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2020年8月 5日 (水)

ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く 上・下」岩波書店 幾島幸子・村上由見子訳 3

1994年12月、エリツィンは、いつの時代でも必死で権力にしがみつこうとする多くの指導者がやったのと同じことを実行する――戦争である。
  ――第11章 燃え尽きた幼き民主主義の火

ハリケーン(・カトリーナ)災害関連の契約事業は87憶5千万ドルに上ったが、連邦議会の調査委員会は「大幅な過剰請求、無駄な出費、ずさんな管理」などがあることを指摘した。
  ――第20章 災害アパルトヘイト

「災害の被災者に緊急支援を提供しようという政府の温情的措置は、民間市場のリスク管理対策に悪影響を及ぼす」
  ――第20章 災害アパルトヘイト

1993年イスラエル外相シモン・ペレス「国家間の和平を目指そうというのではない。市場の和平が重要なのだ」
  ――第21章 二の次にされる和平

外国勢力によってプライドを傷つけられたと感じた人々は、国内の最も弱い者に攻撃の刃を向けることで国家の誇りを取り戻そうとしているのだ。
  ――終章 ショックからの覚醒

2005年、IMFの融資総額のうちラテンアメリカ諸国への融資は80%を占めていたが、2007年にはわずか1%に激減している。(略)わずか三年間で、IMFの世界各国への融資総額は810憶ドルから118億ドルに縮小し、現在の融資の大部分はトルコに対するものだ。
  ――終章 ショックからの覚醒

 ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く 上・下」岩波書店 幾島幸子・村上由見子訳 2 から続く。

【どんな本?】

 ミルトン・フリードマンを首魁とする経済学者集団シカゴ・ボーイズは、三つの政策を主張する。民営化,規制緩和,社会支出の大幅削減だ。これらの政策を推し進めるべく、彼らは合衆国政府・IMF・世界銀行と手を組み、世界各国でショック・ドクトリンによる強引な手段に出る。

 政変や災害などで人々が呆然としているスキにつけこみ、強引に政策を実現させてしまえ。

 南米で、アジアで、東欧とロシアで。彼らが行ったショック・ドクトリンの手口とその結果を暴く、衝撃的なルポルタージュ。

【ロシア】

 第11章と第12章はソ連崩壊と現在のロシアに至る道筋を描く。細かい手口は「強奪されたロシア経済」に詳しいが、本書はより俯瞰した視点で描いてゆく。

 ゴルバチョフは生ぬるい改革で共産党支配体制の存続を望んでいた。それが私の印象だが、本書では北欧型の高福祉社会を目指していた、とある。しかも10~15年ほどかけて。対するエリツィンは、より早くより過激な自由主義化を目論む。

 その顛末はご存知の通り、エリツィンの勝利だ。以後、民営化の名のもとに火事場泥棒が跳梁する。まずオリガルヒが民営化した企業の株を握り、多国籍企業に売り飛ばす。オリガルヒって転売ヤーだったのね。その結果…

ショック療法が実施される前の1989年、ロシアでは約200万人が1日当たりの生活費4ドル未満の貧困状態にあったが、世銀の報告によれば、ショック療法の「苦い薬」が投与された90年代半ばには、貧困ラインを下回る生活を送る人は7400万人にも上った。
  ――第11章 燃え尽きた幼き民主主義の火

 この時、エリツィンの尻を叩いたのが「貧困の終焉」のジェフリー・サックス。U2のボノが師を仰ぐ経済学者だ。まあボノはミュージシャンであって学者じゃないからなあ。

【アジア】

 某ゲームにこんな台詞がある。「死体は探すより作るほうが簡単」。フリードマンらも同じ事に気づく。「危機は待つより作ったほうが確実じゃね? 超インフレとか」。ということで彼らは危機感を煽る。

1995年には、ほとんどの西側民主主義国家の政治的言説においては、「債務の壁」や「迫りくる経済崩壊」といった言葉が飛び交い、政府支出のさらなる削減や積極的な民営化促進が叫ばれていた。その旗振り役を担っていたのが、(ミルトン・)フリードマン主義を奉じるシンクタンクだった。
  ――第12章 資本主義への猛進

 かくして1997年のアジア通貨危機(→Wikipedia)が演出される。その目的は…

米連邦準備制度理事会(FRB)議長アラン・グリーンスパン「今回の危機はアジア諸国にいまだ多く残る政府主導型経済システムの撤廃を促進するだろう」
  ――第13章 拱手傍観

 民営化と言えば聞こえはいいが、実態は政府部門や国内企業の海外資本への切り売りだったりする。

【逆流】

 この波は合衆国にも押し寄せる。刑務所・教育・医療そして国防の民営化だ。国防に関しては「戦争請負会社」や「戦場の掟」「ブラックウォーター」が生々しい。上手いこと経費を削減できりゃいいが…

