に集まったミュージシャンの「ファミリー」。

 その理由は、こういう事なのかもしれない。

 新しいモノが出てくると、世間はまず叩く。それでも我が道を貫くには、固い信念が要る。そんな信念を支えるのは、同じ熱意を持つ仲間たちだ。レイ・ブラッドベリ曰く、「外へ出て、おなじような境遇の人々をさがすこと――いうなれば、特別あつらえの教会を見つけるわけだ」。

 逆の応用としては、カルトの洗脳を解く手段として、「とりあえず集団から引きはがせ」は有効なのかも。

 などと真面目に読んでもいいが、カルト集団潜入記として野次馬根性で読んでも充分に面白い。

 特に教義に関わる部分は、アブラハムの宗教が持つ終末思想が底にあるので、冷戦期の緊張の一端はコレにあるのかな、と思ったり。でも仏教の末法思想や北欧神話のラグナロクとかあるし、人類にはアリガチな発想なんだろうなあ。

 と、いろいろと妄想が膨らむ本だった。

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2018年5月 9日 (水)

ジョン・クラカワー「信仰が人を殺すとき」河出書房新社 佐宗鈴夫訳

最近の調査によれば、世界中に、信者は千百万人以上いる。モルモン教は西半球でもっとも急成長している宗教なのである。
  ――第1章 聖徒たちの都市

ジョセフ・スミス「私は現世の人々にとって第二のマホメットになるだろう」
  ――第9章 ホーンズ・ミル

「神と対話する者は頭がおかしいという発言は、宗教界全体に大きな波紋を呼んでいる。それは、正気というものの世俗的な見方を押しつけるものであり、すべての宗教が正気でないことを意味するのだ」
  ――第23章 プロヴォの裁判

それはたぶん、自己愛性人格障害だろう。他人が規則を破ったり、不正行為をしたり、パイの分け前を多目にとったりしたと思われるときには、ナルシストはかならず独善的に怒りを爆発させる。しかし、自分がルール違反を犯しても、少しも悪いとは思わないのだ。
  ――第23章 プロヴォの裁判

(モルモン)教会の年間収入は推定で60憶ドルであり、現在、ユタ州では最大の雇用者である。
  ――第25章 アメリカの宗教

「(宗教は)多くの人々がくださなければならない重要な決定を自分でしなくてもすみますし、その決定にも責任がないのです」
  ――第26章 ケイナン山

【どんな本?】

 1984年7月24日、米合衆国ユタ州ハイランドで、母と娘が殺された。母はブレンダ・ラファティ24歳、娘はエリカ・ラファティ1歳。第一発見者はアレン・ラファティ、ブレンダの夫である。朝早く仕事に出かけたアレンは、夜八時に帰宅し、血まみれの二人を見つけたのだ。

 警察は三人の男を逮捕した。一人はリチャード・M・ナップ、宿無しの前科者。他の二人はロンことロナルド・ラファティとダン・ラファティ、アレンの長兄と次兄である。ロン、ダン、アレンのラファティ兄弟は、いずれもモルモン教の極端な原理主義に染まっていた。

 ラファティ家の惨劇の根源に迫る著者は、モルモン教の誕生と歴史、そしてヒトと宗教との関係そのものへと深く分け入ってゆく。19世紀に生まれたモルモン教は、新しいため事件などを検証しやすく、また記録を残す事を重視しているため、成立から現在までの過程が辿りやすいのである。

 惨劇の動機は何か。モルモン教とは何か。なぜロンとダンは凶行に走ったのか。原理主義の何がラファティ家の男たちを引きつけたのか。これらを追う著者は、モルモン教に限らず全ての宗教が持つ性質と向かい合う羽目になる。

 アメリカのジャーナリストが、ラファティ家の惨劇とモルモン教の歴史の二つを軸に、ヒトと宗教の関係に迫る、衝撃のドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Under the Banner of Heaven : A Story of Violent Faith, by Jon Krakauer, 2003。日本語版は2005年4月30日初版発行。単行本ハードカバー縦二段組みで本文約416頁に加え、作者の言葉8頁+高橋弘「日本語版のための解説」6頁。8.5ポイント24字×21行×2段×416頁=約419,328字、400字詰め原稿用紙で約1,049枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。今は河出文庫から文庫版が出ている。

 文章は比較的にlこなれている。内容もそれほど難しくない。ただし登場人物がやたらと多く、人間関係が込み入っているので、人物一覧が欲しかった。また、モルモン教の歴史を語る所では、アメリカ合衆国の地図があると便利。あと、単位がヤード・ポンド法だ。1フィートは約30cm、1マイルは約1.6km。

【構成は?】

 先に書いたように、人間関係がややこしいので、素直に頭から読んだ方がいい。

  • プロローグ
  •   第一部
  • 第1章 聖徒たちの都市
  • 第2章 ショート・クリーク
  • 第3章 バウンティフル
  • 第4章 エリザベスとルビー
  • 第5章 第二の大覚醒
  • 第6章 クモラの丘
  • 第7章 静かなる細き声
  • 第8章 調停者
  •   第二部
  • 第9章 ホーンズ・ミル
  • 第10章 ノーヴー
  • 第11章 教義
  • 第12章 カーシッジ
  • 第13章 ラファティの男たち
  • 第14章 ブレンダ
  • 第15章 力のある強い者
  • 第16章 殺害
  •   第三部
  • 第17章 退去
  • 第18章 水では
    役に立ちそうもないから
  • 第19章 スケープゴート
  • 第20章 神の御旗のもとに
  •   第四部
  • 第21章 福音主義
  • 第22章 リーノ
  • 第23章 プロヴォの裁判
  • 第24章 大いなる恐ろしい日
  • 第25章 アメリカの宗教
  • 第26章 ケイナン山
  • 作者の言葉/謝辞/覚え書き
  • 日本語版のための解説 高橋弘
  • 参考文献

【はじめに】

 「作者の言葉」に、こうある。

宗教について書く者は、読者にたいし自らの神学的な判断基準を明確にしなければならない

 私もそう思う。著者は不可知論に近い。要は「わからん」だ。そういう人が書いた本である。

 私はスチャラカ仏教徒だ。結婚式や葬式では、そこの様式に従う。宗教とは儀式の様式や振る舞い方の流儀であり、生き方や世界観とは関係ない。神や仏は脳のバグだ。ヒトの脳は、それらをデッチあげるクセがある。つまり「ヒトはなぜ神を信じるのか」にかぶれたわけ。とりあえず、今のところは、そう考えている。

 ある宗教の歴史と、そこから派生した原理主義の一派について、不可知論者が書いた本を、無神論者が紹介する。これはそういう記事です。

【感想は?】

 モルモン原理主義者の凶行を追ったら、宗教の本質を垣間見てしまった、そんな本だ。

 いきなり驚いたのは、モルモン教といっても、一枚岩じゃないこと。最大派閥は末日聖徒イエス・キリスト教会(→Wikipedia)だが、他にもたくさんの宗派があり、「我こそは本物」と主張し、互いにいがみ合ってる。

 この本では、まず原理主義者たちの暮らしを描く。次に19世紀の教祖ジョセフ・スミスから始まるモルモン教の歴史を辿る。モルモン教は幾度も分裂を繰り返し、その過程で原理主義者たちを生み出すのだが、ここを読んでいくと、原理主義者が生まれるのは必然と思えてくるから怖い。

 ちなみに原理主義者と一言で言っても、小さな派閥が沢山あるからややこしい。加えて、この本が描く原理主義者の多くは一夫多妻で、これが人間関係、特に家族関係を更にややこしくしてる。

 ロンやダンなど原理主義者たちのやり口は、実に腹立たしい。一夫多妻はともかく、妻子を殴り、人付き合いを制限し、教育を受けさせず、テレビ・雑誌・新聞に触れさせない。ばかりか、12~3歳の娘に結婚を迫り、逆らえば強姦してでも従わせる。

 ダンに至っては、運転免許証まで「ユタ州に送りかえし」ている。明らかに頭がおかしい。

 そんな連中がカナダ・メキシコ・米合衆国に3~10万人もいるというから恐ろしい。しかも、そんな連中の一つは「年間六百万ドル以上の補助を受けているのである」。ほとんどペテンなんだが、金を受け取る側は、それが当然であり、もっと毟り取るべきと思っているんだよなあ。

 こんな連中を生み出したモルモン教の歴史は、虐殺してはされての繰り返し。

 そもそも信徒以外を「異邦人」と呼び見下す姿勢であるばかりでなく、何より一夫多妻が世間から忌み嫌われた。教祖のジョセフ・スミスからして40人の妻を娶った上に、「売春宿によく出入りしていた」というから、どんだけ精力が有り余ってるんだ。

