鎌田浩毅「マグマの地球科学 火山の下で何が起きているか」中公新書
本書では、地球科学の領域で細菌30年間に急速に進展した研究例を紹介し、地球とマグマに関わる驚くべき現象を伝えたい。
――はじめに地球上でマグマは、どこに出てくるのだろうか? 実は、マグマの八割ほどは、海の中に噴出する。くわしく見ると、75%近くが中央海嶺fr、約5%が海洋プレートの真ん中に出てくる。
――第3章 地球上の火山活動マグマは、珪酸塩というものからできている。珪酸塩とは、二酸化珪素(SiO2)と金属の酸化物からなる塩のことをいう。
――第4章 マグマの起源近年、海底の下1kmの深さで、おびただしい数の微生物が生息しているのが発見された。
――コラム 地球深部探査船「ちきゅう」プロジェクト現実に噴火予知は地震予知と比較すると、すでに実用段階にあると言われている。
――第7章 火山ガス多くの研究者が、現在の地球内部から出ている熱は、放射性の崩壊によるものが主要であると考えている。その量は、微惑星が地球に衝突することで発生した熱エネルギーの1/10くらいと見積もられている。
――第8章 火山の熱源と根もとコロンビアのガレラス火山の噴気孔からは、毎日0.05kgの金が大気中に逃げているそうだ。すなわち、一年間につき20kgの金が、火山から放出されていることになる。
――第10章 火山のもたらす財宝
【どんな本?】
浅間山や桜島など、日本には火山が多い。雲仙普賢岳の噴火では、多くの犠牲者が出た。
重たい地面を突き破り、地球の重力に逆らって噴火するのエネルギーは、どこからやってくるんだろう? 火山の中は、どうなっているんだろう? マグマの原料は何で、どんな種類があり、どんなしくみで噴火するんだろう? そして、普賢岳の悲劇は防げるのだろうか?
地道な調査で積み重ねたデータと、技術の進歩が実現した新たな観測方法により、今までは隠されていた火山の姿が見えるようになってきた。現代科学が明らかにした火山の実態を描く、一般向けの科学解説書。
【いつ出たの?分量は?読みやすい?】
2008年12月20日発行。新書版で縦一段組み、本文約254頁。9ポイント41字×17行×254頁=約177,038字、400字詰め原稿用紙で約443枚。文庫本でも普通の厚さの一冊分ぐらいだが、地図・イラスト・グラフなども多く載っているので、文字数は8~9割程度だろう。
文章はこなれている。内容も特に難しくない。いや実はけっこう難しい事も書いてあるんだが、わからなければわからずに済ませられるように書いてある。必要なのは、わからない所を読み飛ばすいい加減さ。どうしてもちゃんと読みたい人は、玄武岩(→Wikipedia)と花崗岩(→Wikipedia)を調べておこう。
【構成は?】
原則的に前の章を受けて後の章が続く形なので、できれば頭から読もう。また、地図やイラストは同じ図を後で何度も参照するので、栞をたくさん用意しておこう。
- はじめに
- 第1章 火山とは何か
富士山はどこからどこまでか/火山という言葉/火山の恵み/火山学の誕生/近代火山学の誕生/日本の火山学 - コラム 博物学は科学の原点
- 第2章 プレートの運動
地球表面の形/大陸が動いた?/大陸はなぜ動くか/大陸移動説の復活/プレートの三つの境界/プレート・テクトニクス理論の展開/押す、引く、滑る、そして送り出すプレート - コラム 科学者のたまごに「大陸は動く」を
- 第3章 地球上の火山活動 マグマの上がってくるさまざまな場所
中央海嶺と大陸リフトの火山活動/沈み込み帯の火山活動/火山の輪/時間軸で火山を見る/ヒマラヤはどうしてできたか/大陸の衝突とマグマ/海洋ホットスポットの火山活動/ホットスポットから地球の動きを見る/ホットスポットの根もと/さまざまな場所に出現するホットスポット/大陸にあるホットスポットの火山活動 - コラム ホットスポット、ハワイの火山を見る
- 第4章 マグマの起源
マントルでマグマはいかに作られるか/地中の温度/岩石が溶けてマグマになる仕組み/高温の「低速度層」/マグマのネットワーク/岩石が溶けるための条件/マグマが落ち着くマグマだまり/ダイアピルの上昇/火山のモデルを立てる - コラム 出前授業はおもしろい
- 第5章 マグマの多様な種類
主要なマグマの種類/非適合元素と適合元素/実験岩石学/地球の初期を知る/マグマの分類/アルカリ岩と非アルカリ岩/さらに細かく分類すると/マグマの二つの系列/火山学で用いる図の意味/噴出する地域によるマグマの違い/玄武岩が基本 - コラム 地球深部探査船「ちきゅう」プロジェクト
- 第6章 マグマは変化する
マグマだまりを探る/噴火の休止とマグマの進化/マグマは変化する/マグマの同化/マグマの混合/結晶分別作用/結晶が次々と誕生する/マグマの中での斑晶の成長/結晶分別作用は密度がキーワード/マグマの変化をシミュレーションで再現/室内実験でマグマの挙動を再現/実験結果を野外で確かめる - コラム 世界最大の活火山、マウナロア山
- 第7章 火山ガス
