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2020年4月の3件の記事

2020年4月20日 (月)

「フレドリック・ブラウンSF短編全集 2 すべての善きベムが」東京創元社 安原和見訳

「もちろん常識の範囲内でだぜ。ビルを動かすとか、機関車を持ってくるみたいなのはだめだけど、ちょっとした頼みごとならなんでもやってくれる」
「だれが」
「ユーディがだよ」
  ――ユーディの原理

地球侵略さる 科学者語る
  ――ウェイヴァリー

歴史始まって以来初めて、天文学的なニュースが新聞各紙のトップを飾った。
  ――夜空は大混乱

プラセットは狂った惑星で、長期間滞在していると頭がおかしくなる。
  ――狂った惑星プラセット

「そろそろすべての善きベムが、一行を救いに来てもよいころだ」
  ――すべての善きベムが

「どこへ行くんだ?」
「発狂しに」
  ――さあ、気ちがいになりなさい

【どんな本?】

 1940年代から1960年代にかけて、キレの鋭い短編でアメリカのSF界を引っ張ったSF作家、フレドリック・ブラウン。

 本書はブラウンのSF短編すべてを執筆順に全四巻で刊行する企画の第2弾だ。この巻では944年の「不まじめな星」から1950年の「最終列車」を収録する。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は From These Ashes : The Complete Short SF of Fredric Brown, 2001。日本語版は2020年1月10日初版。単行本ハードカバー縦一段組み本文約354頁に加え、牧眞司の「収録作品解題」8頁+大森望の「SFの故郷」4頁。9ポイント43字×20行×354頁=約304,440字、400字詰め原稿用紙で約762枚。文庫なら厚めの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。SFとはいっても、ちょっとしたアイデア・ストーリーが中心だ。日本の作家だと、芸風は星新一や草上仁に近い。そのため、理科が苦手でも全く問題ない。さすがに1940年代の作品だげに、当時の風俗や技術が若い人にはピンとこないかも。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 原題 / 初出。

