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2021年5月28日 (金)

スティーブ・コール「シークレット・ウォーズ アメリカ、アフガニスタン、パキスタン三つ巴の諜報戦争 上・下」白水社 笠井亮平訳 1

本書は『アフガン諜報戦争』においてジャーナリスティックな手法で語られた通史の続巻であり、前著が終わったところ、すなわち2001年9月10日から物語が始まる。
  ――はじめに

【どんな本?】

 パンジシールの獅子と呼ばれ、アフガニスタンの希望となったアフメド・シャー・マスードは2001年9月9日に暗殺された。その2日後、アメリカ同時多発テロ事件で世界は激震する。首謀者ビン・ラディン&アル・カーイダはアフガニスタンに潜伏しており、タリバーンの庇護下にあると目される。

 復讐を望む合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュ大統領はアフガニスタンへの派兵を決めるが、タリバーンはパキスタン軍およびISI(パキスタン三軍統合情報局)の強い影響下にあった。

 軍事的な解決へと突き進むアメリカ、タリバーン及びその根城である連邦直轄部族地域の対応に苦慮するパキスタン、弱い権力地盤に悩みつつも独立したアフガニスタンを目指すアフガニスタン大統領ハーミド・カルザイ。

 今なお混迷を続けるアフガニスタンの現状は、いかにしてもたらされたのか。ワシントン・ポスト編集局長などを務めた著者による、重量級のドキュメンタリー。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は DIRECTORATE S, by Steve Coll, 2018。日本語版は2019年12月10日発行。単行本ハードカバー上下巻で縦一段組み本文約455頁+451頁=約906頁に加え、訳者あとがき6頁。9ポイント46字×20行×(455頁+451頁)=833,520字、400字詰め原稿用紙で約2,084枚。文庫ならたっぷり四巻分の巨大容量。

 文章はこなれているし、専門用語はその場で説明がある。とはいえ、モノを見りゃわかるが、重量級の本だ。相応の覚悟をしよう。内容もキチンと読めば頭に入ってくるが、なにせ登場人物、それもアメリカ人が異様に多い。幸い冒頭に主要登場人物があるので、栞を挟んでおこう。

【構成は?】

 ほぼ時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

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  •  上巻
  • 地図一覧/主要登場人物/主要略語一覧
  • はじめに
  • 第1部 手探りの開戦 2001年9月-12月
    • 第1章 「ハーリドに事情ができた」
    • 第2章 審判の日
    • 第3章 かくのごとき友人たち
    • 第4章 リスクマネジメント
    • 第5章 破滅的な成功
  • 第2部 遠のく平和 2002-2006年
    • 第6章 ささやかな変化
    • 第7章 タリバーンのカルザイ支持
    • 第8章 謎
    • 第9章 「あの人のやり方は自分たちとは違っていた」
    • 第10章 ミスター・ビッグ
    • 第11章 大使対決
    • 第12章 海の中に穴を掘る
    • 第13章 過激派
  • 第3部 誠意 2006-2009年
    • 第14章 自爆の謎を解明せよ
    • 第15章 プラン・アフガニスタン
    • 第16章 暗殺と闇の国家
    • 第17章 ハードデータ
    • 第18章 愛の鞭
    • 第19章 テロと闇の国家
  • 原注
  •  下巻
  • 地図一覧/主要登場人物/主要略語一覧
  • 第3部 誠意 2006-2009年
    • 第20章 新たなボス
    • 第21章 カルザイの離反
    • 第22章 国民にチャンスを与える戦争
  • 第4部 幻想の消滅 2010-2014年
    • 第23章 ひとりCIA
    • 第24章 紛争解決班
    • 第25章 キヤニ2.0
    • 第26章 人命と負傷者
    • 第27章 キヤニ3.0
    • 第28章 人質
    • 第29章 ドラゴンブレス弾
    • 第30章 殉教者記念日
    • 第31章 戦闘と交渉
    • 第32章 アフガン・ハンド
    • 第33章 殺人捜査課
    • 第34章 自傷
    • 第35章 クーデター
  • エピローグ 被害者影響報告書
  • 謝辞/訳者あとがき/参考文献/原注

