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2019年3月 3日 (日)

SFマガジン2019年4月号

「楽器人間。それはどういう……構文だ」
「構文じゃない。熟語だよ。ああ、肩書きかも知れない。『怪奇楽器人間』。それがこの街の夜を跋扈している。そして犯罪行為をおこなっている」
  ――飛浩隆「サーペント」

「おめでとうございます! みなさんは、生命進化を守る戦士に選ばれました!」
  ――草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」

野生のエルヴィス・プレスリーをご存じだろうか。
  ――石川宗生「野生のエルヴィスを追って」

「高さ二万メートルのビルを泥が支えられるなんて、信じられない」
  ――ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳

 376頁の標準サイズ。

 特集は「ベスト・オブ・ベスト2018」。「SFが読みたい!2019年版」のランキング上位作家の短編を収録。

 お陰で今月は小説が多い。なんと16本だ。

 まず特集の「ベスト・オブ・ベスト2018」で9本。飛浩隆「サーペント」,郝景芳「戦車の中」立原透耶訳,円城塔「書夢回想」,上田早夕里「銀翼とプレアシスタント」,ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳,高島雄哉「無重力的新世界」,草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」,石川宗生「野生のエルヴィスを追って」,樋口恭介「1000億の物語」。

 連載は夢枕獏「小角の城」第52回だけ。

 読み切りは6本。柞刈湯葉「たのしい超監視社会」,三方行成「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」,片瀬二郎「ミサイルマン」,そして草上仁は三連発「半身の魚」「必殺!」「二つ折りの恋文が」。

 飛浩隆「サーペント」。学究都市クルーガーで事件が起きた。『怪奇楽器人間』。特殊楽器が関わるとの疑いもあり、カエキリア教授は技芸士の派遣をギルドに依頼する。やってきたのは技芸士セルジゥ・トロムポノク。さっそく現場に赴くと…

 「零號琴」の前日譚の冒頭のみ。すんません、まだ本編は読んでないです。葉巻型宇宙船だの<行ってしまった人たち動力>だので「ほえ?」と思ってたところに、「怪奇楽器人間」で腹筋が決壊w にしても、本当に「空の園丁」は出るんだろうか。

 郝景芳「戦車の中」立原透耶訳。村はすでに破壊されていた。連れの雪怪を村に送り込み、定点清掃を命じた。雪怪は高さ5メートルの工兵ロボットだが、戦闘能力もある。やがて雪怪から警報が来た。小型の機械車を見つけた、と。そこで雪怪は相手の基本情報を…

 徹底的に機械化された未来の戦闘の一幕を描く掌編。某大ヒット映画の冒頭や、フレッド・セイバーヘーゲンの「バーサーカー」シリーズを思わせる状況を描く。逆チューリング・テストって発想もいい。加えて、田中光の扉イラストも素晴らしい。

 円城塔「書夢回想」。そこは異端の組織が長い年月を費やして構築した巣、書店だ。今となっては、書籍に原本があることすら知らない人もいる。原本を読まずとも、要約機能でほぼ同等の読後感が得られる時代だ。また文章も読者に応じて自動的にふさわしく変換してくれる。

 だんだんと紙の本は肩身が狭くなってきている今日この頃だけど、案外と今後も生き残るんじゃないかって気がしてきた。というのも、人が最初に出会う本は、たいてい紙の絵本だからだ。それはそれとして、この作品は電子書籍がうんとこさ進歩した未来の物語。

 上田早夕里「銀翼とプレアシスタント」。土岐田和穂は海上保安庁のパイロットだ。かつて瀬戸内海と呼ばれた地域を巡回コース通りに飛び、予定の淡路北フロート群の海上空港に降りる。馴染みのカフェ Shin-Kai に寄る。何かあったらしく、蛙の置物がない。

 お待ちかね<オーシャンクロニクル・シリーズ>の前日譚の冒頭抜粋。既に海面上昇は起きていて、瀬戸内海もだいぶ様相が違っちゃってる。これに対応する日本政府の方針も相まって、ちと胡散臭くもあれば国際的でハイテクでもある不思議な社会ができてる模様。

 高島雄哉「無重力的新世界」。世界最大のオークション・サイト<799>の代表取締役は、ベンチャー運営の打ち上げ船で月の裏側を周回する旅に出る。同行者が11人のアーティスト。画家・彫刻家・作曲家・舞踏家・写真家・小説家・調香師・ゲームクリエイター・配信者・AIアーティスト・VRアーティスト。

 たった一週間って締め切りじゃ、悲鳴を上げる人も多いだろうなあ。漫画家を入れてもいい気がする。あとプログラマも。perl の 1 while s/(.*\d)(\d\d\d)/$1,$2/ /*数字3桁ごとに位取りのカンマを入れる*/ とか、私はアートを感じるんだけど。

