カテゴリー「書評:ノンフィクション」の154件の記事

2019年12月13日 (金)

ニール・D・ヒックス「ハリウッド脚本術3 アクション・アドベンチャーを書く」フィルムアート社 菊池淳子訳

本書は(略)どう書くべきかではなく、「なぜそう書くべきか」を考える本なのである。
  ――1 なぜそう書くべきか

…第一幕で観客が本当に知りたいのは、この作品は何についての話なのか、どうやって主人公は難題を解決するかなのだ。
  ――5 どのようにストーリーを作るか

主人公が意味のある目的を遂げるには、敵対者は最大の努力を払うに値する相手で、しかも主人公に精神的な葛藤を引き起こす人物でなければならない。
  ――5 どのようにストーリーを作るか

アクション・アドベンチャー映画はたいてい緊迫した状況から始まり、さらに圧力がかかって孤立状態になり、善と悪が対決する。
  ――5 どのようにストーリーを作るか

どんなに派手に物を壊しても、それだけではアクション・アドベンチャー映画にならない…
  ――6 アクションとは何か

必要のない省略形・数字・ストーリーに無関係の事柄は、なるべく書かない。
  ――6 アクションとは何か

アクション・アドベンチャー映画というのは、脅威に晒された社会の物語である。
  ――7 アクション・アドベンチャーの登場人物とは?

【どんな本?】

 「ハリウッド脚本術 プロになるためのワークショップ101」「ハリウッド脚本術2 いかにしてスリラーを書くか」に続く第三弾。

 「シェーン」「荒野の七人」「ダイ・ハード」「プライベート・ライアン」「ナバロンの要塞」「バルジ大作戦」など、時代を越えて愛される作品を手本に、全米ヒットを狙うアクション・アドベンチャー映画の脚本の書き方を指南すると共に、イマイチな作品も例に挙げ、その失敗の原因を明らかにしてゆく。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Writing The Action-Adventure Film : The Moment of Truth, by Neill D. Hicks, 2002。日本語版は2006年6月3日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約144頁に加え訳者あとがき2頁。9ポイント49字×20行×144頁=約141,120字、400字詰め原稿用紙で約353枚。文庫なら薄い一冊分ぐらいの文字数。

 文章は読みやすい。内容も分かりやすい。当然、この手の映画に詳しい人ほど楽しめる。

【構成は?】

 各章は緩くつながっているので、できれば頭から順番に読もう。

  • 0 はじめに アクション・アドベンチャーのバイブル クリストファー・ウェイナー
  • 1 なぜそう書くべきか
    こんなの書く道具だよ。鉛筆とかそんなもの。僕に言わせれば喜び過ぎね
  • 2 観客がジャンルに期待するもの
    時間があるから、出来事は同時に起こらない。空間があるから、全ての出来事があなたに起こるわけではないのだ
    ジャンルの連続性 目に見えないものこそ、本当に手に入れたいものである:/個人の苦悩を描いたジャンル/対人関係の葛藤を描いたジャンル/コメディドラマというジャンル/おとぎ話というジャンル/個人的な探求というジャンル/探偵というジャンル/ホラーというジャンル/スリラーというジャンル/アクション・アドベンチャーというジャンル/神に対する挑戦というジャンル/うまい嘘には千の事実の価値がある/まずいやりかたをするための方法を学びなさい。そうすればやりたいことができる
  • 3 文化的背景を考える
    映画と自明の運命/私は私があることである/君はいつだって暴力を使う、餅米チキンを頼めばよかった
  • 4 どこから生まれてきたのか
    ストーリーを語るものは世界を制す/伝説が事実に出会ったら、伝説を活字にするんだ/善悪が暴かれる時間/人間はやるべきことをやらなければならない/伝統的な西部劇のストーリー/あの仮面の男は誰だったんだ?/それは君の災難であって、ぼくには何の関係もない/カウボーイ万事休す/俺たちは眠らない/心配無用/これがリコの最後なのか?/悪党、マシンガン、拳銃/ファイティング・スピリット
  • 5 どのようにストーリーを作るか
    そして、だから、それから…/予想することは非常に難しい、とくに未来を予想することは/書くのは簡単だ、激情の滴が頭に浮かぶまで、ただじっと白紙を見つめていればいい/私はこれまでずっと言葉を見つめてきた、その一つ一つに初めてであったかのように/戦いの順序/未来ってものは、次から次へとやってくる
  • 6 アクションとは何か
    何が起きるのだろうか? 決断というアクション/何も起こらない アクションの不在/何かが起きるべきだ アクションのない葛藤/何かが起きる 俳優の動作というアクション/何かが起きなければならない プロットというアクション/努力して書いていないものは、読んでも満足しない/神のつくり出すもの 天災というアクション/明らかに何かが起こっている 悲鳴というアクション/何かが起こるとなぜわかるのか? 紙面に書かれたアクション
  • 7 アクション・アドベンチャーの登場人物とは?
    白い帽子の男/アクション・アドベンチャーの主人公は、並外れた人物である/事由に乗り回せ!/俺を捕まえたいなら、捕まえてみろ/アクション・アドベンチャーの敵対者は
  • 8 夢のような冒険の世界を作る
    映画は視覚的な媒体ではない/空気のような無に、存在する場所と名前を与える/信憑性を生み出す秩序/登場人物が歴史上実在の人物に似ていても、それは単なる偶然だ。もしストーリーが史実と違っていたとしても、それはそうるべきだったのだし、脚本家はそんなことを気にもしていない/アクション・アドベンチャー 信頼性を生み出す秩序/どんな悪者も、屈することのない正義の味方を打ち負かすことはできない/イタリアの30年のテロや虐殺などの結果、ミケランジェロ、ダ・ヴィンチ、ルネッサンスが生まれた。スイスの500年に及ぶ民主主義や人類愛や平和で、何が生まれた? 鳩時計だけさ/暴力vs結果/ひどい時代になったものだ、子供は親の言う事を聞かないし、みんな本なんか書いてる/何か一つの方法を学べば、すべての方法につながる
  • エピローグ 2001年9月11日
  • あとがき アマンド・リー
  • 訳者あとがき/映画名索引/書き込み練習問題

【感想は?】

 本書が目指すのは、アメリカの市場で当たる映画だ。これは、「いいアクション・アドベンチャー」とは違う。

 「3 文化的背景を考える」では、その違いを痛感する。ある意味、比較文化ヒーロー論と言っていい。例として衝撃的なのが、「ポカホンタス」「ライオン・キング」などのディズニー・アニメ。どういうわけか、インドでは全くウケない。

 著者はこの理由を、倫理観の違いとしている。派手なアクションと爽快な結末を求めるアクション・アドベンチャーに、なぜ倫理が出てくるのか。

 いや大事なのだ。だって、アクション・アドベンチャー映画とは、勧善懲悪のお話なのだから。ヒーローは正義の人であり、悪役は強大だが卑劣な悪党でなきゃいけない。では、何が善悪を決めるのか? そこで倫理観が重要になってくる。

 アクション・アドベンチャー映画は、テンポがよくなきゃいけない。だから、ヒーローや悪役の過去や戦う動機について、ダラダラ語る暇はない。わかりやすく端的に善悪を対比する必要がある。長々しい議論は観客の興奮を冷ましてしまう。

 ところが、国や地域によって善悪の基準が違うのだ。本書でアメリカ的な象徴として出てくるのが、「ダーティー・ハリー」の刑事ハリー・キャラハンだ。ハリーは事件解決のためなら暴力を厭わず、上司の命令も無視して44マグナムをガンガンとぶっ放す。自らの信じる正義のために、孤立も恐れず独走する。

 本書が求める主人公は、そんな人物だ。だが、こういう人物は、アメリカ以外じゃウケが悪い。

 なぜか。犯罪被害者にとって、たしかにハリーは頼もしく思えるだろう。だが、秩序と調和を大切にする社会だと、ハリーの言動は「独善的」と捉えられてしまう。私たちはヒーローに肩入れしたい。しかし、そのヒーローがまさしく「ダーティー」だったら、気持ちよく応援できないじゃないか。

 そんなワケで、アメリカ以外の国のヒーロー物は、アメリカ市場だといささか苦しい商戦を強いられる。もっとも、例外もあるのだ。ブルース・リーの「燃えよドラゴン」と、黒澤明の「七人の侍」である。わはは。いずれもアクション・アドベンチャー映画史上屈指の傑作ではないかw なぜこの二つが例外なのか、アクションではなく脚本の面から考えると面白い。

 続く「4 どこから生まれてきたのか」では、アメリカのアクション・アドベンチャー映画史を辿りながら、ハリウッド映画の倫理感がそうなった背景を探ってゆく。

アクション・アドベンチャーを考える上で本当に重要なのは、(略)ストーリーの根底に流れる価値観を探ることである。
  ――4 どこから生まれてきたのか

 本書では、源流を西部劇に求め、その基本構造と、その根底にある社会の仕組みや、アメリカならではの歴史的背景と紐づけてゆく。このあたりで、アメリカの大物プロデューサーが「どんな作品を受け入れるか」も見えてきたり。単にストーリーが面白くてアクションがカッコいいだけじゃ、駄目なのだ。彼らの倫理観に合わないと。

 などの文化論的な話は4章までで、5章以降はもっと実用的な話が中心となる。もっとも、物語の基本構造こそ違えど、基本的な注意事項はスリラーと共通している所も多い。例えば、アクションのために無駄なシーンを入れるのはやめろ、とか。全てのシーンは、何らかの形で物語を進めなきゃいけないのだ。似たような事をスリラー編でも言ってたね。

 このあたりになると、映画の脚本に限らず、冒険小説やバトル物にも応用できそうなネタが次々と出てくるし、その多くは私たちが楽しんできた漫画やアニメなどのヒーロー物にも共通してみられる性質である事に気づくだろう。

 例えば、ショッカーはいきなり幹部が出張ったりしない。まずは下っ端の戦闘員や怪人が暴れる。このスタイルは仮面ライダーでも燃えよドラゴンでも変わらない。最後の敵が最強の敵なのだ。

 など、ヒーロー物の定石を、いちいち文章にしてハッキリ示すあたりは、映画に限らず娯楽作品を作りたい人全般に役立つ。かと思えば、「脚本の書体は12ポイントの Courier にしろ、すると上映時間にして1枚1分になる」とかの下世話なアドバイスもあったり。

 映画の脚本の本ではあるが、実はあらゆるメディアの「面白い物語」を作る定石を書いた本でもある。そんなワケで、書く者だけに限らず、私のように評する者にとっても、着目すべき点を教えてくれる、なかなか役に立つ本だ。

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2019年12月12日 (木)

ニール・D・ヒックス「ハリウッド脚本術2 いかにしてスリラーを書くか」フィルムアート社 廣木明子訳

スリラーの脚本家の第一の目的は、観客のなかに恐怖を生み出すことだ。
  ――まえがき お父さんの時代のシナリオ読本と違って

冒頭では、観客はこのストーリーがどういう話なのかを切に知りたがっている。
  ――4 物語の軌道

もしも……悪人が常識をはねつけたら?
  ――5 制限された世界

登場人物の最初の行動はいつもの生活ぶりを再確認して、分別を失わせる混乱に思い切り急ブレーキをかけることだ。
  ――5 制限された世界

…すべてのスリラーが極度に圧縮された時間の内に起こる…
  ――6 時間軸

スリラーの主人公は平凡な普通の人間で、自らが投げ込まれたショッキングな状況に対して何の準備もできていない。一方、アクション・アドベンチャーの主人公は、圧倒的な敵対者と自ら進んで戦いたくなる、肉体的・精神的・道徳的準備の整った気質の持ち主だ。
  ――7 登場人物の気質

