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2021年4月 7日 (水)

ケン・リュウ「生まれ変わり」新☆ハヤカワSFシリーズ 古沢嘉通・幹瑤子・大谷真弓訳

「あなたはもっとも合理的な存在になりたいとは思っていないでしょ」
「あなたはもっとも正しい存在になりたがっている」
  ――ビザンチン・エンパシー

【どんな本?】

 「紙の動物園」で大ヒットを飛ばすとともに、「三体」に代表される中国SFを精力的に紹介し、SF界の台風の目となったケン・リュウの20篇を収めた、日本オリジナル短編集第三段。

 今までと同様に、多彩な芸を活かしたバラエティ豊かな味が楽しめるとともに、著者の思想が最も強く出た作品集でもある。

 SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2020年版」のベストSF2019海外篇で第4位に食い込んだ。

 なお、今はハヤカワ文庫SFより文庫版が「生まれ変わり」「神々は繋がれてはいない」の二分冊で出ている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2019年2月25日発行。新書版で縦二段組み本文約499頁に加え、編者あとがき8頁。9ポイント24字×17行×2段×499頁=約407,184字、400字詰め原稿用紙で約1,018枚。文庫なら二分冊が妥当なところ。

 プログラムのソースコードが出てきたり、面倒な数学理論が展開したりするが、面倒くさかったらソコは読み飛ばして構わない。そういうのに拘るのは面倒くさいSFマニアだけです。いや自分のことは棚に上げてるけどw それより、その奥にある著者ならではの情感を楽しもう。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 原題 / 初出 / 訳。

生まれ変わり / The Reborn / Tor.com 2014年1月29日 / 古沢嘉通訳

「都合よくやつらが自分たちのやったことを忘れられるからといって、おれたちも忘れるべきということにはならん」

 地球はトウニン人に侵略された。記憶を失い続けるトウニン人は、歴史を軽んじる。トウニン人に恨みを抱き反乱を企てる地球人もいる。共存を目指すトウニン人は、そんな者たちが持つ恨みの記憶を奪い、別人として生まれ変わらせる。トウニン保護局の特別捜査官ジョシュア・レノンの目の前で、今日もトウニン人と生まれ変わりの地球人を狙うテロが起きた。
 SFとしては、常に記憶を失っていくトウニン人のアイデアが見事。未来志向と言うのは簡単だが、恨みを忘れろってのも無茶な話。なら記憶を消してしまえってのが、本作の重要なアイデア。実は現在のほぼすべての国や政府が、トウニン人でもあり地球人でもあるワケで、トウニン人と地球人に、どの国や政府を当てはめるかが、読者の政治的立場を写す鏡になる。
介護士 / The Caretaker / First Contact : Digital Science Fiction Anthology 2011年 / 大谷真弓訳

介護ロボットには、ひとつ長所がある――ロボットの腕のなかで裸になっても、恥ずかしさや照れはほとんど感じない。

 老いて妻を喪い、脳卒中で体の自由が利かなくなったチャーチは、介護ロボットのサンディの世話になる。最新のAIを搭載しているはずのサンディだが、チェスを知らないなど、微妙に間が抜けたところがある。どころか、信号を待たずに道路を突っ切ろうとするなど、致命的な欠陥すらあった。
 最近になって現場への投入が進みつつある、介護ロボットを題材にした作品。少し前にオンライン・ゲームで似たような話を聞いたけど、その使い方がいかにもケン・リュウらしい。「折りたたみ北京」収録の「童童の夏」に少し味わいが似ている。
ランニング・シューズ / Running Shoes / SQマグ16号 2014年9月 / 古沢嘉通訳
 家族を養うため、14歳のズアンは日に16時間、靴工場で働いている。ヴオン親方はズアンを目の敵にする。蒸し暑い夏の日、フラついたズアンは作業台に倒れ込み…
 これまた生々しいネタを、メルヘンっぽいファンタジイに包んだ作品。近年になって急速に進んだグローバル経済は、国際企業のアジアへの進出を促すが、まあ某社みたいな話もあるワケで。こんな黒い作品も書くんだなあ。
化学調味料ゴーレム / The MSG Golem / Unidentified Funny Object 2 2013年 / 大谷真弓訳

