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2020年12月の6件の記事

2020年12月22日 (火)

バラク・クシュナー「ラーメンの歴史学 ホットな国民食からクールな世界食へ」明石書店 幾島幸子訳

今やラーメンは現代日本の食を象徴するものであり、世界の人々が日本の食とは何かを考えるとき、なくてはならないものとなっている。本書は日本におけるラーメンの長い歴史を掘り下げる試みであり、これらの問いについて考える一助となれば幸いである。
  ――日本語版への序

【どんな本?】

 ラーメンが好きだ。基本的な醤油ラーメン、バターが嬉しい塩ラーメン、野菜に合う味噌ラーメン、こってりした豚骨ラーメン。麺もまっすぐだったり縮れてたり、細かったり太かったり。多くの日本人に愛され、行列ができる店も珍しくない。ばかりか、最近は海外でも盛り上がりつつある。日本を代表する料理である。

 と同時に、ラーメンは日本食の異端児だ。たいてい日本の料理は「ごはん」が主役で、それ以外はわき役に過ぎない。だがラーメンはれっきとした食事の主役である。盛り付けや器の美しさを重んじ、あっさりとした味付けの野菜や魚が中心の、いわゆる「和食」とは、まったく反対の性格を持つ。

ラーメンは日本の伝統料理とは異なるものの、どんな西洋料理のカテゴリーにもあてはまらないし、典型的な中国料理でもなく、類別することは不可能だ。
  ――序 麺王国の歴史と現在

 そして、いくつもの伝説に彩られており、その起源は諸説が紛糾し、いまだ決着がついていない。

ラーメンは正確な発祥地がどこかも、ラーメンという名前の由来もはっきりしていない。
  ――第7章 帝国と日本の料理

 そのラーメンは、どのようなルーツを持っているのか。ラーメンが発達する前の日本の食事の事情は、どのようなものだったのか。いかにしてラーメンは生まれたのか。そこには、どんな歴史の変遷と社会の背景があったのか。既存の日本食とは全く異なる風味のラーメンが、なぜ日本人に受け入れられたのか。

 多くの資料と取材を元に、日本の食糧事情と食文化の変転を背景に、ラーメンの誕生と普及と成長を辿りつつ、「日本食」や「郷土料理」の神話を暴く、驚きと香りに満ちた一般向けの風俗史。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Slurp! : A Social and Culinary History of Ramen-Japan's Favorite Noodle Soup, by Barak Kushner, 2012。日本語版は2018年6月11日初版第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約349頁に加え、訳者あとがき3頁。9ポイント46字×18行×349頁=約288,972字、400字詰め原稿用紙で約723枚。文庫なら厚めの一冊分。

 お堅い印象がある明石書店だが、翻訳書の中ではこなれている部類。内容もテーマが身近なためか、親しみやすくわかりやすい。日本の歴史を平安時代あたりから辿っているが、中学で学んだ歴史をぼんやり覚えている程度で充分についていける。

【構成は?】

 ほぼ時系列順に進むので、素直に頭から読もう。

クリックで詳細表示
  • 日本語版への序
    地方のブランド化 B級グルメ大国日本/日本とラーメンを輸出する/ラーメンをめぐる果てしない問い?
  • めん食日本地図
  • 序 序 麺王国の歴史と現在 象徴としてのラーメンへ
    ラーメンをめぐる問い/ラーメンは日本料理か?/麺とナショナリズム
  • 第1章 古代中国の食卓から 麺の誕生
    中国における面のルーツ/謎に包まれた古代の食生活/近代以前の麺 中国から日本へ
  • 第2章 宮廷食と庶民食
    神道と食物/僧が持ち帰った食品技術/武士の台頭と食生活の変化
  • 第3章 日本の国際化、外国の食べ物、鎖国
    様変わりする食習慣/長崎に花開いた文化/中国の影響による食文化の変化/江戸で人気を博した蕎麦/麺料理が全国に広がる
  • 第4章 江戸時代の食文化とラーメン伝説
    朱舜水がラーメンのつくり方を教えた?/富と飢餓の混在/食べ物屋がひしめく江戸の街/江戸と肉食
  • 第5章 明治維新 ラーメンへと通じる食の革新
    開港都市/文明開化における食の役割/肉食の流行/軍隊の食事をめぐる論争/文明開化と新しい味覚/長崎ちゃんぽんと南京そば
  • 第6章 外交と接待術
    国民的料理という概念/帝国主義と食/明治期の中国人/加速する食生活の変化
  • 第7章 帝国と日本の料理
    うま味の発見/衛生状態へのこだわり/食品化学の発展/ラーメンの誕生/ラーメン誕生をめぐる複数の説/盛り場とラーメン店の急増/「栄養学」への関心の高まり/大正期の中国料理ブーム、そして戦争へ
  • 第8章 第二次世界大戦中の料理
    飢えた日本と豊かなアメリカ/戦争への道/戦時と国民食/日本兵と食べ物/否定された食糧不足/日本人のアイデンティティと米/飢えと栄養失調/銃後の社会と食べ物/降伏と国民食の崩壊
  • 第9章 食の歴史 戦後のインスタントラーメン
    敗戦と食糧不足/余剰小麦の輸入/新しい食べ物の必要性/インスタントラーメンの誕生と人気/インスタントラーメンはなぜ開発されたか?/インスタントラーメンとラーメンブーム/フードツーリズムとラーメン/ラーメンの海外進出/ラーメンブームは続く/「日本料理」とは?/ラーメンは日本そのもの
  • 第10章 ラーメンに関わる大衆文化
    音を立てて、ズルズル!/落語家とラーメン/熱狂的ラーメンファン/ラーメンミュージアム/ラーメンテーマパーク/漫画とラーメンの歌/寿司とラーメン/ラーメン ニューヨークの精神で/国際的な注目を浴びるラーメン/大衆文化の人気の高まりとともに
  • 結び
    食べ物の持つ負の側面/日本食のラーメンはヘルシー/新たな食の革命/ラーメンの歴史が物語るもの/さぁ、歴史を食べに行こう!
  • 訳者あとがき/参考文献/索引

【感想は?】

 テーマは親しみやすいが、中身は本格的だ。なにせ「麺」のルーツを巡り、古代の中国から話が始まる。

うどんや蕎麦の先駆けとなった麺は、おそらく奈良時代に中国南東部から日本へ渡ったと思われる。この麺料理は「ほうとう」(今日でも山梨県ではほうとう料理を出す店が多くある)と呼ばれ、うどんのように切った平たい麺を熱い汁に入れて食べる。
  ――第1章 古代中国の食卓から

 なんと、日本の麺の源流はほうとうだったのか。でも香川県民は異論がありそうだなあ。それはさておき、同じ麺でも、蕎麦やうどんとラーメンの違いの一つは、麺が黄色いこと。そう、かん水だ。これの歴史も、けっこう古い。

唐から宋への移行期の中国麺にみられたもう一つの大きな特徴は、麺のコシが強くなったことだ。(略)この「中国」方式は、麺の生地にかん水を加えることで、すぐには噛み切れないコシのある麺にするというものだ。
  ――第1章 古代中国の食卓から

 遣隋使・遣唐使でわかるように、日本の文化は中国の影響を強く受けている。麺に加え、かん水も、中国が発祥だった。ただ、「四本足で食べないのはテーブルだけ」とまで言われる中国の食文化に対し、日本の食文化は貧しかった。いや、食文化どころか、日本そのものが貧しかったのだ。

鎌倉時代が始まった12世紀末から16世紀までの日本社会の特徴の一つは死亡率の高さであり、このことは食糧生産率が全般的に低く、食べ物の質も悪かった(略)ことと関わっている。
  ――第2章 宮廷食と庶民食

 平安時代末期に成立した「今昔物語」の中の「わらしべ長者」には、蜜柑が出てくる。当時、蜜柑は贅沢品だった、とあったのは「品種改良の世界史 作物編」だったか「柑橘類の文化誌」だったか。

(日本の)歴史を振り返れば、国民のほとんどが栄養失調だったといえる。栄養バランスのとれた食事ができたのは、ほんのわずかな金持ちだけだった。
  ――結び

 改めて考えれば、国土は山がちで起伏が多く、川の流れもキツくて治水も難しい上に、貿易も難しい島国なんだから、貧しいのも当たり前か。こういう歴史の教科書に出てこない庶民の暮らしぶりが分かるのも、こういう歴史書の楽しみの一つ。

 そんな日本の食糧事情が変わってくるのは、江戸時代から。江戸には独身の労働者が集まった。長屋住まいの独身男は、料理なんぞする暇はない。今でこそ電気炊飯器があるが、当時はかまどで米を炊いていた。そんな手間をかけるより、屋台で食べた方が簡単だ。「ヌードルの文化史」に曰く、「ヌードルは都会っ子」だ。日本の中心として栄えた江戸は、外食産業と麺の発達に格好の環境となる。

ラーメンについて一番重要なのは、それが家庭で作って食べるものではなく、食堂や屋台で食べるか、出前を注文するものだったという点だ。
  ――第7章 帝国と日本の料理

 今でも江戸前の落語家は、高座で鮮やかに蕎麦をすする(真似をする)。どれぐらい江戸の外食産業が栄えていたのか、というと…

17世紀半ばには、江戸には外食する場所が数多くあり、1900年にヨーロッパでミシュランガイドが出版される100年以上前から、市中の料理屋案内が出版されていた。
  ――第3章 日本の国際化、外国の食べ物、鎖国

 たぶん、江戸の街並みが火事に弱く、幕府が自炊を歓迎しなかったのもあるんだろうなあ。機会があったら江戸の水とエネルギーの事情も知りたい。それはさておき、この江戸の豊かな食文化を、参勤交代で江戸を訪ねた武士団が国元に伝える。

江戸での参勤交代の任務を終え、国元へ戻った大名とお供の者たちは、毎度のことながら故郷の貧しさを痛感させられた。江戸で白米の飯に慣れていた彼らは、麦などの雑穀が混じった飯は食えたものではないと不平をもらした。
  ――第4章 江戸時代の食文化とラーメン伝説

 ここでも再び伝統的な日本の食事の貧しさに触れていて、ちと切なくなるが、それはさておき。同じ麺でも、蕎麦やうどんはあっさりした風味だ。そもそも「和食」は野菜や魚が中心だし、冷たいモノが多い。対してラーメンは濃厚な出汁や油が欠かせないし、なにより熱いうちにすするものだ。これは従来の日本の料理とは大きく方向性が違う。これは、どこから来たのか。

日本人の麺好きはすでに社会に根付いていたとはいえ、19世紀末、麺を濃厚な肉のスープに入れて食べるというアイデアを思いついたのは横浜の華僑たちだった。(略)
日本人の外国料理への順応を後押しする大きな力となったのが、徴兵制の開始とともに創設された常備隊だった。
  ――第5章 明治維新