観客を不安にすることに失敗した時には、期待外れの原因はほとんど常に登場人物の設定のまずさだ。
  ――7 登場人物の気質

…すべてのスリラーに不可欠な部分とは、ドラマのプレッシャーによって克服しなければならない主人公の本質的な弱さなのだ。
  ――9 スリラーの神髄

『北北西に進路を取れ』の脚本をスリラーの神髄であるだけでなく、これまで書かれたなかで最高の脚本の一つにしているのは、必然的にプロットを前進させる新しい情報が、ほとんどすべてのシーンに盛り込まれているという点だ。
  ――9 スリラーの神髄

【どんな本?】

 「ハリウッド脚本術 プロになるためのワークショップ101」の続編で、主にスリラーに焦点を絞ったもの。

 「北北西に進路を取れ」を筆頭に、「コンドル」「マラソンマン」「暗くなるまで待って」「ルームメイト」そして「エイリアン」に至るまで、古今の名作スリラーを参考に、観客をスクリーンに惹きつけ離さないストーリーのコツを語ると共に、幾つかのスリラーとしては失敗した作品を挙げ、その原因も明らかにしてゆく。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Writing The Thriller Film : The Terror Within, by Neill D. Hicks, 2002。日本語版は2004年9月7日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約145頁に加え訳者あとがき2頁。9ポイント49字×20行×145頁=約142,100字、400字詰め原稿用紙で約356枚。文庫なら薄い一冊分ぐらいの文字数。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。当然、映画に詳しいほど楽しめる。特に「北北西に進路を取れ」は必須。

【構成は?】

 各章は穏やかに繋がっているので、できれば頭から読んだ方がいい。

  • はじめに マーティン・ブラインダー博士の推薦文
  • まえがき お父さんの時代のシナリオ読本と違って
    言葉について一言/それは私の身にも起こり得る
  • 1 誰がこの代物を作り上げるのか?
    私たちについてのすべて!
  • 2 ジャンルに期待される事柄
    やるかやらないかだ、お試しはない/ジャンルの連続性
    ジャンルの原則:個人的な苦悩のジャンル/葛藤が中軸のジャンル/コメディ・ドラマのジャンル/おとぎ話のジャンル/個人の探求のジャンル/探偵のジャンル/ホラーのジャンル/スリラーのジャンル/アクション・アドベンチャーのジャンル/形而上学的反抗のジャンル
  • 3 信頼性を支える秩序
    信頼の現在/(……不可能なものを排除したのちに、残ったものが何であれ、どんなにあり得ないと思えても、それが真実に違いないのだ)
  • 4 物語の軌道
    誘引/期待/満足/観客中心の進行/強敵/本能的自衛/サスペンス/アクションの速度
  • 5 制限された世界
    合理性に制限された信じられない出来事/迷路に追い込まれて/リアリティの解体/安心のための口実 理屈に反する思い込み
  • 6 時間軸
    心からはみ出した時間/恐怖とは、いやな予感から立ち昇る苦悩だ/安全か?
  • 7 登場人物の気質
    スリラーの主人公/スリラーの敵対者/変わってしまった現実と格闘して/裏切り 自己の崩壊/人生の修復/人生は人の勇気に比例して、縮みもすれば広がりもする/悪の露見/変わってしまった世界
  • 8 同族のプロット
    スリラーの血統/きみは何か(する)ことになってるんだ/生きている!/汝、ここに入る者は、すべて希望を捨てよ!/直感の末期のおののき、何かがどこか得体が知れない/悪の力は弱い心の持ち主には巨大過ぎる
  • 9 スリラーの神髄
    「北北西に進路を取れ」のストーリーの概要 アーネスト・レーマン作
  • エピローグ
  • 書き込み練習問題
  • 訳者あとがき
  • 映画題名索引/本書で言及されている映画

【感想は?】

 一言でいうと、「北北西に進路を取れ」から学べ、だろう。

 スティーヴン・キングはホラー作家と言われる。でも、彼の手管は、スリラーから巧みに借用してる。いやキングだけじゃない。ロバート・R・マキャモンもそうだ。彼らをパクり屋だと言ってるんじゃない。返らの並外れた構成力を示すものだ。

…スタジオが進んで出費するジャンルの中で、スリラーの脚本を書くのが断然いちばん難しい。
  ――3 信頼性を支える秩序

 なぜ難しいか。スリラーは、いわば詰将棋なのだ。主人公には、次々と王手がかかる。逃げても逃げても、敵の魔の手が追ってくる。主人公の行動は、傍から見るとイカれているように見える。だが、イカれているのは主人公の置かれた状況の方で、主人公は変な状況から、なんとか必死に逃げているだけだ。

スリラーの(略)狙いは、逃亡という唯一の的にしっかりと向けられていることがきわめて重要だ。
  ――4 物語の軌道

 ということで、アーノルド・シュワルツネッガーやシルベスター・スタローンには向かない。いや敵役ならいいけど、スターに悪役やらせるのは難しいよね。

 加えて、性格付けも、ヒーロー的なキャラクターじゃない。普通のアンチャン・ネエチャン・オッサン・オバサンである。平穏を愛し、対立を避け、面倒くさいことから逃げる。はい、私やあなたのような人です。

全般的にスリラーの主人公は回避と非対決という共通の気質を有している。
  ――7 登場人物の気質

 そういう人を、異常な状況に放り込むことから、スリラーは始まる。往々にして誰も頼りにならない状況か、または助けを求めようとすると…

スリラーの敵対者が放つ脅威は、(略)ほとんんどが次々と続く不気味な裏切りだ。
  ――8 同族のプロット

 と、たいていは敵が既に手を回していて、主人公はマンマと敵の罠にハマってしまうのだ。この際、主人公の行動は、あくまでも常識的な行動でなきゃいけない。敵が狡猾だったり、並外れて大きな組織だったりして、巻き込まれた主人公を更に追い詰めるのである。

 しかも、観客には緊張を与え続けなければいけない。寄り道は、緊張感をそぐ。こういった物語の緻密な組立が、スリラーには要求される。そして、スティーヴン・キングは、見事にモノにしていると私は思う。いや映像化には恵まれないけどね、あの人。というか、根本的に脚本にするのが難しい芸風なんだな、きっと。

 SFだと、S・J・モーデンの「火星無期懲役」が、舞台こそSFだけど、仕掛けはモロにスリラーだった。ギレルモ・デル・トロ&チャック・ホーガンの「ザ・ストレイン」も、ホラーのネタを使ってるけど、お話を駆動してるのはスリラーのエンジンだと思う。

 そんなこんなで、読むとかえって「スリラーって書くのが難しそう」な気分になっちゃうあたりが、大きな欠点かもしれない。それより、傑作スリラー映画のガイドとして読もう。いささか古い作品が多いが、いずれも公開時には話題になっただけでなく、その後も映画ファンに語り継がれている作品ばかりだ。面白い映画を見つける助けになるだろう。

 ということで、とりあえず「北北西に進路を取れ」を観ましょう。

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【つぶやき】

 インフルエンザで寝込んだ。熱は37℃と高くないのだが、節々が痛いのがつらい。しばらくは引きこもっていよう。

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2019年12月 9日 (月)

ニール・D・ヒックス「ハリウッド脚本術 プロになるためのワークショップ101」フィルムアート社 濱口幸一訳

本書は、劇場用の長編映画の観客を満足させることについて述べたものである。
  ――まえがき

…主人公とその世界、ドラマの葛藤の核になる問題、その問題に対する可能な解決、そして究極的には主人公が障害を克服し、葛藤を解決する…
  ――3 スクリーンのストーリーの要素

彼らの選択が劇的なのは、認識的不協和すなわち自己不信の可能性があるためである。
  ――4 スクリーンの登場人物

1.常に現在形で書くこと。(略)
2.常に能動態で書くこと。
  ――4 スクリーンの登場人物

スクリーン上の世界は誇張された現実である。
  ――5 スクリーンの文脈

ストーリーが機能するようにするのがあなたの仕事である。
  ――5 スクリーンの文脈

脚本のフォーマットの最も根本的な法則は、脚本を読みやすくするということだ!
  ――7 脚本執筆のスタイル

会話には二つの機能がある。ストーリーを前進させることと、登場人物を明らかにすることである。
  ――7 脚本執筆のスタイル

トム・ストッパード「困難なのは、第1ページの最初に到達することだ」
  ――8 熱心に励む

作られたものは、常にある点で妥協である。
  ――8 熱心に励む

【どんな本?】

 映画を作る際、最初に必要なのが脚本だ。脚本は他の文学、例えば小説や詩と似たところがある。だが、全く違う点もある。

 本書が扱うのは、ハリウッドの映画だ。そこで大事なのは商業的な成功、平たく言えば客にウケで大当たりし大儲けできる、そんな映画の脚本である。

 「北北西に進路を取れ」「ターミネーター2」「レインマン」など、成功した映画を例にとり、採用される脚本に必要なのは何か、どんな事に気をつけて書くべきなのか、どこからアイデアを得るのかなど、金になる脚本をひねり出すためのコツから、脚本の文書形式など下世話な、しかしプロをめざす者が知るべき様式、そして映画会社に売り込む方法と自分の権利を守るための注意点に至るまで、脚本家になる方法を徹底的に実際的な形で指南するハウツー本。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Screenwriting 101 : The Essential Craft of Feature Film Writing, by Neill D. Hicks, 1999。日本語版は2001年3月27日初版発行。私が読んだのは2004年8月26日の第8刷。安定して売れてるなあ。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約211頁に加え訳者あとがき2頁。9ポイント50字×20行×211頁=約211,000字、400字詰め原稿用紙で約528枚。文庫なら普通の厚さの一冊分ぐらいの文字数。

 文章は比較的にこなれている。内容も分かりやすい。当然ながら、沢山の映画を見ている人ほど楽しめるだろう。

【構成は?】

 各章はほぼ独立しているので、気になった所から拾い読みしてもいい。

  • まえがき
  • 1 ドラマは葛藤である
    ドラマが意味をなす/脚本の前提
  • 2 観客を満足させること
    誘引/期待/満足
  • 3 スクリーンのストーリーの要素
  • 4 スクリーンの登場人物
    あなたの主人公は誰か?/登場人物の最低限のアクション/認識的不協和の理論/葛藤の焦点/主人公は何を望んでいるか?/基本的な欲求の回想/主人公が目的に到達するのを妨げているのは何か?/登場人物発見のための実践的テクニック/登場人物研究のサンプル
  • 5 スクリーンの文脈
    信頼性のコスモス/調査と研究/あなたは何をしているのか?/文脈の要素
  • 6 スクリーンのジャンル
    形式の期待
  • 7 脚本執筆のスタイル
    実践 読者の目の誘導/脚本フォーマットのサンプル/脚本フォーマットの要素/美学 読者の心の誘導/シーンの記述 少ないに越したことはない/会話 奈落の底からの悪霊/サブテキスト/エネルギー/期待
  • 8 熱心に励む
    ライターの生活
  • 9 脚本書きというビジネス
    ショウほど素敵な商売はない/脚本のマーケット/大きな産業、小さなビジネス/アメリカ脚本家協会 WGA/奴らにアイデアを盗まれた!/実際にあったことを描くには/アメリカの著作権/あなたのチーム/自分自身のエージェントを持つ/業界弁護士/個人マネージャー/売り込み/評価書類/契約/オプションの同意/取引のメモ/銀行へ/スクリーンのクレディット/創造的権利/おいくら?/業界への参入
  • 訳者あとがき/索引/著者&訳者のプロフィール

【感想は?】

 私はよく妄想に浸る。ヲタクとは、そういう生き物だ。だが、その妄想は、まずもって物語にならない。

 設定が借り物、つまり二次創作だったり、私の知人だけが登場する楽屋落ちだったりと、表に出せない理由はいろいろある。中でも最も大きいのが、そもそも形にしても私以外にはつまらないって事だ。

 つまらないのはわかる。だが、なぜつまらないかが、今まではハッキリと見えていなかった。それが、本書の冒頭でキチンと形になった。

「ドラマは<秩序を与えられた>葛藤である」
  ――1 ドラマは葛藤である

ドラマが原因で、主人公の人生はどのように変わるのか。
  ――1 ドラマは葛藤である

 私の妄想には葛藤がない。強力な主人公が難しい問題を鮮やかに片付ける、それだけだ。しかも、主人公は何も変わらない。つまりは幼い男の子の特撮ヒーローごっこから、なにも進歩していないのだ。ガッカリ。

 「ターミネーター2」のラストシーンが、なぜ心に残るか。あのシーンで、T-800はプログラム通りに動くただのマシンではなくなった、と示している。T-800は成長したのだ。それも、ジョン・コナーと関わったために。だから、私たちの心は動くのだ。

 そう、主人公は問題を解決するだけではない。ターミネーター2なら、T-1000を始末するだけではない。問題解決、つまりジョン・コナーとの関わりを通して、変わらなければならないのだ。これが、T2がただのアクションSF映画ではなく、優れたアクションSF映画である所以でだろう。

 大きな枠組として、著者はこう言っている。「誘因→期待→満足」と。まず客を惹きつけ、「ヤバくね?」とか「派手な事が起こりそう」とか「謎が解けそう」とか期待させ、最後に期待を満足させる。日本の劇作だと序破急になるのかな?

