鳴沢真也「連星からみた宇宙 超新星からブラックホール、重力波まで」講談社ブルーバックス
宇宙に存在する星々のおよそ半数は、連星であると考えられています。
――はじめに多重連星はかならず「2つの星だけが近くにある」
――1章 あれも連星、これも連星連星の2つの星の質量の合計は、両星間の距離の3乗に比例し、公転周期の2乗に反比例する
――4章 連星が教える「星のプロフィール」現在、新星とは「白色矮星と、もう1つの星とが近接連星をなしているときに起こる現象」だと考えられています。
――5章 「新しい星」は連星が生む幻かソーン・ジトコフ天体とは、赤色巨星または赤色超巨星(略)の中心に、なんと中性子星が存在しているという、なんとも奇妙な天体です。
――11章 連星は元素の合成工場だった
【どんな本?】
連星。2つ以上の恒星が、互いのまわりを回っている天体。太陽が独裁を敷く太陽系に住んでいる私たちには奇妙に思える。だが、宇宙に連星は珍しくない、どころか、ありふれた形らしい。しかも、2つどころか3つや4つの連星もある。
劉慈欣の「三体」を読んだ人なら、こんな疑問を抱くだろう。「3つ以上の天体って、ありうるのか? 軌道が不安定なのでは?」
ところがどっこい、現実にあって、ちゃんと観測されているのだ。いや、ただ観測されているだけじゃない。連星の観測は、ブラックホールをはじめ天文学・物理学の様々な現象や原理の解析に役立っていて、現代の宇宙論に欠かせない重要なデータを提供している。
「なぜ3体以上の天体で軌道が安定するのか」「生物が住める惑星はあるのか」「どうやって見つけたのか」などの疑問に答えるとともに、「ひょうたん星」や「ソーン・ジトコフ天体」などの奇妙奇天烈な星も紹介する、一般向け科学解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2020年12月20日第1刷発行。新書版で縦一段組み本文約約221頁に加え、あとがき2頁。9ポイント43字×16行×221頁=約152,048字、400字詰め原稿用紙で約381枚。文庫なら薄めの一冊分。
文章はこなれていて読みやすい。内容もわかりやすい。まれに数式が出てくるけど、わからなければ読み飛ばしていい。本を読み慣れていれば、中学生でも読み通せるだろう。
【構成は?】
原則として頭から読む構成だが、気になった所だけを拾い読みしても楽しめる。
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- はじめに
- 1章 あれも連星、これも連星
連星とは「重心のまわりを公転しあう星」/連星をなす星は恒星である/全天でもっとも明るい星は連星だった!/連星には「主星」と「伴星」がある/2つの星の組み合わせはさまざま/北極星は3つの星が回り合っている!/3重連星も組み合わせはさまざま/4重連星、5重連星もある!/いったい何重連星まであるのか/多重連星は「階層構造」になっている
- 2章 連星はどのようにしてできたのか
一方から飛び出してできた?/分裂してできた?/捕獲されてできた?/星は生まれた時から連星だった/連星のできかた 1)円盤が分裂する/連星のできかた 2)分子雲コアが分裂する/「捕獲」でできることもある/太陽にもかつて「兄弟」はいた?/「蒸発」して逃げ出す星もある/相手をチェンジして「サバイバル」する星も!
- 3章 なぜ連星だとわかるのか
「二重星」は「たまたま」か「連星」か/二重星のほとんどは連星だった!/1つの星にしか見えない「食連星」/食連星の発見は「周期的な減光」から/光の波長を調べてわかる「分光連星」/実視連星・食連星・分光連星の関係
- 4章 連星が教える「星のプロフィール」
連星の「質量」を教えてくれる方程式/2つの星の「質量比」を知りたい!/質量比は公転速度の比率からわかる!/分光連星では「軌道傾斜角」がわからない/軌道傾斜は食連星からわかる!/アルゴルの2星の質量が求められた!/「質量光度関係」から単独星の質量もわかる/星の質量から「寿命」もわかる/「異常小質量短期連星」の発見
- 5章 「新しい星」は連星が生む幻か
突然、空に出現する「新星」/新星の正体は連星だった!/「星の死後の姿」白色矮星とは/白色矮星の表面で起こる新星爆発/「赤い新星」は2つの星の衝突で起こるのか/はぐれた星のミステリー
- 6章 ブラックホールは連星が「発見」した
ロケットで観測されたX線/X線源を探せ!/日本人が発見「さそり座X-1は星だった」/さそり座X-1は連星だった!/「超巨星」が「超新星爆発」を起こし「中性子性」ができる/はくちょう座X-1のX線源はブラックホールだった!/なぜブラックホールがX線源になるのか/ブラックホールは単独星では発見できなかった
- 7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
太陽の何億倍も明るく輝く超新星爆発/白色矮星が爆散する「Ⅰa型超新星」/なぜ宇宙が膨張しているとわかるのか/Ⅰa型超新星を使えば銀河までの距離がわかる/宇宙の膨張は加速していた!/膨張速度を加速させる「謎のエネルギー」
- 8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
重力波は「空間の伸び縮み」を光の速さで伝える/間接的な検出をもたらした連星/直接検出の気が遠くなる困難さ/初の重力波はブラックホール連星から届いた/「消えた質量」が重力波になった!/中性子星どうしの衝突では電磁波も出る/21世紀天体物理学の「勝利の日」/36億光年を飛んできた「高速電波バースト」/重力波がダークエネルギーも解明する
