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2019年5月22日 (水)

大森望監修「カート・ヴォネガット全短編2 バーンハウス効果に関する報告書」早川書房

「愛に対してまったく免疫を持たない人間は、あじめて愛にさらされたとき、ショックで死に至る危険がある」
  ――ジェニー

教授があとどれぐらいいきながらえるだろうかとたずねることは、いつまで待てばつぎの世界大戦という祝福がさずかるかと、たずねることにひとしい。
  ――バーンハウス効果に関する報告書

「この世の厄介ごとは」ケーニヒスヴァッサーが言った。「人が多すぎることじゃない――体が多すぎるってことだ」
  ――衣替えには

「これ、気味が悪いわ、ヘンリー。すごく怖い。わたしの考えを聞いて、返事をするのよ」
  ――耳の中の親友

人が想像できる技術の進歩は、いつの日か、科学者の手によって現実のものになる。
  ――ティミッドとティンブクツーのあいだ

「こんどはだれになるんです?」
  ――こんどはだれに?

「いいえ、わたしたちは貧しくない! というか、今夜までは貧しくなかったのに」
  ――恋に向いた夜

【どんな本?】

 「プレイヤー・ピアノ」「スローターハウス5」「猫のゆりかご」「タイタンの妖女」など、シニカルながらも温かみのある芸風でSFファンにもお馴染みのアメリカの人気作家カート・ヴォネガット。彼が遺した短編をまとめ、8個のテーマ別に並べた「COMPLETE STORIES」が、日本では四分冊に分かれての刊行となった。

 この巻「バーンハウス効果に関する報告書」では、「女」「科学」「ロマンス」の3セクションを収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は COMPLETE STORIES, by Kurt Vonnegut, 2017。2018年11月25日初版発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約423頁に加え、ジェローム・クリンコウィッツの解説「1950年代のアメリカ短編小説と個人事業主カート・ヴォネガット」鳴庭真人訳11頁+小川哲の解説6頁。9.5ポイント44字×20行×423頁=372,240字、400字詰め原稿用紙で約931枚。文庫なら上下巻に分けてもいい分量。

 いずれの作品も文章はこなれていて読みやすい。SFもあるが、1950年代の作品だけに、難しい仕掛けはほとんどない。むしろ、当時のSFなので、時代背景が分からないとピンとこないかもしれない。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 原題 / 訳者 / 初出。

セクション2 女(承前)

