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2018年9月 7日 (金)

SFマガジン2018年10月号

Netflix「自分たちはまず何よりもテクノロジー企業であると考えていまして、技術的な面がすごく大きかったと思います」
  ――教えて、ネトフリの中の人! Netflix PR担当者インタビュウ

≪彼は眠ったままではない≫
  ――冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第22回

「雪江ちゃん、検査しようか?」
  ――澤村伊智「サヨナキが飛んだ日

「あれは創作や装飾ではない。機能を持ち込むことになりますからね」
  ――菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第5話 白鳥広場にて」

『そこがほころびだ』
  ――藤井太洋「マン・カインド」第6回

 376頁の標準サイズ。

 特集は「配信コンテンツの現在」。Netflix などで配信中のSFコンテンツ90本紹介のほか、Netfixインタビュウなど。

 小説は10本。連載は5本。夢枕獏「小角の城」第49回,椎名誠のニュートラル・コーナー「裏側探検隊」,神林長平「先をゆくもの達」第5回,冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第22回,藤井太洋「マン・カインド」第6回。

 読み切り&不定期掲載は5本。菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第5話 白鳥広場にて」,柴田勝家「検疫官」,澤村伊智「サヨナキが飛んだ日」,柞刈湯葉「冬の時代」,リンダ・ナガタ「火星のオベリスク」中原尚哉訳。

 柞刈湯葉「冬の時代」。寒冷化し、雪景色に覆われた日本列島を、二人の旅人が歩く。19歳のエンジュと、12歳のヤチダモ。南に行けば春の国がある、そんな噂を聞いて、村をでたのが半年前。今は遠州灘を西へと向かっている。

 滅びてしまった世界で生きる若者を描いているんだが、不思議なくらい悲壮感はない。考えてみれば、二人とも寒冷化する前の世界を知らないわけで、若者ってのはそういうものなんだろう。石油や石炭のエネルギーが使えない世界で、やりくるする工夫が面白い。カサ、欲しいなあ。

 リンダ・ナガタ「火星のオベリスク」中原尚哉訳。海水面の上昇,ハリケーン,干魃,地震,火山の噴火など、相次ぐ災害で人類は滅びかけている。老いた建築家スザンナ・リー-ラングフォードは、人類の記念碑として、火星にオベリスクを建設中だ。その日、火星の建築現場から、連絡がきた。既に滅びたはずの植民地から車両が建築現場まで来た、と。

 人がいない火星で、黙々と働く自動機械たちが可愛い。地震も水害もなけりゃ気圧も低い火星なら、建築物の自由度は高そうだなあ。人が住むとなると気密とかの問題があるけど。正体不明の車両を巡る謎を、地球と火星の通信のタイムラグが巧く盛り上げてる。同じ終末物でも、「冬の時代」との印象の違いは、登場人物の年齢の違いなのかな。

 椎名誠のニュートラル・コーナー「裏側探検隊」。イースト駅の居酒屋に、突然やって来た男ナグルスは、内惑星から来たという。酒場の連中は面白がってナグルスを囲み、質問を始める。ナグルスは内惑星の由来や、そこに住む者たちの事を話し始め…

 冒頭の、珍しいゲストを迎えて盛り上がり始める酒場の様子が、よく描けてる。世界中のアチコチをウロつきまわってる人だけに、似たような経験を何度もしてるんだろうなあ。

 冲方丁「マルドゥック・アノニマス」第22回。ウフコックを救い出すため、クインテットのアジトに乗り込んだバロット。ウフコックは取り戻したものの、クインテットの追跡は厳しい。バジルが操る電線は容赦なくバロットに襲い掛かる。

 バロット大活躍の回。今までイースターズ・オフィス側が押されっぱなしだっただけに、バロットの成長ぶりと頼もしさが輝いてる。オッサンたち相手に立ち回るだけでなく、アビーに目をつけるあたりも、彼女らしい。あとレイ・ヒューズの出番があるのも嬉しいな。

 澤村伊智「サヨナキが飛んだ日」。サヨナキ。鳥の形をした看護ロボット。医師や看護師の不足を補い、病院に通う患者の負担を軽くするため開発された。だが、雪絵はサヨナキを悪魔と呼んで憎む。その結果、娘の瑠奈まで殺してしまった。

 うああぁぁ、完全に脱帽。「コンピューターお義母さん」「マリッジ・サバイバー」も見事だったが、この作品は一段と凄い。「図書館戦争」もそうなんだけど、あんまりにも凄すぎると、私は作品について何も言えなくなってしまう。仕掛け、語り、オチ、全てが鮮やかすぎる。舞台こそ未来だけど、同じ問題は今だって幾らでもある。そこを敢えてSFにしたのが、騙りの巧みさというか。ヲタク趣味の泥沼にハマりきってる人は、是非読みましょう。

