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2018年11月の16件の記事

2018年11月30日 (金)

林純一「ミトコンドリア・ミステリー 驚くべき細胞小器官の働き」講談社ブルーバックス

実は、生物が生命活動に利用できるエネルギー(生命エネルギー)はATP(アデノシン三リン酸)が分解されてADP(アデノシン二リン酸)になるときに生じるエネルギーに限られている。
  ――第3章 ミトコンドリア 危険なエネルギー工場

実験結果は、ミトコンドリアは、祖先のバクテリアのように、個々に独立した存在ではないことを明確に示している。また、その中にあるmtDNAは、特定のミトコンドリアに局在することなく、細胞内にある他のミトコンドリアの間を自由に動き回っている。
  ――第10章 巧妙に隠されていた驚異の連携防衛網

【どんな本?】

 細胞の中には様々な器官があると生物の授業で習った。その一つがミトコンドリアだ。薬のカプセルみたいな形をして、エネルギーに関係しているらしい事を、うっすらと覚えている。

 だが、最近のニュースでは、ミトコンドリアが話題になる事が多い。例えば鑑定ではミトコンドリアのDNA(=mtDNA)を使う時がある。なぜ核DNAではなくmtDNAを使うのか。また、mtDNAは完全な母系遺伝らしい。他にも老化や癌に関わっているとの説もある。

 埼玉県立がんセンターに始まった筆者の研究生活を辿りつつ、主に1980年代~2000年代までの生命科学の進歩を背景に、ミトコンドリアの基礎から様々な研究成果まで、ミステリー仕立てで楽しく語る、一般向けの科学解説書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2002年11月20日第1刷発行。新書版で縦一段組み本文約280頁。9ポイント43字×16行×280頁=約192,640字、400字詰め原稿用紙で約482枚。文庫本でも普通の厚さの一冊分の文字量。ただイラストや写真を多く載せているので、実際の文字数は9割ぐらいだろう。

 文章はこなれている。実はけっこう突っ込んだ話も出てくるが、意外とわかりやすい。イラストやグラフを巧く使っている上に、ミステリーらしく「謎の提示→推理・仮説→証拠集め→結論」の流れが、読者の興味を上手に煽っている。

【構成は?】

 理系の本だけに、前の章を土台に次の章が展開する形なので、素直に頭から読もう。

プロローグ
第1章 ミトコンドリアとは何か
第2章 ミトコンドリアはどこからきたのか
第3章 ミトコンドリア 危険なエネルギー工場
第4章 癌ミトコンドリア原因説の真偽
第5章 癌ミトコンドリア原因説との対決
第6章 ミトコンドリアと母性遺伝
第7章 ミトコンドリア病で下された有罪判決
第8章 ミトコンドリアの謎を解くモデルマウス
第9章 老化とミトコンドリア
第10章 巧妙に隠されていた驚異の連携防衛網
エピローグ 
研究者リスト/さくいん

【感想は?】

 研究者って、探偵みたいだなあ。まさしくミステリーだ。

 最近の生命科学は凄まじい勢いで進歩している。この本の出版は2002年、15年以上も前だ。「ちと古いんじゃないか」と思ったが、思い過ごしだった。

 いや多分いろいろと古くなってるんだろうけど、私の頭はそれ以上に古かった…というか、わかってなかったんだけど。

 第3章までは、導入部といったところ。他の科学解説書と同じく、以降で必要になる基本的なことがらが書いてある。ここで、既に幾つもの思い込みをひっくり返された。

 ミトコンドリアが核とは別にDNAを持っているのは知っていた。だが、ミトコンドリアの形は予想外。教科書のイラストでは、米俵や薬のカプセルみたいな形をしてた。が、実際は違う。イトミミズか触手みたいなのが、ウニョウニョ動いてくっついたり離れたりしてる。全然違うじゃん。

 とかの導入部を経て、第4章以降はいよいよ謎解きへと入ってゆく。

 ここで示される最大の謎は、癌と老化。核DNAは核膜で守られているが、mtDNAは違う。だから活性酸素などで傷つき、変異しやすい。変異が溜まったmtDNAが癌や老化の原因なのでは? みたいな説だ。いかにも説得力がありそうだが…

 大きな道筋としては、この謎を追いかける形で綴られている。が、人生も研究も一直線にはいかない。謎解きも著者の研究生活も、アチコチに寄り道しながらフラフラと進んでゆく。

 ところが、道草と思っていた研究や身に着けた技術、または読み飛ばした論文や一緒に研究したなどの人脈が、思わぬところで謎解きの役に立ったりするのが、まるでよく出来たミステリー小説みたいで面白いところ。

 その過程で、mtDNAは完全に母系遺伝で父親は全く関係ないのか、みたいな話も出てくる。やたら拘る人もいるが、ハッキリ言って科学というより気持ちの問題だ。そもそも…

核ゲノムの場合は30億塩基対もあるのに対して、ヒトのミトコンドリアゲノムの全長がたかだか1万6500塩基対しかない
  ――第4章 癌ミトコンドリア原因説の真偽

 と、数が圧倒的に違う。もっとも…

真核生物の核DNAの(略)RNAに転写される領域はゲノム全体のわずか5%以下であるのに対し、この小さなmtDNAは(略)ゲノム全体の95%を遺伝子として利用している。
  ――第2章 ミトコンドリアはどこからきたのか

 なんで、核ゲノム中の有効なのは1.5憶塩基対ぐらい。それでもmtDNAの1万倍ある。しかも…

受精卵に存在する正視由来のmtDNAはあったとしても微々たるものだ。マウスの卵に存在するmtDNAは50万個。これに対し、精子には、(略)mtDNAはわずかに50個程度しかない
  ――第6章 ミトコンドリアと母性遺伝

 と、精子に限定すると更に少ない。そもそもミトコンドリアの役割は…とか言ってるとキリがないし、本論にも関係ないので、この辺にしておく。ちなみにこの謎も、実に意外な形でケリがつく。

 また、犯罪捜査や考古学などでmtDNAが使われる理由も、この本でわかった。

(PCR法で)増幅する対象としては、核DNAもあるが、mtDNAのほうがより有効である場合が少なくない。その理由として、mtDNAは核DNAに比べ進化速度が速くその塩基配列の差が個体差に反映していること、死後も骨髄や歯髄の中に安定して残存すること、コピー数が極端に多く普段から増幅されている状態にあることなどの利点があげられている。
  ――第6章 ミトコンドリアと母性遺伝

摂氏四度に保ってさえいれば、マウスが死んでから一ヵ月たった後でも、脳の神経細胞の中にあるミトコンドリアを、mtDNA欠損細胞に移植することができることがわかった。
  ――第9章 老化とミトコンドリア

 と、残りやすい上に、調べやすいのだ。ただし、PCR法(→Wikipedia)は敏感なだけに、使う際にも注意が必要で。ちょっとした不注意で研究がオジャンになった例が、本書にも幾つか出てくる。犯罪捜査で使われるmtDNAの鑑定も、手順次第じゃ怪しい場合もありそうだ。

 などの紆余曲折を経ながら辿りつく終盤は、SF者に極上のご馳走が並んでいるから乞うご期待。なにせテーマが突然変異と老化である。ここで明かされる核DNAとmtDNAの形や働きの違いは、不死やエイリアンに興味を持つSF者の妄想を掻き立ててやまない。それこそピーター・ワッツの世界だ。

 と、ミステリーで読者を引っ張りつつ、終盤では「今、そこにあるSF」へと読者を誘う構成は、これが最初の一般向けとは思えぬ見事な仕掛け。楽しみながら科学の成果がわかるだけでなく、何より「科学の手順」が生々しく伝わってくるのが、ライブ感に溢れていてワクワクする。これだからブルーバックスは侮れない。

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2018年11月29日 (木)

日下三蔵編「日本SF傑作選4 平井和正 虎は目覚める/サイボーグ・ブルース」ハヤカワ文庫JA

あたし、ほんとに思っただけで、生きものを殺せるんです。
  ――死を蒔く女

「いまシティには虎が……凶暴な虎がいるんです」
  ――虎は目覚める

「超能力者狩りのハンターは、同じ超能力者が最適です」
  ――エスパーお蘭

【どんな本?】

 日本SFの初期にデビューし、「エイトマン」「デスハンター」など人気漫画・アニメの原作で多くの子どもたちにSFウイルスを植え付け、後には「幻魔大戦」「ウルフガイ」「地球樹の女神」などの大作シリーズを世に送り出したSF作家・平井和正の、初期作品を集めた傑作選。

 黄金期のアメリカSFの血を受け継いだ、アイデアが光るホラー・タッチの作品もあるが、それよりアメリカン・ハードボイルドの影響を強く受けた作風が特徴だろう。

 無常観が漂う設定、人の心の底に渦巻く悪意を容赦なく暴き出すストーリー、激しいバトル・アクション、過激な暴力シーンやグロテスクな描写に果敢に挑み、日本SFの表現の幅を広げ、独特の世界を形成した。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年2月15日発行。文庫本で縦一段組み本文約766頁に加え、編者解説11頁。9ポイント41字×18行×766頁=約565,308字、400字詰め原稿用紙で約1,414枚。常識的な文庫本なら上中下の三巻に分ける大容量。

 文章はこなれている。超能力やサイボーグなど、SFガジェットは最近の若者にはお馴染みのアイデアが多いので、SFに慣れていない人でも大丈夫だろう。それより全体に漂う厭世観・無常観や、暴力・グロテスクな描写で好き嫌いが分かれるかも。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 初出。

レオノーラ / 宇宙塵53号 1962年2月 SFマガジン1962年6月号
 21世紀のアメリカ中世部で、脚をケガした白人の少女に、ケンは手を差し伸べる。周りの白人たちはケンの行為を誤解し、袋叩きにした。大怪我をしたケンは、それ以来、人間を恐れ地下室に閉じこもり、悪夢にうなされ続ける。ケンを心配した妹のジュリは…
 いきなり最初から著者の絶望と怨念と暴力衝動が凝集した、ダークな側面が強く出ている作品。ケンは、いわば究極のひきこもりですね。とはいえ、当時は任天堂スイッチもインターネットもないわけで。でも考えようによっては、似たような事件が今でも起こっているんだよなあ。
死を蒔く女 / 宇宙塵56号 1962年6月
 精神科医は、ひどく恐れていた。だが、それを認めたくない。そんなこと、常識ではありえない。あの女にも、そう言った。想像と現実をとり違えている、それは強迫観念だ、治療すればよくなる、と。
 精神病医ってあたりに、フレドリック・ブラウンなどの影響を受けた当時のSFの潮流を感じさせる。ブラウンの作品は、主に星新一が訳したためか、軽妙でクールな雰囲気なのだが、この作品は著者のカラーのためか、今ならホラーに分類されそうな重苦しい空気が漂っている。
虎は目覚める / SFマガジン1963年2月号
 21世紀から、二つの動きが興った。一方は宇宙開拓。もう一方は、人間精神改革。人類は宇宙に版図を広げると共に、地上では凶悪犯が姿を消した。だが、その反面、地球の者は覇気を失い、活気に満ちた宇宙開拓者たちと袂を分かつ。
 以降の作品にも、「虎」はよく出てくる。エネルギッシュな生命力に満ち、禍々しく凶暴で狡猾。著者お気に入りのメタファーなんだろう。平穏を求めつつも、内には暴力衝動を抱えた葛藤を、主人公のロケット・マンに投影していると思う。
背後の虎 / SFマガジン1963年9月号
 麻須美の流産は三度目だ。今は絶望に囚われ、カーテンを閉め切った部屋に閉じこもっている。夫の幸太郎は、そんな麻須美に、あいさつもせず大阪への出張に出かけた。氷のような麻須美の目に耐えられないのだ。
 ホラー。次々と軽快なテンポで視点を切り替え、雰囲気を盛りあげていく構成は、今でも充分にテレビ・ドラマで通用しそうなくらい、鮮やかな映像が脳内に浮かび上がってくる。これ以降、エイトマンに代表されるテレビ脚本での活躍も納得の手腕だ。
次元モンタージュ / NULL10号 1964年1月
 おかしい。何か世界に違和感がある。不審に思いつつ、ルウは主人の部屋へと向かう。が、何かが違う。それは主人の足音に似ている。だが、主人のものではない。成熟した猫であるにも関わらず、ルウは主人を求めて啼き続ける。
 今放映しているアニメ「あかねさす少女」と同じく、パラレル・ワールドを扱った作品。私はルウに肩入れしちゃったなあ。
虎は暗闇より / SFマガジン1966年2月号
 三か月前、ぼくは交通事故で頭を強く打ち、二か月も入院した。連載に穴をあけてしまったが、幸い今のところ後遺症もない。だが、その日、友人の池見と食事していた時から、様子が変わった。それまでは全く事故や事件を目撃する機会がなかったのだが…
 これもホラー。当時は交通戦争とも呼ばれるくらい、交通事故が多かった時代で、ドライバーのマナーも褒められたモンじゃなかった。登場する友人たちのモデルを考えるのも面白いだろう。安田は星新一かなあ。
エスパーお蘭 / SFマガジン1968年2月号
 増える超能力者を、人類は恐れ、収容所に隔離した。迫害される超能力者も反撃に出る。中でも恐ろしいのは念爆者だ。大統領特別補佐官のショウ・ボールドウィンは収容所を訪れる。目的はオラン・アズマ、感応者だ。彼女の協力を得て…
 サイボーグ警官と超能力者のバディ物。冒頭のビルの爆破シーンから、映像化したら映えそうな迫力に満ちた派手なアクションの連続で、ケレン味たっぷりの娯楽作。スピード感といい危機また危機の展開といい、ヴォクトの「スラン」を思わせる。
悪徳学園 / SFマガジン1969年10月号
 博徳学園、またの名を悪徳学園。私立の中学校だ。おれのクラスには非行少年が集まっていて、<はきだめ教室>と教師たちは呼んでいる。そこに新任の若い女教師が来た。斎木美夜。彼女はワルどものひやかしを軽くいなし、おれを職員室に呼び出した。
 今読むと、主人公の名前が犬神明って時点でネタバレだw でもキャラは神明、またはアダルト・ウルフガイに近く、けっこう軽口もたたく。ヤンキー漫画の舞台に大藪春彦小説の主人公を放り込み、高倉健が主役を演じるヤクザ映画の展開に仕立てた学園物。
星新一の内的宇宙 / SFマガジン1970年5月号
 皆さんは星新一と聞いて、どんな人物を思い浮かべるだろう? マスコミには折り目正しいマジメな姿しか見せていない。だが、SF作家たちに囲まれた星新一は、とても危険な人物になる。研ぎ澄まされた知性が発する発言は、多くのSF作家を痙攣に追い込み…
 タイトルの星新一をはじめ、小松左京・筒井康隆・豊田有恒・矢野徹・大伴昌司・伊藤典夫・森優(南山宏)と、当時のSF界の大物をゲストに迎えた(というよりネタにした)ユーモア掌編。矢野さん、雀卓ではそういう立場だったのかw
転生 / SFマガジン1970年11月増刊号
 高校三年の内藤由紀と野村みどりは、バスを待つ時にクラスメートの江島三郎に声をかける。そこに暴走トラックが突っ込む。大惨事となり多数の被害者が出たが、由紀とみどりは奇跡的にほぼ無傷だった。奇妙なことに、江島は被害者の名簿に載らず、行方も知れない。
 無傷の由紀とみどり、姿を消した江島に始まり、次々と謎と恐怖が深まってゆく前半。事態が悪化しサスペンスが盛り上がる中盤。そして呆然とする結末。携帯電話が普及した今、多少の手直しは要るが、それ以外はほとんどこのまま若手女優の主演映画に使えそうなぐらい、映像化にピッタリの作品だ。
サイボーグ・ブルース / 連作短編集。詳細は後述。
『デスハンター』エピローグ / <狼火>6号 1985年1月
 異星生命体デス。宇宙からの侵略者。ヒトに取り憑き、不死の怪物に変える。デスに対抗するため、人類は国際秘密機関デスハンターを組織する。カーレーサー田村俊夫は事故で大怪我を負い、デスハンターとして蘇生した。だが組織の秘密を知った俊夫は…
 「死霊狩り」は、自らが原作を担当した漫画「デスハンター」を小説化したもの。容赦ない暴力描写といい、絶望と怨嗟に満ちた世界観といい、初期の平井ワールドの到達点としてひとつの頂点をなす作品だろう。ただし読者によっては厨二病を激しく重篤化させる劇薬でもあるので、用法には充分な配慮が求められる。
付録
『悪夢のかたち』ハヤカワ文庫版あとがき わが青春のモニュメント
『悪徳学園』ハヤカワ文庫版あとがき
『サイボーグ・ブルース』ハヤカワ書房版あとがき エイトマンへの鎮魂歌
編者解説
平井和正 著作リスト