不まじめな星 / Nothing Sirius / Captain Future 1944年春
 かみさんとおれと娘のエレン、それに操縦士のジョニーは、宇宙を旅する芸人だ。シリウス星系でガッポリ稼ぎ、<臓物>号で旅立ってすぐ、その惑星を見つけた。面白そうだと思って寄ってみると、想像以上にイカれてる。大気が呼吸可能なのはいいが、最初に見かけた生物は象よりデカいダチョウみたいので、しかも首に水玉模様の蝶ネクタイをしてる。
 「さあ、気ちがいになりなさい」には「シリウス・ゼロ」の邦題で収録。宇宙をさすらうポンコツな連中、みたいな設定って最近はあまり見ないなあ。この作品もそうなんだが、ケッタイなエイリアンや変な風習をタネとして、軽く読めるユーモラスな作品が多く、私は好きなんだけど。
ユーディの原理 / The Yehudi Principle / Astounding Science-Fiction 1944年5月
 またチャーリー・スワンが変なモノを作った。見かけは鉢巻きに似てる。彼が言うには「ユーディの原理」だとか。ビルを動かすとかの無茶な事はできないけど、ちょっとした頼み事は聞いてくれる。ただ、頼み方はちょっと注意が必要だ。
 これも「さあ、気ちがいになりなさい」に「ユーディの原理」の名で収録のユーモア作品。既に一度読んでいるからオチがわかっているにも関わらず、最初に読んだ時よりギャグのキレが増してるように感じるのは、訳のせいなのか作品の構成のせいなのか。
闘技場 / Arena / Astounding Science-Fiction 1944年6月
 アウトサイダーが太陽系に攻めてきた。奴らの目的も正体もわからない。だが人類も黙って滅ぼされたりしない。大艦隊を作り上げ、冥王星軌道の外で決戦に臨む。ボブ・カースンは小型偵察機で任務に出た…はずが、気がついたら直径250mほどのドームらしき所にいた。裸で。種族の命運をかけ、アウトサイダー代表と一対一で戦わなければならない。
 人類とエイリアン、互いが種族の生き残りをかけ、代表同士がサシで戦う。週刊少年ジャンプなら、トーナメント方式のバトル漫画として連載しそうな設定だ。もちろん、ブラウンだから、主体はアクションではなく頭脳戦だし。そもそも、まっとうな肉弾戦はできないって設定も、ヒネリが効いてる。
ウェイヴァリー / The Waveries / Astounding Science-Fiction 1945年1月
 ジョージ・ベイリーはラジオのCM作家だ。上司命令でライバルのラジオCMを聞いていた時、それが起きた。放送の声に、モールス信号がカブる。混信は他の局でも起き始めた。ラジオだけじゃない。テレビの音声にも混信が入る。ラジオは周波数0.3~3MHzで波長0.1~1km、テレビは周波数0.3~3GHzで波長1~10m。あり得ない。
 やはり「さあ、気ちがいになりなさい」に「電獣ヴァヴェリ」として収録。アメリカの商業テレビ放送開始は1941年(→コトバンク)だから、テレビの黎明期だ。一種のパニック物だけに、今の世相と比べると、迅速かつ合理的な合衆国政府が羨ましい。でもやっぱりこういう時にアメリカ人は銃を買うのねw
やさしい殺人講座全十回 / Murder in Ten Easy Lessons / The Detective Aces 1945年5月
 スティンキー・エヴァンスはガキの頃からワルだった。タイヤを盗んで捕まった15歳の時は留置所で同室の男から刃物で人を殺すコツを学ぶ。やがて生まれた町を出て、ギャングのニック・チェスターの元で働きつつ、殺し屋のトニー・バリアに拳銃の扱いを教わる。そんなスティンキーを、赤い小悪魔が見守っていた。
 掲載誌はミステリ雑誌だ。そしてブラウンはミステリでも活躍している。おまけに、このタイトル。だから小悪党が暗黒街で名を成す話かな? などと思いながら読んでいると、いきなり地獄やら赤い小悪魔やらのケッタイな仕掛けが出てきて…。ブラウンらしく、最後で綺麗に落とす短編。
夜空は大混乱 / Pi in the Sky / Thrilling Wonder Stories 1945年冬
 最初に異変に気付いたのはロジャー・フラッター、コール天文台の助手だった。双子座の一等星ポルクスが光速を超えて動いている。やがて次々と夜空の異変の報告が続く。北斗七星も形が変わった。南半球でも、異変が観測される。南十字星のアルファ星とベータ星も北に移動を始めた。それぞれの星の地球からの距離はバラバラなのに、動き始めたのは同時だ。
 いかにもアメリカらしい作品。天文学を含め、科学のネタが新聞の一面を飾るなんて事が滅多にないのは、日本も同じ。今、騒いでいる新型肺炎にしたって、ウイルスと細菌の違いを説明できる人は、どれぐらいいるだろう? いや私も怪しいモンだけど。オチの酷さもブラウンらしい皮肉っぷり。
狂った惑星プラセット / Placet Is a Crazy Place / Astounding Science-Fiction 1946年5月
 プラセットは異様な惑星だ。ふたつの太陽の周囲を、8の字を描いてまわっている。しかも、独特の場が光の速度に干渉し、同時に二度、自分で自分に日蝕を起こす。その間、目に見えるモノは何も信用できない。いい加減いやになったぼくは、<アース・センター>のプラセット支部の行政副長官を辞める決心をした。
 プラセットのイカれた現象もなかなかだが、オマケの彩りネタの「鳥の群れ」も楽しい。しかも、その対策がw
ノックの音が / Knock / Thrilling Wonder Stories 1948年12月
 地球最後の男が、ひとり部屋に座っていた。すると、ドアにノックの音が……
 SFショートショートの定番シチュエーション。「さあ、気ちがいになりなさい」にも「ノック」として収録。
すべての善きベムが / All Good BEMs / Thrilling Wonder Stories 1949年春
 作家エルモ・スコットは行き詰っていた。二週間以内にこの作品を仕上げなければ、小説家を廃業しなきゃいけない。なのに、新しい文章が思い浮かばない。このままじゃ元の新聞社勤務に戻る羽目になる。困り果てていたとき、飼い犬のドーベルマンが喋り出した。「その必要はない」
 新聞社勤務から作家ってのは、ブラウン本人がモデルだろうなあ。詰まって困り果てる状況も、きっと自分の体験だろう。クリエイターたちは、こうやってスランプから脱してるんです←をい
ねずみ / Mouse / Thrilling Wonder Stories 1949年6月
 ビル・ホイーラーは生物学者だ。セントラルパークの真ん前にあるアパートに住んでいる。その日、猫をなでながら窓の外を見ていたビルは、エイリアンの葉巻型宇宙船が向かいの公園に降りるのを見た。すぐに警察や軍が出動し、野次馬を整理しはじめる。宇宙船の中には、死んだねずみが一匹だけ。
 突然現れたエイリアンの宇宙船。中には一匹のねずみの死体だけ。果たしてエイリアンの目的は何か。短編そしても面白いが、この後を長編にしても、かなりイケる気がする。ハリウッドが映画化してもいい。
さあ、気ちがいになりなさい / Come and Go Mad / Weird Tales 1949年7月
 新聞記者のジョージ・ヴァインは、編集長から妙な話を持ち掛けられる。精神病院に患者を装って潜りこみ、調べてもらいたい事がある。ヴァインはためらった。三年前に記憶喪失を患い、まだ回復していない。患者を装うどころか、実際に患っている。しかも、それは表向きの話で…
 「さあ、気ちがいになりなさい」にも収録している。ヴァインもそうだが、編集長や同僚の思惑も凝りに凝っていて、読み進むと共に混沌を増す芸風は、後のフィリップ・K・ディックの原型を見るような思いだ。もっとも、この作品は、更に捻ってあって…
1999年の危機 / Crisis, 1999 / Ellery Queen's Mystery Magazine 1949年8月
 ビーラ・ジョードは世界一の名探偵である。幾つもの名を持つが、彼のことを知っているのは警察の一部だけ。シカゴ警察のランド署長は、嘘発見器の不具合に悩んでいた。重大犯罪を有罪に持ち込めない。このままでは暗黒街に街が飲まれる。そのにジョードが乗り込んできた。
 「1999年」は、当時の人が考えた未来、程度に解釈しておこう。現実だと嘘発見器の精度は芳しくないけど、この作品では充分な精度で判定できることになっている。「何度も凶悪犯罪を犯しながら狡猾に司法の手を逃れ、今後も密かに悪事を重ねるであろう人物」を思い浮かべて欲しい。このオチでどうなるか、それは納得できるか、というと…
不死鳥への手紙 / Letter to a Phoenix / Astounding Science-Fiction 1949年8月
 23歳で出征して負傷したときに、わたしの体は変わった。以来、極端に老化が遅くなり、睡眠のサイクルも24時間から46年になる。それから18万年のあいだ、わたしは人類の歴史と共に歩んだ。人類は七回も大きな戦争を起こし、そのたびに人口は激減して文明は原始時代に戻る。が、それでも人類は生き延びてきた。
 「さあ、気ちがいになりなさい」にも同名で収録。オラフ・ステープルドンばりの大掛かりな設定を、たった12頁の短編に詰めこんだ濃い作品。ただし人類を見る目は、いかにもブラウンらしい眼差しで。
報復の艦隊 / Vengeance Fleet / Super Science Stories 1950年7月
 人類が火星に進出し、金星への植民も始まった未来。火星は独立を求め地球と戦っている。そのとき、いきなり宇宙の彼方からエイリアンの艦隊が襲来し、金星を滅ぼした。エイリアンの脅威に直面した人類は…
 4頁の掌編ながら、「1999年の危機」同様に、かなり重たい問いを突き付けてくる。
最終列車 / The Last Train / Weird Tales 1950年1月
 エリオット・ヘイグは弁護士だ。街じゃそこそこ成功している。が、酒場にひとりで座るたびに、考えてしまう。このまま列車に飛び乗って、どこかへ行ってしまおう。その夜、空はピンクがかった灰色に輝いていた。
 朝、通勤列車に乗る前、こう考える人は多いだろう。「このまま下りの列車に乗って旅に出よう」。そんな想いを押し殺して、なんとか日常に身を置く。そうやって日々を食いつぶしているんだが…
収録作品解題 牧眞司
SFの故郷 大森望