【感想は?】

 1939年の平沼騏一郎首相曰く「欧州情勢は複雑怪奇」。欧州どころか、そもそも軍事・外交というのは、どこであろうとも複雑怪奇なものらしい。

 本書の冒頭は2001年晩夏。登場するのはアムルッラー・サーレハ、アフガニスタンでタリバーンに対抗するパンジシールの獅子ことアフマド・シャー・マスードの下で、CIAとの連絡役を務める人物だ。マスードがCIAを窓口として米国とツルんでいたのは前著にも書いてある。

 と同時に、イランやロシアとも繋がっていたのには驚いた。

米国から確固とした支援が得られないなかで、マスードは武器や資金、医療物資の供給をイランやインド、ロシアに頼っていた。なかでもイラン(略)の革命防衛隊と情報工作員がアフガニスタン北部でマスードのゲリラ軍と行動をともにしていた。
  ――第1章 「ハーリドに事情ができた」

 物資を得るどころか、革命防衛隊まで出張っているとは。金欠のマスードには、米とイランの関係なんかどうでもいいんだろう。そんな風に、一見は複雑怪奇なようでも、各人物の立場で見ていくと、奇妙に見える判断や行動が、相応の一貫性や合理性に基づいているのが見えてくるのも、この手の本の面白いところ。

 そういう点では、当時のパキスタン大統領パルヴェームズ・ムシャッラフの姿勢も、実は一貫している。ズルズルとタリバーンと付き合いつつ米国から支援を引き出そうとするセコい奴のように思えるが、彼の最も大きな関心は、全く違う所にある。

ジョージ・W・ブッシュ「わたしと交わした会話のほとんどで、ムシャッラフはインドの悪行を非難していたよ」
  ――第3章 かくのごとき友人たち

 インドとの確執だ。日本の極右が中国や韓国への敵視で世界情勢を判断するように、ムシャッラフの外交はインドとの関係が座標軸である。インドの敵は友、インドの味方は敵。パキスタンの政治家すべてではないにせよ、そういう勢力が大きい。そのパキスタンで大きな影響力を持つ軍は、タリバーンをこう見ている。

「われわれの意図を代行してくれる主体が必要であり、テロ支援国家と糾弾されることを避けつつ、彼らを良好な状態になるよう管理していく」
  ――第12章 海の中に穴を掘る

 「われわれの意図」とは、アフガニスタンでのインドの影響力を削ぐこと。イスラム原理主義のタリバーンは、ヒンディーのインドと相性が悪い。つまりインドの敵=パキスタンの友だ。なにせトップが…

タリバーン創設者ムッラー・ムハンマド・オマル「自ら犠牲となる準備はできており、非ムスリムの友人になろうとは思わない。非ムスリムはわが信仰と教えのすべてに敵対しているからである」
  ――第4章 リスクマネジメント

 と、徹底したイスラム原理主義者だし。いやイスラムったってパシュトゥーン風味にアレンジしたシロモノなんだけど。

 それまでアメリカは直接手を下さず、マスードなどへの支援に留めていた。陸軍特殊部隊が活躍する「ホース・ソルジャー」は面白いぞ。またパキスタン、特にISI(パキスタン三軍統合情報局)との関係は前著が詳しい。

戦闘は現地の人びとにやらせて、CIAはそのために必要な資金と技術で支援するという手法を好んだ。
  ――第2章 審判の日

 そんな状況で9.11が起きる。当時はビン・ラディン&アル・カーイダはタリバーンに匿われ、パキスタンとの国境に近いアフガニスタン東部の山岳地帯に隠れ潜んでいると見られていた。そこでアメリカは渓谷地帯への攻撃、アナコンダ作戦(→英語版Wikipedia)を敢行する。ところが…

パキスタン大統領パルヴェームズ・ムシャッラフ「(トミー・)フランクス(米陸軍)大将、アメリカは何をしているかおわかりですか? あの連中(アル・カーイダ)を追い出そうとしているようだが、彼らが通っていける渓谷は150もあるのですぞ。それがわが国に押し寄せてきている」
  ――第5章 破滅的な成功

 肝心のビン・ラディンばかりでなく、アル・カーイダの主力もパキスタンへと逃げ出してしまう。これに懲りるどころか、ブッシュJr政権はアフガニスタンへの更なる深入りを決める。そうやって荒らしまわるのはいいが、その後の国家再建は、というと…

