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2018年6月 4日 (月)

スティーブ・コール「アフガン諜報戦争 CIAの見えざる闘い ソ連侵攻から9.11前夜まで」白水社 木村一浩・伊藤力司・坂井定雄訳 2

(1992年初頭に)第一次アフガン戦争は終わった。第二次戦争がもう始まっていた。
  ――第12章 われわれは危険の中にいる

問題は、テロに対処するのは国家安全保障の問題だとして戦争の一種と考えるか、警察や検察が主導すべき法執行の問題と考えるかである。
  ――第13章 敵の友

(CIAテロ対策センター分析部門の責任者ポール・)ピラーと同僚たちは、1991年のソ連崩壊と1979年のイラン王制崩壊を、政治的破綻のモデルとして学ぶべきだと考えた。(略)いずれも信頼度の低く腐敗し破綻した政府が民衆の反乱に直面し、自己改革を試みるが結局は自壊した。ピラーが学んだ教訓とは、中途半端を避けなければならないということだった。
  ――第14章 慎重に距離を置け

世界貿易センター爆破事件は国際的テロリズムの分岐点であった。どこにも帰属せず、あちこち移動する宗教的暴力活動の新種が登場したのである。
  ――第14章 慎重に距離を置け

 スティーブ・コール「アフガン諜報戦争 CIAの見えざる闘い ソ連侵攻から9.11前夜まで」白水社 木村一浩・伊藤力司・坂井定雄訳 1 から続く。

【どんな本?】

 1980年のソ連のアフガニスタン侵攻から、イスラマバードのCIAはパキスタンのISI(三軍統合情報部)と組み、ソ連を苦しめるべくアフガニスタンへの介入を始める。

 これには、様々な思惑を抱く組織や集団が関わってゆく。独自の目的を追求するマスードなどアフガンの抵抗勢力、カシミールをめぐり睨み合うパキスタンとインド、無知と無関心に加え方針の定まらぬホワイトハウス、お家騒動を抱えるサウジアラビア…。

 複雑に絡み合う国家の狭間で、ビンラディンに代表される国際的な反米テロ・ネットワークが育ち始めていた。この危険に気づいたCIAは対策を模索するのだが…

 20世紀終盤から今世紀初頭にかけ、中東・南アジア・中央アジアで育ち孵化したイスラム原理主義の勃興と、アフガニスタン・パキスタンを舞台に暗躍したCIAの闘いを描くドキュメンタリー。

【パキスタン】

 アフガニスタン情勢には、パキスタンが強く関わっている。ニュースを見るだけじゃ、なぜパキスタンが大事なのか、その理由まではよく分からない。

 とはいえ、素人でも、地図を見れば多少の関わりは見当がつく。なんたって隣国だし。アフガニスタンは内陸国なので、欧米との貿易はパキスタンを通る。欧米はイランと仲が悪いので、そっちの経路は使いたくないだろうし。が、それだけとは思えぬほど、パキスタンとの関わりは深い。

 この本では、パキスタンの立場、それも主に政府とISIの視点で見ることで、パキスタンの事情を教えてくれる。

 私が見落としていたのは、インドとの関係だ。独立した時から睨み合っていたし、三度の戦争もあり、しまいには東パキスタン=バングラデシュも失う。これはパキスタンにとって大きな痛手として国民の心に刻み込まれているし、今でもカシミールの帰属をめぐり小競り合いが続いている。

 パキスタンにとって、最も警戒すべき脅威はインドなのだ。日本にとってのロシアみたいな関係かな。それに比べれば、アフガニスタンはたいした問題じゃない。

 とはいえ、ソ連から共産主義者がパキスタン国内に潜り込んできたらマズい。そこで抵抗勢力に肩入れする。問題は、誰を支えるか、だ。ここで、アメリカとの利害が違ってくる。

 パキスタンはイスラム国家だ。そしてパシュトゥン系の者が多い。だからアフガンでもパシュトゥンに肩入れしたい。それも、できればイスラム主義者に。と、いうのも。

 ここでカシミールが関わってくる。アラブからやってくるイスラム主義者を、パキスタンはカシミールに送り込み、暴れさせていた。また、CIAとは別口のスポンサー、サウジのご機嫌もある。アラブはイスラム主義者がご贔屓だし。

