「モノができる仕組み事典 日用品から旅客機まで50種の完成するまでの工程を現場写真で構成」成美堂出版
化粧箱入りや付録付きなどの特殊包装は、1つ1つ人の手で包装する。
――光ディスク(CD)缶の中に蒸気を当てて空気を追い出し、同時にフタを閉めて密閉する。すると中の蒸気が冷えて水になり、体積が減った分が真空になる
――ツナ缶
【どんな本?】
私たちの身の回りにあるパソコン・携帯電話・カップめん・鉛筆などは、どんな材料からどんな工程で作っているんだろう? どの工程が手作りで、どの工程を自動化しているんだろう? 原材料はどこから来て、製品ができるまで何日ぐらいかかるんだろう?
巨大な船や繊細なグランドピアノ、美味しいマヨネーズから量産品のペットボトルまで、製造している工場に直接出向いて取材し、豊富なカラー写真とわかりやすいイラストで、現代の工業製品の製造過程を伝える、一般向けの解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2007年11月20日発行。単行本ソフトカバーで約220頁、横組みで本文は全頁フルカラー。紙面の半分以上はイラストや写真が占めているので、文字数は見た目の半分未満。
狭い紙面にむりやり解説文を押し込めた感がある。そのため文章はかなり説明不足だったり、専門用語が連発したり。文字サイズも小さくて、年寄りにはキツい。写真も迫力ありそうなものが多いのだが、やはり小さすぎる。内容の濃さに比べ、とにかく紙数が足りないのだ。丹念に取材しているのは伝わってくるので、頁数を倍にするなり複数冊にするなりして、余裕のある構成にして欲しかった。
また、「6 資材」は、他の記事の原材料が主なので、最初のほうに持ってきてほしかったなあ。
【構成は?】
2~7頁の記事を並べた構成だ。それぞれの記事は独立しているので、気になった所だけを拾い読みしてもいい。
- 1 オプト・メカトロニクス
- デスクトップパソコン(液晶一体型)
- プラズマテレビ
- 光ディスク(CD)
- 光ファイバケーブル
- 時計
- 自動販売機
- パチンコ機
- 2 乗り物
- 自動車
- タイヤ
- バイク
- 油圧ショベル
- 飛行機
- 新幹線
- 船
- 3 音楽・スポーツ
- グランドピアノ
- トランペット
- フォークギター
- ピンポン球
- 野球グラブ
- 野球バット
- 野球ボール
- ゴルフボール
- 4 食品
- マヨネーズ
- インスタントコーヒー
- ツナ缶
- レトルトカレー
- ティーバッグ
- ビール
- チョコレート
- カップめん
- 5 生活用品
- スニーカー
- 洋服
- タオル
- ペットボトル
- アルミホイル
- トイレットペーパー
- 本
- 鉛筆
- 使い捨てカイロ
- ガラス魔法瓶
- 口紅
- 薬(錠剤)
- コンタクトレンズ
- 工業化住宅
- 6 資材
- 板ガラス
- 屋根瓦
- 鉄鋼
- セメント
- 潤滑油
- 早わかり講座
- 液晶テレビ
- 携帯電話
- エアコン
- カメラ
- 国民食から世界食、宇宙食へ その心は「食足世平」
- 乾電池
- 電球
- 「やってやろう」の精神が開発を成功させる
- 紙幣
- 製鉄所でのエネルギーと資源の循環
- 石油精製
【感想は?】
駆け足の工場見学50連発。
考えてみれば、私の身の回りにある物は、みんな誰かが作った物ばかりだ。でも、それをどうやって作るのかは、滅多に考えない。物によっては作り方の都合で「そういう形」になっているのもある。でも、私たちは「アレはそういう形」と思い込んでたりする。
例えばアルミホイル。片面はピカピカで、もう片面はザラザラしか感じになっている。そういうものだと思い込んでたが、作り方の問題だった。アルミホイルは薄い。なんと厚さ0.012mmである。これローラーで薄く延ばすのだ。元は厚さ0.4mmのアルミ板を、何回もローラーで延ばし0.024mmまで薄くする。仕上げにアルミ板2枚を重ねてローラーを通し、0.012mmになる。
