SFマガジン2023年2月号
「私なら、君の名前を歴史に残してあげられると思う」
――安野貴博「純粋人間芸術」<\p>小川哲「草野原々は焦ったほうがいいと思いましたね」
――SF作家×小説執筆AI メイキング&感想戦われは起動した。ゆえに、われには目的がある。
――スザンヌ・パーマー「忘れられた聖櫃」月岡小穂訳
376頁の標準サイズ。
特集は「AIとの距離感」。巻頭カラーでAI絵本「わたしのかきかた」野崎まど&深津貴之、読み切り短編7本,SF作家×小説AI2本など。
小説は15本。
特集で7本+2本。安野貴博「純粋人間芸術」,斧田小夜「たべかたがきたない」,竹田人造「仁義なきママ活bot」,品田透「伝統的無限生産装置」,陸秋槎「開かれた世界から有限宇宙へ」阿井幸作訳,L・チャン「家だけじゃ居場所になれない」桐谷知未訳,スザンヌ・パーマー「忘れられた聖櫃」月岡小穂訳に加え、SF作家×小説AIで柴田勝家「The Human Existence」,小川哲「凍った心臓」。
連載は5本。神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第5回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第45回,飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第15回,村山早紀「さやかに星はきらめき」第7回,夢枕獏「小角の城」第67回。
読み切りは1本。草上仁「非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド」。
まず特集は「AIとの距離感」から。
安野貴博「純粋人間芸術」。2019年。自分の才能に見切りをつけた画家のコンドウは、安アパートで首を吊った…はずが、目覚めたのは2027年の病室。ミシェリーヌと名のる女が、コンドウのプロデューサーとなり、彼を売れっ子へと育て上げる。AIの急激な成長はアート界にも大きな影響を及ぼし、コンドウは貴重な才能の持ち主となっていた。
AIの育て方のアイデアがSFとして極めて秀逸。言われてみれば、確かにアレを組み合わせたら面白いことができそう。さすがに今は費用の問題で難しいけど、本来の需要もあるワケで、案外と近い将来に実現しそうな気もする。最後のオチも、泡沫ブロガーの私としてはちょっと救われた気分に←をい
斧田小夜「たべかたがきたない」。アートミーはAIを育てるアプリケーションだ。使い勝手はゲームっぽく、プログラミングができなくても大丈夫。自分だけのAIを育て、独自のアートを作り出すのだ。爆発的な人気を博し、世界大会も開かれる。アートミーを始めて半年ほどの佐野は、凄腕の黒田&興梠と組んで大会に出る羽目になったが…
これまたAIの育て方にスポットを当てた作品。こんな事件(→GIGAZINE)もあったワケで、深層学習を使う手法の場合、データの選び方がAIの能力というか性格に重要な影響を与える。そこで、どんなデータを食わせるかがキモなんだが、どうやってデータを集めるかって所が面白かった。
竹田人造「仁義なきママ活bot」。宇納は川守組の若頭だ。先代組長の甥でインテリの安海が、妙なシノギを持ち込んできた。名づけてママ活bot。かつての宇納の二つ名は“桜漬けの宇納”。女を装ってメッセージを送り付け、男たちに課金させて荒稼ぎした。その手腕を活かし、botを育てろ、そう安海は語る。先代への義理もあり、とりあえず話に乗った宇納だが…
これは傑作。いやもう笑いっぱなし。広島なまりの宇納と、カタカナ言葉ばっかりのAIとの会話が、実に楽しい。コンバージョンやらアジャイルやらの専門用語?を、宇納が広島なまりで実にわかりやすく説明してくれます。さすが院卒、地頭はいいんだよなあw この手の詐欺の手口を教えてくれるのも嬉しいが、鋭いのは最後のオチ。現代のAIが抱える問題点を、巧みに指摘してるのが凄い。ホント、これ、どうするんだろ。
品田透「伝統的無限生産装置」。地球は大災厄で滅びた。世代型宇宙船の八紘一宇号は、惑星スサノオを目指し虚空を進み続ける。樋口の仕事は検閲だ。職務は船内の日本文化を守ること。検閲部の働きにより、真世田谷の景色は200年前を変わらない。定年となった福沢から、樋口は「サンサイさん」案件を引き継いだ。これは306年間も続いたアニメ番組で…
舞台は移民用の世代型宇宙船なのに、スペース・オペラな雰囲気がまったくしないのが不思議。検閲だの八紘一宇だのと、ナニやら不穏な言葉が出てきたと思ったら、次のネタはかの有名な長寿アニメ番組。形だけ「古き良き日本像」に似せた似非レトロなガジェットとか、本当にそんなモン保つ価値があるのかよ、とちょっと背筋が寒くなったり。
陸秋槎「開かれた世界から有限宇宙へ」阿井幸作訳。「アイリス騎士団」は、当社の稼ぎ頭だ。あの手この手でユーザから金を搾り取り、月間数十億円を稼ぐ。だが、その儲けは有名な製作者の宮沼秀洋が率いる新規プロジェクトにつぎ込まれる。「アイリス騎士団」の運営に携わる岸田は、新規プロジェクトの世界設定について相談を受けたのだが…
現代のスマートフォンが持つ演算能力で、いかに臨場感のある絵面にするか。演算能力を節約するための工夫に、説得力のある設定をどうひねり出すか。その設定を、作品の世界観にどう合わせるか。なかなか面白い設問で、理系頭だとかえって苦労しそうな気がする。とりあえず、動きとして、自転であれ公転であれ「回転」はマズいよなあ。うーん。