【サイボーグ・ブルース】

「私をぶっ倒したかったら、熱線銃かハンド・ミサイルを持ってこい。ついでに戦車にでも乗ってくるがいい」
  ――ブラック・モンスター

「私は機械から自由な人間に戻るんです」
  ――サイボーグ・ブルース

「アーネスト・ライトは死んだんだよ。気のいいくろんぼのアーニーはな。ここにいるのは死人の怨霊さ」
  ――シンジケート・マン

「あんたは時限爆弾とおなじだよ。いつドカンとくるかわからない」
  ――ゴースト・イメージ

 「エイトマン」は人気を博しながらも、関係者のスキャンダルにより打ち切りとなった。そこで出し切れなかった陰の部分を、存分に描き切った連作短編。殉職したがサイボーグ特捜官として復活した黒人警官アーネスト・ライトの苦悩と、彼を取り巻く社会の暗部を、ハードボイルド・タッチで綴る。

 それぞれ 作品名 / 初出。

第一章 ブラック・モンスター / SFマガジン1968年5月号
 サイボーグ特捜官、ライト警部。元は殉職した警官だ。肉体の大部分を人工器官に取り換え、超人的な能力を持つ。メガロポリスを訪れたライトは、二人の若者が目撃した殺人事件に興味を抱く。だが市警は慇懃に協力を拒むばかりか、捜査協力と称したお目付け役まで差し向けてきた。
 目撃者ジュンとレイは、当時のヒッピーを思わせる。また激しい人種差別は、やはり公民権運動が盛り上がった時代を感じさせる。だが、冒頭の警官が示す権力をかさに着たマチズモや、署長のことなかれ主義は、時代も国も超えて存在している。現代は、単に差別が見えにくくなっただけで、実は何も解決していないのかも。
第二章 サイボーグ・ブルース / SFマガジン1968年10月号
 ライトは特捜官を辞めた。その一週間後、生田トオルと出会う。売れない作家だが、その妻オリヴィア・カンバーランドは億万長者だ。彼の豪邸に招かれたライトは、彼らの奇妙な暮らしを目撃する。
 ヒトの脳を持つサイボーグと、全てが機械仕掛けのロボットを対比させ、サイボーグの悩みを浮かび上がらせる作品。なんだけど、私はなぜかトム・リーミイの「サンディエゴ・ライトフット・スー」を思い浮かべた。
暗闇への間奏曲 サイボーグ特捜官 エクストラ / SFマガジン1969年6月号
 リベラは殺し屋だ。飛びぬけて優秀なのにはワケがある。彼はサイボーグなのだ。今回の依頼人はフランク・キャンドレス。表向きは弁護士だが、実態はクライム・シンジケートの司令官の一人。依頼を聴いた帰り道、リベラは奇妙な娘と出逢う。
 今回は特捜官ではなく、犯罪者の側のサイボーグの視点で描く作品。前半では、徹底して合理的で冷静なサイボーグのリベラと、生身の嫌らしさを持つキャンドレスや部下のキノを対比させる。それが後半に入ると…。
第三章 ダーク・パワー / SFマガジン1968年11月号
 違法駐車の罰金の請求が、18歳の少女オルガ・オリベッティに来た。オルガは身に覚えがないと申し立てる。摘発した警官も、オルガを見た覚えがない。違反車の持主は、事件当時は旅行中で不在。交通局が捜査に乗り出すが、担当した捜査官は集めたデータを全て破棄してしまう。そればかりか、腕利きのサイボーグ特捜官のマロリーまで煙に巻かれ…
 冒頭の<覗き屋>は、スパイダーマンのネタかな? 駐車違反なんて、サイボーグ特捜官が乗り出すにはチンケすぎる事件だよな、と思っていたら、意外な方向へ。今さらながら、この作品での警官の描かれ方は、例の事件が関係してるのかも、などと思ったり。にしても終盤のバトル・シーンは、やはり映像化したら映えそうな迫力に満ちている。
第四章 シンジケート・マン / SFマガジン1969年2月号
 珍しい客が来た。メンデイ・メンドーザ、かつての同僚だ。三年前に警察を辞め、今はハリウッドで私立探偵社を営み、50人ほどの従業員を抱えている。元サイボーグ特捜官なら探偵社としては金の卵だから、共同経営者に迎えたい。そんな話だ。
 客の来ないシケた私立探偵の元に、かつての親友で優秀な警官が、美味しい話を持ってくる。私立探偵物のお約束としては、当然ウラがあるわけだか…。著者のハードボイルドな側面を、心ゆくまで堪能できる。
第五章 ゴースト・イメージ / SFマガジン1969年3月号
 サイボーグ特捜官には二つのタイプがある。人の心を喪ってゆくタイプと、怨念で自己を支えるタイプ。だが腕利きのマロリーはいずれでもない。人としての温かみを保ち続ける稀有な存在だ。そのマロリーが訪ねて来た。ブリュースター長官の命で、ライトを護衛するという。
 これも冒頭のバトル・シーンが迫力満点。ってだけでなく、ライトの未来を暗示する秘密もスグに明らかになる。ばかりか、最終回に相応しい展開が待っている。

 フィリップ・ワイリーの「闘士」やA・E・ヴァン・ヴォクトの「スラン」同様、一種のヒーロー物だ。が、確かにこれじゃテレビ・アニメには向かない…と思ったが、最近は悩めるヒーローも珍しくないし、映画「ロボコップ」のように社会の暗部を見せつける作品もあるから、やっと時代が平井和正に追いついたのかもしれない。

 などのダークな部分だけでなく、「背後の虎」や「転生」で光る、映像化に向いた構成や、迫力とアイデアに満ちたアクション・シーンも美味しいところ。久しぶりに「超革命的中学生集団」が読みたくなった←それかい

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2018年11月25日 (日)

ナターシャ・ダウ・シュール「デザインされたギャンブル依存症」青土社 日暮雅通訳

本書は、アメリカでこの20年間に最新のマシン・ギャンブリングが急激に広まった意味を、ギャンブル行動のテクノロジー面での変遷と、ギャンブラーの体験の変化との関係を調べることによって、さぐろうとするものである。
  ――序 <マシン・ゾーン>のマッピング

この手のゲームのポイントは、プレイヤーたちに「自分は結果をコントロールしている」と感じさせることにある。
  ――第3章 偶然をプログラムする 魔法の計算

ある研究によると、「責任あるゲーミングの行動基準」に従おうとするギャンブラーは、ギャンブル業界の収益のたった4%にしか貢献していないという。
  ――第10章 修正に次ぐ修正 リスクを規制するためのヒント

【どんな本?】

 ラスベガスのカジノと聞いて、あなたはどんな風景を思い浮かべるだろう?

 髪をピッチリとポマードで固めたディーラーが、手品師のように鮮やかな手並みでカードをシャッフルし、またはダイスを転がす。緑色のラシャを張ったテーブルに客が群がり、その脇でバニーガール姿のウェイトレスがカクテルを配る。そこで行われるゲームは、ブラックジャックやバカラやルーレット。

 現実は、全く違う。21世紀の今日、ラスベガスのカジノの主役は、スロットマシンだ。

 かつてスロットマシンは、隅っこで素人や貧乏人が遊ぶゲームだった。だが今日ではスロットマシンが稼ぎ頭だ。アメリカ・ゲーミング協会会長のフランク・J・ファーレンコフ・ジュニアは語る。2003年、マシンが業界収益の85%以上をあげた、と。

 ギャンブラーも変わった。今のギャンブラーはテンガロンハットのカウボーイじゃない。

 1980年~2008年のあいだに、観光客は4倍に増え4千万人に達した。街の発展に伴い、居住者も45万人から200万人に増えた。居住者の2/3は、常習的にプレイする。近所のカジノにも行くが、ガソリンスタンド、スーパーマーケット、ドラッグストアなどでもプレイする。

 彼らが賭けるのは、勝つためではない。

 常習的ギャンブラーは語る。「私は勝とうとしてプレイしてるんじゃないんです」「プレイし続けるため――ほかのいっさいがどうでもよくなるハマった状態、<マシン・ゾーン>にいつづけるためです」。

 そう、彼らは依存症なのだ。ただし、ギャンブルの、では、ない。スロットマシンの、だ。それも、昔ながらの「片腕の山賊」ではない。現在のスロットマシンには、ゲーム開始を告げるハンドルも回転するドラムもない。みんなコンピュータのプログラムとディスプレイに変わった。

 クラックが麻薬依存の問題を大きく変えたように、スロットマシンもギャンブル依存の様相を大きく変えた。他のギャンブルに対し、ビデオ・ギャンブリング装置は、3~4倍早く依存症に陥る。ある依存症治療センターの患者は、90%以上がビデオ・ギャンブル依存だ。

 ラスベガスで何が起きているのか。それは私たちと、どんな関係があるのか。

 カジノ経営者・カジノを設計する建築家・スロットマシンの開発メーカー・ギャンブラー・依存症研究者など、様々な立場でスロットマシンに関わる人々への取材に加え、行動心理学者B・F・スキナーや社会学者アーウィング・ゴッフマンの研究を通し、驚愕の現実を明らかにしてゆく。

 今そこにある危機を、文化人類学者が落ち着いた筆致で暴き出す、衝撃のルポルタージュ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Addiction by Design : MAchine Gambling in Las Vegas, by Natasha Dow Shull, 2012。日本語版は2018年7月10日第一刷発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約463頁に加え、訳者あとがき2頁。9ポイント46字×18行×463頁=約383,364字、400字詰め原稿用紙で約957枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。

 文章はやや硬い。詳しくは、この本の二つの側面が関わっている。

 片方は、フィールドワーク、つまり取材や調査により事実を明らかにする、いわばルポルタージュの部分だ。こちらは比較的にこなれていて、翻訳物を読み慣れた人なら苦労しないだろう。

 もう片方は、著者が分析や考察する、つまり社会学の論文みたいな部分。こっちはかなり文章が硬い上に、内容も分かりにくい。哲学者・心理学者・社会学者の説や文献を引用し、独自の用語を使った回りくどい理屈が展開する。

 正直、こういう所は、社会学の悪い癖を引き継いでいると思う。「ワザともって回った表現を使って頭よさげに装ってるんじゃないの」、そんな疑念を私は社会学に持っているのだ。

【構成は?】

 各章は比較的に独立しているので、美味しそうな所だけを読んでもいい。が、まずは「序 <マシン・ゾーン>のマッピング」を読んでほしい。全体を巧みにまとめている上に、ツカミとして抜群の吸引力を持っている。

  • 序 <マシン・ゾーン>のマッピング
  • 第一部 デザイン
    • 第1章 <ゾーン>とインテリアデザインの関係 建物、雰囲気、感情
    • 第2章 体験をデザインする プレーヤー中心デザインの生産的経済
    • 第3章 偶然をプログラムする 魔法の計算
  • 第二部 フィードバック
    • 第4章 市場をマッチングさせる 新機軸、深刻化、習慣
    • 第5章 ライブデータ プレイヤーを追い、プレイをガイドする
    • 第6章 完全な偶然性 制御から衝動へ
  • 第三部 依存症
    • 第7章 ギャンブルですってんてん 人生の清算
    • 第8章 過熱状態 負けを追い求め、消滅するまでプレイする
  • 第四部 順応
    • 第9章 両天秤策 治療の二重拘束
    • 第10章 修正に次ぐ修正 リスクを規制するためのヒント
  • 終わりに 掛け金を上げる
  • 謝辞/訳者あとがき/註/参考文献

【感想は?】

 「序 <マシン・ゾーン>のマッピング」で、一気に引き込まれた。

 書名に「ギャンブル依存症」とある。だが、この本が主に扱うのは、競馬でもポーカーでもルーレットでもない。スロットマシンだ。それも、デジタル化・ネットワーク化された、コンピュータ・ゲームである。

 スロットにのめり込むギャンブラーの姿は、ゲーム廃人にソックリだ。

「完全にぼうっとした状態になり、ふと腕時計を見おろすと、あと二時間でまた仕事が始まるという時間になっているんです」
  ――第7章 ギャンブルですってんてん 人生の清算

 私もゲームにハマった事がある。今でもガンパレード・マーチの「幸福絶頂」(→Wikipedia)を聴くと血が騒ぐ。それ以上にハマったのが、Windows7 付属のフリーセルだ。これはヤバいと思い、PCからアンインストールした。そうでもしなけりゃ止められなかった。だから、彼らの気持ちがよくわかる。

 テトリスや上海にもハマったが、やがて飽きた。が、スロットは違う。次々と新しい物が出てくる。

「どんどん強いものがほしくなっていく。そして、私の欲求に合うマシンが必ず出てくるんです」
  ――第4章 市場をマッチングさせる 新機軸、深刻化、習慣

 カジノの経営者も、フロアを設計する建築家も、これに気づいている。そして、プレイヤーを惹きつけ逃さないため、工夫を凝らす。

「プレイヤーには“人間として可能な限り長く”マシンの前にいてもらう、それが彼らを負けさせる秘訣です」
「重要なのは、彼らをシートに座らせ、そこに釘付けにすることですよ」
  ――第2章 体験をデザインする プレーヤー中心デザインの生産的経済

 そしてもちろん、スロットの開発者も。

彼ら(ギャンブラー)のスキルに対する報酬は楽勝大当たりではなく、プレイ・セッションの延長なのだ。
  ――第4章 市場をマッチングさせる 新機軸、深刻化、習慣

「スロットマシンの設計から小さな子供向けのソフトウェアゲームの設計に変わって奇妙に思えたのは、これがそれほど大きな変化ではなく、実際、その二つはとても似ているところがあるということだった」
  ――終わりに 掛け金を上げる 註

 依存症に陥る人は、何かから逃げている人だ、なんて説もある。確かに、酒や薬物にハマる人には、そういう人もいる。

「逃げ場を見つけたの、言うなればあのスロットマシンに。あれでプレイしていると、何も……考えなくていいから」
  ――第8章 過熱状態 負けを追い求め、消滅するまでプレイする

 アル中が酒を憎むように、スロットを憎む人もいる。止めるきっかけが欲しいのだ。

「ときどき疲れて負けてしまいたくなることもあります。家に帰れるようにね。でも負けに近づいたところでもう一度勝つと、こう思うんです。参ったな、これがなくなるまでここに座っていなくちゃならない」
  ――第8章 過熱状態 負けを追い求め、消滅するまでプレイする

 こういう所は、「今夜、すべてのバーで」が迫真の描写をしてた。

 かつてのラスベガスは、ディーラーとギャンブラーが対決し、それを多くの野次馬が見物する、いわば社交の場だった。だが、今のラスベガスは、それぞれが一人でモニタを見つめる、個の集まりだ。孤独を求めてスロットに逃げ込むのだ。

「毎日人を相手に働いていたら、休みにはほかの人と話すなんてまっぴらだと思うようになる。人間関係から休暇を取りたいのね」
  ――第7章 ギャンブルですってんてん 人生の清算

 テトリスには多くのバージョンがある。私が一番好きなのは、最もシンプルなバージョンだ。アニメなし、BGMなし。余計なものにプレイを邪魔されたくない。ハマり込んでハイになっている時は、とにかく早くゲームを進めたい。