 笑っちゃうのが、最初は「自分で神の声を聞け」と言ってたジョセフが、後で取り消したこと。だって…

神がモルモン教徒全員に直接語りかければ、ほかの者たちに告げられた相容れない真理よりも、ジョセフに啓示された真理のほうが正当なものであることを、誰が決めることになるだろう?
  ――第7章 静かなる細き声

 いくつかの意見が対立したら、どれが本物の神の声なのか、区別がつかないよね。にしても、神の声が聞こえるって、統合失調症の症状みたく思えるんだが。まあいい。これに限らず、初期の教えは幾つかの問題を抱え、後に多くの宗派に分かれる元凶を幾つか孕んでいた。

 その最大のものが一夫多妻で、当初は一部の者以外には内緒にしていたが、「調停者」なる本にコッソリ記している。また、三代目大管長ジョン・テイラーも…

「一夫多妻制は神のしきたりです」
  ――第20章 神の御旗のもとに

 と、宣言してたり。これが元で合衆国政府から睨まれ、1890年10月6日に屈服する。他にも妻子を殴って支配するのも…

ここで、妻は、従者、お手伝い、牛、馬と同様、夫の所有物であることを宣言する
  ――第8章 調停者

 と、ジョセフの教えに基づく行いであり、またダン・ラファティが運転免許証の返却も…

ダンはまた、神の法が人間の法律に優先する、とジョセフが教えていたことも知った。
  ――第13章 ラファティの男たち

 これまた、当初の教えに忠実に従っただけ。他にも黒人差別が(少なくとも)1978年まで続いてたり(黒人は神権保持者になれなかった)、今の常識からすると狂ってるんだが、そういう教えなんだから仕方がない。当然、反発をかい、無理に押し通せば合衆国を敵に回す。組織そのものを潰されたら元も子もないので、教会は膝を屈して世間に合わせる。

 だが、信心深い教徒が、モルモン教に真摯に向き合い、より純粋な教えに立ち返ろうとすると、どうしても原理主義者になってしまう。その結果、教会から叩き出される。もともと信心深い人なので、信仰は捨てられない。そこで考え方が似た同志=原理主義者に合流する。

 だが、原理主義者は、いずれも強い信念をもって独自に真理に達した人たちだ。しかも、それぞれが個々に神の声を聞いている。神が語る言葉は人によって違うが、その言葉は絶対だ。だから妥協もできず…

 などの構図が、モルモン教の歴史と、現在の原理主義者たちの生い立ちから、次第に浮かび上がってくる構成は見事。ちなみにモルモン教の経典が記す人類史も、なかなかキていて楽しい。モロナイ,ニーファイ,レーマンなどの単語も、なんかファンタジイっぽい響きがあってワクワクする。

 これだけなら「モルモン教ってなんか怖いね」で終わるのだが、最後の第四部では、そんな読者の足元を一気に突き崩すから意地が悪い。

 ここではモルモン教の歴史とラファティ兄弟の裁判が合流し、兄弟の精神鑑定をめぐって、モルモン教に限らず、あらゆる宗教に対し厳しい問いを突き付けるのだ。ここではオウム真理教による地下鉄サリン事件を思い浮かべてもいいだろう。

 ある意味、とても危険な本だ。筋金入りの無神論者か、救いようのないスチャラカ者なら、野次馬根性を満足させるだけで済むだろう。だが、真面目に信仰している人にとっては、自分だけでなく家族を巻き込んで破滅させる劇薬になりかねない。警告はした。あとは各自で判断してください。

【関連記事:ワクチン編】

 まずは毒消しや予防薬になりそうな本をいくつか。特に「ヒトはなぜ神を信じるのか」は効きます。

【関連記事:宗教編】

 次に宗教関係の本を。「カルトの子」は強烈です。

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2018年4月15日 (日)

スティーヴン・ウィット「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」早川書房 関美和訳

「なんでこのことを今までだれにも話さなかったんだ?」
「ああ、だって聞かれなかったから」
  ――イントロダクション

音楽トレンドを理解することはすなわち黒人音楽を理解することだった。
  ――3章 ヒットを量産する

「自分がなにをやってのけたか、わかってる?」最初のミーティングのあとにアダーはブランデンブルグに聞いた。「音楽産業を殺したんだよ!」
  ――4章 mp3を世に出す

mp3の不正コピーをなくすには、そmの代わりになる合法なやり方を提示するのがいちばんだった。
  ――7章 海賊に惚れ込まれる

ナップスターのブームは音楽産業の史上最高の2年間と重なっていたし、(ダグ・)モリスでさえしばらくの間はナップスターのファイル共有がCD売上を押し上げたと考えていた。
  ――9章 法廷でmp3と戦う

1999年から2009年にかけて北米のコンサートチケット売上は3倍になった。多くのミュージシャンがレコーディングよりツアーから多くの収入を得るようになってきた。
  ――18章 金脈を掘り当てる

2011年には、蓄音機の発明以来初めて、アメリカ人は録音された音楽よりもライブにおカネを落としていた。
  ――エピローグ

【どんな本?】

 私はラジオで育った。ラジオから流れる曲をカセット・テープに録音し、ウォークマンで持ち歩いた。今は iTunes でリッピングした曲を iPod nano で聴いている。自宅のパソコンに向かう時は、インターネット・ラジオや Youtube で音楽を流している。

 Youtube はいい。昔ならお茶の水や新宿の輸入レコード屋にあしげく通い、埃にまみれた中古版や海賊版を漁り、それでも数カ月で手に入れば幸運なんてレアな音源が、今は Youtube で検索すればスグ出てくる。

 動く Paul Kossoff がいつでも見られるとは、なんていい時代だろう。おお Randy Meisner, 昔はスマートだったなあ。つか Gryphon, Treason なんてアルバム出してたのか。長く幻のバンドだったってのに、ライブの映像まであるぜウヒャヒャ…

 などと恩恵を受けているのは、年寄りばかりじゃない。どころか、ポピュラー・ミュージックの主な聴き手である、若者こそが最大の恩恵を受け、ボーカロイドなどネット環境ならではの新しい音楽も生み出した。そして、世界的に、音楽ビジネスは大きな変革を迫られている。

 この変革は、どこから始まったのか。どんな者が、どんな役割を果たしたのか。mp3 を創り出したカールハインツ・ブランデンブルグ,CDプレス工場で働くデル・グローバー,そして米国音楽界を牛耳るダグ・モリスの三者を軸に、音楽産業の革命をドラマチックに描く、エキサイティングなドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

原書は How Music Got Free : The End of an Industry, The Turn of the Century, and the Patient Zero of Piracy, by Stephen Witt, 2015。日本語版は2016年9月25日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約334頁に加え、訳者あとがき4頁。9.5ポイント43字×17行×334頁=約244,154字、400字詰め原稿用紙で約611枚。文庫本なら少し厚めの一冊分。

 文章はこなれている。というか、少し最近のネット文体の香りがする、くだけた文体。内容も特に難しくない。技術的な話も少しは出てくるが、わからなければ読み飛ばして構わない。というか、少々怪しい所もある。それより、2000年以降の音楽、それもヒップホップ系に詳しいと、更に楽しめる。

【構成は?】

 話は時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

  •  主な登場人物
  • イントロダクション
  • 1章 mp3が殺される
  • 2章 CD工場に就職する
  • 3章 ヒットを量産する
  • 4章 mp3を世に出す
  • 5章 海賊に出会う
  • 6章 ヒット曲で海賊を蹴散らす
  • 7章 海賊に惚れ込まれる
  • 8章 「シーン」に入る
  • 9章 法廷でmp3と戦う
  • 10章 市場を制す
  • 11章 音楽を盗む
  • 12章 海賊を追う
  • 13章 ビットトレント登場
  • 14章 リークを競い合う
  • 15章 ビジネスモデルを転換する
  • 16章 ハリポタを敵に回す
  • 17章 「シーン」に別れを告げる
  • 18章 金脈を掘り当てる
  • 19章 海賊は正義か
  • 20章 法廷で裁かれる
  • エピローグ
  •  情報源についての注意書き
  •  謝辞/訳者あとがき/原注

【感想は?】

 若い人には歴史だろうけど、オッサンには懐かしい話がいっぱい。

 なんたって、MS-DOS の時代から話が始まる。今をときめくmp3も、当時は絶命寸前ってのには驚いたし、AACとの関係も全く知らなかった。

 ブランデンブルグの目の付け所もいい。mp3は圧縮率の割に音質がいい反面、処理に時間がかかる。将来、CPUの性能はガンガン上がるので、処理時間は問題じゃなくなる。が、回線速度は上がりにくいので、圧縮率がネックになる。

 ここで最初の利用者が全米ホッケーリーグってのも、意外ではあるが納得。確かにスポーツ中継はライブじゃないとね。細い蜘蛛の糸一本で生きながらえたmp3は、お堅い研究者には思いもよらぬ形で市場を制覇してゆく。

