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2018年12月30日 (日)

2018年に面白かった小説3つノンフィクション3つ

 はい、例年通り、ノリと思い付きで選んでます。

【小説】

ケン・リュウ編「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」新☆ハヤカワSFシリーズ 中原尚哉他訳
 活況を呈している現代中国のSFシーンから、選りすぐりの短編を集めた珠玉のアンソロジー。現代中国の社会問題を鋭くえぐる陳楸帆「鼠年」,幼い子供の目を通し、日本同様の高齢化問題に対峙した夏笳「童童の夏」,階層社会を鮮やかに視覚化した郝景芳「折りたたみ北京」,秦の政王(後の始皇帝)と、その暗殺を目論む荊軻を中心にマッドなアイデアを展開する劉慈欣「円」など、SFとしての読みごたえは抜群。
 それに加えて感慨深いのが、中国も日本同様に、SFは欧米からの輸入文化であること。終盤のコラムでは輸入文化と中国人としての自己認識の葛藤が垣間見える。が、中国人でも欧米人でもない日本人の目で作品を見ると、主要人物像はもちろん、端役の振る舞い・風景・ガジェットなどの細部に、隠しようのない中華風味が漂っている。
新井素子「星へ行く船」出版芸術社
 兄のパスポートを失敬してコッソリ宇宙へと家出した森村。個室を予約したはずが、なぜか先客がいる。どうもダブル・ブッキングされたらしい。しかも先客は物騒な奴で…。若き新井素子が当時の若者たちを熱狂させた、ジュブナイルSFの傑作。
 サクサクと読める文章の親しみやすさ、ユーモラスで個性あふれる会話、コロコロと転がってゆくストーリーと、現代ならライトノベルに相当する市場への訴求力は今でも全く衰えていない。加えて「通りすがりのレイディ」から登場するレイディの破壊的な魅力は、それこそ「ヤバ」だ。
ディーン・R・クーンツ「ウォッチャーズ 上・下」文春文庫 松本剛史訳
 36歳の独身男トラヴィス・コーネルは、ピクニックの途中で野良のゴールデン・レトリーヴァーを拾う。やたら人懐っこいが、どこか妙な所がある犬に、トラヴィスはアインシュタインと名づける。アインシュタインを介して知り合ったノーラ・デヴォンにトラヴィスは惹かれ…
 発売当初、全米のペットショップからゴールデン・レトリーヴァーが払拭したとの伝説を持つベストセラー。伝説の真偽は不明だが、読めば本当だろうと思えてくる。とにかくアインシュタインの可愛さったらない。お話の流れは直球の王道だが、それだけに読了後の心地よさもひとしおだ。

【ノンフィクション】

ヨアヒム・ラートカウ「木材と文明 ヨーロッパは木材の文明だった」築地書館 山縣光晶訳
 現代に生きる私たちにとって、木材は構造材の一つという印象が強い。だが歴史的に木材、というか森は、もっと様々な役割を果たしてきた。領主にとっては種猟場であり、農家にとっては家畜の放牧場であり、また薪の補給地でもあり、海軍にとっては軍船の材料だった。特に燃料としての価値は重要で…
 木の性質に注目すれば生物学や工学の側面もあり、農民の暮らしに注目すれば農学や生活史であり、軍船の素材だから軍事学でもあり、薪に注目すれば経済学であり、森の保全を考えれば政治学・社会学でもある。そんな広範囲の学問を含む林学へと読者を誘う、野次馬根性旺盛な者には危険極まりない本。似たテーマを扱った「森と文明」は歴史学の色が濃いが、やはり読み応え・面白さ共に素晴らしい。
アナスタシア・マークス・デ・サルセド「戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係」白揚社 田沢恭子訳
 ハムや瓶詰に始まった、軍事技術が生み出した食品の保存技術は、現代においてインスタントコーヒーからレトルトカレーまでを生み出す。乾燥したインスタントコーヒーはともかく、大量の水分を含むレトルト食品は、なぜ腐らないのか。そこには最新の科学と工学を駆使した米軍の計画的な研究体制があった。
 軍事技術と最新科学が、私たちの暮らしに染み込んでいる事を、毎日食べる食品を通じて否応なしに思い知らせてくれる本。たかがレトルトと馬鹿にしちゃいけない。そこにはとんでもないハイテクが使われてたりする。これは牛乳やジュースも同じで…
マーチン・ファン・クレフェルト「戦争文化論 上・下」原書房 石津朋之監訳
 クラウゼヴィッツは戦争論で主張した。「戦争は政治の延長だ」。戦争とは利害に基づくものであり、勝敗は目的を達したか否かで決まる、と。これに対しクレフェルトはいきなりカマす。「この考えは見当違いもはなはだしい」。ではなぜ戦争が起きるのか。
 いかにもタカ派が好みそうな書名だが、むしろハト派こそが読むべき本。どう見てもリベラルなスティヴン・スピルバーグが創った映画「プライベート・ライアン」に、世界中の軍ヲタは歓喜の声をあげた。CNNが映す湾岸戦争やイラク戦争に、人々はかじりついた。なぜなら…

【終わりに】

 もちろん「われらはレギオン」や「七人のイヴ」や「巨神計画」も面白かったけど、まだ最後まで読んでないし。あ、いや「アイアマンガー」も頭クラクラしましたよ、はい。「ヒストリア」の池上ヒロイン大暴れも楽しかったし、「架空論文投稿計画」にもニヤニヤしたし。

 身のまわりの科学って点じゃ「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」も良かったし、ジョエル・ベストの統計シリーズも少しニュースの見方が変わった。歴史じゃ「平和を破滅させた和平」と「完璧な赤」が読み応えバッチリで、軍事じゃ「戦争は女の顔をしていない」の読みやすさと中身のギャップが凄い。「ヒトはなぜ神を信じるのか」は宗教やオカルトの根源に迫る傑作で、「ネットリンチで人生を壊された人たち」は煽情的な書名と裏腹にヒトの心の働きに切り込んで…と、今年も面白い本を挙げていったらキリがないので、この辺でおやすみなさい。

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