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2019年9月 1日 (日)

SFマガジン2019年10月号

137機動旅団には、伝統ともいえる不文律があった。どれほど過酷な戦闘であっても、決して非戦闘員を傷つけてはならない。
  ――谷甲州「137機動旅団 新・航空宇宙軍史」

あそこへいかなきゃ。なぜかはわからないが、あの都に行かなきゃ。あそこにたどりつきさえすれば、それ以外のことはもうどうでもいい。
  ――ジーン・ウルフ「金色の都、遠くに在りて」酒井昭伸訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は三つ。メインは「神林長平デビュー40周年記念特集」、次いで「ジーン・ウルフ追悼特集」。特集とは言ってないけど「なめらかな世界と、その敵」刊行記念は伴名練の小特集と言っていいよね。

 小説は8本。

 まず「神林長平デビュー40周年記念特集」で短編「鮮やかな賭け」。「ジーン・ウルフ追悼特集」は4本、「ユニコーンが愛した女」柳下毅一郎訳,「浜辺のキャビン」村上博基訳,「太陽を釣り針にかけた少年」中村融訳,「金色の都、遠くに在りて 前編」酒井昭伸訳。

 連載は2本。椎名誠のニュートラル・コーナー「みんなかたぶつばかり」,夢枕獏「小角の城」第55回。

 そして読み切りが凄い。なんと谷甲州「134機動旅団 新・航空宇宙軍史」450枚を一挙掲載だ。

 まず神林長平「鮮やかな賭け」。わたしの許嫁は、ろくでもない男だ。見かけだけはいいが、何も考えてない。村の女には人気があるせいで、わたしは妬まれてしまう。その許嫁が変な賭けを持ち出した。「ぼくが丸一日、女と口をきかないでいられるかどうか」。受けたのはいいが、あの男が負けを認めるとは思えない。そこでオバアに相談に行ったが…

 最初は、文明化以前か、または文明崩壊後らしき舞台で、若いカップルのいさかいで話が始まる。が、オバアが登場するあたりで、色々とあやしくなってきた。以後、読者が思い込んでいた舞台設定はコロコロと裏切られ…。デビュー当時、P. K. ディックとよく比べられた著者らしく、オマージュも散りばめて、短い中に芸をギュッと詰めこんだ作品。

「ジーン・ウルフ追悼特集」の最初は「ユニコーンが愛した女」柳下毅一郎訳。遺伝子操作で作られたユニコーンが、大学のキャンパスに逃げ出した。遅れたら軍隊に射ち殺されてしまう。なんとか無事に逃がそうと、教授のアンダーソンとデュモンは急ぐ。学生たちがユニコーンを取り囲む中、一人の女生徒が飛び出し…

 そうか、ユニコーンも眼鏡っ娘が好きなのか←そうじゃない こういう幻獣を扱った話は、ラリイ・ニーヴンのシリーズもあったなあ。あれとは違って、本作はテクノロジーが生み出した生物。途中でアンダーソンが語る、ユニコーンの由来が楽しい。

 続いて「浜辺のキャビン」村上博基訳。ティモシーの父ライアンは、アイルランドから来た。今は政治家として成功している。息子のティモシーは、恋人のリッシーと浜辺のコテージでくつろいでいる。その日、ティモシーは船を見た気がした。マスト徒と帆、そして煙突を備えている。そして次の朝…

 アイルランド出身、七番目の息子、そして名前がティモシー・ジュニア。それぞれ深い意味がありそうなんだけど、私にはよくわからない。とまれ、最後のオチは鮮やかで、ちょっとフレドリック・ブラウンなど50年代のSF短編の香りがする。

 「太陽を釣り針にかけた少年」中村融訳。3頁の掌編。アトランティスの浜辺。若く愚かだった太陽は、少年の投げた餌に食いついてしまった。太陽は暴れ、または死んだふりをして逃れようとするが、少年は釣り竿を巧みに操って、太陽を逃がさない。

 馬鹿話のような、童話のような、または異国の民話のような。

 「金色の都、遠くに在りて 前編」酒井昭伸訳。ウィリアムは高校生。このところ、いつも同じ夢を見る。砂浜にいて、遠い山のむこうに美しい都がある。さまざまな高さの数かぎりない金の塔がそびえたち、色とりどりの旗が翻っている。そこに向かってウィリアムは歩き始める。いくつかの砂丘を越え入り江にさしかかったとき、金のリンゴを持つ裸の若く美しい娘に出会い…

