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2019年9月20日 (金)

三方行成「流れよわが涙、と孔明は言った」ハヤカワ文庫JA

孔明は泣いたが、馬謖のことは斬れなかった。
硬かったのである。
  ――流れよわが涙、と孔明は言った

「えうれか」
  ――走れメデス

こいつは世にも珍しい、車とつがうドラゴンの物語だ。
  ――竜とダイヤモンド

【どんな本?】

 「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」で2018年の第6回ハヤカワSFコンテストの優秀賞を勝ち取り、笑劇のデビューを果たした新人SF作家・三方行成の最新SF?短編集。

 有名な諸葛亮孔明と馬謖のエピソードから始まりながらも脱線に脱線を重ねあらぬ方向へと物語が転がってゆく表題作「流れよわが涙、と孔明は言った」、奇妙な味の三部作「折り紙食堂」、作品名からオチをつけている「走れメデス」、不気味な世界を舞台とした「闇」、噂のドラゴンカーセックスをテーマとした「竜とダイヤモンド」の五作を収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2019年4月25日発行。文庫本で縦一段組み本文約234頁。9ポイント40字×17行×234頁=約159,120字、400字詰め原稿用紙で約398枚。文庫本としては薄い部類。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も、SFというより馬鹿話なので、理科が苦手でも全く問題ない。気軽に楽しむタイプの作品集だ。

【収録作は?】

 それぞれ 題名 / 初出 の順。

流れよわが涙、と孔明は言った / 小説投稿サイト「カクヨム」2017年
 いきなりの強烈なギャグ作品。孔明は泣いて馬謖を斬…斬…斬れない。硬い。なぜだ。
 冒頭、たったの2行で見事に読者を引き込んでしまう。ホントこの人、反則的なまでにツカミが巧い。以後、最初からズレた物語は、行を重ねるごとに更にズレてゆき、テンポのいい語りに乗せて、次から次へと「なぜにそうなる」な方向へとスッ飛んでゆく。今気が付いたけど、これ、上手な漫才コンピの「もし…だったら」的なギャグに芸風が似てるかも。
折り紙食堂 / 小説投稿サイト「カクヨム」2018年
 挫折してうなだれたあなたは、何かを腹に入れようと店をさがす。店は見つかったが、どうにも怪しい。「折り紙食堂」。変だな、と思いつつも、空きっ腹には勝てず店に入ると…
 三部作。最近の流行り「○○食堂」のパロディなのかな? 作品名どおり、「折り紙食堂」をテーマに、最初の作遺品は店の親父の何やら意味深でよさげな言葉が続くが、なんじゃいこのオチはw やはり折り紙+食堂で腹を満たすのは無理だったかw
走れメデス / 書き下ろし
シラクサの王ヒエロンは金で王冠を作らせたが、職人が材料の一部を盗んだのではないかと疑う。そこでアルキメデスを呼び出し、冠を壊さずに調べよ、と命じた。
 これまた有名な話を足掛かりにしながらも、いきなり話は妙な方向に突っ走ってゆく。ある意味、グレッグ・イーガンの向こうをはる数学SFなんだが、この人の手にかかると、やはりこうなるかw
闇 / 「人は死んだら電柱になる:電柱アンソロジー」2014年
 世界は闇につつまれた。だが、電柱がある。電柱についた灯かりが照らす範囲の中は、安全だ。だが、そこから少しでも出て闇に触れると、人は引き込まれる。両親は相次いで死んだ。足をすべらせて、闇に触れたのだ。その両親が死んだあたりに、新しい電柱が二本見つかった。明かりが照らす範囲が増えただけでなく、ほかの村へとつながる橋ができた。そこに「彼」がきた。
 闇に包まれた不条理な世界で展開する、不気味なホラー。よくこんな設定を思いつくなあ。でも、この設定を元にゲームを作ったら、面白いかも。
竜とダイヤモンド / 「WHEELS AND DRAGONS ドラゴンカーセックスアンソロジー」2018年
 ひったくりが、その坊ちゃんからバッグを奪って逃げた。そして俺がバッグを取り戻し、坊ちゃんに返した。バッグにはダイヤモンドの原石が幾つか入っていた。それが始まりだ。俺は坊ちゃんに取材を申し込み、あっさりと了解してもらえた。そして坊ちゃんの家に向かったが…
 ドラゴンカーセックスってなんじゃい、と思ったら、そういうことか(→ピクシブ百科事典)。そんなモン、どうお話を作るのか、と思ったら、テレビスペシャル版「ルパン三世」みたくヒネリの利いた、ちょっとハードボイルドなファンタジイに仕上がってる。みょんみーw

 「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」からツカミの巧さは光っていたが、表題作では更に鋭さが増している。競争の激しい小説投稿サイトで鍛えたからだろうか。語りのスピード感もあるし、突拍子もない発想もいい。ただ、通勤電車や静かな喫茶店で読むには向かないかもw

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