 明治維新で国の体制が大きく変わり、他国と物や人の行き交いが盛んになった。歴史の教科書には西洋人ばかりが出てくるが、最も多いのは中国人だったのだ。この中国人たちが、コッテリした中国の食文化を日本に持ち込む。ただし、当時の日本は中国を「遅れた国」と見なしていて、特に上流階級ほど、その意識は強かった。これは食に関しても同じで…

明治時代全体を通じて宮中で中国料理が出されたことがただの一度もなかった
  ――第7章 帝国と日本の料理

 それまで藩ごとが国だった体制から中央集権国家に生まれ変わるために、明治政府は国民にも「日本人」としての意識を持たせたかった。これは食に関しても同じで、他国と差別化し、日本は独特の食文化を持っている、とする「神話」が必要だった。

最もよく使われる「和食」は、伝統的なあっさりした味付けの料理を意味するが、これは西洋食を意味する「洋食」(日本ではアジアを発祥とする料理以外はすべてこう呼ばれる)の対語として生まれた可能性が――確実ではないが――高い。
  ――第6章 外交と接待術

 ここでも「とんかつの誕生」や「カレーライスの誕生」と同じく、全国各地から人を集める軍が、日本人の食生活の変化に大きな役割を担っているのが興味深い。出身地ごとに食生活がバラバラだった兵たちが不公平感を抱かないよう、みんなが不慣れなメニューを出したのだ。それでも、今まで雑穀ばかりだった小作人の倅たちは、白米を喜んだらしい。

たしかに米は、概念としての(実際は別にしても)日本の食べ物の中心をなしているが、それは最近の現象だということを忘れてはならない。
  ――第9章 食の歴史

 軍が食文化に与えた影響は大きいらしく、軍関係じゃ他にも意外なの挿話が多い。例えば旅順攻略では…

…川島四郎は、ロシア艦隊が旅順で乃木将軍に降伏したのは適切な栄養を摂取する重要性を知らなかったからだと指摘している。(略)多くのロシア兵がビタミンCの欠乏による壊血病にかかった。(略)皮肉なことに、ロシア軍は倉庫に大豆を大量に保管していたが、それを発芽させた「豆もやし」にはビタミンCをはじめとする貴重な栄養価が含まれていることを知らなかった。
  ――第6章 外交と接待術

 ナポレオンの瓶詰もそうだが、軍にとって食料は大問題なんだなあ。米陸軍も研究熱心だし(「戦争がつくった現代の食卓」)。まったく関係ないが、飛行機乗りには別の苦労もあって…

戦前および戦中の戦闘機は気密性が確保されておらず、(略)急上昇すると、機内の気圧は地上の1/4程度に下がってしまう。上空で気圧が下がると腹中のガスが膨張し、膀胱の中でも同じことが起こる。膀胱中の空気が膨張すると、小便が押し出されてしまうのだ。
  ――第8章 第二次世界大戦中の料理

 まあいい。終盤では、インスタントラーメンやカップラーメンの開発と普及にも触れている。中でもカップラーメンの開発にまつわるネタが面白い。海外進出を目論んだものの、なかなかうまくいかない。なぜって…

アメリカの一般家庭には、浅いスープ皿はあっても、ご飯や汁ソバを入れられる日本のどんぶりのような形の器はない。(略)これがやがて、発泡スチロールのカップの開発につながる。
  ――第9章 食の歴史

 「そこからかい!」と突っ込みたくもなるが、箸を使うのは東アジア・東南アジアだけだしねえ。さて、日本の食文化の海外進出だと、寿司が一歩先を行っているし、政府が力を入れているのも「和食」だ。しかし、庶民にとっては、ラーメンこそが身近だし、カレーライスと並んでラーメンこそが日本の食卓の代表だろう。

基本的にラーメンを楽しむのに専門的な知識はいらない。ラーメンは平均的な日本人のための平均的な料理なのだ。
  ――第10章 ラーメンに関わる大衆文化

 にも関わらず、なぜラーメンはチヤホヤされないのか。著者の見解は身も蓋もないもので、寿司に比べハイソじゃないし安いから、だそうだ。もっとも、新興宗教の聖典にも出てくる程度には、人々に馴染んでるっぽいけど。なにせ今やインスタントラーメンの消費数で、日本は第三位だ。トップは中国で420億食、ついでインドネシアが140憶食、日本は50憶食強(2010年現在)。産地だって…

アジアの工場の実に半数が、日本向けの食品工場であり、アジアの資源の多くは日本人の胃袋に入り、それらの資源は今や枯渇しつつある。
  ――結び

 実は戦前・戦中の大日本帝国も食料自給率は5割を切っていて、こんな風に東アジア・東南アジアから食料を輸入するのも、意外な形で大東亜亞共栄圏が復活しつつあるように思えたり。

 テーマは親しみやすく、語り口も柔らかい。が、10章中の5章までを、ラーメン誕生前の日本の食生活の歴史に充てるなど、その姿勢は日本の食文化の根本から辿る本格的なものだ。歴史の教科書には出てこない庶民の暮らしぶりがわかるのも嬉しい。もっとも、幾つかの和食にまつわる神話を打ち砕いたり、太平洋戦争前後の軍と政府の無責任と無策を追求するあたりは、不愉快に感じる人もいるだろう。それでも、幻想でも創作でもない本当の日本人の姿を知るためには、格好の本だ。

 ただし、ダイエット中の人は、夕食後に読まない方がいい。それは覚悟しておこう。

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2020年12月20日 (日)

社団法人 日本音楽スタジオ協会「サウンドレコーディング技術概論 2009改訂版」兼六館出版

本書は、(略)レコーディングに関与しているエンジニア諸氏の日常的マニュアルとして利用していただくことは勿論、これからレコーディングエンジニアを目指す方々にとっては教科書として役に立つことと確信しております。
  ――はじめに

声を艶やかに、しかも輪郭をハッキリさせたい場合、基音である中音域をいじるよりも、高い方の倍音(10kHz~18kHz)辺りをブーストするとその効果が出る場合が多い。
  ――第6章 次世代音響技術

現在、ロック・ポップス系のアーティストの原版制作費の平均は、アルバムで1,000~1,500万円、シングルで200~300万円といったところだろうか。
  ――第8章 音楽著作権

【どんな本?】

 レコーディング・エンジニアの仕事は多岐にわたる。録音時のマイク選びや位置決め、機材の電源確保から保守管理、残響やイコライズなどのエフェクト処理、各段階の音源管理や配信媒体の特性に合わせたミックスダウンなど、多くの専門知識と経験が必要だ。最近はDAW(Digital Audio Workstation)が普及し、コンピュータ関連のノウハウも重要になってきた。

 本書はプロのレコーディング・エンジニア向けのマニュアルとして書かれたものであり、レコーディング・エンジニアに必要な技術と知識を総合的・体系的に網羅した本である。

 と同時に、演奏を楽しむアマチュア・ミュージシャンや、理想の音を追い求めるオーディオ・マニア、パソコンで音楽を創るDTMユーザ、そしてより深く音楽を味わいたい音楽ファンにも、濃くて美味しい話が山盛りの美味しい本でもある。

 ちなみに著者のJAPRS(社団法人 日本音楽スタジオ協会)は、通商産業大臣(現:経済産業大臣)の認可を受けた正式な一般社団法人だ。粗製乱造の規格本にありがちな、著者を誤魔化すためのテキトーなデッチあげではない。よって、巻末の「執筆者一覧」に個人名がハッキリ出ており、JAPRS外の7名も執筆に協力している。

 なお、技術の進歩や時代に合わせ改訂を重ねており、2020年12月現在は2020年版が出ている。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2009年3月20日第1刷発行。単行本ソフトカバー横一段組み約518頁。10ポイント38字×41行×518頁=約807,044字、400字詰め原稿用紙で約2,018枚。文庫なら4巻分ぐらいの巨大容量。ただし写真やイラストも多いため、実際の文字数は7~8割程度。

