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2020年1月 1日 (水)

2019年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 今回も思い付きで選んでます。

【小説】

小野不由美「白銀の墟 玄の月 1~4」新潮文庫
 諸国の協力を得て戴麒は見つかったものの、王である驍宗はいまだ姿をくらましたまま。しかも戴麒は角を失い、麒麟としての能力も封じられている。状況は絶望的ながら、それでも李斎と戴麒は戴へと帰り、行方不明の驍宗を探す旅に出る。二人が降り立った戴は予想通り荒れており、村は賊を恐れ門戸を固く閉ざす。なぜ阿選は反乱を起こしたのか。驍宗はどこで何をしているのか。そして戴国の行方は。
長らく中断していてファンをヤキモキさせたファンタジー・シリーズの(たぶん)完結編。いやきっと2020年に短編集が出るだけど、それは長いエピローグみたいなもんで。「魔性の子」からの伏線もちゃんと回収し、見事に完結させてくれたことが嬉しい…って、完全に主観だけで全く紹介になってないな。
大森望監修「カート・ヴォネガット全短編」早川書房
 「プレイヤー・ピアノ」「猫のゆりかご」「タイタンの妖女」「スローターハウス5」などで有名なアメリカの作家カート・ヴォネガット。だが、彼の本領は短編にこそある、と評する人は多い。もちろん、私もその一人だ。そんな彼の全短編が、 「バターより銃」 「バーンハウス効果に関する報告書」 「夢の家」 「明日も明日もその明日も」の四分冊として出た。 やはり私はSFっぽい作品に目が行ってしまうが、作家としての努力が伺える初期作品が読めるのもファンとしては嬉しかった。
東京創元社「ランドスケープと夏の定理」高島雄哉
 数学専攻のネルスが卒業論文で発表した「知性定理」は、大きな話題を呼ぶ。あらゆる知性とは会話が可能であるとする定理だ。ネルスの姉のテオは22歳で教授になった宇宙物理学の天才であり、第二執筆者には彼女も名を連ねている。テオは今、月の向こう側、L2で共同研究者の青花とともに研究に勤しんでいる。そんなテオに呼び出されたネルスが、彼女の研究室でみたものは…
 キャラクター的には姉ちゃんのテオがひときわ輝いている。天才かつ強引で理不尽、姉とはかくも恐ろしい存在なのだw つか、なんちゅうモンを隠してるんだ姉ちゃんw なども楽しいし、新人ながら最新のサイエンスに真っ向勝負を挑んだ芸風も嬉しくてしょうがない。ジェイムズ・P・ホーガンが好きな人には、自信をもってお薦めできる稀有な作品。

【ノンフィクション】

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ「セカンドハンドの時代 『赤い国』を生きた人びと」岩波書店 松本妙子訳
 東欧崩壊に続き、ソ連も崩壊した。だがそれでも人々の暮らしは続く。かつては世界の両極の一方だった大国が、ただの大国に滑り落ちた。それを機に荒稼ぎした者もいれば、取り残された者もいる。壁の向こうで、彼らはどう暮らしていたのか。政府は何を伝え、何を伏せていたのか。そして世界を震撼させた激動の中心にいた人々は…。 ノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが、旧ソ連の人々の生の声を伝える、迫真のドキュメンタリー。
 「戦争は女の顔をしてない」で私をKOしたスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの、もう一つの代表作。旧ソ連の様々な人びとへのインタビュウ集だ。ロシア軍内の新兵イビリ、ソ連崩壊後の内戦、外国人労働者のモスクワでの悲惨な暮らし、旧ソ連時代の孤児院の実態、天使と噂される女の生き方、逆にひたすら金と地位を求める女…。ノーベル文学賞だからと、尻込みする必要はない。週刊誌の犯罪者記事や、新聞の三面記事を期待し、野次馬根性全開で読んでほしい。きっと「もうお腹いっぱい」な気分になれる。
ロイ・アドキンズ「トラファルガル海戦物語 上・下」原書房 山本史郎訳
 かのホレイシオ・ネルソンが救国の英雄となったトラファルガル海戦。その戦闘の様子と影響を描く作品。と書くと軍ヲタ向けの本のようだし、実際にそうなんだが、本書の面白さは圧倒的な「細かさ」にある。水兵はどこでどんな者をどうスカウトしたか、将兵は何を食べていたか、排泄はどうしたか。こういった船上生活の隅々まで、著者はエグいほどの解像度で描き出すのだ。帆船物語は読み物としちゃ楽しいが、その舞台は凄まじい臭いが充満して…
 あ、もちろん、肝心の戦闘の様子も迫力満点。当時の砲の威力はもちろん、それを撃つまでの手順までキッチリ描き、また戦術面ではネルソン・タッチのねらいまで鮮やかに明かしてくれる。当時の情勢と技術、そして両軍の性質を考えれば、実に理に適った戦術なのがスンナリと納得できるのが有り難い。書名に「物語」とあるだけに読みやすさも抜群で、初心者にお薦めの作品だ。
オーウェン・ジョーンズ「チャヴ 弱者を敵視する社会」海と月社 依田卓巳訳
 チャヴ。イギリスで低学歴の貧乏白人を揶揄する言葉だ。日本なら、ヤンキーが近いかも。定職に就かず、就いても賃金の安い非熟練労働。公営住宅に住み、ジャージで街をウロつき、飲んだくれで、ケンカッ早く、嬉々として暴動に加わる、ロクでもない奴ら。そんなイメージだ。それは本当なんだろうか?
 かつてのイギリスじゃ労働者は誇り高かった。労働党は力を持ち、労働者たちの声を国会に伝えた。なぜ、誇り高い労働者がチャヴと蔑まれるようになってしまったのか。
 この本の舞台はイギリスだ。政党も保守党と労働党だし。しかし、私にはどうしても日本と重なって見えた。この本が描くチャヴは、日本の派遣労働者の姿そのものだ。
 そう、これは極めて政治的な本だ。それも左派の。だから政治的な立場によって、感想は大きく分かれる。あなたが左派なら、間違いなく興奮する。だが、それ以上に、貧しい人こそ読むべき本だ。あなたの両親は、働くことに誇りを持っていた。労働者とは、誇り高い者なのだ。そしてあなたも誇り高く生きられるはずだったのだ。あなたの誇りを誰が奪ったのか、その答えは本書にある。

【終わりに】

 実は「トラファルガル海戦物語」と「スペイン無敵艦隊の悲劇」、どっちを選ぶか悩んだのだが、先に目についた方を選んだ。他にも「イスラエル軍事史」や「ドキュメント 戦争広告代理店」など、軍事関係は興奮する本が多かった。

 また科学では「バッドデータ ハンドブック」がプウログラマあるあるで苦笑いが止まらない。「『おいしさ』の錯覚」は人生を少し「おいしく」してくれる。「『殺してやる』 止められない本能」は、読み終えてしばらくドキドキが止まらなかった。

 と、2019年はノンフィクションで収穫が多かったなあ。

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