「汝はわたしと言い争うことはできるが、アインシュタインと言い争うことはできん」

10歳のレベッカは、両親とともに宇宙船<星雲のプリンセス号>でバカンスに出かけた。目的地はニュー・ハイファ。地球を出て二日目、神がレベッカに話しかける。「ゴーレムを作り、船内のネズミをすべて捕まえるのだ」
 この神はアブラハムの神、つまりユダヤ教・キリスト教・イスラム教の神、創造主。10歳ながらも理知的で口が減らないレベッカと、愚痴っぽくて癇癪持ちな神の会話が、やたらと楽しいユーモア作品。フレドリック・ブラウンを現代風に洗練させたような雰囲気が心地いい。
ホモ・フローレシエンシス / Homo Floresiensis / Solaris Rising 3 2014年 / 古沢嘉通訳

「どこであれホモ・サピエンスがやってきたところでは、ほかのヒト属は消えてしまっている」

 鳥を研究する大学院生のベンジャミンは、調査のため一人でインドネシアを訪れた。一万八千以上の島からなるインドネシアには、前人未到の地域がたくさんある。妙なブツを売り込みにきた現地人と剣呑な雰囲気になったとき、現地に住み着いた研究者のレベッカが仲裁に入った。手打ちで買ったブツは小さな頭蓋骨で…
 孤立した部族といえば、インドの北センチネル島(→Wikipedia)が有名だ。インド政府は余計なおせっかいはしない方針だが、先の記事によると、なまじ有名になったためチョッカイを出す輩が増えたとか。
訪問者 / The Visit / オン・ザ・プレミシーズ13号 2011年3月 / 大谷真弓訳
 ある日、453機の探査機がやってきた。異星人のモノらしい。高さ150cm直径30cmぐらいお円筒形で、地面から30cmほど浮いている。人が近づくと離れていくし、音や電波や光による通信の試みは全て失敗した。きままにフラつくような探査機だが、その近くだと人は振る舞いが上品になる。マットとララは、探査機の前でイチャついてみせた。
 誰かに見られていると、人は振る舞いが変わる。プログラマも、公開するソース・プログラムは、ちと綺麗にコーディングする。外国人に自国を紹介する際は、いい所だけを見せようとする。ってことで、情報公開は大事なんですよ、という話なんだと、私は解釈した。いや昔からの持論に引き寄せて解釈しただけなんだけどね。
悪疫 / The Plague / ネイチャー2013年5月15日号 / 古沢嘉通訳
 母さんといっしょに川で魚を捕っているとき、大きな男が水の中に転がり込んだ。ガラスの鉢を頭にかぶり、分厚い服を着ている。ヒャダがない。ドームから来たんだ。母さんは言う。「助けられないよ」「空気も水も、この人たちには毒なんだ」
 先の「ホモ・フローレシエンシス」と、対を成すような作品。テーマは宮崎駿の某作コミック版と通じるものがあるが、5頁と短いだけに、メッセージはより直接的に伝わってくる。
生きている本の起源に関する、短くて不確かだが本当の話 / A Brief and Inaccurate but True Account of the Origin of Living Books / ソロモン・R・グッゲンハイム美術館何鴻殻家族基金中国美術展「故事新編/Tales of Our Time」カタログ 2016年 / 大谷真弓訳
本は変化しなかったが、読者は変化した。
 かつて、本は固定されたもので、生きてはいなかった。そこに命を吹き込もうとする者たちが現れた。また、本を書く機械を作ろうとする者たちもいた。
 ヴァネヴァー・ブッシュのmemex(→Wikipedia)などを引き合いに出しながら、本の進化を描く短編。読むたびに変わる本は面白そうだが、「ふたりの読者が同じ本を読むことはない」のは、ちと寂しい気がする。だって好きな本の感想を語りあえないじゃないか…と思ったけど、シミュレーションゲームのシヴィライゼーションとかは、ファン同士が活発に交流してるなあ。