 前半はしゃれたオチの粋な短編が続く。だが1949年の「ねずみ」から、微妙に芸風が変わっているように思う。特に顕著なのが「1999年の危機」と「報復の艦隊」で、短いながらもズッシリと重い問題を扱っている。一人称の長編に仕立てた場合、語り手を誰にするかで、読者の感想は大きく変わる。例えば「1999年の危機」。これを凶悪犯に娘を殺された父の視点で語ったら…

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2020年4月 6日 (月)

ブラッド・トリンスキー&アラン・ディ・ペルナ「エレクトリック・ギター革命史」リットーミュージック 石川千晶訳

鶏が先か卵が先かと言われたら、先に登場したのはエレクトリック・ギターでなくアンプのほうだろう。
  ――第1章 ブラザー、ミュージシャン、聴け、奇跡の音を

すぐに来なさい。ベニー・グッドマン本人に会わせよう。
  ――第2章 偉大なるチャーリー・クリスチャンの功績

ホロウ・ボディのギターは内部が音響室となり、様々に異なる周波数で共鳴するから音が鳴るのだというのがこれまでの常識だった。しかし、そこで弦だけを独立させたらどうなるんだろう?
  ――第3章 レス・ポール ウォキショーから来た魔法使い

振り返ってみれば、テレキャスターはフェンダー王朝が世に送り出すソリッド・ボディ、シングルコイル・ピックアップ、ボルトオン・ネックを特徴とするエレクトリック・ギターの記念すべき第1弾だったのだ。
  ――第4章 モデルT テレキャスターが切り拓いた新世界

…楽器店には安価でも素晴らしい機能を持つもう一つのオプションがあった。どんなアコースティック・ギターでも取り付けた瞬間から電気楽器に変えることができる独立型装置、それが比較的手頃な25ドルという価格で購入できたディアルモンドの電磁ピックアップだ。
  ――第5章 ブルース(とカントリー)から生まれた子、ロックンロール

(セス・)ラヴァーの(ハムバッキング・ピックアップの)コンセプトとは、従来1本だったコイルを2本使い、各々の巻き線の向きと磁極を逆にセットすることにより、電流の流れに干渉、すなわちハムノイズを相殺し合う、もしくは抵抗を大きくするという考え方だった。
  ――第6章 ソリッド・ボディのストラディバリウス

ブリティッシュ・インベーションのサウンドとはすなわちヴォックス・アンプのサウンドだったのだ。
  ――第7章 ファブ12 ビートルズがやって来た

(マイケル・)ブルームフィールドがゴールドトップをプレイしていた頃には、サンバースト(の(レスポール・)スタンダード)など誰も欲しがらなかった
  ――第8章 ジミ・ヘンドリクス アンプリファイドされた革命

エドワード・ヴァン・ヘイレン「ともかく俺はトーン・コントロールには触ったこともない」
  ――第9章 噴火 伝説の爆撃機、世界へ

スティーヴ・ヴァイ「いったい何がトレモロ・ユニットの可変幅を抑止しているのだろう?」
  ――第10章 メイド・イン・ジャパン

ポール・ロード・スミス「当初から僕は、エレクトリック・ギターとは磁気マイクロフォンを搭載したアコースティック・ギターであり、エレクトリック・サウンドとなったときに大きな違いを生むのはソリッド・ボディ・ギターの<アコースティック・サウンド>なのだという独自の推論を立てて製作にあたっていた」
  ――第11章 ギター・オタクの逆襲

人々がその楽器を使って新しい音楽を作ろうとしない限り、楽器も進化していかない。
  ――第12章 プラスティック・ファンタスティック ビザール・ギターの復権

【どんな本?】

 始祖チャック・ベリー,革命児ジミ・ヘンドリックス,重爆撃機エドワード・ヴァン・ヘイレン…。エレクトリック・ギター・プレイヤーには、綺羅星の如く輝けるスター・プレイヤーが連なっている。

