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2018年11月29日 (木)

日下三蔵編「日本SF傑作選4 平井和正 虎は目覚める/サイボーグ・ブルース」ハヤカワ文庫JA

あたし、ほんとに思っただけで、生きものを殺せるんです。
  ――死を蒔く女

「いまシティには虎が……凶暴な虎がいるんです」
  ――虎は目覚める

「超能力者狩りのハンターは、同じ超能力者が最適です」
  ――エスパーお蘭

【どんな本?】

 日本SFの初期にデビューし、「エイトマン」「デスハンター」など人気漫画・アニメの原作で多くの子どもたちにSFウイルスを植え付け、後には「幻魔大戦」「ウルフガイ」「地球樹の女神」などの大作シリーズを世に送り出したSF作家・平井和正の、初期作品を集めた傑作選。

 黄金期のアメリカSFの血を受け継いだ、アイデアが光るホラー・タッチの作品もあるが、それよりアメリカン・ハードボイルドの影響を強く受けた作風が特徴だろう。

 無常観が漂う設定、人の心の底に渦巻く悪意を容赦なく暴き出すストーリー、激しいバトル・アクション、過激な暴力シーンやグロテスクな描写に果敢に挑み、日本SFの表現の幅を広げ、独特の世界を形成した。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年2月15日発行。文庫本で縦一段組み本文約766頁に加え、編者解説11頁。9ポイント41字×18行×766頁=約565,308字、400字詰め原稿用紙で約1,414枚。常識的な文庫本なら上中下の三巻に分ける大容量。

 文章はこなれている。超能力やサイボーグなど、SFガジェットは最近の若者にはお馴染みのアイデアが多いので、SFに慣れていない人でも大丈夫だろう。それより全体に漂う厭世観・無常観や、暴力・グロテスクな描写で好き嫌いが分かれるかも。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