火山ガスを採取する/火山ガスの化学成分/火山ガスの噴出量/危険な二酸化炭素ガス/揮発性成分の変化と物性/火山ガスの起源/異なる起源を持つ水/火山ガス観測を噴火予知に役立てる/噴火予知の実例 - コラム 二酸化炭素を石炭層に固定する
- 第8章 火山の熱源と根もと
火山をもたらす熱源/マグマオーシャンの誕生/地球を暖めるさまざまな熱源/地球内部の温度/地球の温度勾配/火山の根もとにあるマグマだまり/マグマの源とプレート・テクトニクス/火山の根もとにある現世のマグマだまり/過去のマグマだまりから火山を知る - コラム 雲仙科学掘削プロジェクト
- 第9章 火山のエネルギー
地熱エネルギーと地熱パワー/地熱地帯の熱の運搬/熱水を採取する/地熱探査の三要素/カルデラ内の地熱貯蔵層/高温乾燥岩体や溶けたマグマから地熱を得る/地熱エネルギーの未来 - コラム 火山を伴わない温泉
- 第10章 火山のもたらす財宝
水の循環と火山活動/火山による元素の循環/地球上の水の起源/火山は地球の蒸留器/火山は鉱床を作る/貴金属を多く生産する火山/炭酸塩のマグマ/ダイヤモンドを運ぶダイアストリーム/海底の煙突 - コラム 世界自然遺産「知床」と硫黄の溶岩流
- 第11章 火山と気候変動
18世紀の異常気象/19世紀に起きた火山噴火と気温低下/20世紀の大噴火と異常気象/地球温暖化と火山噴火 - コラム 古生代末に起きた大量絶滅の原因
- おわりに/索引
【感想は?】
一般向けの御多分に漏れず、著者が研究を楽しんでいるのがよく伝わってくる。
10年前の本だ。科学では長い時間だが、火山の時間スケールは更に長い。なにせ最初に出てくるのがウェゲナーの大陸移動説だし。
今じゃ大陸移動説は常識だが、長く認められなかった理由の一つは、「大陸を移動させる原動力が説明できなかったから」。そういえば私も、「そうか、大陸も動くのか」で納得して、「なぜ動くのか」までは考えなかった。こういう疑問を持てるか否かが、科学者の資質なんだろうか。
ちなみにこの答え、今でも「完全に突き止めるまでには至っていない」。こういう、わかっていない事も書いてあるのが、先端科学の本の魅力の一つだろう。
この大陸移動説、地図や地球儀を見て、ウェゲナーと同じ発想に至る子供もいるとか。子供ってすごい。これ欧米の子は地図、日本の子は地球儀で気づくらしい。
教育制度が云々、と思ったが、世界地図を見て納得。日本の世界地図は太平洋が中心で、大西洋は左右に分かれてる。だから、アフリカ西海岸と南米東海岸が似てると気づきにくい。でも地球儀なら左右に切れないから、見ればわかるのだ。なるほど、そういう事か。
科学は日夜進歩している。お陰で、私のようなオッサンにとっては、幼い頃に刷り込まれた思い込みが覆されるのも、この手の本の楽しみの一つ。
まずはマントルだ。地球の表面は薄い地殻、次いでマントル→外核→内核となっている。このマントル、今までドロドロの液体だとばかり思っていたが、実は固体らしい。液体なのは外核だけで、他はみんな固体。
とすっと、なんか変だ。マントル対流とかプルーム・テクトニクスとかあるじゃん。小松左京と上田早由里が言ってた。対流と言うからには、液体なんじゃないの?
実は固体でも対流は起こるらしい。ただし、とってもゆっくりと。そういえば、地質学が扱う時間は何千万年とか何億年とか、やたら長い時間だった。ただし、なんで固体なのかってのがミソ。
山の上じゃすぐ湯が沸く。気圧が低いと沸点も低くなる。沸点だけじゃなく、融点も圧力と関係あるらしい。圧力が低けりゃ融点は下がり、高けりゃ上がる。
とかの圧力の関係もあるし、中身も関係してくる。「玄武岩の溶岩の融解温度は、たった0.1%の水の加入で100℃近くも引き下げられる」。日本列島は海洋プレートが沈み込む所にある。海洋プレートが沈み込む時、海水も一緒に引きずり込まれる。これが融点を下げるんで、日本は火山が多い…のかな?
水は氷ると体積が増えるが、これは例外。普通は液体が固体になると体積は減るし、逆に固体が液体になると体積が増える。体積が増えると、軽くなって、上に昇ってゆく。もっとも火山の場合は単純じゃなくて、いったん地下にマグマ溜まりができて…
とかの、火山ができる仕組みの部分は、けっこうややこしい。なんたって、一見均一に見えるマグマも、中には様々なモノが混じってて、それぞれ重さも違えば融点も違うし、状況も刻々と変わっていくからだ。
とかの科学の話はもちろん面白いが、小学校から高校までの出張授業のネタも楽しい。歳が上になるほど反応が鈍くなるなんて話は、色々と考えてしまう。
何せ小学校まで出かけて授業する著者である。とにかく布教熱心で、この本でも読者を地学に帰依させようとっする熱意がアチコチから漏れてくる。グラフの見方まで教えてくれる親切さは、ちょっと他に例をみない。そういう意味でも、読んでてとても楽しい本だった。科学者ってのは、子供の好奇心を持ち続けた大人なんだなあ。
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