 多数の著者による共著のため、読みやすさはまちまち。また内容も章によりけり。積分や対数を含む数式が続々と出てくる所もあれば、具体的なエピソードが楽しい所もある。

【構成は?】

 各章はほぼ独立しているので、野次馬根性で読む人は美味しそうな所を拾い読みしてもいい。

クリックで詳細表示、やたら長いので要注意。
  • はじめに/監修を終えて
  • 第1章 音響の基礎
  • 1.1 “主観的な音”と“客観的な音”
  • 1.2 聴覚器官の構造
  • 1.3 音の性質
    • 1.3.1 波の性質
    • 1.3.2 横波と縦波
    • 1.3.3 球面波と平面波
    • 1.3.4 球面波の伝播
    • 1.3.5 正相と逆相
    • 1.3.6 音の速さ
    • 1.3.7 音の種類
  • 1.4 デシベルと音圧レベル
    • 1.4.1 デシベルとは
    • 1.1.2 dBmとdBu(dBs)
    • 1.4.3 dBU/dBu,dBV/dBv,dBS/dBs
    • 1.4.4 dBの計算
    • 1.4.5 音圧レベル
  • 1.5 楽器の音響的な性質
    • 1.5.1 標準音
    • 1.5.2 楽器の波形と倍音
    • 1.5.3 弦の振動
    • 1.5.4 開管と閉管
    • 1.5.5 板の振動(クラドニの砂図形)
    • 1.5.6 楽器と箱の定在波
    • 1.5.7 楽器のスペクトラム
    • 1.5.8 楽器の指向性
  • 1.6 音律
    • 1.6.1 ピタゴラス音律
    • 1.6.2 ミーン・トーン音律(中前音律 Mean tone temperament)
    • 1.6.3 純正率 (Just Intonation)
    • 1.6.4 平均律(Temperament)
  • 1.7 音声信号の伝送における諸特性
    • 1.7.1 周波数特性
    • 1.7.2 聴覚の周波数特性
    • 1.7.3 歪みとは
    • 1.7.4 ダイナミックレンジとS/N
    • 1.7.5 VUメータとピークメータ
    • 1.7.6 マスキング効果
  • 1.8 両耳効果とステレオ
    • 1.8.1 両耳による距離と方向の知覚
    • 1.8.2 ペアマイクによる収音
    • 1.8.3 ステレオの“定位感”と“拡がり感”
    • 1.8.4 Pan-Pot
    • 1.8.5 時間差と位相差
    • 1.8.6 残響時間と残響感
    • 1.8.7 先行効果(ハース効果)
  • 第2章 音響物理の基礎
  • 2.1 音と聴覚
    • 2.1.1 音と音波
    • 2.1.2 音に関する物理量
    • 2.1.3 音の尺度
    • 2.1.4 音の分類
    • 2.1.5 人の聴覚と聴覚形成
  • 第3章 電器音響の基礎
  • 3.1 電器の基礎
    • 3.1.1 オームの法則
    • 3.1.2 交流
    • 3.1.3 直流
    • 3.1.4 電源
    • 3.1.5 グランド
  • 3.2 基本回路
    • 3.2.1 バランス伝送とアンバランス伝送
    • 3.2.2 インピーダンス
    • 3.2.3 直列と並列
    • 3.2.4 分圧回路
    • 3.2.5 ロー出しハイ受け
    • 3.2.6 電源電圧と最大レベル
  • 3.3 オーディオ機器に使用されるパーツ
    • 3.3.1 抵抗
    • 3.3.2 可変抵抗
    • 3.3.3 コンデンサ
    • 3.3.4 コイル
    • 3.3.5 オペアンプ
    • 3.3.6 トランジスタ
    • 3.3.7 トランス
    • 3.3.8 ダイオード
    • 3.3.9 スイッチ
    • 3.3.10 リレー
    • 3.3.11 ケーブル
  • 3.4 オーディオ回路
    • 3.4.1 ヘッドアンプ
    • 3.4.2 フィルタ
    • 3.4.3 イコライザ
    • 3.4.4 ダイナミックス
    • 3.4.5 ラインドライバ
    • 3.4.6 電源回路
    • 3.4.7 パワーアンプ
    • 3.4.8 ボルテージ・コントロールド・レジスタ(VCR)とボルテージ・コントロールド・アンプ(VCA)
  • 3.5 磁気記録
  • 3.6 デジタル技術
    • 3.6.1 デジタルの基礎
    • 3.6.2 A/DコンバータとD/Aコンバータ
    • 3.6.3 同期
    • 3.6.4 サンプリング・レート・コンバータ(SRC)
    • 3.6.5 デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)
    • 3.6.6 ハードディスクレコーディングとデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)
    • 3.6.7 ファイルアロケーション
    • 3.6.8 フラグメンテーション
  • 第4章 音響機器
  • 4.1 スタジオシステム
    • 4.1.1 プロ用音楽スタジオ
      • 4.1.1.1 スタジオの概要
      • 4.1.1.2 スタジオの形態
      • 4.1.1.3 スタジオの音響性質
      • 4.1.1.4 スタジオの空調、電気設備
    • 4.1.2 スタジオシステムの機器構成
      • 4.1.2.1 オーディオシステム
      • 4.1.2.2 制御システム
      • 4.1.2.3 映像との同期
      • 4.1.2.4 レコーディングスタジオのコミュニケーションシステム
      • 4.1.2.5 MIDI(Musical Instrument Digital Interface)
    • 4.1.3 スタジオの配線システム
      • 4.1.3.1 静電誘導とシールド線
      • 4.1.3.2 単芯シールド
      • 4.1.3.3 2芯シールド
      • 4.1.3.4 ツイステッドペアケーブル
      • 4.1.3.5 シールド材料による分類
      • 4.1.3.6 シールド線と音声信号の高域減衰
      • 4.1.3.7 2芯シールドの静電容量と回路方式による高域負荷の違い
    • 4.1.4 高周波用ケーブル
      • 4.1.4.1 同軸ケーブルおよび同軸コネクタの構造と特性インピーダンス
      • 4.1.4.2 ターミネーションプラグ
      • 4.1.4.3 同軸ケーブル
      • 4.1.4.4 低損失同軸ケーブル
    • 4.1.5 マルチケーブル、混合ケーブル
      • 4.1.5.1 様々なマルチケーブル
      • 4.1.5.6 複合ケーブル
    • 4.1.6 デジタル信号用ケーブル
      • 4.1.6.1 AES/EBU音声信号
      • 4.1.6.2 110ΩSES/EBUケーブル
      • 4.1.6.3 スピーカーケーブル
    • 4.1.7 スタジオで使われるコネクタ
      • 4.1.7.1 RCAプラグ
      • 4.1.7.2 フォンプラグ
      • 4.1.7.3 ステレオ・フォンプラグ
      • 4.1.7.4 XLR型コネクタ
      • 4.1.7.5 マルチコネクタ
      • 4.1.7.6 D-Sub25ピンコネクタ
    • 4.1.8 パッチ盤
      • 4.1.8.1 マルチコネクターパッチ盤
      • 4.1.8.2 ビデオパッチ盤
      • 4.1.8.3 BNCパッチ盤
      • 4.1.8.4 XLRパッチ盤
      • 4.1.8.5 パッチ盤の存在意義
  • 4.2 マイクロホン
    • 4.2.1 マイクロホンの役目
      • 4.2.1.1 アコースティック録音から電気録音
      • 4.2.1.2 増幅器をつけたマイクの必要性
      • 4.2.1.3 マイクの役割
    • 4.2.2 マイクロホンの感度
    • 4.2.3 マイクの指向性
      • 4.2.3.1 無指向性マイク(Omni-Direction, No-Direction)
      • 4.2.3.2 単一指向性(Uni-Direction, Cardioid-Microphon)
      • 4.2.3.3 双指向性(Bi-Direction, Figure-8 Direction)
    • 4.2.4 リボンマイク
      • 4.2.4.1 リボンマイクの動作原理
      • 4.2.4.2 ラジオの主役
    • 4.2.5 ダイナミックマイク
      • 4.2.5.1 ダイナミックマイクの動作原理
      • 4.2.5.2 マイクもスピーカも動作原理は同じである
    • 4.2.6 コンデンサーマイク
      • 4.2.6.1 コンデンサーマイクの動作原理の解説
      • 4.2.6.2 可変指向性マイクについて
      • 4.2.6.3 ファントムパワーリング
    • 4.2.7 エレクトレット・コンデンサーマイク(Electret Condenser Microphone)
    • 4.2.8 ダイレクトボックス
    • 4.2.9 マイクの付属品について
      • 4.2.9.1 マイクネジ
      • 4.2.9.2 アブソーバ
      • 4.2.9.3 ウインドスクリーン
  • 4.3 ミキシングコンソール
    • 4.3.1 ミキシングコンソールの歩み
    • 4.3.2 シグナルレベルの統一
    • 4.3.3 シグナルパスのモード
      • 4.3.3.1 レコーディングモード
      • 4.3.3.1 ミックスダウンモード
      • 4.3.3.1 オーバーダビングモード
    • 4.3.4 I/Oモジュール
      • 4.3.4.1 ヘッドアンプ
      • 4.3.4.2 チャンネルエフェクト
      • 4.3.4.3 フィルタ
      • 4.3.4.4 インサート
      • 4.3.4.5 AUXセンド
      • 4.3.4.6 ステレオルーティング
      • 4.3.4.7 マルチトラックルーティング
      • 4.3.4.8 マルチトラックマスタ
      • 4.3.4.9 マルチトラックモニタ
      • 4.3.4.10 フェーダ
      • 4.3.4.11 ソロ
      • 4.3.4.12 チャンネルメータ
    • 4.3.5 マスターセレクション
      • 4.3.5.1 ステレオマスタ
      • 4.3.5.2 マスターメータ
      • 4.3.5.3 AUXマスタ
      • 4.3.5.4 エコーリターン
      • 4.3.5.5 CUEマトリックス
      • 4.3.5.6 モニターセクション
      • 4.3.5.7 コミュニケーション
      • 4.3.5.8 オシレータ
      • 4.3.5.9 クレジット
    • 4.3.6 グループ
      • 4.3.6.1 オーディオグループ
      • 4.3.6.2 フェーダ―グループ
    • 4.3.7 パッチ
      • 4.3.7.1 パッチベイ
    • 4.3.8 オートメーション
      • 4.3.8.1 フェーダーオートメーション
      • 4.3.8.2 トータルリコール
      • 4.3.8.3 スナップショット
      • 4.3.8.4 ダイナミックオートメーション
    • 4.3.9 デジタルミキシングコンソール
      • 4.3.9.1 デジタルコンソールとビット長
      • 4.3.9.2 新しいコンソールのスタイル
  • 4.4 エフェクタ
    • 4.4.1 ダイナミックス
      • 4.4.1.1 コンプレッサ
      • 4.4.1.2 リミッタ
      • 4.4.1.3 ゲート
      • 4.4.1.4 エキスパンダ
      • 4.4.1.5 ディエッサ
    • 4.4.2 イコライザ
      • 4.4.2.1 パラメトリックイコライザ
      • 4.4.2.2 グラフィックイコライザ
    • 4.4.3 フランジャ/フェーザ/コーラス
      • 4.4.3.1 フランジャ
      • 4.4.3.2 フェーザ
      • 4.4.3.3 コーラス
    • 4.4.4 センド・リターン系
      • 4.4.4.1 リバーブ
      • 4.4.4.2 ディレイ
      • 4.4.4.3 ハーモナイザ
    • 4.4.5 その他
      • 4.4.5.1 デジタルエフェクタ
      • 4.4.5.2 マルチエフェクタ
      • 4.4.5.3 マツリプロセッサ
    • 4.4.6 エフェクタを組み合わせて使用する場合の注意
      • 4.4.6.1 シリーズ接続
      • 4.4.6.2 サイドチェーン
    • 4.4.7 カタログの仕様書について
      • 4.4.7.1 入力/出力
      • 4.4.7.2 電源
  • 4.5 テープレコーダ
    • 4.5.1 アナログテープレコーダ
      • 4.5.1.1 テープ幅
      • 4.5.1.2 トラック数
      • 4.5.1.3 テープの厚さ
      • 4.5.1.4 テープスピード
    • 4.5.2 走行系
    • 4.5.3 ヘッド
    • 4.5.4 メータ
      • 4.5.4.1 VUメータ
      • 4.5.4.2 ピークメータ
    • 4.5.5 基準録音再生レベル
    • 4.5.6 バイアス
    • 4.5.7 イコライザ
    • 4.5.8 ノイズリダクション
    • 4.5.9 デジタルテープレコーダ
      • 4.5.9.1 サンプリング周波数
      • 4.5.9.2 bit数
      • 4.5.9.3 DAT
      • 4.5.9.4 マスターレコーダ
      • 4.5.9.5 MTR
    • 4.5.10 同期
    • 4.5.11 テープ以外のメディアを使ったレコーダ
    • 4.5.12 これからの録音の流れ
  • 4.6 モニタスピーカ
    • 4.6.1 モニタースピーカの役割および設置方法
      • 4.6.1.1 メイン(ラージ)モニタースピーカ
      • 4.6.1.2 メイン(ラージ)モニタースピーカの設置方法
      • 4.6.1.3 ニアフィールドモニタースピーカ
    • 4.6.2 スピーカの基礎
      • 4.6.2.1 電流と磁界の関係
      • 4.6.2.2 フレミングの法則
    • 4.6.3 スピーカの種類および構造
      • 4.6.3.1 直接放射型スピーカ(コーンスピーカ、ドームスピーカ)
      • 4.6.3.2 ホーンスピーカ
      • 4.6.3.3 コーンスピーカの指向性
      • 4.6.3.4 スピーカーシステムの構成(ウーファ、スコーカ、ツィータ)
    • 4.6.4 エンクロージャ
      • 4.6.4. 密閉型
      • 4.6.4. バスレフ型
    • 4.6.5 ヘッドホン
      • 4.6.5.1 スタジオにおけるヘッドホン
      • 4.6.5.2 ヘッドホンの構造
    • 4.6.6 ハイパーソニック・エフェクト
    • 4.6.7 デバイディングネットワーク
    • 4.6.8 チャンネルデバイダ
    • 4.6.9 パワーーアンプ
      • 4.6.9.1 ダンピングファクタ
      • 4.6.9.2 A級アンプ、B級アンプ、AB級アンプ
      • 4.6.9.3 BTL接続(Bridge Tied Load)
  • 第5章 録音技術
  • 5.1 ペアマイク収音
    • 5.1.1 残響感
    • 5.1.2 両耳効果とステレオ受聴
    • 5.1.3 サウンドステージ
    • 5.1.4 演奏者のレイアウト
    • 5.1.5 マイクセッティング
    • 5.1.6 ペアマイク収音
      • 5.1.6.1 オーケストラのペアマイク収音
      • 5.1.6.2 色々なペアマイク収音
      • 5.1.6.3 ダミーヘッド
    • 5.1.7 録音レベル
    • 5.1.8 エフェクタの使用、ミキシングコンソールの操作
    • 5.1.9 レベルコントロール手法
    • 5.1.10 音楽とのかかわり
  • 5.2 オーケストラのレコーディング(マルチトラック)
    • 5.2.1 はじめに
    • 5.2.2 MTRが登場する以前の録音
    • 5.2.3 MTRが登場
    • 5.2.4 ミキシングコンソールの使用