ペレの住民 / The People of Pele / アシモフ2012年2月号 / 古沢嘉通訳
「われわれは生きている者に義務を負っているのであり、死者に負っているわけじゃない」
 地球から約29光年、主観時間で約30年間かけて、<コロンビア>号は惑星ペレにたどり着く。最初の太陽系外移民船だ。帰りの推進剤はない。冷凍睡眠から最初に目覚めた司令官シャーマンに続き、副司令官のクロウズが起きる。数日して、地球から通信が届く。30年前に発信した指令だ。「周辺の主な天体でアメリカの主権を主張せよ」。ペレでは奇妙な結晶体が見つかった。
 未知の惑星で見つかる異様な現象=結晶体は、SFの古典的な題材。ケン・リュウには珍しく(と言ったら失礼かもしれないが)、ちゃんと真っすぐにSFしてる。と同時に、背景に国家間の対立が深まる地球の情勢と、そこから30光年の空間と30年間の時間を隔てたペレを巧みに絡めるあたりは、しっかりケン・リュウならではの味。
揺り籠からの特報:隠遁者 マサチューセッツ海での48時間 / Dispatches from the Cradle : The Hermit : Forty-Eight Hours in the Sea of Massachusetts / Drowned Worlds 2016年 / 大谷真弓訳
これがぼくらの家なんだ。ぼくらはここで暮らしてる。
 地球は温暖化で海面が上昇し、金星や火星のテラフォームが進みつつある未来。高名なファイナンシャル・エンジニアのエイサは、全財産を現金化し家族とも縁を切り、サバイバル居住キットを買って海に出た。そんなエイサを追ってマサチューセッツ海でかけたわたしは、幸い彼女に客として招かれる。
 温暖化により気候も地形も大きく変わった地球の風景をじっくり描いた作品。ボストンの市街が魚の住処になっている場面が印象に残る。確かに都市は地形が複雑だから、いい人工漁礁(→Wikipedia)になりそうだ。機構や地形が変われば人の集う所も変わるわけで、そういう世界で生まれ育った人にとっては、そこが故郷になるんだよなあ。
七度の誕生日 / Seven Birthday / Bridging Infinity 2016年 / 古沢嘉通訳
つねに技術的な解決方法はあるものだ。
 ミアの七歳の誕生日、パパは凧揚げを教えてくれた。ママは世界中を飛び回っていて、少ししか時間が取れない。パパもママもわたしを愛してる。でもお互いを愛してはいない。
 世界を変えるために忙しく働く母と、家族をないがしろにする妻に納得がいかない父。そんな家族の風景で始まった物語は、壮大な人類史へと広がってゆく。誕生日を迎えるたび、次々と風呂敷を広げてゆく様は、オラフ・ステープルドン を思わせる芸風ながら、いずれの風景も情感が漂うあたりが、ケン・リュウらしい。
数えられるもの / The Countable / アシモフ2011年12月号 / 古沢嘉通訳
 言葉はわかる。意味もわかる。でも、意図を取り違える。そして、人は腹を立てる。デイヴィッドは、そんな問題を抱えていた。どうも、言葉とは違う言語があるらしい。そう気づいたデイヴィッドは、身振りや手振りや表情から法則を見いだし、目立たずにいる方法を身に着けた。
 数学の才能に秀でた高機能自閉症の連れ子デイヴィッドと、バリバリのマチズモな継父のジャック。ただでさえギクシャクしがちな親子なのに、性格の相性も最悪じゃなあ。という児童虐待の問題に、ゲオルグ・カントールによる無限集合の濃度(→Wikipedia)を組み合わせた、野心的な作品。
カルタゴの薔薇 / Carthaginian Rose / Empire of Dreams and Miracles : The Phobos Science Fiction Anthology 1 2002年 / 古沢嘉通訳