ジェニー / Jenny / 大森望訳 / White Mortals Sleep 2011
 ジョージ・カストロはゼネラル電器のベテラン営業員だ。特製の最新型GHA冷蔵庫ジェニーをトラックに積み、家電販売店をめぐるセールス旅行で一年を過ごす。伝言を頼まれたぼくは、ジョージを追いかけた。「ジョージの前妻ナンシーが危篤だ。亡くなる前にひと目ジョージに会いたがっている」。ジョージはジェニーと軽快な漫才を演じ、見事に客を集めている。
 ジェニーのボディは冷蔵庫だが、最新技術で特別に改造してある。人の声でしゃべり歌い、必要なら歩く。ジョージとは見事に息の合ったショウを繰り広げる。ヴォネガットがいつこの作品を書いたのかはわからない。でも、あまりに見事に現代日本の風俗を予言しているのに驚いた。とはいえ、ジョージの人生は、これはこれで幸福なんじゃないかと思ってしまう。
エピゾアティック / The Epizootic / 大森望訳 / White Mortals Sleep 2011
 ミリカンは大手の保険会社、アメリカン安心公正生命損害保険会社の社長だ。優れた手腕を評価され、46歳の若さで社長になった。その会社は現在、危機に瀕している。生命保険会社は平均寿命68年という計算を前提として経営している。だが、二万ドル以上の生命保険に加入している既婚のアメリカ人男性の平均寿命が、たった六ヶ月で47歳になってしまった。
 謎の疫病、エピゾアティック。家庭を持ち、家族を愛する、働き盛りで豊かな男たちの命を奪っていく。普通のSF作家なら医学や生理学を絡めるところを、生命保険会社の視点で描くあたりがヴォネガット流だろう。熾烈な競争が続く合衆国のエリート社会や、金融業が歪に発達した経済構造を揶揄しているようにも読める。セクションとしては「女」というより「男」が相応しいかな、とも思ったり。
百ドルのキス / Hunddred-Dollar Kisses / 大森望訳 / White Mortals Sleep 2011
 ヘンリー・ジョージ・ラヴェル・ジュニア、33歳。オハイオ州イーグル相互損害補償会社インディアナポリス支社記録課の課長。彼は同じ会社に勤めるヴァーン・ペトリを電話機で殴った疑いで逮捕され、取り調べを受けている。ヴァーンとは部署も違い、昇進を争っているわけでもない。
 警察の取り調べ記録の形で進む作品。これまたセクションは「女」より「男」が相応しい作品。彼らの職場の雰囲気の緩さは、日本だと昭和の雰囲気だなあ。ほんと、野郎ってのはしょうもない生き物で。
ルース / Ruth / 大森望訳 / White Mortals Sleep 2011
 テッドは軍人のルースと結婚し、新婚五カ月で海外に赴任し、そこで亡くなった。テッドの子を身ごもったルースは、テッドの母ミセス・フォークナーを訪ねる。二人が会うのは初めてだ。どのように迎えられるか、期待と不安を抱えたルース。それに対してミセス・フォークナーは、テッドの子どもの頃の思い出の品を並べた棚を見せ…
 テッドは一人息子なんだろうなあ。結婚する前に、相手の親と顔も合わせないってのは、日本の感覚じゃだいぶ奇妙だけど、アメリカの、特に軍だとよくあるんだろうか? なんにせよ、嫁と姑の関係ってのは難しい。しかも、夫を喪い女手一つで育てた一人息子ともなればなおさら。ルースも軍人の娘ってのが、キモの一つかも。
消えろ、束の間のろうそく / Out, Brief Candle / 大森望訳 / White Mortals Sleep 2011
 アニーは四十代半ば。牧場を営む夫を喪い、彼の遺した財産でゆっくりと老いを迎えるつもりだった。近所の人達ともほどほどに付き合い、静かに余生を過ごそうと。唯一の例外は、ニューヨーク州スケネクタディから届く手紙だ。相手は雑誌で見つけたジョゼフ・P・ホーキンズ。雑誌で見つけた文通相手で、行間からアニーの気持ちを察し、誌的な美しい文章を綴ってくれる。
 昔は雑誌に文通相手を募集するコーナーがあったんです。最近だとメル友募集の電子掲示板に変わっちゃってるけど。昔も今も、出会い系みたいな商売の需要は絶えないようで。皮肉で哀しくて、でもユーモアがあって、ほんの少しだけ優しいオチが切ない作品。
ミスターZ / Mr. Z / 大森望訳 / White Mortals Sleep 2011
 ジョージは父も祖父も田舎の牧師だった。朝鮮で従軍した跡は牧師になろうと大学に入り、神学に加え犯罪学の講座も受けた。実習では受刑者との面会が必要で、ジョージはグロリアを受け持つことになった。彼女の罪状は盗品所持。夫のバーナードが盗んだ物と思われるが、バーナードは巧く逃げおおせた。意外なことにグロリアは高いIQの持ち主で…
 田舎育ちで牧師の倅の生真面目なジョージと、賢いながらもドロップアウトしたグロリア。いかにもお坊ちゃんなジョージに反発するグロリアの気持ちもわかるなあ。むしろ、そんなグロリアに興味を持つジョージの方が、よくわからない。
スロットル全開 / With His Hand on the Throttle / 大森望訳 / White Mortals Sleep 2011
 アール・ハリスンは精力的に建築会社を営んでいる。特に贅沢はせず、若い妻のエラと二人で暮らしている。だが鉄道模型だけは別だ。休日ともなれば地下室にしつらえた模型の帝国で、難しいダイヤを運行する。助手はホビーショップを営むハリー・ゼラーバックだ。その土曜日には、アールの母親も訪ねてきていた。
 趣味に入れ込んだ男のしょうもなさを徹底的に描いた作品。いや男というより男の子だね。にしたって、たまの夫婦そろってのお出かけで、どこに行くんだかw 麻薬常用者は巧い例えだw こういう状態の男どものメシなんか、ピーナツバターを塗っただけのサンドイッチで充分なのにw 母ちゃんの雷も見事だけど、その後もひたすらしょうもないw
川のほとりのエデン / Eden by the River / 宮脇孝雄訳 / 本書初出
 森の中を、少年と少女は歩いてゆく。小さく青い石を蹴り飛ばしながら。少年は17歳、少女は19歳。猟師とすれちがったときは、他人同士のような顔をした。
 17歳と19歳で石蹴りとは、なんとも子供っぽいことよ、と思わせて…そう来たか。最後の一行で綺麗に落とす短編。
失恋者更生会 / Lovers Anonymous / 浅倉久志訳 / レッドブック1963年10月号
 才色兼備のシーラ・ヒンクリーは、地元のみんなの憧れだった。にも関わらず、大学を中退してハーブ・ホワイトと結婚した。高卒の事務屋と。結婚式の夜、失意の男たちは失恋者更生会を結成した。酔った勢いでできた会だが、今でも続いている。もっとも、既にみんなそれぞれに家庭を持っている。そんな連中に、妙な噂が流れてきた。シーラとハーブの仲が巧くいってない、というのだ。
 失恋者更生会ったって、つまりは似た年頃の気の合う野郎どもが集まって騒ぐだけなんだけど、そういう緩いつながりってのは案外と長く続くもので。と共に、地元住民の噂ネットワークの恐ろしさも伝わってくる。これまた最後の一行で綺麗に落とす作品。

