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2018年6月 8日 (金)

宮内悠介「あとは野となれ大和撫子」角川書店

「これから、どうなるんだろうね……」
「ま。なるようになれ、よ」
  ――p54

【どんな本?】

 干上がったアラル海の東にある小国、アラルスタン。ソ連崩壊のドサクサで生まれた、中央アジアの内陸国だ。塩に覆われ干上がった土地を、“最初の七人”と呼ばれる開拓者が切り開き、様々な民族や難民がが集まり、文化が交わる国家を創る。

 小国ながら中央アジアの緩衝地帯として発展を目指し始めた時、二代目大統領のパルヴェーズ・アリーが暗殺される。周辺国は虎視眈々と侵略の機会を狙い、国内では保守的な反政府組織アラルスタン・イスラム運動が暴れる隙を窺う。

 この危機に、議員たちは我先に逃げ出し、議事堂は抜け殻となった。政治空白が長引けば、アラルスタンは戦火に覆われるだろう。自らを、そしてアラルスタンを守るため立ち上がったのは、後宮の女たちだった。

 シリアスなSFから破天荒なギャグまで、七色の芸風で読者を惑わす宮内悠介による、美女と美少女が活躍する痛快娯楽活劇。

  SFマガジン編集部編「SFが読みたい!2018年版」のベストSF2017国内篇で5位にランクイン。

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 2017年4月21日初版発行。単行本ソフトカバー縦一段組みで本文約370頁。9ポイント43字×21行×370頁=約334,110字、400字詰め原稿用紙で約836枚。文庫本なら厚い一冊か薄めの上下巻ぐらいの分量。なお初出は文芸カドカワ2015年11月号~2016年8月号。

 文章はこなれていてとても読みやすい。内容も、とってもわかりやすい。多少SFっぽいガジェットが出てくるため、一応SFとしたけど、お話の筋を追う分には理科が苦手でも大丈夫。女の子が大活躍するライトノベルを期待して楽しもう。

【感想は?】

 これはぜひ映像化して欲しい。中央アジア版ストライク・ウィッチーズとでも言うか。

 とにかくお話が波乱万丈で捧腹絶倒。なにせ一国の危機に後宮の女たちが立ち上がる、なんて話だ。無茶苦茶といえば無茶苦茶だが、一応の辻褄は合わせてある。後宮とはタテマエで、その実はエリート養成所。見どころのある娘たちを集め、将来の指導者層を密かに育てていたのだ。ナニそれ面白い。

 そんな彼女たちに、次から次へと災難が降りかかる。最初から、庇護者たる大統領が殺され、彼女たちは後ろ盾を失う。

 いかなエリートの卵とはいえ、政治的な立場は無に等しい。しかも、元は無人の荒野を最新技術で開拓した人造国家。政治体制が未熟なのは、議員たちの逃亡でヒシヒシと伝わってくる。新しい国だけに、国民の一体感も乏しい。

 それもそのはず、なんたって、“最初の七人”の方針で、世界の各国から移民・難民を受け入れて創った国家だ。国際色豊かと言えば聞こえはいいが、有象無象が集ってるだけで、国民意識みたいなモノは育ち切っていない。

 ばかりか、困った事に、各国のお尋ね者やテロリストも集まってきている。特に保守的なアラルスタン・イスラム運動は、議会政治にも参加せず武力による政権奪取を狙い…

 と、八方ふさがりの状況を、己の命と国家の存続をかけ、後宮の女たちは知恵と度胸とハッタリで切り抜けようとするのだが…

 などの状況の背景となる、中央アジアの複雑怪奇な舞台設定が、これまた宮内悠介らしいマニアックさで。

 もともとはムスリムが多い遊牧民だった。しかし帝政ロシアとソビエト連邦の膨張で飲みこまれ、政治的にも宗教的にも変革を余儀なくされた上に、アラル海の縮小など困ったツケまで押し付けられる。

 他にもチェチェン紛争など、旧ソ連の遺産がアチコチに仕込まれていて、国際政治マニアは「アレをこう使うか~」と唸らされるばかり。こういった所は故船戸与一を彷彿とさせる点だが、あくまで明るく前向きな所が、船戸与一との芸風の違いかな。

 そう、そんな舞台や状況の中で、もがきつつ暴れまわる後宮の女たちの魅力こそが、映像化を望む最大の理由。なんたって、主人公たちは、複雑な国際情勢を反映して、かなり重い過去を背負ってるんだけど。

 紛争で孤児となった日本人のナツキ。リーダーシップあふれる委員長タイプのアイシャ。一匹狼で食いしんぼのジャミラ。引っ込み思案だがアレな趣味を持つジーラ。他にも眼鏡っ娘やら幼女やらお局様やら、楽しい面々がいっぱい。

 さすがに中央アジアが舞台なので、露出度はチト期待できないが、そこはカラフルでバラエティ豊かな衣装でカバー。加えて、中央アジアの乾いた空気を感じさせる音楽にも期待したい。

 「マッドマックスかよっ!」と突っ込みたくなる首都攻防や、ドタバタ続きの舞台など、勢いのあるアクションやギャグも満載で、読み始めたら頁をめくる手が止まらない。重くマニアックなネタを随所に散りばめながらも、不思議と軽い雰囲気で一気に読ませる、ひたすら楽しい娯楽活劇だった。

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