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2019年2月13日 (水)

ジョージ・ダイソン「チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来」早川書房 吉田三知世訳 3

「形式論理の込み入った領域では、そのものを作り出すよりも、そのものに何をすることができるのかを判定することの難しさのほうが一段階上なのが常なのです」
  ――第15章 自己複製オートマトンの理論

Googleの技術者「わたしたちが本を全部スキャンしているのは、人に読んでもらうためではないんです」「AIに読ませるためにスキャンしているんです」
  ――第17章 巨大コンピュータの物語

ジュリアン・ビゲロー「われわれはただ仕事をしていただけで、その仕事がとても面白かったのです」
  ――第18章 39番めのステップ

ロバート・リヒトマイヤー「今やコンピュータは、何かの問題解決に当たる人々がその手段として設計しているのではなく、コンピュータ自体を目的と見なす人々によって設計されている」
  ――第18章 39番めのステップ

 ジョージ・ダイソン「チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来」早川書房 吉田三知世訳 2 から続く。

【どんな本?】

 1930年代にアメリカのニュージャージー州プリンストンに、学者のパラダイスを目指して高等研究所が設立された。欧州でのナチス台頭に伴ない流出したアインシュタインなどの優れた頭脳を吸収し、やがてジョン・フォン・ノイマンを中心にプログラム内蔵型コンピュータを生み出す。

 その豊かな演算資源に惹かれ、熱核兵器開発を目論む軍をはじめとして、様々な人物がそれぞれの目的を持って高等研究所に集まってきた。

 今から思えば、当時のマシンの能力は極めて貧しい。例えばメモリはわずか数キロバイト、スマートフォンはおろかファミリーコンピュータにすら劣る。それでも、彼らの目的は壮大であり、またそれを実現するための工夫は、現代のコンピューティングの基礎になった物も多い。

 稀代の天才ジョン・フォン・ノイマンを中心として、プログラム内蔵型コンピュータの誕生と黎明期の成長を描く群像劇。

【第13章 チューリングの大聖堂】

 数学者や科学者が多く登場する本だけに、数学や科学の根本を成す「なにものか」もテーマに浮き上がってくる。例えば…

「究極的な独創性が示す一つの側面は、それより劣った精神なら自明だと見なす事柄を自明と見なさないことです」
  ――第13章 チューリングの大聖堂

 なんてのは、優れた科学者に共通する能力だろう。並みの者は「リンゴが落ちるのは当たり前」と思い込み、天才は「なぜリンゴが落ちるのか」と考える。これはソフトウェアの設計でも同じで、「なぜそんな機能が要るのか」を問いただすと、案外と簡単に解決する…場合も、あります。

 やはり当時から人工知能って発想はあったようだが、数学者はどう考えたか、というと…

アラン・チューリング「機械が絶対に間違いをおかさないと期待されるなら、それは知性を持つこともできないということです」
  ――第13章 チューリングの大聖堂

 まあ、それ以前に、そもそも「知性とは何か」って問題があるんだけど。とまれ、現在の強化学習ベースのシステムは、けっこう間違えるんだよなあ。おまけに「なぜ間違えたか」も、よく分からない。ってな事も、キッチリ予言してたり。

人工知能のパラドックスは、理解できるほど単純なシステムはどれも、知的に振舞えるほど複雑ではなく、知的に振舞えるほど複雑なシステムはどれも、理解できるほど単純ではないということだ。
  ――第13章 チューリングの大聖堂

 もっとも、私はコレで、「エイリアンから手に入れた奇妙な機械」を想像したけど。いやSF映画でありそうでしょ。何だかわかんないマシンけど、とりあえず使ってみよう、みたいな。

【第14章 技術者の夢】

 最近は義務教育にプログラミングを取り入れよう、なんて話もある。色々と意見はあるが、プログラミングの経験は、一つ大きな利益がある。それは、「自分はよく間違える」と思い知る事だ。

ジュリアン・ピゲロー「自分がやろうとしていることをほんとうに理解している人々は、彼らの考えをコード化された指令として表現することができ……、そして答を見出し、数値表現によって明確に表現することができるだろう。このプロセスは、知識を高め、確固たるものにし、人間を正直でいさせる傾向がある」
  ――第14章 技術者の夢

 プログラマなら、たいてい経験している。バグを指摘されると、最初は利用者のせいにする。次にOSやライブラリ、次にコンパイラの、しまいには「CPUのバグだ」とか言い出す。でも…

 そういう事を何度か経験すると、多少は謙虚さを身に着けるんです。

 やはり最近は発達したAI(というか強化学習)が人の仕事を奪う、なんて話もあるけど…

ジョン・フォン・ノイマン「われわれにできる最善のことは、すべてのプロセスを、機械のほうが得意なことと人間のほうが得意なことに分け、そして、この両者を追求する方法を創り出すことです」
  ――第14章 技術者の夢

 なんて、けっこう常識的な事も言ってるんだよなあ。もっとも、ポルノなんて使い道は考えなかっただろうけど。

【第17章 巨大コンピュータの物語】

 終盤に入ると、だいぶ現代に近い話もでてきて、ばかりでなく、未来への展望も少々。

 SF者としてとっても楽しかったのが、この章。物理学者のハンス・アルヴェーン、片手間に小説も書いてた。ペンネームはウロフ・ヨハネッソン、作品名は「未来コンピュータ帝国」。今は版元が潰れてるから手に入れるのは難しそうだけど、なんか面白そう。なんたって…

(ハンス・)アルヴェーンのヴィジョンでは、コンピュータは世界最大の脅威の二つ――核兵器と政治家――を直ちに廃絶することになっていた。
  ――第17章 巨大コンピュータの物語

 とか。政治家こそが脅威ってのがいい。あ、もちろん、政治家がすなおに地位を受け渡すハズはないってのも、ちゃんと織り込んでる。おまけに…

ハンス・アルヴェーン「データ・マシンたちは大々的に進歩したのに、人間はそうではありませんでした」
  ――第17章 巨大コンピュータの物語

 なんて、見事にムーアの法則を予言してる。どころか、コンピュータ・ネットワークの発達がデマの流布に拍車をかけるなんてのは、さすがに想像できなかっただろうなあ。

【第18章 39番めのステップ】

 最終章は、やはりプログラマの胸に突き刺さる言葉で始まる。

ジョン・フォン・ノイマン「新しいコードを書くほうが古いコードを理解するよりも容易です」
  ――第18章 39番めのステップ

 いやまったく。あなたもありませんか、面倒だから全部書き直しちゃえ、なんて思ったことが。私は何度もあるし、実際にやりました。テヘw ちなみに感想は常に「やってよかった」です。

【おわりに】

 読み終えてみると、読後感はちょっとトム・ウルフの「ザ・ライト・スタッフ」に似てる。つまり、「なんでここで終わるかなあ、これからが面白いのに」だ。もっとも、そんな読者の要望に応えてたら、いつまでたっても終わらないのも同じ。誰か続きを書いてくれないかなあ。

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