セクション3 科学
解説:ジェローム・クリンコウィッツ / 鳴庭真人訳

となりの部屋 / Next Door / 伊藤典夫訳 / コスモポリタン1955年4月号
 その夜、8歳のポールは一人でお留守番をしていた。隣のバーガー家との壁は薄く、大きな声で騒ぐと迷惑をかけてしまう。ポールが顕微鏡で遊んでいる時、バーガー家からラジオの音楽が流れてきた。それにかぶさるように、男女が怒鳴り合う声が聞こえてくる。競うように、ラジオの音も大きくなるが…
 国土の広いアメリカには、地元向けの小さいラジオ局がたくさんある。今は多くがFMだけど、初出が1955年だから、AMだろうなあ。今と違い、昔はラジオを聴く人も多かった。だってそれ以外ないんだし。そんな世の中だからこそ、成り立つ作品。関係ないけど、やはりラジオ局が絡む映画として「タイムズ・スクエア」は青春映画の傑作です。百合だし。ポール君に幸運あれ。君にはそれが必要だw
バーンハウス効果に関する報告書 / Report on the Barnhouse Effect / 浅倉久志訳 / コリアーズ1950年2月11日号
 バーンハウス教授は、たいへんな発明をした。心の力を解放し、特定の目標に当てることができる。威力は原爆を遥かにしのぎ、射程距離は地球全土に及び、防衛策は見つかっていない。だが、その力を使えるのはバーンハウス教授ただ一人だ。しかも、今は教授がどこにいるのか、誰も知らない。そのため、全世界は武装解除を余儀なくされた。
 平凡で冴えない独身で学究肌の中年男が、無敵の力を手に入れたら、どうなるか。当時はアメリカとソ連が核兵器を突きつけ合う冷戦のさなかだけに、政府が考えるのはそういう方向なのだが…。スーパーヒーロー物っぽい設定も、ヴォネガットが料理すると、こうなるのか。バーンハウス教授の訴えに激しくうなずく人も多いだろう。
ユーフィオ論議 / The Euphio Question / 宮脇孝雄訳 / コリアーズ1951年5月12日号
 物理学者のフォレッド・ボックマン博士は、電波望遠鏡で奇妙な発見をした。何もない宇宙空間から、強力な電波信号を受信したのだ。しかも、一つじゃない。約五十カ所も。それを音波に変調したものが、<ボックマンのユーフォリア>だ。これには奇妙な効果があり、ラジオ局のアナウンサーのルウ・ハリスンは一儲けを企んで…
 Wikipedia によると最初の電波望遠鏡は1940年だとか。とすると、ヴォネガットも意外と熱心に最新科学を学んでいたことになる。ユーフォリアの影響を試す場面は、ユーモア作家としてのヴォネガットと、訳の宮脇孝雄のコンビネーションが存分に堪能できる美味しいところ。ちなみにロシアがこの作品にヒントを得て開発したのが例のアレで…
衣替えには / Unready to Wear / 円城塔訳 / ギャラクシー・サイエンス・フィクション1953年4月号
 数学者のケーニヒスヴァッサーは精神の世界に暮らしていた。病気にかかるたびに、彼は肉体のわずらわしさに愚痴をこぼしていた。そして、彼は鮮やかな解決策を見いだしたのだ。お陰で私たち両生人は快適な人生が送れる。今、ボディは地域のストレージセンターで整備され、必要な時だけ借り出せばいい。
 ある意味、グレッグ・イーガンの諸作の先駆けとも言えるだろう。つまり、精神のアップロードを扱った作品だ。もっとも、アップロード方法は、50年代風にのどかで、かつヴォネガット流にやや間抜けな形だけどw にしても、マッジさんの執念には頭が下がりますw 真面目な話、AIが自我を獲得するには自前の身体が必要だって説もあって、その辺はどうなんだろうなあ。
エピカック / EPICAC / 円城塔訳 / コリアーズ1950年11月25日号
 エピカックの開発には7憶ドルを越える予算がかかった。予定では超計算機になるはずだったし、オルマンド・フォン・クライヒシュタット博士もそれを期待していた。問題は、ぼくとパット・ギルガレンが、夕方五時から深夜二時まで、同じシフトでエピカックの面倒を見ていたことだ。二人とも数学者で、ぼくは彼女にベタぼれだった。