L・チャン「家だけじゃ居場所になれない」桐谷知未訳。<あるじ>が連れ去られた後も、<ホーム>は淡々と仕事を続ける。半分割れたマグカップに、きっかり摂氏60度のコーヒーをいれる。決まった時間に玄関のドアのボルトを押し出す。電子レンジで食品を調理し、押し出す。キッチンには、容器が積み重なっている。在庫を調べ、必要な食料を補充する。
自動化された家は、居住者がいなくなっても、盲目的に日課を続ける。荒れた家の風景で、<あるじ>は相当に荒っぽい手口で連れ去られたのが分かる。融通の利かない機械らしく<ホーム>が淡々と動き続ける風景は寒々しいが…
柴田勝家「The Human Existence」。柴田勝家が小説生成ツール「AIのべりすと」を使い仕上げた作品。僕は∀2173、父さんにもらった名前だ。部屋は広いが、父さんは外出を許してくれない。けど、ある日、父さんが言った。「今度、一緒にサーカスを見に行こう」
柴田勝家の芸風とは大きく違う。文章は自然な日本語になっているし、お話のスジもソレナリに通っている。が、かなり唐突に展開が変わる。たぶん、プロの小説家は、大きな変化の前に細かい伏線をはるなり、予告っぽい文章を入れたりして、「間もなくお話の流れが変わりますよ」と読者に身構える余裕を与えるんだろう。そういう、AIの語りの荒っぽさが、逆にプロの作家の技を見せつける形になった。
小川哲「凍った心臓」。少年は桟橋の近くにやってくる。商船が運んでくる世界中の珍品を見るのが好きで、冲仲仕の仕事を手伝う。クリッパー船から下りてきた男が、少年に宝石を見せる。
18世紀あたりの米国の港っぽい風景で始まった物語は、劇中劇っぽい仕掛けを通ったあと、いきなり暴走しはじめる。なんか最初は丁寧に調整してたのが、途中で面倒くさくなってAIに任せっきりにしたら収集がつかなくなった、みたいな感じ。
スザンヌ・パーマー「忘れられた聖櫃」月岡小穂訳。2019年2月号掲載の「知られざるボットの世界」の続篇。長期航行中の宇宙船で、ボット9は68年前ぶりに起動した。まもなく無機生命体に敵対的なイスミ宙域に入る。それまでに、超低温室で眠っている人間のクルーを起こさねばならない。だが船内は困った状況にある。自分は人間だと思い込んでいるボット群が船内を群雄割拠し…
マシンであるボット9視点の語りが楽しい。何せ機械だ。気軽に体や思考能力を交換する。いやハードウェアやユーティリティ・ソフトウェアなんだけど。自分は人間だと思い込んでるわりに、そういうクセが抜けきらない叛乱ボットたちも笑える。目的のためには手段を択ばないボット9に比べ、妙に生真面目なシップの性格付けも、現場と監督職を思わせる雰囲気があってピッタリな配役。
連載小説。
飛博隆「空の園丁 廃園の天使Ⅲ」第15回。ド派手な青野市の崩壊で終わった前回から一転、妙に平和な二学期で第三部の幕が上がる。とかのお話の進み方以上に、当時の映画事情のネタがオジサンには嬉しい回。よく行ったなあ、池袋の文芸座と文芸座地下。「2001年宇宙の旅」も、当時は幻の作品だった。ナニやらオトナの事情で上映できなかったんだよね。自主上映会もあったなあ。近所の小学校で「ワタリ」を観た…気がする。
冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第45回。ハンター側からイースターズ・オフィスへの意外なコンタクトに始まり、マルセル島でのクインテットvsシザースのバトルの続き。いかにもなヤラレ役っぽいリック・トゥーム君の運命に涙。あのイカれたキャラ、結構好きなんだけどなあ…って、今更だけど、このお話、出てくるのはイカれた奴ばっかりなんだけどw
神林長平「戦闘妖精・雪風 第五部」第5回。雪風に乗るよう勧められた田村大尉と零の会話の回。初顔合わせの緊張感とは違い、特に田村大尉がリラックスしてる。冒頭から、知性を持つマシンの扱いにくさが伝わってくる。いずれも変わり者同士なのに、意外と陽キャを装える田村大尉と、モロに陰キャな零の対比もいい。
村山早紀「さやかに星はきらめき」第7回。銀河連邦の広報が、出版社「言葉の翼」社でクリスマスの物語を集めているキャサリンを訪れ…。そうか、同じ編集者でも、雑誌と文芸は違うのか。やっぱり雑誌はフットワークが軽くて好奇心旺盛な人が多いのかな。
読み切り。
草上仁「非可能犯罪捜査課 ゴッドハンド」。穐山省吾警部補は、非可能犯罪捜査課こと警視庁捜査七課への異動の打診を受けた。七課を率いる田村課長は語る。「超常現象を信じなくてもいい。仮説を立て、必然性のある論理を構築する、それだけ」。二人は、ある裁判を傍聴する。被告の富岡はゴッドハンドを名乗り、メスなしで心臓手術を行えると豪語する。
読み終えてから扉のイラストを見ると、「そういうことか!」と驚いたり。最近は流行らないけど、昔はよく聞いたなあ、この手の心霊手術。ミステリ・マガジンとSFマガジン、どっちに載せてもいい感じの作品ながら、オチはさすがの草上節、鮮やかなどんでん返しを見せてくれる。
小説はここまで。
若島正「乱視読者の小説千一夜 連載78回 いつまでも続くスワン・ソング」。今回はロバート・R・マキャモンの話なのが嬉しい。やっぱりマシュー・コーベットのシリーズは続いてるのか。「魔女は夜ささやく」のマシューとウッドワードの関係は、腐った人には美味しいはず。「ぼっち・ざ・ろっく」の影響で同じバンド物の The Five の翻訳も…いや、無理か。
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