2002年2月、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)がその年の10月から始まる会計年度のアフガン支援関連予算として計上したのは、わずか1憶5100万ドルでしかなかった。(略)2001年にブッシュ政権はアフガニスタン戦争のために45億ドルを投じた
  ――第6章 ささやかな変化

 当時のブッシュ政権はイラクに集中していて、アフガニスタンは片手間だったのだ。だもんで、再建は「国際協力」の美名のもと、他の国にお任せ。いい気なモンだ。日本は、そういう戦争に巻き込まれたのだ。

 先のムシャッラフの言葉も、CIAが確認している。ところが現場の将兵は、タリバーンとの戦闘にはまり込んでゆく。

アフガニスタンには多くのアル・カーイダ兵は残っていない――2002年以降、CIAと特殊部隊はそういう考えに至った。アル・カーイダはパキスタンに移動していたのだった。そこでアメリカの部隊は、「そこにいたから」というだけの理由でタリバーンにたいする攻撃を開始した
  ――第7章 タリバーンのカルザイ支持

 いや将兵も、最初は節度を保って接するのだ。でも…

「(米兵はアフガニスタン住民に)最初は友好的な姿勢で接触を試みていくのですよ。でも自分たちに犠牲者が何人か出るや否や、態度を豹変させるのです」
  ――第11章 大使対決

 戦友がやられると、頭に血が上る。まあ人としちゃ当たり前の反応だよね。しかも、現地の感情は最初から歓迎ムードとはほど遠い。CIAも現地で協力者を得ようとするのだが…

(ワジリスタンでは)数週間に一度は「アメリカのスパイ」と胸に書かれた紙が貼られた死体が発見された。犠牲者の大半はCIAと何のかかわりもない者だったが、ケース・オフィサーがエージェントを失っていったのは確かだった。現地では、よそ者に対してきわめて敵対的な雰囲気が漂っていた。
  ――第12章 海の中に穴を掘る

 なお、ワジリスタン(→Wikipedia)はパキスタン北西部の連邦直轄部族地域(FATA,→Wikipedia)の一部でアフガニスタンと接している。パキスタン政府の統治が及ばずタリバーンと同じパシュトゥーン人が多いFATAの中でも特に厄介な所で、アル・カーイダやタリバーンが隠れ潜むには格好の地域。で、よそ者は出て行け、そういう雰囲気なのだ。不正確な情報しか手に入らないため、巻き添えも多く…

2008年全体では、CIAが行ったすべての無人機攻撃の1/3で少なくとも子どもが一人殺害されたという。
  ――第19章 テロと闇の国家

 なんとか捕まえた容疑者への尋問も、素人が担当する場合が多く、拷問でむりやり吐かせる、どころかやりすぎて殺しちゃったり。

2001年以降に尋問業務を担当したCIA職員のおよそ85%が契約職員で占められていた。「ザ・ファーム」の通称で知られるCIAの研修アカデミーでは、尋問のスキルについて教えられることはなかった。
  ――第9章 「あの人のやり方は自分たちとは違っていた」

 なお「陸軍尋問官」によると、アル・カーイダは捕まった際に吐くべきシナリオを用意していたそうな。帝国陸軍より、よっぽど賢い。つか、そのシナリオと照らし合わせれば、本物かどうか判断できたんじゃね?

 そんな泥沼の戦いに巻き込まれたNATOなんだが…

国際治安支援部隊(ISAF)はNATOが展開するものであり、アフガニスタンでテロリスト掃討作戦を行うアメリカのタスクフォースとはまったく別組織だった。ISAFの展開地域は主にカブールとアフガニスタン北部の都市部に限られていた。
  ――第12章 海の中に穴を掘る

2007年にISAF司令部配属となったある陸軍少将は、「NATO部隊の宿舎生活の典型例」を目の当たりにし、「多くの点で驚かされた」という。士官の就業時間は午前9時から午後2時までだった。夜には司令部の半数が酔っぱらっていた。
  ――第17章 ハードデータ

 指揮系統も米軍とは違っていて、バラバラに動いていたのだ。ちなみにアフガニスタンの地理をおさらいしておくと、パキスタン国境に近いカンダハールなどの南部はパシュトゥーン人が多く、タリバーンの根城になっている。首都カブールから北は北部同盟などカルザイ政権に好意的…とはいえ、いつ仲たがいしてもおかしくない状況。