 など物語の大枠はもちろん、個々のシーンでも、客を引き付けるのに役立つアドバイスがたくさん入っている。素人がやりがちなのが、細かい設定を長々と説明すること。当然、それはよろしくない。とにかく何かを動かすべきなのだ。

あなたが書くどのシーンの目的も、何かを起こさせるということである。
  ――7 脚本執筆のスタイル

 というか、巧みな作家は個々のシーンでも「誘因→期待→満足」の構造を作ってる気がする。

 とかの前半は、脚本だけでなく小説や演劇の脚本でも役立ちそうなアドバイスだ。これが後半では、次第に映画の脚本に焦点を絞ってくる。

 脚本ならではのアドバイスとして、例えば、なるたけ登場人物の具体的な動作は書かない方がいい、なんてのがある。

 スリ寄ってくる嫌いな奴に対し「手を回して追いやっ」てはいけない。「鬱陶しそうに払いのける」のはいい。どう払いのけるか、どんな動作で表すかは、役者の領分なのだ。特に、トム・クルーズのような大スターの場合は。彼らは「何を演じるか」には従っても、「どう演じるか」を指示されるのは好まない。まして新人の脚本家ごときに。

 そう、あなたは有名な作家じゃない。今は無名だ。だから、ビジネスでも立場が弱い。おまけに、ハリウッドの習わしも知らない。そして売り込むべき相手は百戦錬磨のプロであり、桁違いの金額を動かすギャンブラーでもある。何も知らずに売り込んでも、門前払いを食らえばマシなほうで、ネタを奪われタダ働きにもなりかねない。私がまず驚いたのは…

ときに映画は、(略)1ダースかそれ以上の書き直しを、その回数と同じ数の違ったライターにより行われる…
  ――9 脚本書きというビジネス

 そう、あなたが書いた脚本がそのまま採用されることは、まずない。必ず書き直される。しかも、書き直すのはあなたではない。あなたが見も知りもしない他人だ。原因はいろいろある。プロデューサーの懐具合かもしれないし、監督の思い付きかもしれない。スターはいつだって自分を目立たせろと言ってくる。映画の脚本とは、そういうモノらしい。

 となると、映画の最後のクレジットに出てくるのは、どの脚本家なのか。これについても、終盤でマニアックな話が出てきて、映画ファンには嬉しいところ。なんと Written by / Story by / Screen Story by / Screenplay by で違うし、by George & Martha と by George and Martha でも微妙に違うのだ。なんてこったい。

 加えて、今のハリウッドの競争は厳しい。どれぐらい厳しいかというと…

毎年、脚本家組合の登録部は四万本をこえる脚本とトリートメントを受け付けているが、毎年ハリウッドが製作し封切る長編映画は、約300本だけである。これらの長編映画のわずか一握りが商業的に成功する。
  ――9 脚本書きというビジネス

 と、1%にも満たない。しかも当たる映画は、もっと少ない。

 Netflix などが映像制作に参入したためか、SF小説にお声がかかることも増えたが、必ずしも本当に映像化されるとは限らず、いつのまにか話が立ち消えになってたりする。その辺の事情や、脚本家に与えられる権利など、切実かつ下世話な事情もあからさまに書いてある。クリエイター志望の人に限らず、観客として楽しむ立場でも、何かと学べる点の多い本だ。

 例えば私は、スター☆トゥインクルプリキュアの第43話の巧みさに改めて舌を巻いた。ターミネーター2と同様に、えれなさんも葛藤に悩み、戦いを通じて葛藤に向き合い、乗り越えて変わる。そういうサイド・ストーリーの編み込み方が見事なのだ。大きいお友達を魅了する秘訣だろう。

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2019年12月 4日 (水)

ロバート・T・キャロル「懐疑論者の事典 下」楽工社 小久保温・高橋信夫・長澤裕・福岡洋一訳

自然のものは(医薬品のような)人工物よりも体に良く安全だと思っている人は多い。
  ――代替医療

ジプシーがタロット・カードを使いはじめたのは20世紀以降のことだ。
  ――タロット・カード

自分自身が優秀であると主張する理由が薄弱になればなるほど、人はますます、彼の属する国家、宗教、人種、あるいは神聖な大義が、優秀きわまりないと主張する傾向がある
  ――トゥルー・ビリーバー・シンドローム

21世紀に入った時点で、アムウェイのディストリビューターは年間平均約700ドルを売り上げていたが、製品を買うのに年間千ドル費やしていた。
  ――マルチ商法

もしもモーツァルトの音楽が健康にいいというのなら、なぜモーツァルト本人はああも病気がちだったのか?
  ――モーツァルト効果

UFOを観測するのが一般に素人のスカイウォッチャーであり、プロアマを問わず天文学者(つまり上天の観測にあり余るほどの時間をさいている人間)の観測した例はほとんど一度もない。
  ――UFO

ローマン・ブンダ神父「信ずる者にとっては何も説明はいらない」「信じない者にとっては説明がまったく成り立たない」
  ――ワトソンヴィルの聖母

 ロバート・T・キャロル「懐疑論者の事典 上」楽工社 小久保温・高橋信夫・長澤裕・福岡洋一訳 から続く。

【どんな本?】

 著者が始め、世界中の懐疑論者が協力しているWeb サイト The Skeptics's Dictionary m(→日本語版)は、オカルト・超自然・疑似科学などの用語を集め、多少の辛辣なユーモアを含め解説している。2003年、米国で主な400項目を選び出し、書籍として出版された。

 本書はその日本語版として、並びをあいうえお順に改め、上下巻に編纂したものである。

 日本語版編集委員として、小内亨・菊池聡・菊池誠・高橋昌一郎・皆神龍太郎の五名が協力している。

【前科】

  •  上巻
  • 日本語版編集委員まえがき
  • 著者はしがき/謝辞/序/凡例
  • 懐疑論者の事典 あ行~さ行
  •  下巻
  • 懐疑論者の事典 た行~わ行
  • Picture Creditss
  • 参考文献一覧/人名索引/欧文索引

 これだけ多くの記事が載っていると、中には私がひっかかったモノも出てくる。その一つがバイオリズム(→Wikipedia)。心身のリズムは三つのサイン・カーブで云々、ってやつ。いや私、三角関数は苦手なんで持ち出されるとコロリと参っちゃうんだよなあ。もっとも楕円関数まで行っちゃうと皆目見当がつかないんだけど。でも落ち着いて考えると、これや星占いなど誕生日で判断するシロモノは、早産の場合はどういう計算になるんだろ?

 やはり信じてたのが、バミューダ三角海域(→Wikipedia)。サルガッソ(→Wikipedia)と関係あるとか、メタンハイドレートが云々とか思ってたけど、そもそも交通量に比べ特に事故が多いわけでもないとか。火のない所の煙に踊ってたのか。

 同様に、「何か深い知恵があるんじゃないか」と思っていたのが、ロールシャッハ・テスト(→Wikipedia)。インクの染みを見て云々ってやつね。ところが、本書では…

インクの模様の検査結果を解釈するというのは、科学的かどうかということでいえば、夢判断とほとんどいい勝負なのである。
  ――ロールッシャッハ・テスト

 と、バッサリ。どうも心理学関係は、怪しげなのが入り込みやすいようだ。ちなみに本書はジークムント・フロイドの精神分析もカール・ユングの分析心理学も切り捨ててます。もっとも、ユングはSFやファンタジイのネタとして美味しいんだけど(→「人間と象徴」)。

【名前】

 ありがちな現象や統計的に多く出会う現象について、何か名前がついていると、覚えやすいし、議論の時に便利だ。上巻では「靴べら的行為」が出てきた。これは下巻にも幾つか出てくる。まずは…

「ジーン・ディクスン効果」とは、サイキックの予言が少しばかり当たったとき、マスメディアがそれを宣伝、誇張して、確実に世の人々の頭に残るようにするいっぽう、多くのはずれた予言は忘れたり無視したりする傾向をさす。
  ――ディクソンとジーン・ディクソン効果

 これは超能力に限らず、オカルトの類もそうだよね。先のバミューダ三角領域も、事故が起こればマスコミは騒ぐけど、普通に通り抜けたら何も言わない。マスコミの偏向は他にもあって、少し前は「あおり運転」が流行った。昔からあったのに。まあ車載カメラと動画投稿が普及したせいもあるんだろうけど。同様に、占い師がよく使う手口で…

あいまいで普遍的な性格描写を、同じ内容がおよそ誰にでもあてはまることに気づかず、自分にしかあてはまらないものとみなす傾向。
  ――ファウラー効果

 「外交的なときもあれば、深く考え込む時もある」とか。そして私たちは、当たった事は覚えてるけど、外れたことは忘れるのだ。

 また、彼らは誘導尋問が上手いんだよね。例えば女に対し「男のことで悩んでますね」と言えば、たいてい当たる。男は恋人や夫に限らず、父や兄や息子や上司や部下、はたまた近所のウザいオッサンかもしれない。悩みが借金だとしても、取立人が男なら当たった事になる。そこで女が「はい、実は…」とか言いだせば、もういただきだ。

 と思ったら、別口の「必ず当たる占い」も出てた。

<あなたはとても傷ついていて穴だらけです。そんなあなたは清い人です>
  ――ヒューストン博士とミステリースクール

【宗教】

 5ちゃんねらは、宗教ネタが大好きだ。そこでよく話題になるのが、「無神論」の定義。実はこれ、ハッキリしていないのだ。

神の概念はいくつもある(略)。そうすると、神の名の数と同じくらい、多種多様な無神論があることになる。
  ――無神論

 神道の神とユダヤ教・キリスト教・イスラム教の神は違う。すると、互いに相手を無神論者と見なすことになってしまう。もっとも、八百万の神がいるとすると、面倒くさいことになるけど。また、仏教も…

