2020年米大統領選でトランプにとどめを刺したのは弱小政党
2020年のアメリカ合衆国大統領選は、激戦の末に民主党のジョー・バイデンが共和党のドナルド・トランプを下した。
戦いを決したのは、いわゆる激戦区と呼ばれる五つの州だろう。ペンシルベニア,ミシガン,ウィスコンシン,アリゾナ,ジョージアの五州だ。いずれも僅差でバイデンが制している。
五州の票数を見ると、面白いことに気が付く。マスコミが滅多に報じない弱小候補、ジョー ・ ジョーゲンセンが大きな役割を果たしているのだ。特にミシガンを除く四州では、ジョーゲンセン次第で結果が逆転してしまう。
そのジョー ・ ジョーゲンセンとは何者か。Wikipedia によるとリバタリアン党の所属である。
リバタリアン党は個人の自由を神聖視し、政府によるあらゆる規制に反対する。薬物やポルノの規制に反対する点では民主党に近いが、銃規制や最低賃金も認めない点は共和党に近い。結局どっちに近いかは時と政策と個人によるのだが、2020年現在は共和党に近い者が多い。
つまり、ジョーゲンセン候補の支持者は、「民主党より共和党の方がマシ」と考える者が多い。ジョーゲンセン候補が立候補していなければ、トランプに投票しただろう。
ではジョーゲンセン候補がいなければ、どうなっていたか。ロイターの速報で試算してみよう。以下に2020年11月9日(月)02:00時ごろ(日本時間)の各候補者の獲得票数を示す。
州 | バイデン | トランプ | ジョーゲンセン |
ペンシルベニア | 3355037 | 3313871 | 77441 |
ミシガン | 2794853 | 2646956 | 60384 |
ウィスコンシン | 1630569 | 1610030 | 38271 |
アリゾナ | 1631195 | 1612585 | 49406 |
ジョージア | 2465501 | 2455305 | 61888 |
ここでジョーゲンセン票がトランプに流れたらどうなるかを試算した。
州 | 選挙人数 | バイデン | トランプ |
ペンシルベニア | 20 | 3277596 | 3391312 |
ミシガン | 10 | 2734469 | 2707340 |
ウィスコンシン | 11 | 1592298 | 1648301 |
アリゾナ | 16 | 1581789 | 1661991 |
ジョージア | 16 | 2403613 | 2517193 |
ミシガン以外ではトランプが逆転勝利するのだ。では、肝心の選挙人数はどうか。ロイターの速報によると2020年11月9日02:00の時点でバイデン279名、トランプ214名である。大統領選で必要な選挙人数は271人。ここでミシガンを除いた選挙人をトランプに移すと、ジョー・バイデン222人、ドナルド・トランプ271人となり、トランプが勝っていたことになる。
これは典型的なスポイラーと呼ばれる現象だ(→Wikipedia)。大物二人が僅差で争う選挙で、弱小候補が一方の大物の票を食い、もう一方を有利にしてしまう、そんな現象である。
現実には、ジョーゲンセンに投票した者がすべてトランプに投票するとは限らない。バイデンに投票する者もいるだろうし、誰にも投票しない者も多いだろう。
ただ、もしバイデンが汚い手を使うつもりがあったのなら、もっと楽に勝つ方法もあった。コッソリとリバタリアン党に選挙資金を与えるのだ。巨大政党である民主党・共和党と違い、リバタリアン党の選挙資金は少なく、知名度も低い。現在の倍の選挙資金があれば、もっと多くの票をトランプから奪っただろう。民主党はバイデンを宣伝するより、はるかに高い費用対効果でトランプの足を引っ張れた。
泡沫候補と呼ばれる候補者も、二大候補が激しい接戦を繰り広げる際には、大きな影響を及ぼすのである。
もっと詳しく知りたい方は、ウィリアム・パウンドストーン著「選挙のパラドクス」をお読みください。
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