ゲーム開発者「当初気づかなかったのは、人々が本当は楽しみなど求めていないということです。私たちのベスト・カスタマーは、エンターテインメントには興味がありません――彼らが求めているのは、完全に没入し、リズムにのめり込むことです」
  ――第6章 完全な偶然性 制御から衝動へ

 そんな風に、のめり込んじゃった状態を、本書では<ゾーン>と呼んでいる。そして、プレイヤーをゾーンに引き込み留めるために、カジノは最大限の経営努力をする。

カジノ内にあるすべてのものは、客の注意を(略)マシンに集中させる役割を果たさなければならない。
  ――第1章 <ゾーン>とインテリアデザインの関係 建物、雰囲気、感情

 換金のために椅子から離れると、その拍子にプレイヤーは覚める。それじゃ困るから、カード決済を導入する。天井を低くして、余計なものが目に入らないようにする。人間工学を駆使して、疲れがたまらぬよう、ディスプレイや椅子を調整する。プレイヤーに取材するスロット設計者は、エンジニアの鑑だ。

「本物のテストは、(カジノの)フロアでしかできないんです」
  ――第5章 ライブデータ プレイヤーを追い、プレイをガイドする

 全てのスロット・マシンはネットワーク化され、カジノはプレイヤーを監視している。負けが込んで席を離れそうなプレイヤーには、ちょっとしたボーナスとして食事をおごることもある。あらゆる努力を惜しまず、カジノはプレイヤーを惹きつけ、もてなす。この辺は「ラスト・ドン」にも書いてあった。

 だから、弱い人だけがハマるわけじゃない。

「条件さえ整えば、ほとんど誰でもスロットに取り憑かれてしまうのです」
  ――序 <マシン・ゾーン>のマッピング 註

 カジノ法案に伴い、そんなカジノが日本にやってくる。

40億を超える人口に対して三万台に満たないスロットマシンしかない極東地域は、マシン・ギャンブリングの拡大と新しいプレイヤー習慣の確立の鍵ともいえる。
  ――終わりに 掛け金を上げる

 念願の極東進出だ。ラスベガスが発展し労働者を惹きつけたように、カジノ近辺も発展するかもしれない。そして、ラスベガス居住者の多くがスロット漬けになったように、近くに住む者もスロット漬けになるだろう。加えて自治体も…

「最大の依存症者は、(ギャンブル収益に)頼ることになった州政府だということです」
  ――終わりに 掛け金を上げる

 原書の出版は2012年で、日本語版は2018年7月だ。もっと早く出版して欲しかった。青土社が少々恨めしい。社会学の本としてはお高く留まった感があっていささか難があるが、ルポルタージュとしてはショッキングなエピソードの連続で文句なしの逸品だ。

 ただ、ゲーム好きの一人として、ギャンブル業界がスロットを「ゲーム」と呼ぶのは、ちと腹が立った。

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2018年11月21日 (水)

デニス・E・テイラー「われらはレギオン 2 アザーズとの遭遇」ハヤカワ文庫SF 金子浩訳

「謎だな、マーヴィン。そしてぼくたちは謎が大好きなんだ」
  ――p20

人類がヴァルカンの土を踏んでから五日後、この惑星最初の死傷者が出た。
  ――p22

「いまや宇宙はぼくたちの遊び場じゃないか」
  ――p68

どうやら、ぼくたちがそいつと出会ったら、戦争がはじまりそうだった。
  ――p79

「昔からワルになりたかったの」
  ――p225

「だって、人間のお守りはもう充分にやったからね」
  ――p307

「うわあ。フェルミのパラドックスが解決したぞ」
  ――p318

【どんな本?】

 カナダの新人作家デニス・E・テイラーのデビュー三部作の第二部。

 事故で死んだはずのプログラマのロバート・ジョハンスン(ボブ)は、2133年に目覚めた。マシンの中のプログラムとして。恒星間を航行する宇宙船となり、人類が植民できる惑星を探すために。地球は幾つかの勢力が睨み合い、寒冷化して人類は絶滅寸前となっていた。

 アッサリと現状を受け入れたボブは、幾つものトラブルを乗り越えて宇宙へと旅立つ。途中、金属資源を見つけては、自らを複製し、更なる探索へと向かってゆく。

 ボブの複製たちは、少しづつ性格が違った。中には気が合わない奴もいる。だが、宇宙は広い。ツルむのが嫌なら、別の星系へと向かえばいい。そうやって探索範囲を広げていくうちに、知性を持ちそうな種族にも出会う。

 異星の知的種族を助け、人類の植民に協力し、新たな植民惑星を見つけ…とボブたちは忙しく働き続ける。だが思わぬ天敵の出現・現地の生物の襲来・人類同士の反目と、解決すべき問題は増える一方。おまけに物騒な連中も間近に迫ってきて…

 丹念に考察された設定ながら、ヲタク大喜びなネタを随所に取りまぜつつ、ユーモラスな筆致でテンポよく物語が進む、新世代のスペース・オペラ。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は For We Are Many, by Dennis E. Taylor, 2017。日本語版は2018年7月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約417頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント41字×18行×417頁=約307,746字、400字詰め原稿用紙で約768枚。文庫本では厚い部類。

 文章はこなれており、ユーモラスで親しみやすい。ただしSF度はとっても濃い。新旧取り混ぜたヲタクなネタは盛りだくさんな上に、最近の物理学・天文学のネタもさりげなくギッシリ詰めこんでいるので、そういうのが好きな人向け。

 また、ボブの複製も含め、登場人物が一気に増えるので、できれば最初の「AI宇宙探査機集合体」から一気に読む方がいい。巻末の登場人物一覧は実にありがたい。

【感想は?】

 やはり著者はニーヴンも読んでいたかw まさかモロに出てくるとはw

 と、そんなイースター・エッグをアチコチに仕込んだ三部作、相変わらずボブたちは大忙し。広い宇宙の恒星間航行だからノンビリしたモンだろうと思ったが、意外と仕事は山積みだったり。

 ボブが見つけたデルタ人たちは、着実に進歩を続け、拠点を固めつつある。天敵だったニセゴリラにも対抗できるようになった。だが、デルタ人たちの歴史を辿るうちに、ニセゴリラより遥かに危険な「敵」の影がさしはじめ…

 原始的な異星種族の「神」となって、その成長を見守る。いわばゲームの Civilization そのものの状況だ。こういうアイデアのSFは昔から幾つかあって、ロジャー・ゼラズニイの「十二月の鍵」や小川一水の「導きの星」など、傑作も多い。

 ただ、その「神」が、他でもないボブなのが、この作品の特徴で。何かと世話を焼いては知恵を授け、助けちゃいるんだが、見事に威厳が欠落している。何も正直に言うこたないのにw ここまで侮られる「神」も珍しい。まあ、確かに失敗もしてるんだけどw

 実際、ボブが「神」とは言い難いのは、単に性格だけが理由じゃないのも、このシリーズの特徴。

 プログラマーの経験があるためか、全体を支配しているのが「リソース」と「スケジュール」の概念。これが作品全体に緊張感をもたらしている。

 理屈の上では、ボブは何だって複製できる。ボブ自身も、だ。ただし、そのためには、原材料が要る。その大半は金属だ。ところが宇宙空間に金属はない。たいてい惑星上にある。しかも、金属を多く含み、かつ採鉱しやすい惑星には、幾つかの条件がある。彗星は水ばっかりだし、木星はデカすぎる。

 ってな具合に、「その恒星系がどんな惑星を持っているか」「それぞれの惑星はどう配置されているか」が、重要な問題となってくる。こういう、最近の天文学を反映した設定が、SF者にはたまらない。

 更に楽しいのが、スケジュールの話。

 原材料が調達できたとしよう。最も役に立つのはボブだ。何だって作れるし。例えば小さいものでは偵察用ドローン、大きいものではドーナツ型農場。これらの製造では3Dプリンタが活躍する。だから、とりあえずは3Dプリンタを作らなきゃいけない。

 ボブが解決すべき問題は、いつだって山ほどある。それらの優先順位と締め切りを考え、いつ・何を・どんな順番で・どれぐらい作るか。

 ドローンは今すぐ欲しい。でもドローンを作っていたら、その間は3Dプリンタが作れない。3Dプリンタは便利だけど、作るのに時間がかかる。予想もしなかった新しい問題も次々と起こるし、見過ごしていた古い問題に火が付く時もあって…

 ってな状況は、プログラマなら「うんうん、わかるわかる」と頷いてしまうところ。いやプログラマに限らず、一つの仕事を長く続けてる人なら、みんな似たような経験をしているんだろうなあ。

 広い宇宙に飛び出す解放感に包まれた第一部に対し、この巻では幾つもの舞台で次から次へとトラブルが起き、ストーリーは目まぐるしく推移してゆく。できるだけまとまった時間を取って、一気に読もう。

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2018年11月19日 (月)

ローレンス・レッシグ「REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方」翔泳社 山形浩生訳

あらゆるアーティストは――意識的かどうかはさておき――以前にあったものや、自分の実践と並行して起こっていることを反映しているんです。
  ――はじめに

以下の議論に進む中で、この二つの発想を忘れないでほしい。一つはRW文化を作り出すものとしての「アマチュア」の創造性の重要性。二つ目は、著作権規制の到達範囲に限度があることの重要性。アマチュアの創造性をこの規制の範囲から自由にしておくことが重要なのだ。
  ――第1章 過去の文化

テクノラティによれば、ブログで使われる言語はいまや日本語がいちばん多い。
  ――第4章 RWの再生

リミックスのおもしろい部分は新しいものではない。新しいのは技法と、その技法の産物を共有するのが簡単だという事だけだ。
  ――第4章 RWの再生

創造するというのは責任だ。それを学ぶには、それを実践するしかない。
  ――第5章 文化の比較

クリックごとにグーグルは賢くなる。
  ――第6章 二つの経済:商業と共有

語るという行為は、その発言の中身が雑音でしかないときでも、その話者にとって得るものが大きいのだ。
  ――第6章 二つの経済:商業と共有

「悪いところはもちろん山ほどあります。でも一つ絶対に言われないのは、『ウィキペディアなんて信用できないよ。だってただの広告用のインチキなんだから』ということなんです」
  ――第6章 二つの経済:商業と共有

「直接間接を問わず、イノベーションのスピルオーバーは、現在のGDPの優に半分以上を構成すると推計される」
  ――第8章 経済から学べること

法が子供を規制するなら、子供に理解できる規制でなくてはならない。
  ――第9章 法を変える

【どんな本?】

 1906年6月、人気作曲家ジョン・フィリップ・スーザは合衆国議会に訴えた。「プレイヤーピアノや蓄音機により、複製された音楽が流行っている。だがそれで稼いでいるのはレコード作成者と販売者だけで、作曲家には全く見返りがない」。

 当時でも、作曲者は自作の曲に対し、楽譜の複製や演奏の可否を決められた。だがレコード販売まで手が及ばなかった。新しく登場したテクノロジーと著作権法が巧くかみ合わず、軋みを見せた初期の例である。

 そのスーザも、子供の合唱や素人バンドの合奏まで口を出すつもりはなかった。むしろ、機械音楽の蔓延により、人々が歌わなくなったり、楽器に触れなくなることを恐れた。アマチュアが消えることを恐れたのだ。

 音楽ではリミックス、動画ではMADと呼ばれる分野がある。既存の商業作品を組み合わせ、全く違った味を生み出すものだ。私はこれ(→Youtube)やこれ(→Youtube)が好きだ。元ネタがわかんないとピンとこないだろうけど、可憐な歌声と殺伐とした映像のギャップはわかると思う。そういえばプリクマとか…

 まあいい。他にも「電車男」なんてのもあって、今の著作権法ではこういったものに対応するのは難しい。かと思えば、発売前の新曲や公開前の映画やがP2Pや動画サイトに流出など、明らかな違法行為もある。かと思えば、Instagram のように、共有しやすくすることで成り立つビジネスもある。

 テクノロジーの進歩は、著作権のあり方を揺るがしている。フりーと商用の二分で捉えていては、もはや身動きできないだけでなく、今後の文化やビジネスを殺してしまいかねない。

 現在の著作権のあり方に異議を唱え、インターネット時代に相応しい著作権とビジネスのあり方を探る、一般向けの啓蒙書。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は REMIX : Making Art and Commerce Thrive in an Hybrid Economy, by Lawrence Lessig, 2008。日本語版は2010年2月26日初版第1刷発行。単行本ハードカバーー縦一段組みで本文約290頁に加え、訳者あとがきが豪華12頁。9ポイント53字×19行×290頁=約292,030字、400字詰め原稿用紙で約731枚。文庫本なら厚い一冊ぐらいの文字量。

 文章はこなれていて読みやすい。内容も難しくない。どころか、正直言って、この本に出ている例は、今となっては少し時代遅れの感もあって、若い人には通じないかもしれない。例えば写真共有の例では Instagram ではなく flickr だったり。

【構成は?】

 原則として前の章を受けて後の章が続く構成だが、気になる所だけをつまみ食いしても、けっこう楽しめる。

  • 序文/はじめに
  • 第一部 文化
    • 第1章 過去の文化
    • 第2章 未来の文化
    • 第3章 ROの拡張
    • 第4章 RWの再生
    • 第5章 文化の比較
  • 第二部 経済
    • 第6章 二つの経済:商業と共有
    • 第7章 ハイブリッド経済
    • 第8章 経済から学べること
  • 第三部 未来を可能にするために
    • 第9章 法を変える
    • 第10章 われわれを変える
  • 結論
  • 謝辞/訳者あとがき

【感想は?】

 10年前の本だ。たった10年しかたっていないのに、既に古びてしまった感がある。

 例えば P2P による海賊行為だ。少なくとも音楽に関しては、今はほとんど問題にならなくなった。iTunes Music Store  のおかげだ。

Youtube 時代の標語はアクセスなのだ。別に無料のアクセスでなくてもいい。アクセスだ。
  ――第3章 ROの拡張

 妥当な価格で、手軽に音楽が手に入るなら、違法行為は減る。iTunes Music Store が、それを証明した。今思えば、あれは革命だった。

 同様に、ユーザ参加型のサービスの話も出てくる。その代表が Wikipedia だろう。当時の感覚だと、あれの存続は危ぶまれていた。今でも資金の捻出に苦慮しているようだが、なんとか続いている。だが、最も当時の感覚からズレたのは、Youtube と Facebook だろう。

 面白くて人気が出る動画や記事が増えれば、Youtube や Facebook の儲けは増える。では、人気 Youtuber や「いいね」が多い Facebook 利用者に、Youtube や Facebook は賞金を出すべきだろうか?