 そんな綱渡りを続けるアフガニスタン大統領ハーミド・カルザイは、汚職が蔓延した地域の勢力を、なんとか味方につけようとするのだが、スポンサーのアメリカはいい顔をしない。

アフガニスタン大統領ハーミド・カルザイ「聞きたいのは、悪者を自分たちの側につけておきたいか、それともタリバーンの側に追いやりたいか、ということです」
  ――第15章 プラン・アフガニスタン

 イラクでバース党を一掃したように、アフガニスタンでも強引かつ性急な民主化を進めようとする。急ぐんならヒト・カネ・モノを出せと言いたいんだが、先に引用したようにブッシュ政権は戦争には熱心でも復興には不熱心で、「そりゃ国際協力で」とか調子のいいことを言ってる。そうこうしてるうちに、事態を余計にこじらせる事件が起きる。2008年7月7日のカブールのインド大使館への自爆テロ(→AFP)だ。

このテロは、いわばパキスタン軍がインド軍に対して起こしたゲリラ攻撃とでもいうべきものだった
  ――第18章 愛の鞭

 犯人はカシミールの過激派組織LeT(→Wikipedia)。そう、インドとパキスタンで領有権争いが続くカシミールだ。そしてISIはLeTを制御している…つもりだった。

 なお、同年11月26日からのムンバイ同時多発テロ(→Wikipedia)も、LeTのしわざ。日本の報道じゃテロって扱いだったが、実質的にはパキスタン軍によるインドへの攻撃、つまりほとんど戦争だったのだ。マジかい。つかインドとパキスタンの仲って、それほどまでにこじれてるんだなあ。

 このあたりから増えた自爆テロを調べる「第14章 自爆の謎を解明せよ」は、情報の分析が好きな人には興味深いところ。対ソ連戦じゃ自爆テロはなかった。また同じ自爆テロでも、イラクは市場など人が集まる所を狙った無差別テロだ。対してアフガニスタンは米軍やNATOの車列など軍を狙い、成功率が低い。そこを掘り見えてきた実態は…

アフガニスタンでリクルートされた自爆犯のうち、多くが参加を強要され、状況を把握できておらず、文字の読み書きもできず、年若く、あるいは障害を負った者だと推定された
  ――第14章 自爆の謎を解明せよ

 タリバーンが自爆犯を洗脳する手口は、伝説のアサシン教団(→Wikipedia)そのもので、実に腹立たしい。しかも自爆犯は華族や親戚から見捨てられ、いわばタリバーンに売られた子どもたちで、ほんとやるせない。

 ここにきて、やっとアフガニスタンの真の敵が見えてくる。

アフガニスタン大統領ハーミド・カルザイ「問題はISI(パキスタン三軍統合情報局)です」「国を動かしているのは彼らですから」
  ――第18章 愛の鞭

「ある意味、われわれ(米国)が戦っていた相手は、実はISIだったということだと思います」
  ――第19章 テロと闇の国家

 これ書いてて気が付くのは、アメリカとアフガニスタンは大統領の存在感が強いが、パキスタン首相アースィフ・アリー・ザルダーリーはめっきり影が薄いこと。いや前首相のムシャッラフは濃いキャラだったが、彼は陸軍参謀長も兼任してた。つまり、パキスタンの実質的トップは陸軍参謀長なのだ。

 そのアメリカのトップは、退任間近の今さらになって、根本的な問題点を指摘する。

(ジョージ・W・)ブッシュは根本的な問題をいま一度提起してきた。戦略レビューではアフガニスタン安定のためにアメリカがヒトとカネをさらに投じるべきとしているが、アル・カーイダがいるのはパキスタンだし、タリバーンの指導部だってそうではないか、と。
  ――第19章 テロと闇の国家

 …んな事もわからずにドンパチ始めたんかい!と突っ込みたくなるが、これが現実なんだからやるせない。「CIA秘録」に曰く、CIAを設立した「ハリー・トルーマンが欲しがったのは、実は新聞だった」そうで、つまりCIAはもともと情報収集・分析のための組織だったんだが、次第に重点は工作に傾いていく。日本や中南米での成功で味を占めたんだろうか。

 などととりとめのないまま、次の記事へ続く。

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