    • 5.2.5 音楽とのかかわり
    • 5.2.6 MTRを使用したオーケストラ録音の録音手法
    • 5.2.7 マイクセッティング
    • 5.2.8 演奏者のレイアウト
  • 5.3 リズムトラックレコーディング(マルチトラック)
    • 5.3.1 スタジオでのリズムトラックレコーディングの色々
    • 5.3.2 音楽とのかかわり
    • 5.3.3 リズムトラックの楽器
    • 5.3.4 楽器のレイアウトとマイクセッティング
    • 5.3.5 アナログテープレコーダの使用
    • 5.3.6 モニターバランスの取り方
  • 5.4 ダビング(マルチトラック)
    • 5.4.1 バンドのレコーディングとダビング、ピンポン
    • 5.4.2 ダビングされる楽器
    • 5.4.3 ヴォーカルダビング
    • 5.4.4 シンセサイザのダビング
      • 5.4.4.1 シンセサイザの進歩
      • 5.4.4.2 関連技術
      • 5.4.4.3 シンセサイザの録音
  • 5.5 ミックスダウン
    • 5.5.1 初期のミックスダウンの想い出
    • 5.5.2 セクションバランスの取り方
    • 5.5.3 音楽全体のバランスの取り方(レベル、パンなど)
    • 5.5.4 リバーブについて
    • 5.5.5 リバーブのパラメータ
    • 5.5.6 色々なリバーブ
    • 5.5.7 ヴォーカルのリバーブ
    • 5.5.8 イコライザの使用
    • 5.5.9 ダイナミックス系のエフェクタ
    • 5.5.10 各楽器のミックス手法
    • 5.5.11 その他のエフェクタ
    • 5.5.12 ミックスダウン時の心得
    • 5.5.13 各メディアによるミックスダウン手法の違い
    • 5.5.14 コンピューターミキシング
    • 5.5.15 その他の注意点
  • 5.6 ライヴレコーディング
    • 5.6.1 録音の規模と音楽の種類
    • 5.6.2 基本的な注意事項
    • 5.6.3 制作との打合わせ
    • 5.6.4 ホールとの打合せ
    • 5.6.5 中継車を使用した録音
    • 5.6.6 中継室での録音
    • 5.6.7 楽屋での録音
    • 5.6.8 舞台袖での録音
    • 5.6.9 MTRレコーディング
    • 5.6.10 ステレオライヴレコーディング
    • 5.6.11 サラウンドライヴレコーディング
    • 5.6.12 映像などとの同期
  • 5.7 マスタリング
    • 5.7.1 マスタリングの歴史
      • 5.7.1.1 アナログディスク・カッティング
      • 5.7.1.2 CDマスタリング
    • 5.7.2 素材メディアから、マスタリングメディアへの取込み
    • 5.7.3 マスタリング時のエフェクト
    • 5.7.4 レベル管理
    • 5.7.5 編集 曲順の並び替え(曲間調整)
    • 5.7.6 マスタ用の媒体
  • 第6章 次世代音響技術
  • 6.1 デジタル録音とサウンド制作
    • 6.1.1デジタル録音技術 
      • 6.1.1.1 デジタル録音技術の変遷
      • 6.1.1.2 デジタル録音における同期について
      • 6.1.1.3 DAW(Digital Audio Workstation)
      • 6.1.1.4 データの互換性とネットワーク化
    • 6.1.2 デジタル音声圧縮技術
      • 6.1.2.1 オーディオ配信・通信におけるデータ圧縮手法
      • 6.1.2.2 音声伝送におけるデータ圧縮方式
      • 6.1.2.3 ブロードバンド時代の音声伝送方式
      • 6.1.2.4 IPネットワーク
      • 6.1.2.5 放送における音声圧縮技術
      • 6.1.2.6 サウンドのための圧縮技術
      • 6.1.2.7 パッケージメディア・ゲームのサラウンド技術
      • 6.1.2.8 インターネットにおけるサラウンド技術
    • 6.1.3 サラウンド制作手法
      • 6.1.3.1 さまざまなサラウンド方式
      • 6.1.3.2 サラウンド制作手法
      • 6.1.3.3 2chステレオとの互換性
      • 6.1.3.4 サラウンド収録方法の実際
    • 6.1.4 次世代のメディアの可能性
  • 6.2 マルチチャンネル再生
    • 6.2.1 はじめに
    • 6.2.2 マルチチャンネルフォーマット
      • 6.2.2.1 再生形態
      • 6.2.2.2 記録特性・再生特性
    • 6.2.3 モニタとスピーカ配置
    • 6.2.4 ベースマネージメント(Bass Management)
      • 6.2.4.1 室内音響的措置
      • 6.2.4.2 スピーカ配置の見当
      • 6.2.4.3 電器音響的措置
    • 6.2.5 マルチチャンネル再生環境における誤差
      • 6.2.5.1 コムフィルタリング現象
      • 6.2.5.2 ハ―ネス効果
      • 6.2.5.3 サブウーファのクロスオーバ
    • 6.2.6 モニタ調整
      • 6.2.6.1 5チャンネルのレベルバランス
      • 6.2.6.2 LFEチャンネルの調整
    • 6.2.7 ダウンミキシング
  • 6.3 Pro Tools関連
    • 6.3.1 Pro Tools概要
      • 6.3.1.1 システムの概要
      • 6.3.1.2 普及までの経緯
      • 6.3.1.3 ハードウェアの特徴
      • 6.3.1.4 オペレーションの変化
      • 6.3.1.5 フィジカルコントローラ
      • 6.3.1.6 セッション
      • 6.3.1.7 トラック
      • 6.3.1.8 プラグイン
      • 6.3.1.9 LEシステム
      • 6.3.1.10 データの二重化
    • 6.3.2 オーディオレコーディング・編集
      • 6.3.2.1 レコーディングの準備・設定
        • 6.3.2.1.1 I/O設定(I/O Setup)
        • 6.3.2.1.2 プレイバックエンジンの設定
        • 6.3.2.1.3 セッションの新規作成
        • 6.3.2.1.4 レコーディング用ディスク容量の指定
        • 6.3.2.1.5 ワークスペース・ブラウザの設定
        • 6.3.2.1.6 [タスクマネージャ(Task Manager)について]
        • 6.3.2.1.7 トラックの新規作成
        • 6.3.2.1.8 [ディスク割り当て(Disk Allocation)の確認および設定
      • 6.3.2.2 レコーディング
        • 6.3.2.2.1 ディストラクティブ/ノンディスクラクティブレコーディングについて
        • 6.3.2.2.2 タイム・スケールの設定
        • 6.3.2.2.3 小節管理におけるテンポ・拍子の設定
        • 6.3.2.2.4 録音レベルとモニターレベルの管理
        • 6.3.2.2.5 クイックパンチ、トラックパンチ・レコーディング
        • 6.3.2.2.6 レコーディング時のショートカットキーについて
      • 6.3.2.3 オーディオの編集
        • 6.3.2.3.1 メモリー・ロケーションの活用
        • 6.3.2.3.2 プレイリストについて
        • 6.3.2.3.3 マルチプルアンドゥ機能について
        • 6.3.2.3.4 エディット・モードについて
        • 6.3.2.3.5 編集ツールについて
        • 6.3.2.3.6 フェードの活用
        • 6.3.2.3.7 グループ、リージョン・グループの作成および活用
        • 6.3.2.3.8 カット、コピー、ペースト、クリアコマンドについて
    • 6.3.3 ミキシング
      • 6.3.3.1 ミックスの準備について
      • 6.3.3.2 ミックスで使うツールについて
        • 6.3.3.2.1 EQ
        • 6.3.3.2.2 コンプレッサ
        • 6.3.3.2.3 リバーブ
        • 6.3.3.2.4 ディレイ
        • 6.3.3.2.5 ピッチ系のエフェクト
        • 6.3.3.2.6 その他シミュレータ
      • 6.3.3.3 ミックスの進め方について
      • 6.3.3.4 オートメーションについて
      • 6.3.3.5 Final Mixを録る
      • 6.3.3.6 まとめ
    • 6.3.4 Pro Toolsシステム・シンク・MIDI・ファイル管理など
      • 6.3.4.1 Pro Toolシステム
        • 6.3.4.1.1 Macintosh
        • 6.3.4.1.2 DSP Card
        • 6.3.4.1.3 192 I/O
        • 6.3.4.1.4 Sync I/O
        • 6.3.4.1.5 HDD
        • 6.3.4.1.6 レコーディングスタジオにおけるシステム構成
      • 6.3.4.2 シンク
        • 6.3.4.2.1 シンクとは?
        • 6.3.4.2.2 ポジショナルリファレンスとクロックリファレンス
        • 6.3.4.2.3 クロックリファレンスの種類
        • 6.3.4.2.4 クロックジェネレータについて
      • 6.3.4.3 ファイルの管理と互換性
        • 6.3.4.3.1 Pro Toolsで扱うデータについて
        • 6.3.4.3.2 データのインポートとエクスポート
        • 6.3.4.3.3 データの管理について
      • 6.3.4.4 MIDI
        • 6.3.4.4.1 MIDIとは?
        • 6.3.4.4.2 MIDI I/Oについて
        • 6.3.4.4.3 外部MIDI機器とバーチャル・インストゥルメント
        • 6.3.4.4.4 MIDIデータの入力
        • 6.3.4.4.5 レコーディングおよびミックスでのMIDIの用途
  • 第7章 音楽理論と楽器について
  • 7.1 基本的な楽器に対する知識
    • 7.1.1 特徴的な性格をもつ楽器の例
      • 7.1.1.1 グランドピアノ Grand Piano/Pianoforte
      • 7.1.1.2 ウード
      • 7.1.1.3 エレクトリックギター(グランジ)ギター
      • 7.1.1.4 トライアングル
    • 7.1.2 レコーディングシーンに登場する頻度の高い楽器
      • 7.1.2.1 エレクトリックギター
      • 7.1.2.2 アコ―スティックギター
      • 7.1.2.3 アコースティックピアノ
      • 7.1.2.4 キーボード
      • 7.1.2.5 オルガン
      • 7.1.2.6 ヴァイオリン、ヴィオラ
      • 7.1.2.7 チェロ
      • 7.1.2.8 ホルン
      • 7.1.2.9 クラリネット
    • 7.1.3 特殊楽器に対する知識
      • 7.1.3.1 日本の伝統楽器
      • 7.1.3.2 世界の伝統楽器
    • 7.1.4 新しい楽器とその展望
    • 7.1.5 演奏家とその楽器
  • 7.2 音楽を伝えるために発達してきたメディア
    • 7.2.1 楽譜:その歴史
    • 7.2.2 楽譜:そのコンセプト
      • 7.2.2.1 音符
      • 7.2.2.2 譜表
    • 7.2.3 現代の記譜法
    • 7.2.4 用語:古典的な楽典の基礎
    • 7.2.5 用語:ジャンルによる特殊用語 jazz, rock, bossa, etc
    • 7.2.6 用語:地域性、国民性
    • 7.2.7 テクノロジー:DEMO-TAPE
    • 7.2.8 テクノロジー:新しい録音メディアとその将来
    • 7.2.9 テクノロジー:SOFTWAREの現状と展望
  • 7.3 楽器法、対位法などの音楽理論
    • 7.3.1 古典的なロジックの応用:形式と理論
    • 7.3.2 バランス:楽器間のパワーバランス
    • 7.3.3 モニタ:演奏に必要な情報
  • 7.4 アンサンブルというコンセプト
    • 7.4.1 楽音と楽音の作用、反作用
  • 7.5 作家とその論理そして同時代性
    • 7.5.1 個別の(個人)楽想に対する知識
    • 7.5.2 クリエイティブなセッションとは
  • 第8章 音楽著作権
  • 8.1 著作権法概説
    • 8.1.1 著作権とは
      • 8.1.1.1 序
      • 8.1.1.2 著作権とは何か
      • 8.1.1.3 著作者人格権とは何か
      • 8.1.1.4 著作者人格権の一身専属性
      • 8.1.1.5 著作財産権
      • 8.1.1.6 著作権の財産権的側面
    • 8.1.2 著作隣接権・国際著作権条約とは
      • 8.1.2.1 著作隣接権とは何か
      • 8.1.2.2 著作隣接権の内容
      • 8.1.2.3 二次使用料請求権
      • 8.1.2.4 貸与報酬請求権
      • 8.1.2.5 著作権等に関する条約
    • 8.1.3 保護期間
      • 8.1.3.1 著作権の保護期間
      • 8.1.3.2 保護期間の原則
      • 8.1.3.3 保護期間の計算方法
      • 8.1.3.4 外国の著作物
      • 8.1.3.5 戦時加算
      • 8.1.3.6 著作隣接権の保護期間
    • 8.1.4 著作物の自由利用
      • 8.1.4.1 著作権の制限
      • 8.1.4.2 私的使用のための複製
      • 8.1.4.3 私的録音録画補償金制度
      • 8.1.4.4 営利を目的としない上演
  • 8.2 著作権ビジネス概説
    • 8.2.1 アーティストが締結する契約
      • 8.2.1.1 序
      • 8.2.1.2 アーティストのデビューまで
      • 8.2.1.3 レコード会社との専属実演家契約書
      • 8.2.1.4 プロダクションとのマネージメント契約書
    • 8.2.2 原版制作
      • 8.2.2.1 レコーディング作業
      • 8.2.2.2 原版制作
      • 8.2.2.3 原版の権利とは
    • 8.2.3 原版ビジネスの仕組み
      • 8.2.3.1 原版制作を行う意味
      • 8.2.3.2 原版契約
      • 8.2.3.3 原版印税の算出方法
      • 8.2.3.4 共同原盤
    • 8.2.4 出版ビジネスの仕組み
      • 8.2.4.1 音楽出版者とは
      • 8.2.4.2 仲介業務法とは
      • 8.2.4.3 著作権等管理事業法とは
      • 8.2.4.4 JASRACの著作権神託契約約款の改正
      • 8.2.4.5 著作権等管理事業法による影響
  • 第9章 レコーディングに関わるスタッフ
  • 9.1 制作系スタッフの役割
    • 9.1.1 プロデューサー
    • 9.1.2 ディレクター
    • 9.1.3 アレンジャー
  • 9.2 技術系スタッフの役割
    • 9.2.1 レコーディングエンジニア
    • 9.2.2 ミキシングエンジニア
    • 9.2.3 アシスタントエンジニア
    • 9.2.4 メンテナンスエンジニア
    • 9.2.5 マスタリングエンジニア
  • 9.3 スタジオマネージメント
    • 9.3.1 ブッキング
    • 9.3.2 スタジオワーク
    • 9.3.3 アフターケア
  • 9.4 レコード会社の役割
    • 9.4.1 レコード会社の業務内容
    • 9.4.2 発売元レコード会社と販売元レコード会社の違い
    • 9.4.3 プロモーション
    • 9.4.4 原版制作費の内容
  • 第10章 レコーディングに関わる用語集
  • 付録
  • A 測定とハンダ付け
  • B 録音再生調整
  • C MTRのトラックシートで使われる楽器の略記号
  • D トラブルシューティング
  • 執筆者一覧