 などの開発者に続き、登場するのがCDプレス工場で働くデル・グローバー。メカ好きではあっても研究者ではなく、ありがちなコンピュータ・オタク。職場じゃ真面目に残業をこなしつつ、やがては音楽海賊シーンの隠れた大物になってゆく。うんうん、当時は「パソコン通信」だったねえ。

 彼を中心に描かれるのは、ネットの中で繰り広げられる、胡散臭いコミュニティーの群雄割拠と栄枯盛衰。得体のしれない連中が寄り集まっては別れ、栄誉を求めて競い合うあたりは、「あの頃」のカビ臭い香りが漂ってきて、オジサンはちょっと遠い目になったり。

 グローバーや仲間たちが、発売前の音源を盗み出す多彩な手口も、驚くやら呆れるやら。日本版のボーナストラックって、案外と価値あるのね。

 そして最後に登場するダグ・モリスは、米国音楽界の大物ビジネスマン。彼を中心に描かれるアメリカのミュージック・ビジネスは、音楽好きな者に複雑な気持ちを湧きあがらせる。なんたって、CDの価格が安い。$16.98でも「強気の価格」とは。ちなみに原価は$1未満。

 彼が新人を発掘するあたりも、アメリカの音楽シーンの豊かさを物語る。例えばカレッジ・チャート。向こうの大学には(たぶんFM)ラジオ局があって、独自の番組を作って放送している。

 これはたぶん電波法の違いが大きいんだろうけど、お陰で大学に限らず有象無象の小さなラジオ局がウジャウジャあるのだ。競争が激しいため、カントリーばっかしとかラップだけとか局ごとの個性も豊かで、ご当地スターも沢山いる。そういう所から、新しいミュージシャンが次々と生まれるのだ。

 大物ミュージシャンも若者の発掘に熱心で。日本だと小室哲哉とつんく♂ぐらいしか知られていないけど、例えば KISS のジーン・シモンズはメタル系を、プリンスもファミリーを組みシーラ・Eなどを育てている。ごめんね、例えが古くて。

いやこの本に出てくるのはヒップホップ系が多いんだけど、私はソッチをよく知らないのよ。時代的にヒップホップが市場を呑みこんでいく頃を描いているため、出てくるのも2パックやジェイ・Zなど、そっちの人が多く、彼らが津波のように米国音楽界を席巻していく様子も生々しく描かれる。

 などと並行して、大企業病に冒された日本の家電企業とイケイけな韓国企業の対比、ラジオ局とレコード会社の薄暗い関係、海賊とFBIのチェイス、アップルの殴り込み、そしてもちろんナップスターなど、「あの頃」の楽しい話題がいっぱい。

 今の時代がとってもエキサイティングな事を再確認させてくれる。とっても楽しくて少し懐かしい本だ。

【関連記事】

【どうでもいい話】

 ところで。ラジオがテーマの曲っていうと、何を思い浮かべます? 私はこんな所かなあ。

  • カーペンターズの「イエスタデイ・ワンス・モア」
  • ジャーニーの「レイズド・オン・レイディオ」
  • バグルスの「ラジオスターの悲劇」
  • RCサクセション の「 トランジスタ・ラジオ」
  • スティーリー・ダンの「FM」

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2018年3月15日 (木)

ジェシー・ベリング「ヒトはなぜ神を信じるのか 信仰する本能」化学同人 鈴木光太郎訳

「神を信じる本能」のようなものがあったりするのだろうか?
  ――はじめに

私たちヒトは――そして多少はゴリラやチンパンジーもかもしれないが――「生まれついての心理学者」になるように進化してきた。(略)ほかの人間の側から見るとどう見えるのかというストーリーをもたらす脳を発達させなければならなかった。
  ――1章 ある錯覚の歴史

私たちは、実際には心をもたないモノに対しても、心の状態を帰属してしまうのだ。
  ――2章 目的なき生

目的とは人間が作ったものだ。
  ――2章 目的なき生

本当の謎は、なぜ生命の目的というこの疑問が、論理的な科学をまえにしても、これほど気をそそり、強固なのかにある。
  ――2章 目的なき生

激論を引き起こすような問題に関係している時にはつねに、私たちの大部分は、神も自分たちと意見を同じくしているという強い確信をもっている。
  ――3章 サインはいたるところに

科学的心理学の研究者からすれば、中心となる問題は、死後の世界があるかどうかではなく、なぜそもそもそんな疑問が生じるのかである。
  ――4章 奇妙なのは心の死

一般には他者についてより多くの情報をもてばもつほど、彼らについて適応的判断を下すうえで有利な立場になる。
  ――6章 適応的錯覚としての神

自分の正体を隠して戦闘に臨んだ戦士は、隠さない戦士よりも、相手を殺し、切り裂き、苦しめることが多い。
  ――6章 適応的錯覚としての神

【どんな本?】

 科学が進歩してインターネットが普及しても、神の名の下にテロに走る若者は後を絶たない。わかりやすい品種改良のサンプルである犬を飼っている人でも、進化論を拒む人は多い。そして地震や洪水などの災害があれば、「神の怒りだ」とl決めつける者もいる。

 なぜ「神」という概念は、これほどまでに根強いのか。

 心理学の研究者からコラムニストに転身した無神論者の著者が、ヒトの持つ心理的な傾向から「神を信じる気持ち」について分析する、一般向けの解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Belief Instinct : The Psychology of souls, Destiny, and the Meaning of Life, by Jesse Bering, 2011。日本語版は2012年8月25日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約257頁に加え、訳者あとがき4頁。9ポイント45字×18行×257頁=約208,170字、400字詰め原稿用紙で約521枚。文庫本なら標準的な厚さの一冊分。

 文章は普通、かな。エッセイにしては硬いが、哲学書にしてはこなれている。内容は特に難しくない。国語が得意なら中学生でも読みこなせるだろう。

【構成は?】

 原則として前の章を受けて後の章が展開する形なので、できれば頭から読む方がいいい。

  • はじめに
  • 1章 ある錯覚の歴史
  • 2章 目的なき生
  • 3章 サインはいたるところに
  • 4章 奇妙なのは心の死
  • 5章 神が橋から人を落とす時
  • 6章 適応的錯覚としての神
  • 7章 いずれは死が訪れる
  • 謝辞/訳者あとがき/註/参考文献/索引

【感想は?】

 まずお断りしておく。これは宗教書じゃない。

 なんたって、著者は無神論者だ。よって、信心深い人には向かない。特にアブラハムの宗教を硬く信じている人には、不愉快な本だろう。

 ただし、「反★進化論講座 空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書」のように、信仰心を茶化して面白がる本ではないし、リチャード・ドーキンスのように、理詰めで神を否定し、「これだけ言ってもまだわからないのか!」と信者を追い詰めるわけでもない。

 最近の本には珍しく、書名が見事に内容を表している。なぜ人は神なんてシロモノをデッチあげるのか。そのメカニズムを探る、そういう姿勢の本だ。

 ちなみに「神」と言っても、聖書の神と天神様じゃだいぶ違うが、あまり気にしなくていい。本書では神の他にも、死後の世界や創造主、神の怒り(または祟り)なども重要なテーマとなる。つまりは、「そういう世界観」の代名詞として、「神」と言っているのだ。

 だから、所によっては、UFO や守護霊や星占い、差別主義者や陰謀論に至るまで、多くのトンデモさんにも当てはまりそうな理屈を順々と説いてゆく。

 そのキモとなるのが、「心の理論」(→Wikipedia)だ。

 なんか難しそうだが、幼い子供じゃない限り、たいていの人が持っている能力である。例えば、人通りの多い道で、私が立ち止まって空を見あげ指をさしたら、他の人もつられて私と同じ方向を見てしまう。なぜか。

 「アイツが指をさしている。ソッチに何かがあるからだろう」と、私の心を推し量るからだ。ヒトは、他のヒトの心を「読む」能力がある。というか、意図して読もうとしなくても、反射的に読んでしまう。役者や手品師、そしてペテン師はこれを巧みに操る。

 この能力は本能的なものだ。だから、制御が難しい。読む対象がヒトだけならともかく、他の動物やモノにまで、心があるように感じてしまう。

 お陰で私はアニメやゲームや漫画が楽しめるんだが、ソコに居るのはヒトじゃない。ドットやインキがパターンを成しているだけだ。わかった「つもり」になっちゃいるが、もちろん勘ちがいである。そして、ヒトって生き物は、勘違いするようにできているのだ。

 勘ちがいは、「ソレに心がある」だけに留まらない。「ソレには何か目的/意図がある」「私に向けたメッセージがある」「そうなった原因がある」と、勝手に決めつけてしまう。

