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2018年12月26日 (水)

クリントン・ロメシャ「レッド・プラトーン 14時間の死闘」早川書房 伏見威蕃訳

これから述べるのは、ひとりの物語ではなく、小隊全体の物語である。
  ――序章 いまよりマシにはならない

最終的には、おたがいを信じる身内組の緊密な核のまわりを、溶け込めそうにない一匹狼のばらばらな塊が周回することになる。
  ――第2章 手勢をそろえる

要するに、キーティングは遠陬にあり、孤立し、補給がほとんど不可能で、俯瞰射撃に対してあまりにも無防備なので、防御するには大規模な砲兵部隊と航空力を必要とする。
  ――第3章 キーティング

「おれたちはすごい強兵だから」コプスはそういうときにレッド小隊のことを自慢する。「うんこ缶とも戦うんだ」
  ――第4章 金魚鉢のなか

ベラミーはバンダーマンに、フリッチーが全方位からの大規模な射撃にさらされていると説明した。その大部分が、重火器でキーティングを支援できないように、迫撃砲掩体壕に集中していた。
  ――第10章 視野狭窄

フォート・カーソンで戦闘訓練の際に、兵士たちの頭に植え付けたもっとも重要な注意点は、複数の方向から攻撃されているときには、ひとりもしくはひとつの集団のみに神経を集中してはいけないということだった。
  ――第10章 視野狭窄

小さく固まるのは、全滅を覚悟して最後の抵抗の準備をするときだけだ。
  ――第12章 「敵が鉄条網内に侵入」

「あんたたちは外のやつらを片付けてくれ。われわれはなかの敵をすべて殺す」
  ――第14章 そいつらを燃やせ

“死体はつぎの死体を惹きつける”
  ――第18章 生きている!

訓練の際の、経験と常識に基づいた方式では、離隔距離――爆発点ともっとも近い兵員の距離――は、1ポンド当たり90cm以上でなければならないとされている。
  ――第19章 B-1

【どんな本?】

 2009年10月3日。アフガニスタン北東部ヌーリスタン州にある、米軍の戦闘前哨(COP)キーティングは、タリバンの激しい攻撃を受ける。基地を守るのは合衆国陸軍第4歩兵師団第4旅団戦闘団第61騎兵連隊第3偵察大隊B中隊の約50名のほか、アフガニスタン国軍の40名ほど。攻撃側のタリバンは300名ほどと見られる。

 キーティングは周囲を山に囲まれ、すり鉢の底のような所にある。四方から見下ろして狙撃できるため、防衛には最悪の地形である。以前からタリバンは軽い攻撃を繰り返し、米軍の反撃パターンを学び、効果的な攻略法を編み上げていた。

 朝6時に攻撃が始まると、たちまちアフガニスタン国軍の将兵は散り散りになって逃げてしまう。米兵50名で、300名のタリバンに応戦しなければならない。近く撤収の予定があるためか、ロクに陣も築けていない状況で、B中隊は四方からの銃撃・砲撃に晒される。

 「キーティングの戦い」と呼ばれるこの激戦で、前線に立ち戦闘を指揮したクリントン・ロメシャ二等軍曹が、自らの記憶に加え共に戦ったB中隊の面々や、支援に駆け付けたヘリコプター・戦闘機・攻撃機部隊などへの綿密な取材、そして米軍が提供する資料を元に、壮絶な戦いを分単位で再現する、迫真の戦闘記録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Red Platoon : A True Story of American Valor, by Clinton Romesha, 2016。日本語版は2017年10月25日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約400頁に加え、訳者あとがき6頁。9ポイント45字×21行×400頁=約378,000字、400字詰め原稿用紙で約945枚。文庫本なら上下巻でもいい分量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も軍事物のわりに意外とわかりやすい。戦闘物なので兵器の名前が次々と出てくるが、大半は説明があるので、丁寧に読めば素人でも雰囲気は掴める。ただし用語集のような形にはまとまっていないので、多数の栞を用意しよう。

 敢えて言えば、小銃・重機関銃・擲弾銃・迫撃砲の違いがわかるといい。小銃は普通の歩兵が持つ銃。重機関銃は地面において撃つ大型の機関銃。擲弾銃は銃弾の代わりに小型の爆弾を打ち出す。迫撃砲は擲弾銃より大きい爆弾をより遠く正確に撃てる。