【感想は?】

 質・量ともに、確かにプロ向けの本だ。

 同時に、音楽ファン・オーディオマニア・DTMユーザを更に沼の深みへと引きずり込む、とっても罪深い本でもある。沼にハマる楽しみを味わうコツは、わかんない所や興味のない所は大胆に読み飛ばすこと。でないと、なかなか先に進めない。なにせこのボリュームだし。

 第1章から、音楽ファンには嬉しい話がいっぱい。例えば、楽器の音の人がり方。周波数によって、よく聴こえる方向と聴こえない方向があるのだ。どの楽器も低音は全方向に響き、高音は前でよく聴こえる。意外なのがクラリネットで、1.1kHzあたりは前より斜め前がよく聴こえ、更に高い3.3kHzは前が最も響く。要は楽器と聴き手の向きで音色が変わるのだ。

 だもんで、録音する際には、どこにマイクを置くかも大事。

ステレオの収音方式は、ペアマイク収音方式とマルチマイク収音方式に大別される。
ペアマイクによるワンポイント収音方式は、演奏自体が音楽的にバランスが取れているクラシック音楽の収音に適した収音方式である。
一方、マルチマイク収音方式は、ミキシングによるバランス創りと音色形成が前提となるジャズ、ポップス、ロック、J-POPなどの収音に適した収音方式である。
  ――第5章 録音技術

 ペアマイクはステージ中央にマイクを2本置く形。マイクの間隔も大事で、狭いと「定位感が明確」、広いと「広がり感が良く」なる。オーケストラ全体で盛り上げる部分とソロが際立つ部分の両方を活かしたいなら、沢山のマイクを使い…

一般的に音響のマスとして取扱う弦楽器・コーラスなどは主として拡がり感を重視し、線として取扱うソロ楽器は定位を中心としたミキシングプランを立てると良い。
  ――第1章 音響の基礎

 と、パートに応じてミキシングを変えたりする。中には神業を持つ人もいて…

ピーク寸前の圧縮法であるが、オペラのソプラノやゴスペルなど高域でシャウトする歌唱には効果的な方法である、この場合、ブレスなどの一瞬の間を利用して、ピークが出る10ms程寸前でピークを抑えるのがコツである。
  ――第5章 録音技術

 いきなり大音量が入ると音が割れてしまう。それを避けるため、歌手の息継ぎのスキに感度を下げるのだ。こんなん、曲を充分に聴き込み、かつ歌手のクセを充分に知ってる人だけができる技だ。

 中には「『ピッチ直し』に技術によって多くの指名を受けるアシスタントエンジニアも存在する」って、あの辺の歌手…いえ、なんでもないです、はい。

 と感心すると同時に、生と録音や中継との違いも否応なしに感じてしまう。たとえライブ中継であろうとも、我々の耳に入る音は、エンジニアが「いじって」いるのだ。やっぱり生は違うんだなあ。

 音をいじるといえば、まずエフェクタが思い浮かぶ。意外だったのが声をいじるディエッサ。「サシスセソ」は「主に4kHz~10kHzの帯域」で「時には+10dBにも達しアンプを歪ませる」ので、これを抑えるのだ。トーク番組も、単に音を録って流しゃいいってモンじゃないんだなあ。

 今はデジタルになっちゃったけど、アナログ時代の話は何かと楽しい。例えばリバーブ(残響効果)のEMT-140。シングルベッドぐらいの大きさの鉄板を箱の中に吊るし云々って、どれだけ大掛かりなんだw 「マントヴァーニの演奏会ではEMT-140をわざわざ運んできた」というから、プロの音への拘りは凄い。

 こいいう音楽ファンには美味しいレコーディング裏話は他にもあって、サディスティック・ミカ・バンドの「黒船」や大瀧詠一の「A LONG VACATION」のネタもチラホラ。マイクを動かして「人間トレモロ」とか、そんな手もあったのかw

 ロックとかはスタジオで曲を作っていく部分もあったんだが、最近は予めカッチリ決まってる場合も多いのかな? でもミュージシャンもいろいろ。

ラテンパーカッションのプレイヤーは、いきなりテスト録音の時とは異なる楽器を即興的に演奏することもある。
  ――第5章 録音技術

 やはり気質もラテンなんだろうかw

 何かと時代を感じさせるのが「第6章 次世代音響技術」で、特に「6.3 Pro Tools関連」は音楽ソフト Pro Tools の話。ここではアナログのテープ時代とデジタル時代の革命的な変化がわかると共に、2009年当時と現在のコンピュータの違いも伝わってきたり。

 ハードディスクの伝送速度や容量で苦労する話が出てくるけど、今じゃテラ単位のSSDが当たり前だし、MOはUSBメモリに変わってるのかな? ギターアンプのエミュレータなんてのもあるのか。探したらロータリースピーカのエミュレータもあった。Pro Tools の価格破壊も凄い。本書じゃ「基本セットで数百万」が、今検索したら永続ライセンス版が10万円切ってる。デフレなんてモンじゃない。いい時代だ。

