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2024年9月15日 (日)

菊池秀明「中国の歴史 10 ラストエンペラーと近代中国 清末 中華民国」講談社

本書があつかう中国の近代史とは、具体的にはアヘン戦争後の19世紀半ばから、日中戦争が始まる直前の1936年までを指している。
  ――序章 南からの風

魯迅「暴君治化の臣民は、たいてい暴君よりも暴である」
  ――第6章 若者たちの季節

中国共産党の結成は各地の知識人を媒介に、細い糸をより合わせるようにして進められた
  ――第6章 若者たちの季節

成立当初の南京国民政府は二つの政治課題に直面していた。その一つは張作霖らの北京政府、汪兆銘の率いる武漢国民政府に続く第三の政府として登場したために、政権の正統性をアピールする必要があったことである。
  ――第7章 革命いまだ成らず

「これ以上内戦があってはならない」
  ――第9章 抗日の長城を築かん

【どんな本?】

 東アジアの歴史が始まって以来、その中心として君臨したてきた中国。だが欧米諸国や日本が権益と植民地化を狙い、砲艦外交を仕掛けてくる。従来の朝貢外交では対応しきれず、かと言って列強の軍事力にも対抗できず、別の手を取ろうにも屋内の保守派は不平の声をあげるばかり。

 各地で国を憂う者たちは集い立ち上がり、だが既存の秩序の転覆を清王朝は認めず、東アジアの大国は混乱の渦に巻き込まれてゆく。

 講談社が刊行した中国通史の叢書の第10巻は、近代化の荒波に翻弄されながら沈んでゆく清帝国と、新たな中国を築こうとする群雄たちを描く。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2005年9月22日第一刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約385頁に加え、主要登場人物略伝9頁と歴史キーワード解説7頁、おまけに参考文献がズラリ14頁。9.5ポイント44字×19行×385頁=約321,860字、400字詰め原稿用紙で約805枚。文庫なら薄めの上下巻ぐらい。今は講談社学術文庫から文庫版が出ている。

 文章はこなれていて親しみやすい。歴史書としては人物、それも権力者を中心とした王道の形であり、内容も興味を惹きやすくわかりやすい。とはいえ、激動の時代だけに登場人物が多く、キッチリ覚えようとすると苦労する。また、中国の地名が頻繁に出てくるので、Google Map か地図帳があると便利。

