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2019年4月21日 (日)

やめられるもんならやめてみろ

 長い小説を人に薦めるのは、ちと気が咎める。人によって好みが違うので、ストラーク・ゾーンを外れたらなんか悪いことをしたような気になる。とはいえ、気に入った作品はやっぱり薦めたくなるんで、思い切ってやってみた。

司馬遼太郎『竜馬がゆく』

 司馬史観なんて揶揄されるけど、それはそれだけ多くの人に読まれていて、影響を受けた人も多いからだ。ではなぜ読まれているのかというと、面白いからだ。多くの歴史上の人物を取り上げて、それぞれの人物の印象を変えた司馬遼太郎だが、中でも最も評価が大きく変わったのは、この作品の主人公・坂本竜馬だろう。その理由も簡単で、竜馬がとても魅力的な人物に描かれているからだ。

 文春文庫で全八巻という大長編で、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。最初の一巻だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

田中芳樹『銀河英雄伝説』

 SFファンというのは厄介な連中で、変な選民または賤民意識みたいのがある。だもんで、SFで人気が出るのは、どっかトンガってあまし世間じゃウケない作品も多い。そんな中で、SFファンにも広く世間一般にも好まれている作品の一つが、これだ。

 舞台は遠未来の宇宙だが、実は科学的な部分はけっこうムニャムニャなので、あまり気にしないでいい。戦闘場面は艦隊戦が多いけど、スターウォーズというよりむしろ帆船同士の戦いの趣がある。敵船に乗り込んで白兵戦なんてのもあるしw

 それより魅力的なのは、数多く登場する人物たちだ。いずれもアクが強く、滅茶苦茶にキャラが立ってる。常勝の天才ラインハルト、その頼れる相棒キルヒアイス、彼らのライバルであるヤン・ウェンリー、体育会系に見えて実はアレなミッターマイヤー、ヘテロクロミアの女殺しロイエンタール、女殺しならいい勝負のシェーンコップとポプラン、そして偽善の権化トリューニヒト…

 文庫本で本編10巻に外伝5巻という大長編だから、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。最初の一巻だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

高橋克彦『竜の柩』

 伝奇小説だ。しかも、著者はカバーで「私は真正です」と断言しちゃってる。ちょっと検索すると、信者もけっこういるらしい。そういう点じゃヤバい本なんだが、実際に読んでみると、やたらめったら面白いんだから仕方がない。とにかく読ませる文章を書くのが巧みなんだな。

 伝奇物は「いかに狂った発想を読者に受け入れさせるか」がキモだ。その点、この著者は、身近なシロモノに関する膨大なウンチクで圧倒し「そうだったのか~」とガードを下げさせたスキに、頭のネジが数本吹っ飛んだスケールのデカい発想を叩きこんでくるからたまらない。諸星大二郎や半村良が好きなら、きっと楽しんで読める。

 文庫本で全6巻という大長編だから、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。最初の一巻だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

池波正太郎『剣客商売』

 昭和の時代劇を語るなら、外せないのが池波正太郎。「鬼平犯科帳」「必殺仕事人」などのテレビ・シリーズが有名だが、この「剣客商売」はドラマの知名度じゃ一歩ゆずる。とはいえ、原作の小説の面白さはいずれも甲乙つけがたい。

 にも関わらずこれを選んだ理由は、とっつきやすいから。主人公は老いた剣客の秋山小兵衛と、その一人息子の大治郎。老境を迎え酸いも甘いもかみ分け、人として成熟しきった父の小兵衛。対して若く未熟ながら、それを自覚した素直な性根でぐんぐん成長してゆく大治郎の対比が、とってもわかりやすい。仮面ライダー風に言うなら、知恵と技の小兵衛と、勢いと力の大治郎といったところか。

 新潮文庫で本編16巻に番外編2巻という長大シリーズだから、その分量を見ただけで尻込みしたくなるかもしれない。だから「全部読め」とは言わない。一話完結の短編が続く形なんで、一巻の最初の「女武芸者」だけでいい。いやならそこで投げ出して構わない…そこでやめられるものなら、ね。

 以上四作品、いずれも出版されてから長くたっているにもかかわらずファンが途切れないのが面白さの動かぬ証拠。ちょっと暇が出来たら、少しでいいから味見していただきたい。ただし通勤電車内で読んで乗り過ごしても責任は取れません。

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