 そんな彼らも、アイザック・ニュートンと同様に、巨人の肩の上に乗っているのだ。では、彼らを乗せた巨人とは、どんな者なのか。いつ生まれ、何を食らい、どのように育ってきたのか。

 エレクトリック・ギターは、バイオリンやピアノに比べ、歴史が浅い。それだけに、演奏法も楽器そのものも、今もって激しい変異を繰り返している。その変異は、プレイヤーにみならず、ギター製作者との共謀によって成し遂げられてきた。

 エレクトリック・ギター誕生前夜のリゾネーターから現代のビザール・ギターまで、エレクトリック・ギターの進化史を明らかにする、ユニークでエキサイティングな現代史。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Play It Loud : An Epic History of the Style, Sound, and Revolution of the Electric Guitar, by Brad Tolinski and Alan Di Perna, 2016。日本語版は2018年2月23日第1版第1刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組み本文約519頁。9ポイント39字×19行×519頁=約384,579字、400字詰め原稿用紙で約962枚。文庫なら上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれていて読みやすい。意外と内容も親切だ。というのも、多くのエレキギターの本は、ベグやブリッジなどギターの部品の名前を何の説明もなしに使う本が多いんだが、この本はちゃんと説明している。ただし、頭から順に読めば、だが。

 もっとも、この手の音楽本の例に漏れず、Youtube で音源を漁りはじめると、なかなか前に進めないのが困り物w

【構成は?】

 お話は時系列で進むが、美味しそうな所をつまみ食いしてもいい。

  • 序文 カルロス・サンタナ
  • 第1章 ブラザー、ミュージシャン、聴け、奇跡の音を
    マグネティック・ピックアップの生みの親、ジョージ・ビーチャム/ナショナル&ドブロとドピエラ兄弟/“フライング・パン”の誕生
  • 第2章 偉大なるチャーリー・クリスチャンの功績
    初のエレキ・ギター・ヒーロー、チャーリー・クリスチャン/ギブソンES-150と“チャーリー・クリスチャン・ピックアップ”
  • 第3章 レス・ポール ウォキショーから来た魔法使い
    発明家ギタリスト、レス・ポール/ソリッド・ボディのエレキ・ギター“ログ”/多重録音とエフェクトが生み出した未知のサウンド
  • 第4章 モデルT テレキャスターが切り拓いた新世界
    レオ・フェンダーとポール・ビグスビー、マール・トラヴィス/画期的な量産エレキ・ギター、テレキャスターの誕生/ストラトキャスターとサーフ・ミュージック
  • 第5章 ブルース(とカントリー)から生まれた子、ロックンロール
    マディ・ウォーターズとディアルモンド・ピックアップ/グレッチとチェット・アトキンス/ロックンロールの伝道者、チャック・ベリー
  • 第6章 ソリッド・ボディのストラディバリウス
    光り輝くレス・ポール・モデルの誕生/エリック・クラプトンと1960年製レス・ポール・スタンダード/ギブソンのモダニズム、ES-335とフライングV
  • 第7章 ファブ12 ビートルズがやって来た
    ビートルズという社会現象とリッケンバッカーの躍進/英国勢の大侵略を支えたヴォックス・アンプ/ローリング・ストーンズの愛器たち
  • 第8章 ジミ・ヘンドリクス アンプリファイドされた革命
    ボブ・ディラン、エレキ・ギターを手にする/フォークを葬ったマイケル・ブルームフィールド/フィードバックの料理人、ジェフ・ベックとピート・タウンゼント/マーシャルの咆哮/ジミ・ヘンドリクスの破壊と創造
  • 第9章 噴火 伝説の爆撃機、世界へ
    エドワード・ヴァン・ヘイレンの実験/ディマジオ・スーパー・ディストーション/シャーベルトシェクター/フランケンストラトの誕生/フロイド・ローズが覆すビブラートの概念
  • 第10章 メイド・イン・ジャパン
    スティーヴ・ヴァイの探求心/日本製エレキ・ギターの躍進/アイバニーズJEM/MTV時代のロック・ギター/異端児、スタインバーガー
  • 第11章 ギター・オタクの逆襲
    ポール・リード・スミスのギター・オタク的視点/カルロス・サンタナの要望/ギブソン+フェンダー=PRS/ビンテージ・ギターの再評価/テッド・マカーティに贈る栄冠
  • 第12章 プラスティック・ファンタスティック ビザール・ギターの復権
    安物ビザール・ギターの逆襲/時代を先取ったヴァルコ・エアライン/ガレージ・ロッカーたちの選択/エレクトリック・ギターのこの先
  • 年表/索引

【感想は?】

 やはり楽器は音を聴かなきゃピンとこない。ということで、Youtube の助けを借りながら紹介していこう。

 はじまりは1920年代。ハワイアン・ギタリストのジョージ・ビチャムは悩んでいた。ギターは他の楽器に比べ音が小さい。そこでジョン・ドビエラと組んで作ったのが…

Swamp Dog Blues / 1930s Broman Resonator Guitar

 リゾネーター・ギター、俗にドブロと呼ばれるギター。ブリッジ下に共鳴コーンを取り付けたのが特徴。独特のやや金属的な音だ。今でも桑田佳祐が愛用してる…と、思った。

 だが、まだ音量が足りない。ここで蓄音機のピックアップにヒントを得て、革命的な発想に至る。「弦の振動を直接拾えばいんじゃね?」ピックアップの誕生だ。この偉大さはいくら強調してもしきれない。なにせ、エレキギター自体は、音=空気の振動を伴わない。電気で増幅することで、はじめて音になる。従来の楽器とは、根本的に発想が異なるのだ。

Rickenbacker Frypan Hawaiian Jam

 そして完成したのが、フライング・パン。ブリッジ近くのカバーの下に、シングルコイル・ピックアップがある。動画のように、膝の上にのせ、スティール・ギターの要領で弾く。

 一見ハワイアン向けの楽器のように思えるが…

Rickenbacher, A 22 Electro Hawaiian Guitar

 こんな風に、アンプの使い方次第で、ヘヴィメタルにも使えそうなディストーション(というよりオーバードライブ)・サウンドになったり。この妙に粘っこい音、とっかで聞いたような気がしたが、ジェフ・ヒーリーだった。膝の上で弾くと、こういう粘り気のある音になるんだろうか?