 と、いう事で、選ばれたのが、グルブディン・ヘクマティアル。一時期ヘクマティアルがブイブイ言わしてたのは、こんな理由なのね。お陰でCIAは金と武器を毟り取られた上に、将来の敵まで育てる羽目になるんだけど。

 いずれにせよ、国際関係を理解するには、相手の立場に立って考えようね、と改めて教えられた。

【タリバン】

 そのタリバンを率いるムハンマド・オマルについては、この本でもよく分からない。ただ、少し気になる記述がある。

彼はときとして自分のことを第三者のように、まるで他人の話に出てくる人物のように語るのだった。
  ――第16章 ゆっくりゆっくり呑みこまれた

 自分を三人称で語る人って、他でもどっかで読んだような。「信仰が人を殺すとき」に出てくる、モルモン教の教祖ジョセフ・スミスだったかな? 何か共通する気質の兆候なのかも。

 もう一つ、意外なタリバン支持勢力がいた。パキスタンの運送業界だ。

パキスタンのトラック運送業界は、タリバンがカンダハル街道の障害を取り除いてくれることを期待して、以前からタリバンに金と武器を渡していた。
  ――第16章 ゆっくりゆっくり呑みこまれた

 戦乱のアフガニスタンじゃ、それぞれの勢力が勝手に道路を封鎖して、通る車から「通行料」を巻き上げる。タリバンが一帯を押さえれば、ミカジメ料の支払先が一本化されて、面倒が減る。これを期待したようだ。

 ところで、「戦場の掟」や「ブラックウォーター」などで、イラクで働くトレーラー運転手はパキスタン人が多いと感じたんだが、その理由がわからなかった。もしかしたら、アフガニスタンで戦場に慣れた運転手が多いから、なんだろうか?

【中央アジア】

 ソ連崩壊後、カザフスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタン・タジキスタンなど中央アジア諸国は不安定になる。と同時に、様々な人物が出入りし始める。

 共産主義だったので宗教的にも真空地帯となり、ワッハーブ派の宣教師が入り込んだのはアハメド・ラシッドの「聖戦」に詳しい。CIAも盛んに潜り込んだようで、その目的は「イランの野心をくじくこと」。そういう点じゃ、ワッハーブ派と同じ目的だったんだなあ。

 中でもトルクメニスタンでは、大きな要素が絡んでくる。石油だ。トルクメニスタンの油田&ガス田、輸出しようにも経路はロシアのパイプラインしかない。お陰でトルクメニスタンはロシアのご機嫌を取らなきゃいけない。

 けどアフガニスタンを通りインド洋までのパイプラインができれば、ロシアの軛から解放される。パキスタンもインドも石油とガスは足りない。アフガニスタンはパイプラインの通行料が手に入る。みんな得だね。ラッキー。

ついでに言うと、パキスタンじゃトラックなど業務用の車は天然ガス車が中心。

 ここで石油会社のユノカルが登場、パイプライン計画を立ち上げる。問題はアフガニスタン。誰かが暴れてパイプラインを爆破したら困る。ってんで、タリバンとパキスタンに話を持ち掛けるが、どうも芳しくない。

 パキスタンは別口から似た計画を持ち掛けられ、ソッチに傾きつつある。タリバンは、そもそも治安を維持する気があるのかどうか。それでもなんとか話を持ち掛けるが、ここで奇妙な出会いが。

ユノカルはカンダハル中心部で、ビンラディンが新しく構えた屋敷の真向かいに家を借りた。
  ――第19章 われわれはスティンガーを手放さない

 当時のカンダハルには外国から有象無象が集まっていて、こういう偶然もよくあったらしい。CIAがこれを知っていたら、色々と協力しただろうなあ。

 にしても、国境を越えてゆく商人の行動力と逞しさには恐れ入る。

【土地柄】

 アフガニスタン関係のニュースで、よく名前が出てくる都市は、カンダハルとカブール。両者は、かなり性格が違うらしい。

 カブールは首都だけあって、都会的で国際色が豊か。マスードの拠点パンジシールも近く、タジク人も多い。たぶんアフガニスタンの中ではリベラルな土地柄なんだろう。対してカンダハルは、パシュトゥンの都で、保守的な土地柄。タリバンの影響が強い地域でもある。

 ってな事を知っていると、ニュースを聞いた時に、少し解釈が違ってくるかも。

【おわりに】

 ああ、肝心のCIAのネタを全然紹介してない。などと反省しつつ、次の記事に続く。

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