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2022年5月 9日 (月)

ドナルド・R・プロセロ「岩石と文明 25の岩石に秘められた地球の歴史 上・下」築地書房 佐野引好訳

どんな岩石にも化石にも物語がある。多くの人びとにとって岩石はただの岩石でしかないが、経験を積んだ地質学者には、方法さえ知っていれば岩石は、そこから明確に読み取ることができる貴重な証拠に満ちた謎解きの手がかりだ。
  ――はじめに

ジェームズ・ハットン「火山とはいわば地下にあるかまどの排煙口なのである」
  ――第5章 火成岩の岩脈

全地球凍結は原生代後期に別々に少なくとも2~3回発生し、ヒューロニアン氷期として知られている原生代前期(約20憶年前)にも一回起きていたことが明らかになった
  ――第16章 ダイアミクタイト

(地球の公転)楕円軌道はほぼ円形からもっと長円形へと、非常にゆっくりと変化する(それにはおよそ10万年かかることが分かっている)。
  ――第25章 氷河の落とし物

【どんな本?】

 なぜかパターンが一致する炭田の石炭の層。どうにも計算が合わない地球の年齢。グリーンランド東岸と北アメリカで見つかる同種の三葉虫。イリジウム濃集層を境に消える恐竜の化石。採集場所によって磁気が示す極の移動経路が違う。細長い形と決まっている海溝。どこまで掘っても見つからない岩盤層。今にも倒れそうな姿勢で平原にポツンと佇む巨岩。

 これらの謎は、多くの科学者たちを悩ませた。と同時に、ダイナミックな地球の歴史を解く重要な鍵でもあった。

 悲劇的な火山の噴火や奇妙な風景、整合性がとれないデータなどに悩み、またはそれらをヒントとして地球の歴史を解き明かしてきた科学者たちの足跡を25章のエッセイで綴る、一般向け地球科学の解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Story of The Earth in 25 Rocks : Tales of Important Geological Puzzle and the People Who Solved Them, by Donald R. Prothero, 2018。日本語版は2021年5月31日初版発行。単行本ハードカバー上下巻で縦一段組み本文約250頁+221頁=約471頁に加え、訳者あとがき7頁。9ポイント46字×18行×(250頁+221頁)=約389,988字、400字詰め原稿用紙で約975枚。文庫でも上下巻ぐらいの分量。

 文章は比較的にこなれている。内容もわかりやすい。冒頭に45憶年前からの地球の歴史を地層で表した図があるのも親切だ。世界中のアチコチの地名が出てくるので、世界地図か Google Map があると便利。