 フライング・パンの成功は、柳の下に次々とドジョウを集める。その一つがギブソン社のES-150。ホロウ・ボディに2個のf型サウンド・ホール、フロント側にバー・ピックアップ、ノブはボリュームとトーン。そしてプレイヤーは…

Charlie Christian SWING TO BOP (1941)

 世界最初のギター・ヒーロー、チャーリー・クリスチャンだ。実は彼のプレイを聞いたのは初めてなんだが、フレージングがあんまりにもスリリングなんで驚いた。その音色はエリック・ゲイルやジョージ・ベンソンなど現代のジャズ・ギタリストに今なお受け継がれている。1942年に25歳の若さで亡くなるって、早すぎる。ここでは人種差別に叛旗を翻すベニー・グッドマンの逸話も心地よい。

 チャーリー・クリスチャンが見つけたフロンティアに、続々と開拓者が集まってくる。中でも野心に溢れていたのが…

Les Paul - Lover - 1948

 今もギブソンの名器に名を残すレス・ポールだ。電気工作にも通じていた彼は、棒切れのような自作ギター「ログ」(→Google画像検索)などで実験を重ねる。動画の「ラヴァー」では、それに多重録音や自宅スタジオでのエフェクトなども試してゆく。後にジミ・ヘンドリックスやプログレ者が向かう「新しい機材による新しい音の追求」の第一走者でもある。

 もちろんメーカーだって黙っちゃいない。新しい楽器に相応しく新しい企業も参入してくる。その代表がレオ・フェンダーことクラレンス・レオニダス・フェンダー。電化の時代の空気を読んだのか、それまでの楽器の概念を覆し「量産の工業製品」然としたエレクトリック・ギターを生み出す。

Johnny Burnette Trio-Train Kept A Rollin'

 レオはカントリーが好きだったが、往々にして優れたモノは作者の思惑を超えて使われる。ギターのポール・バリソンが使っているのは、たぶんエクスワイアだろう。やがてレオはギタリストたちとの交流を通じ、もう一つのベストセラーとなるストラトキャスターや、ガレージ・バンド最後のピースであるプレシジョン・ベースも生み出してゆく。

 安価な市場を切り開いたテレキャスターにすら、貧しい者には手が出ない。だが貧者には最後の手段があった。既存のギターにピックアップを取り付けりゃいいのだ。

Muddy Waters - I Feel Like Going Home

 この救済策に救われたのがシカゴ・ブルースの帝王マディ・ウォーターズ。ここではシカゴ・ブルース誕生の物語も面白い。このマディが Free に大きな影響を与え、Free は MR.BIG へと受け継がれてゆく。ちなみに Free のポール・ロジャースは Muddy Waters Blues なんてソロ・アルバムも出してて、これの参加メンバーが豪華絢爛なんだよなー。

 などの動きは、老舗も無視できない。だが老舗には誇りがある。ブランドに値する品質でなければならない。ここで出てきたのが先のレス・ポール。ただし本書によると、彼はほぼ名前を貸しただけっぽいw

John Mayall and The Bluesbreakers with Eric Clapton

 そんなギブソン・レスポールの名をあげたのが、エリック・クラプトン。ここで聴ける音は、現代のヘヴィメタルに欠かせないディストーション・サウンドだ。いやたぶんアンプによるオーバードライブだけど。もっとも、アルバムが出たのは1966年で、レスポール・スタンダードの発売は1958年~1960年。同時期にギブソンはトチ狂ってフライングVやエクスプローラーも出すんだが、これの売り上げが見事に爆死する話は切ないw ES-335は評判がよかったようだけど。

 そのクラプトンに先立つ1964年、四頭の怪物がアメリカに上陸する。そう、ビートルズだ。

A Hard Day's Night (Remastered 2015)

 これにいち早く目を付けたのがフランシス・ケアリー・ホール率いるリッケンバッカー。最初の来米時に四人と会見の約束を取り付け、グレッチ・マニアだった彼らに売り込みをかける。特にジョージ・ハリスンが12弦の360/12を気に入ったのが功を奏し、飛躍を遂げる。今でもオッサンは動画の最初のコードで理性が蒸発してしまう。ここでは港町リバプールが四人に与えた影響も面白い。

 ビートルズに続きローリング・ストーンズなど、次々と続く侵略に対し、アメリカもイギリスに逆上陸を仕掛け、見事に成功を果たす革命児が現れる。

Jimi Hendrix The Star Spangled Banner American Anthem Live at Woodstock 1969

 恐らくロック史上で最も有名なパフォーマンスだろう。左利きでありながら右利き用のギターをそのまま使い、ギターの常識を覆すサウンドと演奏を次々と生み出した男、ジミ・ヘンドリックス。これを可能にしたのが、ジム・マーシャル製作のギター・アンプと、ロジャー・メイヤーが生み出した数々のエフェクターだ。ギター&エフェクター&アンプの組み合わせによる無限の音色は、音楽の姿そのものを変えてゆく。デッドのサウンド・オブ・ウォールの原点もコレだったのね。