- 9章 連星のユニークな素顔
2つの星がくっついてしまった連星がある!/「ひょうたん星」がさらに進化すると?/星の中を星が回っている天体がある/ひょうたん星の表面は「ほくろ」だらけ/低温度の近接連星で起こる激しい磁場活動
- 10章 連星も惑星を持つのか
続々と見つかっている系外惑星/「連星の惑星」には2つのタイプがある/一人ぼっちで浮遊している惑星もある/「ハビタブル惑星」となるための複雑な要件/太陽系外にも見つかったハビタブル惑星/連星にもハビタブル惑星が見つかった/「プロキシマ・ケンタウリ」の衝撃/4重連星にもハビタブル惑星がありそうだ
- 11章 連星は元素の合成工場だった
最初に水素が、次にヘリウムができた/星の内部でつくられるのは鉄まで/超新星爆発でできる鉄より重い元素/超新星爆発は宇宙の物質を循環させている/中性子星どうしの合体でできる元素もある/キノロバが証明したプラチナや金の合成/「X線バースト」による元素合成/「理論上の天体」で予言される元素合成/ソーン・ジトコフ天体は存在するか
- 12章 連星が終焉を迎えるシナリオ
連星どうしの衝突・合体もある!/連星がなければ私たちは存在できなかった?/歴史はまったく違っていた/天文学者や物理学者が困る/連星がない宇宙はつまらない! - あとがき/さくいん
【感想は?】
いきなり驚いた。連星は珍しくないのか。
他星系が舞台のSFは多いが、連星系を描いた作品は少ない。色々と難しいんだろうなあ、と思いながら「10章 連星も惑星を持つのか」を覗く。惑星の公転軌道の中に連星がスッポリ入る場合もある。これなら昼夜や季節は地球と似てるな、と一安心。でも公転軌道の外に恒星があると、「明るい夜」と「暗い夜」があったりする。設定を考えるのが面倒臭そうだけど、面白そうでもある。
SF者として気になるのが、有名な三体問題だ。三つ以上の天体は軌道が安定しない、というアレだ。でも読んでみて納得。別にラグランジュ・ポイントに落ち着く必要はないのだ。だって太陽系には惑星や衛星がうじゃうじゃあるけど、ほぼ安定してるよね。摂動はあるけど。
やはりSF者としては、終盤に出てくる「ひょうたん星」や「ソーン・ジトコフ天体」が楽しい。ひょうたん星の惑星版は「ロシュワールド」の舞台になったし、「ソーン・ジトコフ天体」も「竜の卵」に…って、どっちもロバート・L・フォワードやんけ。
同じくSF者として見逃せないのがガンマ線バースト。これもグレッグ・イーガンの「ディアスポラ」や三方行成の「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」が扱ってた。おいおい、ヤバくないか? と思ったが…
ガンマ線バーストは、非常に強いエネルギーを持つ電磁波であるガンマ線を放射する、宇宙最大の大爆発です。(略)1日に全天で1回程度の頻度で、突然に、短時間だけガンマ線が検出されるのです。短時間でも放出されるエネルギーは膨大で、観測できる範囲の宇宙の中にあるすべての星が出しているエネルギーの総量に匹敵します。
――8章 連星が解いた「天才科学者最後の宿題」
案外としょっちゅう観測されているっぽい(→Wikipedia)。直撃されたり近くで起きない限り、大丈夫らしい、ひと安心。
最近はあまり天文関係の本を読まなかったんで全く気がつかなかったが、最近になって話題になったダークエネルギーも、その出典は意外な事実だった。
1998年に2つの研究チームが発表した観測結果は、(略)宇宙は誕生してから約70憶年間は減速膨張をしていましたが、その後、膨張速度が少しづつ速くなる「加速膨張」に転じていたことがわかったのです。
――7章 連星が暗示する「謎のエネルギー」
「宇宙の膨張が速くなってる、従来の理屈じゃ説明がつかない、何かエネルギーをひねり出さないと辻褄が合わない」ってんで引っ張り出されたのがダークエネルギー。辻褄合わせなんで、正体はわからない。いいのかそれで。
などと、宇宙って遥か彼方の話だと思い込んでる読者の目を、一気に目の前に惹きつけるのが「11章 連星は元素の合成工場だった」。私たちのすぐそばにあるアップルパイや私たちの身体は、みんな元素から構成されている。その元素はどうやって出来たのかを語るのが、この章だ。いや最初はアップルパイなんだが、結局は中性子星だなんだとスケールのデカい話になっちゃうんだけどw いずれにせよ、そこそこ齢を経た宇宙に生まれてよかったなあ、などと思う章だ。
などと安心ばかりもしてられない。最近の宇宙SFじゃ欠かせないガジェットの一つであるブラックホール、これも連星だから見つかったシロモノ。だって光すら出てこれないし。
もし単独星が、重力崩壊型超新星爆発で、あるいは直接的にブラックホールになっていたら、発見することはほぼ不可能です。
――6章 ブラックホールは連星が「発見」した
そんなワケで、宇宙の隠れた岩礁みたいな場所は、やっぱりあるのだ。他にも黒色矮星なんてのもあって、これも怖い。
などの怖い話や、奇想天外な星の話、7体もの恒星がある星系など、スペースオペラのネタは満載で、宇宙SFが好きな人には美味しい話が続々と出てくる。また、「なぜソレが分かったか」を明かすところでは、観測技術の進歩が科学に大きな影響を与えたのが見えてくる。これを巧みに描いたのがグレッグ・イーガンの「白熱光」で…って、結局SFかい。
そういえば、「なろう」などのファンタジイの舞台じゃ月が二つ以上あったりするが、太陽が複数あるのはまず見ない。なんでだろう? と思ったが、太陽が複数あると日々の描写もSFっぽくなっちゃうから、かな?
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