 私の基礎知識が貧しいせいで電気の話はほとんどわからなかったけど、ツイストペアの意味がわかったのは思わぬ収穫だった。ハムバック・ピックアップと同じ理屈なのね。にしても、雑音の話はエンジニアの苦労がしのばれる。コードが重なって交差するだけでも雑音が入るとは。大きな会場のコンサートを成功させるには、相当な経験と準備と工夫が要るんだなあ。

 プロ向けだから、かなり突っ込んだ話も多く、素人には全く意味不明な個所も多い。と同時に、一つの曲ができるまでの過程が詳しくわかるので、音楽ファンやオーディオ・マニアには嬉しいネタも盛りだくさんだ。読んだ後に曲を聴くと、「これはどうやって録ったんだろう」とか考え出し、音楽との付き合い方も広がる。不愛想に見えるが、好きな人には収穫の多い本だ。

 ところで、ギョーカイじゃキックと呼ぶのね。バスドラじゃなく。

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【今日の一曲】

Paul Kossoff - Tuesday Morning

 音創りが好きなのがコレ。一見(というか一聴)ほとんど音をいじってないように荒っぽい音創りに聴こえるんだけど、だからこそ目の前でプレイヤー達が演奏しているような臨場感がある。飽きて放り出したかのような投げやりっぽい終わり方も相まって、収録中のスタジオにお邪魔したかのような生々しさがあり、ポール・コゾフのファンはとっても贅沢な気分が味わえるのだ。

 当時のコゾフは麻薬に溺れ身体ともにヘロヘロで、あまし凝ったスタジオワークはできなかったハズなんだけど、なんでこんなにド迫力の音が録れたのか、実に謎だ。

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2020年12月11日 (金)

草野原々「大絶滅恐竜タイムウォーズ」ハヤカワ文庫JA

そして、葛藤します。葛藤すると、エモいですね。
  ――p206

この小説は、本格ミステリである。
  ――p308

【どんな本?】

 デビュー作の「最後にして最初のアイドル」以来、日本SF界を震撼させ続けている野生のSF作家、草野原々による「大進化どうぶつデスゲーム」の続編。

 星智慧女学院3年A組の生徒たちは、宇宙の運命を賭けたネコたちとの戦いに、かろうじて勝った。だが、再び彼女たちに試練が訪れる。小田原は熱帯と化して緑の木々が生い茂り、色とりどりの果実が実る。そこで地上を跋扈する覇者は鳥類だった。歴史の変化をもたらしたのは6600万年前の中生代白亜紀末期。

 休日を楽しんでいた3年A組の面々は、シンギュラリティAIリアの呼び出しに応じて集い始めるのだが…

 といった、まっとうな青春冒険活劇を装っても、悪名が流布しまくった今となっては無駄と観念したのか、本作は序盤からトバしてます。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2019年12月25日発行。文庫本で縦一段組み本文約310頁に加え、難波優輝の解説「キャラクタの前で」9頁。9ポイント40字×17行×310頁=約210,800字、400字詰め原稿用紙で約527枚。普通の文庫の厚さ。

 文章はこなれている。内容は…えーっと、ハッキリ言って、小説としては壊れてます。かなり無茶やっているので、ついていくのは大変。序盤からトバしてるけど中盤から終盤に向け、更に物語の崩壊が進むので、覚悟しよう。要はいつもの草野原々です。

【感想は?】

 草野原々、やりたい放題。

 デビュー作「最後にして最初のアイドル」からして異様だったし、異様さに相応しい騒動も引き起こした。それが本作では物語である事すらかなぐり捨て、時空の彼方へとスッ飛んでいく。

 なんというか、最初は大人しげで多少は愛嬌もあった見慣れぬ生物が、変態を繰り返して化け物の本性を露わにする、そんな様子を見ているようだ。日本のSF界は、「期待の新人」と見間違って、とんでもない怪物を育ててしまったのではなかろうか。

 冒頭は、まだ大人しい。チャールズ・ダーウィンがゲロを吐いてるけど、そこはいつものグロやスプラッタ大好きな草野節で納得できる。舞台が現代の小田原に切り替わり、ヒロインの一人である空上ミカが登場すると、何やら不穏な記述が紛れ込む。

ミカの内面を想像して、共感して感情移入しましょう。
  ――p18

 …は? いや小説だし、普通はそうするよね。なんか普通の小説とは違うみたいだなあ。けどまあ、せっかく読み始めたんだし、とりあえず読み続けよう。ほら、出てきた。前作からお馴染み、可愛らしくて能天気だけど無責任なAIだ。

「はーい! おひさしぶりっ、リアちゃんでーす! 大進化どうぶつデスゲーム、第二回戦はじまるよー!」
  ――p20

 相変わらずムカつくAIだなあ。まっとうな青春群像物なら全員が無事に生き延びるんだけど、何せグロ描写と毒吐き少女大好き草野原々だし、前作もアレだったから…などと不安に思っていると、これも序盤から掟破りをやらかしてくれる。いや普通、そういうのは全員が集まってから、というのがお約束では?

 と、序盤から娯楽小説の定石を踏みにじりつつ始まった物語は、やがて少女たちと巨大化・凶暴化した鳥類たちとの、生き残りを賭けたバトルへと突入してゆく。ここでは緊迫感が漂う案外とマトモなサスペンス・アクションが展開するからタチが悪い。なんか普通の娯楽小説かと思い込んでしまうじゃないか。

 やたら鳥たちが巨大化し、かつ飛ばなくなってるけど、実はこれも理に適ってて。カカポ(→Wikipedia,「ねずみに支配された島」)が有名な例なんだが、鳥は飛びたくて飛んでるんじゃない。天敵=捕食者から逃げるために飛んでる。でも飛ぶのは燃費が悪い。だもんで、天敵がいない孤島などの環境だと、アッサリ飛ぶ能力を手放して太る。だって体重が重い方が戦いで有利だし。

 など、天敵がいなくなった環境で異様に進化したのは鳥たちに限らず、中盤以降では古生物図鑑などで見たアレやコレも元気かつ溌剌とした姿で暴れまわる。ここでは「なぜそうなったか」のか、一応はスジの通った理屈が出てくるから、なんかまっとうなSFみたいな気がしてきたり。ここは地質学や古生物学が好きな人には楽しいところ。

 …いや逆にマジメに学んでる人は怒りだすかもしれない。なにせアレ(→Wikipedia)があんなモンに改造されてあんなトコロまで行っちゃうし。「神鯨」もソコまで無茶しなかったぞ。いやこの風景はむしろ「地球の長い午後」か?

 てな感じに、常識的な読者を置き去りにして暴走を続ける物語は、終盤で更に狂気の度を増し、読者ばかりか登場人物までその場に置き捨て、ほんのわずかな百合の欠片をまといながらも、このシリーズはもちろん小説とその読者すら破壊の渦へと巻きこんでゆく。

 なんかとんでもねえモンを読んでしまったような気もするし、単に締め切りが迫った著者がヤケになっただけじゃないかって疑いもあれば、もしかして「ドグラ・マグラ」や「虚無への供物」に並ぶ奇書なのかな、と思ったり。

 そういうワケで、とにかく「ヘンな本」が読みたい人にお薦め。

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【今日の一曲】

Hotel California - Lexington Lab Band

 ややネタバレ気味だけど、本作で思い浮かべるのは、やっぱりこの曲でしょう。Eagles の名曲を五本ものギターを贅沢に配した編成で再現してます。

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2020年12月 9日 (水)

ダニエル・C・デネット「心の進化を解明する バクテリアからバッハへ」青土社 木島泰三訳

本書の内容は、私たちの心がいかに存在するに至ったか、私たちの脳がその驚異のわざを生み出すのはいかにしてか、それにとりわけ、心と脳について、暗に潜む哲学的罠の数々に引っかからずに考えるにはどうすべきか、といった問題に関する、今のところ最善の科学的説明の素描であり、またその根幹となるものである
  ――はじめに

私たちの中には「正当化しやすい決断を好むが、必ずしも優れた決断を好むわけではない」ような才能が根を下ろしているのである。
  ――第10章 ミームの目からの視点

…発見は勝ち誇って説明するが、コストの大きな誤りや見当ちがいの探索は見過ごしてしまうものなのだ。
  ――第13章 文化進化の進化

【どんな本?】

 ヒトには心がある。その心は、どのように生まれたのか。心を持つには、どんな条件が必要だったのか。なぜヒト以外の種は心を得なかったのか。精巧な巣をつくるシロアリは、どうヒトと違うのか。そして、現在、凄まじい勢いで発達しつつあるAIは、心を持ちうるのだろうか。

 ダーウィン的な進化論および人間機械論の立場に立ち、神秘的な魂などの仮定を用いずに、ヒトが心を獲得した過程を明らかにし、またAIと共生する将来を想い描く、一般向けの哲学書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は From Bacteria to Bach and Back : The Evolution of Minds, by Daniel C. Dennett, 2017。日本語版は2018年7月18日第1刷発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約600頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント47字×19行×600頁=約535,800字、400字詰め原稿用紙で約1,340枚。文庫なら上下巻~上中下巻ぐらいの大容量。

 文章はやや硬い。何せ青土社の本だし、読む人は覚悟してるだろうなあ。でも、もう少し親しみやすさにも配慮してほしい。「ないわけじゃない」等の二重否定を減らすとか、長い文は幾つかに分けるとか。

 内容は、やはり面倒くさい理屈が多い。言ってる中身そのものが難しいのもある。それに加え、著者の癖が少なくとも二つある。一つはクドいこと、もう一つは例えとしてコンピュータをやたら引き合いに出すこと。詳しくは後で述べる。

【構成は?】

 原則として前の章を踏まえて次の章が展開するので、素直に頭から読もう。ただ、後で述べる理由で、11章は飛ばしてもいい。また、気が短い人は、「第15章 ポスト知的デザインの時代」の「旅を終え、帰還へ」だけ読もう。たったの6頁で済みます。