 この後もイーグルスやジョージア・サテライツなど、地元アメリカではパッとしなかった連中がロンドンで成功を勝ち取るケースは続くのだが、それはさておき。

 それだけ選択の自由が増えても、既製品に満足できない者はいる。なければ自分で作るしかない。折しもフェンダー,ギブソン共に儲け路線に走って品質が落ち込んでいた時代。自動車の改造と同じ感覚で、ギターのパーツ交換や改造を試みる者も現れる。そんな者向けの改造用パーツを供給した一人が、ラリー・ディマジオ。レスポール用にパワフルなハムバック・ピックアップを製作・販売し、マニアックながらも評判を得る。

Eddie Van Halen - Eruption

 だが、ディマジオの想像すら超える改造屋が現れた。ギブソンES-335のハムバック・ピックアップを、あろうことかライバルであるフェンダーのストラトキャスターに取り付けるとは、掟破りの改造である。改造もクレイジーだが、プレイは更に常識を外れていた。2分にも満たないソロで、エドワード・ヴァン・ヘイレンはエレクトリック・ギターの歴史を永遠に変えてしまう。そういやバック・トゥ・ザ・フューチャーでも、ヴァン・ヘイレンは宇宙人だった。あの最後のステージの場面は、ギターの歴史を凝縮してた。

 ギブソンとフェンダーの凋落と、エディ・ヴァン・ヘイレンの異次元殺法により、エレクトリック・ギター市場は一気に変貌する。このスキに乗じ日本のメーカーも安価な製品で米国市場振興を図る。最初は安かろう悪かろうだったのが、次第に品質も向上し、またアイバニーズがキンキラなJEMシリーズでステーヴ・ヴァイを射止めたりと、ヴィジュアルが大事なMTVとも相まって、次第に地位を固めてゆく。そういえばジャパン・パッシングで議員が東芝のラジカセを壊したのも、この頃でした。

The Police -Every little thing she does is magic (live´82)

 同じころ、キンキラとは逆に機能美を追求したのがネッド・スタインバーガー。ベースにはデッド・スポット(デッドポイント)がある。特定の音程だけ、妙に「鳴らない」のだ。これは周波数が一致しちゃってヘッドが弦の振動を吸収しちゃうから。「ならヘッドを無くしゃいいじゃん」と、画期的なデザイン変更を成し遂げる。という事で、動画はアンディ・サマーズよりスティングに注目してください。と言いつつ、やっぱアンディはブリッジ改造してるなあ。あれテレキャスターの弱点だしねえ。

 市場の変革は、新しい血の流入も促す。その代表がポール・リード・スミス率いるPRS社だ。ES-335などかつての名器に学びつつ、徹底して品質にこだわった高価な製品を世に送り出し、トップ・ギタリストたちの信頼をかち得てゆく。同じころ、リック・ニールセンやジョー・ウォルシュらコレクターも育ち、ジョージ・グルーンがビンテージ・ギターの市場をリードし始める。

Carlos Santana Victory is Won Live (En 16:9 y Sonido Remasterizado)

 動画はPRSを操るカルロス・サンタナ。もともとふくよかで官能的な音色と永遠とも思える伸びやかなサスティンにこだわるサンタナだけに、売り込むのは苦労したようだが、見事に眼鏡にかなった模様。ここでは団塊のオッサンたちが財力にモノをいわせてヴィンテージを買い漁る描写もあって、なんとも遠いところまで来てしまった的な感慨も。

 もちろん、動きがあれば反動もある。どこの国でも若者は貧しい。でも情熱だけはある。彼らはホームセンターの安物やリサイクル・ショップで中古品を漁り、ガレージで自分たちの音を奏で続ける。

White Stripes Grammy Awards

 彼らの想いを鮮やかに体現したのが、ホワイト・ストライプス。ジャック・ホワイトが抱えるギターは、ゴミ捨て場から拾ってきたようなオンボロだ。しかもバンドはベースすらいない、ギターとドラムのツーピース。これをグラミー賞のゴージャスなステージで演じる度胸には感服すしてしまう。そのステージで彼の出す音は、行き場のない怒りと狂気を否応なしに聴き手に突きつけてくる。

【おわりに】

 リゾネーター→フライング・パン→ES135→ログ と試行錯誤が続いた末に、テレキャスターで一つの完成形へとたどり着くあたりは、ヘンリー・ペトロスキーの「鉛筆と人間」や「フォークの歯はなぜ四本になったか」のように、右往左往しつつ次第に洗練されてゆく工業製品と同様の、技術史としての面白さがある。

 と同時に、作り手と使い手が互いに意見を出し合い、またはレス・ポールやエディ・ヴァン・ヘイレンのように双方を兼ねた者が、突飛なアイデアと職人芸を駆使して新しいモノを作り上げてゆく様子は、初期のオープンソース・ソフトウェア開発の熱気を見るような気分になってくる。

 とかの偉そうな理屈はともかく、この記事を書いている際に、色とりどりなギターの音を聴けるのも楽しかった。The 5, 6, 7, 8´s なんて卑怯なまでにオジサン殺しなバンドも見つけたし。いやホント、あの音には一発で参っちゃったぞ。

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2020年4月 2日 (木)