 これまた当時の最新テクノロジー、コンピュータを扱った作品。入出力が紙テープだったりなど、細かい部分をいじれば、現代でも通用しちゃう話なのが切ないというか残念というか。最近はディープラーニングが話題で、確かに使えはするけど、「その先」を切り拓けるかというと、うーん。
記憶術 / Mnemomics / 浅倉久志訳 / コリアーズ1951年4月28日号
 会社がひらいた記憶術クリニックのお陰で、アルフレッド・ムーアヘッドの調子は上々だった。飛躍的に上がった記憶力のお陰で、書類を作るにしたってメモを調べる必要もなく、手早く書き終えられる。ただ一つの問題は、秘書のエレンとの関係が全く進展しない事で…
 おいおいアラン、大丈夫かw つか、なんで肝心のエレンを使わないw
耳の中の親友 / Confido  / 大森望訳 / Look at the Birdie 2009
 ヘンリーは野心に乏しい技術者で、機械の組み立てと修理の腕はいいが、給料はそうでもない。そんなヘンリーは、職場の休憩時間を使って、こっそり新製品を組み立てた。名前はコンファイドー、イヤフォンをつけた小さなブリキ箱。いつもは引っ込み思案なヘンリーが、この時は自信ありげに妻のエレンに差し出した。
 あの ELIZA(→Wikipedia)が1966年だから、これも時代を予見した作品と言えるだろう。もっとも、ELIZA はもっと性格がいいけどw って、1950年代の作品だと思い込んでいたけど、違うのかな?
鏡の間 / Hall of Mirrors / 大森望訳 / Look at the Birdie 2009
 催眠術師ウィームズの屋敷を、二人の刑事が訪れた。ベテランのフォルツと若手のカーニー。目的は、行方不明になった女ミセス・メアリの事情聴取。彼女は、この屋敷を訪れた後、消息を絶った。ウィームズの仕事は催眠療法。だが二人の刑事はウィームズが怪しいと睨んでいた。
 いかにもインチキ臭いスピリチュアル系商売の催眠術師と、二人の刑事の頭脳戦を描いた作品。
ナイス・リトル・ピープル / 大森望訳 / Look at the Birdie 2009
 マドレインとの七回目の結婚記念日に、ローウェルは一本のペーパーナイフを拾った。中心に小さな石がはめ込まれている。ローウェルは百貨店の売り子で、稼ぎはほどほど。対してマドレインは不動産の営業でがっぽリ稼いでいる。家でペーパーナイフを取り出すと、石が外れて穴が開いている。そこから5~6mmほどの黒い虫が六匹ほど這いだし…
 たぶん書いたのは1950年代、SFパルプ雑誌向けだと思う。フレドリック・ブラウンやリチャード・マシスンやロバート・シェクリイに似た雰囲気を感じる。
ハイ、チーズ / Look at the Birdie / 大森望訳 / Look at the Birdie 2009
 バーのカウンターに座り、大声で憎い奴について話していた。そこに、妙な男が話しかけてきた。「あなたに必要なのは、殺人アドバイザーの冷静で賢明なサービスです」
 これまた1950年代のアメリカの短編小説っぽい、ヒネリの利いた作品。味わいとしてはロアルド・ダールが近いかも。あ、そこのあなた、真似しちゃいけません。
ティミッドとティンブクツーのあいだ / Between Timid and Timbuktu / 宮脇孝雄訳 / 本書初出
 デイヴィッド・ハーディングは若い画家だ。二週間前に妻を喪った。今、彼は時間について考えている。なんとか時を戻し、彼女ジャネットの元に帰りたい。窓の外を見ていると、老いた釣り人が溺れている。急いで助け出し、医者を呼んで人工呼吸を繰り返す。幸い老人は命をとりとめた。老人が意識を取り戻した時、何を言うかは決まっている、と医師は語る。
 やや長いながら、これまた50年代アメリカの短編小説の味わいの濃い作品。