 この決めつけにも、強弱がある。道を歩いていて信号が赤になった程度なら、決めつけは弱いので、理性が勝つ。しかし、大切な人が亡くなるなど、感情を大きく揺さぶられると、「単なる偶然」や「わからない」では納得できない。どうにかこうにかして、原因や目的をデッチあげようとする。

 ヒトの脳ミソには、そういう癖があるのだ。

 と書くとヒトゴトみたいだが、もちろん私にも色々と心当たりがある。比較的に認めやすいのが、「わからない」じゃ納得できない気持ち。入れ込んじゃった物語は、ちゃんとケリがついて欲しい。榊版ガンパレは唖然としたし、三浦健太郎はベルセルクをちゃんと完結させてほしい。

 理性が勝るように見えるSF作家も、やっぱり「わからないじゃ納得しない」に囚われてる。グレッグ・イーガンにしても、数学や物理学の探求にドップリ浸かってたり。とか人を引き合いに出す前に、私自身が「宇宙の秘密を探る」類のお話が大好きだし。

 そこで「わからない」に納得せず安易な解に飛びつくと、原理主義やトンデモさんや差別主義に行きついてしまうのだ。

 ってな事を、5章まで多くの例を挙げて検証していく。多くの例が学術研究による統計数字なのに対し、ときおり幼い頃に亡くなった母親の話が混じっていて、これが結構しっとりきたり。

 熱心なクリスチャンであるC・S・ルイスの「沈黙の惑星より」を読んだとき、絶望的なまでの世界観の違いを感じた。ソレが何なのか、私は巧く語れなかったが、この本はスッキリと説明してくれたように思う。と当時に、本書の著者の仮説が当たっていれば、会話や説得、まして嘲笑は無駄だろうなあ、とも。

 とまれ、手品はタネを明かせば一気にシラけるわけで、今後も研究を続けて欲しいなあ。

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2018年3月 8日 (木)

A・V・バナジー+E・デュフロ「貧乏人の経済学 もう一度貧困問題を根っこから考える」みすず書房 山形浩生訳

本書は、援助すべてがいいとか悪いとかは言いません。でも、援助の特定の事例が、何かいい結果をもたらしたか、もたらさなかったかは述べます。
  ――第1章 もう一度考え直そう、もう一度

ほとんどの富裕国専門家たちが開発援助や貧困に関する問題で取る立場というのは、その人固有の世界観に左右されることが多いのです。
  ――第1章 もう一度考え直そう、もう一度

18カ国で集めたデータによると、貧しい人々はラジオやテレビがないところに限って、祭りにたくさんの金をつぎこむ傾向にあります。
  ――第2章 10億人が飢えている?

問題は、貧しい人々が健康にいくら使ってるかということではなく、何にお金を使っているかということです。安価ですむ予防よりも、高くつく治療にお金が使われているのです。
  ――第3章 お手軽に(世界の)健康を増進?

わたしたちの本当の強みは、当然のように享受している多くのことから来ています。きれいな水の出る水道がひかれた家に住んでいます――毎朝忘れずにクローリン(消毒剤)を水に加える必要はありません。
  ――第3章 お手軽に(世界の)健康を増進?

ムハマドオ・ユヌスやパドマジャ・レディのような人々のイノベーション(マイクロファイナンス)は、もっと手の届く金利で貧乏人に融資するという発想だけではありません。それを実現する方法を考案したことなのです。
  ――第7章 カブールから来た男とインドの宦官たち

多くの貧乏な人の貯金方法はお金を他人から安全に守るだけでなく、自分自身から守るようにも意図されているのです。
  ――第8章 レンガひとつづつ貯蓄

雇用の安定性こそが、中流階級と貧乏な人々との大きなちがいのようです。
  ――第9章 起業家たちは気乗り薄

ウガンダ政府は学校に対し、(略)補助金を出し(略)てします。中央政府が学校に割り当てたこの資金のうち、実際に学校の手に渡るのはいくらなのでしょうか?(略)
資金のうち学校に届いたのはたった13%。
  ――第10章 政策と政治

優勢な集団からの選出者は、腐敗率が高かったのです。
  ――第10章 政策と政治

【どんな本?】

 「アフリカでは×億人が飢えて云々」と昔から言われてきた。そして、ずっと援助もされてきた。だが、それで貧困が消えたという話はまず聞かない。着実に成長しているボツワナは、奇蹟とまで言われる始末だ。まるで成長しないのが当たり前のようではないか。

 なぜなのだろう。どうすればいいのだろう。これには、様々な意見がある。

 例えばグラミン銀行で有名なムハマド・ユヌスは、ソーシャル・ビジネスが正解だと語る(「貧困のない世界を創る」)。貧しい者でも起業家精神はある、ただ起業資金が調達できないのだ、と。そこで貧しい人向けのグラミン銀行を創り出し、同様のマイクロ・ファイナンスは世界中に広がった。

ジェフリー・サックスは、こう主張する。彼らは「貧困の罠」に囚われている。貧しいがゆえに稼げないのだ、と。そこで二次大戦後に合衆国が西欧を支援したマーシャル・プランのように、ドカンと大きな支援を、と主張する(「貧困の終焉」)。

 これに対し、「支援は無駄だ」とする立場もある。

 例えばダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンスンは、政治制度が問題の根源だと説く(「国家はなぜ衰退するのか」)。事態をよくするには、革命ですら不足で、徹底した制度改革が必要だ、と。

 また、ウィリアム・イースタリーは、下手な援助は逆効果だ、と言う。解は自由市場と適切なインセンティブ(動機付け)だ、と。

 これらの主張に対し、著者らは実験で統計を取り、成果を測ってみた。また、成功した事例・失敗した事例それぞれにつき、実際に支援の対象となる人々の声を聞き、またその家計の収支にまで踏み込み、各実験の成否の原因を突き止めてゆく。

 そこで見えてくるのは、もっと微妙な要因が成否を左右しているらしい、という事実である。貧しい人々の暮らしを知ることが大事なのだ、と。

 果たして援助は役に立っているのか、いいないのか。役に立つとしたら、どんな支援が効果的なのか。なぜ支援が無駄になるのか。どうすれば無駄を減らせるのか。または革命ですら無駄なのか。

 多くの統計データに加え、個々の人々の暮らしぶりから得た具体例を用い、適切な支援のあり方を示すと共に、そもそも「貧しいとはどういうことか」を私たちに突きつける、リアリティあふれる経済学の本。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Poor Economics : A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty, by Abhijit V. Banejee + Esther Duflo, 2011。日本語版は2012年4月2日発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約349頁に加え、訳者解説が豪華12頁。9ポイント46字×18行×349頁=約288,972字、400字詰め原稿用紙で約723枚。文庫本なら厚い一冊分の分量。

 文章は比較的にこなれている。内容も意外と難しくない。ただ、貧しい人の暮らしの本なので、生まれつき豊かな人にはピンとこないかも。もちろん。私にはグサグサきました。そう、貧しいってのは、そういう事なんだよなあ。

【構成は?】

 全体としての流れはあるが、個々の章だけでも一応は完結しているので、美味しそうな所をつまみ食いしてもいい。

  • はじめに
  • 第1章 もう一度考え直そう、もう一度
    貧困にとらわれる?
  • 第1部 個人の暮らし
  • 第2章 10億人が飢えている?
    本当に10憶人が飢えているのか?/貧乏な人々は本当にしっかり十分に食べているのか?/なぜ貧乏な人々は少ししか食べないのか?/だれも知らない?/食べ物より大事/結局、栄養摂取による貧困の罠は実在するのか?
  • 第3章 お手軽に(世界の)健康を増進?
    健康の罠/なぜこれらの技術はもっと利用されないのか?/十分に活用されない奇跡/健康改善願望/お金をドブに捨てる/みんな政府が悪いのか?/健康追及行動を理解する/無料は無価値のあかし?/信仰?/弱い信念と希望の必要性/新年の誓い/後押しか説得か?/ソファからの眺め
  • 第4章 クラスで一番
    需要供給戦争/需要ワラーの言い分/条件付き補助金の風変わりな歴史/トップダウン型の教育政策は機能するか?/私立学校/プラサム対私立学校/期待の呪い/幻のS字曲線/エリート主義的な学校教育/なぜ学校は失敗するのか/教育の再設計
  • 第5章 パク・スダルノの大家族
    大家族の何が問題か?/貧乏人は子作りの意思決定をコントロールするのか?/セックス、制服、金持ちおじさん/だれの選択?/金融資産としての子供/家族
  • 第2部 制度
  • 第6章 はだしのファンドマネージャ
    貧乏のもたらす危険/ヘッジをかける/助け合い/貧乏人向けの保険会社はないの?/なぜ貧乏人は保険を買いたがらないの?
  • 第7章 カブールから来た男とインドの宦官たち
    貧乏人に貸す/貧乏人融資のやさしい(わけではない)経済学/マクロ計画のためのマイクロ洞察/マイクロ融資はうまくいくのか?/マイクロ融資の限界/少し大きめの企業はどうやって資金調達を?
  • 第8章 レンガひとつづつ貯蓄
    なぜ貧乏人はもっと貯蓄しないのか/貯蓄の心理/貯蓄と自制心/貧困と自制心の論理/罠から抜け出す
  • 第9章 起業家たちは気乗り薄
    資本なき資本家たち/貧乏な人のビジネス/とても小さく儲からないビジネス/限界と平均/企業はむずかしすぎる/職を買う/よい仕事
  • 第10章 政策と政治
    政治経済/周縁部での変化/分権化と民主主義の実態/権力を人々に/民族分断をごまかす/政治経済に抗して
  • 網羅的な結論にかえて
  • 謝辞/訳者解説/原注/索引

