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2018年10月 7日 (日)

山田正紀「バットランド」河出書房新社

「お願いだから大声を出さないで。これには事情があるんだから」おれはそう懇願し、警察官の顔を撃ち抜いた。
  ――コンセスター

「バットランドに行かねばならない。あそこでは何かが起こっている。何か途方もないことが……(略)いいかい、爺さん、これはぼくのためなんかじゃない。勘違いしないでもらいたい。これは人類のためなんだ」
  ――バットランド

「そう、きっとトムがいる別の世界にいっちゃったんですよ」
  ――別の世界は可能かもしれない。

「おぬしたちをわざわざ当陣に呼び寄せたのは他でもない。かの城を『時攻め』にせよ、とのおん大将、上総介(信長)様のお下知が下されたからである」
  ――お悔みなさいますな晴姫様、と竹拓衆は云った

【どんな本?】

 SF・ミステリ・アクション・ホラーなど多様なジャンルで活躍するベテラン作家の山田正紀が、2007年~2014年に発表したSF作品を集めた短編集。

 怪しげな人体実験に始まる惨劇を描く「コンセスター」、老いた詐欺師視点のコン・ゲームが変容してゆく「バットランド」、大雨に襲われた地下鉄路線を舞台としたバトルロイヤル「別の世界は可能かもしれない。」、語呂合わせが楽しい「お悔みなさいますな晴姫様、と竹拓衆は云った」、濃縮ワイドスクリーン・バロックの「雲の中の悪魔」の五編を収録。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2018年5月30日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約339頁に加え、あとがき3頁。9ポイント43字×19行×339頁=約276,963字、400字詰め原稿用紙で約693枚。文庫本なら厚い一冊分ぐらい。

 文章はこなれている。内容はかなり凝ったSFガジェットやアイデアを駆使する作品が多いので、そういうのが好きな人向け。

【収録作は?】

 それぞれ作品名 / 初出。

コンセスター / SFJapan2007年冬号
 1970年初頭。ロサンゼルスでの不法就労がバレたおれは、メキシコに逃げる。そこで知り合ったミツオから、美味しい話を聞く。近くの米陸軍の研究所が人体実験の志願者を求めている、一週間で報酬は七百ドルに加えアメリカの永住権。ヤバいのは分かっちゃいたが…
 伊東ゆかりの「ロコモーション」(→Youtube)・キャロル・キングの「イッツ・トゥ・レイト」(→Youtube)と、一気に懐かしい気分になるネタで始まる作品。能天気なリズムに乗って惨劇を繰り広げる犯人は、何を考えているのか。最初は素直に読んだんだけど、一人称だってのを考えると…
バットランド / NOVA4 2011年5月
 ここはどこだ? そうか、おれはクリーニング屋に行くんだ。ところが店に入り、鏡を見て驚いた。え? 俺は七十過ぎの爺いだったのか? 唖然としていたら、店に入ってきた若い男女に連れ出された。おれは認知症だという。
 これまた老人SF。ボケては覚める認知症を患っちゃいるが、元は凄腕の詐欺師って設定が巧い。しかも、マッド・サイエンティストを加えて更にシェイクしてる。いいよね、Birdland(→Youtube)。ジャコのプレイは絶品だけど、性格は最悪だとかw この作品でも性格が悪い奴しか出てこないから、そういう意味では合ってるかも。
別の世界は可能かもしれない。 / SF JACK 2013年2月
 10月31日、ハロウィンは豪雨になった。地下鉄の西六本木駅から六本木に通じるトンネルは、水没が危ぶまれるため、ポンプ列車が出動する。暗闇に紛れ、ネズミらしき群れが同じ線路を進む。六本木駅では、金属バットなどで武装した若者たちが、「殺せ、殺せ」と唱えながら駅へと雪崩れ込んでゆく。
 孤児の坂口、識字障害の五木梨花、供試試料として消費される実験用マウス、機能を失った偽遺伝子、そして地下鉄の施設内に寝泊まりする宿無したち。世界から除け者にされた者たちが、なぜいがみ合わねばならないのか。世界への怨嗟が満ちた作品。
お悔みなさいますな晴姫様、と竹拓衆は云った / 夏色の想像力 2014年7月
 毛利攻めに向かった秀吉は、意気盛んな高松城の攻囲に焦る。そこで竹拓(ちくたく)衆を呼び、『時攻め』を命じる。竹拓衆は時をあやつる鬼道に秀でた一族だ。率いる棟梁の迦具屋晴姫(かぐやはるひめ)は、悩みながらも命を受け入れる。
 墨俣の一夜城・水攻めで有名な高松城・中国大返しなどの事件に、不思議な力を操る一族・竹拓衆を絡めた、SF忍法帖。ハーラン・エリスンのアレにかけたタイトルから始まり、波歩・噛・時場・伝時力などの言葉遊びが楽しくて、ニヤニヤしてしまった。
雲の中の悪魔 / NOVA8 2012年7月
 流刑星<深遠>は、-70℃~-10℃の過酷な環境だ。囚人は房奴と呼ばれ、露天掘り鉱山の作業員として働く。密封衣服は時として暴走し、多くの房奴が死ぬ。この泡宇宙は万物理論知性体が統べる。電磁力知性体の人間には抗う術はない。
 泡宇宙論をベースとして、思いっきり濃いアイデアを惜しげもなく詰めこんだ、珠玉のワイドスクリーン・バロック。冒頭の電磁力知性体/万物理論知性体に始まり、次から次へと繰り出されるブッ飛んだ発想に、思う存分翻弄されっぱなしだった。

 いずれも認知科学・遺伝学・量子力学・宇宙論などの科学トピックに、怪しげな哲学を巧みに滑り込ませ、奇怪な世界へと読者を誘い込む、SFの醍醐味が炸裂した作品ばかり。また、山田正紀ならではのテイストとして、「圧倒的な力を持つ絶対者にしぶとく抗う者」の物語なのも、この作品集の特徴。特に最後の「雲の中の悪魔」は、カルピスの原液を更に濃縮したような濃さで、もはや劇薬と言っていい。SFの瘴気をまき散らし、あなたをSFゾンビに変えてしまう危険な物語だ。

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