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2019年2月12日 (火)

ジョージ・ダイソン「チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来」早川書房 吉田三知世訳 2

ウラジーミル・ツヴォルキン「走っていなければ、アイデアに出くわすことなんてできないよ」
  ――第5章 MANIAC

ジョン・フォン・ノイマン「彼(クルト・ゲーデル)ほどの力量と実績のある人物の行為を評価できるのは、本人だけです」
  ――第6章 フルド219

 ジョージ・ダイソン「チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来」早川書房 吉田三知世訳 1 から続く。

【どんな本?】

 1930年代、学者の楽園を目指し設立されたプリンストン高等研究所。第二次世界大戦により欧州から優れた頭脳が流入すると共に、軍の思惑もあって「計算」の需要が増し、数学者や技術者たちはプログラム内蔵型コンピュータを生み出す。

 プリンストン高等研究所を中心に、現代的なコンピュータの誕生と、それに携わった数学者・科学者・技術者たちの姿を描く、一般向けの科学・歴史解説書。

【ハードウェア】

 本書にはハードウェアの解説もある。が、正直言って、私はよくわからなかった。電気、それも弱電に強い人ならついていけるかも。

 とまれ、面白いと思ったのは二つ。

 一つは内蔵メモリ。なんとブラウン管=CRTだ。ブラウン管のテレビも液晶テレビと同様、沢山のドットが集まって映像になる。ブラウン管の個々のドットは、電子ビームが当たると光る。ビームが切れても、少しの間だけ光り続ける。消える前に再びビームを当てれば、記録を残せるじゃん。

 ってんで、画面を32×32の領域にわければ、1024ビットのメモリが出来上がる。今の表現だと128バイトですね。こういうCRTを幾つかまとめたのが、黎明期のコンピュータのRAMだった。今だと、ベクトル・レジスタ代わりにGPUを使うって手口があるけど、そのご先祖様はコレなのかも。

 もう一つは外部メモリ。今ならハードディスクあたる部品。なんと、理屈の上では無限なのだ。なぜって、パンチカードだから。必要なだけカードを用意すりゃいいのだ。同じ理屈は、今のパソコンでも使える。USBメモリを山ほど用意すれば、理論上は無限の容量になる。

 ただ、USBメモリの抜き差しは人がやるから、RAMに比べ異様に遅い。同様に、パンチカードも読み込みや穿孔に時間がかかる。昔から、早いメモリは高く遅いメモリは安かったのだ。

【変人さん大集合】

ジョン・フォン・ノイマン「このタイプの装置の新しさはあまりにラディカルであり、実際に作動するようになってはじめて、その利用法の多くが明らかになるでしょう」
  ――第5章 MANIAC

 かような計算資源の匂いを嗅ぎつけたのか、プリンストンには様々な人が集まってくる。彼らが持ち寄る「課題」と「解法」は、現代でも充分に現役で活躍している、または盛んに研究されているモノが多く、私にはこの部分が最も読んでて楽しかった。例えばクルト・ゲーデルは短期間だけど日本にも立ち寄ってる。

 と、その前に。

 世界で最初のプログラマはエイダ・ラブレスと言われている。彼女に次ぐプログラマも、実は女だったのだ。その名もクラリ・フォン・ノイマン。ジョン・フォン・ノイマンの奥さんだ。

 プログラムったって、VisualBasic みたいなスクリプト言語じゃない。アセンブラですらなく、生の機械語を、16進数でガリガリ書いていくのだ。アドレスだって自分で計算せにゃならん。変数ならともかく、分岐先のアドレスまで手計算するのである。現在、そんな真似ができる人がどれだけいることか。

 お陰でデバッグも大変だが、マシンだって常に上機嫌とは限らない。

「動かすために、コードを二度ロードしないといけないことがあるのはなぜなのか、どうもわからん。しかし、二度目に動くことのほうが普通だ」
  ――第8章 V40

 なんて台詞も出てくる。かつて「マイコン」と呼ばれた時代、カセットテープでプログラムをロードしていた頃を思い出して微笑む人も多いだろう。

【第9章 低気圧の発生】

ルイス・フライ・リチャードソン「おそらくいいつか漠然とした将来に、天気が変化するよりも速く計算ができるようになり、しかも、人類にもたらされる情報についていえば、そのために費やされるコストを補って余りある蓄積ができることだろう」
  ――第9章 低気圧の発生

 さて、集まった頭脳の中には、気象学者もいた。リチャードソンは1920年ごろに気象シミュレーションの概念を発表している。当時は軍も天気予報の重要性を充分にわかっていただろう。なんたってノルマンディ上陸作戦で苦労した直後だし。

 技術がリチャードソンの発想に追いついたのが1950年。ジュール・グレゴリー・チャーニーらが、ENIAC で予測を出す。

「24時間予測のための計算の所要時間は約24時間となり、こうしてわれわれは天気と同じペースで計算できるようになったのである」
  ――第9章 低気圧の発生

 まさしく実時間シミュレーションだ。それに何の意味があるのかって問いが野暮なことは、後のコンピュータの歴史が証明している。

 ちなみにこの章ではオラフ・ステープルドンもゲストに出てきたり、二酸化炭素による温暖化問題が1950年代から唱えられてたりと、意外性も抜群だ。

【第10章 モンテカルロ】

スタン・ウラム「ゲーデルの定理の一つの意味は、これら(ソリティアなど)のゲームの性質の一部は、それを実際にプレイしないことには究明できないということである」
  ――第10章 モンテカルロ

 ここで主役を務めるのはスタン・ウラムと、彼が生み出したモンテカルロ法。分子の動きなどをコンピュータでシミュレーションをする際に、全ての分子を計算するのではなく、ランダムに選んだ幾つかの分子だけの計算で済まそうとする、一種の最適化・高速化の手法だ。

 ただし、ランダムと言っても、本当のランダムを作り出すのは難しい。

ジョン・フォン・ノイマン「乱数を算術的方法によって生成しようとする者は皆、罪をおかしている」
  ――第10章 モンテカルロ

 これは今でも変わっていない。というか、当時からソレに気づいていたフォン・ノイマンすげえ。ただ、モンテカルロ法の誕生の秘密は、ちと切ない。

デジタル宇宙と水素爆弾は同時に誕生した。
  ――第11章 ウラムの悪魔

 先に「分子の動き」と言った。アレは単なる例えじゃない。核融合を起こす状態にまで重水素を加熱・圧縮する方法を探るためのシミュレーション法として使われたのだ。次の11章では、悪名高いオリオン計画(→Wikipedia)も少し出てくる。

【第12章 バリチェリの宇宙】

(ニルス・アール・)バリチェリは、問題は地球外生命が存在するか否かではなく、われわれにそれが認識できるかどうかだと確信していた。
  ――第12章 バリチェリの宇宙

 第12章の主役はニルス・アール・バリチェリ。彼が挑んだのは、生存競争のシミュレーションから、進化の謎を解き明かすこと。この本を読む限り、彼が行ったのは、現代の遺伝的アルゴリズム(→Wikipedia)の雛型のように思える。

 当時の発想が今でも研究の対象になるってのは、なんなんだろうね。ソフトウェアの進歩ってのは、そんなもんなのか、またはもっとトンデモナイ発想は出てきてるけど、私が知らないだけなのか。

【おわりに】

 ダラダラと長くなっちゃったけど、次の記事で終わります、たぶん。

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