【感想は?】

 結論は簡単だ。万能の策はない。が、個々の問題に効く方法はあり、限界もまたある。

 問題解決なんて何でもそうだが、つまりは「細かい所が大事」なのだ。そして、現場をよく知ることも。って、まるでソフトウェアの開発か薬みたいだ。

 この本の特徴は、二つだろう。第一に、それぞれの支援方法を、ランダム化対照実験(またはランダム化比較実験,RCT,→Wikipedia)で効果を測っている点。薬の二重盲検のように、実験で支援の効果を測っている点だ。これにより、統計的な数字が出てくる。

 次に、実際に貧しい人々の所に出かけてゆき、なぜ支援の効果が出たのか/出ないのかを、支援される人々に訪ね、原因を探っている事だ。そこで、オフィスではわからない「現場の事情」が見えてくる。ちょっとした手順の違いが、大きな効果を生み出す事もあるらしい。

 手順の違いの興味深い例が、終盤に出てくる。世銀が金を出し、インドネシアの村の道や灌漑水路を修理する計画KDPだ。村で集会を開いたら、成人数百人中、平均50人しか出てこない。うち半数は地元のエリート。発言したのも8人だけ、うち7人はエリート層。これじゃ貧しい人の話は聞けない。

 そこで、手紙で村人に出席を依頼したところ、出席者は65人に増えた。これには続きがある。

 一部の村では、手紙にアンケート用紙をつけた。手紙を配る際、二つの方法を取った。片方は学校で子供に渡し、家に届けるよう頼む。もう一方は村の長が配る。この配り方で、アンケートの結果が違ってくるから面白い。学校経由で配ると、批判的な答えが増えるのだ。

 どうもアンケートは、受ける人の微妙な気持ちの違いに強く影響されるらしい。

 「経済政策で人は死ぬか?」では、不況時にこそ医療と教育を充実させろ、とある。これは不況だけでなく発展途上国も同じで、特に妊婦と子供がお得。ラテンアメリカの調査によると、マラリアに罹らないだけで、成人後の年収が5割ほど増えるとか。子供を大事にする国は伸びるのだ。

 だが、教育は難しい。「ご冗談でしょう、ファインマンさん」では、ブラジルの科学教育の酷さを嘆いていた。この本ではインドの例で、その歪みを植民地時代に求めている。

 宗主国イギリスが求めたのは「現地のエリートとなる役人」であって、賢い労働者じゃない。だから、優等生だけを優遇し、他の者は落ちこぼれるままにした。落ちこぼれた者は、授業が分からないし学校がつまらないので通わなくなる。

 皮肉なのは、親も不登校を「仕方がない」とすぐ認めちゃうこと。周りにも学校に行かない子が多いので、「そんなもんだ」と思ってるんだろうか。子が不登校だと親が焦る日本と、どっちがいいのやらw

 が、ちゃんと成功例もある。1991年、エチオピアからイスラエルに一万五千人が移住してきた。親の多くは1~2年しか教育を受けていないが、「エチオピア出身の子供のうち65%が、落第することなく第12学年に達していました」。日本だと高校卒業に当たるのかな。ちなみにロシアからの移民だと74%。

 環境を整えて、基礎をちゃんと教えれば、なんとかなるのだ。但し、教師にも相応の訓練が要るけど。といっても、アメリカのボストンの例だと、1週間~10日程度の研修で身につくらしい。加えて、習熟度別のクラス分けも効果があるとか。なんで日本は飛び級を認めないのかねえ。

 とかの制度的な話も面白いが、貧乏ならではの苦労も身につまされたり。

 例えば水だ。私たちは断水でもしなけりゃ、まず水に困らない。日本の水道水は塩素で消毒されてるから、赤痢の心配もない。だが、水道がないインドの村では違う。彼らは、毎朝クローリンで水を消毒しなきゃいけない。貧しいってのは、病気を防ぐってだけでも、手間と費用が嵩むってことなのだ。

 など、私の好みを反映した例ばかりを抜き出したが、そうでない例も出てくる。例えばマイクロファイナンスについて、効果は認めながら「でも限界はあるよ」と、かなり痛い所を突いてきたり。その最たるものが、冒頭の引用ウガンダが学校に出す補助金だろう。どうやら地区の役人がネコババしたらしい。

 が、ちゃんとオチもついてる。これが明るみに出ると大騒ぎになり、財務省が新聞で送金額を発表するようになった。結果、学校は80%を受け取れるようになったとか。つまりは情報公開が大事なのかも。だってのに、わが国はブツブツ…

 他にも税金の納め方の違いが社会構造や経済発展に影響する例とかもあって、これは給料天引き制度の日本人にはかなりショッキング。今すぐ役立つ本ではないけど、多少なりとも経済政策や権力構造に興味があるなら、きっと楽しく読めるだろう。

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2018年1月28日 (日)

ジョン・ロンソン「ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち」光文社新書 夏目大訳

「森の中で獲物を追いかけているハンターのような気分かもしれません」
  ――第二章 誰も気づかなかった捏造

どうも皆、実際の私とは違う別の(略)人物を作り上げていたような気がします。
  ――第四章 世界最大のツイッター炎上

「フェイスブックは友人に嘘をつく場所で、ツイッターは見知らぬ他人に本音を話すところ」
  ――第四章 世界最大のツイッター炎上

「他人から勝手に自分の物語を押し付けられても相手にしてはいけない」
  ――第一〇章 独白劇の捏造

公衆の面前で誰かにわざと恥をかかせれば、その人を本来とは違う姿に見せることができる。
  ――第一二章 法廷での羞恥

「あらゆる暴力は、その被害者から自尊心を奪い、代わりに恥の感情を植え付ける。それは事実上、その人を殺すのと同じだ」
  ――第一三章 恥なき世界

「インターネット上での情報の流れを支配しているのは、わずかな数の大企業です」
  ――第一五章 あなたの現在の速度

【どんな本?】

 インターネットには、力がある。以前は理不尽に抗えなかったごく普通の市民が、インターネットで訴えることで多くの人々の共感を呼び、強大な組織に対抗できるようになった。

 相手が大企業や自治体なら、これも進歩と言えるだろう。だが、炎上は対象を選ばない。時としてインターネットは、普通の市民も追い詰める場合がある。

 不謹慎なギャグをつぶやいた者。シモネタで友人と盛り上がった男と、その男を告発した女。敬意を表すべき場所でおちゃらけた写真を撮った者。彼らはインターネットで猛攻撃を受け、職を失い、失意の日々を過ごす羽目になった。どころか、単に名前が同じというだけで、巻き添えになる人もいる。

 誰が、どんな目的で彼らを追い詰めるのか。なぜ多くの人が集まるのか。そこには、どんなメカニズムが働いているのか。

 かと思えば、醜聞にもめげず今まで通りの暮らしを送る者もいれば、自ら恥をさらすような仕事に勤しむ者もいる。

 晒し物になると、人はどうなるのか。苦しむ者とそうでない者は、何が違うのか。なぜ苦しむのか。苦しみから逃れる手立てはあるのか。

 ロンドン在住の人気コラムニストが、炎上した当人や周囲の人々に取材し、炎上の被害をつぶさに描くと共に、「人はなぜ炎上に苦しむのか」にまで迫って掘り下げた、迫真のルポルタージュ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は So You've Been Publicly Shamed, by Jon Ronson, 2015。日本語版は2017年2月20日初版1刷発行。新書版で縦一段組み、本文約475頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント41字×16行×475頁=約311,600字、400字詰め原稿用紙で約779枚。文庫本なら厚めの一冊分ぐらい。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も特に難しくない。ただし、炎上のサンプルがアメリカのものばかりだ。そのため、極端にインターネットに浸っているのでない限り、日本の読者にはピンとこないかも。

【構成は?】

 基本的に前の章を受けて次の章が展開する構成になっている。著者のメッセージを読み解きたければ、素直に頭から読もう。そうではなく、単に炎上の顛末を知りたいだけなら、関係ありそうな所だけを拾い読みしてもいい。