イラク戦争の際に連合国暫定当局が置かれたバグダッドのグリーンゾーンでも「大丈夫、原価加算方式だから」という言葉が盛んに飛び交った
  ――第14章 米国内版ショック療法

 掛けた費用に利益を上乗せして請求すりゃ政府には気前よく払ってくれる。効率化もヘッタクレもない。これを後押ししたのが911。

9.11以前には存在しなかったに等しいセキュリティー産業は、わずか数年のうちに映画産業や音楽産業をはるかに上回る規模へと驚異的な成長を遂げた。しかし、もっとも驚くべきなのは、セキュリティー・ブームが一つの経済分野として分析されたり議論されたりすることがほとんどないという点だ。
  ――第14章 米国内版ショック療法

 そしてブッシュJr.政権のドナルド・ラムズフェルドやディック・チェイニーやジェームズ・ベイカーも荒稼ぎする。そんな彼らが目を付けたのがイラク。このイラクを扱う第六部は本書のハイライトなんだが、敢えて後に譲る。いや文字数の関係なんだけど。

【津波】

 第19章は2004年12月26日のスマトラ沖地震に伴う津波に襲われたスリランカ東海岸が舞台だ。漁民たちは家も船も失う。世界中から彼らに義援金が送られ、スリランカ政府はこの金を再開発プロジェクトに使う。問題はこの「再開発プロジェクト」の実態だ。漁村の再建? うんにゃ。

「津波が観光産業に味方をしてくれました。無許可の建造物のほとんどが津波で壊され、海岸から姿を消したからです」
  ――第19章 一掃された海辺

 観光業者は、前から美しいビーチに目をつけていた。でもみすぼらしい漁民が邪魔だ。そこで津波を言い訳に、関係者以外立ち入り禁止にする。関係者とは他でもない、観光業者だ。そしてビーチには美しいホテルが立ち並びました。そして漁民は避難所に閉じ込められたまま。

【ハリケーン】

 2005年8月末、ハリケーン・カトリーナ(→Wikipedia)が合衆国島南部を襲い、ニューオーリンズが水没する。ブッシュJr.政権はいち早く対応に動き出す。

 ハリバートン傘下のKBRに南部沿岸の米軍基地修復を、悪名高い傭兵企業ブラックウォーターにFEMA(連邦緊急事態管理庁)職員の護衛を委託する。ちなみにFEMAは、まさしくカトリーナのような災害に備える組織だ。計画策定を民間企業に委託していたが、肝心の対策は「何ひとつ実施されていなかった」。原因は予算不足。

 福島の原発事故の除染作業での中抜きみたいなのはカトリーナでもあって、防水シートをかぶせる仕事に対しFEMAは1平方フィート175ドル払っているが、現場作業員が受け取るのは2ドルのみ。そりゃカニエ・ウエストも怒るよ。

【約束の地】

 風が吹けば桶屋が儲かる。911に象徴されるテロは、意外な者に利益をもたらす。

「イスラエルでは日々テロの脅威にさらされているが、(テルアビブの株式)市場はずっと上がり続けている」
  ――第21章 二の次にされる和平

カリフォルニア州オークランド国際空港航空部門責任者スティーヴン・グロスマン「セキュリティー分野ではイスラエルの右に出るものはいない」
  ――第21章 二の次にされる和平

 そう、イスラエルだ。なにせ彼らには実績があるしね。お陰でイスラエルはアラブの意向を気にする必要はなくなった。今までは近隣のアラブ諸国を相手に商売してたけど、最近は欧米相手のITやセキュリティー産業で稼げる。それまでパレスチナ人に頼ってた労働力も、崩壊したソ連から逃げてきたロシア系ユダヤ人が担ってくれる。

 ここでは、大量に雪崩れ込んだロシア系移民と、第二次インティファーダや分離壁や入植地との関係がクッキリ見えてきたのが面白かった。いやむしろパレスチナ問題の解決は絶望的になってるんだけど。

【おわりに】

 社会支出の大幅削減はわかるけど、民営化や規制緩和が何をもたらすかは、実のところよくわかってなかった。その目的や結果を見せつけてくれる点では、極めて刺激的な本だ。とはいえ、岩波書店って所で、なんとなく避けちゃう人も多いだろう。あと、ハードカバー上下巻の圧迫感も避けられる原因になってしまう。ハヤカワ文庫NFあたりで抄録の文庫版を出してほしい。あ、一応、次の記事で終わる予定です。

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【今日の一曲】

Blackberry Smoke / One Horse Town (Official Acoustic Video)

 いや本書とは全く関係ないんだけど、どしても紹介したくなったんで。好きなんすよ、こーゆーの。浜田省吾ファンにはウケると思うんだけど、どう?

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