【構成は?】

 各章はほぼ独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。

クリックで詳細表示
  •  上巻
  •  はじめに
  • 第1章 火山灰 火の神ウルカヌスの怒り 古代都市ポンペイの悲劇
    神々の炎/大災害を目撃した歴史家/ベスビオス火山大噴火の後
  • 第2章 自然銅 アイスマンと銅の島 銅をめぐる古代の争奪戦
    アルプスで発見された古代人、アイスマンが語る銅の時代/東地中海に浮かぶ銅の島、キプロス/それは海洋底の断片だった/深海底で オフィオライトが銅などの鉱石に富むわけ
  • 第3章 錫鉱石 ランズ・エンドの錫と青銅器時代
    「地の果て」の錫/ナポレオンが考案した錫の缶詰/錫鉱石の起源は?/錫王国の瓦解
  • 第4章 傾斜不整合 「始まりは痕跡を残さず」 地質年代の途方もなく膨大な長さ
    ものごとの始まり/啓蒙時代 教会・貴族社会vs学者・科学者/地質学の道を歩み始めたジェームズ・ハットン/現在は過去への鍵である 斉一主義
  • 第5章 火成岩の岩脈 地球の巨大な熱機関 マグマの起源
    水成論と火成論 岩石はどのようにできたのか/カコウ岩がマグマ起源である証拠/躍動する地球
  • 第6章 石炭 燃える石と産業革命
    薪のように燃える黒い石 石炭/産業革命を推進する/石炭紀の名前の由来 挟炭層/石炭がもたらす災い
  • 第7章 ジュラシック・ワールド 世界を変えた地質図 ウィリアム・スミスとイギリスの地層
    地球の切り口/地層同定の原理を発見/収監そして名誉の回復
  • 第8章 放射性ウラン 岩石が時を刻む アーサー・ホームズと地球の年齢
    行き詰った地球の年代推定/それは放射能だ!/放射性崩壊で測定する地質時間/年代測定ゲーム/プレートテクトニクスの創始者
  • 第9章 コンドライト隕石 宇宙からのメッセージ 太陽系の起源
    青天の霹靂/初期太陽系の痕跡/隕石中の生命
  • 第10章 鉄隕石 他の惑星の核
    論争のクレーター/天空からの訪問者/核の破片/至るところ鉛、鉛
  • 第11章 月の石 グリーンチーズか斜長岩か? 月の起源
    偉大な飛躍/月はどうやってできたのか 妹説、娘説、それとも捕獲説/衝突で吹き飛ばされた初期地球/月の輝く夜に
  • 第12章 ジルコン 初期海洋と初期生命? ひと粒の砂に秘められた証拠
    ダイヤモンド以上の高級品/地球最古の岩石は?/冷えた地球
  • 第13章 ストロマトライト シアノバクテリアと最古の生命
    ダーウィンのジレンマ/疑似化石、それとも本物の化石?シャーク湾で発見された生きたストロマトライト/ねばねばの膜におおわれた惑星
  • 第14章 縞状鉄鉱層 鉄鉱石でできた山 地球の初期大気
    鉄鉱石の富と花咲く文化/無酸素の地球で形成された縞状鉄鉱層/酸素による大虐殺イベント
  • 第15章 タービダイト ケーブル切断の謎が明らかにした海底地すべり堆積物
    問題その1 ちぎれた海底ケーブルの謎/問題その2 何百回も続く級化構造の不思議/問題その3 混濁流はどのように機能したのか/謎か解けた!
  • 第16章 ダイアミクタイト 熱帯の氷床とスノーボール・アース
    オーストラリアの地層の謎/氷成堆積物と石灰岩の互層/雪だるま、現れる/スノーボール、成長開始/全休凍結か部分凍結か?
  •  図版クレジット/もっと詳しく知るための文献ガイド
  •  下巻
  • 第17章 エキゾチックアメリカ 岩石に秘められたパラドックス 彷徨う化石と移動するテレーン
    三葉虫のパラドックス/失われた大陸、アバロニア/北アメリカを構成するエキゾチックなテレーン
  • 第18章 大地のジグソーパズル アルフレッド・ウェゲナーと大陸移動説
    彼は軽蔑され、受け入れられなかった……/謎その1 岩石のジグソーパズル/謎その2 間違った場所に設けられた気候帯/深海からの謎解き
  • 第19章 望郷の白亜の崖 白亜紀の海と温室気候になった地球
    ドーバーの白亜の崖/チョークとは何だろう?/白亜紀の温室気候下の浅海
  • 第20章 イリジウム濃集層 恐竜、滅びる
    予期せぬ偶然/イタリア中央部、アペニン山地での偶然/小惑星衝突のインパクト/化石は何を語るのか?/終わりなき論争 メタ解析
  • 第21章 天然磁石 プレートテクトニクスの基礎になった古地磁気学
    謎その1 天然磁石と地球の磁性/謎その2 一致しない磁北 極移動曲線/謎その3 地球磁場がひっくり返った!/謎その4 海洋底の縞模様/海底のロゼッタストーン
  • 第22章 青色片岩 沈み込み帯の謎
    謎その1 海底への旅/謎その2 傾いた地震多発帯/謎その3 圧力は高いが温度は低い/謎その4 雑然とまぜこぜになった岩石/答えその1 沈み込みが造山運動につながる/謎その5 アラスカ地震 沈み込みは現在も起きている!/答えその2 沈み込み帯のくさび状の付加コンプレックス
  • 第23章 トランスフォーム断層 地震だ! サンアンドレアス断層
    サンフランシスコ、1906年/近代地震学の誕生/地震神話/巨大地震を引き起こすサンアンドレアス断層/驚異的なすべり/中央海嶺と海溝をつなぐトランスフォーム断層 プレートテクトニクス理論の総仕上げ
  • 第24章 地中海、干上がる 地中海は砂漠だった
    廃墟の灰燼から/成功のバラを育てよう/謎その1 進退窮まれり/謎その2 ナイル川のグランドキャニオン/謎その3 海底に開いた穴/答え 巨大な死海
  • 第25章 氷河の落とし物 詩人、教授、政治家、用務員と氷期の発見
    謎その1 漂流する巨礫/謎その2 岩石の引っかき傷/答えその1 アガシ―と氷河時代/グリーンランドでの恐怖と死/スコットランドの大学用務員とセルビアの数学者/答えその2 プランクトンと氷期の先導役
  •  訳者あとがき/図版クレジット/もっと詳しく知るための文献ガイド/索引

【感想は?】

 本書のテーマを一言で表すのが、この一文だろう。

科学の偉大な発見の多くは、計画によってではなく、予想しなかった結果に遭遇することで実現するものだ。
  ――第20章 イリジウム濃集層

 なにか奇妙なモノや現象、予想とは違う結果が出た実験や計算、奇妙に一致するパターン。往々にして、これらは科学者たちの悩みの種になった。が、多くのデータが集まった後世の者にとっては、重大な発見や既存の説を覆すための決定的な鍵となったのだ。