  • 第一章 ツイッターのなりすまし
    突然現れた、もう一人の自分/直接対決/ソーシャル・メディアという武器
  • 第二章 誰も気づかなかった捏造
    ボブ・ディランはいつこんなことを言ったのか/著者への問い合わせ/嘘の発覚/懇願/後悔/秘密を暴露され名誉を失った人たち
  • 第三章 ネットリンチ 公開羞恥刑
    ジョナ・レーナーへの取材申し込み/著書の回収/講演原稿/謝罪、ツイッターの反応/リアルタイムで大炎上/魔女狩り将軍/公開羞恥刑の歴史/サイコパスとソシオパス/レーラーの新しい本
  • 第四章 世界最大のツイッター炎上
    11時間のフライトの間に、世界一の有名人に/炎上後の生活/炎上の発端/いくら隠しても、検索すれば自分がどういう人間かわかってしまう/公開羞恥刑を科してきた判事/権力者より恐ろしい一般人
  • 第五章 原因は群集心理にあるのか?
    ル・ボンの群集心理の概念/ジンバルドーの心理学実験/実験の真相/良いと思った行動が、大きな犠牲を産む
  • 第六章 善意の行動
    下品なジョークで失職/告発者へのインタビュー/「荒らし」のたまり場“4chan/b/”で話題に、そして失職/DDoS攻撃の常習者/マルコム・グラッドウェルの誤り/「呼び止め」が若者をネットのエキスパートにした/善意の行動が二人の職を奪った
  • 第七章 恥のない夢の世界への旅
    これ以上ない恥/自動車産業のハニートラップ/勝利/報道の犠牲者/モズレーはソシオパス?/ポルノの世界に学ぶ、恥ずかしいと感じないコツ
  • 第八章 徹底的な正直さ
    「人に知られたくないこと」を人前で話す/女装して街を歩く恐怖/殺意の理由/講座は役に立つか?
  • 第九章 売春婦の顧客リスト
    69人の名前/起きなかった炎上/「恥」の概念が変わった
  • 第一〇章 独白劇の捏造
    存在しなかった健康被害/鮮やかな復活/ジャスティン・サッコとの再会/忘れられる権利
  • 第一一章 グーグルの検索結果を操作する男
    軍や兵士に対する冒涜/グーグルの検索結果を変えた男/ジョーク写真を検索結果から消せるか/法廷での公開羞恥刑
  • 第一二章 法廷での羞恥
    羞恥は人を弱く見せる/ソーシャル・メディアの方がまだまし?
  • 第一三章 恥なき世界
    同性愛を告白し、辞任した州知事/恥の感情が凶悪犯罪の原因/ハドソン郡矯正センター
  • 第一四章 猫とアイスクリームと音楽と
    検索結果の一ページ目で世間の印象は決まる/グーグルのアルゴリズム/シュタージ 人はなぜ密告者になりたがるのか/すべてが作戦どおり
  • 第一五章 あなたの現在の速度
    炎上でグーグルはどのくらい儲かるのか/変な標識/人間の行動を変えさせるフィードバック・ループ
  •  参考文献と謝辞/訳者あとがき

【感想は?】

 話題先行の投手とナメてかかってたら、手元で胸元に切り込む鋭いシュートに打ち取られたバッター、それが私です。

 なにせ書名が「ネットリンチで人生を壊された人たち」だ。野次馬根性がうずく。ブロガーの一人として炎上を恐れる、怖い物みたさの興味もあった。が、それ以上に、ネットで馬鹿を晒した奴の末路が見たい、そんな野卑な気持ちの方が強かった。

 つまりメシウマを期待をして読み始めたし、最初の方は、確かにそういう期待に応える部分もある。

 登場するのは、インターネットで火あぶりにされた人たちだ。デッチアゲがバレたポピュラー・サイエンス・ライター。不謹慎なつぶやきで数時間のうちに有名人になってしまった者。講演会の客席で友人とシモネタで盛り上がった男。それをツイッターで訴えた女。

 みんな、不幸になっている。職ばかりか、家族まで失った者もいる。何より、再起が難しいのが厳しい。困った形で有名になってしまい、なかなか新しい職が見つからない。

 が、それは、あくまで読者を釣る餌だ。もっとも、本書のテーマにも深くかかわってくるのだが。

 「あれ?」と思わされるのは、「第四章 世界最大のツイッター炎上」から。ここでテキサス州の下院議員テッド・ポーが登場する。彼は元名物判事で、ユニークな判決を下すことで有名だ。例えば窃盗犯に対し、こんな判決を下す。

 七日間、「私はこの店で窃盗をしました」と書いたプラカードを持って、店の前に立て。

 つまり犯罪者に恥をかかせるのだ。しかも、公衆の面前で。とはいえ、収監はなしだ。果たしてどっちが厳しいんだろうか?実は、こんな考え方もある。アメリカ建国の父の一人ベンジャミン・ラッシュ(→Wikipedia)は、1787年にこう述べている。

公衆の面前で屈辱を与える刑罰は、実は死刑よりも残酷であると広く認識されている。
  ――第三章 ネットリンチ 公開羞恥刑

 晒し者にするのは死刑よりも厳しい、そういう主張だ。ここで私は「なら死刑すら生ぬるい極悪人は晒し者に」などと考えたが、この本はそういう本じゃない。

 著者の主張の一つは、炎上への懸念だ。死刑以上の厳しい刑罰を、正式な司法の手続きを経ずに、私たちは勝手に下している。それも、往々にして、若気の至りだったり、マナー違反だったりと、司法手続きを経れば罰金刑で済むような、ささいな事で。

 最初に槍玉にあげられるポピュラー・サイエンス・ライターのジョナ・レーナーの例も、私には他人ごとではない。流石に他人の文章を無断でパクってはいないと思うが、無意識にしている可能性は充分にある。それより怖いのは「自己盗用」、つまり文章の使いまわしだ。

 なにせ語彙が少ない上に表現力も乏しい。そのため生み出せる文章は限られている。おまけに記憶力も怪しくチェックも緩いから、探せばきっと見つかる。幸いにして無名な上にお金は絡んでいないから、ネタとしてもつまらないし、バレてもあざ笑われるだけで済むだろうが、それだけでも相当に恥ずかしい。

 と、やっと本論にたどり着いた。

 そう、これこそが、この本の面白いところ。「恥」だ。私たちは、恥を恐れる。炎上が怖い理由の一つは、晒し者にされて恥をかくからだ。では、恥はヒトにどんな影響を与えるのか。どんな気分になり、他の者からどう見えるのか。長期的に人をどう変えるのか。そして、恥を克服する手立てはあるのか。

 この解を求め、著者は多くの文献に当たり、様々な人に取材する。その過程で、意外な事柄に突き当たる。「群集心理」の起源、スタンフォード監獄実験の真相、割れ窓理論の裏、ハッカーと警察の相性の悪さ、殺意の源泉、ネット工作の手口、法廷戦術、スピード違反を防ぐ意外な方法。

 加えて、美味しそうな本もいくつか教えてくれたのが嬉しい。「私のように黒い夜」と「殺してやる 止められない本能」か。ちぃ、おぼえた。

 下卑た野次馬根性で手に取った本だが、意外な掘り出し物だった。とりあえず読んでみるもんです。

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2018年1月 5日 (金)

ジョン・ロペス「ネゴシエイター 人質救出への心理戦」柏書房 土屋晃・近藤隆文訳

「人は交渉人は話し上手でなくてはならないと思っている。(略)もっと重要なのは聞き上手であることだ」
  ――第二部 ビジネス 第三章 売り込み

目隠しや頭巾は人質犯の兵器庫にあるもっとも強力な武器のひとつだ。正体を守ってくれるのはもちろん、人質にあたえる心理的効果が大きい。(略)目が見えなければ、すり足でゆっくり歩かなくてはならず、最後には導いてくれる人質犯を頼るようになる。
  ――第二部 ビジネス 第四章 もっとも長い道のり

被害者はたいてい夜遅くに拉致される。そうすれば犯人はATMで二度、金を奪える。12時前と後の二回、一日の引きだし限度額いっぱいまで金をおろさせる。
  ――第二部 ビジネス 第四章 もっとも長い道のり

統計的に、人質案件が長引けば長引くほど、人質が生きて家に帰れる可能性は高くなる。
  ――第三部 降下地域 第六章 損の上塗り

たとえ彼(アルカーイダのザルカウィ)がアッラーやアルカーイダの名の下に人の首をはねていなくても、その邪悪な幻想を正当化する理由を見つけて実行に移していたはずだ。
  ――第四部 新しい波 第九章 最後の手段