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  • はじめに
  • 第1部 私たちの世界をさかさまにする
  • 第1章 序論
    • ジャングルへようこそ
    • この旅の鳥観図
    • デカルトの傷
    • デカルトの重力
  • 第2章 バクテリアとバッハの前に
    • なぜバッハか?
    • 前生物的世界の探求とチェスの類似点
  • 第3章 理由の起源
    • 目的論は死んだのか、復活したのか?
    • 「なぜ」の様々な意味
    • 「なぜ?」の進化 「いかに生じるか?」から「何のために?」へ
    • 前進し数を増やせ
  • 第4章 二つの奇妙な推理の逆転
    • ダーウィンとチューリングはいかに呪縛を解いたか
    • 存在論と外見的イメージ
    • エレベーターを自動化する
    • オークリッジとGOFAIの知的デザイナーたち
  • 第5章 理解の進化
    • アフォーダンスに向けてデザインされたものとしての動物
    • 志向システムとしての高等動物 理解力の創発
    • 理解力は斬新的に発展する
  • 第2部 進化から知的デザインへ
  • 第6章 情報とは何か?
    • 情報時代へようこそ
    • 私たちは意味論的情報をどのように特徴づけられるだろうか?
    • 企業秘密、特許、著作権、そしてバードのビバップへの影響
  • 第7章 ダーウィン空間 幕間として
    • 進化について考える新しい道具
    • 文化進化 ダーウィン空間を逆転させる
  • 第8章 多くの脳から作られている脳
    • トップダウン式のコンピューターとボトムアップ式の脳
    • 脳の中の競争と同盟
    • ニューロン・ラバ・シロアリ
    • 脳はいかにしてアフォーダンスを選び出すか?
    • 野生化したニューロン?
  • 第9章 文化進化における語の役割
    • 語の進化
    • 語に関するさらに詳しい考察
    • 語はいかにして自己複製〔増殖〕するか?
  • 第10章 ミームの目からの視点
    • 語とその他のミーム
    • ミーム概念の利点
  • 第11章 ミーム概念の難点 反論と答弁
    • ミームなど存在しない!
    • ミームは「離散的」かつ「信頼性のある仕方で伝達される」ものだと述べられているが、文化的変化の多くはそのいずれにも当てはまらない
    • ミームは遺伝子とは違い、遺伝子座をめぐって競合する対立遺伝子をもたない
    • ミームは、私たちが文化についてすでに知っていることに何も付け足さない
    • ミーム科学と称する者が予測力をもつことはない
    • ミームが文化の様々な特徴を説明することはできないが、伝統的社会科学にはそれができる
    • 文化進化はラマルク主義的進化である
  • 第12章 言語の諸起源
    • 「ニワトリが先か、卵が先か」問題
    • 人間の言語へ至る、複数の曲がりくねった道
  • 第13章 文化進化の進化
    • ダーウィン流の出発点
    • 人間のコミュニケーションにおける浮遊理由
    • 思考のための道具を用いる
    • 知的デザインの時代
    • ピンカー、ワイルド、エジソン、フランケンシュタイン
    • 知的デザインのランドマークとしてのバッハ
    • 人間文化に対して〔自然〕選択を及ぼす環境の進化
  • 第3部 私たちの精神を裏返す
  • 第14章 進化したユーザーイリュージョン
    • 開かれた心で心に向き合う
    • 人間の脳が「局所的」有用性を用いて「大局的な」理解を達成するのはいかにしてか?
    • 私たちの外見的イメージはいかにして私たちにとっての外見となるのか?
    • 私たちはなぜ物事をこのように経験しているのか?
    • ヒュームの奇妙な推理の逆転
    • 志向的対象としての赤い縞
    • <デカルトの重力>の正体と、それが根強い理由
  • 第15章 ポスト知的デザインの時代
    • 私たちの理解力の限界はいかなるものか?
    • 「ママ見て、ひとりでできたよ!」
    • 知的行為者の構造
    • この先私たちに何が生じるか
    • 旅を終え、帰還へ
  • 付録 本書の背景/訳者あとがき/文献表/索引

【感想は?】

 結局、私もよくわかってない。ただ、著者の意気込みはわかる。

 テーマはルネ・デカルト(→Wikipedia)の二元論への挑戦だ。

 デカルトはヒトを身体と心に分けた。じゃ心はどこから来たのか、というと、そこはムニャムニャ。対して著者は、身体で全てを説明しようとする。まあ、身体というより、脳なんだけど。

 ただ、あまり脳の医学的な部分には立ち入らない。それより、機能に注目する。いかにして様々な機能を獲得したのか。その機能とは、どんなモノか。

 ここで議論の中心軸をなすのは、ダーウィンの進化論だ。それも適者生存と突然変異の、素朴な理解で充分。まあATCGとか出てくるけど、あんまし気にしなくていいです。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる式に、遺伝と突然変異が組み合わさり、当たった弾の末裔が私たちヒトであり他の生物である、そんな感じ。

 ここは、けっこうエキサイティング。私は機能としたが、著者は有能性と言っている。つまりは生き残り子孫を残すのに役立つ能力だ。

ダーウィンとチューリングは共に、人間の心について真に心休まらぬものを発見したのである――すなわち理解力なき有能性という発見を。
  ――第4章 二つの奇妙な推理の逆転

 例えばシロアリは見事なコロニーを作るが、考えて設計してるワケじゃない。Google翻訳はそこそこ使えるが、単語や文の意味はわかってない。そんな具合に、ヒトの脳も、わかっちゃいないが役に立つ、一見したら知的に見える有能性を幾つか獲得してきた。この獲得の過程も、「脳細胞同士の競争の結果だろう」ってのは、なかなかに面白い仮説だ。

脳は、知的にデザインされた共同組合や軍隊よりも、シロアリのコロニーによく似ているのである。
  ――第8章 多くの脳から作られている脳

 実際、それを支持する現象もある。ヒトは、意外な事柄に驚き、強く記憶する。例えばジェット機がビルに突っ込むとかだ。ジェット機を見たら、上空を飛び去るだろうと予想する。その予想が外れると驚く。ヒトの脳は常に予測していて、当たれば何もしないが、外れると思考回路を調整するのだ。

脳は絶え間なく「先取りモデル」ないし確率論的な予測を創り出し、得られた情報を――必要に応じて――正確さを高めるための情報の刈り込みに利用する
  ――第8章 多くの脳から作られている脳

 そうやって、生存競争の過程で幾つもの有能性をヒトは獲得した。その一つが「語」だ。

私たち人間は他の動物と同じく、必要な研究開発の見返りとして得られる目的を達成すべく、秀逸きわまる仕方でデザインされたさまざまなシステムの、無自覚な受益者なのであり、これは理解力をほとんど、あるいはまったく要せずに進化した有能性のまた別の事例である。
  ――第12章 言語の諸起源

 正直、このあたり、つまり「どのように語を獲得したか」は、よく分からなかった。が、語が便利極まりないことは、よくわかる。

語というものが、単なる状況に結びつけられた音声ではなく、私たちのおなじみの道具になってしまうと、私たちは語を用いて、自分たちが遭遇するあらゆるものについての新たな視座を創り出すようになるのだ。
  ――第15章 ポスト知的デザインの時代

 集団で狩りをするにしても、一部の者を伏兵として潜ませるとか、勢子が獲物を追い詰めるとかの手口は、相当なコミュニケーション能力が必要だろう。

 ただ、そうやって獲得した「心」を、いざ分析しようとすると、案外と私たちの「心」は役に立たない。ここでも、内省を重んじたパスカルに異議を申し立てている。

私たちの思考に対する私たちのアクセス、またとりわけ、思考のサブパーソナルな部分での因果作用や動態に対する私たちのアクセスは、実のところ消化作用に対する私たちのアクセスと大差ないものである。
  ――第14章 進化したユーザーイリュージョン

 「ヒトは内省だけじゃ自分の消化器官の事がわからないように、思考の事もわかんないんだよ」というわけ。まあ、わからないからこそ、心理学や行動経済学があるわけだし。

 とはいえ、わからんからといって、機械に任せすぎると、ソレはソレでヤバかったりする。今だって Twitter じゃBOT が暴れまわってるし。ソコには何らかの規制が必要だよねってのは、多くの人が同意すると思う。

私たちは気づいてみるといつのまにか、自分たちが間接的に作り出した存在物を自分たちが部分的にしか理解しておらず、しかもそれらの存在物が、今度は自分たちにはまったく理解できない存在を創り出すことがありうる、という状態に至っていた。
  ――第15章 ポスト知的デザインの時代

 以上、よくわからないなりに、本書を紹介してみた。

 なお、本論とは関係ないいが、逸話で「なるほど」と思ったのが、麺。極東から東南アジアまで、麺の文化は豊かに実っている。けどインドでプッツリ途絶えペルシャ・アラブ・バルカンの不毛地帯を経て、なぜかイタリアでひょこり顔を出すのだ。不思議に思っていたが、マルコ・ポーロが持ち帰ったって説があるとか。今調べたら、Wikipedia のマルコ・ポーロの項にも書いてあった。でもパスタの項を見ると紀元前四世紀の道具がローマで出土してる。うーん、結局わからん。

【著者の癖】

 さて、先に述べたように、著者には悪い癖が少なくとも二つあって、これが取っつきやすさを損ねている。クドさとコンピュータへの偏愛だ。

 クドさの原因は、予想される異論に対し丁寧に反論していること。これは「解明される宗教」でもそうだったんで、著者はそういう人なんだろう。

 本書だと11章が目立つ例だ。章一つを丸ごと使って、「ミーム」への異論を取り上げ、それにいちいち答えている。確かに姿勢としては姿勢だ。また、「現代の哲学じゃそういうのが流行ってるのか」と哲学全体を見渡せるのはいい。が、正直まだるっこしくて、「さっさと論を先に進めろ」と言いたくなる。

 もう一つは、やたらコンピュータの例えを使いたがること。これ、きっと著者の好みのせいだ。世間じゃコンピュータやスマートフォンの動作原理を分かってる人なんか滅多にいない。そもそもプログラミングで飯食ってる者でも、機械語を使える者は1%未満だろう。だもんで、ソースプログラムとコメントと実行コードの例は、ごく一部の者にしか通じない例えになっちゃってる。

 一般向けとしては、自動車の運転席の方が伝わりやすい。例えば電気式燃料計。

 あれ、燃料の容量そのものを表してるんじゃない。ガソリンタンク内に「浮き」があり、浮きは可変抵抗に連動してる。で、可変抵抗の電気抵抗を測り、その値を換算して燃料計に示している。にも関わらず、ドライバーは燃料計から残りの燃料を読み取るし、たいていはソレでうまくいく。もちろん、燃料計の針をイジっても、燃料は増えない。

 長々と書いたが、要は「ナニかを示す表象であって、ナニかそのものではない」、そんな例です。

 そういう点では、機動戦士ガンダムの「たかがメインカメラをやられただけだ!」は、見事な演出だったなあ。見てる人が「頭」だと思い込んでたのを、「たかがメインカメラ」と冷水を浴びせた。いやどうでもいい話だけど。

 また、プラットフォーム(OS)を選ばない例として、JAVA アプレットを出してたけど、それよか Microsoft Excel のマクロか JavaScript の方が伝わりやすいよね。もっとも、最近のスマートフォン・ユーザだと、JavaScript すら意識してないもかもしれない。

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2020年12月 2日 (水)

みんなSFのせいだ

 私が読む本は傾向がバラバラで、「これが専門」と言えるものがない。何を読むかは、店頭や図書館の棚と、その時の野次馬根性で決まる。いや小説だとSFが好きってハッキリした傾向があるんだが、ノンフィクションはアチコチの分野を食い散らかしている。

