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2018年5月18日 (金)

ジャック・ヴァンス「魔王子シリーズ4 闇に待つ顔」ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳

「狂人、野獣、拷問者――レンズ・ラルクはそのいずれにも当てはまるだろうが、絶対に馬鹿ではありません」
  ――p86

「あの呪われたメセル人どもは日の出に一日をはじめるんだ。きみやわたしのようなりっぱな盗賊が一日を終える時間にだぞ」
  ――p209

“悪魔と食事をするなら、柄の長いスプーンを使え”
  ――p355

【どんな本?】

 一見異様に見える世界、奇妙に思える社会や風習を、見事な筆致で本物のように描き出すSF作家ジャック・ヴァンスによる、5巻に渡るスペース・オペラ・シリーズ第四幕。

 人類が恒星間宇宙へと進出した遠い未来。人類はオイクメーニ宙域に発展した社会を築くが、その権威が及ばない<圏外>にも、様々な社会が広がっている。

 ある日、<圏外>のある惑星の町マウント・プレザントが襲われた。首謀者は魔王子と呼ばれる五人。少年カーズ・ガーセンは、祖父と共にからくも生き残る。二人は復讐を誓い、祖父は少年を殺人者として鍛え上げる。やがて祖父は亡くなり、成長したカース・ガーセンは復讐の道を歩み出す。

 災厄のアトル・ラマゲート、殺戮機械ココル・ヘックス、そしてヴィオーレ・ファルーシをも地獄に追い落としたガーセンは、次なる獲物<巨鳥>レンズ・ラルクへと迫る。貴重な鉱物デュオデシメートを産する惑星ダー・サイに手がかりを見つけたガーセンは…

【いつ出たの?分量は?読みやすい?】

 原書は The Face, by Jack Vance1979。日本語版は1986年3月15日発行。文庫本で縦一段組み、本文約605頁に加え訳者あとがき2頁。8ポイント43字×19行×365頁=約298,205字、400字詰め原稿用紙で約746枚。文庫本としてはやや厚め。

 文章はこなれている。内容も特に難しくない。流石に半世紀も前の作品なので、SFガジェットもあまり凝ったモノは出てこない。ただ相変わらず登場人物が多く、登場人物一覧がないのは辛い。

【感想は?】

 ヴァンスだから覚悟はしていたが、いろいろとヒドいw

 我とアクの強い人物を描くと冴えるヴァンスの筆致、今回も序盤じゃダー・サイ料理のレストラン「ティントル天蓋」での軽いジャブで肩慣らし。

 ここを切り盛りする女将さん、愛想は悪いが威勢はやたらといい。というか、客に売るのは料理より喧嘩って感じのキレのいい啖呵が次々と飛び出す。ウェイトレスも女将に負けず劣らずの喧嘩腰な上に、出てくる料理がこれまたアレでw よくこれで商売になるなあw ラックローズ君こそいい迷惑だw

 ここで未だ見ぬダー・サイの風俗に期待を膨らませつつ、次に出てくる巡回裁判の様子も、妙にしゃっちょこばった司法関係者の立ち居振る舞いを徹底して茶化してたり。まあ確かに裁判で“天秤”が象徴になるのはわかるけど、そこまでやるかw

 さて、三部構成のこの巻、第1部の「ティントル天蓋」で膨らんだ期待に応えてくれるのが、続く第2部。舞台は貴重な鉱物デュオデシメートを産する灼熱の惑星ダー・サイ。あのレストランに相応しく、荒々しく油断のならない世界で。

 なんたって、観光名所が“絞首台”,“電気石の塔”,“サソリの園”…。まあ、そういう物騒な所です。おまけに、なぜレストランの名前が「ティントル天蓋」なのかも、スグにわかる親切設計。

 ここでは最初に出てくるティッピン君からして、「地元の事情に通じていて愛想もよく、役には立つが油断はできない現地のガイド」な様子がよくでてる。こういう輩を丁々発止の駆け引きで巧いこと使いこなす、ガーセンの軽妙なやり取りが楽しめる。

 もっともダー・セン編じゃティッピン君はホンの前菜で、メインディッシュは株券の争奪戦。やはり欲深で疑い深いダー・サイ人と、彼らに輪をかけて悪辣なレンズ・ラルク一味を相手に、ガーセンの口八丁手八丁なペテンが読みどころ。

 そんなガーセンが本領を発揮するのが、ダー・サイの人気競技ハドールの場面。一種のバトル・ロイヤルですね。プロレスのバトル・ロイヤルもそうなんだけど、必ずしも格闘で最強の者が生き残るとは限らないのが、この手の競技の面白い所。

 もともとペテンと欺瞞の世界ダー・サイだけに、ここでも互いが手を組んでは裏切っての油断も隙もないバトルが繰り広げられる。誰がいつ裏切るか、一瞬の判断で形勢がガラリと変わる狐と狸の化かし合い、こういうのを書いたら、ほんとヴァンスは巧い。

 そしてお待ちかね、衝撃のラスト。魔王子レンズ・ラルクの目論見やいかに…って、これがほんっとにしょうもないw いやまあ、そういう真似をしたくなる気持ちはわからんでもないが、そうまで準備万端整えてやる必要があるのか? あるんだろうなあ、レンズ・ラルク的にはw

 ちなみに私はレンズ・ラルク、プロレスラーのキラー・カーンを思い浮かべながら読みました。

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