交渉人が金額を提示する際には、数字がきれいにそろわないようにする配慮が必要になる。(略)42万5千ドルという数字は、人質の身内が必死にかき集め(略)たという感じがする。
  ――第四部 新しい波 最後の手段

政治とは、事態の本質から遠ざかる簡単な方法だ。
  ――第五部 不和 第十三章 ジャーの兵士

【どんな本?】

 ネゴシエイター。人質交渉人。フレデリック・フォーサイスの小説「ネゴシエイター」や、映画「交渉人 真下正義」などで有名な職業である。

 交渉人として活躍する著者は、主に身代金目当ての誘拐事件を担当した。その目的は、人質の身柄の安全を確保すること。ベネズエラで育った経歴を活かし、主に南米の事件を得意とするが、活動範囲は世界中に及ぶ。

 この本では、自らが務めた誘拐事件を紹介する中で、交渉人の存在意義と仕事の内容,誘拐事件の現状とその背景,犯人のパターンと手口,被害者や周囲の者の立場と反応,人質を安全かつ確実に取り戻すための適切な対応などを説いてゆく。

 緊張感あふれる誘拐事件の描写をリアリティたっぷりに描く、迫真のノンフィクション。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Negotiator : My Life at the Heart of the Hostage Trade, by Ben Lopez, 2011。日本語版は2012年7月10日第1刷発行。なお、著者名は仮名。加えて、これは私の推測なんだが、おそらくプロの作家かライターが協力している。詳しくは後述。

 単行本ハードカバー縦一段組みで本文約350頁に加え、松坂健の解説「誘拐産業の『経営学』 知力の限りを尽くす交渉人の世界」8頁。9ポイント44字×18行×350頁=約277,200字、400字詰め原稿用紙で約693枚。文庫本なら少し厚めの一冊分。

【構成は?】

 内容はそれぞれの部ごとに独立しているが、人質交渉人の背景事情などは前の章に書いてあるので、できれば頭から順に読む方がいい。

  • 緒言
  • 身代金目的の誘拐事件の実相
  • 第一部 エンド・ゲーム
    • 第一章 身柄
  • 第二部 ビジネス
    • 第二章 ゴムのニワトリ
    • 第三章 売り込み
    • 第四章 もっとも長い道のり
  • 第三部 降下地域
    • 第五章 初動
    • 第六章 損の上塗り
    • 第七章 詐術
    • 第八章 シェパードの祈り
  • 第四部 新しい波
    • 第九章 最後の手段
    • 第十章 裸の王様
  • 第五部 不和
    • 第十一章 立てこもり
    • 第十二章 交渉人部屋
    • 第十三章 ジャーの兵士
    • 第十四章 突破口
    • 第十五章 長い議論
    • 第十六章 帰ってほしい
    • 第十七章 高値の標的
    • 第十八章 魔女の集会
  • 第六部 海賊たち
    • 第十九章 ザ・ウルフ
    • 第二十章 循環
  • 解説 松坂健

【感想は?】

 ノンフィクションだが、全編を通して「早く次を読みたい」という気にさせる本だ。

 先に「プロの作家かライターが協力している」と書いたのは、そのためだ。とにかく構成が巧い。誘拐事件は、私たちの野次馬根性を惹きつける。常に緊張感が漂い、ちょっとした変化が大きな悲劇を予感させる。「狼たちの午後」など映画がよく人質事件をネタにするのも、人質事件の面白さゆえだ。

 この本では、著者が担当した誘拐事件の進行を、ドキュメンタリー映画風に迫力たっぷりに描いてゆく。この描写が、読者の野次馬根性を刺激し、全体に高い緊張感をもたらしている。

 と同時に、その合間に挟む形で、ワイドショウのゲストの専門家が解説するような雰囲気で、より一般的な話を説明する。それは人質誘拐事件が起きる社会的な背景だったり、誘拐犯が使う小賢しい手口だったり、被害にあった家族に起きる事柄だったり。

 そしてもちろん、人質交渉人が駆使するテクニックや、その仕事の実態も。

 一般的な話がダラダラと続けば、専門的だが面白みのない本になる。これを進行中の事件と絡めて描くことで、物語としての面白さがグッと増した。こういう、読者を惹きつける工夫の巧みさが、プロの手によるものと私が考える根拠だ。

 おそらく、「カラシニコフ自伝」や「アメリカン・スナイパー」と似た方法で進めたんだろう。まずプロの書き手が著者の話を聞く。次に書き手が構成を考えて文章にする。出来上がった文章を著者がチェックし、間違いや不適切な表現があれば正す。専門的な内容を面白く伝えるには、最善の方法だろう。

 この本が紹介する舞台は、ブラジル・メキシコ・パキスタン・アフガニスタン・ロンドン・アルゼンチン・イタリアそしてソマリアの海賊など、世界各地に渡り、また犯人の背景や事件の実情も様々だ。

 これらの事件を通し、私たちの知らない様々な事柄が語られてゆく。最初に気付くのは、交渉人の意外な仕事ぶり。

身代金めあての誘拐の場合、レスポンス・コンサルタント――人質交渉人を指す業界用語――が誘拐犯と直接交渉をもつことは稀である。
  ――第一部 エンド・ゲーム 第一章 身柄

ネゴシエイターには、破るべからざる大切なふたつの黄金律がある。ひとつ、銃を使わないこと。ふたつ、自分自身で交換をおこなわないこと。
  ――第一部 エンド・ゲーム 第一章 身柄

 そう、交渉人は表に出ないのだ。被害者または実際に犯人と話す者のそばに寄り添い、様々なアドバイスをする、それだけ。気楽で無責任な、と思うかもしれない。が、読み進めれば、深く広い知識を持ち経験を積んだプロがどれほど頼もしいか、自然にのみこめてくる。

 先にあげた舞台は、治安の悪い地域が多い。「戦場の掟」の舞台イラクもそうだが、警察が貧弱または腐敗していて治安が悪いと、身代金目的の誘拐が「儲かるビジネス」になってしまう。そのため、交渉人の目的も、警察とは異なってくる。警察は犯人逮捕を望むが…

私は、逮捕には気をまわさない。唯一の目的は人質の無事の解放を確保することだ。
  ――第五部 不和 第十八章 魔女の集会

一般的に言って、コンサルタントが存在することによる有益で副次的な効果とは、身代金の支払い額が当初の要求に比べて著しく下がることにある。
  ――第二部 ビジネス 第二章 ゴムのニワトリ

 と、最優先は人質の安全。次に身代金を値切ること。まさしく被害者の立場に立った商売なわけだ。が、普通はこう考えるだろう。「値切ったら人質の命は危なくなるのでは?」

 違うんだなあ。これまた意外な事に、巧く値切ることが被害者の安全にもつながってくる。そのメカニズムは納得できるもので、とっても面白いんだが、是非これは皆さんの目で確かめていただきたい。

 当たり前だが、犯人は切り札である人質を握っている。この状態では、何もできることが無いように思える。これも意外なのだが、犯人のタイプと立場によっては、色々と交渉の余地はあるのだ。ただし、主に身代金目当ての誘拐の場合に限るんだけど。

 本格派の推理小説よろしく、小さく目立たぬ証拠から、犯人の性質や立場を見抜いてゆく過程は、とてもスリリングで意外性に富んでおり、読者を飽きさせない。

 などの交渉人の仕事を通じ、人質事件のニュースの見どころも分かってきて、野次馬としての目が冴えてくるのも嬉しい。加えて、私たちが世間で暮らす中で避けられない「交渉」のコツも見えてくるのが、ちょっとした拾い物。スリルとサスペンスに加え、約に立たない無駄知識満載でオタク心も満たされる充実した本だった。

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2017年12月14日 (木)

ハーレー,デネット,アダムズJr.「ヒトはなぜ笑うのか ユーモアが存在する理由」勁草書房 片岡宏仁訳

本書が示そうと試みるのは、ぼくらのご先祖たちが無制限の思考を備えるようになったとき生じた計算論的な問題からユーモアは進化してきたということだ。
  ――序文

ぼくらは、この世界に意味をなしてもらいたがる。
  ――第六章 情動と計算

無脊椎動物の単純きわまりない神経系から、ぼくらの立派な器官まで、あらゆる脳は予測生成機だ。
  ――第七章 ユーモアをこなせる心

【どんな本?】

 人間は笑う。そして、わざと笑いを創り出す。ジョーク、コント、漫才。ギャグ漫画、コメディ映画。身内の馬鹿話、駄洒落。どれも楽しい。それは誰でも知っている。

 だが。なぜユーモアは楽しいんだろう? どんな時に笑いが起きるんだろう? ジョークやギャグで笑う時、私たちの心の中では、何が起きているんだろう? 全てのジョークやギャグに共通する性質はあるんだろうか? そして、コンピュータはユーモアを獲得できるんだろうか?

