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2020年3月 5日 (木)

スティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック「知ってるつもり 無知の科学」早川書房 土方奈美訳 2

何かに対してはっきりした意見を持っているという事実によって、私たちは自らの意見には確固たる根拠があると思い込む。
  ――第8章 科学について考える

自分が何を知らないかを理解する良い方法は、対象となる分野に関連する仕事をすることを通じてそれを学ぶことだ。
  ――第11章 賢い人を育てる

 スティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック「知ってるつもり 無知の科学」早川書房 土方奈美訳 1 から続く。

【どんな本?】

 身のまわりの事柄を、私たちは「わかったつもり」になっている。だが、いざ「じゃ詳しく説明してよ」と言われると、あっさり馬脚を現す。案外と私たちはわかってない。にも関わらず、世の中はソレナリに巧く回っている。

 ホットな時事問題に対しても、たいていの人は何らかの意見を持っている。中には、強固に自分の意見を主張する人もいる。しかし「それってどういう事なのか、どんな影響があるのか」を問われると、シドロモドロになりがちだ。つまり、わかっていないのである。なぜ「わかっていない」のに、確固たる意見を持てるのか。

 このような意見は、誤解に基づいている場合もある。誤解をとき本当のことを知ってもらおうと、一生懸命に広報を繰り広げる専門家や化学者も多い。だが、世にペテン師は尽きず、相変わらずケッタイな商売が幅を利かせている。

 どうすれば勘ちがいが解けるのか。なぜ意味も分からず強固な信念を持つのか。たいして知恵のない者たちの集団なのに、なぜ世間は回っているのか。

 人類の文明と、それを生み出した知性について、「無知」からアプローチし、その特性をあぶりだそうとする、興奮の一般向け科学解説書。

【科学】

 幼い頃からSFアニメを見て育ち、アポロの月着陸に興奮した世代のためか、私は科学に大きな期待を寄せている。が、そうじゃない人も多い。例えば、こんな現実もある。

オクラホマ州立大学農業経済学部は消費者を対象に、遺伝子組み換え技術を使った製品は表示を義務付けるべきか尋ねた。80%近い回答者が義務化すべきと答えた。(略)
同調査の回答者の80%は、DNAを含む食品についても法律によって表示を義務化すべきだと答えた。
  ――第9章 政治について考える

 いや肉も野菜もDNAを含んでるんですが。むしろDNAを含まない食品の方が怖い…いや食塩は含まないか。とか判った風なことを言ってるけど、「じゃDNAって何よ、例えばどんな元素を含んでるの?」と言われたら、やっぱ説明できないです、はい。

 もっとも、この設問は、科学以外の要素も含んでいるのが面倒なところ。ネタが遺伝子組み換え技術なだけに、宗教や倫理によって、眼鏡に色がついちゃうのだ。

【政治】

 やはりよくわかってなくても、確固たる意見を抱きやすいのが、政治の問題。個々の政策について、キチンと説明できる人は滅多にいない。そもそも大半の人は法案なんか読まないし。というか、私も「どうすりゃ法案が読めるのか」すら知らない。ダメじゃん。

 そんな者同士が意見を交わしても、まずもって無駄に終わる。そして互いに「奴は馬鹿だ」と思い込んで別れる。これはマズい。どうすりゃ有意義な会話ができるのか。「相手を罵ってはいかん」なんてマナーは勿論だが、他にも工夫のしようはある。

 テレビのインタビュウなどでは、「なぜその政策を支持するのか」を尋ねる事が多い。だが、これじゃ、まずもって語り手の意見は変わらない。逆に変わりやすいのは…

必要なのは、政策そのものを考えること、具体的にどのような政策を実施したいのか、その政策の直接的影響はどのようなものか、その影響の影響はどのようなものかを考えることである。つまり、ふだん行っている以上に物事の仕組みについて深く考える必要がある。
  ――第9章 政治について考える

 「ソレはどんな政策か、その直接的な影響は何か、間接的な影響は何か、予算は幾らで効果はどれぐらいか」と、政策を詳しく説明させる。すると、「あれ?実は俺、よくわかってないいんじゃね?」と気づき、腰砕けになるのだ。つまりは前の記事のファスナーですね。

 もっとも、これが効かない場合も多い。宗教や倫理や価値観に基づく時だ。本書では妊娠中絶と尊厳死を挙げている。これはキリスト教的倫理観に基づくものだろう。日本だと、夫婦別性や児童の性教育かな? あと恵方巻などの食糧廃棄も。こういうのは…