スピノザやプラトンを無神論者とみなすのと同じ理由で、仏教徒を無神論者とみなすキリスト教徒もいる。
  ――無神論

 と、視点によっては無神論になるらしい。とすると、禅はどうなるんだろ? もしかすると禅宗と ZEN は違うのかも。

 やはりありがちなのが、「神の不在を証明せよ」的な理屈。

まだ偽であると証明されていないのだから、それは真であるとか、まだ真であると証明されていないのだから、それは偽である、と主張する論理上の虚偽。
  ――無知に訴える論証

 あと、「進化論じゃ説明がつかない現象がある」とかもあるけど、進化論に穴があるからといって、創造論が正しいって事にはならないんだよなあ。なぜか二者択一的な議論になっちゃうけど、第三・第四の理論があるかもしれないし。もっとも、たいてい第三・第四の理論は、進化論の改訂版だったりするんだけど。

【ユーモア】

 辛辣なユーモアは、下巻でも健在だ。かつて大流行したアレも…

予言の意味は、予言対象の事件の起きる前は支離滅裂で判然としない。しかし事件のあとには、非常に明瞭になる
  ――ノストラダムス、ミシェル

 さすがに1999年を越したら下火になるかと思ったが、海の向こうじゃ健在みたいだ。仕方がないのかも。人ってのは、やっぱりケッタイなモノが好きなのだから。

【おわりに】

 やはりアメリカ人が作ったWebサイトが元なので、どうしてもアメリカで幅を利かせてるモノが中心になる。それでも、セラピューティック・タッチが手かざしとソックリだったり、薬草燃料が水ガソリン事件と似てたり、リフレクソロジーがモロに「足のツボ」だったりと、この手のネタは地域を問わないもんだなあ、などと妙な感慨にふけっちゃったり。

 また、これだけ量が集まると、その中にパターンが見えてくるのも、意外な効果の一つだろう。真面目に読んでもいいし、SFやホラーのネタとして使ってもいい。もちろん、幼い頃に怪獣図鑑に熱中したように、興味本位で読んでも充分に楽しめる本だ。

【関連記事】

【つぶやき】

 そんなノストラダムスをテーマにした曲もあって、私は好きなんだよなあ。Nostradamus - Al Stewart(→Youtube)。ちょっとブライアン・メイの三味線ギターみたく、生ギターの使い方が独特なのだ。

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2019年12月 2日 (月)

ロバート・T・キャロル「懐疑論者の事典 上」楽工社 小久保温・高橋信夫・長澤裕・福岡洋一訳

本書『懐疑論者の事典』は、超自然・オカルト・超常・疑似科学関連のテーマについての定義、議論、小論を記したものである。
  ――序

…超心理学者はESP実験で任意の開始と中止をするので評判が悪い。
  ――確証バイアス

…ひとりの妄想は狂気、少数の妄想はカルト、大勢の妄想は宗教…
  ――カルト

人はいついかなるときでも不思議な現象を望む傾向がある。
  ――奇跡

…受講生は、<もっと上級のトレーニングに申し込んだ人を待ち受けるすばらしいよろこびと達成>のほんの一部を味わったに過ぎない…
  ――自己啓発セミナー

人体自然発火現象(SHC)を目の当たりにしたものはいない。
  ――人体自然発火現象

患者の問題の原因が家族なのだから、家族には患者を助けることができない。
  ――<ニュー・エイジ系>心理療法

スティーヴン・ジェイ・グールド「打ち負かすことのできない体系は、教理であって科学ではない」
  ――創造論、創造科学

【どんな本?】

 大元はWeb サイト The Skeptics's Dictionary である(→日本語版)。オカルト・超自然・疑似科学などの用語を集め、多少の辛辣なユーモアを交えて解説している。その人気に乗じ、2003年に主な400項目を選び出し、米国で書籍として出版した。

 本書はその日本語版として、文章を訳しただけでなく、並びをあいうえお順に改め、上下巻に編纂したものだ。

 単に用語の意味や事件の内容を示すだけに留まらず、オカルトや疑似科学の支持者がよく用いる手法や、私たちが陥りがちな勘ちがいや心理的な罠の説明もある。

 なお、日本語版編集委員として、小内亨・菊池聡・菊池誠・高橋昌一郎・皆神龍太郎の五名が協力している。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Skeptics's Dictionary : A Collection of Strange Beliefs, Amusing Deceptions, and Dangerous Delusions, by Robert Todd Carroll, 2003。日本語版は2008年10月20日第1刷。単行本ソフトカバー上下巻で縦二段組み本文約425頁+412頁。9ポイント26字×19行×2段×(425頁+412頁)=約826,956字、400字詰め原稿用紙で約2,068枚。文庫ならたっぷり四冊分ぐらいの巨大容量。

 文章は比較的にこなれている。内容も特に難しくない。原書が2003年の発行のため、新しいモノを収録していないのは残念。改訂版を出してほしい。

【構成は?】

 個々の項目は数行~数頁で、それぞれ独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

  •  上巻
  • 日本語版編集委員まえがき
  • 著者はしがき/謝辞/序/凡例
  • 懐疑論者の事典 あ行~さ行
  •  下巻
  • 懐疑論者の事典 た行~わ行
  • Picture Creditss
  • 参考文献一覧/人名索引/欧文索引

【感想は?】

 つまりは「怪しげなモノの一覧」だ。ただし、書いているのは懐疑主義者なので、中身の紹介はいささか辛口に仕上がっている。

 私は怪しげなモノが大好きだ。UMAやUFOや怪獣が好きだし、SFが好きなのもそのためだろう。だからか、著者が望んだのとは少し違った形で本書を楽しんだ。私が知らない「怪しげなモノ」を見つけて喜んでいるのだ。

 その代表例が、「神経言語プログラミング」略してNLP(→Wikipedia)だ。最近になって、この言葉をチラホラと見かけるようになった。少し検索して調べたんだが、サッパリ実態がつかめない。「プログラミング」なんて入ってるから、強化学習とかのAI関係か、流行りのアルゴリズムか、はたまた「言語」があるから「バベル-17」的なアレかしら、などと思っていたんだが…

NLPの専門家を自称する人のあいだに、NLPに関する統一した見解を見いだすことは難しい。
  ――神経言語プログラミング

 と、わからないのも当然で、ちゃんんとした定義はなく、新手の自己啓発っぽいナニモノからしい。そうか、日本語ラインプリンタじゃなかったのか。

 こういうケッタイなネタは豊富に載ってて、「陰茎プレチスモグラフ」なんて思わず笑ってしまう。男のナニがどれぐらい膨らむかを測る機械で、ロリコンや同性愛者をあぶりだすのに使う。最初に使ったのはチェコスロヴァキアで、軍役を逃れるためゲイを装う者を暴くのに使ったとか。マジかい。ただ、信頼性はイマイチ。

 とまれ、実は真面目な役にも立つってオチもついてる。曰く、「器質性のインポテンツと心因性のインポテンツの識別」。心因性なら「レム睡眠中は数値も増大する」って、朝勃ちを調べるのね。んなモン使わんでも、切手を巻いて云々って話があったような。

 この手のネタは「イカの石」「インディゴ・チルドレン」「E線」と、「い」の段だけでもうじゃうじゃ見つかる。読んでいくと、この手のモノのクセみたいのががウッスラと見えてくるのも楽しい。ニューエイジ系はインドや禅とかの東洋趣味だったりするんだが、傾向としては…

…古い理論であればあるほど信用すべき…
  ――エネルギー

 ああ、うん、あるよね。とはいえ、さすがに限度はあって、石器時代にまで辿れるものはあまし歓迎されないみたいだけど。縄文土器を崇める集団とか、聞いたことないし。もしかして私が知らないだけで、探せばあるのかな? この手の傾向としては、他にも…

…物質世界にまみれた存在は、霊的進化のさまたげになる…
  ――人智学

 とかも、ありがち。テクノロジーを嫌うタイプもあるんだよね。でもインターネットは使うから、その基準がよくわからん。こういう傾向や手口は、名前がつくと憶えやすくて便利。

靴べら的行為とは、その時どきの出来事を、自分の個人的・政治的・宗教的なアジェンダ[行動計画・スケジュール・実践すべき義務]に無理やりあてはめてゆくプロセスのことである。
  ――靴べら的行為

 この項では、911を神の怒りの表れだとしたキリスト教原理主義者を例に挙げてる。もっとも、これはアメリカや宗教に限った事じゃなく、5ちゃんねるじゃ某政党を責めるのによく使われたり、子供はいじめに使ったりする。

 こういうのは他のとセットになってる事が多い。本書でもよく出てくるのが、占い師やサイキック(自称超能力者)がよく使うコールド・リーディング。占い師の顧客は往々にして「当たったことは記憶し、はずれたことは忘れる」のだ。なお、私は誰にでも当たる占いを知っている。それは、こうだ。「あなたは誤解されているけど、本当はとてもいい人ですね」。

 また、この手のモノは、けっこうローカルな文化の影響が強いのも、実感できる。元はアメリカ人が作った英語のサイトのため、やはり西欧・アメリカ文化の色が濃い。だからアトランティスの項目はあるが、ムー大陸とレムリア大陸はない。透聴はあっても恐山のイタコはない。狼憑きはあるが狐憑きはない。そういえば悪魔憑きはあるが、日本じゃ鬼憑きってのはないな。

 逆に洋の東西を問わないのもあって、セラピューティック・タッチとか、まるきし「手かざし」だったり。あと、組織的強化もそうだね。アレな人が集まると、その信念が更に強化されるってやつ。でもこれ、カルトに限らず、趣味の集団でもそうだよね。レイ・ブラッドベリが作家志望の者に向けたアドバイスの一つが、「外に出て同じ境遇の人を探せ」。SFが勢いを得たのも、ファンが集まるSF大会の貢献が大きいと私は思う。

 なども面白いし、ボンヤリと名前だけは知っていたアレの実態が分かるのも楽しい。私がビビったのが、これ。魔術師で有名な…

アレイスター・クローリーは、自称ドラッグ・セックス狂で…
  ――クローリー、アレイスター

 つまり金持ちのドラ息子で、女たらしのジャンキーだったとか。確かカードキャプターさくらにも出てきたな。さくらちゃん、逃げて~!

 こういう衒学的なトリビアを真面目に歴史から掘り起こす部分もあるが、懐疑主義者にありがちな皮肉なユーモアも忘れちゃいない。

いまだかつてサイキックを賭場から追放したカジノもない。
  ――サイキック

 数学者は追い出されたけどね。クロード・シャノン(→Wikipedia)だったかな? 仲間と組んで計算機を使いカウンティングしたのだ。情報理論は博打にも役立つんです←をい

 と、そんなところで、下巻へと続く。

【関連記事】

【つぶやき】

 カルトは悪役にされがちだけど、Blue Öyster Cult は見逃してください。Astronomy(→Youtube) とか名曲もあるんです。

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2019年9月19日 (木)

オーウェン・ジョーンズ「チャヴ 弱者を敵視する社会」海と月社 依田卓巳訳

本書の狙いは、(略)「チャヴ」という戯画の陰で見えなくなっている大多数の労働者階級の実像を、多少なりとも示すことだ。(略)われわれが最終的に取り組まなければならないのは、差別そのものではなく、差別を生み出す源、すなわち社会だ。
  ――はじめに

…本書には、重要なテーマが三つあった。
第一に、イギリスは階級のない社会であるという迷信を打破すること。(略)
第二に、貧困などの社会問題は個人の責任であるという有害な主張に立ち向かうこと。
そして第三に、同じような経済的利益をめざす人々が改革に取り組むことで社会は進歩する、という考えを後押しすることだ。
  ――ふたたび、親愛なるみなさんへ

「保守党は特権階級の仲間の連合で成り立っている。大きな党是はその特権を守ることだ。そして選挙に勝つ秘訣は、必要最小限のほかの人々に必要最小限のものを与えることだ」
  ――2 「上から」の階級闘争

…「福祉のたかり屋」を叩けば、低賃金の労働者の支持が集まりやすい。(略)しかし、現実に社会保障制度で攻撃されたのは、「怠け者」ではなく、工業の崩壊で最大の被害を受けた労働者階級のコミュニティだった。
  ――3 「政治家」対「チャヴ」

よく知らない人のことを馬鹿にするのは簡単だ。
  ――4 さらしものにされた階級

「フランク・ランバートやデイビッド・ベッカムといった労働者階級のヒーローが、まず何をすると思う? 労働者階級のいる地域からチェシャー州やサリー州に引っ越すんだ。ロールモデルたちも、自分の階級を信頼していないということだ
  ――4 さらしものにされた階級

英国犯罪調査は、労働者階級の人々の方が、中流階級より明らかに犯罪被害に遭いやすいことを示している。
  ――7 「ブロークン・ブリテン」の本当の顔

【どんな本?】

 チャヴ。イギリスで、貧しく教養のない白人労働者を示す言葉。アメリカならホワイト・トラッシュやプアアホワイトが近いと思う。日本だと、ヤンキー、かな?