 例えば、炭田。産業革命により、重要な資源として石炭に注目が集まった。炭田を開発・経営する事業家たちは、炭田を詳しく調べ始める。そこで、奇妙な事実に気がつく。

主要炭田の調査が始まると、研究者たちはイギリスの石炭のほとんどを含む地層群が特定の順序で重なっていることに気づいた。
  ――第6章 石炭

 炭鉱って、そうだったのか。知らなかった。まあいい。カラクリはこうだ。石炭は、その名のとおり石炭紀(約3億6千年前~約3憶年前,→Wikipedia)の地上植物が、泥のなかに埋もれて堆積したものだ。地層は年代ごとに重なるため、石炭の層も年代ごとに同じ順番で出てくるのだ。

 なお、石炭紀より昔は大きな陸上植物がなかったし、後はシロアリなどが樹木を分解しちゃうため、石炭として残っているのは石炭紀だけだとか。うーん、残念。

 やはり科学者たちを悩ませたのが、地球の年齢。最初は聖書にちなみ数千年って説だったが、他の証拠と合わない。ケルビン卿ことウィリアム・トムソン(→Wikipedia)は1862年に熱力学に基づいて計算し、2000万年と出た。が、これでも若すぎる。

 これを覆したのが1904年のアーネスト・ラザフォード(→Wikipedia)。ケルビン卿の計算は、地球に熱源はないって前提だったが、実際には放射性物質が核分裂する際に熱を出すのだ。

初期の地球を高温にして溶融させ、その結果、マントルから核を分離させたのは何だったのか? その答えは? 初期地球が大量に含んでいたアルミニウム26が、崩壊によって何度も地球を溶融させるに十分な熱を何度も発生させていたためだ。
  ――第9章 コンドライト隕石

 これを、権威あるケルビン卿の目の前で発表する羽目になった若きラザフォードの苦境は微笑ましい。

 この地球の年齢を計算するのに、海の塩の濃さを使ったのが、アイルランドの物理学者ジョン・ジョリー(→英語版Wikipedia)。計算じゃ8千万年~1憶年となった。が、実は彼の計算も間違いで、「海水の塩分濃度は(略)長期間に大きく変化していない」。なぜって「海水の塩分の多くは塩類堆積物(略)として堆積物に固定される」。そうだったのか。

 ちなみに今のところ、地球の年齢は46憶年前となっています。

 そんな長い歴史を35億年前からしぶとく生きのびてきたのが、シアノバクテリア。

化石記録は30憶年以上も前、単細胞のシアノバクテリアよりも大きな生物は何も出現しなかったことを意味している。いわば、地球生命史の80%を占める期間、シアノバクテリアの被覆層を削り取ってしまう生物がいなかったのだ。
  ――第13章 ストロマトライト

 そんな生きた化石であるシアノバクテリア、今でも特定の条件が揃うとストロマトライト(→Wikipedia)なんて奇妙な構造物をつくる。ばかりでなく、大量絶滅のたびに「雑草のように増殖」したそうな。強くはないけどしぶといんだね。

 もっとも、そんなシアノバクテリアにも謎は残ってて。

大きな謎は、シアノバクテリアの化石は35憶年前、もしかすると38憶年前に遡って知られているのに対して、大酸化イベントが23憶~19憶年前に始まったという点だ。
  ――第14章 縞状鉄鉱層

 本書には他にも謎を提示してて、皆さん大好きな恐竜絶滅もその一つ。今は小惑星衝突説が有力だが、それ以前から恐竜の衰退は始まっていたし、カエルやサンショウウオはなぜか生きのびている。同時期にデカン噴火(→Wikipedia)と海水面低下が起きていて、今のところ科学者たちも意見が分かれている。

 などの謎の中でも、やっぱりスケールが大きいのが大陸移動説。アルフレッド・ウェゲナー(→Wikipedia)の気づきは有名だけど、実は彼より前に気づいた人はいた。

信頼に足る最初の大西洋の地図が使えるようになるとすぐに、1500年代には早くも人びとはそれ(南アメリカとアフリカの海岸線が驚くほど一致すること)についてコメントしていた。
  ――第18章 大地のジグソーパズル

 でも、みんな「そんなバカな」と思ったか、証拠が見つからなくて黙ってたんだろう。そりゃねえ。大陸が動くなんて、思わないよね普通。これがやがてプレートテクトニクスへと発展し、地震についても色々とわかってくる。が、残念なことに…

地震がまったく予測不可能(略)。二つとして同じ地震はなく、あるタイプの地震を警告する前兆現象は、前兆現象を伴わない別のタイプの地震に対しては役に立たないということを地震学者は学んだ。
  ――第23章 トランスフォーム断層

 火山の噴火はけっこう正確に予報できるらしい。でも地震は難しいのだ。残念。

 どうも私は「○○と文明」って書名に弱くて、てっきり歴史の本だと思って読んだんだが、その予想は全く違った。いや同じ歴史でも千万年とか億年とかの単位だし。まあ予想が外れたとはいえ、スケールが大きい方に外れたのは嬉しい誤算で、海の塩分濃度の謎が解けたのもよかった。分かったことだけでなく、恐竜絶滅の原因が相変わらず謎なのも、それはそれでワクワクする。そんなスケールのデカい地学の本だ。

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