 当時の感覚なら、出すべきだった。いわば「文学賞」の感覚だ。でも今は違う。むしろ、「いいね」を貰うために金を払う利用者まで出かねない。実際、Google は「お金を出せば、あなたのサイトを宣伝します」なんて話を持ちかけてくる。

誤解を招かぬよう念を押しておく。Google が持ちかけるのは、あくまでも「宣伝」だ。私のサイトを検索結果の上位に持っていくことじゃない。

 文学賞と言えば、「小説家になろう」なんてサービスもある。私みたいなブロガーも含め、人は自分の作品が他の人から認められると嬉しいのだ。報酬としては、それだけで充分なのである。

 もし私の記事に人気が出たら、儲かるのはココログだ。それでも、わたしはココログに搾取されたとは思わない。単に嬉しい、それだけだ…炎上は怖いけど。

 そう、炎上を含め、著者が見落としていたダークサイドも幾つかあって、それもインターネットの変化の大きさを感じさせる。例えばデマの横行や、Wikipedia の編集合戦などが挙げられる。残念ながら、意図してデマをまき散らすトロールまでは予測できなかった。

 だが、見落としていた明るい面もある。例えば、アマチュアが創造に参加しやすくなった。先の「小説家になろう」や、Pixiv がいい例だろう。この点で、著者の懸念は幸いにして外れた。お陰で私もアンディ・ウィアーの「火星の人」やネイサン・ローウェルの「大航宙時代」が楽しめる。

 と同時に、当たった予言もある。例えば映画がリピーターを重視するようになった事。

重要なのは、最初に観るときも、その後10回観るときもそれだけの価値があるようにすることだ。一回でも必要最低限は得られるが、十分ではないようにするのだ。
  ――第5章 文化の比較

 映像に思いっきり多くの情報を詰め込み、何度見ても新しい発見があるようにする。昔からスターウォーズ・シリーズにはマニアが多くて、幾つものマニアッなネタが流布していたが、似たような凝った映画が増えた。最近じゃ「この世界の片隅に」の考証の細かさが話題になった。

 キュレーションの重要性も、成就した予言の一つだろう。私は「はてなブックマーク」や「Togetter」をよく見ている。これだけコンテンツが増えると、面白いモノを探すのも手間がかかるし。

 コミュニティの重要性を巧みに使っていると思うのが、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」だ。オンライン・オフライン双方で、巧く読者の参加を煽っている。本好きとは、好きな本を布教したがる生き物なのだ。だから読者はみんな喜んでネタを提供する。

「コミュニティを念頭に設計しないとダメです」
  ――第7章 ハイブリッド経済

 そう、参加者が喜ぶ形でサービスを提供すれば、勝手にコンテンツは充実し、ビジネスは育つ。それを Favebook や Youtube は実証した。ただ…

法は著作権保持者に利用を拒否する権利を認めているので、著作権保持者は御用や濫用を心配しなくてはならない。その心配の解決法は、力を減らすことだ。所有者が利用をコントロールできなければ、その誤用は所有者の責任ではない。
  ――第9章 法を変える

 これについては、いささか楽観にすぎたように思う。先に書いた、デマをまき散らすトロールの出現だ。Twitter も Facebook も、対応に苦慮している。

 アジテーションとしては、たった10年でやや古びてしまった感がある。と同時に、本書の予言の何が外れて何が当たったか、それを検証できる、いささか意地の悪い楽しみも増えた。「10年前、私たちは何を考えていたか」を見直す、ちょっとしたキッカケになった。つくづく、ネットの時間は速い。

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2018年11月18日 (日)

ココログ:リンク切れ一覧と旧URL一覧と公開記事URL一覧を突き合わせるOpenOfficeCalc

ココログ:外れている内部リンクを探す のお仕事。ココログ:古い「カテゴリ別書評一覧」から各記事の旧URL 一覧を作るVBScript から続く。

【はじめに】

 今までの作業で、次の3つの一覧=表ができた。

  1. 記事ごとのリンク外れの表。カラムは4つ。
    記事URL:記事名:外れている=古いURL(:そのアンカーテキスト)
  2. 正しいURLと記事名の表。カラムは2つ。
    正しいURL:記事名
  3. 古いURLと記事名の表。カラムは2つ。
    古いURL:記事名

 ここでは、上の3つを組み合わせ、次の6カラムの表を作る。

  • 記事URL:記事名:古い記事URL:古い記事名:正しい記事名:正しいURL

【理屈】

 と書くと何やら大変そうだが、なんの事はない。皆さんご存知、表計算のVLOOKUP関数を使うだけだ。世間では Excel が有名だが、私の手元にあるのは OpenOffice である。たぶん使い勝手は Excel とたいして違わないだろう。いや実は Excel も OPenOffice もよく知らないんだけど。

 理屈はこうだ。

  1. 「記事ごとのリンク外れの表」の古いURLと、「古いURLと記事名の表」の古いURLを突き合わせ、「古いURLに該当する記事名」を得る。
  2. 「古いURLに該当する記事名」と「正しいURLと記事名の表」を突き合わせ、「正しいURL」を得る。

 日頃から関係(リレーショナル)データベースを扱っている人なら、既に頭の中で SELECT 文が出来上がっているだろう。つまりは、そういう処理です。

【手順】

1.OpenOffice Calc を立ち上げる。

2.「古いURLと記事名の表」を読み込む。こんな感じの表になる。

3.同じシートの別の列に、「正しいURLと記事名の表」をコピー&ペーストする。
  貼り付けたら、記事名の列とURLの列を入れ替える。

4.別のシートに、「記事ごとのリンク外れの表」を読み込む。

5.古いURLから記事名を探す。このシートのE列に、VLOOKUP 関数を入れる。

=VLOOKUP(C1;Sheet2.A$1:B$1372;2)

 Sheet2(手順の2.で読んだ表) のA列から セル C1 と同じ行を探し、見つかったらその行のB列を返せ、そんな命令だ。

 日本語に訳すと、こんな感じかな?

「古いURLと記事名の表」から、この表のC列=古いURLと同じものを探し、見つかったら(古いURLに該当する)記事名を返せ。

 結果、こんな風になる。幾つかは記事名が見つかったようだ。

6.記事名から正しいURLを探す。このシートのF列に、VLOOKUP 関数を入れる。

=VLOOKUP(E1;Sheet2.E$1:F$1633;2)

 Sheet2(手順の3.で読んだ表) のE列から (この表の)セル E1 と同じ行を探し、見つかったらその行のF列を返せ。

 日本語に訳すと、こんな感じかな?

「正しいURLと記事名の表」から、この表のE列=記事名と同じものを探し、見つかったら(記事名に該当する)正しいURLを返せ。

 結果、こんな風になった。

 これで、ほぼ望みのモノが手に入った。欲しいのは、次の表だった。

  • 記事URL:記事名:古い記事URL:古い記事名:正しい記事名:正しいURL

 上の表だと、こんな風になる。

  • A列=記事URL:B列=記事名:C列=外れたURL:D列=外れた記事名:E列=正しい記事名:F列=正しいURL

【おわりに】

 なんか御大層な記事になっちゃったけど、要は VLOOKUP 関数を使いました、それだけの記事です。ちなみに、一番肝心の「外れたリンクを直す」のは、ココログの編集機能を使って手作業でやりました、はい。

 いやココログの記事一覧の画面って、検索機能もあるんだねえ。この作業にとりかかってから、やっと気がついたよ。

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2018年11月16日 (金)

大森望・日下三蔵編「年刊日本SF傑作選2013 さよならの儀式」創元SF文庫

愛情や共感は、人類の宿痾だ。
  ――さよならの儀式

「あなた、笑ってますよ」
  ――コラボレーション

「まったく、ウンディ弾きって奴は」
  ――ウンディ

「あんたの依頼、俺たち武佐音研が叶えてみせるぜ」
  ――エコーの中でもう一度

micapon17こそは、我々のもっとも注目するただひとりの心霊写真家である。
  ――今日の心霊

「一枚食べたら……」(略)「もう引きかえせないからね」
  ――食書

なあに難しいことを考える必要はない。好きにやればいいのである。
  ――科学探偵帆村

「かつてのロボトミーは、乱暴で大雑把であった」
「ええ」
「だが、乱暴で大雑把だからこそ、守られたものがあったと言えるのだ」
  ――ムイシュキンの脳髄

わたしはかつて、自分の人生の主人公だった。今は異なる。
  ――イグノラムス・イグノラビムス

目に映るもの、体が感じるものをどう解釈するかは、人によって全く違う。通常なら理解できない他人の感覚をインタープリタが解釈できるのは、彼らが多かれ少なかれ、共感能力を持っているからだ。
  ――風牙

【どんな本?】

 2013年に発表された日本のSF短編から、大森望と日下三蔵が選び出した作品に加え、第五回創元SF短編賞受賞作の「風牙」を収めた、年間日本SF短編アンソロジー。

 芸の細かさと共に作家としての芯の太さを感じさせる表題作「さよならの儀式」,まさしく「今、そこにある未来」を描き出す「コラボレーション」,手慣れた職人芸が光る「ウンディ」,音響SFという新境地を切り開く「エコーの中でもう一度」…と、今回もバラエティに富んだラインナップが揃った。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2014年6月27日初版。文庫本で縦一段組み、全665頁。8ポイント42字×18行×665頁=502,740字、400字詰め原稿用紙で約1,257枚。上下巻どころか上中下の三巻に分けてもいい大容量。

【収録作は?】

 それぞれ 作品名 / 著者 / 初出。

序文:大森望
さよならの儀式 / 宮部みゆき / SF JACK
 家庭向けの汎用作業ロボットが普及した未来。ロボット廃棄手続きの窓口に、若い娘が来た。申請内容は、廃棄するロボットの記憶回収と、新しく買う機体への移植。廃棄する機体はやたら古く、メーカーは既にない。長く使っていたらしく、娘は古い機体に強い愛着を持っていて…
 窓口を担当する技師と、申請に来た娘の二人で話が進む。いかにもクールで合理的な技師、長く使った機体に思い入れたっぷりの娘。ってな雰囲気なんだが、改めて読み直すとガラリと印象が変わる。是非、二度読んでほしい。
コラボレーション / 藤井太洋 / SFマガジン2013年2月号
 検索エンジンの暴走でインターネットは崩壊し、認証付きのトゥルーネットが普及する。だが一部のサービスは様々な事情でインターネットに残り、「ゾンビ・サービス」と呼ばれている。これを監視していた高沢は、懐かしい文字列を見かける。
curl だの vim だのと、IT技術者には突き刺さる用語もさることながら、<匿名主義者>の動きも、GNU などオープンソース系の運動を思わせ、ソッチの人にはたまらない作品。と同時に、最近の著者の作品を読むと、ここ数年で小説家としての腕がぐんぐんと上がっているのも感じる。
ウンディ / 草上仁 / SFマガジン2013年12月号
 シロウとゲンバとズートは、長く三人でバンドをやっている。シロウの愛器サッコは、グレイの長毛種のウンディ。毛糸玉と揶揄される草食の節足動物だ。入門用とされる「セブン」だが、五年も使っていると愛着がわく。一週間後にコンテストを控え、三人はスタジオに集まった。
 音楽SF。あまり売れないながらも、それぞれのペースで音楽を続け、長い付き合いで互いの呼吸も呑み込んでいる、ベテランのバンドの様子がよく出ている。が、それ以上に、サッコがやたらと可愛い。セッションを描くところも秀逸。
エコーの中でもう一度 / オキシタケヒコ / SFマガジン2013年2月号 「波の手紙が響くとき」に収録
 所長・佐敷裕一郎,チーフエンジニア・武藤富士伸,助手のカリン。三人だけの武佐音響研究所に、二つの依頼が飛び込んだ。ひとつは古いテープに録音された生活音の「洗濯」。もうひとつは、今をときめく音楽プロダクションの関係者から、失踪したミュージシャンの捜索。
 なんとも斬新な音響SF。日頃から、私たちは全く意識せずに音を聴いて、そこから多くの情報を得ている。何の音か、どれぐらい近くか、どこの音か。でも、なぜ、どんなメカニズムで、そんな事がわかるのかは、まずもって意識しない。そこを掘り下げていくと…。なお、このシリーズをまとめた「波の手紙が響くとき」は、この短編で張った伏線を含めた大ネタが最後に炸裂する傑作です。
今日の心霊 / 藤井可織 / 群像8月号
 micapon17。知る人ぞ知る、本物の心霊写真家だ。その才能は、なんと二歳の時から開花していた。当時はスマートフォンどころかデジタルカメラさえ普及しておらず、幼い彼女はフィルム式使い捨てカメラを使い…
 ホラーといえばホラーなんだが、それは心霊写真が関わっているため、とは言い切れないあたりが、なんともw それはそれで怖いようなユーモラスなような。それはともかく、私もブログ友達が欲しいぞ←結局それかい
食書 / 小田雅久仁 / 小説新潮9月号
 主人公は、妻と別れひとり暮らしを始めた作家。本屋に入ったところで便意をおぼえ、トイレに駆け行ったはいいが、そこには先客がいた。その女は、あろうことか本のページを破り、食べ始めたのだ。
 そうなんだよなー。なぜか書店や図書館に入ると、トイレに行きたくなるんだよなー。とか思ったら、なんと「青木まりこ現象」なんて名前で Wikipedia に記事が載ってるw そうか、俺だけじゃなかったのか。いや全然そういう話じゃないんだけど←をい
科学探偵帆村 / 筒井康隆 / 群像12月号
 ポーレットが産んだ子はモンゴロイドだった。ローレンは処女懐胎した。いずれも身に覚えはない。この日本でも、奇妙な懐妊が相次いで起こる。この難事件に挑むのは、最新科学を駆使する老探偵・帆村壮六。
 日本SFの始祖・海野十三の生んだ名探偵・帆村壮六を、これまた日本SFの重鎮・筒井康隆が書き継ぐ、ゴールデン・カード。とはいえ、映画ネタは絶対に楽しんで書いてるなあ。おまけにオチといい〆といい、完全に筒井節になってるしw
死人妻 / 式貴士 / 私家版「死人妻」
 若くして亡くなった鬼才・式貴士の、未完成原稿。これだけで式貴士を判断しないでほしい。有名なカンタン刑を始め、エロチックでグロテスクで、時として切ない物語は、彼ならではの独特の芸風なのだ。それだけに読者を選ぶんだけど。
平賀源内無頼控 / 荒巻義雄 / SFファンジン57号
 平賀源内は生きていた。田沼意次の意向で、密かに匿われていたのだ。遠州相良で余生を送る源内に、客がやってきた。田沼意次の深慮が報われる時がきたのだ。と言えば喜ばしいようだが、事態は急を要し…
 これまた著者が楽しんでのびのびと書いてるのが伝わってくる一編。「実は生きていた」ってのはアリガチな手口ではあるけど、そこはクセ者の平賀源内。虚実取りまぜてシリーズ化したら、色々と発展させる余地がありそう。
地下迷宮の帰宅部 / 石川博品 / ファミ通文庫「部活アンソロジー2『春』」
 MMORPGで遊んでいた俺はスカウトされ、なんの因果か地下迷宮を将軍として守る羽目に。なら魔物として悪事を楽しみたいところだが、使命は迷宮の奥にある封印の間を守ること。仕方なく手下の魔物をアチコチに配して陣を整えようとするが…
 舞台や道具立てや語り口は流行りの異世界物。だが、この芸風はフレドリック・ブラウンやロバート・シェクリイなど50年代以前のアメリカSF作家や、その流れを受けた星新一や草上仁を思わせる、ヒネリの利いた短編作家の香りがする。
箱庭の巨獣 / 田中雄一 / アフタヌーン2月号
 凶暴な巨大生物が暴れまわる未来。人々は「巣」に籠り、一匹の巨獣に守られて暮らしていた。その巨獣は…
 巨大な威容を誇るグロテスクな巨獣の姿もさることながら。細かいながらもハッキリした線でミッチリと書き込まれた風景に対し、人物のアップのコマは思い切って背景を省く、そのコントラストが見事。お陰でコマごとの「主役」がとってもわかりやすい。
電話中につき、ベス / 酉島伝法 / 第53回日本SF大会なつこんプログレスレポート2号
 この世界の外にあるトゥクヴァなる村から客として招かれた。そこでしばらく世界を留守にするとになった。数年前、、この世界を訪れた旅人に、世界の様々な逸話を語って聞かせた。それを旅人が広めたのかもしれない。
 2014年茨城県つくば市で開催の日本SF大会の参加申込者に送られる小冊子に掲載したもの。「村じゅうのわたし」とか代理自律格とか、読者の意識を根底から突き崩す魔術的なフレーズが次々と飛び出してくる。
ムイシュキンの脳髄 / 宮内悠介 / 小説現代7月号 「彼女がエスパーだったころ」に収録
 ムイシュキンこと網岡無為は伝説のバンド、プテリドピュタの中心人物だった。些細なことで激高する癖に悩んだ網岡は、オーギトミーを受け、それを機にバンドは解散する。そのオーギトミーには多くの議論があるが、正確な知識はあまり知られていない。
 性格は偏っているが優れた業績を残す人がいる。IT業界ではビル・ゲイツを始めアスペルガー気味の人が多い。ミュージシャンはカート・コバーン,ジャコ・パストリアス,キース・ムーンなど枚挙にいとまがない。だが、その性格を「矯正」したら…
イグノラムス・イグノラビムス / 円城塔 / SF宝石
 「ワープ鴨の宇宙クラゲ包み火星樹の葉添え異星人ソース」。世界中の食通が絶賛する逸品だ。その食材の調達で、わたしは莫大な富を築き上げた。だが、今のわたしは…。いや、確かに美味しいとは感じる。だが…
 いきなりレストラン「宇宙の果て」なんて小ネタで読者のガードを緩めておいて、相変わらずの円城塔らしいメタっぽい話へと向かってゆく。「暗がり仮説」とかは、別にセンチマーニに限らず、歴史物の小説を書こうとすれば誰もが突き当たる障壁じゃなかろか。
神星伝 / 冲方丁 / SF JACK
 頬白哮は母を殺された。哮は悪友たちと組み、母のプラグの履歴を解析する。かすかに残った思念から、犯人の狙いは哮だった事が判明する。母は最期まで哮を守る努力を続けた。怒りに燃える哮は復讐を誓う。
 平安時代の木星を舞台とした合体○○アクション…って、無茶苦茶なようだけど、そうなんだから仕方がないw 話の分かるジャンク屋の親父、気のいい悪友たち、お高くとまった優等生、幼馴染の美少女と傍役もバッチリで、まるきしアニメの開幕編みたいだ。
風牙 / 門田充宏 / 第五回創元SF短編賞受賞作
 社長の不二が倒れ、意識が戻らない。彼を救い出すために、珊瑚は潜行を試みる。彼女はインタープリタ。同じモノを見聞きしても、それをどう感じるかは人によって違う。他人の感覚を解釈するには、特別の能力が必要だ。珊瑚は…
 関西弁のヒロインが斬新。というか、登場人物がみんな口が悪いw 短いだけあって、緊迫感あふれる場面が次々と展開する中で、ユーモラスな会話が巧みに緩急を生み出している。孫くんは可愛らしいし、お話にも王道の感がある。込み入った設定をなんとかすれば、ライトノベルとしてもウケそう。いや漫画やアニメなど絵で見せる方が向いてるかな?
第五回創元SF短編賞選考経過および選評 / 大森望・日下三蔵・瀬名秀明
2013年の日本SF界概況 / 大森望
後記 / 日下三蔵
初出一覧
2013年日本SF短編推薦作リスト

