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2019年12月16日 (月)

上田岳弘「塔と重力」新潮社

「お前は神である事に無自覚だからな。誰もがおまえをトレースすべきなのに、お前自身がそのことをよくわかっていない」
  ――塔と重力

無駄話が、惑星上に満ちている。
  ――塔と重力

「考えて。そのために私たちはいるのよ」
  ――重力のない世界

知的生命体が発生し、彼らの群れは生息域である惑星に乗って不動の一点である「ここ」を通過する。そうすると、知的生命体は塔を作り始める。
  ――双塔

【どんな本?】

 2018年下半期の第160回芥川賞を受賞した上田岳弘による、「太陽・惑星」「私の恋人」「異郷の友人」に続く、四冊目の著作。

 1995年の関西・淡路大震災をきっかけとした中編「塔と重力」と、似たテーマを扱う短編二つ「重力のない世界」「双塔」の計三篇を収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年7月30日発行。単行本ハードカバー縦一段組み本文約199頁。9.5ポイント40字×17行×199頁=約135,320字、400字詰め原稿用紙で約339枚。文庫なら薄い部類。

 文章はこなれている。相変わらず「太陽・惑星」と同じイカれきったネタを使っているので、その発想についていけるかどうかが評価の境目の一つ。

【塔と重力】

 初出は「新潮」2017年1月号。約143頁の中編。

 20年前、1995年、17歳の田辺は、予備校の仲間と合宿に出かける。泊まっていたホテルで阪神・淡路大震災に見舞われ、田辺江と美希子は生き埋めになる。二人は二日後に助け出されたが、美希子は目覚めぬまま亡くなった。

 進学を気に上京し、しばらくはフラッシュバックに悩んだが、やがてそれも消えた。知人の紹介で新興企業に入り、間もなく株式公開を迎える。Facebook を通じて久しぶりに昔の友人と連絡すると、弁護士になった水上からメッセージが届く。学生時代には度を越して合コンに入れあげていた水上は、田辺に「美希子アサイン」を始める。

 おそらく本書の中核を成す作品。なのだが、いやストーリーはわかるんだが、テーマとなると私にはどうにも読み取れない。

 。水上から「美希子アサイン」を受けつつ、葵や桃香とも体の関係を続ける田辺。いい歳してお盛んなことで、などと僻みたくなってしまう。もっとも、肝心の田辺本人は、それほど美希子に強い想いを感じているわけでもないらしい。

 確かに心の傷は残っているようだが、それは美希子の事より、怪我の激痛に苛まされながらの生き埋めなんて恐怖の体験から来るもののように読める。少なくとも、田辺はそう思っているらしい。もっとも、それさえ自分じゃわかってないっぽいのが、涙のくだり。まあ、居合わせた者にとっては不気味だよね、突然に涙を流し始めたら。

 「SFが読みたい!2012年版」では円城塔が「『携帯電話が出てくるような小説は文学ではない』とか言われかねない」などと文学界を揶揄してたけど、これも時代が変わったのか、Facebook や LINE が当たり前のように出てくるのも、この人の作品の特徴だろう。今どきの人の暮らしをリアルに描こうとすると、どうしたって SNS やスマートフォンが出てくる。

 とはいえ、これほど駆使する人も珍しい。田辺が最もよく使うのは葵を相手にする時だが、直接は見も知りもしないカリフォルニアの男にまで、電子の網の上じゃつながってたりする。SNS にありがちな話だね。

 そんな「人とのつながり方」が、やがて葵との関係にも跳ね返ってきて…

 なんて割り切れるほど、わかりやすい話じゃないとは思うんだが、よくわからない。

【重力のない世界】

 初出は「GRANTA JAPAN with 早稲田文学03」。約17頁の短編。

 息子が呼ぶ。「パパ、ねえ、パパ」。リフティングするから見ていて、と。人類は溶けて肉の海になった。そして性別や寿命、そして個人が廃止された。妻が言う。「次は重力を廃止するの」。これは演算された人生だ。

 諸星大二郎の初期の傑作「生物都市」やグレッグ・ベアの「ブラッド・ミュージック」を思わせる設定で、肉の海に呑み込まれた者が見る白日夢の話。なのだが、妙に今風の幸せな家庭の風景っぽいのが、なんとも。

【双塔】

 初出は「新潮」2016年1月号。約33頁の短編。

 村には塔がある。少年は通過儀礼として塔を登る。すると、塔の上からは別の塔が見える。こちらの村で塔に登るのは、祭祀王だけだ。二つの村は、互いに自分の塔の方が優れていると思っている。だが、実際は、双方の村の者が行き来することはない。できないように、「中央」が設定した。

 これまた「肉の海」シリーズの一つ。「ここ」とはどこか、を巡る理屈が、なかなか壮大にSFしていて心地いい。のだけど、お話のオチは道具の強大さに呑み込まれてミもフタもないことに。

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