 菅浩江「博物館惑星2・ルーキー第5話 白鳥広場にて」。アーティストのワヒドの作品は、Satu sama lain。専用の人工知能が操る、自律粘土のオブジェだ。キクノス広場で展示し、観客が自由に触れ、形を変えてもいい。モノを埋め込んでも、色を塗ってもいい。人工知能が変化を学び、さらに自ら変化する。

 作者のワヒドにすら、どう変わるかわからんモノを、果たして芸術と呼んでいいのか? と疑問に思ったが、まさしくそういうテーマだった。何に感動するかは人それぞれで、私はc言語の標準入出力ライブラリの getc() と ungetc() 関数に感動したんだけど、そういう「美しい実装/アイデア」は芸術と言えるんだろうか? ワヒドは否定的みたいだなあ。

 神林長平「先をゆくもの達」第5回。かつて司令官だった私に、火星から来た男ハンゼ・アーナクは語った。「きみたち地球人は、いつから世界について考えることをしなくなったのだ?」。トーチのお告げに従い、必要な物は<工場>から得る地球人たち。

 火星に向かった若生ら三人から始まる、地球と火星の交流。それは、密かに双方に変化をもたらしていたらしい。今まで描かれた地球人の暮らしは、穏やかな理想郷のように見える。確かにタムなど、現代人から見たら異様な要素はあるけど。ただ、変化がないのは退屈かもしれない。

 藤井太洋「マン・カインド」第6回。 迫田とレイチェルは、遺族訪問の旅を続ける。<コヴフェ>のトーマも加わったところで、迫田は<グッドフェローズ>のORGAN部隊の共通点に気づき始めた。そこで旅の依頼主でもあるチェリー・イグナシオを交え、真相を正すのだが…

 チェリー・イグナシオによる捕虜虐殺、迫田の記事のあんまりな低評価、そしてチェリーの奇妙な依頼。冒頭で示された謎をめぐり、事件の真相へと迫る回。いかにも藤井太洋らしいリアリティあふれる先端技術のアイデアに、「第二内戦」から続く未来史もあって、いよいよ盛り上がってまいりました。

 柴田勝家「検疫官」。ジョン・ヌスレは空港で働く検疫官だ。彼が流入を防いでいるのは、物語。創作物・歴史・伝記・神話伝承・歌謡、すべて持ち込み禁止だ。感染者は完治するまで想像病院に隔離される。問題は、ある母子で起きた。長く外国で暮らし、帰国した母子。母は隔離されたが、十歳の子供は感染の判断がつかず、空港に留めおかれる。ところが…

 物語を疫病として扱うってアイデアが面白い。それだけならお話になりそうもないけど、ちゃんと理屈をつけてるあたりが、プロの作家というか。この「物語を禁じる理由」だけでも、かなり皮肉が効いてる。実際、戦争ってのは、クラウゼヴィッツが考えるような合理的な理由ばかりじゃないんだよなあ。

 特集「配信コンテンツの現在」。

 「動画配信サービスのこれまでとこれから」池田敏。Netflix の売り上げが約1.5兆円ってのも凄いが、新作への投資額が8800億円ってのにもビビる。それなら特撮で金がかかるSFドラマもバンバン作れるなあ。

 「教えて、ネトフリの中の人! Netflix PR担当者インタビュウ」では、映画と配信の広告戦略の違いが興味深い。配信だと「いつでも観れる」から、映画みたく封切り前に集中的に宣伝するって手はあまし有効じゃないとか。

 「SVODサービス時代のアニメのありかた」。インタビュウ同様、人によって同じコンテンツでも観るタイミングが違うって指摘。だから学校や職場で「昨日の『鬼太郎』観た?」的な会話も成り立たない。まあ予め友人同士でしめしあわせ、タイミング合わせて同じ時刻に観るって手もあるけど。また、シリーズ物ドラマの盛り上げ方が「ハリウッド映画の三幕構成によく似てきた」ってのも、お話作りの参考になりそう。

 『忘られのリメメント』刊行記念 三雲岳斗インタビュウ。三雲岳斗が書く、設定凝りまくりの大作スペース・オペラって、なにそれ滅茶苦茶美味しそう。

 盛り上がってきた「マルドゥック・アノニマス」と「マン・カインド」もいいが、澤村伊智の「サヨナキが飛んだ日」にはガツンとやられた。連作なのかあ。早く書籍にまとめて出版して欲しいなあ。

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