「肉体はまさにもっとも重要なサバイバル用品だけど、弱くて、不完全なの。いつだって持ち主を裏切るの」
 幼い頃から妹のリズは衝動的で無計画だったが、明るくて機転が利きいた。しょちゅうトラブルを引き起こしたが、アドリブで切り抜ける才能を持っていた。大学を卒業すると、リズは北米最大のAIコンサルティング会社に入り、世界中を飛び回る。従来のAIと違い、想定外の事態や不慣れな状況でも、なんとか切り抜けられる、そんなAIを目指す企業だ。
 いるよね、リズみたいな人。つくづく羨ましい。いわゆる「人格アップロード」の問題点を、実に見事に指摘している。そうなんだよなあ、脳科学の難しい点は、生きたヒトの脳を充分な精度で観察できないことなんだよなあ。商業誌デビュー作とはとても思えぬほどの才気を感じさせる作品。
神々は鎖につながれてはいない / The Gods Will Not Be Chained / The End is Nigh. Book Ⅰ of the Apocalypse Triptych 2014年 / 幹瑤子訳
神々は殺されはしない / The Gods Will Not Be Slain / The End is Now, Book Ⅱ of the Apocalypse Triptych 2014年 / 幹瑤子訳
神々は犬死はしない / The Gods Have Not Died in Vain / The End Has Come, Book Ⅲ of the Apocalypse Triptych 2015年 / 幹瑤子訳
現実の世界は野蛮な戦いに満ちている。
 父を喪い転校したマディ―は、女王きどりのクラスメイトに目をつけられ、教室でもネットでもイジメにあっている。その日、入ってもいないチャット・サービスから、絵文字だけのメッセージが届く。絵文字だけのメッセージには思い出がある。よく父と絵文字を使いピクショナリー(→Weblio)で遊んだ。相手をしてみると、どうも謎のチャット相手は敵じゃないようだ。
 先の「カルタゴの薔薇」を書き直したような作品。三つの短編というより、一つの中編を三つに分けて発表した感じで、物語は素直に繋がっている。やはりテーマは「不完全な人格アップロード」で、ちょっとイーガンの「ゼンデギ」に似ている。主人公マディーのキャラ作りが巧い。プログラミングが得意な賢い女の子。そりゃSFオタクは入れ込んじゃいます。
 抒情的な作品が多いケン・リュウだが、本作におけるコンピュータの描写はなかなかのもの。第二部で炸裂する最終兵器とかは、思わずうなってしまった。一種の焦土作戦というか自爆装置というか。第三部で出てくる LAMBDA 式も、ごく一部のマニアは大喜びだw 連中がちゃんと仕事してりゃ、CSS も JavaScript も HTML も、全部S式でイケたのにw
 他にも「不気味の谷」を手慣れた感じで使うあたりもいい。将来、ロボットの顔はミクさんになるかもね。何より「AIに肉体は必要か?」って問題に、鮮やかな解を示してるのに参った。そうきたかあ。
闇に響くこだま / Echos in the Dark / Mythic Delirium, Issue 0.1 July-September 2013 / 大谷真弓訳
自国の民を外国の砲艦から守りもせず、むしろ虐殺する支配者がどこにいる?
 清朝末期、上海。南北戦争に従軍したわたしは、水道技師の従兄弟に警備担当として招かれた。近郊を見回る際、太平天国の乱の生き残り、“飛翔する蝙蝠”こと蔡強圀の一味に攫われる。連れていかれた彼らのアジトは、崖の下にあり四方を壁で囲んである。そこに清朝の兵が襲い掛かってきた。