レオノーラ / 宇宙塵53号 1962年2月 SFマガジン1962年6月号
 21世紀のアメリカ中世部で、脚をケガした白人の少女に、ケンは手を差し伸べる。周りの白人たちはケンの行為を誤解し、袋叩きにした。大怪我をしたケンは、それ以来、人間を恐れ地下室に閉じこもり、悪夢にうなされ続ける。ケンを心配した妹のジュリは…
 いきなり最初から著者の絶望と怨念と暴力衝動が凝集した、ダークな側面が強く出ている作品。ケンは、いわば究極のひきこもりですね。とはいえ、当時は任天堂スイッチもインターネットもないわけで。でも考えようによっては、似たような事件が今でも起こっているんだよなあ。
死を蒔く女 / 宇宙塵56号 1962年6月
 精神科医は、ひどく恐れていた。だが、それを認めたくない。そんなこと、常識ではありえない。あの女にも、そう言った。想像と現実をとり違えている、それは強迫観念だ、治療すればよくなる、と。
 精神病医ってあたりに、フレドリック・ブラウンなどの影響を受けた当時のSFの潮流を感じさせる。ブラウンの作品は、主に星新一が訳したためか、軽妙でクールな雰囲気なのだが、この作品は著者のカラーのためか、今ならホラーに分類されそうな重苦しい空気が漂っている。
虎は目覚める / SFマガジン1963年2月号
 21世紀から、二つの動きが興った。一方は宇宙開拓。もう一方は、人間精神改革。人類は宇宙に版図を広げると共に、地上では凶悪犯が姿を消した。だが、その反面、地球の者は覇気を失い、活気に満ちた宇宙開拓者たちと袂を分かつ。
 以降の作品にも、「虎」はよく出てくる。エネルギッシュな生命力に満ち、禍々しく凶暴で狡猾。著者お気に入りのメタファーなんだろう。平穏を求めつつも、内には暴力衝動を抱えた葛藤を、主人公のロケット・マンに投影していると思う。
背後の虎 / SFマガジン1963年9月号
 麻須美の流産は三度目だ。今は絶望に囚われ、カーテンを閉め切った部屋に閉じこもっている。夫の幸太郎は、そんな麻須美に、あいさつもせず大阪への出張に出かけた。氷のような麻須美の目に耐えられないのだ。
 ホラー。次々と軽快なテンポで視点を切り替え、雰囲気を盛りあげていく構成は、今でも充分にテレビ・ドラマで通用しそうなくらい、鮮やかな映像が脳内に浮かび上がってくる。これ以降、エイトマンに代表されるテレビ脚本での活躍も納得の手腕だ。
次元モンタージュ / NULL10号 1964年1月
 おかしい。何か世界に違和感がある。不審に思いつつ、ルウは主人の部屋へと向かう。が、何かが違う。それは主人の足音に似ている。だが、主人のものではない。成熟した猫であるにも関わらず、ルウは主人を求めて啼き続ける。
 今放映しているアニメ「あかねさす少女」と同じく、パラレル・ワールドを扱った作品。私はルウに肩入れしちゃったなあ。
虎は暗闇より / SFマガジン1966年2月号
 三か月前、ぼくは交通事故で頭を強く打ち、二か月も入院した。連載に穴をあけてしまったが、幸い今のところ後遺症もない。だが、その日、友人の池見と食事していた時から、様子が変わった。それまでは全く事故や事件を目撃する機会がなかったのだが…
 これもホラー。当時は交通戦争とも呼ばれるくらい、交通事故が多かった時代で、ドライバーのマナーも褒められたモンじゃなかった。登場する友人たちのモデルを考えるのも面白いだろう。安田は星新一かなあ。
エスパーお蘭 / SFマガジン1968年2月号
 増える超能力者を、人類は恐れ、収容所に隔離した。迫害される超能力者も反撃に出る。中でも恐ろしいのは念爆者だ。大統領特別補佐官のショウ・ボールドウィンは収容所を訪れる。目的はオラン・アズマ、感応者だ。彼女の協力を得て…
 サイボーグ警官と超能力者のバディ物。冒頭のビルの爆破シーンから、映像化したら映えそうな迫力に満ちた派手なアクションの連続で、ケレン味たっぷりの娯楽作。スピード感といい危機また危機の展開といい、ヴォクトの「スラン」を思わせる。
悪徳学園 / SFマガジン1969年10月号
 博徳学園、またの名を悪徳学園。私立の中学校だ。おれのクラスには非行少年が集まっていて、<はきだめ教室>と教師たちは呼んでいる。そこに新任の若い女教師が来た。斎木美夜。彼女はワルどものひやかしを軽くいなし、おれを職員室に呼び出した。
 今読むと、主人公の名前が犬神明って時点でネタバレだw でもキャラは神明、またはアダルト・ウルフガイに近く、けっこう軽口もたたく。ヤンキー漫画の舞台に大藪春彦小説の主人公を放り込み、高倉健が主役を演じるヤクザ映画の展開に仕立てた学園物。
星新一の内的宇宙 / SFマガジン1970年5月号
 皆さんは星新一と聞いて、どんな人物を思い浮かべるだろう? マスコミには折り目正しいマジメな姿しか見せていない。だが、SF作家たちに囲まれた星新一は、とても危険な人物になる。研ぎ澄まされた知性が発する発言は、多くのSF作家を痙攣に追い込み…
 タイトルの星新一をはじめ、小松左京・筒井康隆・豊田有恒・矢野徹・大伴昌司・伊藤典夫・森優(南山宏)と、当時のSF界の大物をゲストに迎えた(というよりネタにした)ユーモア掌編。矢野さん、雀卓ではそういう立場だったのかw
転生 / SFマガジン1970年11月増刊号
 高校三年の内藤由紀と野村みどりは、バスを待つ時にクラスメートの江島三郎に声をかける。そこに暴走トラックが突っ込む。大惨事となり多数の被害者が出たが、由紀とみどりは奇跡的にほぼ無傷だった。奇妙なことに、江島は被害者の名簿に載らず、行方も知れない。
 無傷の由紀とみどり、姿を消した江島に始まり、次々と謎と恐怖が深まってゆく前半。事態が悪化しサスペンスが盛り上がる中盤。そして呆然とする結末。携帯電話が普及した今、多少の手直しは要るが、それ以外はほとんどこのまま若手女優の主演映画に使えそうなぐらい、映像化にピッタリの作品だ。
サイボーグ・ブルース / 連作短編集。詳細は後述。
『デスハンター』エピローグ / <狼火>6号 1985年1月
 異星生命体デス。宇宙からの侵略者。ヒトに取り憑き、不死の怪物に変える。デスに対抗するため、人類は国際秘密機関デスハンターを組織する。カーレーサー田村俊夫は事故で大怪我を負い、デスハンターとして蘇生した。だが組織の秘密を知った俊夫は…
 「死霊狩り」は、自らが原作を担当した漫画「デスハンター」を小説化したもの。容赦ない暴力描写といい、絶望と怨嗟に満ちた世界観といい、初期の平井ワールドの到達点としてひとつの頂点をなす作品だろう。ただし読者によっては厨二病を激しく重篤化させる劇薬でもあるので、用法には充分な配慮が求められる。
付録
『悪夢のかたち』ハヤカワ文庫版あとがき わが青春のモニュメント
『悪徳学園』ハヤカワ文庫版あとがき
『サイボーグ・ブルース』ハヤカワ書房版あとがき エイトマンへの鎮魂歌
編者解説
平井和正 著作リスト

【サイボーグ・ブルース】

「私をぶっ倒したかったら、熱線銃かハンド・ミサイルを持ってこい。ついでに戦車にでも乗ってくるがいい」
  ――ブラック・モンスター

「私は機械から自由な人間に戻るんです」
  ――サイボーグ・ブルース

「アーネスト・ライトは死んだんだよ。気のいいくろんぼのアーニーはな。ここにいるのは死人の怨霊さ」
  ――シンジケート・マン

「あんたは時限爆弾とおなじだよ。いつドカンとくるかわからない」
  ――ゴースト・イメージ

 「エイトマン」は人気を博しながらも、関係者のスキャンダルにより打ち切りとなった。そこで出し切れなかった陰の部分を、存分に描き切った連作短編。殉職したがサイボーグ特捜官として復活した黒人警官アーネスト・ライトの苦悩と、彼を取り巻く社会の暗部を、ハードボイルド・タッチで綴る。