 ここでは新人扱いの藤井太洋は、今じゃベストセラー作家の貫禄を備えてるなあ。「科学探偵帆村」や「平賀源内無頼控」には、ベテランの余裕を感じた。「神星伝」も、娯楽作品のお手本として職人の手堅い手腕が伺える。「地下迷宮の帰宅部」は、一見流行りものに見えるけど、別の素材も巧みに扱えそうな雰囲気がある。いずれにせよ、相変わらずバラエティ豊かなのが嬉しい。

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2018年11月15日 (木)

ココログ:古い「カテゴリ別書評一覧」から各記事の旧URL 一覧を作るVBScript

ココログ:外れている内部リンクを探す のお仕事。ココログ:切れている内部リンクの一覧を作るVBScript から続く。

【はじめに】

 最終目的は、ココログの私の全記事から、外れている内部リンクを探し、リンク外れの一覧を作る(→ココログ:外れている内部リンクを探す)。

 今までの作業で「どの記事の、どのリンクが外れているか」の一覧ができた。ただ、外れたリンクは URL しか分からない。一応はアンカーテキストも取り出しているのだが、実はこれ、ほとんど信用できないし。

 なんにせよ。

 今のところ、「この URL が間違っている」のは、分かる。でも、それを「どう直せばいいか」が、分からない。

 そこで、間違ったURL:正しいURL の一覧 が欲しい。

 幸いにして、このブログの記事の大半は書評だ。そして、これもラッキーな事に、「カテゴリ別書評一覧」なんて頁も作ってあった。これを使えば、間違ったURL:記事名 の一覧が作れる。

 既に 正しいURL:記事名 の一覧がある。(ココログ:全公開記事のHTMLから記事一覧を作るVBScript)。今までは URL => 記事名 の形で使っていたが、逆に 記事名 => URL としても使える。

 この二つを使えば、間違ったURL => 記事名 => 正しいURL と手繰れる、つまり 間違ったURL:正しいURL の一覧が作れるだろう。

 という事で、ここでは、古い「カテゴリ別書評一覧」から、間違ったURL:記事名 の一覧を作る。

【古い「カテゴリ別書評一覧」】

 中身はこんな感じ。

 ¦
<li><a href="古いURL">
記事名</a></li>
<li><a href="古いURL">
記事名</a></li>
 ¦

 中身はこんな感じ。

【間違ったURL:記事名 の一覧】

 それを、こんな形に変換する。

古いURL 記事名
古いURL 記事名
 ¦

 区切りはタブ文字とした。

【ソース】

 名前は makeOldList.vbs とした。古い「カテゴリ別書評一覧」をドラッグ&ドロップすると、間違ったURL:記事名 の一覧ができる。

' 2018.11.07 旧ctindexからURL=>記事名一覧作る vb5.8
Option Explicit

Const blogURL = "http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/"
Dim WSH : Set WSH  = WScript.CreateObject( "Wscript.shell" )
Dim FSYS: Set FSYS = WScript.CreateObject( "Scripting.FileSystemObject" )

' ダブルクリックで起動したら使い方を示して終わる
if WScript.Arguments.length <> 1 then
    Call MsgBox( "ctindex.htmlをD&Dしる" )
    WScript.Quit
end if

' D&Dしたファイル名からフルパスと親フォルダを得る
Dim cName   : cName     = WScript.Arguments.Item(0) ' D&Dしたファイルのフルパス
Dim cFolder : cFolder   = FSYS.getParentFolderName( cName ) & "\" '親フォルダ名

' D&D したファイルを開く
Dim iHandle : Set iHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
iHandle.Type          = 2                ' text mode
iHandle.charset       = "utf-8"
iHandle.LineSeparator = 10    ' lf
iHandle.open
iHandle.LoadFromFile cName '入力ファイルを読み込む
If Err.Number <> 0 Then
    Call MsgBox( "Code:" & Err.Number & " :Can not open " & cName )
    WScript.Quit
end if

' 記事へのリンクの正規表現
Dim rURL, rTTL, oBuf, hURL, hTTL
Set rURL = new RegExp : rURL.IgnoreCase = True    '<li><a href=URL>
Set rTTL = new RegExp : rTTL.IgnoreCase = True    '記事名</a></li>
rURL.pattern = "^<li><a href=.(" & blogURL & "[^>]+).>"
rTTL.pattern = "^(.+)</a></li>"

' 全記事の全文のスキャン
oBuf = "" : hURL = ""
Do While iHandle.EOS = False
    Dim line : line = iHandle.ReadText( -2 )
'                                           <li><a href=URL>
    If rURL.Test( line ) then
        hURL   = rURL.Replace( line, "$1" )
'                                           記事名</a></li>
    ElseIf rTTL.Test( line ) and hURL <> "" then
        hTTL   = rTTL.Replace( line, "$1" )
        oBuf = oBuf & hURL & vbtab & hTTL & vblf
    end if
Loop
iHandle.Close
                    ' 結果の書き出し
Dim oHandle
Set oHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
oHandle.Charset = "UTF-8"
oHandle.Open
oHandle.WriteText oBuf, 0
oHandle.SaveToFile cFolder & "oldCtindex.txt", 2        '上書き

oHandle.Close
Call MsgBox( "Finish" )

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【つぶやき】

 この手の作業は awk か perl ならもっと楽なのにブツブツ…と思ったら、ActivePerl や Strawberry Perl とか、いろいろあるじゃないか。ちったあ調べろよ俺。でも文字コード関係はやっぱり面倒くさそう。

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2018年11月14日 (水)

ココログ:切れている内部リンクの一覧を作るVBScript

ココログ:外れている内部リンクを探す のお仕事。ココログ:全公開記事のHTMLから記事一覧を作るVBScript から続く。

【はじめに】

  最終目的は、ココログの私の全記事から、外れている内部リンクを探し、リンク外れの一覧を作る(→ココログ:外れている内部リンクを探す)。

 そのため、まず公開している全記事をダウンロードし、次に 記事のURL:記事名 の一覧を作った。

 ここでは、全記事のHTML と記事一覧を突き合わせ、外れている内部リンクの一覧を作る。

【だいたいの手順】

 手順はこんな感じ。

  1. 記事一覧を全部読み、記事URL => 記事名 の辞書を作る。
  2. 公開している全記事を1行ごとに読んで、内部リンクがあったら 1.で作った辞書を調べる。
    辞書になければ、そのリンクは切れているので、リンク外れの一覧に書き出す。

【入力と出力】

 入力は2つ。記事のURL:記事名一覧 と、全記事のHTML。

 出力はリンク外れの一覧。以下の形のテキストファイル。

記事URL 記事名 リンク外れのURL リンク外れのアンカー・テキスト
記事URL 記事名 リンク外れのURL リンク外れのアンカー・テキスト
 ¦

【欠点】

 分かっている限り、少なくとも2個の欠点がある。

 まず、記事のHTMLは記事一覧より長くなきゃいけない。全記事に対しこのスクリプトを使うなら問題ない。だが一部の記事だけリンク外れを調べたい、なんて時には使えない。

 このスクリプトは2つのファイル、記事HTMLと記事一覧をドラッグド&ロップして起動する。スクリプトは、受け取った2つのファイルを見て、どっちが記事HTMLでどっちが記事一覧かを判断しなきゃいけない。そこで単純に、よりファイルサイズが大きい方を記事HTML、と判断することにした。

 もう一つは、書き出す「リンク外れの一覧」のうち、「リンク外れのアンカー・テキスト」が信用できないこと。往々にして間違っている。とりあえず私は困らないんで、放置した。

【ソース】

  名前は Merge.vbs とした。これに記事のURL:記事名一覧 と全記事のHTMLをドラッグ&ドロップすると、リンク外れの一覧ができる。

' 2018.11.05 記事中の内部リンクを調べる vb5.8
Option Explicit

Const blogURL = "http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/"
Dim WSH : Set WSH  = WScript.CreateObject( "Wscript.shell" )
Dim FSYS: Set FSYS = WScript.CreateObject( "Scripting.FileSystemObject" )

' ダブルクリックで起動したら使い方を示して終わる
if WScript.Arguments.length <> 2 then
    Call MsgBox( "記事全文とURL一覧をD&Dしる " & WScript.Arguments.length )
    WScript.Quit
end if

' D&Dしたファイル名からフルパスと親フォルダを得る
Dim cName   : cName     = WScript.Arguments.Item(0) ' D&Dしたファイルのフルパス
Dim lName   : lName     = WScript.Arguments.Item(1) ' D&Dしたファイルのフルパス
Dim cFolder : cFolder   = FSYS.getParentFolderName( cName ) & "\" '親フォルダ名
' 大きいファイルは記事、小さいファイルは一覧
if fileSize( cName ) > fileSize( lName ) then
    Dim w
    w = cName
    cName = lName
    lName = w
end if

' 一覧ファイルを読み、辞書lURLに登録
Dim lURL
Set lURL = makeLinkDic( lName )

' 記事へのリンクの正規表現
Dim rURL, oBuf, hURL, hTitle, rRef, tURL, tTitle
Set rURL = new RegExp : rURL.IgnoreCase = True   '<h3><a href=URL>記事名</a></h3>
Set rRef = new RegExp : rRef.IgnoreCase = True   '<a href=URL>記事名
rURL.pattern = "^.*<h3><a href=.(" & blogURL & "[^>]+).>([^<]+)</a></h3>.*$"
rRef.pattern = "^.*<a href=.(" & blogURL & "\d\d\d\d/\d\d/[^>]+html).>([^<]*)$"

' 全記事の全文のスキャン
oBuf = ""
Dim cHandle : Set cHandle = openFile( cName )
Do While cHandle.EOS = False : do
    Dim l : l = cHandle.ReadText( -2 )
'                                        記事名行,<h3><a href=URL>記事名</a></h3>
    if rURL.Test( l ) then
        hURL   = rURL.Replace( l, "$1" )
        hTitle = rURL.Replace( l, "$2" )
        Exit Do
    End If
'                                       </a>で分割して
    Dim k
    For Each k in Split( l, "</a>", -1 ) : do
        if not rRef.Test( k ) then : Exit do : End If
        tURL   = rRef.Replace( k, "$1" )
        tTitle = rRef.Replace( k, "$2" )
        if InStr( tURL, "index.html" ) > 0 then : Exit do : End If
        if lURL.Exists( tURL ) Then : Exit do : End If
        oBuf = oBuf & hURL & vbtab & htitle & vbtab & tURL & vbtab & tTitle & vbcrlf
    Loop Until 1 : Next
Loop Until 1 : Loop
cHandle.Close
                    ' 結果の書き出し
Dim oHandle
Set oHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
oHandle.Charset = "UTF-8"
oHandle.Open
oHandle.WriteText oBuf, 0
oHandle.SaveToFile cFolder & "lostLinkList.txt", 2        '上書き
oHandle.Close
Call MsgBox( "Finish" ) : WScript.Quit

' fileSize( fName ) : ファイル fName のサイズを返す
Function fileSize( fName )
    Dim fi
    Set fi = FSYS.GetFile( fName )
    fileSize = FormatNumber( fi.Size, 0 )
End Function

' openFile( fName ) : ファイル fName を開いて返す
Function openFile( fName )
    Dim fHandle

    Set fHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
    fHandle.Type          = 2                ' text mode
    fHandle.charset       = "utf-8"
    fHandle.LineSeparator = 10    ' lf
    fHandle.open
    fHandle.LoadFromFile fName '入力ファイルを読み込む
    If Err.Number <> 0 Then
        Call MsgBox( "Code:" & Err.Number & " :Can not open " & fName )
        WScript.Quit
    end if
    Set openFile = fHandle
end Function

' makeLinkDic( lName ) : ファイルlNameから(URL:記事名)の辞書を作る
Function makeLinkDic( lName )
    Dim lHandle : Set lHandle = openFile( lName )
    Dim lURL    : Set lURL =WScript.CreateObject( "Scripting.Dictionary" )

    Do While lHandle.EOS = False
        Dim line, col
       
        line = lHandle.ReadText( -2 )
        col = Split( line, vbtab, -1 )  ' URL tab Title
        lURL.Add col(0), col(1)
    Loop
    lHandle.Close
    Set makeLinkDic = lURL
End Function

【おわりに】

 ココログ:外れている内部リンクを探す ために、これを含め3つのスクリプトを書いた。1)記事全文をダウンロード,2)記事一覧を作る,3)外れている内部リンクを探す だ。

 この3つのスクリプト、1つのスクリプトにまとめてもいい。というか、サービスとして一般に公開するなら、たぶん1つのスクリプトにしちゃう。1本にすると、途中のファイル、例えば記事名一覧とかが要らなくなる。

 そうしなかったのは、分けた方が楽に作れるからだ。

 私の場合、スクリプトを作る時間の8割以上をデバッグ、つまり間違い探しに費やす。1本作るのに、数十回も試行錯誤する。

 こういう時は、作業をなるたけ細かく複数の段階に分けて、各段階ごとに一歩一歩進めていく方がいい。記事名一覧も、いったんテキスト・ファイルに書き出せば、その中身をテキスト・エディタで確認できる。

 それはともかく。

 この作業を通じて、色々と VBScript について分かったのが嬉しい。関数かたオブジェクトを返す方法,連装配列の使い方,タブ区切りテキストをカラムに分ける方法,HTTPリクエストを送る方法,ループ内の If から continue する手口。

 JavaScript などと違い、Do などのブロックは変数のスコープを作らないのは新しい発見。また変数に型がないってのも知らなかった。道理で As がエラーになるわけだ。どころか、VBScript と VBA は違うって事に、やっと気がついた。間抜けな話だ。

 もっとも、全般的に VBA の方が VBScript よりパワフルだし、Microsoft は今後 PowerShell に力を入れていくだろうから、今さら VBScript を覚えても、あまし利益はないだろうなあ。

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2018年11月13日 (火)