【構成は?】

 ほぼ時系列に進むので、素直に頭から読もう。

  • 本書への賛辞
  • 序章 いまよりマシにはならない
  • 第1部 ヌーリスタンへの道
    • 第1章 部下を失う
    • 第2章 手勢をそろえる
    • 第3章 キーティング
    • 第4章 金魚鉢のなか
    • 第5章 だれでも死ぬ
  • 第2部 最大発射速度での連射
    • 第6章 「だれかを殺しに行こうぜ」
    • 第7章 重度の接触
    • 第8章 コンバット・カーク
    • 第9章 運
    • 第10章 視野狭窄
  • 第3部 蹂躙
    • 第11章 唯一の応戦陣地
    • 第12章 「敵が鉄条網内に侵入」
    • 第13章 アラモ陣地
    • 第14章 そいつらを燃やせ
  • 第4部 こいつを取り戻す
    • 第15章 反撃開始
    • 第16章 持ちこたえられない
    • 第17章 オックスとフィンチ
    • 第18章 生きている!
    • 第19章 B-1
  • 第5部 ステファン・メイスを救う
    • 第20章 「そいつを片付けろ」
    • 第21章 遺体回収
    • 第22章 火災
    • 第23章 さらばキーティング
    • 第24章 残り火
  • エピローグ
  • 追悼/情報源についての覚書/謝辞
  • 訳者あとがき

 登場人物が多く、多数の兵器や略語が出てくるので、登場人物一覧と用語集が欲しかった。

【感想は?】

 つくづく思う。アメリカ軍は強いが、アメリカ政府は戦争が下手だ。

 キーティング基地からして、素人でも最悪の場所だとわかる。なんたってすり鉢の底だ。四方から見下ろして打ち放題である。で、実際、B中隊はそういう目に遭う。

 陸路での補給もできないんで、補給はヘリ頼り。だってのに、ヘリの発着場は基地の外、橋を渡った向こう側。築陣もなってない。二次大戦中のドイツ軍ならコンクリート製の強固な要塞を建てたろうに、塹壕すら掘ってない。

 運営もなっちゃない。地元民に工事を頼むって、朝鮮戦争で痛い目を見たのを忘れたのか(→コールデスト・ウィンター)。どころかアフガニスタン治安警備隊(アフガニスタン国軍とは別組織)の指揮官が基地内に店を開き、そこに地元民も出入りしてる。内情はタリバンに筒抜けじゃん。つか店の商品は横流し品だろ。

 隊の編成も出鱈目。B小隊、以前はイラクにいたんだが、20名の隊員中、帰国後に残ったのは3人だけ。小隊長も変わる。ってんで、中身はほぼ総とっかえ。しかも途中で補充兵がくる。エイブラム・カーディナーが補充兵のヤバさをさんざん警告してるのに(→戦争ストレスと神経症)。そんな有象無象をチームに仕立てる軍曹さんの苦労がしのばれる。

 衛生状態も医療関係者が読んだら卒倒しそうなシロモノで。なんじゃい小便チューブって。糞も焼却かいw しかもシャワーは週に一度ありゃいい方で、ノミが跳梁跋扈。きっとシラミもいるんだろうなあ。

 対するタリバンは、だいぶ前から軽い攻撃を繰り返して米軍の応戦パターンを掴むなど、かなり用意周到。当日の作戦も見事で、単に四方から撃ちまくるだけじゃなく、ちゃんと標的の優先順位も考えてる。何より発電機をヤられたのが痛い。しかも護衛の砲術基地も同時に攻撃する周到さ。

 前日譚じゃ少しイラクの話も出てきて、輸送隊が道路を逆走する意味もわかった。「戦場の掟」や「ブラックウォーター」じゃ狙撃を避けるためとあったが、ここでは敵を挑発するため、となっている。敵を狩る目的で小隊を指揮する軍曹としては適切な行動だが、イラクの安定が目的の米軍としちゃどうよ。

 そんな前日譚に続く当日の様子は、まさに分刻みの精密な描写に驚く。これが単に基地内だけではなく、なんと中東のカタールにまで及んでいる。混乱を極めた戦闘を、ここまで鮮やかに再現できたのは、綿密な取材あればこそ。同じ地獄を味わった戦友、という絆が可能にしたんだろう。

 戦闘では、まずMk.19自動擲弾銃(→Wikipedia)の有難みが光る。要は手榴弾をバラまく銃だ。機関銃と違い、爆弾を飛ばすんだから、だいたいの狙いを付けりゃ多少外れても構わないし、木や岩の影にいる敵もその後ろに当てれば吹っ飛ぶから、威力は絶大だ。富豪米軍ならではの贅沢な装備。

 終盤ではMQ-9リーパー無人機・AH-64アパッチ攻撃ヘリ・F-15Eイーグル戦闘機・A-10サンダーボルト攻撃機・AC-130Hスペクター攻撃機が入り乱れ、KC-135ストラトタンカー空中給油機・KC-10空中給油機に加え、カタールからB-1ランサー大型爆撃機まで出演する大盤振る舞い。つくづく米軍の金満ぶりにあいた口がふさがらない。

 冒頭では「ホース・ソルジャー」や「アフガン、たった一人の生還」など、同じアフガニスタンを舞台とした作品への言及もあり、著者の視野の広さをうかがわせる。と同時に、一つのトラックの中に閉じ込められた数人の兵の動きを鮮やかに再現するなど、細かい部分の解像度も凄まじい。

 徹底してリアルに戦場の一日を、分刻みの細かさで描き出すことで、圧倒的な迫力を持つことに成功した、戦場記録の傑作だ。

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