 草野原々「大進化どうぶつデスゲーム」。星智慧女学院三年A組、十八人。ノンフィクションを好み我が道を行く空上ミカ、おとなしく古典文学が好きな峰岸しおり、雑誌の読者モデルをやっている白鳥純華、その取り巻き沖汐愛理、王子様タイプの竜造寺桜花、小柄でボーイッシュな飯泉あすか…。彼女らは人類の、いや宇宙の命運をかけたデスゲームに放り込まれ…

 長編、どころかシリーズ化予定作品の冒頭。さすがに十八人もいたらキャラがカブるかと思ったけど、なかなかに濃いキャラが揃ってます。私は神木月波ちゃんが気に入った。この突発事態に、アッサリと適応して、いきなりソレやりますかw つかポケットにナニを持ってるんだかw

 石川宗生「野生のエルヴィスを追って」。野生のエルヴィスは、環境に応じて様々な進化を遂げている。ただし生態の多くは謎のままだ。国際自然保護連合レッドリストでは近絶滅種に指定されている。そんな野生のエルヴィスを追う人々は…

 野生のエルヴィス・プレスリーってアイデアがいいw なんじゃい「エルヴィス・ハンター」ってw まさしく小説家の本道、「見てきたようなウソをつく」に真っ向から挑戦し、ナショナル・ジオグラフィックやBBCドキュメンタリー風の騙りで貫き通した作品。通勤電車の中で読んだら周囲から変な人だと思われます。

 樋口恭介「1000億の物語」。増え続ける人口を支えきれなくなった人類は、ソフトウェア化の道を選ぶ。量子サーバー内にグロタンディーク自治区と呼ばれる人工宇宙を作り、そこに住み暮らし子を成す。その一人メアリーは19歳として生まれた。恋人のパーシーは23歳。

 「第81Q」なんて言葉で一瞬ニヤリとしたり、設定からゼーガペインを思い浮かべたり。いやさすがにサーバは舞浜じゃないけど。システムを設計・導入する際は、将来に必要になるリソースの事も考えておきましょうね、という話…では、ないと思う。

 柞刈湯葉「たのしい超監視社会」。世界はオセアニア・ユーラシア・イースタシアの三大国に別れ、互いに争っていた。その一つイースタシアは、厳しい監視社会だ。かつての特高警察では膨大な人口を監視しきれない。そこで国民同士が互いに監視し合う制度を導入し…

 「イースタシアの歳出歳入を正確に知ることは、月の裏側を見るよりも難しい」とかの時事ネタはキャッチー。また歴代総統の肖像画とかも、作者ならでは。相互監視制度も、若い人はそれなりに楽しんでいるようでw でも私の下手な歌なんかを聞かされたら、迷惑だろうなあw

 ニール・スティーヴンスン「アトモスフェラ・インコグニタ」日暮雅通訳。エマは不動産業界で働いている。久しぶりに会った幼馴染のカールが、イカれた話を持ちかけてきた。高さ二万メートルの鉄製タワーを作りたい、協力してくれ、と。

 「七人のイヴ」では、軌道上の暮らしを科学・工学系の細部をキッチリ描いてくれた著者。この短編でも、高さ20kmの鉄塔なんてイカれたアイデアを、科学と工学に加え、産業にまで踏み込んでテンポよく描いてくれる。難問は重さだけじゃないあたりが読みどころ。終盤の展開には完全に脱帽。

 特集はここまで。以降は読み切り。

 三方行成「折り紙食堂 エッシャーのフランベ」。空きっ腹を抱えたあなたは、奇妙な店を見つけた。「折り紙食堂」。その名のとおり、カウンターには折り紙がびっしり並んでいる。中にいた店主らしき男も、折り紙に没頭している。出ていこうと思ったが、店主は何やら準備を始めてしまい…

 折り紙って、使える紙は一枚だけなのかと思ってたけど、幾つもの部品を組み合わせて作るのもあるのか。ある意味、「中国人の店で変なモノを買って…」のバリエーションの一つ。

 片瀬二郎「ミサイルマン」。五のつく日は納品日で大忙し。しかも年末となれば戦場である。なのにンナホナがいない。外国人労働者ながら、今までさんざん修羅場を切り抜けてきた強者なのに。社長の息子の俊介は、総務の末松を伴って、ンナホナのアパートを訪ねるが…

 最近の外国人労働者関係のニュースを聞くと、笑って済ませられない話。特にンナホナの故国のニュースを聞いた時の、俊介の反応とかは、いかにもこの手の人にありがちで、某選手の病気に対する某大臣のコメントを連想してしまった。

 おまちかね草上仁の三連発「半身の魚」「必殺!」「二つ折りの恋文が」。「半身の魚」は砂漠で見つけたオアシスでの一幕。やるな、とい言われると…なお話。「必殺!」は、藤田まこと主演の必殺シリーズのパロディ。にしてもオチが黒いw 「二つ折りの恋文が」は打って変わって異星での恋愛物語。つくづく芸幅の広い人だなあ。

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