 昔から、ヒトは笑いに関し、色々と考え分析してきた。どんな性質を持っているか。どんなメカニズムで笑いが起きるのか。どんな条件を満たす必要があるのか。様々な人が様々な説を掲げた。しかし、今のところ、全てのユーモアやギャグを説明しうる説は見つかっていない。

 本書では、それらの笑いに関する過去の説を紹介した上で、斬新かつ大胆な仮説を示す。

 ユーモアを心地よく感じる性質は、ヒトにとって必要不可欠な機能である。その目的は、ヒトの脳が持つ優れた処理能力を維持する事だ、と。

 ばかりでなく、笑い研究がもたらした成果も、多く紹介する。その代表は、サンプルとして大量に収録したジョークだ。

 認知科学的な方法論で笑いを分析する真面目な本でありながら、同時にお笑い道の基礎を学べる、楽しい思想書。

 なお、著者は以下の三人。認知科学者・哲学者・心理学者の異色トリオだ。

  • マシュー・ハーレー:計算機科学・認知科学者
  • ダニエル・C・デネット:哲学者
  • レジナルド・B・アダムズJr.:心理学者

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Inside Jokes : Using Humor to Reverse-Engineer the Mind, by Mathew M. Hureley & Daniel C. Dennet & Reginald B. Adams Jr. , 2011。日本語版は2015年2月20日第1版第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約480頁に加え、訳者あとがき11頁。9ポイント47字×19行×480頁=約428,640字、400字詰め原稿用紙で約1,072枚。文庫本なら上下巻ぐらいの大容量。

 文章はやや硬い。内容も、真面目な部分は相当に難しい。ある程度、AI の基礎を知っている方がいい。それも、今流行りのディープラーニングではなく、それ以前のマーヴィン・ミンスキーなどが主導していた頃の諸理論だ。

 もっとも、そういった小難しい所はバッサリ読み飛ばし、わかる所とジョークだけを拾い読みしても、充分に楽しめる。

【構成は?】

 原則として前の章を基礎として次の章を組み立てる形なので、なるべく頭から読もう。

  • 日本語版のための序文/序文/凡例
  • 第一章 導入
  • 第二章 ユーモアはなんのためにある?
  • 第三章 ユーモアの現象学
    • 1 対象または出来事の属性としてのユーモア
    • 2 デュシャンヌの笑い
    • 3 ユーモアの体系的な言い表しがたさ
    • 4 「ワハハ 可笑しい」と「フム 可笑しい」
    • 5 ユーモアの知識相対性
    • 6 男女の事情
  • 第四章 ユーモア理論の学説略史
    • 1 生物学的理論
    • 2 遊戯理論
    • 3 優位理論
    • 4 解放理論
    • 5 不一致と不一致解決理論
    • 6 驚き理論
    • 7 ベルクソンの機械的ユーモア理論
  • 第五章 認知的・進化論的ユーモア理論のための20の問い
  • 第六章 情動と計算
    • 1 笑いのツボを探す
    • 2 論理か情動のどちらかがぼくらの脳を組織しているんだろうか?
    • 3 情動
    • 4 情動の合理性
    • 5 情動の非合理性
    • 6 情動的アルゴリズム
    • 7 若干の含意
  • 第七章 ユーモアをこなせる心
    • 1 すばやい思考 頓智の費用・便益
    • 2 メンタルスペース構築
    • 3 活発な信念
    • 4 認知的な警戒とコミットメント
    • 5 衝突、そして解決
  • 第八章 ユーモアとおかしみ
    • 1 メンタルスペースの汚染
    • 2 認知的情動のなかのおかしみ ミクロダイナミックス
    • 3 報酬と首尾よくいった汚れ仕事
    • 4 「笑いどころをつかむ」 基本ユーモアをスローモーションでみる
    • 5 干渉する情動
  • 第九章 高階ユーモア
    • 1 志向的構え
    • 2 一人称と三人称のちがい
    • 3 擬人化と人間中心主義
    • 4 志向的構えジョーク
  • 第一〇章 反論を考える
    • 1 反証可能性
    • 2 認識的な決定不可能性
    • 3 見かけ上の反例
    • 4 他モデルを簡潔に検討
    • 5 グレアム・リッチーの五つの問い
  • 第一一章 周辺例 非ジョーク、ダメなジョーク、近似的ユーモア
    • 1 知識相対性
    • 2 強度の尺度
    • 3 境界例
    • 4 機知と関連現象
    • 5 予想の操作に関するヒューロンの説
  • 第一二章 それにしてもなんで笑うんだろう?
    • 1 コミュニケーションとしての笑い
    • 2 ユーモアと笑いの共起
    • 3 コメディという芸術
    • 4 文学における喜劇(と悲劇)
    • 5 人を癒すユーモア
  • 第一三章 おあとがよろしいようで
    • 1 「20の問い」への回答
    • 2 ユーモアのセンスをもったロボットはつくれるだろうか?
  • 終章
  • 注/訳者あとがき/参考文献/事項索引/人名索引

 なお、巻末の「注」は、*の原注と★の訳注があるので注意。

【感想は?】

 なぜか脳内で「笑点のテーマ」が鳴り響いて困った。

 と書くとおかしな本のようだし、実際にたくさんのジョークを載せていて、笑える所も多い。が、基本的には「笑う時に私たちの脳内で何が起きているか」を、ごく真面目に分析した本だ。

 真面目に考えると、笑いは難しい。一言で笑いと言っても、いろいろな種類があるし、この本でもダジャレ(地口)・変顔・戯画(デフォルメ)からお付き合いでの笑い、メシウマ、足の裏をコチョコチョくすぐるのまで、考えられる限りの「笑い」を挙げている。

 こういった多くの種類の「笑い」を全て説明できる仮説を、著者たちは目指しているし、それは成功しているように私は思う。

 なんといっても、これで「笑点のテーマ」のおかしみも説明できちゃうのが凄い。

 これは終盤に入ってからなんだが、笑いのツボと、心地よい音楽のツボには、ちょっとした共通点があるのだ。童謡は単純な曲が多く、大人はもちっと複雑な音楽を好む。笑いもそうで、成長するにつれ、より複雑な笑いが発達してくる。

 とまれ、それが「おかしみ」になるか、「斬新さ」になるかは、かなり微妙な線なんだけど。

 このあたりは、認知心理学にかなり踏み込んでて、かなり慎重に読み進める必要があるんだが、それだけの価値はある。是非とも、落ち着いて、何度も繰り返して読もう。ややこしい理屈は出てくるが、じっくり読めば、だいたい理解できる。

 といった分析に留まらず、更に大胆な一歩を踏み出しているのもエキサイティング。「笑う能力は、ヒトにとって、何の役に立つんだろう?」と。進化の過程で発達するのは、生存競争に役立つ機能だ。では、笑いは、人類百万年の野生の生存競争で、どう役に立つのか。

 加えて、同じジョークでも、笑う人と怒る人がいる。シャルリ・エブド襲撃事件(→Wikipedia)がその典型だ。ブラック・ジョークやシモネタなど、ネタと人の相性によって「不謹慎だ」と感じたり、逆におかしさが増したり。このメカニズムの説明も、なかなか巧いと思う。

 などと主張する説は大胆ながら、その姿勢は実証的かつ科学的なのに、好感を持ってしまう。なんたって、末尾の文章がこれだ。

このモデルで可笑しいと予測されるのに明らかに可笑しくないものや、ちゃんと可笑しいのにモデルでつかめないものを見つけ出してほしい。ぼくらは、理論がこの挑戦に耐えられるかどうかをみたいと切望している。

 反例を探してみてくれ、と言ってるわけだ。こういう姿勢が、従来の哲学者や心理学者と大きく違ってて、誠実さを感じる。

 とまれ、注が後ろにあって、しかも原注と訳注が分かれているのは、ちと辛い。

 というのも、かなり面白いネタが注に入っているから。例えば、やたらダジャレを飛ばす人がいるでしょ。その大半はしょうもないオヤジギャグばかりの疲れる人なんだけど、たまにキレのあるギャグをかます人がいる。その違いは何なのか。いや、これの解もしょうもないオチなんだけがw

 そんな風に、とっても真面目で、かつ小難しい理屈が詰まった本ながら、アチコチにオツムの凝りをほぐす楽しいネタを仕込み、読者を飽きさせない工夫をしてるのも嬉しい。

 ちゃんと読むと、お笑い芸人が変な格好をしたり、舞台で小道具を使ったり、それぞれにキャラを作ったりする理由も見えてきたり。だけでなく、ジョークを巧く語るコツや、ナンパの際のギャグの効用など、下世話な意味での使い道も、注意深く読めば気がつくだろう。

 特に嬉しいのが、多くのジョークを収録していること。私が気に入ったのは、これ。

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 ところであなた、テレビを観ていて、リモコンの早送りボタンを押したことはあります?

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