【構成は?】

 原則として時代順に進む。章によっては冒頭に現代の中華人民共和国の話題を語り、読者の関心を掻き立てる構成をとっている。

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  • 序章 南からの風 辺境からの中華再生の試み
  • 第1章 「南からの風」吹く 太平天国運動と列強
  • 洪秀全のキリスト教受容と拝上帝会
    洪秀全の故郷を訪れた日本人/洪秀全の幻想とキリスト教受容/紫荊山での布教活動と偶像破壊運動
  • 太平天国の蜂起と南京進撃
    天父・天兄下凡と金田蜂起/太平軍の南京進撃とその主張/太平軍の宣伝活動とその規律
  • 地上天国の現実と湘軍の登場
    太平天国の北伐とその失敗/天京の建設と「天朝田畝制度」/曽国藩と湘軍の結成
  • 天京事変と第二次アヘン戦争
    太平天国の内部分裂/第二次アヘン戦争と清朝/太平天国の外交と北京条約
  • 「資政新編」と太平天国の滅亡
    洪仁玕の天京行きと「資政新編」/太平天国の滅亡と常勝軍/太平天国運動の遺産
  • 第2章 ゆらぐ中華の世界 洋務運動と日清戦争
  • 洋務派の登場と近代化事業
    中国近代化のルーツ/西太后の登場と洋務運動の開始/洋務運動の拡大と官僚資本主義
  • 「中体西用」論の理想とその現実
    洋務派の思想とその源流/近代化と儒教的正統論/洋務運動と地方ナショナリズム
  • 「辺境の危機」と清仏戦争
    清朝支配の衰退とイリ問題/ビルマとヴェトナムをめぐる動向/清仏戦争と辺境経営の行きづまり
  • 琉球と朝鮮李朝をめぐる日清関係
    近代初期の日清関係と台湾出兵/清朝辺境統治の見直しと日朝修好条規/朝鮮をめぐる日清間の確執
  • 日清戦争と下関条約
    日本の戦争準備と光緒帝親政/甲午農民戦争と日本・中国/日清戦争の勃発と李鴻章/下関条約と台湾民主国
  • 第3章 ナショナリズムの誕生 戊戌変法と義和団
  • 列強の中国分割と変法派の登場
    政治都市・北京/列強の中国分割/「天演論」の衝撃と変法派の登場/強学会と譚嗣同の「仁学」
  • 変法運動と戊戌政変
    日本モデルの提起/戊戌変法の開始/伊藤博文の中国行きと戊戌政変
  • 反キリスト教事件と義和団の登場
    宗教的な時代/キリスト教の中国布教と仇救事件/義和団の登場
  • 北京における義和団と清朝、列強
    義和団の北京進出/清朝の宣戦布告と北京籠城戦/八ヵ国連合軍と北京議定書
  • もう一つの義和団 中国人移民問題とアメリカ製品ボイコット運動
    日本人の義和団観と中国保全論/アメリカの反華僑運動と黄禍論/アメリカ製品ボイコット運動とナショナリズム
  • 第4章 清帝国のたそがれ ラストエンペラーと辛亥革命
  • 清末中国人の日本留学と日露戦争
    100年前の日本留学熱/留学生の派遣と日本ショック/留学生の反清と反日本
  • 孫文の登場と日本
    孫文の生い立ちと洪秀全/興中会の結成と広州蜂起/宮崎滔天との出会い両広独立計画と恵州蜂起
  • 革命派の成長と中国同盟会
    急進派留学生と孫文/革命派の成長/中国同盟会の成立/中国同盟会における孫文
  • 救国の方途を求めて
    梁啓超と中国同盟会の論戦/中国同盟会の路線対立と内紛/光緒の新政と張騫の立憲改革
  • 清帝国のたそがれと辛亥革命
    宣統帝溥儀の生い立ち/摂政王の政治と鉄道国有化問題/同盟会中部総会と武昌蜂起/袁世凱の再登場と清朝の滅亡
  • 第5章 「民の国」の試練 袁世凱政権と日本
  • 中華民国の成立と臨時約法
    一発の凶弾がもたらしいたもの/袁世凱の臨時大統領就任と臨時約法/袁世凱の開発独裁と地方ナショナリズム
  • 第二革命と袁世凱政権