「フレドリック・ブラウンSF短編全集 1 星ねずみ」東京創元社 安原和見訳

ミツキー、おまえは星ねじゅみになるんじゃ!
  ――星ねずみ

「その――その、大した話じゃないんだけどさ、ミミズをとろうとしたら、それが飛んで逃げたんだよ。羽根が生えて。まぶしいぐらい真っ白の羽根が」
  ――天使ミミズ

【どんな本?】

 フレドリック・ブラウンはアメリカのSF/ミステリ作家だ。1940年代のSF黎明期から1960年代にかけ、ややシニカルでキレのあるオチが持ち味の短編を続々と発表する。その芸風は日本でも星新一や草上仁に受け継がれ、今なお多くの読者を惹きつけている。

 本書はブラウンのSF短編すべてを執筆順に全四巻で刊行する企画の開幕編として、1941年の「最後の決戦」から1944年の「イイヤリングの神」までを収録する。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は From These Ashes : The Complete Short SF of Fredric Brown, 2001。日本語版は2019年7月12日初版。単行本ハードカバー縦一段組み本文約325頁に加え、牧眞司の「収録作品解題」7頁+鏡明の「フレドリック・ブラウンを讃える。」4頁。9ポイント43字×20行×325頁=約2795,00字、400字詰め原稿用紙で約699枚。文庫ならやや厚めの一冊分。

 文章はこなれていて読みやすい。SFとはいっても、ちょっとしたアイデア・ストーリーが中心で、味わいは星新一に近い。そんなわけで、理科が苦手でも全く問題ない。ただ、この巻は1940年代前半の作品のため、電報やライノタイプなど当時の風俗や技術が、若い人にはピンとこないかも。道具さえ今風に置き換えれば、充分に現代でも通用する作品なんだけど。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 原題 / 初出。