 なんでこうなったかというと、やっぱりSFのせいだ。

 まず軍事関係。これはハヤカワ文庫NFの影響が大きい。書店じゃハヤカワ文庫SFの隣にハヤカワ文庫NFがあったりする。だからSFを漁る時に、ハヤカワ文庫NFも目に入ってしまう。今はそうでもないが、昔のハヤカワ文庫NFは軍事物も多かった。コリンズ&ラピエールとかコーネリアス・ライアンとかジョン・トーランドとか。それで軍事にハマったのだ。

 そういう物理的な理由もあるが、中身のせいでもある。

 例えばゲーム理論。これに興味を持ったのは、山田正紀の「謀殺のチェス・ゲーム」にカブれたから。自衛隊の最新対潜哨戒機の盗難から始まる、ゲーム理論の専門家同士の追いかけっこを描く、アクション・ミステリ。それまで本格SFばかり書いてた山田正紀が、SFから飛び出し、より広い市場に挑戦した意欲作で、今でも一級の娯楽小説として通用すると思う。

 やはり技術史に手を出したのは、マイケル・クライトンの「タイムライン」が面白かったため。歴史学の教授と学生が英仏戦争真っただ中の14世紀のフランスに放り込まれ…ってお話。これに出てくる実践歴史学に野次馬根性を刺激された。当時の技術で当時のモノを再現しようって学問だ。ここから技術史の面白さに目覚めたのだ。

 まあ目覚めたのはいいが、歴史学ってのは異様に範囲が広い上に深く追求するとキリがない世界だ。これは技術史に限っても同じで、当時の勢力情勢や政治体制はもちろん、産業・気候・地形・生態系そして技術水準など、やたらと多くの要素が絡むんで、やっぱり足を踏み入れるとキリがないのであった。

 最近になって倫理学に目移りし始めたのは、SFマガジンで山本弘の「輝きの七日間」を読んだせい。実は連載の初回は読み逃した上にオトナの事情(→Twitter)で書籍が出てないため、いい加減な紹介なんだが、「いきなり人類の知能が七日間だけ急上昇したらどうなるか」ってお話。この作品は倫理が大きく関わってて、「ちょっと違くね?」と思う所も多かった。

 そこから始まって「そういや善悪の基準って何だろう?」とか考え始め、倫理学に行きついたのだ。ところで善悪の基準、つまり「何が善で何が悪か」ってのは、たぶん誰もが興味を持つ話…だよね、そうだと言ってくれ。まあいい。そういう事にしておく。

 でも、現実だと、そういう事を突っ込んで考えるのは、毛が生え始めた厨房か、さもなきゃ大学で哲学を研究する専門家、と相場が決まってるのは何故だろう? 誰もが興味と自分なりの意見を持って主張できる、なかなか美味しい分野だと思うんだが。もっとも、だからこそ、マジになりすぎてシャレにならん決裂をもたらしかねないネタでもあるんで、近づかないのがオトナなのかも。

 と、まあ、そんな風に、私の読書傾向が雑然かつ混沌としているのは、みんなSFのせいです。

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2020年12月 1日 (火)

フォンダ・リー「翡翠城市」新☆ハヤカワSFシリーズ 大谷真弓訳

翡翠を持てば、人は只者ではなくなる。
  ――p14

「黄金と翡翠、両方をほしがってはならない」
  ――p157

明日をも知れないときは、今日のことを考えるほうがいい。
  ――p236

「期待されて生まれた人は、期待に腹を立て、期待に抗う。まったく期待されずに生まれれば、一生、期待が欠けていると感じながら生きていくことになる」
  ――p454

政治はゆっくり動き、剣は速く動く。
  ――p537

【どんな本?】

 カナダ出身の新鋭SF/ファンタジイ作家、フォンダ・リーによる黒社会ファンタジイ・シリーズ開幕編。

 ケコン島は翡翠が出る。島に生まれ、適性を持ち、相応しい鍛錬を経た者は、グリーンボーンとして怪力・鋼鉄・感知・俊敏・跳ね返し・チャネリングなど、翡翠の力を振るう戦士となる。だが翡翠は災いももたらす。翡翠を御しきれず、正気を失い身を亡ぼす者もいる。

 かつてグリーンボーンたち<一山会>は、ショター帝国の支配に抗って戦い、独立をもぎ取った。だが独立後に一山会は無峰会と山岳会に分かれ、今も島の中心地ジャンルーンをめぐり抗争を続けている。

 無峰会を率いる<柱>はコール・ラン、一山会で“ケコンの炎”と敬われた戦士コール・センの孫だ。理知的で温和なランを支えるのは二人。戦士たちをまとめる<角>のコール・ヒロはランの弟で、直情的だが部下の信頼は厚い。事業を管理する<日和見>はユン・ドル、センの戦友で狡猾な策士だ。

 対する山岳会の<柱>はアイト・マダ。先代のアイト・ユーの養女であり、一切の情を捨てて<柱>の座をもぎ取った。更なる野心を抱くマダは、ジャンルーンを手に入れるため周到な罠で無峰会を飲みこもうと画策を続ける。

 そんな中、近隣のタン帝国や大国エスパニア共和国は、国際的な戦略物資の翡翠をめぐり、小国ケコンを注視していた。

 生まれと生い立ちのくびきに囚われ、または抗い、運命に翻弄されながらも、掟と誇りに準じて戦う男女を描く、異色のファンタジイッ長編。2018年世界幻想文学大賞受賞。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Jade City, by Fonda Lee, 2017。日本語版は2019年10月25日発行。新書版で縦二段組み本文約587頁に加え、編集部による解説3頁。9ポイント24字×17行×2段×587頁=約478,992字、400字詰め原稿用紙で約1,198枚。文庫なら上下巻ぐらいの長編。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も仕掛けはSFというよりファンタジイ、または異能力バトルなので、難しい理屈も出てこない。ただしマフィア物だけに血しぶき舞い散る場面も多く、ある程度のスプラッタ耐性は必要。

【感想は?】

 うん、確かにゴッドファーザーだ。

 マリオ・プーヅォの「ゴッドファーザー」は、シシリアン・マフィアの生態を描くと同時に、ファミリー物でもあった。この作品も、黒社会に生きる家族の物語だ。

 「ゴッドファーザー」のドン・コルレオーネに当たるのは、<無峰会>の元柱コール・セン。ドン・コルレオーネ同様、一代で<無峰会>を育て上げた古強者だ。独立戦争の闘士でもあり、古いメンバーからの忠誠も厚い。ただしドンと違い既に現役を退き、孫のランに<柱>の座を譲っている。

 偉大な先代の後継ぎとして苦労が絶えないのがラン。ゴッドファーザーならマイケルに当たる役だろう。現代的な感覚を持ち理知的な頭脳と穏健な性格を備えながらも、<柱>としての役割を懸命に果たそうとする。前半では、彼にのしかかる重責が重苦しい雰囲気を醸し出す。

 なにせ先代は偉大だ。せめて若き二代目を支えてくれるんならともかく、今のセンは口を開けば悪態と独立戦争の昔話ばかり。というか、半ば錯乱してる。

 柱を支える両腕の一人<日和見>のユン・ドルは、ゴッドファーザーのトム・ヘイゲンに当たる。組織では経理や事業などをまとめる役割で、先代センとは戦友として強い絆を持つ。こういうのが財布と情報を握ってると、二代目は実にやりにくい。時代にあわせ変えていこうにも、昔話ばかりで役には立たず、でも組織の古株には顔が効く爺さんたちってのは、ほんと困ったもんで。

 もう一つの腕<角>は戦闘部隊。これを担うのがコール・ヒロ、ランの弟だ。性格はゴッドファーザーのソニーに似た脳筋w ただし若いながらも人の掌握には長けていて、部下からは強く慕われている。<一山会>との対立でも、「やっちまおうぜ」と逸りまくってる。

 先代は頼りにならず、その懐刀はイマイチ信用できず、もう一方の腕は脳筋。せめて平和な時期ならともかく、足元を見たのか<山岳会>は絶え間なくチョッカイをかけてくる。

 その<一山会>のボス、アイト・マダがこれまた実に怖い人で。

 なんたって黒社会、男の世界だ。にも関わらず、女でありながら<山岳会>をまとめ上げている。決してお飾りじゃなく、実力で<柱>の座をもぎ取り、維持してきた強者だ。彼女の出番は少ないながら、広い視野と明晰かつ狡猾な頭脳、そして必要とあらばいかなる手段も辞さない怜悧な合理性を備えた強敵である由が、後半から終盤にかけ圧倒的な存在感を伴って伝わってくる。

 彼女の広い視野を通して見えてくるのが、ケコンの危うい政治的立場だ。

「わたしたちの国は、希少な資源を持つ小国。正しい行動をしなければ、また大きな国に翻弄されることになる」
  ――p497

 ケコンの翡翠はヒトを超人に変える。それだけに、世界の各国がケコンを見る目は熱い。隣りのタン帝国(たぶん中国がモデル)はもちろん、エスペニア共和国(米国かな?)も近くのユーマン島に海軍基地を構えている。いずれもケコンを支配下に置こうと水面下で密かに画策しているのは確実だ。

 そんな危うい状況で、人としての心と組織のボスとしての役割を両立させようとするランなのだが…

強いリーダーでありながら、思いやりのある人物であることは可能だろうか?
  ――p328

 そんなランを支えるヒロも、脳筋ながら<角>としての役割は心得ている。なんといっても、部下はランに輪をかけた脳筋揃いだ。こういう連中をまとめ上げるには、腕力だけじゃ足りない。血の気は多く落ち着きは足りず、そのくせ面子にはやたらこだわる奴らをいかに率いるか。職場でリーダーとして苦労している人には、なかなか役に立つコツが書いてある…のかなあw

 そこに飛び込んできた出戻りの妹、コール・シェイ。駆け落ち同然でエスパニアに渡ったが、男と別れてケコンに帰ってきた。強い意志と聡明な頭脳を備えてはいるが、家族、特にヒロとの仲はギクシャクしたまま。組織とは距離を取って生きようとしてはいるが、時は抗争のさなか、山岳会が放置してくれるとは限らず…。

 平和な時代の普通の家庭なら、ランは有能な官僚になっただろうし、ヒロは民間企業の営業として活発に販路を広げ、シェイは外資系企業で戦略か監査の職に就いただろう。だが血筋がそれを許さない。

おまえは普通の人間にはなれない
  ――p286

 与えられた役割を果たそうと苦闘するラン、誇りをもって役割に殉じるヒロ、そして役割に抗うシェイ。だがケコンを揺さぶる嵐は彼らの運命を大きくねじ曲げてゆく。

 と、SFやファンタジイというより、ハードボイルド物としての味わいが深い小説だ。特に上下関係が厳しい裏社会を描く作品だけに、デフォルメされた組織論の面白さもゴッドファーザーに通じるものがある。1960年代を感じさせる風俗も相まって、極めてオリジナリティの高い世界を築き上げた作品だった。

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