    孫文の訪日と日本の辛亥革命への対応/善後大借款と第二革命/袁世凱政権とその特質/中華革命党と孫文
  • 第一次世界大戦と21カ条要求
    第一次世界大戦と日本の青島占領/21カ条要求と中国/反日ナショナリズムの高揚
  • 袁世凱の帝制復活と日本
    袁世凱の野望と不安/グットナウと帝制運動/日本の動向と坂西利八郎
  • 第三革命と袁世凱の死
    段祺瑞政権と西原借款/清朝復辟事件と護法戦争
  • 第6章 若者たちの季節 五・四運動とマスクス主義
  • 「新青年」と北京大学
    天安門事件と5.4運動/北京大学の改革と蔡元培/国語制定と女性解放をめぐる議論
  • 魯迅と文学革命
    魯迅の日本時代と役人生活/文学革命と「狂人日記」/「阿Q正伝」と中国社会
  • パリ講和会議と5.4運動
    二つの講和会議/5.4運動の開始/運動の拡大と条約調印拒否/日本留学生の動きと吉野作造
  • マルクス主義の受容と中国共産党の成立
    中国におけるマルクス主義の受容/コミンテルンと中国共産主義運動/中国共産党の結成と第一回全国代表大会
  • 第7章 革命いまだ成らず 第一次国共合作と北伐
  • ワシントン体制と孫文の革命方策
    /孫文の「大アジア主義」講演/ワシントン条約と軍閥混戦/陳炯明の聯省自治とマーリング
  • 第一次国共合作と蒋介石
    第一次国共合作の成立/黄埔軍官学校と蒋介石/孫文の北上とその死
  • 「花なきバラ」と北伐の開始
    魯迅と3.18事件/蒋介石の台頭と中山艦事件
  • 北伐の展開と湖南農民運動
    魯迅の広州行きと北伐軍の勝利/北伐下の政治抗争と毛沢東の湖南農民運動視察
  • 4.12クーデターと国共合作の崩壊
    南京事件の発生と蒋介石/共産党の上海蜂起と4.12クーデター/国共合作の崩壊と魯迅
  • 第8章 内憂と外患のなかで 南京国民政府と満州事変
  • 北伐の再開と山東出兵
    張作霖爆殺事件と日本/蒋介石の下野と日本訪問/済南事件と佐々木到一
  • 北伐の完成と南京国民政府
    張学良の登場と南北統一/関税自主権の回復と日本/中原大戦と広州国民政府
  • 毛沢東の辺境革命と包囲討伐戦
    大いなる田舎者・毛沢東/井岡山革命根拠地の建設と梁漱溟/包囲討伐戦と中華ソビエト共和国
  • 満州事変とラストエンペラー
    柳条湖事件と日本/戦火の拡大と南京国民政府/ラストエンペラーの再登場
  • 第9章 抗日の長城を築かん 満洲国と長征・西安事変
  • 満州国の成立とその現実
    上海事件の勃発と魯迅/満州国の成立と善意の悪政/リットン報告書と熱河侵攻
  • 安内攘外と長征の開始
    安内攘外策の提起と第五次包囲討伐戦/起死回生をかけた長征/遵義会議と周恩来
  • 高まる抗日のうねり
    蒋介石の抗戦準備と独裁体制/中国民権保障同盟と魯迅/日本の華北分離工作と12.9学生運動/義勇軍行進曲と8.1宣言
  • 西安事変と張学良
    苦悩する東北群総帥/事実をもって答えん/監禁された蒋介石/実現した蒋介石・周恩来会議
  • 第10章 辺境の街と人々 香港・台湾そして上海
  • 異文化の窓口としての香港と上海
    時代の活力を示す辺境/草創期の香港と上海/にっぽん音吉とからゆきさん/近代文明の洗礼と東亜同文書院
  • 台湾と日本型近代のゆくえ
    台湾総督府と後藤新平/「台湾青年」と議会設置請願運動/霧社事件と「サヨンの鐘」
  • 大革命時代の上海と香港
    5.30運動と省港スト/台湾共産党と朝鮮人の独立運動
  • エピローグ 魯迅の遺言と日本人たち
    魯迅の死と内山完造/鹿地亘の日本人反戦同盟/21世紀の日本と中国
  • 主要人物略伝/歴史キーワード解説/参考文献/年表/索引