この時、ローラーに接する側には油を塗る。油を塗った側はピカピカになるのだ。
にしても、こんな薄さを保つ精度も驚きだし、穴が開いたり破れたりしないのも凄い。ちなみに延ばしたアルミ箔を巻き取る速度は最大で分速1250mって、時速75kmかい。すんげえスピードだなあ。下手に触ったら体を真っ二つに切り裂かれそうだ。
こういう身近なものは興味を惹かれる分、やっぱり楽しく読めるのだ。レトルトカレーも参考になった。ルー・トマト&リンゴ・野菜類、それぞれ別々に炒めたり焙煎した後で、まとめて煮込んでる。最初から全部を混ぜて煮込むんじゃないんだなあ。ちなみに、この手の食品の開発じゃ米軍が暗躍してます(→「戦争がつくった現代の食卓」)。
麺類を音立ててすする事の是非が話題になったりしたけど、お茶をすするのはやはり行儀悪いって風潮が強いのかな。でも、ある意味、音を立ててすするのは、お茶への敬意でもあるのだ。というのも、紅茶のテイスティングでは…
すすりあげるように口に含むのは、香りを際立たせるため。
――ティーバッグ
とある。とすると、お茶を音を立ててすするってのは、「このお茶は香りがとてもよい」ってメッセージに…ならんか、やっぱし。
全般的に機械化された工程が多いんだが、意外と手作業もある。洋服は、型紙こそCADで作るものの、縫製はミシンかけとアイロンかけの繰り返し。ほとんど手作業だったり。
やはり意外なのが、船。この本に出てくる船はボートじゃなくて、大型の貨物船だ。で、記事に出てくる工程の大半が、溶接なのだ。小さい部品を溶接して小組立品を、小組立品を溶接して大組立品を、大組立品を溶接してブロックを…ってな感じ。溶接は万能なのか。もう一つ意外なのが「進水式」。てっきり完成してからやるのかと思ったが、そうじゃない。配線・配管・内装とかの前に進水式をやっちゃう。
やっぱり溶接って凄いと思うのが、トランペット。元はプラナリアみたいな形の平らな真鍮板だ。これをロウ付けで管にしてる。トランペットもギターも、楽器は精度が要求されるわりに手作業が多いのも意外だった。もっとも、手間じゃグランドピアノの凄まじさがブッチギリだけど。そりゃお値段も納得だよなあ。にしても7オクターブ以上の音域を、たった20種類の太さの弦で出してるってのも意外。
思い込みを覆されたのも多くて、その筆頭がタイヤ。はい、自動車のタイヤです。あれホイールキャップは様々な形や色があるけど、タイヤそのものは黒一色だよね。他の色にできないのかと思ったら、やっぱ難しいみたい。というのも、「カーボンブラック(墨)はゴムを丈夫にするため」と、そういう色である必要性があるのだ。
また加硫(→Wikipedia)も勘違いしてた。予めゴムに硫黄を混ぜて型に流し込むと思ってたが、微妙に違う。形を作った段階じゃ、ゴムはプニプニまたはフニャフニャなのだ。これを熱すると、形が崩れにくくなる。この加硫工程は後のスニーカーでも出てくるんだが、つまりは地面に接する部分はゴムが大活躍してるんだなあ。
などと面白いネタは次々と出てくるんだが、なにせ一品目あたりの頁数が少ない。「そこんとこ、もちっと詳しく」とお願いしたくなる所がたくさんあって、例えば油圧ショベルじゃ履帯とか油圧シリンダとか油圧ポンプとか掘り下げてみたくなるんだが、そこは専門の本を読めってことなんだろう。
文句ばかり言っちゃってるようだが、それだけ興味をそそられるネタが満載だったからで、決してつまらない本じゃない。大当たりしそうな映画の予告編をギッシリ詰めこんだ、そんな感じの本なのだ。
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