 図やグラフを大胆に使ったSFならではの作品。一般に攻城戦は籠城側が有利とはいえ、それは充分に考えて築いた守りの堅い城での話。砦とすら言えぬ塀に囲まれただけのアジトで、兵力・装備ともに劣る蔡強圀の一味が、どう戦うかが読みどころ。もっとも、バトル系の漫画が好きな人は、見当がつくだろうけど。加えて、同じ現象に対する中国とアメリカの考え方の違いが著者のオリジナリティだろう。
ゴースト・デイズ / Ghost Days / ライトスピード2013年10月号 / 大谷真弓訳
 銀河の反対側で立ち往生した人々は、救援が来るのを諦め、ノヴァ・パシフィカで新しい世界を築き始めた。環境も生態系も異なる異星で生き延びるため、次世代の子どもたちは現地に適応するよう遺伝的な改造を施す。そんな子供たちは、親の世代が熱心に語る地球の歴史に意味を見いだせない。
 ここでも、いきなり LISP のコードが出てきたのにビックリ。SFでも、これほどS式に拘る人は珍しい。未来の異星・1989年のアメリカ・1905年の香港、三つの物語で親と子の考え方の違いを描きつつ、受け継がれてゆくものと変わってゆくものを浮かび上がらせる。そういえば私も若い頃はあまし歴史に興味がなかったなあ。
隠娘 / The Hidden Girl / The Book of Swords 2017年 / 古沢嘉通訳
「拙僧は命を盗んでいる」
 朝廷の権力が衰え、封建領主である節度使が相争う八世紀初頭の唐。将軍の娘は謎の比丘尼に才能を見込まれ、攫われて隠娘の名を与えられ、暗殺者としての訓練を受ける。姉弟子の精精児・空空児と共に修業を積んだ娘は、六年後に初任務へと向かうが…
 ファンは「良い狩りを」でニヤリとするところ。舞台こそ唐時代の中国だが、日本人としては忍者物の香りを嗅ぎ取ってしまう。彼女らが使う「忍術」に、ちゃんとSFな理屈をつけてるのも楽しい。ただ、お話としては、短編というより、長いシリーズ物のプロローグっぽいんだよなあ。漫画家と組んでシリーズ化して欲しい。
ビザンチン・エンパシー / Byzantine Empathy / MIT Technology Review's Twelve Tomorrows 2018年 / 古沢嘉通訳
「機械は司法制度よりはるかに透明かつ予測可能なのです」
 中国との国境近くのミャンマーでは、少数民族の反政府勢力と政府軍が争い、多くの難民が死んでいる。その記録VRを「視」たジェンウェンは衝撃を受た。だがアメリカも中国も政治的な理由で黙殺しており、NGOも介入を拒んでいる。事態を変えようと考えたジェンウェンは、暗号通貨/ビットコインを基盤としたエンパシアムを開発するが…
 これまたグレッグ・イーガンの「失われた大陸」と共通したテーマ。まずVRの使い方に感心した。そういう使い方もあるんだなあ。同じ救済運動でも、人々の感情つまり共感を重要視するジェンウェンと、合理性を重んじ専門家による組織で働くソフィア。作中の「これは苦痛の商品化だ!」と同じ理由で、私の考えはソフィアに近い。北朝鮮人民が飢えても、「しょうがない」で済ます。だが、奴隷制でやられた。そうなのだ。こういう運動を生み支えるのは、合理性じゃなくて感情なんだ。どう折り合いをつければいいのか、というと、うーん。

 芸幅の広い人だとは思っていたが、「ランニング・シューズ」のように、黒い面が見れたのは収穫だった。「化学調味料ゴーレム」の軽快なユーモアも楽しい。最後の「ビザンチン・エンパシー」には、ヘビー級のボディブローを食らった感じ。ちと編者の悪意を感じるのは、被害妄想だろうか。相変わらず芸幅の広さと中国文化の奥深さを見せつけながらも、底にある姿勢は人類普遍のものであり、著者の作品集の中でもソレが最も強く出ている。

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