 進学する能力も意思もなく、定職につかず気分次第で低賃金の仕事に就いたり辞めたりして、若いうちに子供を作り、公共住宅に住み、失業手当や生活保護に頼って暮らし、酒を飲んで街をほっつき歩いちゃ仲間内の喧嘩に明け暮れ、隙があれば盗みや恐喝で小遣いを稼ぐ。服はジャージやパーカーなどのスポーツウェアにスニーカー。新聞やワイドショウの犯罪報道の常連。

 そんな印象の人を示す言葉だ。往々にして蔑み嫌う意図で使う。

 だが、彼らの本当の姿は、どうなのか。なぜ彼らは蔑まれ嫌われるのか。かつては産業の基盤を支える誇り高い存在だった労働者は、どこに消えたのか。

 著者は1970年代以降のイギリスの政治・経済政策を追い、チャヴの存在やその印象は、保守党政権によって作られたものだ、と主張する。その政策とは何で、どのように作用したのか。貧しい者の代弁者であるはずの労働党は、何をしていたのか。

 20世紀末から現代にいたる、民主主義国家の政治・経済政策を、「階級」という視点で鋭く分析し批判する、熱い怒りに満ちたアジテーションの書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は CHAVS : The Demonization of the Working Class, by Owen Jones, 2012。日本語版は2017年7月28日初版第1刷発行。私が読んだのは2018年9月1日の第2刷。売れてます。ソフトカバー縦一段組み本文約370頁。10ポイント49字×19行×370頁=約344,470字、400字詰め原稿用紙で約862枚。文庫なら厚い一冊か薄い上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容はイギリスの経済政策の批判である。なので、多少は政治と経済の知識があった方がいい。外国の話なので、ちょっと見は近寄りがたく感じるだろう。だが、ここに書かれている保守党サッチャー政権の政策は、日本の自民党政権の政策とよく似ているし、対抗する労働党の政策も、旧民主党と似ている。加えて、貧しい人の話なので、豊かな人にはピンとこないかも。

【構成は?】

 全体を通してのストーリーはある。が、それぞれの章は独立した記事としても読める。なので、気になった所から拾い読みしてもいい。

  • まえがき
  • 1 シャノン・マシューズの奇妙な事件
  • 2 「上から」の階級闘争
  • 3 「政治家」対「チャヴ」
  • 4 さらしものにされた階級
  • 5 「いまやわれわれはみな中流階級」
  • 6 作られた社会
  • 7 「ブロークン・ブリテン」の本当の顔
  • 8 「移民嫌悪」という反動
  • 結論 「新しい」階級政治へ
  • 謝辞
  • 親愛なるみなさんへ
  • ふたたび、親愛なるみなさんへ
  • 原注

【感想は?】

 はじめにハッキリさせておこう。本書は貧しい人向けの本であり、学歴のない人向けの本だ。「貧しい」にもいろいろあるが、年収500万円に満たないなら、読む価値はある。これはあなたの本だ。もちろん、私の本でもある。

 中には豊かでないにもかかわらず、右派を支持する人もいるだろう。そんな人は、「8 『移民嫌悪』という反動」だけでも読んでほしい。特に「ガイジンは俺たちの職を奪い、安い公共住宅を占領している」と思うなら、是非とも読んでほしい。あなたの本当の敵は、ガイジンじゃない。

移民が賃金の影響を与えたという問題について、タブロイド紙が先頭に立ったキャンペーンでは、攻撃の矛先がまちがったほうに向いている。雇用者が賃金削減の口実に移民を用いたのなら、国民の非難を受けるべきは雇用した側だ。(略)
移民を取り締まらなくても改善はできる。たとえば、最低賃金を引き上げ、外国人労働者をほかの労働者より低賃金や悪条件で雇用するのをやめればいい。
  ――8 「移民嫌悪」という反動

 すまん。興奮して突っ走りすぎた。仕切りなおす。

 読みながら感じたのは、「これは本当にイギリスの話なのか。日本の話ではないのか」だ。

 たしかに固有名詞は違う。自民党ではなく保守党だし、民主党ではなく労働党だ。だが、描かれるストーリーはほとんど同じなのだ。

 もともと、イギリスは福祉国家として名をはせていた。だがイギリス病(→Wikipedia)と呼ばれる不況に陥り、サッチャー政権が登場する(→WIkipedia)。大胆に民営化し、金融緩和を推し進めた。結果、シティ(金融業)は活気を帯びたが、製造業は壊滅する。

 製造業壊滅の例として、本書は炭鉱を挙げている。これが私には国鉄民営化や郵政民営化と重なって見えた。イギリスの労働運動は炭鉱の労働組合がリードしていたが、廃鉱で組合は壊滅する。日本も国鉄の労働組合が賃上げをリードしていたが、民営化で影響力を失う。郵政民営化でも、最近は派遣労働者の待遇が問題になった。結果はイギリスも日本も同じだ。全国的に労働組合が力を失い、労働者の権利を代弁する全国的な組織がなくなったのだ。

 クビを切られた炭鉱労働者は、別の職を探す。ないわけじゃない。だが、あるのは低賃金で不安定な派遣やパートだ。人の出入りが激しいから、労働組合もない。

2009年12月に発表された統計によると、金融危機にもかかわらず、就労者の数は増えはじめている。だが、5万件の新しい仕事の大部分はパートタイムだった。
  ――5 「いまやわれわれはみな中流階級」

 …まるきし、今の日本じゃないか。まあいい。これに対しイギリス政府の見解はこうだ。「自己責任」。小泉改革かよ。資本主義である以上、競争があるのは仕方がない。私も能力主義は正しいと思っていた。しかし…

「…純粋なメリトクラシー(能力主義)を導入するなら、財産の相続は無効にし、私立校も廃止しなければならない」
  ――3 「政治家」対「チャヴ」

 そう、能力主義を主張する者は、相続税の増税を主張するだろうか? ねえ、麻生太郎さん。しかも、だ。

イギリスで私立学校にかよえるのは100人中7人だけだが(略)上級公務員の半数近くは私立学校出身で、財務担当の重役の7割、著名ジャーナリストの半数以上、弁護士の10人中約7人…
  ――6 作られた社会

 能力を身に着けるための教育の機会が、生まれつきで決まっているのだ。そもそも日本の自民党は世襲議員ばっかりだし。加えて、能力主義には困った弊害もある。

…メリトクラシー(能力主義)は、「頂点に立っている者はそれだけの価値があるから」とか、「底辺にいる者はたんに才能が足りず、その地位がふさわしいから」といった正当化に使われる。
  ――3 「政治家」対「チャヴ」

 昔なら産業の礎としての誇りを持てた労働者が、能力主義では無能と蔑まれてしまう。働いて子供を養うトーチャン・カーチャンが、自分に誇りを持てないってのは、国としてもヤバいんじゃないの? というか、昔は働く者が誇りを持てたのだって所に、私は全く気付かなかった。そう、労働者は誇りを持っていいい、というか持つべきなのだ。

 同様に、「保守系の人は犯罪などを家族の問題にしたがるけど、それ自己責任と同様に、制度や政策のツケを個人に押し付けてるんじゃね?」なんて指摘には、目からうろこが落ちる気分になった。

 これに対し、労働者の代弁者であるべき労働党は、何をやっているのか。実は、労働党の議員は、労働者の暮らしの実態を知らないのだ。なぜって、彼らの多くは中流階級出身の高学歴だから。昔は労働組合出身で叩き上げの議員がいたけど、今は組合がアレだし。だから…

タイムズ紙メラニー・レイド「私たちのようなおとなしい中流階級には、この事件は理解できない」(略)「なぜならこの種の貧困は、アフガニスタンで起きることのように私たちの日常からかけ離れているからだ。デュースベリーの白人労働者の生活は、まるで外国のようだ」
  ――1 シャノン・マシューズの奇妙な事件

 そして、労働党は戦略を誤った。労働者の生活改善を放置して、マイノリティに優しいリベラルを演じた。だが…

リベラルな多文化主義は、不平等を純粋に「人種」の視点からとらえ、「階級」を無視している。
  ――8 「移民嫌悪」という反動

 これに失望した労働者は、労働党を見限る。その票を喰ったのは、愛国を訴え、生活保護を不正受給するたかり屋を叩くナショナリストだ。本書ではBNP=イギリス国民党だが、日本なら維新の会だね。だが、不正受給ったって…

(公認会計士リチャード・)マーフィーの試算では、脱税による財務省の損失は年間700憶ポンド(約10兆円)にのぼり、生活保護の不正受給額の70倍以上だ。
  ――5 「いまやわれわれはみな中流階級」

 なんだけど、彼らはパナマ文書(→Wikipedia)には大人しいんだよなあ。失業手当にしたって…

雇用者側から見ると、失業を「偽装」して生活している何十万人もの人々から給付金を奪い取ることは、少なくとも利益になる。いっそう多くの人が低賃金の仕事をめぐって競い合い、賃金の下落に拍車がかかるからだ。
  ――7 「ブロークン・ブリテン」の本当の顔

 資本主義の基本、需要と供給の関係だね。労働力の需要が変わらず供給すなわち求職者が増えれば、安い賃金で働く者も出てくる。それで得するのは雇う側だ。

不況が労働者の生活を踏みにじり、何千人もの人を失業させているなかで、再富裕層1000人の富が2009年から10年の間に30%も増え、史上最高の増加率だった…
  ――  ――結論 「新しい」階級政治へ

 もう一つ、維新やBNPが得意とする手口がある。宣伝だ。

徹底した宣伝活動には、お決まりの仕掛けがある――極端な例を見つけ出し、偏った情報にもっぱら取材し、統計や事実による裏づけのない大胆な主張をするのだ。
  ――ふたたび、親愛なるみなさんへ

 増えてもいない事象を「相次いでいる」と言って増えているように思い込ませる(→「日本の殺人」)なんてのは日本のマスコミの常套手段だが、BBCの例はもっと怖い。

 2009年にリンジー石油精製所でストライキが起きた。労働者の一人はこう話した。「ポルトガル人やイタリア人とはいっしょに働けない」。これを見た人は、こう思うだろう。「この労働者は人種差別主義者だ」。だが、放送は次の言葉をワザと省いていた。

「彼らから隔離されているからね」

 これでは意味が正反対になる。あのBBCですら、そういう印象操作をしているという事に、私は暗澹たる気持ちになった。

 他にも、

ジャーナリストのニック・コーエン「富裕層が見事にやりとげたことのひとつは、中流階級以下の多くの人々に、自分たちは中流だと信じ込ませたことだ」
  ――結論 「新しい」階級政治へ