序文 バリー・N・マルツバーグ
最後の決戦 / Armageddon / Unknown Fantasy Fiction 1941年8月
 ハービー・ウスターマンはシンシナティに住む9歳の少年だ。劇場に行く前、両親にねだって水鉄砲を買ってもらった。その日、ステージに立つのは大魔術師ガーバー。手品好きのハービーは熱心にガーバーを見つめ、彼の呼びかけに巧みに応じステージにあがる権利をモノにした。
 「さあ、気ちがいになりなさい」にも「おそるべき坊や」として収録されている。ブラウンの芸風がよく出ていて、8頁と短いだけにオチのキレがすばらしい。
いまだ終末にあらず / Not Yet tthe End / Captain Future 1941冬
 ザンドールの探査船が地球に忍び寄る。鉱山で働かせている奴隷のルーナックが絶滅しかけている。その代わりの奴隷を探しに来たのだ。二人の乗組員カルとラルは、夜に輝く都市を見つけた。おまけに二足歩行生物まで。鉱山で働かせるにはちょうどいい。
 これまた4頁の短編ながら、オチのキレは鮮やか。にしてもブラウンの宇宙じゃ、しょっちゅう世界の危機が訪れるなあw
エタオイン・シュルドゥル / Etaoin Shrdlu / Unknown Worlds 1942年2月
 お話はやたらと面白いんだが、ネタの中心であるライノタイプ(→Wikipedia)が今の若者には通じそうにないのが辛い。現代風にアレンジすると…
 ロンスンは印刷屋を営みつつ、地元向けの地方紙を発行している。その東洋人はチラシ制作を頼みに来た。原稿は手書きでフォントは特注。注文通りMacに特注フォントをインストールして仕事は半日で終わり、特注フォントは削除した。それ以来、Macの様子がおかしい。手書き原稿の誤字を気を利かせて正しい綴りで入力しても、勝手に原稿通りの綴りになる。どころか出鱈目にキーボードを打っても原稿通りのテキストが入る。数日すると、メモリも増設してないのにPhotoshopの動きはキビキビしてくるしハードディスクの容量は底なしに増え…
 はい出ました謎の東洋人w 謎の中国人の店でケッタイなモノを買い、ってパターンの元祖かな? そんなMacが私も欲しい。とか思いつつも、お話はホラーっぽい展開になってきて…。ホラーにするなら、印刷屋よりWebサイト構築請け負いにした方が怖いかな?
星ねずみ / Star Mouse / Planet Stories 1942年春
 オーベルビューガー教授はロケット燃料の専門家で、ドイツから亡命してきた。今はコネティカット州の家に一人で住み、独り言をつぶやきつつ1メートルほどの小型ロケットを作っている。教授は知らなかったが、同居する者がいた。ネズミのミツキーとその一家だ。ロケットの実験が成功した時、教授はミツキーに気づく。
 フォン・ブラウンなどドイツ人科学者を奪取するペーパークリップ作戦(→Wikipedia)より遥か前に書かれている。教授のドイツ訛りの訳が見事だ。もちろん、ミツキーのモデルは彼です。
最後の恐竜 / Runaround / Astounding Science Fiction 1942年9月
 世界に君臨する王、ティラノサウルス・レックス。巨大な肉体に鋭い爪と牙。戦えば必ず勝ち、相手は彼の食事となる。…はずなのに、今の彼は飢えている。既に同族はすべて死に絶えた。今や彼に立ち向かう者はいない。ただ逃げるだけ。追いかけても、奴らは素早い。
 6頁の掌編。古生物学的にはいささかアレだが、この際そういう事はいいっこなし。滅びゆく王者の姿を綴る作品。
新入り / The New One / Unknown Worlds 1942年10月
 火の魔物たちは、秘密裏に計画を進めていた。人間を操って放火をけしかけるのだ。もちろん、ケチなシロモのじゃない。何年もかけじっくりと仕込んで、大きな炎をあげてやる。標的はウォリー・スミス。お陰でウォリーは赤ん坊のころから炎の虜となったが…
 魔界?と人間界の関わりをテーマとした、ユーモラスな作品。ポルターガイストやエクトプラズムは、魔界じゃ新入り扱いらしい。きっとゾンビは期待の新人ってあたりだろうw 「何か楽しいことを考えなさい」の会話のリズムが、モロに私のツボにハマってしまったw
天使ミミズ / The Angelic Angleworm / Unknown Worlds 1943年2月
 チャーリー・ウェルズは朝早く起きた。今日はピート・ジョンスンと釣りに行く予定だ。餌にするミミズを捕まえようと、花壇の土を掘り返す。いた。そいつに向けて指を伸ばしたとき、それが起きた。ミミズに純白の羽根がはえ、優雅に螺旋を描いて上昇し、空に消えていった。
 ブラウンの作品の中でも有名な短編。ミステリでも名を成したブラウンらしく、ちょっとした謎ときの形でお話は進んでゆく。もちろん、「SF短編全集」に入る作品だから、まっとうなトリックじゃないんだがw
帽子の手品 / The Hat Trick / Unknown Worlds 1943年2月
 メイとボーイフレンドのボブ。エルシーと彼氏のウォリー。ホラー映画を観たあと、四人はエルシーの部屋によることにした。飲みながら、ボブが手品を披露する。そのタネをウォリーがあかしたせいで、ボブはムキになった。もっと凄いのをやってみせろ、と。
 まあ、男ってのは、女の子の前じゃカッコつけたがる生き物で。
ギーゼンスタック一家 / The Geezenstacks / Weird Tales 1943年9月
 オーブリー・ウォルターズは九歳の女の子。父のサムと母のイーディスと一緒に住んでる。よく母の弟リチャードが遊びにくる。オーブリーはリチャードと仲がいい。その日、リチャードは人形を持ってきた。四つの蝋人形。それをオーブリーは気に入り、ギーゼンスタック一家と名づけて遊び始めた。設定では、父と母と娘、そして母の弟となっている。
 女の子のおままごとをテーマとした、Weird Tales 掲載に相応しいホラー風味の作品。驚くべきことに、まったくいじらないまま、21世紀の今日でもテレビドラマの原作として充分に通用してしまう。つくづく、ホラーやファンタジイはSFと比べて寿命が長いなあ。
白昼の悪夢 / Daymare / Thrilling Wonder Stories 1943年冬
 木星の第四惑星、カリスト。ロッド・ケイカーは五年前から第三区警察の警部補を務めていたが、殺人事件が起きたことはない…今日までは。被害者はウィレム・ディーム、書籍&マイクロフィルム店を営んでいる。ここじゃハイルラの胞子のため、死体は一時間で腐りはてる。急いで遺体の様子を見たケイカーだが…
 これまたミステリ仕立ての中編。もちろん、この作品集に相応しくトリックもSF仕立て。ただし「天使ミミズ」とは違い、仕掛けはそれなりに真面目だ。若い人にはマイクロフィルムがわからないかも。要は小型のアナログ画像記録媒体ですね。もちろん、事件はブラウンらしくイカれてクレイジーなシロモノ。
パラドックスと恐竜 / Paradox Lost / Astounding Science Fiction 1943年10月
 ドローハン教授による論理学2Bの退屈な授業に出ていたショーティ・マッケイブは、飛びまわるハエを暇つぶしに見ている。すると、いきなりハエが消えた。羽音もしない。気になって、ハエが消えたあたりを左手でまさぐる。その後、驚いたことに、ショーティの左手の指先は…
 「さよならダイノサウルス」などでわかるように、「恐竜絶滅の真相」は、SFの定番テーマのひとつ。いかにしょうもない真相にするかが、作家の腕の見せどころとなっているのは、ブラウンのせいかもしれないw 先の「最後の恐竜」でもわかるように、SFファンは恐竜も好きなのだ。
イヤリングの神 / And the Gods Laughed / Planet Stories 1944年春
 小惑星での仕事は退屈だ。一カ月間、代わり映えのない四人で暇をつぶさなきゃいけない。そんな中で唯一のお楽しみは、互いに駄法螺をふきあう事ぐらい。幸いチャーリーは巧みな話し手で、なかなか楽しめたんだが、今日はおれにお鉢が回ってきた。そこで始めたのが、ガニメデ人の話。あれは変わってて、原住民がイヤリングを着けるんじゃなく、イヤリングが原住民を着けてる。
 アメリカの伝統芸?の駄法螺話を、舞台を宇宙に移して繰り広げた、そんな味わいの作品。この芸風はアヴラム・デイヴィットスンやテリー・ビッスンが受け継いでいると思う。
収録作品解題 牧眞司
フレドリック・ブラウンを讃える。 鏡明

 さすがに80年前の作品だけに、「エタオイン・シュルドゥル」あたりは小道具のライノタイプが通じなくなっちゃいる。が、ソコをMacなりWebサイトなりに変えれば、基本的なアイデアは今でも充分に短編ドラマの原作として使えるのが凄い。SFとはいっても小難しい理屈は出てこなくて、ヒネリの利いた発想で読者をアッと言わせるタイプの作家だ。星新一が好きなら、ぜひ手に取ってほしい。

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