ココログ:全公開記事のHTMLから記事一覧を作るVBScript

ココログ:外れている内部リンクを探す のお仕事。ココログ:各月のURL一覧から全公開記事をダウンロードするVBScript から続く。

【はじめに】

 最終目的は、ココログの私の全記事から、外れている内部リンクを探すこと(→ココログ:外れている内部リンクを探す)。その第一段階として、公開中の全記事をダウンロードした(→ココログ:各月のURL一覧から全公開記事をダウンロードするVBScript)。

 この記事では、全記事のファイルから URL:記事名 の一覧を作る。

【全記事のファイル】

 中には全記事のHTMLが入っている。大事なのは記事の見出しの部分で、こんな風になっている。

 ¦
<h3><a href="http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post.html">「KGBの世界都市ガイド」晶文社 小川政邦訳</a></h3>
 ¦
<h3><a href="http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/sf-f09f.html">アン・レッキー「動乱星系」創元SF文庫 赤尾秀子訳</a></h3>
 ¦

 要は<h3><a href="記事のURL">記事名</a></h3> って形で、記事のURLと記事名がわかるのだ。これを取り出せばいい。

【URL:記事名】

 取り出したら、次の形のテキスト・ファイルにする。URLと記事名の区切りはタブ文字。

http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post.html	「KGBの世界都市ガイド」晶文社 小川政邦訳
http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/sf-f09f.html アン・レッキー「動乱星系」創元SF文庫 赤尾秀子訳
 ¦

【ソース】

 名前は makeURLList.vbs とした。これに全記事のファイルをドラッグ&ドロップすると、URL:記事名 のファイル URLlist.txt ができる。

' 2018.11.05 記事全文からURL一覧作る vb5.8
Option Explicit

Const blogURL = "http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/"
Dim WSH : Set WSH  = WScript.CreateObject( "Wscript.shell" )
Dim FSYS: Set FSYS = WScript.CreateObject( "Scripting.FileSystemObject" )

' ダブルクリックで起動したら使い方を示して終わる
if WScript.Arguments.length <> 1 then
    Call MsgBox( "記事全文をD&Dしる" )
    WScript.Quit
end if

' D&Dしたファイル名からフルパスと親フォルダを得る
Dim cName   : cName     = WScript.Arguments.Item(0) ' D&Dしたファイルのフルパス
Dim cFolder : cFolder   = FSYS.getParentFolderName( cName ) & "\" '親フォルダ名

' D&D したファイルを開く
Dim iHandle : Set iHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
iHandle.Type          = 2                ' text mode
iHandle.charset       = "utf-8"
iHandle.LineSeparator = 10    ' lf
iHandle.open
iHandle.LoadFromFile cName '入力ファイルを読み込む
If Err.Number <> 0 Then
    Call MsgBox( "Code:" & Err.Number & " :Can not open " & cName )
    WScript.Quit
end if

' 記事へのリンクの正規表現
Dim rURL, oBuf
Set rURL = new RegExp : rURL.IgnoreCase = True    '<h3><a href=URL>記事名</a></h3>
rURL.pattern = "^.*<h3><a href=.(" & blogURL & "[^>]+).>([^<]+)</a></h3>.*$"

' 全記事の全文のスキャン
oBuf = ""
Do While iHandle.EOS = False
    Dim line : line = iHandle.ReadText( -2 )
'                                        <h3><a href=URL>記事名</a></h3>
    if rURL.Test( line ) then
        Dim hURL, hTitle
        hURL   = rURL.Replace( line, "$1" )
        hTitle = rURL.Replace( line, "$2" )
        oBuf = oBuf & hURL & vbTab & hTitle & vblf
    end if
Loop
                    ' 結果の書き出し
Dim oHandle
Set oHandle = CreateObject("ADODB.Stream")
oHandle.Charset = "UTF-8"
oHandle.Open
oHandle.WriteText oBuf, 0
oHandle.SaveToFile cFolder & "URLlist.txt", 2        '上書き

iHandle.Close
oHandle.Close
Call MsgBox( "Finish" )

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2018年11月12日 (月)

エリザベス・ウィルソン「ラブ・ゲーム テニスの歴史」白水社 野中邦子訳

かつて「スポーツ」という言葉はエロティックな戯れを指すのに用いられ、17世紀には悪徳とさえ考えられていた。「(略)なぜなら、スポーツは暇つぶしであり、なんの利益もなく、基本的に不真面目な行為だから」である。
  ――4 スポーツ文化の成長

「世紀の」試合、記憶に残る敗北、驚くべき逆転勝利など、過去のスポーツ界の傑出した試合は、映画フィルムやビデオでは真の姿が捉えきれないという点でダンスや舞台のパフォーマンスに似ている。
  ――8 孤独なアメリカ人

…彼らのような貴族階級に属する(ドイツの)地主たちの生活は、どちらかといえば戦争(第一次世界大戦)の影響をあまり受けなかった。ユンカーと呼ばれる地主階級も、ハイパーインフレによる損害も中産階級ほど甚大ではなかった。むしろ土地の価格はさらに上昇していた。
  ――11 ワイマール時代のテニス そして、その後

1967年12月14日、英国ローンテニス協会(LTA)は投票の結果、アマチュア選手とプロ選手の区別を廃止すると決めた。
  ――16 オープン化

露呈された真理はつねに美しいとはかぎらない。
  ――19 悪童たち

スポーツは「暇つぶしから始まった活動の典型」だったにもかかわらず、勤勉さを称揚する態度、すなわち効率と普段の進歩という理念が横行することになったのだ。
  ――20 企業とテニス

見方によれば、(ランキング制によって)むらのないテニスが有利になったともいえる。いっときの爆発力よりも一貫性のあるテニスのほうがポイントを稼げたのである。
  ――20 企業とテニス

現代では、有名スポーツ選手のキャリアの終わりは精神的な傷になりがちである。(略)いつ引退するかを決めるのは、テニス選手の場合、とくにむずかしい。いまが引き時だと教えてくれるチームやマネージャーはいない。
  ――23 セレブの仲間入り

イギリスのテニス人口の大半は私立校の生徒に限られていたが、イギリスの現役選手の数は21世紀の最初の十年間で半減した。(略)一方、スペイン、フランス、ドイツ、東欧ではテニス人口が増え、広く定着しつつある。
  ――26 バック・トゥ・ザ・フューチャー

【どんな本?】

 テニスは独特のスポーツだ。基本的に個人のスポーツである、にも関わらず、試合時間は異様に長く、時として5~6時間にも及ぶ。得点の数え方も奇妙かつ不規則で、なぜかゼロをラブと呼ぶ。そして何より、オシャレでセクシーだ。

 そんなテニスは、いつ・どこで始まったのか。どんなプレーヤーが、どんなスタイルで闘ったのか。現在の隆盛に至るまで、どんな道を辿ったのか。社会や風俗そして技術の変転は、テニスにどんな影響を与えたのか。

 テニスの熱心なファンであり、ロンドン・メトロポリタン大学の名誉教授である著者が綴る、テニスへのラブレター。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は LOVE GAME : A History of Tennis, from Victorian pastime to globaal phenomenon, by Elizabeth Wilson, 2014。日本語版は2016年11月5日発行。単行本ハードカバー縦一段組みで本文約373頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント47字×19行×373頁=約333,089字、400字詰め原稿用紙で約833枚。文庫本なら厚い一冊か薄めの上下巻ぐらいの分量。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。当然ながらテニスの本なので、テニスに詳しい人ほど楽しめる。

【構成は?】

 歴史の本なので、ほぼ時系列で話は進む。が、過去のプレーヤーでご贔屓の選手がいる人は、気になった所を拾い読みしてもいいだろう。

  •  1 愛のゲーム
  • 第一部 有閑階級
    • 2 健全な興奮をもたらす科学的な競技
    • 3 リアルテニスとスコア方式
    • 4 スポーツ文化の成長
    • 5 リヴィエラで
    • 6 女たちの何が悪いのか?
    • 7 ヘンリー・ジェイムズのテニス
    • 8 孤独なアメリカ人
    • 9 四銃士
    • 10 労働者階級の英雄
    • 11 ワイマール時代のテニス そして、その後
    • 12 英雄の末路
    • 13 三人の女
  • 第二部 スポーツと人生
    • 14 戦場からの帰還
    • 15 ゴージャス・ガールズ
    • 16 オープン化
    • 17 彼らもまた除け者だった
    • 18 テニスとフェミニズムの出会い
  • 第三部 ザッツ・エンターテインメント
    • 19 悪童たち
    • 20 企業とテニス
    • 21 ウーマン・パワー
    • 22 技術による先進
    • 23 セレブの仲間入り
    • 24 新世紀のテニス
    • 25 スポーツとメディア
    • 26 バック・トゥ・ザ・フューチャー
  • 訳者あとがき
  • 図版クレジット/謝辞/原注/参考文献/索引

【感想は?】

 著者のご贔屓はロジャー・フェデラーらしい。ジョン・マッケンローの出番も多い。

 意外な組み合わせ…と思ったが、これは私がテニスに疎いからだ。少し前は錦織圭が、最近では大坂なおみが話題になった。両者の名を知る人は多いが、そのプレースタイルの特徴を知っている人は、どれぐらいいるだろう? 実は私も知らない。

スポーツとしてのテニスにそれほど人気がないのに、テニス選手の名前は世界中で知られている
  ――23 セレブの仲間入り

 そう、優れた選手はスターなのだ。もっとも、これは今に始まったことじゃない。

「…シャマチュアの時代、われわれは運動能力にすぐれたジゴロでしかなかった――これは(ビル・)チルデン(→Wikipedia)の言葉だ」
  ――14 戦場からの帰還

 しかも、錦織圭と大坂なおみが話題になったのは、日本と関係が深いからだ。

スポーツの普及活動は愛国心のプロパガンダである。
  ――25 スポーツとメディア

 もっとも、この手の「仲間意識」は、国ばかりとは限らない。

傑出した黒人はひとりの個人というより、黒人全体の代表とみなされ、彼らの声を代表しているように受け取られる。
  ――17 彼らもまた除け者だった

 こういう、スポーツの持つ様々な面に目を向けているのが、この本の特徴の一つだろう。そのためか、テニスウェアについても、詳しく論じている。

服飾史家のジェイムズ・レーバーによれば、少なくとも18世紀以降、ファッショナブルな衣装、とくに紳士者の流行はすべてスポーツウェアから生まれたという。
  ――4 スポーツ文化の成長

 などと書いてる私も、今はスェット姿だ。エア・ジョーダンに代表されるバスケットシューズは、男の子の憧れでもある。歳を取ったらゴルフウェアでもいい。とか考えると、現代にも充分通じる真理だなあ。もっとも、テニスウェアの変化が大きいのは、女子選手の方だろう。

 これは表紙を見ただけでスグわかる。表紙は1926年のミックスダブルスで、ルネ・ラコステとジュザンヌ・ランラン。ラコステの格好は今でも年配のアマチュアならアリだろう。でもランランの膝下まであるスカートは…。そうは言っても、両者ともに当時のトップ選手なのだ。

 加えて、テニスウェアの特徴と言えば、白である。貴族的で上品な色だ。それはつまり、テニスが「そういうもの」として始まったからだ。ウェアの歴史は、テニスの歴史も反映しているのが納得できる。これも最近はカラフルになった。

テニス界を揺るがした変化のごく初期のシンボルといえば、白を捨てたことだった。
  ――19 悪童たち

 これはテニスがビジネスになったためだ。何せテニス、いやスポーツには金がかかる。当初はアマチュアのスポーツとして始まった。でもそれでやっていけるのは、他に収入の道がある者だけ。そこでスポンサーがつき、アマかプロかわからない「シャマチュア」なる言葉が生まれる。これまた最近は…

皮肉なことに、この(ウェアのスポンサー契約)せいで、ウェアは白のみというルールを廃止に追い込んだときと同じ状況がもたらされた。つまり、対戦する二人の選手の見分けがつかないのだ。
  ――24 新世紀のテニス

 スポンサーが同じだと、ウェアも同じだったりするんですね。こういった企業の関与はプレースタイルにも影響してくる。特に大きいのがラケットとガット。

1990年代後半、(略)「高弾性率」カーボンファイバー(略)のおかげでさらに軽量でありながら、より硬く、より強いラケットが作れるようになった。新しい人工ストリングはより高度なスピンがかけられる(略)。これら(略)によって現在のテニスがもたらされたのである。
  ――22 技術による先進

 というのも…

ラケットヘッドが大きくなるとトップスピンがかけやすくなり、その結果、「[これまで]ボレーが得意だった選手たちは……いまや猛スピードで飛んできて急に落ちるボールに直面させられた」。
  ――24 新世紀のテニス

 トップであれバックであれ、スピンは強力になる。おまけにコートも変わった。金と手間がかかり弾まない芝が減り、全天候対応でよく弾むハードコートが増えた。スピンを武器にする選手が有利になったのですね。私はこの辺が読んでて最も面白かった。このプレースタイルの変化、皮肉な事に…

1950年代まではおそらく、グラウンドストローク主体のプレーから脱却しようとしたのはとくに抜きん出た選手だけであり、たいていの女子選手は従来のやり方で満足していた。
  ――13 三人の女

 と、昔の女子選手のプレースタイルと似ていたり。オーバーハンドサーブとスマッシュが1880年ごろに「発明」された技だった、というのも、時代性を感じさせる。というか、今どきアンダーハンドのサーブを打つプロなんかいるのかな?

 ということで、ロジャー・フェデラーとジョン・マッケンローの共通点だ。二人とも、コートを縦に使うのである。著者はそういう変化に富んだプレーが好きらしい。

 個人スポーツである事が生み出すテニスの特殊性、ウェアに象徴される風俗の変化、オープン化が示す企業の進出など、様々な視点でテニスを語りつつも…

「テニスにかんする過ちのひとつは、実際にプレーしない人たちの事情にあわせてあまりに多くの人がテニスを変えようとしてきたことではないだろうか」
  ――26 バック・トゥ・ザ・フューチャー

 なんて所は、テニスを他のスポーツに差し替えても成立しちゃうあたり、現代のスポーツ全般に共通する問題点も指摘する本なあたりが面白い。

【関連記事】

【つぶやき】

 ところでキズナアイのNHK出演に憤ってる人たちは、女子テニス選手やチアリーダーの衣装をどう思っているんだろう?