【感想は?】

 いわゆる「歴史の教科書」な印象だ。

 歴史の捉え方としては古典的というか王道で、権力者たちを中心に政治の話題が大半を占める。とはいえ、この巻の政治は大平天国やら義和団やら北伐やらと、物騒な話題ばかりなのだが。

 登場人物の多くは、天の小口側に写真が載っていて、これがまた教科書な印象を強めている。あと、人物の名前は「しょうかいせき」や「もうたくとう」など、日本語の読みでルビがついてる。

 実は浅田次郎の「中原の虹」を拾い読みして、「俺、この時代の中国について何も知らないや」と思い知ったのが、本書を読むきっかけ。そういや大好きなパール・バックの「大地」も、この時代が背景だった。

 いや、名前だけは知っているのだ。大平天国とか義和団とか西太后とか袁世凱とか孫文とか。でも、何が起きたのか、何をした人なのか、まったくわかってない。

 その点、本書は状況つまり舞台設定の説明から入るので、とってもわかりやすい。当時の中国が欧米や日本に食い荒らされていたのはボンヤリと知っていたが、その先というかその奥がわかってなかった。

 これも本書の特徴なんだが、大平天国も義和団も、彼らの思想背景から語り始める。一見、遠回りのようだが、彼らの世界観が見えてくると、問題の恐ろしいほどの根深さがジワジワと染みてくるのだ。

 問題は二つ。中華思想と孔子信仰である。

 中華思想は、そこらのお国自慢とはレベルが違う。理屈をつけて「俺たちは偉い」とするんじゃない。「俺たちこそが文明の始祖」って前提で、世界のすべてを解釈するのである。

 儒教というか孔子信仰も根深い。太平天国はキリスト教の強い影響下にあり、加えて中華思想と孔子信仰が悪魔合体して意味不明な思想体系…なんだが、本人たちには心地よい世界観なんだろうな、とも伝わってくる。なにせガイジンたちはノサばり国の軍人役人は頼りにならず、ヘコんでる所に民族の誇りを呼びかけるのだ。そりゃ気持ちイイわ。

 結局は潰れる太平天国だが、革命を求める思想と動き、そしてその奥にある中華思想と孔子信仰はしっかりと受け継がれてゆく。

太平天国運動は失敗に終わったが、彼らの播いた種はその後の歴史のなかで着実に根をおろしたのである。
  ――第1章 「南からの風」吹く

 こういった中国の変化は、単に中国一国だけで完結する話ではない。東アジアの有史以来の国際関係・国際秩序が、根本的にひっくり返った事でもある、と歴史を俯瞰した視点を与えてくれたのは嬉しい。

日清戦争は清朝の完敗に終わった。それは長い間東アジアの世界秩序だった朝貢体制を崩壊させると共に、19世紀後半の中国が試みてきた洋務運動の挫折を意味した。
  ――第2章 ゆらぐ中華の世界

大平天国の金田蜂起から60年、270年近く続いた清朝はついに倒れた。それは単に一つの王室が倒れただけでなく、秦の始皇帝以来2000年近くにわたって続いた専制王朝体制の終焉だった。
  ――第4章 清帝国のたそがれ

 そこにガッツリ食い込んでくるのが大日本帝国だ。中国の若き知識人の多くは「日本に学べ」と日本に留学するのだが、必ずしも暖かく歓迎されるとは限らず。まあ食べ物が合わないのはしょうがないけど、当時の日本人の思い上がりも悲しくなる。この時代の中国に最大の影響を与えた国は、間違いなく日本だろう。

 巧くやれば中国の次世代を担う若者たちを取り込めただろうに、当時の日本は暴走がちで…

21カ条要求(→Wikipedia)は(略)日本に親近感をよせ、日本モデルの改革を志してきた中国知識人を、日本との決別へ踏み切らせてしまった。
  ――第5章 「民の国」の試練

 確かに21カ条要求は無礼で欲深で傲岸不遜なシロモノだ。もっとも、留学生たちの世界観もいささか狭い。これを冷徹な理屈で「弱肉強食な世界秩序」の現れとは考えず、感情的な「日本への好き嫌い」になってしまうのは、どこかに「同じ極東人」としての情があったんだろうか。

 いずれにせよ、今も昔も、中国の変化・改革を先導するのは「学生などの知識人」といった構図だ。百家争鳴なお国柄だしね。知性を敬う風潮は、ちと羨ましい。日本は長く武力がモノを言ってきたし、維新も半ば勢いなんだよな。

学生などの知識人が中心となり、ボイコットを呼びかけるという運動の構図は、その後も長く中国のナショナリズム運動に受けつがれることになる。
  ――第3章 ナショナリズムの誕生

 それはともかく、清帝国の崩壊は大陸に嵐を巻き起こす。二千年来の秩序の崩壊だけに、混迷の度合いも深い。

民国時代は、(略)各地に大小の軍事勢力が割拠し、中央政府のコントロールがきかなかったこの時代は、ファーストエンペラー登場以前の春秋、戦国時代に似ている。
  ――第5章 「民の国」の試練

