森岡浩之「星界の戦旗Ⅵ 帝国の雷鳴」ハヤカワ文庫JA
朕は遥か昔、人類の故地で生まれた。役割はいまと変わらず、顧問である。
――p6「星界軍がかくも貧しく戦うことになろうとは」
――p184「歴史の指し手にでもなったつもりか、殿下?」
――p246
【どんな本?】
ベテランSF作家の森岡浩之による、大人気スペース・オペラ「星界」シリーズ待望の第二部が、約五年を経てついに開幕。
遠未来。人類は銀河に広く広がった。長寿のアーヴは平面航法により超光速航行を手に入れ、恒星間航行を支配し、銀河に帝国を築く。だがアーヴ以外の人類は同盟を組んでアーヴに挑み、帝都ラクファカールを墜とす。
平面航法の要となる門が集中する帝都を失ったアーヴは、幾つかの領域に別れ孤立し、それぞれに力を蓄えて時を待つ。
アーヴの皇太女ラフィールは、練習艦隊の司令長官を務めている。そこに皇帝ドゥサーニュより、命が下った。ついに反攻の時が来たのだ。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2018年9月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約288頁に加え、あとがき4頁。9ポイント39字×17行×288頁=約190,944字、400字詰め原稿用紙で約478枚。文庫本としては普通の厚さ。
文章はこなれていて読みやすい。ただし内容は続き物で登場人物も多く、また作品世界の設定も込み入っているので、できれば「星界の紋章」から読んだ方がいい。
【感想は?】
珍しく?主人公のラアフィールが大活躍する巻。
アブリアルらしく誇り高く野心もあり血の気も多いとはいえ、元来が優秀な人だけに、ラフィールが艦隊を指揮するとなれば、かなりの安定感がある。そういう意味じゃ、この巻はサクサク読める心地よさだ。
とはいえ、著者お得意の陰険な会話は相変わらず順調だ。こういう点じゃラフィールはいささか素直すぎるんだが、その分を上皇ラムローニュ猊下がもったいなくも補ってくださる。おまけにジントも多少アーヴの色に染まったのか、終盤では「社交辞令」を巧みに使いこなしてたり。
とはいえ、嫌味合戦と言えば、やはりこのお方を忘れちゃいけない。ご無事で何よりです、スポール閣下。この巻じゃ出番は少ないものの、相変わらずの傲岸不遜でわがまま放題な姿が拝めます。クファディスさんも苦労するなあ。
そのスポール閣下に下る命というのが、実に皮肉というか嫌がらせというかw
まあ、極めて優秀ではあるものの、誰の指揮下についても、マイペースで好き勝手に動く人だしなあ。重大で独立裁量の幅が広い反面、あまし危なっかしい真似は出来ない役割は、適役なのかも。その分、クファディスさんの苦労は増えるだろうけど。
そんなスポール閣下を相手に交渉するなんて仕事は、できれば御免こうむりたいところ。となれば並みの神経じゃ務まらないわけで、そこでこの人選とは妙手だw いずれも熱心なファンの多いお方だけに、両者の交渉場面は「断章」で是非とも書いて欲しい。
刊行ペースが長い作品だけに、読者も設定をほとんど忘れている。特にこの巻では大艦隊を率いての遠征が中心だ。それだけに、平面航法を柱とした航法系や、艦隊同士の戦い方など、スペース・オペラとしての設定を、アチコチでおさらいしてくれるのは嬉しい心づけ。
特に、鉄道網でいう駅の役割を果たす<門>とその性質、そして平面宇宙と通常宇宙の関係などは、改めて詳しく説明している。通信のタイムラグや、質量と速度の関係とかで、艦隊の行動が設定に強く縛られているのがわかり、特に補給の面でいい味を出してたり。
前巻ではアーヴ危うしな雰囲気だったが、この巻では地上人側も楽観はしていられない様子なのが、チョトチョロと見えてくる。中でも終盤に出てくる舞台は、「星界の断章Ⅲ」でチョロっと姿を見せたアレだったり。こういうのも、長いシリーズならではの楽しみだろう。
いよいよ逆襲に転じたアーヴ。ラフィールの快進撃は続くのか。にしても、この刊行ペース、もしかしたら著者はアーヴなのかも知れない。少しは寿命の短い地上人の事情も考えて欲しい。
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コメント
shinzei様、ありがとうございます。そういう意味では銀英伝を継ぐ作品でもあるんですね。
投稿: ちくわぶ | 2018年10月15日 (月) 21時03分
おはようございます
この小説は私も好きですがこれは単純にSFとしてだけではなく、民主主義とは、帝国主義とは?というふうに政治小説としても読めますね。
最近民主主義の限界が見えてきましたが著者はすでに20年以上前にこの小説でそれを喝破しています。
では、
shinzei拝
投稿: shinzei | 2018年10月15日 (月) 06時07分