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2018年11月11日 (日)

ココログ:各月のURL一覧から全公開記事をダウンロードするVBScript

ココログ:外れている内部リンクを探すから続く。

【はじめに】

 最終目的は「ココログの私の全公開記事から、外れている内部リンクを探し、タブ区切りテキストで書き出す」ことだ。そのためにやる事は幾つかある。

 ここでは、私が公開している全ブログ記事のHTMLをダウンロードする。

【具体的には】

 URLの一覧を読んで、その全頁をダウンロードし、一つのファイルに書き出す。

【欠点】

 このスクリプトには欠点がある。

 正確には、恐らく幾つかある欠点のうち、一つだけはハッキリわかっている。一カ月に25~26件以上の記事を書いている場合、たぶんこのスクリプトでは上手くいかない。

 このスクリプトは、月別アーカイブを全部ダウンロードする。それだけだ。この方法だと、幾つかの記事は取りこぼすかもしれない。

 ココログのカテゴリー別のアーカイブは、ちと複雑な構造になっている。例えば「日記・コラム・つぶやき」のアーカイブを見て欲しい。最近の10件の記事は、全文が載っている。それより前の記事は、下のほうに記事名の一覧が出ているだけだ。古い記事の記事の中身を見たいなら、記事名からリンクを手繰らなきゃいけない。

 月別のアーカイブも、似たような形になっている…と、思う。とまり、「最近の25件」ぐらいまでは、各月のアーカイブに全文を載せ、それより前の記事は記事名だけを載せる、そんな感じだろう。

 私が一カ月に書く記事は、多くても20件ぐらいだ。だから、全月のアーカイブをダウンロードすれば、公開記事を全部ダウンロードできる。

 でも、毎日記事を書いているなら、このスクリプトじゃ、月の頭に書いた記事を無視してしまう。

 このまま使う人はまずいないと思うが、そういう欠点がある(というか、現時点で少なくともこの欠点だけはわかっている)由をご了解願いたい。

【使い方】

 次のプスクリプト(crowl.vbs)に、URL一覧のファイルをドラッグ&ドロップする。巧く動いたら、、公開記事の全文が入ったファイル res.html ができる。 

【ソース】

' crowl.vbs アーカイブからクロール vbs5.8
Option Explicit
Dim WSH : Set WSH  = WScript.CreateObject( "Wscript.shell" )
Dim FSYS: Set FSYS = WScript.CreateObject( "Scripting.FileSystemObject" )

' ダブルクリックで起動したら使い方を示して終わる
if WScript.Arguments.length <> 1 then
    Call MsgBox( "クロール先一覧をD&Dしる" )
    WScript.Quit
end if

' D&Dしたファイル名からフルパスと親フォルダを得る
Dim cName   : cName     = WScript.Arguments.Item(0) ' D&Dしたファイルのフルパス
Dim cFolder : cFolder   = FSYS.getParentFolderName( cName ) & "\" '親フォルダ名
                                    ' クロール先一覧をリストcURLsに読み込む
Dim cURLs
Set cURLs = CreateObject( "System.Collections.ArrayList" )
Dim cFile
Set cFile = FSYS.OpenTextFile( cName, 1, False, 0)
If Err.Number <> 0 Then
    Call MsgBox( "Code:" & Err.Number & " :Can not open " & cName )
    WScript.Quit
end if
Do Until cFile.AtEndOfStream
    Dim cLine : cLine = cFile.ReadLine
    cURLs.add( cLine )
Loop
cFile.Close()
'               クロール
Dim aURL, aBuf
aBuf = ""
For Each aURL In cURLs
    Dim aHttp
    Set aHttp = WScript.CreateObject( "MSXML2.XMLHTTP" )
    aHttp.Open "GET", aURL, False
    aHttp.Send
    aBuf = aBuf & aHttp.ResponseText
Next
'                                           結果をres.htmlに書き出す
Dim oFile
Set oFile = CreateObject( "ADODB.Stream" )
oFile.Charset = "UTF-8"
oFile.Open
oFile.WriteText( aBuf )
oFile.SaveToFile cFolder & "res.html", 1    '追加書き
oFile.Close

Call MsgBox( aURL & ":" & aHttp.Status & ":" & aHttp.statusText ) : WScript.Quit

【URL一覧】

 上のスクリプトにドラッグ&ドロップする「URL一覧」は、テキストファイルだ。中身はこんな感じ。1行にURLが1個書いてある、それだけ。

http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/index.html
http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/index.html
http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/index.html
 ¦
http://chikuwablog.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/index.html

 どうやって作ったか、というと。

  1. バックナンバー」のHTMLをテキスト・エディタにコピーする。
  2. 要らない行を削除する。
  3. <a href=" と ">.*</a><br /> を一括変換で削除(空文字列に変換)する

 と、ほぼ手作業で作りました、はい。

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2018年11月 9日 (金)

ココログ:外れている内部リンクを探す

 今年の初めにカテゴリ別書評一覧を作り替えた。ハッキリ言って、やらない方がよかった。

 理由は幾つかあるが、その一つは、既存の記事の URL が変わってしまった事だ。おかげで、このブログの別の記事に張ったリンクの幾つかが切れて、404 not Found になってしまう。これは困る。

 という事で、外れている内部リンクを探すプログラムを VBScript で書く。いろいろと欠陥はあるが、とりあえずの役には立った。ちなみにリンクを張りなおすのは手作業で行った。

【やる事】

 ココログの私の全公開記事から、外れている内部リンクを探し、タブ区切りテキストで書き出す。可能なら、切れたリンクの新しい URL も調べる。

【だいたいの流れ】

  1. 手作業:「バックナンバー」の頁から、各月のアーカイブの URL 一覧を作る
     →ファイル arc.txt
  2. VBScript crowl.vbs:各月のアーカイブの URL 一覧 arc.txt を読み、全公開記事の HTML をダウンロードする
     →ファイル res.html
  3. VBScript makeURLList.vbs:全記事の HTML res.html から、公開記事の URL 一覧を作る。
     →ファイル URLlist.txt
  4. VBScript merge.vbs:公開記事の URL 一覧 URLList.html と全公開記事の HTML res.html を突き合わせ、リンク切れの一覧を作る。
     →ファイル LostLinkList.txt
  5. VBScript makeOldList.vbs:幸いにして古い「カテゴリ別書評一覧」も残っていた。これから各記事の旧URL 一覧を作る。
     →ファイル oldCtindex.txt
  6. OpenOffice Calc:リンク切れ一覧 LostLinkList.txt と 旧URL 一覧 oldCtindex.txt と公開記事URL一覧 URLlist.txt を突き合わせ、記事URL:リンク切れURL:新URL の一覧を作る
  7. 手作業:上の一覧を使い、ココログの記事編集機能で外れたリンクを繕う。

【おわりに】

 「もしかして VBScript って HTTP も使えるんじゃね?」と思って調べたら可能だったので、やってみたかっただけなんです、はい。でも今は PowerShell ってのがj流行ってるらしいんで、次はこっちにしようかなあ。

 そんなわけで、これから時おり、書いたプログラムなどを公開していきます。

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2018年11月 8日 (木)

ウィリアム・トレヴァー「聖母の贈り物」国書刊行会 栩木伸明訳

「パパはボタンのビジネスをしているんだ」とトリッジは晴れやかに答えた。「トリッジ商会って知ってるでしょ」
  ――トリッジ

「あの人たちはあなたをこわがっているのよ」と彼女はその晩言った。「全員がね」
  ――ミス・エルヴィラ・トレムレット、享年十八歳

「これでお終い、またしても」
  ――マティルダのイングランド 1.テニスコート

「だって私は現在ってものが嫌いなんです」
  ――マティルダのイングランド 3.客間

「おまえも早く戻りなよ、ポーリー」
  ――丘を耕す独り身の男たち

ミホールに神のお召しが訪れたのは十八歳のときだった。畑を耕し家畜の世話をする暮らしを捨てて修道院へ行け、と夢の中で告げられたのである。
  ――聖母の贈り物

ひとりぼっちの人間にとっては、つらつら考えることが友達みたいなものだ。
  ――雨上がり

【どんな本?】

 ウィリアム・トレヴァーは、アイルランド出身の作家。1928年生まれ、2016年没。彼の作品から12編を選んだ、日本独自の作品集。

 この作品集では、風景はのどかながら、カトリックとプロテスタントが絡み合う複雑なアイルランドの社会を背景に、人の気持ちのスレ違いを描いた作品が多い。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2007年2月15日位初版第1刷発行。単行本ハードカバーー縦一段組みで本文約388頁に加え、訳者あとがき10頁。9ポイント44字×19字×388頁=約324,368字、400字詰め原稿用紙で約811枚。文庫本なら厚い一冊か薄めの上下巻ぐらいの分量。

 幾つかの作品はアイルランドの歴史と社会が背景にある。大ざっぱに言うと、民衆はカトリックで、侵略者であり地主階級のイングランド人はプロテスタント。ただし「アイルランド便り」のフォガーティー姉弟のように、落ちぶれたプロテスタントもいる。

【収録作は?】

 それぞれ 邦題 / 原題 の順。

トリッジ / Torridge
 寄宿舎学校で、トリッジは天然ぼけで明らかに浮いていた。特にトリッジに構うのは三人、ウィルトシャーとメイス=ハミルトンとアロウスミスの三人だ。この学校には秘密の伝統がある。上級生は、特定の下級生の後ろ盾になる。ある日、トリッジに…
 校長の「要領を得ない話」は、前菜ながら、この作家の特色をよく表している。十四年間つとめてきたって、そりゃ自分の無能を告白しているようなモんなんだけど、気づいていないんだろうなあ。この気づいていないってのが、後半になって…
こわれた家庭 / Broken Homes
 ミセス・モールビーは八十七歳。二人の息子を戦争で喪い、夫も五年前に他界した。今はひとりで暮らすのにも慣れたし、近所の人も何かと気を使ってくれる。ただ耄碌したと思われるのは嫌だった。ある日、中等学校の教師と名乗る男がやってきて…
 これまた教師の間抜けっぷりが炸裂する話。なんだけど、こういう自信満々の奴ってのは、まずもって自分じゃツケは払わない。というか、だいぶ前から話題になっている社会問題を私は思い浮かべた。ご近所と付き合いがあっても、これじゃあ…
イエスタデイの恋人たち / Lovers of Their Time
 時は1960年代。ノーマン・ブリットは旅行代理店に勤める40歳の冴えない男。妻のヒルダは同い年。子供はいない。最近、気になる女がいる。マリー、職場近くのグリーンズ薬局にいる娘。マリーから休暇の旅行の相談を受けたノーマンは、昼休みに彼女を誘い…
 1960年代といえば若者が元気にはっちゃけた時代、みたいな印象を持っていた。でも、中年もソレナリにノッていたのかも。
ミス・エルヴィラ・トレムレット、享年十八歳 / The Raising of Elvira Tremlett
 父さんとジャック叔父さんは一緒に自動車修理工場をやってる。ブライアン兄さんとリーアム兄さんは工場を継ぐと期待されてる。エッフィー姉さんは計算が得意で、工場の会計を任せるのにちょうどいい。キティー姉さんは父さんのお気に入りだ。でも僕自身は…
 「トリッジ」同様、浮いちゃってる少年の話。子供が五人、町にパブが29軒って所が、いかにもアイルランドだなあ。1873年没ってのに何か意味があるのかと思って Wikipedia の「アイルランドの歴史」を見たら、土地改革でイングランド人地主の土地を小作人に分け与えていた頃。
アイルランド便り / The News from Ireland
 1839年、アイルランド。先代の地主ヒュー・パルヴァータフトが亡くなり、後継ぎの一族がやってきた。屋敷も敷地もいい具合に崩れかけていたが、後継ぎは職人を集め屋敷を整えている。フォガーティー姉弟は落ちぶれたプロテスタントで、屋敷で働いている。そこに住みこみ家庭教師のアンナ・マリア・ヘッドウがやってきた。
 1845年~1849年は有名なジャガイモ飢饉(→Wikipedia)の時代。ジャガイモの疫病による不作に加え、イングランド地主の無慈悲な政策が飢餓に拍車をかけた。冒頭でざっくりとアイルランドの歴史をまとめてあって、これが最後の文と見事につながっている。
エルサレムに死す / Death in Jerusalem
 兄のポール神父は才気に溢れ、アメリカに渡って成功し、世界中を飛び回っている。無口な弟のフランシスも信心深く、今は母の金物店を引き継ぎ働いている。毎年恒例の里帰りの際に、ポール神父はフランシスを聖地エルサレムへの巡礼に誘う。
 社交性とエネルギーと才気に溢れてはいるが、母との折り合いが悪い兄のポール。無口でお人好しながら、母との暮らしに満足しているフランシス。私はポールに入れ込んじゃったなあ。登場人物の視点の違いによる、気持ちのスレ違いを巧みに描く作品が多い中で、この作品は特に心に刺さった。
マティルダのイングランド / Matilda's England
 1.テニスコート / The Tennis Court
 2.サマーハウス / The Summer-house
 3.客間 / The Drawing-room
 昔のチャラコム屋敷は賑やかで、たくさん人を雇っていた。でもミスター・アッシュバートンが先の戦争で出征し、復員した時は抜け殻になってしまう。以来、家は落ちぶれ負債は嵩み、1929年に亡くなる。返済のためミセス・アッシュバートンは地所を切り売りした。父の農場も、その時に買ったものだ。
 そして1939年、5月。老いたミセス・アッシュバートンンは9歳の私をマイ・マティルダと呼び、可愛がってくれる。15歳の兄ディックと14歳の姉ベティーが一緒のとき、ミセス・アッシュバートンが言う。「チャラコム屋敷にはテニスコートがあるから」「プレーしたくなったらいつでもどうぞ」
 今、調べたら、WIkipedia に「マティルダ・オブ・イングランド」なんて記事がある。何か関係あるのかな?
 イングランドの田舎で生まれ育った娘マティルダの一人称で語られる物語。短編三つと言うべきか、三部構成の中編と言うべきか。
 改めて読み直すと、ミセス・アッシュバートンは、なかなか気のいいご婦人じゃないか。零落しても気品は保ち、かつての名声に拘らず農場の子どもたちにも気さくに声をかける。老いて独り身の寂しさが理由とはいえ、お高くとまってないのがいい。
 マティルダはミセス・アッシュバートンがあまり好きじゃない様子。それでも仲の良い家族に囲まれ、幸せな子供時代を送る。そのハイライトが、最初の「テニスコート」の終盤だろう。だが海の向こうではドイツが暴走を始め…
 戦争の影が濃い作品だ。が、それ以上に、私はマティルダ自身の性格が強いと思う。彼女は決してSFなんか読まないだろう。でもジャック・フィニイの「ゲイルズバーグの春を愛す」は気に入るんじゃなかろか。未来より過去が好きな人なのだ。こういう人は、いつでも、どこにでも居る。
丘を耕す独り身の男たち / The Hill Bachelors
 幾つもの丘を越えて、末っ子のポーリーが帰ってきた。亡くなった父を見送るため、母の住む農場の家に。父はフランセスがお気に入りで、次にメナを可愛がっていた。そつのないケヴィンも、長男のエイダンも。だが末っ子のポーリーとは…
 農家の嫁不足はどこも同じらしい。そして、農家の嫁の待遇も。子供が五人ってのも、いかにもアイルランド。にしてもポーリー、実はけっこうモテてるのに…
聖母の贈り物 / The Virgin's Gift
 18歳の時、ミホールは神のお召しを受けた。修道院へ行け、と。ひとり息子であるにも関わらず、父はミホールを送り出してくれた。幼馴染のフォーラは違ったが。やがて修道院でも…
 ある意味、信仰に身を捧げた者の物語なんだが、決して祭り上げられることはないだろう。タイトル通り、キリスト教信仰の色が濃い…と思ったが、日本でも昔はこんな坊さんがいたんじゃないかな。でも、こういう形で終わるのは、やっぱりキリスト教だなあ。
雨上がり / After Rain
 ハリエットは30歳になったばかり。本当はふたりでエーゲ海のスキロスでバカンスを過ごすはずだった。でも今はペンシオーネ・チェザリーナで一人。恋が終わってしまったのだ。そこで、子どもの頃、家族と一緒によく来たここに再び来たのだ。
 失恋旅行に出かけた女の話…なんだが、日本のような島国に住む者としては、気軽に外国に旅行に行けるヨーロッパがひたすら羨ましかったり。

 ポップ・ミュージックのレコードやCDに倣い、12編を集めた作品集。レコードなら、さしずめ「トリッジ」~「エルサレムに死す」がA面で、「マティルダのイングランド」~「雨上がり」がB面だろうか。微妙に性格の悪さが滲み出ているA面に対し、B面は密かに悲しみと諦観が漂っている。その双方が入り混じった「エルサレムに死す」が私は好きだなあ。

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2018年11月 5日 (月)

「KGBの世界都市ガイド」晶文社 小川政邦訳

商店はスパイのエイジェントの仕事にとってバスや地下鉄に劣らず重要である。巨大なハロッズは出入り口が多く、いつも人がいっぱいで、尾行がついても簡単に群衆にまぎれこめる。
  ――ロンドン

「新ロシア人」は書店を一生懸命避けて通ります。博物館、図書館その他あらゆる文化センターがこのカテゴリに入ります。
  ――ベルリン

わたしは、ワシントンでは執行権力の正面入口がのんきにスラム街と隣り合わせになっていることにいつも驚いていました。(略)モスクワではニクソン大統領の最初の訪問までに数区画が撤去され、建物の正面は飾り立てられました。
  ――ワシントン

「ロシアでは全員が子どものときから軍事訓練を受けさせられ、娘たちは十五歳までに自動小銃を発射し、戦車を操縦し、爆薬を仕掛けられるようになるとか」
  ――バンコク