セクション4 ロマンス
解説:ダン・ウェイクフィールド / 鳴庭真人訳

こんどはだれに? / Who Am I This Time? / 浅倉久志訳 / サタディ・イヴニング・ポスト1961年12月16日号
 町のアマチュア劇団の演目は『欲望という名の電車』に決まった。主役はハリー。ナッシュで決まりだ。彼の本職はミラー金物店の店員だが、優れた役者で芸幅も広い。ただ極端なはにかみ屋で、ミーティングにも出てこない。問題はヒロインのステラ役。若い女がいないのだ。幸い電話会社の機械操作を教えるため派遣されたヘリーン・ショーを見つけたが、これがとんだ大根で…
 『欲望という名の電車』を知らなくても大丈夫。実は私も知らない。このまま少女漫画にしてもいいぐらいの、甘い作品。なんならライトノベルのシリーズにしてもいいかも。
永遠への長い道 / Long Walk to Forever / 伊藤典夫訳 / レイディーズ・ホーム・ジャーナル1960年8月号
 ニュートとキャサリンは、隣同士の家で育った。その日、ニュートはキャサリンの家のドアをノックした。会うのは一年ぶりだろう。ニュートは軍の砲兵隊の上等兵だ。キャサリンは一週間後に結婚式を控えている。相手はヘンリー。ニュートはキャサリンを散歩に誘う。
 これまた読み切り少女漫画の原作みたいな作品。
恋に向いた夜 / A Night for Love / 浅倉久志訳 / サタディ・イヴニング・ポスト1957年11月23日号
 満月の夜。ターリーはラインベック研磨剤工業の警備員だ。妻のミリーに愚痴をこぼす。娘のナンシーは、帰宅予定時間を二時間も過ぎている。デートのお相手は社長ラインベックの息子だ。心配するターリーはラインベックに電話しようとするが…
 長く寄り添った二組の夫婦。片方は成功した社長、もう一方は雇われている警備員。しかも妻がかつては社長とつながりがあった、となれば、そりゃ心穏やかじゃいられないよなあ。
夢を見つけたい / Find Me a Dream / 浅倉久志訳 / コスモポリタン1961年2月号
 クリーオンはパイプの町だ。その中心はゼネラル鉄鋼のクリーオン工場。工場の支配人はアーヴィン・ボーダーズ、46歳の独身男。その夜、パーティーに呼ばれたバンドを率いるアンディ・ミドルトン25歳は、一息いれるために場を離れた。すると、泣いている女を見つけ…
 いくらパイプの町だからって、なんでもかんでも名前にパイプをつけりゃいいってもんじゃなかろうにw 果たしてアーヴィンは幸運なのか不幸なのか。うーん。
FUBAR / FUBAR / 大森望訳 / Look at the Brirdie 2009
 ファズ・リトラーはゼネラル金属鍛造のGF&Fイリアム製作所に勤めている。広報部に配属されたが、部屋が満杯だったので、一時的に別の部屋が、彼一人のために割り当てられた。生憎と母が重病で、勤めをやめるわけにはいかない。勤続九年目、ファズは管理職になったが、相変わらず彼の机を置くスペースはない。そこで体育館の地下に部屋を用意された。彼と秘書二人だけの。
 FUBAR は Fouled Up Beyond All Recognition の略で、意味は「見る影もなくめちゃくちゃ」。組織の隙間にはまり込んでしまった静かな男と、元気な新入社員のお話。

 やっぱりヴォネガットのSFはキレがあっていいなあ。SFじゃないけど、男のしょうもなさを書いた「スロットル全開」も、SFファンにはウケそうな作品。全く傾向が違うけど、「失恋者更生会」も楽しい。懐かしいSFの香りがする「バーンハウス効果に関する報告書」もいいが、「衣替えには」でのアップロード方法が、いかにもヴォネガットな芸風でたまらない。こういう微妙な間抜けさが私は大好きだ。

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