 なんてのに、「そういえばかつて日本も一億総中流社会とか言われたなあ」なんて遠い目になったり。あれで「労働組合って、なんかビンボくさくてダサいよね」的に思い込まされたんだ。

 やたらエキサイトしたせいで、無駄に長いわりにまとまりのない記事になってしまった。中身はわからなくとも、興奮している事だけでも読者に伝わればいいと思う。つまり、そういう本です。

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2019年8月14日 (水)

ジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡」紀伊國屋書店 柴田裕之訳 3

最初の詩人は神々だった。詩は<二分心>の誕生とともに始まった。古代の精神構造における神の側はたいてい、いやことによるとつねに、韻文で語っていたのだ。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第3章 詩と音楽

…音楽を聞いて味わうときにも人は脳の右半球を使っている…
  ――第3部 <二分心>の名残り 第3章 詩と音楽

<二分心>を持つ人間は空想などしない。経験するだけだった。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第3章 詩と音楽

時代とともに性質が移り変わるという事実は、催眠が所定の刺激に対する決まった反応ではなく、時代の期待や先入観に応じて変化することを如実に物語っている。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第4章 催眠

互いに敵意を抱いていたのは、科学と宗教ではなく、科学と教会なのだ。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第6章 科学という占い

意識と認知は別物で、この二つははっきりと区別されるべきだ。
  ――後記

紀元前1000年以前の人々は、けっして罪悪感を抱かなかった。
  ――後記

 ジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡」紀伊國屋書店 柴田裕之訳 2 から続く。

【どんな本?】

 ヒトが意識を獲得したのは、約三千年前だ。
 それ以前、人は<二分心>に従っていた。神々の声を聞く心と、それに従う人間の心である。

 本書は、この大胆かつ独創的な仮説を唱え、歴史の遺物や文献によって検証し、現代にも残る名残りを挙げてゆく。

 この記事では、現代の名残りを挙げる「第3部 <二分心>の名残り」を中心に紹介する。

【はじめに】

 第3部で<二分心>の名残りとして挙げているのは六つ。宗教,憑依,詩と音楽,催眠,統合失調症,そして科学とエセ科学だ。なお、最後の「後記」は、本書の初版に寄せられた批判への反論が中心となっている。

 どうでもいいが、私が最近に読むノンフィクションは、よくダニエル・デネット(→「解明される宗教」,→Wikipedia)が出てくる。こっちの世界じゃ有名な人なんだと、いまさら思い知った。

【宗教】

<二分心>の名残りをひときわ色濃くとどめるとりわけ大切なものと言えば、複雑な美しさを備えた多種多様な宗教の伝統だろう。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第1章 失われた権威を求めて

 という事で、最初の名残りは宗教だ。神の声を失った人々は、それに代わるものを求めた。すべての人が一斉に神の声を失ったワケじゃない。数少ないながらも、神の声が聞こえる者もいた。そういう人が、神託を受けたのだ。文化人類学だとシャーマンと呼ばれる人たちだね。現代日本の霊能者も、この系譜なんだろう。

 ここで面白いのはイエス・キリストの話。彼はユダヤ教を改革しようとした。その理由を、こう説明している。ユダヤ教は<二分心>向けだ。意識を持つ人間には、新しい宗教が必要だったから、と。

 ちなみに Wikipedia によると釈迦は紀元前5世紀、老子は紀元前6世紀、孔子も紀元前5~4世紀なので、もしかしたら東洋の方が先に意識を獲得したのかも。

【憑依】

憑依が初めて現れたのはいつだろうか。(略)
少なくともギリシアにおいては、(略)『イーリアス』にも、『オデュッセイア』にも、ほかの初期の詩にも、憑依はもとより、憑依をわずかにでも匂わせる場面はいっさい出てこない。(略)
<二分心>が消えた後を受けたのが憑依だった。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第2章 預言者と憑依

 悪魔憑きや狐憑き、そして恐山のイタコがこれだろう。でも「首尾よく神を呼び寄せるには、霊媒が純朴で垢抜けていないほうがよい」って、ヒドスw。あ、そういえば、~の霊言とか自称する人もムニャムニャ。

 ここではウンバンダ(→コトバンク)なんてオカルト心をくすぐるネタも出てくるが、それ以上に面白いのが異言(→Wikipedia)。知らない筈の言語を喋る、という現象なのだが、これには特徴があって…

ホメロスの叙事詩に非常によく似た、強勢の有無の規則的な変化と、上がっていって最後に下がる抑揚は、信じ難いことに、異言を語る者の母国語が何語であっても変わらない。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第2章 預言者と憑依

 共通する独特のリズムとビートを持っている、というのだ。それって、もしかして…

【詩と音楽】

 そのホメロスのイーリアス、ギリシア語の朗読が Youtube にある。いかにも上品だが、このリズムってもしかしたらラップになるんじゃね?と思ったら、やっぱりやってる人がいた(→Wikipedia)。ラッパーとは現代の詩人だと思うこともあるんだが、その確信が強まる動画だなあ。

 長い文章などを覚えるには、リズムや抑揚があると覚えやすい。「古代の詩ははるかに歌に近かった」とあるが、そうでない詩は忘れられたのかも。それはともかく、歌に近いとなると、ますますラップに似てくる。著者がヒップホップを聞いたら、どう思うんだろう? まあいい。問題は、詩と二分心にどんな関係があるのかって事だ。

詩は、<二分心>の神の側が語る言葉として始まった。<二分心>が崩壊すると、まだ神の言葉を聞くことのできる者が預言者として残る。(略)また一部は詩人という特別な職業について、神が語る過去の出来事を人々に伝えた。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第3章 詩と音楽

 詩人が言う詩神とは、二分心時代の神の声の再降臨だ、というわけ。詩神の正体が無意識の叫びだとすれば、現代のヒップホップがアレなのも当然だよね。

【催眠】

 催眠状態とはどういうものか、私は知らなかった。この本にはわかりやすい例が出てくる。催眠にかかったフリしてる人と、本当に催眠にかかった人の違いだ。

 部屋の端から端まで歩けと命じ、途中に邪魔物になる椅子を置く。そして「椅子などない」と告げる。すると…

 ニセモノは、椅子にぶつかる。が、ホンモノは、椅子をよけて歩くのだ。よけてるんだけど、それを自覚していない。そういえばオリバー・サックス(だったかな?)の著作に、自分の足が動かないことを認めない人、というのが出てきた。「そうである」事を、自覚できないのだ。ヒトの脳は、時としてそういう働きをするらしい。

【統合失調症】

…本書の仮説によると、前2000年期より前は誰もが統合失調病だった…
  ――第3部 <二分心>の名残り 第5章 統合失調症

 と、大胆な仮説で始まるこの章、中身は皆さんのご想像通り。もっとも、私は統合失調症について全く分かっていない事を思い知らされた。例えば、こんな事とか。

統合失調症患者は通常の意識的なやり方では想像できないので、役を演じたり、見せかけの行動をしたり、架空の出来事について話したりすることが不可能なのだ。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第5章 統合失調症

 演技ができないいのだ。だから、「もし医者だったらどうするかと訊かれても、自分は医者ではないと答えるだろう」。これと似たようなやりとりを某匿名掲示板でやった事があるんだが、相手は患っていたのか、単に面倒くさがってたのか。たぶん後者だろうなあw

【科学】

 最後のまとめとなる章だ。ここでは簡潔に、人類の歴史をまとめてある。

前2000年期に、人間は神委が身の声を聞くのをやめた。
前1000年期には、まだ神の声が聞こえた人たち、つまり宣託者や預言者もまた、徐々に消えていった。
紀元後の1000年期には、かつて預言者が言ったり聞いたりした言葉の記録された聖典を通して、人々は自分たちには聞こえぬ神の言いつけを守った。
  ――第3部 <二分心>の名残り 第6章 科学という占い

 そして、神託にも聖典にも頼れぬとわかったヒトは、他の確実なものを求め、科学やオカルトやエセ科学に頼るのだ。

【最後に】

 正直、読み終えた今でも半信半疑だ。特に第3部は、ちと突っ走りすぎの感がある。第2部も、根拠が地中海周辺に偏っているのが気に入らない。はい、感情的になってますw でもやっぱりヴェーダ(→Wikipedia)にも触れて欲しいじゃないか。特にリグ・ヴェーダは Wikipedia によると「紀元前18世紀ころにまで遡る歌詠を含む」とあるし。いや読んだことはないけどw

 というか、この本を真剣に検証しようとすると、ヴェーダ語から学ばなきゃいけない。つくづく、学問の道とは遠く果てしないものだ。

 それはともかく、ピーター・ワッツの諸作品(「ブラインドサイト」「エコープラクシア」「巨星」)を読みこなすには、必須の一冊だろう。SF者としては、読んでおいて損はない。また、歴史上の人物は私たちと全く違う考え方をしていた、なんてのは当たり前ではあるけど、それをキチンと考慮するのはいかに難しいかを実感させてくれる本でもあった。

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2019年8月13日 (火)

ジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡」紀伊國屋書店 柴田裕之訳 2

文明とは、全住民が知り合い同士でないほどの広さの町々における生活術を指す。
  ――第2部 歴史の証言 第1章 神、墓、偶像

神々は誰かの想像から生まれた虚構などでは断じてなく、それは人間の意志作用だった。神々は人間の神経系、おそらくは右大脳半球を占め、そこに記憶された訓戒的・教訓的な経験をはっきりした言葉に変え、本人に何をすべきか「告げた」のだ。
  ――第2部 歴史の証言 第2章 文字を持つ<二分心>の神政政治

神々の崇拝において祈りが中心的な位置を占める行為として顕著になるのは、もはや神々が人間と(「申命記」第34章10節の言葉を借りれば)「面と向かって」話さなくなってからだ。
  ――第2部 歴史の証言 第4章 メソポタミアにおける心の変化 

ごく最近まで、偶然という概念はいっさい存在しなかった
  ――第2部 歴史の証言 第4章 メソポタミアにおける心の変化

以上、前兆占い、籤占い、卜占、自然発生的占いという占いの四つの主要な型を見てきた。ここで注意したいのは、それらは思考や意思決定が、自己の精神の外側からもたらされる方法だと考えられる点と、それらはこの順番で意識の構造にどんどん近づいているという点だ。
  ――第2部 歴史の証言 第4章 メソポタミアにおける心の変化

意識の特徴である時間の空間化がなければ、歴史は誕生しえない
  ――第2部 歴史の証言 第4章 メソポタミアにおける心の変化

意識の出現は、(略)聴覚的な心から視覚的な心への転換と解釈できる。
  ――第2部 歴史の証言 第5章 ギリシアの知的意識

『イーリアス』には隠し事がない。
  ――第2部 歴史の証言 第5章 ギリシアの知的意識

意識と道徳は一体となって発達する。
  ――第2部 歴史の証言 第5章 ギリシアの知的意識

旧約聖書とは本質的に、<二分心>が失われ、残存するエロヒムが穏やかに沈黙の中へと後退し、それに続いて混乱と悲劇的暴力が起こり、預言者たちの中に神の声を再び得ようと空しく探したあげく、ついに道徳的規範にその代用品が見出されるまでを描いた物語なのだ。
  ――第2部 歴史の証言 第6章 ハビルの道徳意識

 ジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡」紀伊國屋書店 柴田裕之訳 1 から続く。

【どんな本?】

 約三千年前まで、人類には意識がなかった。

 それまで、人類は二つに分かれた心<二分心>で生きていた。片方は神のように語る=命じる心であり、主に脳の右半球が担っていた。もう一つは神の言葉を聞く=従う心であり、主に脳の左半球である。