 それぞれ 作品名 / 初出。

第一章 ブラック・モンスター / SFマガジン1968年5月号
 サイボーグ特捜官、ライト警部。元は殉職した警官だ。肉体の大部分を人工器官に取り換え、超人的な能力を持つ。メガロポリスを訪れたライトは、二人の若者が目撃した殺人事件に興味を抱く。だが市警は慇懃に協力を拒むばかりか、捜査協力と称したお目付け役まで差し向けてきた。
 目撃者ジュンとレイは、当時のヒッピーを思わせる。また激しい人種差別は、やはり公民権運動が盛り上がった時代を感じさせる。だが、冒頭の警官が示す権力をかさに着たマチズモや、署長のことなかれ主義は、時代も国も超えて存在している。現代は、単に差別が見えにくくなっただけで、実は何も解決していないのかも。
第二章 サイボーグ・ブルース / SFマガジン1968年10月号
 ライトは特捜官を辞めた。その一週間後、生田トオルと出会う。売れない作家だが、その妻オリヴィア・カンバーランドは億万長者だ。彼の豪邸に招かれたライトは、彼らの奇妙な暮らしを目撃する。
 ヒトの脳を持つサイボーグと、全てが機械仕掛けのロボットを対比させ、サイボーグの悩みを浮かび上がらせる作品。なんだけど、私はなぜかトム・リーミイの「サンディエゴ・ライトフット・スー」を思い浮かべた。
暗闇への間奏曲 サイボーグ特捜官 エクストラ / SFマガジン1969年6月号
 リベラは殺し屋だ。飛びぬけて優秀なのにはワケがある。彼はサイボーグなのだ。今回の依頼人はフランク・キャンドレス。表向きは弁護士だが、実態はクライム・シンジケートの司令官の一人。依頼を聴いた帰り道、リベラは奇妙な娘と出逢う。
 今回は特捜官ではなく、犯罪者の側のサイボーグの視点で描く作品。前半では、徹底して合理的で冷静なサイボーグのリベラと、生身の嫌らしさを持つキャンドレスや部下のキノを対比させる。それが後半に入ると…。
第三章 ダーク・パワー / SFマガジン1968年11月号
 違法駐車の罰金の請求が、18歳の少女オルガ・オリベッティに来た。オルガは身に覚えがないと申し立てる。摘発した警官も、オルガを見た覚えがない。違反車の持主は、事件当時は旅行中で不在。交通局が捜査に乗り出すが、担当した捜査官は集めたデータを全て破棄してしまう。そればかりか、腕利きのサイボーグ特捜官のマロリーまで煙に巻かれ…
 冒頭の<覗き屋>は、スパイダーマンのネタかな? 駐車違反なんて、サイボーグ特捜官が乗り出すにはチンケすぎる事件だよな、と思っていたら、意外な方向へ。今さらながら、この作品での警官の描かれ方は、例の事件が関係してるのかも、などと思ったり。にしても終盤のバトル・シーンは、やはり映像化したら映えそうな迫力に満ちている。
第四章 シンジケート・マン / SFマガジン1969年2月号
 珍しい客が来た。メンデイ・メンドーザ、かつての同僚だ。三年前に警察を辞め、今はハリウッドで私立探偵社を営み、50人ほどの従業員を抱えている。元サイボーグ特捜官なら探偵社としては金の卵だから、共同経営者に迎えたい。そんな話だ。
 客の来ないシケた私立探偵の元に、かつての親友で優秀な警官が、美味しい話を持ってくる。私立探偵物のお約束としては、当然ウラがあるわけだか…。著者のハードボイルドな側面を、心ゆくまで堪能できる。
第五章 ゴースト・イメージ / SFマガジン1969年3月号
 サイボーグ特捜官には二つのタイプがある。人の心を喪ってゆくタイプと、怨念で自己を支えるタイプ。だが腕利きのマロリーはいずれでもない。人としての温かみを保ち続ける稀有な存在だ。そのマロリーが訪ねて来た。ブリュースター長官の命で、ライトを護衛するという。
 これも冒頭のバトル・シーンが迫力満点。ってだけでなく、ライトの未来を暗示する秘密もスグに明らかになる。ばかりか、最終回に相応しい展開が待っている。

 フィリップ・ワイリーの「闘士」やA・E・ヴァン・ヴォクトの「スラン」同様、一種のヒーロー物だ。が、確かにこれじゃテレビ・アニメには向かない…と思ったが、最近は悩めるヒーローも珍しくないし、映画「ロボコップ」のように社会の暗部を見せつける作品もあるから、やっと時代が平井和正に追いついたのかもしれない。

 などのダークな部分だけでなく、「背後の虎」や「転生」で光る、映像化に向いた構成や、迫力とアイデアに満ちたアクション・シーンも美味しいところ。久しぶりに「超革命的中学生集団」が読みたくなった←それかい

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