KGBの経理が(博物館や観光名所の)入場券の代金を払ってくれたことは一度もない
  ――パリ

「副領事に伝えてください。彼が明晩カジノ『オマル・ハイヤーム』で会うことになっている人物はCIAのエイジェントです」
  ――カイロ

われわれの部(英文露訳)にはロシアからの移民が大勢いた。彼らはわれわれソビエト人を猛烈に憎み、あらゆる機会に「噛みつく」構えだった。
  ――ニューヨーク

【どんな本?】

 1991年のソビエト崩壊に伴い、ロシアの出版界では一風変わったブームが巻き起こる。元KGBによる海外勤務生活の体験集である。これはそんな本の一つで、世界の有名都市ガイドの体裁を取っているのが特徴だ。

 彼らは数年にわたり各都市に住む。そのため、行きずりの観光客ではなく、そこに暮らす住民としての視点が新鮮だ。不慣れな海外生活でのカルチャー・ギャップも描かれており、それが逆にソ連/ロシア社会の特徴を浮き上がらせる。そしてもちろん、皆さん興味津々なスパイの仕事内容も。

 東西対立の厳しかった冷戦期に、KGBのスパイは何を目論み、どこでどんな事をやっていたのか。いかにして地元の者に取り入り、どんな者をエイジェントに仕立てるのか。そして、それぞれの都市と住民の印象は。

 ちょっと変わった世界の都市ガイド。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は Путеводитель кГБ по городам мира, 1996。日本語版は2001年7月10日初版。私が読んだのは2001年7月15日の二刷。売れたんだなあ。単行本ソフトカバー縦二段組みで本文約360頁に加え、訳者あとがき5頁。9ポイント25字×22行×2段×360頁=約396,000字、400字詰め原稿用紙で約990枚。文庫本なら上下巻ぐらいの分量。

 執筆者が複数のため、文章の質はいろいろ。全般に、文学かぶれの素人っぽく、気取った比喩や詩の引用を多用した、無理にカッコつけた文章が多い。いかにもロシア人らしいが、KGBの印象とは違う。

 際立った例外がニューヨークのオレーグ・ドミートリエヴィッチ・ブルイキン。彼の文章は落ち着いて礼儀正しいながら、キビキビして歯切れがよく、無駄がなく明確だ。なにより読みやすく分かりやすい。これフレデリック・フォーサイスなどのスリラー作家やジャーナリストの文体だよな…と思って経歴を見たら、専門がジャーナリストだった。

【構成は?】

 それぞれの記事は完全に独立しているので、美味しそうな所だけをつまみ食いしてもいい。

  • 序文
  • ロンドン
    スパイ、古巣に戻る/恥ずべき情熱/浣腸器、モロトフ、左側通行/ハイド・パークでレディに言い寄るには/王室のたくらみ/スパイの本場、イギリス/フィッシュ&チップス万歳!/カール・マルクスの墓/衣類の買い方/娼婦たちの魅力について/イギリス人を怒らせるな/テムズ川とロシアの潜水艦/パブで酔ってはいけないか/文化と下劣さ/貧乏は恥ではない
  • ベルリン
    ミュンヘンから首都へ/バイエルン・アルプスの「感化エイジェント」/シュロット博士式治療/アウトバーンを行く/ボンのクラブ「マテルヌス」/ベルリンの「秘密チャンネル」/新ロシア人にアドバイス/ユリアン・セミョーノフのベルリン/国防軍最高司令部外国諜報局商工との出会い
  • ワシントン
    諜報機関チーフの妻の目で/アンドローポフとの会話/体制の都市/ホワイトハウスの周辺/十六番街の邸宅/ごみコンテナの中のFBI用情報/ダレス空港からスーパーマーケット「ミコヤン」へ/特務機関員の侵入/アーリントン墓地と議事堂/『ワシントン・ポスト』の記事/性的スキャンダルの都市/ナショナル・ギャラリーからFBI博物館へ/帰国
  • バンコク
    神の都/場末のレストラン/何でもない/アメリカ軍人への関心/スクンビット通りのバー/イギリス人ごっこ/グルメの天国/チャオプラヤー河岸のスパイの巣/人民解放軍の機密/インド首相の最良の友/あんたのロシアってどこにあるの
  • パリ
    「屋根」としての妻/パリのふしだらな空気/不貞もどきのスパイ活動/アンジュー河岸通りの謎の女エイジェント/シャブリと鳩/ヘルニアとサン・ルイ島/精神異常になるには/女エイジェント、オルセー美術館に登場/サン・ジェルマン・デ・プレで/便所のドラマ/モンマルトルの酔いどれ天才たち/「アジール・ラパン」でのランデヴー/ネー元帥との会話
  • カイロ
    ピラミッドに登る/四千年のほこり/エジプト料理/通信回線としてのオペル車/パレスチナ人の切手収集家/ルクソールを見ずしてエジプトを語るなかれ/スエズ運河の岸辺の秘密/「ヒルトン」会談/町ごとに友を持て/運命よ!わたしをカイロに戻してくれ
  • ニューヨーク
    国連本部で/フルシチョフとキャデラック/八十六回までの階段を駆け上がる/レストラン八十軒のコレクション/ブロンクス動物園の秘密/祖国の裏切り者芸能人/ボリショイから来たバレリーナたち/マディソン・アベニューの四つの角/シカゴで「挟み撃ち」/ホワイトカラーの町での恋
  • 東京
    日出る国への長い道程/60年代の東京/日本人との最初の会話/スパイ妻への指令/寿司屋の大物/わが友アリタさん/途中に交番
  • リオ・デ・ジャネイロ
    旅行中も働く諜報員/「一月の川」/隠れ蓑の職業/カリオカとは/ブラジル式コーヒー/異国情緒を味わいながら/シュラスカリアの二十四種類の肉/軍艦の女性は災いを招く/リオのビーチ/キリストのモニュメント/睦むことはブラジル人の生業/マラカナン・スタジアム/カーニバル/オデオン座近くでの密会/サンボドロモ
  • ローマ
    コロセウム、こんにちは!/クリトゥンノ通り四十六番地/スパゲティ・アッラ・キタッラ/KGBとはデリケートな仕事/ナヴォナ広場での会食/世紀の取引/クラウディア・カルディナーレと再会/スタルエノ墓地のフョードル/真実の口/仕掛けられた時限爆弾/教皇に会見
  • 訳者あとがき

【感想は?】

 そう、ご期待のスパイ活動についても、もちろん書いてある。が、それとは別に。

 彼らは数年に渡り、それぞれの都市に住む。そのため、行きずりの旅行者ではなく、生活の場として都市を見る。これに加え、スパイには土地勘も必要だ。

 幾つかの記事に共通して書いていることがある。彼らは、赴任してしばらくの間、その都市に馴染むため、アチコチをウロつきまわるのである。そうやって土地と人を知り、鉄道や地下鉄やバスなどに慣れ、エイジェントとのランデブーに相応しい場所を調べる。

 同じ土地でも、旅行者の目と生活者の目は違う。旅行者にはホワイトハウスなどの観光スポットが詰まったワシントンも、暮らす人にはちと不便。なぜって、「ワシントンの大きな店は全部郊外にあるのです。(略)華やかなアーケード街は、都心から車で20分から30分」。さすが車社会アメリカ。

 ちなみに、冒頭の引用にあるように近くにスラム街もある。となれば安い生活用品もソコで仕入れられそうなモンだが、そういう所にロシア人がウロついたら目立つんだろうなあ。

 もちろん観光地もバッチり調べてある。ピラミッドだって頂上まで登っちゃう。本当は立ち入り禁止だけど、エジプトの警官は鼻薬が大好きなのだ。他にもカイロの記事は地元色・スパイ風味いずれも色々と濃い話が盛りだくさんで、なかなか刺激的。

 観光地の話の戻ろう。観光名所を見る時も、スパイの視点はちょっと違う。便利な点は、もちろんある。色とりどりの多くの人がいるので、紛れ込みやすい。また美術館は回廊や行き止まりが多いので、尾行者を巻くのに便利だとか。また書店や動物園もスパイには何かと便利で…

 もっとも、ワザと尾行させる場合もあるけど。だって巻こうとしたら、尾行者が「奴は何か大事な仕事の最中だな」と思うでしょ。ああ、狐と狸の化かし合い。この点、東京は…

交通状況は変わっていたが、悪名高い交番は残っていた。これは諜報員にとって最も不愉快な施設だった。
  ――東京

 と、実に評判が悪い。だって、尾行を巻いても、交番の警官に見つかっちゃうから。あれ、治安以外の役にも立ってたのね。東京の項では、他にも「あの頃」を思い出させる記述がチラホラ。そういえば横断歩道の黄色い旗、最近はあまり見かけなくなったなあ。

 冷戦期の話だけに、時代を感じさせるエピソードも多い。

 カイロに店を出すパレスチナ人の切手収集家もそうだが、ローマの記事も印象的だ。筆者レオニード・セルゲーエヴィチ・コロソフは、第二次世界大戦で戦死したレジスタンスの英雄の墓を訪れる。その英雄は、当時ソ連の兵士で…

 二次大戦がらみでやはり強い印象を残すのが、ベルリンで出会った年配の紳士のエピソード。ポツダム広場の近くに居を構える紳士の正体が、あけてびっくり玉手箱。

 それとは別に、各国のお国柄も楽しい。ドイツでは博士の肩書がモノを言う。タイ人は日本人と同じく、断る時にも相手の面子を潰さないように配慮する。中でも傑作なのが、1964年のリオ・デ・ジャネイロ。軍事クーデターで緊迫した空気の中、ソ連大使館が群衆に包囲される。そこに現れた救世主は…

 などと良いことばかりのようだが、困った点もある。スパイだけに、エイジェントを釣る際には相応の饗応をせにゃならん。ってなわけで、各地の名物料理が次から次へと出てくる。なにせ自分の舌で確かめただけあって、どれも真に迫った描写。空腹時に読むには向かない本だ。ああ牡蠣が食べたい。

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2018年11月 1日 (木)

アン・レッキー「動乱星系」創元SF文庫 赤尾秀子訳

「船やステーションのAIは、製造もプログラミングもラドチャーイですから。AIはラドチから切り離せません」
  ――p120

「ともあれ、予想したような悪い事態ではない」といった。「予想を遥かに超える、最悪の事態だ」
  ――p163

「彼女、彼男、彼人……」
  ――p199

「もし、先祖の遺したものが偽物だとしたら、わたしたちはいったい何者?」
  ――p239

「てっとり早く犠牲にできるのは養護施設の子どもぐらいで、子どもたちも進んでそれに従う。ほかに行くところがないからね」
  ――p322

【どんな本?】

 デビュー作「叛逆航路」のシリーズでSF界に大嵐を巻き起こしたアン・レッキーによる、同じ世界を舞台とした新作。

 遠未来。人類が恒星間宇宙に広がり、母星の記録も定かでない。有力な勢力ラドチ圏はAIの独立で揺れている。人類は幾つかの異星種族とも出会い、危ういながらも和平を保っていた。

 ここはラドチ圏から遠く離れたフワエ。ネタノ・オースコルドは強い野心を抱く有力な政治家だ。その養女イングレイは、後継者争いで義兄のダナックに後れを取っている。一発逆転を狙い、イングレイは賭けに出た。

 ネタノの政敵エシアト・バドラキムの養子パーラドは流刑地にいる。パーラドの身柄を手に入れれば、価値の高い取引材料になるだろう。そこで大枚をはたき危ない橋を渡ってパーラドを救い出す…ハズが、現れたのは別人だった。

 やがて事件はフワエ政界を越え近隣星系ばかりか異星種族も巻き込んだ騒ぎへと発展し…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は PROVENANCE, by Ann Leckie, 2017。日本語版は2018年9月21日初版。文庫本で縦一段組み、本文約406頁に加え、山之口洋の解説7頁。8ポイント42字×18行×406頁=約306,936字、400字詰め原稿用紙で約768枚。文庫本としては厚い部類。

 文章は、けっこう読みにくい。特に会話が。複数の言語や方言が入り乱れる舞台なので、ワザと不自然な言葉遣いにしている所がある。また、遠未来で現代とは大きく異なる文化・社会の世界なので、最初は意味が分からない固有名詞もたくさん出てくる。巻末の用語集に栞を挟んでおこう。

 「叛逆航路」三部作と同じ世界で、時間的には少し後、あの事件の波紋が広がりつつある頃。ただしお話としては独立しているので、この作品から読み始めても大丈夫。私は「叛逆航路」より、こっちの方がとっつきやすかった。ただし、慣れたためかもしれない。

【感想は?】

 ハラハラ・ドキドキ・「え、どういうこと?」が続く、冒険SF作品。

 正直、最初は主人公のイングレイがあまり好きじゃなかった。そもそもキッカケが「ママのご機嫌をとるため」だし。

 こんな風に、人に依存するタイプの主人公は、宇宙空間を舞台とするSFじゃ珍しい。かの名作「たった一つの冴えたやり方」の主人公コーティーみたく、行動的で「我が道をゆく」タイプの人がウケるのだ。もっとも「敵は海賊」の匋冥みたく突き抜けちゃうと、少し議論が分かれるけど。

 しかも、ヘアピンを無くした程度でウジウジしている。おいおい、大丈夫かよ。とか思ってたら、やっぱり大丈夫じゃなかった。

 が、これも娯楽物語としての仕掛け。トラブルに巻き込まれ、踏んだり蹴ったりの目に遭い、腹に一物抱えた有象無象に小突き回されるうち、次第にイングレイは変わってゆく。その辺は読んでのお楽しみ。

 そんな有象無象の最初の人物が、ティク・ユイシン。イングレイが高跳びに使うつもりの貨物船の船長。スターウォーズのハン・ソロ同様に、自分の船で宇宙を巡って稼ぐ、一昔前のトラック野郎みたいな稼業ですね。小さくとも一国一城の主だけあって誇り高く世知に長け、一筋縄じゃ行かないタイプ。

 それだけに味方になれば頼りがいがある人なんだけど、何かとんでもない因縁を抱えてて…ってなあたりも、ハン・ソロみたいだw

 続く正体不明の人物は、ガラル・ケット。イングレイの養親ネタノ・オースコルドの政敵エシアト・バドラキムの養子パーラド…のはずが、なぜかコイツがやってきた。普通なら慌てふためく状況なのに、なぜか悠然と落ち着き払っている。しかも奇妙な特技があって…

 とかの得体の知れない連中もアレだが、イングレイの家族もなかなか強烈。

 養親のネタノは野心満々の政治家。野心が強いのはネタノに限らず、政敵のエシアトや終盤で出てくるディカット議長も同様で、この人の描く政治家ってのは、こんなんばっかw まあいい。野心が強いだけでなく、養子のイングレイとダナックにも競争をけしかけるからタチが悪い。

 そのダナックも政治的な立ち回りは巧みで、ライバルを蹴落とす機会は見逃さないタイプ。これじゃイングレイも屈折するよなあw

 とかの小さな人間関係に、オースコルド家とバドラキム家の勢力争いと、フワエとオムケム連邦の陰険な外交が絡み合うだけでも複雑なのに、異星種族のゲックまで加わってくるからややこしい。

 と、ドラマは、それぞれが思惑を抱えて腹を探り合う駆け引きが中心なので、できれば一気に読んだ方がいい。

 そんなドラマが展開する舞台も、独特のクセがあるのが、この著者。「叛逆航路」シリーズではお茶と手袋が印象的だったが、この作品ではヌードルかな? この世界、服装はインドの文化の影響が強いように思うんだが、食べ物は中国や東南アジアの文化を継いでるみたいだ。

 チラホラとラドチャーイの情勢が伝わってくるのも、シリーズの読者としては嬉しいところ。敢えて性を混乱させているのも相変わらず。でもトークリス、いい子だよねえ。加えてこの作品では、「家族」も大きなテーマとして浮き上がってきたり。

 など、緻密で複雑な設定はあるものの、基本はイングレスの波乱万丈の冒険物語。ストレートな娯楽作品として、存分に楽しめた。

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