 確かに、人類はその歴史のどこかで意識を獲得したんだろう。だが、三千年前とは、いささか新しすぎるのではないか。なぜ三千年前だとわかるのか。三千年前に、何が起きたのか。また、意識の代わりが<二分心>とは、あまりにオリジナリティがすぎるのではないか。

 第2部では、これらの疑問に答え、根拠を示すべく、様々な遺跡や文献を漁り、また歴史上の出来事を挙げてゆく。町の形、偶像、そして『イーリアス』と『旧約聖書』。

 独動的で大胆かつ奇想天外な仮説を、膨大な知識によって裏付ける、圧倒の第2部。

【はじめに】

 今は第3部の半ばぐらいまで読み終えたところだ。正直、著者の仮説はちと怪しいと思い始めている。が、だとしても、SFや伝奇小説は、敢えて騙された方が楽しい。そういう姿勢でこの記事を書いている。

【衝突】

 三千年前とは言うが、全世界で同時とは言っていない。

 そう、所によって早かったり遅かったりした。だから、<二分心>の社会と意識の社会が衝突する事もある。1532年11月のスペイン人とインカ帝国の出会いがソレだ。

 インカ帝国滅亡の原因を探る説としては、なかなか斬新だと思う。もっとも、私はブライアン・フェイガンの意見を聞いてみたい(→「水と人類の一万年史」)。

【物的証拠】

 さすがにモノから心を探るのは難しい。が、それでも都市の形や絵画などから、著者はなんとか根拠を見いだそうとする。

 中でも気になったのは、神像や偶像の目比率だ。これは 目の直径/頭の長さ の数字である。要は目がデカい。これは目力とでもいうか、神の権威を強調したもの、としている。

 人間の目は約10%なのに対し、シュメールの遺跡やエジプトの神殿から発掘された神像は、目比率が18~20%に及ぶ。インダス文明も20%超える、とあるが、今Google画像検索でざっと見ると、確かに大きいけど切れ長の目が多いなあ(→画像検索)。

 それより私が連想したのは、遮光器土偶だ。Wikipedia によると遮光器土偶は「縄文晩期のものが多い」とあるので、著者が主張する三千年前とほぼ合致する。

 実はもう一つ、「ねんどろいど」を思い浮かべたのだが、これが将来に発掘された時、果たしてどう解釈されるのやらw

【神々の戦い】

 神話の解釈にはいろいろある。その一つに、様々な神は、有力な部族を象徴している、とするものだ。これに<二分心>を当てはめると、実に面白い構図が出来上がる。つまり、部族同士の争いは、まんま神同士の戦いになるのだ。少なくとも、当時の人にとっては。

 エジプト神話で解釈が難しい「カー」も、二分心仮説なら理屈が通る。つまり脳内の声がカーだ。おお、すげえ。とすると、守護霊ってのは、<二分心>の残響なんだろうか。

【変化】

 では、何が<二分心>を消したのか。

 著者は七つの原因を挙げている。うち四つは<二分心>より意識の方が有利だ、とする理由だ。だが、それは、生存競争に勝った事を示すだけで、なぜ意識が出現したのかは説明しない。

 なら、何が意識を生んだのか。

 一つは文字だ。これで神の声が弱まった。例えばハンムラビ法典だ。脳内の声に従えばいいなら、法律は要らない。文書化とは、脳内の声を外に出すことだ。これにより、脳内の声を超える権威ができてしまった。

 次に大災害。BC1628のデラ島(→Wikipedia)の火山噴火により、地中海周辺地域は壊滅的な打撃を受け、難民が近辺にも押し寄せた。難民は神に見捨てられたと感じただろう。

 そして最後に、難民や交易などを通じた異民族との接触。他者を理解するには、脳内の声だけでは不充分だ。特に交易では、異民族を理解しなきゃいけない。

相違を観察することが意識のアナログの空間の起源になるかもしれない。
  ――第2部 歴史の証言 第3章 意識のもと

 それ以前からボチボチと現れていた意識を、これらの要素が育てていったのだ。

【懐古】

 去っていった神を、人々は探し求める。

世界の諸宗教に共通する大テーマが、ここで初めて問われている。なぜ神々は人間のもとを去ってしまったのか。
  ――第2部 歴史の証言 第4章 メソポタミアにおける心の変化

 これを補うために、ヒトは様々なモノを生み出す。祈り、占い、そして道徳。

『イーリアス』に出てくる、神々の操り人形である人間は、道徳的判断ができない。
  ――第2部 歴史の証言 第5章 ギリシアの知的意識

 昔は道徳がなかった、というのも衝撃的だ。第2部第6章では、旧約聖書を元に仮設の検証を企てる。旧約聖書には残酷で理不尽な場面が多いが、それを道徳の欠如として解釈するとは、なんとも大胆だよなあ。

 ちなみに第2部第5章は『イーリアス』での検証だ。私は旧約聖書もイーリアスも読んでいないので何とも言えないが、いずれもアレな説のネタとしては鉄板なだけに、なんか怪しいと感じると共に「巧く料理したら面白い物語が書けるかも」などと思ってしまう。

【最後に】

 などと、色々と茶化しつつ読んだのだが、そうでもしないと著者の世界に引きずり込まれるという危機感を抱いたからだ。幸か不幸か私は古典も歴史も教養に欠けるため、キチンとした検証はできないが、できれば反論の書も読んでみたいと思う。そういう毒消しがないと、洗脳されそうな気配になっている。

 などと危ぶみつつ、次の記事に続く。

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2019年8月12日 (月)

ジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡」紀伊國屋書店 柴田裕之訳 1

…私たちは意識とは何かを規定することから新たに始める必要がある。(略)あるものの正体を明かす手がかりすら得られないとき、それが何でないかを問うことから始めるのは賢明なやり方だ。
  ――序章 意識の問題

何かを理解するというのは、より馴染みのあるものに言い換え、ある比喩にたどり着くことだ。つまり、馴染み深さが、理解したという気持ちに通ずる。
  ――第1部 人間の心 第2章 意識

意識が言語の後に生まれたとは!
  ――第1部 人間の心 第2章 意識

おしなべて、『イーリアス』には意識というものがない
  ――第1部 人間の心 第3章 『イーリアス』の心

…意思は神経系における命令という性質を持つ声として現われたのであり、そこでは命令と行動は不可分で、聞くことが従うことだったのだ。
  ――第1部 人間の心 第4章 <二分心>

私が<二分心>と呼ぶ構造にまとめられた脳は、何千年もの間。人間の文明の基礎だった。それなのに、訓戒の声が聞こえなくなり、代わって意識という新しい仕組みを得るというような機能の変化を、どうしてこれほど短い間に遂げえたのだろうか。
  ――第1部 人間の心 第5章 二つの部分から成る脳

…ほとんどの種にとって、群れの大きさの上限を決定するのは、この意思疎通システムだ。
  ――第1部 人間の心 第6章 文明の起源

【どんな本?】

 約三千年前まで、人類は意識を持っていなかった。

 本書は、この大胆かつ奇想天外な仮説を唱え、その根拠を示して検証し、現代にも残る名残を挙げてゆくものだ。

 しかし、誰だって反論したくなるだろう。ヒトが歴史上のどこかで意識を獲得したのは確かだ。だが、三千年前=紀元前千年ごろとは、いささか近すぎるのではないか。もっと前から、メソポタミア/エジプト/インダス/黄河などの四代文明があったではないか。意識もなしに、どうやって文明を築き維持していたのか。そもそも、意識の有無を、どうやって検証するのか。

 著者は、これらの問いに対し、まず「意識とは何か」「それは何の役に立つのか」から問い直し、古代の遺物・遺跡や『イーリアス』に代表される文献を検証し、仮説に裏付けを与えてゆく。

 正規の大発見か、はたまたトンデモか、または今後の発展が期待される新たな学問の源なのか。各界に話題を読んだ問題の書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Origin of Consciousness in the Breakedown of the Bicaameral Mind, by Julian Jaynes, 1976, 1999。日本語版は2005年4月6日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約560頁に加え、訳者あとがき8頁。9ポイント45字×18行×560頁=約453,600字、400字詰め原稿用紙で約1,134枚。文庫なら厚めの上下巻ぐらいの大容量。

 学術書らしく文章はやや硬い。内容もけっこう難しい。何せ扱うのが「意識」だけに、深く考えないと理解できない部分もある。また、古代史の知識もあった方がいい。特に大事なのはメソポタミアとギリシア。そして、最も重要なのは『イーリアス』だ。いや私はいずれも疎いんだけど。

【構成は?】

 序文では、こう説明している。

第1部では、私がたどり着いた考えの数々をそのまま提示する。
第2部では、歴史的な証拠を検証する。
第3部では、推論を行って現代における現象の説明を試みる。

 そんなワケで、素直に頭から読むといいだろう。

  • 序文
  • 序章 意識の問題
  • 第1部 人間の心
  • 第1章 意識についての意識
  • 第2章 意識
  • 第3章 『イーリアス』の心
  • 第4章 <二分心>
  • 第5章 二つの部分から成る脳
  • 第6章 文明の起源
  • 第2部 歴史の証言
  • 第1章 神、墓、偶像
  • 第2章 文字を持つ<二分心>の神政政治
  • 第3章 意識のもと
  • 第4章 メソポタミアにおける心の変化
  • 第5章 ギリシアの知的意識
  • 第6章 ハビルの道徳意識
  • 第3部 <二分心>の名残り
  • 第1章 失われた権威を求めて
  • 第2章 予言者と憑依
  • 第3章 詩と音楽
  • 第4章 催眠
  • 第5章 統合失調症
  • 第6章 科学という占い
  •  後記/訳者あとがき/原注/事項索引/人名索引

【感想は?】

 第2部の第5章まで読み終えた時点で、この記事を書いている。

 何せ読み終えていないので、著者の説に賛成も反対もできない。が、とりあえず、野次馬根性をそそられるのは事実だ。なんたって、「ヒトが意識を獲得したのは三千年前だ」なんて大胆な話なんだから。

 そんなことを言われたら、「ブラインドサイト」「エコープラクシア」「巨星」と読んできたSFファンとしては、読まずにいられないじゃないか。果たして意識を持たぬ者が、文明を構築できるのだろうか。そんな社会は、維持できるんだろうか。あ、でも、蟻やミツバチは社会を作ってるなあ。

 と、突然にヒト以外の生物の話を出したのは他でもない、著者も最初は動物行動学の研究者としてキャリアを歩み始めたからだ。そこで興味深い実験の話がある。ネズミに電気ショックを与える実験だ。

 単に電気ショックを与えるだけなら、腫瘍はできない。餌や水を得るには通電した格子板を通らなければならいと、腫瘍ができる。「食べたい、でもビリビリは嫌」という葛藤が腫瘍を作るのだ。葛藤のストレスってのは、相当に大きいものらしい。そういえばスティーブ・ジョブスはいつも同じ服を着ていたって話があるなあ。何かを選ぶのは、心の負担になるからって理由で。

 そんなワケで、ヒトは指針を求める。指針が必要なのは、意識があるからだ。意識がなければ、そんなモノは要らない。自動的に体が動くんだから。でも、それで暮らしていけるのか?