 夢の中で裸の実少女や毛の長い犬に出会うティモシーは、それをノートに書き留めてゆく。やがて現実でも憧れの娘スーと仲良くなり、なんて展開は、最近流行りの異世界転生物を思わせる展開。金のリンゴを持つ美少女は見当がついたけど、ソコに冷静に突っ込むんかいw

 谷甲州「137機動旅団 新・航空宇宙軍史」。惑星ジャヌーは、多くの国が争っている。そこに地球系の住民が大挙して移住し、少数派ながらも支配権を握り、技術レベルも20世紀後半程度に凍結した。これに不満を抱いた原住民は武力で蜂起する。

 これを抑えるため、航空宇宙軍は137機動旅団を投入した。陸戦隊では最強と言われる部隊だ。中でも矢沢少尉が率いる偵察大隊は、最も危険で厳しい役割を受け持つ。先陣として敵の拠点に強行着陸し、橋頭保を確立し本体到着まで維持する。また敵の情報が不足している際は、強引に攻撃することで敵の出方を窺う場合もある。今回の目的は、ジャヌー上の軍事大国ドムジェの国家防衛軍を制圧すること。

 大気圏に突入し、着陸予定地点に向かう輸送機は、猛攻撃を受け…

 文句なしの長編を一挙に掲載だ。太っ腹だなあ。軌道上から急襲し、「アーマー」で暴れまわる偵察大隊は、ハインラインの名作「宇宙の戦士」とタブる。役割も似たようなものだ。ただし、「宇宙の戦士」の軌道歩兵は、一発食らわしてすぐ引きあげるのに対し、今作の偵137機動旅団は敵地を占領するまで居座るのが違う。この差は大きい。

 元は1979年発表の短編だから、ベトナム戦争を意識した作品だろう。しかし、作品の衝撃は全く衰えていない、どころか更に鋭さを増している。悲しい話だ。現代だと、イラクやアフガニスタンを思い浮かべながら読むといい。兵器の性能でも将兵の練度でも、米軍は圧倒的な優位だ。にも関わらず、いつまでたっても平定できない。そんな米軍の姿が、137機動旅団の姿に重なって見えてくる。

 これは偵察大隊の職務にも表れている。強行着陸&橋頭保維持はともかく、問題は威力偵察だ。その目的は、敵のドクトリンのデータを集めること。

 これがいかに馬鹿げた話か。

 ドクトリンのデータを集めるとは、突き詰めれば相手の考え方を理解するって事だ。相手が何を考えているかわからない、だからとりあえずブン殴って様子を見る。偵察大隊の職務は、そういう事だ。愚かにもほどがあるが、実際にイラクやアフガニスタンで USA はそういう真似をやらかしている。詳しくは「ブラックフラッグス」や「アメリカの卑劣な戦争」をどうぞ。

 などの重く苦しい主題は置いて。それ以外は全編が戦闘シーンと言っていいぐらいの、派手な爆発炎上の連続だ。しかも、キッチリと現代の軍事技術を取り込んでいる。冒頭の対空防衛網のあたりは、「エア・パワーの時代」の予言そのもの。戦い方によっては航空戦力があまり頼りにならないのは、シリア内戦が証明している。

 陸上の戦闘でも、圧倒的なテクノロジーと火力を誇る偵察大隊が、ヒヤヒヤする場面の連続だ。ハイテクの塊「アーマー」を着ていても、通信が切れると途端に強い不安に襲われる。こういう場面では、戦場で絆が培われる理由がわかる気がする。隣に戦友が居る、それだけで随分と心強くなるのだ。

 今までのSFは、原住民の視点で描かれることが多かった。それを敢えて航空宇宙軍の視点で描くことで、ただでさえ重厚なテーマが更に息苦しさを増している。CNN が映す砲火の下で、何が起きているのか。それを私たちに見せつける、衝撃の作品だ。

 最後に、どうでもいい話だが。

 SFマガジンの文字数がどれぐらいか、計算が面倒臭いので今まであまり考えなかった。が、今回の谷甲州「134機動旅団 新・航空宇宙軍史」で、大雑把に見当がついた。この作品、約110頁を占めてる。450枚で110頁なら、1頁あたり約4.1枚だ。挿絵や広告が入ってるし、記事によってレイアウトも違うから、かなりの誤差が出る。それでも、376頁なら1,542枚で、文庫本なら上中下の三冊分ぐらいの文字数、と計算できた。いや「それが何の役に立つのか」と聞かれたら答えられないけどw

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