政策が良い結果、あるいは悪い結果を生むかはどうでもいい。重要なのは、政策に現れた価値観である。
  ――第9章 政治について考える

 政治ってのは利害だけじゃなく、価値観や世界観の違いも対立の原因なのだ。また、勘ちがいを指摘するのも善し悪しで…

知識の錯覚を打ち砕くことは人々の好奇心を刺激し、そのトピックについて新たな情報を知りたいと思わせるのではないか、と期待していた。だが実際にはそうではなかった。むしろ自分が間違っていたことがわかると、新たな情報を求めることに消極的になった。
  ――第9章 政治について考える

 誰だって自分は馬鹿だと思いたくないし、恥をかくのも嫌いだ。面と向かって無知を指摘されるとムカつく。もっとも、私の場合は例外もあって、Webやこの本など相手の顔が見えない媒体だと、素直に受け入れる、どころか尊敬に変わったりする。まあ、本書の場合だと、無知を指摘されてるのは私だけじゃないしね。

【だが世間は】

 有名なジョークがある。「法隆寺を造ったのは誰か」「大工さん」。ジョークではあるが、けっこう本質を突いたネタでもある。なぜなら…

 法隆寺を造るには、たくさんの人の協力が必要だ。プロジェクトをブチあげ、予算と人を集め、場所を選んで確保し、工法を学び、設計図を描き、木を伐り、運び、加工し、組み上げ…。あ、もちろん、斧やカンナも調達しないとね。というワケで、聖徳太子が一人で全部をやったワケじゃない。にも関わらず、世間に流布している人物は聖徳太子だけだ。これにはヒトのクセが絡んでいる。

私たちは物事を単純化しようとする。その一つの手段が英雄信仰、すなわち重要な個人とそれを支える知識のコミュニティを混同することだ。
  ――第10章 賢さの定義が変わる

 木こりや大工まで、イチイチ憶えてたらキリがない。そこでヒトはモノゴトを単純化する。とりあえずプロデューサーの聖徳太子だけでいいや。そういうコトだ。その聖徳太子にしたって、一から考えたワケじゃなく、隋や帰化人から知識を仕入れたんだろうけど、そこまで追求するのは学者に任せよう。

 が、現実は違う。仕事をしていれば誰だって気がつくが、どんな仕事でも自分だけじゃ完結しない。職場に通うには道路や列車が要る。停電したら何もできない。営業しようにも商品が無けりゃ売れないし、モノを作るにも原材料と工具が必要だ。結局、みんなが少しづつ役割を果たすから、世の中は回る。

【チーム】

 つまり、そういう事だ。みんな、少しづつしか知らない。でも、そんな人たちが協力し合うから、世の中は回るし、進歩していく。ここで大事なのは、みんな同じじゃマズいって点。得意分野が違うから、全体として上手くいく。聖徳太子を千人集めても、法隆寺はできない。誰かがメシを炊かなきゃいけないし、薪を集める人も要る。

 これを一言で言えばダイバーシティとか多様性だろう。世の中イロイロだから私たちはカレーライスやトンカツを楽しめる。和食だけじゃ、こうはいかない。「みんな同じ」を求めると、ロクな事にならない。その見本が文化大革命やクメール・ルージュ、そして大日本帝国だ。そういう集団は、いわゆるエコーチェンバー(→Wikipedia)に陥りヤバい方向へと突っ走る。

【紙がない!】

 とか書いてる今(2020年3月5日)、日本はちょっとしたパニックが起きている。トイレットペーパーが手に入らない。これは経済が理屈通りに動いていないからだ。

世の中の誰もが地球は平らだと信じたところで、地球が平らになるわけではない。しかし経済は違う。
  ――第12章 賢い判断をする

 トイレットペーパーは足りている。でも多くの人が「足りない」と思い込む。その結果、本当に店頭からトイレットペーパーが消えてしまった。馬鹿な話だが、現実なんだからしょうがない。これもまた、一種のエコーチェンバーだろう。今までは、これらの問題に対し、「教育が大事」と叫ばれてきた。だが、オイルショックの経験を経ても、あまり学習が進んだようには思えない。

 じゃ、どうすりゃいいのか、というと…

【終わりに】

 うまくまとめられないけど、機会があったら「機械の再発見」を読んでみてください。少なくとも「自分が身のまわりのモノについてどれほどわかっていないか」は実感できます。

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