 案外と、たいていの事はできたりする。酔っぱらいは意識がなくても、ちゃんと自分の家に帰るし。本書では自動車の運転を引き合いに出す。助手席の人とお喋りしていても、たいていは問題なく運転できる。クラッチを踏みシフトレバーを入れ替えアクセルを踏んで再びクラッチをつなぐ。こういう動作を、ドライバーは無意識に行っている。

 どころか、多くのスポーツは、個々の筋肉を意識すると、かえって巧くいかない。自分がどうやって歩いているのか、普通は考えたりしない。往々にして、意識なんてない方がいいのだ。

ここでは、私たちの活動の多くに意識はたいした影響を持たないと結論しておけば事足りる。
  ――第1部 人間の心 第1章 意識についての意識

 では、それ以前の人々は、どうやって暮らしていたのか。そこでこの本のもう一つの大胆な仮説、<二分心>が出てくる。極論すると、神々の声を発する右脳と、それを聞く左脳だ。ヒトは、自らの脳が発する声を「神々の声」と考え、それに従って生きてきたのだ。

前章で導き出された途方もない仮説は、遠い昔、人間の心は、命令を下す「神」と呼ばれる部分と、それに従う「人間」と呼ばれる部分に二分されていた、というものだ。
  ――第1部 人間の心 第4章 <二分心>

…人間の側に必要な機能は左(優位)半球にあり、神々の側に必要な機能は右半球により顕著に現れていると考えられる。
  ――第1部 人間の心 第5章 二つの部分から成る脳

 もっとも、「生まれつき大脳の半分がないけど普通に暮らしてる60歳の男」なんてニュースもある(→RUSSIA BEYOND)。だから実はそれほどハッキリと右脳・左脳が役割分担してるワケじゃないらしい。物理的な脳の部位=ハードウェアと、それが担う役割=ソフトウェアは別、と考えれば、著者の説もアリかもしれない。コンピュータでアプリケーションが主記憶のどのアドレスにロードされるか、みたいな感じかな?←もっとわかんねえよ

 それはともかく、著者の説を受け入れると、SF者としては第1部の終盤で強烈なアッパーを食らうから怖い。

現在、意識が神経学的にどのようであろうと、その状態がいつの時代にも不変であると考えるのは誤りだろう。
  ――第1部 人間の心 第5章 二つの部分から成る脳

 おお、これぞまさしくピーター・ワッツの世界ではないか。将来、脳とコンピュータが直結したら、ヒトの精神構造は、根本的に変わるかもしれない。意識に成り代わる何者かが、立ち現れる可能性がある。なんかゾクゾクしてきたなあ。いや著者の視線=過去とは逆の方向=未来を向いた発想だけど。…ああ、ボーグって、そういうことか。

 というところで、次の記事に続く。

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2019年6月 9日 (日)

セス・スティーヴンズ=ダヴィッドウィッツ「誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性」光文社 酒井泰介訳

よきデータサイエンスの方法はえてして直感的だが、結果は往々にして反直感的である。
  ――第1章 直感は裏切り者

ビッグデータ革命の勝負では、より多くのデータを集めるよりも、正しいデータを集めるほうが大切だ。
  ――第3章 何がデータになるのか 驚くべき新データの世界

ソーシャルメディア(SNS)上では、サーベイと同じく、真実を述べるインセンティブが働かない。
  ――第4章 秘められた検索

ビッグデータなら有意義な下位集団に絞り込んで人の性質について新たな洞察が得られる。
  ――第5章 絞り込みという強力な手法

「このデータで証券市況を予測できると思うかい?」
  ――第7章 できること、できないこと

本書の場合それは、社会科学は本物の科学になりつつあるということだ。
  ――結びに ここまで読み通した人は何人?

【どんな本?】

 Amazon で本を調べると、「よく一緒に購入されている商品」が出てくる。Twitter は、「おすすめユーザー」を教えてくれる。私が Youtube を開くと、70年代または70年代風のロックが「あなたへのおすすめ」にズラリと並ぶ。おかげで私はポール・ロジャースの歌声に不自由しない。ちなみにエッチなのは別のサイトで…いえ、なんでもない、ないったら!

 Amazon も Twitter も Youtube も、別に私の好みを知っているワケじゃない。知っているのは、今まで私が何を見たか、だ。そこから推測して、私の好みに合うものを薦めてくる。と言ってしまえば簡単だが、では、どうやって推測するんだろう?

 彼らは膨大な数の利用者を抱えている。その中には、私と好みが似ている人がいる。そこで、例えば Youtube なら、私に似た人が見ていて、私が見ていない動画を、私に薦めるのだ。

 似たような事を、Google や Facebook もやっている。私たち利用者が「どう使ったか」のデータを集め、より使いやすく、より楽しく使えるように、日々工夫しているのだ。だってたくさん使ってもらった方が儲かるし。

 と同時に、集まったデータの一部も公開している。例えば Google トレンド は、指定したキーワードが、いつ、どこから、どれぐらい検索されているかを教えてくれる。おお、津原泰水さん人気爆発してるなあ←記事を書いてる最中に遊ぶな

 いずれも、膨大なデータが集まったからこそ出来ることだ。また、インターネットが普及して多くの人が使っていること、そして大量のデータをコンピュータが処理できるようになったことも大きい。

 このような「ビッグデータ」は、私たちの意外な姿を明らかにしてくれる…場合も、ある。また、地域の治安や健康状態の向上にも役立つ。と同時に、使い方によっては困った事もできてしまう。

 ビッグデータとは何なのか。それで何ができて、何ができないのか。ビッグデータはどこにあるのか。どのように使うのか。そして、ビッグデータが暴き出した私たちの正体は、どんな姿をしているのか。それが何の役に立つのか。

 哲学と経済学を専攻した著者が、ビッグデータの基礎と面白話を集め、社会学の革命を目論む問題の書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は EVERYBODY LIES, by Seth STephens-Davidowitz, 2018。日本語版は2018年2月20日初版第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約314頁。9.5ポイント42字×17行×314頁=約224,196字、400字詰め原稿用紙で約561枚。文庫本なら普通の厚さの一冊分。

 文章はこなれている。内容も難しくないし、適度に野次馬根性を刺激するネタが入っているので、意外とスラスラ読める。社会学の本でこれほど楽しく読める本は珍しい。敢えて言えば、アメリカ人向けに書いているため、特にバスケットボールやアメリカンフトボールの例がピンとこないかも。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。ただし、終盤で明らかになるのだが、けっこう真面目かつ理論的な話もしていて、それの全体像をつかむには素直に頭から読んだ方がいい。

  • 序文 スティーブン・ピンカー
  • 序章 いま起きているビッグデータ革命
  • パートⅠ 
  • 第1章 直感は裏切り者
  • パートⅡ 
  • 第2章 夢判断は正しいか?
  • 第3章 何がデータになるのか 驚くべき新データの世界
  • 第4章 秘められた検索
  • 第5章 絞り込みという強力な手法
  • 第6章 世界中が実験室
  • パートⅢ 
  • 第7章 できること、できないこと
  • 第8章 やってはいけないこと
  • 結びに ここまで読み通した人は何人?
  • 謝辞/注

【感想は?】

 え? 社会学の本なの? 社会学って、こんなに楽しかったっけ?

 とか言い出したくなるぐらい、面白いネタがギッシリ詰まってる。その面白さには幾つかの種類があるんだが、その筆頭は書名にあるとおり、著者の研究が明らかにした人間の本性だ。

 これは序章に巧くネタを配置していて、私たちが興味を持ちそうなネタを軽く紹介してくれる。これは巧い構成だ。映画でいえば、最初に予告編を上映するような感じだ。特に、アクション映画の。

 アクション映画の予告編は、たいていが「これでもか!」というぐらいの爆発の連続だ。そこで「おお!」とは思うが、お話が繋がっていないので、いまいちピンとこない。「いったい、何がどうなってこんなシーンになるんだ?」と気になって、私たちは映画館に足を運ぶ。この本もそんな風に、序章で美味しそうなネタをチラリと見せて、本文へと私たちを誘う。

 で、本文を読むと、やはり期待にキッチリ応えて野次馬根性を満足させてくれる。

 例えば男がポルノを検索する際、女役の職業設定は何を好むのか。これを青年・壮年・高齢者で比べてるんだが、実に意外なのが不動の一位だw きっとこれはアメリカ特有の現象だと思うんだが、どうなんだろうね。どうでもいいけど私の趣味はかなり爺ムサい事もわかってしまった。いや私が惹かれるキーワードは年寄りにウケるんだ。

 こういうシモネタは、やっぱり読んでて楽しい。と同時に、上の例では、もう一つ意外な点が明らかになる。データのソース、ネタ元だ。上では Amazon, Twitter, Facebook, Google を例に出した。もちろん本書ではそれらも使っているが、ポルノの例では PornHub を使っている。ほんと、あらゆる所からデータを調達しているのだ。

 これはインターネットに限らない。例えばアメリカの分断をテーマとするところでは、書籍からデータを得ている。とはいっても、グーグルがスキャンして電子化したモノなんだけど。ここでは、調べ方も面白い。

 合衆国は英語じゃ United States になる。複数形だ。だから、理屈じゃ be 動詞は複数形の are が正しい。が、現在では主に単数形の is が使われる。実は、18世紀じゃ are が多かったのだ。もともと、それぞれ別々だった植民地=州政府が、独立戦争の際に手を組んだってのが成り立ちだし。それがいつの間にか is に変わった。つまり、州政府の連合って感覚から、USA という一つの国って感覚に変わったのだ。

 それがいつごろからなのかを調べるために、どうしたか。書籍の中に出てくる States are と States is の数を、年代別に数えたのだ。まあ、数えるったってヒトが数えるんじゃなくて、プログラムにやらせたんだろうけど。お陰で、意外なことがわかった。従来の歴史学者は「南北戦争の終わりごろ」と主張していたのだが…

 これは単純に数えただけで見当をつけた例だ。だが、書名「誰もが嘘をついている」とあるように、出て来た数字は素直に信用できないって話もいくつかある。その代表がアンケート調査だ。

 要はみんな見栄をはるのだ。そのため、アンケートだと選挙の投票率が高めに出るが、実際はそれより低い。特に性生活じゃ見栄をはる人が多い。例えば性交回数について、本書ではコンドームの消費量で検証している。他にも気になるのが同性愛者の割合。一般に保守的な地域ほど、アンケートで同性愛者だと答える者が少ない。

 いちおう、言い訳はできるのだ。同性愛者は進歩的な所に引っ越すから、と。対して、著者は巧みな方法で覆す。サンプルを高校生に絞るのである。大人なら引っ越せるが、高校生じゃそうはいかない。で、検証してみると、ご想像のとおり。こうやって本性をあぶりだす手口も、読んでいてとっても楽しい。

ちなみに「ネット炎上の研究」では、炎上に火をくべるイイナゴどもを「高年収・ラジオやSNSをよく使う・子持ちの若い男」との相関が強いとしている。が、私はこれを疑っている。だってソースがアンケート調査だし。

 と、そんな風に、ビッグデータを巧く使えばヒトの本性を暴けるのがわかってきた。当然、Google や Facebook も、手をこまねいて見ているわけじゃないよ、なんてのを終盤では明らかにしてくれる。もちろん、他の企業だってイロイロと…

 やっちゃあいるが、その限界も明らかにしているのが、いかにも学者らしい所。そこを書いているのが「第7章 できること、できないこと」。なんだけど、実はここ、多少の確率の素養がないと難しいかも。要は大数の法則なんだけどね。でも、いい加減なニュースに踊らされたいためにも、この章は時間をかけてじっくり読んでいただきたい。

 俗なネタで耳目を集め、ちゃんと野次馬根性は満足させた上で、キチンとその裏付けとなる理屈や手法もわかりやすく説明し、より広い応用の可能性を示して希望を持たせると共に危険性も警告し、また限界があるとも明言し、最後に大風呂敷を広げて「うおお!」と興奮させる、実に読んでて楽しい本だった。

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