南の革命政府、北の段祺瑞政府以外にも各地に大小の軍事勢力が割拠して、中国はいわゆる軍閥混戦の時代に突入した。
  ――第5章 「民の国」の試練

 そんな中、不気味に勢力を伸ばしてきたのが共産党だ。ここでは、中国現地の事情を全く知らず無謀な指令を下すコミンテルン(→Wikipedia)の傲慢な間抜けっぷりが印象に残る。そうか、毛沢東は海外留学してないのか。と同時に、教師が社会運動のリーダーになりがちな理由も少しわかった。

人々をやる気にさせる術を心得ていた教師出身の毛沢東は、革命教育のリーダーとしては彼ら(国民党の蒋介石や太平天国の楊秀清)よりも一枚上手だった。
  ――第8章 内憂と外患のなかで

 知識があって、かつ集団を統率する術に長けてるんだな。ライバルの蒋介石も、軍学校の校長って経歴が権力の礎になってるのが興味深いところ。こういう時代の軍の士官は、武力を持つのに加え洋風の知識も得ているわけで、「我々が国を率いるべきだ」と思い込むのも自然なんだろう。

 最後の第10章は、明らかに本流から外れ、反体制と言うかカウンター側の人々の話題が中心で、それに加えいわゆる「租界の魅力」を巧みに描いている。異国の見慣れぬ文化が流れ込み、国家の権力が及ばない、闇鍋のような世界が現れるのだ。

中国公権力の力が及ばない香港と上海は、中国内外の革命や独立運動にとって絶好の拠点を提供した。たとえばヴェトナムの革命指導者であるホー・チ・ミンは1926年にコミンテルンの東方極委員として広州を訪れ、ヴェトナム青年革命同志会を設立した。
  ――第10章 辺境の街と人々

 後半に入ってから、著者は興味深い指摘をしている。袁世凱・孫文・蒋介石など、新時代のリーダーたちは、いずれも自らの権力の強化に余念がなく、独裁者=皇帝を目指している。対して日本の維新勢力は薩長土肥と呼ばれるように寄り合い所帯で、卓越したリーダーがいない。

 それでよく単一の軍事戦力として内戦を制し得たと思う。天皇という神輿が効いたのもあるだろうが、佐幕側も連携できてない。とすると、大政奉還の意味も違ってくる。あれで佐幕側は戦力が統一できなくなったのだ。だって中心になるはずの徳川家がトンズラしちゃったし。

 いずれにせよ、維新側は雑多な勢力の群体なだけに、強力な独裁者は現れず、また多少の偏りはあるにせよ「国家はなぜ衰退するのか」が説く包括的な権力構造になったのが幸いしたのか。

 などと考えると、ますます明治維新の特異さが見えてくる。雑多な勢力の集合体になれたのは、当時の各藩は私たちが思う以上に独立性が高かったから、だろうか。そういや薩英戦争とかやってるな。

 逆にエジプトやトルコ、そして一昔前の中国などが国家制度の近代化に苦労しているのは、リーダーが強力すぎるためなんだろうか。

 などと、異国人に食い物にされる挫折と屈辱を味わいつつ、国内でも権力争いで多くの血を流しながら、紆余曲折を経て近代化を目指した中国を描いた本で、確かに波乱万丈の物語が展開するし、その展開はジェットコースターどころかアチコチでワープした感すらある急激さに満ちている。特に後半は私も流れを追い切れていない。

 まあ、現実に事件が盛りだくさんなんで、仕方がないか。本書の姿勢は王道の歴史の教科書を目指すもので、政治権力者を中心としつつ、ときおり魯迅などの文化人を交える構成で、庶民文化や産業技術などにはあまり踏み込まない。まあ、そっちまで踏み込んじゃったら頁が幾つあってもキリないし。

 ということで、教科書的に中国の近代を知るための最初の本としては、全体を俯瞰しつつも重要な事件は充分に解説しているので、かなり良質な入門書になっていると思う。中国の近代は何も知らないが常識程度には身につけておきたい、そんな私のような人にお薦め。あと、日本の明治維新を分析するための比較・対照サンプルとしても役に立つ。

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